特許第6189191号(P6189191)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189191
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】表面形状測定装置および工作機械
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/24 20060101AFI20170821BHJP
   B23Q 17/20 20060101ALI20170821BHJP
   B23Q 17/24 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   G01B11/24 A
   B23Q17/20 A
   B23Q17/24 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-241020(P2013-241020)
(22)【出願日】2013年11月21日
(65)【公開番号】特開2015-102339(P2015-102339A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000146847
【氏名又は名称】DMG森精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 静雄
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 豊
【審査官】 越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−298006(JP,A)
【文献】 特開平07−023926(JP,A)
【文献】 特開平07−294282(JP,A)
【文献】 特開2008−116214(JP,A)
【文献】 特開2009−135757(JP,A)
【文献】 特開2012−042251(JP,A)
【文献】 特開2012−155095(JP,A)
【文献】 特開2013−134473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/24
B23Q 17/20
B23Q 17/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の表面にレーザ光を照射し、前記レーザ光の反射光に基づいて前記レーザ光の照射位置における前記測定対象物の表面の高さ方向の変位を測定する変位センサと、
前記測定対象物の表面形状データに対してデータ処理を行うデータ処理部とを備え、
前記表面形状データは、前記変位センサと前記測定対象物との相対的位置関係が連続的に変化したときに得られる、前記レーザ光の走査方向に沿った各測定点における前記高さ方向の変位のデータであり、
前記データ処理部は、
前記表面形状データに対して所定の第1の移動平均区間を用いて移動平均処理を行うことによって、前記走査方向に沿った測定点ごとに移動平均値を求める移動平均処理部と、
前記移動平均値が求められた測定点ごとに、移動平均値の算出に使用した変位データのばらつきの程度を示す指標値を算出する指標値算出部と、
算出した各前記指標値が閾値を超えているか否かを判定し、前記指標値が前記閾値を超えている測定点を特異点として特定する特異点判定部と、
前記特異点判定部によって特定された各前記特異点の近傍で前記測定対象物の表面形状が変化しているか否かを判定し、表面形状が変化している特異点を形状変化点として特定する形状変化判定部と、
前記移動平均処理を行った後の表面形状データについて各前記特異点における移動平均値のデータを修正するデータ修正部とを含み、
前記データ修正部は、
前記形状変化判定部によって特定された各前記形状変化点において、前記第1の移動平均区間より狭い第2の移動平均区間を用いることによって新たな移動平均値を算出し、
前記特異点であるが前記形状変化点でないと判定された各測定点については、当該測定点における移動平均値を取り除き、
前記特異点かつ前記形状変化点であると判定された各測定点については、当該測定点における移動平均値を前記新たな移動平均値に置換するように構成される、表面形状測定装置。
【請求項2】
前記第1の移動平均区間の長さは、前記測定対象物の表面に照射される前記レーザ光のビーム径に実質的に等しい、請求項1に記載の表面形状測定装置。
【請求項3】
前記閾値は、前記指標値算出部によって算出された複数の前記指標値のうちの少なくとも一部の平均値に等しい、請求項1または2に記載の表面形状測定装置。
