特許第6189402号(P6189402)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189402
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】顆粒状ココア
(51)【国際特許分類】
   A23G 1/00 20060101AFI20170821BHJP
   A23G 1/30 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   A23G1/00
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-237131(P2015-237131)
(22)【出願日】2015年12月4日
(62)【分割の表示】特願2014-83258(P2014-83258)の分割
【原出願日】2014年4月15日
(65)【公開番号】特開2016-93179(P2016-93179A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2016年6月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 昌士
(72)【発明者】
【氏名】米澤 洋朗
(72)【発明者】
【氏名】和泉原 啓二
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−506399(JP,A)
【文献】 欧州特許第00109454(EP,B1)
【文献】 Journal of Food Engineering, 2010, Vol.97, pp.283-291
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 1/00−1/56
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が0.3mmを超え、かつ1.2mm以下の結晶状の糖質(但し、パラチノースを除く)のみを中心核とし、その外殻がココアパウダーを含む層で覆われていることを特徴する顆粒状ココアであって、前記ココアパウダーの配合比が、結晶状の糖質に対して16〜30重量%であり、かつレシチンを配合しないことを特徴とする顆粒状ココア
【請求項2】
結晶状の糖質が、ショ糖、ブドウ糖、果糖、エリスリトール、マルチトールおよびオリゴ糖から選ばれた1種又は2種以上である請求項1記載の顆粒状ココア。
【請求項3】
ココアパウダーがハイファットココアパウダーである請求項1〜2のいずれかに記載の顆粒状ココア
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の顆粒状ココアを含有する調整ココア組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は顆粒状ココアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ココアパウダーとは、カカオ豆を発酵・乾燥させた後、種皮と胚芽を除去した胚乳を焙煎・磨砕して固化させたカカオマスを圧搾して油脂分の一定量を取り除いた残渣を粉末状に加工したものであり、ココアパウダーを湯やミルク等に分散したココア飲料は一般的に「ココア」と呼ばれ広く親しまれている。
ココア飲料の歴史は古く、中南米の古代文化圏では紀元前より飲用され、王侯貴族の間で普及していたとの記録がある。近年ではココアポリフェノールの様々な健康機能が明らかにされ、機能性食品としても注目を集めている。
【0003】
ココアパウダーからココア飲料を調製する際には、ココアパウダーと砂糖を少量の湯に加え、弱火にかけながら滑らかなペーストになるまで練り上げ、これを牛乳で伸ばすのが一般的な方法である。ココア飲料の調製にこのような煩雑な操作が必要となる理由は、ココアパウダーの比重が軽く、油脂分を多く含むという、水に浮きやすく馴染みにくい性質に起因する。そこで、煩雑な操作を必要とせず、簡便にココアパウダーを分散させてココア飲料とすることのできる「調整ココア」が広く利用されている。
【0004】
調整ココアは、ココア飲料の原料となるココアパウダー、砂糖および粉乳などを予め混合して調理を容易にしたもので、溶解性を高めるために顆粒状に造粒加工されたものが一般的である。このような形態にすることにより、利用者が家庭などで容易にココア飲料を調製できるだけでなく、カップベンダー(カップ式自動販売機)などの機械設備でもココア飲料を提供することが可能である。
【0005】
