(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6188917
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】波動発生器および波動歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20170821BHJP
F16C 19/46 20060101ALI20170821BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20170821BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
F16H1/32 B
F16C19/46
F16C19/26
F16C33/64
【請求項の数】14
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-507165(P2016-507165)
(86)(22)【出願日】2014年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2014056352
(87)【国際公開番号】WO2015136622
(87)【国際公開日】20150917
【審査請求日】2016年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】390040051
【氏名又は名称】株式会社ハーモニック・ドライブ・システムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【弁理士】
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 優
(72)【発明者】
【氏名】保科 達郎
【審査官】
岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−158072(JP,A)
【文献】
特開2005−163993(JP,A)
【文献】
特開平02−217612(JP,A)
【文献】
特開2009−299780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 19/26
F16C 19/46
F16C 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非円形曲線によって規定される輪郭形状の外周面を備えた剛性部材と、
前記外周面に装着されて非円形に撓められているコロ軸受けと、
前記コロ軸受けの外輪および内輪の間において半径方向に遊びのある状態で配置されるルーズ状態のコロを、前記外輪の外輪軌道面に向かう方向に押し付け、前記外輪および前記内輪の間において半径方向に遊びのない状態で配置されているタイト状態のコロからは離れているコロ押し付け部材と、
を有し、
前記非円形曲線は、円に対して等角度間隔で複数の箇所で内接する閉じ凸曲線であることを特徴とする波動歯車装置の波動発生器。
【請求項2】
前記非円形曲線は楕円状曲線である請求項1に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項3】
前記コロ押し付け部材は前記剛性部材に装着されている請求項2に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項4】
非円形曲線によって規定される輪郭形状の外周面を備えた剛性部材と、
前記外周面に装着されて非円形に撓められているコロ軸受けと、
前記コロ軸受けの外輪および内輪の間において半径方向に遊びのある状態で配置されるルーズ状態のコロを、前記外輪の外輪軌道面に向かう方向に押し付けるコロ押し付け部材と、
を有し、
前記非円形曲線は楕円状曲線であり、
前記コロ押し付け部材は前記剛性部材に装着されており、
前記コロ押し付け部材は円筒部材あるいはリング部材であり、
前記コロ押し付け部材は、楕円状の前記外周面に対して同軸に配置され、
前記コロ押し付け部材の外径寸法は、楕円状曲線に沿って撓められている前記コロ軸受けの前記内輪の内輪軌道面の短径寸法よりも大きい、
波動歯車装置の波動発生器。
【請求項5】
非円形曲線によって規定される輪郭形状の外周面を備えた剛性部材と、
前記外周面に装着されて非円形に撓められているコロ軸受けと、
前記コロ軸受けの外輪および内輪の間において半径方向に遊びのある状態で配置されるルーズ状態のコロを、前記外輪の外輪軌道面に向かう方向に押し付けるコロ押し付け部材と、
を有し、