【請求項4】
前記閾値は、前記指標値算出部によって算出された複数の前記指標値のうちの少なくとも一部を大きさの順に並べたときの所定の順番の値に等しい、請求項1または2に記載の表面形状測定装置。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の表面形状測定装置を備えた工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ変位センサを用いて表面形状を測定する表面形状測定装置、および表面形状測定装置を備えた工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ変位センサは、通常、三角測量法を用いて測定対象物までの距離を測定する。測定対象物の表面の2次元形状は、測定対象物の表面上でレーザ光の照射位置を走査することによって得られる。レーザ変位センサによって測定された2次元形状データには、表面のランダムな凹凸に起因したノイズが含まれることが知られている。
【0003】
このようなノイズを除去するために、たとえば、特開2004−12430号公報(特許文献1)に記載される測定装置は、測定対象点を含む所定領域内の所定経路に沿ってレーザ光を照射し、所定経路上の複数の個所で測定された変位量の平均値を算出し、該平均値を測定対象点の変位量とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−12430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
極めて平坦な表面を有すると考えられるブロックゲージ(等級の劣るものでもその表面粗さは±0.2μm以内である)の表面形状をレーザ変位センサで測定した場合でも、測定データには±20μm程度のランダムなノイズが含まれる。ただし、この程度のノイズであれば、上記の特許文献のように測定データの移動平均値を算出することによって実用上問題のないレベルにまでノイズを低減することができる。
【0006】
ところが、レーザ変位センサによる測定データには、しばしば100μm程度の大きさのインパルス的なノイズが含まれることがある。このようなインパルス的なノイズはブロックゲージの表面形状をレーザ変位センサで測定した場合においても検出される。インパルス的なノイズは、測定データを単に平均化するだけでは除去することができないため、表面に突起または窪みがあると誤認識することになる。
【0007】
この発明は、上記の問題点を考慮してなされたものであり、その主たる目的は、レーザ変位センサを用いて測定対象物の表面形状を従来よりも高精度に測定可能な表面形状測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は一局面において表面形状測定装置であって、変位センサとデータ処理部とを備える。変位センサは、測定対象物の表面にレーザ光を照射し、レーザ光の反射光に基づいてレーザ光の照射位置における測定対象物の表面の高さ方向の変位を測定する。データ処理部は、測定対象物の表面形状データに対してデータ処理を行う。上記の表面形状データは、変位センサと測定対象物との相対的位置関係が連続的に変化したときに得られる、レーザ光の走査方向に沿った各測定点における高さ方向の変位のデータである。データ処理部は、移動平均処理部と、指標値算出部と、特異点判定部と、データ修正部とを含む。移動平均処理部は、表面形状データに対して所定の第1の移動平均区間を用いて移動平均処理を行うことによって、走査方向に沿った少なくとも一部の測定点ごとに移動平均値を求める。指標値算出部は、移動平均値が求められた測定点ごとに、移動平均値の算出に使用した変位データのばらつきの程度を示す指標値を算出する。特異点判定部は、算出した各指標値が閾値を超えているか否かを判定し、指標値が閾値を超えている測定点を特異点として特定する。データ修正部は、特異点判定部の判定結果に基づいて、移動平均処理部によって求められた移動平均値のデータを修正する。
【0009】
上記構成によれば、表面形状データの移動平均処理を行う際に、各移動平均値の算出に用いられた変位データのばらつきの程度を示す指標値(たとえば、標準偏差)を算出し、算出した指標値が閾値を超える測定点が特異点として特定される。そして、この特異点の情報に基づいて、移動平均値のデータ(すなわち、移動平均処理後の表面形状データ)が修正されるので、従来よりもノイズの影響を抑制して精度良く測定対象物の表面形状を測定することができる。
