特許第6189185号(P6189185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189185
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】揮散用容器、及び薬剤揮散装置
(51)【国際特許分類】
   B65D 83/00 20060101AFI20170821BHJP
   B65D 85/00 20060101ALI20170821BHJP
   A61L 9/12 20060101ALI20170821BHJP
   A01M 1/20 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   B65D83/00 F
   B65D85/00 A
   A61L9/12
   A01M1/20 C
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-236309(P2013-236309)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2015-93733(P2015-93733A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207584
【氏名又は名称】大日本除蟲菊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100165685
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 信治
(72)【発明者】
【氏名】浅井 洋
(72)【発明者】
【氏名】市村 由美子
(72)【発明者】
【氏名】中山 幸治
【審査官】 植前 津子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−185090(JP,A)
【文献】 特開2007−216990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 83/00
A01M 1/20
A61L 9/12
B65D 85/00
A01N 25/18
A01P 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮散性物質を外部に揮散させる揮散用容器であって、
前記揮散性物質を含む担体を収納する開口部を有する容器本体と、
前記担体から揮散した前記揮散性物質を外部に放出する揮散孔が設けられ、前記開口部に対して非接触状態で前記開口部を覆うように前記容器本体に取り付けられる蓋体と、
を備え、
前記蓋体を前記容器本体に取り付けたとき、前記担体が前記開口部から前記容器本体の周囲にこぼれ出ることを防止する規制部が前記蓋体の内側に設けられ
前記規制部は、前記蓋体の内側上面に設けられ、前記開口部との間に前記担体のサイズより小さい隙間を形成するように前記内側上面から下方に延在する筒状部材として構成されている揮散用容器。
【請求項2】
前記筒状部材に、前記揮散性物質が通流するための前記担体のサイズより小さい通流部が設けられている請求項1に記載の揮散用容器。
【請求項3】
前記蓋体に設けられる前記揮散孔は、前記担体のサイズより小さく構成されている請求項1又は2に記載の揮散用容器。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の揮散用容器を使用した薬剤揮散装置であって、
前記担体として、吸水性ポリマーに、少なくとも前記揮散性物質の水溶液又は水懸濁液を吸収させた水性ゲルビーズタイプの薬剤を収納してなる薬剤揮散装置。
【請求項5】
前記揮散性物質は、飛翔害虫忌避成分、飛翔害虫忌避香料成分、衣料防虫成分、衣料防虫香料成分、及び香料成分からなる群から選択される少なくとも一種である請求項4に記載の薬剤揮散装置。
【請求項6】
揮散性物質を外部に揮散させる揮散用容器を使用した薬剤揮散装置であって、
前記揮散性物質を含む担体を収納する開口部を有する容器本体と、
前記担体から揮散した前記揮散性物質を外部に放出する揮散孔が設けられ、前記開口部に対して非接触状態で前記開口部を覆うように前記容器本体に取り付けられる蓋体と、
を備え、
前記担体は、吸水性ポリマーに、少なくとも前記揮散性物質の水溶液又は水懸濁液を吸収させた水性ゲルビーズタイプの薬剤であり、
前記蓋体を前記容器本体に取り付けたとき、前記担体が前記開口部から前記容器本体の周囲にこぼれ出ることを防止する規制部が前記蓋体の内側に設けられ、
前記蓋体の内側上面を前記開口部の上端に対して近接させることにより、前記規制部を構成してある薬剤揮散装置。
【請求項7】
揮散性物質を外部に揮散させる揮散用容器を使用した薬剤揮散装置であって、
前記揮散性物質を含む担体を収納する開口部を有する容器本体と、
前記担体から揮散した前記揮散性物質を外部に放出する揮散孔が設けられ、前記開口部に対して非接触状態で前記開口部を覆うように前記容器本体に取り付けられる蓋体と、
を備え、
前記担体は、吸水性ポリマーに、少なくとも前記揮散性物質の水溶液又は水懸濁液を吸収させた水性ゲルビーズタイプの薬剤であり、
前記蓋体を前記容器本体に取り付けたとき、前記担体が前記開口部から前記容器本体の周囲にこぼれ出ることを防止する規制部が前記蓋体の内側に設けられ、
前記蓋体の内側側面を前記開口部の周囲に対して近接させることにより、前記規制部を構成してある薬剤揮散装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮散性物質を外部に揮散させる揮散用容器、及び当該揮散用容器を使用した薬剤揮散装置に関する。
【背景技術】
【0002】
害虫を忌避するため、常温で揮散性を有する防虫剤が市販されている。このような防虫剤は一般的に、揮散性を有する担体を容器本体に入れ、容器本体の開口部をシール等で密封し、容器本体に蓋を被せた状態で販売される。容器本体あるいは蓋には、揮散性成分が揮散できるように複数の孔が設けられている。使用する際は、一旦容器本体から蓋を取り外し、容器本体の開口部を覆っているシールを剥がし、蓋を容器本体に取り付ける。このような構成であるため、容器が倒れた場合に備え、防虫剤がこぼれ出ないように容器本体や蓋に工夫を施す必要がある。
【0003】
