【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら制限されるものではない。
【0034】
《試験例1》
本発明の調整ココア製造方法と従来技術による製造方法の比較評価を行った。
【0035】
実施例1
以下の条件で本発明の製造方法による実施例1の顆粒状ココアを調製した。
・造粒装置:過熱水蒸気渦流混合システム SSSMGS-12(有限会社G-Labo製)
・原料:グラニュー糖 CIM(伊藤忠製糖製)、 ハイファットココアパウダー PG22(油脂分22%、明治製)
・操作:造粒装置のジャケット温度を50℃に調整し、グラニュー糖を2.4kg投入した(原料温度は25℃)。次いで、アジテーター回転数150rpm、チョッパー回転数500rpmにて攪拌しながら、ヒーターで150℃に加熱した過熱水蒸気を、水蒸気流量2kg/hで60秒間導入した(水分量として33.3g)。この条件において水蒸気出口付近の温度(導入蒸気温度)は100℃であった。水蒸気導入終了直後にアジテーター回転数400rpm、チョッパー回転数2000rpmに設定変更し、攪拌を継続しながらハイファットココアパウダーを0.6kg投入し、更に100℃の水蒸気を水蒸気流量2kg/hで30秒間を導入した(水分量として16.7g)。水蒸気投入後、継続して更に60秒間混合し、排出後に目開き1.41mmの篩で大粒になった粒子を取り除き、本発明実施例1の調整ココア顆粒2.69kgを得た(歩留り90.0%)。本実施例では造粒物の水分含量が1.45%と十分に低い値であったため、乾燥工程の必要は無かった。なお、本条件において導入した水蒸気の総水分量は50g、原料の総重量に対する水分負荷率は1.67%であった。
【0036】
比較例1
以下の条件で攪拌造粒手段による比較例1の顆粒状ココアを調製した。
・造粒装置:過熱水蒸気渦流混合システム SSSMGS-12(有限会社G-Labo製)
・乾燥装置:流動層造粒コーティング装置 FLO-5(株式会社大川原製作所製)
・原料:グラニュー糖 CIM(伊藤忠製糖製)、 ハイファットココアパウダー PG22(油脂分22%、明治製)
・操作:造粒装置のジャケット温度を50℃に調整し、グラニュー糖を2.4kg投入した。
次いで、アジテーター回転数150rpm、チョッパー回転数500rpmにて攪拌しながら、常温(25℃)の純水200mlを90ml/分の速度でグラニュー糖に向けて噴霧した。直後にアジテーター回転数400rpm、チョッパー回転数2000rpmに攪拌速度を設定し、攪拌しながらハイファットココアパウダー0.6kgを投入し、更に常温の純水100mlを約90ml/分の速度で噴霧した。噴霧終了後、継続して更に60秒間攪拌した。得られた造粒物の水分含量は3.15%であったため、前操作に次いで乾燥処理を施した。乾燥装置を70℃に十分に予熱し、造粒物の全量を乾燥装置に移し、吸気温度100℃で3分間流動乾燥し、排出後に目開き1.41mmの篩で大粒になった粒子を取り除き、比較例1の調整ココア顆粒2.8kgを得た(歩留り95%)。最終的な水分含量は0.75%であった。また、本条件において、噴霧した総水分量は300g、原料の総重量に対する水分負荷率は10.0%であった。
【0037】
比較例2
以下の条件で流動層造粒手段による比較例2の顆粒状ココアを調製した。
・造粒装置:流動層造粒コーティング装置 FLO-5(株式会社大川原製作所製)
・原料:グラニュー糖 CIM(伊藤忠製糖製)、 ハイファットココアパウダー PG22(油脂分22%、明治製)
・操作:造粒装置を吸気温度70℃で十分に予熱しておき、グラニュー糖2.4kg及びハイファットココアパウダー0.6kgを投入し、適度に原料粉末が流動するように吸排気量を調整して3分間流動混合した。その後、吸気温度70℃で流動状態を保持したまま85℃の純水400mlを80ml/分の速度で5分間噴霧して造粒し、水分含量7.96%の顆粒物を得た。さらに、吸気温度を100℃に変更し、全体が激しく吹き上がるように吸排気量を調節して、10分間流動乾燥し、排出後に目開き1.41mmの篩で大粒になった粒子を取り除き、比較例2の調整ココア顆粒2.9kgを得た(歩留り97%)。最終的な水分含量は5.76%であった。
また、本条件において、噴霧した総水分量は400g、原料の総重量に対する水分負荷率は13.3%であった。
【0038】
実施例1、比較例1および2で得られた顆粒状ココアについて、以下の方法で評価を行った。
