(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1ないし5のいずれか1項記載のシートスライド装置において、上記アッパレールのスライド方向における上記通常螺合部材の上記雌ネジの形成範囲は、上記補強係合部材の上記雌ネジの形成範囲よりも長いシートスライド装置。
請求項1ないし6のいずれか1項記載のシートスライド装置において、上記リードスクリューが上記ロアレールに支持され、上記通常螺合部材と上記補強係合部材が上記アッパレールに支持されており、上記補強係合部材は上記通常螺合部材よりも車両の後方側に配置されているシートスライド装置。
請求項1ないし6のいずれか1項記載のシートスライド装置において、上記リードスクリューが上記アッパレールに支持され、上記通常螺合部材と上記補強係合部材が上記ロアレールに支持されており、上記補強係合部材は上記通常螺合部材よりも車両の前方側に配置されているシートスライド装置。
請求項1ないし8のいずれか1項記載のシートスライド装置において、上記通常螺合部材と上記補強係合部材はインサート成形により一体形成されるシートスライド装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1ないし
図5を参照して第1の実施形態を説明する。
図4に示すロアレール10とアッパレール12はシートトラックを構成しており、ロアレール10が車両の床面に固定され、アッパレール12はロアレール10に対して長手方向に摺動可能に支持されている。シートトラックは、ロアレール10とアッパレール12がシートの横幅方向に離間して2組設けられた構成になっている。詳細な図示を省略しているが、ロアレール10とアッパレール12はそれぞれ周知の構造である。具体的には、ロアレール10は床面に固定される底面部と、該底面部の両側から上方に向けて突出する一対の側壁部と、各側壁部の上端からレールの幅方向中央(互いに接近する方向)に延出される一対の抜け止め部を有する中空断面形状をなし、一対の抜け止め部の間が開口されている。アッパレール12は、ロアレール10の一対の抜け止め部の間に挿入される一対の側壁部と、該一対の側壁部の上部を接続する上面部と、該一対の側壁部の下部からレールの側方(互いに離れる方向)に突出する一対の抜け止め部を有するハット状(Ω状)の断面形状を有する。
図4に示されている部位は、ロアレール10における底面部と、アッパレール12における上面部である。ロアレール10とアッパレール12の間にはボールやローラからなる転動体が挿入されており、転動体によってロアレール10に対するアッパレール12のスムーズな摺動が可能になっている。アッパレール12の上面部には図示を省略するシートの座面部分が支持されており、アッパレール12がロアレール10に対して摺動することにより、車両の前後方向へのシート位置が変化する。以下の説明における前方や後方はこのシートスライドの方向に対応したものであり、
図4及び
図5中の左方が車両の前方側、右方が車両の後方側である。また、以下の説明における幅方向はロアレール10やアッパレール12の横幅方向を意味しており、幅方向は前後方向とは直交する関係にある。
【0016】
アッパレール12に対するロアレール10のスライド位置はシートスライド装置14によって制御される。
図1や
図4に示すように、シートスライド装置14はリードスクリュー16とナットアッセンブリ18を有している。リードスクリュー16は外周面に螺旋状の雄ネジ16a(
図5)が形成された長尺のロッド状部材であり、前方の端部が前ホルダ20に支持され、後方の端部が後ホルダ22に支持される。前ホルダ20と後ホルダ22はそれぞれロアレール10の底面上に固定される(
図4)。
【0017】
図2及び
図3に示すように、ナットアッセンブリ18は、ホルダ24、一対の側方保持板26及び28、前保持板30、後保持板32、メインナット(通常螺合部材)34、補強ナット(補強係合部材)36、ウォーム38、スペーサ40を有する。ナットアッセンブリ18のメインフレームを構成するホルダ24は、アッパレール12の内部(アッパレール12における上面部と一対の側壁部に囲まれる空間)に挿入可能な横幅に設定された箱状(枠状)の部位であり、両側から上面にかけて開口する切り欠き部24aと、前後方向に貫通する前方開口24b及び後方開口24cと、前方開口24bの上方から前方に突出する前方突出片24dと、後方開口24cの上方から後方に突出する後方突出片24eを有する。前方突出片24dと後方突出片24eにはそれぞれ上下方向へ貫通する貫通穴24fが形成されている。
