特許第6188974号(P6188974)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6188974眼用レンズ、その設計方法、その製造方法、および眼用レンズセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6188974
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】眼用レンズ、その設計方法、その製造方法、および眼用レンズセット
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20170821BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   G02C7/04
   G02C7/06
【請求項の数】21
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-9956(P2017-9956)
(22)【出願日】2017年1月24日
【審査請求日】2017年6月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】下條 朗
(72)【発明者】
【氏名】中澤 一雄
【審査官】 森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−93522(JP,A)
【文献】 特開平5−181096(JP,A)
【文献】 特表2006−505011(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/128744(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 − 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部中央に配され、前記遠用部がその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズであって、
前記光学部の中央に配された前記近用部おいて、中央から周辺に向かうX方向で見た時に前記近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも前記近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分A’を有する、眼用レンズ。
【請求項2】
前記部分Aにおいて度数が極大となる箇所は1か所のみであり、且つ、前記部分A’においても度数が極大となる箇所は1か所のみである、請求項に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
前記部分Aにおいて度数が極大となる箇所と、前記部分A’において度数が極大となる箇所との間の平面視距離は1.0〜2.8mmである、請求項またはに記載の眼用レンズ。
【請求項4】
前記部分Aにおける度数の極大値と前記近用度数との差は0.12〜0.25Dであり、且つ、前記部分A’における度数の極大値と前記近用度数との差も0.12〜0.25Dである、請求項のいずれかに記載の眼用レンズ。
【請求項5】
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記遠用部が中央に配され、前記近用部がその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズであって、
前記光学部の中央に配された前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に前記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも前記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分A’を有し、
前記部分Aにおける度数の極小値と前記遠用度数との差は0.12〜0.25Dであり、且つ、前記部分A’における度数の極小値と前記遠用度数との差も0.12〜0.25Dである、眼用レンズ。
【請求項6】
前記部分Aにおいて度数が極小となる箇所は1か所のみであり、且つ、前記部分A’においても度数が極小となる箇所は1か所のみである、請求項に記載の眼用レンズ。
【請求項7】
前記部分Aにおいて度数が極小となる箇所と、前記部分A’において度数が極小となる箇所との間の平面視距離は1.0〜2.8mmである、請求項またはに記載の眼用レンズ。
【請求項8】
前記眼用レンズはコンタクトレンズである、請求項1〜のいずれかに記載の眼用レンズ。
【請求項9】
前記眼用レンズは眼内レンズである、請求項1〜のいずれかに記載の眼用レンズ。
【請求項10】
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部中央に配され、前記遠用部がその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズの設計方法であって、
前記光学部の中央に配された前記近用部おいて、中央から周辺に向かうX方向で見た時に前記近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも前記近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分A’を有するように眼用レンズを設計する、眼用レンズの設計方法。
【請求項11】
前記部分Aにおいて度数が極大となる箇所は1か所のみとし、且つ、前記部分A’においても度数が極大となる箇所は1か所のみとする、請求項10に記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項12】
前記部分Aにおいて度数が極大となる箇所と、前記部分A’において度数が極大となる箇所との間の平面視距離を1.0〜2.8mmとする、請求項10または11に記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項13】
前記部分Aにおける度数の極大値と前記近用度数との差を0.12〜0.25Dとし、且つ、前記部分A’における度数の極大値と前記近用度数との差も0.12〜0.25Dとする、請求項1012のいずれかに記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項14】
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記遠用部が中央に配され、前記近用部がその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズの設計方法であって、
前記光学部の中央に配された前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に前記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも前記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分A’を有し、
前記部分Aにおける度数の極小値と前記遠用度数との差を0.12〜0.25Dとし、且つ、前記部分A’における度数の極小値と前記遠用度数との差も0.12〜0.25Dとするように眼用レンズを設計する、眼用レンズの設計方法。
【請求項15】
前記部分Aにおいて度数が極小となる箇所を1か所のみとし、且つ、前記部分A’においても度数が極小となる箇所を1か所のみとする、請求項14に記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項16】
前記部分Aにおいて度数が極小となる箇所と、前記部分A’において度数が極小となる箇所との間の平面視距離を1.0〜2.8mmとする、請求項14または15に記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項17】
