(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189053
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】複合樹脂コンクリートパネル材料を用いた耐震補強工法
(51)【国際特許分類】
E21D 11/04 20060101AFI20170821BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
E21D11/04 Z
E04G23/02 D
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-35274(P2013-35274)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2014-163120(P2014-163120A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】511272990
【氏名又は名称】株式会社光計画設計事務所
(73)【特許権者】
【識別番号】593132814
【氏名又は名称】キザイテクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068663
【弁理士】
【氏名又は名称】松波 祥文
(72)【発明者】
【氏名】吉村 敏子
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠
【審査官】
大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】
登録実用新案第3174028(JP,U)
【文献】
特開2001−220899(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3183372(JP,U)
【文献】
特開2007−169972(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3173190(JP,U)
【文献】
特開2012−246716(JP,A)
【文献】
特開2005−105697(JP,A)
【文献】
特開2012−117205(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3165913(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/04
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設コンクリート構造物内面と樹脂コンクリートパネルの背面とを接着剤樹脂を注入固結させることにて貼り合せて、樹脂コンクリートパネルを設置する内面補強工法において、樹脂コンクリートパネルは、2方向炭素繊維シートを背面に配置して一体化し、曲面状または平面状に成型した複合樹脂コンクリートパネルであることを特徴とする既設コンクリート構造体の耐震補強工法。
【請求項2】
請求項1に記載の耐震補強工法において、複合樹脂コンクリートパネルの設置に際して、前記構造物内面の軸方向と平行のパネル接続部において、所定のラップ長さを確保して該接続部の領域全体をラップできる面積を有する接続用2方向炭素繊維シートを、前記構造物内面のパネル接続部が配置される場所に予め貼り合せておくことを特徴とする既設コンクリート構造物の耐震補強工法。
【請求項3】
請求項1に記載の耐震補強工法において、複合樹脂コンクリートパネルの設置に際して、前記構造物内面の軸方向と平行のパネル接続部において、所定のラップ長さを確保して該接続部の領域を部分的にラップできる面積を有する接続用2方向炭素繊維バーを、前記構造物内面のパネル接続部が配置される場所に予め貼り合せておくことを特徴とする既設コンクリート構造物の耐震補強工法。
【請求項4】
請求項1に記載の耐震補強工法において、複合樹脂コンクリートパネルの設置に際して、前記構造物内面の軸方向と平行のパネル接続部において、所定のラップ長さを確保して該接続部の領域を部分的にラップできる面積を有する接続用2方向炭素繊維グリッドを、前記内面のパネル接続部が配置される場所に予め貼り合せておくことを特徴とする既設コンクリート構造物の耐震補強工法。
【請求項5】
