(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
船体のx軸、y軸、z軸からなる3つの直線軸と、前記直線軸の各々に対する3つの回転軸とからなる6軸のうち、少なくとも2軸における制御が可能な水中航走体の制御装置であって、
制御対象である各軸に対応してそれぞれ設けられた複数のフィードバック制御部と、
外乱補償演算式を用いて、外乱を打ち消すための外乱補償舵角を前記軸毎に演算する外乱補償部と、
各前記フィードバック制御部から出力される軸毎の舵角指令を前記外乱補償部から出力される対応する前記軸の外乱補償舵角を用いて補正し、前記軸毎の舵角指令を生成する舵角指令設定部とを備え、
前記外乱補償演算式は、外乱をパラメータとして含むとともに、前記船体の任意の平衡点近傍における線形化状態方程式において、係数行列を平衡点の関数として表して、前記船体の全運転範囲において適応可能なように変化させた線形化状態方程式を、前記外乱について逆に解くことにより導出された演算式であり、
前記外乱補償部は、前記外乱補償演算式に、時間に応じた前記平衡点の値及び状態変数の値を代入することにより、前記外乱補償舵角を得る水中航走体の制御装置。
前記外乱補償演算式の平衡点には、前記船体の実速度または前記船体の位置情報から演算により得られる速度演算値が用いられる請求項1に記載の水中航走体の制御装置。
前記状態変数には、前記船体に取り付けられたセンサによって検出される検出値または該検出値から演算により得られる演算値が用いられる請求項1から請求項3のいずれかに記載の水中航走体の制御装置。
前記状態変数には、前記船体に取り付けられたセンサによって検出される検出値の微小変化量または該検出値から演算により得られる演算値の微小変化量が用いられる請求項1から請求項3のいずれかに記載の水中航走体の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の水中航走体及び水中航走体及びその制御装置並びに制御方法の各実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る水中航走体の概略構成を示した図、
図2は
図1に示した水中航走体を船尾から見たときの舵の配置について模式的に示した図、
図3は水中航走体の運動の自由度について説明するための図である。
【0020】
図3に示すように、水中航走体の船体1は、船尾軸線(以下「x軸」という)、左右軸線(以下「y軸」という)、上下軸線(以下「z軸」という)からなる互いに直交する3つの直線軸と、これら各直線軸に対する3つの回転軸とからなる6軸(6自由度)の制御が可能な構成とされている。
【0021】
図3に示すように、本実施形態では、船体座標系における上記x軸方向、y軸方向、z軸方向の速度をそれぞれu,v,wとし、それぞれの軸周りの角速度をp,q,rと定義する。更に、絶対座標系(地球座標系)におけるx軸周りの回転角度をロール角φ、y軸周りの回転角度をピッチ角θ、z軸周りの回転角度をヨー角ψと定義する。
図1、
図2に示すように、船体1には、複数の舵3a〜3eが設けられている。舵3a〜3dは、主にピッチ角θに関する制御に用いられ、舵3eは主に深度に関する制御に用いられる。
そして、これらの舵3a〜3eが、後述する各実施形態に係る制御装置において生成される各舵角指令に基づいて操作されることにより、6軸の状態(主に、z軸方向における位置である深度及びピッチ角)をそれぞれの目標値に追従させる制御が実現される。
【0022】
〔第1実施形態〕
以下に、本発明の第1実施形態に係る水中航走体の制御装置並びに制御方法について、図面を参照して説明する。本実施形態に係る水中航走体の制御装置は、上述した6軸に対してそれぞれ設けられた複数の制御部及びこれら軸間における干渉を抑制するための非干渉化制御部を有するが、以下の説明においては、便宜上、z軸方向の制御(深度制御)及びy軸に対応する回転軸の制御(ピッチ角θ制御)を一例として取り上げ、深度とピッチ角との間に生ずる干渉を低減する場合について説明する。
【0023】
図4は、本実施形態に係る水中航走体の制御装置(以下、単に「制御装置」という)10aにおいて、深度制御とピッチ角制御に関する機能ブロックについて示した図である。
制御装置10aは、深度zを制御する深度制御部11と、ピッチ角θを制御するピッチ角制御部12と、非干渉化制御部13とを備えている。
【0024】
深度制御部11は、離散的な値である設定深度z
setから連続的な目標深度z
*を設定する目標深度設定部21、目標深度設定部21からの目標深度z
