(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、
(A)ポリアセタール樹脂100質量部と、
(B)潤滑剤0.1〜5質量部と、
を、含有する。
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、温度85℃、湿度85%環境下で168時間保持した前後における、当該ポリアセタール樹脂成形体の表面の凹凸の高さの差が、200nm以下である。
なお、本実施形態における「ポリアセタール樹脂成形体」とは、押出機等を用いて押出成形することにより得られる「ペレット」と、射出成形等による「成形体」のいずれも含むものとする。
【0015】
((A)ポリアセタール樹脂)
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体に含まれる(A)ポリアセタール樹脂について、詳細に説明する。
(A)ポリアセタール樹脂(本明細書中、(A)成分、(A)と記載する場合がある。)としては、ポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーが挙げられる。
具体的には、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得られる実質上オキシメチレン単位のみから成るポリアセタールホモポリマーや、ホルムアルデヒド単量体又はその3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エピクロルヒドリン、1,3−ジオキソランや1,4−ブタンジオールホルマールなどのグリコールやジグリコールの環状ホルマール等の環状エーテル若しくは環状ホルマールと、を共重合させて得られるポリアセタールコポリマーが挙げられる。
また、ポリアセタールコポリマーとして、ホルムアルデヒドの単量体及び/又はホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、単官能グリシジルエーテルと、を共重合させて得られる分岐を有するポリアセタールコポリマー、並びに、多官能グリシジルエーテルとを共重合させて得られる架橋構造を有するポリアセタールコポリマーを用いることもできる。
【0016】
(A)ポリアセタール樹脂は、ブロックポリマーを含むことが好ましい。
ブロックポリマーを含むポリアセタール樹脂を用いることにより、後述する(B)潤滑剤の、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体内での分散性が良好となり、より高い耐摩耗性を有し、高温多湿環境下で他の部品とともに密閉容器内で保持した場合においても、当該他の部品表面に潤滑剤が析出したりする等の他の部品に対する汚染を効果的に防止可能な、ポリアセタール樹脂成形体が得られる。
【0017】
(A)ポリアセタール樹脂がブロックポリマーを含む時の、ポリアセタール樹脂(A)の中におけるブロックポリマーの比率は、(A)ポリアセタール樹脂を100質量%としたとき、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは65質量%以上、さらにより好ましくは80質量%以上である。当該ブロックポリマーの比率の上限は、特に限定されず、すべてがブロックポリマーであってもよい。
当該ブロックポリマーの比率を前記範囲内とすることで、後述する(B)潤滑剤の、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体内での分散性が良好となり、より高い耐摩耗性を有し、低汚染性のポリアセタール樹脂成形体が得られる。
なお、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体において、当該ブロックポリマーの比率は、1H−NMRや13C−NMR等により測定することができる。
【0018】
前記ブロックポリマーとは、両末端又は片末端に水酸基などの官能基を有する化合物をブロック部分として用いるポリアセタールホモポリマー及びポリアセタールコポリマーである。
上述したブロックポリマー中のブロック成分としては、下記一般式(1)、(2)又は(3)で表されるブロック成分が好ましい。
【0022】
前記一般式(1)及び(2)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれる1種の化学種を示し、複数のR
1、R
2及びR
3は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
mは2〜6の整数を示し、2〜5の整数が好ましい。
nは1〜1000の整数を示し、10〜250の整数が好ましい。
上記一般式(1)で表される基は、アルコールのアルキレンオキシド付加物から水素原子を脱離した残基であり、上記一般式(2)で表される基は、カルボン酸のアルキレンオキシド付加物から水素原子を脱離した残基である。
前記ブロック成分を有するポリアセタールホモポリマーは、例えば、特開昭57−31918号公報に記載の方法で調製できる。
【0023】
前記一般式(3)中、R
4は、水素原子、アルキル基、置換アルキル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選ばれる1種の化学種を示し、複数のR
4は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
また、pは2〜6の整数を示し、2つのpは各々同一であっても異なっていてもよい。
q、rはそれぞれ正の数を示し、qとrとの合計100モル%に対してqは2〜98モル%、rは2〜98モル%であり、−(CH(CH
2CH
3)CH
2)−単位及び−(CH
2CH
2CH
2CH
2)−単位はそれぞれランダム又はブロックで存在する。
前記一般式(1)、式(2)又は式(3)で表されるブロック成分は、ヨウ素価20g−I
2/100g以下の不飽和結合を有してもよい。不飽和結合としては、特に限定されないが、例えば炭素−炭素二重結合が挙げられる。
前記ブロック成分を有するポリアセタールコポリマーは、例えば、国際公開第01/09213号に開示されたポリオキシメチレンブロック共重合体が挙げられ、その公報に記載の方法により調製できる。
【0024】
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体に含まれる(A)ポリアセタール樹脂としては、上述のブロック成分を有するポリアセタールホモポリマー及び上述のブロック成分を有するポリアセタールコポリマーのいずれも用いることができ、これらを併用することもできる。
また、(A)ポリアセタール樹脂は、例えば、分子量の異なるポリアセタール樹脂や、コモノマー量の異なるポリアセタールコポリマー等を2種以上併用してもよい。
ブロックポリマー中のブロック成分を形成する化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、C
18H
