(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記湿熱処理工程が、前記処理前吸着材を、液体又は蒸気により湿潤化された状態で、40〜120℃で30分以上加熱することを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば特許文献1、5、6に開示されるような、タンパク質吸着能を有する官能基を含む分子鎖が高分子成形体又はその被膜の表面に固定されている吸着材によれば、吸着性能及び精製処理速度の点である程度高いレベルが達成されることが期待される。
【0012】
しかし、係る構成を有する吸着材に関して詳細に検討した結果、吸着性能の変動が大きい傾向があり、このことが吸着材の実用化にあたって大きな問題となり得ることが明らかになった。具体的には、製造直後と、長期に保管した後とで吸着性能の差が大きくなりやすかった。そのため、吸着の破過のタイミングを予測することが困難であり、例えば、多数の吸着材を用いた精製設備の設計及び運転条件の設計が困難であり、また、吸着除去されるべき成分の漏洩が発生して、精製液の品質低下が発生し易いという問題もあった。
【0013】
そこで、本発明の主な目的は、タンパク質吸着能を有する弱電解性イオン交換基を含み、高分子成形体を有する基体の表面に固定された分子鎖を有するタンパク質吸着材に関して、吸着性能の安定性を改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の湿潤条件下で吸着材を検定処理したときの吸着容量の変化率を指標として用いることが、上記目的を達成するために有効であることを見出し、係る知見に基いて本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]
基体と前記基体の表面に固定された分子鎖とを有するタンパク質吸着材を製造する方法であって、
前記基体と前記基体の表面に固定された前記分子鎖とを有し、前記分子鎖が弱電解性イオン交換基を含んでいる処理前吸着材を加熱する乾熱処理工程と、
前記処理前吸着材を、液体又は蒸気により湿潤化された状態で加熱して前記タンパク質吸着材を得る湿熱処理工程と、
をこの順に備える、方法。
[2]
前記乾熱処理工程の前に、前記基体の表面に前記分子鎖を固定する分子鎖形成工程を更に備える、[1]に記載の方法。
[3]
前記タンパク質吸着材の牛血清アルブミン又はリゾチームの動的吸着容量が5mg/mL以上である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
前記乾熱処理工程が、前記処理前吸着材を40℃〜130℃で1時間以上加熱することを含む、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の方法。
[5]
前記湿熱処理工程が、前記処理前吸着材を、液体又は蒸気により湿潤化された状態で、40〜120℃で30分以上加熱することを含む、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6]
前記湿熱処理工程の後、前記タンパク質吸着材の湿潤化された状態が維持される、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7]
基体と前記基体の表面に固定された分子鎖とを有し、前記分子鎖が弱電解性イオン交換基を含んでいるタンパク質吸着材であって、
1mol/Lの塩化ナトリウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液によって湿潤化された当該タンパク質吸着材を50℃で8時間加熱する検定処理を行ったときに、当該検定処理前後における当該タンパク質吸着材の動的吸着容量の変化率が±5%以内である、タンパク質吸着材。
[8]
前記分子鎖が、前記基体を形成する化合物に共有結合している、[7]に記載のタンパク質吸着材。
[9]
前記基体が多孔質体である、[7]又は[8]に記載のタンパク質吸着材。
[10]
前記基体が中空糸状である、[7]〜[9]のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材。
[11]
前記弱電解性イオン交換基が3級アミノ基である、[7]〜[10]のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材。
[12]
前記分子鎖が、グラフト重合によって形成された直鎖状の高分子鎖である、[7]〜[11]のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材。
[13]
[7]〜[12]のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材を備える、モジュール。
[14]
[7]〜[12]のいずれか一項に記載のタンパク質吸着材を備える、カラム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タンパク質吸着能を有する弱電解性イオン交換基を含み、高分子成形体を有する基体の表面に固定された分子鎖を有するタンパク質吸着材に関して、吸着性能の安定性を改善することができる。吸着性能が安定していることから、吸着材を用いた大型の精製装置を構成する場合であっても、精製設備の設計及び運転条件の設計が容易であり、精製液の品質低下のリスクが少ない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
