特許第6189078号(P6189078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189078
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】シール材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   F16J15/10 T
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-90943(P2013-90943)
(22)【出願日】2013年4月24日
(65)【公開番号】特開2014-214778(P2014-214778A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2016年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080746
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 武嗣
(72)【発明者】
【氏名】細川 敦
(72)【発明者】
【氏名】長岡 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】田邊 貴史
【審査官】 長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/094228(WO,A1)
【文献】 特開2005−326001(JP,A)
【文献】 特公平08−000550(JP,B2)
【文献】 特開2007−224944(JP,A)
【文献】 特表2010−540926(JP,A)
【文献】 特開2012−087855(JP,A)
【文献】 特開2001−124213(JP,A)
【文献】 特開平11−002328(JP,A)
【文献】 特公昭47−046532(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部(4)と、第1側壁面(1)と、第2側壁面(2)と、底壁面(3)とを、有する環状の装着溝(5)内に装着される環状のシール材であって、
腐食性流体収納室(Z)側の上記第1側壁面(1)に接近又は接触するように配設される耐腐食用リング(6)と、上記第2側壁面(2)と上記底壁面(3)に接近又は接触するように配設される弾性シール本体(7)と、から成り、
上記耐腐食用リング(6)は、上記開口部(4)に相対的に接近・離間する相手部材(20)に向かって頂部(30)が突出状に折れ曲ると共に第1辺部(31)と第2辺部(32)を有する横断面V字状であって、さらに、上記第1辺部(31)と第2辺部(32)にて形成されるV字溝は上記底壁面(3)に向かって開口し、
上記弾性シール本体(7)は、装着未圧縮状態の横断面に於て、上記相手部材(20)に向かって突出状の山形突部(11)と、上記第2側壁面(2)側に膨出する側方突部(9)と、上記底壁面(3)に対応した平坦底面部(33)と、上記第2辺部(32)が差込まれる差込溝部(34)と、を有し、
上記差込溝部(34)に上記第2辺部(32)を、接着剤を使用せずに差込状として、挾圧保持し、
圧縮使用状態に於て、上記山形突部(11)及び上記頂部(30)が上記相手部材(20)に密接し、かつ、上記第1辺部(31)は上記第1側壁面(1)に密接するように構成し
さらに、装着未圧縮状態及び圧縮使用状態に於て、上記耐腐食用リング(6)と上記底壁面(3)との間に、隙間(G)が形成され、上記耐腐食用リング(6)には、上記相手部材(20)と上記底壁面(3)からの圧縮荷重が、直接にかからないように構成したことを特徴とするシール材。
【請求項2】
上記耐腐食用リング(6)は、上記第2辺部(32)に脱落防止用返し部(8)を突設している請求項1記載のシール材。
【請求項3】
装着未圧縮状態で、上記平坦底面部(33)から上記耐腐食用リング(6)の上記頂部(30)までの上下長さ寸法(h)は、上記弾性シール本体(7)の高さ寸法(H)の0.7倍〜1.0倍に設定されている請求項1又は2記載のシール材。
【請求項4】
装着未圧縮状態に於て、上記側方突部(9)の外端から上記第1辺部(31)の外端に至る左右長さ寸法(L)は、上記開口部(4)の開口幅寸法(W)の1.1倍〜1.5倍に設定されている請求項1,2又は3記載のシール材。