顆粒状ココアの製造方法としては、流動層造粒装置を用いる手段を利用するのが一般的である。流動層造粒では、リボンブレンダーなどであらかじめ混合した原料粉末を流動層造粒機に投入し、熱風で粉体を流動させながらバインダー液を噴霧して造粒する手段である。流動層造粒による手段では大型の装置で多量に処理が可能で適用範囲の広さなどの利点があるものの、この手段で得られる造粒物は多孔質で嵩密度が低いという特徴となるため、油脂分の多いココアパウダーを原料に利用した場合には、溶解操作において液面に浮きやすくダマになりやすい傾向がある。そのため、機械設備で自動調製する際の溶解操作に時間が必要であったり、溶解機構を詰まらせたりする原因にもなっていた。更に、流動層造粒では、製造工程中に多量の熱風に曝されるため、ココアパウダーが本来有している芳醇な香りを損失し、商品価値を低下させてしまう大きな欠点があった。
【0006】
上述の通り、流動層造粒は一般的に用いられる手段ではあるものの、調整ココアへの適性については溶解性や嵩密度などの物性や香味の点で不十分であり、特許文献1や特許文献2に開示されているようなバインダーの最適化に関する改良技術もこれら課題の解決には至っていない。というのも、流動層造粒で得られる顆粒では、必然的にポーラスで軽質な粒子となるため、浮きやすく、水に馴染み難い性質のココアパウダーを素早く沈降、分散させるには限界があるものと考えられる。従って、調整ココアの即溶性を向上させるためには、嵩密度が高い重質な顆粒を調製する手段が求められる。
【0007】
一般的に、重質な顆粒を得る手段としては攪拌造粒が有効とされている。しかしながら、これら従来技術には調整ココアに適用した場合に次のような問題点を有する。まず、物性上の問題点として、攪拌造粒物は嵩密度が高く、溶解操作時の沈降性は良好であるものの、これら造粒物は液中での崩壊性に乏しいため、溶解特性の点では不十分である。香味に関しては、攪拌造粒物は造粒工程時にバインダー液として添加される水分を取り除くための乾燥工程で多量の熱風に曝されるため、ココアパウダーが有する芳醇な香りの損失が避けられない。また、攪拌造粒では、流動層乾燥機などの乾燥装置が別途必要で生産設備コストの負担が大きくなることや、造粒後の工程品を乾燥機に移動させなければならず、工程が煩雑となり、歩留りにも影響を与えてしまう問題がある。
【0008】
上記の手段以外に特許文献3には、高い流動性を有する造粒物を得ることを目的として、過熱水蒸気中に微細水滴を分散させた分散体をノズルから噴出させることで、その分散体と流動状態の粉体とを接触させる造粒方法が提案されている。しかしながら、本手段でも均一な造粒物を得るためには比較的多くの水滴を付与しなければならず、結果として、水分を低減するために熱風による長時間の乾燥が必要となり、風味の損失や劣化が避けられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11-69945
【特許文献2】特開昭58-155045
【特許文献3】WO2011/148454
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の技術で顆粒状ココアを調製した場合、上記のような問題がある。従って、本発明の目的は即溶性に優れ、ココアパウダー本来の香味を保持した顆粒状ココアの提供、およびその効率的な調製手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、顆粒状ココアの造粒加工手段に関し、従来の攪拌造粒手段を用いて検討したところ、物性の点では重質な造粒物とはなり得るものの、崩壊性に劣る堅い粒になりやすく、香味の点においては、ココアパウダー本来の香りが損失しているのみならず、造粒されたココア特有の古紙や粉のようなオフフレーバーが発生していることを認めた。本発明者らは、このようなオフフレーバーの発生は、多くの水分を含んだ造粒物を長時間熱風に曝したことが原因であると考え、その対策について鋭意研究を重ねた。その結果、攪拌造粒において、原料粉末を全て投入してバインダー液を滴下して造粒する方法に代えて、少なくとも糖質を含む原料粉末を攪拌されている状況下に水蒸気を導入し、次いでココアパウダーを投入して攪拌接触させて造粒することで、糖質を含む原料粉末を中心核とし、その外殻層にココアパウダーが付着した顆粒状ココアを得る方法によって前記した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の造粒方法では、ココアパウダー以外の調整ココア原料が攪拌されている状態で、水蒸気を吹き付けた場合に、攪拌状態の粉体表面に均一に凝縮水の層が発生し、そこにココアパウダーを投入することで凝縮水の層を結着力としてココアパウダーを付着させることができる。即ち本発明は、
