(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189294
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】位相画像形成
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20060101AFI20170821BHJP
G01N 23/20 20060101ALI20170821BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
G01N23/04
G01N23/20 370
A61B6/00 330Z
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-520729(P2014-520729)
(86)(22)【出願日】2012年7月19日
(65)【公表番号】特表2014-521101(P2014-521101A)
(43)【公表日】2014年8月25日
(86)【国際出願番号】GB2012051725
(87)【国際公開番号】WO2013011317
(87)【国際公開日】20130124
【審査請求日】2015年7月9日
(31)【優先権主張番号】1112506.9
(32)【優先日】2011年7月21日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】506417186
【氏名又は名称】ユーシーエル ビジネス パブリック リミテッド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】マンロー,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】オリヴォ,アレッサンドロ
(72)【発明者】
【氏名】イグナテフ,コンスタンティン
(72)【発明者】
【氏名】スペラー,ロバート
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−022134(JP,A)
【文献】
特表2010−502977(JP,A)
【文献】
特開2011−136156(JP,A)
【文献】
特開2011−041795(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0206184(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/227
A61B 6/00− 6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相画像形成の方法において、
X線の源流(2)を提供するステップと、
対向する第1および第2の端部を有する少なくとも1つのX線ビームを画定するために、X線に開口を有する試料マスクを通過させるステップと、
前記少なくとも1つのX線ビームに対応するピクセルまたはピクセルの行を有するX線検出器の上に、前記少なくとも1つのX線ビームを試料の試料領域の中に通すステップと、
前記少なくとも1つのX線ビームが少なくとも1つの第1のX線ビームを含み、そこで各第1のX線ビームの前記第2の端部ではなく前記第1の端部が、前記X線検出器内の対応する前記ピクセルまたはピクセルの行に部分的に重なる、第1の構成において第1の画像を得るステップと、
第2のX線画像を得るために、前記少なくとも1つのX線ビームが少なくとも1つの第2のX線ビームを含み、そこで各第2のX線ビームの前記第1の端部ではなく前記第2の端部が、前記X線検出器内の対応する前記ピクセルまたはピクセルの行に部分的に重なる、第2の構成において第2の画像を得るステップと、
前記第1および第2X線画像間の差をとることによって、前記第1および第2のX線画像から位相画像を得るステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法が、さらに、前記試料内の吸収を表すX線吸収関数を前記第1および第2のX線画像の加算により計算するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、位相画像を得る前記ステップが、
前記X線吸収関数の勾配を計算するステップと、
定量的な位相画像を計算するために、前記第1および第2のX線画像間の前記差を前記吸収関数の前記勾配に比例する項に加算するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法において、x方向に沿って複数の位置ステップ(Δξ)における前記第1および第2のX線画像の合計から前記X線吸収関数の前記勾配が計算されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記X線吸収関数の前記勾配が次式で得られ、
ここで、ξiは、前記X線ビームに垂直な方向に沿った距離であり、ξ0は、前記勾配が決定される位置であり、かつΔξは、前記方向ξiの1ステップであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項4に記載の方法において、前記X線吸収関数の前記勾配が次式で得られ、
