(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属素形材およびその上に配置された有機樹脂層を有する塗装金属素形材と、前記塗装金属素形材の表面に射出成形または加熱圧着によって接合された、熱可塑性樹脂組成物の成形体と、を有し、
前記有機樹脂層は、ポリカーボネートユニットを有するポリカーボネート含有ポリウレタンを含み、
前記有機樹脂層の厚さは、0.2μm以上10μm以下であり、
前記金属素形材の線膨張係数αmに対する前記熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数αpの比αp/αmは、4以下である、
複合体。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.複合体
本発明に係る複合体は、塗装金属素形材と、その表面に接合された熱可塑性樹脂組成物の成形体とを有する。以下、本発明に係る複合体の各構成要素について説明する。
【0013】
(1)塗装金属素形材
上記塗装金属素形材は、金属素形材と、金属素形材の表面に配置された有機樹脂層とを有する。以下、塗装金属素形材の各構成要素について説明する。
【0014】
(金属素形材)
金属素形材を構成する金属の種類は、特に限定されない。たとえば、上記金属の種類は、鉄であってもよいし、鉄以外の金属であってもよいし、合金であってもよい。金属素形材の例には、冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板、Zn−Al合金めっき鋼板、Zn−Al−Mg合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、ステンレス鋼板(オーステナイト系、マルテンサイト系、フェライト系、フェライト・マルテンサイト二相系を含む)、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板などの金属板や、そのプレス加工品、あるいは、アルミダイカスト、亜鉛ダイカストなどの鋳造・鍛造物や、切削加工、粉末冶金などにより成形された各種金属部材などが含まれる。金属素形材は、必要に応じて、脱脂、酸洗などの公知の塗装前処理が施されていてもよい。
【0015】
(化成処理皮膜)
金属素形材と有機樹脂層との間には、化成処理皮膜が配置されていてもよい。化成処理皮膜は、金属素形材の表面に配置され、金属素形材と有機樹脂層の間の密着性および塗装金属素形材の耐食性を向上させる。化成処理皮膜は、金属素形材の表面のうち、少なくとも熱可塑性樹脂組成物の成形体と接合する領域(接合面)に配置されていればよいが、通常は金属素形材の表面全体に配置されている。
【0016】
化成処理皮膜を形成する化成処理の種類は、特に限定されない。化成処理の例には、クロメート処理、クロムフリー処理、リン酸塩処理などが含まれる。化成処理によって形成された化成処理皮膜の付着量は、塗膜密着性および耐食性の向上に有効な範囲内であれば特に限定されない。たとえば、クロメート皮膜の場合、全Cr換算付着量が5〜100mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。また、クロムフリー皮膜の場合、Ti−Mo複合皮膜では10〜500mg/m
2、フルオロアシッド系皮膜ではフッ素換算付着量または総金属元素換算付着量が3〜100mg/m
2となるように付着量を調整すればよい。また、リン酸塩皮膜の場合、0.1〜5g/m
2となるように、各化成処理皮膜の付着量を調整すればよい。
【0017】
(有機樹脂層)
有機樹脂層は、金属素形材(または化成処理皮膜)の表面に配置されている。有機樹脂層は、金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体との密着性を向上させる。
【0018】
有機樹脂層は、ポリカーボネート含有ポリウレタン(以下、「PC含有ポリウレタン」とも言う)を含む。PC含有ポリウレタンは、カルボキシル基やアミノ基などの、金属素形材と水素結合する官能基を有し、金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体との両方に十分な接着性を有する。PC含有ポリウレタンは、カルボキシル基およびアミノ基以外の、金属素形材と水素結合する他の官能基をさらに有していてもよい。また、PC含有ポリウレタンの重量平均分子量は、本発明の効果が得られる範囲において特に限定されない。
【0019】
PC含有ポリウレタンは、分子鎖中にポリカーボネートユニットを有する。「ポリカーボネートユニット」とは、ポリウレタンの分子鎖中において下記に示す構造をいう。このカーボネート基は、上記PC含有ポリウレタン中に、個別に存在していてもよいし、連続して存在していてもよい。有機樹脂層におけるポリカーボネートユニットの含有量は、有機樹脂層中の全樹脂の質量に対して15〜80質量%であることが、金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体との両方に対する有機樹脂層の接着力を高める観点から好ましい。ポリカーボネートユニットの上記含有量が15質量よりも少ないと、有機樹脂層が金属素形材に対して十分な強度で接着しないことがあり、80質量%よりも多いと、有機樹脂層が熱可塑性樹脂組成物の成形体に対して十分な強度で接着しないことがある。