[1] 容器内で少なくとも糖質を含む原料粉末が攪拌されている状況下に水蒸気を導入し、次いで、ココアパウダーを投入して糖質とココアパウダーを攪拌により接触させることで造粒する工程を含む顆粒状ココアの製造方法、
[2] 前記[1]に記載の製造方法により得られる顆粒状ココア、
[3] 糖質を中心核とし、その外殻がココアパウダーからなる層で覆われていることを特徴する顆粒状ココア、並びに
[4] 前記[2]または[3]に記載の顆粒状ココアを含有する調整ココア組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
従来の攪拌造粒手段では、原料粉体に対し5〜15重量%程度の水分をバインダー液として添加しなければ均一な顆粒を得ることは難しかった。その一方で、製品中の水分値は凡そ3重量%以下程度に抑えなければ、保存期間中の品質を維持できない恐れがあるため、造粒加工時に添加された多量の水分を乾燥除去する必要があった。
本発明の造粒手段では、極めて僅かな水分量で造粒物を調製できることを特徴としており、造粒後に除去すべき水分自体が無いか或いは非常に少ないため、長時間熱風に曝して乾燥する必要が無く、ココアパウダーが有している本来の香りが保持され、さらに加熱によるオフフレーバーの発生を抑制することができる。また、物性の点においては本手段により得られる造粒物は嵩密度が高く流動性に優れている。さらに、溶解性の点においては、糖質を中心核として外殻層にココアパウダーが付着している形態により、速やかに沈降して均一に分散させることができるため、溶解時の操作性や溶解後の安定性にも優れている。すなわち、本発明の手段を採用することにより、ココアパウダー本来の香りの保持と適正な溶解特性を併せ持つという従来技術では得られなかった優れた特徴を有する顆粒状ココアの提供が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の顆粒状ココアは、少なくとも糖質を含む原料粉末を中心核として、水蒸気の凝縮により発生する凝縮水を利用して、その中心核の外殻層にココアパウダーを付着させ、顆粒状に加工されたものである。
【0015】
ココアパウダーとして一般的に流通しているものには、含有油脂分10%前後のローファットココアと含有油脂分20%前後であるハイファットココアが主流であるが、本発明の顆粒状ココアにはいずれのココアパウダーも使用することができる。また、油脂分が非常に少ない脱脂ココアも含め、油脂分率にかかわらず粉末状のココアパウダー全般に適用が可能である。なお、ハイファットココアは濃厚な風味を有する反面、一般的な流動層造粒機では、強い凝集性のため、造粒加工が困難とされてきたが、本発明の造粒方法では問題なく加工可能である。
【0016】
本発明に使用することの出来る糖質は、ショ糖や乳糖などの二糖類、ブドウ糖、果糖などの単糖類、エリスリトールやマルチトールなどの糖アルコール、オリゴ糖などから選ばれた1種又は2種以上を併用して使用できる。本発明では、少なくともこれら糖質を含む原料粉末を造粒物の中心核とすることで良好な顆粒を調製することができ、前記した糖質のうちでは粒子径が0.2〜1.2mm程度の結晶状のものが好適である。本発明においては、結晶状のショ糖(グラニュー糖)が味質や作業性の点で好適である。また、ショ糖に一部ココアパウダーを配合したココアプレパレーションからも本発明の顆粒状ココアを調製することができる。この場合、糖質に対するココアの含有率は好ましくは25%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下である。ココアの含有率が多すぎる場合にはココアパウダーのみの顆粒物が生成する可能性が高くなり、所望される効果が期待できない。
【0017】
本発明の顆粒状ココアには上記のココアパウダーと糖質以外に必要に応じて全粉乳、脱脂粉乳、クリーミングパウダーなどの粉乳のほか、高甘味度甘味料、アミノ酸、増粘剤、香料、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、着色料などの副原料の1種または2種以上を配合しても良い。これらは、糖質と共に顆粒物の中心核としても、ココアパウダーと共に外殻層としても良いし、造粒後に添加、混合しても構わない。前記副原料の配合により、嗜好性や安定性を高めることができる。
【0018】
本発明の顆粒状ココアの製造方法では、水蒸気が原料粉体に接触した際に、粉体表面に生じる均一な凝縮水を粉体同士の結着力として利用することを特徴とする。また、水蒸気はココアパウダー以外の少なくとも糖質を含む原料粉末に対してのみ接触させるため、凝縮水による結着能力は前記原料粉末のみに発生する。従って、本発明の製造方法では水蒸気導入後にココアパウダーを投入することにより、ココアパウダー同士の造粒が抑制され、優先的に糖質を含む原料粉末を中心核として、その外殻層にココアパウダーが付着した顆粒を調整することが可能となる。すなわち、中心核を構成する原料粉末、水蒸気、ココアパウダーの順に造粒容器に攪拌状態を保ちながら投入して造粒を進めることが本発明の特徴である。
