(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189214
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】薄ストラット厚および可変ストラット形状を有するステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/915 20130101AFI20170821BHJP
【FI】
A61F2/915
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-527740(P2013-527740)
(86)(22)【出願日】2011年9月12日
(65)【公表番号】特表2013-539661(P2013-539661A)
(43)【公表日】2013年10月28日
(86)【国際出願番号】IN2011000622
(87)【国際公開番号】WO2012035550
(87)【国際公開日】20120322
【審査請求日】2014年9月11日
(31)【優先権主張番号】2523/MUM/2010
(32)【優先日】2010年9月13日
(33)【優先権主張国】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】513026388
【氏名又は名称】メリル ライフ サイエンシズ ピーブィティ.エルティディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヴィヤス,ラジュイカント ガンダラル
(72)【発明者】
【氏名】サコル,ウトパル デヴェンドラ
【審査官】
落合 弘之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−177400(JP,A)
【文献】
特表2008−523955(JP,A)
【文献】
特開2008−193(JP,A)
【文献】
米国特許第6896697(US,B1)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0105809(US,A1)
【文献】
国際公開第02/051335(WO,A1)
【文献】
国際公開第99/17680(WO,A1)
【文献】
国際公開第03/105695(WO,A2)
【文献】
特開2005−192933(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/82− 2/958,
A61M 25/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動脈などの身体内腔に埋め込むための薄く均一なストラット厚を有するバルーン拡張式金属ステントであって、
当該ステント(3)は円筒状の本体を有し、この本体は、中央部(8)と、その中央部(8)に対して本体の軸方向に隣接配置された少なくとも1つの端部(6,7)とを有しており、
当該ステント(3)は、リングを形成する円筒状素子の複数列を備えており、その複数列の円筒状素子は前記本体の軸方向に沿って配列されており、前記円筒状素子の各々は、山と谷とを有する正弦波型素子(9’,9”,12’,12”)の複数個を周方向に連結することで不規則的な曲線湾曲状をなすように構成されており、
前記少なくとも1つの端部(6,7)は、当該端部用の正弦波型素子(9’,9”)で構成された円筒状素子の複数列を備えると共に、
前記少なくとも1つの端部(6,7)は複数の閉鎖セル(9)を備え、これらの閉鎖セル(9)は、隣り合う二列の円筒状素子のうちの一方の正弦波型素子の谷と、隣り合う二列の円筒状素子のうちの他方の正弦波型素子の山とを接続リンクなしに接続することで形成されており、
前記中央部(8)は、当該中央部用の正弦波型素子(12’,12”)で構成された円筒状素子の複数列を備え、各正弦波型素子(12’,12”)は、その山と谷との間に位置する側面を有しており、
前記中央部(8)は複数の開放セル(12)を備え、これらの開放セル(12)は、隣り合う二列の円筒状素子のうちの一方の正弦波型素子の側面と、隣り合う二列の円筒状素子のうちの他方の正弦波型素子の側面とを「s」状相互連結リンク(13)を介して接続することで形成されており、その一方で、当該中央部(8)では、隣り合う二列の円筒状素子のうちの一方の正弦波型素子の谷は、隣り合う二列の円筒状素子のうちの他方の正弦波型素子の山と接続されておらず、
前記閉鎖セル(9)は前記開放セル(12)よりも機械的に強靭であり、よって前記開放セルよりも大きな径方向拡張抵抗を提供する、ことを特徴とするバルーン拡張式金属ステント。
【請求項2】
前記少なくとも一つの端部(6,7)は、第1の端部(6)及び第2の端部(7)であり、バルーン拡張時に、前記第1の端部(6)及び第2の端部(7)よりも前記中央部(8)が早く拡張することで、ドッグボーニング作用を解消することを特徴とする請求項1に記載のバルーン拡張式金属ステント。
【請求項3】
前記ステント(3)は、コバルトクロム合金L−605から作製され、ストラットの厚さが35マイクロメートルであると共に、当該ステントは、平均崩壊圧力が少なくとも1.2barの径方向強度、及び、4億サイクルの疲労抵抗を有してなることを特徴とする請求項1又は2に記載のバルーン拡張式金属ステント。
【請求項4】
前記ストラットの厚さが35マイクロメートルである前記ステント(3)は、放射線不透過性を有することを特徴とする請求項3に記載のバルーン拡張式金属ステント。
【請求項5】