図1は、タンパク質吸着材の一実施形態を示す模式図である。
図1に示す吸着材1は、高分子化合物を含む高分子成形体を有する基体3と、基体3の表面に固定された分子鎖5とを有する。分子鎖5は、タンパク質吸着能を有する弱電解性イオン交換基を含有している。分子鎖5は吸着層6を形成する。本実施形態に係る高分子成形体の一例は、細孔7を形成している多孔質体であり、タンパク質を含む溶液が細孔7を通過するときに、主として弱電解性イオン交換基の作用に基づいてタンパク質10が吸着材1に吸着される。
【0020】
1mol/Lの塩化ナトリウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液(以下、場合により「塩緩衝液」という。)によって湿潤化された吸着材1を50℃で8時間加熱する検定処理を行ったときに、その検定処理前後における吸着材1の動的吸着容量の変化率が小さい。この変化率が十分に小さいと、吸着材の吸着性能が安定する傾向がある。具体的には、当該変化率は好ましくは±5%以内、より好ましくは±3%以内、さらに好ましくは±2%以内である。変化率測定のための動的吸着容量の測定方法は、特に制限されないが、比較が可能なように、検定処理前後で実質的に同じ条件で動的吸着容量が測定される。変化率の測定方法の詳細については、後述の実施例において説明される。
【0021】
本実施形態に係るタンパク質吸着材の、前述の検定処理後の牛血清アルブミン又はリゾチームの動的吸着容量は、例えば5mg/mL以上である。より多くのタンパク質を吸着するタンパク吸着材が求められるので、動的吸着容量は好ましくは10mg/mL以上、より好ましくは20mg/mL以上である。
【0022】
基体3を構成する高分子成形体は、高分子化合物を含み、所定の形状を有する部材であり、例えば、高分子化合物を含む材料を所定の形状に成形して得ることができる。基体3は、例えば、高分子成形体自体であってもよいし、高分子成形体と高分子成形体の表面上に形成された後述の被膜とから構成されていてもよい(
図1は基体3が高分子成形体自体である場合の模式図であり、高分子成形体の表面に形成された被膜の図中表記はない)。基体3は、通常、高分子成形体と同様の形状を有する。高分子成形体は、平膜、不織布、中空糸膜、モノリス又はビーズの形態を有する多孔質体であってもよい。多孔質体は、吸着表面積を大きくすることができるので好ましい。ハンドリングの容易さと高い精製処理速度を達成できる点とから、平膜及び中空糸状のような膜状の形態がより好ましい。スケールアップ性、モジュール成型した際の流路構造が単純であることから、中空糸多孔膜が特に好ましい。本実施形態において、「中空糸多孔膜」とは、内壁により中空部分が形成されている円筒状または繊維状の多孔質体を意味する。中空糸多孔膜の中空側(内側)と外側とが貫通孔である細孔によって連続している。中空糸多孔膜は、その細孔によって内側から外側、あるいは外側から内側に、液体または気体が透過する性質を有する。中空糸多孔膜の外径および内径は、物理的に多孔膜が形状を保持することができれば、特に限定されない。あるいは、高分子成形体は、タンパク質の溶液をその表面に接触させることのできる形態であれば、非多孔質体であってもよい。非多孔質体としては、例えば、フィルム、非多孔質ビーズ、繊維、キャピラリーが挙げられる。
【0023】
高分子成形体が膜状の多孔質体である場合、その細孔径は、好ましくは0.01μm〜10μmであり、より好ましくは0.05μm〜7μmであり、さらに好ましくは0.1μm〜1μmである。多孔質体中の細孔の占める体積比率である空孔率は、多孔質体の形状を保持しかつ通液時の圧損が実用上問題のない範囲であれば、特に限定されないが、好ましくは5%〜99%であり、より好ましくは10%〜95%であり、さらに好ましくは30〜90%である。細孔径及び空孔率の測定は、例えばMarcel Mulder著「膜技術」(株式会社アイピーシー)に記載されているような、当業者にとって通常の方法により行うことができる。その具体例としては、電子顕微鏡による観察、バブルポイント法、水銀圧入法、透過率法が挙げられる。
【0024】
基体3を構成する高分子成形体を形成する高分子化合物としては、特に限定されないが、機械的性質保持のためには、ポリオレフィン系重合体、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロース、セルロース誘導体が好ましい。ポリオレフィン系重合体は、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレンおよびフッ化ビニリデンなどのオレフィンの単独重合体、該オレフィンの2種以上の共重合体、並びに、1種又は2種以上のオレフィンとパーハロゲン化オレフィンとの共重合体から選ばれる。これらの高分子の中でも、機械的強度が特に優れることから、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン及びポリスルホンが好ましく、分子鎖5形成に放射線グラフト重合法を利用する場合にはポリエチレンがより好ましい。
【0025】