【請求項5】
装着未圧縮状態に於て、上記底壁面(3)と上記平坦底面部(33)が左右方向に当接する接触幅寸法(W)は、上記底壁面(3)の溝底幅寸法(W)の0.3倍〜0.7倍に設定されている請求項1,2,3又は4記載のシール材。
【請求項6】
装着未圧縮状態で、上記耐腐食用リング(6)の肉厚寸法(T)は、0.2mm〜2.0mmに設定されている請求項1,2,3,4又は5記載のシール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材に係り、特に、医療、食品分野での薬液輸送用配管内のバルブや、半導体製造装置のゲートバルブ,チャンバーリッド等に使用される耐プラズマ性、耐腐食性を兼ね備えたシール材に関する。
【背景技術】
【0002】
上述のような用途のシール材としては、図9(A)に示すように、腐食性流体収納室Z側にPTFEの耐腐食用リング37をシール溝38に嵌着し、かつ、外側に弾性ゴムシール(Oリング)39を蟻溝状シール溝36に嵌着する二重溝の二重シールが公知であった
【0003】
この図9(A)の二重シールでは、図10(A)の矢印のように、相手部材15の平坦面15Aが接近すると、弾性ゴムシール39と耐腐食用リング37は圧縮変形し、主として弾性ゴムシール39によって密封作用を行い、かつ、PTFEの耐腐食用リング37は腐食性流体収納室Zからの腐食性流体21が弾性ゴムシール39に接触するのを防止する役割をなしている。次に、図10(B)に示すように、相手部材15が矢印方向に分離すると、(ゴム製の)弾性ゴムシール39は元の形状に復元するが、PTFEは歪みが復元せず、図9図10(B)とを比較すれば明らかな如く、変形が残留する。
従って、図9(A),図10(A)(B)に示した二重シールでは、次のような問題があった。(i)PTFE製リング37の残留歪みにより、複数回の使用が困 難であり、コスト高となる。(ii)シール溝36,38を2個形成せねばならず、必然的に装置全体が大型化する。(iii)PTFE製リング37の嵌着方向が装置によって異なり、そのシール溝38の方向によっては開放時に脱落の虞れがある。
【0004】
そこで、従来、図9(B)に示すように1個のシール溝36に、横断面が半長円形の弾性ゴムシール39Aと、横断面I字形のPTFEリング37Aとを装着する複合シールが提案されている。しかしながら、このような複合シールには、次のような問題があった。(i)PTFEの残留歪みが発生し、複数回の使用が困難であり、コスト高となる。(ii)リング37Aと弾性ゴムシール39Aとを接着一体化する場合があったが、このような場合、使用温度や圧縮度合いによっては、相互の接着界面で剥がれを生ずる虞れがある。(iii)高温環境下では、接着剤の劣化による流体の洩れや、ガスの発生の問題も生ずる。
また、図11に示すように、ゴム(弾性ゴムシール)40を大気側22に配設して、耐腐食用材料(C形リング)41を腐食性流体21側に配設するシール材も提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−2328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、図11に示す従来の複合シール材は、断面が円形であるため、相手部材20から圧縮荷重を受けた圧縮使用状態に於て、弾性が小さい耐腐食性材料41は、装着溝及び相手部材20に密着する範囲が少なく、シール性を十分に発揮できない。従って、シール面から腐食性流体21の漏洩が生じ、ゴム40を腐食性流体21から確実に保護することができず、ゴム40の劣化を長期間抑止することができなかった。つまり、シール面に弾性の異なる2種類の材料(フッ素樹脂とゴム)が混在すると、(i)接面漏れを起こす。