【0019】
本発明の顆粒状ココアの製造方法に利用できる設備は、粉体を運動させるための転動ないし攪拌する機構を備えた容器に水蒸気を導入できるものであれば良く、従来の攪拌造粒機や転動造粒機に水蒸気導入機構を追加することでも対応が可能である。なお、容器内部には粉体の回転方向に対して直交する方向にも回転する羽根を供えるものが好ましく、この羽根の作用により、造粒物の大きさを均一にすることができる。このような機能を備えた装置としては、有限会社G-Labo社の「過熱水蒸気渦流混合システム SSSMGS型」を例示することができ、本発明の製造方法に好適に利用することが可能である。本装置の場合、円筒状の容器の内部の底面側に水平回転する羽根(アジテーター)を有し、この羽根の回転運動により容器中へ投入した粉体が渦流状に転動される。さらに、容器内部の側面には垂直回転する羽根(チョッパー)を有し、この羽根は造粒時に粒体のサイズを均一にする整粒効果があるため、本発明の製造方法において都合が良い。
【0020】
本発明の顆粒状ココアの製造方法では前記装置の中で転動状態にある原料粉末(中心核となる原料)に対して、水蒸気を導入し接触させる。この際、原料粉末の温度は導入する水蒸気の温度以下であることが好ましい。これは本製造方法が水蒸気と原料粉末との温度差により生じる凝縮水を利用するためであり、水蒸気と接触した原料粉末の表面には凝縮水による僅かな層が発生し、この凝縮水の層を介して粉体同士の結着力を生み出すことができる。水蒸気を導入する際の原料粉末の温度は、製造効率や品質の観点から、5〜70℃が好ましく、より好ましくは10〜50℃、さらに好ましくは15〜40℃である。中心核となる原料粉末は、予め別の装置で予備加熱して温度調節しておいても良いし、造粒に用いる容器内で原料粉末を転動させながら、容器内に温風を導入したり、温度調節用のジャケットを利用して容器外部から加熱したりして原料粉末の温度を調節しても良い。原料粉末の温度を一定に調整することにより、品質の安定化が期待できる。
【0021】
造粒容器に導入する水蒸気は、容器への入り口付近で蒸気状態を保っていれば良く、造粒容器が密閉系であれば加圧により100℃以上の水蒸気や、減圧により100℃以下の水蒸気を導入しても良いし、開放系においては加熱した高温の水蒸気(いわゆる過熱水蒸気)も利用することができる。本発明の製造方法における導入水蒸気温度は75〜170℃が好ましく、より好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは90〜130℃である。なお、中心核となる原料粉末が熱溶解性を有する場合には高温の水蒸気を採用することにより、凝縮水の結着力に加え、表面を融解状態とすることにより結着力を増強することも可能である。
【0022】
本発明の製造方法では、導入する水蒸気と原料粉末との温度差により生じる凝縮水を利用するため、この際の温度差は+5〜165℃が好ましく、+30〜130℃がより好ましく、+50〜105℃であることが最も好ましい。温度差が大きすぎる場合には凝縮水の発生が局在化して造粒の進行が不均一になったり、温度差が小さすぎる場合には凝縮水の発生が抑制され、製造効率が低下したりする原因となる。
【0023】
水蒸気を導入する際の容器温度については、中心核となる原料粉末より高いことが好ましい。造粒容器の表面温度を原料粉末より高く設定することにより、水蒸気を導入した際に容器の内表面で凝縮水発生が低減され、ココアパウダーを投入して原料粉末表面に付着させる次工程で容器内面にココアパウダーが直接的に付着することを抑制することができる。一方、過度に高い温度では原料粉末への熱負荷が高くなり、風味の劣化や損失の原因となる。したがって装置表面温度は原料粉末との温度差が+5〜100℃であることが好ましく、より好ましくは+10〜80℃、さらに好ましくは+20〜60℃である。装置表面の具体的な温度としては30〜140℃が好ましく、より好ましくは40〜100℃、さらに好ましくは50〜90℃である。なお、装置内の攪拌羽根も前記同様に原料粉末より高い温度とするのが好ましい。
【0024】
水蒸気の導入量は目的とするココアパウダーの付着量に応じて増減させることが好ましい。一般的な条件としては中心核となる原料粉末に対する水蒸気の重量比で0.4〜5%が好ましく、0.5〜3.5%がより好ましく、0.6〜1.7%が最も好ましい。水蒸気の導入量は水蒸気流速と導入時間との関係から設定することが可能である。