既設コンクリート構造物がトンネル構造体であり、複合樹脂コンクリートパネルは曲面状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐震補強工法。
【請求項6】
既設コンクリート構造物がボックス・カルバート構造体であり、複合樹脂コンクリートパネルは平面状であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐震補強工法。
【請求項7】
前記複合樹脂コンクリートパネルの設置に際して、さらに、該パネルの設置定規と接着剤樹脂の注入間隙保持材としての機能を有する平鋼を、前記構造物内面の軸方向と直交させて事前設置することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の耐震補強工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルやボックス・カルバート等の既設コンクリート構造物の内面の補強工法に関し、特に補強用樹脂コンクリートパネルを用いた耐震補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル等の既設コンクリート構造物の内面の補強覆工に際して、トンネル等の覆工コンクリート内面に沿ってH型鋼製支保工を設置し、この支保工に覆工用樹脂コンクリートパネルを固定する工法が採用されることが多くなっている。この工法は、トンネル等の内面に設置された複数の支保工に樹脂コンクリートパネルを固定して、補強用充填材の型枠を兼ねてトンネル等の内面を覆い、次いでパネルと既設コンクリート面の間に補強用充填材を充填し、樹脂コンクリートパネルと補強用充填材とを一体化してトンネル等の内面を補強覆工することで行われる。
【0003】
また、大震災の発生もあり、トンネル等に対しても耐震補強の要求は大きく、樹脂コンクリートパネルを用いた内面補強覆工においても耐震構造とすることが必要であり、耐震補強に向けた強度の向上が望まれている。しかしながら、樹脂コンクリートパネルは、圧縮強度は100N/mm
2以上と大きな値を持つが、引張強度が小さく、曲げ強度が30N/mm
2程度と小さいため、耐震補強構造としての構造計算をクリアーするためには、H型鋼や鉄筋等を併用する必要があった。そのため、本発明の出願人は特許文献1に示すように、樹脂コンクリートパネルにH型鋼製支保工、補強鉄筋及び補強鋼板を組み合わせて一体化した耐震補強構造を提案している。この構造では、レベル2基準までの耐震補強構造を得ることはできるが、樹脂コンクリートパネルの設置に先立ちH型鋼製支保工など多数の資材を設置し、設置した各資材を一体化させる作業が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3174028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、H型鋼製支保工等の構造材料を用いることなく、改良された樹脂コンクリートパネル材料を用いて、構造計算をクリアーできる耐震補強構造が得られる既設コンクリート構造物の耐震補強工法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の耐震補強工法は、既設コンクリート構造物内面
と樹脂コンクリートパネルの背面
とを接着剤樹脂を注入固結させることにて貼り合せて、樹脂コンクリートパネルを設置する内面補強工法において、樹脂コンクリートパネルは、2方向炭素繊維シートを背面に配置して一体化し、曲面状または平面状に成型した複合樹脂コンクリートパネルであることを特徴とする工法である。さらに、該パネルの設置に際して、前記構造物内面の軸方向と平行のパネル接続部において、所定のラップ長さ(重ね継手長さ)を確保して該接続部の領域全体をラップ(重ね合わせ)できる面積を有する接続用2方向炭素繊維シートを、前記構造物内面のパネル接続部が配置される場所に予め貼り付けておくことが好ましい。
【0007】
上記の好ましい工法における接続用2方向炭素繊維シートを予め貼り合せておく工程に替えて、前記構造物の軸方向と平行のパネル接続部において、所定のラップ長さを確保して該接続部の領域を部分的にラップできる面積を有する接続用2方向炭素繊維バーを、前記構造物内面のパネル接続部が配置される場所に予め貼り付けておく工程とする工法も好ましい。この炭素繊維バーは前記炭素繊維シートを適宜の大きさのリボン状に重ね、エポキシ樹脂等にて貼り合わせ固結させたものである。
