(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、輪重抜けに対する課題を解決することと、積層ゴムの寿命に対する課題を解決することが強く求められている。先ず、輪重抜けに対する課題について説明する。
図18に示すように、車両の重さは車輪SRを介してレールRAに対して垂直方向に作用していて、輪重Pは、1つの車輪SRに作用する垂直方向の荷重である。この輪重Pは走行中に車輪SRが浮き上がろうとして極端に小さくなると、輪重抜けになり、この輪重抜けが重大な事故を招くおそれがある。特に、通勤車両において、車両が軽くなる空車状態で走行中に、輪重抜けが生じ易くなる。
【0007】
このため、輪重抜けを防止するためには、軸箱支持装置の一次バネが柔らかいこと、言い換えると一次バネの上下バネ定数(上下方向のバネ定数)が小さいことが必要である。しかしながら、一次バネとしてコイルバネ及び積層ゴムを備えた軸箱支持装置では、一次バネを十分に柔らかくすることができない事情があった。それは、例えば通勤車両において、朝方及び夕方で車両が重くなる満車状態であるときに、車体が沈み込み過ぎないように車両に作用する大きな荷重をコイルバネによって受承しなければならない。このため、コイルバネの上下バネ定数を必然的に大きくする必要があり、結果として一次バネが硬くなるためである。
【0008】
更に、満車状態であるときに、コイルバネが上下方向に縮むだけでなく、積層ゴムも上下方向に歪むことになる。このため、一次バネの上下バネ定数は、コイルバネの上下バネ定数と積層ゴムの上下バネ定数との合計値になって、積層ゴムの上下バネ定数を加算することによって一次バネが硬くなる。以上要するに、空車状態では輪重抜けを防止するために柔らかい一次バネが求められ、満車状態では車体の過剰な沈み込みを防止するために硬い一次バネが求められるが、コイルバネ及び積層ゴムを備えた従来の軸箱支持装置では上述した理想的な非線形特性を有する一次バネを実現することが難しかった。
【0009】
次に、積層ゴムの寿命に対する課題について説明する。積層ゴムはどの位置にセットするかによって歪み方が変わるようになっていて、一般的に使用時の最大の歪みが小さくなるように、空車状態と定員状態と満車状態のうち、定員状態の付近で歪みが「0」になるようにセットされている。このため、空車状態ではコイルバネが大きく伸びて、積層ゴムが引っ張られる方向に歪み、満車状態ではコイルバネが大きく縮み、積層ゴムが圧縮される方向に歪む。
【0010】
ここで、鉄道車両は走行中以外、ほとんど大部分の時間において空車状態で留置されているため、積層ゴムも大部分の時間において引っ張られる方向に歪むことになる。このため、積層ゴムは年月が経過すると比較的早く劣化するようになり、比較的高価な積層ゴムを短い期間で交換しなければならない。仮に歪み難い硬い積層ゴムを用いると、上述したように一次バネが硬くなるため、輪重抜けの問題が生じてくる。一方、仮に歪み易い柔らかい積層ゴムを用いると、積層ゴムが水平方向の荷重を的確に受承できなくなると共に、劣化が早くなる。こうして、従来から、積層ゴムの機能を十分に果たしつつ、積層ゴムの寿命を長くすることが求められていた。
【0011】
そこで、本発明は上記した課題を解決するためになされたものであり、空車状態では一次バネを柔らかくすることができるのに対して、満車状態では一次バネを硬くすることができ、更に積層ゴムの寿命を長くすることができる鉄道車両用軸箱支持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置は、台車枠と軸箱体との間に介装されて上下方向に伸縮可能なコイルバネと、台車枠側の部材と軸箱体側の部材との間に介装されていて同心状で筒状の積層ゴムとを備え、前記コイルバネ及び前記積層ゴムによって前記軸箱体が前記台車枠に弾性的に支持されるものであって、前記積層ゴムでは、外周部及び内周部の一方が
前記台車枠側の部材及び前記軸箱体側の部材の一方に固定され、外周部及び内周部の他方が
前記台車枠側の部材及び前記軸箱体側の部材の他方に対して上下方向に摺動可能な摺動部材を組付けていて、前記摺動部材は、前記積層ゴムとは別に交換可能なものであり、空車状態のときに
前記台車枠側の部材及び前記軸箱体側の部材の他方に設けられた水平受部に対して上下方向に当接しないように摺動隙間を有し、前記摺動隙間は、空車状態と満車状態のコイルバネの伸縮変化量より小さく設定されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置によれば、空車状態では、摺動部材が摺動隙間によって水平受部に当接しないで上下方向に摺動できるため、積層ゴムが上下方向に歪まない。このため、空車状態では一次バネとして積層バネが上下方向で機能しない。一方、空車状態から満車状態に移る途中で、摺動部材が水平受部に当接して、積層ゴムは上下方向に歪むようになる。このため、満車状態では一次バネとしてコイルバネに加えて積層ゴムが上下方向で機能する。従って、従来より柔らかいコイルバネを採用することで、空車状態ではコイルバネのみによって一次バネを柔らかくすることができて、軸重抜けを生じ難くすることができ、満車状態ではコイルバネ及び積層ゴムによって一次バネを硬くすることができて、車体の過剰な沈み込みを防止できる。
また、鉄道車両が空車状態で留置されているときに、積層ゴムは摺動隙間によって上下方向に歪まなくて、車両に比較的小さな荷重が作用するときにも、積層ゴムが上下方向に摺動するため上下方向に歪まない。従って、積層ゴムは年月が経過しても劣化し難くて、積層ゴムの寿命を延ばすことができる。加えて、積層ゴムが上下方向に摺動する際には摺動部材が直接摺動して、積層ゴムが上下方向に歪む際には摺動部材が水平受部に直接当接する。従って、積層ゴム自体に過度の負担が作用することがなく、摺動部材を交換することで、比較的高価な積層ゴムの寿命を延ばすことができる。
