特許第6189080号(P6189080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189080
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】終末糖化産物生成抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20170821BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20170821BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20170821BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20170821BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20170821BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20170821BHJP
   A23L 29/30 20160101ALI20170821BHJP
【FI】
   A61K31/7004
   A61P43/00 111
   A61K9/20
   A61K9/48
   A61K9/14
   A61K9/16
   A23L29/30
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-91420(P2013-91420)
(22)【出願日】2013年4月24日
(65)【公開番号】特開2014-129321(P2014-129321A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2016年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2012-100287(P2012-100287)
(32)【優先日】2012年4月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-263311(P2012-263311)
(32)【優先日】2012年11月30日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100165892
【弁理士】
【氏名又は名称】坂田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】山本 博
(72)【発明者】
【氏名】棟居 聖一
(72)【発明者】
【氏名】本多 純哉
(72)【発明者】
【氏名】川浦 亮介
(72)【発明者】
【氏名】榑谷 彩
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−189816(JP,A)
【文献】 特開2008−214250(JP,A)
【文献】 特表2002−517738(JP,A)
【文献】 特開平07−098317(JP,A)
【文献】 並木徳之、他4名,Jpn. J. Pharm. Health Care Sci.,2001年,Vol.27, No.5,p419-425
【文献】 斉藤 典行,最近の糖質とその機能,食品工業 ,鎌田 恒男 株式会社光琳,1988年 7月30日,第31巻第14号,p17-28
【文献】 板垣聖子、他3名,栄養学雑誌,2000年,Vo.58, No.6,p249-252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 9/00−9/72
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチトールを有効成分として含有する3−デオキシグルコソン生成抑制用組成物であって、
該組成物が、錠剤、カプセル剤、顆粒剤および散剤からなる群より選ばれる剤形である、組成物。
【請求項2】
該マルチトールが該組成物において40重量%以上である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
該マルチトールが組成物において単独の有効成分である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
糖類含有量が5g以上であり、且つアミノ酸含有量および/または蛋白質含有量が20g以上である食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに投与されるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
組成物が機能性飲食品である、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
組成物がサプリメントである、請求項1〜のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
組成物が医薬組成物である、請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