37O(CH
2CH
2O)
40C
18H
37、C
11H
23CO
2(CH
2CH
2O)
30H、C
18H
37O(CH
2CH
2O)
70H、C
18H
37O(CH
2CH
2O)
40Hや、水素添加ポリブタジエンなどが挙げられる。
ブロックポリマー中のブロック成分挿入量は、ブロックポリマーを100質量%としたとき、15質量%以下であることが好ましい。より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは7質量%である。ブロックポリマー中のブロック成分挿入量の下限は、少なくとも1質量%である。
ブロックポリマー中のブロック成分挿入量を上述の範囲内にすることにより、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体において、耐熱性や機械的強度を実用上十分に維持しつつ、高い耐摩耗性が得られる。本実施形態のポリアセタール樹脂成形体の機械的強度を維持するには、ブロック成分挿入量を、上記15質量%以下にすることが好ましい。
ブロックポリマー中のブロック成分の好ましい分子量は、ポリアセタール樹脂としての分子量により変化するため、一義的には言えないが、10000以下であることが好ましく、より好ましくは8000以下、さらに好ましくは5000以下である。
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体に含まれる(A)ポリアセタール樹脂としては、上述のポリアセタールホモポリマー及び上述のポリアセタールコポリマーのいずれも用いることができ、これらを併用することもできる。また、(A)ポリアセタール樹脂は、例えば、分子量の異なるポリアセタール樹脂や、コモノマー量の異なるポリアセタールコポリマー等を2種以上併用してもよい。
(A)ポリアセタール樹脂がブロックポリマーを含むことは、NMR解析を行うことにより検証することができる。
【0025】
((B)潤滑剤)
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、(B)潤滑剤(本明細書中、(B)成分、(B)と記載する場合がある。)を含有する。
以下、(B)潤滑剤について詳細に説明する。
(B)潤滑剤とは、添加することによってポリアセタール樹脂成形体の摺動性を向上させる機能を有する材料である。
ここで摺動性とは、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体と他の部材とを摺動させたときの摩擦係数や摩耗量を指標とすることができる物理的な性質を指し、具体的には、後述する実施例や、公知の測定方法により評価できる。これら摩擦係数や摩耗量は、値が低いほど、摺動性が良好であると評価できる。
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(B)潤滑剤を0.1〜5質量部含む。
(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対する、(B)潤滑剤の含有量の下限値は、0.3質量部が好ましく、0.5質量部がより好ましく、0.7質量部がさらに好ましい。また、前記(B)潤滑剤の含有量の上限値は、4質量部が好ましく、3質量部がより好ましく、2質量部がさらに好ましい。
(B)潤滑剤の含有量を上記数値範囲内とすることにより、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体において優れた耐摩耗性が得られ、上限値を上記数値範囲内とすることにより、例えば高温多湿環境下で他の部品とともに密閉容器内で保持した場合、具体的には、密閉されたハードディスク容器内の他の金属部品とともに保持した場合においても、潤滑剤が揮発して当該他の部品に付着して汚染するといった不具合を効果的に予防できる。
【0026】
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体に含有されている(B)潤滑剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、高級脂肪族アルコール、高級アミド、高級脂肪酸、1価又は2価の脂肪族アミンと高級脂肪酸からなるアミド化合物、1価又は2価の脂肪族アルコールと高級脂肪酸とのエステル、及び平均重合度が10〜500であるオレフィン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。
【0027】
前記高級脂肪族アルコールとは、炭素数が6〜30の飽和又は不飽和の1価又は多価のアルコール類を指す。
前記高級脂肪族アルコールとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ヘキサノール、ヘプタノール、カプリルアルコール、デカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、パルチミルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。これらの中では、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく使用可能であり、ベヘニルアルコール、トリエチレングリコールがより好ましく使用可能である。
【0028】
前記高級アミドとは、炭素数が6〜30の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族アミド類を指す。
前記高級アミドとしては、以下に限定されるものではないが、1級アミドとしては、例えば、ヘプタンアミド、オクタンアミド、ノナンアミド、デカンアミド、ウンデカンアミド、ラウリルアミド、ラウリルアミド、トリデシルアミド、ミリスチルアミド、ペンタデシルアミド、セチルアミド、ヘプタデシルアミド、ステアリルアミド、オレイルアミド、ノナデシルアミド、エイコシルアミド、セリルアミド、ベヘニルアミド、メリシルアミド、ヘキシルデシルアミド、オクチルドデシルアミド、ラウリン酸アマイド、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
2級アミドとしては、例えば、N−オレイルパルミチン酸アミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
3級アミドとしては、例えば、N,N−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N−ジステアリルセバシン酸アミド、N,N−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N−ジステアリルイソフタル酸アミドなどの飽和又は不飽和アミドが挙げられる。
これらの中でも、パルチミン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、ベヘン酸アマイド、ヒドロキシステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、N−ステアリルステアリン酸アマイドが、低揮発性と、入手の容易性の観点から、より好ましく使用可能である。