【0021】
PC含有ポリウレタンは、例えば以下の工程により調製することができる。有機ポリイソシアネートと、ポリカーボネートポリオールと、三級アミノ基またはカルボキシル基を有するポリオールとを反応させてウレタンプレポリマーを生成する。なお、本発明の目的を損なわない範囲内において、ポリカーボネートポリオール化合物以外のポリオール、例えばポリエステルポリオールやポリエーテルポリオールなどを併用することは可能である。
【0022】
また、製造したウレタンプレポリマーの三級アミノ基を、酸で中和するかまたは四級化剤で四級化した後、水で鎖伸長することで、カチオン性ポリカーボネートユニット含有ポリウレタンを生成することができる。
【0023】
また、製造したウレタンプレポリマーのカルボキシル基を、トリエチルアミンやトリメチルアミン、ジエタノールモノメチルアミン、ジエチルエタノールアミン、苛性ソーダ、苛性カリウムなどの塩基性化合物で中和してカルボン酸の塩類に変換することで、アニオン性ポリカーボネートユニット含有ポリウレタンを生成することができる。PC含有ポリウレタンは、上記のカチオン性ポリカーボネートユニット含有ポリウレタンであってもよいし、アニオン性ポリカーボネートユニット含有ポリウレタンであってもよい。
【0024】
ポリカーボネートポリオールは、ジメチルカーボネートやジエチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート化合物と、エチレングリコールやジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのジオール化合物と、を反応させることで得られる。ポリカーボネートポリオールは、イソシアネート化合物によって鎖延長されたものでもよい。
【0025】
有機ポリイソシアネートの種類は、特に限定されない。有機ポリイソシアネートの例には、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、1,5−テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが含まれる。これらの有機ポリイソシアネートは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0026】
または、PC含有ポリウレタンは、市販品として入手することが可能である。
【0027】
有機樹脂層中のPC含有ポリウレタンの存在は、NMR(核磁気共鳴)、IR(赤外分光法)、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析)などの通常の分析機器を利用して確認することが可能である。
【0028】
上記PC含有ポリウレタンは、架橋されていてもよい。上記PC含有ポリウレタンの架橋は、例えば、PC含有ポリウレタン中の、金属素形材と水素結合する上記官能基と反応する二以上の基を有する架橋剤によって行うことができる。上記PC含有ポリウレタンを架橋することは、有機樹脂層の強度を向上させる観点から好ましい。上記架橋剤には、上記PC含有ポリウレタンの架橋に用いられる公知の架橋剤を用いることができる。架橋剤の例には、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、メラミン系架橋剤、または金属塩を有する架橋剤が含まれる。架橋剤の使用量は、金属素形材に対する有機樹脂層の接着性と、上記PC含有ポリウレタンにおける架橋による効果との両方が得られる範囲で適宜に決められる。
【0029】
有機樹脂層は、本発明の効果が得られる範囲において、前述したPC含有ポリウレタン以外の他の樹脂をさらに含有していてもよい。上記他の樹脂には、例えば、PC含有ポリウレタンに類似した骨格(ベンゼン環など)および官能基をそれぞれ有する樹脂が選ばれうる。有機樹脂層がこのような他の樹脂をさらに含有すると、塗装金属素形材に対して熱可塑性樹脂組成物の成形体を射出成形または加熱圧着するときに、有機樹脂層中の樹脂成分が熱可塑性樹脂組成物とより相溶しやすく、有機樹脂層と熱可塑性樹脂組成物とがより強固に結合する。したがって、有機樹脂層が上記他の樹脂をさらに含有することは、有機樹脂層に対する熱可塑性樹脂組成物の成形体の密着性を向上させる観点から好ましい。このような他の樹脂は、公知の樹脂から適宜に選ばれる。上記他の樹脂の例には、ポリプロピレン、ポリウレタン、アクリル系樹脂、アクリル・スチレン系樹脂、酢酸ビニル、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)、フッ素系樹脂、エステル系樹脂、ポリプロピレン以外のオレフィン系樹脂、およびこれらの組み合わせが含まれる。有機樹脂層における上記他の樹脂の含有量は、上記他の樹脂の配合による効果が得られる範囲であればよく、例えば上記PC含有ポリウレタン100質量部に対して0〜500質量部である。
