特許第6189190号(P6189190)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189190燃料電池還元装置および燃料電池還元方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189190
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】燃料電池還元装置および燃料電池還元方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04 20160101AFI20170821BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20170821BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20170821BHJP
【FI】
   H01M8/04 Z
   H01M8/12
   H01M8/04 J
   H01M8/04 T
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-240999(P2013-240999)
(22)【出願日】2013年11月21日
(65)【公開番号】特開2015-103300(P2015-103300A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2015年10月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成25年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体酸化物型燃料電池を用いた事業用発電システム要素技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】眞竹 徳久
(72)【発明者】
【氏名】森 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】松尾 毅
(72)【発明者】
【氏名】冨田 和男
(72)【発明者】
【氏名】加藤 芳樹
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−059505(JP,A)
【文献】 特開2013−033740(JP,A)
【文献】 特開2013−182708(JP,A)
【文献】 特開2010−061829(JP,A)
【文献】 特開2012−227065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00− 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、固体電解質と、酸化触媒能を有する空気極とが積層して形成された燃料電池セルを複数備えたセルスタックを還元処理する燃料電池還元装置であって、
複数の前記セルスタックを収容する収容室と、
前記収容室に収容された前記セルスタックの燃料極側に、還元剤を含む第1流体を供給する燃料極側流体供給経路と、
前記収容室に収容された前記セルスタックの空気極側に、酸化剤を含む第2流体を供給する空気極側流体供給経路と、
前記空気極側流体供給経路内に、酸化剤を含む流体を送り出す酸化剤送出部と、
前記空気極側流体供給経路内に送り出された酸化剤を含む流体を予熱する予熱部と、
前記空気極側流体供給経路内に送り出された酸化剤を含む流体に、可燃限界濃度以下の可燃性燃料を含む流体を添加する燃料添加部と、
管状部材である空気極側流体排出経路と、
を備え、
前記空気極側流体供給経路が、前記セルスタックの空気極側の面に向けて酸化剤を含む第2流体を供給する複数の供給口を有し、
複数の前記供給口は、前記セルスタックの軸方向に所定の間隔を開けて配置され
前記空気極側流体排出経路は、前記収容室の側壁と同心となるよう前記収容室内の中央に配置され、
前記セルスタックは、前記収容室の側壁と前記空気極側流体排出経路との間に配置され
ている燃料電池還元装置。
【請求項2】
前記燃料添加部が、
前記燃料電池セルの温度を計測する計測手段と、
前記可燃性燃料を含む流体の添加量を調節し、前記燃料電池セルの温度を制御する制御部を備えている請求項1に記載の燃料電池還元装置。
【請求項3】
前記空気極側流体供給経路から供給される第2流体の流れ方向に対して、複数の前記セルスタックが、それぞれ位置をずらして配置されるよう、前記複数のセルスタックを支持する支持部を備えている請求項1または請求項2に記載の燃料電池還元装置。
