【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。尚、評価に用いる培養細胞として、皮膚線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、色素細胞、脂肪細胞、神経細胞など各種細胞を用いることができるが、本実施例ではヒト皮膚線維芽細胞を用いて評価を行なった。いずれの生物種および細胞種においても時計遺伝子のコアシステムは共通であるため、ヒト皮膚線維芽細胞での評価結果は、他の生物種および細胞種にも反映できると考えられる。
【0040】
また、時計遺伝子として、コアシステムに関わるBmal遺伝子(Bmal1で代表させた)あるいはPeriod遺伝子(Period1で代表させた)の発現量を測定した。ヒアルロン酸合成酵素遺伝子としては、ヒアルロン酸合成酵素遺伝子2(HAS2)を測定した。データは示していないが、我々は、培養ヒト皮膚線維芽細胞の系において、コルチゾールまたはフォルスコリンを刺激薬剤として用いて、Bmal1とHAS2は薬剤による刺激の約16時間後に、またPeriod1は2時間後に、発現量がピークとなる概日リズムを刻むことを確認しており、以下の実験では、それぞれ刺激の16時間後または2時間後の遺伝子発現量を指標として、試験物質のBmal遺伝子、Period遺伝子、およびHAS2遺伝子の発現促進効果について評価した。
【0041】
ラベンダーオイルおよびユーカリオイルによる、時計遺伝子およびヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進効果の評価
培養ヒト皮膚線維芽細胞は、市販の正常成人皮膚由来線維芽細胞を購入し(Cell Application, Inc)、実験に用いた。10%FBS、20mM HEPES、 Glutamax、抗菌剤を添加したDMEM培地に播種し、37℃、5%CO
2にて培養した。培養6日目に、各濃度のラベンダーオイル(0、10、25、50ppm)またはユーカリオイル(0、25、50、100ppm)を含む試験用培地に交換し、交換直後を0時間とし、2時間後および16時間後に細胞をサンプリングした。採取した細胞から、市販のRNA抽出キットを使用してRNAを抽出し、市販のPCRプライマー(Perfect Real Time Primer、タカラバイオ社)を用い、RT-PCR法により、時計遺伝子(Period1、Bmal1)およびヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS2)の発現量を測定した。同様に、ハウスキーピング遺伝子であるRPLP0の発現量を定量して内部標準として用い、RPLP0の発現量に対する目的遺伝子の相対的発現量を算出した。得られた値について、Dunnettの多重比較検定を行い、コントロール(精油の添加なし)と比較して片側5%の危険率で有意差があるものを効果有りと判定した。
【0042】
ラベンダーオイルの結果を
図1(A〜C)に、またユーカリオイルの結果を
図2(A,B)に示す。Bmal1およびHAS2は刺激の16時間後、Period1は刺激の2時間後の結果をそれぞれ示す。図面中、有意差は*(P<0.05)および**(P<0.01)で示す。
【0043】
図1に示すように、ラベンダーオイルはBmal1, Period1およびHAS2の発現をいずれも有意に高め、また、
図2に示すように、ユーカリオイルもBmal1およびHAS2の発現を高め、それら精油が時計遺伝子およびヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を共に促進し得ることが示された。
【0044】
ラベンダーオイルおよびユーカリオイルによる時計遺伝子およびヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進に対するアルキレンオキシド誘導体の効果の評価