【0025】
本発明の製造方法では前記した水蒸気導入工程(一次水蒸気導入)に次いで、ココアパウダーを投入して中心核となる原料粉末の表面に付着させる。ココアパウダーの投入量は目的とする組成により適宜決定すれば良いが、一般的な配合比としては中心核となる原料粉末に対する重量比率で10〜30%である。中心核となる原料粉末に対してココアパウダーの配合量が多すぎる場合には核の表面に付着しきれなくなくおそれがあるが、前記した水蒸気導入工程における水蒸気量を増加させることにより、ココアパウダーの付着量を増加させることも可能である。その他、水蒸気の導入とココアパウダーの投入を繰り返し行うことでココアパウダーからなる外殻層を成長させることもできるし、ココアパウダーに換えて他の原料粉末を使用することにより、ココアパウダーからなる外殻層の外側に所望の原料粉末で外殻層を形成することもできる。
【0026】
本発明の製造方法ではココアパウダーを付着させた後に、再度水蒸気を導入する工程(二次水蒸気導入)により、ココアパウダーの付着力を高めることも可能である。この操作により、付着後の造粒物からココアパウダーが脱落して分離することを抑制することができる。この際の水蒸気導入量は造粒粉末に対する水分負荷率(原料粉末の総重量に対する導入水蒸気の総重量比率)として0.2〜5.0%であることが好ましい。この際、使用するココアパウダーの油脂分によって水蒸気量を調整するのが良く、油脂分の少ないローファットタイプの場合は2.0〜5.0%が好ましく、油脂分の多いハイファットココアの場合は0.2〜3%が好ましい。水蒸気量が過剰である場合には造粒物同士がさらに結合してしまったり、乾燥工程時の熱負荷により風味が損失したりする原因となるため好ましくなく、水蒸気量が過少である場合にはココアパウダーの付着力を高める効果が期待できない。
【0027】
全工程を通じ、水分負荷率(原料粉末の総重量に対する導入水蒸気の総重量比率)は0.5〜10%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜8%、さらに好ましくは0.6〜3.5%、最も好ましくは0.6〜1.7%である。水蒸気量が少ない場合には粉体同士の結着力が低下するため、顆粒の形成が不十分となり、粒度が不均一になるほか、製造後にココアパウダーが脱落する原因となる可能性がある。一方、過剰である場合には造粒物同士がさらに結合して粒度が不均一になったり、装置への付着量が増加して歩留りが低下する原因となるほか、乾燥工程時の熱負荷により風味が損失したりする原因となるため好ましくない。
【0028】
前記の水蒸気を導入する工程及びココアパウダーを投入して付着させる工程では、造粒容器内で粉体全体が絶えず運動する程度に攪拌力を調節するのが好ましい。このような状態にすることで、粒度の均一性を高めることができ、歩留りの向上にも効果がある。攪拌の速度については使用する装置の構成によるため一概に規定することはできないが、ココアパウダーの付着が不均一となったり、大粒の顆粒物の形成が多く認められたりするような場合には、攪拌量の不足が原因であるため、攪拌速度を調節することが好ましい。
【0029】
本発明の製造方法では、造粒工程に次いで必要に応じて乾燥を行う。本発明の製造方法では、粉体に対して僅かな水分負荷率で造粒効果が得られるため、造粒工程終了時の水分含量が製品として所望する水分含量を下回る場合も有り、その場合には乾燥工程を設けずにそのまま製品として取り扱うこともできる。乾燥が必要とされる場合には、造粒に使用した容器内で攪拌しながら熱風を導入して乾燥するのが作業性の点で好ましいが、別途流動層装置などに移して乾燥しても良い。最終的な造粒物中の水分含量が高い場合には、微生物の繁殖や固結の原因となるため、水分含量は3%以下にするのが好ましい。
【0030】
また、乾燥工程終了後、または乾燥工程を設けない場合には造粒工程後には粉体の温度が上昇しているため、必要に応じ冷却することが好ましい。冷却することで、風味の劣化が最小限に抑えられ、安定した品質の顆粒物を得ることができる。冷却操作は造粒に使用した容器内で攪拌しながら冷風ないし常温の風を導入して粉体温度を下げるのが作業性の点で好ましいが、別途、流動層冷却装置などの冷却装置に移して冷却しても良い。
【0031】
上記の操作で得られた顆粒物は、大きさ、重力、形状、色調、比重、などを利用した、ふるい選別機、風力選別機、色調や大きさの画像処理による選別機、重力分級機分離装置などを利用する従来技術により、粒度を一定範囲に調整しても良く、この操作を加えることで、微粉や過度に造粒された粒子を除去し、均一な顆粒物を得ることができる。
【0032】
