特許第6189248号(P6189248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189248プラスチック成形用金型鋼およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189248
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】プラスチック成形用金型鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20170821BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20170821BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C22C38/00 301H
   C22C38/00 302E
   C22C38/58
   C21D9/00 M
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-88326(P2014-88326)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-206090(P2015-206090A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年6月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】知念 響
(72)【発明者】
【氏名】間島 哲司
(72)【発明者】
【氏名】橋 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 達也
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−285049(JP,A)
【文献】 特開昭61−034162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/00
C21D 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.3〜2.0%、Cr:2.0〜6.0%、Ni:2.0%未満、Al:0.5%以下、B:0.001〜0.01%、MoとWを単独もしくは複合でMo+1/2W:0.4〜1.5%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつ不可避不純物中でCu:0.25%以下、S:0.002%以下、O:0.0015%以下、N:0.01%以下に規制した組成を有し、鋼中に存在するM23型のCr系炭化物粒子の平均粒径が等価円直径で70nm以下であることを特徴とするプラスチック成形用金型鋼。
【請求項2】
前記組成として、さらにV:0.3%以下を含有することを特徴とする請求項1記載のプラスチック成形用金型鋼。
【請求項3】
Ms点が420℃以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のプラスチック成形用金型鋼。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック成形用金型鋼を製造する方法であって、請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチック成形用金型鋼の組成を有する材料に、固溶化処理を行った後、400℃〜550℃で時効処理を行うことを特徴とするプラスチック成形用金型鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プリハードンタイプの高清浄度のプラスチック成形金型鋼およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形では、プラスチックが充填される金型の意匠面がプラスチックに転写されることから、金型の表面肌を管理する必要があり、鏡面磨き性は金型鋼として重要な特性の一つである。金型の鏡面磨き性に作用する因子の一つとして金型鋼の硬さが挙げられる。一般的に金型鋼の硬さが高いほど鏡面性は良くなる。これは、素地の硬さと、工業的に鋼を製造する上で不可避に生成する硬質な非金属介在物などとの硬さの差異が小さくなるためなどとして解釈されている。
【0003】
プラスチック製品の種々の鏡面性の要求に応えるために、様々な硬さを有する鋼種が金型鋼として製品化されている。例えば、研磨材の粒度がJIS#2000程度の比較的低い鏡面性で足りる場合には、ショア硬さが30HS程度の炭素鋼が、また、#10000以上の高い鏡面性が必要な場合には、50HSを超えるマルテンサイト系ステンレス鋼などが使われている。
【0004】
また、マルテンサイトもしくはベイナイトの素地に、鋼の製造工程において付加される熱処理によってNi−Al系金属間化合物及びCuなどを時効析出させ、硬さをロックウェル硬さで40HRC(54HS)程度に調整して出荷されるプリハードンタイプの金型鋼がある。特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5では、金属間化合物であるNiAlを析出させており、NiAlの析出強化作用によって硬さを確保することがこれらに共通した特徴となっている。