ここで、ξiは、前記X線ビームに垂直な方向に沿った距離であり、ξ0は、前記勾配が決定される位置であり、かつΔξは、前記方向ξiの1ステップであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の方法において、
位相関数の勾配を得る前記ステップが以下の定式を用いて遂行され、
ここで、ξiは前記X線ビームの伝搬の方向に垂直な方向に沿った距離であり、ξ0は前記勾配が決定される位置であり、kはλを波長として波数2π/λであり、Wは前記試料マスクの前記スリットの幅であり、zsoは線源と前記試料マスクとの間の距離であり、かつ、zodは前記試料マスクと前記検出器マスクとの間の距離、または前記検出器マスクが不在である場合は前記試料マスクと前記検出器との間の距離であり、さらに、
は前記X線吸収関数の勾配であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の方法において、前記線源が非単色で、エネルギーEのスペクトルを放射し、かつ、
位相関数の勾配がエネルギーEにわたる加重平均を表わし、次式で得られ、
ここで、Eは、光子エネルギーを指し、積分は、前記線源によって放射された光子エネルギーの前記スペクトルにわたって行われ、導入された関数weight(E)は、次のように定義され、
ここで、N(E)は、単位時間当たりに前記線源により放射されたエネルギーEを有する光子の平均数であり、かつ、前記線源により放射されたエネルギーの前記スペクトルにわたって前記積分が再び行われることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜8に記載の方法において、X線の前記ビームの伝搬の方向に直交する方向において所定の増分で前記試料を移動させるステップと、第1の構成で測定するステップおよび第2の構成で測定するステップを繰り返すステップとをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の方法において、前記X線ビームの前記第1および第2の端部は、x方向で分離され、前記試料マスクは、前記X線ビームがz方向に進み、前記x、y、およびzの方向が直交する状況において、前記x方向で分離され、y方向に広がるスリットのアレイを有し、
各スリットは、前記X線検出器のピクセルの1つまたは複数の対応する行に対応することを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法において、前記X線検出器の前にスリットのアレイを含み、前記検出器マスクの前記スリットは前記試料マスクの前記スリットに対応する検出器マスクを提供するステップをさらに含み、
前記検出器マスクは、前記X線ビームの前記第1の端部がピクセルの前記対応する行に入射するように、前記検出器マスクが前記対応するX線ビームの前記第2の端部を覆う、前記第1の構成から、
前記X線ビームの前記第2の端部がピクセルの前記対応する行に入射するように、前記検出器マスクが前記対応するX線ビームの前記第1の端部を覆う、前記第2の構成へ、
移動されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法において、第1および前記第2のX線ビームの両方を同時に生成して、
第1のX線画像を得るために、各第1のX線ビームの前記第2の端部ではなく前記第1の端部が前記X線検出器内の前記対応するピクセルまたはピクセルの行に部分的に重なる第1の構成において測定するステップと、第2のX線画像を得るために、各第2のX線ビームの前記第1の端部ではなく前記第2の端部が前記X線検出器内の前記対応するピクセルまたはピクセルの行に部分的に重なる第2の構成において測定するステップとが同時に行われるようにするステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
位相画像形成の方法において、
X線の源流(2)を提供するステップと、
対向する第1および第2の端部を有する少なくとも1つのX線ビームを画定するために、X線に開口を有する試料マスクを通過させるステップと、
前記少なくとも1つのX線ビームに対応するピクセルまたはピクセルの行を有するX線検出器の上に、前記少なくとも1つのX線ビームを試料の試料領域の中に通すステップと、
第1のX線画像を得るために、各X線ビームの前記第2の端部ではなく前記第1の端部が、前記X線検出器内の前記対応するピクセルまたはピクセルの行に部分的に重なる、第1の構成において測定するステップと、
位相画像を得るステップであって、
前記試料内の位置の関数として前記試料内の吸収を表すX線吸収関数の勾配を計算することと、
定量的な位相画像を計算するために、前記第1のX線画像を前記吸収関数の前記勾配に対して比例する項と組み合わせることと
によって位相画像を得るステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、
第2のX線画像を得るために、各X線ビームの前記第1の端部ではなく前記第2の端部が、前記X線検出器内の前記対応するピクセルまたはピクセルの行に部分的に重なる、第2の構成において測定するステップと、