【0008】
さらに上記工法における接続用2方向炭素繊維バーの代わりに、接続用2方向炭素繊維グリッドを、前記構造物内面のパネル接続部が配置される場所に予め貼り付けておくことを特徴とする工法も好ましい。この繊維グリッドは前記炭素繊維バーを格子状に組み合わせたものである。
【0009】
また上記各工法において、既設コンクリート構造物がトンネル構造体の場合には曲面状複合樹脂コンクリートパネルが用いられ、ボックス・カルバート構造体の場合には平面状複合樹脂コンクリートパネルが用いられる。
【0010】
そして上記の各工法において、さらに、樹脂コンクリートパネルの設置定規と接着剤樹脂の注入間隙保持材としての機能を有する平鋼を、既設コンクリート構造物の軸方向と直交させて事前設置する工法が好ましい。
【0011】
本発明において用いられる樹脂コンクリートパネルは、不飽和ポリエステル樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に珪砂、炭酸カルシウムなどの細骨材やガラス繊維などを混合した樹脂モルタルをパネル用金型内に敷き詰め、加熱しながら高圧力にてプレス成型し、厚さ5〜20mm程度の曲面状または平面状としたパネルであり、非常に緊密で硬く、安定した化学的性質を持ったものである。そして、このプレス成型に際して、背面側となる樹脂モルタル上に2方向炭素繊維シートをセットし、加熱・加圧することで、背面の炭素繊維シートに不飽和ポリエステル樹脂等が含浸して、樹脂コンクリートパネルと固結一体化された2方向炭素繊維シートを配した複合樹脂コンクリートパネルを成形することができる。
【0012】
2方向炭素繊維シートは、縦と横の二方向に炭素繊維を使用した織物で、目付量は約200から600g/m
2である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の工法にて用いられる複合樹脂コンクリートパネルは、背面に2方向炭素繊維シートが配置されているために、曲げ強度が強化された構造体となる。この複合樹脂コンクリートパネルにより内面を補強された既存コンクリート構造物は、鉄筋やH型鋼製支保工等の構造材料を用いることなく、構造計算をクリアーできる耐震補強構造が得られる。特に、パネル接続部を2方向炭素繊維シート等によりラップすることにより、さらに耐震補強強度を増すことができる。
【0014】
また、複合樹脂コンクリートパネルを用いることで、鉄筋やH型鋼製支保工等の重量が大きな構造材料が不要となるため、長距離で狭隘な作業条件のトンネルや暗渠等を大型の重機などを用いることなく、材料の運搬や工事の施工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】複合樹脂コンクリートパネルを設置したトンネルの断面説明図及びパネル設置部の側面説明図である。
【
図3】
図1におけるパネル接続部の詳細図であり、B−B線断面図である。
【
図4】パネル接続部を2方向炭素繊維バーにてラップした複合樹脂コンクリートパネル設置部の側面説明図である。
【
図6】パネル接続部を2方向炭素繊維グリッドにてラップした複合樹脂コンクリートパネル設置部の側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の詳細を実施例図に基づき説明する。
【0017】
図1の左図は、本発明の工法にて複合樹脂コンクリートパネルを設置したトンネルの断面説明図であり、右図は既設トンネル100の内面に設置されたパネル設置部10のパネル背面から見た側面説明図であり、パネルの背面には2方向炭素繊維シート2が配置されている。ここで用いられる複合樹脂コンクリートパネルは曲面状であり、既設トンネル100の内面形状に沿った曲率を持つ曲面状のパネルが用いられている。そして、右図に示すように、各複合樹脂コンクリートパネルは、既設トンネル100の周方向と軸方向に敷き詰められて設置されており、各複合樹脂コンクリートパネルの接続部としては、周方向と平行のパネル接続部11と軸方向と平行のパネル接続部12とが存在している。パネル接続部11は、周方向に沿って設置されている各平鋼6の中央に位置している。平鋼6はアンカー13により既設トンネル100の内面に予め固定され、この固定された平鋼6を基準に複合樹脂コンクリートパネルは配置され、各パネルはアンカー14により固定されている。アンカーとしては金属拡張式アンカーを用いて、既設トンネル100に打設されたアンカーに、平鋼やパネルに設けた皿穴を通して皿ボルトを締結して固定されている。ここに示されるように、平鋼6は各複合樹脂コンクリートパネルを設置する際に、位置決めを行う定規の機能と共に、後述する