<流動性評価>
パウダーテスターPT-E型(ホソカワミクロン社製)を用い、本装置付属の取扱説明書に従って安息角、圧縮度、スパチュラ角、均一度の測定を行い、同説明書記載の指数表を参照して各測定値を指数化し、これらの指数を合算して得られた流動性指数から流動性の程度を評価した。流動性指数は大きいほど流動性がよく、ハンドリングに優れている。なお流動性の程度は流動性指数より、良好な順から、最も良好(90.0〜100)、かなり良好(80.0〜89.9)、良好(70.0〜79.9)、普通(60.0〜69.9)、あまり良くない(40.0〜59.9)、不良(20.0〜39.9)、非常に悪い(0〜19.9)、で示した。なお、本評価方法はCarrの流動特性評価法(Chemical Engineering, Jan. 18, pp. 163-168)に基づくものである。
【0039】
<溶解性評価方法>
溶解性については以下の方法で評価した。
〔沈降性〕
熱湯100gを入れた200mlビーカーに造粒物の検体20gをそっと浮かべ、完全に水没するまでにかかる時間を測定した。
【0040】
〔溶解性〕
上記「沈降性」試験終了後、スパーテルで1秒間に2回の強さで20秒攪拌した後、速やかに60メッシュ(目開き250μm)の篩に通し、篩上の溶け残りを目視評価した。
【0041】
〔安定性〕
上記「溶解性」試験における篩通過後の溶液を静置し、1分間経過時の溶解状態を目視観察した。
【0042】
<香味評価>
実施例1、比較例1および2で得られた調整ココア顆粒について、20gを約90℃の熱湯140mlに溶解してココア飲料を調製し、10名のパネラーで香味評価した。
【0043】
<結果>
実施例1、比較例1および2で得られた調整ココア顆粒について、上記方法で評価した結果を表1に示した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示した結果より、本発明実施例1の顆粒状ココアは、一般的に利用されている流動層造粒により得られる顆粒(比較例2)と比較して優れた流動性を有していることが認められた。なお、比較例2では、ゆるみ見掛け比重40.7g/100ml、固め見掛け比重53.7g/100ml(圧縮度24.7%)であったのに対し、実施例1ではゆるみ見掛け比重78.1g/100ml、固め見掛け比重92.46g/100ml(圧縮度15.4%)と、嵩密度が大きく重質な粒子となっていることが確認され、カップベンダー等のディスペンサーへの適用性に優れると判断された。また、溶解特性に関して実施例1は沈降性に優れ、速やかにほぼ全量が溶解した。一方、比較例2では沈降するまでの時間が長く、溶け残りも多かった。溶解後の溶液については、比較例1では短時間で多くの凝集物が発生したが、実施例1では溶解後も安定な状態を保っていた。また、香味に関して比較例1及び2では古紙や粉のようなオフフレーバーが認められたのに対し、実施例1では、オフフレーバーの発生は認められず、ココア本来の芳醇な香りが強く感じられたことから、高い嗜好性を有すると判断された。なお、比較例1では本発明の実施態様の一部として原料を段階的に投入する手段を採用したが、液体状態の水を負荷する方法では本発明の目的とする効果を得られないことが確認された。以上の結果より、本発明の顆粒状ココアの製造方法は従来技術である攪拌造粒や流動層造粒に比べ、優れた製造方法であることが確認された。
【0046】
《試験例2》
実施例1の製造条件をベースとして、導入する水蒸気温度の影響を実施例2〜7で検証した。各実施例の条件と結果を表2に示した(なお表中には実施例1を再掲した)。なお、実施例2〜4では油脂分の少ないローファットココアパウダー(ココアパウダー PG12、油脂分12%、明治製)を使用した。
【0047】
【表2】
【0048】
試験例2の結果より、95〜140℃の水蒸気温度範囲においては、いずれも問題なく造粒加工でき、調製品の流動性、溶解特性および香味も十分に満足できるレベルであることが確認された。なお、別途行った水蒸気温度を170℃以上に設定した試験では、原料のショ糖結晶の中心部まで熱融解が進行して粒同士が融合して団子状の大きな粒となり、顆粒を形成できなかったことから、水蒸気温度は少なくとも170℃以下が適切と判断された。実施例1、5〜7では造粒後の水分値は1.2〜1.9%であり、乾燥処理の必要がなかったことから、乾燥処理に伴う香味損失が少なく、官能評価においても良好な評価となった。また、実施例5では、水蒸気導入を一次のみで調製したところ、香味の保持は特に優れたが、実施例1、6および7の調製品と比較すると、表面のココアパウダーが若干脱落しやすい傾向が認められた。一方、造粒後に2次の水蒸気導入を行ったその他の実施例ではココアの固着がしっかりとしており、脱落の兆候は認められなかった。
