特許第6189473号(P6189473)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189473慢性創傷を治療及び予防するための装置、方法、及び組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189473
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】慢性創傷を治療及び予防するための装置、方法、及び組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/26 20060101AFI20170821BHJP
   A61L 15/42 20060101ALI20170821BHJP
   A61L 15/46 20060101ALI20170821BHJP
   A61K 31/385 20060101ALI20170821BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20170821BHJP
   A61M 27/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   A61L15/26 100
   A61L15/42 310
   A61L15/46 100
   A61K31/385
   A61P17/02
   A61M27/00
【請求項の数】14
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-85736(P2016-85736)
(22)【出願日】2016年4月22日
(62)【分割の表示】特願2013-503918(P2013-503918)の分割
【原出願日】2011年4月6日
(65)【公開番号】特開2016-175921(P2016-175921A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年5月13日
(31)【優先権主張番号】12/757,562
(32)【優先日】2010年4月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508268713
【氏名又は名称】ケーシーアイ ライセンシング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ジムニツキー,ドミトリー
(72)【発明者】
【氏名】フィンクバイナー,ジェニー
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/158500(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/091521(WO,A1)
【文献】 特表2009−529970(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/107189(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/060622(WO,A1)
【文献】 特表2004−510225(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/088926(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/017282(WO,A1)
【文献】 特開平01−160554(JP,A)
【文献】 特表平11−512452(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/097534(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/126102(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61K31/00−33/44
A61P 1/00−43/00
A61F 2/00− 4/00
13/00−13/84
15/00−17/00
A61B13/00−18/28
A61M25/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織部位に治療を施す創傷ドレッシングにおいて:
複数の流路を有する連続気泡発泡体を含む多孔性ポリウレタン材料であって、前記複数の流路が、前記連続気泡発泡体内の孔から形成されて、前記多孔性ポリウレタン材料を介して減圧を分布させるサイズであり、前記多孔性ポリウレタン材料が前記減圧を受けるように構成され、前記組織部位近傍に位置するように構成された接触面を有する多孔性ポリウレタン材料と
前記接触面の少なくとも一部を被覆して、前記多孔性ポリウレタン材料の接触面近傍の前記複数の通路の一部内に浸出させたリポ酸誘導体およびゼラチンを含む組成物と;
を具え、
前記リポ酸誘導体が以下の構造を有しており、
上記式においてn1およびn2が、それぞれC1−C10アルキルであり;R1は、H、C1−C10アルキル、C6−C14アリール、アルキルアンモニウム、またはプロトン化アミノ酸であることを特徴とする創傷ドレッシング。
【請求項2】
請求項1に記載の創傷ドレッシングにおいて、前記組成物中の前記ゼラチンの濃度が0.1%−25%w/wであることを特徴とする創傷ドレッシング。
【請求項3】
請求項1に記載の創傷ドレッシングが更に、抗菌剤、成長因子、プロティナーゼ阻害剤、キレート剤、あるいは防腐剤を含むことを特徴とする創傷ドレッシング。
【請求項4】
請求項3に記載の創傷ドレッシングにおいて、前記抗菌剤が非イオン性銀、ポリヘクサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、又は、トリクロサンであることを特徴とする創傷ドレッシング。
【請求項5】
請求項3に記載の創傷ドレッシングにおいて、当該創傷ドレッシングがエチレンジアミン四酢酸を含むことを特徴とする創傷ドレッシング。
【請求項6】
減圧治療システムにおいて:
複数の流路を有する連続気泡発泡体を含む多孔性ポリウレタン材料であって、前記複数の流路が、前記連続気泡発泡体内の孔から形成されて、前記多孔性ポリウレタン材料を介して減圧を分布させるサイズであり、前記多孔性ポリウレタン材料が前記減圧を受けるように構成され、前記組織部位近傍に位置するように構成された接触面を有する多孔性ポリウレタン材料と
前記接触面の少なくとも一部を被覆して、前記接触面近傍の前記複数の通路の一部内に浸出させたリポ酸誘導体およびゼラチンを含む組成物と;
を具え、
前記リポ酸誘導体が以下の構造を有しており、
上記式においてn1およびn2が、それぞれC1−C10アルキルであり;R1は、H、C1−C10アルキル、C6−C14アリール、アルキルアンモニウム、またはプロトン化アミノ酸であり;
前記減圧システムがさらに:
前記ポリウレタン材料の上に配置され、前記組織部位の上に密閉可能な空間を維持するように構成されたドレープと;
前記密閉可能な空間に流体連通して、前記ドレープを介して前記密閉可能な空間と前記多孔性ポリウレタン材料に減圧を送達する減圧源と;
を具えることを特徴とするシステム。
【請求項7】
請求項6に記載のシステムにおいて、前記多孔性ポリウレタン材料に適用された減圧により、前記多孔性ポリウレタン材料と前記組織との間の接触範囲が大きくなり、これによって、前記組織の前記ゼラチンに対する曝露が増加することを特徴とするシステム。
【請求項8】
請求項7に記載のシステムにおいて、前記組織における炎症性活性を、前記接触範囲が増加することによって低減させることを特徴とするシステム。
【請求項9】
請求項7に記載のシステムにおいて、前記減圧によって、前記多孔性ポリウレタン材料を前記組織に対して押し付けることで、前記接触範囲を増大させることを特徴とするシステム。
【請求項10】
請求項6に記載のシステムにおいて、前記組織における炎症性活性が、前記組織から前記通路へ体液を除去すること、及び、前記通路内の体液を前記ゼラチンに曝露させることによって、低減することを特徴とするシステム。
【請求項11】
請求項6に記載のシステムが更に、前記多孔性ポリウレタン材料と前記組織に対して減圧を提供するように構成したマニホルドを具えることを特徴とするシステム。
【請求項12】
請求項1に記載の創傷ドレッシングにおいて、前記ゼラチンのブルーム値が約150−300gであることを特徴とする創傷ドレッシング。
【請求項13】
