(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189044
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】脱硝装置の制御装置及び制御方法、それを備えた脱硝装置
(51)【国際特許分類】
B01D 53/56 20060101AFI20170821BHJP
B01D 53/46 20060101ALI20170821BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
B01D53/56 310
B01D53/46ZAB
B01D53/94 222
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-24542(P2013-24542)
(22)【出願日】2013年2月12日
(65)【公開番号】特開2014-151289(P2014-151289A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2016年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】磯部 知昭
(72)【発明者】
【氏名】清澤 正志
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 伸
(72)【発明者】
【氏名】三谷 真規
(72)【発明者】
【氏名】山口 剛
【審査官】
神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−163731(JP,A)
【文献】
特開2003−080026(JP,A)
【文献】
特開2003−184577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34−53/96
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア(NH3)を含む還元剤を注入することにより燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去する脱硝装置の制御装置において、
前記脱硝装置に流入する燃焼排ガス中の脱硝反応前の二酸化窒素(NO2)及び前記燃焼排ガス中のホルムアルデヒド(HCHO)の量を推定する推定手段と、
推定された前記ホルムアルデヒドの量と反応する前記二酸化窒素を勘案して、余剰となる前記二酸化窒素を算出し、算出した前記余剰となる二酸化窒素に基づいて、注入させるアンモニア(NH3)量を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出されたアンモニア(NH3)量を注入する注入制御手段と
を具備する脱硝装置の制御装置。
【請求項2】
前記算出手段は、前記脱硝装置の上流側に設けられるガスタービンの入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号に基づいて推定される一酸化窒素(NO)の量に基づいて、
二酸化窒素(NO2)の量を推定し、推定された二酸化窒素(NO2)の量に基づいてアンモニア(NH3)量を算出する請求項1に記載の脱硝装置の制御装置。
【請求項3】
前記算出手段は、前記脱硝装置の上流側に設けられるガスタービンの入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号に基づいてホルムアルデヒド(HCHO)の量を推定し、推定されたホルムアルデヒド(HCHO)量を用いてアンモニア(NH3)量を算出する請求項1または請求項2に記載の脱硝装置の制御装置。
【請求項4】
前記算出手段により算出されたアンモニア(NH3)量に所定バイアス値を乗算して、アンモニア(NH3)量を補正する第1補正手段を具備する請求項2または請求項3に記載の脱硝装置の制御装置。
【請求項5】
前記算出手段は、外乱に応じた前記所定バイアス値に基づいて、算出されたアンモニア(NH3)量を補正する第2補正手段を具備する請求項4に記載の脱硝装置の制御装置。
【請求項6】
前記脱硝装置の下流側に設けられる煙突の出口において計測される窒素酸化物(NOx)の量、及び複合発電設備の負荷指令値に基づいて、前記複合発電設備の実負荷、前記ガスタービンの入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号、一酸化窒素(NO)、及びホルムアルデヒド(HCHO)のそれぞれの信号を補正する請求項4または請求項5に記載の脱硝装置の制御装置。