前記非円形曲線は楕円状曲線であり、
前記コロ押し付け部材は前記剛性部材に装着されており、
前記コロ押し付け部材は、円筒部材あるいはリング部材を、その円周方向における一箇所で分断した形状の部材であり、
前記楕円状曲線に沿って撓められている前記コロ軸受けの前記内輪の内輪軌道面の短径位置において、前記コロ押し付け部材の外径寸法が、前記短径位置における前記内輪軌道面の短径寸法よりも大きくなるように、前記コロ押し付け部材における分断された両側の端部が、前記剛性部材の前記外周面における長径両端に位置する外周面部分のうちの一方に接合されている、
波動歯車装置の波動発生器。
【請求項6】
前記コロ押し付け部材として、第1、第2コロ押し付け部材を備えており、
前記第1コロ押し付け部材は、前記ルーズ状態のコロのそれぞれにおける軸線方向の一方の端部を半径方向の外方に付勢しており、
前記第2コロ押し付け部材は、前記ルーズ状態のコロのそれぞれにおける前記軸線方向の他方の端を半径方向の外方に付勢している、
請求項1ないし5のうちのいずれか一つの項に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項7】
前記コロ押し付け部材は半径方向に弾性変形可能である請求項1ないし5のうちのいずれか一つの項に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項8】
前記コロ押し付け部材の材質は、鋼、ステンレススチール、リン青銅、またはプラスチックである請求項1ないし5のうちのいずれか一つの項に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項9】
前記コロ軸受けは、前記コロのそれぞれを、当該コロ軸受けの軌道内において周方向に沿って所定の間隔で保持しているコロ保持器を備え、
前記コロ押し付け部材は前記コロ保持器に装着されている請求項2に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項10】
非円形曲線によって規定される輪郭形状の外周面を備えた剛性部材と、
前記外周面に装着されて非円形に撓められているコロ軸受けと、
前記コロ軸受けの外輪および内輪の間において半径方向に遊びのある状態で配置されるルーズ状態のコロを、前記外輪の外輪軌道面に向かう方向に押し付けるコロ押し付け部材と、
を有し、
前記非円形曲線は楕円状曲線であり、
前記コロ軸受けは、前記コロのそれぞれを、当該コロ軸受けの軌道内において周方向に沿って所定の間隔で保持しているコロ保持器を備え、
前記コロ押し付け部材は前記コロ保持器に装着されており、
前記コロ押し付け部材は円筒部材あるいはリング部材であり、
前記コロ押し付け部材は、楕円状の前記外周面に対して同軸に配置され、
前記コロ押し付け部材の外径寸法は、前記楕円状曲線に沿って撓められている前記コロ軸受けの前記内輪の内輪軌道面の短径寸法よりも大きい、
波動歯車装置の波動発生器。
【請求項11】
前記コロ押し付け部材として、第1、第2コロ押し付け部材を備えており、
前記第1コロ押し付け部材は、前記ルーズ状態のコロのそれぞれにおける軸線方向の一方の端部を半径方向の外方に付勢しており、
前記第2コロ押し付け部材は、前記ルーズ状態のコロのそれぞれにおける前記軸線方向の他方の端を半径方向の外方に付勢している、
請求項9または10に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項12】
前記コロ押し付け部材は半径方向に弾性変形可能である請求項9または10に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項13】
前記コロ押し付け部材の材質は、鋼、ステンレススチール、リン青銅、またはプラスチックである請求項9または10に記載の波動歯車装置の波動発生器。
【請求項14】
剛性内歯歯車と、
可撓性外歯歯車と、
請求項1ないし13のうちのいずれか一つの項に記載の波動発生器と、
を有していることを特徴とする波動歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は波動歯車装置の波動発生器に関し、特に、コロ軸受けを備えた波動発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