【0014】
また、本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置において、前記コイルバネは、前記軸箱体の上方に配置されて、
前記台車枠側の上部軸バネ座のフランジ部と軸箱体側の下部軸バネ座のフランジ部との間に介装されていて、前記上部軸バネ座のうち上下方向に延びる円筒部の中に、前記下部軸バネ座のうち上下方向に延びる支持軸部が同軸的に挿入されていて、前記積層ゴムは、前記コイルバネの中で、前記上部軸バネ座の円筒部の内周面と前記下部軸バネ座の支持軸部の周面との間に介装されていることが好ましい。
【0015】
この場合には、積層ゴムがコイルバネの中に配置されているため、台車をコンパクトに構成できるメリットを活かしつつ、上述した本発明の作用効果を得ることができる。即ち、積層ゴムをコイルバネの中に配置する場合、積層ゴムの大きさが限られて、大きい積層ゴムを用いることで劣化し難くて寿命を長くすることができない。これに対して、本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置によれば、コイルバネの中で積層ゴムの大きさが制限される厳しい条件であっても、台車をコンパクトに構成できるメリットを活かしつつ、コイルバネの中の積層ゴムを劣化し難くして寿命を長くすることができる。
【0016】
また、本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置において、前記摺動部材は、前記積層ゴムと同軸的に延びる円筒状のパイプ部材であり、内周面に帯状の環状溝を有し、前記積層ゴムは、外周部を前記環状溝に嵌め込むことによって前記パイプ部材に組付けられていることが好ましい。
この場合には、積層ゴムをパイプ部材に組付ける際に、積層ゴムの外周部を径内方向に撓ませつつパイプ部材の環状溝に嵌め込む。これにより、積層ゴムとパイプ部材とがずれることなく組付けることができる。また、このパイプ部材の外周面を摺動面として利用することができる。
【0017】
また、本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置において、前記積層ゴムは、外周部が周方向の一部で上下方向に切断されたものであり、前記パイプ部材は、周方向の一部で上下方向に切断されたものであり、前記積層ゴムが径外方向に広がる力によって僅かに径を大きくできるものであることが好ましい。
この場合には、パイプ部材が、積層ゴムの径外方向に広がる力によって外周面を摺動される面に対して常に押し付ける。これにより、パイプ部材の外周面と摺動される面との摩擦力によって、パイプ部材及び積層ゴムが車両に作用する微振動による上下方向の振動を抑制する。これにより、パイプ部材及び積層ゴムのガタ付きを防止することができる。
【0018】
また、本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置において、前記摺動部材の外周面は、ドライ潤滑性がある素材で構成されていることが好ましい。
この場合には、摺動部材の外周面に潤滑油を塗布しなくても、摺動部材の外周面を円滑に摺動させることができる。このため、摺動部材の耐摩耗性が向上すると共に、摺動部材の外周面が摺動する際の異音を防止できる。また、潤滑油を用いる必要がないため、粉塵等の異物が潤滑油に付着して蓄積することを防止できる。
【0019】
また、本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置において、前記水平受部又は前記摺動部材のうち前記水平受部と対向する部分には、当接する際の衝撃力を緩和する緩衝部材が組付けられていることが好ましい。
この場合には、摺動部材が水平受部に当接する際の衝撃力を緩衝部材によって緩和することができて、走行中に当接による異音が生じることを防止できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の鉄道車両用軸箱支持装置によれば、空車状態ではコイルバネのみによって一次バネを柔らかくすることができ、満車状態ではコイルバネ及び積層ゴムによって一次バネを硬くすることができる。更に、空車状態では、積層ゴムが上下方向に摺動できることによって、積層ゴムが上下方向に撓まなくて劣化し難くなる。この結果、積層ゴムの寿命を長くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置の各実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態の鉄道車両用軸箱支持装置1(以下、単に「軸箱支持装置1」と呼ぶ)が適用されている台車枠DWの平面図である。台車枠DWは、枕木方向に延びる1つの横梁2と、横梁2の両端部からレール方向に延びる2つの側梁3とを備えて構成されている。そして、各側梁3の両端部の下側にそれぞれ軸箱支持装置1が設けられている。
図2は、第1実施形態の軸箱支持装置1を示した正面図である。なお、
図2では、一部が断面で示されている。また、
図3は、
図2に示した軸箱支持装置1の平面図であり、
図4は、
図2に示した軸箱支持装置1を左側から見たときの側面図である。
【0023】
軸箱支持装置1は、
図2に示すように、側梁3と軸箱体4との間に設けられていて、軸箱体4を台車枠DW(側梁3)に対して弾性的に支持するものである。そして、軸箱支持装置1は、走行中にレールから伝わる小刻みな振動を台車枠DWに伝えないように吸収して、車両を安定走行させるようになっている。なお、台車枠DWは車体から上下方向及び水平方向の荷重を受けて、その荷重が軸箱支持装置1に伝達される。
【0024】