マルチトールを飲食品に配合または添加することを特徴とする、3−デオキシグルコソン生成抑制用機能性飲食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチトールを有効成分とする終末糖化産物生成抑制剤、ならびにマルチトールを有効成分として含む、糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療のための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸と還元糖の混合物を加熱すると褐変する現象は、一般にメイラード反応と呼ばれ、食品分野では、食品の加熱処理や貯蔵中に生じる現象として知られている。メイラード反応は、生体内においても発生しており、1968年にはグリコシルヘモグロビン(HbA1c)が生体内で同定されたことにより、糖尿病や老化の進行に伴い蛋白質の糖化反応が進行することが明らかにされた。そして、近年では、蛋白質の糖化反応における終末糖化産物(Advanced glycation end products、以下「AGEs」とも称する)が糖尿病合併症や動脈硬化といった生活習慣病の発症や老化の進行に関与することが報告されている(非特許文献1〜3)。AGEsは特定の物質を指すものではなく、その全容は未だ解明されていないが、蛍光性や架橋構造の有無によって、ペントシジン、ピロピリジン、ピラリン等、様々な物質の存在が確認されている。
【0003】
生体内における蛋白質糖化反応の詳細は明らかとなっていないが、蛋白質に存在するアミノ基と還元糖に存在するアルデヒド基が反応し、シッフ塩基を形成した後、安定なアマドリ化合物が生成され、さらに長期の反応を経て、該アマドリ化合物から種々のAGEsが生成されると考えられている。アマドリ化合物からのAGEsの生成過程において、3−デオキシグルコソン(以下、「3−DG」とも称する)、グリオキサール、メチルグリオキサール等のジカルボニル化合物が中間体として生成することが知られている。これら中間体の中でも3−DGはアミノ基との反応性が極めて高く、且つ最も生成量が多いことから、重要な中間体と考えられている。また、糖尿病患者においては、血清3−DG値が高いほど合併症の進行が速いとの報告もある(非特許文献4)。したがって、AGEsの生成抑制のために3−DGの生成を抑制することが特に注目されている。
【0004】
3−DGの生成抑制に着目した技術としては、3−DG等の初期グリコシル化産物のカルボニル基と反応して標的蛋白質の後期グリコシル化を抑制する、アミノグアニジン等の化合物を含むメイラード反応阻害剤が開示されている(特許文献1)。アミノグアニジンは当該技術分野における医薬品の開発において最も研究されている物質であるが、肝障害等の副作用を有することが確認されており、そのため、実用化には至っていない。
【0005】
その他にも、ガンビールノキやシラカバ等の植物抽出物により3−DGの生成反応を阻害するメイラード反応阻害剤(特許文献2)、グリオキサラーゼI活性を備える酵素およびカルボニル化合物還元剤を有効成分とする3−DGの消去によるカルボニルストレス改善剤(特許文献3)、パラバン酸誘導体を有効成分とする3−DG生成阻害剤(特許文献4)、スルフィド化合物を有効成分とするデオキシグルコソン生成抑制剤(特許文献5)などが知られている。しかし、これらはいずれも有効性や安全性の点に課題を残すものであった。
【0006】
そこで、種々の疾患の発症や悪化に関与するAGEsの生成抑制のために利用することができ、かつ、重篤な副作用を有さない安全性の高い薬剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平6−67827号公報
【特許文献2】特許第4195840号公報
【特許文献3】特許第4812996号公報
【特許文献4】特開平10−182460号公報
【特許文献5】特開2007−261983号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】The Journal of Clinical Investigation, 1993, vol.91, pp.2470-2478
【非特許文献2】The New England Journal of Medicine, 1991, vol.325, pp.836-842
【非特許文献3】The Biochemical Journal, 2000, vol.350, pp.381-387
【非特許文献4】Diabetes Care, 2003, vol.26, pp.1889-1894
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、種々の生活習慣病の要因物質と考えられているAGEsの生成を抑制することができる物質を含み、生活習慣病、特に糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療に有用であり且つ副作用の少ないAGEs生成抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、マルチトールがAGEsの生成およびAGEs生成反応の中間体である3−DGの生成を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち本発明は、マルチトールを有効成分として含有する終末糖化産物生成抑制剤(以下、「本発明のAGEs生成抑制剤」とも称する)を提供する。
【0012】
本発明はまた、マルチトールを有効成分として含有する3−デオキシグルコソン生成抑制剤(以下、「本発明の3−DG生成抑制剤」とも称する)を提供する。
【0013】
本発明はさらに、マルチトールを有効成分として含む、糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療のための医薬組成物(以下、「本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物」とも称する)を提供する。
