(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記キャピラリー電極を複数同時に使用し、キャピラリー電極ごとの前記集合体前駆体の噴出量が100sccm以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の導入方法。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトゲノムおよびマウスゲノムの解読がなされ、医学、薬学などの分野において、分子生物学関連の研究開発や医薬品開発を行なう際に、DNA、RNAなどのポリヌクレオチドまたはその誘導体、シグナル伝達蛋白質や転写調節因子などの蛋白質やその誘導体などの高分子化合物、低分子生理活性物質、薬剤候袖品などの分子を標的細胞内に導入し、標的細胞内での遺伝子の機能や生理活性分子の生理的な活性を試験する必要が増している。
【0003】
現在のところ、標的細胞への選定分子の導入方法としては、エレクトロポレーション法、ジーンガン法、リポソーム法、細胞融合法、ウイルスベクター法などの方法が用いられているが、必ずしも十分に選定分子を細胞内に導入できるものではないという問題がある。
【0004】
たとえば、エレクトロポレーション法やジーンガン法においては、多くの種類の標的細胞に応用できるが、操作が煩雑であり、ハイスループットスクリーニング化(本明細書において、HTS化とも記載する)することが難しいという問題がある。また、リポソーム法や細胞融合法においては、応用できる標的細胞の種類が限定されるといった問題がある。さらに、ウイルスベクター法においては、ベクターの構築に非常に多くの時間と労力とコストを要し、選定分子を導入された細胞に癌化などの異常が起こるなどの問題があり、いずれの方法においても細胞への障害性が高く、細胞の変性や死亡率が高い。
【0005】
そして、いずれの方法も高価であるため、仮にHTS化できたとしても、その方法のランニングコストが非常に高価なものとなるか、あるいは、その方法に用いる装置が非常に高価なものとなるという問題がある。また、いずれの方法においても、すべての標的細胞への選定分子の導入効率が必ずしも十分に満足できる水準ではないという問題もある。
【0006】
しかし、ヒトゲノムおよびマウスゲノムの解読がほぼ完了し、機能未知な遺伝子の機能解析が急務となっている昨今の社会情勢の中で、HTS化された標的細胞への選定分子の導入方法が必要不可欠な技術として、医薬品業界をはじめとする産業界からその開発を強く求められる状況となっている。
【0007】
ここで、標的細胞への選定分子の導入方法をHTS化するためには、標的細胞への選定分子の導入効率を高めることが必要である。また、標的細胞への選定分子の導入方法を用いてさまざまな遺伝子の機能解析を可能にするためには、特定の限られた種類の標的細胞への遺伝子の導入が可能であるだけではなく、さまざまな種類の標的細胞への高効率な遺伝子の導入が可能である、標的細胞への選定分子の導入方法の開発が必要である。
【0008】
しかし、産業界からの強い要望にも関わらず、多種類の標的細胞への障害を伴わず高効率な選定分子の導入が可能である、標的細胞への選定分子の導入方法は、未だ公知のものとはなっていないのが現状である。
【0009】
近年、分子生物学関連の研究開発や医薬品開発を行なう際に、同種のまたは異種の標的細胞を融合させることにより、さまざまな標的細胞の機能を試験する必要も同様に増しつつある。
【0010】
現在のところ、標的細胞への選定分子の導入方法としては、不活性化したセンダイウイルス、麻疹ウイルス、ニューカッスル病ウイルスなどを用いる方法、リゾレシチン、グリセロールオレイン酸エステル、ポリエチレングジコール(PEG)などを用いる方法、エレクトロポレーション法などの方法が用いられているが、必ずしも十分に選定分子を導入することができるものではないという問題がある。
【0011】
たとえば、エレクトロポレーション法においては、特に細胞への障害性が高く、細胞の変性や死亡率が高く、また、多くの種類の標的細胞に応用できるが、操作が煩雑であり、HTS化することが難しいという問題がある。また、不活性化したウイルスを用いる方法においては、応用できる標的細胞の種類が限定されるといった問題がある。
【0012】