第1実施形態の軸箱支持装置1は、2個の積層ゴム(後述する円筒積層ゴム40及び円筒積層ゴム50)を直列的に配置した所謂タンデム型の軸箱支持装置である。軸箱体4は、枕木方向に延びる車軸を回転自在に支持する軸受(図示省略)を収容していて、車軸に連結された車輪が、レールに対して回転するようになっている。軸箱支持装置1は、
図2に示すように、主に、下部軸バネ座10と、上部軸バネ座20と、コイルバネ30と、円筒積層ゴム40と、円筒積層ゴム50とを備えている。
【0025】
下部軸バネ座10は、コイルバネ30を下側で受けるものであり、軸箱体4側の部材である。この下部軸バネ座10は、軸箱体4の真上に配置されていて、バネ中心線O1と同軸的に延びる円柱状の支持軸部10aと、この支持軸部10aの下端から周方向に張り出しているフランジ部10bとを有している。なお、バネ中心線O1は、車軸中心線O2と直交して上下方向に延びる線である。下部軸バネ座10は、ライナー11を介して軸箱体4の上側に取付けられている。
【0026】
上部軸バネ座20は、コイルバネ30を上側で受けるものであり、台車枠DW側の部材である。この上部軸バネ座20は、バネ中心線O1と同軸的に延びる円筒部20aと、この円筒部20aの上端から周方向に張り出しているフランジ部20bと、このフランジ部20bの径内方端から上方に延びる円環部20cとを有している。円筒部20aの中には、下部軸バネ座10の支持軸部10aの上方が同軸的に挿入されている。円環部20cには、ゴムキャップ21を取付けるための取付孔20dが形成されている。ゴムキャップ21は、水滴や粉塵が円筒部20aの中に侵入することを防止するものである。上部軸バネ座20は、防振ゴム22を介して側梁3の上面3aに取付けられている。
【0027】
コイルバネ30は、軸箱支持装置1の一次バネとして機能するものであり、主に上下方向に作用する荷重を上下方向に伸縮することによって受承するものである。このコイルバネ30は、上部軸バネ座20のフランジ部20bと下部軸バネ座10のフランジ部10bとの間に介装されていて、バネ中心線O1と同軸的に配置されている。本実施形態のコイルバネ30では、巻き線のうち両端部が細いのに対して中間部が太くなっていて、非線形特性を有するようになっている。即ち、縮む量が小さいときに上下バネ定数(上下方向のバネ定数)が小さくて、柔らかいコイルバネ30になり、縮む量が大きいときに上下バネ定数が大きくて、硬いコイルバネ30になる。但し、コイルバネ30は、非線形特性を有するコイルバネに限定されるものではなく、巻き線の太さが変わらなくて線形特性を有するコイルバネであっても良い。
【0028】
円筒積層ゴム40は、軸箱支持装置1の一次バネとして機能するものであり、主に水平方向(レール方向及び枕木方向)に作用する荷重を水平方向に歪むことによって受承するものである。この円筒積層ゴム40は、コイルバネ30の中で、上部軸バネ座20の円筒部20aの内周面20eと下部軸バネ座10の支持軸部10aの周面10cとの間に介装されている。円筒積層ゴム40がコイルバネ40の中に配置されているのは、コイルバネ40の中のスペースを有効活用して、円筒積層ゴム40を配置するスペースだけ台車枠DW(台車)を小さく構成できるためである。ここで、
図5は、
図2のX−X線に沿った断面図である。
【0029】
円筒積層ゴム40は、
図5に示すように、同心状で筒状になっていて、円環状の内周管40a及び外周管40bと、円弧状に湾曲した金属プレート40c及びゴムプレート40dとを有している。そして、弾性変形するゴム部40Aが、扇形状で一対形成されていて、各ゴム部40Aの間に間隙部40Bが形成されている。各ゴム部40Aでは、金属プレート40cが、内周管40aと外周管40bとの間で径方向に三層設けられていて、径外方向に向かうに従って周方向長さが長くなっている。そして、ゴムプレート40dが、内周管40aと内側の金属プレート40cの間と、各金属プレート40cの間と、外周管40bと外側の金属プレート40cの間に、加硫成型によって接着している。この円筒積層ゴム40は、各間隙部40Bが車両の前後側(レール方向側)になるように配置されている(
図3参照)。
【0030】
円筒積層ゴム50は、軸箱支持装置1の一次バネとして機能するものであり、主に水平方向に作用する荷重を水平方向に歪むことによって受承するものである。この円筒積層ゴム50は、
図2に示すように、軸箱体4に対してレール方向の後ろ側に配置されている。ここで、軸箱体4には、レール方向の後ろ側に延びる支持腕5が設けられていて、この支持腕5に円環状の円筒リング6が形成されている。また、側梁3の下面3bに支持座7が設けられていて、この支持座7に受け部材8及び内筒部材9(台車枠DW側の部材)が取付けられている。そして、この内筒部材9のうち上下方向に延びる支軸9aが円筒リング6の中に同軸的に挿入されていて、支軸9aの周面がテーパ状になっている。ここで、
図6は、
図2のY−Y線に沿った断面図である。
【0031】
円筒積層ゴム50は、
図6に示すように、同心状で筒状になっていて、円環状の内周管50a及び外周管50bと、円弧状に湾曲した金属プレート50c及びゴムプレート50dとを有している。ここで、内周管50aの内周面は、テーパ状になっていて、上述した支軸9aの周面に組付けられている(
図2参照)。内周管50aの内周面及び支軸9aの周面がテーパ状になっているのは、円筒積層ゴム50を支軸9aに対して組付け易くするためである。こうして、本実施形態では、積層ゴムの内周管の形状によって、円筒積層ゴム40と円筒積層ゴム50とを区別して呼んでいる。円筒積層ゴム50は、上下のCリング51,51(
図2参照)によって円筒リング6の中でほぼ動かないように位置決めされている。
【0032】
そして、
