(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウム製ルーフパネルと鋼製ルーフ補強材との間に熱硬化型接着樹脂を介して接着する接着工程と、前記接着工程後に焼付塗装処理が施される焼付塗装工程と、を備えた自動車車体の製造方法であって、
前記焼付塗装工程の間、前記ルーフパネルと前記ルーフ補強材との間にスペーサを設置して両者の間隔を固定し、
前記焼付塗装工程後に、前記スペーサを取外すことを特徴とする自動車車体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化のために、ルーフパネルのアルミニウム化が進んでいる(例えば、特許文献1参照)。ところが、自動車の車体構造の主たる部分(特に、ルーフサイドレール)には鋼材が使われている。
【0003】
したがって、特許文献1において、ルーフパネルのアルミニウム化を進めた場合、ルーフサイドレールにルーフパネルを接合する際、異材接合が必要になるばかりか、焼付塗装工程時に鋼材とアルミニウム材(ここで、アルミニウム材とは、純アルミニウム材とアルミニウム合金材を含めた総称である)の線膨張係数の差に起因して両者の接合箇所およびその近傍に熱変形(塑性歪み)が生じる。この熱変形が焼付塗装工程後も残留し{すなわち、硬化した(熱硬化型接着樹脂としてのマスチック接着樹脂(以下、単に「マスチック樹脂」とも言う))によって、接着されたルーフパネルに残留変形(
図9における符号Bで示された破線で囲まれた箇所)を生じさせ}、ルーフパネルの形状精度に悪影響を与えることがある。さらに、ルーフ補強材までもアルミニウム化した場合、上記問題の多少の改善は認められるものの、残念ながらルーフパネルに上述したような残留変形が発生する虞が依然として残る。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された技術の上述したような問題を少しでも抑えるための解決策として、ルーフ補強材もアルミニウム化した上で、さらにこのルーフ補強材の車体幅方向(長手方向)に、上述した熱膨張差を吸収する屈曲部を設けた構造を採用した技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
別の解決策として、ルーフ補強材もアルミニウム化した上で、さらにこのルーフ補強材に開口を設けた構造を採用した技術も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2および3に開示されたような技術を採用した場合、ルーフパネルとルーフ補強材の間に介在するマスチック樹脂によるルーフパネルの残留変形の改善効果は発揮される。しかし、ルーフ補強材全体としては、弱体化してしまうため、ルーフ補強材に要求される剛性や強度が確保できなくなるといった問題点があった。
【0008】
本発明の目的は、焼付塗装工程後に、硬化した熱硬化型接着樹脂によって、ルーフパネルに残留変形が生じない自動車車体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために、第1発明に係る自動車車体の製造方法は、
アルミニウム製ルーフパネルと鋼製ルーフ補強材との間に熱硬化型接着樹脂を介して接着する接着工程と、前記接着工程後に焼付塗装処理が施される焼付塗装工程と、を備えた自動車車体の製造方法であって、
前記焼付塗装工程の間、前記ルーフパネルと前記ルーフ補強材との間にスペーサを設置して両者の間隔を固定することを特徴とする自動車車体の製造方法である。ここに言う「スペーサ」とは、前記ルーフパネルと前記ルーフ補強材との間の『間隔の寸法を規定する機能を有する部分』、前記「間隔の寸法を規定する機能を有する部分」と前記ルーフパネルとが前記焼付塗装工程の間において『離間しないようにする機能を有する第1部分』および前記「間隔の寸法を規定する機能を有する部分」と前記ルーフ補強材とが前記焼付塗装工程の間において『離間しないようにする機能を有する第2部分』の3つの機能部分を有したものである。
【0010】
また、第2発明に係る自動車車体の製造方法は、第1発明に係る自動車車体の製造方法において、前記焼付塗装工程後に、前記スペーサを取外すことを特徴とする。
【0011】
また、第3発明に係る自動車車体の製造方法は、第2発明に係る自動車車体の製造方法において、前記スペーサには、取外すための把手が予め設けられていることを特徴とする。
【0012】
また、第4発明に係る自動車車体の製造方法は、第1発明に係る自動車車体の製造方法において、前記焼付塗装工程後に、前記スペーサを設置したままにしておくことを特徴とする。
【0013】