当該ステントの外周に沿って1つの列をなすセルを「冠部」と定義するとき、当該ステントの外周に沿って1つの列をなす冠部は、平均崩壊圧力が少なくとも1.2barの径方向強度、及び、少なくとも4億サイクルの疲労抵抗を達成すべく、ステントの直径と、閉鎖セル又は開放セルの幅(b)に基づいて決定される数の冠部を具備する、ことを特徴とする請求項3又は4に記載のバルーン拡張式金属ステント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管などの哺乳類の身体内腔に埋め込むことのできるバルーン拡張式ステントに関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、血管などの身体内腔におけるアテローム硬化性狭窄またはその他の種類の閉塞を治療するため、あるいは疾患のために狭窄した内腔を拡張するために使用される。ステント機能は、血管壁にプラークを押しつけることによって内腔の径を拡張し、その後の埋込み位置で血管の内腔の開存性を維持することである。ステントは剥き出しの金属であってもよいし、あるいは炎症の低減や再狭窄の最小化などの有益な効果を得るために治療薬および/または生体適合性材料で被覆してもよい。
【0003】
ステントは、骨格構造を備えた円柱の形状を有する。このような構造は、レーザ光を用いて金属管を切断することによって該管上に形成される。金属管は、ステンレス鋼、コバルトクロム合金、タンタル、白金などの生体適合性金属製である。その後、レーザ切断管は、清掃され、熱処理され、電解研磨される。次に、仕上げられたステントは、バルーン上にしっかりと保持され、かなり小さな径を有するように圧着することによってバルーンカテーテル上に搭載される。カテーテルに搭載された圧着ステント(縮んだ状態のステント)は疾患部位(閉塞または狭窄した内腔)に向けられる。疾患部位において、ステントを径方向に所望の径まで拡張するように油圧を印加することによってバルーンを膨張させる。ステントが径方向に拡張すると、プラークが血管壁に押圧されて、血管中の血流の拘束が取り除かれる。その後、油圧を除くことでバルーンを収縮させて、患者の体内から引き抜く。拡張時、ステント材は塑性変形するため、ステントは元の形状に戻らず、拡張状態を維持して内腔の開存性を保つ。血管によって印加される力に耐えるため、ステントの骨格構造は十分な径方向強度と疲労強度とを有するべきである。また、該骨格構造は、プラークの脱出を防ぐのに十分なほど高密度であるべきである。ステントは、埋め込み易いように必須の放射線不透過性を有するべきである。
【0004】
ステントは、身体内腔内のバルーンカテーテルを用いて拡張可能な、螺旋状に巻かれたコイルバネなどの様々なパターンで構成されるワイヤで作製される。また、ステントは、当技術分野において既知な方法により、生体適合性および生分解性ポリマ材料で作製される。ニチノール合金などの超弾性材料も自己拡張ステントを製造するのに使用される。このようなステントはバルーンカテーテルを必要とせず、拘束鞘を除去することによってステント自体が内腔で拡張することで埋め込まれる。
【0005】
ステントは、相当長期にわたり有効に使用されており、その安全性と有効性は確立されている。ステントの主な課題は再狭窄とステント内血栓である。これらの弊害の主な原因の1つが、ステント埋込によって生じる動脈損傷である。その損傷は、再狭窄を招き、内皮化を遅らせる。こうした弊害は、動脈への損傷を低減すれば減らすことができる。
【0006】
ステントは、ステントの埋込み中に特徴的な「ドッグボーニング(dog−boning)」作用を発揮する。ドッグボーニングは、ステントが縦軸に沿って非均一に径方向に拡張した結果である。ステントの近位端および遠位端は中央部の拡張前に拡張して、「犬の骨」形状を形成する。ステントの端部は中央部よりも早く内腔の径を獲得する。これは、ステントの中央部が、先端で構造上の支持を有していない端部よりも大きな径方向抵抗を提供するからである。これにより、ステントの近位端と遠位端が過拡張して、端部を径方向外側に突出させる。このため、ステント端部はバルーンに対し中央部に向かって摺動して、ステントの全長を低減させる。中央部は拡張し続けて最終径に至り、ステント端部を径方向上側と軸方向外側に駆動させる。これにより端部は内腔壁にさらに深く侵入して内腔壁を傷つける。ステントの展開は、この現象によっても悪影響を受ける。この種の損傷は、ステント骨格がドッグボーニング作用を排除するように設計される場合にはかなり低減する、あるいは排除することができる。
【0007】
ステントのストラットの厚さが動脈の損傷に重大な役割を果たすことには十分な確証がある。薄いストラットは厚いストラットよりも損傷が少ない。よって、動脈の損傷は実質上可能な限りストラットを薄くすることによって低減できる。ストラット厚を決定する際、動脈への力に耐え得るように径方向強度や疲労抵抗などのステントの重要な機械的特性が適切であるように留意すべきである。
【0008】
「ドッグボーニング」の問題は、ステントの中央部を端部よりも早く拡張させることによって排除することができる。このような場合、ステント中央部は端部よりも早く内腔径を採る(あるいは、内腔壁に接触する)。通常、早く拡張するステント中央部によって覆われる動脈領域は大きい。よって、ステントに印加される拡張力は大きな内腔領域全体に分布されて、ドッグボーニング作用によって生じる損傷よりも損傷を大きく低減する。
【0009】
ステント端部の早期拡張は、中央部よりも端部の構造を強固にすることによって防止することができる。ステント中央部が端部よりも機械的に脆弱であるほど、ステント端部よりも早く拡張する。ステント部分によって強度を変えることは、長さ全体にわたってステントストラットの骨格形状を変動させることによって達成することができる。所望の拡張圧で、ステント全体が端部および中央部において所定の径を採るように骨格構造を構成することに留意すべきである。
【0010】