前記第1および第2X線画像間の差をとることによって、前記第1および第2のX線画像から前記位相画像を計算するステップと
をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項13に記載の方法において、平坦フィールド画像および前記第1の画像から前記定量的な位相画像形成を計算するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相画像形成のための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のX線画像システムは、X線の吸収に基づき、画像を形成する物体を横切っての吸収における差に基づいて画像コントラストを生成する。
【0003】
位相コントラストX線画像形成は、画像を形成する物体の中でのX線の速度の差に基づいて変動する位相シフトを用いる。最近まで、位相コントラスト画像形成は、高品質のX線ビームも生成するシンクロトロンによって生成されるX線ビームなどの非常に強力なX線ビームを必要とした。
【0004】
位相コントラストX線画像形成は、R Lewisによる総説、“Medical phase contrast x−ray imaging: current status and future prospects”, Phys. Med. Biol. volume49 (2004)、3573〜3583ページの中で概括的に記述されている。
【0005】
位相コントラストX線画像形成に有利な要点は、位相変化のための原因である項(屈折率の実数部の1からの差)が、吸収のための原因である部分(屈折率の虚数部)より通常約1000倍、大きいということである。これは位相コントラスト画像形成が、劇的に感度を改善できるということを意味する。
【0006】
最近の提言は、国際公開第2008/029107号パンフレットにおいて、従来のX線源と連携できる方法を用いて位相コントラスト画像形成を遂行することを提案している。この手法において、典型的に1組のマスクが用いられ、1つのマスクは1つまたは複数のX線ビームを生成するために検出器と試料との間に、かつ、1つのマスクは検出器ピクセルの一部を遮蔽するために用いる。代わりに、同じ効果を利用するために、単一のマスクまたはコリメーターを用いることができる。X線が個別の検出器ピクセルの実効的な端部に部分的に重なるように、マスクは検出器ピクセルに対して整列される。この方法は短い取得時間を提供することができる。
【0007】
国際公開第2008/029107号パンフレットの方法は、コード化開口X線位相コントラスト画像形成(coded aperture X−ray phase contrast imaging:CAXPCI)と言及する。
【0008】
しかしながら国際公開第2008/029107号パンフレットに提案された方法は、定量的な位相画像形成を提供しない、すなわち、生成された画像は、画像試料を横切っての屈折率の実数部による位相シフトに対してのみ比例する画像強度を持っていない。
【発明の概要】
【0009】
本発明によれば、請求項1に記載の位相画像形成のための方法が提供される。
【0010】
本発明の方法を用いることにより、2つの画像があるため、国際公開第2008/029107号パンフレットにおいて提案された方法は、位相コントラスト画像ではない、真の位相画像を生成するのに適合する。国際公開第2008/029107号パンフレットの位相コントラスト画像において、生成された画像のコントラストは、実際には位相シフト(屈折率の実数部による)と吸収(屈折率の虚数部による)との組み合わせによる。本発明の方法により生成された画像において、屈折率の実数部による位相シフトの直接的な画像が提供される。
【0011】
請求項1で提案された方法は、その吸収がピクセルの長さ規模にわたって一定である場合にのみ正確である。好適な配置で、本方法は、ピクセルを横切っての吸収関数の勾配を計算することと、この勾配に対して補正するために各出力ピクセルに対して補正項を加算することとをさらに含む。言いかえれば、より正確な定量的位相画像を得るために、吸収関数の変化に対して線形近似が行なわれ、用いられる。これが行われない場合、そのとき本方法は、近似の妥当性が吸収関数の均一性に依存する状況での近似の結果を与える。
【0012】
本発明者らは、この方法が非常に確固としていることを見いだした。多くの場合に、画像処理アルゴリズムに対して追加の条件を加えることは、単に、余分な複雑さを引き起こし、偽信号を招くことになる。対照的に、本発明者らは、吸収関数の勾配に対して補正するための補足条件は確固としていて、広範囲の状況にわたって好結果を提供することを見いだした。
【0013】
さらに好適な配置において、本方法は、1つまたは複数の格子に対して、1つまたは複数の所定のステップで試料を移動させることを含む。通常のステップ寸法はピクセル寸法より小さくする。このようにして、ディザリングを用いて、勾配抽出目的のために、および/または、実効的なピクセル寸法を減少するために用いることができる追加のデータを集め得る。
