特許第6189183号(P6189183)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大塚化学株式会社の特許一覧

特許6189183顔料分散剤及びそれを含む顔料分散組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189183
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】顔料分散剤及びそれを含む顔料分散組成物
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/20 20060101AFI20170821BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20170821BHJP
   C09D 11/326 20140101ALI20170821BHJP
   B01F 17/52 20060101ALI20170821BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20170821BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20170821BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C09B67/20 L
   C09D17/00
   C09D11/326
   B01F17/52
   B41M5/00 100
   B41J2/01 501
   C08F293/00
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-233812(P2013-233812)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-93917(P2015-93917A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅本 光
【審査官】 松本 淳
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−216714(JP,A)
【文献】 特開2014−205137(JP,A)
【文献】 特開2012−072357(JP,A)
【文献】 特開平09−059554(JP,A)
【文献】 特開平09−100428(JP,A)
【文献】 特開2012−021120(JP,A)
【文献】 特開2012−072356(JP,A)
【文献】 特表2012−533652(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/175162(WO,A1)
【文献】 特表2013−521359(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/013651(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/124212(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 1/00− 69/10
B01F 17/00− 17/56
B41J 2/01
B41M 5/00
C08F 251/00−283/00
C08F 283/02−289/00
C08F 291/00−297/08
C09D 11/00− 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位を含むAブロックと、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位及び酸基含有ビニルモノマーに由来する構造単位を含むBブロックとを有し、酸価が20〜140mgKOH/gのブロックポリマーである、顔料分散剤。
【請求項2】
前記Aブロックは、N−ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位を80質量%〜100質量%を含む、請求項1に記載の顔料分散剤。
【請求項3】
前記Bブロックは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を50質量%〜90質量%含む、請求項1または2に記載の顔料分散剤。
【請求項4】
前記Aブロックと前記Bブロックとの質量比(Aブロックの質量:Bブロックの質量)が、10:90〜70:30である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の顔料分散剤。
【請求項5】
前記ブロックポリマーの分子量分布が2未満である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の顔料分散剤。
【請求項6】
前記Aブロックと前記ブロックBからなるジブロックポリマーである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の顔料分散剤。
【請求項7】
請求項6に記載の顔料分散剤、顔料及び水性溶媒を含む、顔料分散組成物。
【請求項8】
インクジェット用である、請求項7に記載の顔料分散組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散剤及びそれを含む顔料分散組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ等のインクには、着色材として染料を水性媒体中に溶解した染料インクと、着色材として顔料を水性媒体中に微細に分散した顔料インクがある。染料インクは、耐光性、耐水性の問題があるため、耐光性や耐水性が求められる用途には顔料インクを用いることが有利である。
【0003】
しかし、顔料を着色材として使用する場合には、顔料粒子を微粒子状に分散して安定化しなければ顔料の分散不良が起こり、インクとして使用する場合に着色力の低下、細孔での目詰まり、増粘による保存安定性の悪化等のインク特性の欠如として表れることから、顔料の分散安定性が求められている。
【0004】
特にインクジェットプリンタは、細かいノズルからインク滴を吐出して画像を記録する印刷方法であるため、この用途で用いるインクはノズルを詰まらせないために顔料の高い分散安定性が求められている。さらに、長期休止でノズル詰まりを起こした場合でも、原因物質を簡単なクリーニング操作で再溶解し、すぐに回復することも求められている。
【0005】
そこで、特許文献1では、N−ビニルピロリドン誘導体とアクリル酸誘導体を共重合して得られる高分子化合物分散剤を使用することが提案されている。また、特許文献2では、親水性ブロックと、ベンジルメタクリレートもしくはシクロヘキシルメタクリレートを含有する疎水性ブロックからなる高分子分散剤を使用することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−59554号公報