【0018】
側方保持板26と側方保持板28は幅方向に対向する対称な形状を有しており、互いの対向面に嵌合突起26a,28aと嵌合穴26b,28bが形成されている。嵌合突起26aを嵌合穴28bに嵌合させ、嵌合突起28aを嵌合穴26bに嵌合させて側方保持板26と側方保持板28が組み合わされ、組み合わせ状態で側方保持板26と側方保持板28の間に空間が形成される。この空間は大きく分けて2つの部分を含んでおり、第1の部分は、前後方向に貫通してメインナット34と補強ナット36を収納するナット収納部S1(
図2)であり、第2の部分は、ナット収納部S1の上方に位置するウォーム収納部S2(
図2)である。ナット収納部S1とウォーム収納部S2は互いに連通している。側方保持板26と側方保持板28にはそれぞれ、ウォーム収納部S2の両側位置に幅方向へ貫通する軸穴26cと軸穴28cが形成されている。軸穴26cと軸穴28cは円形断面の穴であり、軸穴28cが軸穴26cよりも大径である。また、側方保持板26と側方保持板28を組み合わせると、ナット収納部S1の前端部に位置する軸穴G1と、ナット収納部S1の後端部に位置する軸穴G2が形成される。軸穴G1と軸穴G2はそれぞれ円形断面をなし前後方向に貫通する穴である。
【0019】
側方保持板26と側方保持板28はそれぞれ、前端付近の外面に嵌合凹部26d,28dを有し、後端付近の外面に嵌合凹部26e,28eを有する。前保持板30は、側方保持板26と側方保持板28を組み合わせた状態で、側方保持板26と側方保持板28の前面を覆いかつ嵌合凹部26dと嵌合凹部28dに嵌合するコ字状の断面形状を有する(
図3参照)。後保持板32は、側方保持板26と側方保持板28を組み合わせた状態で、側方保持板26と側方保持板28の後面を覆いかつ嵌合凹部26eと嵌合凹部28eに嵌合するコ字状の断面形状を有する(
図3参照)。前保持板30には、ナット収納部S1の軸穴G1に対向する位置に前後方向へ貫通する円形断面の貫通穴30aが形成され、後保持板32には、ナット収納部S1の軸穴G2に対向する位置に前後方向へ貫通する円形断面の貫通穴32aが形成されている。側方保持板26と側方保持板28を組み合わせ、その前後に前保持板30と後保持板32を組み付けることで、ナット収納部S1とウォーム収納部S2を内部に有する保持ユニット25(
図1)が構成される。保持ユニット25内のナット収納部S1には、メインナット34と補強ナット36を結合させて構成される結合ナット33が保持され、ウォーム収納部S2にはウォーム38が保持される。
【0020】
メインナット34と補強ナット36は、前後方向に軸線を向けてナット収納部S1内に配される回転部材である。
図5に示すように、メインナット34は、外周面にウォームギヤが形成される円筒状のウォームギヤ部34aと、ウォームギヤ部34aよりも小径で該ウォームギヤ部34aから前方に突出する円筒状の軸支部34bを有し、ウォームギヤ部34aから軸支部34bに亘って軸方向(前後方向)に貫通する雌ネジ穴34cを有する。なお、図中ではメインナット34の外周面上のウォームギヤの詳細形状は省略している。ウォームギヤ部34aの後端側には、雌ネジ穴34cよりも内径サイズが大きい雌セレーション部34dが形成されている。補強ナット36は、ウォームギヤ部34aとほぼ同じ外径サイズの円環状をなすフランジ部36aを軸方向の中央部分に有し、フランジ部36aから前方へ雄セレーション部36bを突出させ、フランジ部36aから後方へ円筒状の軸支部36cを突出させており、フランジ部36aから軸支部36cに亘って軸方向(前後方向)に貫通する雌ネジ穴36dを有する。雄セレーション部36bは雌セレーション部34dに挿入され、該雄セレーション部36bと軸支部34bに形成したセレーションの嵌合によってメインナット34と補強ナット36の相対回転が規制されて結合し、同軸で一体化された結合ナット33になる。