また、繰り返し圧縮・開放を行う場合は、(ii)耐腐食性材料41の残留歪みにより、ゴム40のシール性が格段に低下する。即ち、複数回の使用が困難となり、部品交換やメンテナンス作業が必要となって、コスト高となる虞れがある。(iii)ゴム40と耐腐食性材料41を接着した場合、使用温度や圧縮の度合いによって、ゴム40と耐腐食性材料41の界面で剥がれが発生する虞れがある。さらに、(iv)高温環境下では接着剤の劣化による流体への流出、ガスの発生等も考えられるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、真空保持性(密封性)と耐腐食性を具備し、その真空保持性(密封性)と耐腐食性を長期間に維持して複数回にわたって使用し得るシール材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るシール材は、開口部と、第1側壁面と、第2側壁面と、底壁面とを、有する環状の装着溝内に装着される環状のシール材であって、腐食性流体収納室側の上記第1側壁面に接近又は接触するように配設される耐腐食用リングと、上記第2側壁面と上記底壁面に接近又は接触するように配設される弾性シール本体と、から成り、上記耐腐食用リングは、上記開口部に相対的に接近・離間する相手部材に向かって頂部が突出状に折れ曲ると共に第1辺部と第2辺部を有する横断面V字状であって、さらに、上記第1辺部と第2辺部にて形成されるV字溝は上記底壁面に向かって開口し、上記弾性シール本体は、装着未圧縮状態の横断面に於て、上記相手部材に向かって突出状の山形突部と、上記第2側壁面側に膨出する側方突部と、上記底壁面に対応した平坦底面部と、上記第2辺部が差込まれる差込溝部と、を有し、上記差込溝部に上記第2辺部を、接着剤を使用せずに差込状として、挾圧保持し、圧縮使用状態に於て、上記山形突部及び上記頂部が上記相手部材に密接し、かつ、上記第1辺部は上記第1側壁面に密接するように構成し、さらに、装着未圧縮状態及び圧縮使用状態に於て、上記耐腐食用リングと上記底壁面との間に、隙間が形成され、上記耐腐食用リングには、上記相手部材と上記底壁面からの圧縮荷重が、直接にかからないように構成したものである。
【0009】
また、上記耐腐食用リングは、上記第2辺部に脱落防止用返し部を突設しているものである。
また、装着未圧縮状態で、上記平坦底面部から上記耐腐食用リングの上記頂部までの上下長さ寸法は、上記弾性シール本体の高さ寸法の0.7倍〜1.0倍に設定されているものである。
また、装着未圧縮状態に於て、上記側方突部の外端から上記第1辺部の外端に至る左右長さ寸法は、上記開口部の開口幅寸法の1.1倍〜1.5倍に設定されているものである。
【0010】
また、装着未圧縮状態に於て、上記底壁面と上記平坦底面部が左右方向に当接する接触幅寸法は、上記底壁面の溝底幅寸法の0.3倍〜0.7倍に設定されているものである。
また、装着未圧縮状態で、上記耐腐食用リングの肉厚寸法は、0.2mm〜2.0mmに設定されているものである
【発明の効果】
【0011】
本発明のシール材によれば、耐腐食用リングは、腐食性流体が弾性シール本体側へ流れるのを抑止でき、弾性シール本体は、密封作用をなして、例えば大気が真空側(腐食性流体収納室側)に入り込むのを阻止できる。従って、弾性シール本体は腐食性流体によって劣化しないので、密封性能を長期的に維持できる。その劣化による弾性シール本体から発塵が起こらないので、半導体製造装置等に於ては、製品に不純物が付着するのを防止できる。相手部材からの圧縮荷重が耐腐食用リングにのみにかからない(弾性シール体が弾発的にサポートする)ため、圧縮荷重を開放した際、耐腐食用リングは元の状態に復元し、変形が残留せず、圧縮・開放動作部に対して多数回にわたって使用できる。装着溝が1つで済み、装置の小型化を図り得る。圧縮荷重開放時の脱落を防止でき、また、接着剤を使用していないため、接着剤の混入やガスの発生等の問題を解決できる。このように、本発明は、医療、食品分野での薬液輸送用配管内のバルブや、半導体製造装置のゲートバルブ,チャンバーリッド等に好適なシール材であって、耐プラズマ性及び耐腐食性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の一形態を示す自由状態の拡大断面図である。
図2】装着未圧縮状態を示す断面図である。
図3】圧縮使用状態を示す断面図である。
図4】本発明の他の実施形態を示す装着未圧縮状態の拡大断面図である。
図5】本発明の別の実施形態を示す装着未圧縮状態の拡大断面図である。
図6】他の装着溝に適用した例を示す装着未圧縮の拡大断面図である。
図7】別の装着溝に適用した例を示す装着未圧縮の拡大断面図である。
図8】本発明のシール材を適用した装置の一例を示した概略説明図である。
図9】従来例を示す要部断面図である。
図10】従来の二重シールを示す要部断面図である。
図11】従来の他の例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を示す図面に基づき本発明を詳説する。