図6に示すように、この円筒積層ゴム50でも、弾性変形するゴム部50Aが、扇形状で一対形成されていて、各ゴム部50Aの間に間隙部50Bが形成されている。各ゴム部50Aでは、金属プレート50cが、内周管50aと外周管50bとの間で径方向に三層設けられていて、径外方向に向かうに従って周方向長さが長くなっている。そして、ゴムプレート50dが、内周管50aと内側の金属プレート50cの間と、各金属プレート50cの間と、外周管50bと外側の金属プレート50cの間に、加硫成型によって接着している。この円筒積層ゴム50は、各間隙部50Bが車両の左右側(枕木方向側)になるように配置されている(
図3参照)。即ち、円筒積層ゴム50の各間隙部50Bと円筒積層ゴム40の各間隙部40Bは、周方向に90度ずれている。
【0033】
ところで、従来から軸箱支持装置において、車両が軽くなる空車状態で、一次バネが柔らかいこと、言い換えると、一次バネの上下バネ定数が小さいことが求められていた。これは、仮に一次バネが硬いと、空車状態では特に輪重抜け(走行中に車輪が浮き上がろうとして輪重が極端に小さくなること)が生じ易くなり、重大な事故が生じる可能性が高くなるためである。一方、車両が重くなる満員状態では、一次バネが硬いことが求められていた。これは、朝方及び夕方で通勤車両では満員状態によって特に車両が重くなり、車体が沈み込み過ぎないように車両に作用する大きな荷重を受承する必要があるためである。こうして、空車状態では柔らかくなり、満車状態では硬くなるような理想的な非線形特性を有する一次バネが求められていた。
【0034】
しかし、従来のコイルバネ及び積層ゴムを備えた軸箱支持装置では、以下の問題点がある。先ず、満車状態では、一次バネのうちコイルバネが車両に作用する上下方向の大きな荷重を受承するため、コイルバネの上下バネ定数を必然的に大きくする必要がある。そして、満車状態では、コイルバネが上下方向に縮むだけでなく、積層ゴムも上下方向に歪むことになる。このため、一次バネの上下バネ定数は、コイルバネの上下バネ定数と積層ゴムの上下バネ定数との合計値になって、積層ゴムの上下バネ定数を加算することによって一次バネが硬いものになる。仮に、積層ゴムを無くせば、一次バネが柔らかいものになるが、水平方向の荷重を受承する積層ゴムの大きなメリットが消えてしまう。この結果、空車状態では柔らかい一次バネが求められているにも拘わらず、従来では積層ゴムによって比較的硬い一次バネになっていた。
【0035】
一方、従来では、非線形特性を有するコイルバネ、即ち縮む量が小さいときに上下バネ定数が小さくて柔らかくなり、縮む量が大きいときに上下バネ定数が大きくて硬くなるコイルバネ用いて、非線形特性を有する一次バネにすることが行われている。しかし、このコイルバネでは、巻き線のうち両端部を細くするのに対して中間部を太くすることで、非線形特性を得るようになっていて、巻き線の太さの変更によって硬さと柔らかさとを大きく変更するには限界がある。従って、非線形特性を有するコイルバネの設定だけでは、上述した理想的な非線形特性を有する一次バネを実現するのに十分ではなかった。
【0036】
更に、積層ゴムを備えた軸箱支持装置では、積層ゴムの寿命を長くすることが求められていた。即ち、積層ゴムはどの位置にセットするかによって歪み方が変わるようになっていて、一般的に使用時の最大の歪みが小さくなるように、空車状態と定員状態と満車状態のうち、定員状態の付近で歪みが「0」になるようにセットされている。このため、空車状態ではコイルバネが大きく伸びて、積層ゴムが引っ張られる方向に歪み、満車状態ではコイルバネが大きく縮み、積層ゴムが圧縮される方向に歪む。
【0037】
ここで、鉄道車両は走行中以外、ほとんど大部分の時間において空車状態で留置されているため、積層ゴムも大部分の時間において引っ張られる方向に歪むことになる。このため、積層ゴムは年月が経過すると比較的早く劣化するようになり、比較的高価な積層ゴムを短い期間で交換しなければならない。仮に歪み難い硬い積層ゴムを用いると、上述したように一次バネが硬くなるため、輪重抜けの問題が生じてくる。一方、仮に歪み易い柔らかい積層ゴムを用いると、積層ゴムが水平方向の荷重を的確に受承できなくなると共に、劣化が早くなる。こうして、従来から、積層ゴムの機能を十分に果たしつつ、寿命が長い積層ゴムが求められていた。
【0038】
そこで、本実施形態の軸箱支持装置1では、空車状態では柔らかくなり、満車状態では硬くなる理想的な非線形特性を有する一次バネを実現できると共に、積層ゴム(円筒積層ゴム40)の寿命を長くすることができるように、以下のように構成されている。先ず、円筒積層ゴム40では、
図2に示すように、下部軸バネ座10の支持軸部10aに挿入された状態で、支持軸部10aの中間部に止め輪43が取付けられると共に、支持軸部10aの上端部に押し金44及びナット45が取付けられている。こうして、円筒積層ゴム40の内周管40a(内周部)は、支持軸部10aに対して固定されている。しかし、円筒積層ゴム40の外周管40b(外周部)は、後述するように上部軸バネ座20の円筒部20aに対して、上下方向に摺動可能になっている。ここで、
図7は、
図2に示した円筒積層ゴム40の周辺を拡大した図である。
【0039】
図7に示すように、円筒積層ゴム40の外周管40bには、パイプ部材60が同軸的に組付けられている。
図8は、
図7に示したパイプ部材60の斜視図である。
図8に示すように、パイプ部材60は、円筒形状であって、円筒積層ゴム40とは別に交換可能で、円筒積層ゴム40より十分安価なものである。そして、パイプ部材60は、内周面60aのうち上下方向の中間部に帯状の環状溝60bを有している。この環状溝60bは、円筒積層ゴム40の外周管40bを嵌め込むためのものである。こうして、円筒積層ゴム40をパイプ部材60に組付ける際には、外周管40bを径内方向に撓ませながら環状溝60bに嵌め込むことによって、外周管40bが環状溝60bの中で径外方向に広がり、円筒積層ゴム40とパイプ部材60とをずれることなく組付けることができる。
