特許第6189065号(P6189065)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189065
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】流体動圧軸受装置およびその組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 43/02 20060101AFI20170821BHJP
   F16C 17/10 20060101ALI20170821BHJP
   H02K 7/08 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   F16C43/02
   F16C17/10 A
   H02K7/08 A
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-62174(P2013-62174)
(22)【出願日】2013年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-185735(P2014-185735A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大智
(72)【発明者】
【氏名】藤原 幹久
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 智行
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−231874(JP,A)
【文献】 特開2003−294050(JP,A)
【文献】 特開2002−061636(JP,A)
【文献】 特開2003−214432(JP,A)
【文献】 特開2003−232376(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0315169(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0133226(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 35/00−39/06,43/00−43/08
H02K 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の内方部材と、前記内方部材の外周面と半径方向に対向する円筒部、及び、前記内方部材の軸方向一方の端面と軸方向に対向する平板部を有する第1外方部材と、前記第1外方部材の円筒部の外周面に固定された円筒部、及び、前記内方部材の軸方向他方の端面と軸方向に対向する平板部を有する第2外方部材と、前記第1外方部材の円筒部の内周面と前記内方部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間と、前記内方部材の軸方向一方の端面と前記第1外方部材の平板部との間、及び、前記内方部材の軸方向他方の端面と前記第2外方部材の平板部との間にそれぞれ形成されるスラスト軸受隙間と、前記ラジアル軸受隙間及び前記スラスト軸受隙間に介在させた潤滑油とを備えた流体動圧軸受装置であって、
前記第1外方部材の円筒部の外周面と前記第2外方部材の円筒部の内周面とを、圧入することなく半径方向隙間を介して嵌合させ、前記半径方向隙間に、前記第1外方部材と前記第2外方部材とを仮固定する第1接着剤と、前記半径方向隙間を完全に封止する第2接着剤とを介在させ
前記第2外方部材の円筒部の内周面の大気開放側端部に、大気開放側に向けて拡径したテーパ面を設け、
前記半径方向隙間のうち、前記テーパ面よりも閉塞側の領域に、第1隙間と、前記第1隙間よりも隙間幅が大きい第2隙間とを設け、
前記第1隙間に前記第1接着剤を配すると共に、前記第2隙間に前記第2接着剤を配した流体動圧軸受装置。
【請求項2】
前記第1接着剤が、シアノアクリレート系の瞬間接着剤、又は、嫌気性接着剤である請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項3】
前記第2接着剤が、エポキシ系接着剤又は紫外線硬化型接着剤である請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項4】
前記半径方向隙間が30〜100μmの範囲内である請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項5】
前記第2接着剤を前記第1接着剤よりも前記半径方向隙間の大気開放側に配した請求項1記載の流体動圧軸受装置。
【請求項6】