結合ナット33は、側方保持板26と側方保持板28により形成された軸穴G1に対してメインナット34の軸支部34bを挿入させ、側方保持板26と側方保持板28により形成された軸穴G2に対して補強ナット36の軸支部36cに挿入させて、ナット収納部S1内に回転可能に軸支される。軸支部34bの前端部は前保持板30の貫通穴30aに臨んで位置し、軸支部36cの後端部は後保持板32の貫通穴32aに臨んで位置する。この状態で、メインナット34のウォームギヤ部34aと軸支部34bの間の段差部分がスペーサ40に当て付き、スペーサ40が軸穴G1の周縁部に当て付くことで、保持ユニット25内での結合ナット33の前方への移動が規制される。また、補強ナット36のフランジ部36aが軸穴G2の周縁部に当て付くことで、保持ユニット25内での結合ナット33の後方への移動が規制される。つまり、スペーサ40とフランジ部36aが前後から挟まれることで保持ユニット25内での結合ナット33の前後方向位置が定まる。スペーサ40は軸方向にガタつきなく結合ナット33を保持させるために挿入されており、実用上は、厚みの異なる複数種のスペーサ40を準備した上で、最適な厚みのスペーサ40を組み立て時に選択するとよい。
【0021】
ウォーム38は、幅方向に軸線を向けてウォーム収納部S2内に配される回転部材であり、本体部38aの軸方向の一端部に設けた軸支部38b(
図1から
図3)を軸穴26cに挿入させ、他端部に設けた軸支部38c(
図3)を軸穴28cに挿入させて、ウォーム収納部S2内に回転可能に軸支される。図示を省略するが、アッパレールに支持されるキャリア上に設けたモータから減速機構を経てウォーム38に回転駆動力が伝えられる。ウォーム38の本体部38aの外周面にウォームギヤが形成され、このウォームギヤがメインナット34のウォームギヤ部34aのウォームギヤに噛合している。ウォーム38が回転すると、噛合関係にあるウォームギヤを介してメインナット34に駆動力が伝達され、ウォーム38から回転方向を直交変換させてメインナット34が回転駆動される。
【0022】
結合ナット33(メインナット34及び補強ナット36)とウォーム38を組み込んで構成した保持ユニット25を、ホルダ24の切り欠き部24a内に挿入してナットアッセンブリ18が構成される。
図1に示すように、保持ユニット25を切り欠き部24a内に挿入した状態で、ホルダ24の前後面に挟まれて前保持板30と後保持板32の前後方向への分離が規制され、前保持板30と後保持板32によって挟まれて側方保持板26と側方保持板28の幅方向への分離が規制される。前保持板30の軸穴30aがホルダ24の前方開口24bに連通し、後保持板32の軸穴32aがホルダ24の後方開口24cに連通する。これによりナットアッセンブリ18では、軸穴30aと前方開口24bを通してメインナット34の雌ネジ穴34cが前方に向けて開口し、軸穴32aと後方開口24cを通して補強ナット36の雌ネジ穴36dが後方に向けて開口される。
【0023】
図4に示すように、アッパレール12の上面部には前後方向に位置をずらせて一対の位置決め穴12aが形成されており、この一対の位置決め穴12aに一対の貫通穴24fの位置を合わせて、ホルダ24の前方突出片24dと後方突出片24eをアッパレール12の上面部に下方から当て付ける。そして、位置決め穴12aと貫通穴24fを貫通する締結手段を用いてホルダ24を固定させることで、アッパレール12に対してナットアッセンブリ18が固定的に支持される。
図3に示すように、この状態で結合ナット33の回転中心軸33xとウォーム38の回転中心軸38xは互いに直交する関係にあり、結合ナット33の回転中心軸33xが前後方向を向き、ウォーム38の回転中心軸38xが幅方向を向く。
【0024】
図5に示すように、ナットアッセンブリ18内に回転可能に支持された結合ナット33の雌ネジ穴34cと雌ネジ穴36dに対してリードスクリュー16が挿通される。リードスクリュー16の雄ネジ16aは、山部16a-1と該山部16a-1の間の谷部16a-2をリードスクリュー16の外周面上に螺旋状に形成して構成されている。山部16a-1は、リードスクリュー16の長手方向軸16x(
図4、