請求項1に記載の創傷ドレッシングにおいて、前記ゼラチンのブルーム値が約200−250gであることを特徴とする創傷ドレッシング。
【請求項14】
請求項1に記載の創傷ドレッシングにおいて、前記ゼラチンのブルーム値が約225gであることを特徴とする創傷ドレッシング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して医学的治療システムに関し、より詳細には、慢性創傷の治療又は予防用基材に適用される製剤及び組成物のための、αリポ酸並びにその薬学的に許容可能な塩及び誘導体を用いる医療用ドレッシング、システム、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慢性創傷、例えば、静脈性潰瘍、糖尿病性潰瘍及び褥瘡の典型的な治療手技には、吸収性ドレッシング又はハイドロコロイドゲルの使用が含まれる。加えて、ほとんどの慢性創傷が感染するため、多くの創傷ドレッシングが銀又はヨウ素などの抗菌剤を含み、それにより微生物に対する遮断壁を設け、或いは微生物負荷を低減する。これらの治療は創傷治癒を積極的に促進するというより、創傷環境及び水分平衡を管理するために多く使用される。
【0003】
正常な創傷修復には、炎症と活性酸素種(ROS)の適時放出とが重要であり、これらはタンパク質分解酵素及び他の細胞傷害性酵素と共に、取り込まれた細菌を死滅させ、創傷感染を防止する働きをする。しかしながら、患者の栄養状態、併存症(喫煙、糖尿病)、又は患者の体位に起因する血行不良などの他の状況が原因となり、炎症期が長く続き過ぎることがあり、それによりROSが過剰に発生し、創傷内に形成される健常組織を含めて周囲組織が実際に損傷を受ける。過剰のROSは「フリーラジカル」としても知られ、これは細胞及びコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分にも損傷を与えるため、組織に有害であり得る。さらにROSは、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)及び他のプロテアーゼを創傷部位に動員するシグナル伝達分子として作用し得る。創傷治癒過程における組織リモデリングには、正常な内因性MMP値が不可欠である。しかしながら、過剰では、MMPは新しく形成される組織を破壊し続ける。これにより創傷は、容易に治癒しないものとなるか、或いは「休止した」状態となる。過剰なROS値及びMMP値は持続的な炎症状態をもたらし、それにより正常な創傷治癒の進行が妨げられる。
【0004】
MMP値の上昇は、MMPの活性化を防止することによるか、又はMMP阻害薬の使用によって対策が講じられている。市販されている一部の創傷ドレッシングは、MMPの犠牲基質として様々な形態の天然コラーゲンを使用し、これは、コラーゲンがドレッシングの形成に必要な機械的特性(完全性)もまた提供するためである。創傷に対する抗酸化剤の局所適用は、ROS値を低下させ、続いて慢性創傷を再び正常な治癒状態に入らせるのに役立ち得る。
【発明の概要】
【0005】
例示的な実施形態によれば、創傷の治癒を促進する方法が提供され、これは、リポ酸誘導体と、場合によりゼラチンとを含む生物学的に活性な組成物に創傷部位を接触させるステップを含む。提供されるものなどの生物学的に活性な組成物は、例えば溶液、クリーム又はゲルとして製剤化されてもよい。特定の態様において、生物学的に活性な組成物は、創傷部位に位置決めされ得る創傷ドレッシング(例えば、多孔質スキャフォールド)の表面上にコーティングされる。生物学的に活性な組成物でコーティングされたスキャフォールドの作製方法もまた提供される。
【0006】
別の例示的実施形態によれば、患者の組織部位における創傷の治療用システムが提供され、これは、減圧を供給する減圧源と、分配マニホルドと、創傷に隣接して配置するように構成されたスキャフォールドとを含む。このシステムはまた、シーラントを被覆し、さらには実質的に密閉された空間を形成するドレープも含む。スキャフォールドは、リポ酸誘導体又は慢性創傷の治療若しくは予防用の任意のその薬学的に許容可能な塩及び誘導体を含む生物学的に活性な組成物でコーティングされる。スキャフォールドはまた、ゼラチンを含むコーティングなどのコラーゲンコーティングを含んでもよい。
【0007】
別の例示的実施形態によれば、装置は、分配マニホルドと、創傷に隣接して配置するように構成されたスキャフォールドとを含む。スキャフォールドは、リポ酸誘導体又は任意のその薬学的に許容可能な塩及び誘導体を含む生物学的に活性な組成物でコーティングされる。
【0008】
別の例示的実施形態によれば、患者の組織部位の治療方法は、創傷にドレッシングを適用するステップを含む。ドレッシングは、リポ酸誘導体と、場合によりゼラチンとを含む組成物を含んでもよい。ドレッシングは、一部の態様では、分配マニホルドと、創傷に隣接して配置するように構成されたスキャフォールドとを含む。特定の実施形態においてドレッシングは、ドレッシングを被覆し、さらには実質的に密閉された空間を形成するドレープもまた含む。
【0009】
本発明は、慢性創傷の治療又は予防用組成物を調製するための、αリポ酸並びにその薬学的に許容可能な塩及び誘導体の使用を提供する。特定の態様においてリポ酸誘導体は、ゼラチンと共に創傷治療用の組成物に製剤化される。
【0010】
さらなる実施形態において、本発明は、創傷ドレッシング構成要素を含むキット又はポーチを提供する。かかるキットは、例えば、αリポ酸及び場合によりゼラチンを含む生物学的に活性な組成物を含む創傷ドレッシングと、ドレープと、減圧マニホルドと、1つ以上の流体導管(例えば、チューブ)と、キット構成要素の使用説明書との1つ又は複数を含み得る。特定の態様においてキット又はポーチの構成要素は、例えばγ線照射により滅菌される
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一つの例示的実施形態に係る第1の分配マニホルドを利用する創傷ドレッシングを含む減圧治療システムの概略断面図である。
図2図2は、別の例示的実施形態に係る第2の分配マニホルドを利用する創傷ドレッシングを含む図1の減圧治療システムの概略断面図である。
図3図3は、別の例示的実施形態に係る第3の分配マニホルドを利用する創傷ドレッシングを含む図1の減圧治療システムの概略断面図である。
図4A図4Aは、一実施形態に係る組織部位において新しい組織の成長を促進する方法を示す。
図4B図4Bは、別の実施形態に係る組織部位において新しい組織の成長を促進する方法を示す。
図5図5は、本発明のある実施形態に係る組織成長キットの正面図を示す。
図6A図6Aは、αリポ酸の特定の誘導体又はその薬学的に許容可能な塩若しくは誘導体の化学式である。
図6B図6Bは、αリポ酸の他の誘導体又はその薬学的に許容可能な塩若しくは誘導体の化学式である。
図7図7は、αリポ酸を含むスキャフォールドの抗酸化活性を示すグラフである。
図8図8は、αリポ酸及びゼラチンを含むスキャフォールドについての、対照と比較したときのMMP活性の低下を示すチャートである。
図9図9は、スキャフォールドのコーティングからのαリポ酸の放出プロファイルを示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の例示的実施形態の詳細な説明では、本明細書の一部をなす添付の図面が参照される。これらの実施形態は、当業者による本発明の実施が可能となるよう十分詳細に説明され、及び本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく他の実施形態を利用し得ること、且つ妥当な構造的、機械的、電気的、及び化学的変更を行い得ることが理解される。本明細書に説明する実施形態の当業者による実施を可能とするのに不要な詳細を避けるため、説明では当業者に公知の特定の情報が省略されることもある。従って以下の詳細な説明は、限定する意味で解釈されてはならず、例示的実施形態の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ定義される。
【0013】
本明細書で使用されるとき用語「減圧」は、概して、治療に供されている組織部位における周囲圧力より低い圧力を指す。ほとんどの場合、この減圧は、患者が居るところの大気圧より低いものとなり得る。或いは減圧は、組織部位の組織に関連する静水圧より低いものであり得る。組織部位に加えられる圧力の説明に用語「真空」及び「負圧」が用いられ得るが、組織部位に適用される実際の圧力低下は、通常完全な真空と関連付けられる圧力低下より大幅に小さいものであり得る。当初、減圧によって組織部位の範囲に流体の流れが生じ得る。組織部位の周囲の静水圧が所望の減圧に近付くに従い、その流れが弱まり、次に減圧が維持され得る。特に指示されない限り、本明細書に記載される圧力の値はゲージ圧である。同様に、減圧の上昇と言うとき、それは典型的には絶対圧力の低下を指し、一方で減圧の低下は、典型的には絶対圧力の上昇を指す。