本発明のシール材は、攻撃性の強い流体を使用する部位に用いられ、例えば、医療、食品分野での薬液輸送用配管内のバルブシール、半導体の製造装置でのゲートバルブシール,チャンバーリッドシール等として用いられるものである。
図1図3に示すように、シール取付部材23には平面環状の装着溝5が形成され、この装着溝5は、開口部4と、その開口部4に近づくにつれて相互に接近する第1側壁面1と第2側壁面2と、底壁面3とを、有している。つまり、図1図3の装着溝5は、横断面台形の蟻溝状に形成されている。なお、本発明に於て、「環状」とは、円形状、矩形状、長円形状、及び、その他の形状も含まれる。
【0014】
図2図3に示すように、本発明のシール材は、装着溝5内に装着される(全体が環状の)シール材であって、相手部材20は、シール取付部材23の平坦面23Aに相対的に接近・離間する平坦面状に構成されている。
【0015】
図1は、本発明のシール材の自由状態を示し、図2は、シール材が装着溝5内に装着され相手部材20から圧縮荷重を受けていない装着未圧縮状態を示し、図3は、シール材が相手部材20から圧縮荷重を受けている圧縮使用状態を示している。
図2図3に示すZは、反応性ガス(具体的には、四フッ化炭素、三フッ化炭素、六フッ化硫黄)やプラズマ状態にあるガス等が含まれる腐食性流体(攻撃性の強い流体)21を収納する腐食性流体収納室であり、22は大気側である。図例では、装着溝5は、第1側壁面1が腐食性流体収納室Z側に配設され、第2側壁面2が大気側22に配設されている。
本発明のシール材は、腐食性流体収納室Z側の第1側壁面1に接近又は接触するように配設される耐腐食用リング6と、第2側壁面2と底壁面3に接近又は接触するように弾性シール本体7と、から成る。言い換えると、攻撃性のある流体に耐性のある耐腐食用リング6を腐食性流体収納室Z側(内周側)に配設し、弾性シール本体7によって耐腐食用リング6を挾み込んで(挾圧状に)保持する複合シール材である。なお、耐腐食用リング6の嵌め込みに際し、接着剤は使用しない。
【0016】
ところで、図1図3(及び後述の図4図7)に於ては、装着溝5が下方へ開口している場合を例示しているが、本発明に係るシール材は、(天地逆として)上方へ開口する場合、あるいは、水平方向に開口したり、鉛直に対して傾斜する斜め上方や斜め下方に開口する場合もある。そして、図1図2図4図5に於て、シール材と装着溝5の内面との微小隙間が、第1側壁面1と耐腐食用リング6の間、及び、弾性シール本体7と第2側壁面2の間に存在するように描かれている。しかしながら、シール材の自重、シール材と装着溝5との間の粘着力の発生の有無、及び、(上述した)装着溝5の開口方向に伴って、上記微小隙間が、平坦底面部33と底壁面3との間に形成される場合もあり(図示省略)、また、第1側壁面1と第2側壁面2の内の一方側にのみ微小隙間が形成される場合もある(図示省略)。
【0017】
耐腐食用リング6は、圧縮使用状態下で弾性シール本体7からの加圧によって変形可能な、柔らかい材質で、かつ、薄肉であるのが好ましい。例えば、フッ素樹脂(PTFE)、PFA、PP、PE、薄い金属、又は、PTFEを被覆した薄い金属等であるが、好ましくは、耐腐食性の点でPTFEとするのが最適である。
弾性シール本体7は、公知のゴム材料であれば良く、具体的には、フッ素ゴム、シリコーンゴム、パーフロロエラストマー、EPDM、クロロプレン、ウレタンゴム等が使用環境に応じて適用でき、中でも、耐プラズマ性・耐腐食性が優れている点で、シリコーンゴム製、フッ素ゴム製が好ましい。
【0018】
図1図2に示すように、耐腐食用リング6は、横断面V字状に形成され、(開口部4に相対的に接近する)相手部材20に向かって頂部30が突出するようにV字に折れ曲る。つまり、頂部30にて折れ曲った第1辺部31と第2辺部32を有している。
耐腐食用リング6は、第2辺部32の先端に脱落防止用返し部8を突設し、容易に弾性シール本体7から脱落しないように構成されている。つまり、この返し部8は、三角鈎形である。
また、耐腐食用リング6の肉厚寸法Tは、0.2mm〜2.0mmに設定されている。耐腐食用リング6の肉厚寸法Tが0.2mm未溝であると、圧縮の際、弾性シール本体7の圧縮弾性変形に伴う加圧により過大に変形し、残留歪み(変形)を生じる。また、耐腐食用リング6の肉厚寸法Tが2.0mmを越えると、剛性が高くなり過ぎて、弾性変形がし難くなって、腐食性流体21を遮断できない虞れがある。