図5)に対して所定の角度で正逆に傾斜する一対のガイド面L1を両側面(前後面)に有する凸状台形の断面を呈しており、谷部16a-2は、軸方向に隣接する一対の山部16a-1によって挟まれる凹状台形の断面を呈している。雄ネジ16aの断面形状(山部16a-1及び谷部16a-2の断面形状)とネジピッチ(長手方向軸16xに沿う方向で隣接する2つの山部16a-1の間隔)は、リードスクリュー16の全体に亘って均一である。
【0025】
リードスクリュー16が挿入される雌ネジ穴34cと雌ネジ穴36dはいずれも、軸方向への貫通穴の内周面に雌ネジを形成した構成であるが、ネジの大きさが異なっている。メインナット34の雌ネジ穴34cは、雄ネジ16aの谷部16a-2に対応する凸状台形断面の山部34c-1と、山部16a-1に対応する凹状台形断面の谷部34c-2を内周面に螺旋状に形成したネジ穴である。山部34c-1は、雄ネジ16a側のガイド面L1と傾斜角が共通する一対のガイド面L2を両側面(前後面)に有しており、ガイド面L1に対してガイド面L2が摺動可能に当接することによって雌ネジ穴34cが雄ネジ16aと螺合される。この螺合関係によって、リードスクリュー16の長手方向軸16xと結合ナット33の回転中心軸33xが一致する。
【0026】
補強ナット36の雌ネジ穴36dは、雌ネジ穴34cと同様に、凸状台形断面の山部36d-1と凹状台形断面の谷部36d-2を内周面に螺旋状に形成したネジ穴であるが、内径サイズが軸支部36cよりも大きく設定されている。
図5のD1は山部34c-1の歯先位置を基準とした雌ネジ穴34cの内径サイズを示し、同図のD2は山部36d-1の歯先位置を基準とした雌ネジ穴36dの内径サイズを示しており、D2>D1の関係になっている。
図5では歯先基準で示しているが、谷部34c-2の歯底位置と谷部36d-2の歯底位置を基準とした場合も、雌ネジ穴34cより雌ネジ穴36dの方が大きい内径サイズになっている。山部36d-1は、雄ネジ16aのガイド面L1や雌ネジ穴34c(山部34c-1)のガイド面L2と傾斜角が共通する一対のガイド面L3を両側面(前後面)に有しているが、雄ネジ16aに対して螺合する雌ネジ穴34cよりも大きい内径サイズに雌ネジ穴36dを設定したことにより、雌ネジ穴36dは雄ネジ16aに対して螺合せずに軸方向(シートスライド方向)と径方向の両方に隙間があり、ガイド面L1に対してガイド面L3を離間させた関係になっている。
また、雌ネジ穴36dにおける歯底から歯先までの山部36d-1の高さが、雌ネジ穴34cにおける歯底から歯先までの山部34c-1の高さよりも大きい(図5参照)。
【0027】
以上のように、リードスクリュー16とナットアッセンブリ18を組み合わせて構成したシートスライド装置14では、ナットアッセンブリ18内の結合ナット33のうち、メインナット34の雌ネジ穴34cが雄ネジ16aに螺合するのに対し、補強ナット36の雌ネジ穴36dは雄ネジ16aに対して直接的には螺合せずに所定の隙間をもって対向した関係にある。つまり、通常は結合ナット33のうちメインナット34のみがリードスクリュー16に対して螺合されている。そして、リードスクリュー16とナットアッセンブリ18を相対回転させると、螺合関係による雄ネジ16aと雌ネジ穴34cに従ってリードスクリュー16とナットアッセンブリ18が前後方向に相対移動する。具体的には、リードスクリュー16がロアレール10内に固定され、ナットアッセンブリ18はアッパレール12内に結合ナット33の回転を許容した状態で支持されているため、モータを駆動してウォーム38を回転させると、結合ナット33(セレーション嵌合で一体化されたメインナット34と補強ナット36)が回転され、固定されたリードスクリュー16に対して結合ナット33を有するナットアッセンブリ18が前後方向に移動する。ナットアッセンブリ18を構成するホルダ24はアッパレール12に固定されているため、リードスクリュー16に対してナットアッセンブリ18が前後方向に移動すると、ナットアッセンブリ18と共にアッパレール12がロアレール10に対して前後方向に摺動移動する。アッパレール12の前進と後退はモータの駆動方向の切り替えによって制御される。
【0028】
