特許第6189054号(P6189054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189054
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】ボールペンチップ、及び、ボールペン
(51)【国際特許分類】
   B43K 1/08 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   B43K1/08 120
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-38816(P2013-38816)
(22)【出願日】2013年2月28日
(65)【公開番号】特開2014-166696(P2014-166696A)
(43)【公開日】2014年9月11日
【審査請求日】2016年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】菅野 治
(72)【発明者】
【氏名】工藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】青柳 秀麿
【審査官】 谷垣 圭二
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0199243(US,A1)
【文献】 特開2011−088301(JP,A)
【文献】 特開2010−149399(JP,A)
【文献】 特開2009−029056(JP,A)
【文献】 特開2006−007670(JP,A)
【文献】 特開2012−045821(JP,A)
【文献】 特表2007−516872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 1/08
B43K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップ本体の先端にボールが装着され、前記ボールを付勢する螺旋バネが前記チップ本体内に挿入されたボールペンチップであって、
前記チップ本体は、
先端に位置して前記ボールを収容するボール収容部と、
前記チップ本体の軸線方向に延在する孔であって前記螺旋バネを収容するバネ収容部と、
前記ボール収容部と前記バネ収容部とを連通させ、前記軸線方向に延在するインク流動溝がその壁面に形成された連通部と、を有し、
前記螺旋バネは、
前記軸線方向に沿って延びて前記ボールに接触するストレート部と、
前記バネ収容部に配置されるバネ本体部と、
前記ストレート部及び前記バネ本体部の間に位置し、前記バネ本体部よりも外径が小さく且つ短い小径バネ部と、を有し、
前記バネ収容部は、前記バネ本体部が収容される第1のインク孔、前記第1のインク孔よりも前記ボール収容部側に形成され前記第1のインク孔よりも小さい内径である第2のインク孔、及び、テーパー状を呈しており前記第2のインク孔を前記第1のインク孔に連接させる拡径インク孔を含み、前記第2のインク孔の前記軸線方向に沿った長さが前記拡径インク孔よりも短くなっており、
前記第1のインク孔と前記バネ本体部との間には隙間が形成されており、
前記ストレート部は、その外径が前記インク流動溝の最小幅よりも大きく、且つ、その長さが前記軸線方向における前記小径バネ部の長さ及び前記第2のインク孔の長さの何れよりも短くなっており、
前記小径バネ部は、その後端側が前記拡径インク孔に収容されている、
ことを特徴とするボールペンチップ。
【請求項2】
前記ストレート部は、前記軸線方向における前記小径バネ部の自然長さの半分以下であることを特徴とする、請求項1に記載のボールペンチップ。
【請求項3】
前記ストレート部は、前記軸線方向における前記連通部より長いことを特徴とする、請求項1又は2に記載のボールペンチップ。
【請求項4】
前記ストレート部は、前記軸線方向における前記螺旋バネ全体の自然長さに対して10分の1以下の長さであることを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載のボールペンチップ。
【請求項5】
請求項1〜の何れか一項に記載のボールペンチップが装着された中芯と、前記中芯が収容された軸筒と、を備えたことを特徴とするボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールペンチップ、及び、当該ボールペンチップを備えたボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