【0019】
弾性シール本体7は、図2に示す装着未圧縮状態の横断面に於て、相手部材20に向かって突出状の山形突部11と、第2側壁面2側に膨出する側方突部9と、底壁面3に対応した平坦底面部33と、第2辺部32が差込まれる差込溝部34と、を有している。
また、装着未圧縮状態で、平坦底面部33から耐腐食用リング6の頂部30までの上下長さ寸法hは、弾性シール本体7の高さ寸法Hの0.7倍〜1.0倍に設定されている。上下長さ寸法hが高さ寸法Hの0.7倍未満であると、圧縮使用状態下で、耐腐食用リング6の頂部30が相手部材20に十分に密着せず、腐食性流体21を遮断できない虞れがある。また、上下長さ寸法hが高さ寸法Hより大きいと、圧縮使用状態下で、山形突部11が相手部材20に十分に密着せず、シール性が低下する。
【0020】
図2に示す装着未圧縮状態に於て、側方突部9の外端から第1辺部31の外端に至る左右長さ寸法Lは、開口部4の開口幅寸法Wの1.1倍〜1.5倍に設定されている。
左右長さ寸法Lが開口幅寸法Wの1.1倍未満であると、シール材の脱落の虞れがある。また、左右長さ寸法Lが開口幅寸法Wの1.5倍を越えると、装着溝5内に押し込んで装着する作業が困難となる。
【0021】
また、装着未圧縮状態に於て、底壁面3と平坦底面部33が左右方向に当接する接触幅寸法Wは、底壁面3の溝底幅寸法Wの0.3倍〜0.7倍に設定されている。
接触幅寸法Wが溝底幅寸法Wの0.3倍未満であると、圧縮荷重開放時に、相手部材20への吸着(固着)により抜ける虞れがある。また、接触幅寸法Wが溝底幅寸法Wの0.7倍を越えると、圧縮使用状態に於て、弾性シール本体7の圧縮弾性変形が十分行ない得ない(体積移動を確保できない)虞れがある。
【0022】
装着未圧縮状態に於て、耐腐食用リング6と底壁面3との間に、隙間Gが形成されている。
隙間Gは、耐腐食用リング6の可動域を確保している。この隙間Gにより、圧縮使用状態下で相手部材20から圧縮荷重が付加された際、弾性シール本体7が圧縮弾性変形しつつ耐腐食用リング6を支持し、耐腐食用リング6に直接に圧縮荷重が作用しないように構成されている。
【0023】
ここで、弾性シール本体7について、さらに詳しく説明する。
弾性シール本体7は、物理的劣化(イオン化した原子が弾性シール本体7を削り取るように傷つけること)の起こり易い箇所に装着される場合は、シリコーンゴム製であるのが好ましい。一方、弾性シール本体7は、化学的劣化(反応性ガスが弾性シール本体7に接触し、腐食劣化させること)の起こり易い箇所に装着される場合は、弾性シール本体7はフッ素ゴムであるのが好ましい。
【0024】
さらに、弾性シール本体7は、特に酸素プラズマ処理(酸素ラジカル状態)の環境下で用いられる場合、以下に記す耐酸素プラズマ性に優れた(ア)又は(イ)の素材から成型されることが好ましい。
(ア)は、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、又は/及び、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン共重合体100重量部に対して、硫酸バリウム20〜100重量部を配合して成る組成物をポリオール加硫した素材である。
(イ)は、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、又は/及び、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン−四フッ化エチレン共重合体100重量部に対して、さらに四フッ化エチレン樹脂0.5〜30重量部を配合して成る素材である。
【0025】
また、本発明のシール材が酸素ラジカルが発生する箇所、言い換えれば、プラズマが少なく酸素ラジカルが存在する箇所に配設される場合は、耐腐食用リング6の材質として、(耐プラズマ性と耐酸素ラジカル性を有する)上記フッ素樹脂を適用するのが好ましい。
【0026】
図8に示すように、本発明のシール材が使用されるプラズマエッチング装置等は、腐食性流体収納室Zを有し、腐食性流体収納室(反応管)Z内に配設されたプラズマを除去するための内管(エッチトンネル)44内では、NOと希ガス、NとOと希ガス、又は、Oと希ガスをプラズマ励起し、酸素励起活性種として酸素ラジカルが発生する。
