(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189162
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】珪酸カルシウム板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/18 20060101AFI20170821BHJP
C04B 14/16 20060101ALI20170821BHJP
C04B 16/02 20060101ALI20170821BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20170821BHJP
C04B 38/08 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
C04B28/18
C04B14/16
C04B16/02 Z
C04B38/00 301B
C04B38/00 301C
C04B38/00 302Z
C04B38/08 B
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-202978(P2013-202978)
(22)【出願日】2013年9月30日
(65)【公開番号】特開2015-67488(P2015-67488A)
(43)【公開日】2015年4月13日
【審査請求日】2016年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 春樹
(72)【発明者】
【氏名】國分 達彦
(72)【発明者】
【氏名】日笠 基
【審査官】
岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−117027(JP,A)
【文献】
特開平05−186253(JP,A)
【文献】
特開2010−053029(JP,A)
【文献】
特開平10−025139(JP,A)
【文献】
特開2009−280446(JP,A)
【文献】
特開2010−037164(JP,A)
【文献】
特開2001−206762(JP,A)
【文献】
特開2006−069808(JP,A)
【文献】
特開平11−029372(JP,A)
【文献】
特開2000−264701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、珪酸質材料、珪酸質発泡体及び補強繊維を含む原料を水中に分散させてスラリーを生成し、そのスラリーから湿式抄造により薄層のウェットマットを得た後、そのウェットマットを多層に積層し、厚みを調整した後、養生して珪酸カルシウム板を得る方法において、
上記珪酸質発泡体は、水浮揚率が30%〜60%であることを特徴とする珪酸カルシウム板の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
珪酸質発泡体は、8MPaの静水圧付加後で50%以上の静水圧強度を有することを特徴とする珪酸カルシウム板の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、
珪酸質発泡体は、平均粒径が30μm〜100μmであることを特徴とする珪酸カルシウム板の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つの珪酸カルシウム板の製造方法により製造されたことを特徴とする珪酸カルシウム板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪酸カルシウム板及びその製造方法に関し、特に軽量化のための珪酸質発泡体を均一に分散させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種珪酸カルシウム板(ケイカル板)の製造方法として、無機硬化材、補強繊維、無機軽量化材(無機発泡体)等の原料を水中に投入して均一に撹拌してスラリーを生成し、そのスラリーから湿式抄造によって薄い層のウェットマットを形成し、そのウェットマットをメーキングロールで多層に積層してプレスで厚みを調整した後、オートクレーブで養生して珪酸カルシウム板を製造する方法は、公知の技術として確立されている。
【0003】
例えば特許文献1には、ポルトランドセメント、消石灰、珪藻土、珪酸質中空体、パーライト、パルプ等を水に混合してスラリーとし、そのスラリーを脱水成形してオートクレーブで養生することで得られる珪酸カルシウム成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−206762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の技術では、原料を水中に投入して均一に撹拌するものの、原料のうち軽量化のために添加されるパーライトやシラスバルーン等の珪酸質発泡体が水に浮いてスラリー中で他の成分と分離してしまい、そのことで珪酸質発泡体がウェットマット内の表面に中間部よりも多く偏って存在して、珪酸質発泡体の層がマット表面に形成されるという問題が生じる。そのため、多層のウェットマットを成形した珪酸カルシウム板においては、それらウェットマットの層間に相当する部分に珪酸質発泡体の層が形成されて、密着力(層間剥離強度)が低下するとともに、珪酸カルシウム板の表面性(表面粗さ)も珪酸質発泡体の偏在によって悪化することになる。