環状の内方部材と、前記内方部材の外周面と半径方向に対向する円筒部、及び、前記内方部材の軸方向一方の端面と軸方向に対向する平板部を有する第1外方部材と、前記第1外方部材の円筒部の外周面に固定された円筒部、及び、前記内方部材の軸方向他方の端面と軸方向に対向する平板部を有する第2外方部材と、前記第1外方部材の円筒部の内周面と前記内方部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間と、前記内方部材の軸方向一方の端面と前記第1外方部材の平板部との間、及び、前記内方部材の軸方向他方の端面と前記第2外方部材の平板部との間にそれぞれ形成されるスラスト軸受隙間とを備え、前記第2外方部材の円筒部の内周面の大気開放側端部に、大気開放側に向けて拡径したテーパ面を有する流体動圧軸受装置の組立方法であって、
前記第1外方部材と前記第2外方部材との軸方向間に前記内方部材を配すると共に、前記第1外方部材の円筒部の外周面と前記第2外方部材の円筒部の内周面とを圧入することなく半径方向隙間を介して嵌合させ、前記半径方向隙間のうち、前記テーパ面よりも閉塞側の領域に、第1隙間と、前記第1隙間よりも隙間幅が大きい第2隙間とを設けるステップと、
前記第1スラスト軸受隙間及び前記第2スラスト軸受隙間の隙間幅を設定した状態で、前記半径方向隙間の第1隙間に第1接着剤を介在させて、前記第1外方部材と前記第2外方部材とを前記第1接着剤で仮固定するステップと、
前記半径方向隙間の第2隙間を、第2接着剤で完全に封止するステップとを順に経て行う流体動圧軸受装置の組立方法。
【請求項7】
前記半径方向隙間に前記第1接着剤を供給した後、前記第1接着剤に硬化促進剤を付与する請求項記載の流体動圧軸受装置の組立方法。
【請求項8】
前記第1外方部材と前記第2外方部材とを前記第1接着剤で仮固定した後、前記第1接着剤よりも前記半径方向隙間の大気開放側に前記第2接着剤を充填する請求項記載の流体動圧軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内方部材と外方部材との間の軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用で、内方部材を相対回転自在に支持する流体動圧軸受装置およびその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
換気扇等の電気機器に搭載されるモータには軸受が組み込まれており、この軸受によって、回転軸が相対回転自在に支持されている。この種の軸受として、外輪と、内輪と、これらの間に介在された複数の転動体と、複数の転動体を保持する保持器とからなる、いわゆる転がり軸受が一般的に使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
例えば、住宅に設けられる小型の換気扇、特に、24時間換気システムに設けられる小型の換気扇は、低コスト化が要求されているが、転がり軸受は、上述のとおり数多くの部品で構成されていることから低コスト化には限度がある。また、上記システムの換気扇は基本的に連続運転されることから、特に低騒音であることが求められる。しかしながら、転がり軸受では、運転時に保持器のポケットと転動体とが衝突することによって生じるいわゆる保持器音や、内外輪の軌道面上を転動体が転動することによって生じる摩擦音等の発生が避けられないことから、更なる静粛性向上の要請に対応するのが困難である。
【0004】
上記のような事情に鑑み、換気扇等のモータに組み込む軸受として、流体動圧軸受を使用する場合がある。例えば特許文献2に示されている流体動圧軸受装置は、図12に示すように、内方部材101と、内方部材101の外周面101a及び両端面101b,101cを囲む外方部材102とを有し、内方部材101と外方部材102との間には潤滑油が満たされる。内方部材101が回転すると、内方部材101の外周面101aと外方部材102の内周面102aとの間にラジアル軸受隙間R’が形成されると共に、内方部材101の軸方向両端面101b,101cと外方部材102の内側端面102b,102cとの間にそれぞれスラスト軸受隙間T’が形成され、これらのラジアル軸受隙間R’及びスラスト軸受隙間T’の潤滑油に生じる動圧作用で、内方部材101が回転自在に支持される。このように、転がり軸受を流体動圧軸受で代替することにより、部品数の削減による低コスト化や、静粛性の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−249142号公報
【特許文献2】特開2011−231874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、図12に示すように、断面L字型をなした第1外方部材110と第2外方部材120とを組み合せて外方部材102を構成している。外方部材102を組み立てるに際には、第1外方部材110の円筒部111と第2外方部材120の円筒部121とを嵌合させた状態で、これらの間に接着剤を注入することで固定される。この場合、接着剤が硬化するまでの間、第1外方部材110と第2外方部材120とを保持する必要がある。特許文献1では、図13に示すように、第1外方部材110の外周面の円周方向複数箇所に突起130を設け、この突起130を対向する第2外方部材120の円筒状内周面に圧入することで、両者を仮固定している。