*と船体1の実深度zとの差分を算出する差分演算部22、差分演算部22からの差分から深度フィードバック舵角δb
FBを設定するフィードバック制御部23、及び深度フィードバック舵角δb
FBを後述する非干渉化制御部13からの干渉補償舵角δb
FFを用いて補正し、深度舵角指令δb
*を生成する深度舵角設定部24を主な構成として備えている。
【0025】
目標深度設定部21は、例えば、上位装置(図示略)から入力される離散的な値である設定深度z
setに対して所定の応答モデルを用いて、連続的な目標深度z
*を得る。応答モデルの一例としては、以下の(1)式に示すような、2次のローパスフィルタが挙げられる。
【0027】
(1)式において、ζは減衰率[−]、ω
nは応答周波数[rad/s]であり、以下の(2)式で表される。例えば、深度制御系においては、オーバーシュートなしとして、ζ=1と設定される。
【0029】
(2)式において、Tsは、整定時間[sec]であり、運転条件に応じて任意に設定される。
【0030】
フィードバック制御部23は、例えば、差分演算部22からの差分に対してPID制御を行うことにより、深度フィードバック舵角δb
FBを設定する。
深度舵角設定部24は、例えば、深度フィードバック舵角δb
FBと干渉補償舵角δb
FFとを加算する加算器として実現される。
【0031】
ピッチ角制御部12は、離散的な値である設定ピッチ角θ
setから連続的な目標ピッチ角θ
*を設定する目標ピッチ角設定部31、目標ピッチ角設定部31からの目標ピッチ角θ
*と船体1の実ピッチ角θとの差分を算出する差分演算部32、差分演算部32からの差分からピッチ角フィードバック舵角δr
FBを設定するフィードバック制御部33、及びピッチ角フィードバック舵角δr
FBを後述する非干渉化制御部13からの干渉補償舵角δr
CFFを用いて補正し、ピッチ角舵角指令δr
C*を生成するピッチ角舵角設定部34を主な構成として備えている。
ピッチ角制御部12の各構成は、深度制御部11とほぼ同様であるため、詳細説明は省略する。
【0032】
非干渉化制御部13は、フィードフォワード系であり、線形化された船体1の状態方程式から逆問題解析によって導出された干渉補償演算式を用いて、深度zとピッチ角θとの相互干渉を抑制するための干渉補償舵角δb
FF、δr
CFFを演算する。ここでは、非干渉化制御部13の各構成について説明する前に、干渉補償演算式の導出過程について説明する。
【0033】
一般的に、船体1の運動は非線形であるが、平衡点近傍(平衡点まわりの微小区間)では線形化できる。例えば、船体1の任意の平衡点近傍における線形化状態方程式は、以下の(3)式で表される。ここで、平衡点については、目標値において船体が平衡状態となると仮定し、船体運動の目標値を平衡点としている。
【0035】
(3)式において、Δuはx軸方向の速度の微小変化[m/s]、Δvはy軸方向の速度の微小変化[m/s]、Δwはz軸方向の速度の微小変化[m/s]、Δpはロール角速度の微小変化[rad/s]、Δqはピッチ角速度の微小変化[rad/s]、Δrはヨー角速度の微小変化[rad/s]、Δφはロール角の微小変化[rad]、Δθはピッチ角の微小変化[rad]、Δnは回転数の微小変化[rps]、Δδbは舵3eの舵角の微小変化、換言すると、深度に関する舵角指令の微小変化[rad]、Δδr1、Δδr2、Δδr3、Δδr4はそれぞれ舵3a、舵3b、舵3c、舵3dの舵角の微小変化、換言すると、ピッチ角θに関する舵角指令の微小変化[rad]である。
【0036】
続いて、任意の平衡点近傍における線形化状態方程式の係数行列A,Bを平衡点の関数として表現することにより、局所的に成立していた線形化を船体1の全運転領域において連続的に成立するよう変形する。
上記のような係数行列A,Bの要素は、ある任意の平衡点について、線形化したとき、平衡点の関数として表される。従って、船体の平衡点の変化に対して、係数行列A,Bを適応させることで、局所的にのみ成立する線形化状態方程式を全運転領域で成立させることが理論的に可能と考えられる。
【0037】
続いて、相互干渉が生ずる軸、すなわち、深度zとピッチ角θに関係する状態変数を特定し、特定した状態変数からなる線形化状態方程式となるように、モデルリダクションを行い、行列サイズを低減する。このように、深度・ピッチ角制御系に特化した線形化状態方程式とすることで、相互干渉に関係のない状態変数を除くことができ、処理負担を低減することが可能となる。
【0038】
