【文献】
田中信行,近藤誠,大和雅之,岡野光夫,金子真,「細胞シートの顕微鏡下非接触弾性センシング」,No.12−2第17回ロボティクスシンポジア 講演論文集,日本,一般社団法人 日本機械学会,2012年 3月13日,1A1,p1-p6
【文献】
N.Tanaka, M.Kaneko, R.Uchida, M.Kondo, M.Yamato, T.Okano,"Noncontact evaluation of the wetting characteristic of a cellsheet in culture medium",2012 IEEE International Conference on Mechatronics and Automation,2012年 8月 5日,p.986-991
【文献】
N.Tanaka et al.,Noncontact Active Sensing for Viscoelastic Parameters of Tissue With Coupling Effect",IEEE TRANSACTIONS ON BIOMEDICAL ENGINEERING,2011年 3月,Vol.58,No.3,p.509-p.520
【文献】
R.Uchida et al.,"Cell Sheet Stiffness Sensing without Taking out from Culture Liquid",32nd Annual International Conference of the IEEE EMBS,2010年 8月31日,p.827-p.830
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(2)が、液体が排除された領域を撮影し、得られた撮影像から液体が排除された領域の寸法を取得することにより実施される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<1>本発明の評価方法
本発明の評価方法は、物質(object)の濡れ性を評価する方法である。
【0017】
濡れ性を評価する物質は特に制限されない。すなわち、例えば、物質の種類、材質、形状、用途は特に制限されない。物質の形状としては、例えば、シート状、プレート状、曲面状、柱状、多面体状、容器状、およびそれらの組み合わせが挙げられる。物質は、例えば、医療用、治療用、実験用、または細胞培養用の、器具や素材であってよい。
【0018】
シート状の形状を有する物質(シート状物質ともいう)としては、例えば、細胞シートが挙げられる。細胞シートは、いずれの種類の細胞から製造されたものであってもよい。細胞シートの細胞ソースとして、具体的には、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞、口腔粘膜上皮細胞、角膜輪部細胞、歯根膜細胞、繊維芽細胞、肝臓細胞、膵臓細胞、軟骨細胞、鼻粘膜細胞、筋芽細胞が挙げられる。細胞ソースは、生体組織から分離された細胞であってもよく、生体組織から分離された細胞を培養および/または分化させて得られた細胞であってもよく、それらを遺伝子工学等の手法により改変して得られた細胞であってもよい。細胞が由来する生物は特に制限されず、使用目的等に応じて適宜選択することができる。細胞が由来する生物として、例えば、哺乳類が挙げられる。哺乳類として、具体的には、例えば、ヒト、ラット、マウス、モルモット、マーモセット、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、チンパンジーが挙げられる。細胞シートをヒトの治療に用いる場合は、例えば、ヒト、ブタ、またはチンパンジー由来の細胞を用いるのが好ましい。細胞ソースとしては、1種の細胞のみを用いてもよく、2種またはそれ以上の細胞を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
シート状物質の厚さは、均一であってもよく、均一でなくてもよい。シート状物質の厚さは、シート状物質の、全体において均一であってもよく、一部において均一であってもよい。シート状物質の厚さは、例えば、少なくとも、気体の噴射によりその表面が露出する領域において、均一であってよい。シート状物質の厚さは、特に制限されないが、例えば、0.01μm以上、0.1μm以上、1μm以上、または3μm以上であってよく、5mm以下、1mm以下、500μm以下、または100μm以下であってよい。シート状物質の厚さは、具体的には、20μmであってよい。シート状物質の厚さは、シート状物質の、全体において上記例示した範囲であってもよく、一部において上記例示した範囲であってもよい。シート状物質の厚さは、少なくとも、気体の噴射によりその表面が露出する領域において、上記例示した範囲であってよい。
【0020】