従来、揮散性成分を収納した容器に関して、揮散性成分を効率良く揮散させると共に、ゲル状芳香剤から分離した水分が外に漏れ出るのを回避する芳香剤容器があった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1によれば、カバー体に芳香剤の揮散開口を設け、カバー体の天面部及び主側面部に、芳香剤の揮散開口が形成された容器本体の天面部及び主側面部が対向して配置されるように、カバー体への芳香剤カートリッジの装着方向を規制する装着方向規制手段と、装着された芳香剤カートリッジの容器本体の天面部、側面部一体の内部に芳香剤カートリッジを位置決めする位置決め保持手段とが設けられている容器が開示されている。このように構成することによって、芳香剤の揮散性成分を効率良く揮散することができ、カバーを縦置きにした場合でもゲル状芳香剤から分離した水分が外に漏れ出るのを回避している。
【0004】
一方、倒れても内容物がこぼれないように工夫した容器があった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2によれば、ろう斗状の口を設けた外容器に微小な穴を有する内容器を装着して外容器に粉末を入れると、この微小な穴を通じて微量の粉末が内容器に入るように構成されている。容器が倒れても内容器に入っている粉末は微量であり、また、外容器の口がろう斗状であることから、滑り落ち難くなった粉末はろう斗の途中で止まるため、外にこぼれ出ることがないようにした容器である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−40254号公報
【特許文献2】実公昭57−71042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
防虫剤のような揮散性物質を含む担体を収納する容器には、先ず、揮散性物質を効率的に、且つ、効果的に揮散させるような構成であることが求められる。また、容器が倒れた場合、担体が容器の外へこぼれ出ないような構成にすることも重要である。
【0007】
この点、特許文献1によれば、ゲル状芳香剤を収納する容器と当該容器のカバー体との構成を工夫することで、ゲル状芳香剤から分離した水分が容器の外へこぼれ出ることを回避すること、及び揮散効率の向上を実現しようとしている。しかし、揮散性物質を担持させた担体が容器の外へこぼれ出ることが想定されていないため、容器が倒れると担体が容器の外へこぼれ出てしまう可能性があり、揮散効率に影響を及ぼすと考えられる。
【0008】
一方、特許文献2によれば、外容器の開口部はろう斗状であるため、容器が倒れた場合、中身の粉末がろう斗状の表面を滑り落ち難いために途中で止まり、容器の外へはこぼれ出ないように構成されている。しかし、外容器や内容器の中の粉末が多量に入っている場合は、ろう斗状の途中では止まらず、容器の外へこぼれ出てしまう虞がある。また、容器の上方に孔が設けられていないため、防虫剤等の揮散性物質を収納する容器としては適していないと言える。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、防虫剤等のような揮散性物質を含む担体を収納する容器について、揮散性物質を効果的に揮散することができ、且つ、容器が倒れた場合でも担体が容器の外へこぼれ出ないように構成した揮散用容器を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該揮散用容器を使用した薬剤揮散装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る揮散用容器の特徴構成は、
揮散性物質を外部に揮散させる揮散用容器であって、
前記揮散性物質を含む担体を収納する開口部を有する容器本体と、
前記担体から揮散した前記揮散性物質を外部に放出する揮散孔が設けられ、前記開口部に対して非接触状態で前記開口部を覆うように前記容器本体に取り付けられる蓋体と、
を備え、
前記蓋体を前記容器本体に取り付けたとき、前記担体が前記開口部から前記容器本体の周囲にこぼれ出ることを防止する規制部が前記蓋体の内側に設けられていることにある。
【0011】
一般に、揮散性物質を収納する揮散用容器では、使用開始時まで揮散しないように容器本体の開口部がシール等で密封されていて、使用開始時にシール等を剥がして蓋体を取り付ける。このとき、容器本体の開口部を完全に覆うように蓋体を取り付けた場合、開口部の面と同一の面積であって、当該面の真上に位置する蓋体の上面部に設けられた揮散孔からしか揮散しないため、揮散効率が悪くなり、充分な揮散効果を発揮することができ難くなる。
しかし、本構成の揮散用容器によれば、上部が開口部である容器本体と、揮散性物質を外部に揮散させるための孔(揮散孔)が設けられている蓋体とから構成されており、この蓋体を容器本体に取り付けると、蓋体と開口部とは非接触状態となるように構成されている。つまり、蓋体と開口部とは直接には接触せず、両者の間には隙間が形成される。そして、この隙間を揮散性物質が通り抜けて蓋体に設けられた揮散孔から放出することができるため、揮散効率が向上し、使用空間に揮散性物質を速やかに充満させることができる。
また、蓋体の内側には、容器本体に収納した担体が周囲にこぼれ出ることを防止するための規制部が設けられている。これにより、容器が倒れた場合に、開口部付近まで担体が移動しても、規制部がストッパとなり、担体を堰き止めて開口部からこぼれ出ることを防止する。そして、規制部にぶつかった担体は容器を正立させると容器本体の内部へと戻っていく。
従って、本構成の揮散用容器であれば、揮散性物質の揮散効率を良好にして効果的に揮散させることができ、且つ、容器が倒れた場合であっても担体が周囲にこぼれ出ることを防止することができる。
【0012】
本発明に係る揮散用容器において、
前記規制部は、前記蓋体の内側上面に設けられ、前記開口部との間に前記担体のサイズより小さい隙間を形成するように前記内側上面から下方に延在する筒状部材として構成されていることが好ましい。
【0013】
本構成の揮散用容器によれば、蓋体の内側上面に規制部が設けられ、蓋体を容器本体に取り付けると、規制部と開口部との間には、容器本体に収納される担体のサイズよりも小さいサイズの隙間が形成される。これにより、容器が倒れた場合であっても開口部付近まで移動した担体は規制部によって確実に堰き止められ、容器を正立させると容器本体の内部に戻っていく。
また、規制部は蓋体の上面から下方に延在する筒状部材であり、開口部の周囲に沿うように設けることができる。これにより、容器がどの方向に倒れたとしても、担体が周囲にこぼれ出ることを防止することができる。
さらに、開口部の周縁全体と規制部との間には隙間が形成されているため、揮散性物質は開口部の周縁全体から揮散することができる。これにより、揮散性物質は揮散の方向に偏りを生じることなく、使用空間全体に効率良く揮散させることが可能となる。
【0014】
本発明に係る揮散用容器において、
前記筒状部材に、前記揮散性物質が通流するための前記担体のサイズより小さい通流部が設けられていることが好ましい。
【0015】