ポールペンの中芯(「リフィール」ともいう)の先端に設けられるボールペンチップには、インク転写用のボールを収容するボール収容孔と、ボール付勢用の螺旋バネを収容するバネ収容孔とが設けられており、両孔を連通孔で繋ぐ構成になっている。この連通孔の壁面には、軸線に沿って延びるインク流動溝が放射状に形成されており、これらインク流動溝により、バネ収容孔に収容されているインクがボール収容孔へと誘導される。ところで、これらインク流動溝を形成しようとすると、いわゆるバリや脱落などが形成されてしまい、螺旋バネ先端のボール付勢用ストレート部がバリや脱落に引っかかってしまう場合があり、螺旋バネのチップ本体への挿入が適切に行われないことがあった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1に記載の方法では、放射状のインク流動溝を形成した後に、後端側からドリルでインク流動溝まで大径の孔を形成し、更にインク流動溝の形成に用いた放射状に切削刃が配置された切削治具を再度インク流動溝に挿入してバリや脱落の箇所を是正している。このような後加工により、特許文献1に記載の方法では、螺旋バネのチップ本体への挿入作業の改善を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−020317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、通常の穴開け加工や切削加工に加え、更に少なくとも2つの工程が追加されることになるため、製造方法を複雑にしてしまい、ひいては、ボールペンチップのコストを上昇させてしまうといった虞があった。しかも、ボールペンチップという極めて微細な部品において、一度、インク流動溝を形成した箇所に再度切削加工を行うため、同じ切削治具を用いたとしても、まったく同じ箇所に切削加工を行うことが難しく、場合によっては、このような再加工によりインク流動溝の幅を広げてしまう虞もあった。
【0006】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、簡易な構成により螺旋バネのチップ本体への挿入を確実に行うことができるボールペンチップ、及び、当該ボールペンチップを備えたボールペンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討を重ねる過程で、螺旋バネ先端のストレート部の線径(すなわち外径)をインク流動溝の幅よりも大きくする等すれば、ストレート部がインク流動溝に入り込まずに螺旋バネのチップ本体への挿入が確実に行えると考えて実験を行ったものの、これだけでは、かかる不具合が十分に解消しないことに気が付いた。そこで、かかる不具合が発生したボールペンチップを切断等して詳細に検証してみると、図8に示すように、インク流動溝は、切削加工(ブローチ加工)に伴う脱落(換言すれば、インク流動溝の後端側の金属が「むしりとられている」状況)により後端に向かって溝幅が広くなるテーパ状になっており、ストレート部の線径を多少大きくした程度では、後端の広がったこの流動溝に嵌り込んでしまい、かかる不具合を根本的に解消することが困難であることが判ってきた。すなわち、ある程度の長さを有するストレート部は、設計上は螺旋バネの中心を直線状に形成されるようにしていても、現実には幾分中心からずれていることがある。さらには、チップ本体への挿入工程においては、挿入機械の振動により、ある程度の長さを有するストレート部が揺れて(振動しながら)挿入されることとなる。以上のような状況下では、挿入工程においてはチップ本体の中心線からずれた位置にストレート部の先端が位置していることがあり、このため、前述のインク流動溝の後端の広がった部分にストレート部の先端が呼び込まれ、ストレート部の先端がインク流動溝に引っ掛かる(食い込む)状態となり、不良の原因となっていた。そこで、本発明者らは、更に鋭意検討を重ね、かかるストレート部の構成を抜本的に見直すことで、ストレート部の調芯を更に精度よく行うことができれば、溝部の脱落の発生に関わりなく、螺旋バネのチップ本体への挿入がより確実に行えるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、上記課題を解決するため、本発明に係るボールペンチップは、チップ本体の先端にボールが装着され、ボールを付勢する螺旋バネがチップ本体内に挿入されたボールペンチップであって、チップ本体は、先端に位置してボールを収容するボール収容部と、チップ本体の軸線方向に延在する孔であって螺旋バネを収容するバネ収容部と、ボール収容部とバネ収容部とを連通させ、軸線方向に延在するインク流動溝がその壁面に形成された連通部とを有している。そして、螺旋バネは、軸線方向に沿って延びてボールに接触するストレート部と、バネ収容部に配置されるバネ本体部と、ストレート部及びバネ本体部の間に位置しバネ本体部よりも外径が小さく且つ短い小径バネ部とを有しており、ストレート部は、軸線方向における小径バネ部の長さよりも短いことを特徴としている。