ステント骨格構造のストラット厚を低減することによって、動脈壁への損傷をさらに最小限に抑えることができる。ストラット厚の薄いステントはストラット厚の厚いステントに比べて損傷が少ないことには十分な確証がある。回報2001;103:2816−2821で公開されたKastrati A.Schomig A、Dirschinger Jらの論文「ストラット厚が再狭窄の結果に及ぼす影響(Strut Thickness Effect on Restenosis Outcome)(ISAR STEREO試験)」はこのテーマについて詳細に語っている。血管造影下での再狭窄の発生率は、薄ストラット(50ミクロン厚)のステントで治療した患者群の場合は15.0%、厚ストラット(140ミクロン厚)のステントで治療した群の場合は25.8%だった。臨床下での再狭窄も大きく低減され、再介入率は薄ストラット患者で8.6%、厚ストラット患者で13.8%だった。
【0011】
これらの発見は、J.Am.Coll.Cardiol、2003;41:1283〜8に発表されたKastrati Aらの論文「ストラット厚が再狭窄の結果に及ぼす影響(Strut Thickness Effect on Restenosis Outcome)(ISAR STEREO−2試験)」でも再確認されている。血管造影下での再狭窄の発生率は、薄ストラット(50ミクロン厚)のステントで治療した患者群の場合は17.9%、厚ストラット(140ミクロン厚)のステントで治療した群の場合は31.4%だった。再狭窄による標的血管血行再建(TVR)の必要性は、薄ストラットの患者群の場合12.3%、厚ストラットの患者群の場合21.9%だった。
【0012】
上記の両研究の結論として、薄ストラットデバイスの使用は、冠動脈ステント後の血管造影および臨床下での再狭窄を大きく低減させることが証明された。
【0013】
現在市販されている冠動脈ステントは、140ミクロン(CordisのCypher(登録商標))から60ミクロン(BiotronikのPRO−Kinetic(登録商標))のストラット厚を有する。一般的な趨勢は、より薄いストラットの新世代ステントを作製することである。
【0014】
ドッグボーニング作用の排除と薄ストラットの作製がステントの臨床パフォーマンスの向上にとって望ましい一方で、径方向強度、疲労抵抗、追従性、押圧性、短縮、弾性反動などの他のステント特性が悪影響を及ぼされないことが極めて重要である。ストラット厚を低減すれば、ステントの径方向強度が低減される。ストラット厚の低減は、ステントに必須の径方向強度および疲労強度を与えるように何らかの方法で補償されなければならない。さらに、ステントは、埋め込み易いように十分な放射線不透過性を有するべきである。したがって、ステントの質量と放射線不透過性との間でバランスを取ることが極めて重要である。ステント骨格形状は、脱出を回避するように圧縮されたプラークに十分な支持を提供し、必要な横断面を呈するべきである。よって、ストラットの骨格形状は、ストラットの特性に悪影響を与えずに、ドッグボーニングが排除され、ストラットがより薄くなるように設計されるべきである。
【0015】
米国特許第6,273,910号は、ストラットの骨格形状を、ステントの中央部と端部とで異なる機械的強度を達成するように軸方向に変動させるステントの別構造を記載している。この従来技術は、2つの代替的構造原理によってこれを実現する。第1の原理は、短軸方向長、小周寸法、または広断面で形成される構造が、長軸方向長、大周寸法、または狭断面を有する構造よりも周方向変形に強いという事実に基づく。したがって、周方向変形に比較的強い構造が、径方向拡張に比較的強い円柱状素子、すなわち端部を形成するのに利用される。第2の原理は、断面の広い構造の方が断面の狭い構造よりも周方向変形に強いという事実に基づく。したがって、端部は、中央部よりも広い断面の骨格構造を有する。この従来技術は、異なる強度の材料を使用してステントの異なる部分を構築することによって異なる強度を達成することについても言及している。しかしながら、同一ステントの別々の部分に別々の材料を使用してステントを作製することは単純ではない。
【0016】
米国特許第7,044,963号は、ステントの軸に沿って異なる強度を達成する類似の原理について記載している。この従来技術は、(a)素子の1つまたはそれ以上の部分の厚さまたは幅をそれ以外の部分の厚さまたは幅に対して増減させる、(b)軸方向長を増減させる、(c)セルの形状およびサイズを変更する(すなわち、コネクタをU状からSまたはZ状に変更する)、(d)材料を変更する、あるいは異なる熱処理を施すことによって材料の特性を変更する、ことで異なる強度を実現する。これらは機械的特性を変更する一般的な構造原理であり、十分に既知な科学的原理である。しかしながら、同一ステントの異なる部分に別々の材料を使用する、あるいは同一ステントの異なる部分に別々の熱処理工程を施すことは極めて困難である。
【0017】
国際公開WO01/34241A1号は、脳血管系で優先的に使用されるステントについて記載している。冠動脈ステントに比べて低圧でステントを拡張するように径方向強度を低減することに重点が置かれている。このステントは、直線リンクで相互に接続される周方向U状の部材を有する。これらの接続リンクの数および提供パターンを変動させて様々なステント特性(強度、柔軟性など)を実現することができる。特性を変動させるために幅と厚さが可変の接続リンクが提供される。しかしながら、縦軸に沿って厚さを変動させる方法は明記されていない。このステントは6〜8気圧で均一に拡張する。
【0018】
様々な強度を実現する簡単な方法は、ステントの軸に沿ってストラットの形状を変更し、その変更を簡易かつ実際的な方法で組み込むことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第6,273,910号
【特許文献2】米国特許第7,044,963号
【特許文献3】国際公開WO01/34241A1号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】「ストラット厚が再狭窄の結果に及ぼす影響(Strut Thickness Effect on Restenosis Outcome)(ISAR STEREO試験)」回報2001;103:2816−2821、Kastrati A.Schomig A、Dirschinger J他