容器状の形状を有する物質(容器状物質ともいう)としては、例えば、培養皿が挙げられる。培養皿は、細胞の培養に用いることができるが、細胞の培養以外の用途に用いられてもよい。培養皿は、例えば、プラスチック製またはガラス製であってよい。培養皿は、その表面がコーティング処理されたものであってよい。コーティング処理に用いられる成分としては、例えば、コラーゲン、細胞外基質、温度応答性ポリマーが挙げられる。すなわち、培養皿として、具体的には、例えば、温度応答性ポリマーでコーティングされた培養皿(温度応答性培養皿)が挙げられる。また、培養皿は、各種表面処理がなされていてよい。表面処理としては、酸素プラズマによる処理が挙げられる。
【0021】
物質は、その表面が液体で覆われた状態で、本発明の評価方法に供される。物質は、濡れ性を評価する表面が液体で覆われている限り、その他の部位は、液体で覆われていてもよく、いなくてもよい。例えば、シート状物質は、濡れ性を評価する側の表面のみが液体で覆われていてもよく、両表面が液体で覆われていてもよい。なお、本発明において、「(物質の)表面」とは、特記しない限り、濡れ性が評価される表面、言い換えれば、気体が噴射される表面、を意味してよい。物質は、所望の箇所において濡れ性の評価を行える限り、その表面の全体が液体で覆われていてもよく、その表面の一部のみが液体で覆われていてもよい。例えば、物質は、その表面の50%以上、80%以上、90%以上、95%以上、99%以上、または100%が液体で覆われていてよい。物質は、本来的にその表面が液体で覆われているものであってもよく、本発明の評価方法に供するに際しその表面を液体で覆ったものであってもよい。物質は、液体中に浸漬されていてもよい。物質は、液体中で、浮遊していてもよく、底に沈んでいてもよい。物質は、液体中で、固定されていてもよく、そうでなくてもよい。物質は、例えば、その表面が液体で覆われ、その他の部位で任意の部材に固定されていてもよい。そのような態様として、具体的には、例えば、培養器具(例えば培養皿や培養用インサート)上に結合し、且つ液体培養培地で覆われた細胞シートが挙げられる。培養器具上に形成された細胞シートは、例えば、そのまま本発明の評価方法に供してもよく、培地を任意の液体に置換してから本発明の評価方法に供してもよく、培養器具から剥離して任意の液体中に浸漬してから本発明の評価方法に供してもよい。また、細胞シートのみならず、培養器具の培養に関与する表面を実際の培養時に用いられる培地で覆い本発明の評価方法に供すれば、実際の培養時と同一の条件で当該表面の濡れ性を適切に評価することができる(実施例2参照)。
【0022】
液体の種類は特に制限されず、物質の濡れ性を評価したい任意の液体を利用できる。液体としては、例えば、水性媒体が挙げられる。水性媒体は、水からなるものであってもよく、他の成分を含むものであってもよい。他の成分としては、1種の成分のみが含まれていてもよく、2種またはそれ以上の成分が含まれていてもよい。水性媒体としては、例えば、水、緩衝液、液体培養培地が挙げられる。液体は、例えば、細胞シート等の細胞の培養に用いられる、あるいは細胞シート等の細胞の培養に用いられた、液体培養培地であってもよい。
【0023】
液層の厚さは、均一であってもよく、均一でなくてもよい。液層の厚さは、物質の表面上の、全体において均一であってもよく、一部において均一であってもよい。液層の厚さは、例えば、少なくとも、気体の噴射により物質の表面が露出する領域において、均一であってよい。液層の厚さは、気体の噴射により物質の表面が露出する限り特に制限されず、液体の種類や気体の噴射量等の諸条件に応じて適宜設定できる。液層の厚さは、例えば、0.5mm〜5mmであってよく、具体的には、1mmであってよい。液層の厚さは、物質の表面上の、全体において上記例示した範囲であってもよく、一部において上記例示した範囲であってもよい。液層の厚さは、少なくとも、気体の噴射により物質の表面が露出する領域において、上記例示した範囲であってよい。
【0024】
物質は、液体を保持できる状態で、本発明の評価方法に供することができる。例えば、物質は、液体と共に適当な容器内に入った状態で、本発明の評価方法に供することができる。容器としては、例えば、細胞培養皿が挙げられる。また、例えば、物質は、物質自体が容器として液体を保持した状態で、本発明の評価方法に供することもできる。そのような態様として、具体的には、例えば、液体を保持する培養皿の内表面(内底面)の濡れ性を評価する場合が挙げられる。物質は、例えば、その表面が水平になるように設置されて、本発明の評価方法に供されてよい。物質は、その表面の全体が水平になるように設置されて本発明の評価方法に供されてもよく、その表面の一部のみが水平になるように設置されて本発明の評価方法に供されてもよい。物質は、例えば、少なくとも、気体の噴射によりその表面が露出する領域において、その表面が水平になるように設置されて、本発明の評価方法に供されてよい。
【0025】
本発明の評価方法は、液体に覆われた物質の表面に気体を噴射する工程を含む。同工程を、「気体噴射工程」ともいう。気体の噴射により、物質の表面を覆っている液体が一時的に排除され、液層の底部に物質の表面が露出する。液体が排除された領域、すなわち、液層に形成された孔状の構造、を「液体排除領域」ともいう。液体排除領域は、通常、円状の断面を有する孔状の構造である。
【0026】