【特許文献2】特開2012−21120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示された分散剤は、親水性モノマーであるN−ビニルピロリドンに、親水性モノマーを共重合しているため、水性媒体への溶解性が高く、顔料の分散性が十分ではない。また、特許文献2に開示された分散剤は、顔料誘導体を必須成分としており、顔料誘導体を使用することで顔料としての性質が薄れ、印刷時の滲みが発生するなどの問題が発生する場合がある。
【0008】
本発明の目的は、分散安定性、保存安定性及び再溶解性に優れた顔料分散組成物にすることができる顔料分散剤、及びそれを含む顔料分散組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の顔料分散剤及び顔料分散組成物を提供する。
【0010】
項1 N−ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位を含むAブロックと、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位及び酸基含有ビニルモノマーに由来する構造単位を含むBブロックとを有し、酸価が20〜140mgKOH/gのブロックポリマーである、顔料分散剤。
【0011】
項2 前記Aブロックは、N−ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位を80質量%〜100質量%を含む、項1に記載の顔料分散剤。
【0012】
項3 前記Bブロックは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を50質量%〜90質量%含む、項1または項2に記載の顔料分散剤。
【0013】
項4 前記Aブロックと前記Bブロックとの質量比(Aブロックの質量:Bブロックの質量)が、10:90〜70:30である、項1〜項3のいずれか一項に記載の顔料分散剤。
【0014】
項5 前記ブロックポリマーの分子量分布が2未満である、項1〜項4のいずれか一項に記載の顔料分散剤。
【0015】
項6 前記Aブロックと前記ブロックBからなるジブロックポリマーである、項1〜項5のいずれか一項に記載の顔料分散剤。
【0016】
項7 項6に記載の顔料分散剤、顔料及び水性溶媒を含む、顔料分散組成物。
【0017】
項8 インクジェット用である、項7に記載の顔料分散組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、分散安定性、保存安定性及び再溶解性に優れた顔料分散組成物にすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0020】
<顔料分散剤>
本発明の顔料分散剤は、N−ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位を含むAブロックと、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位及び酸基含有ビニルモノマーに由来する構造単位を含むBブロックとを有し、酸価が20〜140mgKOH/gのブロックポリマーである。なお、本発明において「(メタ)アクリル」は、「アクリル及びメタクリルの少なくとも一方」を意味する。例えば「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方」を意味する。また、本発明においてビニルモノマーとは、分子中にラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合を有するモノマーのことを意味する。
【0021】
以下に、ブロック共重合体の各種構成成分等について、それぞれ説明する。
【0022】
(Aブロック)
Aブロックは、N−ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位を含むポリマーブロックである。N−ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位とは、N−ビニルラクタム系モノマーがラジカル重合して形成される構造単位をいい、具体的にはN−ビニルラクタム系モノマーのラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合が炭素−炭素単重結合になった構造単位をいう。
【0023】
N−ビニルラクタム系モノマーとしては、ラクタム環骨格を有するビニルモノマーであれば特に制限なく使用でき、例えば下記一般式(1)で示される化合物を例示することができる。
【0024】
【化1】
【0025】
[式中、nは2〜12の整数である。]
【0026】
一般式(1)において、nは2〜8が好ましく、3〜4がさらに好ましい。また、環を構成する−(CH)n−で表わされる基は、置換基を有していてもよく、置換基としては炭素数1〜6のアルキル基、好ましくは炭素数1〜2のアルキル基が挙げられる。
【0027】
N−ビニルラクタム系モノマーの具体例としては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N−ビニル−4−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−プロピルピロリドン、N−ビニル−4−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−4−メチル−5−プロピルピロリドン、N−ビニル−5−メチル−5−エチルピロリドン、N−ビニル−5−プロピルピロリドン、N−ビニル−5−ブチルピロリドン、N−ビニル−4−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−メチルカプロラクタム、N−ビニル−6−プロピルカプロラクタム、N−ビニル−7−ブチルカプロラクタムなどが挙げられる。これらの中でも、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニルカプロカプロラクタムが好ましい。
【0028】
N−ビニルラクタム系モノマーは、1種または2種以上を使用することができる。
【0029】
Aブロックは、N−ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位のみであってもよいし、他の構造単位が含まれていてもよい。Aブロックに他の構造単位が含まれる場合、他の構造単位は、ランダム共重合、ブロック共重合などの何れの態様で含まれていてもよい。
【0030】
Aブロックは、N−ビニルラクタム系モノマーに由来する構造単位を80質量%〜100質量%含むことが好ましく、90質量%〜100質量%含むことがより好ましく、95質量%〜100質量%含むことがさらに好ましい。
【0031】
Aブロックは、疎水性モノマーに由来する構造単位を有しないことが好ましい。疎水性モノマーとしては、例えば、スチレン、α―メチルスチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、ビニルナフタレンなどの芳香族基含有ビニルモノマーなどが挙げられる。Aブロックに疎水性モノマーに由来する構造単位を有する場合、Aブロックにおける含有割合は1質量%以下であることが好ましい。