【0029】
前記高級脂肪酸とは、炭素数が6〜30の飽和又は不飽和の1価又は多価の脂肪族カルボン酸類を指す。
前記高級脂肪酸としては、以下に限定されるものではないが、例えば、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸等の1価の飽和脂肪酸や、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などの多価の飽和脂肪酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、アラキドン酸、ネルボン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
これらの中では、加工時の変色を抑制する観点から、飽和脂肪酸が好ましく、飽和脂肪酸の中でもパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、アジピン酸、セバシン酸等が、工業的にも容易に入手可能であり、より好ましい。
【0030】
前記1価又は2価の脂肪族アミンと高級脂肪酸からなるアミド化合物とは、以下に限定されるものではないが、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ペンチルアミン等の炭素数が1〜10の1価の脂肪族一級アミン、及び/又はエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の炭素数2〜10の2価の脂肪族一級アミンと、上述の高級脂肪酸とが反応してアミド結合を形成している反応生成物を指す。
前記1価又は2価の脂肪族アミンと高級脂肪酸からなるアミド化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスカプリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アマイド、ヘキサメチレンヒドロキシステアリン酸アマイド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アマイド、N,N’−ジステアリルセバシン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスエルカ酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アマイド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アマイド等が挙げられる。
これらの中でも、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイドが、工業的にも容易に入手可能であるため、好ましく使用可能である。
【0031】
前記1価又は2価の脂肪族アルコールと高級脂肪酸とのエステルとは、上述の高級脂肪族アルコールと高級脂肪酸が反応してエステル結合を形成している反応生成物を指す。
前記1価又は2価の脂肪族アルコールと高級脂肪酸とのエステルとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、べへニン酸モノグリセライド、2−エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、イソステアリン酸コレステリル、ラウリン酸メチル、オレイン酸メチル、ステアリン酸メチル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸オクチルドデシルペンタエリスリトールモノオレエート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸イソトリデシル、2−エチルヘキサン酸トリグリセライド、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノラウレート、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、エチレングリコールモノオレエート、エチレングリコールジオレエート、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノオレエート、グリセリンジオレエート等が挙げられる。
これらの中でも、取扱い性と摺動性改良効果の観点から、ミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールモノステアレート、エチレングリコールジステアレート、トリエチレングリコールモノステアレート、トリエチレングリコールジステアレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジステアレートが好ましく使用可能であり、ミリスチン酸セチル、アジピン酸ジイソデシル、エチレングリコールジステアレートがより好ましく使用可能である。
【0032】
前記平均重合度が10〜500であるオレフィン化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、シュラックワックス、蜜ろう、鯨ろう、セラックろう、ウールろう、カルバナワックス、木ろう、ライスワックス、キャンデリラワックス、はぜろう、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、及びこれらの高密度重合型、低密度重合型、酸化型、酸変性型、特殊モノマー変性型が挙げられる。
【0033】
上述した(B)潤滑剤は、一種のみを単独で用いても、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体を、ハードディスク内部部品として使用する場合、アウトガス(揮発成分)量を低減化させる工程として、通常、構成成分を含有するペレット等を、例えば、100℃以上で10時間以上の乾燥を実施する。このような、高温・長時間環境下にさらされたときに、ポリアセタール樹脂成形体において、変色を防止するために、(B)潤滑剤としては、高級脂肪族アルコール、1価又は2価の脂肪族アルコールと高級脂肪酸とのエステルを用いることがより好ましい。
【0034】
また、同様に本実施形態のポリアセタール樹脂成形体を、ハードディスク内部部品として使用する場合、他の部品への汚染を防止するために、(B)潤滑剤としては、高級脂肪族アルコール、1価又は2価の脂肪族アルコールと高級脂肪酸とのエステルを用いることがより好ましい。
【0035】
(所定条件保持前後における、ポリアセタール樹脂成形体の表面の凹凸の高さの差)
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、温度85℃、湿度85%の環境下で168時間保持した前後における、当該ポリアセタール樹脂成形体の表面の凹凸の高さの差が200nm以下である。