【非特許文献2】「ストラット厚が再狭窄の結果に及ぼす影響(Strut Thickness Effect on Restenosis Outcome)(ISAR STEREO−2試験)」J.Am.Coll.Cardiol、2003;41:1283〜8、Kastrati A他
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、動脈などの血管を含む哺乳類の身体内腔に埋め込む、コバルトクロム合金やステンレス鋼316Lなどの生体適合性金属から成るバルーン拡張式ステントを記載している。ステントは、有益な臨床効果を上げるため、治療薬および/または生体適合性材料で被覆するプラットフォームとして使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によると、ステントは、軸方向長さに沿って形状が変動する骨格構造を有する円筒状本体から成る。ステント構造は、同一でも異なっていてもよい別個の端部および中央部によって概説することができる。少なくとも1つの部分の骨格構造の形状が残りの部分の骨格形状と異なり、異なる径方向強度を実現し、バルーンカテーテルを用いて展開される際のステントの拡張特徴を異ならせる。少なくとも1つの端部の骨格構造が、中央部および他端部の骨格構造と比べて高い機械的強度を達成するように設計される。ステントの両端部が中央部よりも大きな径方向拡張抵抗を提供するように設計される場合、バルーンカテーテルによる身体内腔内のステントの展開中、ステントの中央部は端部よりも早く拡張する。よって、ステントの中央部は端部よりも早く内腔壁に接触して、ドッグボーニング作用を排除する。この差別的な強度はステントの他の特性に悪影響を及ぼさずに達成される。
【0023】
骨格構造の形状は、様々な機械的強度、すなわち、拡張抵抗を達成する多数の方法で変動させることができる。従来技術においては上述したように、断面の軸方向長、周寸法、または幅を変動させること、ストラットの断面の幅を変動させること、ストラット厚を変動させること、ステント軸にわたって異なる材料を使用すること、さらにはステントの部分毎に異なる熱処理を施すことによってこれを達成できる。これらの方法にはいくつかの欠点がある。非常に幅広い断面はプラークを有効に含むことができない比較的開放された構造を生じ、組織脱出を招いて再狭窄または塞栓を招く。もう1つの欠点は、ステントの部分毎に断面プロファイルが異なることである。同一のステントに異なる材料を使用すると、製造が非常に困難で厄介である。さらに、それが電解腐食を招く場合がある。軸にわたってステント厚を変更するには、ステントを異なったやり方で研磨する特別な方法が必要となる。部分係数は幅に直接比例し、ステントストラットの幅はバルーンカテーテルへの圧着中にストラットが相互に接触し始める限界を超えて増大させることができないため、ストラットの幅を増大することは強度の増強にはあまり有効ではない。差別的な熱処理を軸に沿ってステントの異なる部分に施すことは厄介かつ困難である。
【0024】
軸にわたってステントの形状を変更することは簡単である。これを巧妙に行えば、形状はステントの軸にわたってそれほど広く変動せずに十分な差別的な構造強度を与えて、所望の結果を達成する。全長にわたってステント厚を変動させる必要も、同一のステントに差別的な熱処理を施す、あるいは異なる材料を使用する必要もない。本発明は、このテーマに基づき保護を求めている。
【0025】
ステントの骨格構造は外周にわたって反復的に径方向に拡張可能な幾何学的形状の列を有し、それらはリングを形成する円筒状素子と称することもできる。素子の形状と素子がどのように相互接続されるかを操作して、様々な構造上の特性、すなわち、異なる拡張抵抗につながる機械的強度を達成することができる。様々な形状を生成するには大きな設計上の柔軟性が存在する。この柔軟性は、ステントのその他の所望の特性を念頭において利用すべきである。ステント構造は、これらの素子を特定パターンに配置してストラットの特定形状と相互接続アレイとを形成することによって形成される。パターン内の素子は、ステントの拡張時、身体内腔のプラークまたは切開部が有効に内腔壁の適所に押し付けられて十分な支持を適用し、組織脱出を防止するように十分近接させるべきである。同時に、これらの素子は、柔軟性に悪影響を与え、カテーテルのバルーン上のステントの圧着中に相互に干渉し、あるいは不十分な断面プロファイルを呈するほど近接させるべきではない。該素子は、所望の径方向の疲労抵抗強度をステントに与えるのに十分なほど硬くあるべきである。該素子は、弾性反跳が許容可能な限界内に収まるように特定の圧力下で、拡張時に十分塑性変形すべきである。ステントが径方向に拡張される場合、ステント直径が増大して長を低減させる。素子の形状および配置はこのステント長の低減を補償し、拡張したステントの短縮を許容可能な限界内に抑えるべきである。これは、特定のストラット素子を径方向拡張と連動して伸張させることによって達成される。素子は、埋込措置をし易いように十分な放射線不透過性を発揮する十分な質量を有するべきである。ステントの異なる部分が軸にわたってそれぞれ異なる機械的強度を有するが、ステント自体は、定格の展開圧力がバルーンカテーテルに印加される際、全長にわたって均一に特定の直径を有するべきである。
【0026】
本発明に記載されるステントの構造素子(構造的要素)は、「セル」または「セル構造」と称することのできる開放または閉鎖形状の構造を提供するように構成される。素子を作製するために同一の幅および厚さを有するストラットを用いると、開放セル構造によって提供される拡張抵抗は閉鎖セル構造によって提供される抵抗よりも小さい。つまり、閉鎖セルは、開放セルに比べて大きな拡張抵抗を提供する。追加の設計柔軟性は、素子の長さと幅を変動させたセルを作製することによって達成される。長い構造素子は結果的に広い幅のセルとなり、強度が落ちる。一方、短い構造素子は狭い幅のセルとなり、強度が向上する。広い幅のストラットは狭い幅の素子のセルと比べて強度が高く、より大きな拡張抵抗を提供し、その逆もまた可である。