さらに、いずれの方法も高価であるため、仮にHTS化できたとしても、その方法のランニングコストが非常に高価なものとなるか、あるいは、その方法に用いる装置が非常に高価なものとなるという問題がある。また、いずれの方法においても、標的細胞への選定分子の導入効率は必ずしも十分に満足できる水準ではなかった。
【0013】
ここで、標的細胞の細胞融合方法をHTSイヒするためには、標的細胞への選定分子の導入効率を高めることが必要である。また、標的細胞への選定分子の導入方法を用いてさまざまな標的細胞の機能解析を可能にするためには、特定の限られた種類の標的細胞への選定分子の導入が可能であるだけではなく、さまざまな種類の標的細胞への選定分子の導入が可能である、標的細胞への選定分子の導入方法の開発が必要である。
【0014】
かかる状況において、国際公開第2002/064767号(特許文献1)、国際公開第2004/015101号(特許文献2)には、細胞や選定分子を低温ガスプラズマで処理することにより細胞の近傍に存在する選定分子を細胞内に導入する方法、および、細胞を低温ガスプラズマで処理することにより細胞を融合する方法が開示されている。しかし、かかる方法は低温ガスプラズマの発生装置が必要であり、ガスを吹きつけるために細胞が乾燥し死滅してしまう場合もあるため、必ずしも十分なものとはいえず、革新的な新手法が必要な状況にあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記より、本発明の目的は、従来より、さらに効率的に選定分子を導入することができ、かつ、標的細胞に与える障害が少ない標的細胞への選定分子の導入方法、および、それに用いる選定分子導入装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、標的細胞または標的組織への選定分子の導入方法であって、
前記選定分子を含む液体である導入液と、前記標的細胞または標的組織とを接触させるステップと、
荷電粒子、励起原子および励起分子からなる群から選択される一種または複数種からなる集合体を、前記導入液、および、前記標的細胞または標的組織に接触させるステップとを含み、
前記導入液が収容される容器の開口部側に、前記導入液から離間してキャピラリー電極が設けられ、該キャピラリー電極は集合体前駆体の噴出口を有しており、
前記集合体前駆体は、前記キャピラリー電極の前記噴出口から前記導入液に向けて噴出され、前記液体に接触するときにはその少なくとも一部が前記集合体となっていることを特徴とする、選定分子の導入方法である。
【0018】
前記容器の前記キャピラリー電極とは反対側に対向電極が設けられており、
前記キャピラリー電極と前記対向電極との間に所定の電圧が印加されることが好ましい。
【0019】
前記キャピラリー電極の外径が1mm以下であることが好ましい。
前記集合体前駆体の噴出量が100sccm以下であることが好ましい。
【0020】
前記キャピラリー電極を複数同時に使用し、キャピラリー電極ごとの前記集合体前駆体の噴出量が100sccm以下であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、上記の導入方法に用いられる選定分子導入装置であって、
前記導入液を収容するための容器と、
該容器の開口部側に、前記液体から離間して設けられた集合体前駆体の噴出口を有するキャピラリー電極と、
前記集合体前駆体を、前記キャピラリー電極の前記噴出口から前記液体に向けて噴出するための噴出機構と、
前記集合体前駆体が前記液体に接触するときには前記集合体を含むものとなるようにするための電圧印加機構とを備える、選定分子導入装置にも関する。
【0022】
前記電圧印加機構は、前記キャピラリー電極と、前記容器の前記キャピラリー電極とは反対側に設けられた対向電極と、前記キャピラリー電極および前記対向電極に接続された直流または交流の電源とを備えることが好ましい。
【0023】
また、本発明は、標的細胞の細胞融合方法であって、
前記標的細胞を含む液体に、前記集合体を接触させるステップを含み、
前記標的細胞を含む液体が収容される容器の開口部側に、前記液体から離間してキャピラリー電極が設けられ、該キャピラリー電極は集合体前駆体の噴出口を有しており、
