(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0011】
図1は一実施形態に係るエスカレータシステムの構成を示す図である。
【0012】
建物内あるいは建物外において、2台のエスカレータ10a,10bが近接して設置されている。エスカレータ10a,10bは、例えば上り用、下り用として運転される。エスカレータ10aには、エスカレータ制御装置20a、安全装置21a、動作監視装置30aが備えられている。同様に、エスカレータ10bには、エスカレータ制御装置20b、安全装置21b、動作監視装置30bが備えられている。
【0013】
エスカレータ制御装置20aは、エスカレータ10aの運転制御を行う。安全装置21aは、エスカレータ10aの各箇所に多数設置されている。具体的には、「スカートガードパネル用安全装置」,「コム安全装置」,「非常停止ボタン」,「移動手すり入り込み口安全装置」,「踏段チェーン切断検出装置」,「踏段異常検出装置」,「電磁ブレーキ異常保護装置」,「移動手すりスリップ検知装置」などがある。これらのうちの1つでも作動すると、エスカレータ制御装置20aは、エスカレータ10aの運転を停止する。
【0014】
動作監視装置30aは、安全装置21aの動作状態を監視するための装置である。この動作監視装置30aは、エスカレータ制御装置20aとは独立してエスカレータ10aに設けられている。これにより、動作監視装置30aが故障した場合でも、エスカレータ10aの運転を継続することができる。また、本実施形態において、この動作監視装置30aには近距離無線通信機能が備えられており、無線通信によって相手のエスカレータ10bの動作監視装置30bが正常に機能しているか否かを判断する構成になっている。
【0015】
エスカレータ10bについても同様の構成である。
【0016】
また、保守員は、保守点検用の端末装置40を所持している。この端末装置40には、エスカレータ10a,10bの保守点検に必要な各種機能の他に、エスカレータ10a,10bにアクセスしてデータを読み取るための通信機能などが備えられている。
【0017】
図2は同実施形態における安全装置と動作監視装置との関係を説明するための図である。なお、
図2において、エスカレータ制御装置20、安全装置21、動作監視装置30は、
図1に示したエスカレータ10a,10bのエスカレータ制御装置20a,20b、安全装置21a,21b、動作監視装置30a,30bに対応している。
【0018】
安全装置21は、各種スイッチ22a,22b…から構成される。なお、これらのスイッチ22a,22b…は、上述した「スカートガードパネル用安全装置」,「コム安全装置」,「非常停止ボタン」…などに対応している。
【0019】
スイッチ22a,22b…はB接点で直列に接続されており、通常は閉じた状態であり、スイッチ作動時に接点が開く。エスカレータ制御装置20には、これらのスイッチ22a,22b…に接続されたリレー回路23が組み込まれている。スイッチ22a,22b…のうちの1つでも作動すると、リレー回路23から運転停止信号が出力される。
【0020】
動作監視装置30には、制御装置31、記録装置32、通信装置33が備えられている。制御装置31は、安全装置21の動作状態(詳しくはスイッチ22a,22b…のON/OFF動作)の監視制御を行う。記録装置32は、安全装置21の動作状態を示すデータを記憶する。後述するように、この記録装置32には、自身の安全装置21の動作状態データの他に、隣接する他のエスカレータから送られて来た安全装置21の動作状態データが保存される。
【0021】
なお、安全装置21の動作状態データは、何らかの異常が発生したとき(つまりスイッチ22a,22bのいずれかが作動してエスカレータの運転が停止したとき)に記録装置32に記録されるものである。したがって、異常なしの場合には、記録装置32にデータが記録されないことが一般的である。
【0022】
通信装置33は、所定の周波数帯の電波を利用した近距離無線通信を行う。具体的には、例えば無線LANで一般的に用いられている無線通信規格に従って、最大100m〜300mの範囲内で無線通信を行う。