【0014】
本明細書で使用されるとき用語「組織部位」には、限定はされないが、骨組織、脂肪組織、筋組織、神経組織、皮膚組織、血管組織、結合組織、軟骨、腱、又は靱帯を含め、限定なしに任意の組織上又は組織内に位置する創傷又は欠損が含まれる。用語「組織部位」はさらに、必ずしも創傷又は欠損があるとは限らず、むしろ、さらなる組織の追加又はその成長の促進が所望される範囲である任意の組織の範囲を指してもよい。例えば、減圧組織治療を使用して、特定の組織範囲でさらなる組織を成長させ、その組織を回収して別の組織位置に移植することができる。組織は、マウス、ラット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、又はヒトを含む霊長類などの、患者として処置される任意の哺乳動物の組織であってよい。また、組織部位における創傷は、外傷、外科手術、変性、及び他の原因を含め、種々の原因に起因し得る。
【0015】
本明細書で使用されるとき用語「生物学的に活性な組成物」は、リポ酸誘導体、及び場合によりゼラチンと配合される組成物を指す。かかる組成物は任意の薬学的に許容可能な担体に配合することができ、典型的には、組織部位における活性酸素種及び炎症を低減するのに有効な量のリポ酸誘導体を含み得る。本発明により使用されるゼラチンは、ウシ、ウマ、又はブタ組織などの、任意の組織源由来であってよい。生物学的に活性な組成物の配合及び構成成分については、以下にさらに詳述する。
【0016】
図1及び図2を参照すると、例示的な実施形態に係る患者の組織部位101に減圧を加えるための減圧治療システム100であり、ここで組織部位は、限定なしにかかる組織の表皮103を含め、健常組織に囲まれた創傷102を含む。システム100は、中にフィルタ(図示せず)が収容されたキャニスタ104と、組織部位101に流体105を送給するための流体供給器106とを含む。キャニスタ104は、減圧源108と、組織部位101に位置決めされる減圧ドレッシング110とに流体連通して位置決めされる。減圧ドレッシング110は、第1の導管112を介してキャニスタ104に流体接続される。第1の導管112は、チュービングアダプタ114を介して減圧ドレッシング110と流体連通し得る。第2の導管116がキャニスタ104を減圧源108と流体接続する。
【0017】
キャニスタ104は、組織部位101から取り除かれた滲出液及び他の流体をろ過又は保持する流体リザーバ、すなわち収集部材であってもよい。一実施形態では、キャニスタ104と減圧源108とは単一のハウジング構造に一体化される。流体供給器106は第3の導管118により減圧ドレッシング110に流体接続され、第3の導管118は減圧ドレッシング110に直接接続されてもよく(図示せず)、又は第1の導管112を介して間接的に接続されてもよく、この第1の導管112は、減圧源108からの減圧の送給及び/又は流体供給器106からの流体105の送給を制御するため、それぞれバルブ122及び124を必要とする。流体105は任意の気体又は液体であってよく、成長因子、治癒因子、又は組織部位101の創傷102を治療する他の物質を含有し得る。例えば流体105は、水、生理食塩水、又は色素食塩水であってもよい。
【0018】
図1に示される実施形態において、減圧源108は電動真空ポンプである。別の実施態様では、代わりに減圧源108は、電力を必要としない手動で作動される又は手動で給気されるポンプであってもよい。代わりに減圧源108は、任意の他の種類の減圧ポンプか、或いは病院及び他の医療施設で利用可能なものなどの壁面吸気口であってもよい。減圧源108は減圧治療ユニット128に内蔵されても、又はそれと併せて使用されてもよく、この減圧治療ユニット128はまた、組織部位101への減圧治療の適用をさらに促進するセンサ、処理装置、警告インジケータ、メモリ、データベース、ソフトウェア、表示装置、及びユーザインタフェースも含み得る。一例において、センサ又はスイッチ(図示せず)が減圧源108又はその近傍に配置され、減圧源108が発生する供給源圧力を測定し得る。センサは処理装置と通信してもよく、処理装置が、減圧源108によって送給される減圧を監視及び制御する。
【0019】
減圧ドレッシング110は、組織部位101に位置決めされるように構成された分配マニホルド130と、分配マニホルド130を被覆して組織部位101のドレープ132の下に減圧を維持するドレープ132とを含む。減圧ドレッシング110はまた、別個のスキャフォールド140を含んでもよく、このスキャフォールドは、リポ酸誘導体を含む生物学的に活性な組成物でコーティングされ、創傷102内に分配マニホルド130と流体連通して位置決めされる。このシステムは、分配マニホルド130とスキャフォールド140との間に流体連通して位置決めされる剥離層150をさらに含み得る。剥離層150は、ハイドロゲル発泡材又は水溶性ポリマーなどの剥離材を含み得る。ドレープ132は開口部134を含むことができ、そこを通ってチュービングアダプタ114が延在し、導管112と分配マニホルド130との間に流体連通を提供する。ドレープ132は周縁部分136をさらに含み、これは組織部位101の周囲を越えて延在してもよく、及び接着剤又は結合剤(図示せず)を含むことで、組織部位101に隣接した組織にドレープ132を固定し得る。一実施形態では、ドレープ132に配置される接着剤を使用して、組織部位101からの減圧の漏出を防止するシールを表皮103とドレープ132との間に提供し得る。別の実施形態では、例えばハイドロゲル又は他の材料などのシール層(図示せず)をドレープ132と表皮103との間に配置して、接着剤の密閉特性を増強又は代替してもよい。
【0020】
ドレープ132は、空気シール又は流体シールを提供する任意の材料であり得る。ドレープ132は、例えば不透過性又は半透性のエラストマー性材料であってもよい。「エラストマー性」は、エラストマーの特性を有することを意味し、概して、ゴム様の特性を有する高分子材料を指す。より具体的には、ほとんどのエラストマーが100%より大きい伸び率及び著しい大きさの弾力性を有する。材料の弾力性とは、その材料が弾性変形から回復する能力を指す。エラストマーの例としては、限定はされないが、天然ゴム、ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリブタジエン、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエン単量体、クロロスルホン化ポリエチレン、多硫化ゴム、ポリウレタン、EVAフィルム、コポリエステル、及びシリコーンを挙げることができる。ドレープ材料の具体例としては、シリコーンドレープ、3M Tegaderm(登録商標)ドレープ、Avery Dennisonから入手可能なものなどのアクリルドレープ、又は切開ドレープが挙げられる。
【0021】
図2を参照すると、減圧ドレッシング110の別の実施形態が示され、ここではドレープ132を貫通する導管コネクタ114が、分配マニホルド130と流体連通している一方の端部に複数の開口部115を有する穴あきチューブ113に置き換えられている。第1の導管112が穴あきチューブ113の他方の端部に流体連結され、分配マニホルド130及びスキャフォールド150を介して上記に説明したとおり創傷102に減圧又は他の流体を送給する。減圧ドレッシング110の分配マニホルド130は、減圧ドレッシング110により治療される組織部位101の創傷102に全面的に接触するように構成されてもよく(図示せず)、又は部分的に接触するように構成されてもよく、その場合、スキャフォールド140が創傷102の残りの部分を被覆する。
【0022】
図3に示される別の実施形態では、減圧ドレッシング110の分配マニホルド130はスキャフォールド140に接触するのみで、創傷102のいかなる部分にも接触しない。この実施形態では、第1の導管112は減圧又は他の流体を、分配マニホルド130を介してスキャフォールド140へと、及び最終的に創傷102へと送給する。いずれの実施形態においても、分配マニホルド130及びスキャフォールド140は、実施される治療の種類又は組織部位101若しくは創傷102の性質及びサイズなどの様々な要因に応じた任意のサイズ、形状、又は厚さであってよい。例えば、スキャフォールド140のサイズ及び形状は、組織部位101又は創傷102を充填又は部分的に充填するように、使用者によって個々に適合されてもよい。分配マニホルド130は、例えば四角形を有してもよく、又は円形、楕円形、多角形、不規則な形、若しくは任意の他の形として付形されてもよい。