気体の種類は特に制限されず、物質の材質等の諸条件に応じて適宜設定できる。気体としては、物質に悪影響を与えないものを選択して用いるのが好ましい。気体としては、空気や不活性ガスが挙げられる。不活性ガスとして、具体的には、例えば、窒素やアルゴンが挙げられる。気体は、滅菌してから用いてもよく、そうでなくてもよい。気体としては、1種の気体のみを用いてもよく、2種またはそれ以上の気体を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
気体の噴射量は、物質の材質、液体の種類、液層の厚さ等の諸条件に応じて適宜設定できる。気体の噴射量は、例えば、気体の噴射時の液体排除領域の直径が、例えば2mm〜10mm、具体的には5mm、となるような噴射量であってよい。また、気体の噴射量は、例えば、物質へ印加される力が、例えば1mN〜20mN、具体的には5mN、となるような噴射量であってよい。また、気体の噴射量は、例えば、物質へ印加される圧力が、例えば2kPa〜50kPa、具体的には14kPa、となるような噴射量であってよい。
【0028】
気体は、液層の上方から噴射される。気体は、液層の鉛直上方から噴射されてもよく、液層の斜め上方から噴射されてもよい。気体は、液層の鉛直上方から噴射されるのが好ましい。気体が液層の斜め上方から噴射される場合、その角度は、寸法を測定可能な液体排除領域が形成される限り特に制限されないが、液層表面に対して垂直に近いのが好ましい。
【0029】
気体の噴射は、1回のみ行われてもよく、2回またはそれ以上行われてもよい。気体の噴射は、連続的に行われてもよく、間欠的に行われてもよい。気体の噴射が、2回またはそれ以上行われる場合、気体の種類、噴射量、噴射時間等の条件は、各回で同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、気体の噴射が連続的に行われる場合、気体の種類や噴射量等の条件は、噴射の過程を通じて一定であってもよく、そうでなくてもよい。気体の噴射時間は、例えば、0.1秒〜5秒であってよく、具体的には、1秒であってよい。気体の噴射は、通常、一定の条件で連続的に行ってよい。
【0030】
気体を噴射する方法は、寸法を測定可能な液体排除領域が形成される限り、特に制限されない。気体の噴射は、適当な気体噴射手段を利用して行うことができる。気体噴射手段としては、気体の噴射部と気体の供給部を適宜組み合わせて用いることができる。気体の噴射部としては、気体用ノズルが挙げられる。気体の供給部としては、コンプレッサーやガスボンベが挙げられる。気体の噴射部と気体の供給部とを適当な気体の流路を介して接続し、気体の噴射部から気体を噴射することができる。気体用ノズルの内径は、気体の噴射量等の諸条件に応じて適宜設定できる。気体用ノズルの内径は、例えば、10μm〜100μmであってよく、具体的には、50μmであってよい。気体の噴射距離(液層表面から気体の噴射部までの距離)は、気体の噴射量等の諸条件に応じて適宜設定できる。気体の噴射距離は、例えば、0.5mm〜5mmであってよく、具体的には、1mmであってよい。
【0031】
気体の噴射は、気体の流れを制御する適当な手段により制御できる。例えば、電空レギュレータや電磁弁を適宜組み合わせて気体の噴射を制御することができる。電空レギュレータとして、具体的には、例えば、ITV2050-312CS-Q(SMC社、日本)が挙げられる。電磁弁として、具体的には、例えば、ソレノイドバルブVA01PSP23-1P(KURODA Pneumatics、日本)が挙げられる。気体の噴射の制御は、自動で行われてもよく、手動で行われてもよい。例えば、コンピュータから電空レギュレータや電磁弁を制御することにより、自動的に気体の噴射を制御することができる。
【0032】
本発明の評価方法は、気体の噴射終了後に、液体排除領域の寸法を測定する工程を含む。同工程を、「寸法測定工程」ともいう。ここでいう「液体排除領域の寸法」とは、液体が排除された程度を反映する値をいい、具体的には、液体排除領域の半径を反映する値であってよい。寸法として、具体的には、例えば、半径、直径、円周長、面積、容積が挙げられる。寸法としては、1種の値のみを測定してもよく、2種またはそれ以上の値を測定してもよい。
【0033】
寸法としては、通常は、液体排除領域の底部に露出した物質の表面の寸法(直径等)を測定してよい。また、寸法としては、液層表面における、あるいは液層中の任意の深度における、液体排除領域の寸法(直径等)を測定してもよい。それらの値も、液体が排除された程度を反映する。
【0034】
寸法を測定するタイミングは、気体の噴射終了後であれば特に制限されない。「気体の噴射終了後」とは、例えば、気体の噴射終了の1秒後〜10秒後であってよく、具体的には、気体の噴射終了の3秒後であってよい。なお、「気体の噴射終了後」とは、気体の噴射が連続的に行われる場合にはその終了後をいい、気体の噴射が間欠的に行われる場合には最後の噴射の終了後をいう。
【0035】