つまり、プラズマと酸素ラジカルが混在するガスを、腐食性流体収納室Zで発生させ、腐食性流体収納室Zの内管(エッチトンネル)44でプラズマを除去し、酸素ラジカルのみにて半導体ウエハーの表面処理(エッチング等)を行う。表面処理後、内管44内の酸素ラジカルは、開閉扉46aを開放し配管45cから排出され、一方、表面処理された半導体ウエハーは、別の開閉扉46bを開けて取り出される。
【0027】
例えば図8に示すように、本発明のシール材は、腐食性流体収納室Zと配管45aとの連結部Nや、腐食性流体収納室Zに通ずる配管45a,45b同士の連結部M等に配設されたり、あるいは、排出配管45cと腐食性流体収納室Zとの連結部(開閉扉46aの密閉部)Pや、半導体ウエハーを取り出すための開閉扉46bの密閉部Q等に配設される。
【0028】
上述した本発明のシール材の使用方法(作用)について説明する。
図1に示すように、弾性シール本体7の差込溝部34に、耐腐食用リング6の第2辺部32を挿嵌して挾持させる。なお、耐腐食用リング6と弾性シール本体7は、嵌め合わせる前後では、それぞれの形状の変化はほとんど生じない。
次に、図2に示すように、弾性シール本体7を圧縮しながら装着溝5内に押し込んで、耐腐食用リング6が腐食性流体収納室Z側の第1側壁面1に接近又は接触し、かつ、弾性シール本体7が第2側壁面2と底壁面3に接近又は接触するように装着する(装着未圧縮状態)。
【0029】
次に、シール取付部材23と相手部材20が相対的に接近すると、弾性シール本体7の山形突部11及び耐腐食用リング6の頂部30に相手部材20から圧縮荷重が加わると山形突部11と頂部30を相手部材20に(弾発的に)密接させて、図3に示す圧縮使用状態とする。
この際、弾性シール本体7の山形突部11が大きく弾性的に圧縮変形して、相手部材20に対して弾発的に密着させてシールする。また、弾性シール本体7は、相手部材20からの圧縮荷重により圧縮され潰され、側方突部9が第2側壁面2側へさらに膨出して第2側壁面2に密着し、かつ、平坦底面部33が底壁面3に高い面圧をもって密着して、弾性シール本体7は、圧縮弾性変形による体積移動により、耐腐食用リング6を(矢印Sにて示すように加圧して)内側から押し広げ、第1辺部31が第1側壁面1側に張り出すように(弾性)変形させる。
【0030】
即ち、耐腐食用リング6は、頂部30が相手部材20に密接(密着)し、かつ、弾性シール本体7の圧縮弾性変形に伴う加圧によって開脚方向に(弾性)変形し、第1辺部31が第1側壁面1に密接(密着)して、弾性シール本体7と腐食性流体収納室Zとを遮断する。
圧縮使用状態下では、耐腐食用リング6は、弾性シール本体7に加圧され続けることで、頂部30が相手部材20に密接(密着)し、かつ、第1辺部31が第1側壁面1に密接(密着)した状態を保持し、弾性シール本体7と腐食性流体収納室Zとを遮断する。
【0031】
そして、シール取付部材23と相手部材20を相対的に離間させると、弾性シール本体7の山形突部11と耐腐食用リング6の頂部30に付加されていた(相手部材20からの)圧縮荷重が開放され、その圧縮荷重により生じていた弾性シール本体7の圧縮弾性変形もなくなって、元の形状に(弾発的に)復元する。この際、耐腐食用リング6は、弾性シール本体7からの圧力が除去され、(第1辺部31が外側方に張り出した状態から)元の形状に復元し、第1辺部31が第1側壁面1から離れる。耐腐食用リング6は、相手部材20からの圧縮荷重が直接にかからないため、開放後は歪みが残らず、図2に示す装着未圧縮状態に戻る。従って、本発明のシール材は、複数回にわたって繰返し圧縮・開放を繰り返す動作部に於て、シール性を低下させることがなく、真空保持性(密封性)と耐腐食性を長期間にわたって維持する。
【0032】
なお、本発明は、設計変更可能であって、例えば、図4に示すように、耐腐食用リング6は、第2辺部32の脱落防止用返し部8が、(断面)矢印形状として、三角鈎部を2個両側に有しても良く、あるいは、図5に示すように、断面円形膨出状としても良い。
また、装着溝5は、図1図3に示す形状に限定されるものではなく、例えば、図6に示すように、第1側壁面1と第2側壁面2が開口部4の近傍位置で急に接近するように形成された蟻溝状であっても良く、あるいは、図7に示すように、第1側壁面1のみが開口部4に近づくにつれて接近する片側蟻溝状とするも良い。