【0006】
尚、珪酸質発泡体の添加量を抑えるようにしてもよいが、軽量化が不十分となるので、本質的な解決策とはなり得ない。
【0007】
本発明は斯かる諸点に鑑みてなされたもので、その目的は、珪酸カルシウム板の製造方法に改良を加えることにより、珪酸質発泡体がウェットマット内に可能な限り均一に存在するようにして、珪酸カルシウム板の層間の密着力の低下や表面性の悪化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成すべく、この発明では、珪酸質発泡体の水浮揚率という特性に着目し、その水浮揚率が特定の範囲にある珪酸質発泡体を利用することで、珪酸質発泡体が珪酸カルシウム板の表面や層間に偏在するのを抑制するようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明の珪酸カルシウム板の製造方法は、セメント、珪酸質材料、珪酸質発泡体及び補強繊維を含む原料を水中に分散させてスラリーを生成し、そのスラリーから湿式抄造により薄層のウェットマットを得た後、そのウェットマットを多層に積層し、厚みを調整した後、養生して珪酸カルシウム板を得る方法において、上記珪酸質発泡体は、水浮揚率が30%〜60%(30%以上60%以下)であることを特徴とする。
【0010】
ここで、水浮揚率とは、所定量の珪酸質発泡体を水中に一定時間浸漬した後、そのうちの浮揚しているものと沈殿したものとに分けて採取し、その浮揚物の重さを、採取した全体の珪酸質発泡体の重さで割った値をいうこととする。
【0011】
この第1の発明では、セメント、珪酸質材料、珪酸質発泡体及び補強繊維を含む原料が水中に分散されてスラリーが生成され、そのスラリーから湿式抄造により薄層のウェットマットが形成された後、そのウェットマットが多層に積層され、多層のウェットマットが厚みの調整をされた後に養生され、このことで珪酸カルシウム板が製造される。
【0012】
そのとき、上記珪酸質発泡体の水浮揚率が60%以下であるので、湿式抄造の工程で水中に投入された珪酸質発泡体のうち水に浮くものの量が沈殿するものの量に対し比較的少なくなる。このことで、スラリー内において珪酸質発泡体が表面に偏在することなく全体として均一に分散するようになり、珪酸質発泡体が表面に偏在することによる表面性(表面粗さ)の悪化や層間密着力(層間剥離強度)の低下を抑制することができる。
【0013】
すなわち、従来、珪酸質発泡体は、軽量化のために添加されるものであるから、水に投入してスラリーを生成する際に水浮揚率が高いものを用いるのは当然とされていたのに対し、本発明は、それとは逆に、敢えて水浮揚率が低いものを用いることで、上記課題を解決するようにしており、この従来にはなかった、水浮揚率が低い珪酸質発泡体を用いることに特徴がある。
【0014】
また、上記珪酸質発泡体の水浮揚率の下限値は30%(水浮揚率が30%以上)であるので、その添加された珪酸質発泡体が全体として重くなることはなく、珪酸カルシウム板において所望の軽量化を達成することができる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明において、上記珪酸質発泡体が、8MPaの静水圧付加後で50%以上の静水圧強度を有することを特徴とする。
【0016】
珪酸質発泡体の強度が弱い場合、その珪酸質発泡体が添加された珪酸カルシウム板の圧縮強度が弱くなる一方、珪酸質発泡体の強度を高くするには、その発泡体の膜厚を厚くする必要があり、その分、発泡倍率が低下して重くなる。
【0017】
この第2の発明では、珪酸質発泡体は、8MPaの静水圧付加後で50%以上の静水圧強度を有するものであるので、その珪酸質発泡体により軽量の珪酸カルシウム板が得られるとともに、軽量であっても珪酸カルシウム板の圧縮強度を増大させることができる。
【0018】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記珪酸質発泡体は、平均粒径が30μm〜100μmであることを特徴とする。
【0019】
この第3の発明では、珪酸質発泡体は、平均粒径が30μm〜100μmであり、セメントに近い小さい粒径を有するので、珪酸質材料としてセメントとの反応性が高くなって、軽量骨材の機能だけでなく珪酸質材料の機能をも併せ持つ材料として働くようになる。そのため、珪酸質発泡体を加えることで、珪酸カルシウム板を軽量化することができるとともに、そのときに、珪酸質材料の代替機能によってバインダーとしてのセメントの量を減らす必要がなく、軽量化した珪酸カルシウム板の曲げ強度を増大させることができる。