【0014】
本発明はさらに、非ヒト動物における糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療のための、マルチトールを含む非ヒト動物用医薬組成物、該医薬組成物または本発明のAGEs生成抑制剤もしくは3−DG生成抑制剤を非ヒト動物に投与することを含む、非ヒト動物における糖尿病もしくは糖尿病合併症を予防および/または治療する方法、本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤を飲食品に配合または添加することを特徴とする機能性飲食品の製造方法、ならびにサプリメントの製造のための本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤の使用を提供する。
【発明の効果】
【0015】
AGEs、およびAGEsの生成反応における主要な中間体である3−DGは、種々の生活習慣病との関連が示唆されている物質であり、特に、糖尿病およびその合併症の発症および/または進行に深く関与するものである。したがって、本発明者らによりAGEsおよび3−DGの生成を抑制する作用が見出されたマルチトールは、糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療のための、副作用の少ない医薬組成物の有効成分として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のAGEs生成抑制剤、3−DG生成抑制剤および糖尿病予防/治療用医薬組成物の有効成分であるマルチトールは、公知の製造方法により製造されたものであってもよく、市販のマルチトール製品であってもよい。マルチトールの製造方法としては、例えば、麦芽糖を含む水飴を触媒存在下で高圧接触還元することで水素添加し、精製、濃縮する方法が例示される。市販のマルチトール製品としては、上野製薬株式会社製の還元澱粉糖化物MU−45、MU−50、MU−65、還元麦芽糖水飴MU−75および粉末マルチトールウエノを例示することができる。
【0017】
本発明において使用するマルチトールの性状は、液体状または固体状のいずれであってもよく、例えば、液体状マルチトールから公知の粉末化方法または結晶化方法により製造された、粉末状マルチトールまたは結晶マルチトールであってもよい。使用するマルチトールの性状は、目的とする剤形に応じて適宜選択することができる。
【0018】
本発明において使用するマルチトールの純度としては、液体状マルチトールであれば純度45%以上のものが好ましい。また、粉末状マルチトールであれば純度80%以上のものが好ましく、純度85%以上のものがより好ましく、純度88%以上のものがさらに好ましい。
【0019】
本発明のAGEs生成抑制剤および3−DG生成抑制剤はいずれも、有効成分としてマルチトールを含有するものであればよく、マルチトールによるAGEs生成抑制効果または3−DG生成抑制効果を妨げない限り、さらに賦形剤等を含むものであってもよい。したがって、本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤中のマルチトールの割合は特に限定されない。例えば、本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤は、マルチトールを40重量%以上、45重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、80重量%以上、85重量%以上、90重量%以上、95重量%以上または98重量%以上含むものであり得る。あるいは、本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤は、マルチトールのみからなるものであってもよい。一つの態様において、マルチトールは、本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤における単独の有効成分である。
【0020】
本発明のAGEs生成抑制剤は、ペントシジン、クロスリン、ピロピリジン、グリオキサール由来リジンダイマー(GOLD)、メチルグリオキサール由来リジンダイマー(MOLD)等の蛍光性AGEsおよびピラリン、カルボキシメチルリジン(CML)、3−デオキシグルコソン由来リジンダイマー(DOLD)、イミダゾロン化合物等の非蛍光性AGEsを含む種々のAGEsの生成を抑制することができる。一つの態様において、本発明のAGEs生成抑制剤は、蛍光性AGEsであるペントシジンの生成抑制のために用いられるものである。別の態様において、本発明のAGEs生成抑制剤は、非蛍光性AGEsであるカルボキシメチルリジン(CML)の生成抑制のために用いられるものである。
【0021】
本発明の3−DG生成抑制剤は、3−DGの生成抑制を介して、AGEsのうち主として3−DGから生じるピロピリジン、ピラリン、DOLD、イミダゾロン、3−DGイミダゾロン等の生成を特に効果的に抑制することができる。
【0022】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、本発明のAGEs生成抑制剤および3−DG生成抑制剤と同様、有効成分としてマルチトールを含有するものである。