アルキレンオキシド誘導体をラベンダーオイルまたはユーカリオイルと共に配合することによる、時計遺伝子およびヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現促進に対する効果について評価した。尚、アルキレンオキシド誘導体として、ポリオキシエチレン(14モル)ポリオキシプロピレン(7モル)ジメチルエーテル(ランダムポリマー)を用いた。
【0045】
上記と同様の方法により、正常成人皮膚由来線維芽細胞(Cell Application, Inc)を播種し、培養6日目に、所定濃度のアルキレンオキシド誘導体(0〜0.1%)と、各濃度のラベンダーオイル(0、10、25、50ppm)またはユーカリオイル(0、25、50、100ppm)を含む試験用培地に交換し、交換直後を0時間とし、2時間後および16時間後に細胞をサンプリングした。上記と同様に、採取した細胞から、市販のRNA抽出キットを使用してRNAを抽出し、市販のPCRプライマー(Perfect Real Time Primer、タカラバイオ社)を用い、RT-PCR法によりBmal1、Period1、HAS2、ならびにハウスキーピング遺伝子としてのRPLP0の遺伝子発現量を測定し、RPLP0の発現量に対する目的遺伝子の相対的発現量を算出した。得られた値について、Dunnettの多重比較検定を行い、コントロール(各濃度の精油について、アルキレンオキシド誘導体の添加無し)と比較して片側5%の危険率で有意差があるものを効果有りと判定した。
【0046】
ラベンダーオイルの結果を
図3(A〜C)に、またユーカリオイルの結果を
図4(A、B)に示す。Bmal1およびHAS2は刺激の16時間後、Period1は刺激の2時間後の結果をそれぞれ示す。図面中、有意差は*(P<0.05)および**(P<0.01)で示す。
【0047】
図3(A〜C)に示すように、ラベンダーオイルと共にアルキレンオキシド誘導体を配合することにより、ラベンダーオイル単独の場合(アルキレンオキシド誘導体0%)と比較して、Bmal1、Period1およびHAS2の発現が有意に高められた。また、
図4(A)に示すように、ユーカリオイルと共にアルキレンオキシド誘導体を配合することにより、ユーカリオイル単独の場合(アルキレンオキシド誘導体0%)と比較して、Bmal1の発現が有意に高められた。
【0048】
上記の結果から、ラベンダーオイルまたはユーカリオイルと共にアルキレンオキシド誘導体を配合することにより、より効果的に時計遺伝子およびヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を促進することができ、皮膚の概日リズムを調整すると共に、皮膚のヒアルロン酸産生を高めて皮膚機能を改善または向上させ得ることが示された。
【0049】
(処方例)
以下に、本発明の時計遺伝子発現促進剤またはヒアルロン酸合成酵素遺伝子発現促進剤の処方例を示す。
【0050】
処方例1 質量(%)
ユーカリオイル 0.1
CH
3O(EO)
10(PO)
10(EO)
10CH
3 1.0
【0051】
処方例2 質量(%)
ラベンダーオイル 0.4
CH
3O(EO)
14(PO)
7CH
3 1.0
【0052】
処方例3 質量(%)
ラベンダーオイル 1.0
CH
3O[(EO)
20/(PO)
10]CH
3 20.0
【0053】
処方例4 質量(%)
ユーカリオイル 0.2
ラベンダーオイル 0.5
CH
3O(EO)
14(PO)
7CH
3 10.0
【0054】
(配合例)
以下に、本発明の時計遺伝子発現促進剤またはヒアルロン酸合成酵素遺伝子発現促進剤の配合例を適用例として示す。配合量は全て製品全量に対する質量%で表す。
【0055】
化粧水 質量%
(1)グリセリン 2.0
(2)ジプロピレングリコール 2.0
(3)ポリエチレングリコール−60水添ヒマシ油 0.3
(4)キシリトール 3
(5)アスコルビン酸 0.005
(6)エデト酸3ナトリウム 0.1
(7)染料 0.1
(8)本発明の遺伝子発現促進剤(処方例1) 0.5
(9)精製水 残量