前記眼用レンズはコンタクトレンズである、請求項1016のいずれかに記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項18】
前記眼用レンズは眼内レンズである、請求項1016のいずれかに記載の眼用レンズの設計方法。
【請求項19】
請求項1018のいずれかに記載の眼用レンズの設計方法によって眼用レンズを設計する設計工程と、
設計された眼用レンズを加工装置により製造する加工工程と、
を有する、眼用レンズの製造方法。
【請求項20】
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部中央に配され、前記遠用部がその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズを複数備える眼用レンズセットであって、
前記光学部の中央に配された前記近用部おいて、中央から周辺に向かうX方向で見た時に前記近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも前記近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分A’を有する眼用レンズを複数備える、眼用レンズセット。
【請求項21】
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記遠用部が中央に配され、前記近用部がその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズを複数備える眼用レンズセットであって、
前記光学部の中央に配された前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に前記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも前記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分A’を有し、
前記部分Aにおける度数の極小値と前記遠用度数との差は0.12〜0.25Dであり、且つ、前記部分A’における度数の極小値と前記遠用度数との差も0.12〜0.25Dである眼用レンズを複数備える、眼用レンズセット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼用レンズ、その設計方法、その製造方法、および眼用レンズセットに関する。
【背景技術】
【0002】
眼用レンズとしては、例えばコンタクトレンズや眼内レンズ等が知られている(本明細書においては眼用レンズとしては眼鏡レンズは除く)。例えばコンタクトレンズには、1枚のレンズで近方距離を見るための近用度数と遠方距離を見るための遠用度数を確保するマルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ)が存在する。この多焦点レンズの構成としては、例えばレンズの中央に近用度数を備えた近用部を配し、その外縁に対し、遠用度数を備えた遠用部を環状に配する構成が挙げられる(例えば特許文献1の[図1][図2])。その逆に、レンズの中央に遠用度数を備えた遠用部を配し、その外縁に対し、近用度数を備えた近用部を環状に配する構成も知られている(例えば特許文献2の[図12])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006−505011号公報
【特許文献2】WO2006/129707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題を説明する前に、光学部について説明を加える。なお、以降においてはマルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ。単にレンズとも称する。)であってレンズの中央に近用度数を備えた近用部を配し、その外縁に対し、遠用度数を備えた遠用部を環状に配する多焦点レンズをあくまで一例として例示する。
【0005】
まず、従来の多焦点レンズを平面視した概略図(レンズの前面(凸面)を上にしてレンズを水平台に載置した際に光軸方向において天地の天の方向から地の方向を見たときの上面図。平面視については以降同様。)が図1である。なお、平面視した際のレンズ上の距離のことを平面視距離と称する。符号1は近用部、符号2は遠用部、符号3は光学部、符号4は周辺部、符号5はマルチフォーカルコンタクトレンズを指す。以降、符号は省略する。
図1に示すように、レンズの光学中心Oを同心として中央に近用部、その外縁に環状の遠用部を配する。本例では光学中心Oを幾何中心と一致させる。こうして近用部および遠用部を有する光学部が構成される。そして光学部のさらに外縁に環状の周辺部を有する。周辺部はレンズを角膜上に載置した際に瞼の裏に入り込みやすいフランジ形状を有するのが通常である。つまり光学部と周辺部により本例のレンズは構成される。ただし、光学部と周辺部とは各々が上記の機能を奏するために区別されているのであって、光学部と周辺部との間に段差等のように目視で確認可能な明確な境目があるわけではない。
【0006】
本来ならば、X−X’方向(すなわち径方向)の端Fから端F’まで見た時の度数をプロットしたときに、近用部(N−N’の領域)だと近用度数が確保され、遠用部(F−Nの領域およびN’−F’の領域)だと遠用度数が確保されるべきである。
【0007】
ところが実際のレンズだと必ずしもそのような度数プロットとはならない。それを示すのが図2である。図2は、従来のマルチフォーカルコンタクトレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数をプロットした図である。横軸は、レンズを平面視した際のX−X’における光学中心Oからの距離を示す。縦軸は、レンズの度数(単位:ディオプター[D])を示し、上方に向かえば度数が増加し、下方に向かえば度数が減少する。ここで言う度数とはレンズの両面の形状(曲率)の差によりもたらされる度数のことを指す。
【0008】
図2に示すように、実際のレンズだと、光学中心Oから周辺に向かう方向(X方向。以降、方向について特記ない場合はこの方向とする。)で度数変化を見たときに、はじめは緩やかに度数が減少し、その後で急激に度数が減少し、再び度数の減少が緩やかとなり、最終的には遠用度数へと至る。
【0009】
ここで挙げたマルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ)という一例だと度数が変化する部分を備える必要がある。この事情を鑑みると、X方向で見たときの度数の減少の様子は図2(あるいは特許文献1の[図1][図2])のようにせざるを得ない。だからこそ従来のレンズにおいては、度数が変化する部分を遷移部や中間部(特許文献2の[図12]の符号104)として位置付けているものもある。そうなると、図2の斜線部分(すなわち度数を減少させ始めた部分)においてどうしても近用度数を確保することができない。つまり、本来ならば近方視しなければならない部分において十分に近方視できないということが生じ得る。
【0010】
この事態を防ぐためには、図3に示すように、X方向およびX’方向で見た時に図2よりも度数を減少させる位置を光学中心Oから遠ざけることが挙げられる。こうすればあらかじめ設定した近用部(N−N’の領域)において近用度数を確保することができる。
【0011】
ただ、上記の手法を採用すると、図3に示すように、今度は近用部の外縁に配する遠用部が狭くなってしまう。また、結局のところ図3の斜線部分(すなわち度数を減少させ始めた部分)においてどうしても近用度数を確保することができない。
【0012】
マルチフォーカルコンタクトレンズの光学部においては、瞳孔に対してバランスよく遠用部と近用部を配置させることは非常に重要である。そして、遠用部と近用部の広さのバランスを良好に保つことは、マルチフォーカルコンタクトレンズのみに係るものではなく、その他のコンタクトレンズ、あるいは眼内レンズを含めた眼用レンズについても重要である。
【0013】