基体3の表面の少なくとも一部には、弱電解性イオン交換基を含有する分子鎖5から形成される吸着層6が存在する。この分子鎖5から形成される吸着層6の形態は、加熱工程、あるいはタンパク質の吸着/脱着工程において、吸着層6の溶解あるいは通液時の圧力上昇等の問題がなければ特に限定されない。分子鎖5は、例えば、共有結合、被覆又は吸着により基体3に固定されている。分子鎖5は、好ましくは、高分子成形体を形成する高分子化合物、又は高分子成形体の表面に形成された後述の被膜を形成する化合物に共有結合したグラフト鎖である。
【0026】
分子鎖5によって形成される吸着層6の状態は、限定されない。例えば、分子鎖5が直鎖状の分子鎖であっても良く、架橋構造を持つ高分子鎖であっても良い。架橋構造を持つ分子鎖の場合は、基体表面上で分子鎖同士がゆるく架橋しあうゲル状の吸着層であっても良く、分子鎖同志が強く架橋しあうスキン状の吸着層であっても良い。
【0027】
分子鎖5は、その側鎖基、末端基、又は主鎖を構成する構成単位として、弱電解性イオン交換基を有する。分子鎖5が有する弱電解性イオン交換基は、例えば、弱電解性陽イオン交換基、又は弱電解性陰イオン交換基であり得る。弱電解性陽イオン基としてはカルボン酸基(−COO
−)、リン酸基(−PO
3−、−PO
32−)及びリン酸エステル基(−PO
3R
−)が挙げられる。弱電解性陰イオン交換基は、例えば、1級アミノ基(−NH
2)、2級アミノ基(−NRH)、又は3級アミノ基(−NR
2)、であってもよい。これらイオン交換基においてRは特に限定されず、特に3級アミノ基の場合、同一のNに結合するRは同一でも異なっていてもよい。好適には、Rはアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基を表す。3級アミノ基は、例えば、ジエチルアミノエチル基(DEAE、−(CH
2)
2−NEt
2)、又はジエチルアミノプロピル基(DEAP、−(CH
2)
3−NEt
2)として分子鎖(グラフト鎖)に導入されていてもよい。
【0028】
基体3は、高分子成形体表面の少なくとも一部を、前記高分子成形体とは異なる材料または異なるミクロ構造の高分子化合物で覆う被膜を更に有していてもよい。この場合、複数の分子鎖5の一部又は全部がこの被膜の表面に固定されていてもよい。被膜は、例えばナイロン等の高分子化合物を凝集または吸着によりコーティングさせることから形成しても良いし、例えばウレタン樹脂等の反応性コーティング材料によりネットワーク状コーティングで形成しても良いし、高分子成形体表面への共有結合により形成してもよい。吸着材からの被覆の脱離を防ぐためには、高分子成形体に対してネットワーク状コーティングあるいは共有結合で被覆を形成するのが好ましい。
【0029】
本実施形態に係る吸着材1は、例えば、高分子成形体を有する基体3と基体3の表面に固定された分子鎖5とを備え、分子鎖5が弱電解性イオン交換基を含む処理前吸着材を得る工程(分子鎖形成工程)と、処理前吸着材を加熱する工程(乾熱処理工程)と、処理前吸着材を、液体又は蒸気により湿潤化してから加熱する工程(湿熱処理工程)と、をこの順に備える方法により、製造することができる。
【0030】
基体3の表面に分子鎖5を導入する方法は、特に限定されない。高分子成形体への放射線照射によってラジカルを生成し、高分子成形体を形成する高分子化合物からのグラフト重合により分子鎖5としてのグラフト鎖を形成させる方法、弱電解性イオン交換基を有する高分子化合物を基体に付着させてから、架橋剤によって分子鎖5としての高分子化合物を基体表面に固定する方法、高分子成形体表面を覆う、重合体又は重合体前駆体の被膜を形成させて基体3とした後、その被膜を構成する高分子化合物からグラフト鎖を分子鎖5として形成させる方法などがある。特に、高分子成形体又はその表面を覆う被膜を形成する高分子化合物と分子鎖5との共有結合による強固な結合を期待する場合には、高分子成形体又は被膜を形成する高分子化合物からのグラフト重合によって分子鎖5を導入する方法が好ましい。
【0031】
高分子成形体又は被膜を形成する高分子化合物からのグラフト重合によって分子鎖5を導入する場合、(1)弱電解性イオン交換基を有するモノマーを直接重合させる方法、または、(2)反応性官能基を含むグラフト鎖を高分子化合物からのグラフト重合により導入し、続いて、反応性官能基の反応により弱電解性イオン交換基をグラフト鎖に導入する方法を採用することができる。
【0032】
(1)の方法は、一段階の反応で分子鎖5を導入できることから、簡便である。上記モノマーとしては、特に限定されないが、メタクリレート誘導体、ビニル化合物、アリル化合物などが挙げられる。例えば、上記モノマーは、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アリルアミン、アクリル酸、及びメタクリル酸から選ばれ得る。
【0033】
(2)の方法は、弱電解性イオン交換基の種類、及び、弱電解性イオン交換基の導入率の選択の幅が広い点で有利である。この方法でグラフト重合されるモノマーとしては、反応性の高いエポキシ基を有するグリシジルメタクリレート(GMA)が好ましい。すなわち、分子鎖5は、ポリグリシジルメタクリレート鎖から誘導される高分子鎖であることが好ましい。
【0034】