【0040】
そして、
図7に示すように、空車状態において、円筒積層ゴム40及びパイプ部材60は、上部軸バネ座20の円筒部20aの内周面20eに対して上下方向に摺動可能になっている。即ち、パイプ部材60の外周面60cが、上部軸バネ座20の内周面20eに対して、上下方向に摺動できるようになっている。なお、上部軸バネ座20の内周面20eには、円環状の滑り軸受61が組付けられているため、パイプ部材60の外周面60cと滑り軸受61とが直接的に摺動可能に接している。
【0041】
ここで、本実施形態では、空車状態のときに、パイプ部材60の上面60dと、上部軸バネ座20の内周面20eに形成された環状の段部20fとの間に、摺動隙間SMが形成されている。このため、円筒積層ゴム40は、パイプ部材60の上面60dが段部20fに当接するまで(
図9参照)、上下方向に摺動することができる。本実施形態の段部20fが本発明の「水平受部」に相当し、パイプ部材60が本発明の「摺動部材」に相当するが、水平受部の構成及びパイプ部材の構成は適宜変更可能である。
【0042】
次に、摺動隙間SMの大きさについて説明する。空車状態では、車両が軽いためコイルバネ30の縮み量は小さく、満車状態では、車両が重いためコイルバネ30の縮み量は大きくなる。このため、コイルバネ30の縮み量に応じて、パイプ部材60の上面60dと段部20fとの距離が変化することになる。そこで、空車状態から満車状態に移る途中で、パイプ部材60の上面60dと段部20fとが当接するように、摺動隙間SMが、空車状態と満車状態のコイルバネ30の伸縮変化量より小さく設定されている。本実施形態では、摺動隙間SMが約10mmに設定されているが、摺動隙間SMの大きさは、コイルバネ30の上下バネ定数、円筒積層ゴム40の上下バネ定数、設定目標である一次バネの上下バネ定数等に応じて最適に設定される。
【0043】
こうして、空車状態では、パイプ部材60が摺動隙間SMによって段部20fに当接しないで上下方向に摺動できるため、円筒積層ゴム40が上下方向に歪まない。従って、空車状態では一次バネとして円筒積層ゴム40が上下方向で機能しない。なお、本実施形態では、円筒積層ゴム40の他に、円筒積層ゴム50が設けられているが、円筒積層ゴム50の機能については従来の機能と同様であるため、円筒積層ゴム50の機能は省略する。一方、空車状態から満車状態に至る途中で、
図9に示すように、パイプ部材60の上面60dが段部20fに当接して、円筒積層ゴム40が上下方向に歪むようになる。従って、満車状態では一次バネとしてコイルバネ30に加えて円筒積層ゴム40が上下方向で機能することになる。
【0044】
ここで、本出願人による従来の軸箱支持装置の構成について説明する。
図10は、本出願人による従来の軸箱支持装置101を示した正面図である。
図10に示すように、従来の軸箱支持装置101では、円筒積層ゴム140が上下方向に摺動できないように組付けられている。即ち、円筒積層ゴム140は、上部軸バネ座120の円筒部120aの内周面120eに予め仕込まれた間座141に組付けられ、Cリング142で内周面120eに固定されている。また、円筒積層ゴム140は、下部軸バネ座110の支持軸部110aに挿入された状態で、支持軸部110aの中間部に止め輪143が取付けられると共に、支持軸部110aの上端部に押し金144及びナット145が取付けられることで、支持軸部110aに固定されている。こうして、従来の円筒積層ゴム140は、内周側及び外周側で固定されていて、空車状態でも一次バネとして上下方向で機能するようになっている。なお、従来の軸箱支持装置101のその他の構成は、本実施形態の軸箱支持装置1の構成と同様であるため、100番代の符号を付してその説明を省略する。
【0045】
次に、従来の一次バネの上下バネ定数と、本実施形態の一次バネの上下バネ定数とを比較して説明する。
図11は、従来の軸箱支持装置101の上下バネ定数を模式的に示した図であり、
図12は、本実施形態の軸箱支持装置1の上下バネ定数を模式的に示した図である。
図11及び
図12では、横軸がコイルバネの縮み量を示していて、横軸の値が「0」から大きくなるに従って、空車状態、定員状態、満車状態に変化する。また、縦軸が上下方向の付勢力を示していて、各線の傾きが上下バネ定数の大きさを示している。なお、分かり易くするために、コイルバネ30,130が非線形特性ではなく線形特性を有する場合で説明する。
【0046】
先ず、
図11に示すように、従来のコイルバネ130の付勢力(細い破線)は、縮み量が大きくなるにつれて「0」から直線的に増加していき、満車状態では十分大きな値になる。これは、満車状態であるときの重い車両を支持するためである。この結果、細い破線の傾きは比較的急になっていて、コイルバネ130は比較的バネ定数が大きいものである。一方、従来の円筒積層ゴム140は、上述したように、一般的に使用時の最大の歪みが小さくなるように、定員状態の付近で歪みが「0」になるようにセットされるため、空車状態のとき引っ張られる方向に歪み、満車状態のときに縮む方向に歪んで付勢力を発揮する。
【0047】
ここで、鉄道車両は走行中以外、ほとんど大部分の時間において空車状態で留置されているため、従来の円筒積層ゴム140が大部分の時間において引っ張られる方向に歪み続け、劣化が早いという問題が生じていた。そして、従来の一次バネの上下バネ定数は、従来のコイルバネ130の上下バネ定数に従来の円筒積層ゴム140の上下バネ定数を加算したものであるため、細い実線の傾きが急になり、空車状態でも従来の一次バネが硬いという問題が生じていた。
【0048】
これに対して、
図12の太い破線の傾きが