【0023】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物中に有効成分として含有させるマルチトールの割合は、目的とする剤形等に応じて適宜設定することができるが、通常、医薬組成物全量に対し1〜98重量%程度であればよく、2〜95重量%程度であることが好ましく、3〜90重量%程度であることがより好ましい。一つの態様において、マルチトールは、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物における単独の有効成分である。
【0024】
本発明の好ましい態様において、糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療は、3−デオキシグルコソンまたは終末糖化産物の生成抑制を介するものである。
【0025】
本明細書において、糖尿病もしくは糖尿病合併症の「治療」には、既に糖尿病もしくは糖尿病合併症に罹患している患者における症状の進行を阻止することも含まれる。
【0026】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の投与方法は、経口投与または非経口投与のいずれであってもよい。また、該組成物の投与時期は特に限定されず、食前、食中、食後、食間のいずれであってもよい。例えば、該組成物は、糖類含有量が5g以上である食事、またはアミノ酸および/または蛋白質含有量が20g以上である食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに投与するのが好ましく、糖類ならびにアミノ酸および/または蛋白質を前記含有量以上含有する食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに投与するのがより好ましい。食事に含まれるアミノ酸としては、リジン、アルギニン等が挙げられ、その中でもAGEs化し易いリジンおよび/またはアルギニンを前記含有量以上含有する食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに該組成物を投与するのが好ましい。また、食事に含まれる蛋白質としては、卵白アルブミン、乳アルブミン、グリアジン、乳カゼイン、大豆カゼイン等が挙げられ、その中でもAGEs化し易い卵白アルブミン、乳アルブミンおよび乳カゼインから選ばれる1種以上を前記含有量以上含有する食事の食前、食中、食後および食間のいずれかに該組成物を投与するのが好ましい。経口投与の場合には、多量のマルチトールによる下痢の副作用回避の点で、該組成物を食後に投与するか、または一日に複数回に分けて少量ずつ投与するのが特に好ましい。ここで、一般的に「食事」とは、生存に必要な栄養分をとるために毎日の習慣として物を食べること(飲食行為)あるいはその飲食物を意味するが、本明細書において用いる「食事」の用語は、一回の飲食行為において摂取する一まとまりの飲食物を意味するものとする。
【0027】
本明細書において用いる場合、「糖類」とは、単糖および/または二糖を意味するものとする。これに対し「糖質」とは、炭水化物のうち食物繊維以外のものをいい、糖類の他に、オリゴ糖、多糖、糖アルコール等が含まれる。
【0028】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の投与量は、糖尿病またはその合併症の程度、その他の疾病の程度、年齢、性別等の条件に応じて適宜選択される。該組成物は、AGEsの生成を抑制することができる量(以下、「AGEs生成抑制有効量」とも称する)あるいはAGEsの前駆体である3−DGの生成を抑制することができる量(以下、「3−DG生成抑制有効量」とも称する)を投与すればよい。AGEs生成抑制有効量および3−DG生成抑制有効量は、当業者に周知の方法(各種の非臨床および/または臨床試験を含む)を用いて適宜決定することができる。
【0029】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、AGEs生成抑制有効量または3−DG生成抑制有効量のマルチトールを一度に投与するものであっても良く、間隔を置いて複数回に分けて投与するものであっても良い。経口投与の場合は、緩下性の点から複数回に分けて投与するのが好ましい。複数回に分けて投与する場合は、一日に投与されるマルチトールの合計量がAGEs生成抑制有効量または3−DG生成抑制有効量となればよく、食事の回数に合わせて投与するのが好ましい。
【0030】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、糖尿病もしくは糖尿病合併症に罹患した者、または健常者のいずれに対しても投与することができる。特に糖尿病はAGEsおよびその前駆体である3−DGとの関連性が高いため、該組成物は糖尿病に罹患した者に対して投与するのが好ましい。糖尿病に罹患した者とは、ヘモグロビンA1cが6.1%(JDS値)以上で、且つ、以下の(1)〜(3)のいずれかに該当する者を指す:(1)空腹時血糖値が126mg/dL以上、(2)随時血糖値(空腹か食後かにかかわらず)が200mg/dL以上、および(3)ブドウ糖負荷後2時間値が200mg/dL以上。糖尿病診断基準の詳細は、日本糖尿病学会による「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告」(同学会のホームページ等から入手可能)に記載されている。
【0031】
また、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、糖尿病に伴って発症する糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害、糖尿病血管合併症、動脈硬化症、腎不全、アルツハイマー病、神経変性疾患、がん等の糖尿病合併症の予防および/または治療のために用いることができる。これらの糖尿病合併症の中でも、発症率の高い糖尿病網膜症、糖尿病腎症および/または糖尿病神経障害の予防および/または治療のために該組成物を用いることが好ましい。