【0030】
また、有機樹脂層は、防錆剤を含有していてもよい。防錆剤は、上記塗装金属素形材および本発明に係る複合体の耐食性を向上させる。防錆剤の種類は、特に限定されない。防錆剤の例には、Ti、Zr、V、MoおよびWからなる群から選択される金属(バルブメタル)の酸化物、水酸化物またはフッ化物、あるいはこれらの組み合わせを含むことが好ましい。これらの金属化合物を化成処理皮膜中に分散させることで、塗装金属素形材の耐食性をより向上させることができる。特に、これらの金属のフッ化物は、自己修復作用により、皮膜欠陥部における腐食を抑制することも期待できる。
【0031】
有機樹脂層は、さらに、可溶性または難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩を含んでいてもよい。可溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩は、上記金属のフッ化物の自己修復作用を補完することにより、金属素形材の耐食性をより向上させる。また、難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩は、有機樹脂層中に分散してその強度を向上させる。たとえば、可溶性または難溶性の金属リン酸塩または複合リン酸塩は、Al、Ti、Zr、Hf、Znなどの塩である。
【0032】
また、有機樹脂層は、潤滑剤を含有していてもよい。潤滑剤は、塗装金属素形材の表面におけるカジリの発生を抑制することができる。潤滑剤の種類は、特に限定されない。潤滑剤の例には、フッ素系やポリエチレン系、スチレン系、ポリプロピレン系などの有機ワックス、二硫化モリブデンやタルクなどの無機潤滑剤が含まれる。有機樹脂層中の潤滑剤の配合量は、有機樹脂層中の樹脂の合計質量100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましい。潤滑剤が1質量部未満の場合、カジリの発生を十分に抑制することができないおそれがある。一方、潤滑剤が20質量部超の場合、カジリの発生を抑制する効果に著しい向上は認められず、潤滑性が高すぎて取り扱い性が劣るおそれがある。
【0033】
また、有機樹脂層は、消泡剤を含有していてもよい。消泡剤は、後述する有機樹脂層用の塗料の調製時に気泡を発生させにくくする。消泡剤の種類は、特に限定されないが、既知のシリコーン系などの消泡剤を必要に応じて適量添加すればよい。
【0034】
有機樹脂層を構成する樹脂組成物の融点は、熱可塑性樹脂組成物の成形体を塗装金属素形材に十分な強度で接合させる観点から、上記熱可塑性樹脂組成物の成形体と同等以下が好ましい。上記樹脂組成物の融点の下限は、特に限定されないが、例えば、塗装金属素形材の耐ブロッキング性を確保する観点によれば60℃である。
【0035】
有機樹脂層の厚さは、0.2μm以上であることが好ましい。有機樹脂層の厚さが0.2μm未満の場合、金属素形材表面を均一に覆うことができないことがある。これにより、厚さが0.2μm未満の有機樹脂層を有する複合体は、金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体との間に微細な隙間が生じるおそれがある。微細な空隙が生じると、前述の複合体における封止性が、低下するおそれがある。一方、有機樹脂層の厚さの上限値は特に制限されないが、10μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。有機樹脂層の厚さを10μm超としても、著しい性能向上は認められず、また、生産性の観点およびコストの観点からも不利である。
【0036】
(2)熱可塑性樹脂組成物の成形体
熱可塑性樹脂組成物の成形体は、塗装金属素形材の表面(金属素形材上の有機樹脂層の表面)に接合されている。熱可塑性樹脂組成物の成形体の形状は、塗装金属素形材における前述した接合面で接する形状であれば特に限定されず、用途に応じて適宜選択されうる。
【0037】
熱可塑性樹脂組成物に主成分として含まれる熱可塑性樹脂の種類は、特に限定されない。上記熱可塑性樹脂の例には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂およびポリカーボネート系樹脂が含まれる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、上記熱可塑性樹脂の融点は、特に限定はされないが、例えば280℃以下である。
【0038】