なお、本発明の顆粒状ココアには必要に応じて全粉乳、脱脂粉乳、クリーミングパウダーなどの粉乳のほか、高甘味度甘味料、アミノ酸、増粘剤、香料、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、着色料などの副原料の1種または2種以上を造粒後に混合して均質化することにより、品質の安定性や嗜好性を高めた調整ココア組成物を調製することができる。混合には、ナウターブレンダー、リボンブレンダー、V型ブレンダー、コンテナブレンダー、スクリューブレンダーなど一般的な装置を使用しても良いし、造粒機の攪拌機構を利用して混合しても良い。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら制限されるものではない。
【0034】
《試験例1》
本発明の調整ココア製造方法と従来技術による製造方法の比較評価を行った。
【0035】
実施例1
以下の条件で本発明の製造方法による実施例1の顆粒状ココアを調製した。
・造粒装置:過熱水蒸気渦流混合システム SSSMGS-12(有限会社G-Labo製)
・原料:グラニュー糖 CIM(伊藤忠製糖製)、 ハイファットココアパウダー PG22(油脂分22%、明治製)
・操作:造粒装置のジャケット温度を50℃に調整し、グラニュー糖を2.4kg投入した(原料温度は25℃)。次いで、アジテーター回転数150rpm、チョッパー回転数500rpmにて攪拌しながら、ヒーターで150℃に加熱した過熱水蒸気を、水蒸気流量2kg/hで60秒間導入した(水分量として33.3g)。この条件において水蒸気出口付近の温度(導入蒸気温度)は100℃であった。水蒸気導入終了直後にアジテーター回転数400rpm、チョッパー回転数2000rpmに設定変更し、攪拌を継続しながらハイファットココアパウダーを0.6kg投入し、更に100℃の水蒸気を水蒸気流量2kg/hで30秒間を導入した(水分量として16.7g)。水蒸気投入後、継続して更に60秒間混合し、排出後に目開き1.41mmの篩で大粒になった粒子を取り除き、本発明実施例1の調整ココア顆粒2.69kgを得た(歩留り90.0%)。本実施例では造粒物の水分含量が1.45%と十分に低い値であったため、乾燥工程の必要は無かった。なお、本条件において導入した水蒸気の総水分量は50g、原料の総重量に対する水分負荷率は1.67%であった。
【0036】
比較例1
以下の条件で攪拌造粒手段による比較例1の顆粒状ココアを調製した。
・造粒装置:過熱水蒸気渦流混合システム SSSMGS-12(有限会社G-Labo製)
・乾燥装置:流動層造粒コーティング装置 FLO-5(株式会社大川原製作所製)
・原料:グラニュー糖 CIM(伊藤忠製糖製)、 ハイファットココアパウダー PG22(油脂分22%、明治製)
・操作:造粒装置のジャケット温度を50℃に調整し、グラニュー糖を2.4kg投入した。
次いで、アジテーター回転数150rpm、チョッパー回転数500rpmにて攪拌しながら、常温(25℃)の純水200mlを90ml/分の速度でグラニュー糖に向けて噴霧した。直後にアジテーター回転数400rpm、チョッパー回転数2000rpmに攪拌速度を設定し、攪拌しながらハイファットココアパウダー0.6kgを投入し、更に常温の純水100mlを約90ml/分の速度で噴霧した。噴霧終了後、継続して更に60秒間攪拌した。得られた造粒物の水分含量は3.15%であったため、前操作に次いで乾燥処理を施した。乾燥装置を70℃に十分に予熱し、造粒物の全量を乾燥装置に移し、吸気温度100℃で3分間流動乾燥し、排出後に目開き1.41mmの篩で大粒になった粒子を取り除き、比較例1の調整ココア顆粒2.8kgを得た(歩留り95%)。最終的な水分含量は0.75%であった。また、本条件において、噴霧した総水分量は300g、原料の総重量に対する水分負荷率は10.0%であった。
【0037】
比較例2
以下の条件で流動層造粒手段による比較例2の顆粒状ココアを調製した。
・造粒装置:流動層造粒コーティング装置 FLO-5(株式会社大川原製作所製)
・原料:グラニュー糖 CIM(伊藤忠製糖製)、 ハイファットココアパウダー PG22(油脂分22%、明治製)
・操作:造粒装置を吸気温度70℃で十分に予熱しておき、グラニュー糖2.4kg及びハイファットココアパウダー0.6kgを投入し、適度に原料粉末が流動するように吸排気量を調整して3分間流動混合した。その後、吸気温度70℃で流動状態を保持したまま85℃の純水400mlを80ml/分の速度で5分間噴霧して造粒し、水分含量7.96%の顆粒物を得た。さらに、吸気温度を100℃に変更し、全体が激しく吹き上がるように吸排気量を調節して、10分間流動乾燥し、排出後に目開き1.41mmの篩で大粒になった粒子を取り除き、比較例2の調整ココア顆粒2.9kgを得た(歩留り97%)。最終的な水分含量は5.76%であった。