【0010】
ここで、測定対象物の表面に照射されるレーザ光のビーム径の範囲内において、上記の閾値を超える変位データの変化が生じているので、上記の第1の移動平均区間の長さは測定対象物の表面に照射されるレーザ光のビーム径に実質的に等しい値に設定するのが望ましい。
【0011】
好ましい一実施の形態によれば、データ修正部は、各特異点における移動平均値を取り除くことによって、移動平均処理部によって求められた移動平均値のデータを修正する。
【0012】
好ましくは、上記の閾値は、指標値算出部によって算出された複数の指標値のうちの少なくとも一部の平均値に等しい。もしくは、上記の閾値は、指標値算出部によって算出された複数の指標値のうちの少なくとも一部を大きさの順に並べたときの所定の順番の値に等しい。
【0013】
好ましい他の実施の形態によれば、データ処理部は、さらに、特異点判定部によって特定された各特異点の近傍で測定対象物の表面形状が変化しているか否かを判定し、表面形状が変化している特異点を形状変化点として特定する形状変化判定部を含む。この場合、データ修正部は、特異点判定部および形状変化判定部の判定結果に基づいて、移動平均処理部によって求められた移動平均値のデータを修正する。
【0014】
上記構成によれば、表面形状の変化に起因して指標値が閾値を超えている場合を、ノイズによって指標値が閾値を超えている場合と区別できるので、より正確に表面形状を測定することができる。
【0015】
上記の他の実施の形態において、データ修正部は、形状変化判定部によって特定された各形状変化点において、第1の移動平均区間より狭い第2の移動平均区間を用いることによって新たな移動平均値を算出する。この場合、データ修正部は、各特異点における移動平均値を取り除くとともに、各形状変化点において算出された上記の新たな移動平均値を付け加えることによって、移動平均処理部によって求められた移動平均値のデータを修正するように構成してもよい。
【0016】
上記の他の実施の形態において、データ修正部は、各特異点における移動平均値を取り除くとともに、各形状変化点における表面形状データを付け加えることによって、移動平均処理部によって求められた移動平均値のデータを修正するようにしてもよい。
【0017】
この発明は他の局面において、上記の表面形状測定装置を備えた工作機械である。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、レーザ変位センサを用いて測定対象物の表面形状を従来よりも高精度に測定可能な表面形状測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態1による表面形状測定装置40Aが設けられた工作機械10の構成を模式的に示す斜視図である。
図2図1の表面形状測定装置40Aの機能的構成を示すブロック図である。
図3】測定ヘッド42に設けられたレーザ変位センサの原理について説明するための図である。
図4図3の受光素子76によって検出されたデータの一例を模式的に示す図である。
図5】測定ヘッド42に設けられたレーザ変位センサによって検出される表面形状データの一例を示す図である。
図6図2のデータ処理部52によるデータ処理の手順を示すフローチャートである。
図7図2のデータ修正部60による修正後の移動平均データを示す図である。
図8】実施の形態2による表面形状測定装置40Bの機能的構成を示すブロック図である。
図9】インパルス的なノイズがある場合の表面形状データ、その移動平均データ、および標準偏差の計算結果の一例を模式的に示す図である。
図10】測定対象物の表面に段差がある場合の表面形状データ、その移動平均データ、および標準偏差の計算結果の一例を模式的に示す図である。
図11】実施の形態2の場合の移動平均データの修正手順を示すフローチャートである。
図12図10に示す表面形状データにおいて、移動平均区間を狭めた場合の移動平均データの一例を示す図である。
図13】表面形状が変化しているか否かを判定する手順の他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、各実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。以下の各実施の形態では、工作機械が立形マシンニングセンタである場合について説明しているが、工作機械は、横形マシニングセンタまたは旋盤など、他の種類のものであっても構わない。なお、以下の説明において、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない場合がある。