結合ナット33を構成するメインナット34と補強ナット36は異なる材質で形成される。通常状態においてリードスクリュー16と螺合するメインナット34は、雄ネジ16aと雌ネジ穴34cが摺動する際にビビリ振動や異音が発生しにくい材質からなる。具体的には、リードスクリュー16は強度を確保するべく鉄などの金属で形成され、メインナット34はリードスクリュー16よりも低硬度の合成樹脂などの材質で形成されている。これにより、モータを用いて結合ナット33を回転駆動させたときに、雄ネジ16a(ガイド面L1)と雌ネジ穴34c(ガイド面L2)の接触部分で異音や振動が発生しにくく、動作フィーリングに優れた円滑なシートスライドが実現される。
【0029】
補強ナット36は、車両の衝突などでシートトラックに対してシートスライド方向へ通常使用状態を超える過大な荷重が作用したときに、リードスクリュー16に対するナットアッセンブリ18の移動を規制する補強用のストッパとして機能する。補強ナット36は、雄セレーション部36bと雌セレーション部34dの嵌合関係によってメインナット34と共に回転するが、前述の通り、通常状態では雌ネジ穴36dがリードスクリュー16の雄ネジ16aに対して螺合接触していない。一方、衝突などを原因として、リードスクリュー16と結合ナット33を軸方向に相対移動させようとする過大な荷重が瞬間的に加わった場合には、メインナット34の雌ネジ穴34cにおける山部34c-1が撓んでリードスクリュー16と結合ナット33の軸方向の相対的な位置関係が変化する。この位置変化(雌ネジ穴34cの撓み量)が所定以上に大きくなると、補強ナット36の雌ネジ穴36d(ガイド面L3)がリードスクリュー16の雄ネジ16a(ガイド面L1)に係合し、この係合によってリードスクリュー16に対する補強ナット36(結合ナット33)の軸方向移動が規制される。その結果、ロアレール10に対するアッパレール12の相対移動を規制して不用意なスライドを防止できる。補強ナット36は、シートスライドを規制するストッパとして確実に機能させるべく、メインナット34よりも硬質の材質で形成されており、雄ネジ16aに係合した際に雌ネジ穴36dが潰れない耐荷重性を有している。具体的には、補強ナット36は鉄などの金属で形成するとよい。前述のように、補強ナット36をスライドストッパとして用いない通常の状態では雌ネジ穴36dは雄ネジ16aに対して螺合接触していないため、補強ナット36を鉄などで形成しても、使用感を損なうビビリ振動や異音は生じない。
【0030】
一般に、車両が進行方向後方から別の車両によって追突される後突時よりも、進行方向前方の対象物に衝突する前突時の方が、シートトラックに対して瞬間的に加わる荷重が大きくなる。前突時には、ロアレール10が固定された床面(車両ボディ)の前方への移動が急に規制されるのに対し、アッパレール12上のシート部分が慣性で前方へ進もうとするため、ロアレール10側のリードスクリュー16に
図5の矢印F1方向の荷重が加わり、アッパレール12側の結合ナット33(ナットアッセンブリ18)に
図5の矢印F2方向の荷重が加わる。
図5に示すように、結合ナット33ではシートスライド方向の前方にメインナット34が配され、後方に補強ナット36が配されている。この構成によると、前突時に雌ネジ穴36dが雄ネジ16aに噛み合って補強ナット36に入力される荷重が、メインナット34を経由することなく、軸支部36cから後保持板32を経てホルダ24に伝わる。メインナット34が振動や異音を軽減させるべく合成樹脂などで形成されているのに対し、後保持板32やホルダ24はメインナット34よりも高い剛性の材質で形成することができるため、補強ナット36をメインナット34の前方に配置する構成に比して強度的に優れている。よって、ロアレール10側にリードスクリュー16を支持し、アッパレール12側に結合ナット33(ナットアッセンブリ18)を支持したタイプのシートスライド装置14では、前突対策の強度向上のために、スライドストッパとして機能する補強ナット36をメインナット34の後方に配置することが好ましい。
【0031】