また、第5発明に係る自動車車体の製造方法は、第1〜4のいずれかの発明に係る自動車車体の製造方法において、前記スペーサは、前記ルーフパネルと前記ルーフ補強材との間の車幅方向の中央部のみに設置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明は、
アルミニウム製ルーフパネルと鋼製ルーフ補強材との間に熱硬化型接着樹脂を介して接着する接着工程と、前記接着工程後に焼付塗装処理が施される焼付塗装工程と、を備えた自動車車体の製造方法であって、
前記焼付塗装工程の間、前記ルーフパネルと前記ルーフ補強材との間にスペーサを設置して両者の間隔を固定することを特徴とする。
【0015】
このように、スペーサが設置されたことにより、焼付塗装工程における加熱過程で(すなわち、熱膨張時に)、ルーフパネルとルーフ補強材との隙間が著しく広がる(熱変形する)のを防止し、前記隙間を規定寸法に維持することが可能となる。したがって、焼付塗装工程後にも、硬化した熱硬化型接着樹脂によって、ルーフパネルに残留変形を生じさせることがないという作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態1の自動車車体の製造方法における焼付塗装前の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【
図2】同実施形態1の自動車車体の製造方法における焼付塗装前(破線)と焼付塗装時(実線)の形状変化を示す模式断面図である。
【
図3】同実施形態1の自動車車体の製造方法における焼付塗装完了後の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【
図4】本発明に係る自動車車体の製造方法におけるスペーサおよびマスチック樹脂の設置位置(スペーサは、車幅方向の中央部のみに設置)を説明するための平面視説明図である。
【
図5】本発明に係る自動車車体の製造方法におけるスペーサおよびマスチック樹脂の設置位置(車幅方向の複数個所に設置)を説明するための平面視説明図である。
【
図6】本発明に係る自動車車体の製造方法における種々のスペーサ形状等を示す模式断面図である。
【
図7】従来の自動車車体の製造方法における焼付塗装前の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【
図8】従来の自動車車体の製造方法における焼付塗装前(破線)と焼付塗装時(実線)の形状変化を示す模式断面図である。
【
図9】従来の自動車車体の製造方法における焼付塗装完了後の自動車のルーフ構造の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者は、如何にすれば、
ルーフ補強材全体としての弱体化を招くことなく(すなわち、ルーフ補強材に要求される剛性や強度が確保されたまま)、焼付塗装工程後に、硬化した熱硬化型接着樹脂によって、ルーフパネルに残留変形が生じない自動車車体の製造方法を実現することができるか鋭意研究を行った。その結果、以下に説明するような構成を採用することで初めて目的を達成できることを見出した。以下、本発明について、実施形態を例示しつつ、詳細に説明する。
【0018】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1の自動車車体の製造方法における焼付塗装前の自動車のルーフ構造の模式断面図、
図2は同実施形態1の自動車車体の製造方法における焼付塗装前(破線)と焼付塗装時(実線)の形状変化を示す模式断面図、
図3は同実施形態1の自動車車体の製造方法における焼付塗装完了後の自動車のルーフ構造の模式断面図である。なお、
図1〜
図3においては、本発明に係る自動車のルーフ構造の一部(ルーフパネルとルーフ補強材の各々の片側半部およびルーフサイドレール)を示す。
【0019】
図1〜
図3において、1は車室内を囲む鋼製ボデーの一部である左右のルーフサイドレール、2は車体幅方向に延在する鋼製プレス成形品からなるルーフ補強材、3はアルミニウム合金製ルーフパネル、4は熱硬化型接着樹脂としてのマスチック樹脂、5は上述した「間隔の寸法を規定する機能を有する部分」としての金属製ブロック、6は上述した「離間しないようにする機能を有する第1部分」および上述した「離間しないようにする機能を有する第2部分」としての耐熱性を有するそれぞれ上方および下方の両面テープである。金属製ブロック5は、アルミニウム合金製であり、その形状はルーフパネル3とルーフ補強材2の隙間、スペーサ7(後記詳細)が設置されるルーフ補強材2のフランジ形状(後記詳細)、に合わせた略直方体(厚さ2〜5mm、幅10〜30mm、長さ10〜50mm)である。また、上方および下方の両面テープ6は、焼付塗装温度でも接着能を有するものであればよく、様々なものが使用可能である。なお、本実施形態の場合、スペーサ7は、上方の両面テープ6、金属製ブロック5および下方の両面テープ6からなる。