【請求項7】
一酸化窒素(NO)の量を計測する一酸化窒素計測手段を具備し、
前記算出手段は、前記一酸化窒素計測手段により計測された一酸化窒素(NO)の量に基づいて、二酸化窒素(NO2)の量を推定し、推定された二酸化窒素(NO2)の量に基づいてアンモニア(NH3)量を算出する請求項1または請求項3に記載の脱硝装置の制御装置。
【請求項8】
ホルムアルデヒド(HCHO)の量を計測するホルムアルデヒド計測手段を具備し、
前記算出手段は、前記ホルムアルデヒド計測手段により計測されたホルムアルデヒド(HCHO)の量に基づいてアンモニア(NH3)量を算出する請求項1または請求項2に記載の脱硝装置の制御装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の制御装置を備えた脱硝装置。
【請求項10】
アンモニア(NH3)を含む還元剤を注入することにより燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去する脱硝装置の制御方法において、
脱硝反応前の二酸化窒素(NO2)及び前記燃焼排ガス中のホルムアルデヒド(HCHO)の量を推定する推定過程と、
推定された前記ホルムアルデヒドの量と反応する前記二酸化窒素を勘案して、余剰となる前記二酸化窒素を算出し、算出した前記余剰となる二酸化窒素に基づいて、注入させるアンモニア(NH3)量を算出する算出過程と、
前記算出過程により算出されたアンモニア(NH3)量を注入する注入制御過程と
を有する脱硝装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硝装置の制御装置及び制御方法、それを備えた脱硝装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、事業用や産業用の石炭火力発電所においては、石炭焚きのボイラから排出される燃焼排ガス中に窒素酸化物(以下「NOx」という)が含まれており、このNOxを除去するための装置として脱硝装置が知られている。
従来、DLN(Dry Low NOx)燃焼器が採用されるGTCC(Gas Turbine Combined Cycle)複合発電設備においては、ガスタービン入口温度が低い条件下で、NOx中の二酸化窒素(以下「NO
2」という)が高くなることが知られている。
【0003】
また、NO
2/NOx>0.5のようにNO
2の比率が高い場合には、脱硝効率が低下するので、所定の脱硝効率を得るために、NO
2比率が低い場合と比較して注入するアンモニア(以下「NH
3」という)の量を増加させ、また、ガスタービン燃焼調整することにより、NO
2/NOx比率低減を調整していた。
例えば、下記特許文献1では、脱硝触媒入口NOx濃度から算出したアンモニア注入量とガスタービン起動時の負荷変化に対応するアンモニア注入量とをフィードフォワード制御する技術が提案されている。下記特許文献2では、排煙脱硝装置の出口におけるNOx濃度を安定させる技術が提案されている。
【0004】
また、NOxとNH
3との脱硝反応は、以下の3式で示されるが、(1)式及び(2)式は、NOx量とNH
3量との比率は、NOx:NH
3=1:1であるのに対して、(3)式の反応では、NOx:NH
3=3:4となることが知られており、そうした比率に応じたアンモニア量の調整が行われている。下記特許文献3では、脱硝装置出口のNOx濃度設定値と脱硝装置入口のNOx濃度計測値との差から算出した基本アンモニア量と、発電機の負荷微分値により先行注入させるアンモニア量と、脱硝装置出口のNOx濃度と検出濃度によりアンモニア量をフィードバックして補正する補正値とに基づいて、(3)式で表わされるNOxの変動に対処する技術が提案されている。
4NO+4NH
3+O
2→4N
2+6H
2O (1)
NO+NO
2+2NH
3→2N
2+3H
2O (2)
6NO
2+8NH
3→7N
2+12H
2O (3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−180220号公報
【特許文献2】特開2010−234321号公報