【0032】
(Bブロック)
Bブロックは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位及び酸基含有ビニルモノマーに由来する構造単位を含むポリマーブロックである。(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルがラジカル重合して形成される構造単位をいい、具体的には(メタ)アクリル酸アルキルエステルのラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合が炭素−炭素単重結合になった構造単位をいう。酸基含有ビニルモノマーに由来する構造単位とは、酸基含有ビニルモノマーがラジカル重合して形成される構造単位をいい、具体的には酸基含有ビニルモノマーのラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合が炭素−炭素単重結合になった構造単位をいう。
【0033】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、疎水性モノマーであれば特に制限なく使用できるが、例えば下記一般式(2)で示される化合物を例示することができる。
【0034】
【化2】
【0035】
[式中、Rは水素原子またはメチル基である。Rは炭素数が1〜10のアルキル基である。]
【0036】
一般式(2)のRにおいて、炭素数1〜10のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの直鎖または分岐鎖アルキル基、シクロヘキシル基などの環状アルキル基が挙げられる。Rは、炭素数1〜5のアルキル基であることが好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルなどが挙げられる。これらの中でも(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0038】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、1種または2種以上を使用することができる。
【0039】
Bブロックは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位を50質量%〜90質量%含むことが好ましく、60質量%〜90質量%含むことがより好まく、65質量%〜90質量%含むことがさらに好ましい。
【0040】
酸基含有ビニルモノマーとしては、親水性であれば特に制限なく使用できる。酸基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基が挙げられるが、好ましくはカルボキシル基である。
【0041】
酸基含有ビニルモノマーとしては、従来公知のものが挙げられる。カルボキシル基含有ビニルモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニル安息香酸、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルや(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルに、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸を反応させたモノマーが挙げられる。スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、ジメチルプロピルスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スルホン酸エチル(メタ)アクリレート、スルホン酸エチル(メタ)アクリルアミド、ビニルスルホン酸などが挙げられる。リン酸基を有するモノマーとしては、例えば、メタクリロイロキシエチルリン酸エステルなどが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸が好ましい。
【0042】
酸基含有ビニルモノマーは、1種または2種以上を使用することができる。
【0043】
Bブロックは、酸基含有ビニルモノマーに由来する構造単位を10質量%〜50質量%含むことが好ましく、10質量%〜40質量%含むことがより好ましく、10質量%〜35質量%含むことがさらに好ましい。
【0044】
Bブロックは、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する構造単位及び酸基含有ビニルモノマーに由来する構造単位のみであってもよいし、他の構造単位が含まれていてもよい。Bブロックの各構造単位は、ランダム共重合、ブロック共重合などの何れの態様で含まれていてもよい。
【0045】
(ブロックポリマー)
ブロックポリマーにおいて、AブロックとBブロックとの質量比(Aブロック:Bブロック)は、10:90〜70:30であることが好ましく、30:70〜50:50であることがより好ましい。
【0046】
ブロックポリマーの酸価は、20〜140mgKOH/gである。ブロックポリマーの酸価がこの範囲になるように、Bブロックに酸基含有ビニルモノマーに由来する構造単位が含まれていることが好ましい。ブロックポリマーの酸価の下限値は40mgKOH/gであることが好ましく、上限値は130mgKOH/gであることが好ましい。酸価が20mgKOH/gより小さいと水性溶媒への溶解性が悪く、酸価が140mgKOH/gより大きいと水性溶媒への溶解性が高すぎ、顔料の分散性が悪くなる。
【0047】
ブロックポリマーの重量平均分子量(Mw)の下限値は、6000であることが好ましく、10000であることがより好ましい。ブロックポリマーの重量平均分子量(Mw)の上限値は、50000であることが好ましく、30000であることがより好ましい。
【0048】
ブロックポリマーは、その分子量分布(PDI)が2未満であることが好ましく、1.5未満であることがより好ましく、1.3未満であることがさらに好ましい。なお、本発明において、分子量分布(PDI)とは、(ブロックポリマーの重量平均分子量(Mw))/(ブロックポリマーの数平均分子量(Mn))によって求められるもののであり、PDIは小さいほど分子量分布の幅が狭い、分子量のそろったポリマーとなり、その値が1.0のとき最も分子量分布の幅が狭い。反対に、PDIが大きいほど、設計したポリマーの分子量に比べて、分子量が小さいものや、分子量の大きいものが含まれることになり、顔料の分散性を悪くする。分子量が小さすぎるものは水性溶媒への溶解性が高すぎ、分子量が大きすぎると水性溶媒への溶解性が悪くなるためである。
【0049】
疎水性置換基を有するブロックを顔料吸着基とする従来のブロックポリマー型分散剤では、水溶液中で顔料吸着基をコアとするミセル形成などのため、顔料への濡れ性が十分でなかった。これに対し、本発明のブロックポリマーは、親水性に優れるN−ビニルラクタム基を有するブロックが顔料吸着基として作用し、水溶液中で速やかに顔料への濡れが進行することで顔料の分散を促進すると推測される。
【0050】