分子鎖5の量、及び分子鎖5に導入される弱電解性イオン交換基の量は、通液時の圧力上昇等の問題がなければ、特に限定されない。分子鎖5及び弱電解性イオン交換基の量について、上記(2)のグラフト重合による方法の場合の例を挙げて以下に説明する。
【0035】
一般的に、基体に対するグラフト鎖の結合率(グラフト率、dg[%])は、下記式(1)に示したように、グラフト鎖導入により増加した質量に基づいて定義される。
【0036】
【数1】
W
0:反応前の高分子成形体質量(g)
W
0’:グラフト鎖導入前の基体質量(g)
W
1:グラフト鎖導入後の全体質量(g)
式(1)において、基体が高分子成形体自体で構成される場合には、W
0’=W
0となる。
【0037】
グラフト鎖中の反応性官能基(弱電解性イオン交換基を導入可能な官能基)に対する弱電解性イオン交換基の存在割合は、式(2)で示される「リガンド転化率」で整理される。すなわち、弱電解性イオン交換基の存在割合は、グラフト鎖中の反応性官能基のモル数に対する、グラフト鎖に導入された弱電解性イオン交換基のモル数で表される。例えば、グラフト鎖がGMAの重合体で、GMAのエポキシ基とジエチルアミンとの反応によりジエチルアミノ基を導入した場合、式(2)のM
1にGMAの分子量142g/molを、M
2にジエチルアミンの分子量73g/molを代入する。
【0038】
【数2】
W
0’:グラフト鎖導入前の基体質量(g)
W
1:グラフト鎖導入後の全体質量(g)
W
2:弱電解性イオン交換基導入後の全体質量(g)
M
1:グラフト鎖を形成するモノマー単位の分子量(g/mol)
M
2:弱電解性イオン交換基の分子量(g/mol)
【0039】
グラフト率は、より高い吸着容量および力学的に安定な強度をともに確保するという観点から、好ましくは5%〜200%、より好ましくは20%〜150%、更に好ましくは30%〜90%である。リガンド転化率は、より高い吸着容量を得るという観点から、好ましくは20%〜100%、より好ましくは50%〜100%、更に好ましくは70%〜100%である。
【0040】
本実施形態に係る方法の場合、乾熱処理は、乾燥した状態、言い換えると、少なくとも一部分が液体又は蒸気により湿潤化されていない状態の処理前吸着材を加熱することにより行われる。この乾熱処理は、処理前吸着材そのものに対して施しても良いし、処理前吸着材がハウジング内に梱包された形態(例えばモジュール、カラムなど)で行っても良い。どちらの場合でも実質的に同等の効果が発揮される。
【0041】
分子鎖5が導入された処理前吸着材は、例えば、液相反応により分子鎖5を導入するための反応溶媒、又は反応後の洗浄等に用いられた液体(例えば水分)が基体に付着した状態で得られる。あるいは、気相反応により分子鎖5が導入されて、液体が基体に実質的に付着しない状態で処理前吸着材が得られることもある。液相反応で製造した処理前吸着材に対しては、乾熱処理を行う前に、基体に付着した液体を予め除去する乾燥処理を行い、処理前吸着材の少なくとも一部分が液体又は蒸気により湿潤化されない状態に誘導しておくことが可能である。また、一連の加熱工程の前半部分を、少なくとも一部分が液体又は蒸気により湿潤化されない状態に誘導するための乾燥処理とし、これに引き続く後半部分を本実施形態に係る乾熱処理とすることもできる。乾熱処理のための加熱温度及び加熱時間は、上述の検定処理前後における吸着材の動的吸着容量の変化率が小さく、吸着性能の安定化の効果が十分に得られるように調整される。また、加熱温度及び時間は、処理前吸着材が十分に乾燥される温度および時間以上であり、強度劣化あるいは融解しない温度および時間以下で調整される。さらに、処理前吸着材をハウジング(例えばモジュール、カラムなど)に組み立てする工程を実施する場合には、ハウジングと処理前吸着材を接着する封止材の完全硬化が達成される温度及び時間で調整される。具体的には、この加熱温度は好ましくは40〜130℃であり、より好ましくは45℃〜110℃であり、さらに好ましくは50〜95℃である。加熱時間は、好ましくは1〜150時間以上であり、より好ましくは2〜100時間であり、さらに好ましくは4〜60時間である。
【0042】
乾熱処理に続いて、処理前吸着材を、液体又は蒸気により湿潤化させてから、湿潤化された状態の処理前吸着材を加熱する湿熱処理が行われる。この乾熱処理と湿熱処理との組み合わせにより、上述の検定処理における変化率が小さい吸着材を効率的に製造することができる。係る作用が奏されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、乾熱処理と湿熱処理とをこの順に組み合わせることによって、分子鎖が効率よく再整列することにより、分子鎖の形態が安定化するためであると考えられる。例えば、乾熱処理中に基体自体の高分子構造が緩むことで、基体表面近傍で拘束されていた分子鎖構造を解放することにより、あるいは、乾熱処理中に分子鎖が一旦縮んだ状態を経ることにより、その後の湿熱処理で分子鎖が再び伸びる際に、分子鎖が効率よく再整列されることで、分子鎖の形態が安定化すると考えられる。
【0043】