本構成の揮散用容器によれば、規制部を構成する筒状部材に通流部が設けられている。このため、上記の規制部と開口部との間に形成された隙間と併せて、揮散性物質がこの通流部を通り抜けて蓋体に設けられている揮散孔から放出することができる。これにより、揮散効率が向上し揮散効果がより優れたものとなる。
また、通流部は担体のサイズより小さいサイズであるように構成されているため、容器が倒れた場合でも規制部によって堰き止められた担体が、この通流部を通過して容器の外へこぼれ出てしまうという虞が生じない。従って、揮散効率及び揮散効果を向上させながら、担体が周囲にこぼれ出ることを防止することができる。
【0016】
本発明に係る揮散用容器において、
前記蓋体の内側上面を前記開口部の上端に対して近接させることにより、前記規制部を構成してあることが好ましい。
【0017】
本構成の揮散用容器によれば、蓋体自体によって規制部を構成することができる。このように構成すると、容器が倒れた場合、担体は蓋体の上面と開口部の周縁とによって堰き止められるため、容器の外へこぼれ出ることはない。また、蓋体と開口部との間に形成される隙間を揮散性物質が通り抜け、蓋体に設けられた揮散孔から放出することができるため、揮散効率を向上させることができる。
また、蓋体自体が規制部として構成されているため、付属の部材を使用する必要がなく、低コストで揮散用容器を作製することができ、安価な製品として消費者に提供することもできる。
【0018】
本発明に係る揮散用容器において、
前記蓋体の内側側面を前記開口部の周囲に対して近接させることにより、前記規制部を構成してあることが好ましい。
【0019】
本構成の揮散用容器によれば、蓋体自体によって規制部を構成することができる。このように構成すると、容器が倒れた場合、担体は蓋体の内側側面と開口部の周囲とによって堰き止められるため、容器の外へこぼれ出ることはない。また、蓋体と開口部との間に形成される隙間を揮散性物質が通り抜け、蓋体に設けられた揮散孔から放出することができるため、揮散効率を向上させることができる。
また、蓋体自体が規制部として構成されているため、付属の部材を使用する必要がなく、低コストで揮散用容器を作製することができ、安価な製品として消費者に提供することもできる。
【0020】
本発明に係る揮散用容器において、
前記蓋体に設けられる前記揮散孔は、前記担体のサイズより小さく構成されていることが好ましい。
【0021】
本構成の揮散用容器によれば、蓋体に設けられる揮散孔は、担体のサイズより小さく構成されている。そのため、容器が倒れて、担体が容器本体の開口部から万が一こぼれ出たとしても、蓋体の揮散孔が担体のサイズより小さいため、揮散孔を通り抜けて揮散用容器の外にまでこぼれ出てしまうことを確実に防止する。
また、揮散用容器を正立させると担体は容器本体内に戻るため、再び使用することができる。
さらに、揮散孔のサイズを担体のサイズより小さく設定しているため、揮散孔を蓋体の複数箇所に設けることができる。そのため、揮散孔の数を増やして揮散性物質の揮散効率を向上させ、揮散効果を良好に発揮させることができる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明に係る薬剤揮散装置の特徴構成は、
上記の何れか一つに記載の揮散用容器を使用した薬剤揮散装置であって、
前記担体として、吸水性ポリマーに、少なくとも前記揮散性物質の水溶液又は水懸濁液を吸収させた水性ゲルビーズタイプの薬剤を収納したことにある。
【0023】
本構成の薬剤揮散装置によれば、本発明の揮散用容器に、水性ゲルビーズタイプの薬剤を収納したものであるから、安全性及び利便性に優れた薬剤揮散装置となる。
【0024】
本発明に係る薬剤揮散装置において、
前記揮散性物質は、飛翔害虫忌避成分、飛翔害虫忌避香料成分、衣料防虫忌避成分、衣料防虫香料成分、及び香料成分からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0025】
本構成の薬剤揮散装置によれば、揮散性物質は、上掲の各成分からなる群から選択される少なくとも一種であるため、薬剤揮散装置の用途・使用目的によって最適な揮散性物質を選択することができる。これにより、薬剤揮散装置の利便性が向上し、多岐に亘る使用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、第一実施形態に係る揮散用容器の斜視図であり、(a)蓋体及び容器本体の分解斜視図、(b)容器本体の蓋体を取り付けたときの斜視図を夫々示している。
図2図2は、第一実施形態に係る揮散用容器の断面図である。
図3図3は、第二実施形態に係る揮散用容器の断面図である。
図4図4は、第三実施形態に係る揮散用容器の断面図である。
図5図5は、第四実施形態に係る揮散用容器の断面図である。
図6図6は、第五実施形態に係る揮散用容器の断面図である。
図7図7は、第一実施形態に係る揮散用容器を使用した薬剤揮散装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の揮散用容器に関する実施形態を図1図6に基づいて説明する。本発明の薬剤揮散装置については、図7を参照しながら簡潔に説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0028】
<第一実施形態>
図1は、本発明の第一実施形態に係る揮散用容器100の斜視図である。(a)は、揮散用容器100の分解斜視図であり、(b)は、容器本体に蓋体を取り付けたときの斜視図である。図2は、本発明の第一実施形態に係る揮散用容器100の断面図である。揮散用容器100は、後述する揮散性物質を外部に揮散させるために使用する容器であり、容器本体10と、蓋体20とを備えている。なお、図2を含めて以降に説明する揮散用容器100の断面図は、容器本体10と蓋体20との関係を分かり易く説明するものであって、細部については省略表示してある。そのため、実際の揮散用容器100の断面を精密に反映したものとは限らない。
【0029】
図1(a)に示すように、容器本体10は、開口部11を備えた有底の容器であり、ボトル状の形状をしている。本体10の内部に後述する揮散性物質を含む担体を収納することができる。