本発明の課題は、光学部の中央に近用部が配された場合、近用部において近用度数を十分に確保しつつも近用部とその外縁に設けられた遠用部とのバランスを良好に保ち、光学部の中央に遠用部が配された場合、遠用部において遠用度数を十分に確保しつつも遠用部とその外縁に設けられた近用部とのバランスを良好に保つことである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討を加えた。この課題を解決するための糸口は、図2の斜線部分をなくすことであると本発明者らは考えた。図2の斜線部分が生じる理由は、X方向に見たときに度数の減少を近用部内にて既に開始しなければならないことにある。そこで本発明者らは、近用部内にて度数の減少を開始する前に度数を近用度数よりも増加させておけば、図4(b)に示すように、近用部内にて度数の減少を開始したとしても近用部の端Nにて近用度数を確保可能とする手法を知見した。なお、本例のように中央に近用部が配される場合は近用度数を強め(より近くが見える方向すなわちプラス方向に強める。例:5.00D→5.10D)てその後に遠用度数へと度数を減少させればよいし、逆に、中央に遠用部が配される場合は、例えば後述の図9(b)に示すように、遠用度数を強め(より遠くが見える方向すなわちマイナス方向に強める。例:0.00D→−0.10D)てその後に近用度数へと度数を増加させればよい。
以上の知見を得た結果、以降に記載された本発明の構成を採用するに至った。なお、以下に示す好適な各態様は適宜組み合わせ可能である。
【0015】
本発明の第1の態様は、
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部または前記遠用部が中央に配され、中央に配されなかったものがその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズであって、
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A’を有する、眼用レンズである。
【0016】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明であって、
前記光学部においては前記近用部が中央に配され、
前記部分Aおよび前記部分A’においては前記近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する。
【0017】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおいて度数が極大となる箇所は1か所のみであり、且つ、前記部分A’においても度数が極大となる箇所は1か所のみである。
【0018】
本発明の第4の態様は、第2または第3の態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおいて度数が極大となる箇所と、前記部分A’において度数が極大となる箇所との間の平面視距離は1.0〜2.8mmである。
【0019】
本発明の第5の態様は、第2〜第4のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおける度数の極大値と前記近用度数との差は0.05〜0.25Dであり、且つ、前記部分A’における度数の極大値と前記近用度数との差も0.05〜0.25Dである。
【0020】
本発明の第6の態様は、第1の態様に記載の発明であって、
前記光学部においては前記遠用部が中央に配され、
前記部分Aおよび前記部分A’においては前記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する。
【0021】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおいて度数が極小となる箇所は1か所のみであり、且つ、前記部分A’においても度数が極小となる箇所は1か所のみである。
【0022】
本発明の第8の態様は、第6または第7の態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおいて度数が極小となる箇所と、前記部分A’において度数が極小となる箇所との間の平面視距離は1.0〜2.8mmである。
【0023】
本発明の第9の態様は、第6〜第8のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおける度数の極小値と前記遠用度数との差は0.05〜0.25Dであり、且つ、前記部分A’における度数の極小値と前記遠用度数との差も0.05〜0.25Dである。
【0024】
本発明の第10の態様は、第1〜第9のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記眼用レンズはコンタクトレンズ(ソフトコンタクトレンズまたはハードコンタクトレンズ。好ましくはソフトコンタクトレンズ。)である。
【0025】
本発明の第11の態様は、第1〜第9のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記眼用レンズは眼内レンズである。
【0026】
本発明の第12の態様は、
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部または前記遠用部が中央に配され、中央に配されなかったものがその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズの設計方法であって、
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A’を有するように眼用レンズを設計する、眼用レンズの設計方法である。
【0027】
本発明の第13の態様は、第12の態様に記載の発明であって、
前記光学部においては前記近用部を中央に配し、
前記部分Aおよび前記部分A’においては前記近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めるように眼用レンズを設計する。
【0028】
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおいて度数が極大となる箇所は1か所のみとし、且つ、前記部分A’においても度数が極大となる箇所は1か所のみとする。
【0029】
本発明の第15の態様は、第13または第14の態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおいて度数が極大となる箇所と、前記部分A’において度数が極大となる箇所との間の平面視距離を1.0〜2.8mmとする。
【0030】
本発明の第16の態様は、第13〜第15のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおける度数の極大値と前記近用度数との差を0.05〜0.25Dとし、且つ、前記部分A’における度数の極大値と前記近用度数との差も0.05〜0.25Dとする。
【0031】
本発明の第17の態様は、第12の態様に記載の発明であって、
前記光学部においては前記遠用部を中央に配し、
前記部分Aおよび前記部分A’においては前記遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めるように眼用レンズを設計する。
【0032】
本発明の第18の態様は、第17の態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおいて度数が極小となる箇所を1か所のみとし、且つ、前記部分A’においても度数が極小となる箇所を1か所のみとする。
【0033】
本発明の第19の態様は、第17または第18の態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおいて度数が極小となる箇所と、前記部分A’において度数が極小となる箇所との間の平面視距離を1.0〜2.8mmとする。
【0034】