また、本条件において、噴霧した総水分量は400g、原料の総重量に対する水分負荷率は13.3%であった。
【0038】
実施例1、比較例1および2で得られた顆粒状ココアについて、以下の方法で評価を行った。
<流動性評価>
パウダーテスターPT-E型(ホソカワミクロン社製)を用い、本装置付属の取扱説明書に従って安息角、圧縮度、スパチュラ角、均一度の測定を行い、同説明書記載の指数表を参照して各測定値を指数化し、これらの指数を合算して得られた流動性指数から流動性の程度を評価した。流動性指数は大きいほど流動性がよく、ハンドリングに優れている。なお流動性の程度は流動性指数より、良好な順から、最も良好(90.0〜100)、かなり良好(80.0〜89.9)、良好(70.0〜79.9)、普通(60.0〜69.9)、あまり良くない(40.0〜59.9)、不良(20.0〜39.9)、非常に悪い(0〜19.9)、で示した。なお、本評価方法はCarrの流動特性評価法(Chemical Engineering, Jan. 18, pp. 163-168)に基づくものである。
【0039】
<溶解性評価方法>
溶解性については以下の方法で評価した。
〔沈降性〕
熱湯100gを入れた200mlビーカーに造粒物の検体20gをそっと浮かべ、完全に水没するまでにかかる時間を測定した。
【0040】
〔溶解性〕
上記「沈降性」試験終了後、スパーテルで1秒間に2回の強さで20秒攪拌した後、速やかに60メッシュ(目開き250μm)の篩に通し、篩上の溶け残りを目視評価した。
【0041】
〔安定性〕
上記「溶解性」試験における篩通過後の溶液を静置し、1分間経過時の溶解状態を目視観察した。
【0042】
<香味評価>
実施例1、比較例1および2で得られた調整ココア顆粒について、20gを約90℃の熱湯140mlに溶解してココア飲料を調製し、10名のパネラーで香味評価した。
【0043】
<結果>
実施例1、比較例1および2で得られた調整ココア顆粒について、上記方法で評価した結果を表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示した結果より、本発明実施例1の顆粒状ココアは、一般的に利用されている流動層造粒により得られる顆粒(比較例2)と比較して優れた流動性を有していることが認められた。なお、比較例2では、ゆるみ見掛け比重40.7g/100ml、固め見掛け比重53.7g/100ml(圧縮度24.7%)であったのに対し、実施例1ではゆるみ見掛け比重78.1g/100ml、固め見掛け比重92.46g/100ml(圧縮度15.4%)と、嵩密度が大きく重質な粒子となっていることが確認され、カップベンダー等のディスペンサーへの適用性に優れると判断された。また、溶解特性に関して実施例1は沈降性に優れ、速やかにほぼ全量が溶解した。一方、比較例2では沈降するまでの時間が長く、溶け残りも多かった。溶解後の溶液については、比較例1では短時間で多くの凝集物が発生したが、実施例1では溶解後も安定な状態を保っていた。また、香味に関して比較例1及び2では古紙や粉のようなオフフレーバーが認められたのに対し、実施例1では、オフフレーバーの発生は認められず、ココア本来の芳醇な香りが強く感じられたことから、高い嗜好性を有すると判断された。なお、比較例1では本発明の実施態様の一部として原料を段階的に投入する手段を採用したが、液体状態の水を負荷する方法では本発明の目的とする効果を得られないことが確認された。以上の結果より、本発明の顆粒状ココアの製造方法は従来技術である攪拌造粒や流動層造粒に比べ、優れた製造方法であることが確認された。
【0046】
《試験例2》
実施例1の製造条件をベースとして、導入する水蒸気温度の影響を実施例2〜7で検証した。各実施例の条件と結果を表2に示した(なお表中には実施例1を再掲した)。なお、実施例2〜4では油脂分の少ないローファットココアパウダー(ココアパウダー PG12、油脂分12%、明治製)を使用した。
【0047】
【表2】
【0048】
試験例2の結果より、95〜140℃の水蒸気温度範囲においては、いずれも問題なく造粒加工でき、調製品の流動性、溶解特性および香味も十分に満足できるレベルであることが確認された。なお、別途行った水蒸気温度を170℃以上に設定した試験では、原料のショ糖結晶の中心部まで熱融解が進行して粒同士が融合して団子状の大きな粒となり、顆粒を形成できなかったことから、水蒸気温度は少なくとも170℃以下が適切と判断された。実施例1、5〜7では造粒後の水分値は1.2〜1.9%であり、乾燥処理の必要がなかったことから、乾燥処理に伴う香味損失が少なく、官能評価においても良好な評価となった。また、実施例5では、水蒸気導入を一次のみで調製したところ、香味の保持は特に優れたが、実施例1、6および7の調製品と比較すると、表面のココアパウダーが若干脱落しやすい傾向が認められた。一方、造粒後に2次の水蒸気導入を行ったその他の実施例ではココアの固着がしっかりとしており、脱落の兆候は認められなかった。