【0027】
本発明はステントの一方または両方の端部のセルが閉鎖形状であり、中央部のセルが開放形状である構造を優先的に説明しているが、本発明はこの構造に限定されない。ステント端部は、ステントの近位端または遠位端のいずれかの部分として定義される。この部分は、閉鎖セル構造が開放セル構造に変わるときに終了する。同様に、中央部は、2つの端部に挟まれたステントの部分として定義され、開放セル構造から成る。開放セル構造が閉鎖構造に変わるときに中央部が終了する。本発明のステント構造を以下説明する。「素子」および「ストラット」という用語は、明細書全体で置き換え可能である。
【0028】
本発明のステントの骨格構造は概して、不規則的な曲線湾曲形状または直線形状のいずれかで、軸方向長さに沿って複数の山と谷とを有する正弦波型素子から成る。閉鎖セル(9)は、ステントを縦姿勢で見る場合に、ステントの軸にわたって上列の素子の谷(素子の上側リング)と下列の素子の山(素子の下側リング)とを接続することによって形成される。ステント軸に沿って2列の素子の山と谷とを接続することで1列の閉鎖セルが形成される。追加列の閉鎖セルは、ステントの軸に沿って3つの連続列の素子の山と谷とを接続することによって形成することができる。開放セル(12)は、これらの正弦曲線状素子の山と谷を側面の長さに沿って相互接続せずに、素子の側面の長さに沿って上列と下列とを接続する「s」状リンクを使用することによって形成される。閉鎖セルと「s」状リンク機構を有する開放セルとが相互接続されて、ステントの円筒状骨格構造を形成する。
【0029】
ステント端部の閉鎖セルは高い強度を有する、すなわち、大きな拡張抵抗を提供する。「s」状リンク機構は、身体内腔の湾曲した複雑な経路でステントを容易に操作できるようにステントに柔軟性を提供する。不規則的な曲線状素子の構造強度は、「s」状相互接続部が素子の長さに沿って装着される場所を変更することによって変更することができる。本発明に記載の実施形態では、「s」状リンク機構が素子のそれぞれの側面の中心近くに配置される。個々のストラットの幅および形状は、効果的な圧着を提供し、拡張状態で十分な径方向強度を与えると同時に、許容可能な限界内で反跳および短縮を維持するように設計される。拡張後の骨格構造は許容可能な断面プロファイルを与える。不規則的な曲線構造は、山と谷の領域で様々な湾曲度を有する。湾曲を変動して異なる構造強度を与えることができる。その形状は、均一かつ薄い圧着プロファイルと、1セクションで、およびステントの軸に沿った個々の層でステントの外周において個々の素子の均一な径方向拡張を与えることができる。定格展開圧力がカテーテルのバルーンを通じてステントに印加されると、ステントは軸方向に差別的な強度を有するにもかかわらず全長に沿って均一な直径を獲得する。
【0030】
正弦曲線状の骨格構造は、ストラットおよび「s」状相互接続リンク機構を有して、高い柔軟性を持つ区域を提供するように設計される。展開中のステントの拡張時、これらの区域は圧縮された直径から拡大拡張された直径へと周方向に変形する。差別的径方向拡張の特徴は、正弦曲線状素子および「s」リンク構造のサイズ、形状、および断面を変更することによって獲得することができる。さらに、ステント端部の強度(拡張抵抗)は、閉鎖セルの列の数を増加させる、あるいは1列のセルの数を変更することによって高めることができる。同様に、開放セルの強度(拡張抵抗)は、「s」状リンク機構の数および幅を増加させる、あるいは1列の開放セルの数を変更することによって高めることができる。「s」状リンク機構が上列の開放セルと下列の開放セルとを接続する位置は、開放セルの強度およびステントの全体的柔軟性を増減させるように操作することもできる。
【0031】
開放セルおよび閉鎖セルの形状は、側面の湾曲を変更することによって変更することができる。限定的には、所定の直線形状を採ることができる。このような変更はセルの全体強度、ひいては列およびステント構造全体の強度に差異をもたらすことができる。
【0032】
ステントの相互接続された骨格構造の形状は、拡張時のステントの弾性反跳および短縮が許容可能な限界に収まるように設計される。
【0033】
本発明の一実施形態のステントの骨格構造は、ステントの遠位端および近位端のそれぞれで閉鎖セルを形成する3列の素子から成る。上列素子の谷が下列素子の山と接続されて、蜂の巣状の相互接続閉鎖セルアレイを形成する。中央部は閉鎖セル構造が終了するところから開始する。これらの部分は開放セルから成る。中央部において開放セルを形成する素子の列の数はステントの全長によって決定される。たとえば、全長13mmのある特定構造のステントの場合、5列の開放セルが上述したように「s」状リンク機構で1つおきに相互接続される。38mm長の同一構造のステントは、23〜24個の列を有する。冠部と定義されるステントの外周に沿った1列のセルの数は、ステントの直径とセルの幅によって決定される。
【0034】
たとえば、この構造の2.5mm径のステントは外周に3つの冠部を有し、同じ構造の4.5mm径のステントは外周に5つの冠部を有する。冠部の数は圧着プロファイルとのバランスを維持して変更することができる。
【0035】
ステントの全体構造は径方向拡張を制御して、端部の方が拡張に強いために中央部が端部よりも早く拡張する。また、この構造は、ステントの径方向強度、柔軟性、および疲労抵抗を決定する。各セルの寸法とセル間の間隔は、プラークまたはステントが埋め込まれる身体内腔の任意の場所の突出を防ぐのに十分なほど近接するように調節される。同時に、これらの寸法は、ステントの柔軟性を犠牲とせずに、カテーテルのバルーン上にステントをトラブルなく圧着できるように調節される。間隔も調節されて、所望の断面プロファイルを提供する。この構造は、ステントが完全に拡張した後のステントストラットの均一な内腔壁の適用範囲を提供する。ステントは、精密かつ堅固に身体内腔に並置される。展開中、セクションの個々の素子は、骨格構造全体を変形させずに隣接円筒状素子をわずかに妨害することができる。ステント拡張後、素子の部分は外側にわずかに傾き、血管壁に少し埋め込まれて、ステントを身体内腔に適切に配置することができる。拡張後、これはステントをしっかりと適所に並置するのに役立つ。