図5から分かるように、リードスクリュー16の長手方向(アッパレール12のスライド方向)において、メインナット34における雌ネジ穴34cの形成領域は、補強ナット36における雌ネジ穴36dの形成領域よりも長く設定されている。リードスクリュー16の雄ネジ16aに対して常時螺合してシートスライド時の駆動力を伝達する雌ネジ穴34cは、リードスクリュー16と結合ナット33の同心性を高め、かつ雄ネジ16aとの螺合強度を確保するべく、大きい螺合長(軸方向長)を持たせることが好ましい。一方で雌ネジ穴36dは、メインナット34よりも硬度の高い補強ナット36に形成されているため、雌ネジ穴34cほど長い形成領域を持たせなくてもストッパとして機能する際の強度を満たすことができる。よって、メインナット34の雌ネジ穴34cよりも補強ナット36の雌ネジ穴36dの形成範囲を短く設定することで、シートスライド時の動作の安定性や精度を損なわず、かつ過大荷重の作用時のストッパ機能も損なわずに、ナットアッセンブリ18の大型化を防ぐことができる。
【0032】
図6から
図10を参照して第2の実施形態を説明する。この実施形態は、シートスライド装置114を構成するリードスクリュー116がアッパレール112側に支持され、リードスクリュー116に螺合するナットアッセンブリ118がロアレール110側に支持されている点が第1の実施形態と相違する。
図8や
図9に示すように、アッパレール112の前端付近には駆動ユニット50が取り付けられている。シートトラックを構成する左右一対のアッパレール112を接続するキャリア52(
図8)にモータ54が支持されており、モータ54の駆動力が駆動ユニット50に伝えられて、駆動ユニット50に内蔵したウォーム56が回転される。
図9に示すように、ウォーム56の中心に形成した回転伝達穴56aに対してリードスクリュー116の前端部が相対回転を規制して(一体に回転するように)挿入されている。アッパレール112内には、駆動ユニット50の近傍に前方軸受部58が設けられ、アッパレール112の後端付近に後方軸受部60が設けられている。リードスクリュー116は前方軸受部58と後方軸受部60に対して回転自在に挿入支持されており、モータ駆動によって駆動ユニット50のウォーム56を回転させると、ウォーム56と共にリードスクリュー116が長手方向軸116xを中心として回転される。
【0033】
図7に示すように、ナットアッセンブリ118は、ホルダ124、前保持ブロック130、後保持ブロック132、メインナット(通常螺合部材)134、補強ナット(補強係合部材)136を有する。ホルダ124は、上下方向に離間して対向する上面部124a及び下面部124bと、前後に離間して対向する前面部124c及び後面部124dを有し、両側が開口されている枠状体である。前面部124cと後面部124dにはそれぞれ前後方向に貫通する前方開口124eと後方開口124fが形成され、下面部124bには、上下方向へ貫通する一対の貫通穴124gが前後方向に位置を異ならせて形成されている。
【0034】
前保持ブロック130は、ホルダ124のうち上面部124a、下面部124b及び前面部124cの3面で囲まれる空間内に嵌る箱型の外面形状を有しており、後方に向けて開口する凹部130aと、該凹部130aから前方に貫通する貫通穴130bと、該凹部130aから下方に貫通する貫通穴130cが形成されている。補強ナット136は、前保持ブロック130の凹部130a内に嵌合する本体部136aと、本体部136aから後方に向けて突出する雄セレーション部136bを有し、本体部136aから雄セレーション部136bに亘る内部に、前後方向に貫通する雌ネジ穴136cが形成されている。本体部136aの下面側には有底の固定穴136dが形成されている。本体部136aの外面と凹部130aの内面は非円形断面形状であり、凹部130a内に本体部136aを嵌合させた状態で、雌ネジ穴136cの軸線を中心とする前保持ブロック130と補強ナット136の相対回転が規制される。
【0035】
後保持ブロック132は、ホルダ124のうち上面部124a、下面部124b及び後面部124dの3面で囲まれる空間内に嵌る箱型の外面形状を有しており、前方に向けて開口する凹部132aと、該凹部132aから後方に貫通する貫通穴132bと、該凹部132aから下方に貫通する貫通穴132cが形成されている。メインナット134は、後保持ブロック132の凹部132a内に嵌合する形状をなしている。メインナット134の前端側には雌セレーション部134aが開口形成され、該雌セレーション部134aからメインナット134の後端部まで前後方向に貫通する雌ネジ穴134bが内部に形成されている。メインナット134の下面側には有底の固定穴134cが形成されている。メインナット134の外面と凹部132aの内面は非円形断面形状であり、凹部132a内にメインナット134を嵌合させた状態で、雌ネジ穴134bの軸線を中心とする後保持ブロック132とメインナット134の相対回転が規制される。