さらに、酸基を有するもう一方のブロックにより、静電反発、立体反発により分散体を安定化できると推測される。また、親水性の高い全体構造により、優れた再溶解性を発現する。このため、インクジェット用インクに用いた場合、ノズル詰まりを抑制できる。よって、N−ビニルラクタム基を有するブロックポリマーは、水性媒体中において、顔料の分散剤として好適に使用することができる。さらに、上記ブロックポリマーを顔料分散剤として用いることで、顔料分散組成物から形成される乾燥析出物を、簡便に再溶解することができる。
【0051】
ブロックポリマーの製造方法は、特に限定されない。ブロックポリマーは、例えば、リビングラジカル重合法などを用いたブロック重合により、モノマーを順次重合反応させることにより得られる。モノマーの重合反応によって、Aブロックを先に製造し、AブロックにBブロックのモノマーを重合してもよいし、Bブロックを先に製造し、BブロックにAブロックのモノマーを重合してもよい。また、ブロックポリマーの製造においては、モノマーの重合反応よって、AブロックとBブロックとを別々に製造した後、AブロックとBブロックとをカップリングさせてもよい。
【0052】
ブロックポリマーは、AブロックとBブロックからなるジブロックポリマーであることが好ましく、通常、Aブロック−Bブロック、Bブロック−Aブロックなどの結合からなる。リビングラジカル重合法とは、ラジカル重合の簡便性と汎用性を保ちつつ、分子構造の精密制御を可能にする重合法である。リビングラジカル重合法には、重合成長末端を安定化させる手法の違いにより、遷移金属触媒を用いる方法(ATRP)、硫黄系の可逆的連鎖移動剤を用いる方法(RAFT)、有機テルル化合物を用いる方法(TERP)などの方法がある。これらの方法のなかでも、使用できるモノマーの多様性、高分子領域での分子量制御の観点から、有機テルル化合物を用いる方法(TERP)を用いることが好ましい。
【0053】
TERP法とは、有機テルル化合物を重合開始剤として用い、ラジカル重合性化合物を重合させる方法であり、例えば、国際公開2004/14848号及び国際公開2004/14962号に記載された方法である。
【0054】
具体的には、
(a)一般式(3)で表される有機テルル化合物、
(b)一般式(3)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤の混合物、
(c)一般式(3)で表される有機テルル化合物と一般式(4)で表される有機ジテルル化合物の混合物、又は
(d)一般式(3)で表される有機テルル化合物、アゾ系重合開始剤及び一般式(4)で表される有機ジテルル化合物の混合物、
のいずれかを用いて重合する。
【0055】
【化3】
【0056】
(式中、Rは、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又は芳香族ヘテロ環基を示す。R及びRは、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。Rは、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、芳香族ヘテロ環基、アシル基、アミド基、オキシカルボニル基又はシアノ基を示す。)
【0057】
(RTe) (4)
(式中、Rは、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又は芳香族ヘテロ環基を示す。)
【0058】
一般式(3)で示される有機テルル化合物は、具体的には(メチルテラニルメチル)ベンゼン、(メチルテラニルメチル)ナフタレン、エチル−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオネート、エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート、(2−トリメチルシロキシエチル)−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピネート、(2−ヒドロキシエチル)−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピネート、(3−トリメチルシリルプロパルギル)−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピネートなどを例示することができる。
【0059】
一般式(4)で示される化合物は、具体的には、ジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジイソプロピルジテルリド、ジシクロプロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリド、ジ−s−ブチルジテルリド、ジ−t−ブチルジテルリド、ジシクロブチルジテルリド、ジフェニルジテルリド、ビス−(p−メトキシフェニル)ジテルリド、ビス−(p−アミノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−ニトロフェニル)ジテルリド、ビス−(p−シアノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−スルホニルフェニル)ジテルリド、ジナフチルジテルリド、ジピリジルジテルリドなどを例示することができる。
【0060】
アゾ系重合開始剤は、通常のラジカル重合で使用するアゾ系重合開始剤であれば特に制限なく使用することができる。例えば2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70)、2,2’−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)などを例示することができる。
【0061】
一般式(3)の化合物の使用量は、目的とするポリマーの物性により適宜調節すれば良いが、通常、モノマー1molに対し一般式(3)の化合物を0.05〜50mmolとするのがよい。
【0062】
一般式(3)の化合物とアゾ系重合開始剤を併用する場合、通常、一般式(3)の化合物1molに対して、アゾ系重合開始剤0.01〜10molとするのがよい。
【0063】
一般式(3)の化合物と一般式(4)の化合物を併用する場合、通常、一般式(3)の化合物1molに対して、一般式(4)の化合物0.01〜100molとするのがよい。
【0064】
一般式(3)の化合物、一般式(4)の化合物及びアゾ系重合開始剤を併用する場合、通常、一般式(3)の化合物と一般式(4)の化合物の合計1molに対して、アゾ系重合開始剤0.01〜100molとするのがよい。
【0065】
重合反応は、無溶剤でも行うことができるが、ラジカル重合で一般に使用される有機溶媒あるいは水性溶媒を使用し、上記混合物を撹拌して行われる。使用できる有機溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、ジオキサン、ヘキサフルオロイソプロパオール、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼンなどを例示することができる。また、水性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコールなどを例示することができる。