【特許文献3】特開2003−80026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、環境問題に対する関心の高まりにより、低NOx化が要求されるようになり、燃焼器内部の火炎温度を低減させることによりNOx低減する低NOx型新型燃焼器が開発されている。しかしながら、低NOx型新型燃焼器は、従来のDLN燃焼器と比較してNO
2/NOx比率が高くなる傾向があり、NH
3量の調整及びガスタービン燃焼調整では、制御が追い付かず、所定の脱硝効率を得ることが困難となる傾向である。
【0007】
さらに、脱硝反応においては、ホルムアルデヒド(HCHO)生成に付随した以下の(4)式により、一部NO
2はNOに還元されるので、還元されたNOは、上記(1)式によりNO
2と脱硝反応が生じることにより、必要なNH
3量を低減させることができるが、上記特許文献1から3の方法では、下記(4)式の反応は考慮されておらず、過剰にNH
3を注入しており、適切なアンモニア量が注入されていないという問題があった。
HCHO+NO
2→NO+CO+H
2O (4)
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、適切なアンモニア注入量に制御できる脱硝装置の制御装置及び制御方法、それを備えた脱硝装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、アンモニア(NH3)を含む還元剤を注入することにより燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去する脱硝装置の制御装置において、前記脱硝装置に流入する燃焼排ガス中の脱硝反応前の二酸化窒素(NO2)及び前記燃焼排ガス中のホルムアルデヒド(HCHO)の量
を推定する推定手段と、推定された前記ホルムアルデヒドの量と反応する前記二酸化窒素を勘案して、余剰となる前記二酸化窒素を算出し、算出した前記余剰となる二酸化窒素に基づいて、注入させるアンモニア(NH3)量を算出する算出手段と、前記算出手段により算出されたアンモニア(NH3)量を注入する注入制御手段とを具備する脱硝装置の制御装置を提供する。
【0010】
このような構成によれば、アンモニア(NH
3)を含む還元剤を注入することにより燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去する脱硝装置の制御装置において、脱硝反応前の二酸化窒素(NO
2)及びホルムアルデヒド(HCHO)の量に基づいて、注入させるアンモニア(NH
3)量が算出され、算出されたアンモニア量を注入させる。
このように、ホルムアルデヒドと反応する二酸化窒素量を勘案することにより、より正確なアンモニア必要量が算出されるので、アンモニア過注入によるコストアップやアンモニア過注入によるリークNH
3の増加、環境負荷の増加を防止する。
【0011】
上記脱硝装置の制御装置の前記算出手段は、前記脱硝装置の上流側に設けられるガスタービンの入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号に基づいて推定される一酸化窒素の量(NO)に基づいて、二酸化窒素(NO
2)の量を推定し、推定された二酸化窒素(NO
2)の量に基づいてアンモニア(NH
3)量を算出することとしてもよい。
ガスタービンの入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号に基づいて、二酸化窒素量を推定するので、二酸化窒素量を計測する計測器が不要である。なお、ガスタービンの入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号は、例えば、燃焼器からガスタービンに流入するガスタービン入口の燃焼ガス温度を無次元化した燃焼負荷指令値である。ここで、燃焼負荷指令値とは、例えば、発電機出力と、IGV(Inlet Guide Vane;入口案内翼)開度指令値と、吸気温度と、吸気流量とタービンバイパス流量との比であるタービンバイパス比(タービンバイパス流量/吸気流量)と、大気圧と標準大気圧との比(大気圧/標準大気圧)である大気圧比とに基づいて算出される。
【0012】
上記脱硝装置の制御装置の前記算出手段は、前記脱硝装置の上流側に設けられるガスタービンの入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号に基づいてホルムアルデヒド(HCHO)の量を推定し、推定されたホルムアルデヒド(HCHO)量を用いてアンモニア(NH