【0036】
雄セレーション部136bを雌セレーション部134aに挿入させると、該雄セレーション部136bと雌セレーション部134aに形成したセレーションの嵌合によってメインナット134と補強ナット136は相対回転が規制され、一体化された結合ナット133になる。結合ナット133の前端部と後端部に対して前保持ブロック130と後保持ブロック132が相対回転を規制して嵌合され、前保持ブロック130と後保持ブロック132がそれぞれホルダ124内に回転規制状態で支持されてナットアッセンブリ118が構成される。完成した状態のナットアッセンブリ118では、前保持ブロック130の貫通穴130bがホルダ124の前方開口124eに連通し、後保持ブロック132の貫通穴132bがホルダ124の後方開口124fに連通する。これにより、貫通穴130bと前方開口124eを通して補強ナット136の雌ネジ穴136cが前方に向けて開口し、貫通穴132bと後方開口124fを通してメインナット134の雌ネジ穴134bが後方に向けて開口される。また、貫通穴130cと固定穴136d、貫通穴132cと固定穴134cがそれぞれ、ホルダ124の一対の貫通穴124gに連通して下方に向けて開口される。
【0037】
図9に示すように、ロアレール110の底面部には前後方向に位置を異ならせて一対の位置決め穴110aが形成されており、各位置決め穴110aに対して貫通穴124gの位置を合わせて、ホルダ124の下面部124bをロアレール110の底面に支持させる。そして、各位置決め穴110aに対して下方から締結具62を挿入する。一方の締結具62は、貫通穴124gを通して貫通穴130cと固定穴136dに係合し、他方の締結具62は、貫通穴124gを通して貫通穴132cと固定穴134cに係合する。これによりロアレール110内でナットアッセンブリ118が固定的に支持される。ナットアッセンブリ118内に保持される結合ナット133は、回転と前後方向移動のいずれも規制される。
【0038】
図10に示すように、ナットアッセンブリ118内に固定的に支持された結合ナット133の雌ネジ穴134bと雌ネジ穴136cに対してリードスクリュー116が挿通される。第1の実施形態と同様に、メインナット134側の雌ネジ穴134bはリードスクリュー116の雄ネジ116aに対して常時螺合する内径サイズD3であるのに対し、補強ナット136側の雌ネジ穴136cは、通常の状態では雄ネジ116aと螺合せず隙間を空けるように、大きな内径サイズD4になっている。つまり、D4>D3の関係にある。雌ネジ穴134bと雌ネジ穴136cの山部や谷部に関する詳細は、第1の実施形態における雌ネジ穴34cと雌ネジ穴36dと共通であるから説明を省略する。
【0039】
モータ駆動によって、駆動ユニット50を介してリードスクリュー116が長手方向軸116xを中心として回転すると、雌ネジ穴134bと雄ネジ116aの螺合関係によって、ロアレール110側に固定されているナットアッセンブリ118に対してリードスクリュー116が回転しながら前後方向に移動する。リードスクリュー116が移動すると該リードスクリュー116を支持するアッパレール112が共に移動し、シートの前後方向位置が変化する。メインナット134は補強ナット136に比して低硬度の材質(合成樹脂など)で形成されており、モータ駆動でリードスクリュー116を前後移動させる際のビビリ振動や異音が抑制される。
【0040】
車両の衝突などによって過大な荷重がシートトラックに作用すると、メインナット134の雌ネジ穴134bが撓んでリードスクリュー116と結合ナット133の軸方向の相対的な位置関係が変化する。この位置変化(雌ネジ穴134bの撓み量)が所定以上に大きくなると、雌ネジ穴136cが雄ネジ116aに係合してリードスクリュー116の前後方向の移動を規制し、補強ナット136がストッパとして機能する。補強ナット136はメインナット134よりも硬度が高い材質で形成されており、強い荷重が作用しても雌ネジ穴136cが潰れることなく、雄ネジ116aとの噛み合いを維持してシートスライドを規制することができる。