【0032】
さらに、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、健常者に投与することにより、糖尿病およびその合併症を効果的に予防することができる。
【0033】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、マルチトールによる糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療効果を妨げない範囲であれば、マルチトールの他にさらに賦形剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、矯味剤、懸濁化剤、乳化剤、着香剤、溶解補助剤、着色剤、粘稠剤等の成分を添加して各種の剤形とすることができる。
【0034】
本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の剤形としては、錠剤(口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠)、カプセル剤、顆粒剤(発泡顆粒剤)、散剤、経口液剤(エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤)、シロップ剤(シロップ用剤)、経口ゼリー剤、口腔用錠剤(トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着錠、ガム剤)、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤、含嗽剤、注射剤(輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射剤)、透析用剤(腹膜透析用剤、血液透析用剤)、吸入剤(吸入粉末剤、吸入液剤、吸入エアゾール剤)、坐剤、直腸用半固形剤、注腸剤、点眼剤、眼軟膏剤、点耳剤、点鼻剤(点鼻粉末剤、点鼻液剤)、膣錠、膣用坐剤、外用固形剤(外用散剤)、外用液剤(リニメント剤、ローション剤)、スプレー剤(外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤)、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤(テープ剤、パップ剤)等が挙げられる。これらの剤形の中でも経口投与のし易さの点で、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、経口液剤、シロップ剤、経口ゼリー剤、口腔用錠剤、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤および含嗽剤が好ましく、生体内に吸収され易い点で、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤がより好ましい。
【0035】
また、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、エキス剤、丸剤、酒精剤、浸剤・煎剤、茶剤、チンキ剤、芳香水剤、流エキス剤等の生薬関連製剤に本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤を添加した剤形で使用することもできる。これら剤形は、糖尿病またはその合併症の程度、その他の疾病の程度、年齢、性別等の条件に応じて適宜選択される。
【0036】
更に、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、AGEs生成抑制効果を有する他の薬剤をさらに含むものとすることができる。これらの薬剤としては、例えば、インスリン抵抗性改善薬、脂質異常症治療薬、アンジオテンシンII1型受容体拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、メトホルミン等が例示される。
【0037】
また、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物は、AGEs生成抑制効果を有する天然物または天然由来物質をさらに含むものとすることもできる。これらの天然物または天然由来物質としては、例えば、ドクダミ、セイヨウサンザシ、カモミール、ブドウ葉等のハーブ類、桜の花、トウモロコシの花柱および柱頭、セイヨウオオバコ種子、マロニエ、シャクヤク、バラの花、梅果実、山ぶどう、紫菊花、小麦胚芽、小麦胚芽由来のポリアミン、マンゴスチン等が例示される。
【0038】
本発明のAGEs生成抑制剤もしくは3−DG生成抑制剤またはその有効成分であるマルチトールは、非ヒト動物における糖尿病もしくは糖尿病合併症を予防および/または治療するために用いることもできる。したがって、本発明の一態様において、非ヒト動物における糖尿病もしくは糖尿病合併症の予防および/または治療のための、マルチトールを含む非ヒト動物用医薬組成物(以下、本発明の非ヒト動物用医薬組成物とも称する)が提供される。また、該非ヒト動物用医薬組成物または本発明のAGEs生成抑制剤もしくは3−DG生成抑制剤を非ヒト動物に投与することを含む、非ヒト動物における糖尿病もしくは糖尿病合併症を予防および/または治療する方法も提供される。非ヒト動物としては、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ等の家畜類や、イヌ、ネコ等のペットとして飼育される動物等が例示される。