(4)式に、深度・ピッチ角制御系に特化した線形化状態方程式の一例を示す。また、(5)式は、(4)式に含まれる係数行列の各要素を示したものである。(5)式に示されているように、係数行列の各要素は平衡点の関数として数式化されている(なお、一部の要素は定数として表される)。
【0041】
上記(5)式の各々において、係数Kは、船体固有の運動特性によって決定される定数である。係数Kの添え字は、最初の文字が運動方程式の軸を表し、2番目以降の文字が状態変数を示している。
【0042】
例えば、K
qθは、船体のq軸に関する運動方程式((6)式)における、θ項に係る係数K
qθであることを示している。
【0044】
同様に、例えば、K
wuudrは、船体のw軸に関する運動方程式((7)式)における、u
2・δr項に係る係数K
wuudrであることを示している。
【0046】
次に、モデルリダクション後の線形化状態方程式を逆問題解析し、干渉を打ち消すための舵角指令について解く。
【0047】
具体的には、上記(4)式から深度速度wとピッチ角速度qの式を抽出すると、以下の(8)式、(9)式となる。
【0049】
ここで、例えば、ピッチ角θが常に0に設定される場合を想定すると、ピッチ角に関するパラメータは全て0、すなわち、dq/dt=0、q=0、θ=0とおける。また、ピッチ角θに関する舵3a〜3dの舵角の微小変化がいずれも等しいとすると、δr
c=δr1=δr2=δr3=δr4とおけ、以下の(10)式、(11)式が得られる。
なお、上記想定は一例であり、例えば、ピッチ角θを所定のピッチ角に維持したいのであれば、ピッチ角θには所望の設定値を入力すればよい。
【0051】
そして、上記(10)式、(11)式の連立方程式を、深度zに関する舵角指令の微小変化Δδb、ピッチ角θに関する舵角指令の微小変化Δδr
cについて解くと、以下の(12)式及び(13)式が得られる。
この(12)式及び(13)式が干渉補償演算式の一例であり、Δδbが非干渉化に必要な深度に関する微小干渉補償舵角Δδb
FF、Δδr
cが非干渉化に必要なピッチ角に関する微小干渉補償舵角Δδr
cFFとなる。
【0053】
次に、
図3に戻り、本実施形態に係る非干渉化制御部13の具体的な構成について、説明する。非干渉化制御部13は、係数行列算出部41、遅延部42、微分器43a〜43d、微小変化量演算部44、干渉補償舵角算出部45、及び積算部46を主な構成として備えている。
【0054】
係数行列算出部41には、x軸方向における設定速度=目標速度u
*及び目標深度w
*が入力される。目標速度u
*は、例えば、上位装置から入力される値であり、目標深度w
*は、目標深度設定部21において設定された目標深度z
*を微分器43aで微分した値である。
係数行列算出部41は、上記(5)式で表される係数行列の各要素の数式を保有しており、これらの数式に目標速度u
*及び目標深度w
*を代入することにより、現在の平衡点における係数行列A(n),B(n)を算出する。
【0055】
算出された係数行列A(n),B(n)は、遅延部42に入力される。遅延部42は、今回の制御周期で得られた係数行列A(n),B(n)を記憶するとともに、記憶していた前回の制御周期で得られた係数行列A(n−1)、B(n−1)を干渉補償舵角算出部45に出力する。このように、1周期前の制御周期で得られた係数行列A(n−1)、B(n−1)を出力するのは、後述する微小変化量演算部44から出力される各状態変数との整合をとるためである。
【0056】
微小変化量演算部44には、目標深度速度w
*及び目標深度加速度dw
*/dt、目標ピッチ角θ
*に対応する回転軸の目標角速度q
*及び目標角加速度dq
*/dt、並びに目標ピッチ角θ
*が入力される。目標深度速度w
*は、目標深度設定部21により設定された目標深度z
*を微分器43aにより1回微分した値、目標加速度dw
*/dtは、目標深度z
*を微分器43a、43bにより2回微分した値である。目標角速度q
*は、目標ピッチ角設定部31により設定された目標ピッチ角θ
*を微分器43cにより1回微分した値、目標角加速度dq
*/dtは目標ピッチ角θ
*を微分器43c、43dにより2回微分した値である。
【0057】
なお、上記微分器43a〜43d及び微小変化量演算部44は、後述する干渉補償舵角算出部45において、干渉補償演算式に代入される状態変数を算出するための構成である。したがって、例えば、上記の状態変数のうち、干渉補償演算式に用いられない状態変数については、微分器の一部を省略したり、演算を省略したりすることが可能である。
【0058】