図3に示すように接着剤樹脂の注入間隙保持材としての機能を持っている。そして、各パネル接続部12には接続領域全体を覆うようにして、パネル背面に配置された2方向炭素繊維シート2の上に接続用2方向炭素繊維シート3が配置されラップされている。尚、パネル設置部10とインバート部との境界20は樹脂モルタルが擦り付けられ封止されている。
【0018】
図2は
図1におけるA部の詳細説明図で、パネル接続部11での断面説明図であり、複合樹脂コンクリートパネル1は一方のみを示し、隣接する他方のパネルは省略して示している。ここに示されるように、各複合樹脂コンクリートパネル1は、既設トンネル100の内面に対して、2方向炭素繊維シート2が配置された背面が対面するように、平鋼6を介して配置されている。
【0019】
図3はパネル接続部12の詳細図で、
図1のB−B線における断面図である。パネル接続部12には、複合樹脂コンクリートパネル1の背面に配置された2方向炭素繊維シート2の上に、接続用2方向炭素繊維シート3がラップされている。このラップ長さは、各パネルにおいて少なくとも200mm以上必要であり、本実施例ではそれぞれのラップ長さを300mmとし、パネル接続部12の幅も含めて、炭素繊維シート3の幅は605mmとして、接続部領域全体を覆ってラップしている。この幅は各パネルにおいて200mm以上のラップ長さが確保できれば特に限定はされない。そして、各複合樹脂コンクリートパネル1は前記平鋼6の上に保持されるため、既設トンネル100の内面とこのパネルの背面との間隙15は、平鋼6の厚さと等しくなっており、パネルに適宜設けられた注入口より、接着剤樹脂がこの間隙15に注入充填される。充填された接着剤樹脂を接続用2方向炭素繊維シート3と共に硬化させ完全に固結させることにより、複合樹脂コンクリートパネル1を既設トンネル100の内面に貼り合せ設置することができる。
【0020】
以上の図に示される補強構造を得る工程では、まず既設コンクリート構造物である既設トンネル100の内面を、下地処理を施し段差や凹凸をなくしておくことが好ましい。そして、各材料を設置する工程は、既設トンネル100の内面に平鋼6を設置し、接続用2方向炭素繊維シート3を各パネル接続部12がそれぞれ位置する場所の既設トンネル100の内面に貼り付け、ついで複合樹脂コンクリートパネル1を前述のようにアンカー14にて固定し、接着剤樹脂を間隙15に充填し、接着剤樹脂を硬化させ、これらの各材料を固結一体化させる工程から成る。また、下地処理を施された既設トンネル100の内面には予めプライマー処理を施しておくことが好ましい。このプライマー処理に用いる樹脂は、接続用2方向炭素繊維シート3や複合樹脂コンクリートパネル1を貼り付け固定するために使用するエポキシ樹脂などの接着剤樹脂のメーカーから推奨されるプライマーから選択することができる。
【0021】
接続用2方向炭素繊維シート3の既設トンネル100の内面への貼り付けは、内面に塗布され硬化したプライマーの表面にエポキシ樹脂などの接着剤樹脂を塗布し、この接着剤樹脂の表面に接続用2方向炭素繊維シート3を貼り付けながら、接着剤樹脂を十分に含浸させる。この場合気泡が混入した場合には、シートをしごき、気泡を追い出しておく。ついで、上記したように、平鋼6を設置定規として複合樹脂コンクリートパネル1を配置し、アンカー14にてこのパネルを固定し、間隙15に接着剤樹脂を充填し、接着剤樹脂を硬化させる。この場合、含浸させた接着剤樹脂と間隙15に注入充填した接着剤樹脂とを共に完全に硬化固結させることが必要である。完全に硬化固結させることで、既設トンネル100の内面に、完全な耐震補強構造が構築される。
【0022】
図4は、
図1及び3に示される接続用2方向炭素繊維シート3に替えて、接続用2方向炭素繊維バー4をパネル接続部12に適用したものであり、