本実施形態において、「湿潤化された状態」とは、処理前吸着材の表面(例えば、細孔表面)が液体(湿熱処理液)により濡れた状態をいう。乾燥状態にある処理前吸着材を湿潤化する場合は、吸着材を一旦親水化処理した後に、最終的に湿熱処理液で置換することで湿潤化してもよい。親水化処理は、例えば、水、アルコール水溶液、アルコール、蒸気と処理前吸着材を接触させる方法で行うことができる。加圧及び/又は加熱により親水化を加速してもよい。中でも、アルコール又はアルコール水溶液による親水化処理は種々の素材や形状で実施することができる。また、アルコール又はアルコール水溶液で処理前吸着材を濡らし、アルコール又はアルコール水溶液を一旦純水で置換してから、最終的に処理前吸着材が湿熱処理液により濡れた状態にしてもよい。湿潤化の一例としては、処理前吸着材をエタノール又はエタノール水溶液と接触させ、徐々に純水の比率を上げていくことでエタノール又はエタノール水溶液を一旦純水に置換し、最終的に湿熱処理液に置換する方法がある。湿潤処理液に置換する方法は、十分に処理前吸着材が湿潤処理液で置換されれば限定されない。例えば処理前吸着材が膜状である場合、十分に親水化あるいは溶液への置換を行うために、湿潤処理液を通液する方法が効果的である。
【0044】
本明細書において、吸着材の「湿潤化された状態」とは、より具体的には、湿潤度が例えば0.1以上である状態を意味する。湿潤度の測定は以下の手順で行うことができる。
1.カラム又はモジュール中の吸着材の場合、それらを解体して一定量の吸着材を取り出す。
2.吸着材に付着した余分な充填保存液を垂れ切った後、吸着材の含液時質量W
Wを測定する。
3.充填保存液が付着した吸着材をエタノール、水で十分洗浄した後、65℃のオーブンで16時間乾燥させて、吸着材の乾燥質量W
Dを測定する。
4.湿潤度を吸着材の含液時重量W
W、乾燥重量W
Dより以下の式から計算する。
湿潤度=(W
W−W
D)/W
D
【0045】
湿熱処理における加熱温度及び加熱時間は、上述の検定処理前後における吸着材の動的吸着容量の変化率が小さく、吸着性能の安定化の効果が十分に得られるように調整される。具体的には、この加熱温度は好ましくは40〜130℃又は40〜120℃である。確実な加熱を施す上で50〜130℃又は50〜120℃がより好ましい。例えば処理設備保全の簡便さあるいは経済性を考慮すれば、湿潤処理液を水として用い、50〜99℃がより好ましく、70〜99で実施するのがさらに好ましい。また、例えば殺菌処理をかねて湿熱処理を実施する場合は、100〜130℃がより好ましく、121℃〜130℃がさらにより好ましい。加熱時間は、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、3時間以上が確実な加熱を施す上でさらに好ましい。
【0046】
処理前吸着材を加熱する方法は、湿潤化された状態の処理前吸着材が十分に加熱され、吸着材の機械的強度に影響がない範疇であれば、特に限定されない。この湿熱処理は、処理前吸着材そのものに対して施しても良いし、処理前吸着材がハウジング内に梱包された形態(例えばモジュール、カラムなど)で行っても良く、どちらの場合でも実質的に同等の効果が発揮される。加熱の方法は、湯浴による加熱、オートクレーブによる高圧下水蒸気接触による加熱、加熱した湿潤処理液の通液あるいは湿潤処理液の蒸気の通気によっても処理前吸着材の湿熱処理を行うことができる。ハウジング外側から加熱する場合やオートクレーブによる加熱をする場合は、ハウジング内の溶液の封入量も限定されず、湿熱処理液は、垂れきり状態であっても、満液状態であっても良い。
【0047】
処理前吸着材を湿潤化させるために湿熱処理液は、好ましくは純水又は水溶液である。加熱温度が110℃以下の場合、例えば、純水、緩衝液、無機塩の水溶液、あるいは無機塩を含む緩衝液が挙げられる。一般的に吸着材にタンパク質を吸着する際には、タンパク質を溶解した緩衝液を用い、脱着する際には塩化ナトリウムを含む緩衝液が用いられる。したがって、湿熱処理液として緩衝液を用いることが、簡便である。加熱温度が110℃を超え、130℃以下の場合、処理液は、無機塩を含む水溶液が好ましい。この場合、陽イオン種、陰イオン種、価数は限定されない。例えば1価の陽イオンとして、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンが、2価の陽イオンとしてはマグネシウムイオン、カルシウムイオンなどが挙げられる。陰イオン種としては、水酸化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンなどが挙げられ、陽イオンに対する組み合わせも限定されない。タンパク質溶出液、あるいは洗浄液として一般的に用いられることから、無機塩を含む緩衝液、または水酸化ナトリウム水溶液が好ましく、塩化ナトリウムを含む緩衝液がより好ましい。金属イオンの濃度は0.05mol/L以上であることが好ましく、0.1mol/L以上であることがより好ましく、1mol/L以上であることがさらに好ましい。
【0048】
本実施形態に係る乾熱処理とそれに続く湿熱処理によって、基体を被覆している分子鎖の再配列が促進され、吸着性能が安定化すると考えられる。効果的な再配列がなされる処理前吸着材は、好ましくは、基体から直接形成された直鎖状のグラフト高分子鎖、又は、ゆるく架橋しあってゲル状被膜を形成する高分子鎖を有する。より好ましくは、基体から直接形成された直鎖状のグラフト高分子鎖を有する処理前吸着材である。これらの処理前吸着材に対して湿熱処理を行うと、吸着性能が安定化する効果が特に顕著に得られる。
【0049】