微小変化量演算部44は、これら各目標値の微小変化量Δw
*、Δdw
*/dt、Δq
*、Δdq
*/dt、Δθ
*を算出して、干渉補償舵角算出部45に出力する。
具体的には、微小変化量演算部44は、各入力値について、制御周期の前回値と今回値との差分を算出することにより、微小変化量を算出する。
【0059】
干渉補償舵角算出部45は、干渉補償演算式(例えば、上述した(12)式及び(13)式)を保有しており、これらの式に、遅延部42及び微小変化量演算部44からの入力値を代入することで、微小干渉補償舵角Δδb
FF、Δδr
cFFを得る。
積算部46は、干渉補償舵角算出部45で算出された微小干渉補償舵角Δδb
FF、Δδr
cFFを前回の制御周期における干渉補償舵角δb
FF、δr
cFFに加算することにより、今回の制御周期における深度に関する干渉補償舵角δb
FF及びピッチ角に関する干渉補償舵角δr
cFFを算出する。すなわち、演算式を表すと以下の通りとなる。
【0060】
δb
FF(今回値)=δb
FF(前回値)+Δδb
FF
δr
cFF(今回値)=δr
cFF(前回値)+Δδr
cFF
【0061】
このようにして得られた、深度に関する干渉補償舵角δb
FFは、深度制御部11の深度舵角設定部24において、深度フィードバック舵角δb
FBに加算されることで、深度舵角指令δb
*が得られる。
同様に、ピッチ角に関する干渉補償舵角δr
cFFは、ピッチ角制御部12のピッチ角舵角設定部34において、ピッチ角フィードバック舵角δr
cFBに加算されることで、ピッチ舵角指令δr
c*が算出される。
【0062】
次に、本実施形態に係る水中航走体の制御装置10aの動作について説明する。
上位装置において設定された設定深度z
setおよび設定ピッチ角θ
set(=0)が入力されると、設定深度z
setは深度制御部11に、ピッチ角設定値θ
setはピッチ角制御部12に入力される。
深度制御部11において、設定深度z
setは目標深度設定部21に入力され、離散的な値から連続的な値である目標深度z
*に変換される。目標深度z
*は、非干渉化制御部13及び差分演算部22に出力される。差分演算部22では、目標深度z
*と船体1の実深度zとの差分が算出され、フィードバック制御部23にて、この差分に基づく深度フィードバック舵角δb
FBが設定される。
【0063】
同様に、ピッチ角制御部12において、設定ピッチ角θ
setは目標ピッチ角設定部31に入力され、離散的な値から連続的な値である目標ピッチ角θ
*に変換される。目標ピッチ角θ
*は、非干渉化制御部13及び差分演算部32に出力される。差分演算部32では、目標ピッチ角θ
*と船体1の実ピッチ角θとの差分が算出され、フィードバック制御部33にて、この差分に基づくピッチ角フィードバック舵角δr
cFBが設定される。
【0064】
非干渉化制御部13では、目標深度z
*及び目標ピッチ角θ
*が微分器43a〜43dに入力されることにより、目標深度z
*から目標深度速度w
*、目標深度加速度dw
*/dtが算出されるとともに、目標ピッチ角θ
*から目標ピッチ角速度r
*、目標ピッチ角加速度dr
*/dtが算出さる。目標深度速度w
*は、係数行列算出部41及び微小変化量演算部44に出力され、目標深度加速度dw
*/dt、目標ピッチ角速度r
*、目標ピッチ角加速度dr
*/dtは、微小変化量演算部44に出力される。
【0065】
係数行列演算部41では、上位装置から入力されたx軸方向における設定速度=目標速度u
*と目標深度速度w
*とを用いて、係数行列A(n)、B(n)が算出され、遅延部42に出力される。遅延部42では今回値が記憶されるとともに、記憶されていた係数行列の前回値A(n−1)、B(n−1)が干渉補償舵角算出部45に出力される。
一方、微小変化量演算部44では、入力された各パラメータに対して前回値との差分がそれぞれ演算されることにより、それぞれのパラメータについて微小変化量が算出される。算出されたそれぞれの微小変化量Δw
*、Δdw
*/dt、Δr
*、Δdr
*/dt、Δθ
*は、干渉補償舵角算出部45に出力される。
【0066】
干渉補償舵角算出部45では、入力された係数行列の前回値A(n−1)、B(n−1)及び各微小変化量Δw
*、Δdw
*/dt、Δr
*、Δdr
*/dt、Δθ
*を、予め保有している干渉舵角演算式に代入することにより、微小干渉補償舵角Δδb
FF、Δδr
cFFが算出される。微小干渉補償舵角Δδb
FF、Δδr
cFFは、積算部46において、前回の干渉補償舵角にそれぞれ加算されることにより、今回の干渉補償舵角δb