容器本体10を構成する材料は、容器本体10の内部に収納する揮散性物質を変質させず、且つ収納した揮散性物質によって容器本体10自身が劣化、浸食、腐食等を受けない材料であればよい。そのような材料として、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)、ポリエーテル・ケトン・ケトン(PEKK)、及びポリオキシメチレン(POM)等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂(PF)、ユリア樹脂(UF)、メラミン樹脂(MF)、エポキシ樹脂(EP)、及びポリウレタン樹脂(PUR)等の熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂のうち、強度及び透明性において優れているポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましい。なお、揮散性物質が有機溶媒等を含む場合は、樹脂を溶解させる虞があるため、樹脂の代わりに、例えば、金属、ガラス、セラミックス等の無機材料で容器本体10を構成することも可能である。容器本体10の構成材料として樹脂材料を使用する場合、射出成型、押出成型、ブロー成型、圧縮成型等の成型法により容器本体10を作製することができる。
【0030】
容器本体10の容量は、容器本体10に収納する揮散性物質の担体の量に応じて調整することができる。容器本体10に収納する揮散性物質の担体の量は、揮散性物質を揮散させたい場所や広さ、揮散効果を持続させる使用期間等によって決まる。揮散効率や揮散性物質の持続効果の観点、及び容器本体10の安全性を確保する観点から、容器の容量は、50〜500cc程度とすることが好ましい。容器本体10の外観は、収納した揮散性物質の状態を外部から視認できるように、透明又は半透明に構成することが好ましい。ただし、揮散性物質が光によって分解され易いものである場合は、容器本体10を任意の色で着色したり、遮光性のシールを貼り付けたりすることも可能である。
【0031】
図1(b)に示すように、蓋体20は、容器本体10の開口部11を覆う有底の容器として構成される。図1(b)に示すように、蓋体20は、容器本体10に取り付けたとき、開口部11に対して非接触状態で開口部11を覆うように構成されている。図1(a)に示すように、蓋体20には、揮散孔21と、規制部22とが設けられている。揮散孔21は、容器本体10の内部に収納された揮散性物質を外部に放出させるための孔である。揮散孔21の形状及び個数は任意とすることができる。規制部22は、蓋体20の内側上面に設けられており、開口部11に向かって延在する筒状部材である。図1(b)に示すように、蓋体20を容器本体10に取り付けたとき、開口部11と規制部22との間に隙間23が形成される。隙間23のサイズは、容器本体10に収納されている揮散性物質を含む担体のサイズより小さくなるように設定されている。このような構成により、揮散用容器100が倒れた場合、担体が開口部11の付近まで移動しても規制部22がストッパとなり担体を堰き止めることができる。そのため、蓋体20の中に担体が充満することはなく、担体が容器本体10からこぼれ出て周囲に散乱することもない。これにより、担体は容器本体10の中に留まるため、揮散性物質の揮散効率や揮散効果に悪影響が生じる虞はない。また、仮に、揮散用容器が倒れて担体が容器本体の周囲に散乱すると、揮散用容器を置いていた場所が汚れたり、担体を子供が口に入れてしまう危険性があるが、本実施形態の揮散用容器100であれば、そのような懸念は生じない。従って、使用者は安全に揮散用容器100を取り扱うことができる。
【0032】
また、規制部22には、容器本体10に収納される担体のサイズより小さい孔の通流部24が設けられている。このような構成により、担体に担持されている揮散性物質は通流部24を通り抜けて蓋体20の表面に設けられている揮散孔21により放出することができる。ここで、通流部24は、容器本体10に収納される担体のサイズより小さいサイズの孔であるように構成されているため、揮散用容器100が倒れた場合、担体が通流部24を通り抜けて、容器本体10からこぼれ出る虞は生じない。従って、揮散性物質は、開口部11と規制部22との間に設けられた隙間23と併せて通流部24も利用して揮散し、揮散孔21から放出される。そのため、揮散性物質の揮散効率及び揮散効果をより一層向上させることができる。
【0033】
上記のとおり、蓋体20には揮散孔21が設けられており、その形状及び個数は任意とすることができるが、揮散孔21のサイズは、容器本体10に収納される担体のサイズより小さくなるように構成されている。このような構成であるため、揮散用容器100が倒れて、万が一、担体が開口部11からこぼれ出て蓋体20に充満してしまった場合であっても、揮散孔21を通過して揮散用容器100の外へこぼれ出ることはない。そのため、担体が揮散用容器100の周囲に散乱することを確実に防止し、揮散用容器100の設置箇所の汚染や、子供が誤って口に入れる等の危険性が生じる虞はない。従って、使用者は揮散用容器100を安全に取り扱うことができる。また、揮散孔21は上記のようなサイズであるため、蓋体20に複数箇所設けることができる。このように構成した場合、揮散性物質が放出するための孔が増加するため、揮散効率をより一層向上させることができる。そのため、使用空間に対して速やかに揮散性物質の効果を発揮させることが可能となる。さらに、上記のようなサイズの揮散孔21を蓋体20の表面全体に均等に設けた場合、揮散性物質は揮散用容器100の周囲全体から放出することができるため、使用空間に揮散性物質を満遍なく揮散させ、使用空間において揮散性物質の効果が良好に発揮されている箇所と、そうでない箇所との差を生じ難くすることが可能となる。
【0034】
蓋体20を構成する材料は、容器本体10の内部に収納する揮散性物質を変質させず、且つ収納した揮散性物質によって蓋体20自身が劣化、浸食、腐食等を受けない材料であればよく、先に説明した容器本体10を構成する材料と同様のものを使用することができる。
【0035】
蓋体20の大きさは、容器本体10に合わせて設定されるが、容器本体10の開口部11を確実に覆う程度であればよい。蓋体20の外観は、容器本体10と同様に透明又は半透明に構成してもよく、あるいは蓋体20を任意の色で着色したり、遮光性のシールを貼り付けたりすることも可能である。
【0036】
規制部22を構成する材料は、容器本体10の内部に収納する揮散性物質を変質させず、且つ収納した揮散性物質によって規制部22自身が劣化、浸食、腐食等を受けない材料であればよく、先に説明した容器本体10や蓋体20を構成する材料と同様のものを使用することができる。
【0037】
規制部22の大きさは、種々設定することができる。本実施形態の揮散用容器100は、図2に示すように、規制部22の周縁が開口部11の周縁の略真上に位置し、規制部22の幅と開口部11の幅とが略同一になるように構成される。このように構成することにより、揮散用容器100が倒れた場合であっても、揮散性物質を含む担体が容器本体10からこぼれ出ることはなく、上記のような優れた揮散効率、及び揮散効果を奏することができる。
【0038】
<第二実施形態>