【請求項4】
燃料極と、固体電解質と、酸化触媒能を有する空気極とが積層して形成された燃料電池セルを複数備えたセルスタックの空気極側に、予熱した酸化剤を含む流体を供給し、前記燃料電池セルを昇温させる第1昇温工程と、
前記セルスタックの空気極側に、前記セルスタックの軸方向に所定の間隔を開けて配置された複数の供給口から前記セルスタックの空気極側の面に向けて、可燃限界濃度以下の可燃性燃料を含む流体が添加された酸化剤を含む流体を供給し、前記可燃性燃料を触媒燃焼させて前記燃料電池セルを昇温させる第2昇温工程と、
前記セルスタックの燃料極側に、還元剤を含む流体を供給する還元工程と、
を備え
管状部材である空気極側流体排出経路を、前記セルスタックが収容された収容室の側壁と同心となるよう前記収容室内の中央に配置し、
前記セルスタックを、前記収容室の側壁と前記空気極側流体排出経路との間に配置し、
供給された前記酸化剤を含む流体を、前記空気極側流体排出経路から排出する燃料電池還元方法。
【請求項5】
前記燃料電池セルの温度を計測する工程と、
前記可燃性燃料を含む流体の添加量を調節し、前記燃料電池セルの温度を制御する温度制御工程と、
を備えている請求項に記載の燃料電池還元方法。
【請求項6】
前記温度制御工程が、
前記燃料電池セルの温度が700℃に達するまで、前記酸化剤を含む流体に、可燃限界濃度の可燃性燃料を含む流体を添加する第1制御工程と、
第1制御工程の後、前記燃料電池セルの温度が900℃を超えないよう前記可燃性燃料を含む流体の添加量を調節する第2制御工程と、
第2制御工程の後、前記燃料電池セルの温度が700℃以上900℃以下を維持するよう前記可燃性燃料の添加量を調節する第3制御工程と、
を含む請求項に記載の燃料電池還元方法。
【請求項7】
前記可燃性燃料を含む流体が、メタンを主成分とするガスまたは水素ガスであり、
前記可燃限界濃度が、3体積%である請求項乃至請求項のいずれかに記載の燃料電池還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池還元装置および燃料電池還元方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の1つとして、固体電解質型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)が知られている。SOFCは、固体電解質とその両面に形成された燃料極、および空気極から構成される燃料電池セルを有している。SOFCは、燃料極に燃料ガスを供給するとともに、空気極に酸化剤ガスを供給し、燃料ガスに含まれる燃料と酸化剤ガスに含まれる酸素とを固体電解質を介して化学反応させることによって電力を発生させるものである(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
SOFCの燃料電池セルは、焼成によって形成される。燃料電池セルの焼成は電気炉又はガス炉で行われている。燃料電池セルの材料にはNiが使用されている。該Niは、焼成後、燃料電池セル中にNiOとして存在する。NiOの状態では、SOFCは発電できない。SOFCを発電可能な状態とするには、NiOをNiに還元する必要がある。
【0004】
従来、NiOの還元は、燃料電池セルを高温状態とし、燃料極側にHを通気して行われている。還元処理装置において、還元処理室を構成する一部の部品に、金属材料が用いられている。金属材料からなる部品が高温になりすぎると、構造強度上問題となり、また、酸化して寿命が短くなる。そのため、NiOを還元する際には、金属材料からなる部品部分の温度を抑えつつ、燃料電池セルを高温状態としなくてはならない。高温状態とは、例えば、燃料電池セル両端部が600℃、発電部が700℃から900℃を指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−119298号公報
【特許文献2】特開2008−21597号公報
【特許文献3】特開平9−70540号公報
【特許文献4】特開2012−59505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
燃料電池セルを高温にする方法として、燃料電池セルの焼成時と同様にガス炉を使用できるとよい。しかしながら、ガス炉を使用した場合には、燃料電池セルを部分的に高温とすることは難しく、還元処理室およびSOFC全体が高温となる。そのため、ガス炉は使用できない。
【0007】
燃料電池セルを高温にする別の方法として、電気ヒータを用いて燃料電池セルを部分的に加熱する方法がある。
【0008】