FF、δr
cFFが得られる。
【0067】
このようにして算出された深度に関する干渉補償舵角δb
FFは、深度制御部11の深度舵角設定部24において深度フィードバック舵角δb
FBに加算され、深度舵角指令δb
*が算出される。
同様に、ピッチ角に関する干渉補償舵角δr
cFFは、ピッチ角制御部12のピッチ角舵角設定部34において、ピッチ角フィードバック舵角δr
cFBに加算され、ピッチ舵角指令δr
c*が算出される。
そして、深度舵角指令δb
*及びピッチ舵角指令δr
c*に基づいて、船体1に設けられた舵3a〜3eの舵角が制御される。
これにより、ピッチ角θをゼロに保ちながら深度zを目標深度z
*に追従させることが可能となり、最終的に深度zを設定深度z
setに一致させることができる。
【0068】
図5に、本実施形態に係る水中航走体の制御装置10aによる深度変更時のシミュレーション結果を示す。
図5において、(a)は船体の速力、(b)は深度、(c)はピッチ角、(d)は深度に関する舵角、(e)はピッチ角に関する舵角の時間的推移を示している。また、
図5(d)、(e)において、舵角指令は破線で、実舵角は実線で示されている。この図からわかるように、
図15に示した従来のシミュレーション結果と比較して、深度zが設定値まで速やかに変化しているとともに、ピッチ角θの変動が抑制されている。
したがって、本実施形態に係る水中航走体の制御装置及び制御方法によれば、船体制御の精度を向上させることができ、舵駆動系の動力消費を低減させることが可能となる。
【0069】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る水中航走体及びその制御装置並びに制御方法について図を参照して説明する。
上述した第1実施形態では、干渉補償演算式に用いる状態変数を目標値の微小変化量としていた。これは、線形化が平衡点近傍において局所的に成立するという理論に基づくものである。しかしながら、目標値の微小変化量を状態変数として用いた場合、微分計算が多く、処理負担が大きい。そこで、本実施形態では、干渉補償演算式に用いる状態変数を目標値自体とし、微分計算による処理負担を軽減している。
【0070】
すなわち、本実施形態では、上記(12)式、(13)式における各状態変数Δw
*、Δdw
*/dt、Δr
*、Δdr
*/dt、Δθ
*に代えて、目標値自体である状態変数w
*、dw
*/dt、r
*、dr
*/dt、θ
*を用いる。これにより、(12)式、(13)式は、以下の(14)式、(15)式で表される。
【0072】
図6に、本実施形態に係る水中航走体の制御装置10bの機能ブロック図の一例を示す。
図6において、
図4に示した構成と同一の構成については、同一の符号を付している。
図6に示すように、第1実施形態に係る制御装置10aの構成に比べて、遅延部42、微小変化量演算部44、及び積算部46が省略され、構成が簡素化されている。
このように、本実施形態に係る水中航走体の制御装置10bによれば、第1実施形態に比べて構成を簡素化することができ、演算処理の負担を軽減することが可能となる。
【0073】
図7に、本実施形態に係る水中航走体の制御装置10bによる深度変更時のシミュレーション結果を示す。
図7において、(a)は船体の速力、(b)は深度、(c)はピッチ角、(d)は深度に関する舵角、(e)はピッチ角に関する舵角の時間的推移を示している。また、
図7(d)、(e)において、舵角指令は破線で、実舵角は実線で示されている。この図からわかるように、
図15に示した従来のシミュレーション結果と比較して、深度が設定値まで速やかに変化しているとともに、ピッチ角の変動が抑制されている。
したがって、本実施形態に係る水中航走体の制御装置及び制御方法によれば、船体制御の精度を向上させることができ、舵駆動系の動力消費を低減させることが可能となる。
【0074】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る水中航走体及びその制御装置並びに制御方法について図を参照して説明する。
上述した第1又は第2実施形態では、状態方程式における平衡点を目標値としておいていたが、本実施形態では、平衡点を後述する平衡点マップから取得する点で異なる。
平衡点マップは、船体1の舵操作量(例えば、プロペラ回転数や、各直交軸に関する舵角成分など)の組み合わせに対する状態量(例えば、x軸方向の速度u、y軸方向の速度v、z軸方向の速度w、ロール角速度p、ピッチ角速度q、ヨー角速度r、ロール角φ、ピッチ角θ)の平衡点を予め数値解析により求め、数値解析の結果をマップ化したものである。