寸法の測定は、1回のみ行われてもよく、2回またはそれ以上行われてもよい。「寸法の測定が2回またはそれ以上行われる」とは、単一の液体排除領域に対して寸法の測定を複数回行うことであってもよく、気体の噴射による液体排除領域の形成と寸法の測定のセットを複数回行うことであってもよく、それらの組み合わせであってもよい。上記セットを複数回行う場合、気体の噴射と寸法の測定が行われる箇所は、各回で同一であってもよく、そうでなくてもよい。複数の箇所で気体の噴射と寸法の測定が行われる場合、気体の噴射と寸法の測定は、各箇所で同時に行われてもよく、そうでなくてもよい。
【0036】
寸法を測定する方法は、非接触に目的の寸法を取得できる限り、特に制限されない。寸法の測定は、適当な測定手段を利用して行うことができる。例えば、液体排除領域を撮影し、得られた撮影像から液体排除領域の寸法を取得することができる。すなわち、測定手段は、例えば、液体排除領域を撮影する撮像手段を含んでいてよく、さらに、得られた撮影像から液体排除領域の寸法を取得する寸法取得手段を含んでいてよい。
【0037】
撮像手段は、目的の寸法を取得できる撮影像を撮影できるものであれば、特に制限されない。撮影像は、2次元の撮影像として得られてもよく、3次元の撮影像として得られてもよい。撮影像は、動画として得られてもよく、静止画として得られてもよい。撮影像の画素数やフレームレートは、測定の態様に応じて適宜設定することができる。
【0038】
撮像手段は、例えば、可視光、赤外線、紫外線から選択される光を検出するものであってよく、好ましくは可視光を検出するものであってよい。撮像手段としては、例えば、適当なデジタルカメラを利用することができる。3次元の撮影像を撮影する場合、撮像手段としては、例えば、適当なデジタルカメラでステレオカメラを構成して利用してもよく、適当な3Dスキャナを利用してもよい。デジタルカメラは、CCDカメラであってもよく、CMOSカメラであってもよい。デジタルカメラは、ビデオカメラであってもよく、スチールカメラであってもよい。CMOSデジタルビデオカメラとして、具体的には、例えば、HDR-SR1(ソニー、日本)が挙げられる。
【0039】
寸法取得手段は、撮影像から液体排除領域の寸法を取得できるものであれば、特に制限されない。例えば、撮影像中の液体排除領域に相当する領域を特定し、特定された領域を計測することにより、撮影像における液体排除領域の寸法を取得することができる。寸法の取得は、手動で行われてもよく、自動的に行われてもよい。寸法の取得を自動的に行う場合は、例えば、適当な画像処理ソフトウェアにより、撮影像中の液体排除領域に相当する領域を自動的に特定し、目的の寸法を取得することができる。
【0040】
このようにして得られた撮影像における液体排除領域の寸法は、そのまま濡れ性の評価に用いられてもよく、適宜処理されてから濡れ性の評価に用いられてもよい。例えば、撮影像における寸法と実際の寸法との相関データを利用して、撮影像における液体排除領域の寸法から液体排除領域の実際の寸法を算出してもよい。また、例えば、撮影像における液体排除領域の寸法を、撮影距離や撮影角度等の撮影条件を考慮して標準化(normalize)してもよい。標準化されたデータを利用することで、撮影距離や撮影角度等の撮影条件が異なるサンプル間でも寸法の比較を行うことができる。すなわち、測定手段は、例えば、撮影像における液体排除領域の寸法から液体排除領域の実際の寸法を算出する算出手段を含んでいてもよく、撮影像における液体排除領域の寸法を標準化する処理手段を含んでいてもよい。
【0041】
本発明の評価方法において測定され、濡れ性の評価の指標として利用される「液体排除領域の寸法」とは、液体排除領域の実際の寸法であってもよく、液体排除領域の実際の寸法を反映する、サンプル間で比較可能なデータであってもよい。すなわち、「液体排除領域の寸法を測定する」とは、液体排除領域の実際の寸法を反映する、サンプル間で比較可能なデータが得られていれば、液体排除領域の実際の寸法を算出する必要はない。「液体排除領域の実際の寸法を反映するデータ」としては、撮影像における液体排除領域の寸法(例えば、直径に相当するピクセル数)や、撮影像における液体排除領域の寸法を標準化等の処理に供して得られたデータが挙げられる。測定工程で得られた「液体排除領域の寸法」のデータを、「測定値」という場合がある。
【0042】
寸法の測定方向は、目的の寸法を取得できる限り、特に制限されない。測定は、例えば、液層の上方から行うことができる。測定は、液層の鉛直上方から行われてもよく、液層の斜め上方から行われてもよい。また、本発明の評価方法の実施に関わる要素が測定手段に対して十分な透明性を有する場合は、当該要素を通して測定が行われてもよい。本発明の評価方法の実施に関わる要素としては、例えば、物質、液体、容器、測定装置が挙げられ得る。ここでいう「容器」とは、物質および液体が入っている部材をいう。ただし、物質自体が容器として液体を保持する場合には、ここでいう「容器」とは、物質自体を意味してよい。例えば、液層および容器が測定手段に対して十分な透明性を有する場合は、液層の横方向から測定が行われてもよい。また、例えば、物質および容器が測定手段に対して十分な透明性を有する場合は、物質の下方から測定が行われてもよい。また、例えば、ステージ上に容器が置かれており、ステージの下方からステージを通して測定が行われる場合、物質および容器に加えて、ステージ自体も、測定手段に対して十分な透明性を有する。「測定手段に対する十分な透明性」とは、採用した測定手段に対する、当該測定手段により寸法が測定できる程度の透明性をいう。具体的には、例えば、測定手段として可視光を検出する撮像手段を利用する場合は、「測定手段に対する十分な透明性」とは、目的の寸法を取得できる撮影像が得られる程度に可視光を透過する性質をいう。