図1に示したエスカレータ10aとエスカレータ10bは、この近距離無線通信の範囲内に設置されているものとする。
【0023】
図3は2台のエスカレータに設けられた動作監視装置の構成を示すブロック図である。なお、図中のエスカレータAはエスカレータ10a、エスカレータBはエスカレータ10bに対応している。
【0024】
エスカレータ10aの動作監視装置30aは、制御装置31a、記録装置32a、通信装置33aを備える。制御装置31aには、本システムを実現するための機能として、無線通信を利用してエスカレータ10bの動作監視装置30bが正常に機能しているか否かを判断する判断部34aと、その判断結果に応じた処理を実行する処理実行部35aとが備えられている。
【0025】
詳しくは、判断部34aは、エスカレータ10bの動作監視装置30bから一定間隔で送信される動作確認信号Puに基づいて、エスカレータ10bの動作監視装置30bが正常に機能しているか否かを判断する。
【0026】
処理実行部35aは、エスカレータ10bの動作監視装置30bが正常に機能している場合に、所定のタイミングで自身の記録装置32aの第1の領域36aに記録された安全装置21aの動作状態データ(データa)をエスカレータ10bに送る。エスカレータ10bに送られた動作状態データ(データa)は、記録装置32bの第2の領域37bに保存される。一方、エスカレータ10bの動作監視装置30bが正常に機能していない場合(異常の場合)には、処理実行部35aは、エスカレータ10bにリセット指令Reを送信して動作監視装置30bをリセットさせる。
【0027】
エスカレータ10bの動作監視装置30bについても同様の構成である。
すなわち、制御装置31bには、本システムを実現するための機能として、無線通信を利用してエスカレータ10aの動作監視装置30aが正常に機能しているか否かを判断する判断部34bと、その判断結果に応じた処理を実行する処理実行部35bとが備えられている。
【0028】
詳しくは、判断部34bは、エスカレータ10aの動作監視装置30aから一定間隔で送信される動作確認信号Puに基づいて、エスカレータ10aの動作監視装置30aが正常に機能しているか否かを判断する。
【0029】
処理実行部35bは、エスカレータ10aの動作監視装置30aが正常に機能している場合に、所定のタイミングで自身の記録装置32bの第1の領域36bに記録された安全装置21bの動作状態データ(データb)をエスカレータ10aに送る。エスカレータ10aに送られた動作状態データ(データb)は、記録装置32aの第2の領域37aに保存される。一方、エスカレータ10aの動作監視装置30aが正常に機能していない場合には、処理実行部35bは、エスカレータ10aにリセット指令Reを送信して動作監視装置30aをリセットさせる。
【0030】
次に、本システムの動作について説明する。
【0031】
図4は本システムの動作を示すフローチャートである。このフローチャートで示される処理は、エスカレータが稼働している間、常に実行されている。なお、以下では、エスカレータ10a(エスカレータA)とエスカレータ10b(エスカレータB)のうち、エスカレータ10aに着目して説明するが、エスカレータ10bについても同様の処理が実行されている。
【0032】
エスカレータ10aの動作監視装置30aは、通信装置33を通じてエスカレータ10bに動作確認信号Puを送信する(ステップS11)。この動作確認信号Puは、
図5(a)に示すように、一定間隔TでON/OFFを繰り返すパルス信号からなる。エスカレータ10aからエスカレータ10bへ送信された動作確認信号Puは、エスカレータ10bの動作監視装置30bにて受信される。一方、エスカレータ10bからエスカレータ10aへ送信された動作確認信号Puは、エスカレータ10aの動作監視装置30aにて受信される。
【0033】
ここで、エスカレータ10aの動作監視装置30aは、エスカレータ10bから一定間隔Tで動作確認信号Puを正常に受信できているか否かを判断する(ステップS12)。一定間隔Tで動作確認信号Puを正常に受信できている場合には(ステップS12のYes)、エスカレータ10aの動作監視装置30aは、エスカレータ10bの動作監視装置30bが正常に機能している状態であると判断する(ステップS13)。