前記集合体前駆体は、前記キャピラリー電極の前記噴出口から前記液体に向けて噴出され、前記液体に接触するときにはその少なくとも一部が前記集合体となっていることを特徴とする、細胞融合方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、キャピラリー電極から噴出される集合体前駆体から、集合体(荷電粒子、励起原子および励起分子からなる群から選択される一種または複数種からなる集合体)が安定に生成することにより、従来よりも効率的に選定分子を導入することができ、かつ、標的細胞に与える障害が少なく、本来持つ標的細胞の機能を失わせることなく、導入後の標的細胞の生存率も高く維持することのできる標的細胞への選定分子の導入方法、および、それに用いる選定分子導入装置が提供される。
【0025】
これにより、HTS化が可能である。また、さまざまな種類の標的細胞へのさまざまな種類の選定分子の高効率な導入が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<標的細胞または標的組織内への選定分子の導入方法>
本発明の標的細胞または標的組織への選定分子の導入方法は、
前記選定分子を含む液体である導入液と、前記標的細胞または標的組織とを接触させるステップと、
荷電粒子、励起原子および励起分子からなる群から選択される一種または複数種からなる集合体を、前記導入液、および、前記標的細胞または標的組織に接触させるステップとを含み、
前記導入液が収容される容器の開口部側に、前記導入液から離間してキャピラリー電極が設けられ、該キャピラリー電極は集合体前駆体の噴出口を有しており、
前記集合体前駆体は、前記キャピラリー電極の前記噴出口から前記導入液に向けて噴出され、前記液体に接触するときにはその少なくとも一部が前記集合体となっていることを特徴とする。
【0028】
(標的細胞)
本発明の選定分子の導入方法において用いる標的細胞とは、選定分子を導入する標的となる細胞のことを示し、特に特定の種類の細胞に限定されるものではない。このような標的細胞の具体例としては、ヒトを含む動物細胞、ヒト以外の動物個体、ヒトの個体から採取された細胞、ヒトの個体内の細胞、ヒトの個体、植物細胞、微生物細胞などが挙げられる。これらの標的細胞は、単一の種類を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
なお、上記のヒトの個体から採取された細胞には、医薬品の研究開発などに用いられるヒトの個体に戻すことを前提としない細胞と、再生医療などに用いられるヒトの個体に戻すことを前提とする細胞とが含まれる。また、上記のヒトの個体から採取された細胞には、ヒトの個体から採取された細胞から培養された細胞も含まれる。
【0030】
さらに、上記のヒト以外の動物細胞および植物細胞には、個体内に存在する細胞と、組織内に存在する細胞と、個体や組織から採取された細胞と、個体や組織から採取された細胞から培養された細胞とが含まれる。
【0031】
ここで、上記とは別の側面から捉えれば、本発明に用いる標的細胞には、大腸菌、放線菌、枯草菌などの原核細胞や、酵母、ヒト以外の動物細胞、ヒトの個体から採取された細胞、ヒトの個体に含まれる細胞、植物細胞などの真核細胞が含まれる。
【0032】
さらに、本発明に用いる標的細胞には、赤血球ゴーストやリポソームなどの脂質二重膜構造をもつものも含まれる。
【0033】
また、本発明に用いる標的細胞は、特に処理を施されていないものであってもよいが、選定分子の導入効率を向上するためには、遺伝子導入の際に一般的に用いられる、コンピータント細胞としての処理を施されたものであってもよい。具体例としては、塩化カルシウムで処理され、細胞膜の構造が変化してDNA分子を透析しやすくなった大腸菌のコンピータント細胞などが挙げられる。
【0034】
なお、本発明においては、複数の標的細胞に同時に選定分子の導入を行うこともできる。この場合、複数の標的細胞は、同種の細胞であってもよく、異種の細胞であってもよい。あるいは、この複数の標的細胞は、異種の細胞を含むことも好ましい。また、この標的細胞は、ヒト以外の動物細胞、ヒト以外の動物個体、ヒトの個体から採取された細胞、ヒトの個体内の細胞、ヒトの個体、植物細胞、微生物細胞からなる群より選ばれる1種以上であることが望ましい。
【0035】
(標的組織)