【0036】
個々のセル、「s」状リンク機構、およびセルの相互接続の構造は、圧着および拡張中にステント全体にわたり均一に応力を分布するように設計される。これにより、ステントの中央部は端部よりも早く拡張し、ステントは完全に拡張した後に均一な直径を獲得する。
【0037】
開放セルの相互接続は上述のように「s」状リンク機構によって達成される。これらのリンク機構は、正弦波状のセルを形成する素子の側面のほぼ中心で接続される。これにより十分に支持された構造的桁形状の構造が提供されて、未支持の長は交差結合されたトラス桁のように「s」リンク機構の接続点において縮小される。「s」状リンク機構は、開放セルの側方素子に偏心して接続させることもできる。このために、この素子の未支持長は3つの部分に分割される。これらの素子の未支持長はこれらの「s」状リンク機構の位置に依存する。これにより、ステントの全体構造に強度が追加され、短縮に耐える。セルの素子は拡張後に完全に塑性変形して、許容可能な限界内で弾性反跳を十分に維持する。
【0038】
ステント骨格構造はステント設計者にステント素子の形状やその他の寸法を変動させる十分な自由裁量の余地を与えて、ステントストラット厚を有効に低減し、許容可能な限界内で径方向強度を維持して所望の疲労抵抗を得る。ステント厚を低減することで身体内腔壁への損傷も低減されることは一般に認められている。
【0039】
ステントの柔軟性は、ステントの外周にわたる「s」状リンク機構の厚さおよび数とその位置によって決定される。これらの「s」コネクタの数を低減する場合、正弦曲線状部分の一部は自由になり、ステントにさらなる柔軟性を与える。しかしながら、これによりステントの径方向強度は弱まる。よって、柔軟性と強度との間のバランスを取ってステントの全体特性を最適化することが極めて重要である。
【0040】
本発明に記載されるステントの設計は概して冠動脈系のためのものである。しかしながら、本発明に記載される構造では、脳血管系や腎臓血管系などのその他の用途用のステントを製造できるように、ステントの素子の形状やその他寸法を変更することができる。たとえば、脳血管系に所望される特性を得るように構造を変更することによって、径方向強度を低減し、ステントの柔軟性を高めることができる。閉鎖セル構造をステントの一端のみに設けることによって、特定用途に適するように製造することができる。閉鎖セルが設けられない場合、ステントの差別的な拡張が排除されて、腎臓用途に適するように製造される。このように、本発明に記載されるステント構造は、ステント設計者に任意の用途に合ったステントをあつらえる十分な柔軟性を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】送達カテーテル1に搭載されるステントを示す図である。
【
図2】送達カテーテル1のバルーン2に圧着された
図1のステント3の拡大図である。
【
図3】身体内腔の拡張中および拡張後の
図1のステントを概略的に示す。
図3Aは、プラーク4を有する身体内腔内で拡張されるステント3を示す。
図3Bは、拡張しきった後、収縮してカテーテルが身体内腔から引き抜かれたときの同じステント3を概略的に示す。この図は、ステントのストラットがプラーク4および身体内腔5を貫通する実際の埋込みを示すものではない。
【
図4】端部(6および7)と中央部8とを有するステントの本体に沿って配置される正弦曲線状素子(9’、9”と12’および12”)および「s」状相互接続リンク13を示すステント3の好適な実施形態を示す。素子9’、9”と下列の2つの類似素子から成る閉鎖セル9も示す。素子12’および12”から成る開放セル12も示す。本図では、素子9’、9”、12’および12”の形状は異なる。これらの形状は、異なる構造強度およびその他の特性を実現するように同じでもよいし異なっていてもよい。
【
図5】ステントの端部の一部である閉鎖セル9を形成する一般的な正弦曲線状素子9’および9”の拡大図である。
【
図6】素子12’の長さの略中心に接続される「s」状相互接続リンク13を有する開放セル12を形成する一般的な正弦曲線状の開放素子12’および12”の拡大図である。本実施形態では、「s」状リンク機構は間欠的に開放セルに接続される。これらのリンクは各開放セルに接続されて、異なる構造強度およびその他の特性を実現することができる。
【
図7】
図6の開放セルを形成する正弦曲線状素子12’および12”の拡大図である。
【
図8】
図6の一般的な「s」状相互接続リンク13の拡大図である。
【
図9】ステントが次第に制御されて拡張される間の画像を示す。これらの図面は、中央部が端部よりも早く拡張し始めるステントの特徴を明瞭に実証している。
【
図10】全セルが相互接続されるステント端部の閉鎖セルの一構成を示す。
【
図11】ステント端部の閉鎖セルが1つおきに相互接続される、
図10の構成とは別の構成を示す。
【
図12】「s」状相互接続リンクが別の開放セルに接続される構成を示す。
【
図13】「s」状相互接続リンクが開放セルのすべての正弦曲線状素子に接続される構成を示す。
【
図14】65ミクロンの平均ストラット厚を有する一般的な冠動脈ステント構造を示す。
【
図15】35ミクロンの平均ストラット厚を有する一般的な冠動脈ステント構造を示す。
【
図16】50ミクロンの平均ストラット厚を有する腎臓ステント構造を示す。
【
図17】一端のみに閉鎖セルを有するステント構造を示す。
【