【0007】
しかし、突起130を圧入することにより、第1外方部材110の円筒部111が縮径方向に変形してラジアル軸受面の精度低下を招いたり、第2外方部材120の円筒部121が拡径方向に変形して他部材への組付性が低下したりする恐れがある。また、第1外方部材110と第2外方部材120とを圧入することにより削り屑が生じ、この削り屑が周囲に落ちたり、軸受内部の潤滑油にコンタミとして混入して軸受性能を低下させたりする恐れがある。
【0008】
上記のような不具合を回避するためには、第1外方部材110と第2外方部材120とを隙間を介して嵌合させ、この状態で両者を接着固定すればよい(隙間接着)。しかし、この場合、接着剤が硬化するまで第1外方部材110及び第2外方部材120を治具で保持する必要があるため、この間に次の外方部材を組み立てるためには別の治具が必要となる。従って、このような方法で流体動圧軸受装置を量産すると、膨大な数の治具が必要となるため、生産コストが高騰する。
【0009】
以上の事情に鑑み、本発明は、外方部材の変形、削り屑の発生、及び高コスト化を招くことなく、流体動圧軸受装置の組立を容易化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
例えば、硬化速度の早い接着剤(例えば瞬間接着剤)を用いて第1外方部材と第2外方部材を固定すれば、第1外方部材と第2外方部材とを治具で保持する時間を短縮することができるため、治具の個数を減らすことが可能となる。しかし、外方部材と内方部材との間は潤滑油が満たされるため、第1外方部材の円筒部の外周面と第2外方部材の円筒部の内周面との間の半径方向隙間を接着剤で完全に封止して潤滑油の漏れ出しを防止する必要があるが、瞬間接着剤は、隙間を完全に埋めて封止する機能(封止性)に劣るものが多いため、上記の半径方向隙間を完全に封止できずに油漏れが生じる恐れがある。
【0011】
そこで、本発明に係る流体動圧軸受装置は、環状の内方部材と、内方部材の外周面と半径方向に対向する円筒部、及び、内方部材の軸方向一方の端面と軸方向に対向する平板部を有する第1外方部材と、第1外方部材の円筒部の外周面に固定された円筒部、及び、内方部材の軸方向他方の端面と軸方向に対向する平板部を有する第2外方部材と、第1外方部材の円筒部の内周面と内方部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間と、内方部材の軸方向一方の端面と第1外方部材の平板部との間、及び、内方部材の軸方向他方の端面と第2外方部材の平板部との間にそれぞれ形成されるスラスト軸受隙間と、ラジアル軸受隙間及びスラスト軸受隙間に介在させた潤滑油とを備え、第1外方部材の円筒部の外周面と第2外方部材の円筒部の内周面とを圧入することなく半径方向隙間を介して嵌合させ、この半径方向隙間に、第1外方部材と第2外方部材とを仮固定する第1接着剤と、半径方向隙間を完全に封止する第2接着剤とを介在させたものである。
【0012】
この流体動圧軸受装置は、第1外方部材と第2外方部材との軸方向間に内方部材を配すると共に、第1外方部材の円筒部の外周面と第2外方部材の円筒部の内周面とを圧入することなく半径方向隙間を介して嵌合させるステップと、第1スラスト軸受隙間及び第2スラスト軸受隙間の隙間幅を設定した状態で、第1外方部材と第2外方部材とを第1接着剤で仮固定するステップと、上記の半径方向隙間を、第2接着剤で完全に封止するステップとを順に経て組み立てることができる。
【0013】
上記のように、第1外方部材と第2外方部材とを圧入することなく半径方向隙間を介して嵌合させることで、圧入による変形や削り屑の発生を回避できる。また、第1外方部材と第2外方部材を仮固定する第1接着剤は、封止性は要求されないため硬化時間の短い接着剤(例えば瞬間接着剤)を使用することができる。このように、第1外方部材と第2外方部材とを瞬間接着剤等で仮固定することで、スラスト軸受隙間を設定した状態で第1外方部材と第2外方部材を保持する時間、すなわち治具を使用する時間を短縮できるため、量産時における治具の使用個数を削減することができる。このとき、第1外方部材と第2外方部材との間の半径方向隙間に供給した第1接着剤に硬化促進剤を付与すれば、第1接着剤の硬化時間がさらに短くなるため、第1外方部材と第2外方部材とを治具で保持する時間をさらに短縮できる。さらに、第1外方部材と第2外方部材とを仮固定することで、その後に半径方向隙間に充填される第2接着剤には硬化時間の制約はなくなり、封止性に優れたものを用いることができるため、半径方向隙間を完全に封止することが可能となる。
【0014】
第1接着剤としては、例えばシアノアクリレート系の瞬間接着剤や嫌気性接着剤を使用することができる。第2接着剤としては、例えばエポキシ系接着剤や紫外線硬化型接着剤を使用することができる。