一方、本発明に用いられる標的組織とは、選定分子を導入する標的となる組織のことを示し、特に特定の種類の組織に限定されるものではない。このような標的組織の具体例としては、移植に用いられるドナーからの臓器、再生医療の方法を用いて再構成された皮膚や歯根などの組織、カルス培養で構築された植物に分化前の組織、などが挙げられる。これらの標的組織は、単一の種類を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0036】
(選定分子)
本発明の標的細胞または標的組織内への選定分子の導入方法において用いる選定分子とは、標的細胞または標的組織に導入するために選定した分子のことを示し、特に特定の種類の分子に限定されるものではない。このような選定分子の具体例としては、DNA、RNAなどのポリヌクレオチドまたはその誘導体、シグナル伝達蛋白質や転写調節因子などの蛋白質やペプチドとその誘導体などの高分子化合物があげられる。
【0037】
また、上記のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドの誘導体には、ベクター、アンチセンスポリヌクレオチド、デコイポリヌクレオチド、リボザイム、RNAi、siRNAなどが含まれる。ポリヌクレオチドの分子量は特に限定されない。
【0038】
さらに、上記の蛋白質分子、蛋白質分子誘導体には、シグナル伝達因子や、転写調節因子、各種酵素、各種受容体、抗体あるいは抗体のFab部分などが含まれる。
【0039】
他の選定分子としては、低分子生理活性物質、薬剤候補品などが挙げられ、これらの中でも医薬品などの生理活性な低分子化合物であって、他の導入方法では組織内あるいは細胞内に導入されづらい低分子化合物が好ましい。他の導入方法では組織内あるいは細胞内に導入されづらい低分子化合物とは、分子量が1000Da以上の低分子、膜透過性の低い分子、などである。
【0040】
なお、上述の各種選定分子は、単一の種類を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
(集合体前駆体)
「集合体前駆体」とは、荷電粒子、励起原子および励起分子からなる群から選択される一種または複数種からなる集合体を生成させるための前駆体であり、例えば、空気、窒素ガス、酸素ガス、二酸化炭素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスからなる群より選ばれる1種以上を含むガスが挙げられる。ガスの組み合わせはこれらに限定されるものではなく、また、固体や液体を前駆体に含んでもよい。
【0042】
集合体前駆体に、例えば、電圧が印加されることにより、荷電粒子と励起原子および励起分子からなる群から選択される一種または複数種を構成要素とする集合体が生成される。集合体は、集合体前駆体にエネルギーが与えられることにより生成されたものであればよく、エネルギーを与える方法は電圧印加でなくてもよい。
【0043】
以下、
図1を参照して、本発明のうち標的細胞への選定分子の導入方法の一例を説明する。
【0044】
(ステップS101)
まず、標的細胞を前培養する(ステップS101)。標的細胞の前培養(ステップS101)の方法は、特に限定されないが、プレートなどの細胞培養容器上で培養した培養接着細胞や、培養液中に懸濁した状態で標的細胞を培養する方法が挙げられる。前培養に用いる培地は、標的細胞を培養することのできる組成の培地であれば特に限定されるものではないが、たとえば寒天培地をはじめとする固体培地や試験管やフラスコ内の液体培地などが挙げられる。
【0045】
次に、前培養された標的細胞、たとえば、プレートなどの細胞培養容器上で培養した培養接着細胞や、培養液中に懸濁している標的細胞を遠心分離または濾過などの操作により分離して、培養液を除去する。
【0046】
ここで、上記容器は、選定分子を含む液体(導入液)と、標的細胞または標的組織とを保持することのできる構造であれば特に限定されるものではないが、たとえばプレート、シャーレ、チューブ、試験管、フラスコなどが挙げられる。
【0047】
(ステップS102)
標的細胞を前培養後(ステップS101)、培養液を完全に除去し、標的細胞上に選定分子を含む微量の水溶液(導入液)を添加する(ステップS102)。なお、標的細胞の代わりに標的組織を用いる場合は、例えば、切除してきた組織切片あるいは直接組織上に選定分子を含む微量の水溶液を添加する。
【0048】