図11の細い破線の傾きより緩やかになっているように、本実施形態の軸箱支持装置1では、コイルバネ30として従来のコイルバネ130より柔らかいものを採用することができる。これは、太い一点鎖線で示したように、円筒積層ゴム40は、空車状態から満車状態に移る途中で上下方向に機能し始めるため、円筒積層ゴム40として従来の円筒積層ゴムより上下方向に硬いものを採用できるからである。
【0049】
こうして、本実施形態の一次バネは、満車状態において、従来の一次バネと同様の付勢力Faを発揮して車体の過剰な沈み込みを防止しつつ、空車状態において、円筒積層ゴム40が上下方向に機能しないことによって柔らかい(太い実線の傾きが小さい)一次バネにすることができる。更に、鉄道車両が空車状態で留置されているときには、円筒積層ゴム40は摺動隙間SMによって上下方向に歪まないため、劣化し難くすることができる。なお、
図12に示した本実施形態の一次バネの上下バネ定数は、一例を模式的に示したものであって、本実施形態の軸箱支持装置1では、円筒積層ゴム40を空車状態から満車状態に移る途中から上下方向で機能させることで、従来では達成できない強い非線形特性を自由に設定できることに特徴がある。
【0050】
次に、円筒積層ゴム40に組付けられるパイプ部材60の効果について説明する。
図9に示すように、円筒積層ゴム40が上下方向に歪んで上下方向で一次バネとして機能する際には、パイプ部材60が段部20fに直接当接し、円筒積層ゴム40が段部20fに直接当接しない。また、
図7に示すように、円筒積層ゴム40が上下方向に摺動する際には、パイプ部材60の外周面60cが、滑り軸受61に対して、直接摺動する。このため、比較的安価なパイプ部材60に大きな負担が作用しても、比較的高価な円筒積層ゴム40に大きな負担が作用しない。従って、円筒積層ゴム40のゴムプレート40d等で割れが生じ難くなり、円筒積層ゴム40の交換頻度を減らすことができる。
【0051】
また、パイプ部材60は、ドライ潤滑性がある素材として、例えばテフロン(登録商標)で構成されている。このため、パイプ部材60の外周面60cに潤滑油を塗布しなくても、パイプ部材60の外周面60cを円滑に摺動させることができる。そして、パイプ部材60の耐摩耗性が向上すると共に、パイプ部材60の外周面60cが摺動する際の異音を防止できる。また、潤滑油を用いる必要がないため、粉塵等の異物が潤滑油に付着して蓄積することを防止できる。本実施形態では、パイプ部材60がテフロン(登録商標)で構成されているが、ドライ潤滑性があるその他の素材として、MCナイロン(登録商標)であっても良く、適宜変更可能である。また、金属製のパイプ部材の外表面のみにドライ潤滑コーティングを施して、パイプ部材の外表面のみをドライ潤滑性がある素材で構成しても良い。
【0052】
ところで、軸箱支持装置1は、車軸中心線O2周りに回転(ピッチング)する等、複雑な動きをするため、パイプ部材60及び円筒積層ゴム40が上下方向に摺動することで、ガタやコジリの問題が発生し易くなるが、この問題については解決できるようになっている。即ち、パイプ部材60の外周面60cと滑り軸受61との間には、摩擦力(面圧力)がほとんど存在しないわけではなく、円筒積層ゴム40が径外方向に広がろうとする力によってパイプ部材60の外周面60cを滑り軸受61に適度に押し付けて、所定の摩擦力を発生させている。これにより、パイプ部材60の外周面60cが容易に上下方向に摺動しないように設定している。そして、パイプ部材60の外周面60cが摺動する際にガタやコジリが発生しようとしても、円筒積層ゴム40のゴムプレート40dがガタやコジリをある程度吸収するようになっている。
【0053】
特に、本実施形態では、パイプ部材60が、
図8に示すように、周方向の一部で上下方向に切断されたものであり、上下方向に延びる切断溝60eを有している。このため、このパイプ部材60では、切断溝60eによって径を僅かに大きくできるようになっている。また、円筒積層ゴム40の外周管40bも、
図5に示すように、周方向の一部で上下方向に切断されたものであり、上下方向に延びる切断溝40eを有している。ここで、この円筒積層ゴム40は、以下のようにして製造されたものである。つまり、先ず金型に内周管40aと各金属プレート40cと外周管40bをセットした状態で、ゴムを注入する。その後、所定の加硫温度で加熱及び加圧(予圧縮)した状態で設定時間維持して、加硫成型する。そして、外周管40bの周方向の一部を上下方向に切断して、切断溝40eを形成する。
【0054】
こうして、円筒積層ゴム40では、各ゴムプレート40dが予圧縮されていると共に、外周管40に切断溝40eが形成されているため、その径が僅かに大きくなるように広がる。これにより、この円筒積層ゴム40を組付けたパイプ部材60では、円筒積層ゴム40の径外方向に広がる力によって、切断溝60eが僅かに広がり、外周面60cを滑り軸受61に適度に押し付ける。この結果、パイプ部材60の外周面60cが容易に摺動しないように、所定の摩擦力(面圧力)が発生している。言い換えると、パイプ部材60の切断溝60eと円筒積層ゴム40の外周管40bの切断溝40eとによって、発生させる摩擦力を適切に設定できるようになっている。
【0055】
本実施形態では、車両に作用する微振動では、パイプ部材60(円筒積層ゴム40)が上下方向に摺動しないように、上記した摩擦力の大きさを設定している。即ち、コイルバネ30が上下方向に僅かに伸縮(ストローク)する度に、パイプ部材60が摺動しないように、上記した摩擦力の大きさを設定している。一方、通勤車両で多くの乗客が乗り降りする際に、パイプ部材60が上下方向に摺動し始めるように、上記した摩擦力の大きさを設定している。
【0056】
次に、軸箱支持装置1の減衰効果について説明する。鉄道車両が120km/h以上で高速走行する際には振動が大きくなるため、この振動を抑えるための減衰が特に必要になってくる。本実施形態の軸箱支持装置1では、円筒積層ゴム40が上下方向に摺動できるように構成されているため、減衰効果が小さくなるが、この問題については解決できるようになっている。即ち、本出願による従来の軸箱支持装置101(