【0066】
反応温度、反応時間は、得られるポリマーの分子量或いは分子量分布により適宜調節すればよいが、通常、0〜150℃で、1分〜100時間撹拌する。TERP法は、低い重合温度及び短い重合時間であっても高い収率と精密な分子量分布を得ることができる。
【0067】
重合反応の終了後、得られた反応混合物から、通常の分離精製手段により、目的とするポリマーを分離することができる。
【0068】
<顔料分散組成物>
本実施形態に係る顔料分散組成物は、上記のブロックポリマーからなる顔料分散剤、顔料及び水性溶媒を含む。
【0069】
以下に、顔料分散組成物の各種構成成分等について、それぞれ説明する。
【0070】
本発明の顔料分散剤は、酸基を中和して使用することが好ましい。酸基を中和して用いることで、顔料の分散状態が安定となり、長期保存安定性により優れた顔料分散組成物を得ることができる。中和には、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミンなどの有機アミン類などを用いることができる。中和される酸基の割合は、30〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。
【0071】
本発明の顔料分散組成物における顔料分散剤の配合量は、顔料100質量部に対して5質量部〜100質量部であることが好ましく、10質量部〜70質量部であることが好ましく、10質量部〜50質量部であることがさらに好ましい。顔料分散剤の配合量が少なすぎると顔料を十分に分散することができず、顔料分散剤の配合量が多すぎると顔料に吸着していない顔料分散剤が液中に存在することになり好ましくない。
【0072】
本発明で使用する顔料としては、有機顔料及び無機顔料のいずれでも特に限定なく使用でき、赤色顔料、黄色顔料、橙色顔料、青色顔料、緑色顔料、紫色顔料、黒色顔料などの各色の顔料が挙げられる。有機顔料としては、モノアゾ系、ジアゾ系、縮合ジアゾ系などのアゾ系顔料、ジケトピロロピロール系、フタロシアニン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、キナクリドン系、インディゴ系、チオインディゴ系、キノフタロン系、ジオキサジン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系などの多環系顔料などが挙げられる。無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック顔料などが挙げられる。
【0073】
顔料分散組成物に含まれる顔料は、目的により、顔料の種類、粒子径、処理の種類を選んで使用することが望ましい。また、顔料分散組成物に含まれる顔料は1種類のみであってもよいし、複数種類であってもよい。
【0074】
顔料の具体例としては、C.I.Pigment Red 7、9、14、41、48:1、48:2、48:3、48:4、81:1、81:2、81:3、122、123、146、149、168、177、178、179、187、200、202、208、210、215、224、254、255、264などの赤色顔料;C.I.Pigment Yellow 1、3、5、6、14、55、60、61、62、63、65、73、74、77、81、93、97、98、104、108、110、128、138、139、147、150、151、154、155、166、167、168、170、180、188、193、194、213などの黄色顔料;C.I.Pigment Orange 36、38、43などの橙色顔料;C.I.Pigment Blue 15、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60などの青色顔料;C.I.Pigment Green 7、36、58などの緑色顔料;C.I.Pigment Violet 19、23、32、50などの紫色顔料;C.I.Pigment Black 7などの黒色顔料などが挙げられる。これらの中でも、C.I.Pigment Red 122、C.I.PigmentYellow 74、128、155、C.I.Pigment Blue 15:3、15:4、15:6、C.I.Green 7、36、C.I.Pigment Violet 19、C.I.Pigment Black 7などが好ましい。
【0075】
本発明の顔料分散組成物中の顔料濃度は、被記録体に十分な着色濃度を与える濃度であれば特に制限されないが、1質量%〜30質量%であることが好ましく、1質量%〜20質量%がより好ましく、1質量%〜10質量%であることがさらに好ましい。30質量%を超えると、液中での顔料密度が高くなることで、顔料粒子の自由な移動が妨げられることによる凝集といった問題が発生する可能性がある。
【0076】
本発明で使用する水性溶媒としては、水または水溶性有機溶媒を使用することができ、これらを1種または2種以上混合してもよい。水としては、純水、イオン交換水(脱イオン水)を用いることが好ましい。水溶性有機溶としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルなどのグリコールエーテル類、グリセリンなどの多価アルコール、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどの含窒素化合物類などを用いることができ、水100質量部に対して0〜100質量部であることが好ましい。
【0077】
本発明の顔料分散剤を使用しての顔料等の分散方法としては、従来公知の方法を適用でき、特に限定されない。例えば、アルカリで中和された本発明の顔料分散剤と、顔料と、水性溶媒とを、例えば、ペイントシェーカー、ビーズミル、ボールミル、ディソルバー、ニーダーなどの混合分散機を用いて混合することにより得られる。
【0078】
本発明の顔料分散組成物は、必要に応じて他の添加剤を含んでいても良い。他の添加剤としては、例えば、粘度調整剤、表面張力調整剤、浸透剤、顔料誘導体、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防カビ剤などが挙げられる。
【0079】
本発明の顔料分散剤は、水性媒体中の顔料に、優れた分散安定性、保存安定性を与えることができ、さらに再溶解性に優れている。ここで、再溶解性とは、顔料分散組成物中の溶剤が揮発し、乾燥した乾燥析出物を再度溶剤に溶解する際の溶解しやすさを意味する。したがって、本発明の顔料分散剤を含む顔料分散組成物は、インクジェット用インクとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0080】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細を説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。なお、顔料分散剤及び顔料分散組成物の重量率、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(PDI)及び酸価、並びに顔料分散組成物の粘度、保存安定性及び再溶解性は、下記の方法に従って測定又は評価した。