選定分子を含む液体を添加する際(ステップS102)には、たとえば選定分子を含む液体が標的細胞を薄く覆うように添加することが好ましい。選定分子を含む液体は、特に限定されるものではないが、たとえば選定分子を含む水溶液または懸濁液であることが好ましい。また、該水溶液または懸濁液の溶媒または分散媒としては、たとえば生理食塩水やpH緩衝溶液などが挙げられる。
【0049】
なお、標的細胞に選定分子を含む液体を接触させる際には、たとえば標的細胞に選定分子を含む液体を滴下する方法、選定分子を含む液体と標的細胞とを混合する方法などを用いることができる。また、選定分子を含む液体と標的細胞とを接触させる別の方法としては、標的細胞を含む分散液または懸濁液等に選定分子を含む液体を添加する方法も用いることができる。
【0050】
(ステップS103)
次に、この導入液の所望の位置に、集合体前駆体を噴出することができるようにキャピラリー電極の位置を調節した後、集合体前駆体をキャピラリー電極の噴出口から導入液および標的細胞に向けて噴出する(ステップS103)。
【0051】
集合体前駆体は、中空パイプ状のキャピラリー電極の内孔と接続された集合体前駆体供給装置により、キャピラリー電極の内孔に集合体前駆体が所定流量で供給され、噴出口から噴出される。キャピラリー電極の外径は、好ましくは1mm以下であり、より好ましくは100μm以下である。また、キャピラリー電極ごとの前記集合体前駆体の噴出量は、100sccm以下であることが好ましい。
【0052】
(ステップS104、S105)
次に、キャピラリー電虚と底面電極との間に電圧を印加することにより(ステップS104)、集合体前駆体(例えば、Heガス)から集合体が生成する(ステップS105)。この集合体(荷電粒子、励起原子および励起分子からなる群から選択される一種または複数種からなる集合体)が導入液および標的細胞に接触し、作用を及ぼすことにより、選定分子が標的細胞に導入される。
【0053】
電圧を印加するステップ(ステップS104)においては、印加される電圧は、数kV〜数十kV程度であることが好ましく、さらに好ましくは2kV〜30kVであり、最も好ましくは5〜20kVである。数十kVよりも高い電圧で電流を流すと、標的細胞または標的組織の死滅率が高くなってしまい、逆に、数kVよりも低い電圧で電流を流すと選定分子の導入率を向上させる効果を得ることができない。
【0054】
集合体が生成するステップ(ステップS105)は、上記電圧を印加するステップにより、ほぼ同時に達成されるステップである。このようにして、選定分子を含む液体(導入液)および標的細胞に集合体(荷電粒子、励起原子および励起分子からなる群から選択される一種または複数種からなる集合体)が作用することにより、選定分子の導入率を著しく向上させ、標的細胞の死滅率を格段に低減することが可能となる。
【0055】
(ステップS106)
また、選定分子が細胞に導入される場合には、選定分子が導入された標的細胞を後培養する(ステップS106)。
【0056】
なお、本発明においては、さらに、他の付加的なステップが備わっていてもよい。たとえば、標的細胞を後培養(ステップS106)した後に、さらに選定分子の導入された標的細胞をスクリーニングしてもよい。
【0057】
<選定分子導入装置>
本発明の選定分子導入装置は、上記の選定分子導入方法に用いられるものであって、
前記導入液を収容するための容器と、
該容器の開口部側に、前記液体から離間して設けられた集合体前駆体の噴出口を有するキャピラリー電極と、
前記集合体前駆体を、前記キャピラリー電極の前記噴出口から前記液体に向けて噴出するための噴出機構と、
前記集合体前駆体が前記液体に接触するときには前記集合体を含むものとなるようにするための電圧印加機構とを備える。
【0058】
前記電圧印加機構は、前記キャピラリー電極と、前記容器の前記キャピラリー電極とは反対側に設けられた対向電極と、前記キャピラリー電極および前記対向電極に接続された直流または交流の電源とを備えることが好ましい。
【0059】
図2は、本発明の選定分子導入装置の一例の概要を示す模式図である。なお、本発明の導入装置の構造は、
図2に示す構造に限定されるものではない。
【0060】
ここで、
図2に記載される本発明の導入装置は、上述した本発明の選定分子導入方法および後述する本発明の細胞融合方法に好適に用いられる構造および機能を有している。