乾熱処理及び湿熱処理に供される処理前吸着材は、未使用の吸着材(一度もタンパク質を吸着していない吸着材)である必要は必ずしもない。例えば、吸着及び脱着を繰り返し、吸着容量が低下した吸着材、又は、本実施形態とは異なる熱処理によって吸着容量が低下した吸着材を処理前吸着材として用い、これに対して湿熱処理を施してもよい。
【0050】
湿熱処理後、得られた吸着材は、湿潤化された状態で維持されることができる。吸着材の湿潤化された状態は、例えば、湿熱処理後、タンパク質吸着のために使用されるまでの間、維持される。湿熱処理後の吸着材の湿潤度は、0.1以上に維持されてもよいし、0.5以上又は1.0以上に維持されてもよい。湿潤度の上限は特に制限されないが、湿潤度は、例えば3.0以下であってもよい。
【0051】
吸着材の湿潤化された状態を維持するために、モジュール又はカラム中の吸着材を湿熱処理した後、湿熱処理液を水、アルコール、又はアルコール水溶液等の充填保存液に置換してもよいし、湿熱処理液によって湿潤化されたままとしてもよい。保管中に充填保存液中の水分が揮発して、湿潤化された状態の維持が困難な場合には、グリセリンなどの保湿剤含有の充填保存液としてもよい。また、殺菌あるいは静菌効果を期待する場合には、充填保存液としてエタノール水溶液を用いることができる。
【0052】
吸着材が湿潤された状態が維持されるように、モジュール又はカラム内が充填保存液で満たされていてもよく、余分な充填保存液を捨てて、いわゆる垂れ切り状態にしてもよい。
【0053】
本実施形態に係る吸着材は、例えば、カラム又はモジュールの状態で、タンパク質の分離精製等のために用いることができる。モジュールは、例えば、膜状の吸着材と、該吸着材を収容するハウジングとから構成される。特に、吸着材が中空糸膜である場合、モジュールは、両端に開口部を有するハウジングと、ハウジング内に固定された一本又は複数本の中空糸膜と、を備えていてもよい。ハウジング開口部側のノズルから供給されたタンパク質を溶解した液は、中空糸内側から外側へと膜中を通液し、ハウジング側面に取り付けられたノズルより排出される。カラムは、例えば、粒子状の吸着材と、該吸着材を収容する筒状の容器とから構成される。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
以下の実施例及び比較例において、動的吸着容量及び検定処理前後の動的吸着容量の変化率の測定は以下の手順にしたがって行った。
【0056】
(動的吸着容量の測定方法)
動的吸着容量を測定するための指標タンパク質溶液として、弱電解性陰イオン交換基(ジエチルアミノ基)を含む吸着材用にはBSA(牛血清アルブミン、シグマアルドリッチ製)を、弱電解性陽イオン交換基(カルボン酸基)を含む吸着材用にはリゾチーム(シグマアルドリッチ製)を、共に次の手順で作製する。pH8に調整した20mMトリス塩酸緩衝液(以下、「緩衝液」という。)に、BSA又はリゾチームを1g/Lの濃度で溶解する。得られた指標タンパク質溶液(BSA溶液又はリゾチーム溶液)を0.45μmのフィルターに通過させる。
【0057】
HPLCシステム(GEヘルスケアジャパン AKTAexplorer100)にモジュールを接続する。5MV/分の送液速度で、緩衝液(50MV)、指標タンパク質溶液(67MV)、緩衝液(17MV)、及び1mol/Lの塩化ナトリウムを含む緩衝液(塩緩衝液)(25MV)を順に通液する。ここで、「MV」とは膜体積を意味し、「1MV」は膜体積と同量の液量を通液することに相当する。膜体積の算出方法は後述する。1回目の緩衝液通液は膜の平衡化を目的として、指標タンパク質溶液供給後の2回目の緩衝液通液は非吸着指標タンパク質の洗浄を目的として行われる。さらにそれ以後の塩緩衝液の通液は、吸着した指標タンパク質の溶出を目的として行われる。
【0058】
通液速度は、吸着材及びそのモジュールが形状を維持し、吸着機能を維持できる範囲で、任意に設定可能である。通液する各液の量は、前に通液した液(例えば、1回目の緩衝液通液の場合、吸着材を湿潤化している封入液)を十分に置換し、当該液の目的(例えば平衡化、洗浄)を達成する量であればよく、評価するモジュールのサイズに応じて任意に設定可能である。通液量が十分であることは、各液を吸着材へ通液した後の当該液について、pH、電導度、吸光度をモニターし、平衡状態になっていることで確認できる。
【0059】
指標タンパク質溶液を通液しながら、モジュールから排出されたろ液の波長280nmにおける吸光度を測定し、原液(通液前の指標タンパク質溶液)の吸光度に対するろ液の吸光度の比が10%になる時点のろ液量を確認する。このろ液量を濃度1g/Lに基づいて指標タンパク質の質量に換算して、吸光度の比が10%になる時点の指標タンパク質吸着量[mg]を算出する。さらに、算出した値を膜体積(中空糸の場合、中空糸内外径、有効糸長から計算される円環部の体積)で割り返すことで、膜体積あたりの指標タンパク質(BSAまたはリゾチーム)の吸着容量(mg/mL)を求める。この値は「動的吸着容量」と呼ばれ、バイオテクノロジーの分野で一般に用いられる。
【0060】
(検定処理前後の変化率)