しかしながら、電気ヒータを用いた場合には、量産時に電気代が大きくなることが懸念される。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、還元処理コストを抑えつつ、還元反応を進めることができる燃料電池還元装置および燃料電池還元方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の燃料電池還元装置および燃料電池還元方法は以下の手段を採用する。
本発明は、燃料極と、固体電解質と、酸化触媒能を有する空気極とが積層して形成された燃料電池セルを複数備えたセルスタックを還元処理する燃料電池還元装置であって、複数の前記セルスタックを収容する収容室と、前記収容室に収容された前記セルスタックの燃料極側に、還元剤を含む第1流体を供給する燃料極側流体供給経路と、前記収容室に収容された前記セルスタックの空気極側に、酸化剤を含む第2流体を供給する空気極側流体供給経路と、前記空気極側流体供給経路内に、酸化剤を含む流体を送り出す酸化剤送出部と、前記空気極側流体供給経路内に送り出された酸化剤を含む流体を予熱する予熱部と、前記空気極側流体供給経路内に送り出された酸化剤を含む第2流体に、可燃限界濃度以下の可燃性燃料を含む流体を添加する燃料添加部と、管状部材である空気極側流体排出経路と、を備え、前記空気極側流体供給経路が、前記セルスタックの空気極側の面に向けて酸化剤を含む第2流体を供給する複数の供給口を有し、複数の前記供給口は、前記セルスタックの軸方向に所定の間隔を開けて配置され、前記空気極側流体排出経路は、前記収容室の側壁と同心となるよう前記収容室内の中央に配置され、前記セルスタックは、前記収容室の側壁と前記空気極側流体排出経路との間に配置されている燃料電池還元装置を提供する。
【0011】
可燃性燃料は、空気極に含まれる酸化触媒によって触媒燃焼され得る。触媒燃焼とは、触媒表面における接触酸化反応を利用した無炎燃焼法である。該無炎燃焼法は、可燃限界濃度以下の希薄燃料の完全酸化を、比較的低温で安定に進行させることができる。
【0012】
可燃限界濃度以下の希薄燃料がセルスタックの空気極側に供給されると、可燃性燃料は、空気極の表面のみで触媒燃焼する。燃焼時に発生する熱により、燃料電池セルを昇温させることができる。通常の火炎燃焼では、可燃限界濃度以下の希薄燃料が自着火することはない。したがって、セルスタックの燃料電池セルを備えていない部分では、燃焼による熱は生じない。本発明によれば、電気ヒータなどの外部高温熱源を使用せずに、燃料電池セルを限定的に昇温させることができる。外部高温熱源を使用したとしても、補助的に用いる程度で済むため、電気代を節約できる。
【0013】
酸化触媒は、空気極に含まれる成分である。燃料電池セルに新たな構成を追加する必要がないため、触媒燃焼を利用した昇温は、大型の燃料電池還元装置設計における昇温手段として好適である。
【0014】
触媒燃焼により高温となった燃料電池セルでは、還元剤が燃料電池セルに含まれる酸化物と反応し、該酸化物を還元できる。
【0015】
特許文献4では、セルスタックの一端部側から、燃料電池セルの空気極側の面に沿う方向に可燃性燃料を含む流体を供給している。特許文献4に記載の方法では、セルスタックの下部の温度が上部よりも高くなり、軸方向に温度分布が生じる。温度の高いセルスタックの下部から還元させると、後発の上部が還元したときに、下部で燃料欠乏が起こる。
【0016】
本発明において、可燃性燃料を含む流体は、燃料電池セルの空気極側の面に向けて供給される。それにより、セルスタックの軸方向における温度分布の偏りの発生を抑制できる。温度分布をつけないようにすることで、未反応のNiOが残留しないようにできる。
【0017】
空気極に含まれる酸化触媒は、所定温度域で触媒として作用する。予熱した酸化剤を含む第2流体を、セルスタックの空気極側に供給することで、燃料電池セルの温度を、触媒燃焼可能な温度域まで上昇させることができる。
【0018】
上記発明の一態様において、前記燃料添加部が、前記燃料電池セルの温度を計測する計測手段と、前記可燃性燃料を含む流体の添加量を調節し、前記燃料電池セルの温度を制御する制御部を備えていることが好ましい。
【0019】
燃料電池セルの温度を高くしすぎることは、燃料電池セルを損傷させる恐れがあるため好ましくない。一方、燃料電池セルの温度を低くしすぎることは、還元反応を遅延させる恐れがあるため好ましくない。上記発明の一態様によれば、可燃性燃料を含む流体の添加量を調節して、触媒燃焼により発生する熱量を変化させることで、セルスタックの還元処理に適した温度環境を維持できる。
【0020】