【0015】
第1外方部材と第2外方部材との間の半径方向隙間は、30〜100μmの範囲内とすることが好ましい。半径方向隙間が30μm未満になると、接着剤を充填することが困難となり、半径方向隙間が100μmを超えると、第1接着剤による仮固定が困難となるからである。
【0016】
第1外方部材と第2外方部材との間の半径方向隙間に、大きさの異なる第1隙間及び第2隙間を設け、第1隙間に第1接着剤を配すると共に、第2隙間に第2接着剤を配すれば、第1隙間及び第2隙間を、それぞれ第1接着剤及び第2接着剤に適した大きさに設定することができる。例えば、第1接着剤としては硬化時間が短いものが好ましいが、このような接着剤は封止性に劣るものが多いため、第1隙間は比較的小さい方が好ましい。また、第2接着剤は粘性が高いものが多いため、第2隙間は比較的大きい方が好ましい。以上より、第1隙間は第2隙間よりも小さくすることが好ましい。
【0017】
例えば、第1外方部材と第2外方部材との間の半径方向隙間の大気開放側の端部に第1接着剤を塗布して仮固定すると、硬化した第1接着剤が邪魔になって第2接着剤の半径方向隙間への供給が阻害される恐れがある。そこで、第1接着剤を半径方向隙間の閉塞側に配し、この第1接着剤よりも大気開放側に第2接着剤を充填すれば、上記の不具合を回避できる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、外方部材の変形及び削り屑の発生や、高コスト化を招くことなく、流体動圧軸受装置の組立を容易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】換気扇モータ用の軸受ユニットの縦断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る流体動圧軸受装置の縦断面図である。
図3】(a)は内方部材を図2のA方向から見た側面図、(b)は同B方向からみた側面図、(c)は同C方向から見た側面図である。
図4図2の拡大図である。
図5】上記流体動圧軸受装置の組立方法を示す断面図である。
図6】上記流体動圧軸受装置の組立方法を示す断面図である。
図7】上記流体動圧軸受装置の組立方法を示す断面図である。
図8】上記流体動圧軸受装置の組立方法を示す断面図である。
図9】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置の拡大断面図である。
図10】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置の拡大断面図である。
図11】他の実施形態に係る流体動圧軸受装置の断面図である。
図12】従来の流体動圧軸受装置の断面図である。
図13図12のX−X線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る流体動圧軸受装置4を組み込んだ軸受ユニット1の軸方向断面図である。この軸受ユニット1は、例えば、住宅の居室に設置される24時間換気システムの小型換気扇用モータ(より厳密に言えば、換気扇用インナーロータ型モータ)に組み込まれて使用されるものである。軸受ユニット1は、回転軸2と、回転軸2の外周面に固定されたモータロータ3、回転軸2の端部に設けられたファン6とからなる回転体を回転自在に支持するために、モータロータ3の軸方向両側に設けられ、回転軸2とハウジング5の間に配置された一対の流体動圧軸受装置4、4から構成される。軸方向一方(図中右側)の流体動圧軸受装置4とハウジング5との間には、スプリング7が圧縮状態で配置されている。尚、ステータは図示を省略している。
【0022】
流体動圧軸受装置4は、図2に示すように、内方部材10と、この内方部材10を回転自在に支持する外方部材20とを備える。内方部材10は、内周面13が回転軸2の外周面に圧入や接着により固定される(図1参照)。外方部材20は、外周面22a2がハウジング5の内周面に嵌合し、軸方向に摺動可能な状態で取り付けられる(図1参照)。軸方向および半径方向で互いに対向する内方部材10と外方部材20の各面間(ラジアル軸受隙間Rおよびスラスト軸受隙間T)には潤滑油が介在している(図2参照)。尚、図1中の流体動圧軸受装置4、4は、同一構造である。
【0023】
内方部材10は、環状をなし、金属、例えば焼結金属で形成される。内方部材10は、断面略矩形状をなした略円筒状の軸受部10aと、軸受部10aの内周に設けられ、回転軸2の外周面に固定される略円筒状の固定部10bとを有する。本実施形態では、軸受部10aと固定部10bとが一体に形成される。尚、図2では、軸受部10aと固定部10bとの概念的な境界を点線で示している。
【0024】