【0039】
本発明の非ヒト動物用医薬組成物に含有させるマルチトールの量、該医薬組成物の投与方法、投与時期、投与量および剤形、該医薬組成物においてマルチトールと併用可能な他の薬剤、天然物および天然由来物質、ならびに本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤を非ヒト動物に投与する場合における投与方法、投与時期、投与量等については、「本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物」について上述した内容と同様である。
【0040】
さらに、本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤は、食品添加剤として用いることもできる。したがって、本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤を飲食品に配合または添加することにより、AGEsまたは3−DGの生成を抑制する機能性飲食品を提供することができる。また、本発明のAGEs生成抑制剤または3−DG生成抑制剤を成分として使用することにより、AGEsまたは3−DGの生成を抑制するサプリメントを製造することもできる。この場合、製造するサプリメントの剤形に応じて適宜、賦形剤等を配合することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【0042】
試験例1
(a)3−DGの測定
(1)試料の調製
アミノ酸、糖質およびリン酸緩衝液を表1に示す配合量で30mLのガラス製試験管に入れて密閉し、攪拌した後、120℃で60分間、オートクレーブ内で反応させて、冷却後に0.2μmフィルターで濾過した。かくして得られた濾液を試料とした。尚、使用したアミノ酸および糖質は下記の通りである。

[アミノ酸]
リジン(N−α−(t−ブトキシカルボニル)−L−リジン、渡辺化学工業株式会社製)
アルギニン(N−α−(t−ブトキシカルボニル)−L−アルギニン、渡辺化学工業株式会社製)

[糖質]
スクロース(台糖株式会社製)
マルチトール(粉末マルチトールウエノ60M(マルチトール純度90%)、上野製薬株式会社製)

【表1】
【0043】
(2)試験方法
試料2mLに等量の60%過塩素酸溶液を加えて除蛋白し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液4mLで中和した後、2,3−ジアミノナフタレンの0.1%メタノール溶液0.8mLを添加し、4℃で16時間反応させた。次に反応物を4.4mLの酢酸エチルで抽出し、エバポレーターで濃縮乾固後、メタノール5mLに溶解させ、0.45μmフィルターで濾過した。濾過液を高速液体クロマトグラフィーに供試し、下記測定条件で3−DGを定量した。

[高速液体クロマトグラフィー測定条件]
UV:268nm
注入量:20μL
カラム:TSK−GEL、ODS−80Ts(4.6×150mm、東ソー株式会社製)
カラム温度:30℃
移動相:50mMリン酸:メタノール:アセトニトリル=7:1.5:1.5
流速:1mL/分
【0044】
(3)結果
3−DGの定量結果を表2に示す。
【表2】
【0045】
(b)蛍光性AGEsの測定
(1)試料の調製
上記3−DGの測定と同一の試料を用いた。
【0046】
(2)試験方法
標準物質であるペリレン2.5mgを秤量し、脱気エタノール50mLを加えて十分に溶解させペリレン溶液を作製した。10μMの濃度まで希釈したペリレン溶液に波長386nmの励起光を当て、410−600nmの範囲の蛍光強度を測定してエリアを算出した。一方で、試料には波長380nmの励起光を当て、400−600nmの範囲の蛍光強度を測定してエリアを算出した。試料のエリア測定値は10μMのペリレン溶液のエリアの値に対する相対値として蛍光性AGEsを定量した。
【0047】
(3)結果
蛍光性AGEsの定量結果を表3に示す。
【表3】
【0048】
(c)ペントシジンの測定
(1)試料の調製
上記3−DGの測定と同一の試料を用いた。
【0049】
(2)試験方法
ペントシジン測定キット「FSKペントシジン(登録商標)」(株式会社伏見製薬所)を用いてペントシジン定量を行った:使用する30分以上前に試薬及びペントシジン固相化プレートを常温に戻しておいた。試料希釈後、キット添付のペントシジン固相化プレートに試料を50μLずつ分注し、試薬のブランク値測定用ウェル以外に第一抗体溶液50μLを分注した。プレートを300rpmで1分間振盪することにより試料と抗体溶液を混合した後、37℃で1時間反応させた。次に反応液を捨て、洗浄液200μLを分注してプレートを洗浄した。該洗浄は3回行った。プレートの水気を取り除いた後、試薬のブランク値測定用ウェル以外に第二抗体溶液100μLを分注し、300rpmで1分間の振盪により混合した後、25℃で1時間反応させた。そして、反応液を捨て、再び洗浄液200μLでプレートを3回洗浄した後、プレートの水気を取り、発色剤100μLを分注して遮光条件下で10分間静置した。最後に反応停止液100μLを分注し、分注後10分以内にマイクロプレートリーダーを用いて主波長450nm/参照波長630nmで測定を行った。ペントシジン濃度は、試料の測定値に基づき、ペントシジン標準溶液の検量線を用いて決定した。
【0050】
(3)結果
ペントシジンの定量結果を表4に示す。
【表4】
【0051】
(d)CMLの測定
(1)試料の調製