本発明の第20の態様は、第17〜第19のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記部分Aにおける度数の極小値と前記遠用度数との差を0.05〜0.25Dとし、且つ、前記部分A’における度数の極小値と前記遠用度数との差も0.05〜0.25Dとする。
【0035】
本発明の第21の態様は、第12〜第20のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記眼用レンズはコンタクトレンズ(ソフトコンタクトレンズまたはハードコンタクトレンズ。好ましくはソフトコンタクトレンズ。)である。
【0036】
本発明の第22の態様は、第12〜第20のいずれかの態様に記載の発明であって、
前記眼用レンズは眼内レンズである。
【0037】
本発明の第23の態様は、第12〜第22のいずれかに記載の眼用レンズの設計方法によって眼用レンズを設計する設計工程と、
設計された眼用レンズを加工装置により製造する加工工程と、
を有する、眼用レンズの製造方法である。
【0038】
また、上記の眼用レンズを複数備える眼用レンズセットの態様を挙げると以下のとおりである。なお、以下の態様に対し、先に挙げた好適な態様を適宜組み合わせたものも本発明の態様である。
【0039】
本発明の第24の態様は、
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部または前記遠用部が中央に配され、中央に配されなかったものがその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズを複数備える眼用レンズセットであって、
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A’を有する眼用レンズを複数備える、眼用レンズセットである。
【0040】
また、上記の態様に組み合わせ可能な他の態様を列挙すると以下のとおりである。
【0041】
本発明の第25の態様は、上記の各態様において、
前記光学部においては前記近用部が中央に配され、
前記部分Aおよび前記部分A’とは、近用部内において度数が増加した後に近用度数以下へと減少し(好ましくは度数が減少し続け)た後、遠用度数に至るまで度数が減少す(好ましくは度数が減少し続け)る部分である。
【0042】
本発明の第26の態様は、第25の態様において、
度数プロットで見たときに上に凸部分が2か所(すなわち凹部分が1か所)存在するのが好ましい。
【0043】
本発明の第27の態様は、第25または第26の態様において、
上記の平面視距離は1.0〜2.8mmであるのが好ましく、下限は、より好ましくは1.2mm、さらに好ましくは1.4mm、非常に好ましくは1.6mmであり、上限は、より好ましくは2.6mm、さらに好ましくは2.4mmである。
【0044】
本発明の第28の態様は、第25〜第27のいずれかの態様において、
部分Aにおける度数の極大値と近用度数との差は0.05〜0.25Dであり、且つ、部分A’における度数の極大値と近用度数との差も0.05〜0.25Dであるのが好ましい。各々の下限は、より好ましくは0.10D、さらに好ましくは0.12D、非常に好ましくは0.15Dであり、上限は、より好ましくは0.20Dである。
【0045】
本発明の第29の態様は、第25〜第28のいずれかの態様において、
レンズに対して直線X−X’を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに、部分Aおよび部分A’において近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分が光学部の50面積%以上であるのが好ましく、80面積%以上がより好ましく、90面積%以上がさらに好ましい。
【0046】
本発明の第30の態様は、上記の各態様において、
前記光学部においては前記遠用部が中央に配され、
前記部分Aおよび前記部分A’とは、遠用部内において度数が減少した後に遠用度数以上へと増加し(好ましくは増加し続け)た後、近用度数に至るまで度数が増加す(好ましくは度数が増加し続け)る部分である。
【0047】
本発明の第31の態様は、第30の態様において、
度数プロットで見たときに凹部分が2か所(すなわち上に凸部分が1か所)存在するのが好ましい。
【0048】
本発明の第32の態様は、第30または第31の態様において、
上記の平面視距離は1.0〜2.8mmであるのが好ましく、下限は、より好ましくは1.2mm、さらに好ましくは1.4mm、非常に好ましくは1.6mmであり、上限は、より好ましくは2.6mm、さらに好ましくは2.4mmである。
【0049】
本発明の第33の態様は、第30〜第32のいずれかの態様において、
部分Aにおける度数の極小値と遠用度数との差は0.05〜0.25Dであり、且つ、部分A’における度数の極小値と遠用度数との差も0.05〜0.25Dであるのが好ましい。各々の下限は、より好ましくは0.10D、さらに好ましくは0.12D、非常に好ましくは0.15Dであり、上限は、より好ましくは0.20Dである。
【0050】
本発明の第34の態様は、第30〜第33のいずれかの態様において、
レンズに対して直線X−X’を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに、部分Aおよび部分A’において遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する部分が光学部の50面積%以上であるのが好ましく、80面積%以上がより好ましく、90面積%以上がさらに好ましい。
【0051】
本発明の第35の態様は、上記の各態様において、
前記眼用レンズは眼内レンズであり、
前記眼用レンズは、前記光学部を有するレンズ本体と、前記レンズ本体から延在する支持部とを備える。
前記支持部は、例えば、レンズ本体から腕状に延在する2本の支持部である。
【0052】
本発明の第36の態様は、
近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部または前記遠用部が中央に配され、中央に配されなかったものがその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズであって、
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時には度数の変曲点が存在する、眼用レンズまたはその設計方法、製造方法である。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、光学部の中央に近用部が配された場合、近用部において近用度数を十分に確保しつつも近用部とその外縁に設けられた遠用部とのバランスを良好に保ち、光学部の中央に遠用部が配された場合、遠用部において遠用度数を十分に確保しつつも遠用部とその外縁に設けられた近用部とのバランスを良好に保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1図1は、従来の多焦点レンズを平面視した概略図である。
図2図2は、従来のマルチフォーカルコンタクトレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数をプロットした図である。
図3図3は、X方向およびX’方向で見た時に図2よりも度数を減少させる位置を光学中心Oから遠ざけた図である。
図4図4(a)は、本実施形態のマルチフォーカルコンタクトレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数をプロットした図であり、図4(b)は図4(a)における近用部の拡大図である。
図5図5は、本実施形態のマルチフォーカルコンタクトレンズにおける別パターンの度数プロット図である。
図6図6は、本実施形態のマルチフォーカルコンタクトレンズにおける別パターンの度数プロット図である。
図7図7は、本実施形態のマルチフォーカルコンタクトレンズにおける別パターンの度数プロット図である。
