特許第6189062号(P6189062)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6189062-窓ガラス用断熱シート 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189062
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】窓ガラス用断熱シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20170821BHJP
   B32B 3/26 20060101ALI20170821BHJP
   C03C 17/32 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   B32B27/10
   B32B3/26 A
   C03C17/32 C
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-57428(P2013-57428)
(22)【出願日】2013年3月20日
(65)【公開番号】特開2014-180826(P2014-180826A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】390003562
【氏名又は名称】株式会社ニトムズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000199979
【氏名又は名称】川上産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083404
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100166752
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 典子
(72)【発明者】
【氏名】日下部 直己
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭56−149792(JP,U)
【文献】 特開2002−266297(JP,A)
【文献】 特開2006−200111(JP,A)
【文献】 特開2003−278099(JP,A)
【文献】 特許第3721952(JP,B2)
【文献】 特開2013−173247(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3093791(JP,U)
【文献】 特開2000−015692(JP,A)
【文献】 特開2005−028624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C03C 17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に空気断熱層を有する合成樹脂製のベースシートを含み、上記ベースシートの一方の面を窓ガラスに対して貼り付ける窓ガラス用断熱シートにおいて、
上記ベースシートの一方の面は、窓ガラスに水貼り可能な水貼り性を有しているとともに、
上記ベースシートの他方の面には、紙材からなる吸水シートが一体的に貼り合わせられており、
上記吸水シートには、パルプが30〜95wt%配合されているとともに、上記吸水シートの厚さTが、90μm<T≦200μmとされていることを特徴とする窓ガラス用断熱シート。
【請求項2】
上記吸水シートは、和紙原料および/または洋紙原料を含むことを特徴とする請求項1に記載の窓ガラス用断熱シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に断熱空気層を有するベースシートを窓ガラスに水貼りによって貼り付ける窓ガラス用断熱シートに関し、さらに詳しく言えば、遮光性および吸水性に優れた窓ガラス用断熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特に、冬場の窓ガラスには、外気との寒暖の差によりガラス表面に結露水を生じることがよくある。結露水が多く生じると、室内にこぼれて壁や床面を汚し、また、サッシに溜まって凍結すると窓が開けられなくなる。
【0003】
そこで、例えば特許文献1には、内部にキャップ層と呼ばれる空気断熱層を有する断熱シートを窓ガラスの室内側に貼り付けて、結露水の発生を防止することを意図した窓ガラス用断熱シートが提案されている。
【0004】
しかしながら、この種の断熱シートを貼り付けたとしても、内外気温の温度差が大きい寒冷地や朝方などの低温時には、断熱シートの表面に結露が生じてしまうことがある。また、従来の窓ガラス用断熱シートは、採光性を妨げないように透明ではあるものの樹脂素材であるため、ガラスとは違って余り見栄えがよくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−302568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、断熱シートの表面に結露が生じても室内に垂れ落ちることなく、さらに見栄えがよい化粧性を備えた窓ガラス用断熱シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は以下に示すいくつかの特徴を備えている。すなわち、内部に空気断熱層を有する合成樹脂製のベースシートを含み、上記ベースシートの一方の面を窓ガラスに対して貼り付ける窓ガラス用断熱シートにおいて、上記ベースシートの一方の面は、窓ガラスに水貼り可能な水貼り性を有しているとともに、上記ベースシートの他方の面には、紙材からなる吸水シートが一体的に貼り合わせられており、上記吸水シートには、パルプが30〜95wt%配合されているとともに、上記吸水シートの厚さTが、90μm<T≦200μmとされていることを特徴としている。