【0023】
分配マニホルド130、スキャフォールド140、及び剥離層150(まとめて「層」と称する)は全て、減圧を減圧ドレッシング110内で、及び創傷102に至るまで分配することを可能にするのに十分なサイズの複数の流路を含む。層の各々に提供される流路は、当該の層に提供される材料の固有特性(例えば、天然に多孔質の材料)であってもよく、又は流路は、3つの層の組立て前若しくは組立て後に材料に化学的に、機械的に、又は他の方法で形成されてもよい。互いに隣接する層の配置により、一つの層の流路が隣接する層の流路と流体連通することが可能となる。例えば、上記に記載したとおり層を相対的に位置決め又は接続することにより、スキャフォールド140の複数の流路を剥離層150の複数の流路と流体連通させることが可能となり、これらの剥離層150の複数の流路は、分配マニホルド130の複数の流路と流体連通することが可能である。
【0024】
本明細書で使用されるとき用語「マニホルド」は、概して、組織部位への減圧の適用、そこへの流体の送給、又はそこからの流体の除去を補助するために提供される物質又は構造を指す。マニホルドは、典型的には相互接続する複数の流路又は経路を含み、マニホルドの周囲の組織範囲に提供される流体及びそこから除去される流体の分配を改善する。マニホルドの例としては、限定なしに、流路を形成するように構成された構造要素を有する装置、連続気泡発泡体などの気泡質の発泡体、多孔質組織集合体、並びに流路を含む、又は流路を含むように硬化させた液体、ゲル、及び発泡体を挙げることができる。一例示的実施形態において、分配マニホルド130は、分配マニホルド130が組織部位101と接触しているか、又はその近傍にあるときに組織部位101に減圧を分配する発泡体材料である。発泡体材料は疎水性であっても、又は親水性であってもよい。
【0025】
一つの非限定的な例において、分配マニホルド130は、San Antonio,TexasのKinetic Concepts,Inc.から入手可能なGranuFoam(登録商標)ドレッシングなどの連続気泡網状ポリウレタン発泡体である。分配マニホルド130が親水性材料で作製される例では、分配マニホルド130はまた、マニホルドとして減圧を組織部位101に提供し続ける一方で、組織部位101から流体を吸い上げて取り去るようにも機能する。この分配マニホルド130の吸上特性は、毛細管流動又は他の吸上機構によって組織部位101から流体を汲み出す。適切に減圧を分配し、組織部位101から流体を吸い出すため、GranuFoam(登録商標)ドレッシングは、一実施形態では孔径が約400〜600ミクロンの範囲の空隙率を備える。親水性発泡体の例は、San Antonio,TexasのKinetic Concepts,Inc.から入手可能なV.A.C.WhiteFoam(登録商標)ドレッシングなどのポリビニルアルコール連続気泡発泡体である。他の親水性発泡体としてはポリエーテル製のものを挙げることができる。親水特性を呈し得る他の発泡体としては、親水性をもたらすように処理又はコーティングされた疎水性発泡体が挙げられる。一実施形態では、分配マニホルド130は、減圧ドレッシング110の使用後も患者の体内から取り除く必要がない生体吸収性材料で作製され得る。好適な生体吸収性材料としては、限定なしに、コラーゲン、又はポリ乳酸(PLA)とポリグリコール酸(PGA)とのポリマーブレンドを挙げることができる。ポリマーブレンドとしてはまた、限定なしに、ポリカーボネート、ポリフマレート、及びカプララクトン(capralactone)も挙げることができる。
【0026】
図1図3のスキャフォールド140などのスキャフォールドは、生物学的又は合成的なスキャフォールド材料から形成されてもよい。スキャフォールドは、組織工学分野では、組織を修復して再生させるためのタンパク質の接着及び細胞の内方成長を支持するために使用される。特定の態様においてスキャフォールドは、本明細書に詳述されるもの(例えば、リポ酸誘導体及びゼラチンを含む組成物)などの生物学的に活性な組成物をさらに含み得る。スキャフォールド技術分野の現在の水準では、タンパク質の吸収及び細胞の遊走については周囲の組織空間の固有特性に頼っている。スキャフォールド140は、組織部位101の創傷102内で流体が流れる経路を指図する物理的な案内を提供して、接着タンパク質及び細胞がそれぞれ移動及び遊走する道を作り出し、それらの接着タンパク質及び細胞は組織空間内において所定の組織化パターンで仮のマトリックス構築物に組み込まれる。この文脈の範囲内で、スキャフォールドは、流体源から分配マニホルド130内で流れが始まる点に至るまでの流体が流れる経路を、組織空間内で細胞レベルのパターンに精緻化する働きをする。従ってスキャフォールド140は、組織部位101の創傷102内における流れの経路を精緻化するマニホルドの特性を体現する。特定の態様においてスキャフォールドは、生体吸収特性を向上させるため高いボイド率を含む網状構造である。かかる高いボイド率のスキャフォールドはまた、本明細書に詳述するとおりの生物学的に活性な組成物による有効なコーティングも促進し得る。
【0027】
分配マニホルド130又はその一部分はさらに、新しい細胞が成長するためのスキャフォールドとして働くことができ、又は上記に説明するとおり、別個のスキャフォールドを分配マニホルド130と併せて使用して細胞成長を促進してもよい。従って、スキャフォールドもまた、本明細書に説明する実施形態における、組織部位に減圧組織治療を投与するマニホルドとして機能し得る。当業者は、分配マニホルド130もまたスキャフォールドとして機能し得ることを認識するが、本明細書における例示的な実施形態は、別個のスキャフォールド構造であるスキャフォールド140の、分配マニホルド130と併せた使用について説明し、ここでスキャフォールドはマニホルドとしても機能する。かかる実施形態では、別個のマニホルドもまた、リポ酸誘導体を含む生物学的に活性な組成物でコーティングされてもよい。スキャフォールド及び/又はマニホルドはまた、細胞成長を促進するため、細胞、成長因子、細胞外マトリックス成分、栄養分、インテグリン、又は他の物質が注入されも、それでコーティングされても、又はそれから構成されてもよい。
【0028】
一般にスキャフォールドは、マニホルドの形成に使用される材料のいずれから構成されてもよい。好適なスキャフォールド材料の非限定的な例としては、フィブリン、コラーゲン又はフィブロネクチンなどの細胞外マトリックスタンパク質、及び、生体吸収性又は非吸収性ポリマー、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリラクチド−co−グリコリド(PLGA)、ポリビニルピロリドン、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート、ポリフマレート、カプロラクトン、ポリアミド、多糖類(アルギン酸塩(例えば、アルギン酸カルシウム)及びキトサンを含む)、ヒアルロン酸、ポリヒドロキシブチラート、ポリヒドロキシバレレート、ポリジオキサノン、ポリオルトエステル(polyorthoesther)、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、ポリホスファゼン、ポリ酸無水物、ポリアミノ酸、ポリアセタール、ポリシアノアクリレート、ポリウレタン(例えば、GranuFoam(登録商標))、ポリアクリレート、エチレン酢酸ビニルポリマー並びに他のアシル置換酢酸セルロース及びその誘導体、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリ(ビニルイミダゾール)、クロロスルホン化ポリオレフィン、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、Teflon(登録商標)、及びナイロンを含む合成の又は天然に存在するポリマーが挙げられる。スキャフォールドはまた、ヒドロキシアパタイト、コラリンアパタイト、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム又は他の炭酸塩などのセラミック、バイオガラス、同種移植片、自家移植片、異種移植片、脱細胞化組織、又は上記のいずれかの複合材も含むことができる。詳細な実施形態では、スキャフォールドは、コラーゲン(例えば、Biostep(商標)又はPomogran(商標)スキャフォールド)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリラクチド−co−グリコリド(PLGA)、ポリウレタン、多糖、ヒドロキシアパタイト、又はポリテリレングリコール(polytherylene glycol)を含む。加えてスキャフォールドは、任意の2つ、3つ又はそれ以上の材料の組み合わせを、スキャフォールドの別個の又は複数の範囲に、非共有結合的又は共有結合的に組み合わされて含むか(例えば、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレングリコールブロック共重合体などの共重合体、又はターポリマー)、又はそれらの組み合わせを含むことができる。好適なマトリックス材料は、例えば、Ma and Elisseeff,2005及びSaltzman,2004に考察されている。スキャフォールド140は、以下のプロセスのいずれかにより製造され得る:塩浸出、凍結乾燥、相分離、繊維製織、不織繊維の結合、発泡成形、又は選択した材料に好適な任意の他の製造方法。