図8図8は、多焦点レンズ(中央に遠用部、その外縁に近用部を配したもの)を平面視した概略図である。
図9図9(a)は、別実施形態のマルチフォーカルコンタクトレンズの光学部をX−X’方向の端Nから端N’まで見た時の度数をプロットした図であり、図9(b)は図9(a)における遠用部の拡大図である。
図10図10は、実施例1のレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数のプロットである。
図11図11は、比較例1のレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数のプロットである。
図12図12は、実施例2のレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数のプロットである。
図13図13は、比較例2のレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.コンタクトレンズ
1−1.マルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ)
1−1−1.近用部を中央に配置
1−1−2.遠用部を中央に配置
1−2.その他のコンタクトレンズ
2.コンタクトレンズの設計方法(製造方法)
3.眼内レンズ(IOL)およびその設計方法(製造方法)
4.眼用レンズセット
5.変形例
【0056】
なお、以下に記載が無い構成については、公知の構成を適宜採用しても構わない。また、本明細書において「〜」は所定の値以上かつ所定の値以下を指す。
また、本明細書にて扱う眼用レンズ(コンタクトレンズ、または眼内レンズにおけるレンズ本体)は互いに対向する二つの面を有する。該眼用レンズを装用者が装着した際に網膜側に位置する方を「後面」とし、その逆の物体側に位置する方を「前面」とする。
また、本明細書にて度数とはパワー(単位は[D])のことを指す。
【0057】
また、先ほど述べたところであるが、中央に近用部が配される場合、「近用度数を強め」とは、より近くが見える方向すなわちプラス方向に強めることを指し、度数を増加させることを指す(例:5.00D→5.10D)。逆に「近用度数を弱め」とは、近くが見えにくくなる方向すなわちプラス方向に見て弱めることを指し、度数を減少させることを指す(例:5.10D→5.00D)。
その一方、中央に遠用部が配される場合、「遠用度数を強め」とは、より遠くが見える方向すなわちマイナス方向に強めることを指し、度数を減少させることを指す(例:0.00D→−0.10D)。逆に「遠用度数を弱め」とは、遠くが見えにくくなる方向すなわちプラス方向に見て弱めることを指し、度数を増加させることを指す(例:−0.10D→0.00D)。
つまり、中央に近用部が配されるか遠用部が配されるか未定の段階での「度数を強め」とは、近用度数または遠用度数を強めることを意味し、「度数を弱め」とは近用度数または遠用度数を弱めることを意味する。
【0058】
<1.コンタクトレンズ>
1−1.マルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ)
本実施形態においてはマルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ。以降、単にレンズとも称する。)を主として例示する。
【0059】
1−1−1.近用部を中央に配置
本実施形態におけるレンズは、先に説明した従来のレンズと同様、光学性能に主として寄与する略円形状の光学部と、該光学部の周縁に位置する環状の周辺部を備える。先ほど述べたように周辺部はレンズを角膜上に載置した際に瞼の裏に入り込みやすいフランジ形状を有するのが通常である。そして光学部は、近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離(無限遠含む)を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有するものである。そして本実施形態においては、近用部が中央に配され、遠用部がその外縁に環状に配された例を挙げる。なお、平面視の構成としては先に挙げた図1と同様である。本例においても光学中心Oをレンズの幾何中心と一致させた例を挙げるが、本発明はそれに限定されない(以降同様)。
【0060】
本実施形態のレンズが従来のものと主として異なるのは度数のプロットである。以下、詳述する。
本実施形態のマルチフォーカルコンタクトレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数をプロットした図4(a)および近用部の拡大図である図4(b)を用いて説明する。図2と同様、横軸は、レンズを平面視した際のX−X’における光学中心Oからの距離を示す。縦軸は、レンズの度数(単位:ディオプター[D])を示す。
【0061】
先ほども述べたように、近用部が中央に配され、遠用部がその外縁に環状に配されている。その関係上、光学中心Oの方が遠用部よりも度数が高く設定されている。なお、レンズの処方としては、通常、遠用度数Sと加入度数ADD(そして乱視矯正を行う場合は乱視度数C)の値が与えられるが、近用度数とは(S+ADD)の値である(各度数の単位は[D]、以降同様)。近用部N−N’において光学中心Oの近傍において度数を近用度数の値とする。なお、厳密に光学中心Oの位置において近用度数の値(すなわち光学中心Oにおける度数=近用度数)とする一方で、光学中心Oが幾何中心からずれた場合、幾何中心においては近用度数の値からわずかにずれても構わない。
ただし、図4(b)に示すように、本実施形態のレンズは、部分Aおよび部分A’においては近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する。ここで言う部分Aおよび部分A’とは、近用部内において例えば部分Aだと度数が増加した後に近用度数以下へと減少し(好ましくは度数が減少し続け)た後、遠用度数に至るまで度数が減少す(好ましくは度数が減少し続け)る部分のことを指す。図4で言うと、部分Aおよび部分A’は、近用部(中央)に存在しつつもその周辺である遠用部にもわたって存在する部分である。
【0062】
なお、部分Aにおいて度数が極大となる箇所は1か所のみであり、且つ、部分A’においても度数が極大となる箇所は1か所のみであるのが好ましい。言い換えると、度数プロットで見たときに上に凸部分が2か所(すなわち凹部分が1か所)存在するのが好ましい。この規定により、度数プロットで見たときに多数の小さな凸部分を設けなくて済む。多数の小さな凸部分を設けても、図2に示す斜線部分を十分に埋めることが難しい場合もある。そのため、部分Aや部分A’において度数が極大となる箇所を度数プロット上で1か所大きく設けるのに越したことはない。ただ、それは必須ではなく、例えば2、3か所の極大となる箇所を設けても構わない。
【0063】
また、部分Aにおいて度数が極大となる箇所と、部分A’において度数が極大となる箇所との間の平面視距離Lは1.0〜2.8mmであるのが好ましい。下限は、より好ましくは1.2mm、さらに好ましくは1.4mm、非常に好ましくは1.6mmであり、上限は、より好ましくは2.6mm、さらに好ましくは2.4mmである。この規定により、度数の増加後減少させる位置を確実に適切なものとすることが可能となる。ただ、それは必須ではなく、レンズの種類に応じて適宜平面視距離Lを設定しても構わない。
【0064】
また、部分Aにおける度数の極大値と近用度数との差は0.05〜0.25Dであり、且つ、部分A’における度数の極大値と近用度数との差も0.05〜0.25Dであるのが好ましい。各々の下限は、より好ましくは0.10D、さらに好ましくは0.12D、非常に好ましくは0.15Dであり、上限は、より好ましくは0.20Dである。この規定により、図2に示す斜線部分を十分にかつ確実に埋めることが可能となる。ただ、それは必須ではなく、状況に応じて上記の差を適宜設定しても構わないし、部分Aと部分A’とで上記の度数差が異なっていてももちろん構わない。
【0065】