【0034】
一方、一定間隔Tで動作確認信号Puを正常に受信できない場合(ステップS12のNo)、エスカレータ10aの動作監視装置30aは、エスカレータ10bの動作監視装置30bが正常に機能していない状態、つまり、異常であると判断する(ステップS14)。なお、一定間隔Tで動作確認信号Puを正常に受信できない場合とは、例えば
図5(b)のように途中でOFFが連続している場合、あるいは、
図5(c)のように途中でONが連続している場合などである。
【0035】
図6は
図4のステップS13において正常と判断された場合の処理を示すフローチャートである。
【0036】
エスカレータ10bの動作監視装置30bが正常の場合、エスカレータ10aの動作監視装置30aは、エスカレータ10aの記録結果(動作監視装置30aに記録されている安全装置21aの動作状態データ)を所定のタイミングでエスカレータ10bの動作監視装置30bに送って保存させておく(ステップB12)。
【0037】
ここで、「所定のタイミング」とは、(a)予め設定された時間間隔、(b)安全装置作動時である。
【0038】
上記(a)の場合、エスカレータ10aの動作監視装置30aは、一定の時間間隔(例えば12時間毎)で記録装置32aの第1の領域36aから安全装置21aの動作状態データを読み出してエスカレータ10bの動作監視装置30bへ送る。
【0039】
上記(b)の場合、エスカレータ10aの安全装置21aが作動したとき(つまり安全装置21aを構成する各スイッチのうちのいずれかがONしてエスカレータ10aの運転が停止したとき)、動作監視装置30aは、その直前までに記録装置32aの第1の領域36aに記録されていた安全装置21aの動作状態データを読み出してエスカレータ10bの動作監視装置30bへ送る。
【0040】
このようなタイミングでエスカレータ10aからエスカレータ10bへ送られた安全装置21aの動作状態データは、動作監視装置30bに設けられた記録装置32bの第2の領域37bに保存される。
【0041】
また、エスカレータ10bからエスカレータ10aへ安全装置21bの動作状態データが送られて来ると(ステップB13のYes)、エスカレータ10aの動作監視装置30aは、この安全装置21bの動作状態データを記録装置32aの第2の領域37aに保存する(ステップB14)。
【0042】
このように、エスカレータ10bの動作監視装置30bが正常の場合にエスカレータ10aの記録結果を送って保存しておくことで、例えば点検時に保守員の端末装置40からエスカレータ10bの動作監視装置30bへアクセスすれば、エスカレータ10aとエスカレータ10bの両方の記録結果を確認することができる。
【0043】
図7は
図4のステップS14において異常と判断された場合の処理を示すフローチャートである。
【0044】
エスカレータ10bの動作監視装置30bが異常の場合、エスカレータ10aの動作監視装置30aは、リセット指令Reをエスカレータ10bの動作監視装置30bに送信する(ステップC11)。エスカレータ10bの動作監視装置30bは、このリセット指令Reを受信すると(ステップC12のYes)、動作監視装置30bを再起動する(ステップC13)。
【0045】
このように、エスカレータ10bの動作監視装置30bが異常の場合にリセット指令Reを送ることで、動作監視装置30bの再起動を試みる。単に通信の不具合などが原因で動作確認信号Puを正常に受信できなかった場合には、動作監視装置30bの再起動によって正常化できることがある。
【0046】
一方、何度リセットをかけても動作監視装置30bを再起動できなければ、動作監視装置30bの交換を必要とする状態にあると考えられる。このような場合には保守員の点検を待つことになる。ただし、上述したように動作監視装置30bが正常動作していたときの記録結果は動作監視装置30aに保存されているので、保守員の端末装置40などを通じてチェックすることはできる。
【0047】
以上のように本実施形態によれば、エスカレータ10a,10bの運転中に動作監視装置30a,30b間で無線通信を行うことで、互いに相手が正常に機能しているか否かを判断することができる。その際、相手が正常であるときにその相手のデータを取得して自身のデータと共に保存しておくことで、異常が発生したときに、エスカレータの運転を停止させなくとも、異常発生までのデータを正常な動作監視装置の方で確認することができる。