【0005】
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4及び特許文献5には、前記した析出硬化タイプの金型鋼の耐食性を改善するために、一定量のCrが添加された鋼種が提案されている。耐食性は塩化ビニルにおける塩素ガスなどのように、高腐食性のガスが発生する樹脂を用いる場合に必要である。また、金型内の溶融樹脂の合流部分において発生するウェルドラインを防止するために、近年になって金型の意匠面を急速加熱・冷却するウェルドレス成形法が開発された。この方法において、意匠面近傍に設けた配管内に蒸気や液体を通して加熱や冷却を行う場合、配管内表面に錆が生じれば金型への伝熱効率が低下するので、この点からも耐食性が必要である。このように、Crは耐食性の向上を目的として添加されているが、添加により生じるCr系炭化物を積極的に硬さ向上に利用した例はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−163248号公報
【特許文献2】特開2000−054068号公報
【特許文献3】特開2000−297353号公報
【特許文献4】特開2004−059993号公報
【特許文献5】特開2012−229474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した析出硬化タイプの金型鋼では、主にNi−Al系金属間化合物の析出によって必要な硬さを得ることから、Niを2.0%〜5.0%程度含有している。しかしながら、近年Niの価格は高騰しており、適正な価格での普及を実現する観点から、上記タイプの金型鋼におけるNi含有量の低下が望まれている。
【0008】
また、上記タイプの金型鋼では、NiAl等の微細析出物による析出強化を利用するため、固溶化後に時効処理を行うのが一般的である。固溶化後の冷却の際は、十分な速度で冷却し、マルテンサイト変態させる必要があるが、同鋼種群のマルテンサイト変態開始温度(Ms点)は420℃程度であるため、固溶化後に室温〜200℃の温度域まで冷却する必要がある。また、上記タイプの金型鋼では室温〜400℃の温度域では時効による硬さ向上の効果が得られず、400℃〜550℃の温度域では逆に硬さが過剰となる場合があるため、プリハードンタイプの金型用鋼に求められる40HRCの硬さを満たすには、550℃〜600℃程度まで加熱し、時効に加え焼戻し効果を与える必要があり、工程上効率が悪いという問題がある。
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、希少金属であるNi量を低減し、かつMs点の向上、また炭化物を主とした組織で構成されていることによる時効温度の低減により熱処理工程の効率化を可能とするプリハードンタイプの高清浄度プラスチック成形金型鋼およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のプラスチック成形金型鋼のうち、第1の本発明は、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.3〜2.0%、Cr:2.0〜6.0%、Ni:2.0%未満、Al:0.5%以下、B:0.001〜0.01%、MoとWを単独もしくは複合でMo+1/2W:0.4〜1.5%を含有し、残部がFe及び不可避不純物からなり、かつ不可避不純物中でCu:0.25%以下、S:0.002%以下、O:0.0015%以下、N:0.01%以下に規制した組成を有し、鋼中に存在するM23型のCr系炭化物粒子の平均粒径が等価円直径で70nm以下であることを特徴とする
【0011】
第2の本発明のプラスチック成形金型鋼は、前記第1の本発明において、前記組成として、さらにV:0.3%以下を含有することを特徴とする。
【0012】
第3の本発明のプラスチック成形金型鋼は、前記第1または第2の本発明において、Ms点が420℃以上であることを特徴とする。
【0014】
の本発明のプラスチック成形用金型鋼の製造方法は、前記第1〜第3の本発明のいずれかに記載のプラスチック成形用金型鋼を製造する方法であって、前記第1〜第3の本発明のいずれかに記載のプラスチック成形用金型鋼の組成を有する材料に、固溶化処理を行った後、400℃〜550℃で時効処理を行うことを特徴とする。
【0015】
本発明では硬さ向上の手段として、上記特許文献で用いられたNiAlの析出を必要とせず、微細なM23型のCrを主構成元素とする炭化物の析出を利用することによって、希少金属であるNiの低減を実現している。前記炭化物は等価円直径70nm以下が望ましく、より望ましくは等価円直径2〜50nmである。さらに、これらの結果生じるMs点の向上及び析出温度の低下によって、固溶化後の下げ切り温度及び時効温度をそれぞれ向上及び低下させ、効率的な熱処理工程が可能となることを見出した。
【0016】
次に、本発明で成分範囲を限定した理由を以下に説明する。
C:0.01〜0.15%
Cは焼入れ性を向上させる元素であり、また目的の硬さに調整するためにも0.01%以上の含有が必要である。一方、多量に含有した場合にはCrと結合して過剰の炭化物を形成し、素地のCr濃度低下に伴って耐食性が低下するとともに、溶接性も劣化することから、その上限を0.15%とする。なお、同様の理由で下限を0.03%、上限を0.1%とするのが望ましい。