内方部材10の軸受部10aの外周面11は円筒面状を成し、この面がラジアル軸受面として機能する。軸受部10aの外周面11には動圧溝11aが形成される。本実施形態では、例えば図3(b)に示すようなヘリングボーン形状の動圧溝11aが、外周面11の全面に形成される。動圧溝11aは、例えば転造加工により形成される。本実施形態では、内方部材10が焼結金属で形成されるため、転造加工の圧迫による内方部材10の外周面11の塑性流動を焼結金属の内部気孔で吸収できる。このため、塑性流動による内方部材10の表面の盛り上がりが抑えられ、動圧溝11aを精度良く形成することができる。尚、図3(b)では、動圧溝11a間の丘部をクロスハッチングで示している。
【0025】
内方部材10の軸受部10aの軸方向両側の端面12は、軸方向と直交する方向に延在し、この面がスラスト軸受面として機能する。軸受部10aの軸方向両側の端面12には動圧溝12aが形成される。本実施形態では、例えば図3(a)及び(c)に示すように、ヘリングボーン形状の動圧溝12aが、端面12の全面に形成される。本実施形態では、内方部材10が焼結金属で形成されるため、動圧溝12aをプレス加工により精度良く形成することができる。動圧溝12aは、例えば焼結金属製の内方部材10のサイジングと同時に型成形することができる。尚、図3(a)及び(c)では、動圧溝12a間の丘部をクロスハッチングで示している。
【0026】
固定部10bは、軸受部10aの軸方向両側の端面12よりも軸方向外側に突出し、その突出した部分の外周面14が、外方部材20の内径端と半径方向に対向している。固定部10bの内周面13は、回転軸2の外周面に固定される。
【0027】
内方部材10は、例えば銅鉄系の焼結金属で形成され、本実施形態では、銅の配合比率が20〜80%の銅鉄系の焼結金属で形成される。銅の配合比率が20%未満になると動圧溝の成形性や潤滑性で問題となり、一方、銅の配合比率が80%を超えると鉄の割合が過小となって耐摩耗性が不足する恐れがあるためである。また、内方部材10のうち、少なくともラジアル軸受面を形成する外周面11は、焼結部材の表面開孔率を2〜20%とする。表面開孔率が2%未満では潤滑油の循環が十分でなく、表面開孔率が20%を超えると潤滑油の圧力が低下する。さらに、内方部材10の密度は、潤滑油の連通性や塑性加工性を維持するために、6〜8g/cm3とされる。
【0028】
外方部材20は、図2に示すように、断面L字形状をなした環状の第1外方部材21及び第2外方部材22からなる。第1外方部材21は、円筒部21aと、円筒部21aの軸方向一端(図2の右端)から内径側に延在する平板部21bとを一体に有する。第2外方部材22は、円筒部22aと、円筒部22aの軸方向他端(図2の左端)から内径側に延在する平板部22bとを一体に有する。本実施形態では、例えば金属板をプレス加工して、第1外方部材21及び第2外方部材22が形成される。金属板は、ステンレス鋼板や冷間圧延鋼板等を用いることができ、その板厚は0.1〜1mm程度である。
【0029】
図4に示すように、第1外方部材21の円筒部21aの外周面21a2と第2外方部材22の円筒部22aの内周面22a1とは、何れの箇所でも圧入されておらず、半径方向隙間Pを介して嵌合している。図示例では、第1外方部材21の外周面21a2及び第2外方部材22の内周面22a1が共に平滑な円筒面であり、半径方向隙間Pが軸方向で一定となっている。半径方向隙間Pの大きさは、例えば30〜100μmの範囲に設定される。
【0030】
半径方向隙間Pには、第1接着剤Q1及び第2接着剤Q2が介在している。第1接着剤Q1は、第1外方部材21と第2外方部材22を仮固定するためのものである。第1接着剤Q1としては、硬化時間が短いものが使用されるが、硬化時間が短すぎると後述するスラスト軸受隙間の設定に要する作業時間が確保できないため、一定時間(例えば60秒)は硬化しないものが好ましい。具体的には、第1接着剤Q1として、例えば瞬間接着剤(シアノアクリレート系接着剤)、嫌気性接着剤、あるいは紫外線硬化型接着剤等が使用される。第2接着剤Q2は、半径方向隙間Pの全周を完全に封止している。第2接着剤Q2としては、封止性に優れたものが使用できる。例えば、硬化時に体積収縮が生じるものは、半径方向隙間Pを完全に封止することができない恐れがあるため、第2接着剤としては体積収縮を生じないものが好ましい。また、現実の半径方向隙間Pは隙間幅が完全に均一ではないため、第2接着剤Q2の粘度が低すぎると、毛管現象により第2接着剤が隙間の狭い側に移動し、半径方向隙間Pを完全に封止することができない恐れがある。従って、第2接着剤Q2としては、粘度が比較的高いもの(例えば、2800cp以上(23℃、50rpm/cp))が好ましい。具体的には、第2接着剤Q2として、例えばエポキシ系接着剤や、紫外線硬化型接着剤が使用できる。本実施形態では、第1接着剤Q1としてシアノアクリレート系接着剤が使用され、第2接着剤Q2としてエポキシ系接着剤が使用される。第1接着剤Q1は、例えば円周方向に離隔した複数箇所に配され、且つ、第2接着剤Q2よりも半径方向隙間Pの閉塞側(図4の左側)に配される。尚、第1接着剤Q1及び第2接着剤Q2の配置箇所は上記に限らず、例えば、第1接着剤Q1を全周に配してもよい。