詳細には、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体の、上記条件により保持する前における、特定の領域の表面凹凸の最大値をXとし、上記条件により保持した後における、上記特定の領域の表面凹凸の最大値をYとしたとき、上記保持前後の凹凸の最大値の差の絶対値、すなわち|Y−X|が200nm以下である。
前記凹凸の高さの差が、200nmを超える場合、高温多湿環境下において、密閉されたハードディスク容器内の他の金属部品を汚染(潤滑剤等が揮発し、他の部品表面に析出する)といった不具合が生じるおそれがある。
本実施形態における温度85℃、湿度85%環境下で168時間保持した前後の、当該成形体の表面の凹凸の高さの差の、具体的な観察の仕方について以下に記載する。
まず、射出成形や押出成形により、適宜成形体やペレットとして成形体を得る。
この成形体の表面の、所定の領域における凹凸の高さの差の最大値を、例えばOPTELICS H1200(レーザーテック社製)等のコンフォーカル顕微鏡や、光干渉型顕微鏡等を用いて測定する。
その後、温度85℃、湿度85%に設定した恒温恒湿槽中に静置し、168時間後取り出す。
取り出した成形体の表面の、前記所定の領域における凹凸の高さの差の最大値を、同様に測定し、前記条件下での保持前後における、凹凸の高さの差の最大値差の絶対値を算出する。
この測定の際は、より平滑な面を有する成形体で測定する方が、誤差を少なくできるので、射出成型により得られた成形品における平滑な部分を測定用の所定の領域として用いることが好ましい。
なお、鋭利な形状の凹凸が生じる場合がある。かかる場合、コンフォーカル型顕微鏡では、誤差を生じる可能性が高いので、光干渉型顕微鏡を用いることが好ましい。
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体の、温度85℃、湿度85%環境下で168時間保持した前後における、成形体の表面の凹凸の高さの差は、好ましくは150nm以下であり、より好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下である。また、通常、充分に平滑に見える面であっても、数十〜百nm程度の緩やかな凹凸を有しているので、下限値は、当該数値範囲内で定まる。
【0036】
((C)無機着色剤)
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、(C)無機着色剤(本明細書において、(C)成分、(C)と記載する場合がある。)を含有することが好ましい。
以下、(C)無機着色剤について詳細に説明する。
(C)無機着色剤の含有量は、上述した(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(C)無機着色剤を0.1〜2質量部であることが好ましい。
(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対する、(C)無機着色剤の下限量は、0.25質量部がより好ましく、0.4質量部がさらに好ましく、0.6質量部がさらにより好ましい。また、上限量は、1.5質量部がより好ましく、1.2質量部がさらに好ましく、1.0質量部がさらにより好ましい。
(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対する(C)無機着色剤の含有量が0.1〜2質量部であることにより、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体の耐摩耗性が、より向上するという効果が得られる。
【0037】
(C)無機着色剤としては、樹脂の着色用として一般的に使用されている顔料をいずれも使用できる。
(C)無機着色剤として用いられる顔料としては、以下に限定されるものではないが、例えば、硫化亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、硫酸バリウム、二酸化チタン、硫酸バリウム、含水酸化クロム、酸化クロム、アルミ酸コバルト、バライト粉、亜鉛黄1種、亜鉛黄2種、フェロシアン化鉄カリカオリン、チタンイエロー、コバルトブルー、ウルトラマリン青、カドミウム、ニッケルチタン、リトポン、ストロンチウム、アンバー、シェンナ、アズライト、マラカイト、アズロマラカイト、オーピメント、リアルガー、辰砂、トルコ石、菱マンガン鉱、イエローオーカー、テールベルト、ローシェンナ、ローアンバー、カッセルアース、白亜、石膏、バーントシェンナ、バーントアンバー、ラピスラズリ、アズライト、マラカイト、サンゴ粉、白色雲母、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトバイオレット、コバルトグリーン、ジンクホワイト、チタニウムホワイト、ライトレッド、クロムオキサイドグリーン、マルスブラック、ビリジャン、イエローオーカー、アルミナホワイト、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、バーミリオン、タルク、ホワイトカーボン、クレー、ミネラルバイオレッド、ローズコバルトバイオレット、シルバーホワイト、金粉、ブロンズ粉、アルミニウム粉、プルシアンブルー、オーレオリン、雲母チタン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ファーナスブラック、植物性黒、骨炭、炭酸カルシウム、紺青等が挙げられる。
これらの中でも硫化亜鉛、酸化亜鉛、酸化鉄、二酸化チタン、チタンイエローが、より高い耐摩耗性を付与できるため好ましく、特に酸化亜鉛、チタンイエローが、モース硬度が充分に低く、更に高い摩耗性を発現可能であるため、より好ましい。
なお本実施形態において、モース硬度は、モース硬度計により測定することができる。
【0038】
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体中に含まれる(C)無機着色剤は、粒子であることが好ましく、低荷重摺動時における摩耗特性を改善する観点から、(C)無機着色剤は、数平均一次粒子径が70〜500nmの範囲内の粒子であることが好ましい。
前記範囲の数平均一次粒子径の(C)無機着色剤を用いることにより、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、優れた耐摩耗性を示す。
(C)無機着色剤の数平均一次粒子径を上述した特定の数値範囲内とすることにより、優れた耐摩耗性が得られる理由については、数平均一次粒子径500nm以下とした場合に、ポリアセタール樹脂成形体中での分散性が向上しているためと考えられる。また、(C)無機着色剤の数平均一次粒子径を70nm以上のものとした場合に、(C)無機着色剤が分散したポリアセタール樹脂成形体の硬度が、耐摩耗性の発現に特異的に効果を発揮する硬度となっているためと考えられる。