【0049】
《試験例3》
実施例1の製造条件をベースとして、水蒸気導入量(水分負荷率)の影響を実施例8〜13で検証した。各条件と結果を表3に示した(なお表中には実施例1を再掲した)。
【0050】
【表3】
【0051】
試験例3の結果より、原料の重量に対し、水蒸気による水分負荷率は0.55%〜5.0%の範囲でいずれも問題なく造粒加工でき、調製品の流動性、溶解特性および香味も十分に満足できるレベルであることが確認された。特に水分負荷率が1.7%以下の実施例1、11〜13においては造粒後の時点で水分含量が1.5%以下であり、その後の乾燥を必要としなかった。なお、水分負荷率が5%の実施例10では、問題のない範囲ではあるが、容器への付着により歩留りがやや低く、また、水分負荷率が多いことにより強めの乾燥が必要となり、熱負荷に起因すると思われる凝集が僅かに認められた。
【0052】
《試験例4》
実施例3の製造条件をベースに、造粒容器温度の歩留りに与える影響を実施例14〜17で検証した。各条件と結果を表4に示した。
【0053】
【表4】
【0054】
試験例4の結果より、容器温度は歩留りに影響することが確認された。容器温度が低く、原料との温度差が小さい場合には造粒容器の内表面へ多くの粉体が付着してしまい、排出できる造粒物の数量が減少して歩留りが低下した。容器への付着は連続的な生産性にも影響を与えるため、容器温度は適切に設定することが好ましいと考えられた。
【0055】
《試験例5》
ショ糖に代えて2.6kgのエリスリトールを原料とするほかは実施例11と同様の条件で操作を行い、実施例18の本発明の顆粒状ココアを調製した(歩留り97.3%)。造粒後の水分は1.15%であり、乾燥処理は行わなかった。調製品の評価結果は次の通り。流動性指数:77.5(かなり良い)、沈降性:0秒、溶解性:全量が溶解、安定性:安定、香味評価:期待するココア感を有し、エリスリトールに特有のすっきりとした甘みが感じられる良好な香味、総合的にも「良好」と評価された。本実施例の結果より、本発明の製造方法はショ糖以外にも低カロリーの糖質でも適用可能であることを確認した。
【0056】
《試験例6》
ローファットココアパウダーを10%含有するショ糖(ココアプレパレーション)2.5kgを中心核となる粉末原料として70℃に温度調節した造粒容器に投入し、実施例1と同様の条件で攪拌した。攪拌状態を維持しながら125℃の水蒸気を4kg/hの速度で50秒間導入した後に、ローファットココアパウダー0.4kgを投入し、一次的な顆粒物を形成させた。
次いで、前記同条件で水蒸気導入を行い、ローファットココアパウダー0.2kgを投入して、ココアパウダーからなる外殻層を成長させた。さらに、同条件での水蒸気を25秒間導入してココアパウダー層を固着し、100℃の熱風で3分間乾燥させ、実施例18の本発明の顆粒状ココアを調製した。本操作における水分負荷率は3.8%、歩留りは95.3%であり、製造上の問題も認められなかった。得られた顆粒物の物性(流動性、溶解特性)も良好で、香味評価に関しては、ココア原料使用比率の増加により、更なるココア感の向上が認められた。本試験結果より、水蒸気導入とココアパウダー付着を繰り返すことで、ココアパウダーからなる外殻層の厚みを調製できることが確認された。
【0057】
《試験例7》
実施例1の顆粒状ココアを用いて、表5に示す配合で各原料をビニール袋に入れ、均一になるまで約5分間振り混ぜ、本発明実施例19の飲料用調整ココア組成物を調製した。
【0058】
【表5】
【0059】
得られた調整ココア組成物について、業務用ディスペンサーを用いた吐出試験を行った。試験には富士電機製カップ式自動販売機FRM283Fを使用し、調整ココア組成物1.0kgをサーバーに投入して、一回当たり18.0gずつを50回吐出させ、吐出重量を測定することにより装置適性を評価した。その結果、試験操作中の吐出重量は安定的に推移し、吐出部の詰まりなどの不具合は発生しなかったことから、本発明の調整ココア組成物の優れた自販機適性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の顆粒状ココアの製造方法によれば、従来の調製手段と比較して濃厚で風味に優れ、且つ沈降性や溶解安定性が良好な調整ココアの提供が可能であるため、家庭で手軽に本格的なココア飲料を調製できるほか、カップベンダーなどの業務用のディスペンサーにおいても幅広く利用することが可能である。