前記熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、1.1%以下である。熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、公知の方法で調整することができる。たとえば、熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性樹脂組成物にフィラーなどを添加することで、成形収縮率を調整することができる。また、結晶性樹脂および非結晶性樹脂の混合割合を変化させることでも、成形収縮率を調整することができる。
【0039】
熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率(%)は、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物(例えば熱可塑性樹脂の融点の熱可塑性樹脂組成物あるいは射出成形の金型のキャビティーの容積)の体積をVa、当該溶融状態から冷却して固化した熱可塑性樹脂組成物(例えば室温(20℃)の熱可塑性樹脂組成物)の体積をVbとしたときに、下記式で求められる。
{(Va−Vb)/Va}×100
【0040】
上記成形収縮率が1.1%よりも大きいと、塗装金属素形材に対して熱可塑性樹脂組成物の成形体が十分強固に接合しないことがある。上記成形収縮率は、塗装金属素形材に対する熱可塑性樹脂組成物の成形体の接合力をより高める観点から、0.9%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましい。上記成形収縮率は、例えば、熱可塑性樹脂組成物中のフィラーの含有量または非結晶性樹脂の含有量が多いと小さくなる。
【0041】
また、熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数をαpとしたときに、金属素形材の線膨張係数αmに対する熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数αpの比αp/αmが4以下である。当該比が4よりも大きいと、塗装金属素形材に対して熱可塑性樹脂組成物の成形体が十分強固に接合しないことがある。上記の比αp/αmは、塗装金属素形材に対する熱可塑性樹脂組成物の成形体の接合力をより高める観点から3.5以下であることが好ましい。αmおよびαpは、それぞれ、例えばTMA(Thermal Mechanical Analysis:熱機械分析法)により、材料の温度変化に伴う寸法変化量を測定することによって求められる。αpは、例えば、熱可塑性樹脂組成物中のフィラーの含有量が多いと小さくなる。
【0042】
熱可塑性樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、上記有機樹脂以外の他の成分をさらに含有していてもよい。このような他の成分の例には、フィラーが含まれる。熱可塑性樹脂組成物にフィラーを配合することは、熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率および熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数αpを調整する観点から好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物にフィラーを配合することによって、熱可塑性樹脂組成物の成形体の剛性を向上させることができる。
【0043】
上記熱可塑性エラストマーは、熱可塑性樹脂組成物の成形体の耐衝撃性を向上させる。熱可塑性エラストマーの種類は、特に限定されない。熱可塑性エラストマーの例には、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂およびこれらの組み合わせなどが含まれる。
【0044】
フィラーは、熱可塑性樹脂組成物の成形体の成形収縮率を低減させるとともに、剛性を向上させる。フィラーの種類は、特に限定されず、既知の物質を使用することができる。フィラーの例には、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド樹脂などの繊維系フィラー;カーボンブラック、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、炭酸マグネシウム、シリカ、タルク、ガラス、粘土、リグニン、雲母、石英粉、ガラス球などの粉フィラー;炭素繊維やアラミド繊維の粉砕物などが含まれる。フィラーは、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。熱可塑性樹脂組成物におけるフィラーの含有量は、5〜60質量%の範囲内が好ましく、10〜40質量%の範囲内がより好ましい。
【0045】
熱可塑樹脂組成物の成形収縮率は、結晶性樹脂と非結晶性樹脂とを混合することによっても調整されうる。一般的に、結晶性樹脂の成形収縮率は、非結晶性樹脂の成形収縮率より大きい。よって、結晶性樹脂に対する非結晶性樹脂の混合比率を高くすれば、熱可塑樹脂組成物の成形収縮率を低くすることができる。