上記方法で予め動的吸着容量が測定され、塩緩衝液(1mol/Lの塩化ナトリウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液、pH8)が充填されたモジュールを準備する。吸着材に指標タンパク質が吸着している場合は、モジュールに塩緩衝液を通液して、指標タンパク質を溶出させる。塩緩衝液が充填されていない場合は、塩緩衝液を十分に通液し、通液後の当該塩緩衝液の伝導度が65mS/cm以上であることを確認する(HORIBA社製CONDUCTIVITY METER B−173)。液流路を密閉したモジュールを、予め50℃に設定したウォーターバス中に投入し、50℃で8時間加熱を続ける(検定処理)。検定処理後のモジュールの動的吸着容量を上記方法により測定する。下記式により、検定処理前の動的吸着容量に対する検定処理後の動的吸着容量の変化の程度を、検定処理前後の変化率(%)として求める。
検定処理前後の変化率=(検定処理後の動的吸着容量/検定処理前の動的吸着容量)×100−100
【0061】
実施例1
吸着材(グラフト鎖を有する中空糸多孔膜)の製造
微粉ケイ酸(アエロジルR972グレード)27.2質量部、ジブチルフタレート(DBP)54.3質量部、及びポリエチレン樹脂粉末(旭化成サンファインSH−800グレード)18.5質量部を予備混合し、2軸押出し機で中空糸状に押出して、中空糸状の膜を得た。次に、この膜を塩化メチレン及び水酸化ナトリウム水溶液に順次浸漬することにより、ジブチルフタレート(DBP)及びケイ酸を抽出し、その後、水洗、乾燥処理を施し、ポリエチレンの成形体である中空糸多孔膜を得た。
【0062】
得られた中空糸多孔膜を密閉容器にいれ、容器内を窒素置換した。次いで、中空糸多孔膜が入った密閉容器をドライアイスとともに発泡スチロール製の箱に入れ、冷却しながらγ線200kGyを照射し、ポリエチレンにラジカルを発生させ、中空糸多孔膜を活性化させた。
【0063】
活性化された中空糸多孔膜を、窒素雰囲気の密閉容器内で室温まで戻した。その後、中空糸多孔膜を反応容器に投入し、密閉して真空状態(100Pa以下)にした。グリシジルメタクリレート(GMA)5質量部とメタノール95質量部とを混合し、窒素バブリングして予め準備した反応液を、真空状態の反応容器内に圧力差を利用して送液した。送液された反応液を40℃で4時間循環し、一終夜静置後、反応液を排出した。メタノール、水の順で中空糸多孔膜を十分に洗浄し、ポリエチレン主鎖にグリシジルメタクリレートがグラフト重合して形成されたグラフト鎖を有するグラフト中空糸多孔膜を得た。上述の式(1)により求められるグラフト率は、85%であった。
【0064】
グラフト中空糸多孔膜の入った反応容器に、50体積部濃度のジエチルアミン水溶液を入れ、30℃で5時間循環し、一終夜静置後、ジエチルアミノ水溶液を排出した。次いで中空糸多孔膜を水で十分に洗浄し、乾燥させ、グラフト鎖に結合したリガンドとしてのジエチルアミノ(DEA)基(弱電解性イオン交換基)を有するグラフト中空糸多孔膜を吸着材として得た。上述の式(2)により求められるリガンド転化率は95%であった。このグラフト中空糸多孔膜を用いて、糸有効長9.4cm、糸本数1本入りのモジュールを2つ組み立てた。
【0065】
一方のモジュール(モジュールA)を、そのまま90℃で6時間加熱(乾熱処理)した。乾熱処理は、加熱装置として強制循環型乾燥機を用い、大気圧下で行った。その後、モジュール内を湿熱処理液としての水で満たし、吸着材を湿潤化した状態でモジュールを20時間加熱した(湿熱処理)。湿熱処理は、加熱装置としてウォーターバスを用い、大気圧下で行った。湿熱処理後のモジュールAの動的吸着容量A
00を測定した。動的吸着容量の測定は、BSA溶液を用いて行った。
【0066】
他方のモジュール(モジュールB)を、そのまま90℃で6時間加熱した(乾熱処理)。その後、モジュール内を湿熱処理液としての水で満たし、吸着材を湿潤化した状態でモジュールを20時間加熱した(湿熱処理)。次いで、モジュールを10〜30℃の室内環境で240日間保管した。保管後のモジュールBに対して、検定処理を施し、検定処理前の動的吸着容量A
0と、検定処理後の動的吸着容量A
1を測定した。
【0067】
さらに、1回目の検定処理後の上記モジュールBに対して、2回目の検定処理を施し、検定処理後の動的吸着容量A
2を測定した。
【0068】
実施例2
表1に示すグラフト率、リガンド転化率のグラフト中空糸多孔膜を、実施例1と同様の方法で吸着材として作製した。洗浄用の水で濡れた状態からの乾燥の後、実施例1と同様のモジュールを組み立て、その状態で、強制循環型乾燥機を用いて大気圧下、50℃で48時間加熱することにより吸着材の乾熱処理を行った。乾熱処理後の吸着材に対して、表1に示す条件の湿熱処理を施した。湿熱処理は、吸着材に熱水を循環させる方法により行った。湿熱処理後の吸着材の動的吸着容量A
00、A
0及びA
1を実施例1と同様に測定した。
【0069】
実施例3
表1に示すグラフト率、リガンド転化率のグラフト中空糸多孔膜を、実施例1と同様の方法で吸着材として作製した。水による洗浄に続く4時間の加熱により吸着材を乾燥し、乾燥した吸着材を、そのまま強制循環型乾燥機を用いて大気圧下、70℃で12時間加熱することにより吸着材の乾熱処理を行った。乾熱処理の後、実施例1と同様のモジュールを組み立ててから、吸着材に対して表1に示す条件の湿熱処理を施した。湿熱処理後の吸着材の動的吸着容量A
00、A
0及びA
1を実施例1と同様に測定した。
【0070】
実施例4