【0014】
別の態様において、位相画像形成の方法が提供され、
X線の源流を提供するステップと、
対向する第1および第2の端部を有する少なくとも1つのX線ビームを画定するために、X線の源流を向けるステップと、
その少なくとも1つのX線ビームに対応するピクセルまたはピクセルの行を有するX線検出器の上に、その少なくとも1つのX線ビームを試料の試料領域の中に通すステップと、
第1のX線画像を得るために、各X線ビームの第2の端部ではなく第1の端部が、X線検出器内の対応するピクセルまたはピクセルの行に部分的に重なる、第1の構成において測定するステップと、
位相画像を得るステップであって、
X線吸収関数の勾配を計算することと、
定量的な位相画像を計算するために、第1のX線画像を、吸収関数の勾配に対して比例する項と組み合わせることと
によって位相画像を得るステップと
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明のよりよい理解のために、添付の図面を参照して単に例示として実施形態をここで述べる。
【
図1】本発明による方法の第1の実施形態の図である。
【
図2】本発明による方法の第2の実施形態の図である。
【
図3】提示した定式において用いられる数学的な諸量の図である。
【
図6】提示した式において用いられる数学的な諸量の図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本方法は国際公開第2008/029107号パンフレットにおいて提示されたCAXPI方式の展開である。
【0017】
そのような画像形成のための配置の1つは、
図1および
図2に概略的に示される。この配置において、X線の源流2は、複数の開口32であって、それに対応する複数のX線ビーム16を生成する複数の開口32を有する試料マスク8の中を通過させられる。ビーム16は、検出器4のピクセル12に対して整列される。
図1に示す配置において、ピクセルの端部の境界を定めるために、開口34を有する検出器マスク6が提供される。
【0018】
試料10は、装置において源流2から見て試料マスク8より遠い側に示されている。
【0019】
別の配置において、単一の開口を含む試料マスク8が、同様に単一の開口を含む検出器マスク6に対して組み合わせられる。この配置において、複数のビームと対照的に単一のX線ビームが用いられ、試料10がビームを通って走査される。
【0020】
試料10の屈折率nは、複素数として、n=1−δ+iβ、と一般に表わすことができ、ここでδは実数部の減少分を表わし、βは虚数部である。
【0021】
z方向に物体へ入射する光に対して、x方向およびy方向に広がる物体の透明関数Tは、以下のように表し得る。
T(x,y)=exp(−iφ(x,y)−μ(x,y))
【0022】
実数部μは物体内の吸収を表わし、また虚数部φは透明関数の位相シフトを表す。μは吸収関数と呼ばれ、またφは位相関数と呼ばれる。一般に、位相画像形成のために測定の必要のあるものは位相関数の勾配である。
【0023】
図1において、両方のマスクの開口32 34は、紙面から外へ向かうy方向に広がり、したがってそれらはスリットであることに注意されたい。
【0024】
図1は検出器マスク6を用いる手法を示すが、本発明者らは本発明の方法の要所は、2つの画像の測定であると認識しており、それらをI
+画像およびI
−画像と呼ぶ。試料を横切ってxとしての方向をとると、重要なことは、一方の画像のためにはX線ビームの「上方の」端部ではなく「下方の」端部がピクセル内にあり、かつ、他方の画像のためにはX線ビームの「下方の」端部ではなく「上方の」端部がピクセル内にあることである。「上方の」は、最も高いxを有するビームの端部、を意味し、また「下方の」は、最も低いxを有するビームの端部、を意味する。
【0025】
検出器マスクを用いてこれは達成され得るが、
図6に示す通り隣接したピクセルがI
+およびI
−の構成内にある
図2に示すように、この状況を得ることも可能である。したがって
図2に示す構成において、正しいピクセルが正しい画像に対して割り当てられる限り、I
+およびI
−画像の両方が同時に得られてもよい。これはまたX線ビームの利用を最大限にし、したがって、画像を捕獲するためにかける時間、および試料に対して送達される線量を最小化する。
【0026】
図2の配置はピクセルのすべての行を用いるが、ビーム16をより広い間隔に置いて、I
+およびI
−の画像を捕獲するピクセル間に、いかなるビームにも衝突されず、したがって、画像を捕獲するとき、いかなる光子も検出しないであろうピクセルが存在するようにすることも可能である。こうすると、黒いピクセルが本質的には使用されないので、画像捕獲の効率が低下するが、I
+およびI
−の画像を捕獲するピクセルを識別することをより簡単にする点において利点を確かにもたらし、それは、I
+およびI
−の画像が黒くないピクセルとしてはっきり示されるからである。しかしながら一般にそのような隙間の使用は好まれず、それはほとんどの状況において、画像捕獲時間を低下させるためにX線の効率的な利用がより重要であるからである。
【0027】