【0008】
より好ましい態様として、上記吸水シートは、和紙原料および/または洋紙原料を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内部に空気断熱層を有するベースシートの他方の面(室内側の面)に、紙からなる吸水シートが一体的に貼り合わせられていることにより、ベースシートの表面(室内側表面)に結露が生じても、その結露水が吸水シートに吸水保持されるため、結露水の滴下による室内の壁面や床面等の汚れを防止することができる。
【0014】
また、上記吸水シートは、紙材(和紙材または洋紙材)よりなるため、吸水性がよいばかりでなく、日本古来の障子的な風合いが生まれ、リビングルームなどの窓ガラスに貼り付けても雰囲気を損なわない。
【0015】
吸水シートにパルプを30〜95wt%配合し、あるいは吸水シートの厚さTを90μm<T≦200μmとすることが好ましく、これにより、紙からなる防水シートが、水を含んで膨潤し、乾燥して収縮することにより、シワや内巻きカールが生じることを防止することができる。
【0016】
ベースシートの一方の面は水貼り性を有していることにより、水をベースシート側か窓ガラス側に吹き付けて、水貼り面を窓ガラスに貼り付けるだけで、簡単に貼り付けることができる。
【0017】
ベースシートを、吸水シートに水を含ませた状態で水貼りすることにより、ベースシートが窓に貼り付いた状態で、防水シートの繊維の間に水が入り込み、繊維が解れて乾燥されるため、断熱シート全体に生じていたカールやシワが緩和される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る断熱シートの要部分解断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
図1に示すように、この窓ガラス用断熱シート(以下、単に「断熱シート」ということがある)1は、内部に空気断熱層21を有するベースシート2と、ベースシート2の一方の面(図1では上面)に一体的に貼り合わせられる吸水シート3とを備えている。図1は、説明上、分解された状態で描画されているが、窓ガラス用断熱シート1は、実際には1枚のシート体として形成されている。
【0021】
ベースシート2は、凹凸が形成された仕切りフィルム22と、上記仕切りフィルム22の両面を挟むようにして一体的に貼り合わせられる外フィルム23および内フィルム24とを備えている。
【0022】
この実施形態において、仕切りフィルム22は、円柱状の凸部が所定間隔をもって千鳥状に配置された、いわゆるエアキャップフィルムからなり、その両面を外フィルム23と内フィルム24とで挟み込んで一体化することで、空気断熱層21を有するベースシート2が形成される。
【0023】
外フィルム23は、合成樹脂フィルムであって、一方の面(図1では上面)は熱ラミネートによって仕切りフィルム22に一体的に貼り付けられている。この実施形態において、外フィルム23の他方の面(図1では下面)には、外フィルム23を図示しない窓ガラスに水貼りすることができる水貼り性を備えている。なお、熱ラミネートに変えて粘着剤や接着剤を用いて接合してもよい。
【0024】
この実施形態において、外フィルム23は、ポリオレフィン系樹脂が用いられている。これにより、外フィルム23の親水性がよくなり、外フィルム23の表面に水を塗って窓ガラスに貼り付ける、いわゆる水貼りが可能となる。なお、窓ガラスに水を塗布して、そこに外フィルム23を貼り合わせてもよい。
【0025】
この他に、外フィルム23に水貼り性を持たせるためには、例えば外フィルム23の表面にコロナ放電加工を施し、マイクロボイドを形成してさらに水貼り性を向上させるなどしてもよい。
【0026】
内フィルム24には、合成樹脂フィルムが用いられており、一方の面(図1では下面)は熱ラミネートによって仕切りフィルム22に貼り付けられている。内フィルム24の他方の面(図1では上面)には、吸水シート3が一体的に貼り合わされている。なお、熱ラミネートに変えて粘着剤や接着剤を用いて接合してもよい。
【0027】
吸水シート3は、内フィルム24に熱ラミネートにより一体的に貼り合わせられることが好ましいが、接着剤や粘着剤を介して一体化されてもよい。
【0028】
吸水シート3は紙材からなる。この実施形態において、紙材は洋紙原料および/または和紙原料からなり、それらが単体もしくは所定の配合比に混合して配合されている。
【0029】
洋紙原料としては一般的なパルプなどが用いられるが、これ以外の材料が用いられてもよい。和紙原料としては、麻や楮など和紙材に用いられる原料を使用することができる。
【0030】
吸水シート3は紙材からなるため、水を含むと膨潤し、乾燥すると収縮する。したがって、吸水シート3の厚みや構成によっては、膨潤と収縮によって吸水シート3にシワやカールが生じる。そこで、吸水シート3にパルプを30〜95%配合し、また、その厚さTが90μm<T≦200μmとなるようしている。
【0031】
これによれば、パルプ配合量が30%未満の場合は、吸水シートの伸縮率が悪く、吸水乾燥させた後のシワや凹凸が取れににくいため好ましくない。逆に、パルプ配合量が95%を超えると、コシがなく、強度が弱くなりすぎるため、水を含ませると溶けてしまうため好ましくない。
【0032】
また、厚さTが90μm未満の場合は強度が弱くなり過ぎてしまうため好ましくないし、逆に厚さTが200μmを超えると、強度が高くなりすぎるため、好ましくない。
【0033】
このように、紙素材を含んだ吸水シート3をベースシート2に一体的に貼り合わせたことにより、ベースシート2の表面に結露が生じても、その結露水を吸水シート3で吸収して蒸散するため、結露水が垂れることを防止できる。