【0029】
スキャフォールド140は、上記に説明するとおりスキャフォールド140の中に新しい組織の成長を受け入れる及び/又は組み込むことが可能な任意の多孔質の生体吸収性材料であってもよい。スキャフォールド140の孔は、好ましくは相互に接続してスキャフォールド140内に複数の流路を画定するが、スキャフォールド140内に機械的に、化学的に、又は他の方法で流路を形成してさらなる流路を提供してもよい。以下にさらに詳述するとおり、スキャフォールドの外表面及び内表面(例えば流路)は、リポ酸誘導体と任意選択のゼラチンとを含む生物学的に活性な組成物でコーティングされてもよい。スキャフォールド140に関連する孔径は、典型的には約50〜500ミクロン、及びより好ましくは約100〜400ミクロンである。50ミクロンを下回る孔径は、組織成長を抑制又は妨害する傾向がある。従って、本発明により使用されるスキャフォールドは、スキャフォールドが生物学的に活性な組成物でコーティングされた後も約50ミクロンを上回る大きさが維持されるのに十分な大きさの孔径を含む。一実施形態では、コーティング後のスキャフォールド内における孔の好ましい平均孔径は、約100ミクロンである。
【0030】
剥離層150により、分配マニホルド130とスキャフォールド140との間の接触点が最小限となる。一実施形態では、剥離材150は分配マニホルド130とスキャフォールド140との間のいかなる接触も妨げ得る。剥離材150は、分配マニホルド130とスキャフォールド140との間の接触を最小限にすることにより、組織をスキャフォールド140から分配マニホルド130内に内方成長させないための遮断壁として働く。剥離層150はまた、分配マニホルド130及びスキャフォールド140に対する結合剤及び剥離剤としても働き得る。剥離層150は、好ましくはハイドロゲル形成材料又は水溶性ポリマーのいずれかである。ハイドロゲル形成材料は、特定の期間にわたり水又は他の流体に曝露された後に液体又はゲル様物質を受け入れる及び/又は形成することが可能な任意の好適な材料であってもよい。
【0031】
剥離層150の複数の流路により、分配マニホルド130からスキャフォールド140に減圧を分配することが可能となり、さらには、創傷102に提供される、又はそこから除去される任意の流体の通過が可能となる。複数の流路は、剥離層150の固有特性であってもよく(すなわち、材料それ自体の中の相互接続する孔又は他の流路)、又は機械的に、化学的に、若しくは他の方法で剥離層150に形成されてもよい。剥離層150に複数の流路を画定するために、孔、ボイド、開口部、又はそれらの何らかの組み合わせのうちのいずれが使用されるかに関わらず、剥離層150の空隙率はスキャフォールド140の空隙率より低くてよく、それにより組織が剥離層150へと内方成長することが最小限となり得る。剥離層150の空隙率は、孔、ボイド、若しくは開口部のサイズを制限することによるか、又は剥離層150に配置される孔、ボイド、若しくは開口部の数(すなわち密度)を制御することによって制御することができる。しかしながら、剥離層150の空隙率は、剥離層150を通じた減圧の分配及び流体の流動を可能にするのに十分な高さを維持しなければならない。
【0032】
実施に際して減圧ドレッシング110の3つの層は、必要であれば、創傷102の形状及びサイズに合致するよう切り取られる。多くの場合、創傷102は開放創、熱傷、又は他の傷害された組織であり得るが、組織部位101は同様に、さらなる組織を成長させることが所望される健常組織を含む部位であってもよい。減圧ドレッシング110は、スキャフォールド140が創傷102と接触するように創傷102に隣接して配置される。減圧ドレッシング110の複数の層は貼り合わされ、結合され、又は他の方法で接続されてもよく、しかしながらそれらの層はまた、互いに別個であってもよい。特定の層が互いに接続されない場合、種々の層は、スキャフォールド140が組織部位と接触し、剥離層150がスキャフォールド140と接触し、且つ分配マニホルド130が剥離層150と接触するようにして個々に置かれ得る。
【0033】
減圧ドレッシング110を位置決めした後、減圧源108からマニホルド130へと減圧が送給される。減圧は、マニホルド130に関連する複数の流路を通じて、剥離層150に関連する複数の流路に分配される。次に減圧は、スキャフォールド140に関連する複数の流路に分配される。減圧が創傷102に達すると、創傷滲出液などの創傷102にある流体が全ての層の複数の流路を通じて引き込まれ、減圧ドレッシング110から取り除かれる。キャニスタ104が滲出液を収集して減圧源108を保護する。減圧の分配及び創傷102からの流体の抜き取りを可能にすることに加え、3つの層の複数の流路は、潅注流体、医薬品、抗微生物薬、抗細菌薬、抗ウイルス薬、及び成長因子などの流体を創傷102に分配するために使用され得る。
【0034】
創傷102に減圧を加えると、新しい組織の成長が誘発される。新しい組織の成長を促進する機構のいくつかには、組織の微小変形、上皮移動、及び血流向上が含まれる。これらの要因が、組織部位における肉芽組織の発育増加に寄与し、それにより新しい組織の成長が生じる。減圧組織治療の提供についての議論は、多くの場合に減圧を組織部位に「送給すること」を参照するが、当業者には、減圧の送給が、典型的には減圧源108と創傷102との間に圧力差を生じさせることを含むことは明らかなはずである。圧力差(減圧源108において創傷102より低い圧力)により、当初、創傷102から減圧源108に向かう流体の流れが生じる。創傷102における圧力が減圧源108における圧力に近くなるか、又はそれと等しくなると、減圧源108との流体接続及びドレープ132の密閉機能によって組織部位の減圧が維持され得る。
【0035】
減圧の影響下に新しい組織が形成されるに従い、スキャフォールド140の中へと新しい組織が成長することが可能となる。スキャフォールド140に選択される材料は、好ましくは新しい組織の成長を支持し、促進する。スキャフォールド140は減圧組織治療の投与後も組織部位に留まり得るため、新しい組織が可能な限りスキャフォールドに侵入することが好ましい。減圧の影響下では、新しい組織は2日の期間でスキャフォールド140の最大1mm(厚さ)まで侵入し得ることが観察されている。スキャフォールド140の厚さは、一部の実施形態では僅か約1〜4mmであり得るため、減圧ドレッシング110の分配マニホルド130及び剥離層150を取り除き、それらの層を、新しい分配マニホルド130、新しい剥離層150、及びさらなるスキャフォールド材料を含む新しいドレッシングに交換することが所望され得る。換言すれば、分配マニホルド130及び剥離層150を取り除いた後、古いスキャフォールド140の上に新しいスキャフォールド140が置かれ得る。減圧ドレッシング110の一部のみを取り除き、スキャフォールド140を残すことにより、創傷102に新しい組織の成長を漸増的に追加することが可能であり、新しいスキャフォールド140が、その前に挿入された、新しい組織の成長が既に浸透しているスキャフォールド140に積み上げられることになる。
【0036】
減圧を加える間、好ましくは剥離材150が分配マニホルド130とスキャフォールド140との間の接触を最小限に抑え、又はそれを防止して、新しい組織がスキャフォールド140から剥離層150を通って分配マニホルド130内まで成長するのを妨げる。スキャフォールド140内への新しい組織の成長が分配マニホルド130内にさらに成長することは、この分離により、及び上記に説明するとおりの剥離層150の固有の特性により妨げられる。それでもなお分配マニホルド130内への組織成長は起こり得るが、成長が最小限に抑えられることで、分配マニホルド130を取り除くときの患者の痛みが小さくなる。