図3は、本発明の第二実施形態に係る揮散用容器200の断面図である。図3に示すように、揮散用容器200は、規制部22の幅(外径)が開口部11の幅(外径)より大きく構成されている。つまり、規制部22の周縁が開口部11の外側に位置するように構成されている。規制部22の周縁と開口部11との間に形成される水平方向及び垂直方向の隙間23の大きさは、揮散用容器200に収納される担体のサイズより小さくなるように構成されている。その他の構成は、第一実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。第二実施形態のように構成することにより、揮散用容器200が倒れた場合であっても、揮散性物質を含む担体が容器本体10からこぼれ出ることはなく、第一実施形態と同様の優れた揮散効率、及び揮散効果を奏することができる。
【0039】
<第三実施形態>
図4は、本発明の第三実施形態に係る揮散用容器300の断面図である。図4に示すように、揮散用容器300は、規制部22の幅(外径)が開口部11の幅(外径)より小さく構成されている。つまり、規制部22の周縁が開口部11の内側に位置するように構成されている。規制部22の周縁と開口部11との間に形成される水平方向及び垂直方向の隙間23の大きさは、揮散用容器300に収納される担体のサイズより小さくなるように構成されている。その他の構成は、第一実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。第三実施形態のように構成することにより、揮散用容器300が倒れた場合であっても、揮散性物質を含む担体が容器本体10からこぼれ出ることはなく、第一実施形態と同様の優れた揮散効率、及び揮散効果を奏することができる。
【0040】
<第四実施形態>
図5は、本発明の第四実施形態に係る揮散用容器400の断面図である。図5に示すように、揮散用容器400は、蓋体20の内側上面20aを開口部11の上端に対して近接させることにより規制部を構成する。つまり、蓋体20自体によって規制部を構成することができる。蓋体20の内側上面20aと開口部11とによって形成される隙間25の大きさは、揮散用容器400に収納される揮散性物質を含む担体のサイズよりも小さくなるように設定されている。揮散用容器400が倒れた場合であっても、担体は隙間25を通り抜けることができないため、容器本体10からこぼれ出る虞は生じない。従って、第一実施形態と同様の優れた揮散効率及び揮散効果を奏することができる。また、蓋体20自体が規制部として構成されているため、付属の部材を使用する必要がなく、低コストで揮散用容器400を作製することができ、安価な製品として消費者に提供することもできる。
【0041】
<第五実施形態>
図6は、本発明の第五実施形態に係る揮散用容器500の断面図である。図6に示すように、揮散用容器500は、蓋体20の内側側面20bを開口部11の周囲に対して近接させることにより規制部を構成する。つまり、蓋体20自体によって規制部を構成することができる。蓋体20の内側側面20bと開口部11とによって形成される隙間26の大きさは、揮散用容器500に収納される揮散性物質を含む担体のサイズよりも小さくなるように設定されている。揮散用容器500が倒れた場合であっても、担体は隙間26を通り抜けることができないため、容器本体10からこぼれ出る虞は生じない。なお、図6に示した揮散用容器500の場合、揮散用容器500が倒れると、担体は開口部11と蓋体20の上面との間に一時的に溢れるが、揮散用容器500を正立させると、容器本体10の内部に速やかに戻ることになる。従って、第一実施形態と同様の優れた揮散効率及び揮散効果を奏することができる。また、蓋体20自体が規制部として構成されているため、付属の部材を使用する必要がなく、低コストで揮散用容器500を作製することができ、安価な製品として消費者に提供することもできる。
【0042】
<揮散性物質>
[飛翔害虫忌避剤]
本発明の揮散用容器100〜500は、例えば、蚊、蚋、ユスリカ、ハエ類、コバエ類等の飛翔害虫を忌避するために使用する薬剤揮散装置として使用することができる。この場合、揮散用容器100〜500の内部に揮散性物質として飛翔害虫忌避成分を含有する飛翔害虫忌避剤を収納する。飛翔害虫忌避剤は、そのままの状態で揮散用容器100〜500に収納することも可能であるが、揮発性が高いものでは容器からの揮散量をコントロールし難い場合がある。そこで、飛翔害虫忌避剤の取り扱いを容易にするため、適量の飛翔害虫忌避剤を水に溶解させて水溶液として調製するか、あるいは、飛翔害虫忌避剤が水に不溶性の場合は、飛翔害虫忌避剤の水懸濁液として調製し、これをゲルビーズに保持させた水性ゲルビーズの形態で収納することが好ましい。水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤は、吸水性ポリマーに、飛翔害虫忌避成分(必要に応じて、さらに、飛翔害虫忌避香料成分、忌避効果持続成分)、及び水を含む飛翔害虫忌避香料組成物を吸収させることにより調製される。飛翔害虫忌避成分が揮散性を有する物質であり、本明細書では、当該飛翔害虫忌避成分、又は当該飛翔害虫忌避成分を含有する飛翔害虫忌避香料組成物を揮散性物質として取り扱う。揮散性物質は、20℃における蒸気圧が0.01〜50Paとなるように選択される。以下、揮散性物質の一部又は全部を構成する飛翔害虫忌避成分について説明する。
【0043】
飛翔害虫忌避成分は、(a)一般式(I):
CH−COO−R ・・・ (I)
(R:炭素数が6〜12のアルコール残基)
で表される酢酸エステル化合物、及び/又は一般式(II):
−CH−COO−CH−CH=CH ・・・ (II)
(R2:炭素数が4〜7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、又はフェノキシ基)
で表されるアリルエステル化合物から選ばれる一種以上の香料成分と、
(b)モノテルペン系アルコールもしくは炭素数が10の芳香族アルコールから選ばれる一種以上の香料成分と、を含有する。
【0044】
一般式(I)で表される酢酸エステル化合物としては、例えば、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ペンチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテート等が挙げられる。これらの酢酸エステル化合物は、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0045】