【0021】
<実施の形態1>
[工作機械および表面形状測定装置の構成]
図1は、実施の形態1による表面形状測定装置40Aが設けられた工作機械10の構成を模式的に示す斜視図である。図1には、工作機械10および表面形状測定装置40Aに加えて、NC(Numerical Control)装置24およびATC(自動工具交換装置:Automatic Tool Changer)28が示されている。
【0022】
図1を参照して、工作機械10は、ベッド12と、ベッド12上に設置されたコラム14と、主軸22を有する主軸頭20と、テーブル18を有するサドル16とを含む。
【0023】
主軸頭20は、コラム14の前面に支持されて、上下方向(Z軸方向)に移動可能である。主軸22の先端には、工具(図示せず)または測定ヘッド42が着脱可能に装着される。主軸22は、その中心軸線(図2のCL)がZ軸と平行で且つその中心軸線まわりに回転可能に、主軸頭20に支持されている。
【0024】
サドル16は、ベッド12上に配置されて前後の水平方向(Y軸方向)に移動可能である。サドル16上にはテーブル18が配置されている。テーブル18は、左右の水平方向(X軸方向)に移動可能である。テーブル18上には工作物2が載置されている。
【0025】
互いに直交するX軸、Y軸およびZ軸により直交3軸が構成される。工作機械10は、測定ヘッド42と工作物2とを相対的にX軸、Y軸、Z軸の直交3軸方向に直線移動させる3軸制御を行うマシニングセンタである。なお、図1の構成と異なり、工作機械10は、測定ヘッド42を支持する主軸頭20を、工作物2に対してX軸、Y軸方向にそれぞれ移動させる構成であってもよい。
【0026】
NC装置24は、上記の3軸制御を含めて工作機械10全体の動作を制御する。ATC(自動工具交換装置)28は、主軸22に対して工具と測定ヘッド42をそれぞれ自動的に交換する。ATC28は、NC装置24によって制御される。
【0027】
図2は、図1の表面形状測定装置40Aの機能的構成を示すブロック図である。図2には、工作機械10、NC装置24、ATC28、ならびに工作機械10に備えられているZ軸送り機構34、Y軸送り機構32およびX軸送り機構30も示されている。
【0028】
図2を参照して、Z軸送り機構34は、コラム14に支持されている主軸頭20を駆動してZ軸方向に移動させる。Y軸送り機構32は、ベッド12上に配置されているサドル16を駆動してY軸方向に移動させる。X軸送り機構30は、サドル16上に載置されて工作物2を支持するテーブル18を駆動してX軸方向に移動させる。NC装置24に設けられたPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ:Programmable Logic Controller)26は、Z軸送り機構34、Y軸送り機構32およびX軸送り機構30をそれぞれ制御する。
【0029】
表面形状測定装置40Aは、工作機械10の主軸22に着脱可能に装着される測定ヘッド42と、測定制御部44とを含む。測定ヘッド42は、レーザ変位センサを含む。レーザ変位センサは、工作物2の表面にレーザ光Lを照射し、レーザ光Lの反射光に基づいてレーザ光Lの照射位置における工作物2の高さ方向(Z軸方向)の変位を測定する。
【0030】
測定制御部44は、コンピュータをベースに構成され、プロセッサ46、メモリ48、NC装置24との間の入出力インターフェース(図示せず)、および測定ヘッド42との間で無線通信を行う通信装置50等を含む。測定制御部44は、NC装置24のPLC26と連携することによって、測定ヘッド42と工作物2との相対的位置関係を連続的に変化させ、この結果得られるレーザ光Lの走査方向の複数の測定点における高さ方向(Z軸方向)の変位データを工作物2の表面形状データとして取得する。具体的な手順は以下のとおりである。
【0031】
まず、測定制御部44のプロセッサ46からの制御に基づいて、PLC26は、X軸送り機構30およびY軸送り機構32のいずれか一方、もしくはX軸送り機構30、Y軸送り機構32、およびZ軸送り機構34のうちの少なくとも2軸を駆動することによって、測定ヘッド42と工作物2との相対的位置関係を連続的に変化させる。
【0032】
PLC26は、上記の送り機構の駆動とともに、所定周期でトリガ信号を通信装置50に出力する。通信装置50はトリガ信号を受信すると測定指令fを測定ヘッド42に送信し、測定ヘッド42は測定指令fに従って測定ヘッド42から工作物2までの距離D(すなわち、工作物2の表面の変位)を測定する。測定された距離DのデータFは、測定ヘッド42から通信装置50を介して測定制御部44のプロセッサ46に送信される。