3)量を算出することとしてもよい。ホルムアルデヒド(HCHO)はガスタービン燃焼温度に相関を持つため、同じくガスタービン燃焼温度と相関を持つ燃焼負荷指令値と相関性があり、ガスタービン制御信号に基づいて、ホルムアルデヒド(HCHO)量を推定することができるので、ホルムアルデヒド量を計測する計測器が不要である。
【0013】
上記脱硝装置の制御装置の前記算出手段により、算出されたアンモニア(NH
3)量に所定バイアス値を乗算して、アンモニア(NH
3)量を補正する第1補正手段を具備することとしてもよい。
ガスタービンの入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号に基づいて二酸化窒素量やホルムアルデヒド量を推定する場合に、実機との誤差を勘案し、所定バイアス値を乗算させることにより、より正確なアンモニア量の算出につながる。好ましくは、一酸化窒素(NO)の推定値は実機との誤差が生じやすいので、燃焼負荷指令値に基づいて推定される一酸化窒素(NO)に対して補正する。
【0014】
上記脱硝装置の制御装置の前記算出手段は、外乱に応じた前記所定バイアス値に基づいて、算出されたアンモニア(NH
3)量を補正する第2補正手段を具備することとしてもよい。
これにより、外乱に応じた所定バイアス値によって自動的にアンモニア量が補正されるので、プラント運用の操作性を向上させることができる。ここで、外乱とは、例えば、外気温度、外気湿度、燃料組成、大気圧・空気中の水分等である。
【0015】
上記脱硝装置の制御装置において、前記脱硝装置の下流側に設けられる煙突の出口において計測される窒素酸化物(NOx)の量、及び複合発電設備の負荷指令値に基づいて、前記複合発電設備の実負荷、前記ガスタービンの入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号、一酸化窒素(NO)、及びホルムアルデヒド(HCHO)のそれぞれの信号を補正することとしてもよい。
これにより、負荷変化、窒素酸化物(NOx)の濃度変化等に対する追従性が向上できる。
【0016】
上記脱硝装置の制御装置は、一酸化窒素(NO)の量を計測する一酸化窒素計測手段を具備し、前記算出手段は、前記一酸化窒素計測手段により計測された一酸化窒素(NO)の量に基づいて、二酸化窒素(NO
2)の量を推定し、推定された二酸化窒素(NO
2)の量に基づいてアンモニア(NH
3)量を算出することとしてもよい。
推定する算出処理をしなくても、簡便に一酸化窒素量と、そこから推定できる二酸化窒素の量の情報を取得できる。
【0017】
上記脱硝装置の制御装置は、ホルムアルデヒド(HCHO)の量を計測するホルムアルデヒド計測手段を具備し、前記算出手段は、前記ホルムアルデヒド計測手段により計測されたホルムアルデヒド(HCHO)の量に基づいてアンモニア(NH
3)量を算出することとしてもよい。
推定する算出処理をしなくても、簡便にホルムアルデヒド量の情報を取得できる。
【0018】
本発明は、上記いずれかに記載の制御装置を備えた脱硝装置を提供する。
【0019】
本発明は、アンモニア(NH3)を含む還元剤を注入することにより燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)を除去する脱硝装置の制御方法において、脱硝反応前の二酸化窒素(NO2)及び前記燃焼排ガス中のホルムアルデヒド(HCHO)の量
を推定する推定過程と、推定された前記ホルムアルデヒドの量と反応する前記二酸化窒素を勘案して、余剰となる前記二酸化窒素を算出し、算出した前記余剰となる二酸化窒素に基づいて、注入させるアンモニア(NH3)量を算出する算出過程と、前記算出過程により算出されたアンモニア(NH3)量を注入する注入制御過程とを有する脱硝装置の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、窒素酸化物(NOx)を低減するための適切なアンモニア注入量を制御できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る複合発電設備の概略構成図である。
【
図2】ガスタービン制御装置と排ガス回収ボイラ制御装置との機能ブロック図である。
【
図4】従来技術を用いた場合と、本発明の第1の実施形態に係る制御装置の制御を用いた場合とのNO
2濃度の比較図の一例である。
【