【0009】
このボールペンチップでは、螺旋バネを主に構成するバネ本体部とストレート部との間に、外径がより小さく且つ長さが短い、すなわち、中心軸に対してぶれる量がより小さくなる小径バネ部を形成し、更に、この小径バネ部の長さよりも螺旋バネのストレート部が短くなるようにしている。この場合、中心軸からぶれにくい小径バネ部に繋がるようにストレート部が設けられ、しかもストレート部の長さが十分に短いため、螺旋バネをチップ本体に挿入する際に振動等によってバネ全体が揺れたとしても、螺旋バネのストレート部先端が螺旋バネの長手方向軸からずれる量を抑制することができる。このような簡易な構成でずれ量を抑制することにより、このボールペンチップによれば、螺旋バネのチップ本体への挿入を確実に行うことができる。このように螺旋バネのチップ本体への挿入がより確実に行われることにより、かかるボールペンチップでは、ボールが適切に付勢される。
【0010】
また、上記ボールペンチップにおいて、ストレート部は、軸線方向における小径バネ部の自然長さの半分以下であることが好ましい。この場合、ストレート部の先端が螺旋バネの長手方向軸からずれる量をより一層抑制することができる。
【0011】
また、上記ボールペンチップにおいて、バネ収容部は、バネ本体部が収容される第1のインク孔及び第1のインク孔よりもボール収容部側に形成され第1のインク孔よりも小さい内径である第2のインク孔を含み、ストレート部は、軸線方向における第2のインク孔の長さよりも短いことが好ましい。この場合、第2のインク孔に小径バネ部を挿入した際、ストレート部がボールに接触しないため、第2のインク孔に対する小径バネ部の調芯を行ってからストレート部をボールに接触させることができるため、ボールへの付勢をより確実に行うことができる。
【0012】
また、上記ボールペンチップにおいて、ストレート部は、軸線方向における連通部よりも長いことが好ましい。この場合、連通部にストレート部以外の螺旋バネが入り込む必要がなくなり、これにより、ボールへのインク供給を良好にすることができる。
【0013】
また、上記ボールペンチップにおいて、ストレート部は、軸線方向における螺旋バネ全体の自然長さに対して10分の1以下の長さであることが好ましい。この場合、螺旋バネのストレート部先端が螺旋バネの長手方向軸からずれる量をより一層抑制することができる。
【0014】
本発明は、ボールペンの発明としても捉えることもでき、本発明に係るボールペンは、上記ボールペンチップが装着された中芯と、中芯が収容された軸筒とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ボールペンチップにおいて、簡易な構成によって螺旋バネのチップ本体への挿入をより確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るボールペンチップの一実施形態を示し、軸線の上部を切り欠いた一部断面図である。
図2図1に示すボールペンチップから螺旋バネを除いた状態を示す断面図である。
図3図1に示すボールペンチップの先端を拡大した部分拡大断面図である。
図4図3に示すボールペンチップのIV−IV線に沿った断面図である。
図5図1に示すボールペンチップの螺旋バネ(非圧縮状態)を示す断面図である。
図6図1に示すボールペンチップを製造する際に螺旋バネをチップ本体に挿入する手順を示す一部断面図であり、(a)は調芯中の状態を示し、(b)は調芯後に挿入を完了した状態を示す。
図7図1に示すボールペンチップを備えたボールペンの一例を示す断面図である。
図8】ボールペンチップにおいて、螺旋バネのストレート部がインク流動溝のテーパ部に挟まった状態を示す写真である。
図9図8に示すボールペンチップのインク流動溝を後端側から視た写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明に係るボールペンチップの実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。また、ペン先側を「先方側」として以下説明する。
【0018】