【0033】
PLC26は、さらに、上記の測定ヘッド42による距離測定のタイミングに合わせて、X軸送り機構30、Y軸送り機構32、およびZ軸送り機構34の位置情報を取得することによって、測定ヘッド42の位置のデータを検出する。PLC26は、検出した測定ヘッド42の位置のデータを測定制御部44のプロセッサ46に送信する。
【0034】
プロセッサ46は、PLC26から取得した測定ヘッド42の位置データと、測定ヘッド42から取得した距離DのデータFとに基づいて、レーザ光Lの走査方向に沿った各測定点における高さ方向(Z軸方向)の変位データを表面形状データ62として、メモリ48に記憶させる。
【0035】
測定制御部44は、さらに、上記の表面形状データ62に含まれるノイズを除去するためのデータ処理を行うデータ処理部52として機能する。データ処理部52の機能は、データ処理プログラムがプロセッサ46で実行されることによって実現される。図2に示すように、データ処理部52は、移動平均処理部54と、標準偏差算出部56と、特異点判定部58と、データ修正部60とを含む。これらの各要素の機能については、図6および図7を参照して後述する。
【0036】
[レーザ変位センサの原理および表面形状データの測定例]
図3は、測定ヘッド42に設けられたレーザ変位センサの原理について説明するための図である。レーザ変位センサ70は、いわゆる三角測量によって測定対象物80(80A,80B,80C)までの距離を検出する。
【0037】
図3を参照して、レーザ変位センサ70は、レーザ光を測定対象物に照射するためのレーザ素子72と、測定対象物80(80A,80B,80C)からの散乱光を集光するレンズ74と、集光された光スポットの位置DP1,DP2,DP3を検出する受光素子76とを含む。検出された光スポットの位置DP1,DP2,DP3に基づいて、レーザ変位センサ70から測定対象物80までの距離が算出できる。
【0038】
図4は、図3の受光素子76によって検出されたデータの一例を模式的に示す図である。図3および図4を参照して、図3に示す測定対象物80の位置80A,80B,80Cにそれぞれ対応して、図4に示す検出データ82A,82B,82Cのプロファイルが得られる。レンズ74によって集光された光スポットの位置DP1,DP2,DP3は、それぞれ検出データ82A,82B,82Cのピーク位置または重心の位置として与えられる。
【0039】
ここで、問題となるのは、測定対象物の表面のランダムな凹凸に起因して、検出データ82A,82B,82Cのピーク位置または重心位置がランダムに変化する点である。この結果、レーザ変位センサ70から測定対象物80までの距離データ(すなわち、測定対象物80の高さ方向の変位)は、レーザ光の照射位置に応じてランダムに変化する。
【0040】
図5は、測定ヘッド42に設けられたレーザ変位センサによって検出される表面形状データの一例を示す図である。図5の上側のグラフは表面形状データの一例を表わし、図5の下側のグラフは表面形状データに移動平均を施したものである。移動平均区間は200μmに設定している。
【0041】
図5に示すように、全体的に±20μm程度のノイズ(測定対象物の表面の実際凹凸よりも遥かに大きい)が観察されるとともに、ところどころに(走査位置19mm付近と25.5mm付近)それよりもさらに大きいインパルス的なノイズが観察される。このようなインパルス的なノイズは、移動平均を行っても除去できないために、突起または窪みがあると誤認識することになる。
【0042】
実施の形態1による表面形状測定装置40Aは、上記の問題点を考慮して、上記のインパルス的なノイズを除去するためのデータ処理を行う。
【0043】
[データ処理(ノイズ除去)の手順]
図6は、図2のデータ処理部52によるデータ処理の手順を示すフローチャートである。以下、図2および図6を参照して、図2のデータ処理部52の各要素の機能について説明する。
【0044】
データ処理部52は、まず、メモリ48に記憶されている表面形状データ62を読み出す(ステップS100)。データ処理部52の移動平均処理部54は、表面形状データ62に対して所定の移動平均区間を用いて移動平均処理を行うことによって、レーザ光の走査方向に沿った少なくとも一部の測定点ごとに移動平均値を求める(ステップS105)。
【0045】