【0081】
(重合率)
NMR(商品名:AVANCE500、ブルカー・バイオスピン株式会社製)を用いて、H−NMRを測定し、モノマーのビニル基とポリマーピークの面積比から重合率を算出した。
【0082】
(重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(PDI))
GPC(商品名:HPLC 11Series、アジレント・テクノロジー株式会社製)、カラム(商品名:Shodex GPC LF−804、昭和電工株式会社製)、移動相:10mM LiBr/N−メチルピロリドン溶液)を用い、標準物質としてポリスチレン(分子量1,090,000、775,000、427,000、190,000、96,400、37,900、10,200、2,630、440、92)を使用して検量線を作成し、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)を測定した。こられの測定値から分子量分布(PDI)を算出した。
【0083】
(酸価(有効固形分換算))
テトラヒドロフラン(以下「THF」という)に溶解したサンプルを電位差滴定装置(商品名:GT−200、三菱化学株式会社製)用いてを0.1M水酸化カリウム/2−プロパノール溶液で滴定した。滴定pH曲線の変曲点を滴定終点として、次式により酸価を算出した。
【0084】
A=56.11×Vs×0.1×f/w
A:酸価(mgKOH/g)
Vs:滴定に要した0.1M水酸化カリウム/2−プロパノール溶液の使用量(mL)
f:0.1M水酸化カリウム/2−プロパノール溶液の力価
w:測定サンプル重量(g)(固形分換算)
【0085】
(粘度)
E型粘度計(商品名:TVE−22L、東機産業株式会社製)にて、0.8°×R24のコーンローターを使用し、25℃においてローター回転数60rpmで測定した。
【0086】
(保存安定性)
顔料分散組成物を70℃で1週間保存したときの保存前後の粘度を測定し、下式で算出される粘度変化率を保存安定性の指標(保存性)として評価した。粘度変化率が100%に近いほど、保存安定性が高い判定とする。
【0087】
粘度変化率(%)={(保存後粘度)/(保存前粘度)}×100
【0088】
(再溶解性)
顔料分散組成物25μlをマイクロピペットでガラスシャーレ上に滴下し、恒温恒湿槽(商品名:プラチナスS PR−2SP、タバイエスペック株式会社製)で温度60℃、湿度40%で4時間乾燥する。シャーレを取り出した後、室温に冷却する。シャーレ上の乾燥析出物に脱イオン水2mlを滴下し、乾燥析出物の再溶解状態を目視観察し以下の基準により評価した。
【0089】
○:残さなく乾燥析出物が再溶解する。
△:残さが若干残るがほとんど再溶解する。
×:残さが多く、ほとんど再溶解しない。
【0090】
<重合開始剤>
(合成例1):エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート(以下「BTEE」という)
金属テルル(商品名:Tellurium(−40mesh)、Aldrich社製)6.38g(50mmol)をTHF50mlに懸濁させ、これにn−ブチルリチウム(Aldrich社製、1.6Mヘキサン溶液)34.4ml(55mmol)を、室温でゆっくり滴下した(10分間)。この反応溶液を金属テルルが完全に消失するまで撹拌した(20分間)。この反応溶液に、エチル−2−ブロモ−イソブチレート10.7g(55mmol)を室温で加え、2時間撹拌した。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、続いて減圧蒸留して、黄色油状物8.98g(収率59.5%)のBTEEを得た。
【0091】
<顔料分散剤>
(実施例1):顔料分散剤A
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにN−ビニルピロリドン(日本触媒社製、以下「VP」という) 3.60g、脱イオン水 1.94g、BTEE 0.360g、2,2´−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬工業社製、以下「V−70」という) 0.0259gを仕込み、30℃で24時間反応させた。重合率は100%、Mwは3,450、PDIは1.17であった。
【0092】
上記反応液に予めアルゴン置換したアクリル酸n−ブチル(日本触媒社製、以下「BA」という) 6.86g、アクリル酸(シグマアルドリッチジャパン社製、以下「AA」という) 1.54g、2,2´−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(大塚化学社製、以下「ADVN」という) 0.0596g、THF 8.00g、メタノール 3.59gの混合溶液を加え、45℃で39時間反応させた。重合率はBA、AAとも98%であった。
【0093】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Aを得た。Mwは11,000、PDIは1.27で、酸価は108mgKOH/gであった。
【0094】
(実施例2):顔料分散剤B
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 6.00g、脱イオン水 3.23g、BTEE 0.360g、V−70 0.0259gを仕込み、30℃で8時間反応させた。重合率は98%、Mwは6,100、PDIは1.17であった。
【0095】
上記反応液に予めアルゴン置換したBA 4.46g、AA 1.54g、ADVN 0.0596g、THF 7.11g、メタノール 4.03gの混合溶液を加え、45℃で38時間反応させた。重合率はそれぞれBA 97%、AA 96%であった。
【0096】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Aを得た。Mwは11,300、PDIは1.24で、酸価は98mgKOH/gであった。
【0097】
(実施例3):顔料分散剤C
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 6.00g、脱イオン水 3.23g、BTEE 0.360g、V−70 0.0259gを仕込み、30℃で8時間反応させた。重合率は98%、Mwは6,100、PDIは1.17であった。
【0098】
上記反応液に予めアルゴン置換したBA 5.34g、AA 0.660g、ADVN 0.0596g、THF 7.10g、MeOH 4.94gの混合溶液を加え、45℃で38時間反応させた。重合率はそれぞれBA 97%、AA 96%であった。
【0099】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Cを得た。Mwは10,800、Mn/Mwは1.23で、酸価は42mgKOH/gであった。
【0100】
(実施例4):顔料分散剤D
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 6.00g、脱イオン水 3.23g、BTEE 0.360g、V−70 0.0259gを仕込み、30℃で8時間反応させた。重合率は98%、Mwは6,100、PDIは1.17であった。