【0031】
図2に示すように、第1外方部材21の円筒部21aの内周面21a1は平滑な円筒面で形成され、ラジアル軸受面として機能する。第1外方部材21の平板部21bの内側端面21b1、及び、第2外方部材22の平板部22bの内側端面22b1は、平滑な平坦面で形成され、それぞれスラスト軸受面として機能する。外方部材20の内周面21a1(ラジアル軸受面)と内方部材10の軸受部10aの外周面11(ラジアル軸受面)との間にはラジアル軸受隙間Rが形成され、外方部材20の内側端面21b1,22b1(スラスト軸受面)と内方部材10の軸受部10aの両端面12(スラスト軸受面)との間には、それぞれスラスト軸受隙間Tが形成される。
【0032】
第1外方部材21の平板部21bの内径端、及び、第2外方部材22の平板部22bの内径端は、内方部材10の固定部10bの外周面14と適宜の半径方向隙間をもって対向している。図示例では、平板部21b,22bの内径端に、軸方向外側に向けて拡径したテーパ面21b2,22b2が形成され、このテーパ面21b2,22b2と固定部10bの外周面14との間に断面楔状のシール空間Sが形成される。このシール空間Sにより、潤滑油の漏れ出しが防止される。さらに、内方部材10の固定部10bの端面15や、外方部材20の外側端面(平板部21b,22bの外側端面)に撥油剤を塗布すれば、シール空間Sからの油漏れをより確実に防止できる。
【0033】
以上の構成からなる流体動圧軸受装置4の内部空間には焼結金属製の内方部材10の内部気孔を含めて、潤滑油が充填される。潤滑油は、図2に示すように、内方部材10と外方部材20との間の隙間に満たされ、スラスト軸受隙間T及びシール空間Sの毛細管力により外径側(ラジアル軸受隙間R側)に引き込まれる。潤滑油の油面は、スラスト軸受隙間Tあるいはシール空間Sに保持される。
【0034】
回転軸2が回転すると、各流体動圧軸受装置4のラジアル軸受隙間Rの油膜の圧力が動圧溝11aにより高められ、この油膜の動圧作用により回転軸2および内方部材10が外方部材20に対してラジアル方向に非接触支持される。これと同時に、各流体動圧軸受装置4のスラスト軸受隙間Tの油膜の圧力が動圧溝12aにより高められ、回転軸2および内方部材10が外方部材20に対して、両スラスト方向に非接触支持される(図2参照)。
【0035】
スラスト軸受隙間Tの潤滑油に動圧作用が生じると、図中右側の流体動圧軸受装置4の外方部材20が図中右側にスライドしてスプリング7を圧縮することにより、両流体動圧軸受装置4,4のスラスト軸受隙間Tが確保される。このように、外方部材20をハウジング5に対して軸方向移動可能な状態で嵌合することで、スラスト軸受隙間Tを高精度に設定することができる。これにより、外方部材20に対して内方部材10が確実に非接触支持され、接触摺動による騒音の発生をより確実に防止できる。
【0036】
次に、上記の流体動圧軸受装置4の組立方法について説明する。
【0037】
この組立方法に用いられる治具30は、図5に示すように、固定治具31と、固定治具31の内側に配置され上下方向に移動可能な移動治具32とからなる。固定治具31は、載置面31a、ガイド面31b、及び、移動治具32と摺動自在に嵌合する内周面31cを有する。移動治具32は、肩面32a、ガイド面32bおよび固定治具31と摺動自在に嵌合する外周面32cを有する。
【0038】
まず、固定治具31のガイド面31bに第2外方部材22の平板部22bを下向きにして挿入し、平板部22bを載置面31aに当接させて設置する。その後、内方部材10の内周面13を移動治具32のガイド面32bに嵌合させると共に、内方部材10を第2外方部材22の内周に挿入し、内方部材10の軸受部10aの下側端面12を第2外方部材22の平板部22bの内側端面22b1に当接させる。このとき、移動治具32の肩面32aは、内方部材10の固定部10bの下側端面15よりも下方に位置している。
【0039】
その後、図6に示すように、移動治具32を上昇させ、移動治具32の肩面32aを内方部材10の固定部10bの下側端面15に当接させる。この位置を基準位置として、移動治具32をさらに上昇させて内方部材10を第2外方部材22から離隔させ、両スラスト軸受隙間Tの合計量Δとなる位置で止め、この位置で静止状態を維持する。
【0040】