(C)無機着色剤の数平均一次粒子径の下限値は、100nmがより好ましく、125nmがさらに好ましく、150nmがさらにより好ましい。また上限値は、450nmがより好ましく、400nmがさらに好ましく、350nmがさらにより好ましい。
(C)無機着色剤の数平均一次粒子径は、ポリアセタール樹脂成形体を、450℃で約3時間焼却し、徐冷し、灰分を取り出し、取り出した灰分を走査型電子顕微鏡で観察し、得られた画像から、無作為に選んだ少なくとも100個以上の粒子の径を加算して平均した算術平均値であるものとする。
【0039】
((D)ポリオレフィン樹脂)
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、(D)ポリオレフィン樹脂(本明細書中、(D)成分、(D)と記載する場合がある。)を0.5〜5質量部、さらに含有することが好ましい。 本実施形態のポリアセタール樹脂成形体が、(A)成分100質量部に対して(D)ポリオレフィン系樹脂を0.5〜5質量部含有することにより、耐摩耗性を高めることが可能となる。
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体の耐摩耗性を充分に高めるためには、(D)成分の含有量を0.5質量部以上とすることが好ましく、より好ましくは1質量部以上であり、さらに好ましくは2質量部以上である。また、成形体の表層剥離を防止する観点から、(D)成分の含有量は5質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは4質量部以下であり、さらに好ましくは3.5質量部以下である。
【0040】
(D)ポリオレフィン樹脂としては、下記一般式(4)で表されるオレフィン系化合物のホモ重合体、下記一般式(4)で表されるオレフィン系化合物を主たるモノマーとし、これと他のモノマーとの共重合体、及びそれらの変性物からなる群より選ばれる一種以上のポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0042】
前記一般式(4)中、R
21は水素原子又はメチル基であり、R
22は水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、カルボキシル基、2〜5個の炭素原子を含むアルキル化カルボキシ基、2〜5個の炭素原子を有するアシルオキシ基、又はビニル基を表す。
前記他のモノマーとしては、上述の一般式(4)で表されるオレフィン系化合物と重合可能なモノマーから適宜選択することが可能である。
【0043】
前記(D)ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン
、ポリプロピレン
、エチレン−α−オレフィン共重合体
、アクリル酸エステル単位の含有量が5〜30質量%であるエチレンアクリル酸エステル共重合体
、ポリオレフィン(d1)のブロックと親水性ポリマー(d2)のブロックとが、エステル結合、アミド結合、エーテル結合、ウレタン結合及びイミド結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合を介して、繰り返し交互に結合した構造を有するブロックポリマー
、並びにこれらの変性物、からなる群より選ばれる一種以上であることが好ましい。
前記ポリオレフィン(d1)の具体例としては、以下に限定されるものではないが、例
えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン等が挙げられる。また、親水性ポ
リマー(d2)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリ酢酸ビニル、
ポリメタクリル酸メチル、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0044】
(D)ポリオレフィン樹脂としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、ポリプロピレン−ブテン共重合体、ポリブテン、ポリブタジエンの水添物、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタアクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
(D)ポリオレフィン樹脂としては、変性されたポリオレフィン樹脂(変性物)も使用できる。当該変性物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、オレフィン樹脂を形成している重合体とは異なる他のビニル化合物の一種以上をグラフトさせたグラフト共重合体;α,β−不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ナジック酸等)又はその酸無水物で(必要により過酸化物を併用して)変性したもの;オレフィン系化合物と酸無水物とを共重合したものが挙げられる。
上述した(D)ポリオレフィン樹脂は、一種のみを単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
(D)ポリオレフィン樹脂としては、摺動性改良効果の観点から、ポリエチレン(高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン)、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−オクテン共重合体が好ましい。
(D)ポリオレフィン樹脂は、190℃,2.16kg荷重条件下におけるメルトフローレート(以下「MFR」とも記す。)が0.01〜50g/10分であることが好ましい。
(D)ポリオレフィン樹脂のMFRをこの範囲内とすることにより、優れた耐摩耗性が得られ、鳴き音発生も抑制することができる。
(D)ポリオレフィン樹脂のMFRの下限値は、より好ましくは0.02g/10分であり、さらに好ましくは0.05g/10分であり、さらにより好ましくは0.07g/10分である。また、MFRの上限値は、より好ましくは40g/10分であり、さらに好ましくは30g/10分であり、さらにより好ましくは2.5g/10分である。
また(D)ポリオレフィン樹脂の融点は、特に限定されるものではないが、30〜230℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは50〜200℃の範囲であり、さらに好ましくは90〜170℃である。
【0045】
(その他の成分)
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、上述した(A)〜(D)成分の他、本発明の目的を損なわない範囲で、従来ポリアセタール樹脂成形体に使用されている各種安定剤等を含有することができる。
前記安定剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、下記の酸化防止剤、ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤が挙げられる。これらは1種のみを単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