なお、本実施形態においては中央に配されるもの(ここでは近用部)における度数の増減の挙動に大きな特徴がある。この特徴のおかげで外縁に配されるもの(ここでは遠用部)を十分に広く確保することが可能となる。そのため、外縁の遠用部の度数プロットについては特に限定されるものではない。例えば、先に示した図4(a)に示すような度数プロット、すなわちはじめは緩やかに度数が減少し、その後で急激に度数が減少し、再び度数の減少が緩やかとなり、最終的には遠用度数へと至った後も度数が減少し続けるという度数プロットを有しても構わない。
その一方で、図5に示すように、はじめは緩やかに度数が減少し、その後で少しばかり急に度数が減少し、最終的には遠用度数へと至った後も度数が減少し続けるという度数プロットを有しても構わない。
また、図6に示すように、はじめは緩やかに度数が減少し、その後で急激に度数が減少し、再び度数の減少が緩やかとなり、最終的には遠用度数へと至った後は度数変化が無くなるという度数プロットを有しても構わない。
また、図7に示すように、はじめは緩やかに度数が減少し、その後で少しばかり急に度数が減少したのちに急激に度数が減少し、最終的には遠用度数へと至った後も度数が減少し続けるという度数プロットを有しても構わない。
さらに言うと、中央の近用部、周縁の遠用部に加え、そのさらに周縁に環状の近用部を設ける場合も本発明は排除しない。また、後で詳述するが中央に遠用部を設け、周縁に近用部、そのさらに周縁に環状の遠用部を設ける場合も同様である。
【0066】
なお、上記においては度数プロットにより本実施形態における近用部を規定したが、度数プロットの代わりに前面の形状(曲率)にて近用部を規定することも可能である。なぜなら、従来のレンズだと、角膜と接する方の面(後面)は角膜の形状に倣った面(例えば球面やトーリック面)に準ずる形状としなければならない。そうなると、度数の調整を瞼側の面(前面)の形状により行わなければならない。その結果、度数プロットの特徴がレンズの前面の形状(曲率)により表すことも可能となり、以下のような表現となる。
「近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、近用部が中央に配され、遠用部がその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズであって、
近用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に曲率半径を減少させた後に増加させた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも曲率半径を減少させた後に増加させた部分A’を有する、眼用レンズ。
好ましくは、
部分Aにおいて曲率半径が極小となる箇所は1か所のみであり、且つ、部分A’においても曲率半径が極小となる箇所は1か所のみである。
好ましくは、
部分Aにおいて曲率半径が極小となる箇所と、部分A’において曲率半径が極小となる箇所との間の平面視距離は1.0〜2.8mmである。
好ましくは、
部分Aにおける曲率半径の極小値と光学中心の曲率半径との差の好適な値は、中央の度数(パワー)によるところが大きいが、一例としては0.01〜0.13mm、好ましくは0.03〜0.11mmであり、部分A’における曲率半径の極小値と近用度数との差も一例としては0.01〜0.13mm、好ましくは0.03〜0.11mmである。その際の設定は、光学中心のパワーを−3.00D、ベースカーブ8.5mm、屈折率1.45、中心肉厚0.10mmとしている。」
ちなみに度数にて規定した場合の好適例を、曲率半径を用いた場合に対し、適宜度数を曲率半径へと変換したうえで適用することも可能である。
【0067】
なお、本実施形態のレンズは、部分Aおよび部分A’においては近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する。例えば、レンズに対して直線X−X’を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに、該形状を有する部分が光学部全体(説明の便宜上、単に光学部とも称する。)の50面積%以上であるのが好ましく、80面積%以上がより好ましく、90面積%以上がさらに好ましい。
なお、本明細書において「面積%」とは、平面視した際の光学部の面積に対し、同じく平面視した際の、光学中心からみて、レンズに対して直線X−X’を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに上記の形状を有する部分(例えば光学中心Oと光学部の最外縁の円弧で囲まれる扇形の2か所の部分(0°〜180°にある部分A、180°〜360°にある部分A’))の面積の合計の百分率を意味する。
また、レンズにおける光学部と周辺部との間には、先に述べたように目視で確認可能な境目があるわけではないが、レンズの度数を測定する装置(パワーメータ)を使用することにより判別可能である。
【0068】
1−1−2.遠用部を中央に配置
上記の例とは逆に、遠用部が中央に配され、近用部がその外縁に環状に配された場合についても本発明の思想を適用することが可能である。なお、平面視の構成としては先に挙げた図4における近用部と遠用部の位置を逆転させたものとなる。それを表したのが図8である。
なお、本例における部分Aおよび部分A’とは、遠用部内において例えば部分Aだと度数が減少した後に遠用度数以上へと増加し(好ましくは増加し続ける)た後、近用度数に至るまで度数が増加す(好ましくは度数が増加し続け)る部分のことを指す。図9で言うと、部分Aおよび部分A’は、遠用部(中央)に存在しつつもその周辺である近用部にもわたって存在する部分である。
【0069】
本例のマルチフォーカルコンタクトレンズの光学部をX−X’方向の端Nから端N’まで見た時の度数をプロットした図9(a)および遠用部の拡大図である図9(b)を用いて説明する。
【0070】
本例においては、遠用部が中央に配され、近用部がその外縁に環状に配されている。その関係上、光学中心Oの方が近用部よりも度数が低く設定されている。なお、レンズの処方としては、通常、遠用度数Sと加入度数ADD(そして乱視矯正を行う場合は乱視度数C)の値が与えられる。なお、厳密に光学中心Oの位置において遠用度数の値(すなわち光学中心Oにおける度数=遠用度数S)とする一方で、光学中心Oが幾何中心からずれた場合、幾何中心においては遠用度数の値からわずかにずれても構わない。
ただし、図9(b)に示すように、本例のレンズは、部分Aおよび部分A’においては遠用度数よりも遠用へと度数を強め(より遠くが見える方向すなわちマイナス方向に強める。)た後に近用度数に至るまで度数を弱め(遠くが見えない方向すなわちマイナス方向から見て弱める。)た形状を有する。
【0071】
なお、部分Aにおいて度数が極小となる箇所は1か所のみであり、且つ、部分A’においても度数が極小となる箇所は1か所のみであるのが好ましい。言い換えると、度数プロットで見たときに凹部分が2か所(上に凸部分が1か所)存在するのが好ましい。この規定により、度数プロットで見たときに多数の小さな凹部分を設けなくて済む。多数の小さな凹部分を設けても、遠用度数を十分に確保することが難しい場合もある。そのため、部分Aや部分A’において度数が極小となる箇所を度数プロット上で1か所大きく設けるのに越したことはない。ただ、それは必須ではなく、例えば2、3か所の極小となる箇所を設けても構わない。
【0072】
また、部分Aにおいて度数が極小となる箇所と、部分A’において度数が極小となる箇所との間の平面視距離Lは1.0〜2.8mmであるのが好ましい。下限は、より好ましくは1.2mm、さらに好ましくは1.4mm、非常に好ましくは1.6mmであり、上限は、より好ましくは2.6mm、さらに好ましくは2.4mmである。この規定により、度数の増加後減少させる位置を確実に適切なものとすることが可能となる。ただ、それは必須ではなく、レンズの種類に応じて適宜平面視距離Lを設定しても構わない。
【0073】