上記発明の一態様において、前記空気極側流体供給経路から供給される第2流体の流れ方向に対して、複数の前記セルスタックが、それぞれ位置をずらして配置されるよう、前記複数のセルスタックを支持する支持部を備えていることが好ましい。
【0021】
第2流体は、収容室内に収容されたすべてのセルスタックの燃料電池セルに、偏りなく供給されることが望ましい。上記発明の一態様によれば、セルスタックの位置をずらして配置することで、収容された位置によらず、バランスよく複数のセルスタックを還元処理することができる。
【0022】
本発明は、燃料極と、固体電解質と、酸化触媒能を有する空気極とが積層して形成された燃料電池セルを複数備えたセルスタックの空気極側に、予熱した酸化剤を含む流体を供給し、前記燃料電池セルを昇温させる第1昇温工程と、前記セルスタックの空気極側に、前記セルスタックの軸方向に所定の間隔を開けて配置された複数の供給口から前記セルスタックの空気極側の面に向けて、可燃限界濃度以下の可燃性燃料を含む流体が添加された酸化剤を含む流体を供給し、前記可燃性燃料を触媒燃焼させて前記燃料電池セルを昇温させる第2昇温工程と、前記セルスタックの燃料極側に、還元剤を含む流体を供給する還元工程と、を備え、管状部材である空気極側流体排出経路を、前記セルスタックが収容された収容室の側壁と同心となるよう前記収容室内の中央に配置し、前記セルスタックを、前記収容室の側壁と前記空気極側流体排出経路との間に配置し、供給された前記酸化剤を含む流体を、前記空気極側流体排出経路から排出する燃料電池還元方法を提供する。
【0023】
可燃限界濃度以下の希薄燃料がセルスタックの空気極側に供給されると、可燃性燃料は、空気極の表面のみで触媒燃焼する。燃焼時に発生する熱により、燃料電池セルを昇温させることができる。本発明によれば、電気ヒータなどの外部高温熱源を使用せずに、燃料電池セルを限定的に昇温させることができる。
【0024】
酸化触媒は、空気極に含まれる成分である。燃料電池セルに新たな構成を追加する必要がないため、触媒燃焼を利用した昇温は、大型の燃料電池還元装置設計における昇温手段として好適である。
【0025】
触媒燃焼により高温となった燃料電池セルでは、還元剤が燃料電池セルに含まれる酸化物と反応し、該酸化物を還元できる。
【0026】
本発明において、可燃性燃料を含む流体は、燃料電池セルの空気極側の面に向けて供給される。それにより、セルスタックの軸方向における温度分布の偏りの発生を抑制できる。軸方向に温度分布をつけないようにすることで、未反応のNiOが残留しないようにできる。
【0027】
空気極に含まれる酸化触媒は、所定温度域で触媒として作用する。予熱した酸化剤を含む第2流体を、セルスタックの空気極側に供給することで、燃料電池セルの温度を、触媒燃焼可能な温度域まで上昇させることができる。
【0028】
上記発明の一態様において、前記燃料電池セルの温度を計測する工程と、前記可燃性燃料を含む流体の添加量を調節し、前記燃料電池セルの温度を制御する温度制御工程と、を備えていることが好ましい。
【0029】
上記発明の一態様において、前記温度制御工程が、前記燃料電池セルの温度が700℃に達するまで、前記酸化剤を含む流体に、可燃限界濃度の可燃性燃料を含む流体を添加する第1制御工程と、第1制御工程の後、前記燃料電池セルの温度が900℃を超えないよう前記可燃性燃料を含む流体の添加量を調節する第2制御工程と、第2制御工程の後、前記燃料電池セルの温度が700℃以上900℃以下を維持するよう前記可燃性燃料の添加量を調節する第3制御工程と、を含むことができる。
【0030】
可燃性燃料の添加量を制御することで、セルスタックの還元処理に適した温度環境を維持することができる。
【0031】
上記発明の一態様において、前記可燃性燃料を含む流体が、メタンを主成分とするガスまたは水素ガスであり、前記可燃限界濃度が、3体積%であってよい。
【0032】
そのようにすることで、より安全に燃料電池セルを昇温させることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明は、可燃性燃料を触媒反応させて燃料電池セルを昇温させることで、セルスタックの還元処理コストを抑制しつつ、還元反応を進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】還元処理されるセルスタックの一態様を示す部分拡大縦断面図である。
図2】燃料電池還元装置の構成を説明する模式図である。
図3】燃料電池還元装置の部分縦断面図である。
図4】複数のセルスタックが収容された収容室の横断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係る燃料電池還元方法の工程を説明するタイミングチャートである。