図5】本発明の第1の実施形態の変形例1に係る制御装置の機能ブロック図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る複合発電設備の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明に係る脱硝装置の制御装置及び制御方法、それを備えた脱硝装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
〔第1の実施形態〕
図1は、第1の実施形態の制御装置10を備えたガスタービンの系統図である。本実施形態に係る制御装置10は、GTCC(Gas Turbine Combined Cycle)複合発電設備100の脱硝装置に適用される場合を例に挙げて説明する。
【0023】
図1に示されるように、吸気フィルタ1で濾過された大気は、圧縮機2で圧縮された後、燃焼器3で燃焼して高温ガスとなり、ガスタービン4に流入される。これら圧縮機2、燃焼器3、ガスタービン4等で単純1軸のガスタービン装置5を構成しており、発電機6を駆動する。ガスタービン装置5の排気ガス(高温流体)は排熱回収ボイラ7に流入され、窒素酸化物NOxが脱硝装置8において除去された後、排気ダクトを経て煙突9から大気へ放出される。
NOx分析計Aは、排熱回収ボイラ7に設けられており、排熱回収ボイラ7に流入される排気ガスからNOx量を計測し、計測結果を制御装置10に出力する。
脱硝装置8は、アンモニア(以下「NH
3」という)を含む還元剤を後述する注入制御部12によって注入することで燃焼排ガス中の窒素酸化物(以下「NOx」という)を除去する。
【0024】
GT(Gas Turbine)制御装置20は、ガスタービン装置5を制御する。また、GT制御装置20は、取得部21と、第1推定部22と、第2推定部23とを備えている。
取得部21は、ガスタービン4の入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号を取得する。ここで、ガスタービン4の入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号とは、例えば、燃焼器3からガスタービン4に流入するガスタービン入口の燃焼ガス温度を無次元化した燃焼負荷指令値、即ちガスタービン4の入口の燃焼ガス温度に比例した値である。以下、ガスタービン4の入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号を「燃焼負荷指令値」として示す。ここで、燃焼負荷指令値とは、例えば、発電機出力と、IGV(Inlet Guide Vane;入口案内翼)開度指令値と、吸気温度と、吸気流量とタービンバイパス流量との比であるタービンバイパス比(タービンバイパス流量/吸気流量)と、大気圧と標準大気圧との比(大気圧/標準大気圧)である大気圧比とに基づいて算出される。
【0025】
一酸化窒素(以下「NO」という)はガスタービン燃焼温度に相関を持つため、同じくガスタービン燃焼温度と相関を持つ燃焼負荷指令値と相関性があり、ガスタービン制御信号に基づいて、NO量を推定することができる。また、ホルムアルデヒド(以下「HCHO」という)はガスタービン燃焼温度に相関を持つため、同じくガスタービン燃焼温度と相関を持つ燃焼負荷指令値と相関性があり、ガスタービン制御信号に基づいて、HCHO量を推定することができる。具体的には、以下に示されるように第1推定部22によりNO量を推定し、第2推定部23によりHCHO量を推定する。
【0026】
第1推定部22は、取得部21において取得されたガスタービン入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号と、NO量とを対応付けた対応情報FX1を用いて、ガスタービン4から排出される排ガスに含まれるNOの量を推定し、推定値をHRSG制御装置30に出力する。
第2推定部23は、取得部21において取得されたガスタービン入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号と、HCHO量とを対応付けた対応情報FX2を用いて、ガスタービン4から排出される排ガスに含まれるHCHO量を推定し、推定値をHRSG制御装置30に出力する。対応情報FX1,FX2は、例えば、関数、テーブルで示される。
【0027】
HRSG(Heat Recovery Steam Generator)制御装置30は、排熱回収ボイラ7を制御する。また、HRSG制御装置30は、制御装置10を備えている。制御装置10は、算出部(算出手段)11と、注入制御部(注入制御手段)12とを備えている。