上記3−DGの測定と同一の試料を用いた。
【0052】
(2)試験方法
CircuLex CML/Nε−(carboxymethyl)lysine ELISA kit(株式会社サイクレックス製)を用いてCML定量を行った:使用する30分以上前に試薬及びCML固相化ウェルを常温に戻しておいた。またCML−HSAスタンダード粉末品に超純水(ミリQ水)1mLを加えてマスタースタンダードを作製し、スタンダード希釈用バッファーで希釈を行いスタンダード1〜7を作製した。試料は必要に応じてサンプル希釈用バッファーで希釈した。キット付属品でない96ウェルプレートにCML−HSAスタンダードと試料60μLを分注した。次に、第一抗体粉末品に超純水(ミリQ水)を加え、サンプル希釈用バッファーで希釈して第一抗体溶液を作成し、該抗体溶液60μLをプレートに分注して混合した。該混合液100μLをCML固相化ウェルに添加し、300rpmで振盪させながら25℃で1時間反応させた。さらに反応液を捨て、洗浄液350μLを分注してプレートを洗浄した。該洗浄は4回行った。プレートの水気を取り除いた後、第二抗体溶液100μLを分注し、300rpmで振盪させながら25℃で1時間反応させた。反応液を捨て、再び洗浄液350μLで4回洗浄し、プレートの水気を取り、発色剤100μLを分注した。そして300rpmで振盪させながら遮光条件下で10分間静置した。最後に反応停止液100μLを分注し、分注後30分以内にマイクロプレートリーダーを用いて主波長450nm/参照波長595nmで測定を行った。CML濃度は、試料の測定値に基づき、CML標準溶液の検量線を用いて決定した。
【0053】
(3)結果
CMLの定量結果を表5に示す。
【表5】
【0054】
AGEs生成抑制効果の評価
糖質としてスクロースのみを含有する試験区1に対し、糖質としてマルチトールのみを含有する試験区2では、3−DG生成量が大幅に減少し、かつ、蛍光性AGEs、ペントシジンおよびCMLの各生成量も減少していた。また、糖質としてスクロースとマルチトールを含有する試験区3では、試験区1に比べて3−DGおよび各種AGEs生成量が減少していた。かかる結果から、アミノ酸存在下におけるマルチトールの3−DGおよびAGEs生成抑制効果が認められる。
【0055】
試験例2
(1)試料の調製
食品由来蛋白質、糖質およびリン酸緩衝液を表6に示す配合量で30mLのガラス製試験管に入れて密閉し、攪拌した後、120℃で60分間、オートクレーブ内で反応させた。次に、反応物を限外濾過ユニット(ビバスピン20、Sartorius社製)を用いて、3000rpmで3時間、遠心分離することにより分画し、低分子画分を3−DG定量用、高分子画分を蛍光性AGEs、RAGEアゴニスト活性およびRAGEアンタゴニスト活性測定用の試料とした。尚、使用した食品由来蛋白質および糖質は下記の通りである。

[食品由来蛋白質]
卵白アルブミン(東京化成工業株式会社製)
乳アルブミン(東京化成工業株式会社製)
グリアジン(東京化成工業株式会社製)
乳カゼイン(片山化学工業株式会社製)
大豆カゼイン(キシダ化学株式会社製)

[糖質]
スクロース(台糖株式会社製)
マルチトール(粉末マルチトールウエノ60M(マルチトール純度90%)、上野製薬株式会社製)

【表6】
【0056】
(2)試験方法
(a)3−DGの定量
上記のように調製した低分子画分を試料として用いた以外は、試験例1と同様の方法によって3−DGを定量した。
【0057】
(b)蛍光性AGEsの定量
アンプル管に高分子画分0.4gおよび6N塩酸8mLを入れ、管内を窒素置換した後、110℃で16時間、ヒートブロックにて加水分解を行った。反応後、5N水酸化ナトリウム8mLを加えた後、pH7.2〜7.6の範囲内に納まるよう1N塩酸および1N水酸化ナトリウムを用いてpH調整を行い、0.45μmフィルターで濾過した。得られた濾液を試料として用い、以下の方法によって蛍光性AGEsを定量した: 標準物質であるペリレン2.5mgを秤量し、脱気エタノール10mLを加えて十分に溶解させペリレン溶液を作製した。10μMの濃度まで希釈したペリレン溶液に波長386nmの励起光を当て、410−600nmの範囲の蛍光強度を測定してエリアを算出した。一方で、試料には波長380nmの励起光を当て、400−600nmの範囲の蛍光強度を測定してエリアを算出した。試料のエリア測定値は、10μMのペリレン溶液のエリアの値に対する相対値として蛍光性AGEsを定量した。
【0058】
(c)RAGEアゴニスト活性の評価
Luciferase Assay System(Promega)を用いてRAGEアゴニスト活性の評価を行った:(1日目)Diabetes, 2006, vol.55, pp.2510−2522に記載される方法に従い、pNF−κB−Lucプラスミド(stratagene社)とヒトRAGEプラスミド(全長ヒトRAGE cDNAを含む)を導入したC6グリオーマ細胞を96ウェルプレートに100μL/ウェルで播種し、細胞がコンフルエントになるまでCOインキュベーターで培養した。培養には10%FBS/DMEM培地を使用した。(2日目)培地を除去し、無血清DMEM培地300μLでウェル内を洗浄後、0.1%FBS/DMEM培地100μLをゆっくり添加した。その後、COインキュベーターで一晩培養した。(3日目)培地を用いて試料を希釈し、各ウェルに希釈した試料50μLを添加した。また、対照のウェルにはグリセルアルデヒドでAGE化されたAGE−BSA(50μg/mL)を添加した。COインキュベーターで4時間培養後、培地を除去してPBS(−)300μLでウェル内を2回洗浄した。そして氷上で1×リシスバッファー25μLを添加した。プレートを15秒間振盪した後、新しい白色プレートに可溶化液20μLを入れた。ルシフェラーゼアッセイリージェント100μLをさらに添加し、ルミノメーターで発光強度を測定した。また、可溶化液5μLを使用してタンパク定量も行った。