【0046】
本発明に係る複合体の製造方法は、特に限定されない。たとえば、本発明に係る複合体は、次に説明する方法により製造されうる。
【0047】
2.複合体の製造方法
本発明に係る複合体は、例えば、上記有機樹脂層の表面に、熱可塑性樹脂組成物の成形体を射出成形または加熱圧着によって接合する工程を含む方法によって製造されうる。このような方法は、例えば、(1)上記塗装金属素形材を準備する第1工程と、(2)塗装金属素形材の表面に加熱された熱可塑性樹脂組成物を接触させて、塗装金属素形材の表面に熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合する第2工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0048】
(1)第1工程
第1工程では、上記塗装金属素形材を準備する。塗装金属素形材の有機樹脂層を形成する前に、金属素形材には、化成処理皮膜を形成してもよい。化成処理皮膜は、金属素形材の表面に化成処理液を塗布し、乾燥させることで形成されうる。化成処理液の塗布方法は、特に限定されず、既知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。化成処理液の乾燥条件は、化成処理液の組成などに応じて適宜設定すればよい。たとえば、化成処理液を塗布した金属素形材を水洗することなく乾燥オーブン内に投入し、金属素形材の到達温度が80〜250℃となるように加熱することで、金属素形材の表面に均一な化成処理皮膜を形成することができる。
【0049】
塗装金属素形材は、金属素形材の表面に有機樹脂層を形成することによって作製される。有機樹脂層は、有機樹脂層の材料を含有する、有機樹脂層用の塗料を金属素形材の表面に塗布し、塗布された当該塗料を加熱することによって作製される。
【0050】
上記有機樹脂層用の塗料は、例えば、前述したPC含有ポリウレタンを含有する。上記有機樹脂用の塗料は、必要に応じて、前述した架橋剤および他の樹脂をさらに含有してもよい。さらに、上記有機樹脂用の塗料は、必要に応じて溶媒を含有してもよい。溶媒の種類は、上記有機樹脂用の塗料中の各種成分を均一に溶解または分散しうる液体であり、有機樹脂層の形成過程で蒸発する液体であれば特に限定されず、好ましくは水である。たとえば、上記有機樹脂層用の塗料は、PC含有ポリウレタン系水性エマルジョン、上記他の樹脂の水系樹脂エマルジョン、架橋剤、防錆剤、潤滑剤、安定化剤および消泡剤を含有する。上記有機樹脂層用の塗料中の固形分の含有量は、当該塗料の塗布性や形成される塗膜の厚さに応じて適宜に決めることができ、例えば5〜30質量%である。また、上記有機樹脂層用の塗料中のPC含有ポリウレタンの含有量は、例えば、PC含有ポリウレタン系エマルジョンと他の樹脂の水系樹脂エマルジョンとを配合することで、調製することができる。
【0051】
有機樹脂層は、上記PC含有ポリウレタンを含む塗料を金属素形材(または化成処理皮膜)の表面に塗布し、例えば加熱乾燥により、溶媒(水)を蒸発させることで形成される。上記有機樹脂層用の塗料の塗布方法は、特に限定されず、既知の方法から適宜選択すればよい。そのような塗布方法の例には、ロールコート法やカーテンフロー法、スピンコート法、スプレー法、浸漬引き上げ法などが含まれる。金属素形材に塗布された上記有機樹脂層用の塗料の加熱方法は、特に限定されない。加熱時の金属素形材の到達温度は、特に限定されないが、金属素形材(または化成処理皮膜)の表面に隙間なく密着した有機樹脂層を形成する観点から、例えば、有機樹脂層における樹脂組成物の融点以上280℃以下であることが好ましい。
【0052】
(2)第2工程
第2工程では、塗装金属素形材の表面に加熱された熱可塑性樹脂組成物の成形体を接触させて、塗装金属素形材の表面に熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合する。塗装金属素形材は、予め、プレス加工などにより所望の形状に加工されていてもよい。
【0053】
たとえば、第1工程で準備した塗装金属素形材を射出成形金型の内部に挿入した後、射出成形金型の内部に溶融状態の熱可塑性樹脂組成物を高圧で射出(すなわち射出成形)すればよい。このとき、射出成形金型にガス抜きを設けて、熱可塑性樹脂組成物が円滑に流れるようにすることが好ましい。溶融状態の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形金型の内部で成形されて成形体となるとともに、金属素形材の表面に形成された有機樹脂層と相溶する。このため、熱可塑性樹脂組成物と有機樹脂層との間には、ナノオーダーの厚さを有する相溶層が形成される。このとき、射出成形金型の温度は、熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の融点近傍であることが好ましい。また、射出成形により得られた複合体は、成形後にアニール処理をして、成形収縮による内部歪みを解消してもよい。