【0043】
本発明の評価方法においては、適宜、各工程の実施手段や評価対象のサンプル(物質、液体、またはそれらの入った容器)を物理的に移動させてもよい。例えば、気体の噴射と寸法の測定の両方を鉛直上方から行う場合は、気体の噴射終了後に、液体排除領域が測定部の真下に位置するように、気体噴射部と測定部を物理的に移動させてもよいし、サンプルを物理的に移動させてもよい。
【0044】
本発明の評価方法は、測定された液体排除領域の寸法を指標として、物質の濡れ性を評価する工程を含む。同工程を、「濡れ性評価工程」ともいう。「測定された寸法の値を指標とする」とは、測定された寸法の値が、直接的または間接的に評価に関与することをいう。
【0045】
例えば、寸法の測定値そのものに基づいて評価が行われてもよい。この場合、測定値が小さい程、物質の濡れ性が高いと評価できる。
【0046】
また、例えば、所定の期間における寸法の測定値の変化に基づいて評価が行われてもよい。所定の期間としては、例えば、気体の噴射中から、気体の噴射終了後の所定の時点までの期間が挙げられる。「所定の時点」とは、例えば、気体の噴射終了後0〜10秒の時点であってよい。また、所定の期間としては、例えば、気体の噴射終了後の第1の時点から、気体の噴射終了後の第2の時点までの期間が挙げられる。「第1の時点」とは、例えば、気体の噴射終了後0〜0.5秒の時点であってよく、「第2の時点」とは、例えば、気体の噴射終了後1〜10秒の時点であってよい。測定値の変化としては、測定値の差や測定値の変化速度が挙げられる。測定値の変化が大きい程、物質の濡れ性が高いと評価できる。
【0047】
また、複数回の測定が行われる場合、複数回の測定値を総合して評価が行われてもよい。例えば、複数回の測定値の、平均値、中央値、最小値、または最大値等を指標として評価が行われてもよい。
【0048】
評価は、手動で行われてもよく、自動的に行われてもよい。評価を自動的に行う場合は、例えば、予め決定された寸法の測定値と濡れ性との相関データに基づき、適当な解析ソフトウェアにより、測定値から濡れ性の程度を自動的に算出することができる。
【0049】
このようにして、物質の濡れ性を評価できる。なお、「濡れ性を評価する」ことには、濡れ性自体が評価される場合に限られず、濡れ性と関連する性質が評価される場合も含まれる。
【0050】
例えば、細胞シートの濡れ性が高い場合に、細胞シートの移植適合性が高いという関係があり得る。この場合、「濡れ性を評価する」とは、細胞シートの移植適合性を評価することであってよい。すなわち、本発明の評価方法の一態様は、細胞シートの移植適合性を評価する方法であってよい。例えば、本発明の評価方法により細胞シートの濡れ性(移植適合性)を評価し、高い濡れ性(移植適合性)を有する細胞シートを選択して、移植に用いることができる。
【0051】
また、細胞シートの濡れ性は、細胞シート表面の粘膜の状態を反映し得る。例えば、細胞シートの濡れ性が高い場合に、細胞シート表面にムチン(例えば、MUC4タンパク質等)が多く存在するという関係があり得る。この場合、「濡れ性を評価する」とは、細胞シート表面における粘膜の状態(例えば、ムチンの存在量)を評価することであってよい。すなわち、本発明の評価方法の一態様は、細胞シートの表面における粘膜の状態(例えば、ムチンの存在量)を評価する方法であってよい。粘膜の状態の評価は、薬剤のスクリーニングや薬効評価に有用である。例えば、in vitroで細胞シートに薬剤を供し、粘膜の状態を評価することで、薬剤の効果を判定し得る。
【0052】
<2>本発明の製造方法
本発明の製造方法は、本発明の評価方法により物質の濡れ性を評価する工程を含む、物質の製造方法である。物質は、本発明の評価法により濡れ性を評価すること以外は、当該物質を製造する通常の材料と方法を用いて製造することができる。例えば、細胞シートの製造法については、公知の方法(D. Murayama, et al., Biomaterials, Vol.27, pp. 5518-5523, 2006.、特開2011-224334、国際公開2011/016423等)を参照できる。濡れ性の評価は、物質の製造工程のいずれの時点で行われてもよいが、通常は、物質の完成後に行うのが好ましい。製造された物質の内、その利用目的等の諸条件に応じて、所望の濡れ性を有するものを選択して用いることができる。
【0053】
<3>本発明の装置
本発明の装置は、物質の濡れ性を評価するための装置である。本発明の評価方法は、例えば、本発明の装置を利用して実施できる。
【0054】