【0048】
(他の実施形態)
上記実施形態では、2台のエスカレータを例にして説明したが、3台以上のエスカレータであっても適用可能である。
【0049】
図8に他の実施形態として3台のエスカレータからなるシステムを説明するための図である。エスカレータ10a,10b,10c(エスカレータA,B,C)が互いに無線通信可能な範囲内に近接して設置されている。エスカレータ10a,10b,10cには、それぞれに動作監視装置30a,30b,30cが設けられている。
【0050】
このような構成において、エスカレータ10aでは、動作監視装置30aが自身のエスカレータ10aに設けられた安全装置の動作状態データ(データa)を記録している。他のエスカレータ10b,10cでも同様である。すなわち、エスカレータ10bでは、動作監視装置30bがエスカレータ10bの安全装置の動作状態データ(データb)を記録している。エスカレータ10cでは、動作監視装置30cがエスカレータ10cの安全装置の動作状態データ(データc)を記録している。
【0051】
ここで、エスカレータ10aの動作監視装置30aは、近接するエスカレータ10b,10cのそれぞれに設けられた動作監視装置30b,30cの状態を無線通信によって監視している。詳しくは、動作監視装置30b,30cから個別に送られて来る動作確認信号Puに基づいて動作監視装置30b,30cが正常に機能しているか否かを判断する。その結果、動作監視装置30b,30cが正常であれば、それぞれのデータb,データcが所定のタイミングで動作監視装置30aに送られてきて保存されることになる。
【0052】
他のエスカレータ10b,10cでも同様である。すなわち、エスカレータ10bの動作監視装置30bはエスカレータ10aの動作監視装置30aとエスカレータ10cの動作監視装置30cを監視し、これらが正常であればデータa,データcを保存することになる。エスカレータ10cの動作監視装置30cはエスカレータ10aの動作監視装置30aとエスカレータ10bの動作監視装置30bを監視し、これらが正常であればデータa,データbを保存することになる。
【0053】
なお、上記実施形態と同様に、相手の動作監視装置が異常であると判断した場合には、その相手の動作監視装置にリセット指令Reを送って再起動を試みるものとする。
【0054】
このように、3台以上のエスカレータであっても、これらのエスカレータに設置された動作監視装置間で無線通信を行うことで、上記実施形態と同様に、異常が発生したときに、その相手のエスカレータの運転を停止させなくとも、異常発生までのデータを正常な動作監視装置の方で確認することができる。
【0055】
また、各エスカレータに設置された動作監視装置には、自身の安全装置のデータを含め、各エスカレータの安全装置のデータを保有しているので、点検の際に、保守員は各エスカレータのすべてを回らなくとも、任意のエスカレータの動作監視装置にアクセスすれば、すべてのデータを確認できるといった利点もある。
【0056】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、安全装置の動作状態を記録するための動作監視装置に異常が発生した場合に、エスカレータの運転を停止させずに対処することのできるエスカレータシステムを提供することができる。
【0057】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【解決手段】一実施形態に係るエスカレータシステムは、少なくとも2台のエスカレータ10a,10bを備え、エスカレータ10a,10bには安全装置の動作状態を監視するための動作監視装置30a,30bが設けられる。動作監視装置30a,30bは、記録装置32a,32bと通信装置33a,33bと制御装置33a,33bとを備える。制御装置33a,33bは、エスカレータ10a,10bの運転中に通信装置33a,33bによる無線通信を利用して他のエスカレータの動作監視装置が正常に機能しているか否かを判断し、その判断結果に応じて処理を行う。