通常、測定対象物(工作物2)の表面に照射されるレーザ光のビーム径(直径)の範囲内で上記のインパルス的な変位が観察されるので、上記の移動平均区間は、レーザ光のビーム径に実質的に等しく設定するのが望ましい。
【0046】
なお、レーザ光のビーム径には種々の定義がある。たとえば、TEM00モードのように対称なビームプロファイルのレーザ光の場合には、光軸に直交する面において、ピーク値に対してeの2乗分の1(ただし、eは自然対数の底)(13.5%)の強度分布の幅でビーム径が定義される。ビームプロファイルが崩れている場合には、たとえば、ビームの全パワーのうち、ピークパワーを基準として86.5%が含まれる円を算出し、この円の直径がビーム径として定義される。そこで、この明細書では、全パワーの50%が含まれる円の直径より大きく、全パワーの95%が含まれる円の直径よりも小さい範囲を実質的にビーム径に等しいとする。
【0047】
上記の移動平均値の算出に付随して、データ処理部52の標準偏差算出部56は、移動平均値が求められた測定点ごとに、移動平均値の算出に使用した変位データの標準偏差を算出する(ステップS110)。標準偏差は、変位データのばらつきの程度を示す指標値として用いられており、標準偏差に代えて、分散、平均絶対偏差、四分位範囲など、ばらつきの尺度となる他の統計量を用いていてもよい。
【0048】
次に、データ処理部52の特異点判定部58は、算出した標準偏差が閾値TH1を超えているか否かを判定し(ステップS115)、ある測定点に対応する標準偏差が閾値TH1を超えている場合に(ステップS115でYES)、当該測定点を特異点として特定する(ステップS120)。特異点か否かの判定は、移動平均値を求めた各測定点について(ステップS125でNOとなるまで)実行される。
【0049】
なお、特異点の判定に用いられる上記の閾値TH1は、標準偏差算出部56によって算出された複数の標準偏差のうちの少なくとも一部の平均値に設定してもよい。もしくは、上記の閾値TH1は、算出された複数の標準偏差のうちの少なくとも一部を大きさの順に並べたときの所定の順番の値(たとえば、中央値)に設定してもよい。
【0050】
次に、データ処理部52のデータ修正部60は、特異点判定部58の判定結果に基づいて、移動平均処理部54によって求められた複数の移動平均値のデータ(移動平均データと称する)を修正する。具体的には、各特異点における移動平均値を移動平均データから取り除くことによって、移動平均処理部54によって求められた移動平均データ(すなわち、移動平均処理後の表面形状データ)を修正する。
【0051】
図7は、図2のデータ修正部60による修正後の移動平均データを示す図である。図7のグラフは上から順に、表面形状データ(生データ)、データ修正部60による修正後の移動平均データ、および各測定点に対して算出された標準偏差の値を示す。特異点判定のための閾値は、図7の全測定点にそれぞれ対応して算出された標準偏差の中央値に設定している。したがって、修正後の移動平均データでは、標準偏差が中央値を超える測定点が除外されている。除外された測定点に対応する値は、適当な方法(たとえば、線形補間、n次補間、多項式補間など)で補間することができる。
【0052】
[実施の形態1の効果]
実施の形態1の表面形状測定装置40Aによれば、表面形状データ62の移動平均処理を行う際に、各移動平均値の算出に用いられた変位データの標準偏差を算出し、算出した標準偏差が閾値を超える測定点が特異点として特定される。そして、この特異点の情報に基づいて、移動平均処理後の表面形状データが修正されるので、従来よりもノイズの影響を抑制して高精度に表面形状を測定することができる。
【0053】
<実施の形態2>
実施の形態2では、測定対象物(工作物2)の表面形状が変化している場合について説明する。表面形状が実際に変化している場合も各測定点に対応する標準偏差の値が閾値を超えることになるので、インパルス的なノイズによって標準偏差が閾値を超えている場合と区別する必要がある。以下、図面を参照して具体的に説明する。
【0054】
[表面形状測定装置の構成]
図8は、実施の形態2による表面形状測定装置40Bの機能的構成を示すブロック図である。図8を参照して、表面形状測定装置40Bは、データ処理部52が形状変化判定部64をさらに含む点で、図2の表面形状測定装置40Aと異なる。形状変化判定部64は、特異点判定部58によって特定された各特異点の近傍で測定対象物の表面形状が変化しているか否かを判定し、表面形状が変化している特異点を形状変化点として特定する。データ修正部60は、特異点判定部58および形状変化判定部64の判定結果に基づいて、移動平均処理部54によって求められた移動平均値のデータを修正する。図8のその他の点は図2の場合と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