【0037】
選択した期間にわたり減圧を加えた後、減圧ドレッシング110を水、生理食塩水、又は他の流体に浸すことにより剥離材150を含水させ得る。或いは、減圧ドレッシング110は、組織部位からの体液によって剥離層150が含水するまで、そのままにしておいてもよい。剥離層150がハイドロゲル形成材料である場合、剥離層150は含水するとゲル様の状態に変わり、典型的には膨張する。これにより、分配マニホルド130をスキャフォールド140からより容易に取り外すことが可能となる。マニホルド130の取り出し後も残る任意のハイドロゲル形成材料(又はハイドロゲル)は、手動で取り出されても、又はさらなる流体の導入により溶解されてもよい。或いは、剥離層150が水溶性ポリマーである場合、これは水又は他の流体を吸収すると溶解するため、従ってスキャフォールド140から分配マニホルド130を剥離し得る。
【0038】
図4Aを参照すると、本発明のある実施形態に係る組織部位における組織成長を促進する方法811が示される。方法811は、815において、多層減圧送給装置を組織部位と接触させて位置決めするステップを含む。減圧送給装置は、スキャフォールドと、剥離材と、マニホルドとを含む。819において、スキャフォールドが組織部位に接触する向きに装置が置かれる。823において、マニホルド及びスキャフォールドを介して組織部位に減圧が加えられる。
【0039】
図4Bを参照すると、本発明のある実施形態に係る組織部位における新しい組織の成長を促進する方法851が示される。方法851は、855において、スキャフォールドを組織部位と接触させて、剥離材をスキャフォールドと接触させて、及びマニホルドを剥離材と接触させて位置決めするステップを含む。859において、マニホルド及びスキャフォールドを介して組織部位に減圧を加えることにより、組織部位において新しい組織の成長が刺激される。
【0040】
図5を参照すると、本発明のある実施形態に係る組織部位における新しい組織の成長を促進するための組織成長キット911は、スキャフォールド913と、剥離材915と、分配マニホルド917とを含む。スキャフォールド913は第1の側面と第2の側面とを含み、スキャフォールド913の第1の側面が組織部位に接触するように構成される。スキャフォールド913は、先に図1図3を参照して説明したスキャフォールド140と同様である。剥離材915はスキャフォールド913の第2の側面に接触するように構成され、これは、先に図1図3を参照して説明した剥離層150と同様である。分配マニホルド917は、剥離材915に接触するように構成され、スキャフォールド913を介して組織部位に減圧を分配する。分配マニホルド917は、先に図1図3を参照して説明したマニホルド130と同様である。組織成長キット911は、構成要素の使用前にスキャフォールド913、剥離材915、及び分配マニホルド917を格納しておくための容器921をさらに含み得る。容器921は、軟質のバッグ、箱、又はスキャフォールド913、剥離材915、及び分配マニホルド917の保管に好適な任意の他の容器であってよい。
【0041】
本明細書に開示される多層減圧送給装置は、減圧送給源と併せて使用することで減圧組織治療を組織部位に提供するが、減圧ドレッシングはまた、減圧が加えられていないときにも単独で高度組織ドレッシングとして働き得る。この高度組織ドレッシングでは、同じ材料、相対的な位置決め、及び層間の接続のし方が用いられ得る。本明細書に説明する減圧ドレッシングと同様に、高度組織ドレッシングは、新しい組織の成長を促進して受け入れる第1の層と、組織部位から離れる方への流体の誘導を補助する第3の層と、特定の時点における第1の層からの第3の層の取り外しを促進する第2の層とを含み得る。高度組織ドレッシングの第3の層は、「マニホルド」を有するのではなく、創傷から滲出する流体を収集して保持するための流体リザーバを含むと見なすことができる。好適な分配マニホルド材料として本明細書に説明される材料が、同様にこの第3の層のリザーバに好適な材料である。このリザーバの唯一の要件は、リザーバが、組織部位により生じる、又はそこに存在する流体を保存することが可能な材料から作製されなければならないことである。
【0042】
上記に考察したとおり、創傷治癒過程における組織リモデリングには、正常な内因性MMP値が不可欠である。しかしながら、過剰では、MMPは、新しく形成される組織を破壊し続ける。これにより創傷は、容易に治癒しないものとなるか、或いは「休止した」状態となる。過剰なROS値及びMMP値は持続的な炎症状態をもたらし、それにより正常な創傷治癒の進行が妨げられる。従って、特定の態様において本発明は、ROS値を低下させ、及び/又は創傷部位の、及び周囲組織における炎症を低減するのに有効な量のリポ酸誘導体を含む生物学的に活性な組成物を提供することにより、創傷治癒を促進する方法を提供する。
【0043】
用語「リポ酸誘導体」は、生体内で抗酸化剤として機能する構造的にαリポ酸に関係した分子、又はリポ酸ナトリウムなどのその塩を指す。多様なリポ酸誘導体が当該技術分野において公知であり、本発明により用いられ得る。例えば、米国特許第6,887,891号明細書(全体として参照により本明細書に援用される)が多数のリポ酸誘導体について詳述しており、そのうち任意のものを本発明で用い得る。リポ酸誘導体分子のいくつかの一般的構造を図6A図6Bに示す。例えば、リポ酸誘導体は図6Aに従う構造を有してもよく、式中、n1及びn2は独立してC1〜C10アルキルであり;及びR1は、H、C1〜C10アルキル、C6〜C14アリール、アルキルアンモニウム又はプロトン化アミノ酸である。同様に、リポ酸誘導体は図6Bに従う構造を有してもよく、式中、n1及びn2は独立してC1〜C10アルキルであり;R1は、H、C1〜C10アルキル、C6〜C14アリール、アルキルアンモニウム又はプロトン化アミノ酸であり;及びR2位の各々は、独立して、H、C1〜C10アルキル又はC6〜C14アリールである。ナトリウムなどの無機陽イオン、アルキルアンモニウム陽イオン、及び他の薬学的に許容可能な陽イオンとのαリポ酸の塩が、本発明により用いられ得る。加えて、αリポ酸の数多くのエステル及びチオエステルが、生体内で加水分解を受けてαリポ酸及びジヒドロリポ酸となるプロドラッグとして機能し得る。
【0044】
αリポ酸又はその薬学的に許容可能な塩若しくは誘導体を含む組成物は、局所投与又は全身投与、経口投与又は非経口投与に好適であり得る。αリポ酸の投与の例は、0.001%〜10%w/v、0.1%〜10%、又は1%〜5%w/vのリポ酸誘導体又はその塩を許容可能な担体に含む製剤を含む。好適な担体としては、限定はされないが、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース及びそれらの混合物を含めたセルロース誘導体を含有するハイドロゲル;及びポリアクリル酸を含有するハイドロゲル(Carbopol)並びにゼラチンが挙げられる。上記の担体は、アルギン酸塩(増粘剤又は刺激薬として)、ベンジルアルコールなどの防腐剤、リン酸水素二ナトリウム/リン酸二水素ナトリウムなどのpHを制御する緩衝液、塩化ナトリウムなどの容量オスモル濃度を調整する薬剤、及びEDTAなどの安定剤を含み得る。生物学的に活性な組成物は、一部の実施形態では、1つ又は複数のさらなる活性薬剤であってもよい。
【0045】
特定の態様では、創傷102への抗酸化剤(例えば、リポ酸誘導体)の局所適用を用いてROS値を低下させ、慢性創傷の正常な治癒過程を促進する。創傷治癒において適用される他の抗酸化剤には、アスコルビン酸、脂肪酸(リノレン酸、リノール酸、及びオレイン酸)、及びN−アセチルシステインが含まれ、かかる抗酸化剤が本明細書に開示される組成物に追加的に用いられてもよい。本明細書で実証するとおり、αリポ酸及びその誘導体は強力な抗酸化剤である。例えば、αリポ酸の主要な生物学的作用には、血糖値の正常化、神経血流の改善、酸化的ストレスの低減、糖尿病性ニューロパチーの緩和、及び膜保護が含まれる。他の抗酸化剤に優るリポ酸分子の他の利点には、高い抗酸化活性、水及び脂肪組織の双方でのフリーラジカルの除去能力、ガンマ線滅菌に対する安定性、及び長い有効期間が含まれ、長い有効期間は、医療装置適用に特に重要である。αリポ酸の水に対する限られた溶解度及び中程度の疎水性は、抗酸化剤の漸進的な持続放出を必要とする製剤に好ましい。これらの特性によってαリポ酸などの誘導体は、そのコストの低さと相まって、一般に慢性創傷の治療に好ましい、及び上記に説明した創傷ドレッシング110のスキャフォールド140などの、創傷ドレッシングに組み込むのに好ましい解決策となる。