また、部分Aにおける度数の極小値と遠用度数との差は0.05〜0.25Dであり、且つ、部分A’における度数の極小値と遠用度数との差も0.05〜0.25Dであるのが好ましい。各々の下限は、より好ましくは0.10D、さらに好ましくは0.12D、非常に好ましくは0.15Dであり、上限は、より好ましくは0.20Dである。この規定により、図2に示す斜線部分を十分にかつ確実に埋めることが可能となる。ただ、それは必須ではなく、状況に応じて上記の差を適宜設定しても構わないし、部分Aと部分A’とで上記の度数差が異なっていてももちろん構わない。
【0074】
なお、本例においても、中央に配されるもの(ここでは遠用部)における度数の増減の挙動に大きな特徴がある。この特徴のおかげで外縁に配されるもの(ここでは近用部)を十分に広く確保することが可能となる。そのため、外縁の近用部の度数プロットについては特に限定されるものではない。例えば先に示した図5〜7の度数プロットを上下逆転させた形状であっても構わない。
【0075】
なお、本例のレンズは、部分Aおよび部分A’においては遠用度数よりも遠用へと度数を強めた後に近用度数に至るまで度数を弱めた形状を有する。例えば、レンズに対して直線X−X’を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに、該形状を有する部分が光学部の50面積%以上であるのが好ましく、80面積%以上がより好ましく、90面積%以上がさらに好ましい。
【0076】
また、度数プロットの代わりに前面の形状(曲率)にて遠用部を規定する場合についても、先ほど中央に近用部を配する場合にて述べたのと原理は同様であり、近用部と遠用部とを入れ替え、極大を極小と置き換え、「(曲率半径を)減少させた後に増加」を「(曲率半径を)増加させた後に減少」と置き換えればよい。
【0077】
1−2.その他のコンタクトレンズ
本実施形態においてはマルチフォーカルコンタクトレンズを例示したが、それ以外のコンタクトレンズにも本発明の技術的思想を適用することが可能である。
【0078】
例えばバイフォーカルコンタクトレンズにおいては、中央に近用部を配する場合、外縁の遠用部との境界近傍において上述のように、中央から周辺に向かうX方向で見た時に近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも近用度数よりも近用へと度数を強めた後に遠用度数に至るまで度数を弱めた部分A’を有する構成を備えさせる。これにより、近用部において近用度数を十分に確保しつつも近用部とその外縁に設けられた遠用部とのバランスを良好に保つことが可能となる。好適例等については<1−1−1.近用部を中央に配置>の項目にて述べた内容と重複するため省略する。
なお、遠用部を中央に配置して外縁に近用部を配置した場合についても本発明の技術的思想を適用することが可能である。その他の内容は、<1−1−2.遠用部を中央に配置>の項目にて述べた内容と重複するため省略する。
【0079】
また、マルチフォーカルトーリックコンタクトレンズにおいても、トーリック形状だからといって上記のような度数の挙動は妨げられないため、本発明の技術的思想を適用することが可能である。
【0080】
なお、先に説明した部分AおよびA’を備える本実施形態のレンズは、ソフトコンタクトレンズであってもハードコンタクトレンズであっても適用可能であるが、角膜上での配置がほとんど動かないソフトコンタクトレンズだと、十分な光学性能および装用者への顧客満足を提供する点でより好ましい。
【0081】
以上の結果、本実施形態の各例によれば、光学部の中央に近用部が配された場合、近用部において近用度数を十分に確保しつつも近用部とその外縁に設けられた遠用部とのバランスを良好に保ち、光学部の中央に遠用部が配された場合、遠用部において遠用度数を十分に確保しつつも遠用部とその外縁に設けられた近用部とのバランスを良好に保つことが可能となる。
【0082】
<2.コンタクトレンズの設計方法(製造方法)>
上記の内容は、コンタクトレンズの設計方法や製造方法においても十分に適用可能である。例えば設計方法については以下の構成となる。
「近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部または前記遠用部が中央に配され、中央に配されなかったものがその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズの設計方法であって、
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A’を有するように眼用レンズを設計する、眼用レンズの設計方法。」
【0083】
なお、具体的な設計手法に関してであるが公知のレンズの設計方法や設計装置にて設計を行えば足りる。また、<1.コンタクトレンズ>にて述べた場合分け(中央に近用部を配する場合と遠用部を配する場合)および各好適例は本項目に適用可能であり、<1.コンタクトレンズ>の記載と重複してしまうため、ここでは記載を省略する。
【0084】
また、製造方法に関してであるが、上記の眼用レンズの設計方法(場合によっては各好適例を適宜組み合わせる)によって眼用レンズを設計する設計工程と、設計された眼用レンズを加工装置により製造する加工工程と、を有する。なお、具体的な加工手法に関してであるがこれも公知のレンズの加工装置を用いて加工を行えば足りる。
【0085】
<3.眼内レンズ(IOL)およびその設計方法(製造方法)>
本発明の技術的思想は、眼内レンズ(IOL)およびその設計方法(製造方法)においても十分に適用可能である。眼内レンズとしては特に限定は無く、水晶体嚢内に配置する形式(イン ザ バッグ)の眼内レンズや、嚢外に配置する形式(アウト ザ バッグ)の眼内レンズや、縫着型の眼内レンズ等々に適用可能である。
【0086】
なお、本発明の技術的思想を眼内レンズに適用する場合、少なくとも光学部があればよい。なお、<1−1.マルチフォーカルコンタクトレンズ(多焦点レンズ)>で述べたのと同様に、光学性能に主として寄与する光学部の周縁に環状の周辺部を設けても構わないが、ここで挙げる本例の眼内レンズは、光学部と、水晶体嚢内にて光学部を支持する支持部とで構成される。比較的多いケースとしては、眼内レンズが、上記の光学部と、光学部から延在する支持部とを備える場合である。支持部については公知の眼内レンズの支持部の形状を採用すればよいが、例えば光学部から腕状に延在する2本の支持部を光学部に設け、これを眼内レンズとしても構わない。
【0087】
なお、眼内レンズの設計方法(製造方法)についてであるが、光学部の設計は<2.コンタクトレンズの設計方法(製造方法)>で述べたのと同様であることから記載を省略する。具体的な設計(製造)手法に関してであるが公知の眼内レンズの設計方法(加工装置)にて設計を行えば足りる。また、<1.コンタクトレンズ>にて述べた場合分け(中央に近用部を配する場合と遠用部を配する場合)および各好適例は本項目に適用可能であり、<1.コンタクトレンズ>の記載と重複してしまうため、ここでは記載を省略する。
【0088】
<4.眼用レンズセット>
上記の内容は、本実施形態にて例示したコンタクトレンズを複数備えるコンタクトレンズセットや、同じく本実施形態にて例示した眼内レンズを複数備える眼内レンズセットにおいても十分に適用可能である。これらのレンズセットを総称して「眼用レンズセット」と称する。
【0089】
少なくともコンタクトレンズを製品として販売する際には、1枚のコンタクトレンズを販売するのみならず、多種多様な度数(パワー)やベースカーブを有する複数のコンタクトレンズをひとまとめにして(例:同じベースカーブを有する一方で度数が異なる複数のコンタクトレンズ)一商品名として頻繁に販売されている。
【0090】
そこで、先に詳述した本実施形態のコンタクトレンズ(または眼内レンズ等)のような度数の挙動を示すものを複数揃えた眼用レンズセットに関しても、本発明の技術的思想が十分に反映されている。
見方を変えると、本実施形態における眼用レンズセットを構成するすべての眼用レンズセットが上述のような度数の挙動を示す。これは、従来技術において上記の度数の挙動を示す眼用レンズが1枚作製されたとしても、偶々作製されたこの眼用レンズと、本実施形態における眼用レンズセットとでは、構成として全く相違することを意味する。