本発明の装置は、液体に覆われた物質の表面に気体を噴射する手段を備える。そのような手段としては、上述したような気体噴射手段を用いることができる。気体の噴射により、物質の表面を覆っている液体が一時的に排除され、液層の底部に物質の表面が露出する。気体噴射手段は、例えば、上述したような気体噴射工程の実施条件に従って、用いてよい。
【0055】
本発明の装置は、液体排除領域の寸法を測定する手段を備える。そのような手段としては、上述したような測定手段を用いることができる。測定手段は、液体排除領域を撮影する撮像手段を含んでいてよい。測定手段は、さらに、得られた撮影像から液体排除領域の寸法を取得する寸法取得手段を含んでいてよい。測定手段は、さらに、例えば、撮影像における液体排除領域の寸法から液体排除領域の実際の寸法を算出する算出手段を含んでいてもよく、撮影像における液体排除領域の寸法を標準化する処理手段を含んでいてもよい。測定手段は、例えば、上述したような気体噴射工程の実施条件に従って、用いてよい。
【0056】
本発明の装置は、測定された液体排除領域の寸法を指標として、物質の濡れ性を評価する評価手段を備えていてよい。評価手段としては、例えば、予め決定された寸法の測定値と濡れ性との相関データに基づき、測定値から濡れ性の程度を算出する適当な解析ソフトウェアを利用することができる。評価手段は、例えば、上述したような濡れ性評価工程の実施条件に従って、用いてよい。
【0057】
本発明の装置は、撮影の際に液体排除領域を照明する照明手段を備えていてよい。照明手段としては、例えば、適当な照明を利用することができる。照明としては、例えば、白熱灯、蛍光灯、発光ダイオードが挙げられる。
【0058】
本発明の装置は、物質と液体を保持する保持手段を備えていてよい。
【0059】
保持手段は、例えば、物質と液体を直接的に保持する保持部であってよい。すなわち、この場合、保持部が、物質と液体の容器として機能する。保持部の形状は、物質の形状や液体の容積等の諸条件に応じて、適宜設定できる。保持部は、例えば、物質と液体が入る凹部を有する部材であってよい。
【0060】
保持手段は、例えば、物質と液体の入った容器を保持することにより、間接的に物質と液体を保持する保持部であってよい。ただし、物質自体が容器として液体を保持する場合には、ここでいう「容器」とは、物質自体を意味してよい。保持部の形状は、容器の形状等の諸条件に応じて、適宜設定できる。保持部は、例えば、その上に容器を載せる足場を有する部材であってもよく、容器を挟んで保持するクランプを有する部材であってもよい。
【0061】
保持手段等の装置の構成要素が測定の障害物となる場合は、本発明の装置は、構成要素が測定手段に対して十分な透明性を有するように構成される。
【0062】
本発明の装置の構成要素は、いずれも、装置に固定されていてもよく、可動するように構成されていてもよい。例えば、保持部が可動してもよく、気体噴射部や撮像部が可動してもよい。本発明の装置は、構成要素の位置を調節するための位置アジャスタを備えていてよい。
【0063】
本発明の装置の構成要素は、いずれも、それぞれ、1つのみ設けられていてもよく、2つまたはそれ以上設けられていてもよい。例えば、本発明の装置は、気体噴射手段を複数備えていてもよいし、撮像手段を複数備えていてもよい。
【0064】
後述する実施例で用いた測定装置(
図3)は、本発明の装置の一実施形態である。
【0065】
<4>本発明のプログラム
本発明のプログラムは、本発明の評価方法を構成する各ステップをコンピュータに実行させるプログラムである。
【0066】
すなわち、本発明のプログラムの一態様は、下記ステップ(1)〜(3)をコンピュータに実行させるプログラムである:
(1)液体に覆われた物質の表面に気体を噴射することにより、液体を排除するステップ;
(2)気体の噴射終了後に、液体が排除された領域の寸法を測定するステップ;および
(3)測定された寸法を指標として、物質の濡れ性を評価するステップ。
【0067】
ステップ(2)は、液体排除領域を撮影するステップを含んでいてよい。ステップ(2)は、さらに、得られた撮影像から液体排除領域の寸法を取得するステップを含んでいてよい。ステップ(2)は、さらに、例えば、撮影像における液体排除領域の寸法から液体排除領域の実際の寸法を算出するステップを含んでいてもよく、撮影像における液体排除領域の寸法を標準化するステップを含んでいてもよい。
【0068】
本発明のプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録され、提供されてもよい。ここで、コンピュータが読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報が電気的、磁気的、光学的、機械的、又は化学的作用等により蓄積され、さらに蓄積された情報をコンピュータから読み取ることのできる記録媒体を言う。このような記録媒体としては、例えばフロッピー(登録商標)ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R/W、DVD−ROM、DVD−R/W、DVD−RAM、DAT、8mmテープ、メモリカード、ハードディスク、ROM(リードオンリーメモリ)、及びSSD等が挙げられる。本発明のプログラムは、コンピュータにより実行される各ステップが単一のプログラムとして記録されていてもよく、それぞれ別個の、あるいは、任意の組み合わせで別個のプログラムとして記録されていてもよい。