【0054】
または、第1工程で準備した塗装金属素形材と、熱可塑性樹脂組成物の成形体とを熱圧着プレス機内にセットした後、これらの塗装金属素形材および熱可塑性樹脂組成物に熱および圧力を加えれば(すなわち加熱圧着すれば)よい。このとき、加熱および加圧を、塗装金属素形材および熱可塑性樹脂組成物の成形体の全部に対して行ってもよいし、一部に行ってもよい。少なくとも、熱可塑性樹脂組成物の成形体および塗装金属素形材の一方または両方の接合面に対して、加熱および加圧を行うことが必要である。加熱および加圧された有機樹脂層の一部と熱可塑性樹脂組成物の成形体の一部は、溶融して相溶する。このため、熱可塑性樹脂成形体と有機樹脂層との間には、ナノオーダーの厚さを有する相溶層が形成される。塗装金属素形材および熱可塑性樹脂組成物の成形体を加熱する方法および加圧する方法は、特に限定されない。加熱方法の例には、ヒーター加熱、電磁誘導加熱、超音波加熱が含まれる。加圧方法の例には、人力による加圧、バイスなどを用いた加圧が含まれる。
【0055】
さらに、上記の製造方法は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した第1工程および第2工程以外の他の工程を含んでいてもよい。
【0056】
以上の手順により、塗装金属素形材の表面に熱可塑性樹脂組成物の成形体を接合させて、本発明に係る複合体を製造することができる。
【0057】
前述したように、本発明では、熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率は、1.1%以下と十分に小さい。また、金属素形材の線膨張係数αmと熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数αpの比αp/αmも、4以下と十分に小さい。よって、熱可塑性樹脂組成物を塗装金属素形材に熱によって接合するときに、冷却時における熱可塑性樹脂組成物の収縮量と金属素形材の収縮量との差を小さくすることができる。このため、冷却時に接合面において熱可塑性樹脂組成物の成形体と金属素形材とがずれたとしても、このずれは、両者の接合状態に影響を及ぼさない、と考えられる。
【0058】
また、熱可塑性樹脂組成物の成形体と金属素形材との間に配置される有機樹脂層は、一方では金属素形材には水素結合などによって強く結合し、他方では熱可塑性樹脂組成物の成形体との間に相溶層を形成し、この相溶層を介して熱可塑性樹脂組成物の成形体と強く結合する。さらに、有機樹脂層は、金属素形材および熱可塑性樹脂組成物の成形体のいずれと比べても、分子の密度がより低いと考えられ、したがって、よりフレキシブルな構造を有していると考えられる。このため、有機樹脂層は、接合時の温度から室温まで複合体が冷却される間、金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体との両者に密着し、両者のそれぞれに対する前述の強い結合が成形時から成形後まで維持されるものと考えられる。
【0059】
以上のように、本発明に係る複合体は、有機樹脂層と金属素形材、および、有機樹脂層と熱可塑性樹脂組成物の成形体、が強固に接合されているため、塗装金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体との密着性に優れている。
【0060】
以下、本発明について、金属素形材として金属板を用いた場合の実施例を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【実施例】
【0061】
1.複合体の作製
(1)塗装基材(金属素形材)
A.塗装基材1
板厚が0.8mmのSUS430の表面をNo.4仕上げして塗装基材1を準備した。TMAを用いて20〜100℃までの平均線膨張係数として塗装基材1の熱膨張係数(αm)を求めたところ、塗装基材1の線膨張係数(αm)は10×10
−6/Kであった。
【0062】
B.塗装基材2
板厚が0.8mmの冷間圧延鋼板(SPCC)に、片面あたりのめっき付着量が45g/m
2の溶融Zn−6質量%Al−3質量%Mg合金めっき鋼板を塗装基材2として準備した。塗装基材2の線膨張係数(αm)は12×10
−6/Kであった。
【0063】
C.塗装基材3
板厚が0.8mmの冷間圧延鋼板(SPCC)に、片面あたりのめっき付着量が45g/m
2の溶融Al−9質量%Si合金めっき鋼板を塗装基材3として準備した。塗装基材3の線膨張係数(αm)は12×10
−6/Kであった。
【0064】
D.塗装基材4
板厚が0.8mmのアルミ合金板(A1050)を塗装基材4として準備した。塗装基材4の線膨張係数(αm)は23×10
−6/Kであった。
【0065】
(2)塗料の調製