図1に示されるように、ボールペンチップ10は、略筒形状のチップ本体20と、チップ本体20内に配置される螺旋バネ30と、チップ本体20の先端に配置されるボール40とを備えている。チップ本体20の内部には、先端から後端まで長手方向に延在するインク流動孔が形成されており、螺旋バネ30に加えて、インクがその流動孔内に充填されている。チップ本体20は、例えば、ステンレス、黄銅又は洋白などの合金からなり、これら合金の棒材に対してドリル加工等を施すことで形成される。なお、チップ本体20は、その先方側が円錐台形状のテーパ面27となっている。
【0019】
インクが充填されるインク流動孔は、図1図3に示されるように、ボール収容部21、連通部22、インク流動溝23、小径インク孔24、拡径インク孔25及び大径インク孔26を含んで構成される。小径インク孔24、拡径インク孔25及び大径インク孔26は、螺旋バネ30を収容するバネ収容部を形成する。
【0020】
ボール収容部21は、筆記時に回動可能となるようにボール40を収容する。ボール収容部21内に保持されたボール40は、筆記時にインクを転写するための転写ボールであり、例えば、タングステンカーバイド又はシリコンカーバイドなどを主成分とした焼結体のボールから構成される。このようなボール40は、螺旋バネ30のストレート部32に接触し、ストレート部32によって先方側へ付勢されている。
【0021】
連通部22は、ボール収容部21と小径インク孔24との間を連通させ、後述する螺旋バネ30のストレート部32の先端が挿入、配置される孔である。連通部22の壁面には、チップ本体20の軸線G方向に延在するインク流動溝23が形成されている。インク流動溝23は、軸線Gを中心にして60度の位相角を持って等間隔に例えば6つ配置されている(図4参照)。大径インク孔26及び小径インク孔24等に充填されているインクは、この連通部22及びインク流動溝23を通り、所定量がボール収容部21に供給される。
【0022】
インク流動溝23は、図3及び図4に示されるように、軸線Gに対して直交する面で切断した際の断面が矩形形状を呈しており、軸線Gに沿って延びる溝である。インク流動溝23は、ボール収容部21側から小径インク孔24に向かって、バリ等により、その幅W1が幅W2へと広がるようになっており(図8図9参照)、ボール収容部21側の幅W1が最小幅となっている。すなわち、インク流動溝23はブローチ加工により形成されるが、ボール収容部21側から小径インク孔24に向かって工具を打ち付けた際、現実には金属がむしりとられたような状況となることがあり、これによってインク流動溝23の小径インク孔24側の金属が脱落(むしりとられる)するため、幅W1が幅W2へと広がるように形成されてしまう。
【0023】
小径インク孔24は、大径インク孔26よりもボール収容部21側に形成されたインク孔であり、連通部22及びインク流動溝23に隣接している。小径インク孔24は、大径インク孔26よりも小さい内径を有しているものの、連通部22の内径よりは大きくなっている。また、小径インク孔24の軸線G方向に沿った長さは、大径インク孔26よりもかなり短くなっている一方、連通部22よりは長くなっている。小径インク孔24の軸線G方向に沿った長さは、拡径インク孔25より短い。このような小径インク孔24は、テーパ形状を呈する拡径インク孔25を介して大径インク孔26に連接される。
【0024】
大径インク孔26は、チップ本体20の軸線G方向に延在するインク孔である。大径インク孔26の後方側には、カシメ部28が周方向に等間隔で例えば3ヶ所形成されており、螺旋バネ30の後端の移動を規制する。
【0025】
螺旋バネ30は、図1及び図5に示されるように、ストレート部32、小径バネ部34、バネ本体部36及びバネ固定部38を有する弾性部材であり、螺旋バネ30の各部の軸が同軸になるように形成されている。螺旋バネ30は、例えば、線径が0.1mm程度のコイルスプリングから形成されており、一体に構成されている。螺旋バネ30は、必要に応じて、各部を別体として設けてもよい。なお、図5に示す螺旋バネ30は、チップ本体20に挿入される前のバネであり、圧縮されていないものである。
【0026】
ストレート部32は、螺旋バネ30の先端に位置しており、チップ本体20に組み込まれた際にその軸線G方向に沿うように、直線状に伸びる部分である。ストレート部32の外径(線径)は、上述したように例えば0.1mm程度であり、インク流動溝23の幅のうち最小となる幅W1(最小幅)よりも大きいことが好ましいが、そうでなくてもよい。
【0027】