【0020】
また、ルーフサイドレール1、ルーフ補強材2およびルーフパネル3には、それぞれフランジ1a、2aおよび3aが設けられている。そして、ルーフ補強材2がルーフパネル3の下で上方に凸に湾曲して車体幅方向に延在し、このルーフパネル3とルーフ補強材2を接合するためのマスチック樹脂4がルーフパネル3とルーフ補強材2の間に介在されている。さらに、ルーフパネル3とルーフ補強材2との間には、両者の間隔を固定するスペーサ7が車体幅方向の中央部分のみに設置されている。
【0021】
また、ルーフサイドレール1のフランジ1a上には、ルーフ補強材2のフランジ2aおよびルーフパネル3のフランジ3aが重ねられ、ボルトで機械的に接合されている。なお、
図1に示す自動車のルーフ構造は、ルーフパネル3{従来例(
図7参照)に示すルーフパネル13相当}とルーフ補強材2{
図7に示すルーフ補強材12相当}の間に、両者の間隔を固定するスペーサ7が車体幅方向の中央部分に設置された構成である。
【0022】
次に、
図1に示す自動車のルーフ構造を有する鋼製ボデーを、焼付塗装炉に装入して170〜200℃に加熱したときの状態を
図2に示す。
図2に、自動車のルーフ構造の焼付塗装前(破線)と焼付塗装時(実線)の形状変化を示し、従来例の変形モードと比較しながら以下に説明する。
【0023】
図2に示される(本発明に係る)スペーサ7が設置されていない場合には、従来例(
図8参照)のように、ルーフパネル13は車体前後方向と車体幅方向の熱膨張分の釣り合いからルーフパネル13の中央部で車体上方向に持ち上がり、車体幅方向の中央部付近全体が盛り上がった変形モードとなるが、車体幅方向に伸びるルーフ補強材12は車体幅方向の全体が車体上方向に略一様に少し盛り上がったように変形する。したがって、焼付塗装時(加熱過程の熱膨張時)に車体幅方向の中央部分のルーフパネル13とルーフ補強材12との隙間は、焼付塗装前{すなわち、加熱過程前(熱膨張が発生する前)}に比べて大幅に広くなる。しかし、本発明においては、
図2に示すように、ルーフパネル3とルーフ補強材2との間に、両者の間隔を固定するスペーサ7が設置されているため、従来例(
図8参照)のような線膨張係数の差に起因した熱変形(塑性歪み)が生じることはない。
【0024】
続いて、
図2に示す焼付塗装の完了後(すなわち、室温まで冷却させた後)の自動車のルーフ構造の状態を
図3に示す。室温まで冷却させると、ルーフパネル3、ルーフ補強材2とルーフサイドレール1が熱収縮し、ルーフパネル3とルーフ補強材2との間の隙間は、両者の間隔を固定するスペーサ7で規定される隙間に戻る(すなわち、
図1に示す当初の形状に戻る)。したがって、従来例(
図9参照)ならば、焼付塗装工程後に、硬化した(すなわち、極めて硬いバネ特性を有する)マスチック樹脂(14a、14bおよび14c)によるルーフパネル13の残留変形(
図9における符号Bで示された破線で囲まれた箇所)が、本発明の場合は生じない(
図3参照)。
【0025】
なお、本実施形態においては、スペーサ7を構成する金属製ブロック5はアルミニウム合金製である場合について説明したが、これに限定されるものではなく、金属としては鋼、ステンレス、またはゴム等でも焼付塗装温度で著しく剛性や強度の低下しない材質のものであれば広範な材料が使用可能である。また、金属製ブロック5の形状や寸法も、製品仕様に合わせて、ルーフパネル3とルーフ補強材2との間を規定の間隔に固定することができるものであれば、様々なものが使用可能である(詳細は、後記
図6にて説明する)。また、この金属製ブロック5は、例えば焼付塗装前に耐熱性を有する上方および下方の両面テープ6を介してルーフパネル3とルーフ補強材2にそれぞれ固定され、焼付塗装後に剥がすことが出来るようにすれば、不要な重量も防止できるというさらなる作用効果を奏する。
【0026】
また、本実施形態においては、一体のスペーサ7をルーフパネル3とルーフ補強材2との間に、車体幅方向の中央部分のみに設置する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、一体のスペーサ7を車体幅方向の中央部分において複数に分割して設置してもよい(
図4参照)。
【0027】