一般式(II)で表されるアリルエステル化合物としては、例えば、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、アリルイソブチルオキシアセテート、アリルn−アミルオキシアセテート、アリルシクロヘキシルアセテート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、アリルシクロヘキシルオキシアセテート、アリルフェノキシアセテート等が挙げられる。これらのアリルエステル化合物は、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0046】
モノテルペン系アルコールもしくは炭素数が10の芳香族アルコールとしては、例えば、テルピネオール、ゲラニオール、ジヒドロミルセノール、ボルネオール、メントール、シトロネロール、ネロール、リナロール、エチルリナロール、チモール、オイゲノール、及びp−メンタン−3,8−ジオール等が代表的である。これらのモノテルペン系アルコールもしくは炭素数が10の芳香族アルコールは、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0047】
飛翔害虫忌避香料組成物は、飛翔害虫忌避香料成分として、上記以外の香料成分、例えば、リモネン等のモノテルペン系炭化水素、メントン、カルボン、プレゴン、カンファー、ダマスコン等のモノテルペン系ケトン、シトラール、シトロネラール、ネラール、ペリラアルデヒド等のモノテルペン系アルデヒド、シンナミルフォーメート、ゲラニルフォーメート等のエステル化合物、フェニルエチルアルコール、ジフェニルオキサイド、インドールアロマ等を適宜添加してもよく、さらには、上記香料成分を含む種々の精油類、例えば、ジャスミン油、ネロリ油、ペパーミント油、ベルガモット油、オレンジ油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモン油、シトロネラ油、レモングラス油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、タイム油等を適宜添加してもよい。
【0048】
飛翔害虫忌避香料組成物は、飛翔害虫忌避香料成分の揮散後の忌避効果持続成分として、20℃における蒸気圧が0.2〜20Paである一種以上のグリコール及び/又はグリコールエーテルを配合することが好ましい。その具体例として、プロピレングリコール(10.7Pa)、ジプロピレングリコール(1.3Pa)、トリプロピレングリコール(0.67Pa)、ジエチレングリコール(3Pa)、トリエチレングリコール(1Pa)、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール(6.7Pa)、ベンジルグリコール(2.7Pa)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(3Pa)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。物質名の後のカッコ内の数値は、20℃における蒸気圧を表している。これらの忌避効果持続成分うち、ジプロピレングリコールが好ましく使用される。なお、上記のグリコール及び/又はグリコールエーテルは、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0049】
飛翔害虫忌避香料組成物に、例えば、殺虫成分、消臭成分、除菌・抗菌成分等の他の機能性成分を配合することも可能である。殺虫成分としては、常温揮散性ピレスロイド系のエムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン等が挙げられる。消臭成分としては、イネ科、ツバキ科、イチョウ科、モクセイ科、クワ科、ミカン科、キントラノオ科、カキノキ科の中から選ばれる植物抽出物が代表的である。また、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド等を添加してリラックス効果を付与することもできる。これらの機能性成分は、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0050】
水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤を調製する際には、吸水性ポリマーを含浸させる飛翔害虫忌避香料組成物(含浸液)に界面活性剤を配合しておくことが好ましい。界面活性剤は、飛翔害虫忌避香料組成物をゲルビーズの内部に確実に保持させ、その徐放化に寄与する。その結果、長期間安定した飛翔害虫忌避効果を発揮することが可能となる。界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン高級アルキルエーテル類(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル等の非イオン系界面活性剤や、ラウリルアミンオキサイド、ステアリルアミンオキサイド、ラウリル酸アミドプロピルジメチルアミンオキサイド等の高級アルキルアミンオキサイド系界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0051】
吸水性ポリマーには、アクリル酸系吸水性ポリマーを使用することが好ましい。アクリル酸系吸水性ポリマーは、吸水性に優れており、自重の100倍以上の水を吸収することができる。粒径約2mm程度のアクリル酸系吸水性ポリマーであれば、含浸液を吸収した後も略透明な状態を維持しつつ、粒径約10mm程度にまで膨張し得る。アクリル酸系吸水性ポリマーとしては、アクリル酸/アクリル酸塩共重合体(アクリル酸/アクリル酸ナトリウム塩共重合体やアクリル酸/アクリル酸カリウム塩共重合体等)やアクリルアミド/アクリル酸又はその塩の共重合体が挙げられる。
【0052】
水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤の調製では、例えば、開口部を有する適当な容量の透明容器に所定量の吸水性ポリマーを入れ、続いて飛翔害虫忌避剤を含む含浸液を注ぎ込む作業を行う。このとき、水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤を調製する容器として、本発明の揮散用容器を使用することも可能である。この場合、調製した水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤を揮散用容器に入れ替える手間が省ける。水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤の調製に際して、容器への吸水性ポリマー及び含浸液の投入順序は、どちらが先でも構わない。また、含浸液には必要に応じて、溶剤、BHT等の安定化剤、イソチアゾリン系等の防腐剤、ビトレックス等の苦味剤、pH調整剤、着色剤等を適宜配合しておくことも可能である。
【0053】