図9に、速力設定2kt相当時の平衡点マップの一例を示す。
図9に示した平衡点マップでは、速力設定が2ktの場合に、深度の舵角成分及びピッチ角の舵角成分から速度uを取得することができる。
【0075】
図8に、本実施形態に係る水中航走体の制御装置10cのうち、深度制御とピッチ角制御に関する機能ブロックについて示す。
図6に示した構成と同一の構成については、同一の符号を付している。
図8に示すように、本実施形態に係る制御装置10cは、第2実施形態に係る制御装置10bの構成に対して、平衡点設定部48と、パラメータ変換部49とが追加された構成とされている。
平衡点設定部48は、船体1の舵操作量と状態量とを関連付けた平衡点マップを有し、この平衡点マップと現在の操作量とから状態量の平衡点u
ep、w
epを設定する。
パラメータ変換部49は、設定速度u
setを回転数指令n
*に換算する。設定速度u
setを回転数指令n
*に変換する理由は、平衡点マップにおける舵操作量の一つとして、回転数指令n
*が用いられているからである。
【0076】
このような制御装置10cによれば、平衡点設定部48には、設定速度u
setから換算された回転数指令n
*と、深度制御部11により設定された深度舵角指令δb
*、ピッチ角制御部12により設定されたピッチ角舵角指令δr
c*が入力される。平衡点設定部48は、これら入力値の組み合わせから一義的に特定される平衡点u
ep、w
epを平衡点マップを参照することにより取得し、取得した平衡点u
ep、w
epを係数行列算出部41に出力する。なお、
図8では、第2実施形態で説明したように、目標値自体を状態変数として用いた場合の構成例を示しているが、
図4に示しように、それぞれのパラメータの微小変化量を状態変数として用いる非干渉制御に適用することとしてもよい。
【0077】
図10に、本実施形態に係る水中航走体の制御装置10cによる深度変更時のシミュレーション結果を示す。
図10において、(a)は船体の速力、(b)は深度、(c)はピッチ角、(d)は深度に関する舵角、(e)はピッチ角に関する舵角の時間的推移を示している。また、
図10(d)、(e)において、舵角指令は破線で、実舵角は実線で示されている。この図からわかるように、
図15に示した従来のシミュレーション結果と比較して、深度が目標値まで速やかに変化しているとともに、ピッチ角の変動が抑制されている。
したがって、本実施形態に係る水中航走体の制御装置及び制御方法によれば、船体制御の精度を向上させることができ、舵駆動系の動力消費を低減させることが可能となる。
【0078】
〔第4実施形態〕
次に、本発明の第4実施形態に係る水中航走体及びその制御装置並びに制御方法について図を参照して説明する。
上述した各実施形態では、各軸間の制御における干渉を抑制するための非干渉化制御部13、13a、13bを設け、フィードフォワード制御により干渉の影響を抑制していたが、未知の外乱などが発生した場合には、干渉抑制効果が低減してしまう。
【0079】
そこで、本実施形態に係る制御装置10d(
図11参照)では、フィードフォワード制御によって補償しきれなかった干渉力、未知の外乱等により発生する制御誤差を低減させるための外乱補償部15a(
図11参照)を備えることを特徴としている。
【0080】
図11は、本実施形態に係る制御装置10dにおいて、深度制御とピッチ角制御に関する機能ブロックについて示した図である。
図11において、上述した第1実施形態と共通する構成要素については、同一の符号を付している。なお、非干渉化制御部13aについては、第2実施形態に係る非干渉化制御部13b、第3実施形態に係る非干渉化制御部13cを採用することも可能であり、また、従来の非干渉化制御部を採用することも可能である。また、非干渉化制御部を省略した構成としてもよい。このように、非干渉化制御部の有無及びその構成については、特に限定されない。
【0081】
外乱補償部15aは、線形化された船体1の状態方程式から逆問題解析によって導出された外乱補償演算式を用いて、外乱を抑制するための外乱補償舵角を演算する。ここでは、外乱補償部15aの各構成について説明する前に、外乱補償演算式の導出過程について説明する。なお、考え方については、上述した干渉補償演算式とほぼ同様である。
【0082】
まず、任意の平衡点近傍における船体1の線形化状態方程式において、係数行列を平衡点の関数として表現するとともに、船体1の全運転領域において連続的に成立するように適応的に変化させた線形化状態方程式を作成する。ここで、本実施形態においても、船体運動の平衡点として目標値を採用する。