等価な機構は、単一のビームおよび単一の開口を有する検出器マスクだけを用い、かつ物体を移動させることにより物体を走査することである。
【0028】
簡単にするために、また一般性を失わず、定量的画像形成のための式を導き出すとき、本発明者らは後者の場合の、
図3内に示される単一の組のコード化開口を検討する。
【0029】
定量的画像形成は、同じ物体を2つの相補的な位置を用いて画像化することにより実行される。両方の構成は、照射されたピクセルの分数であるIPFが0.5に設定されるが、反転したコントラストを結果として生じるであろう。しかしながら、0.5のIPFを用いることは必須ではないこと、また、他のIPF値を用いることができることは注意されるべきである。
図3内に描かれた物体のようなプリズムに対して、I
−と表示される構成は、平坦フィールドより低い検出信号を結果として生じ、I
+構成は平坦フィールドより大きい検出信号を結果として生じる。単純化するために本発明者らは、単色の点状線源を仮定して定量的方法の式を導き出す。近軸(すなわち小さな角度)近似の範囲内で、点状線源は、
図3のy方向で一様であるX線強度を結果として生じる。本発明者らは画像形成システムおよび物体がy方向で一様であると仮定するので、x方向における強度の変動だけを検討する。A2に入射のX線の複素振幅がU(x)で示される場合、そのとき、高さPのピクセルを仮定すると、I
−およびI
+は以下で得られる。
ここでMはシステム倍率である。
【0030】
測定を行うには2つの手法があることに注意されたい。1つの手法において、物体は画像形成システムに対して走査される(移動される)。他方において、全体の物体は、異なるX線ビームに対して整列させた異なるピクセルを用いて並行して同時に画像化される。この後者の場合において、ステップ寸法はピクセルの寸法と同等である。2つの手法は数学上等価である。しかしながら、一般性のために、I
+およびI
−の2つの画像の測定値は、ステップ寸法をΔξとして、−Δξ、0、およびΔξにおける位置(変数ξにより表わされる)に対して分かっていると仮定する。ここでステップ寸法Δξはピクセル寸法である走査ステップ寸法でもあり得る。2つの位置0およびΔξにおける画像I
+およびI
−を用いて、定量的画像形成を実行することも可能である。
【0031】
はじめに、物体位置ξの関数としての吸収関数μの勾配が、ステップ寸法Δξを用いてゼロの位置ξ
0において計算される。
【0032】
いくつかの構成において、I
+およびI
−は、2つの位置すなわち0およびΔξだけにおいて分かっていることがある。この場合、吸収関数の勾配は次のように見いだせる。
以降は、
を吸収関数の勾配と呼ぶ。
【0033】
次いで、位相関数の勾配は次の定式により決定される。
これは、気付かれる通り、上で計算された値を含む。
【0034】
この定式において、kは波数(λを波長として、2π/λ)であり、Wは試料マスクのスリットの幅であり、z
soは線源と試料マスクとの間の距離であり、また、z
odは試料マスクと検出器マスクとの間の距離、または検出器マスクが不在である場合は試料マスクと検出器との間の距離である。
【0036】
多くの実際的な状況において、sinhおよびcoshの関数は近似することができ、以下の定式をもたらす。
【0037】
吸収関数の勾配がゼロであると考えることができる場合、式はさらに簡単にすることができる。
【0038】
シンクロトロンまたはマイクロ焦点の線源以外の線源が用いられる場合、式5は、ゼロでない、またはゼロの勾配の吸収関数に対して用いられてもよい。そのような場合において、式5のパラメーターWは、検出器4に入射するX線ビームの半値全幅(FWHM)が2の自然対数で割られたもの、すなわちFWHM/log(2)と取り替えられる。FWHMは計算する、または、実験的に測定することができ、WおよびX線焦点の幅により決定される。
【0039】
多色の線源が用いられる場合、位相関数の勾配は、スペクトルに存在する波長にわたって必ず平均される。特に、位相関数の勾配は次のような加重平均により形成される。
Eが光子エネルギーを指す場合には、積分は線源により放射された光子エネルギーのスペクトルにわたって行われ、また、導入された関数weight(E)は、次のように定義される。
ここで、N(E)は、単位時間当たりに線源により放射されたエネルギーEを有する光子の平均数であり、また、線源により放射されたエネルギーのスペクトルにわたって積分は再び行われる。
【0040】
ここで現実の測定状況へのこれらの定式の適用を議論する。しかしながら、当業者は、いくつかの画像形成適用に対しては、これらの式の定数(例えば1/k)は必要とされないことを認識するであろうことに注意されたい。したがって、本発明者らが定式を「用いる」、または式を「用いる」と言うとき、ここで提示されたものに対して異なる定数を有する式の使用を明示的に包含している。
【0041】
図2に表された画像形成の配置に移ると、I
+およびI
−の画像は、I
+およびI
−の画像のためのx方向におけるピクセルの交互の行を用いて捕獲される。
【0042】
位相画像に対する第1の近似において、式5は、I
+およびI