【0091】
上記の眼用レンズを複数備える眼用レンズセットの構成は以下のとおりである。なお、以下の構成に対し、先に挙げた好適例を適宜組み合わせてもよい。
【0092】
「近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部または前記遠用部が中央に配され、中央に配されなかったものがその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズを複数備える眼用レンズセットであって、
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A’を有する眼用レンズを複数備える、眼用レンズセット。」
【0093】
<5.変形例>
本発明は上記の各例に限定されることはなく、上記の各例および好適例を適宜組み合わせてももちろん構わない。また、先に挙げた実施形態だと、X方向にもX’方向にも、度数を強めた後に弱めた部分を有するが、一方にのみ該部分を有しても本発明の効果を多少なりとも奏することが期待される。この内容を規定すると以下のようになる。
「近方距離を見るための近用度数を備えた近用部と、近方距離よりも遠くの距離を見るための遠用度数を備えた遠用部とを有し、前記近用部または前記遠用部が中央に配され、中央に配されなかったものがその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズであって、
前記光学部の中央に配された前記近用部または前記遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時には度数の変曲点が存在する、眼用レンズまたはその設計方法、製造方法。」
ちなみにここでX’方向で度数の変曲点を存在させている理由としては、X’方向にて度数を強めた後に弱めたまでは行かないにしてもそれに近い形状がある方が本発明の効果を奏しやすくなるためである。そして該それに近い形状を規定したものが“度数の変曲点が存在”という表現である。
【実施例】
【0094】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0095】
本発明に係るマルチフォーカルコンタクトレンズであるところのソフトコンタクトレンズ(以降、単にレンズと称する。)と従来技術に係る(本発明の技術的思想を反映させていない)レンズを用意し、50代男性を被検者とし、試験を行った。このときの本発明に係るレンズを実施例1、従来技術に係るレンズを比較例1とした。
また、上記試験とは別に、60代男性を被検者とし、上記の各レンズを用いて試験を行った。このときの本発明に係るレンズを実施例2、従来技術に係るレンズを比較例2とした。
【0096】
(実施例1、比較例1)
まず、50代男性の完全矯正値を設定した。なお完全矯正値とは被検者にとって最も物が見えやすい条件のことを意味する。以下、右目(VD)および左目(VS)における完全矯正値を示す。
VD=1.5×S+0.50D(頂点間距離を考慮した有効加入度数+1.20D)
VS=1.5×S+0.50D(頂点間距離を考慮した有効加入度数+1.20D)
上記の各式の意味は、球面度数Sを0.50Dとすることにより視力1.5を達成できることを意味する。また、頂点間距離を考慮した有効加入度数+1.20Dとは、眼鏡レンズにおいて頂点間距離12mmであった場合をコンタクトレンズの場合に対応させた場合の補正量を表す。
【0097】
また、実施例1、比較例1のレンズの処方は以下の通りである。
R:BC8.7mm/P+0.50D/ADD+1.50(光学部において、中央に近用部を配し、その周縁に遠用部を配するレンズ)
L:BC8.7mm/P+0.50D/ADD+1.50(光学部において、中央に近用部を配し、その周縁に遠用部を配するレンズ)
なお、実施例1のレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数をプロットしたのが図10である。また、実施例1のレンズにおいては、レンズに対して直線X−X’を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに、光学部(全体)が該形状を有するようにした。
同様に、比較例1のレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数をプロットしたのが図11である。
【0098】
以下、その結果を表1に示す。
【表1】
表1に示すように、実施例1においては遠方視、近方視ともに被検者を満足させることができた。その一方、比較例1においては近方視において被検者を満足させることができなかった。これは、近用部が狭くなり且つ近用度数が不足してしまったこと、言い換えると遠用度数を確保すべく遠用部を広く確保しすぎてしまったことに起因すると考えられる。
【0099】
(実施例2、比較例2)
まず、60代男性の完全矯正値を設定した。なお完全矯正値とは被検者にとって最も物が見えやすい条件のことを意味する。以下、右目(VD)および左目(VS)における完全矯正値を示す。
VD=1.5×S−1.25D(頂点間距離を考慮した有効加入度数+1.80D)
VS=1.5×S−1.25D(頂点間距離を考慮した有効加入度数+1.80D)
【0100】
また、実施例2、比較例2のレンズの処方は以下の通りである。
R:BC8.7mm/P−1.25D/ADD+2.00(光学部において、中央に近用部を配し、その周縁に遠用部を配するレンズ)
L:BC8.7mm/P−1.25D/ADD+2.00(光学部において、中央に近用部を配し、その周縁に遠用部を配するレンズ)
なお、実施例2のレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数をプロットしたのが図12である。また、実施例2のレンズにおいては、レンズに対して直線X−X’を光学中心Oを中心に0から180°まで回転させたときに、光学部(全体)が該形状を有するようにした。
同様に、比較例2のレンズの光学部をX−X’方向の端Fから端F’まで見た時の度数をプロットしたのが図13である。
【0101】
以下、その結果を表2に示す。
【表2】
表2に示すように、実施例2においては遠方視、近方視ともに被検者を満足させることができた。その一方、比較例2においてはやはり近用視において被検者を満足させることができなかった。これは、比較例1と同様に近用部が狭くなり且つ近用度数が不足してしまったこと、言い換えると遠用度数を確保すべく遠用部を広く確保しすぎてしまったことに起因すると考えられる。
【0102】
(まとめ)
以上の結果、各実施例によれば、光学部の中央に近用部が配された場合、近用部において近用度数を十分に確保しつつも近用部とその外縁に設けられた遠用部とのバランスを良好に保つことが可能となることがわかった。なお、光学部の中央に遠用部が配された場合にも同様の効果が十分に期待できる。
【符号の説明】
【0103】
1………近用部
2………遠用部
3………光学部
4………周辺部
5………マルチフォーカルコンタクトレンズ
【要約】
【課題】光学部の中央に近用部が配された場合、近用部において近用度数を十分に確保しつつも近用部とその外縁に設けられた遠用部とのバランスを良好に保ち、光学部の中央に遠用部が配された場合、遠用部において遠用度数を十分に確保しつつも遠用部とその外縁に設けられた近用部とのバランスを良好に保つ。
【解決手段】近用度数を備えた近用部と、遠用度数を備えた遠用部とを有し、近用部または遠用部が中央に配され、中央に配されなかったものがその外縁に環状に配された光学部を備えた眼用レンズであって、光学部の中央に配された近用部または遠用部において、中央から周辺に向かうX方向で見た時に度数を強めた後に弱めた部分Aを有し且つX方向とは正反対の方向であって中央から周辺に向かうX’方向で見た時にも度数を強めた後に弱めた部分A’を有する眼用レンズおよびその関連技術を提供する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13