図6】NiOの還元工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、燃料極と、固体電解質と、酸化触媒能を有する空気極とが積層して形成された燃料電池セルを複数備えたセルスタックを還元処理するための燃料電池還元装置および燃料電池還元方法に関する。
【0036】
以下に、本発明に係る燃料電池還元装置および燃料電池還元方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0037】
以下においては、説明の便宜上、紙面を基準として「上」及び「下」の表現を用いて各構成要素の位置関係を特定するが、鉛直方向に対して必ずしもこの限りである必要はない。例えば、紙面における上方向が鉛直方向における下方向に対応してもよい。また、紙面における上下方向が鉛直方向に直行する水平方向に対応してもよい。
【0038】
また、以下においては、固体酸化物形燃料電池(SOFC)のセルスタックとして円筒形を例として説明するが、必ずしもこの限りである必要はなく、例えば平板形のセルスタックであってもよい。
【0039】
図1に、還元処理されるセルスタックの一態様を示す。
セルスタック101は、円筒形状の基体管103と、基体管103の外周面に複数形成された燃料電池セル105と、隣り合う燃料電池セル105の間に形成されたインターコネクタ107とを有する。燃料電池セル105は、燃料極109と固体電解質111と空気極113とが積層して形成されている。セルスタック101は、基体管103の外周面に形成された複数の燃料電池セル105の内、基体管103の軸方向において最も端に形成された燃料電池セル105の空気極113に、インターコネクタ107を介して電気的に接続されたリード膜115を有する。セルスタック101は、両端に被支持部位を有する。
【0040】
基体管103は、多孔質材料からなり、例えば、CaO安定化ZrO(CSZ)、又はY安定化ZrO2(YSZ)、又はMgAlとされる。基体管103は、燃料電池セル105とインターコネクタ107とリード膜115とを支持する。基体管は、押し出し成形法により成形される。
【0041】
燃料極109は、Niを含む材料から形成される。燃料極109は、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物で構成され、例えば、Ni/YSZが用いられる。
【0042】
固体電解質111は、ガスを通しにくい気密性と、高温で高い酸素イオン導電性とを有するYSZが主として用いられる。
【0043】
空気極113は、La1−xSrMnOで表される導電性ペロブスカイト型酸化物とジルコニア系電解質材料とを混合した材料で構成される。空気極113に含まれるMnは、酸化触媒として作用する。例えば、空気極は、LaCaMnO、SmSrMnO,SmCaMnO、PrSrMnO、PrCaMnOなどとされる。
【0044】
インターコネクタ107は、SrTiO系などのM1−xTiO(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物から構成され、燃料極側に供給されるガスと空気極側に供給されるガスとが混合しないように緻密な膜となっている。インターコネクタ107は、酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した電気導電性を有する。インターコネクタ107は、隣り合う燃料電池セル105において、一方の燃料電池セル105の空気極113と他方の燃料電池セル105の燃料極111とを電気的に接続し、隣り合う燃料電池セル105同士を直列に接続するものである。
【0045】
リード膜115は、電子伝導性を有すること、及びセルスタック101を構成する他の材料との熱膨張係数が近いことが必要であることから、Ni/YSZ等のNiとジルコニア系電解質材料との複合材で構成されている。このリード膜115は、インターコネクタにより直列に接続される複数の燃料電池セル105で発電された直流電力をセルスタック101の端部付近まで導出すものである。
【0046】
燃料極109、固体電解質111、空気極113、インターコネクタ107およびリード膜115は、それぞれ材料となる粉末から作製したスラリーを適宜基体管103上に成膜し、焼成させることで形成される。
【0047】
図2に、本実施形態に係る燃料電池還元装置の構成を説明する模式図を示す。図3に、燃料電池還元装置の部分縦断面図を示す。
燃料電池還元装置1は、収容室2、燃料極側流体供給経路3、空気極側流体供給経路4、燃料極側流体排出経路5、空気極側流体排出経路6、および支持部を備えている。