樹脂合計質量に対するPCユニットの質量の割合が80質量%になるように、PC含有ポリウレタン樹脂(A)、PCを含まないポリウレタン系樹脂(B)、および、ポリエチレンワックス(C)、を水に添加して、不揮発成分が20質量%のプレ塗料1を調製した。このプレ塗料1に、防錆剤としてモリブデン酸アンモニウム(キシダ化学株式会社):0.5質量%、炭酸ジルコニウムアンモニウム(ジルコゾールAC−7;第一稀元素化学工業株式会社):0.5質量%、および、シリコーン系消泡剤(KM−73;信越化学工業株式会社):0.05質量%、をそれぞれ配合し、塗料1を調製した。なお、「ジルコゾール」は、第一稀元素化学工業株式会社の登録商標である。
【0066】
同様に、PCユニットの上記含有量が40質量部である塗料2、PCユニットの上記含有量が15質量部である塗料3、PCユニットの上記含有量が85質量部である塗料4、および、PCユニットの上記含有量が10質量部である塗料5、をそれぞれ調製した。また、PC含有ポリウレタン樹脂(A)の代わりにPCを含まないポリウレタン系樹脂(B)を用いた以外は塗料1と同様にして、塗料6を調製した。
【0067】
A.PC含有ポリウレタン樹脂
PC含有ポリウレタン樹脂(A)には、アデカボンタイターHUX−386(株式会社ADEKA)を用いた。なお、PCユニットを80質量%以上含有するPC含有ポリウレタン樹脂(A)には、PCユニットを90質量%含有するポリウレタン樹脂組成物とHUX−386の混合物を用いた。なお、「アデカボンタイター」は、株式会社ADEKAの登録商標である。
【0068】
B.PCを含まないポリウレタン系樹脂
樹脂合計質量に対するPCユニットの含有量の割合を調整するためのポリウレタン系樹脂(B)として、ポリウレタン樹脂エマルジョン(アデカボンタイターHUX−232;株式会社ADEKA)を使用した。
【0069】
C.ポリエチレンワックス
ポリエチレンワックス(HYTEC E−9015;東邦化学工業株式会社)を樹脂合計質量に対して、5.0質量%添加した。なお、「HYTEC」は、東邦化学工業株式会社の登録商標である。
【0070】
(3)有機樹脂層の形成
塗装基材1を液温40℃のアルカリ脱脂水溶液(サーフクリーナーSD−270;日本ペイント株式会社、pH=12)に1分間浸漬して、表面を脱脂した。次いで、脱脂した塗装基材1の表面に、乾燥膜厚が2.0μmとなるように、ロールコーターで塗料1を塗布し、塗装基板1の到達板温が150℃となる温度で、塗布された塗料1を熱風乾燥機によって乾燥させて、有機樹脂層を形成した。この有機樹脂層を有する塗装金属素形材を基材Iとする。また、塗装基材および塗料を表1に示すように変えた以外は基材Iと同様にして塗装基材の表面に有機樹脂層を形成し、基材II〜IXを作製した。さらに、塗料を塗布しない塗装基材2を基材Xとして用意した。基材I〜基材Xの材料およびその物性を表1に示す。なお、「サーフクリーナー」は、日本ペイント株式会社の登録商標である。
【0071】
【表1】
【0072】
(4)熱可塑性樹脂組成物
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)系樹脂組成物として、エクセロイCK−10G20(射出温度260℃;テクノポリマー株式会社)を用意した。この樹脂組成物は、フィラーとしてのガラス繊維を20質量%含有している。この樹脂組成物を樹脂組成物iとする。なお、「エクセロイ」は、テクノポリマー株式会社の登録商標である。
【0073】
また、ポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂組成物として、ノバデュラン5010R3−2(射出温度260℃;三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)とノバデュラン5710F40(射出温度260℃;三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社)を用意した。前者は、ガラス繊維を含有せず、後者は、フィラーとしてのガラス繊維を40質量%含有している。前者の樹脂組成物を樹脂組成物iiとし、後者の樹脂組成物を樹脂組成物iiiとする。なお、「ノバデュラン」は、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社の登録商標である。
【0074】
また、ポリアミド(PA66)系樹脂組成物として、アミランCM−3001−N(射出温度260℃;東レ株式会社)とアミランCM−3511−G50(射出温度260℃;東レ株式会社)を用意した。前者は、ガラス繊維を含有せず、後者は、フィラーとしてのガラス繊維を50質量%含有している。前者の樹脂組成物を樹脂組成物ivとし、後者の樹脂組成物を樹脂組成物vとする。なお、「アミラン」は、東レ株式会社の登録商標である。
【0075】