【0020】
第4の発明の珪酸カルシウム板は、第1〜第3の発明のいずれか1つの珪酸カルシウム板の製造方法により製造されたことを特徴とする。
【0021】
この第4の発明では、珪酸カルシウム板の表面に珪酸質発泡体が偏在せず、その表面性(表面粗さ)を優れたものにすることができるとともに、珪酸カルシウム板の層間密着力(層間剥離強度)を高くすることができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明した如く、第1及び第4の発明によると、添加される珪酸質発泡体の水浮揚率を30%〜60%としたことにより、表面に珪酸質発泡体が偏在せずに表面性が優れ、かつ層間密着力(層間剥離強度)の高い軽量の珪酸カルシウム板を得ることができる。
【0023】
第2の発明によると、珪酸質発泡体の8MPaの静水圧付加後の静水圧強度を50%以上としたことにより、軽量でかつ圧縮強度の大きい珪酸カルシウム板が得られる。
【0024】
第3の発明によると、珪酸質発泡体の平均粒径を30μm〜100μmとしたことにより、珪酸質発泡体は、珪酸質材料としてのセメントとの反応性が高くなって、軽量骨材と珪酸質材料との両方の機能を併せ持つ材料として働くようになり、珪酸カルシウム板の軽量化及び曲げ強度の増大化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る珪酸カルシウム板の製造方法の工程を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例及び比較例の組成及び特性を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例及び比較例に添加される珪酸質発泡体の性状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0027】
図1は本発明の実施形態に係る珪酸カルシウム板の製造方法の工程を示し、この製造方法は、スラリー生成工程、抄造工程、マット積層工程、マット厚み調整工程、養生工程及び乾燥工程を少なくとも有する。
【0028】
(スラリー生成工程)
上記スラリー生成工程では、セメント、珪酸質材料、珪酸質発泡体及び補強繊維を含む原料を水中に分散させてスラリーを生成する。セメントは例えば40〜60重量%添加される。珪酸質材料は、例えば珪砂等が用いられ、例えば10〜30重量%添加される。珪酸質発泡体は例えばシラスバルーンやパーライト等であり、例えば5〜30重量%添加される。補強繊維は例えば針葉樹のパルプ等であり、3〜10重量%添加される。
【0029】
これらの原料を水中に投入して水と混合し、水中に分散させてスラリーを生成する。
【0030】
(抄造工程)
抄造工程では、上記スラリーから湿式抄造により薄層のウェットマットを成形する。このマットの成形は公知の技術であり、例えば丸網式抄造法では、スラリーを金網シリンダで濾過脱水してウェットマットに成形し、そのマットを金網シリンダからエンドレスベルトに移載する。
【0031】
(マット積層工程)
マット積層工程では、上記ウェットマットをメーキングロールで多層に積層する。この技術も公知であり、エンドレスベルトに移載されて搬送されたウェットマットを順にメーキングロールに巻き付け、多層のウェットマットを形成する。
【0032】
(マット厚み調整工程)
マット厚み調整工程では、上記多層のウェットマットをプレスで厚み調整する。
【0033】
(養生工程)
養生工程では、上記厚み調整された多層のウェットマットをオートクレーブで養生する。
【0034】
(乾燥工程)
上記養生されたウェットマットを乾燥する。この乾燥後、例えば裁断や塗装等の工程を経て珪酸カルシウム板が得られる。
【0035】
尚、以上の工程は、例えば特開2009−29643号や特開平10−138220号の各公報等に示されており、それらを利用することができる。
【0036】
(珪酸質発泡体)
本発明の特徴は、上記珪酸質発泡体の性状にある。まず、この珪酸質発泡体は水浮揚率が30%〜60%(30%以上60%以下)のものが用いられ、好ましくは30%〜50%(30%以上50%以下)のものが用いられる。水浮揚率は、所定量(例えば5g)の珪酸質発泡体を水中に一定時間(例えば30分)浸漬した後、そのうちの浮揚しているものと沈殿したものとに分けて採取し、その浮揚物の重さW2を、所定量の重さW1で割った値をいう。
【0037】
水浮揚率=(W2/W1)×100…(1)
W1:採取した全体の珪酸質発泡体の乾燥重量
W2:水浮遊物の乾燥重量