【0017】
Si:0.5〜2.0%
Siは溶製時に脱酸剤として作用するとともに、被削性を向上させる効果も有する。そのためには、0.5%以上の含有を要する。一方、含有量が多い場合は、成分偏析が生じて鏡面性を劣化させるとともに、過度の靱性低下を招くので、その含有量の上限を2.0%とする。なお、同様の理由で下限を0.5%、上限を1.5%とするのが望ましい。
【0018】
Mn:0.3〜2.0%
Mnは焼入れ性向上に効果的な元素であり、添加により良好な機械的特性を得ることができる。その効果を得るためには、0.3%以上の含有が必要である。ただし、過度の含有は靱性の低下を招くので、上限を2.0%とした。なお、同様の理由で下限を0.3%、上限を1.5%とするのが望ましい。
【0019】
Cr:2.0〜6.0%
Crは耐食性の向上及び焼入れ性の向上に有効な元素であり、加えて本発明ではCと結合して微細なM23型炭化物を形成し、硬さを向上させる作用ももたらす。含有量を増加させるほどこれらの効果は顕著となるが、一方で過度の含有は熱伝導率、耐食性及び溶接性の低下につながることから、含有量を2.0〜6.0%に調整する必要がある。なお、同様の理由で下限を3.0%、上限を5.0%とするのが望ましい。
【0020】
Ni:2.0%未満
NiはAlと結合してNiAlを形成するが、本発明ではNiAlの析出を必要とせず、希少金属であるNiを低減した組織設計とすることから、含有量上限を2.0%未満としている。
なお、極端な焼入れ性の低下を防ぎ、加えて母相の強度と靱性を確保する目的から、下限を0.5%とするのが望ましい。
【0021】
Al:0.5%以下
これまでプリハードンタイプの金型材ではNiAlの析出強化を利用しているため、Alを添加しなければならなかったが、本発明はNiAlを析出させない設計であるため、NiAlを析出させるためのAlは不要である。ただし、製鋼時の脱酸効果を得るためにAlを添加してもよいが、その場合の含有量の上限は0.5%とする。なお、NiAlの析出を抑制するため、上限を0.05%未満とするのが望ましく、さらに0.03%以下とするのが一層望ましい。
【0022】
B:0.001〜0.01%
Bは焼入れ性の向上効果を有するに加えて、被削性を付与させる作用もあるため、0.001%以上の含有が必要である。一方で過度に含有した場合は、熱間加工性を阻害することに加えて溶接時の割れ感受性を高めるために、その上限を0.01%とする。なお、上記と同様の理由で上限を0.005%とするのが望ましい。
【0023】
Cu:0.25%以下
Cuは時効処理によって析出し、素材を硬化させる作用を有するものの、靱性を著しく劣化させる。また、Cu添加鋼を製造した場合、鋼塊製造用の設備がCuで汚染されて、同一設備を使って製造するその後の製品にCuが混入する可能性がある。Cuは熱間加工性の著しい低下をもたらすので、Cu添加鋼を製造した後に、比較的Cu感受性が低い鋼を釜洗いの目的で製造するなどの制約が生じる。したがって、Cu含有量は、不可避不純物として極力低減させる必要があり、上限を0.25%に規制する。
【0024】
S:0.002%以下、O:0.0015%以下、N:0.01%以下
SはMn、OはSiやAlなど、NはAlなどと結合して非金属介在物を形成する。これらは、鏡面研磨時に脱落してピンホール欠陥の原因になりうるため、鏡面性を高める上での障害となる。また、腐食環境下での錆の起点ともなりうる。これらの理由から、上記した非金属介在物はできるだけ少なくするのが望ましく、そのためには、S、O、Nの含有量を極力低減させることが必要である。このため、S、O、Nの上限は、それぞれ0.002%、0.0015%、0.01%とする。
【0025】
Mo+1/2W:0.4%〜1.5%
MoとWは、溶体化処理後の冷却時あるいは時効処理時に微細な炭化物を形成し、硬さ向上の役割を果たすが、過剰に添加すると靱性の低下をもたらすことから、上限及び下限を定めることが必要である。ここでWは、Moに対して質量%でほぼ倍の量で同様の効果が認められることから、Mo+1/2Wの計算式で、下限を0.4%、上限を1.5%に規制する。なお、上記と同様の理由で下限を0.5%、上限を1.0%とするのが望ましい。
【0026】
V:0.3%以下
Vは焼戻し軟化抵抗性を高めるとともに、硬質の炭化物を微細に形成して耐磨耗性を向上させる効果があるので所望により含有させることができる。ただし、多すぎると金型加工時の工具の摩耗を増加させるとともに、多量の炭化物の析出による靱性低下を招くので、0.3%以下とする。
【0027】
次に、本発明でM23型のCr系炭化物粒子の平均粒径を限定した理由を以下に述べる。
本発明では、析出強化を目的としてM23型のCr系炭化物を析出させているが、析出粒子が微細なほど硬化作用が得られることから、等価円直径は70nm以下が望ましく、より望ましくは50nm以下とする。ただし、炭化物粒子の過度の微細化には体積分率の減少が伴い、これによる硬さの低下が避けられないことから、粒子径の下限値を2nmとするのが望ましい。
【0028】
また、本発明では、Ms点が420℃以上であるのが望ましい。Ms点を高めることで、固溶化後の下げ切り温度を向上させることができ、効率的な熱処理工程が可能となる効果がある。