【実施例】
【0069】
本発明は、以下の実施例によって更に具体的に説明されるが、これらはいかなる意味でも本発明を限定する意図と解してはならない。
【0070】
実施例1:細胞シートの濡れ性評価
本実施例では、培養条件の異なる3種類の細胞シートをサンプルとして、濡れ性の評価を行った。
【0071】
<1>測定原理
以下、あり得る(possible)濡れ性の測定原理を説明するが、本願発明が下記の原理に拘束されることを意図するものではない。
【0072】
本実施例で採用した測定手順の概略を
図1に示す。まず、培養皿に入った細胞シートを、エアノズルの下に固定する(
図1(a))。次いで、エアノズルから細胞シートに垂直にエアジェット(空気噴流)を印加し、細胞シート表面を覆っている液体培地を一時的に排除し、細胞シート表面を露出させる(
図1(b)および(c))。次いで、エアジェットを停止することにより、排除された液体培地が中心部に向かって復帰する(
図1(d))。
【0073】
平衡状態(
図1(c))において、エアジェットの圧力による押し出し力(squeezing force)は、液体培地と細胞シート表面との間に働く表面力(surface force)と釣り合うから、液体培地が排除される領域(押し出し領域;squeezed area)は細胞シート表面の濡れ性に依存する。詳細には、エアジェットの圧力による押し出し力P
sは、ヤング・ラプラスの式から、下記式(1)で表される。
【0074】
【数1】
【0075】
式中、γは液体培地の表面張力、R
xは培地と細胞シートとの接触点における培地表面の曲率半径、R
zは細胞シート表面における培地の押し出し領域の曲率半径、をそれぞれ示す。R
xとR
zの弯曲方向が互いに逆向きである、すなわち、培地と細胞シートとの接触点において培地表面が放物双曲面の一部からなる場合、R
xとR
zの弯曲により、それぞれ、押し出し領域に対して内向きおよび外向きの表面張力が生じる。R
xの値が大きい程、培地と細胞シートとの接触角が小さくなるから、濡れ性が高いことを意味する。式(1)をR
zについて解くと、下記式(2)になる。
【0076】
【数2】
【0077】
すなわち、γとP
sが一定である場合、R
zは濡れ性を反映するR
xの関数であり、細胞シートの濡れ性は、培地の押し出し領域の曲率半径を測定することにより推定できる。
【0078】
<2>測定装置
本実施例に用いた測定装置の簡易構成図を
図3(a)に、写真を
図3(b)に、それぞれ示す。エアコンプレッサー101により空気を供給し、最大スイッチング周波数333 Hzの高速ソレノイドバルブ103(VA01PSP23-1P、KURODA Pneumatics、日本)と電空レギュレータ102(ITV2050-312CS-Q、SMC社、日本)を用いて空気の流量を制御し、内径0.2 mmのエアノズル104を通じてエアジェット301を噴射した。ソレノイドバルブ103およびレギュレータ102は、アナログ入出力インタフェースモジュール(CSI-360112、Interface社、日本)を介して、ラップトップ・コンピュータ(ThinkPad X61、レノボ・ジャパン、日本)により制御した。細胞シート表面の観察は、フレームレート30 Hzのデジタルビデオカメラ105(HDR-SR1、ソニー、日本)を用いて行った。エアジェット印加ユニット101〜104およびビデオカメラ105は、測定装置の基盤108にしっかりと固定した。
【0079】
<3>細胞シートの調製
濡れ性の比較のため、以下の手順で、3種類の細胞シートを調製した。ラットの口腔粘膜上皮細胞を、5×10
4 cells/cm
2の初期細胞密度で温度応答性細胞培養インサート上に播種し、培地を入れた細胞培養皿で、37℃、5% CO
2雰囲気下で7〜14日間培養し、重層化した細胞シートを得た。培養条件の詳細は既報(D. Murayama, et al., Biomaterials, Vol.27, pp. 5518-5523, 2006.)の通りである。培養には、以下の(a)〜(c)のケラチノサイト培養培地(Keratinocyte Culture Medium;KCM)をそれぞれ用いた。
(a)コントロール:通常のKCM
(b)Cyto D (+): サイトカラシンD(Cyto D)を含むKCM
(c)FBS (-): ウシ胎児血清(FBS)を含まないKCM
Cyto Dは、アクチン繊維の重合阻害剤である。通常のKCMは、FBSを含み、Cyto Dを含まない。
【0080】
<4>濡れ性の測定
培養後、各細胞シートを常法に従ってインサートから剥離し、1.2 mLのコントロール培地(通常のKCM)を入れた細胞培養皿(cat. no. 353001、Becton, Dickinson and Company、米国)に移し、濡れ性の測定に供した。