図5はパネル接続部12の詳細説明図であり、下図は上図のC−C線における断面図である。この接続用2方向炭素繊維バー4は2方向炭素繊維シートをリボン状に重ね、エポキシ樹脂等にて貼り合わせ固結させたものである。このリボン状の炭素繊維バーの長さは前記の接続用2方向炭素繊維シート3の幅と同様に、各パネルにおいて少なくとも200mm以上のラップ長さを確保することが必要であり、本実施例ではラップ長さを300mmとし、パネル接続部12の幅も含めて、接続用2方向炭素繊維バー4の長さは605mmとした。この長さは各パネルにおいて200mm以上のラップ長さが確保できる長さであればよい。また幅は適宜に設定することができるが、30〜80mmの範囲が好ましく、本実施例では、平鋼6の間隔800mmにたいして50mmとし、3枚のバーを均一に配置した。
【0023】
図4及び5にて示される耐震補強構造とするための工程は、上記した接続用2方向炭素繊維シート3を用いる工程において、シートの代わりに接続用2方向炭素繊維バー4を貼り付けることで行うことができる。この工法では、パネル接続部12における接続用2方向炭素繊維シートの使用量を少なくすることができ、少ない資材で有効な耐震構造を得ることができるものである。
【0024】
図6は、
図1及び3に示される接続用2方向炭素繊維シート3に替えて、接続用2方向炭素繊維グリッド5をパネル接続部12に適用したものであり、
図7はパネル接続部12の詳細説明図であり、下図は上図のD−D線における断面説明図である。この接続用2方向炭素繊維グリッド5は前記の2方向炭素繊維シートをリボン状に重ね、エポキシ樹脂等にて貼り合わせ固結させた炭素繊維バーを縦横に配置してグリッド状としたものである。この炭素繊維グリッドでは、パネル接続部12に直交する方向のグリッドの長さは、前記のシートの幅やバーの長さと同様に、各パネルにおいて少なくとも200mm以上のラップ長さを確保することできる長さであればよく、605mmとした。この長さは前記シートやバーと同様に各パネルにおいて200mm以上のラップ長さが確保できる長さであればよく、グリッドを構成する各バーの幅は前記の接続用2方向炭素繊維バーと同じ幅でよい。
【0025】
この接続用2方向炭素繊維グリッドでは、リボン状に重ね、エポキシ樹脂等にて貼り合わせ固結させた2方向炭素繊維シートを縦方向と横方向にクロスして貼り付けることになり、炭素繊維としての貼り付け量が増えるため、グリッドを構成する炭素繊維の目付量のより少ない、薄い炭素繊維シートを用いることができる。
【0026】
この接続用2方向炭素繊維グリッド5の既設トンネル100の内面への貼り付けは、内面に塗布され硬化したプライマーの表面にエポキシ樹脂などの接着剤樹脂を塗布し、この接着剤樹脂の表面に、まずパネル接続部12に平行する方向である横方向の炭素繊維バーを貼り付け、次いでパネル接続部12と直交する方向である縦方向に貼り付ける。この貼り付け作業では、炭素繊維に接着剤樹脂を十分に含浸させる。以下、複合樹脂コンクリートパネル、接着剤樹脂の注入充填、硬化固結は前記と同じ作業で行うことができる。
【0027】
以上、既設コンクリート構造物として既設トンネル構造体を例として説明したが、既設ボックス・カルバート構造体の場合には、複合樹脂コンクリートパネルとして平面状のパネルを用い、トンネルの内面と同様にして対応する作業により耐震補強することができることは、以上の実施例の説明から明らかである。
【0028】
これらの工法で用いられる平鋼としては、各種の鋼板を用いることができ、一般鋼である炭素鋼や特殊鋼のステンレス鋼の鋼板が用いられる。ステンレス鋼板は耐久性に優れるため、好ましく用いることができる。用いられる平鋼の厚さとしては、4.5mmないしは6mm程度である。
【0029】
接着剤樹脂としてはエポキシ樹脂が用いられ、既設コンクリート構造物の内面と複合樹脂コンクリートパネル背面との間の狭い間隙に注入するため、流動性に優れた低粘度であり、かつ高強度のエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の工法は、既設トンネルやボックス・カルバート等の内面を補強して、耐震補強構造とする方法に適しているが、トンネル等の新設に際しても、耐震構造の内面覆工としても応用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 複合樹脂コンクリートパネル
2 2方向炭素繊維シート
3 接続用2方向炭素繊維シート
4 接続用2方向炭素繊維バー
5 接続用2方向炭素繊維グリッド
6 平鋼
10 複合樹脂コンクリートパネル設置部
11 パネル接続部(トンネル周方向)
12 パネル接続部(トンネル軸方向)
13 固定アンカー(平鋼用)
14 固定アンカー(複合樹脂コンクリートパネル用)
15 間隙
20 インバート部との境界
100 既設トンネル