図10参照)では、コイルバネ130の中に配置された円筒積層ゴム140と、軸箱体4のレール方向の後ろ側に配置された円筒積層ゴムとの両方で、より確実に減衰効果を発揮させているが、円筒積層ゴムだけでも減衰効果を十分に発揮できるようになっている。実際に、引用文献による従来の軸箱支持装置401(
図17参照)では、コイルバネ430の中に積層ゴムが配置されておらず、軸箱体4のレール方向の後ろ側に配置された積層ゴムのみによって十分な減衰効果を発揮させている。
【0057】
従って、本実施形態の軸箱支持装置1において、軸箱体4のレール方向の後ろ側に配置された円筒積層ゴム50が十分な減衰効果を発揮するため、円筒積層ゴム40の摺動によって減衰効果の不足が特に問題になることがない。更に、本実施形態では、上述したように、パイプ部材60の外周面60cに適度な摩擦力を発生させて、円筒積層ゴム40にヒステリシスを持たせることで、ガタの問題だけでなく減衰効果の不足の問題も解決することができるようになっている。なお、減衰効果を確実に得るための別の方法として、側梁3側の部材と軸箱体4側の部材との間に軸ダンパー(例えば、
図15に示した軸ダンパー290)を設けても良い。
【0058】
続いて、軸箱支持装置1に設けられた二つの積層ゴム(円筒積層ゴム40、円筒積層ゴム50)のうち、コイルバネ30の中に配置された円筒積層ゴム40が上下方向に摺動可能に構成されている理由について説明する。先ず、円筒積層ゴム40をコイルバネ30の中に配置する場合、円筒積層ゴム40の大きさが限られて、大きい円筒積層ゴムを用いることで劣化し難くして、寿命を長くすることができない。即ち、コイルバネ30の中以外であれば、積層ゴムの大きさに制限が無いため、大きい積層ゴムを用いることで劣化し難くて寿命を長くすることができる。そして、コイルバネ30の中に配置される円筒積層ゴム40の場合には、交換の手間が大きいため、特に寿命を長くすることが求められていた。こうして、本実施形態の軸箱支持装置1によれば、コイルバネ30の中で円筒積層ゴム40の大きさが制限される厳しい条件であっても、コイルバネ30の中のスペースを有効活用して台車枠DW(台車)をコンパクトに構成できるメリットを活かしつつ、円筒積層ゴム40の寿命を長くすることができる。
【0059】
更に、仮に、コイルバネの中に配置される円筒積層ゴム40が摺動によってガタ付いて走行中に与える悪影響と、軸箱支持装置4のレール方向の後ろ側に配置される円筒積層ゴム50が摺動によってガタ付いて走行中に与える悪影響とを比較すると、円筒積層ゴム50の摺動による悪影響の方が大きい。これは、車軸中心線O2の高さに位置する円筒積層ゴム50のガタ付きは、軸箱支持装置4の真上に位置する円筒積層ゴム40のガタ付きよりも、車輪の走行安定性に影響し易いためである。こうした理由に基づいて、本実施形態の軸箱支持装置1では、コイルバネ30の中に配置された円筒積層ゴム40が上下方向に摺動可能に構成されている。
【0060】
次に、本実施形態の軸箱支持装置1は、従来の軸箱支持装置101に比べて、メンテナンス性が極めて優れたものになっている。そこで、先ず、従来の軸箱支持装置101を組み立てる手順について説明する(
図10参照)。最初に、上部軸バネ座120の円筒部120aの内周面120eに間座141を仕込んで、この間座141に円筒積層ゴム140を組付ける。次に、Cリング142を円筒部120aの内周面120eに取付けることで、円筒積層ゴム140の外周側を上部軸バネ座120に固定する。
【0061】
続いて、この上部軸バネ座120の円筒部120aを下部軸バネ座110の支持軸部110aに同軸的に挿入すると共に、上部軸バネ座120のフランジ部120bと下部軸バネ座110のフランジ部110bとでコイルバネ130を挟み込む。そして、コイルバネ130の伸びを抑えるためにバネ殺しの作業を行い、支持軸部110aの中間部に止め輪143を取付けると共に、支持軸部110aの上端部に押し金144及びナット145を取付けて、円筒積層ゴム140の内周側を下部軸バネ座110に固定する。その後、台車枠を降ろして、プレス機で荷重をかけて、軸箱支持装置101が組み上がる。
【0062】
次に、本実施形態の軸箱支持装置1を組み立てる手順について説明する(
図2参照)。最初に、支持軸部10aの中間部に止め輪43を取付ける。次に、下部軸バネ座10のフランジ部10bにコイルバネ30を載せる。次に、パイプ部材60が組付けられた円筒積層ゴム40を下部軸バネ座10の支持軸部10aに挿通する。次に、支持軸部10aの上端部に押し金44及びナット45を取付けて、円筒積層ゴム40の内周側(内周管40a)を下部軸バネ座10に固定する。続いて、上部軸バネ座20の円筒部20aを下部軸バネ座10の支持軸部10aに同軸的に挿入する。最後に、台車枠DWを降ろして、プレス機で荷重をかけて、軸箱支持装置1が組み上がる。
【0063】
上述した比較から明らかなように、本実施形態の軸箱支持装置1によれば、円筒積層ゴム40の外周側(外周管40b)を上部軸バネ座120の内周面120eに固定する必要がないため、容易に組み上げることができる。更に、従来の軸箱支持装置101で用いられていた間座141及びCリング142が不要になるため、部品点数を減らすことができる。
【0064】
第1実施形態の軸箱支持装置1の作用効果について説明する。
第1実施形態の軸箱支持装置1によれば、
図7に示すように、空車状態では、パイプ部材60が摺動隙間SMによって段部20fに当接しないで上下方向に摺動できるため、円筒積層ゴム40が上下方向に歪まない。このため、空車状態では一次バネとして円筒積層ゴム40が上下方向で機能しない。一方、空車状態から満車状態に移る途中で、