【0029】
また、本発明の製造方法では、固溶化処理を行った後、400℃〜550℃で時効処理を行うことで、等価円直径70nm以下の微細なM23型Cr系炭化物の析出を硬さ向上手段として利用するため、NiAlの析出を利用しない組織設計が可能となり、その結果、希少金属であるNiの低減が可能となる。さらに、これらの結果生じるMs点の向上及び析出温度の低下によって、固溶化後の下げ切り温度及び時効温度をそれぞれ向上及び低下させる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明では、微細なM23型Cr系炭化物の析出を硬さ向上手段として利用するため、NiAlの析出を利用しない組織設計が可能となり、その結果、希少金属であるNiの低減が可能となる。さらに、Ms点の向上及び析出温度の低下によって、効率的な熱処理工程が可能となる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例における発明鋼及び比較鋼のMs点及びMf点を示す図である。
図2】同じく、発明鋼及び比較鋼におけるロックウェルCスケール硬さと時効温度の関係を示す図である。
図3】同じく、発明鋼の明視野像を示す図面代用写真である。
図4】同じく、炭化物体積を一定とした場合のロックウェルCスケール硬さと平均炭化物粒子径の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の金型鋼は常法により溶製することができるが、S、O、Nを厳格に規制するという点では、エレクトロスラグ再溶解法を採用するのが望ましい。また、エレクトロスラグ再溶解法では、厳密な組織が得られるために、この点からも鏡面性に対して有利である。該溶解法では、任意のエレクトロスラグ再溶解鋳塊が得られるように成分設計した電極を用いて溶製される。
好適には、エレクトロスラグ再溶解法により溶製された鋳塊は必要に応じて鍛造などの加工を施し、さらに熱処理を行う。
【0033】
熱処理工程では、固溶化処理及び時効処理を行う。
固溶化処理は、850〜1300℃に加熱して行うことができる。時効処理温度はM23型Cr系炭化物による析出強化を図るため、400℃〜550℃とするのが望ましい。時効処理の時間は特に限定されるものではないが、5〜15時間を例示することができ、冷却は、10℃/時間以上の冷却速度で行うのが望ましい。
上記した熱処理によりプリハードンされた金型鋼は、良好な鏡面研磨性や耐食性、靱性を示し、かつNi量の低減及び熱処理工程の効率化を可能とする。
【実施例1】
【0034】
本発明の実施例を以下に説明する。
表1に、供試材として用意した本発明の成分範囲になる発明鋼と、本発明の成分範囲を外れた比較鋼の化学成分(残部Feおよびその他の不可避不純物)を示す。
極低S化を実現するため、鋳塊製造過程においてエレクトロスラグ再溶解法を用いた。鋳塊溶製後、鍛造により所定寸法への加工を行い、焼ならし、溶体化、時効処理を行い、硬さを約40HRCに調整した。
その際の溶体化処理条件は950℃×4時間とした。また、上述の熱処理を行った試料の硬さ及びシャルピー衝撃試験の結果も表1に示した。シャルピー衝撃試験の際は、JIS Z 2242で規定されているノッチ深さ2mmのUノッチ試験片を用い、室温にて試験を実施した。
【0035】
【表1】
【0036】
上記供試材より試験片を採取し、以下に記す各種特性を調査した。
得られた供試材のうち、発明鋼1と比較鋼1について、Ms点とMf点とを測定し、その結果を図1に示した。その結果から分かるように、オーステナイト安定化元素であるNiの低減によって発明鋼のMs点およびMf点はともに比較鋼1のそれより30℃向上した。
【0037】
次に時効温度を、固溶化まま、200℃、300℃、400℃、450℃、500℃、550℃、600℃で変えて、ロックウェルCスケール硬さを測定し、図2の測定結果を示した。その結果、比較鋼1および2においては、少なくとも450〜500℃の時効によって目標硬さ上限を超えるため、550℃程度で時効する必要があるが、発明鋼1は400〜500℃で目標硬さを満たしており、より低温の時効によって目標硬さが得られることが確認された。
【0038】
発明鋼1について、日本電子株式会社製のTEM(透過型電子顕微鏡)の明視野像を撮影し、図3に示した。
図3から明らかなように、等価円直径20〜30nm程度のM23型Cr炭化物が母相中に析出していることが確認された。
【0039】
また、時効温度及び時間を変化させることにより、M23型のCr系炭化物の平均炭化物粒子径を変え、その際のロックウェルCスケール硬さを測定し、その結果を図4に示した。平均炭化物粒子径は、前記TEM装置で測定した明視野像面積を画像解析ソフトにより測定し、同一の面積となる円の直径を算出して求めた。
図4から分かるように、M23型のCr系炭化物の平均粒子径を70nm以下にすることで、目標硬さ37〜42HRCが得られた。また、50nm以下にすることで40HRC程度に調整可能であることが確認された。
【0040】
以上、本発明について上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明の範囲を逸脱しない限りは適宜の変更が可能であり、その変更した内容は本発明の範囲内である。
図1
図2
図3
図4