図2に示す本発明の導入装置は、中空パイプ状のキャピラリー電極1と、電圧供給手段(電源)2と、集合体前駆体供給装置3と、容器4と、底面電極5とを備えている。電圧供給手段2により、キャピラリー電極1と底面電極5との間に所定の電圧を印加することができる。
【0061】
キャピラリー電極1の内孔10は、集合体前駆体供給装置3と接続されている。集合体前駆体供給装置3は、例えば、Heガスを供給する装置であり、
図2に示すように、ニードル弁、流量計およびソレノイド弁を備えている。流量計の値を基に、各弁を調節することで、集合体前駆体(Heガス)をキャピラリー電極に所定の流量で供給することができる。これにより、所定の流量でキャピラリー電極1の噴出口11から、集合体前駆体6が容器4に収容された導入液および標的細胞に向けて噴出される。
【0062】
なお、電圧供給手段2は、図示のとおり信号発生器、リニアアンプ、整合回路および昇圧トランスを備えている。
【0063】
電圧供給手段としては、特に限定されるものではないが、たとえば高圧電源FP1000(パール工業株式会社製)などの電源供給装置が挙げられる。電源が交流電源である場合の交流波の波形は、正弦波、半波整流、全波整流、パルスのいずれも用いることができる。
【0064】
本発明の選定分子導入装置は、基本的に、電源(電圧供給機構)と、電極と、電源と電極を接続する導電線とを備えている。また、電源は、信号発生器、リニアアンプ、整合回路、昇圧トランスなどを備えており、それらとキャピラリー電極または底面電極とは導電線で互いに電気的に接続されているため、電極間電圧、電極距離、周波数、パルス周期(パルス周波数)、Dutyなどのパラメータを種々の条件に設定することができる。これにより、種々の性質の集合体を発生させることができる。なお、電源供給手段2と電極(キャピラリー電極または対向電極)とを接続する接続回路に整流器、抵抗、コイルまたはコンデンサを有することが好ましい。
【0065】
本発明の選定分子導入装置においては、標的細胞の種類、あるいは選定分子の種類に応じて、標的細胞に照射される集合体の条件を変化させることができるように、上記の電極間電圧、電極距離、周波数、パルス周期、Dutyなどのパラメータや、供給される集合体前駆体(例えば、単一または複数種の混合ガス)の種類、混合比率、流量などを変化させることができる。
【0066】
キャピラリー電極の形状は、集合体前駆体を噴出するための噴出口と、それに連通した内孔を有し、該内孔が集合体前駆体供給装置に接続できるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、中空パイプ状の形状が挙げられる。
【0067】
キャピラリー電極および底面電極の材質は、特に限定されるものではないが、タングステン、モリブデンなどが挙げられ、腐食しにくい材質や、金、銀、プラチナ等の殺菌効果のある材質であることが好ましい。
【0068】
本発明においては、単数または複数のキャピラリー電極の噴出口の下側の所定領域のみに、上記集合体を接触させることができ、選定分子が導入される標的細胞の範囲を調節することができる。このために、キャピラリー電極と、導入液および標的細胞との最短の距離は、5mm以下に設定されることが好ましい。
【0069】
キャピラリー電極の数は、単数であっても複数であってもよい。多数のキャピラリー電極を具備する場合、多数の標的細胞へ同時に選定分子の導入が可能となる。また、多数のキャピラリー電極により、広範囲の標的細胞に対して選定分子の導入が可能となる。
【0070】
また、導入液および標的細胞を収容する容器は、この標的細胞を保持するための単数または複数の試料保持部を有していてもよく、この場合、この試料保持部に対応する位置に単数または複数のキャピラリー電極が設置される。
【0071】
また、このキャピラリー電極とこの容器とを相対的に上下に駆動させる上下駆動機構を含むことが好ましい。すなわち、導入液の収容容器の位置調節手段、および/または、キャピラリー電極の位置調節手段を含んでいることが好ましい。これにより、キャピラリー電極と導入液との間の距離を最適化することができる。
【0072】