図9に示すように、パイプ部材60が段部20fに当接して、円筒積層ゴム40は上下方向に歪むようになる。このため、満車状態では一次バネとしてコイルバネに30加えて円筒積層ゴム40が上下方向で機能する。従って、従来より柔らかいコイルバネ30を採用することで、空車状態ではコイルバネ30のみによって一次バネを柔らかくすることができて、軸重抜けを生じ難くすることができ、満車状態ではコイルバネ30及び円筒積層ゴム40によって一次バネを硬くすることができて、車体の過剰な沈み込みを防止できる。
【0065】
また、鉄道車両が空車状態で留置されているときに、円筒積層ゴム40は摺動隙間SMによって上下方向に歪まなくて、車両に比較的小さな荷重が作用するときにも、円筒積層ゴム40が上下方向に摺動するため上下方向に歪まない。従って、円筒積層ゴム40は年月が経過しても劣化し難く、円筒積層ゴム40の寿命を延ばすことができる。加えて、円筒積層ゴム40が上下方向に摺動する際にはパイプ部材60が直接摺動して、円筒積層ゴム40が上下方向に歪む際にはパイプ部材60を段部20fに直接当接する。従って、円筒積層ゴム40自体に過度の負担が作用することがなく、パイプ部材60を交換することで、比較的高価な円筒積層ゴム40の寿命を延ばすことができる。
【0066】
次に、第1実施形態の第1変形例について、
図13を参照しながら説明する。
図13は、第1変形例の円筒積層ゴム40の周辺を示した正面図である。
図13に示すように、第1変形例では、円環状の滑り軸受71の上端部が、径内方向に水平状に延びる水平受部71aを有していて、滑り軸受71の下端部が、Cリング72によって上部軸バネ座20の内周面20eに固定されている。これにより、パイプ部材70の上面70aが滑り軸受71の水平受部71aに当接することになるが、滑り軸受71はCリング72によって長年経過しても位置ずれが生じないようになっている。
【0067】
続いて、第1実施形態の第2変形例について、
図14を参照しながら説明する。
図14は、第2変形例の円筒積層ゴム40の周辺を示した図である。
図14に示すように、上部軸バネ座20の段部20fには、パイプ部材80の上面80aが段部20fに当接する際の衝撃力を緩和する緩衝部材82が組付けられている。この緩衝部材82は、例えば樹脂やゴムで構成されている。これにより、上記した当接の衝撃力を緩衝部材82によって緩和することができて、走行中に上記した当接による異音が生じることを防止できる。なお、緩衝部材82は、段部20fと対向するパイプ部材60の上面60aに組付けても良い。
【0068】
次に、第2実施形態の軸箱支持装置201について、
図15を参照しながら説明する。
図15に示すように、第2実施形態の軸箱支持装置201では、空車状態において、コイルバネ230の中に配置された円筒積層ゴム240が上下方向に摺動可能に構成されていないが、軸箱体204のレール方向の後ろ側に配置された円筒積層ゴム250が上下方向に摺動可能に構成されている。
【0069】
具体的には、円筒積層ゴム250の内周管が内筒部材209の支軸209aに固定されている。また、円筒積層ゴム250の外周管にパイプ部材260が組付けられていて、パイプ部材260の外周面が円筒リング206の内周面に組付けられた滑り軸受261に対して上下方向に摺動可能になっている。そして、空車状態では、パイプ部材260の下面と円筒リング206の下端部から径内方向に水平状に延びる水平受部206aとの間に、摺動隙間SMが形成されている。
【0070】
第2実施形態のその他の構成は、上記した第1実施形態とほぼ同様であるため、対応する部材に200番代の符号を付してその説明を省略する。また、第2実施形態の作用効果も、上記した第1実施形態の作用効果とほぼ同様であるため、その説明を省略する。
【0071】
続いて、第3実施形態の軸箱支持装置301について、
図16を参照しながら説明する。
図16に示すように、第3実施形態の軸箱支持装置301は、二つのコイルバネ330,330が軸箱体304の下側のバネ受け部材305によって両翼を広げたように支持されていて、所謂ウイング型の軸箱支持装置である。軸箱体304に対してレール方向の前方側の構成とレール方向の後方側の構成とは同様である。
【0072】
円筒積層ゴム340は、コイルバネ330の中に配置されていて、内周管が上部軸バネ座320の支持軸部320aに固定されている。また、円筒積層ゴム340の外周管にパイプ部材360が組付けられていて、パイプ部材360の外周面が下部軸バネ座310の円筒部310aの内周面に対して上下方向に摺動可能になっている。そして、空車状態では、パイプ部材360の下面と下部軸バネ座310の内周面に形成された段部310fとの間に、摺動隙間SMが形成されている。この軸箱支持装置301では、二つのコイルバネ330の中に配置される円筒積層ゴム340が、それぞれ上下方向に摺動可能に構成されている。
【0073】
第3実施形態のその他の構成は、上記した第1実施形態とほぼ同様であるため、対応する部材に300番代の符号を付してその説明を省略する。また、第3実施形態の作用効果も、上記した第1実施形態の作用効果とほぼ同様であるため、その説明を省略する。
【0074】
以上、本発明に係る鉄道車両用軸箱支持装置の各実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、各実施形態では、円筒積層ゴム40,240,340の内周管40aを固定し、円筒積層ゴム40,240,340の外周管40bを上下方向に摺動可能に構成したが、円筒積層ゴムの外周管を固定し、円筒積層ゴムの内周管を上下方向に摺動可能に構成しても良い。
また、軸箱支持装置は、タンデム型又はウイング型の軸箱支持装置に限定されるものではなく、コイルバネと積層ゴムを備えた軸箱支持装置であれば、適宜実施することが可能である。