また、ポリフェニレンサルファイド(PPS)系樹脂組成物として、トレリナA900(射出温度320℃;東レ株式会社)とフォートロン1140A7(射出温度320℃;ポリプラスチックス株式会社)を用意した。前者は、ガラス繊維を含有せず、後者は、フィラーとしてのガラス繊維を40質量%含有している。前者の樹脂組成物を樹脂組成物viとし、後者の樹脂組成物を樹脂組成物viiとする。なお、「トレリナ」は、東レ株式会社の登録商標である。
【0076】
幅100mm×長さ100mm×厚さ3mmのキャビティー形状を持つ金型に、各樹脂組成物i〜viiの射出温度にて、金型温度:60℃、保圧:80MPaで各樹脂組成物i〜viiの射出成形を行い、20℃に冷却したときの各樹脂組成物i〜viiの成形収縮率を求めた。また、TMAを用いて20℃〜100℃までの平均線膨張係数として、各樹脂組成物i〜viiの線膨張係数(αp)を求めた。樹脂組成物i〜viiの組成および物性を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
(5)塗装金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の成形体との接合
A.射出成形による接合力測定用の塗装金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の接合
射出成形金型に基材Iを挿入し、溶融状態の樹脂組成物iを射出成形金型のキャビティーに射出し、
図1に示されるような、基材I(符号11)の表面に樹脂組成物i(符号12)を射出成形によって接合させた複合体1(符号13)を作製した。キャビティーの形状は、幅(W1)30mm×長さ(L1)100mm×厚さ(T1)4mmである。基材Iの形状は、幅(W2)30mm×長さ(L2)100mm×厚さ(T2)0.8mmである。基材Iと樹脂組成物iは、互いの端部から長さ30cmの部分で接合している。複合体Iは、樹脂組成物iをキャビティーに260℃の射出温度で射出した後、冷却固化させることによって作製した。基材および樹脂組成物を表3に示すように変更し、射出温度を各樹脂組成物の前述した射出温度に変更する以外は、複合体1と同様にして、複合体1〜8および14〜19を作製した。各複合体における基材と樹脂組成物の組み合わせを表3に示す。
【0079】
B.熱圧着による接合力測定用の塗装金属素形材と熱可塑性樹脂組成物の接合
射出成形法で作製した幅30mm×長さ100mm×厚さ4mmである樹脂組成物iiiの成形体を、160℃に加熱した幅30mm×長さ100mm×厚さ0.8mmの基材IIに、
図1に示されるように、それぞれの端部における幅30mm×長さ30mmの領域で重ね、0.3MPaで60秒間加圧した後、冷却固化させて、複合体9を得た。基材および樹脂組成物を表3に示すように変更する以外は、複合体9と同様にして、複合体10〜13および20〜23を作製した。各複合体における基材と樹脂組成物の組み合わせを表3に示す。
【0080】
(6)複合体の接合力の測定と評価
上記(5)で得られた各複合体の成形体と基材を、基材の表面に平行かつ互いに逆向きの方向に100mm/分の速度で引っ張り、破断したときの強さ(剥離強度)を測定した。剥離強度が1.0kN未満の場合を「×」と評価し、剥離強度が1.0kN以上であって1.5kN未満の場合を「△」と評価し、剥離強度が1.5kN以上であって2.0kN未満の場合を「○」と評価し、剥離強度が2.0kN以上の場合を「◎」と評価した。結果を表3に示す。複合体の接合力は、「△」、「○」または「◎」が合格である。
【0081】
【表3】
【0082】
表3から明らかなように、射出成形または加熱圧着では、ポリカーボネートユニットを有するポリカーボネート含有ポリウレタンを含む有機樹脂層を有する金属素形材に接合する熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率が1.1%以下であり、かつ金属素形材の線膨張係数αmに対する熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数αpの比(αp/αm)が4以下である複合体1〜13では、熱可塑性樹脂組成物の成形体が塗装金属素形材に十分強固に接合した。
【0083】
一方、射出成形および加熱圧着のいずれにおいても、熱可塑性樹脂組成物の線膨張係数比αp/αmは4以下であるが、成形収縮率が1.1%より大きい複合体17は、熱可塑性樹脂組成物の成形体と塗装金属素形材の接合力が劣っており、熱可塑性樹脂組成物の成形体が塗装金属素形材に実質的に接合しなかった。また、熱可塑性樹脂組成物の成形収縮率が1.1%より大きく、線膨張係数比αp/αmが4よりも大きな複合体14〜16、20および21、有機樹脂層にポリカーボネートユニットが含まれない複合体18および22、および、有機樹脂層そのものが形成されていない複合体19および23については、複合体18,20および22では、熱可塑性樹脂組成物の成形体が塗装金属素形材に実質的に接合しなかった。また、複合体14〜16,19,21および23では、熱可塑性樹脂組成物の成形体が塗装金属素形材に接合しなかった。