【0083】
続いて、相互干渉が生ずる軸に関係する状態変数を特定し、特定した状態変数からなる線形化状態方程式となるように、モデルリダクションを行い、行列サイズを低減する。
たとえば、深度zとピッチ角θとの間に相互干渉が生ずる場合には、深度zとピッチ角θに関連する状態変数を抽出し、深度・ピッチ角制御系に特化した線形化状態方程式にモデルリダクションする。ここで、本実施形態では、外乱を抑制することを目的の一つとしているため、外乱に関する項を線形化状態方程式に含める。
(16)式に、モデルリダクション後の線形化状態方程式の一例を示す。なお、(16)式における係数行列の各要素は、上述した(5)式の通りである。
【0085】
上記(16)式において、d
1は外乱の深度方向(z軸方向)に関する成分、d
2は外乱のピッチ角に関する成分である。
【0086】
次に、外乱を含めたモデルリダクション後の線形化状態方程式を逆問題解析し、外乱d
1、d
2について解くと、(17)式が得られる。
【0088】
このようにして、微小外乱成分Δd
1、Δd
2が算出されると、算出された外乱を相殺するための微小外乱補償舵角Δb
dis、Δr
cdisは、変換係数をk1、k2を用いて以下のように得ることができる。
【0089】
Δb
dis=k1・Δd
1 (18)
Δr
cdis=k2・Δd
2 (19)
【0090】
(18)式、(19)式において、Δb
disはz軸方向における微小外乱成分Δd
1を打ち消すための微小外乱補償舵角、Δr
cdisはy軸方向における微小外乱成分Δd
2を打ち消すための微小外乱補償舵角である。
【0091】
次に、本実施形態に係る外乱補償部15aの構成について、
図11を参照して説明する。
外乱補償部15aは、係数行列算出部51、遅延部52、微分器53a〜53d、微小変化量演算部54、外乱補償舵角算出部55及び積算部56を主な構成として備えている。
【0092】
係数行列算出部51には、x軸方向における実速度u及びz軸方向における実速度wが入力される。実速度uは、例えば、船体1に取り付けられたセンサなどにより検出される値であり、実速度wは、船体1に取り付けられたセンサなどにより検出される実深度zが微分器53aで微分された値が用いられる。
係数行列算出部51は、上記(5)式で表される各要素の数式を保有しており、これらの数式に実速度u及び実深度wを代入することにより、現在の船体1の状態に応じた係数行列A(n)、B(n)を算出する。
【0093】
算出された係数行列A(n)、B(n)は、遅延部52に入力される。遅延部52は、前回の制御周期で得られた係数行列A(n−1)、B(n−1)を外乱補償舵角算出部55に出力する。このように、1周期前の制御周期で得られた係数行列A(n−1)、B(n−1)を出力するのは、後述する微小変化量演算部54との整合をとるためである。
微小変化量演算部54には、z軸方向の実速度w及び実加速度dw/dt、ピッチ角に対応する回転軸の実角速度q及び実角加速度dq/dt、並びに実ピッチ角θが入力される。実速度wは、実深度zを微分器53aにより1回微分した値、実加速度dw/dtは、実深度zを微分器53a、53bにより2回微分した値である。実角速度qは、船体1に取り付けられたセンサなどによって検出された実ピッチ角θを微分器53cにより1回微分した値、実角加速度dq/dtは実ピッチ角θを微分器53c、53dにより2回微分した値である。
【0094】
微小変化量演算部54は、これら各入力値の微小変化量Δw、Δdw/dt、Δq、Δdq/dt、Δθを算出して、外乱補償舵角算出部55に出力する。具体的には、微小変化量演算部54は、各入力値について、制御周期の前回値と今回値との差分を算出することにより、微小変化量を算出する。
【0095】
外乱補償舵角算出部55は、上述した手順に従って予め用意した外乱補償演算式を保有しており、これらの式に、遅延部52及び微小変化量演算部54から入力された状態変数を代入することで、深度方向に関する微小外乱成分Δd
1及びピッチ角に関する微小外乱成分d
2をそれぞれ相殺するための微小外乱補償舵角Δδ
dis、Δδr
cdisを算出する。
【0096】
積算部56は、微小外乱補償舵角Δb
dis、Δr
cdisを前回の制御周期で得られた外乱補償舵角に加算することで、今回の制御周期における深度に関する外乱補償舵角δb
bis及びピッチ角に関する外乱補償舵角δr
cbisを算出する。