なお、図示省略するが、腐食性流体収納室Zが外周側に配設されている場合には、腐食性流体に耐性のある耐腐食用リング6を、外周側に配設し、弾性シール本体7を内周側に配設する。この場合、圧縮使用状態下で、耐腐食用リング6が密着する第1側壁面1は外周側とし、かつ、弾性シール本体7が密着する第2側壁面2は内周側とする。
【0033】
以上のように、本発明に係るシール材は、開口部4と、第1側壁面1と、第2側壁面2と、底壁面3とを、有する環状の装着溝5内に装着される環状のシール材であって、腐食性流体収納室Z側の第1側壁面1に接近又は接触するように配設される耐腐食用リング6と、第2側壁面2と底壁面3に接近又は接触するように配設される弾性シール本体7と、から成り、耐腐食用リング6は、開口部4に相対的に接近・離間する相手部材20に向かって頂部30が突出状に折れ曲ると共に第1辺部31と第2辺部32を有する横断面V字状であって、弾性シール本体7は、装着未圧縮状態の横断面に於て、相手部材20に向かって突出状の山形突部11と、第2側壁面2側に膨出する側方突部9と、底壁面3に対応した平坦底面部33と、第2辺部32が差込まれる差込溝部34と、を有し、圧縮使用状態に於て、山形突部11及び頂部30が相手部材20に密接し、かつ、第1辺部31は第1側壁面1に密接するように構成したので、耐腐食用リング6は、その第2辺部32が(差込溝部34内に差込まれて挾圧保持され)常に安定姿勢を保ちつつ、頂部30は相手部材20に圧接し、第1辺部31は第1側壁面1に確実に密接し、もって、耐腐食用リング6は、腐食性流体21が弾性シール本体7側へ流れるのを確実に阻止でき、かつ、弾性シール本体7は、大気側22等が腐食性流体収納室Z側に入り込むのを確実に阻止できる。従って、弾性シール本体7は腐食性流体21によって劣化しないので、密封性を長期的に維持でき、かつ、(半導体製造装置等に於て、)その劣化による弾性シール本体7の発塵が起こらないので、製品に不純物が付着するのを防止できる。相手部材20からの圧縮荷重が弾性シール本体7の弾性変形によって吸収され、耐腐食用リング6に直接かからないため、圧縮荷重を開放した際、耐腐食用リング6の歪みが無く、複数回にわたって圧縮・開放動作を繰り返して使用できる。従って、部品交換・メンテナンスのコストを削減できる。装着溝5が1つで済み、装置の小型化に貢献できる。圧縮荷重開放時の脱落を防止でき、接着剤を使用していないため、接着剤の混入やガスの発生等の問題を解決できる。
【0034】
また、耐腐食用リング6は、第2辺部32に脱落防止用返し部8を突設しているので、弾性シール本体7から脱落せず、安定姿勢を常に保ち、耐腐食性を維持できる。
【0035】
また、装着未圧縮状態で、平坦底面部33から耐腐食用リング6の頂部30までの上下長さ寸法hは、弾性シール本体7の高さ寸法Hの0.7倍〜1.0倍に設定されているので、真空保持性(密封性)と耐腐食性を発揮でき、複数回にわたって使用してもシール性を確保できる。
【0036】
また、装着未圧縮状態に於て、側方突部9の外端から第1辺部31の外端に至る左右長さ寸法Lは、開口部4の開口幅寸法Wの1.1倍〜1.5倍に設定されているので、装着溝5への装着が容易であり、かつ、脱落を防止できる。
【0037】
また、装着未圧縮状態に於て、底壁面3と平坦底面部33が左右方向に当接する接触幅寸法Wは、底壁面3の溝底幅寸法Wの0.3倍〜0.7倍に設定されているので、圧縮荷重開放時に、相手部材20への吸着(固着)による脱落を防止できる。
【0038】
また、装着未圧縮状態で、耐腐食用リング6の肉厚寸法Tは、0.2mm〜2.0mmに設定されているので、弾性シール本体7の圧縮弾性変形に伴う加圧により適度に変形し、耐腐食性を発揮できる。
【0039】
また、装着未圧縮状態に於て、耐腐食用リング6と底壁面3との間に、隙間Gが形成されているので、耐腐食用リング6の可動域を確保できる。
【符号の説明】
【0040】
1 第1側壁面
2 第2側壁面
3 底壁面
4 開口部
5 装着溝
6 耐腐食用リング
7 弾性シール本体
8 脱落防止用返し部
9 側方突部
11 山形突部
20 相手部材
30 頂部
31 第1辺部
32 第2辺部
33 平坦底面部
34 差込溝部
Z 腐食性流体収納室
h 上下長さ寸法
H 高さ寸法
L 左右長さ寸法
開口幅寸法
接触幅寸法
溝底幅寸法
T 肉厚寸法
G 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11