波動歯車装置の波動発生器は、一般的に、楕円状の外周面を備えた剛性プラグ(剛性カム板)と、この外周面に嵌めたウエーブベアリングとを備え、ウエーブベアリングとして玉軸受けが用いられている。これに対して、特許文献1には、ウエーブベアリングとしてニードル軸受けを用いた波動発生器を備えた波動歯車装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−190826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
波動歯車装置の波動発生器では、ウエーブベアリングは剛性プラグによって楕円状に撓められている。ウエーブベアリングにおける楕円形状の長軸両端およびその近傍に位置する転動体は、内外輪の間にタイトに挟まれた状態になる。これに対して、残りの転動体は内外輪の間において遊びのある状態になる。特に、短軸両端に位置する転動体は、他の部位に位置する転動体に比べて、半径方向に大きな遊びができる。
【0005】
ニードル軸受け等のコロ軸受けを用いた波動発生器の場合には、コロは内外輪の軌道面(転動面)に線接触する。コロが軌道面の円周方向に対して直角な方向を向いていないと、すなわち、コロがスキュー状態に陥ると、軌道面に沿ってコロがスムーズに転動できなくなる。上記のように、長軸両端およびその近傍以外の部位に位置するコロは、内外輪の軌道面の間において半径方向に遊びがあるルーズ状態にあり、このルーズ状態のコロにはスキューが発生しやすい。スキュー状態のコロが内外輪の軌道面に沿って、ウエーブベアリングの短軸上の位置から長軸上の位置に向けて移動すると、スキュー状態のまま内外輪の軌道面に拘束されたタイト状態に陥ることがある。スキューしたコロがタイト状態に陥ると、コロはスムーズに回転できなくなってしまう。
【0006】
また、ウエーブベアリングの各コロは、楕円状の剛性プラグの回転に伴って、繰り返し楕円運動をしており、コロの楕円運動の範囲はコロ径よりも大きい。ウエーブベアリングが、コロを円周方向に一定の間隔で保持しているコロ保持器を備えている場合には、コロ保持器の各ポケットの内径を、コロの楕円運動が阻害されないように、コロ径よりも大きくして、ポケット内周面とコロの間に適切な隙間を設けることが不可欠である。この隙間は、波動歯車装置の速比が低い程、大きくなる。よって、低速比の波動歯車装置では、コロがスキュー状態に陥りやすく、スキューしたコロが、ウエーブベアリングの長軸両端の部位においてタイト状態に陥り、スムーズに回転できなくなる可能性が高い。
【0007】
本発明の課題は、コロがスキューしないように保持されたコロ軸受けを備えた波動発生器を提供することにある。また、本発明の課題は、当該波動発生器を備えた波動歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の波動歯車装置の波動発生器は、
非円形曲線によって規定される輪郭の外周面を備えた剛性部材と、
前記外周面に装着されて非円形に撓められているコロ軸受けと、
前記コロ軸受けの外輪および内輪の間において半径方向に遊びのある状態で配置されるルーズ状態のコロを、前記外輪の外輪軌道面に向かう方向に押し付けるコロ押し付け部材と、
を有し、
前記非円形曲線は、円に対して等角度間隔で複数の箇所で内接する閉じ凸曲線、例えば、楕円状曲線であることを特徴としている。
【0009】
本発明の波動発生器では、コロ押し付け部材によって、ルーズ状態のコロは遊びの無い状態で外輪軌道面に押し付けられる。コロは外輪軌道面に追従して転動するので、コロがスキュー状態に陥ることが抑制あるいは防止される。よって、剛性部材の非円形状の外周面によって非円形曲線に沿った形状に撓められているコロ軸受けにおいて、その長径位置の両端において、スキューしたコロがタイト状態に陥ることを抑制あるいは防止でき、コロ軸受けのスムーズな回転を確保できる。
【0010】
ここで、前記コロ押し付け部材は円筒部材あるいはリング部材であることが望ましい。この場合には、前記円筒部材あるいは前記リング部材は、前記外周面に対して同軸に配置される。また、前記円筒部材あるいは前記リング部材の外径寸法は、非円形曲線に沿って撓められている前記コロ軸受けの前記内輪の内輪軌道面の短径寸法よりも大きい寸法に設定される。
【0011】
非円形曲線に沿った形状に撓められているコロ軸受けの短径位置の両端、および、その近傍に位置するコロのそれぞれは、内輪軌道面の短径寸法よりも大きな外径寸法の円筒部材あるいはリング部材によって、半径方向の外方に押されて、外輪軌道面に接触した状態に保持される。これにより、コロのスキュー発生を抑制あるいは防止できる。
【0012】
本発明において、前記コロ押し付け部材を前記剛性部材に装着しておくことができる。また、コロ軸受けが、前記コロのそれぞれを、前記軌道内において周方向に沿って所定の間隔で保持しているコロ保持器を備えている場合には、前記コロ押し付け部材を前記コロ保持器に装着しておくことができる。
