【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0042】
試験例1
(a)3−DGの測定
(1)試料の調製
アミノ酸、糖質およびリン酸緩衝液を表1に示す配合量で30mLのガラス製試験管に入れて密閉し、攪拌した後、120℃で60分間、オートクレーブ内で反応させて、冷却後に0.2μmフィルターで濾過した。かくして得られた濾液を試料とした。尚、使用したアミノ酸および糖質は下記の通りである。
[アミノ酸]
リジン(N−α−(t−ブトキシカルボニル)−L−リジン、渡辺化学工業株式会社製)
アルギニン(N−α−(t−ブトキシカルボニル)−L−アルギニン、渡辺化学工業株式会社製)
[糖質]
スクロース(台糖株式会社製)
マルチトール(粉末マルチトールウエノ60M(マルチトール純度90%)、上野製薬株式会社製)
【表1】
【0043】
(2)試験方法
試料2mLに等量の60%過塩素酸溶液を加えて除蛋白し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液4mLで中和した後、2,3−ジアミノナフタレンの0.1%メタノール溶液0.8mLを添加し、4℃で16時間反応させた。次に反応物を4.4mLの酢酸エチルで抽出し、エバポレーターで濃縮乾固後、メタノール5mLに溶解させ、0.45μmフィルターで濾過した。濾過液を高速液体クロマトグラフィーに供試し、下記測定条件で3−DGを定量した。
[高速液体クロマトグラフィー測定条件]
UV:268nm
注入量:20μL
カラム:TSK−GEL、ODS−80Ts(4.6×150mm、東ソー株式会社製)
カラム温度:30℃
移動相:50mMリン酸:メタノール:アセトニトリル=7:1.5:1.5
流速:1mL/分
【0044】
(3)結果
3−DGの定量結果を表2に示す。
【表2】
【0045】
(b)蛍光性AGEsの測定
(1)試料の調製
上記3−DGの測定と同一の試料を用いた。
【0046】
(2)試験方法
標準物質であるペリレン2.5mgを秤量し、脱気エタノール50mLを加えて十分に溶解させペリレン溶液を作製した。10μMの濃度まで希釈したペリレン溶液に波長386nmの励起光を当て、410−600nmの範囲の蛍光強度を測定してエリアを算出した。一方で、試料には波長380nmの励起光を当て、400−600nmの範囲の蛍光強度を測定してエリアを算出した。試料のエリア測定値は10μMのペリレン溶液のエリアの値に対する相対値として蛍光性AGEsを定量した。
【0047】
(3)結果
蛍光性AGEsの定量結果を表3に示す。
【表3】
【0048】
(c)ペントシジンの測定
(1)試料の調製
上記3−DGの測定と同一の試料を用いた。
【0049】
(2)試験方法
ペントシジン測定キット「FSKペントシジン
(登録商標)」(株式会社伏見製薬所)を用いてペントシジン定量を行った:使用する30分以上前に試薬及びペントシジン固相化プレートを常温に戻しておいた。試料希釈後、キット添付のペントシジン固相化プレートに試料を50μLずつ分注し、試薬のブランク値測定用ウェル以外に第一抗体溶液50μLを分注した。プレートを300rpmで1分間振盪することにより試料と抗体溶液を混合した後、37℃で1時間反応させた。次に反応液を捨て、洗浄液200μLを分注してプレートを洗浄した。該洗浄は3回行った。プレートの水気を取り除いた後、試薬のブランク値測定用ウェル以外に第二抗体溶液100μLを分注し、300rpmで1分間の振盪により混合した後、25℃で1時間反応させた。そして、反応液を捨て、再び洗浄液200μLでプレートを3回洗浄した後、プレートの水気を取り、発色剤100μLを分注して遮光条件下で10分間静置した。最後に反応停止液100μLを分注し、分注後10分以内にマイクロプレートリーダーを用いて主波長450nm/参照波長630nmで測定を行った。ペントシジン濃度は、試料の測定値に基づき、ペントシジン標準溶液の検量線を用いて決定した。