この水浮揚率が60%よりも高いと、スラリー生成工程及び抄造工程において、スラリー中の珪酸質発泡体のうち水に浮くものの量が沈殿するものの量よりも多くなり、スラリー内で珪酸質発泡体が表面に偏在し、均一に分散させるのが困難になる。一方、珪酸質発泡体の水浮揚率が30%よりも低いと、その添加された珪酸質発泡体が水中で殆ど沈殿するようになって、全体として重くなり、珪酸カルシウム板の軽量化を達成することが困難になる。これらのことから、珪酸質発泡体の水浮揚率は30%〜60%とされている。
【0038】
また、珪酸質発泡体は、8MPaの静水圧付加後で50%以上の静水圧強度を有するものを用いるのが好ましく、60%以上の静水圧強度を有するものがより好ましい。
【0039】
この静水圧強度は非破壊率とも言い、珪酸質発泡体に8MPaの静水圧をかけた後に乾燥した珪酸質発泡体の粒子密度を測定し、その処理前の粒子密度をDpとし、処理後の粒子密度をDpaとして、次の式によって求めたものである。珪酸質発泡体の粒子密度は、例えばオートピクノメーターを用いヘリウムガス置換によって体積として測定する。
【0040】
静水圧強度=
100−{(1/Dpa−1/Dp)/(1/2.35−1/Dp)}×100…(2)
すなわち、珪酸質発泡体は、ガラス質で薄くて壊れ易いので、予め必要な圧力として8MPaの静水圧をかけたときに半分(50%)以上が壊れずに残っているものを使用する。
【0041】
この珪酸質発泡体の8MPaの静水圧付加後の静水圧強度が50%未満であると、製造される珪酸カルシウム板が軽量にはなるものの、その圧縮強度を増大させることが困難になる。このことから、珪酸質発泡体の8MPaの静水圧付加後の静水圧強度を50%以上としている。
【0042】
さらに、珪酸質発泡体は、上記セメント(粒径20μm〜30μm)に近い小さい粒径を有することが好ましい。具体的には、珪酸質発泡体は、平均粒径が30μm〜100μm(30μm以上100μm以下)であることが好ましく、平均粒径が30μm〜50μm(30μm以上50μm以下)であることがより好ましい。
【0043】
この珪酸質発泡体の平均粒径が30μm未満であると、発泡倍率が下がり、軽量化が困難になる一方、100μmよりも大きいと、セメントの粒径から大きく離れて大きくなり、セメントとの反応性の効果を期待できないので、30μm〜100μmとしている。
【0044】
したがって、上記実施形態では、スラリー生成工程において、セメント、珪酸質材料、珪酸質発泡体及び補強繊維を含む原料が水中に分散されてスラリーが生成され、次の抄造工程で、そのスラリーから湿式抄造により薄層のウェットマットが形成された後、マット積層工程において、そのウェットマットがメーキングロールで多層に積層され、次いで、マット厚み調整工程で、多層のウェットマットがプレスで厚みの調整をされた後、養生工程において、オートクレーブで養生され、乾燥工程で養生後のウェットマットが乾燥され、このことで珪酸カルシウム板が製造される。
【0045】
そのとき、上記珪酸質発泡体の水浮揚率が60%以下であるので、上記スラリー生成工程及び抄造工程では、珪酸質発泡体のうち水に浮くものの量が沈殿するものの量に比べて比較的少なくなる。このことで、スラリー内において珪酸質発泡体が表面に偏在することなく全体として均一に分散するようになり、製造された後の珪酸カルシウム板において、その表面に珪酸質発泡体が偏在することによる表面性(表面粗さ)の悪化や層間密着力(層間剥離強度)の低下を抑制することができる。
【0046】
すなわち、軽量化のために添加される珪酸質発泡体は、スラリーを生成する際に水浮揚率が高いものを用いるのが当然とされていた従来の考え方に対し、本発明の実施形態では、それとは逆に、敢えて水浮揚率が低い珪酸質発泡体を用いる。このことで、珪酸カルシウム板の表面性(表面粗さ)の悪化や層間密着力(層間剥離強度)の低下を抑制することができる。
【0047】
また、上記珪酸質発泡体の水浮揚率が30%以上であるので、その添加された珪酸質発泡体が全体として重くなることはなく、珪酸カルシウム板において所望の軽量化を達成することができる。
【0048】
さらに、上記珪酸質発泡体は、8MPaの静水圧付加後で50%以上の静水圧強度を有するものであるので、その珪酸質発泡体により軽量の珪酸カルシウム板が得られるとともに、軽量であっても珪酸カルシウム板の圧縮強度を増大させることができる。すなわち、珪酸質発泡体の強度が弱い場合、その珪酸質発泡体が添加された珪酸カルシウム板の圧縮強度が弱くなる一方、珪酸質発泡体の強度を高くするには、その発泡体の膜厚を厚くする必要があり、その分、発泡倍率が低下して重くなるが、この実施形態では、上記珪酸質発泡体の静水圧強度を50%以上に特定することにより、珪酸カルシウム板の軽量化と圧縮強度の増大化とを両立させることができる。
【0049】
さらに、上記珪酸質発泡体は、平均粒径が30μm〜100μmであって、セメントに近い小さい粒径を有するので、珪酸質材料としてセメントとの反応性が高くなって(反応により珪酸カルシウムとなる)、軽量骨材の機能だけでなく珪酸質材料の機能をも併せ持つ材料として働くようになる。そのため、珪酸質発泡体を加えることで、珪酸カルシウム板を軽量化することができるとともに、そのときに、珪酸質材料の代替機能によってバインダーとしてのセメントの量を減らす必要がなく、軽量化した珪酸カルシウム板の曲げ強度を増大させることができる。