【0049】
《試験例3》
実施例1の製造条件をベースとして、水蒸気導入量(水分負荷率)の影響を実施例8〜13で検証した。各条件と結果を表3に示した(なお表中には実施例1を再掲した)。
【0050】
【表3】
【0051】
試験例3の結果より、原料の重量に対し、水蒸気による水分負荷率は0.55%〜5.0%の範囲でいずれも問題なく造粒加工でき、調製品の流動性、溶解特性および香味も十分に満足できるレベルであることが確認された。特に水分負荷率が1.7%以下の実施例1、11〜13においては造粒後の時点で水分含量が1.5%以下であり、その後の乾燥を必要としなかった。なお、水分負荷率が5%の実施例10では、問題のない範囲ではあるが、容器への付着により歩留りがやや低く、また、水分負荷率が多いことにより強めの乾燥が必要となり、熱負荷に起因すると思われる凝集が僅かに認められた。
【0052】
《試験例4》
実施例3の製造条件をベースに、造粒容器温度の歩留りに与える影響を実施例14〜17で検証した。各条件と結果を表4に示した。
【0053】
【表4】
【0054】
試験例4の結果より、容器温度は歩留りに影響することが確認された。容器温度が低く、原料との温度差が小さい場合には造粒容器の内表面へ多くの粉体が付着してしまい、排出できる造粒物の数量が減少して歩留りが低下した。容器への付着は連続的な生産性にも影響を与えるため、容器温度は適切に設定することが好ましいと考えられた。
【0055】
《試験例5》
ショ糖に代えて2.6kgのエリスリトールを原料とするほかは実施例11と同様の条件で操作を行い、実施例18の本発明の顆粒状ココアを調製した(歩留り97.3%)。造粒後の水分は1.15%であり、乾燥処理は行わなかった。調製品の評価結果は次の通り。流動性指数:77.5(かなり良い)、沈降性:0秒、溶解性:全量が溶解、安定性:安定、香味評価:期待するココア感を有し、エリスリトールに特有のすっきりとした甘みが感じられる良好な香味、総合的にも「良好」と評価された。本実施例の結果より、本発明の製造方法はショ糖以外にも低カロリーの糖質でも適用可能であることを確認した。
【0056】
《試験例6》
ローファットココアパウダーを10%含有するショ糖(ココアプレパレーション)2.5kgを中心核となる粉末原料として70℃に温度調節した造粒容器に投入し、実施例1と同様の条件で攪拌した。攪拌状態を維持しながら125℃の水蒸気を4kg/hの速度で50秒間導入した後に、ローファットココアパウダー0.4kgを投入し、一次的な顆粒物を形成させた。
次いで、前記同条件で水蒸気導入を行い、ローファットココアパウダー0.2kgを投入して、ココアパウダーからなる外殻層を成長させた。さらに、同条件での水蒸気を25秒間導入してココアパウダー層を固着し、100℃の熱風で3分間乾燥させ、実施例18の本発明の顆粒状ココアを調製した。本操作における水分負荷率は3.8%、歩留りは95.3%であり、製造上の問題も認められなかった。得られた顆粒物の物性(流動性、溶解特性)も良好で、香味評価に関しては、ココア原料使用比率の増加により、更なるココア感の向上が認められた。本試験結果より、水蒸気導入とココアパウダー付着を繰り返すことで、ココアパウダーからなる外殻層の厚みを調製できることが確認された。
【0057】
《試験例7》
実施例1の顆粒状ココアを用いて、表5に示す配合で各原料をビニール袋に入れ、均一になるまで約5分間振り混ぜ、本発明実施例19の飲料用調整ココア組成物を調製した。
【0058】
【表5】
【0059】
得られた調整ココア組成物について、業務用ディスペンサーを用いた吐出試験を行った。試験には富士電機製カップ式自動販売機FRM283Fを使用し、調整ココア組成物1.0kgをサーバーに投入して、一回当たり18.0gずつを50回吐出させ、吐出重量を測定することにより装置適性を評価した。その結果、試験操作中の吐出重量は安定的に推移し、吐出部の詰まりなどの不具合は発生しなかったことから、本発明の調整ココア組成物の優れた自販機適性が確認された。