【0050】
(3)結果
ペントシジンの定量結果を表4に示す。
【表4】
【0051】
(d)CMLの測定
(1)試料の調製
上記3−DGの測定と同一の試料を用いた。
【0052】
(2)試験方法
CircuLex CML/Nε−(carboxymethyl)lysine ELISA kit(株式会社サイクレックス製)を用いてCML定量を行った:使用する30分以上前に試薬及びCML固相化ウェルを常温に戻しておいた。またCML−HSAスタンダード粉末品に超純水(ミリQ水)1mLを加えてマスタースタンダードを作製し、スタンダード希釈用バッファーで希釈を行いスタンダード1〜7を作製した。試料は必要に応じてサンプル希釈用バッファーで希釈した。キット付属品でない96ウェルプレートにCML−HSAスタンダードと試料60μLを分注した。次に、第一抗体粉末品に超純水(ミリQ水)を加え、サンプル希釈用バッファーで希釈して第一抗体溶液を作成し、該抗体溶液60μLをプレートに分注して混合した。該混合液100μLをCML固相化ウェルに添加し、300rpmで振盪させながら25℃で1時間反応させた。さらに反応液を捨て、洗浄液350μLを分注してプレートを洗浄した。該洗浄は4回行った。プレートの水気を取り除いた後、第二抗体溶液100μLを分注し、300rpmで振盪させながら25℃で1時間反応させた。反応液を捨て、再び洗浄液350μLで4回洗浄し、プレートの水気を取り、発色剤100μLを分注した。そして300rpmで振盪させながら遮光条件下で10分間静置した。最後に反応停止液100μLを分注し、分注後30分以内にマイクロプレートリーダーを用いて主波長450nm/参照波長595nmで測定を行った。CML濃度は、試料の測定値に基づき、CML標準溶液の検量線を用いて決定した。
【0053】
(3)結果
CMLの定量結果を表5に示す。
【表5】
【0054】
AGEs生成抑制効果の評価
糖質としてスクロースのみを含有する試験区1に対し、糖質としてマルチトールのみを含有する試験区2では、3−DG生成量が大幅に減少し、かつ、蛍光性AGEs、ペントシジンおよびCMLの各生成量も減少していた。また、糖質としてスクロースとマルチトールを含有する試験区3では、試験区1に比べて3−DGおよび各種AGEs生成量が減少していた。かかる結果から、アミノ酸存在下におけるマルチトールの3−DGおよびAGEs生成抑制効果が認められる。
【0055】
試験例2
(1)試料の調製
食品由来蛋白質、糖質およびリン酸緩衝液を表6に示す配合量で30mLのガラス製試験管に入れて密閉し、攪拌した後、120℃で60分間、オートクレーブ内で反応させた。次に、反応物を限外濾過ユニット(ビバスピン20、Sartorius社製)を用いて、3000rpmで3時間、遠心分離することにより分画し、低分子画分を3−DG定量用、高分子画分を蛍光性AGEs、RAGEアゴニスト活性およびRAGEアンタゴニスト活性測定用の試料とした。尚、使用した食品由来蛋白質および糖質は下記の通りである。
[食品由来蛋白質]
卵白アルブミン(東京化成工業株式会社製)
乳アルブミン(東京化成工業株式会社製)
グリアジン(東京化成工業株式会社製)
乳カゼイン(片山化学工業株式会社製)
大豆カゼイン(キシダ化学株式会社製)
[糖質]
スクロース(台糖株式会社製)
マルチトール(粉末マルチトールウエノ60M(マルチトール純度90%)、上野製薬株式会社製)
【表6】
【0056】
(2)試験方法
(a)3−DGの定量
上記のように調製した低分子画分を試料として用いた以外は、試験例1と同様の方法によって3−DGを定量した。
【0057】
(b)蛍光性AGEsの定量