【0056】
乳液 質量%
(1)エチルアルコール 10.0
(2)グリセリン 3.0
(3)ブチレングリコール 2.0
(4)ポリエチレングリコール 3.0
(5)カルボキシビニルポリマー 0.1
(6)アクリル酸/アクリル酸アルキルコポリマー 0.1
(7)水酸化カリウム 0.1
(8)シクロメチコン 4.0
(9)スクワラン 2.0
(10)球状ポリエチレン 2.0
(11)メントール 0.5
(12)薬剤 0.1
(13)パラベン 0.1
(14)エデト酸3ナトリウム 0.1
(15)顔料 0.1
(16)本発明の遺伝子発現促進剤(処方例2) 1.0
(17)精製水 残量
【0057】
クリーム 質量%
(1)グリセリン 10.0
(2)ブチレングリコール 5.0
(3)カルボマー 0.1
(4)水酸化カリウム 0.2
(5)ステアリン酸 2.0
(6)ステアリン酸グリセリル 2.0
(7)イソステアリン酸グリセリル 2.0
(8)ワセリン 5.0
(9)防腐剤 0.1
(10)酸化防止剤 0.1
(11)本発明の遺伝子発現促進剤(処方例3) 1.0
(12)キレート剤 1.0
(13)顔料 0.01
(14)ステアリルアルコール 2.0
(15)ベヘニルアルコール 2.0
(16)オレンジ油 0.01
(17)パーム硬化油 2.0
(18)スクワラン 10.0
(19)4−メトキシサリチル酸カリウム 3.0
(20)精製水 残量
【0058】
クリーム 質量%
(1)グリセリン 3.0
(2)ジプロピレングリコール 7.0
(3)ポリエチレングリコール 3.0
(4)ステアリン酸グリセリル 3.0
(5)イソステアリン酸グリセリル 2.0
(6)ステアリルアルコール 2.0
(7)ベヘニルアルコール 2.0
(8)流動パラフィン 7.0
(9)シクロメチコン 3.0
(10)ジメチコン 1.0
(11)オクチルメトキシシンナメート 0.1
(12)ヒアルロン酸ナトリウム 0.05
(13)防腐剤 0.1
(14)酸化防止剤 0.1
(15)本発明の遺伝子発現促進剤(処方例4) 0.4
(16)キレート剤 1.0
(17)顔料 0.01
(18)精製水 残量
【0059】
ジェル 質量%
(1)エチルアルコール 10.0
(2)グリセリン 5.0
(3)ブチレングリコール 5.0
(4)カルボマー 0.5
(5)アミノメチルプロパノール 0.3
(6)ポリエチレングリコール−60水添ヒマシ油 0.3
(7)メントール 0.02
(8)オレンジ油 0.05
(8)防腐剤 0.05
(9)キレート剤 1.0
(10)本発明の遺伝子発現促進剤(処方例2) 1.0
(11)精製水 残量
【0060】
マッサージ用ジェル 質量%
(1)エリスリトール 2.0
(2)カフェイン 5.0
(3)オウバク抽出物 3.0
(4)グリセリン 50.0
(5)カルボキシビニルポリマー 0.4
(6)ポリエチレングリコール400 30.0
(7)エデト3ナトリウム 0.1
(8)ポリオキシレン(10)メチルポリシロキサン共重合体 2.0
(9)スクワラン 1.0
(10)水酸化カリウム 0.15
(11)本発明の遺伝子発現促進剤(処方例1) 1.0
【0061】
マッサージクリーム 質量%
(1)固形パラフィン 5.0
(2)ミツロウ 10.0
(3)ワセリン 15.0
(4)流動パラフィン 41.0
(5)1.3−ブチレングリコール 4.0
(6)モノステアリン酸グリセリン 2.0
(7)POE(20)ソルビタンモノラウリン酸エステル 2.0
(8)ホウ砂 0.2
(9)カフェイン 2.0
(10)防腐剤 適量
(11)酸化防止剤 適量
(12)本発明の遺伝子発現促進剤(処方例2) 1.0
(13)精製水 残余
【0062】
これら配合例の製品は、それぞれの製品形態の典型的な使用態様により皮膚に適用して、時計遺伝子およびヒアルロン酸合成酵素遺伝子の発現を促進し、皮膚の概日リズムを調整し、また皮膚のヒアルロン酸産生を高めて、肌状態を改善し、また健やかな肌状態を維持することができる。