【0101】
上記反応液に予めアルゴン置換したBA 4.90g、AA 1.10g、ADVN 0.0596g、THF 7.11g、メタノール 4.03gの混合溶液を加え、45℃で38時間反応させた。重合率はそれぞれBA 97%、AA 96%であった。
【0102】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Dを得た。Mwは10,600、PDIは1.22で、酸価は73mgKOH/gであった。
【0103】
(実施例5):顔料分散剤E
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 6.00g、脱イオン水 3.23g、BTEE 0.360g、V−70 0.0259gを仕込み、30℃で12時間反応させた。重合率は100%、Mwは6,100、PDIは1.17であった。
【0104】
上記反応液に予めアルゴン置換したBA 4.07g、AA 1.93g、ADVN 0.0596g、THF 7.11g、MeOH 4.03gの混合溶液を加え、45℃で40時間反応させた。重合率はそれぞれBA 97%、AA 100%であった。
【0105】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Eを得た。Mwは11,600、PDIは1.17で、酸価は125mgKOH/gであった。
【0106】
(実施例6):顔料分散剤F
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 3.60g、脱イオン水 1.94g、BTEE 0.360g、V−70 0.0259gを仕込み、30℃で24時間反応させた。重合率は100%、Mwは3,450、PDIは1.17であった。
【0107】
上記反応液に予めアルゴン置換したアクリル酸2−エチルヘキシル(日本触媒社製、以下「EHA」という) 6.86g、AA 1.54g、ADVN 0.0596g、THF 8.05g、メタノール 5.33gの混合溶液を加え、45℃で39時間反応させた。重合率はそれぞれEHA 97%、AA 97%であった。
【0108】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Fを得た。Mwは8,610、PDIは1.25で、酸価は115mgKOH/gであった。
【0109】
(実施例7):顔料分散剤G
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 3.60g、脱イオン水 1.94g、BTEE 0.360g、V−70 0.0259gを仕込み、30℃で24時間反応させた。重合率は100%、Mwは3,450、PDIは1.17であった。
【0110】
上記反応液に予めアルゴン置換したアクリル酸シクロヘキシル(大阪有機化学工業社製、以下「CHA」という) 7.35g、AA 1.14g、ADVN 0.0596g、THF 8.05g、メタノール 2.01gの混合溶液を加え、45℃で39時間反応させた。重合率はそれぞれCHA 95%、AA 99%であった。
【0111】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Gを得た。Mwは9,020、PDIは1.25で、酸価は77mgKOH/gであった。
【0112】
(実施例8):顔料分散剤H
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 6.00g、脱イオン水 3.23g、BTEE 0.180g、V−70 0.0259gを仕込み、30℃で15時間反応させた。重合率は100%、Mwは11,400、PDIは1.15であった。
【0113】
上記反応液に予めアルゴン置換したBA 4.46g、AA 1.54g、ADVN 0.0745g、THF 7.11g、メタノール 4.03gの混合溶液を加え、45℃で46時間反応させた。重合率はそれぞれBA 99%、AA 95%であった。
【0114】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Hを得た。Mwは21,000、PDIは1.19で、酸価は99mgKOH/gであった。
【0115】
(比較例1):顔料分散剤I
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 6.00g、脱イオン水 3.23g、BTEE 0.360g、V−70 0.0259gを仕込み、30℃で12時間反応させた。重合率は100%、Mwは6,100、PDIは1.17であった。
【0116】
上記反応液に予めアルゴン置換したBA 3.69g、AA 2.31g、ADVN 0.0596g、THF 7.11g、メタノール 4.03gの混合溶液を加え、45℃で40時間反応させた。重合率はそれぞれBA 97%、AA 100%であった。
【0117】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Iを得た。Mwは11,900、PDIは1.16で、酸価は148mgKOH/gであった。
【0118】
(比較例2):顔料分散剤J
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 6.00g、脱イオン水 3.23g、BTEE 0.360g、V−70 0.0259gを仕込み、30℃で15時間反応させた。重合率は100%、Mwは5,700、PDIは1.13であった。
【0119】
上記反応液に予めアルゴン置換したBA 6.00g、ADVN 0.0894g、THF 7.11g、メタノール 4.03gの混合溶液を加え、45℃で40時間反応させた。重合率は97%であった。
【0120】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Jを得た。Mwは10,200、PDIは1.17であった。
【0121】
(比較例3):顔料分散剤K
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 11.77g、脱イオン水 6.34g、BTEE 0.405g、V−70 0.0416gを仕込み、30℃で15時間反応させた。重合率は98%、Mwは10,200、PDIは1.13であった。
【0122】
上記反応液に予めアルゴン置換したAA 1.73g、ADVN 0.0335g、THF 6.27g、MeOH 3.56gの混合溶液を加え、45℃で46時間反応させた。さらに、AIBN 0.0333gを加え、60℃で27時間反応させた。重合率は86%であった。
【0123】
反応終了後、反応溶液にTHF 56.00gを加え、撹拌下のヘプタン350ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Kを得た。Mwは12,400、PDIは1.15で、酸価は94mgKOH/gであった。
【0124】
(比較例4):顔料分散剤L