次に、図7に示すように、第1外方部材21を第2外方部材22に組み付ける。このとき、第1外方部材21の円筒部21aの外周面21a2には、予め第1接着剤Q1を塗布しておく。本実施形態では、円筒部21aの外周面21a2のうち、軸方向中央よりやや下方の円周方向に離隔した複数箇所に、第1接着剤Q1を点状に塗布しておく(図示省略)。こうして第1接着剤Q1が塗布された第1外方部材21の円筒部21aの外周面21a2を、第2外方部材22の円筒部22aの内周面22a1に圧入することなく半径方向隙間を介して嵌合させ、平板部21bの下側端面21b1が内方部材10の軸受部10aの上側端面12に当接したら、スラスト軸受隙間Tの設定が完了する。スラスト軸受隙間Tの設定が完了するまでの間に第1接着剤Q1が硬化すると、作業が阻害されるため、第1接着剤Q1には、スラスト軸受隙間Tの設定作業時間を確保できる硬化時間(例えば60秒以上)を有するものが使用される。また、第1接着剤Q1として粘度が800mPa・sec以上のものを使用することで、第1接着剤Q1が下方に垂れてラジアル軸受面やスラスト軸受面に付着する事態や、スラスト軸受隙間Tの設定が完了する前に第1接着剤Q1が硬化する事態を防止できる。
【0041】
こうして、スラスト軸受隙間Tが設定された状態で、第1外方部材21の円筒部21aと第2外方部材22の円筒部22aとの間の半径方向隙間Pに介在した第1接着剤Q1を硬化させることで、第1外方部材21と第2外方部材22とが仮固定される。本実施形態では、半径方向隙間Pに介在した第1接着剤Q1に硬化促進剤を付与することにより、第1接着剤Q1の硬化を促進する。これにより、第1接着剤Q1として、硬化時間が比較的長いものでも使用することが可能となる。硬化促進剤は、半径方向隙間Pの大気開放側の端部(図7の上端)のうち、円周方向に離隔した複数箇所(例えば直径方向で対向した2箇所)から滴下される。硬化促進剤としては、例えば、硬化促進成分として芳香族アミンを0.1〜30%含むものを使用することができる。硬化促進剤の溶媒としては、揮発性の高い有機溶媒、例えばアセトンを使用することができる。こうして、硬化促進剤の成分を調整して揮発時間を管理することにより、第1接着剤Q1が硬化する前に第1隙間P1からはみ出してラジアル軸受面やスラスト軸受面まで回り込む事態を防止することができる。
【0042】
第1接着剤Q1が硬化して第1外方部材21と第2外方部材22とが仮固定されたら、内方部材10及び外方部材20からなるサブアッシを治具30から取り外す。こうして、第1外方部材21と第2外方部材22とを仮固定して治具30から取り外すことにより、各製品の製造工程における治具30の使用時間が短縮され、この治具30を次の製品(流体動圧軸受装置4)の組立工程に使用することができる。その結果、量産時における治具30の使用個数を削減することができ、生産コストを低減できる。
【0043】
その後、図8に示すように、第1外方部材21の円筒部21aの外周面21a2と第2外方部材22の円筒部22aの内周面22a1との間の半径方向隙間Pに、ノズル40から第2接着剤Q2を注入し、半径方向隙間Pを完全に封止する。このとき、第2外方部材22の円筒部22aの端部にテーパ面22a3を設けることで、第2接着剤Q2の注入が容易化される。その後、サブアッシごと焼成して第2接着剤Q2を固化する。尚、第2接着剤Q2が嫌気性接着剤の場合、焼成は不要である。
【0044】
以上のように組み立てられた内方部材10と外方部材20との間に、焼結金属製の内方部材10の内部気孔を含めて、潤滑油が注入される。その後、流体動圧軸受装置4の使用環境で想定される最高温度(上限)を超える設定温度まで加熱し、このときの熱膨張によりシール空間Sから溢れ出した潤滑油を拭き取る。その後、常温まで冷却することにより潤滑油が収縮し、油面が軸受内部側(外径側)に後退してスラスト軸受隙間Tの内径側端部近傍、あるいは、シール空間Sに保持される。これにより、想定される温度範囲内であれば、熱膨張により潤滑油が漏れ出すことはない。以上により、流体動圧軸受装置4が完成する。
【0045】
本発明は上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には、同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0046】
上記の実施形態では、第1接着剤Q1が第2接着剤Q2よりも半径方向隙間Pの閉塞側(図4の左側)に配された場合を示したが、これに限られない。例えば図9に示すように、半径方向隙間Pの大気開放側の端部(図中右端)の円周方向複数箇所に第1接着剤Q1を配し、これよりも閉塞側に第2接着剤Q2を配してもよい。この場合、半径方向隙間Pの大気開放側の端部で第1接着剤Q1を硬化させた後、半径方向隙間Pに第2接着剤Q2を注入する必要があるため、硬化した第1接着剤Q1が邪魔になって第2接着剤Q2の注入作業が阻害される恐れがある。従って、作業性の観点からは、上記の実施形態のように、第2接着剤Q2を第1接着剤Q1よりも大気開放側に充填することが好ましい。
【0047】