【0055】
[形状変化の具体例]
図9は、インパルス的なノイズがある場合の表面形状データ、その移動平均データ、および標準偏差の計算結果の一例を模式的に示す図である。図9では、レーザ変位センサで測定した表面形状データ(生データ)90を実線で示し、移動平均データ92を破線で示し、各測定点の移動平均値の計算に用いた表面形状データの標準偏差94を点線で示している。図9では、移動平均区間を200μmとして移動平均処理を行っている。
【0056】
図9に示すように、走査位置400μm付近にインパルス的なノイズがあるために、その近傍で標準偏差94が増大している。たとえば、特異点か否かを判定するための閾値を13μmとすれば、走査位置250μmから540μmまでの間の測定点が特異点と判定され、この区間の移動平均値のデータが除去されることになる。
【0057】
図10は、測定対象物の表面に段差がある場合の表面形状データ、その移動平均データ、および標準偏差の計算結果の一例を模式的に示す図である。図10では、図9の場合と同様に、レーザ変位センサで測定した表面形状データ(生データ)90を実線で示し、移動平均データ92を破線で示し、各測定点の移動平均値の計算に用いた表面形状データの標準偏差94を点線で示している。移動平均区間の長さは200μmである。
【0058】
図10に示すように、走査位置400μm付近に段差があるために、その近傍で標準偏差94が増大している。たとえば、特異点か否かを判定するための閾値を13μmとすれば、走査位置300μmから500μmまでの間の測定点が特異点と判定され、実施の形態1の場合には、この間の移動平均値のデータが除去されることになる。このため、表面形状の変化(段差)が移動平均データに正確に反映されなくなってしまう。実施の形態2の表面形状測定装置40Bでは、上記の問題点を考慮して、データ修正部60で実行される処理内容(図6のステップS130)が変更される。
【0059】
[移動平均データの修正手順]
図11は、実施の形態2の場合の移動平均データの修正手順を示すフローチャートである。図11の処理手順は、図6のステップS130を置換したものである。図6のステップS100からS125までは実施の形態2の場合も変更がない。すなわち、図11に示す処理が開始される時点で、走査方向に沿う各測定点が特異点か否かの判定が完了している。
【0060】
図8図11を参照して、データ処理部52の形状変化判定部64は、各特異点の近傍で表面形状が変化しているか否かを判定する(ステップS200)。
【0061】
実際に表面形状が変化しているか否かを判定する方法は、種々考えられる。たとえば、形状変化判定部64は、特異点に対して走査方向前方の測定点と走査方向後方の測定点との両方で測定された表面形状データを比較し、表面形状データが閾値を超えて変化している場合に実際に表面形状が変化していると判定する。
【0062】
形状変化判定部64は、ある特異点の近傍で表面形状が変化していると判定した場合に、当該特異点を形状変化点として特定する(ステップS205)。形状変化点か否かの判定は、図6のステップS120で特異点と判定された各測定点について(ステップS210でNOとなるまで)実行される。
【0063】
次に、データ処理部52のデータ修正部60は、ステップS205で特定された各形状変化点について、移動平均区間を狭めて再度、移動平均値を算出する(ステップS215)。移動平均区間を狭めるにつれて、移動平均データは、表面形状データ(生データ)に近付くようになる。
【0064】
次に、データ修正部60は、図6のステップS120で特異点と判定された各測定点に対応する移動平均値を移動平均データから除去するとともに、ステップS205で形状変化点と判定された各測定点に対してステップS215で新たに算出された移動平均値を移動平均データに追加する(ステップS220)。これによって、ノイズの影響をできるだけ抑制するとともに、測定対象物(工作物2)の表面の形状変化をより忠実に反映した移動平均データを得ることができる。
【0065】
なお、上記のステップS220では、ステップS205で形状変化点と判定された各測定点に対して、表面形状データ(生データ)を追加することも可能である。これによって、測定対象物(工作物2)の表面の実際の形状変化をさらに忠実に反映した移動平均データを得ることができるが、形状変化点の近傍のノイズが除去されずに残ることになる。