アルゴンガス導入管、撹拌機、冷却管を備えたフラスコにメチルエチルケトン 300g、2,2´−アゾビスイソブチロニトリル(大塚化学社製、以下「AIBN」という) 10.0gを仕込み、アルゴン置換し、78℃(還流)に加熱撹拌した。ここにVP 50.0g、BA 34.2g、AA 12.8gを混合しアルゴン置換したものを3時間かけて滴下した。さらにAIBN 2.0gを仕込み、78℃で2時間反応させた。重合率はVP 96%、BA 100%、AA 100%であった。
【0125】
反応終了後、反応溶液に酢酸エチル 0.7Lとヘプタン 0.7Lを混合した液中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Lを得た。Mwは8,730、PDIは1.61で、酸価は108mgKOH/gであった。
【0126】
(比較例5):顔料分散剤M
アルゴンガス導入管、撹拌子を備えたフラスコにVP 12.00g、脱イオン水 6.46g、BTEE 0.360g、V−70 0.0370gを仕込み、30℃で8時間反応させた。重合率は98%であった。
【0127】
反応終了後、反応溶液にTHF 48.00gを加え、撹拌下のヘプタン300ml中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより顔料分散剤Mを得た。Mwは12,400、PDIは1.18であった。
【0128】
<顔料分散組成物>
(実施例9)
顔料分散剤の酸基の95%を中和する量の水酸化カリウムを水に溶解し、その後顔料分散剤Aを添加して顔料分散剤の15質量%水溶液を調製した。
【0129】
前記で調製した顔料分散剤の水溶液 53質量部、顔料(C.I.Pigment Blue 15:3、商品名:CHROMOPHTAL BLUE 4GNP、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)20質量部、脱イオン水27質量部となるように配合組成を調整し、0.3mmジルコニアビーズ400質量部を加え、ビーズミル(商品名:DISPERMAT CA、VMA−GETZMANN GmbH社製)にて5時間混合し十分に分散させた。分散終了後、ビーズをろ別して顔料分散液(顔料組成物)を得た。
【0130】
得られた顔料分散液 30質量部、グリセリン(関東化学社製) 10質量部、PEG1540(関東化学社製) 3質量部、2−ピロリドン(東京化成工業社製)10質量部、1,2−ヘキサンジオール(東京化成工業社製)2質量部、ヘキシルグリコール(東京化成工業社製)0.35質量部、オルフィンE1004(日信化学工業社製)0.35質量部、トリエタノールアミン(関東化学社製)0.7質量部、プロキセルGxL(S)(アーチ・ケミカルズ・ジャパン社製)0.05質量部、脱イオン水 44質量部の配合でインクジェット用インクを調製した。
【0131】
得られたインクジェット用インクの粘度、保存安定性、並びに再溶解性を評価し、表1に示した。
【0132】
(実施例10)
顔料分散剤を顔料分散剤Bに変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0133】
(実施例11)
顔料分散剤を顔料分散剤Cに変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0134】
(実施例12)
顔料分散剤を顔料分散剤Dに変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0135】
(実施例13)
顔料分散剤を顔料分散剤Eに変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0136】
(実施例14)
顔料分散剤を顔料分散剤Fに変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0137】
(実施例15)
顔料分散剤を顔料分散剤Gに変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0138】
(実施例16)
顔料分散剤を顔料分散剤Bに変更し、顔料をC.I.Pigment Yellow 74(商品名:HANSA Yellow 5GX01、クラリアント社製)に変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0139】
(実施例17)
顔料分散剤を顔料分散剤Bに変更し、顔料をC.I.Pigment Black 7(商品名:カーボンブラックMA−100、三菱化学社製)に変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0140】
(実施例18)
顔料分散剤を顔料分散剤Hに変更し、顔料をC.I.Pigment Red 122(商品名:Cinquasia Magenta D4550J、BASF社製)に変更し、顔料分散液の調整における顔料分散剤の水溶液の使用量を27質量部、脱イオン水の使用量を53質量部に変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0141】
(比較例6)
顔料分散剤を顔料分散剤Iに変更した以外は、実施例9と同様に実施した。
【0142】
(比較例7)
顔料分散剤Jを水に添加した。しかし、顔料分散剤Jを水に溶解することができなかった。
【0143】
(比較例8)
顔料分散剤の酸基の95%を中和する量の水酸化カリウムを水に溶解し、その後顔料分散剤Kを添加して顔料分散剤の15質量%水溶液を調製した。
【0144】
前記で調製した顔料分散剤の水溶液 53質量部、顔料(C.I.Pigment Blue 15:3、商品名:CHROMOPHTAL BLUE 4GNP、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)20質量部、脱イオン水27質量部となるように配合組成を調整し、0.3mmジルコニアビーズ400質量部を加え、ビーズミル(商品名:DISPERMAT CA、VMA−GETZMANN GmbH社製)にて5時間混合した。しかし、顔料を分散することができなかった。
【0145】
(比較例9)
顔料分散剤を顔料分散剤Lに変更した以外は、比較例8と同様に実施した。しかし、顔料を分散することができなかった。
【0146】
(比較例10)
顔料分散剤Kを水に溶解して顔料分散剤の15質量%水溶液を調製した。
【0147】
前記で調製した顔料分散剤の水溶液 53質量部、顔料(C.I.Pigment Blue 15:3、商品名:CHROMOPHTAL BLUE 4GNP、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)20質量部、脱イオン水27質量部となるように配合組成を調整し、0.3mmジルコニアビーズ400質量部を加え、ビーズミル(商品名:DISPERMAT CA、VMA−GETZMANN GmbH社製)にて5時間混合した。しかし、顔料を分散することができなかった。
【0148】
【表1】
【0149】
いずれの実施例においても低粘度で保存安定性が高く、さらに再溶解性が良好なインクが得られることが示された。この結果から本発明の顔料分散剤は、インクジェットインクで使用される一般的な顔料において、有用であることが確認できた。