また、本実施形態においては、一体のスペーサ7をルーフパネル3とルーフ補強材2との間に、車体幅方向の中央部分のみに設置する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、一体のスペーサ7を車体幅方向の中央部分含めて、車体幅方向の複数の箇所に設置してもよいし、一体のスペーサ7と分割されたスペーサ7の組合せや分割されたスペーサ7のみの組合せのものを車体幅方向の中央部分含めて、車体幅方向の複数の箇所に設置してもよい(
図5参照)。
【0028】
また、本実施形態においては、熱硬化型接着樹脂としてマスチック樹脂を用いた場合について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、熱硬化型樹脂であり、かつ、接着性を有するものであれば種々のものが採用可能である。
【0029】
また、本実施形態においては、スペーサ7を構成する金属製ブロック5の形状としては、単純な矩形状であり、かつ、ルーフ補強材2の断面形状としても、単純な両フランジ2b付きのU字状断面の例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、
図6に示すような種々の形状(但し、方向としては、
図1に示す矢印Aの方向から見た形状)を採用可能である。
図6(a)は両フランジ2b付きのU字状断面のルーフ補強材2と左右対称に分割したスペーサ7(上方の両面テープ6、金属製ブロック5および下方の両面テープ6から構成される)の組合せ、
図6(b)は両フランジ2b付きのU字状断面のルーフ補強材2と左右対称に分割され、さらにフランジ2bを嵌入させルーフ補強材2が金属製ブロック5から離間しないように機能させるための溝5b(離間しないようにする機能を有する第2部分)が金属製ブロック5に設けられ、金属製ブロック5の上面には上述した「離間しないようにする機能を有する第1部分」としての上方の両面テープ6が設けられるスペーサ7(上方の両面テープ6と金属製ブロック5から構成される)、
図6(c)は基本的に
図6(a)と
図6(b)の折衷案であり、さらにルーフ補強材2の底2dに突起2eが形成された組合せ、
図6(d)は
図6(b)の変形であり、さらに金属製ブロック5の端部に取外すための把手5cが予め設けられた組合せのスペーサ7、
図6(e)は
図6(a)の変形であり、スペーサ7を構成する金属製ブロック5にテーパが設けられ、取外し易くしたもの、
図6(f)は
図6(e)の変形であり、
図6(e)とは逆の傾斜のテーパが金属製ブロック5に設けられ、取外し難くしたもの(すなわち、スペーサ7を設置したままにしておくもの)、
図6(g)は
図6(a)の変形であり、金属製ブロック5の下端に突起5d、フランジ2bに下向きの突起2c{突起5d(離間しないようにする機能を有する第2部分)を突起2cに嵌入させることで金属製ブロック5がルーフ補強材2から離間しない}、金属製ブロック5の上面とルーフパネル3の間に上述した「離間しないようにする機能を有する第1部分」としての上方の両面テープ6が設けられたもの、
図6(h)は基本的に
図6(b)と
図6(g)の折衷案である。
図6において、種々の形状のスペーサ7について説明したが、これもほんの一例であり、様々なものを適用可能である。すなわち、スペーサとしては、上述したように、ルーフパネルとルーフ補強材との間の『間隔の寸法を規定する機能を有する部分』、前記「間隔の寸法を規定する機能を有する部分」と前記ルーフパネルとが焼付塗装工程の間において『離間しないようにする機能を有する第1部分』および前記「間隔の寸法を規定する機能を有する部分」と前記ルーフ補強材とが前記焼付塗装工程の間において『離間しないようにする機能を有する第2部分』の3つの機能部分を有したものであれば、様々なものを適用可能である。
【0030】
また、本実施形態においては、ルーフサイドレール1のフランジ1a上には、ルーフ補強材2のフランジ2aおよびルーフパネル3のフランジ3aが重ねられ、ボルトで機械的に接合する例について説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、リベットなどの機械的接合あるいは溶接接合 (スポット溶接等) を適宜選択、組み合わせて用いることも可能である。
【0031】
本発明で、ルーフパネルに用いるアルミニウム合金は、製造がしやすく、成形が容易で、強度にも優れたAA乃至JIS3000系、5000系、6000系、7000系等のアルミニウム合金の調質材(熱処理材)を適宜選択して用いる。また、アルミニウムとしては、上述したアルミニウム合金以外の純アルミニウムを対象とすることも可能である。本発明に言う「アルミニウム製」とは、上述のアルミニウム合金と純アルミニウムを含めた総称である。