【0066】
図12は、図10に示す表面形状データにおいて、移動平均区間を狭めた場合の移動平均データの一例を示す図である。図12では、図10の場合と同様に、レーザ変位センサで測定した表面形状データ(生データ)90を実線で示し、移動平均データ92を破線で示している。図12では、移動平均区間を100μm(図10の場合の半分の値)として移動平均処理を行った場合の結果が示されている。
【0067】
図10および図12を参照して、図10の移動平均データ92に比べて、移動平均区間をより狭めた図12の移動平均データ92のほうが段差の傾斜が急になっており、実際の表面形状データ90の形状変化に近いことがわかる。
【0068】
図11の修正手順に従って図10に示された移動平均データ92を修正する場合には、図10の移動平均データ92のうち標準偏差が閾値(13μm)を超えている区間(走査位置300μmから500μmまで)の各測定点が、特異点かつ形状変化点として特定される。そして、図10のこの区間の移動平均データ92が、図12の移動平均データ92に置き換えられることになる。
【0069】
[表面形状変化の判定法]
図13は、表面形状が変化しているか否かを判定する手順の他の例を示すフローチャートである。図13のフローチャートは、図11のステップS200およびS205に対応するものであり、移動平均データと標準偏差とを用いて表面形状が変化しているか否かを判定する手順を示している。
【0070】
図8および図13を参照して、形状変化判定部64は、図6のステップS120で特定された各特異点について以下のステップを実行する。まず、形状変化判定部64は、当該特異点の近傍の第1測定点および第2の測定点を特定する(ステップS300,S305)。ここで、第1測定点は、当該特異点の走査方向前方の測定点のうちで、標準偏差が閾値以下でありかつ当該特異点に最も近いものである。第2測定点は、当該特異点の走査方向後方の測定点のうちで、標準偏差が閾値以下でありかつ当該特異点に最も近いものである。
【0071】
次に、形状変化判定部64は、特定した第1測定点と第2測定点とで移動平均値の差が閾値TH2を超えているか否かを判定する(ステップS310)。閾値TH2は、実際の加工精度を考慮して決定される。形状変化判定部64は、第1測定点での移動平均値と第2測定点での移動平均値との差の絶対値が閾値TH2を超えている場合に(ステップS310でYES)、当該特異点の近傍で測定対象物(工作物2)の表面形状が変化しており、当該特異点は形状変化点であると判定する(ステップS315)。
【0072】
[実施の形態2の効果]
実施の形態2の表面形状測定装置40Bによれば、測定対象物(工作物2)の表面形状が変化しているか否かを判定する形状変化判定部64がさらに設けられる。形状変化判定部64は、特異点判定部58によって判定された各特異点のうち、表面形状が変化しているために標準偏差が閾値を超えている特異点を形状変化点として特定し、ノイズに起因した特異点と区別する。データ修正部60は、ノイズに起因した特異点での移動平均値を除去するが、形状変化点については元の移動平均値を表面形状の変化をより忠実に反映した値(たとえば、移動平均区間を狭めて再計算した移動平均値)に置き換える。これによって、ノイズの影響を抑制するともに表面形状の測定精度をさらに向上させた表面形状測定装置40Bを提供することができる。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0074】
2 工作物、10 工作機械、12 ベッド、14 コラム、16 サドル、18 テーブル、20 主軸頭、22 主軸、24 NC装置、30 X軸送り機構、32 Y軸送り機構、34 Z軸送り機構、40A,40B 表面形状測定装置、42 測定ヘッド、44 測定制御部、46 プロセッサ、48 メモリ、50 通信装置、52 データ処理部、54 移動平均処理部、56 標準偏差算出部、58 特異点判定部、60 データ修正部、64 形状変化判定部、70 レーザ変位センサ。
図1
図2
図3
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図5
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図7
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図10
図11
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図13