前記酸化防止剤としては、ポリアセタール樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましい。
前記ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−オクタデシル−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、n−テトラデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、1,4−ブタンジオール−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、トリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)が挙げられる。
また、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネートメタン、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、N,N’−ビス−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プリピオニルヘキサメチレンジアミン、N,N’−テトラメチレンビス−3−(3’−メチル−5’−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニルジアミン、N,N’−ビス−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオニル)ヒドラジン、N−サリチロイル−N’−サリチリデンヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、N,N’−ビス(2−(3−(3,5−ジ−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)オキシアミドも挙げられる。
上述したヒンダードフェノール系酸化防止剤の中でも、ポリアセタール樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、トリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)、テトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンが好ましい。
【0047】
前記ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ホルムアルデヒド反応性窒素を含む化合物及びその重合体、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、及びカルボン酸塩が挙げられる。
前記ホルムアルデヒド反応性窒素を含む化合物及びその重合体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジシアンジアミド、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドとの共縮合物、ナイロン4−6、ナイロン6、ナイロン6−6、ナイロン6−10、ナイロン6−12、ナイロン12、ナイロン6/6−6、ナイロン6/6−6/6−10、ナイロン6/6−12等のポリアミド樹脂、ポリ−β−アラニン、ポリアクリルアミドが挙げられる。これらの中では、ポリアセタール樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、メラミンとホルムアルデヒドとの共縮合物、ポリアミド樹脂、ポリ−β−アラニン及びポリアクリルアミドが好ましく、ポリアミド樹脂及びポリ−β−アラニンがより好ましい。
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、及びカルボン酸塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム若しくはバリウム等の水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、硼酸塩、カルボン酸塩が挙げられる。ポリアセタール樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、カルシウム塩が好ましい。当該カルシウム塩としては、以下に限定されるものではないが、例えば、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、珪酸カルシウム、硼酸カルシウム、及び脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)が挙げられる。前記脂肪酸は、ヒドロキシル基で置換されていてもよい。これらの中では、ポリアセタール樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、脂肪酸カルシウム塩(ステアリン酸カルシウム、ミリスチン酸カルシウム等)がより好ましい。
【0048】
上述した各種安定剤の好ましい組み合せは、ポリアセタール樹脂成形体の熱安定性向上の観点から、特にトリエチレングリコール−ビス−(3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート)又はテトラキス−(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタンに代表されるヒンダードフェノール系酸化防止剤と、特にポリアミド樹脂及びポリ−β−アラニンに代表されるホルムアルデヒド反応性窒素を含む重合体と、特に脂肪酸カルシウム塩に代表されるアルカリ土類金属の脂肪酸塩との組合せである。
上述したそれぞれの安定剤の添加量は、(A)ポリアセタール樹脂100質量部に対して、酸化防止剤、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤が0.1〜2質量部、ホルムアルデヒドやギ酸の捕捉剤、例えばホルムアルデヒド反応性窒素を含む重合体が0.1〜3質量部、アルカリ土類金属の脂肪酸塩が0.1〜1質量部の範囲であると好ましい。
【0049】
〔ポリアセタール樹脂成形体の成形前の樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、上述した(A)成分、(B)成分、必要に応じて(C)成分、(D)成分及びその他の成分を含有するポリアセタール樹脂組成物を成形することにより得られる。
ポリアセタール樹脂組成物は、上述した(A)成分、(B)成分、必要に応じて(C)成分(D)成分及びその他の成分を混合することにより得られる。
ポリアセタール樹脂組成物を製造する装置としては、一般に実用されている混練機が適用できる。