−の画像内の対応するピクセルにより共有された端部の中央におかれた実効的なピクセルに対応する位相画像(式5の左辺)を計算するために用いられる。吸収勾配がない場合には、これは正確な位相画像である。ある程度の吸収勾配は一般に常にあるが、この吸収勾配は小さいことがあり、そのような場合、この画像は位相画像のよい近似になる。
【0043】
重要なことには、単一の画像に対応する、国際公開第2008/029107号パンフレットの方法を用いる画像と異なり、I
+またはI
−の画像、すなわち式5を用いて計算された画像は吸収からのいかなる寄与も含まない真の位相画像である。
【0044】
好適で定量的な手法において、位相関数の勾配はすべてのピクセル位置で式2を用いて計算される。ステップ寸法はピクセルの寸法に対応する。したがって、隣接のピクセルの値は透明関数の変化を評価するために用いられ、したがって、位相関数の勾配に対する近似として用いられる。
【0045】
次いで、これらの値は定量的な位相画像を計算するために式3において用いられる。その算出結果は真に定量的な値である。
【0046】
適切な場合において、位相画像を計算するために式4の近似が式3の代わりに用いられてもよい。
【0047】
この手法はまた、x方向すなわちX線ビームに垂直に所定の増分(Δξ)で試料を移動させる追加のステップ、および繰り返し測定を用いてもよい。所定の増分での運動、および、測定は多数回繰り返されてもよい。
【0048】
試料を移動させる別の理由は、適切な検出器のピクセル寸法が、増分の寸法より大きい場合があることである。例えば、本発明者らは85μm間隔のピクセルを有する検出器を用いて、しかし20μmの増分を用いて測定したことがある。このやり方で、20μmの実効的なピクセル寸法により画像を計算することが可能である。
【実施例】
【0049】
手法を検証するために実験結果を取得した。数学的処理を確認するために、イタリアのTriesteにおいて操業しているシンクロトロン放射光施設ElettraのSYRMEP偏向電磁石ビームラインで、位相抽出手法の実験による検証を行なった。
【0050】
チャネルカットシリコン(1、1、1)結晶は、ビームを0.2%の比帯域幅を有する公称光子エネルギー20keVに単色化する。光子計数はPICASSOというリニアアレイ・シリコンマイクロストリップ検出器が用いられた。検出器は、いわゆる「エッジオン」構成で動作し、幅50μmおよび高さ300μmのピクセルの2368個のアレイを提供する。PICASSO検出器の有用な特性は、無視できるほどのピクセルのクロストークしか示さないことである。
【0051】
吸収画像(上部)および位相画像(下部)の結果を
図4に示す。試料は、以下のような(上部から下部まで)直径が異なる5つのフィラメントである。
【0052】
【0053】
下方の線に対して、位相画像の改善された可視性に注目されたい。
【0054】
さらに、位相関数の勾配の計算されたプロフィールを、測定結果に対して比較した。優れた定量的な一致が見いだされた。
図5を参照されたい。ここで実線は計算値で、点は実験値である。
【0055】
図7は、補正を含む場合、および補正を含まない場合のチタン試料の実験結果を示す。補正項を含む場合は、位相関数の勾配の実際の値により接近している。
【0056】
同じ方法を遂行する多数の代替の配置が可能である。第一に、複数のビームを生成する試料マスクの代わりに、単一の平行にされたX線ビームが用いられてもよい。この場合、試料またはビームのいずれかが試料を走査するために移動され得る。
【0057】
同様に、ピクセルの端部またはマスクのいずれかを用いることが可能である。
【0058】
図8は代替配置を示す。上述の実施形態で、第1および第2の画像は連続して取得される。
図8の配置で、第1のX線ビーム80および第2のX線ビーム82の両方は、x方向で交互になって同時に存在し、第1および第2の画像(I
−およびI
+)が、交互になったピクセルから同時に取得される。これは、画像を形成する物体の位相関数および吸収関数の勾配が、X線ビームのx方向での間隔程度では有意に変わらないという近似に依拠する。
【0059】
無視できるほどの吸収を有する物体を画像化する場合、一般にディジタル画像形成で用いられる簡易な平坦フィールド画像が入手可能である限り、I
−またはI
+の1つを取得すれば位相関数の勾配を引き出すのに十分である。これは、入射するビームの強度が、低吸収の物体自体の画像から推定できる場合、不必要でさえある。吸収する物体が不在の場合、I
−+I
+の量は一定である。これはエネルギー保存の結果であり、また、式1およびU(x)を評価するために用いられる数学的な定式化から続くものである。この場合、次の式が成り立つ。
ここで、I
0は時に平坦フィールドと呼ばれることがあり、吸収しない物体が画像化される限り一定のままである。いったん、I0が分かると、その後は、無視できるほどの吸収のいかなる物体に対しても、I
−はI
+からI
−=I
0−I
+として得ることができ、その逆もできる。したがって、無視できるほどの吸収の物体の場合には、位相関数の勾配を評価するために、式5への代入によって、I
0と組み合わせて、I
−およびI
+の1つだけが必要とされ、次の結果が得られる。
または