アンプル管に高分子画分0.4gおよび6N塩酸8mLを入れ、管内を窒素置換した後、110℃で16時間、ヒートブロックにて加水分解を行った。反応後、5N水酸化ナトリウム8mLを加えた後、pH7.2〜7.6の範囲内に納まるよう1N塩酸および1N水酸化ナトリウムを用いてpH調整を行い、0.45μmフィルターで濾過した。得られた濾液を試料として用い、以下の方法によって蛍光性AGEsを定量した: 標準物質であるペリレン2.5mgを秤量し、脱気エタノール10mLを加えて十分に溶解させペリレン溶液を作製した。10μMの濃度まで希釈したペリレン溶液に波長386nmの励起光を当て、410−600nmの範囲の蛍光強度を測定してエリアを算出した。一方で、試料には波長380nmの励起光を当て、400−600nmの範囲の蛍光強度を測定してエリアを算出した。試料のエリア測定値は、10μMのペリレン溶液のエリアの値に対する相対値として蛍光性AGEsを定量した。
【0058】
(c)RAGEアゴニスト活性の評価
Luciferase Assay System(Promega)を用いてRAGEアゴニスト活性の評価を行った:(1日目)Diabetes, 2006, vol.55, pp.2510−2522に記載される方法に従い、pNF−κB−Lucプラスミド(stratagene社)とヒトRAGEプラスミド(全長ヒトRAGE cDNAを含む)を導入したC6グリオーマ細胞を96ウェルプレートに100μL/ウェルで播種し、細胞がコンフルエントになるまでCO
2インキュベーターで培養した。培養には10%FBS/DMEM培地を使用した。(2日目)培地を除去し、無血清DMEM培地300μLでウェル内を洗浄後、0.1%FBS/DMEM培地100μLをゆっくり添加した。その後、CO
2インキュベーターで一晩培養した。(3日目)培地を用いて試料を希釈し、各ウェルに希釈した試料50μLを添加した。また、対照のウェルにはグリセルアルデヒドでAGE化されたAGE−BSA(50μg/mL)を添加した。CO
2インキュベーターで4時間培養後、培地を除去してPBS(−)300μLでウェル内を2回洗浄した。そして氷上で1×リシスバッファー25μLを添加した。プレートを15秒間振盪した後、新しい白色プレートに可溶化液20μLを入れた。ルシフェラーゼアッセイリージェント100μLをさらに添加し、ルミノメーターで発光強度を測定した。また、可溶化液5μLを使用してタンパク定量も行った。
【0059】
(d)RAGEアンタゴニスト活性の評価
LuciferaseAssaySystem(Promega)を用いてRAGEアンタゴニスト活性の評価を行った:(1日目)Diabetes,2006,vol.55,pp,2510−2522に記載される方法に従い、pNF−κB−Lucプラスミド(stratagene社)とヒトRAGEプラスミド(全長ヒトRAGE cDNAを含む)を導入したC6グリオーマ細胞を96ウェルプレートに100μL/ウェルで播種し、細胞がコンフルエントになるまでCO
2インキュベーターで培養した。培養には10%FBS/DMEM培地を使用した。(2日目)培地を除去し、無血清DMEM培地300μLでウェル内を洗浄後、0.1%FBS/DMEM培地100μLをゆっくり添加した。その後、CO
2インキュベーターで一晩培養した。(3日目)培地を用いて試料を希釈し、各ウェルに希釈した試料50μL、対照としてグリセルアルデヒドでAGE化されたAGE―BSA(50μg/mL)、さらに希釈した試料とAGE−BSAの混合液を添加した。CO
2インキュベーターで4時間培養後、培地を除去してPBS(−)300μLでウェル内を2回洗浄した。そして氷上で1×リシスバッファー25μLを添加した。プレートを15秒間振盪した後、新しい白色プレートに可溶化液20μLを入れた。ルシフェラーゼアッセイリージェント100μLをさらに添加し、ルミノメーターで発光強度を測定した。また、可溶化液5μLを使用してタンパク定量も行った。
【0060】
(3)結果