水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤の調製に用いる溶剤としては、例えば、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、ノルマルパラフィン、イソパラフィン等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、単独で使用してもよいし、任意に組み合わせて使用してもよい。
【0054】
[衣料用防虫剤]
本発明の揮散用容器100〜500に収納される揮散性物質は、上記のような飛翔害虫忌避剤の他に、例えば、イガ類、カツオブシムシ類、シミ類等の衣料害虫に対する防虫効果や殺虫効果を有する衣料用防虫剤であっても構わない。つまり、上記の飛翔害虫忌避剤と同様に、適量の衣料用防虫剤を水に溶解させて水溶液として調製するか、あるいは、衣料用防虫剤が水に不溶性の場合は、衣料用防虫剤の水懸濁液として調製し、これをゲルビーズに保持させた水性ゲルビーズの形態で収納することが好ましい。水性ゲルビーズタイプの衣料用防虫剤は、吸水性ポリマーに、衣料防虫成分(必要に応じて、さらに、衣料用防虫香料成分、ピレスロイド系殺虫成分、持続性香料成分)を吸収させることにより調製される。
【0055】
本発明の揮散用容器100〜500に収納される衣料用防虫剤は、(c)衣料防虫成分として、以下の式(III):
CH−COO−R ・・・ (III)
(R:炭素数が6〜12のアルコール残基)
で表される一種以上の酢酸エステル化合物と、(d)常温で揮散性を有する一種以上のピレスロイド系殺虫成分とを含むように調製される。さらに、本発明の揮散用容器100〜500に収納される衣料用防虫剤は、衣料防虫成分及びピレスロイド系殺虫成分に加えて、(e)衣料防虫香料成分、及び(f)衣料防虫香料成分より長い持続性を有する持続性香料成分を含むように調製され得る。以下、各成分について説明する。
【0056】
(c)衣料防虫成分
衣料防虫成分として使用する前記式(III)で表される特定の酢酸エステル化合物は、後述のピレスロイド系殺虫成分と化学構造的に類似のエステル化合物である。酢酸エステル化合物の揮散性は、後述の衣料防虫香料成分として添加し得るテルペン化合物の揮散性と概して同等程度であり、且つピレスロイド系殺虫成分の揮散性より大きいという特性を有する。このため、酢酸エステル化合物は、ピレスロイド系殺虫成分と協同して、使用初期段階から数ヵ月以上の長期に亘って相乗効果による増強された防虫効果を発揮することが可能となる。また、衣料防虫成分の持続期間中は、酢酸エステル化合物によって芳香性が高められる。
【0057】
前記式(III)で表される酢酸エステル化合物中のアルコール残基(R)としては、炭素数が1〜5のアルキル基で置換可能なシクロアルキル基、炭素数が1〜3であるフェニルアルキル基(フェニル基とエステル基との間の炭素数が1〜3のもの)、テルペンアルコール残基などが挙げられる。すなわち、酢酸エステル化合物として、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ペンチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテートなどが挙げられる。これらのうち、好適な酢酸エステル化合物は、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、及びエチルリナリルアセテートである。これらの酢酸エステル化合物は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。
【0058】
(d)ピレスロイド系殺虫成分
上記衣料防虫成分と組み合わせて使用されるピレスロイド系殺虫成分としては、エムペントリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、及びテラレスリンなどが挙げられる。これらのピレスロイド系殺虫成分は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。また、これらのピレスロイド系殺虫成分には、不斉炭素や二重結合に基づく光学異性体や幾何異性体が存在するが、それらを単独又は任意の混合物として使用することも可能である。
【0059】
(e)衣料防虫香料成分
本発明の揮散用容器100〜500に収納される衣料用防虫剤は、使用初期段階における防虫効果をさらに増強するために、衣料防虫香料成分として、テルペン化合物を含有し得る。上述の衣料防虫成分にテルペン化合物を併用すると、使用初期段階の防虫効果が長時間持続することが本発明者らによって確認された。また、テルペン化合物は調香剤としての機能も有しており、このため、より長期に亘って芳香性を高めることができる。テルペン化合物としては、テルピネオール、シトロネロール、ゲラニオール、ネロール、リナロール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロリナロール、ジヒドロミルセノール、メントール、ボルネオール、イソボルネオール等のテルペン系アルコール、シトロネラール、シトラール、ジメチルオクタナール等のテルペン系アルデヒド、カルボン、ジヒドロカルボン、プレゴン、メントン等のテルペン系ケトンなどが挙げられる。これらのテルペン化合物は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。テルペン化合物は、テルペン化合物を含有する植物精油の形態であっても構わない。植物精油としては、シトロネラ油、オレンジ油、レモン油、ライム油、ユズ油、ラベンダー油、ペパーミント油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、ヒバ油、グレープフルーツ油、シダーウッド油、ゼラニウム油、タイムホワイト油、ハッカ油、ジャスミン油、檜油、緑茶精油などが挙げられる。
【0060】
(f)持続性香料成分
本発明の揮散用容器100〜500に収納される衣料用防虫剤は、防虫効果及び芳香の持続性をさらに高めるために、持続性香料成分を含有し得る。上述の衣料防虫成分及び衣料防虫香料成分に加えて、持続性香料成分を使用すると、使用後期段階における防虫効果の減退が少なくなり、6〜およそ12ヵ月の長期の使用にも耐え得る衣料防虫成分を実現することができる。持続性香料成分としては、ガラクソリド、ムスクケトン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、エチレンブラシレート、メチルアトラレート、ヘキシルサリシレート、オレンジャークリスタルなどが挙げられる。これらの持続性香料成分は、単独で使用可能であるが、二種以上の混合物として使用しても構わない。
【0061】
〔衣料用防虫剤の組成〕