【0028】
算出部11は、脱硝反応前の二酸化窒素(以下「NO
2」という)及びHCHOの量に基づいて、注入させるNH
3量を算出する。具体的には、算出部11は、第1推定部22に基づいて推定されるNOと、第2推定部23に基づいて推定されるHCHOとに基づいて、余剰NO
2の量を推定し、推定した余剰NO
2の量に基づいてNH
3量を算出する。また、算出部11は、第1補正部(第1補正手段)13を備えている。
第1補正部13は、算出部11により算出されたNH
3量に所定バイアス値を乗算して、NH
3量を補正する。これにより、実測における理論計算値とのズレを補正し、脱硝反応に必要なNH
3量をより正確に算出することができる。好ましくは、NOの推定値は実機との誤差が生じやすいので、燃焼負荷指令値に基づいて推定されるNOに対して補正する。
注入制御部12は、算出部11により算出されたNH
3量を脱硝装置8に注入させる指令を出力する。
【0029】
次に、本実施形態に係る脱硝装置8に適用される制御装置10の作用について
図1から
図3を用いて説明する。以下においては具体的な数値を示して制御装置10のNH
3量の算出方法を説明するが、ここで使用する数値は一例である。
取得部21において燃焼負荷指令値を取得すると、燃焼負荷指令値からNO量を推定する対応情報FX1に基づいてNOの発生量(例えば、20〔ppm〕)が、第1推定部22において推定される。また、燃焼負荷指令値からHCHO量を推定する対応情報FX2に基づいて、HCHOの発生量(例えば、15〔ppm〕)が第2推定部23において推定される。
【0030】
NOx分析計Aにより脱硝装置8に流入される排気ガス内のNOx量が計測され、NOx計測結果(例えば、100〔ppm〕)が、減算器111に出力される。減算器111において、NOx計測結果と推定されたNO量との差(例えば、100−20=80〔ppm〕)が算出され、NOx中のNO
2量とされる。また、NOとNO
2とは1:1の関係で脱硝反応が生じるので、80〔ppm〕のうち、NO量20〔ppm〕に相当するNO
2は脱硝反応でなくなると推定される。これにより、減算部112により、NOと反応せずに残る余剰NO
2は、80−20=60〔ppm〕と算出される。また、本実施形態においては、HCHO量(例えば、15〔ppm〕)を推定しており、後述する(4)式で示されるHCHOと反応するNO
2があることを勘案すると、余剰NO
2は、減算部113により60−15=45〔ppm〕と算出される。
【0031】
判定部114において最小値MIN=0となったら、後述する(3)式に基づき、NO
2とNH
3とは3:4の関係で反応するので、関数部115において、余剰NO
2が4/3倍される(例えば、45×4/3=60〔ppm〕)。この値は、余剰NO
2と脱硝反応するために必要なNH
3量である。余剰NO
2は45〔ppm〕あるので、減算部116において余剰NO
245〔ppm〕を減算する。加算部117において、減算結果(60−45=15〔ppm〕)をNOx分析計でのNOx量計測値に加算させ(100+15=115〔ppm〕)、NH
3注入量として算出される。また、算出されたNH
3量に所定バイアス値を乗算し、NH
3量を補正してもよい。これにより、実測における理論計算値とのズレを補正し、より正確なアンモニア量を算出することができる。
算出されたNH
3注入量の情報が、注入制御部12に出力されると、HRSG制御部30はそのNH
3注入量で脱硝装置8にNH
3を注入させる。
【0032】
以上説明してきたように、本実施形態に係る脱硝装置の制御装置10及び制御方法、それを備えた脱硝装置8によれば、従来型DLN燃焼器と低NOx型新型燃焼器とのいずれの採用に関わらず、GTCC複合発電設備100において、脱硝反応前のNO
2及びHCHOの量に基づいて、注入させるNH
3量が算出され、算出されたアンモニア量を注入させる。
これにより、HCHOと反応するNO
2を勘案することにより、より正確なアンモニア必要量が算出されるので、NH
3過注入によるコストアップやNH
3過注入によるリークNH
3の増加、環境負荷の増加を防止する。
また、NO推定値とHCHO推定値とに基づいてNH
3量を決定できるので、制御が簡略化できる。また、負荷が変化した場合であっても、NH
3量の適正化と過渡的NOx増加を防止することができる。
【0033】
ここで、
図4は、横軸にNO
2/NOx比率が示されており、縦軸にNO
2のみの脱硝反応(つまり、下記(3)式の脱硝反応)を起こすNO