【0034】
また、吸水シート3が紙素材であるため、紙素材の質感を活かすことで見た目や風合いを向上させることができ、また、窓ガラスに貼り付けてもインテリアデザインの雰囲気を損なわない。
【0035】
この断熱シート1の貼り付け順の一例について、図1を参照しながら説明する。まず、この断熱シート1の両面(外フィルム23側と吸水シート3側)に水を吹き付ける。水を含ませる方法としては、スプレーで水をかけたり、ハケで水を塗布する方法などがある。
【0036】
次に、水で塗らした断熱シート1の外フィルム23を一端側から他端側に空気を抜きながら、図示しない窓ガラスに沿って貼り付ける。貼り付けたのち、吸水シート3を乾燥させるべく、しばらく放置しておく。
【0037】
このように、吸水シート3は一度水を含ませることにより、ベースシート2が窓ガラスに張り付いた状態で、繊維の間に水が入り込み、繊維が解れてから乾燥するため、断熱シート1全体に生じていたカール力やシワ(凹凸)が緩和され、長期間にわたって安定した貼付状態を維持することができる。
【0038】
また、吸水シート3に未だ残されているカール力をさらに緩和するため、一度乾いた吸水シート3に再度水を吹き付けて、乾燥させることが好ましい。さらに好ましくは、これを2,3回繰り返すことにより、吸水シート3のカール力がほぼなくなり、断熱シート1を窓ガラス面に対して密着させることができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明の具体的な実施例について、比較例とともに検討する。まず、実施例1〜3および比較例1の吸水シートをそれぞれ4枚ずつ作製した。その各試験片について、以下に示す伸縮試験と吸水試験を行った。各試験の試験環境はJIS−Z8703に準拠する試験環境とした。
【0040】
〔伸縮試験〕
まず、上記各吸水シート(幅(横)20cm×長さ(縦)20cm)を水槽に漬けて取り出し、それを自然乾燥させて、水に漬ける前(ブランク状態)と乾燥後の寸法変化量(伸縮量)を計測した。計測は、ブランク状態の試験片の計測を行ったのち、水の含浸と乾燥とを5回繰り返し、その平均寸法変化量を縦方向と横方向の両方を測定した。また、その厚さの平均も合わせて測定した。寸法変化として縮んだ場合を(−)とした。
【0041】
〔吸水試験〕
上記各吸水シート(縦10cm×横10cm)を水に漬ける前(ブランク状態)と、水に漬けた後の重さを計量して、吸水シートの吸水特性を測定した。試験はそれぞれ3回ずつ行い、その平均変化量を算出した。試験条件は、室温状態のブランク試験片を50℃に加熱乾燥したのち、水に3時間漬けた後で取り出して、加熱乾燥時と吸水時のそれぞれの重さを3回ずつ計測した、さらにその平均吸水量を算出した。
【0042】
以下に、実施例1〜3および比較例1の吸水シートのスペックと、伸縮試験および吸水試験の結果を示す。
【0043】
《実施例1》
〔配合比〕パルプ40%,ビニロン5%,楮25%,麻15%,レーヨン15%
〔平均厚さ〕120μm
〔横方向の平均変化量〕−0.69%
〔縦方向の平均変化量〕−1.00%
〔平均吸水量〕1.32g
【0044】
《実施例2》
〔配合比〕パルプ75%,ビニロン5%,合成繊維20%
〔平均厚さ〕115μm
〔横方向の平均変化量〕−1.25%
〔縦方向の平均変化量〕−0.88%
〔平均吸水量〕1.22g
【0045】
《実施例3》
〔配合比〕パルプ95%,ビニロン5%
〔平均厚さ〕100μm
〔横方向の平均変化量〕−1.06%
〔縦方向の平均変化量〕−0.81%
〔平均吸水量〕1.10g
【0046】
〈比較例1〉
〔配合比〕ポリエステル100%
〔平均厚さ〕90μm
〔横方向の平均変化量〕−0.06%
〔縦方向の平均変化量〕−0.06%
〔平均吸水量〕0.88g
【0047】
上記実施例1〜3および比較例1のスペックおよび具体的な測定量を表1に示し、また、吸水量についての具体的な測定結果を表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
次に、上記実施例3の吸水シートをベースシート(横(幅)900mm×縦(長さ)900mm)に熱ラミネートによって貼り合わせた断熱シートを用意する。この断熱シートを窓ガラスに水貼りによって貼り付ける。水貼りは、窓ガラス側に霧吹きで水を吹き付けたのち、そこに断熱シートの水貼り面を貼り付けるとともに、吸水シート3にも合わせて霧吹きでまんべんなく水を吹き付ける。
【0051】
また、比較例として、吸水シート3に水を与えずに水貼りした断熱シートを別に用意した。しかるのち、窓ガラスへの貼り付けから24時間乾燥させた後、両断熱シートの四辺が捲り上がり浮き上がっていないかどうかを目視により確認した。また、実施例および比較例の各断熱シートの吸水シート3側に対し水を噴霧して乾燥させたのち、それぞれの四辺のカールを確認した。これを1〜3回繰り返し行い、それぞれについて確認した。
【0052】
その結果を以下に示す。また、そのまとめを表3に示す。
【0053】
《実施例4》
〔ベースシートと吸水シートの両方に水を与えて水貼り〕
〔初回〕○
〔1回目〕○
〔2回目〕カール小
〔3回目〕カール小
【0054】
〈比較例2〉
〔ベースシート単体のみ吸水して水貼り〕
〔初回〕○
〔1回目〕カール中
〔2回目〕カール中
〔3回目〕カール大
【0055】
【表3】
【0056】
この断熱シート1によれば、ベースシート2の表面に吸水シート3を一体的に貼り合わせることにより、ベースシートの表面に結露が生じても、結露水を吸水シート3が吸い取ることで、結露水が下に垂れることを防止することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 窓ガラス用断熱シート
2 ベースシート
21 空気断熱層
22 仕切りフィルム
23 外フィルム
24 内フィルム
3 吸水シート
図1