ストレート部32は、その長さS1が螺旋ばね30全体の長さS3に対して十分に短くなっている。すなわち、ストレート部32は、その長さS1が螺旋ばね30全体の長さS3に対して10分の1以下となっていることが好ましい。このようにストレート部32がバネ全体の長さに対して十分に短くなっていることから、螺旋バネ30をチップ本体20に挿入する際、挿入機械等の振動を受けても、ストレート部32の先端が螺旋バネ30の中心軸からぶれる量が小さくて済む。また、本実施例においては、ストレート部32の長さS1は、小径バネ部34の軸線G方向の長さS2よりも短くなっており、例えば小径バネ部34の長さが1.5mm程度の場合に、ストレート部32の長さが0.5mm程度である。つまり、ストレート部32の長さS1としては、例えば、小径バネ部34の長さS2の1/5〜半分程度である。ストレート部32の長さS1は、軸線方向における小径インク孔24の長さよりも短いが、連通部22の長さよりは長い。なお、上記で説明した長さS2,S3は、螺旋バネ30が圧縮されていない状態での自然長さである。
【0028】
小径バネ部34は、ストレート部32の後端に連なって形成されたバネ部であり、そのバネ外径がバネ本体部36よりも小さく且つその長さがバネ本体部36よりも短くなっている。但し、この小径バネ部34は、バネ収容部の小径インク孔24の内径に略一致する外径を有しており、小径インク孔24及び拡径インク孔25内に配置される。ここで、「略一致する」とは、小径バネ部34が小径インク孔24内を摺動可能な程度に小径インク孔24の内周面に密接する状態を示し、例えば、小径バネ部34の外径(設計値)が0.75mmである場合に小径インク孔24の内径(設計値)が0.8mmであり、その隙間が0.025mm(=(0.8−0.75)/2)であるような場合を意味する。つまり、小径インク孔24の内周面と小径バネ部34のバネ外周部との間の隙間が、例えば小径バネ部34の外径の10%以下である。
【0029】
バネ本体部36は、螺旋バネ30の主要バネ部であり、バネ固定部38がチップ本体20のカシメ部28によって固定されることにより、小径バネ部34及びストレート部32を介してボール40に対し、先方側へ向かう付勢力を付与する。バネ本体部36は、小径バネ部34の軸線G方向に沿った長さよりも長く、より具体的には、小径バネ部34の長さの2倍以上の長さを有している。言い換えると、小径バネ部34は、その長さがバネ本体部36の半分以下となっている。
【0030】
このようなバネ本体部36は、チップ本体20の大径インク孔26内に配置されるが、その外径が大径インク孔26の内径よりも幾分小さくなるように設定されている。すなわち、バネ本体部36と大径インク孔26との間に十分な隙間が形成されている。このため、チップ本体20のインク流動孔内にインクを充填した際に発生する気泡を、螺旋バネ30(バネ本体部36)に邪魔されることなく、大径インク孔26の内周面に沿って、チップ本体20の後端側に集めて排出させることができる。なお、小径バネ部34と拡径インク孔25との間にも同様に十分な隙間が形成されている。さらに、十分な隙間が形成されることによって、インクの流動性も良好なものとなる。
【0031】
続いて、上述した構成を備えたボールペンチップ10の製造方法について説明する。
【0032】
まず、ステンレス等からなる棒材を所定の長さに切断した後、切削バイトによって棒材の先端に円錐台形状のテーパ面を形成する。また、ドリル加工により、ボール収容部21、連通部22、小径インク孔24、拡径インク孔25及び大径インク孔26を形成する。また、ブローチ加工により、放射状のインク流動溝23を形成する。これによりチップ本体20が形成される。なお、チップ本体20の先端のボール収容部21にボール40を収容させる。
【0033】
また、ストレート部32、ストレート部32の後端に連なる小径バネ部34及びバネ本体部36等を備えた螺旋バネ30を準備する。
【0034】
続いて、チップ本体20及び螺旋バネ30を組み立て装置に供給すると共に、チップ本体20に螺旋バネ30を挿入する。この挿入の際には、まず、図6の(a)に示すように、螺旋バネ30の小径バネ部34の先端2巻(調芯部33)をチップ本体20の小径インク孔24の後方側に挿入する。この際、小径バネ部34の調芯部33及びストレート部32の軸線G方向の合計長さL1が、小径インク孔24の後端からボール40の後端までの距離L2よりも短くなっているため、ストレート部32の先端がボール40の後端に触れない状態が維持される。また、小径バネ部34の調芯部33及びストレート部32の軸線G方向の合計長さL1は、小径インク孔24の後端からインク流動溝23の後端までの距離L2と略同等またはそれよりも短くなっているため、ストレート部32の先端がインク流動溝23内に浸入して嵌ってしまう前の状態で調芯を実施することができる。
【0035】