当該混練機としては、以下に限定されるものではないが、例えば、単軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー等が挙げられる。中でも、減圧装置、及びサイドフィーダー設備を装備した2軸押出機が特に好ましい。
溶融混練の順番は特に制限はなく、例えば、(A)ポリアセタール樹脂、(B)潤滑剤を予め混合し押出する方法、(A)ポリアセタール樹脂の一部を予め溶融混練した後、残余の(A)ポリアセタール樹脂と(B)潤滑剤成分とを添加し、溶融混練する方法等が挙げられるが、これらは本発明の効果を損なわない範囲であれば、適宜変更可能である。
【0050】
〔ポリアセタール樹脂成形体の製造方法〕
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体は、上記樹脂組成物をペレット化し、またさらにこれを成形することにより得られる。
ポリアセタール樹脂成形体を成形する方法については、特に限定されるものではなく、公知の成形方法を適用できる。
上記のように、本実施形態のポリアセタール樹脂成形体とは、ペレットも包含する。
例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発泡射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)等の成形方法のいずれかによって成形することができる。
【0051】
〔用途〕
上述のポリアセタール樹脂成形体の用途としては、寸法精度と高い耐久性、及び高温多湿条件となる密閉された容器内で使用される用途が挙げられる。
本実施形態のポリアセタール樹脂成形体の具体的な用途としては、以下に限定されるものではないが、例えば、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、及びガイド等に代表される機構部品であって、ハードディスクドライブの内部部品(例えば、ランプ、ラッチ、等)、複写機等の内部部品、カメラ・ビデオ機器の内部部品、光デイスクのドライブの内部部品、自動車用ナビゲーションシステムの内部部品、モバイル型音楽・映像プレーヤーの内部部品、携帯電話・ファクシミリ等の通信機器の内部部品、自動車のウインドウレギュレータ等に代表されるドア廻りの内部部品の他、シートベルト用スリップリング、プレスボタン等に代表されるシートベルト周辺部品、コンビスイッチ部品、スイッチ・クリップ部品、洗面台や排水口の排水栓開閉機構部品、自動販売機の開閉部ロック機構部品・商品排出機構部品・そのほか内部部品、玩具、ファスナー、チェーン、コンベア、バックル、スポーツ用品、家具、楽器、住宅設備機器に代表される工業部品が挙げられる。 これらの中でも特に、ハードディスクドライブの内部部品(例えば、ランプ、ラッチ等)に特に好適に使用できる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明について具体的な実施例とこれとの比較例を挙げて説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
実施例及び比較例のポリアセタール樹脂成形体に対する評価項目を以下に示す。
〔物性評価方法〕
<測定用サンプルの製造>
(ポリアセタール樹脂ペレットの製造)
2軸押出機を用いてポリアセタール樹脂ペレットを製造した。
2軸押出機としては、東芝機械(株)製TEM−26SS押出機(L/D=48、ベント付き)を用いた。
シリンダー温度を200℃に設定し、後述する実施例及び比較例に示した組成に従いポリアセタール樹脂及びその他の原料の混合物を、定量フィーダーより供給して、押出量15kg/時間、スクリュー回転数150rpmの条件で押出を行い、ストランドカッターでペレットとし、ポリアセタール樹脂ペレットを得た。
【0054】
(ポリアセタール樹脂成形体の製造)
前記(ポリアセタール樹脂ペレットの製造)で得られたペレットを、東芝機械(株)製EC−75NII成形機を用いて、シリンダー温度設定を205℃、金型温度120℃に設定し、射出時間35秒、冷却時間15秒の射出条件で成形することにより、ISO294−1に準拠した多目的試験片形状のポリアセタール樹脂成形体を得た。
【0055】
<特定の評価方法>
((1)ポリアセタール樹脂成形体の表面の凹凸)
前記(ポリアセタール樹脂成形体の製造)で得られた多目的試験片の任意の領域をマーキングし、当該領域内における、成形体表面の凹凸を、OPTELICS H1200(レーザーテック社製)で観察し、試験前の凹凸の最大値を計測した。これを「試験前の凹凸」とした。
得られた値を、下記表1及び2に示す。
次に、温度85℃、湿度85%に調整した恒温恒湿槽中に、前記試験片を入れ、168時間保持した。
取り出した試験片の表面の前記試験前の凹凸を計測した領域と同一の領域を、試験前と同様に観察し、試験後の凹凸の最大値を計測した。これを「試験後の凹凸」とした。
得られた値を、下記表1及び2に示す。
次に、前記「試験前の凹凸」と、前記「試験後の凹凸」との差の絶対値を計算した。
これを「ポリアセタール樹脂成形体の表面の凹凸の高さの差」とし、下記表1及び2に示す。
【0056】
((2)金属汚染)
内径30mm、内容量40cm
3の密閉可能な金属容器中に、前記(ポリアセタール樹脂ペレットの製造)で得られたペレット7gを入れ、ふたを開けた状態で、温度85℃、湿度85%に調整した恒温恒湿槽中に、内部の状態が平衡状態となるまで保持した。その後、前記金属容器中に縦10mm、横10mm、厚み0.2mmのアルミニウム片を入れ、ペレット上に重ねた。該金属容器をふたで密閉し、更に168時間保持した。
168時間後、金属容器中のアルミニウム片を取り出し、その表面を、OPTELICS H1200(レーザーテック社製)で観察し、金属部分への汚染が生じているかを確認し、以下の評価基準に従い評価した。
A:まったく汚染が認められない。
B:一部に薄く汚染が認められる。
C:全面に薄く汚染が認められる。
D:全面にはっきりとした汚染が認められる。
E:目視でわかるほどの汚染が認められる。
【0057】
((3)摺動試験、摩耗量測定)
前記(ポリアセタール樹脂成形体の製造)で得られた多目的試験片を、80℃の雰囲気下で60分乾燥し、摺動試験測定用サンプルを得た。
前記摺動試験測定用サンプルに対して、Nano tribometer2(CSM Instruments(株)製 TTX−NTR2 型)を用いて、23℃、湿度50%の環境下で、荷重50mN、摺動速度150mm/sec、往復距離200μm、往復回数100万回、の条件で、摺動試験を実施した。
相手材料としては、SUJ2試験片(直径1.5mmの球)を用いた。
前記摺動試験後の摺動試験測定用サンプルの摩耗量(摩耗断面積)を、OPTELICS H1200(レーザーテック社製)を用いて、測定した。
摩耗断面積はn(サンプル数)=3で測定した数値の平均値とし、有効数字2桁で四捨五入した。
この値は、摩耗断面積なので、数値が低い方が耐摩耗特性に優れると判断した。