【0046】
αリポ酸はγ線滅菌及び最高60℃までの温度に安定であるが、低温高湿などの一部の保存条件下では部分的に分解を受けることもあり、これは、その硫黄含有分に起因した不快臭を伴う。しかしながら、αリポ酸を塩誘導体、例えばリポ酸ナトリウムに変換すると、又は創傷ドレッシング110にポリマー遮断壁を用いると、この臭気問題が軽減される。例えば、リポ酸誘導体は約6〜約8のpHで塩に変換され得る。このpH範囲内であれば、αリポ酸などのリポ酸誘導体を塩に効率的に変換し、抗酸化活性を著しく失うことなく臭気を低減することができる。従って、特定の態様において本発明は、リポ酸誘導体の薬学的に許容可能な塩(例えば、リポ酸ナトリウム)を含む低臭気特性を備える組成物を提供する。
【0047】
αリポ酸がジヒドロリポ酸に酵素変換されると、スーパーオキシドラジカル、ヒドロペルオキシラジカル、ヒドロキシルラジカル、及び他の主要なROSの中和においてジヒドロリポ酸はαリポ酸より強力となり、リポ酸の抗酸化活性が実際に細胞において増加する。体内で極めて強力な抗酸化剤に変換されるαリポ酸の安定分子の適用は、取扱い及び有効期間の観点で非常に有利である。従って、特定の態様において、本発明により使用されるリポ酸誘導体は、生体内で活性抗酸化剤に変換されるリポ酸プロドラッグであり得る。
【0048】
組織部位での過剰なMMP活性はまた、犠牲タンパク質分解酵素基質、例えばタンパク質、タンパク質加水分解物、又はそれらの組み合わせを含む生物学的に活性な組成物を提供することによっても対処され得る。例えば、犠牲タンパク質分解酵素基質は、ケラチン、コラーゲン、エラスチン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、大豆タンパク質、小麦タンパク質、トウモロコシタンパク質、乳タンパク質及び/又はこれらの加水分解物を含み得る(例えば、参照により本明細書に援用される米国特許第6,500,443号明細書を参照のこと)。特定の実施形態では、犠牲基質として使用されるタンパク質は、強酸又は塩基で処理することにより加水分解され、又は部分的に加水分解される。かかる処理により対象のタンパク質を断片化し、タンパク質分解酵素に結合するためにより接触し易いペプチド配列を生成することができる。
【0049】
慢性創傷に最もよく見られるMMPは、「ゼラチン」として知られる加水分解された又は変性した形態のコラーゲンをより標的化し易いゼラチナーゼプロテアーゼのMMP−2及びMMP−9である。従って、特定の態様において、ここで説明するとおり使用される生物学的に活性な組成物は、加水分解コラーゲン(例えば、ゼラチン)などのコラーゲンをさらに含む。ゼラチンは、限定はされないが、ウシ皮膚、ブタ皮膚及び骨材料を含め、様々な供給源から加工することができる。ゼラチンは、製造に用いられる加水分解方法に応じてタイプA又はタイプBゼラチンとして定義することができる。コラーゲンの代わりに、又はそれに加えてゼラチンを使用する一つの利点は、ゼラチンが、プロテアーゼ結合のシグナルとして働く露出したペプチド配列を含むことである。天然コラーゲン分子におけるシグナル伝達配列の露出度は、天然コラーゲン分子の三重らせん構造に起因して低下し、この分子ではポリペプチド鎖が強い水素結合で結合されている。従って、特定の態様において、生物学的に活性な組成物はコラーゲンを含まないものとして定義される。他方でゼラチンの場合、シグナル伝達配列がプロテアーゼに容易に露出し、従ってゼラチンは犠牲基質としてより効率的である。
【0050】
創傷ドレッシングにゼラチンを使用することに対する第一の制約は、機械的完全性が不足していること、及び天然コラーゲンで可能なように創傷環境でドレッシング形状を維持することができないことである。しかしながら、ゼラチンが別の多孔質材、例えばポリウレタン発泡体に対するコーティングとして適用される場合、ゼラチンは構造的支持を提供することができ、ゼラチンを含むかかるドレッシングがMMP犠牲基質として優れた選択となり得る。それでもなお、生物学的に活性な組成物に使用されるゼラチンは、材料を過度に硬くすることなく多孔質材上に接着層を形成するのに十分なゲル強度を含む必要があり得る。従って、生物学的に活性な組成物に使用されるゼラチンは、約150〜300g、約200〜250g又は約225gのブルーム値を含み得る。
【0051】
加えて、ゼラチンは優れた酸素遮断壁であり、これはドレッシングに組み込まれ得る分子、例えば抗酸化剤並びに酸素感受性タンパク質及びペプチドの安定性に重要である。従って、スキャフォールド140は、ゼラチンでコーティングされた上記に説明したとおりのポリウレタン発泡体であってもよく、MMPに対する犠牲基質を減圧ドレッシング110に提供し得る。生物学的に活性な組成物は、例えば、0.1%〜25%、1%〜10%又は約6%、8%、10%、15%又は20%w/wのゼラチンを含み得る。
【0052】
特定の態様において、生物学的に活性な組成物、例えば多孔質材上にコーティングされる組成物は、照射により滅菌される。当業者は、かかる照射によって組成物のタンパク質中の架橋量が変化し得ることを認識するであろう。従って、組成物が、ゼラチンなどの、タンパク質である犠牲タンパク質分解酵素基質を含む場合、照射線量は滅菌を達成するのみならず、所望のレベルのタンパク質架橋も達成するように調整され得る。例えば、比較的低いブルーム値のゼラチンをコーティング中に使用し、次に照射に供すると、タンパク質がさらに架橋されることによりゼラチンコーティングの有効ブルーム値が上昇し得る。特定の態様では、本発明に係る生物学的に活性な組成物及び/又は創傷ドレッシングは、約10〜80Gy、約20〜60Gy又は約30〜50Gyの放射線などのγ線照射に供される。
【0053】
生物学的に活性な組成物は、溶液、噴霧剤、クリーム、ゲル又はスキャフォールドに提供されるコーティングとして製剤化されてもよい。かかる組成物は、リポ酸誘導体を時間制御放出するように製剤化され得る。例えば、製剤は、約12時間、24時間、2日間、3日間、4日間又は1週間若しくはそれ以上の期間にわたりリポ酸誘導体を放出するように製剤化されてもよい。
【0054】
特定の態様では、上記に詳述したとおり、生物学的に活性な組成物はスキャフォールド140の表面上及び孔内にコーティングされる。かかるスキャフォールドをコーティングする方法は、例えば、(i)生物学的に活性な組成物の構成成分を含む溶液に多孔質基材材料を含浸するステップと;(ii)多孔質基材を乾燥させて、それにより生物学的に活性な組成物でコーティングされた創傷治癒スキャフォールドを作り出すステップとを含み得る。例えば、コーティング溶液はリポ酸誘導体(例えばαリポ酸又はリポ酸ナトリウム)とゼラチンとを含み得る。特定の態様では、基材材料は、得られる創傷治癒スキャフォールドが約5%未満の含水率を含むように乾燥される。
【0055】
本明細書に開示される生物学的に活性な組成物は、抗菌剤、成長因子、プロテイナーゼ阻害薬、キレート剤又は防腐剤などの、他の生物学的に活性な分子をさらに含んでもよい。例えば、特定の態様において組成物は、EDTAなどの、MMP活性を低下させることが可能な金属キレート剤をさらに含む。抗菌剤もまた、本発明に係る組成物に用いられ得る。例えば組成物は、抗生物質、抗真菌剤又はより一般的な抗菌薬を含み得る。リポ酸製剤に適合する抗菌性化合物としては、限定はされないが、非イオン性銀、ポリヘキサメチレンビグアナイド、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、トリクロサン及びその他が挙げられる。
【0056】
以下に説明するとおり、リポ酸誘導体とゼラチンとの組み合わせは、潰瘍部位におけるROS値及びマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)値を調節することにより慢性潰瘍の治癒又は予防を促進する。慢性潰瘍の持続及び治癒には、活性酸素種とタンパク質分解酵素とそれらの阻害薬との間の平衡が需要であり、及びαリポ酸は慢性潰瘍におけるこの平衡を正す。例えば、αリポ酸は、ICAM−1などの接着分子並びに炎症細胞及び内皮細胞に対する他の接着分子の遺伝子の転写を阻害することによって炎症細胞の創傷部位への流入を阻害する。αリポ酸は、MMP−9遺伝子の転写を制御するNF−κBなどの核内転写因子、ICAM−1の接着分子遺伝子、及びTNF−αなどの炎症性メディエーター遺伝子の活性化を阻害する。最後に、αリポ酸は、ロイコトリエンなどの炎症性メディエーターに干渉し得る。