【0013】
前記コロ押し付け部材は、円筒部材あるいはリング部材を、その円周方向における一箇所で分断した形状の部材とすることができる。この場合には、楕円状曲線に沿って撓められている前記コロ軸受けの前記内輪の内輪軌道面の短径位置において、前記コロ押し付け部材の外径寸法が、前記短径位置における前記内輪軌道面の短径寸法よりも大きくなるように、前記コロ押し付け部材における分断された両側の端部が、前記剛性部材の前記外周面における長径両端に位置する外周面部分のうちの一方の部位に接合される。
【0014】
この場合には、コロ軸受けにおける短径両端側に位置するコロ押し付け部材の部分によって、コロが適切に押し付けられるように、コロ押し付け部材の両側の端部の接合位置を調整し、調整後の位置に各端部を接合する。これにより、コロ押し付け部材の製作寸法精度、および、剛性部材におけるコロ押し付け部材の取付け部分の製作寸法精度を緩和することができる。
【0015】
本発明において、前記コロ押し付け部材として、第1、第2コロ押し付け部材を備えており、前記第1コロ押し付け部材は、前記ルーズ状態のコロのそれぞれにおける軸線方向の一方の端部を半径方向の外方に付勢しており、前記第2コロ押し付け部材は、前記ルーズ状態のコロのそれぞれにおける前記軸線方向の他方の端を半径方向の外方に付勢していることが望ましい。
【0016】
本発明において、前記コロ押し付け部材は半径方向に弾性変形可能であることが望ましい。所定の弾性力でコロを確実に外輪軌道面に接触させることができる。
【0017】
前記コロ押し付け部材の素材として、鋼、ステンレススチール、リン青銅、またはプラスチックを用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)は本発明を適用した波動歯車装置を正面から見た場合の模式図であり、(b)はその断面構成を示す模式図である。
【
図2】(a)は波動発生器を示す正面図であり、(b)はその2b−2b線で切断した部分の断面図であり、(c)は波動発生器の変形例1を示す断面図である。
【
図3】(a)は
図2の波動発生器を正面から見た場合の説明図であり、(b)はその3b−3b線で切断した場合の説明図である。
【
図4】(a)は
図2の波動発生器の変形例2を示す断面図であり、(b)は
図2の波動発生器の変形例3を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明を適用した波動発生器を備えた波動歯車装置の実施の形態を説明する。
図1(a)は本実施の形態に係る波動歯車装置を正面から見た場合の模式図であり、(b)はその断面構成を示す模式図である。
【0020】
波動歯車装置1は、第1剛性内歯歯車2と、第2剛性内歯歯車3と、可撓性外歯歯車4と、波動発生器5とを備えている。可撓性外歯歯車4は波動発生器5によって楕円状曲線に沿った形状に撓められ、その楕円形状の長軸Lmax上に位置する外歯4aの部分が第1、第2剛性内歯歯車2、3の内歯2a、3aの部分に、それぞれ、かみ合っている。波動発生器5がモーター(図示せず)などによって回転すると、第1、第2剛性内歯歯車2、3と、可撓性外歯歯車4との間のかみ合い位置が周方向に移動する。
【0021】
第1剛性内歯歯車2の歯数は、第2剛性内歯歯車3の歯数よりも2n枚多い。第2剛性内歯歯車3の歯数は可撓性外歯歯車4の歯数と同一であり、第2剛性内歯歯車3と可撓性外歯歯車4とは一体となって回転する。例えば、第1剛性内歯歯車2を回転しないように固定しておくと、波動発生器5の回転に伴って、可撓性外歯歯車4は歯数差に相当する分だけ、相対的に回転する。可撓性外歯歯車4の回転が第2剛性内歯歯車3を介して出力される。
【0022】
図2(a)は波動発生器5を示す正面図であり、
図2(b)はその2b−2b線で切断した部分の断面図である。波動発生器5は、楕円状曲線によって規定される輪郭の外周面11を備えた剛性部材である剛性プラグ12と、外周面11に装着されて楕円状曲線に沿った形状に撓められているコロ軸受け13とを備えている。
図2(a)において、一点鎖線Lmaxは楕円状の外周面11の長軸を表し、一点鎖線Lminはその短軸を表す。
【0023】
コロ軸受け13は、外輪14と、外周面11に形成した内輪軌道面11aと、外輪軌道面14aおよび内輪軌道面11aの間に形成される軌道内に配置された多数個のコロ15とを備えている。各コロ15は、軌道内に配置した円筒状のコロ保持器16の各ポケット16aに挿入され、軌道の周方向に一定の間隔で配列されている。なお、本例では外周面11に内輪が一体形成されているが、外周面11に、別部材である内輪を装着してもよいことは勿論である。