【0048】
収容室2は、その内部に、複数のセルスタック101を収容できる。収容室2は、円筒形であることが好ましい。
収容室2は、断熱部材7を有する。断熱部材7は、断熱性を有する材料から形成されている。断熱部材7は、収容室内部を、セルスタック101の燃料電池セル105が配置される還元室8と、セルスタック101の被支持部9が配置される支持室10と、に仕切る。還元室8と支持室10とは、通気可能とされる。セルスタック101の被支持部9とは、セルスタック101の両端部に設けられた非発電部分とされる。
【0049】
燃料極側供給経路3は、収容室2に収容されたセルスタック101の燃料極側に、還元剤を含む第1流体を供給できる。還元剤を含む第1流体は、Hガス、Nガス、水蒸気、または都市ガスの改質ガスなどとされる。還元剤を含む第1流体は、HガスとNガスと水蒸気とを組み合わせたものであってもよい。
【0050】
燃料極側流体排出経路5は、セルスタック101の一端部から燃料極側に供給されて、セルスタック101の他端部側へ流れた第1流体を、収容室2の外部へと排出できる。燃料極側流体排出経路5は、収容室2の下部壁面を貫通している。燃料極側流体排出経路5と下部壁面との界面は、気密にシールされている。
【0051】
空気極側流体供給経路4は、収容室2に収容されたセルスタック101の空気極側に、セルスタック101の空気極側の面に向けて、酸化剤を含む第2流体を供給できる。酸化剤を含む第2流体は、酸化剤を含む流体、または可燃限界濃度以下の可燃性燃料を含む流体が添加された酸化剤を含む流体とされる。
【0052】
空気極側流体供給経路4は、複数の供給口15を有する。供給口15は、セルスタック101の外周面(空気極が設けられている面)に向いて開口している。本実施形態において、供給口15は、収容室2の還元室8にある側壁面に設けられている。供給口15の一部は、支持室10にある側壁面に設けられている。複数の供給口15は、収容室2に収容されたすべてのセルスタック101の燃料電池セル105に対して、偏りなく第2流体を供給できるよう配置されることが好ましい。例えば、供給口は、外径5mm、内径3mm程度の磁製管などとされる。隣り合う供給口の間隔は、200mm以上300mm以下程度とされるとよい。供給口は、円状に配置されることが好ましい。
【0053】
空気極側流体供給経路4には、酸化剤送出部11、燃料添加部12、および予熱部(13,14)が接続されている。燃料添加部12および予熱部(13,14)は、空気極側流体供給経路4の途中、酸化剤送出部11と供給口15との間に接続されている。本実施形態において予熱部(13,14)は、燃料添加部12よりも下流側に接続されている。
【0054】
酸化剤送出部11は、収容室2に向けて酸化剤を含む流体を送り出すことができる。酸化剤送出部11は、コンプレッサーなどとされる。送り出された酸化剤を含む流体は、第2流体のベースとなる。
【0055】
燃料添加部12は、酸化剤送出部11の後段に位置している。燃料添加部12は、収容室2に供給される前の酸化剤を含む流体に、可燃性限界濃度以下の可燃性燃料を含む流体を添加できる。燃料添加部12は、可燃性燃料を含む流体の添加量を調節して、燃料電池セルの温度を制御する制御部(不図示)を備えていることが好ましい。その場合、燃料添加部12は、燃料電池セルの温度を計測する計測手段を備えている。制御部は、計測手段で計測した燃料電池セルの温度に応じて、可燃性燃料を含む流体の添加量を調節できる。
【0056】
予熱部(13,14)は、収容室2に供給される前に、酸化剤を含む第2流体の温度を400℃〜600℃程度に昇温させることができる。予熱部は、電気ヒータ14、および熱交換器13などとされる。予熱部は、電気ヒータ14のみであってもよい。
【0057】
空気極側流体排出経路6は、収容室内に供給された酸化剤を含む第2流体を収容室外へと排出できる。空気極側流体排出経路6は、側面に通気孔16が設けられた管状部材などとされる。図3において、管状部材は、収容室2の下部壁面の中央部を貫通している。管状部材と下部壁面との界面は、気密にシールされている。通気孔16は、還元室8内に配置されている。通気孔16の一部は、支持室10に配置されてもよい。
空気極側流体排出経路6は、熱交換器13を経由させるとよい。
【0058】
支持部は、収容室内において複数のセルスタック101を支持するものである。支持部は、インコネルなどの高温耐久性のある金属材料からなる。
【0059】