【0059】
(d)RAGEアンタゴニスト活性の評価
LuciferaseAssaySystem(Promega)を用いてRAGEアンタゴニスト活性の評価を行った:(1日目)Diabetes,2006,vol.55,pp,2510−2522に記載される方法に従い、pNF−κB−Lucプラスミド(stratagene社)とヒトRAGEプラスミド(全長ヒトRAGE cDNAを含む)を導入したC6グリオーマ細胞を96ウェルプレートに100μL/ウェルで播種し、細胞がコンフルエントになるまでCOインキュベーターで培養した。培養には10%FBS/DMEM培地を使用した。(2日目)培地を除去し、無血清DMEM培地300μLでウェル内を洗浄後、0.1%FBS/DMEM培地100μLをゆっくり添加した。その後、COインキュベーターで一晩培養した。(3日目)培地を用いて試料を希釈し、各ウェルに希釈した試料50μL、対照としてグリセルアルデヒドでAGE化されたAGE―BSA(50μg/mL)、さらに希釈した試料とAGE−BSAの混合液を添加した。COインキュベーターで4時間培養後、培地を除去してPBS(−)300μLでウェル内を2回洗浄した。そして氷上で1×リシスバッファー25μLを添加した。プレートを15秒間振盪した後、新しい白色プレートに可溶化液20μLを入れた。ルシフェラーゼアッセイリージェント100μLをさらに添加し、ルミノメーターで発光強度を測定した。また、可溶化液5μLを使用してタンパク定量も行った。
【0060】
(3)結果
卵白アルブミン、乳アルブミン、グリアジン、乳カゼインおよび大豆カゼインのいずれの食品由来蛋白質との組合せにおいても、糖質としてマルチトールを含有する試験区2、5、8、11および14では、糖質としてスクロースを含有する試験区1、4、7、10および13に比べ、3−DG生成量が大幅に減少し、かつ、AGEs生成量も減少していた。糖質としてマルチトールを含有する試験区2、5および11では、糖質としてスクロースを含有する試験区1、4および10に比べ、RAGEアゴニスト活性が低下していた。また、糖質としてマルチトールを含有する試験区2および5では、糖質としてスクロースを含有する試験区1および4に比べ、RAGEアンタゴニスト活性が低下していた。かかる結果から、食品由来蛋白質存在下におけるマルチトールのAGEsおよび3−DG生成抑制効果が認められる。AGEsおよび3−DGの定量結果を表7に示す。
【表7】
【0061】
試験例3
(1)試料の調製
アミノ酸または生体蛋白質と、糖質およびリン酸緩衝液を表8に示す配合量で50mLのポリプロピレン製遠沈管に入れて密閉し、攪拌した後、37℃で42日間、インキュベーター内で反応させた。次に、反応物を限外濾過ユニット(ビバスピン20、Sartorius社製)を用いて、3000rpmで3時間、遠心分離することにより分画し、低分子画分を3−DG定量用、高分子画分を蛍光性AGEs測定用の試料とした。尚、使用したアミノ酸、生体蛋白質および糖質は下記の通りである。

[アミノ酸]
リジン(N−α−(t−ブトキシカルボニル)−L−リジン、渡辺化学工業株式会社製)とアルギニン(N−α−(t−ブトキシカルボニル)−L−アルギニン、渡辺化学工業株式会社製)の1:1混合物

[生体蛋白質]
ウシ血清アルブミン(シグマアルドリッチ社製)

[糖質]
グルコース(試薬特級、和光純薬工業株式会社製)
マルチトール(粉末マルチトールウエノ60M(マルチトール純度90%)、上野製薬株式会社製)

【表8】
【0062】
(2)試験方法
上記のように調製した低分子画分を試料として用いた以外は、試験例1と同様の方法によって3−DGを定量した。上記のように調製した高分子画分を試料として用いた以外は、試験例2と同様の方法によって蛍光性AGEsを測定した。
【0063】
(3)結果
アミノ酸およびウシ血清アルブミンのいずれとの組合せにおいても、糖質としてマルチトールを含有する試験区2および5では、糖質としてグルコースを含有する試験区1および4に比べ、3−DG生成量が大幅に減少し、かつ、AGEs生成量も減少していた。かかる結果から、アミノ酸または生体蛋白質存在下におけるマルチトールのAGEsおよび3−DG生成抑制効果が認められる。AGEsおよび3−DGの定量結果を表9に示す。
【表9】
【0064】
処方例1(散剤)
表10に示す原材料を混合し、散剤を製造した。該散剤は、本発明のAGEs生成抑制剤もしくは3−DG生成抑制剤、または本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の一形態である。
【表10】
【0065】
処方例2(錠剤)
表11に示す原材料を混合した後、連続式打錠機(Piccola B−10/RIVA社製)を用い、杵金型(φ8mm、R12mm)、1錠あたりの重量150〜200mg、回転盤の回転数12rpm、打錠圧4kNの打錠条件で直接打錠し、錠剤を製造した。該錠剤は、本発明のAGEs生成抑制剤もしくは3−DG生成抑制剤、または本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の一形態である。
【表11】
【0066】
処方例3(経口液剤)
表12に示す原材料を蒸留水500mLに溶解し、経口液剤を製造した。該経口液剤は、本発明の糖尿病予防/治療用医薬組成物の一形態である。
【表12】