【0081】
各細胞シートの表面に、エアジェットを、1秒間(t=0.5 sからt=1.5 sまで)印加した。エアジェットの印加量は、印加される力(F)が、0.47 mN、0.75 mN、および1.15 mNとなるように制御した。
【0082】
F= 1.15 mNの際のコントロールおよびFBS (-)の外観の推移を
図4に示す。エアジェット印加中、培地の押し出し領域の面積は、各細胞シート間でほぼ同じであった(
図4に一部抜粋)。また、エアジェット印加終了後、コントロールでは、培地はすぐに押し出し領域を再度覆ったが、Cyto D (+)およびFBS (-)では、培地の押し出し領域がしばらく残存していた(
図4に一部抜粋)。なお、エアジェット印加終了後の培地の押し出し領域の残存面積は、FBS (-)の方が、Cyto D (+)よりも大きかった。
【0083】
各条件での、培地の押し出し領域の幅wの推移を
図5に示す。また、各条件での、t=4 sからt=5 sまで(エアジェット印加終了2.5 s後から3.5 s後まで)の培地の押し出し領域の幅wの平均値を、エアジェット印加終了後の培地の押し出し領域の残存幅w
rとし、
図6に示す。
【0084】
F= 0.47 mNおよびF= 0.75 mNの場合、コントロールとCyto D (+)間、およびCyto D (+)とFBS (-)間で、w
rの有意な差が認められた(P < 0.05;
図6)。また、F= 1.15 mNの場合、コントロール、Cyto D (+)、およびFBS (-)のそれぞれの間で、w
rの有意な差が認められた(P < 0.05;
図6)。
【0085】
このように、細胞シートの濡れ性の違いは、エアジェット印加終了後の培地の復帰の程度で区別された。具体的には、FBS (-) > Cyto D (+) >コントロールの順に、エアジェット印加終了後の培地の押し出し領域の残存幅w
rが大きかった。すなわち、コントロール> Cyto D (+) > FBS (-)の順に、細胞シートの濡れ性が大きいと考えられた。
【0086】
なお、F= 1.15 mNの場合に、各細胞シート間で有意な差が見られたことから、よりよい結果を得るためには、細胞シートが損傷しない限り、エアジェットの印加量を高めるのが好ましい場合があり得る。
【0087】
<5>生化学的解析
次に、濡れ性が大きいと評価されたコントロールの細胞シートおよび濡れ性が小さいと評価されたFBS (-)の細胞シートを、生化学的に解析した。
【0088】
濡れ性に違いが生じる原因として、例えば、細胞が産生する特定のタンパク質の量に差があることや、細胞シート表面の粗さに差があることが考えられる。細胞表面の濡れ性を担うタンパク質としては、ムチンが知られている。そこで、DNAマイクロアレイ解析を行い、ムチン遺伝子の発現量を比較した。結果を表1に示す。コントロールの細胞シートは、FBS (-)の細胞シートと比較して、MUC4遺伝子を60倍以上発現していることが明らかとなった。よって、本実施例で観察された濡れ性の差は、MUC4に起因すると考えられた。
【0089】
【表1】
【0090】
さらに、ヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)、アルシアンブルー染色、およびMUC4の免疫染色を行った。結果を
図7に示す。アルシアンブルー染色により、コントロールの細胞シート特異的に、細胞シート表層に粘膜多糖類の局在が確認された。また、MUC4の免疫染色により、コントロールの細胞シート特異的に、細胞シート表層にMUC4の局在が確認された。
【0091】
<6>細胞シートの移植
次に、濡れ性が大きいと評価されたコントロールの細胞シートおよび濡れ性が小さいと評価されたFBS (-)の細胞シートを、ラットに他家移植した。移植後0〜14日の移植部分の写真を
図8に示す。移植の結果、FBS (-)の細胞シートは移植部位において消失したのに対し、コントロールの細胞シートは移植部位において周辺と区別可能な細胞群として残存していた。よって、濡れ性の大きい細胞シートは、再生医療の観点で有効であり得る。
【0092】
実施例2:培養皿の濡れ性評価
本実施例では、培養皿をサンプルとして、濡れ性の評価を行った。
【0093】
温度応答性ポリマーで表面がコーティングされたポリスチレン製培養皿を、酸素プラズマにより表面処理した。酸素プラズマ処理されていない培養皿(PS)と酸素プラズマ処理された培養皿(OP)のそれぞれにコントロール培地(通常のKCM)を入れ、
図9(a)に示す測定装置を用いて、実施例1と同様の手順で内表面(内底面)の濡れ性を評価した。各培養皿の外観を
図9(c)および(d)に示す。結果を
図9(b)に示す。酸素プラズマ処理されていない培養皿(PS)と比較して、酸素プラズマ処理された培養皿(OP)は、エアジェット印加終了後の培地の押し出し領域の残存幅が小さかった(P < 0.001;
図9(b))。すなわち、酸素プラズマ処理されていない培養皿(PS)と比較して、酸素プラズマ処理された培養皿(OP)は、濡れ性が大きいと考えられた。