各支持部は、複数のセルスタックが、空気極側流体供給経路6の供給口15から供給される第2流体の流れ方向に対して、それぞれ位置をずらして配置されるよう、各セルスタックを支持できる。第2流体の流れ方向とは、供給口15の開口面に対して垂直な方向とする。第2流体の流れ方向に対して位置をずらすとは、第2流体の流れ方向を線で表し、該線上に、2以上のセルスタックの軸点が載らないようにすることを指す。該線は、第2流体の流れうる範囲に延びるものとする。
【0060】
図4を参照して、セルスタックの配置の一態様を説明する。図4は、複数のセルスタック101が収容された収容室2の横断面図である。同図において、収容室2は円筒形とされ、側壁が分割可能な構造とされる。線Aは、分割ラインを示す。収容室2の側壁には、複数の供給口が設けられている(不図示)。収容室内の中央には、空気極側流体排出経路6が配置されている。収容室2の側壁と、空気極側流体排出経路6の管状部材とは、同心となるよう配置されている。
【0061】
セルスタック101は、収容室2と空気極側流体排出経路6との間に、第1円および第2円を描くよう2列に並べられている。第2円は、第1円よりも径が小さい。第1円及び第2円は、収容室と同心とされる。第2円状に並べられるセルスタック101bは、第1円状に並べられたセルスタック101aと半径方向で軸点がずれるように配置されている。
【0062】
支持部は、セルスタック101の一端部を支持する上部支持具と、同セルスタックの他端部を支持する下部支持具とからなる一対の支持具を複数有している。一対の支持具は、一本のセルスタック101を、該セルスタック101の軸方向が収容室2の側壁面と略平行となるよう支持できる。
【0063】
上部支持具は、流体が流通可能な中空構造とされる。上部支持具は、収容室2の上部壁面を貫通している。
【0064】
上部支持具の一端部は、収容室2の外に位置する。上部支持具の一端部は、フランジ構造26などとされ、収容室2の外で燃料極側流体供給経路3に接続されている。上部支持具の他端部は、収容室2の支持室10内に位置する。上部支持具の他端部には、雌型支持部材17が設けられている。雌型支持部材17は、セルスタック101の一端部(被支持部9)に嵌合できる。上部支持具と上部壁面との界面は、気密にシールされている。
【0065】
下部支持具は、流体が流通可能な中空構造とされる。下部支持具は、収容室2の支持室10内に設けられている。下部支持具は、一端部に雌型支持部材18を有する。下部支持具の他端部はフランジ構造19などとされ、燃料極側流体排出経路5に接続されている。雌型支持部材18は、セルスタック101の他端部(被支持部9)に嵌合できる。
【0066】
収容室2の側壁面内側には、電気ヒータ20が設けられていてもよい。該電気ヒータ20は、補助的に収容室内をあたためることができる。
【0067】
なお、本実施形態では、燃料極側流体供給経路4が収容室2の側壁面に、燃料極側流体排出経路5が収容室2の中央部に設けられることとしたが、これらは逆であってもよい。すなわち、燃料極側流体排出経路5が収容室2の側壁面に、燃料極側流体供給経路4が収容室2の中央部に設けられてもよい。
【0068】
次に、本実施形態に係る燃料電池還元方法について、図5を参照して説明する。図5は、本実施形態に係る燃料電池還元方法の工程を説明するタイミングチャートである。同図において、上のグラフが燃料電池セルの温度履歴、下のグラフが可燃性燃料の添加量推移である。
【0069】
本実施形態に係る燃料電池還元方法は、第1昇温工程、第2昇温工程、および還元工程を備えている。
【0070】
まず、収容室に、複数のセルスタックを収容する。その際、燃料電池セルは、収容室の還元室内に配置される。具体的には、セルスタックの一端部に、上部支持具の雌型支持部材を嵌合させる。セルスタックの他端部に、下部支持具の雌型支持部材を嵌合させる。下部支持具を燃料極側流体排出経路に接続する。上部支持具に還元剤供給経路を接続する。
【0071】
(第1昇温工程)
酸化剤を含む流体を400℃〜600℃程度に予熱する。予熱した酸化剤を含む流体を、収容室に収容されたセルスタックの空気極側に供給する。供給流量は、好ましくはセルスタック1本あたりの空気流量として0.2〜0.8Nm/hとされる。
【0072】
酸化剤を含む流体は、酸化剤ガスとされる。酸化剤ガスとは、酸素を略15%〜30%含むガスである。酸化剤ガスとしては、代表的には空気が好適であるが、空気以外にも燃料排ガスと空気の混合ガスや、酸素と空気の混合ガスなどが使用されてもよい。
【0073】
予熱した酸化剤を含む流体を収容室に供給すると、収容室内の温度および燃料電池セルの温度が昇温され、400℃以上となる。
【0074】
(第2昇温工程)