また、上記の実施形態では、図4に示すように、第1外方部材21の外周面21a2と第2外方部材22の内周面22a1との間の半径方向隙間Pの隙間幅が軸方向で一定である場合を示したが、これに限らず、例えば図10に示すように、隙間幅の異なる第1隙間P1及び第2隙間P2を設けてもよい。この場合、第1隙間P1に第1接着剤Q1を配し、第2隙間P2に第2接着剤Q2を配することにより、第1隙間P1及び第2隙間P2を、それぞれ第1接着剤Q1及び第2接着剤Q2に適した大きさに設定することができる。例えば、第1接着剤Q1は封止性に劣ることが多いため、第1隙間P1は小さい方が好ましく、第2接着剤Q2は粘度が高く隙間に入り込みにくいことが多いため、第2隙間P2はある程度大きい方が好ましい。従って、第1隙間P1は第2隙間P2よりも小さくすることが好ましく、例えば、第1隙間P1は30〜100μmの範囲内、第2隙間P2は30〜120μmの範囲内で、第1隙間P1が第2隙間P2より小さい値に設定される。
【0048】
また、図10では、第2隙間P2が、第1隙間P1よりも大気開放側(軸方向一方側、図中右側)に配され、且つ、大気開放側に向けて隙間幅を大きくした断面楔形状とされる。このように、第2隙間P2の開口部(右側端部)の隙間幅を大きくすることで、第2接着剤Q2の第2隙間P2への注入が容易化される。尚、図10では、第1外方部材21の外周面21a2に設けたテーパ面21a20と第2外方部材22の円筒状内周面22a1との間に断面楔形状の第2隙間P2を形成しているが、これに限られない。例えば、第2外方部材22の内周面22a1にテーパ面を設け、このテーパ面と第1外方部材21の円筒状外周面21a2との間に断面楔形状の第2隙間P2を形成してもよい(図示省略)。あるいは、第1外方部材21の外周面21a2及び第2外方部材22の内周面22a1の双方にテーパ面を設け、これらの間に断面楔形状の第2隙間P2を形成してもよい(図示省略)。
【0049】
また、上記の実施形態では、第1接着剤Q1に硬化促進剤を付与する場合を示したが、これが不要な場合は硬化促進剤の付与を省略してもよい。また、第1接着剤Q1として紫外線硬化型接着剤を使用する場合は、紫外線を照射して第1接着剤Q1の硬化を促進することができる。
【0050】
また、上記の実施形態では、内方部材10の軸受部10aと固定部10bとが一体に形成されているが、これに限らず、例えば図11に示すように、軸受部10aと固定部10bとを別体に形成してもよい。軸受部10aの内周面と固定部10bの外周面とは、圧入、隙間接着、圧入接着(接着剤介在下での圧入)等の適宜の方法で固定される。これにより、軸受部10a及び固定部10bの形状を単純化できるため、これらの加工が容易化される。また、軸受部10aと固定部10bとを別材料で形成することができる。例えば、軸受部10aは外方部材20と摺動し得るため、耐摩耗性を重視して銅鉄系の焼結金属で形成する一方で、固定部10bは外方部材20と摺動しないため、強度を重視して鉄系の焼結金属や溶製材で形成することができる。尚、軸受部10aと固定部10bとは必ずしも別材料で形成する必要はなく、同一の材料で別体に形成してもよい。
【0051】
また、図3に示すように動圧溝11a,12aが一方向回転用である場合、回転方向を識別するために、第1外方部材21と第2外方部材22とを異なる色相の表面にすることで、誤組みを防止することができる。異なる色相の表面を形成するためには、例えば異なる色相の材質を用いたり、表面処理を施したりすればよい。
【0052】
また、上記の実施形態では、外方部材20の外周面、すなわち第2外方部材22の円筒部22aの外周面22a2が、ハウジング5の内周面に嵌合し、軸方向に摺動可能な状態で取り付けられるが、これに限らず、外方部材20の外周面を静止側部材の内周面に圧入や接着等の適宜の手段で固定してもよい。
【0053】
また、上記の実施形態では、内方部材10に動圧溝11a及び12aを形成した場合を示したが、これに限らず、外方部材20に動圧溝を形成してもよい。特に、外方部材20の内側端面21b1,22b1に動圧溝を形成すれば、第1外方部材21及び第2外方部材22のプレス加工と同時に動圧溝を形成することができる。また、必ずしも動圧溝を形成する必要はなく、ラジアル軸受面及びスラスト軸受面の一方又は双方の動圧溝を省略してもよい。
【0054】
また、上記の実施形態では、動圧溝11a及び12aが何れもヘリングボーン形状である場合を示したが、これに限らず、スパイラル形状やステップ形状など、他の形状であってもよい。特に、スラスト軸受面に形成される動圧溝12aは、潤滑油を外径側に押し込むポンプアウト型であることが好ましい(図示省略)。これにより、ラジアル軸受隙間Rに積極的に潤滑油が供給されるため、負圧の発生を防止できる。
【符号の説明】
【0055】
1 軸受ユニット
2 回転軸
3 モータロータ
4 流体動圧軸受装置
5 ハウジング
6 ファン
7 スプリング
10 内方部材
20 外方部材
21 第1外方部材
21a 円筒部
21b 平板部
22 第2外方部材
22a 円筒部
22b 平板部
30 治具
31 固定治具
32 移動治具
40 ノズル
P 半径方向隙間
P1 第1隙間
P2 第2隙間
Q1 第1接着剤
Q2 第2接着剤
R ラジアル軸受隙間
T スラスト軸受隙間
S シール空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13