導入液等を収容する容器が,標的細胞を保持するための複数の試料保持部を有する容器(多穴ウェル等)である場合、一度に多くの標的細胞への選定分子の導入を行なうことができ、選定分子の導入方法をハイスループット化することができる。この場合、選定分子導入装置は、複数のキャピラリー電極を、多穴ウェル型の容器の複数の試料保持部内に出し入れすることのできるキャピラリー電極の駆動機構あるいは多穴ウェル型の容器の駆動機構を備えていることが好ましい。
【0073】
なお、選定分子導入装置は、容器を固定するための固定手段を備えることが好ましい。固定手段としては、例えば、導入液および標的細胞を収容する容器を載置する試料台(ステージ)が挙げられる。
【0074】
<標的細胞の細胞融合方法>
本発明の標的細胞の細胞融合方法は、
前記標的細胞を含む液体に、前記集合体を接触させるステップを含み、
前記標的細胞を含む液体が収容される容器の開口部側に、前記液体から離間してキャピラリー電極が設けられ、該キャピラリー電極は集合体前駆体の噴出口を有しており、
前記集合体前駆体は、前記キャピラリー電極の前記噴出口から前記液体に向けて噴出され、前記液体に接触するときにはその少なくとも一部が前記集合体となっていることを特徴とする。
【0075】
本発明の標的細胞の細胞融合方法は、上述の選定分子の導入方法と基本的に同様の各ステップを有する方法であり、同様に他の付加的ステップを備えていてもよい。各ステップの内容については、上記の選定分子の導入方法において説明しているため、説明は繰り返さない。
【0076】
標的細胞としては、上記の選定分子の導入方法と同様の種類の標的細胞を用いることができる。また、本発明の標的細胞の細胞融合方法においては、上述の選定分子導入装置と同様の装置を細胞融合装置として用いることが好ましい。
【実施例】
【0077】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
本実施例では、動物樹立細胞株(COS7細胞)への選定分子の導入を実施した。本実施例では、
図1に示すような構成の選定分子導入装置を使用した。本実施例では、集合体前駆体としてHeガスを使用し、Duty1%、周波数20kHz、パルス周波数25pps、流量1〜10sccm、照射時間4秒、距離3mmの条件で導入を行った。
【0079】
手順の詳細は以下のとおりである。
(1) 40倍写真内で細胞数が100〜200になるようにインキュベータで培養。
(2) GFP溶液を細胞に滴下。
(3) 試料、capillaryを顕微鏡にセット。
(4) XYZステージで位置および高さを調節。
(5) 照射条件を入力(パール工業株式会社製電源)。
(6) 金属線中央付近に集合体を照射。
(7) 照射後培養液を加え、インキュベータで24時間培養。
(8) 顕微鏡で観察及び記録。
(8−1)実験前後の細胞を目視で数え、生存率を求めた(40倍写真内)。
(8−2)40倍写真内の蛍光発現細胞を目視で数え、導入効率を求めた。
【0080】
上記(8)の観察結果を
図3に示す。
図3に示されるように、11.6kVppで放電を確認(可視)された。無放電では遺伝子はほとんど導入されなかった。
【0081】
(実施例2)
上記実施例と同様の導入方法において、照射時間による導入効率の違いを比較する試験を実施した。なお、Duty1%、周波数20kHz、パルス周波数25pps、2次電圧21.5kVpp、流量1〜10sccm、距離1mmに設定し、照射時間を2〜10秒の間で変化させた。試験結果を
図4に示す。
図4から分かるように、照射時間5秒での導入効率が77.5%と最も高くなった。
【0082】
(実施例3)
実施例1と同様の導入方法(キャピラリー電極を用いた場合)と、従来のアーク型電極を用いた導入方法との導入率を比較する試験を行った。集合体前駆体としてHeを使用し、Duty1%、周波数20kHz、パルス周波数25pps、流量1〜10sccm、距離1mmに設定した。2次電圧は16〜25kVppの範囲内で、照射時間は2〜10秒の間で変化させた。
【0083】
従来のアーク型電極を用いた場合の結果を
図5に、キャピラリー電極を用いた場合の結果を
図6に示す。
図5および
図6に示すように、従来のアーク型電極を用いた場合は、導入効率が最高で6%程度であったのに対し、キャピラリー電極を用いた場合は、導入効率が全般的に高く、最高の導入効率は77.5%であった(2次電圧は21.5kVpp、照射時間は5秒の場合)。この結果から、集合体照射範囲を限定することで、局所的(約2mm四方)に高効率で遺伝子を導入できることが分かる。