積算部56から出力された深度に関する外乱補償舵角δb
disは、深度制御部11の深度舵角設定部24´において、深度フィードバック舵角δb
FFに加算されることで、深度舵角指令δb
*が算出される。
同様に、積算部56から出力されたピッチ角に関する外乱補償舵角Δδr
cdisは、ピッチ角制御部12のピッチ角舵角設定部34´において、ピッチ角フィードバック舵角δr
cFBに加算されることで、ピッチ舵角指令δr
c*が算出される。
【0097】
そして、深度舵角指令δb
*及びピッチ舵角指令δr
c*に基づいて、船体1に設けられた舵3a〜3eの舵角が制御されることにより、未知の外乱等による制御精度の低下を抑制することが可能となる。
【0098】
なお、本実施形態では、外乱補償演算式に用いる状態変数を検出値の微小変化量としていたが、上述した第2実施形態と同様、検出値自体とし、微分計算による処理負担を軽減することとしてもよい。
【0099】
また、上述した本実施形態では、係数行列の演算において、x軸方向における実速度u及びz軸方向における実速度wを用いて係数行列を算出したが、
図12に示した制御装置10eのように、外乱補償部15bの係数行列算出部51に入力される値を、センサ検出値に代えて、x軸方向における設定速度u
set及びz軸方向における目標速度w
*としてもよい。
例えば、センサ検出値を使用した場合には、ノイズや波の影響により好ましくない周波数帯域の信号を含んでしまう可能性があり、係数行列の算出精度が低下し、これによって、制御精度が低下するおそれがある。これに対し、設定値や目標値を用いて係数行列を算出することにより、センサ検出値に含まれるノイズ等による制御精度の低下を回避することが可能となる。
【0100】
〔第5実施形態〕
次に、本発明の第5実施形態に係る水中航走体及びその制御装置並びに制御方法について図を参照して説明する。
上述した第1または第4実施形態においては、設定値、目標値あるいは検出値を微分器43a〜43d、53a〜53dによって微分して、速度や加速度を得ていた。しかしながら、これら微分器43a〜43d、53a〜53dが帯域微分であった場合には、遅れが生じることから、位置・速度・加速度の各要素について共通の位相関係を維持することが困難である。また、特に、センサ検出値の微分は、ノイズ成分を含むため、微分信号に含まれるノイズ成分は更に増加してしまうおそれがある。
そこで、本実施形態では、微分器に代えて、理想応答モデルを用いて、速度や加速度を算出することにより、微分に起因する上述の不都合を解消することとしている。
【0101】
図13は、本実施形態に係る制御装置10fにおいて、深度制御とピッチ角制御に関する機能ブロックについて示した図である。
図13に示すように、本実施形態に係る外乱補償部15cは、微分器53a〜53dに代えて、深度に関する速度及び加速度を算出する速度・加速度演算部58aと、ピッチ角に関する角速度及び角加速度を算出する角速度・角加速度演算部58bとを有している。
【0102】
速度・加速度演算部58aは、例えば、
図14に示すような理想応答モデルを有し、この理想応答モデルから、位置zが入力された場合の内部状態(位置、速度、加速度)を取り出すことにより、連続位置zm、速度dzm/dt、加速度d
2zm/dt
2を取得する。ここで、理想応答モデルは、
図14に示されるモデルに限られず、2次系でも、制御動特性を模擬したモデルでも、ローパス特性(例えば、1追従モデル等)を有するモデル等であってもよい。
【0103】
同様に、角速度・角加速度演算部58bは、ピッチ角に関する理想応答モデルを用いて、角度、角速度、角加速度を取得する。
このように、微分を用いずに、速度、加速度の情報を得ることにより、ノイズ成分などを低減でき、制御精度を向上させることが可能となる。
【0104】
更に、本実施形態に係る制御装置10fでは、深度制御部11´の目標深度設定部21´、目標ピッチ角設定部31´で用いられる応答モデルを上述したような理想応答モデルに変更し、この理想応答モデルから連続的な目標値、速度(角速度)、加速度(角加速度)を得る。このようにすることで、微分器43a〜43dを省略することができるとともに、ノイズによる制御精度の低下を抑制することができる。
【0105】
以上、本発明の各実施形態について説明してきたが、本発明の範囲は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、例えば、上述した各実施形態を部分的または全体的に組み合わせる等して、種々変形実施が可能である。