2濃度との関係が示されている。
以下に脱硝反応を表わす式を示す。
4NO+4NH
3+O
2→4N
2+6H
2O (1)
NO+NO
2+2NH
3→2N
2+3H
2O (2)
6NO
2+8NH
3→7N
2+12H
2O (3)
HCHO+NO
2→NO+CO+H
2O (4)
【0034】
図4に示されるように、上述した特許文献3の方法では、NO
2濃度比率が、0.5以上となるとライン(ア)で示されるような傾向となる。本発明の制御装置10においては、上記(4)式に示されるようなガスタービン入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号に基づいて推定されるHCHOにより、一部NO
2はNOに還元されることを勘案し、ライン(イ)で示されるような傾向となる。
【0035】
〔変形例1〕
なお、本実施形態の構成に加え、算出部11は、外気温度、外気湿度、燃料組成、大気圧・空気中の水分等の外乱に応じた所定バイアス値に基づいて、算出されたNH
3量を補正する第2補正部(第2補正手段)14を設けることとしてもよい(
図5参照)。
これにより、外気温度、外気湿度、燃料組成、大気圧・空気中の水分等の外乱によって生じるNO量やHCHO量の変化に対応するために、自動的にNH
3量の補正が可能となるので、プラント運用の操作性を向上させることができる。
【0036】
〔変形例2〕
また、脱硝装置8の下流側に設けられる煙突9の出口にNOx量を計測する第2NOx分析計(図示略)を設け、第2NOx分析計において計測されるNOxの量、及びGTCC(複合発電設備)負荷指令値に基づいて、ガスタービン実負荷、コンバインドサイクル実負荷、ガスタービン4の入口温度に相関性のあるガスタービン制御信号、NO、及びHCHOそれぞれの信号に対してフィードバック補正をかけてもよい。これにより、負荷変化、NOx濃度変化等に対する追従性を向上させることもできる。
【0037】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について
図6を用いて説明する。
本実施形態の制御装置が第1の実施形態と異なる点は、排ガス回収ボイラ7に設けられる、一酸化窒素計測部(一酸化窒素計測手段)によりNO量を計測して取得し、ホルムアルデヒド計測部(ホルムアルデヒド計測手段)によりHCHO量を計測して取得する点で、上記第1の実施形態と異なる。以下、本実施形態の脱硝装置について、第1の実施形態と共通する点については説明を省略し、異なる点について主に説明する。
【0038】
一酸化窒素計測部41は、排熱回収ボイラ7に設けられており、NO量を計測し、計測結果を算出部11に出力する。
ホルムアルデヒド計測部42は、排熱回収ボイラ7に設けられており、HCHO量を計測し、計測結果を算出部に出力する。
算出部11は、一酸化窒素計測部41により計測されたNO量に基づいて、NO
2量を推定し、推定されたNO
2の量に基づいてNH
3量を算出する。また、算出部は、ホルムアルデヒド計測部42により計測されたHCHO量に基づいてNH
3量を算出する。
【0039】
また、本実施形態に係る制御装置10においては、NO量とHCHO量とを計測値を用いるので、上述した第1の実施形態で用いていたGT制御装置内の取得部、第1推定部、及び第2推定部を不要としている。また、一酸化窒素計測部41に代えて、二酸化窒素計測部(図示略)を用いることもできる。二酸化窒素計測部を用いた場合、算出部11は、二酸化窒素計測部により計測されたNO
2量に基づいてNH
3量を算出する。一酸化窒素計測部41を用いる場合に比べ、算出部11にて計測されたNO量(図示略)に基づいて、NO
2量を推定する過程を省くことができ、NH
3量の算出を簡略化することが可能となる。
【0040】
これにより、燃焼負荷指令値に基づいて、NO
2量及びHCHO量を推定する算出過程がなくても、NO
2量及びHCHO量が簡便に取得できる。
なお、本実施形態においては、NO
2量及びHCHO量を計測値から取得することとして説明していたが、これに限定されず、例えば、NO
2量は計測値を用い、HCHO量は推定値を用いるとのように計測値と推定値とを組み合わせてNH
3量を算出することとしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
4 ガスタービン
7 脱硝装置
11 算出部
12 注入制御部
13 第1補正部
14 第2補正部
A NOx分析計