グリシジルメタクリレートに代えてアクリル酸を用い、これをグラフト重合させて、リガンドとしてカルボン酸基(弱電解性陽イオン交換基)を含有するグラフト鎖を有するグラフト中空糸多孔膜を吸着材として作製した。グラフト率は35%であった。洗浄用の水で濡れた状態から40℃に加熱して吸着材を乾燥し、乾燥した吸着材をそのまま強制循環型乾燥機を用いて大気圧下、70℃で4時間加熱することにより、吸着材の乾熱処理を行った。乾熱処理の後、実施例1と同様のモジュールを組み立ててから、吸着材に対して表1に示す条件の湿熱処理を施した。湿熱処理後の吸着材の動的吸着容量A
00、A
0及びA
1を、指標タンパク質溶液としてリゾチーム溶液を用いたこと以外は実施例1と同様に測定した。
【0071】
実施例5
ナイロン6(0.2g)、塩化メチレン(10g)、蟻酸0.1gを室温で撹拌し、そこにt−ブチル次亜塩素酸ナトリウム2gを添加し、ナイロン6が溶解するのを待った。得られた溶液にさらに塩化メチレンを、全体質量が100gとなるように加えて、被膜形成のためのN−クロロ−ナイロン6溶液を得た。
【0072】
孔径0.45μm、膜厚0.15mmのセルロース誘導体からなる多孔質平膜(日本ミリポア株式会社)をN−クロロ−ナイロン6溶液に浸漬し、多孔質部に溶液が含浸するのを待った。溶液を含浸させた多孔質平膜から余剰の溶液を除去し、この膜をまず室温で乾燥し、次いで80℃の熱風循環乾燥器内で更に乾燥し、最後に140℃で15分間加熱することで、セルロース誘導体の多孔質平膜及びその表面を覆うN−クロロ−ナイロン6の被膜を有する平膜状の基体を得た。
【0073】
グリシジルメタクリレート(GMA)5%、Tween80(関東化学株式会社製)0.3%及び亜ジチオン酸ナトリウム0.1%の組成を有するリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)を反応容器内でよく撹拌した。このリン酸ナトリウム緩衝液に、上記の平膜状の基体を投入して、室温で12分間のグラフト重合反応を行った。反応後の膜を、純水、アセトンの順に洗浄の後、80℃で乾燥させることで、GMAがグラフト重合して形成されたグラフト鎖を有するグラフト多孔質平膜を得た。上述の式(1)より求められるグラフト率は8%であった。
【0074】
このグラフト多孔質平膜に対して、実施例1と同様の反応を施し、グラフト鎖に結合したリガンドとしてのジエチルアミノ(DEA)基(弱電解性イオン交換基)を有する多孔質平膜を吸着材として得た。上述の式(2)より求められるリガンド転化率は96%であった。
【0075】
得られたグラフト多孔質平膜を5枚重ね、その状態でステンレス製のフィルターホルダーに挟むことで、合計膜厚み8mm、有効膜面積15cm
2のモジュールを2つ組み立てた。その後、表1に示す条件の乾熱処理及び湿熱処理を吸着材に対して施した。湿熱処理後の吸着材の動的吸着容量A
00、A
0及びA
1を、実施例1と同様に測定した。
【0076】
比較例1
湿熱処理を行わなかったことの他は実施例1と同様にしてモジュールを作製し、その動的吸着容量A
00、A
0及びA
1を測定した。
【0077】
比較例2
乾熱処理を行わなかったことの他は実施例1と同様にしてモジュールを作製し、その動的吸着容量A
00、A
0及びA
1を測定した。
【0078】
実施例6〜11
表2に示すグラフト率、リガンド転化率のグラフト中空糸多孔膜を、実施例1と同様の方法で吸着材として作製した。それぞれの吸着材を用いて実施例1と同様のモジュールを組み立てた。得られたモジュールに対して、表2に示す条件の乾熱処理、湿熱処理を施した他は実施例1と同様にして、吸着材の吸着容量A
0及びA
1を測定した。実施例8の湿熱処理は、ウォーターバスによる加熱に代えて、吸着材に熱水を循環させる方法により行った。実施例10の湿熱処理は、ウォーターバスによる加熱に代えて、90℃の湯浴に漬けた状態のモジュールを90℃の乾燥機中で6時間加熱する方法により行った。実施例13の湿熱処理は、121℃に設定したオートクレーブ中で、モジュール内を湿熱処理液としての塩緩衝液で濡れた状態から余剰液を垂れ切り、ハウジングの全てのノズルを開放した状態にて、モジュールを加圧しながらモジュールを加熱する方法により行った。
【0079】
表1及び表2に測定結果を示す。実施例1〜13のいずれのモジュールについても、検定処理前後の動的吸着容量の変化率(A
1のA
0に対する変化率)は±5%以内であった。比較例1、2のモジュールの検定処理前後の変化率は、約10%〜20%に達した。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
実施例1〜5のモジュールに関して、動的吸着容量A
00とA
0とでほとんど違いがなく、長期保管時の安定性が非常に優れていることが確認された。これに対して、検定処理による変化率が大きい比較例1、2の場合、動的吸着容量A
00はA
0と比較して大きく低下しており、長期保管時の安定性に劣っていた。この結果から、検定処理前後の動的吸着容量の変化が少ないモジュールは、優れた長期保存安定性を示し得ることが確認された。
【0083】
さらに、実施例1のモジュールは、2回目の検定処理が施された後も、高い吸着性能を維持した。このことから、たんぱく質の吸着及び脱離後の吸着材であっても、高い安定性を示すことが確認された。