衣料防虫成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((c):(d))は、重量比で0.02:1〜0.4:1とするのが好ましい。この範囲であれば、使用初期段階における防虫効果を増強しつつ、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って衣料防虫成分を作用させることができる。その結果、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と衣料防虫成分による防虫効果との相乗効果により、増強された効果及び芳香性を長期に亘って発揮し続けることが可能となる。衣料防虫成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((c):(d))が上記範囲を上回っても、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と衣料防虫成分による防虫効果との相乗効果は頭打ちになり、それ以上の効果の向上はあまり望めない。衣料防虫成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((c):(d))が上記範囲を下回ると、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と衣料防虫成分による防虫効果との相乗効果が十分に得られない場合がある。
【0062】
持続性香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((f):(d))は、重量比で0.02:1〜0.4:1とするのが好ましい。この範囲であれば、上記衣料防虫成分に加え、持続性香料成分によって衣料用防虫剤の使用期間を延長しつつ、ピレスロイド系殺虫成分の持続期間全体に亘って持続性香料成分を作用させることができる。その結果、ピレスロイド系殺虫成分による殺虫効果と衣料防虫成分及び持続性香料成分による防虫効果との相乗効果により、さらに増強された効果及び芳香性をより長期に亘って発揮し続けることが可能となる。持続性香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((f):(d))が上記範囲を上回ると、ピレスロイド系殺虫成分の揮散量が抑制され、使用期間中に亘って十分な殺虫効果が得られない場合がある。持続性香料成分とピレスロイド系殺虫成分との配合比率((f):(d))が上記範囲を下回ると、持続性香料成分による衣料用防虫剤の使用期間の延長が十分に達成されない場合がある。
【0063】
本発明の揮散用容器100〜500に収納される衣料用防虫剤は、上記各成分の他に、各種添加剤を含有し得る。例えば、防黴剤(2−フェニルフェノール(OPP)、4−イソプロピル−3−メチルフェノール(IPMP)、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、イソプロピルメチルフェノール、オルソフェニールフェノール等)、抗菌剤(ヒノキチオール、オイゲノール、アリルイソチオシアネート等)、芳香剤(リモネン、α−ピネン、フェニルエチルアルコール、アミルシンナミックアルデヒド、ベンジルアセテート等)、除菌成分、BHT等の安定化剤、pH調整剤、着色剤、炭化水素系化合物(ヘキサン、パラフィン等)、各種石油系溶剤等を適宜含有し得る。また、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド等の香料を適宜含有し得る。衣料用防虫剤に緑の香りを添加することにより、衣類の収納容器を開封したときに使用者に対してリラックス効果を付与することができる。
【0064】
<薬剤揮散装置>
上記のようにして揮散性物質を含む水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤、又は衣料用防虫剤を調製し、これを本発明の揮散用容器100〜500に収納したものは、本発明の薬剤揮散装置として使用することができる。図7は、第一実施形態に係る揮散用容器100を使用した薬剤揮散装置100´の斜視図である。この薬剤揮散装置100´の内部には、水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤50が揮散用容器100´に収納されている。水性ゲルビーズのサイズは、含浸液量がアクリル酸系吸水性ポリマーの重量の20倍以上であるとき、5〜15mmの径となるように調製されている。薬剤揮散装置100´は、玄関、台所、トイレ、リビングルーム、寝室等の室内、倉庫、車中等の空間や、庭先、屋外において、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、蚋、ユスリカ類、ハエ類、コバエ類(ショウジョウバエ類、ノミバエ類等)、チョウバエ類、イガ類等の飛翔害虫を忌避する用途に使用され、安全性及び利便性に優れたものである。
特に、薬剤揮散装置100´に上記の衣料用防虫剤を収納した場合、薬剤揮散装置100´は効率的に、且つ、効果的に衣料防虫成分を揮散させることができる。この薬剤揮散装置100´は、タンス、引き出し、クローゼット、衣料収納箱等に置いておくだけで、優れた防虫効果や殺虫効果を発揮することができる。
【0065】
なお、本発明に係る薬剤揮散装置100´の内部に収納する薬剤は、上記のような飛翔害虫忌避剤や衣料用防虫剤に限られない。消臭効果や芳香効果を有する揮散性物質を薬剤として調製し、水性ゲルビーズに担持させて、薬剤揮散装置100´に収納することもできる。このような場合、薬剤揮散装置100´は、玄関、台所、トイレ、リビングルーム、寝室等の室内、倉庫、車中等の空間や、タンス、引き出し、クローゼット、衣料収納箱等の収納空間において使用することができる。
【0066】
上記のように、本発明に係る揮散用容器100〜500は、内部に収納する揮散性物質の種類や用途に応じて、様々な場所で使用することができる非常に利便性に優れた薬剤揮散装置100´として構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の揮散用容器は、飛翔害虫忌避剤、衣料用防虫剤、消臭剤、芳香剤等の薬剤を収納する容器に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 容器本体
11 開口部
20 蓋体
20a 蓋体上面
20b 蓋体側面
21 揮散孔
22 規制部
23,25,26 隙間
24 通流部
50 水性ゲルビーズタイプの飛翔害虫忌避剤
100 揮散用容器
100´ 薬剤揮散装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7