【0024】
一般に、楕円状曲線の長軸Lmaxの両端付近に位置するコロ15aおよび、その両側に位置する複数個のコロ15bは、外輪軌道面14aと内輪軌道面11aとの間に挟まれた状態で配置されているタイト状態のコロ15Aである。残りのコロ15c、15dは、外輪軌道面14aと内輪軌道面11aとの間において、半径方向に遊びのある状態で配置されているルーズ状態のコロ15Bである。ルーズ状態のコロ15Bの遊びは、短軸位置Lminの両端に位置するコロ15dが最も大きく、短軸Lminから長軸Lmaxに向かうに連れて小さくなっている。
【0025】
波動発生器5は、コロ15のうち、ルーズ状態のコロ15Bを、外輪軌道面14aに押し付けているコロ押し付け部材を備えている。本例では、コロ押し付け部材として、同一形状の第1、第2円筒バネ17、18を備えている。第1、第2円筒バネ17、18は剛性プラグ12の外周面に装着されている。
【0026】
図3は、第1、第2円筒バネ17、18によるルーズ状態のコロ15Bの押し付け状態を分かり易く示すための説明図であり、
図3(a)は波動発生器5を正面から見た場合の説明図であり、
図3(b)はその3b−3b線で切断した断面の説明図である。
図2、
図3を参照して説明すると、剛性プラグ12は全体として一定の厚さの円盤である。剛性プラグ12の外周面11は、楕円状曲線の輪郭を備えた内輪軌道面11aと、この内輪軌道面11aの幅方向の両端部に形成されている第1段面11bおよび第2段面11cとを備えている。第1、第2段面11b、11cは、内輪軌道面11aに比べて、一回り小さな相似形の楕円状外周面である。
【0027】
第1段面11bには、コロ押し付け部材である第1円筒バネ17が装着され、第2段面11cにはコロ押し付け部材である第2円筒バネ18が装着されている。第1、第2円筒バネ17、18の内径寸法は、第1、第2段面11b、11cの長軸Lmaxの外径寸法(長径寸法)と略同一である。第1、第2円筒バネ17、18の外径寸法は、楕円状の内輪軌道面11aの短軸Lminの外径寸法(短径寸法)よりも大きい。第1、第2円筒バネ17、18は、第1、第2段面11b、11cにおける長軸Lmaxの両端部に固定してもよいし、固定しなくてもよい。これら第1、第2段面11b、11cから側方(波動発生器5の中心軸線5aの方向)に外れなければ良い。
【0028】
第1、第2段面11b、11cに装着した第1、第2円筒バネ17、18は剛性プラグ12に対して同軸に配置される。また、
図2(b)、
図3(b)の上半部分に示すように、長軸Lmaxの両端においては、タイト状態のコロ15aに対して半径方向の内側に位置する。下半部分に示す短軸Lminの両端においては、ルーズ状態のコロ15dを半径方向の内側から半径方向の外方に押して、外輪軌道面14aに所定のバネ力で押し付けている。第1、第2円筒バネ17、18の外径寸法等を適切に設定しておくことにより、短軸位置Lminの両端以外の位置にあるルーズ状態のコロ15Bも、外輪軌道面14aに接触させることができる。
【0029】
本例では、ルーズ状態のコロ15Bにおける軸線方向の一方の端部が第1円筒バネ17によって半径方向の外方に押され、軸線方向の他方の端部が第2円筒バネ18によって半径方向の外方に押される。よって、ルーズ状態のコロ15Bにおける軸線方向の各部位を、均等な力で、外輪軌道面14aに対して押し付けることができる。
【0030】
このように、第1、第2円筒バネ17、18によって、ルーズ状態のコロ15Bが外輪軌道面14aに押し付けられている。ルーズ状態のコロ15Bは、常に、外輪軌道面14aに対して線接触した状態が維持され、外輪14の回転に追従して転動する。よって、ルーズ状態のコロ15Bにスキューが発生することを防止あるいは抑制できる。この結果、スキュー状態のコロ15が長軸位置Lmaxに移動してタイト状態に陥り、コロ15のスムーズな回転が阻害される事態を回避できる。
【0031】
なお、コロ押し付け部材の材質は、例えば、鋼、ステンレススチール、リン青銅、またはプラスチックとすることができる。
【0032】
(変形例1)
上記の波動発生器5では、コロ押し付け部材として第1、第2円筒バネ17、18を用いている。円筒バネ17、18の代わりに、リングバネ17A、18Aを用いることもできる。
図2(c)は円形断面のリングバネ17A、18Aを用いた波動発生器5Aを示す断面図であり、その上半部分は長軸位置の断面を示し、その下半部分は短軸位置の断面を示す。
【0033】
(変形例2)
図4(a)は波動発生器5の変形例2を示す断面図であり、その上半部分は長軸位置の断面を示し、その下半部分は短軸位置の断面を示す。