図18】すべてが開放セルで閉鎖セルがないステント構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
好適な実施形態の詳細な説明
図1〜4に示されるように、本発明の好適な実施形態は、ステントの縦軸に沿った中央部8および同一の端部6および7から成るステント3を含む。すべての部分は、直接接続または「s」状リンク機構を介して特定の方法で結合される複数の正弦波状部9(閉鎖)および12(開放)を有する拡張可能なストラット素子9’、9”、12’、12”、および13を有してステントの本体全体を形成する。正弦曲線状の閉鎖セル9は
図5に示されるようなストラット9’および9”を有する。正弦曲線状の開放セル12は
図6に示されるようなストラット12’および12”を有する。閉鎖セル9のストラット9’および9”は、接合部11を形成する長さに沿って、
図5に示されるように接合部10を形成する先端で、相互接続される。ある列の開放セル12は、
図6に示されるように「s」状相互接続リンク13によって次の列の別の開放セル14に接合される。ストラット9’、9”、12’、12”、および13の幅は同一でも異なっていてもよく、ステントの所望の特性を達成するように調節することができる。これらの素子およびセルの形状とストラットの幅は、所望の機械的強度および柔軟性をステントに与え、圧着プロセスを容易にするように調節することができる。ステントは軸方向断面にわたって均一に拡張し、特定の展開圧力で全長にわたって特定の直径を達成する。
【0043】
ステントの展開中、送達カテーテルのバルーンは油圧を印加することによって拡張される。これにより、バルーンに圧着されたステントに力が加わって、バルーン2と共にステントを径方向外側に拡張させる(
図2および3A)。セル(9’、9”、12’、12”、および13)のストラットは張力を受ける。この張力により、これらの素子は、ステント軸に沿った特定断面で外周にわたってステントを均一に拡張させるように、特定の方法でそれぞれの形状に変形する。ステントの中央部および端部の異なる機械的強度(すなわち、異なる径方向拡張抵抗)に応じて、異なる部分の拡張度合いが異なる。端部は閉鎖セルから成り、比較的低い機械的強度の開放セルから成る中央部よりも高い機械的強度を有する。この差別的な強度により、
図9から明らかであるように中央部は端部よりも早く拡張する。バルーンが特定の展開圧に達すると、ステントは全長に沿って特定の直径を採る。
【0044】
正弦曲線状セル構造のサイズ、形状、幅、厚さおよびクロスサポートを変動させて、ステントの部分毎に異なる機械的強度を実現し、異なる拡張特徴を生成することができる。上述したように、閉鎖セルは、「s」状相互接続リンクによって接続される開放セルよりも拡張力に強い。
【0045】
一実施形態では、端部は
図10に示されるように相互に接続される閉鎖セルから成る。
【0046】
別の実施形態では、端部は
図11に示されるように1つおきに相互接続された閉鎖セルから成る。
図10に示される構成はこの部分で
図11に示される構成よりも高い機械的強度を有するようになることは明らかである。同様に、中央部の強度は、
図12および13に示されるような相互接続「s」状リンクの配置を変更することによって変動させることができる。「s」状リンクは
図12に示されるような1つおきの正弦曲線状セルまたは
図13に示されるようなすべての正弦曲線状セルに設けることができる。明らかに、
図13の配置は
図12の配置よりも強い強度を提供する。さらに、任意の部分またはセルの強度は、ストラットの幅を増大させる、あるいはストラット厚を増大させることによって高めることができる。後者の方が強度に大きな影響を及ぼす。よって、これらの配置は、ステントの骨格形状を操作して、ステントの様々な部分での所望の相対強度ならびにステントの柔軟性を実現する際に設計者に広い機会を提供する。
【0047】
セルを形成する素子の形状の変更は、セルの機械的強度の変更に利用することができる。
図14、15、および16は、ステント端部で閉鎖セルを形成する素子の様々な形状を示す。
図14は正弦曲線形状を有する素子を示す。2つの隣接素子の形状は同一ではない。
図15および16は、端部で弧状を描く直線状の素子を示す。
図15の閉鎖セルは平行素子を有するが、
図16の閉鎖セルは平行ではない。これらの構成の相対強度および柔軟性はそれぞれ異なる。これらの図は、異なる強度およびその他の特性を実現するために形状およびサイズを変更することができるというアイデアを提供するものである。
【0048】
セルの強度は寸法を低減することによって増強することができる。たとえば、閉鎖セルの
図5を参照されたい。セル強度は寸法「a」および「b」を低減することによって増強することができる。同様に、開放セルの強度は寸法「d」を低減することによって高めることができ(
図6を参照)、その逆もまた可である。中央部の強度は寸法「c」を低減することによって高めることができる(
図6を参照)。「s」状リンク機構13を素子12’または12”(寸法e)に接続する位置も強度を変更することができる(
図6を参照)。これらの寸法を調節しつつ、圧着および拡張を困難にしたりステントの柔軟性に悪影響を及ぼしたりすることがないように注意を払うべきである。
【0049】
上述のすべての態様は、ステントの特性を変動させる広い機会をステント設計者に提供する。セルの寸法および形状は、最適な機械的特性に至り、より優れた臨床パフォーマンスを実現するステントの骨格構造を達成するように調整することができる。
【0050】
別の実施形態では、
図17に示されるように、ステントの一端は閉鎖セルで構成され、ステントの残り部分は開放セルを有する。この場合、開放セルを有する端部が最初に拡張し、ステントの残りの部分の拡張が後に続く。閉鎖セルを有する他端が最後に拡張する。この特徴は、幅広い病変形態全体に対するセルの適合性を高め、縁部の損傷を最小限に抑えることができる。
【0051】