【0057】
生物学的に活性な組成物はスキャフォールド140内に注入されるか、又はそれにコーティングされ得る。例えばαリポ酸の組成物は、織布、不織布、又は編地材料にコーティングされてもよい。或いはαリポ酸は、創傷102において持続放出させるため、生体吸収性ポリマーのフィルム、スポンジ、又は発泡体の中に分散させてもよい。αリポ酸はまた、以下の実施例に説明するとおり、ポリウレタン網状発泡体上にゼラチンと共にコーティングされてもよい。
【0058】
連続気泡網状ポリウレタン発泡体パッド上のコーティングとして適用されるリポ酸及びゼラチンの製剤は、独自の組合せ効果を提供し、慢性創傷の治癒に極めて有効である。この製剤は負圧創傷療法と組み合わせて使用することができ、負圧創傷療法は、肉芽組織の成長の刺激、感染の低減及び創傷における適切な水分平衡の維持に極めて有効であることが知られている。ゼラチン及びリポ酸及びEDTAをドレッシングに加えることは、特に異常に高いROS値及びMMP値などの、正常な治癒に対する障害を取り除き、慢性創傷の治癒に対処するものである。創傷治癒のMMPの側面は、本明細書に説明する製剤によっていくつかの観点から対処され、すなわち、ROS値の低減によりMMPの動員に影響が及び、EDTAの追加によりMMPの活性化が防止され、及びMMPに対する犠牲基質として働くゼラチンにより新しく形成された肉芽組織が保護されることで対処されることに留意しなければならない。
【実施例】
【0059】
以下の例は、本発明の特定の実施形態を実証するために含められる。当業者は、以下の例に開示される技法が、本発明者らにより本発明の実施において十分に機能することが見出された技法を表し、従ってその実施に好ましい態様をなすものと見なされ得ることを理解しなければならない。しかしながら、当業者は、本開示をふまえて、開示される具体的な実施形態において多くの変更を加えることができ、それでもなお本発明の概念、趣旨及び範囲から逸脱することなく同様の、又は類似した結果を達成し得ることを理解しなければならない。より具体的には、本明細書に記載される薬剤に代えて、化学的にも生理学的にも関連性のある特定の薬剤を用いてもよく、一方で同じ又は類似の結果を実現し得ることが理解されるであろう。当業者に明らかなかかる類似の代替例及び変形例は全て、添付の特許請求の範囲により定義されるとおりの本発明の精神、範囲及び概念の範囲内に含まれると見なされる。
【0060】
実施例1
ポリウレタン連続気泡網状発泡体パッドをスキャフォールド140として選択し、1.5wt%のαリポ酸及び4.5wt%の225ブルームビーフゼラチン(及び、適切な場合には0.3%のEDTA)を含む溶液に浸漬した。αリポ酸に良好な酸素遮断及び持続放出特性を備え、並びに周囲のゼラチナーゼに対する犠牲基質として働くその能力から、ゼラチンを生体適合性結合剤として使用した。αリポ酸をエタノール中に予め溶解し、次に最終溶液に混合した。発泡体パッドを十分な長さの時間にわたり浸漬して、スキャフォールド140に関連して上記に説明したとおり連続気泡網状発泡体内に形成される経路をコーティングした。浸漬後、発泡体パッドを引き抜き、押圧して過剰な溶液を取り除き、一定の重量まで乾燥させた。ある場合には、製剤に防腐剤として安息香酸ナトリウムを添加した。乾燥させた発泡体は、2%重量のαリポ酸、6%重量のゼラチン、及び適切な場合には、0.4%重量のEDTAを含んだ。
【0061】
National Diagnostics過酸化水素アッセイキット(Hydrogen Peroxide Assay Kit)を使用して発泡体パッドの抗酸化特性及びαリポ酸を含む製剤化したコーティングを有する発泡体パッドを評価した。ゼラチンのみでコーティングした発泡体パッドを対照として使用した。図7は、αリポ酸との反応に起因する過酸化水素の還元率を示すグラフである。MMP−9比色分析ドラッグディスカバリーキット(MMP−9 Colorimetric Drug Discovery Kit)(Biomol)を使用して、αリポ酸/ゼラチン(ALA)及びゼラチン単独(GF GEL)を含む製剤化した発泡体パッドのMMP阻害/不活性化能力を評価した。対照は、コーティングしていない発泡体パッド、及び公知の効力を有するMM不活性化薬であるNNGH(C13H20N2O5S、Enzo(登録商標)Life Sciencesから入手可能)であった。図8は、ゼラチンをコーティングした発泡体パッドはMMP活性を阻害するが、EDTAを伴うゼラチンとALAとの組み合わせ(実施例2に説明した)は、ゼラチン単独よりはるかに強力であることを示すグラフである。図9は、発泡体パッド上のコーティングからのαリポ酸の放出を示すグラフである。コーティングは初日のうちに全αリポ酸の約70%を送達し、一方、残りのαリポ酸は次の2〜3日間の間に放出される。
【0062】
実施例2
エトレンジアミン四酢酸(ethlenediaminetetraacetic acid)(EDTA)などのキレート剤を、実施例1に説明した浸漬溶液に添加した。創傷ドレッシングにEDTAを加えると、プロMMPの活性化に不可欠な亜鉛イオンをキレート化する活性化をMMPが起こすことが防止される。
【0063】
実施例3
実施例1〜2に説明した浸漬溶液に水酸化ナトリウム溶液を添加して、リポ酸をリポ酸ナトリウムに変換することができる。得られる溶液のpHは6〜8の範囲でなければならない。リポ酸がリポ酸ナトリウムに変換されることにより、コーティングした発泡体において硫黄臭が発生するリスクが解消される。
【0064】
実施例4
上記の実施例1〜2に説明されるコーティングしたポリウレタン発泡体(GranuFoam(登録商標))スキャフォールドを、MMP活性を低減するそれらの能力について、製品Biostep(商標)及びPromogran(商標)などのコーティングしていないコラーゲンベースのスキャフォールドと比較してさらにアッセイした。以下の表1及び表2に2つの個別の実験の結果を示し、これは、コーティングしたスキャフォールドが生物学的に活性な層を僅か10重量%しか含まなくても、コーティングしたスキャフォールドがコラーゲンスキャフォールドと同様にMMP活性を低下させたことを実証している。
【0065】
実施例5
上記に説明するαリポ酸でコーティングしたスキャフォールドの放射線安定性を、γ線照射後のROS減少におけるスキャフォールドの有効性を計測することにより評価した。簡潔に言えば、照射したスキャフォールド及び対照のスキャフォールドを20μMのH2O2で処理した。次に処理後2時間又は24時間で、HPO−100センサを備えたTBR4100(World Precision Instrumentsから入手可能)を使用して過酸化物濃度を計測した。3つの試験の結果を表3に要約する。結果は、10回の反復試験で計測された平均の過酸化物減少を表す。示されるとおり、αリポ酸コーティングは大量に照射した後であっても極めて高い活性を(すなわち、抗酸化剤として)維持した。
【0066】
本発明のシステム及び方法は、ヒト患者における組織成長及び治癒を参照して説明したが、減圧組織治療を適用するためのこれらのシステム及び方法は、組織成長又は治癒を促進することが所望される任意の生物に使用し得ることが認識されなければならない。同様に、本発明のシステム及び方法は、限定なしに骨組織、脂肪組織、筋組織、皮膚組織、血管組織、結合組織、軟骨、腱、又は靱帯を含め、任意の組織に適用され得る。組織の治癒は、本明細書に説明するとおりの減圧組織治療を適用する一つの焦点であり得るが、減圧組織治療の適用はまた、病変、欠損、又は損傷を有しない組織で組織成長を生じさせるために用いられてもよい。例えば、減圧組織治療を適用して組織部位にさらなる組織を成長させることが所望されてもよく、次にその組織を回収することができる。回収された組織は別の組織部位に移植され、罹患した又は傷害された組織に置き換えられてもよく、或いは回収された組織が別の患者に移植されてもよい。
【0067】
本発明及びその利点は、特定の例示的な非限定的実施形態との関連において開示したが、添付の特許請求の範囲により定義されるとおりの本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更、置き換え、並べ換え、及び改変を行い得ることは理解されなければならない。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
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図9