【0034】
図4(a)に示す変形例2の波動発生器5Bでは、コロ押し付け部材である第1、第2円筒バネ17B、18Bがコロ保持器16Bに装着されている。コロ保持器16Bの基本構成は波動発生器5のコロ保持器16と同一である。コロ保持器16Bの両側の円環状の端板部分16b、16cは、第1、第2段面11b、11cに向かって半径方向の内方に延びている。これら端板部分16b、16cの内側の側面に、第1、第2円筒バネ17、18が取り付けられている。これにより、第1、第2円筒バネ17B、18Bは、コロ15の両側の端部に対して半径方向の内側から対峙している。
【0035】
第1、第2円筒バネ17B、18Bの内径寸法は、第1、第2段面11b、11cに当ることが無いように、当該第1、第2段面11b、11cの外径寸法よりも大きい。第1、第2円筒バネ17B、18Bの外径寸法は、内輪軌道面11aの長径寸法よりも小さく、楕円状の内輪軌道面11aの短径寸法よりも大きい。
【0036】
コロ保持器16Bに取り付けた第1、第2円筒バネ17B、18Bは、コロ保持器16Bと共に略円形のままに保持される。第1、第2円筒バネ17B、18Bは、長軸Lmaxの両端部分のコロ15aに対して半径方向の内側に位置し、短軸Lminの両端部分のコロ15dに対しては半径方向の内側から押し付けられている。これにより、コロ15dは外輪軌道面14aに対して、所定のバネ力で押し付けられた線接触状態に保持され、外輪14に追従して転動する。他のルーズ状態のコロ15Bも同様に、線接触状態で外輪軌道面14aに押し付けられた状態に保持される。よって、コロ15がスキュー状態に陥り、コロ15のスムーズな回転が阻害されてしまうことを回避できる。
【0037】
(変形例3)
図4(b)は波動発生器5の変形例3を示す断面図であり、その上半部分は長軸位置の断面を示し、その下半部分は短軸位置の断面を示す。
【0038】
図4(b)に示す変形例3の波動発生器5Cでは、コロ押し付け部材として、第1、第2円筒バネ17B、18Bの代わりに、第1、第2リングバネ17C、18Cがコロ保持器16Cに装着されている。コロ保持器16Cの基本構成は上記のコロ保持器16Bと同一である。コロ保持器16Cの両側の円環状の第1、第2端板部分16b、16cにおける内周縁部には、内側に直角に折れ曲がって延びる第1、第2リング保持部16d、16eが形成されている。これらの第1、第2リング保持部16d、16eの外周面部分に、第1、第2リングバネ17C、18Cがそれぞれ取り付けられている。これにより、第1、第2リングバネ17C、18Cは、コロ15の両側の端部に対して半径方向の内側から対峙している。
【0039】
第1、第2リングバネ17C、18Cの内径寸法は、第1、第2段面11b、11cに当ることが無いように、当該第1、第2段面11b、11cの外径寸法よりも大きい。第1、第2円筒バネ17C、18Cの外径寸法は、内輪軌道面11aの長径寸法よりも小さく、楕円状の内輪軌道面11aの短径寸法よりも大きい。この構成の第1、第2リングバネ17C、18Cによっても、第1、第2円筒バネ17B、18Bと同様な効果が得られる。
【0040】
(変形例4)
上記のコロ押し付け部材は円筒部材あるいはリング部材である。コロ押し付け部材として、製作した円筒部材あるいはリング部材を、その円周方向における一箇所で分断した形状の部材を用いることができる。この場合には、楕円状曲線に沿って撓められているコロ軸受けの内輪の内輪軌道面の短径位置において、コロ押し付け部材の外径寸法が、短径位置における内輪軌道面の短径寸法よりも大きくなるように、コロ押し付け部材における分断された両側の端部を、剛性部材の外周面における長径両端に位置する外周面部分のうちの一方の部位に接合すればよい。
【0041】
(その他の実施の形態)
上記の例は、第1、第2剛性内歯歯車を備えた波動歯車装置に関するものである。本発明の波動発生器は、カップ形状の可撓性外歯歯車を備えた波動歯車装置、シルクハット形状の可撓性外歯歯車を備えた波動歯車装置についても適用可能である。
【0042】
また、上記の例は、楕円状曲線に沿った形状に可撓性外歯歯車を撓める波動歯車装置に関するものである。楕円状曲線以外の非円形曲線である閉じ凸曲線に沿った形状に可撓性外歯歯車を撓める波動歯車装置にも適用可能である。例えば、3箇所で円に内接するスリーローブ形状と呼ばれる波動発生器を用いて、可撓性外歯歯車を円周方向の3箇所の位置で剛性内歯歯車にかみ合わせる波動歯車装置に対しても、本発明を適用可能である。この場合には、剛性内歯歯車と可撓性外歯歯車の歯数差は3n枚(n:正の整数)とされる。