さらに別の実施形態では、ステント全体が
図18に示されるような開放セルと「s」状相互接続リンクとで作製される。このステントはドッグボーニング作用を発揮する。「s」状リンク機構が高い柔軟性を提供するため、このような構造は脳血管系への埋込みのような用途で好ましい。この場合のストラット厚は、ステントを低圧で拡張させるように薄くすることができる。このようなステントは、膝下への埋込みに使用することもできる。しかしながら、この用途では、ストラット厚を増加させて、径方向強度および疲労抵抗を高めることもできる。よって、本発明のステント構造は、用途に合わせて調整できる無数の好ましい可能性を提供する。
【0052】
本発明は差別的な熱処理または差別的な電解研磨プロセスを必要としないステント構造について記載する。したがって、ストラット厚は軸方向長さとステントの外周全体で一定のままである。よって、ストラット厚はステント全体の厚さでもある。
【0053】
上述のすべての態様は冠動脈ステントの以下の好適な実施形態で例示される。
【0054】
好適な実施形態では、冠動脈ステントは当技術分野において既知な冠動脈ステントを作製する方法によってコバルトクロム合金L−605で作製される。ステントを作製するのに使用される管は、薄壁で正確な寸法を有する。製造ステップを以下説明する。
【0055】
1.薄レーザ光を有する精密なレーザ切断機で管を切断して正確な骨格形状を取得する。
2.標準的方法を用いて切断したステントを清掃し、汚れ等を除去する。
3.汚れを除去したステントを熱処理して、所望の微細構造ならびに金属の機械的強度および疲労抵抗を得る。
4.熱処理ステントを電解研磨して、工程パラメータを正確に制御することによってストラット(幅および厚さ)の所望の表面特性および正確な最終寸法を達成する。
5.治療薬/生体適合性材料での被覆後にカテーテルのバルーン上にステントを圧着させる。
【0056】
本好適な実施形態の冠動脈ステント、ステントの構造、および全体の骨格構造を
図14に示す。様々なサイズのステントの場合、端部の構造は同一である、すなわち、ステントの縦軸にわたる閉鎖セルの数はどのサイズでも同じである。ステントの縦軸にわたる中央部の開放セルの数を変動させて、所望の全長のステントを実現する。ステントの外周にわたる閉鎖セルおよび開放セルの数は、ステントの直径が異なる度に異なる。本好適な実施形態のストラット厚は平均65ミクロンであり、同等サイズの他のステントと比べて薄かった。
【0057】
様々なサイズのステントに様々な機械試験を施し、その結果を以下に示す。
【0059】
別の好適な実施形態では、冠動脈ステントを、上述の好適な実施形態よりも薄いストラットで作製した。本実施形態では、ステントは上記実施形態に記載の方法によってコバルトクロム合金L−605から作成される。本好適な実施形態では、ステント構造と全体の骨格構造を
図15に示す。様々なサイズのステントで、端部の構造は同一である、すなわち、ステントの縦軸にわたる閉鎖セルの数はどのサイズでも同じである。ステントの縦軸の中央部にわたる開放セルの数を変動させて所望の全長のステントを実現する。ステントの外周にわたる閉鎖セルおよび開放セルの数は、ステントの直径が異なるごとに異なる。本好適な実施形態のストラット厚は平均35ミクロンであり、市販の同等サイズの他のステントよりもずっと薄かった。
【0060】
上記実施形態の様々なサイズのステントに様々な機械試験を施し、その結果を以下に示す。
【0062】
別の好適な実施形態では、腎臓ステントは本発明の同じ全体構造を用いるコバルトクロム合金L−605で構成される。本実施形態では、ステントは上記実施形態に記載の方法によってコバルトクロム合金L−605で形成される。本好適な実施形態では、ステント構造と骨格構造全体が
図16に示される。様々なサイズのステントの場合、端部の構造は同一である、すなわち、ステント縦軸にわたる閉鎖セルの数はどのサイズでも同じである。ステントの縦軸にわたる中央部での開放セルの数を変動させて、所望の全長のステントを実現する。ステントの外周にわたる閉鎖セルまたは開放セルの数は、ステントの直径が異なるたびに異なる。本好適な実施形態のストラット厚は、上述の2つの実施形態の中間である平均50ミクロンであった。
上記実施形態の様々なサイズのステントに各種機械試験を施し、その結果を以下に示す。
【0064】
上記実施形態から明らかなように、骨格構造は、ステント厚の変動で所望の機械的強度に至るように変更することができる。
【0065】
35ミクロンのストラット厚のステントを記載する実施形態が特に重要である。ストラット厚が薄いほど、血管への損傷が少ないことは十分に実証されている。損傷の低減は結果的に、血管再狭窄の低減と、埋込み後の臨床的合併症の低減につながる。35ミクロンのストラット厚のステントは十分な機械的強度とその他の所望の特性を有する。本実施形態における動脈に対する金属の割合は非常に高いため、薄い被覆厚で必須の薬剤を搭載することができる。本実施形態におけるステントの断面プロファイルは0.98mm(直径3.0mmのバルーンの場合)が適切である。
【0066】
35ミクロン厚のステントの放射線不透過性は他の上述ステントと同程度だった。Driver(登録商標)(ドライバー)やVision(登録商標)(ビジョン)のステントのX線画像と共に35ミクロン厚のステント(Mitsu)(ミツ)のX線画像を以下に示す。
【0067】
【表4】
ステント厚は、ステントを作製するためにコバルトクロム合金L−605よりも機械的に強靭であり、十分な放射線不透過性を有する金属または合金を使用することによって35ミクロン未満まで低減することができる。
【0068】
利点:
1.異なる機械的強度を提供する閉鎖セルおよび開放セルの構造。
2.中央部が最初に拡張してドッグボーニング作用を解消するステント。
3.形状、寸法、および装着の数と位置を変更することで構造上の柔軟性を提供する形状。
4.十分な機械的特性を有する最薄ストラットのステント。