そして、このような状態で、小径バネ部34(調芯部33)とチップ本体20との調芯作業が、例えば振動の付与等によって行われる。本実施形態では、螺旋バネ30のストレート部32が十分に短く形成されているため、かかる振動が付与されたとしてもストレート部32先端が中心軸からずれる量が抑制されている。そして、このようにずれが抑制された状態で、チップ本体20の小径インク孔24に対して小径バネ部34及び小径バネ部34に連接されるストレート部32の調芯が実行される。
【0036】
その後、チップ本体20の小径インク孔24及びそれと同心の連通部22に対して調芯が実行された螺旋バネ30のストレート部32が、図6の(b)に示されるように、更に先方側に挿入され、螺旋バネ30のチップ本体20への挿入が完了する。なお、調芯工程を行いながら、螺旋バネ30の挿入作業を並行して進めるようにしてもよい。
【0037】
このように、本実施形態に係るボールペンチップ10では、螺旋バネ30を主に構成するバネ本体部36とストレート部32との間に、外径がより小さく且つ長さが短い、すなわち、中心軸Gに対してぶれる量がより小さくなる小径バネ部34を形成し、更に、この小径バネ部34の長さS2よりもストレート部32の長さS1が短くなるようにしている。このため、螺旋バネ30をチップ本体20に挿入する際に振動等によってバネ全体が揺れたとしても、螺旋バネ30のストレート部32先端が螺旋バネ30の長手方向軸Gからずれる量を抑制することができる。このような簡易な構成によってずれ量を抑制することにより、ボールペンチップ10によれば、螺旋バネ30のチップ本体20への挿入を確実に行うことができる。螺旋バネ30のチップ本体20への挿入がより確実に行われることにより、かかるボールペンチップ10では、ボール40が適切に付勢される。
【0038】
また、ボールペンチップ10では、ストレート部32は、軸線G方向における小径バネ部34の自然長さS2の半分以下になっている。このため、ストレート部32の先端が螺旋バネ30の長手方向軸Gからずれる量をより一層抑制することができる。
【0039】
また、ボールペンチップ10では、バネ収容部は、バネ本体部36が収容される大径インク孔26及び大径インク孔26よりもボール収容部21側に形成され大径インク孔26よりも小さい内径である小径インク孔24を含み、ストレート部32は、軸線G方向における小径インク孔24の長さよりも短くなっている。このため、小径インク孔24に小径バネ部34を挿入した際、ストレート部32がボール40に接触しないため、小径インク孔24に対する小径バネ部34の調芯を行ってからストレート部32をボール40に接触させることができるため、ボール40への付勢をより確実に行うことができる。
【0040】
また、ボールペンチップ10では、ストレート部32は、軸線G方向における連通部22よりは長くなっている。このため、連通部22にストレート部32以外の螺旋バネ30が入り込む必要がなくなり、これにより、ボール40へのインク供給を順調に行うことができる。
【0041】
また、ボールペンチップ10では、ストレート部32は、軸線G方向における螺旋バネ30全体の自然長さS3に対して10分の1以下の長さになっている。このため、螺旋バネ30のストレート部32先端が螺旋バネ30の長手方向軸Gからずれる量をより一層抑制することができる。
【0042】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形を適用できる。例えば、上記実施形態では、ストレート部32として、線状部材の先端をそのままストレート部32の先端とした形態を示したが、ストレート部32の先端を折り曲げて丸めるようにしてもよいし、小径バネ部34よりも更にバネ外周が小さい極小のバネ部を設け、その極小のバネ部を全体として見た際に軸線G方向に延びるストレート部としてもよい。
【0043】
また、上述した実施形態では、チップ本体20に螺旋バネ30を挿入して調芯を行う際の小径バネ部34の調芯部33を2巻のバネとした例を示したが、少なくとも1巻であれば調芯の機能を奏することができるため、調芯部33は、少なくとも1巻からなるバネ部であればよく、好ましくは2〜4巻からなるバネ部である。
【0044】
なお、上述したボールペンチップ10を、図7に示すように、中芯110に装着し、中芯110が収容された軸筒120とキャップ130とを備えたボールペン100としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…ボールペンチップ、20…チップ本体、21…ボール収容部、22…連通部、23…インク流動溝、24…小径インク孔、26…大径インク孔、30…螺旋バネ、32…ストレート部、34…小径バネ部、36…バネ本体部、40…ボール,100…ボールペン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9