【0058】
((4)無機着色剤(酸化亜鉛)の数平均一次粒子径)
前記(ポリアセタール樹脂成形体の製造)で得られた多目的試験片形状の成形体一個を、450℃に加熱した電気炉中で3時間焼却した。
次に、電源をOFFにし、12時間以上かけて徐冷した。
得られた灰分を走査型電子顕微鏡で観察し、酸化亜鉛の画像を取得し、画像解析装置を用いて、無作為に選んだ少なくとも200個の粒子の径を加算し、かつ算術平均値を求めて、ポリアセタール樹脂成形体中の酸化亜鉛の数平均一次粒子径を求めた。
【0059】
((5)乾燥変色性)
前記(ポリアセタール樹脂ペレットの製造)で得られたペレットを、140℃に設定したオーブンに入れ、20時間の乾燥処理を行った。
乾燥処理前後の色の違いにより、変色の有無を確認した。
後述する実施例及び比較例において用いた原料について下記に示す。
【0060】
後述する実施例及び比較例において用いたポリアセタール樹脂組成物の原料について下記に示す。
〔(A)ポリアセタール樹脂〕
(ポリアセタール樹脂(POM−1))
ポリアセタール樹脂(POM−1)を下記のようにして調製した。
熱媒を通すことができるジャッケット付きの2軸セルフクリーニングタイプの重合機(L/D=8(L:重合機の原料供給口から排出口までの距離(m)、D:重合機の内径(m)。以下、同じ。))を80℃に調整した。
前記重合機に、トリオキサンを4kg/時間、コモノマーとして1,3−ジオキソランを128.3g/時間、連鎖移動剤としてメチラールをトリオキサン1モルに対して0.25×10
-3モルを連続的に添加した。
さらに、前記重合機に、重合触媒として三フッ化硼素ジ−n−ブチルエーテラートをトリオキサン1モルに対して1.5×10
-5モルで連続的に添加し重合を行った。
重合機より排出されたポリアセタールコポリマーをトリエチルアミン0.1%水溶液中に投入し重合触媒の失活を行った。
失活されたポリアセタールコポリマーを遠心分離機でろ過した後、ポリアセタールコポリマー100質量部に対して、第4級アンモニウム化合物として水酸化コリン蟻酸塩(トリエチル−2−ヒドロキシエチルアンモニウムフォルメート)を含有した水溶液1質量部を添加して、均一に混合した後、120℃で乾燥した。水酸化コリン蟻酸塩の添加量は、窒素量に換算して20質量ppmとした。水酸化コリン蟻酸塩の添加量の調整は、添加する水酸化コリン蟻酸塩を含有した水溶液中の水酸化コリン蟻酸塩の濃度を調整することにより行った。
乾燥後のポリアセタールコポリマーをベント付き2軸スクリュー式押出機に供給し、押出機中の溶融しているポリアセタールコポリマー100質量部に対して水を0.5質量部添加し、押出機設定温度200℃、押出機における滞留時間7分で、ポリアセタールコポリマーの不安定末端部分の分解除去を行った。
不安定末端部分の分解されたポリアセタールコポリマーに、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]0.3質量部を添加し、ベント付き押出機で真空度20Torrの条件下で脱揮しながら、押出機ダイス部よりストランドとして押出し、ペレタイズし、ペレットを得た。
このようにして得られたポリアセタールコポリマーを、ポリアセタール樹脂(POM−1)とした。ポリアセタール樹脂(POM−1)は、メルトフローレートは30.0g/10分(ISO−1133条件D)であった。
【0061】
(ポリアセタール樹脂(POM−2))
ポリアセタール樹脂(POM−2)を下記のようにして調製した。
前記(POM−1)と同様の、熱媒を通すことのできるジャケット付きの2軸パドル型連続重合機を80℃に調整した。
水及び蟻酸を合わせて4ppmを含むトリオキサンを40モル/時間、同時に、環状ホルマールとして1,3−ジオキソランを2モル/時間、重合触媒としてシクロヘキサンに溶解させた三フッ化ホウ素ジ−n−ブチルエーテラートを、トリオキサン1モルに対し5×10
-5モルとなる量、連鎖移動剤として下記式(5)で表される両末端ヒドロキシル基水素添加ポリブタジエン(数平均分子量Mn=2330)をトリオキサン1モルに対し1×10
-3モルになる量で、前記重合機に連続的に供給し、重合を行った。
【0062】
【化5】
【0063】
次に、前記重合機から排出されたポリマーを、トリエチルアミン1%水溶液中に投入し、重合触媒の失活を完全に行った。その後、そのポリマーを濾過し、洗浄して、粗ポリアセタール共重合体を得た。
濾過洗浄後の粗ポリアセタール共重合体1質量部に対し、第4級アンモニウム化合物として、トリエチル(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム蟻酸塩を窒素の量に換算して20質量ppmになるよう添加し、それらを均一に混合し、その後、120℃で乾燥し、ポリアセタールブロック共重合体を得た。
得られたポリアセタールブロック共重合体に、酸化防止剤としてトリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロピオネート]0.3質量部を添加し、ベント付き押出機で真空度20Torrの条件下で脱揮しながら、押出機ダイス部よりストランドとして押出し、ペレタイズし、ペレットを得た。
このようにして得られたポリアセタールブロック共重合体を、ポリアセタール樹脂(POM−2)とした。ポリアセタール樹脂(POM−2)は、メルトフローレートが10.0g/10分(ISO−1133 条件D)であった。
【0064】
〔(B)潤滑剤〕
(潤滑剤(B−1))
エチレンビスステアリン酸アミド:分子量593 北広ケミカル社製
(潤滑剤(B−2))
エチレングリコールジステアレート:分子量623 北広ケミカル社製
【0065】
〔(C)無機着色剤〕
酸化亜鉛(ZnO−1) 平均一次粒子径:250nm
酸化亜鉛(ZnO−2) 平均一次粒子径:600nm
酸化亜鉛(ZnO−3) 平均一次粒子径:30nm
【0066】
〔(D)ポリオレフィン樹脂〕
エチレンアクリル酸エステル共重合体(エチルアクリレート含有量:8質量%、融点:105℃、メルトフローレート(JIS K6922−2条件):0.8g/10分)(日本ユニカー株式会社製 NUC−6510)
【0067】
〔参考例1、実施例2、3、参考例4〜10〕、〔比較例1〜4〕
各成分を下記表1及び表2に示す割合で配合し、上述の<測定用サンプルの製造>で示
した方法により各種成形体を得た。
得られたポリアセタール樹脂成形体を用いて、上述の方法により、ポリアセタール樹脂
成形体の表面に生じた凹凸、金属汚染、摺動試験(摩耗断面積)、無機着色剤(酸化亜鉛
)の数平均一次粒子径、乾燥変色性の測定及び評価を行った。
測定及び評価結果を表1及び表2に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
表1、表2に示すように、
参考例1、実施例2、3、参考例4〜10のポリアセタール樹脂成形体は、高い耐摩耗性を有し、高温多湿環境下での他の部品への汚染(潤滑剤が揮散し、他の部品表面へ析出すること)が効果的に防止されていることが分かった。