卵白アルブミン、乳アルブミン、グリアジン、乳カゼインおよび大豆カゼインのいずれの食品由来蛋白質との組合せにおいても、糖質としてマルチトールを含有する試験区2、5、8、11および14では、糖質としてスクロースを含有する試験区1、4、7、10および13に比べ、3−DG生成量が大幅に減少し、かつ、AGEs生成量も減少していた。糖質としてマルチトールを含有する試験区2、5および11では、糖質としてスクロースを含有する試験区1、4および10に比べ、RAGEアゴニスト活性が低下していた。また、糖質としてマルチトールを含有する試験区2および5では、糖質としてスクロースを含有する試験区1および4に比べ、RAGEアンタゴニスト活性が低下していた。かかる結果から、食品由来蛋白質存在下におけるマルチトールのAGEsおよび3−DG生成抑制効果が認められる。AGEsおよび3−DGの定量結果を表7に示す。
【表7】
【0061】
試験例3
(1)試料の調製
アミノ酸または生体蛋白質と、糖質およびリン酸緩衝液を表8に示す配合量で50mLのポリプロピレン製遠沈管に入れて密閉し、攪拌した後、37℃で42日間、インキュベーター内で反応させた。次に、反応物を限外濾過ユニット(ビバスピン20、Sartorius社製)を用いて、3000rpmで3時間、遠心分離することにより分画し、低分子画分を3−DG定量用、高分子画分を蛍光性AGEs測定用の試料とした。尚、使用したアミノ酸、生体蛋白質および糖質は下記の通りである。
[アミノ酸]
リジン(N−α−(t−ブトキシカルボニル)−L−リジン、渡辺化学工業株式会社製)とアルギニン(N−α−(t−ブトキシカルボニル)−L−アルギニン、渡辺化学工業株式会社製)の1:1混合物
[生体蛋白質]
ウシ血清アルブミン(シグマアルドリッチ社製)
[糖質]
グルコース(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)
マルチトール(粉末マルチトールウエノ60M(マルチトール純度90%)、上野製薬株式会社製)
【表8】
【0062】
(2)試験方法
上記のように調製した低分子画分を試料として用いた以外は、試験例1と同様の方法によって3−DGを定量した。上記のように調製した高分子画分を試料として用いた以外は、試験例2と同様の方法によって蛍光性AGEsを測定した。
【0063】
(3)結果
アミノ酸およびウシ血清アルブミンのいずれとの組合せにおいても、糖質としてマルチトールを含有する試験区2および5では、糖質としてグルコースを含有する試験区1および4に比べ、3−DG生成量が大幅に減少し、かつ、AGEs生成量も減少していた。かかる結果から、アミノ酸または生体蛋白質存在下におけるマルチトールのAGEsおよび3−DG生成抑制効果が認められる。AGEsおよび3−DGの定量結果を表9に示す。
【表9】
【0064】
処方例1(散剤)
表10に示す原材料を混合し、散剤を製造した。該散剤は、本発明のAGEs生成抑制剤もしくは3−DG生成抑制剤、または本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の一形態である。
【表10】
【0065】
処方例2(錠剤)
表11に示す原材料を混合した後、連続式打錠機(Piccola B−10/RIVA社製)を用い、杵金型(φ8mm、R12mm)、1錠あたりの重量150〜200mg、回転盤の回転数12rpm、打錠圧4kNの打錠条件で直接打錠し、錠剤を製造した。該錠剤は、本発明のAGEs生成抑制剤もしくは3−DG生成抑制剤、または本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の一形態である。
【表11】
【0066】
処方例3(経口液剤)
表12に示す原材料を蒸留水500mLに溶解し、経口液剤を製造した。該経口液剤は、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の一形態である。
【表12】