燃料電池セルの温度が400℃に達したところで、可燃性燃料を含む流体の添加を開始する。可燃性燃料を含む流体は、可燃限界濃度以下の量で酸化剤を含む流体に添加される。第2昇温工程では、可燃性燃料を含む流体の添加量は、可燃限界濃度とされることが好ましい。可燃性燃料を含む流体は、都市ガスなどのメタンを主成分とするガス、および水素ガスなどを使用できる。該可燃性燃料の可燃限界濃度は3体積%である。
【0075】
セルスタックの空気極側に、可燃限界濃度以下の可燃性燃料を含む流体が添加された酸化剤を含む流体を、セルスタックの空気極側の面に向けて供給する。供給流量は、好ましくはセルスタック1本あたりの空気流量として0.2〜0.8Nm/hとされる。
【0076】
燃料電池セル温度が400℃以上になると、空気極に含まれる酸化触媒が作用し、供給された可燃性燃料の触媒燃焼が開始される。触媒燃焼によって熱が生じ、燃料電池セルの温度は、さらに上昇する。
【0077】
(還元工程)
第2昇温工程の後、燃料電池セルの温度が700℃に達したとき、収容室に収容されたセルスタックの燃料極側への還元剤を含む流体の供給を開始する。還元剤を含む流体の供給流量は、セルスタック1本あたり0.5〜1.5Nm/hとされる。
【0078】
図6に、NiOの還元工程を説明する模式図を示す。同図において(a)が還元前、(b)が還元初期、(c)が還元後のイメージである。燃料電池セルの材料に含まれていたNiは、還元前、NiOとして燃料電池セルに存在している。セルスタックの燃料極側に還元剤を含む流体を供給すると、NiOと還元剤とが反応し、NiOは表層(外側)から還元されていく(b)。還元反応に伴い生じる熱により燃料電池セルの温度は上昇する。還元初期には、NiO表層のNiを通じて短絡電流((b)中横向き黒矢印)が発生する。その際に、熱が生じ、燃料電池セルの温度を昇温させる。そのため還元反応の初期において、燃料電池セルでの発熱量は大きい。還元工程完了時には、略すべてのNiOがNiに還元されている。
【0079】
本実施形態に係る燃料電池還元方法は、温度制御工程を備えていることが好ましい。
温度制御工程は、可燃性燃料を含む流体の添加量を調節して、燃料電池セルの温度を制御する。温度制御工程は、第1制御工程、第2制御工程、第3制御工程を備えている。
【0080】
温度制御工程中は、燃料電池セルの温度を計測し、該計測した温度に応じて可燃性燃料を含む流体の添加量を調節するとよい。燃料電池セルの温度は、熱電対などで空気極の表面温度を測定した温度とする。代替的に、還元室内の空気温度を計測しても良い。
【0081】
第1制御工程は、第2昇温工程と並行して行われる。すなわち、燃料電池セルの温度が700℃に達するまで、酸化剤を含む流体に、可燃限界濃度の可燃性燃料を含む流体が添加し続ける。それにより、燃料電池セルの昇温時間を短くすることができる。
【0082】
第2制御工程は、還元工程初期に行われる。セルスタックは、基体管の耐熱温度などの制限により、900℃を超えない温度で還元処理することが好ましい。還元初期では、還元反応による発熱と、短絡電流の発生による発熱があるため、燃料電池セルでの発熱量は大きくなる。そこで、可燃性燃料を含む流体の添加量を減らし、燃料電池セルの温度が900℃を超えないように制御する。酸化剤を含む流体への可燃性燃料の添加量を3体積%から1体積%程度に徐々に減少させる。
【0083】
NiOの還元が進むと、短絡電流の発生が収まるため、発熱量が減少し、燃料電池セルの温度が低下し始める。燃料電池セルの温度が低くなりすぎると、還元反応が遅延するため、第3制御工程は、燃料電池セルの温度が下がり始めたところで行う。第3制御工程では、燃料電池セルの温度が700℃以上900℃以下を維持するよう可燃性燃料を含む流体の添加量を適宜調節する。可燃性燃料を含む流体の添加量は、酸化剤を含む流体に対して1体積%から適宜増加させるとよい。
【符号の説明】
【0084】
1 燃料電池還元装置
2 収容室
3 燃料極側流体供給経路
4 空気極側流体供給経路
5 燃料極側流体排出経路
6 空気極側流体排出経路
7 断熱部材
8 還元室
9 被支持部(非発電部)
10 支持室
11 酸化剤送出部
12 燃料添加部
13 予熱器(熱交換器)
14 予熱器(電気ヒータ)
15 供給口
16 通気孔
17 雌型支持部材(上部支持具の他端部、支持部)
18 雌型支持部材(下部支持具、支持部)
19 フランジ構造(下部支持具、支持部)
20 電気ヒータ(補助)
26 フランジ構造(上部支持具の一端部、支持部)
101,101a,101b セルスタック
103 基体管
105 燃料電池セル
107 インターコネクタ
109 燃料極
111 固体電解質
113 空気極
図1
図2
図3
図4
図5
図6