【0050】
このようにして製造された珪酸カルシウム板は、表面に珪酸質発泡体が偏在せず、その表面性(表面粗さ)が優れ、かつ層間密着力(層間剥離強度)が高いとともに、軽量で圧縮強度及び曲げ強度が増大したものとなる。
【実施例】
【0051】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0052】
[珪酸カルシウム板の組成]
図2に示すように、セメント54重量%と、珪酸質材料としての珪砂21重量%と、珪酸質発泡体としてのシラスバルーン15重量%と、補強繊維としての針葉樹のパルプ10重量%とからなる原料を水中に投入して水と混合し、水中に均一に分散させてスラリーを生成した。このスラリーから湿式抄造により薄層のウェットマットを得た後、そのウェットマットをメーキングロールで多層に積層し、プレスで厚みを調整した後、オートクレーブで養生し乾燥して珪酸カルシウム板を得た。これを実施例とした。
【0053】
また、上記シラスバルーンのみを異ならせ、その他の組成物は同じとした上で、上記と同様にして珪酸カルシウム板を得、これを比較例とした。つまり、実施例と比較例とは、シラスバルーンの性状のみが異なり、シラスバルーン以外の組成物の性状は同じである。
【0054】
[シラスバルーン(珪酸質発泡体)の性状]
図3にシラスバルーンの性状を示す。このシラスバルーンの性状は、実施例及び比較例の間で水浮揚率、静水圧強度、粒径及び嵩密度が互いに異なっている。
【0055】
(水浮揚率)
シラスバルーンの乾燥試料5gを秤量し、水中に30分浸漬した後、分離器を使用して水浮揚物と沈殿物とに分けて採取した。水浮揚物はガラスフィルターを用いて濾過した後、80℃で乾燥して絶乾状態とした。水浮揚率は上記式(1)によって計算した。
【0056】
(静水圧強度)
シラスバルーンの試料に対し8MPaの静水圧をかけた後、乾燥した試料の粒子密度を測定した。この粒子密度の測定では、オートピクノメーターを使用し、ヘリウムガス置換によって体積を求めた。静水圧強度は上記式(2)によって計算した。また、同様にして20MPaの静水圧強度も測定した。
【0057】
(粒径)
粒径は、430μmの篩を通過させた後のシラスバルーンをレーザー回折により測定し、平均粒径を評価した。平均粒径とは、全測定粒子の粒径の合計を測定粒子数で割った値である。
【0058】
(嵩密度)
嵩密度はパウダーテスターにより測定した。ゆるめ嵩密度と固め嵩密度とを評価した。ゆるめ嵩密度とは、100ccの容器に充填されたシラスバルーンの重量(単位g)を100で割った値とした。固め嵩密度とは、シラスバルーンを100ccの容器に充填しながら180回タッピングした後の重量(単位g)を100で割った値とした。
【0059】
[珪酸カルシウム板の特性]
上記のようにして製造された珪酸カルシウム板のサンプルについて、曲げ強度、剥離強度及び圧縮強度を評価した。
【0060】
(曲げ強度)
珪酸カルシウム板の曲げ強度はJIS5430の規格に応じて実施し測定した。
【0061】
(剥離強度)
珪酸カルシウム板のサンプルを各辺が50mmの正方形に切断し、剥離治具に接着固定して1日放置(静置)した。オートグラフにより剥離破壊荷重(単位N)を測定し、次式で剥離強度を算出した。
【0062】
剥離強度(N/mm
2)=剥離破壊荷重(N)/2500(mm
2)
【0063】
(圧縮強度)
オートグラフにおいて、珪酸カルシウム板のサンプルの表面に直径10mmの鋼球を0.32mmだけ押し込むのに必要な応力(単位N)を測定し、圧縮強度とした。
【0064】
以上の結果を
図2に示す。この
図2の結果を考察すると、水浮揚率51%のシラスバルーンを用いた実施例は、水浮揚率75%のシラスバルーンを用いた比較例に比べ、表面粗さが小さくなり、剥離強度も増大している。
【0065】
また、8MPaの静水圧付加後で70%の静水圧強度を有するシラスバルーンを用いた実施例は、同30%の静水圧強度を有するシラスバルーンを用いた比較例に比べ、圧縮強度が2倍以上に増大している。
【0066】
さらに、平均粒径48μmのシラスバルーンを用いた実施例は、同250μmの静水圧強度を有するシラスバルーンを用いた比較例に比べ、曲げ強度が増大している。
【0067】
実施例及び比較例の密度は略同じである。このことから、得られた珪酸カルシウム板は、表面粗さが優れ、層間剥離強度も高く、軽量で圧縮強度及び曲げ強度が増大したものとなっていることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、珪酸カルシウム板の軽量化、表面粗さの向上、層間剥離強度、圧縮強度及び曲げ強度の増大化を図り得る点で、極めて有用である。