【0041】
図10に示すように、シートスライド装置114では前突時に、アッパレール112側のリードスクリュー116に対して矢印F3方向の荷重が作用し、ロアレール110側の結合ナット133(ナットアッセンブリ118)に対して矢印F4方向の荷重が作用する。つまり、結合ナット133とリードスクリュー116における荷重の作用方向が第1の実施形態とは逆になる。
図10のようにシートスライド方向の後方にメインナット134を配し、前方に補強ナット136を配することで、前突時に雌ネジ穴136cが雄ネジ116aに噛み合って補強ナット136に入力される荷重が、メインナット134を経由することなく補強ナット136と前保持ブロック130の当接箇所で受けられるため、補強ナット136をメインナット134の後方に配置する構成に比して強度的に優れている。よって、アッパレール112側にリードスクリュー116を支持し、ロアレール110側に結合ナット133(ナットアッセンブリ118)を支持したタイプのシートスライド装置114では、前突対策の強度向上のために、スライドストッパとして機能する補強ナット136をメインナット134の前方に配置することが好ましい。
【0042】
以上、図示実施形態に基づき説明したが、本発明は図示実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲での改変を行うことができる。例えば、図示実施形態の補強ナット36,136では、リードスクリュー16,116の雄ネジ16a,116aと係合する部位として、雌ネジ穴36d,136cを用いている。このように雄ネジ16a(116a)のガイド面L1と同じ傾斜のガイド面L3を有する雌ネジ部分を係合部位として用いることで、雄ネジ16a(116a)との係合面積が広くなるため、強度確保の観点から好ましい。但し、雄ネジ16a,116aに対する係合部位として、雌ネジ穴36d,136cとは異なる形態の部位を補強ナット36,136の内周部に形成してもよい。具体的には、雌ネジの山部を部分的に切り欠いた間欠的な雌ネジ形状
を採用することも可能である。
【0043】
また図示実施形態では、結合ナット33,133を構成するメインナット34,134と補強ナット36,136をセレーション嵌合で組み合わせているが、メインナット部分と補強ナット部分をインサート成形などによって一体形成した結合ナットを用いることも可能である。インサート成形で形成した結合ナットは部品の強度や精度を高めやすく、生産性にも優れている。
【0044】
また図示実施形態では、メインナット34,134の材質として合成樹脂、補強ナット36,136の材質として鉄などの金属を例示しているが、リードスクリュー16,116に対して螺合や係合する部材の材質はこれに限定されない。メインナット34,134側では、モータ駆動をシートスライド方向の力に変換可能な最低限の強度を備えることを前提として、振動や異音の抑制効果のある任意の材質を選択することができる。補強ナット36,136側では、衝突時のストッパとして要求される耐荷重性能を満たす任意の材質を選択することができる。これらの要求を満たすための条件として、メインナット34,134におけるリードスクリュー16,116との螺合部分(雌ネジ穴34c,134b)を構成する材質よりも、補強ナット36,136におけるリードスクリュー16,116との係合部分(雌ネジ穴36d,136c)を構成する材質の方が高い硬度であることが望ましい。改変の一例として、メインナット34,134を合成樹脂製とし、補強ナット36,136をメインナット34,134よりも硬質なタイプの合成樹脂で形成することも可能である。改変の別の例として、メインナット34,134と補強ナット36,136をいずれも同程度の硬さの合成樹脂で形成した上で、補強ナット36,136における雌ネジ穴36d,136cの部分のみを合成樹脂よりも硬い金属で形成してもよい。
【0045】
また、図示実施形態は、モータによってリードスクリューやナットを回転駆動させるパワースライド装置に適用したものであるが、本発明はリードスクリューやナットを回転させる駆動源を限定するものではない。例えば、手動操作によってリードスクリューやナットを回転させるタイプのシートスライド装置にも適用が可能である。