(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189477
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】領域拡張アルゴリズム
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20170821BHJP
G06T 1/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
A61B6/03 360J
A61B6/03 360D
G06T1/00 290B
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-95154(P2016-95154)
(22)【出願日】2016年5月11日
(62)【分割の表示】特願2014-229546(P2014-229546)の分割
【原出願日】2011年2月1日
(65)【公開番号】特開2016-174930(P2016-174930A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2016年5月11日
(31)【優先権主張番号】61/300,423
(32)【優先日】2010年2月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513109016
【氏名又は名称】コビディエン エルピー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(72)【発明者】
【氏名】アヴァーブーフ,ドリアン
(72)【発明者】
【氏名】クレイニン,ユリ
【審査官】
伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−054623(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0118135(US,A1)
【文献】
国際公開第2008/125910(WO,A2)
【文献】
特表2010−510815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/03
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解剖学的構造の仮想モデルを作成するための方法をプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記方法は、
複数の二次元画像から作成される三次元画像を提供することと、
閾値を設定し、前記閾値を超える値は、撮像されたボクセルが組織を示していないことを示すことと、
前記三次元画像におけるシード点ボクセルを、出発点として受け取ること、
複数の第一の反復を実行することと、
セグメント化されたボクセル数がゼロに等しくなるのを検出すること、
前記セグメント化されたボクセル数がゼロに等しくなるまで、漏れとなったオブジェクトがあれば、前記オブジェクトに複数の第二の反復を実行することと
を含むコンピュータプログラムであって、
前記複数の第二の反復のそれぞれは、
所定の漏れとなったオブジェクトに関して漏れを検出した第一の反復中のボクセルをシード点として選択すること
を含む、コンピュータプログラム。
【請求項2】
前記複数の第一の反復のそれぞれは、
複数の方向において前記シード点に隣接して位置するボクセルであって、前記閾値を満たすか、または、超える前記ボクセルをセグメント化すること
を含む、請求項1記載のコンピュータプログラム。
【請求項3】
前記複数の第一の反復のそれぞれは、
当該反復においてセグメント化されたボクセル数を決定することと、
前記ボクセル数がゼロより大きい場合、前記数が漏れを示すのに十分なほど大きいかどうかを決定することと
をさらに含む、請求項2記載のコンピュータプログラム。
【請求項4】
前記複数の第一の反復のそれぞれは、
漏れとなったボクセルを削除し、後処理を行うために漏れとなったオブジェクトとして前記漏れとなったボクセルを記憶すること
をさらに含む、請求項3記載のコンピュータプログラム。
【請求項5】
前記複数の第一の反復のそれぞれは、
一つも漏れが示されない場合、次の反復のためのシード点としてセグメント化されたボクセルを識別すること
をさらに含む、請求項4記載のコンピュータプログラム。
【請求項6】
前記複数の第二の反復のそれぞれは、
前記閾値を低減させること
をさらに含む、請求項1記載のコンピュータプログラム。
【請求項7】
前記複数の第二の反復のそれぞれは、
複数の方向において前記シード点に隣接して位置するボクセルであって、前記閾値を満たすか、または、超える前記ボクセルをセグメント化すること
をさらに含む、請求項6記載のコンピュータプログラム。
【請求項8】
前記複数の第二の反復のそれぞれは、
当該反復においてセグメント化されたボクセル数を決定することと、
前記ボクセル数がゼロより大きい場合、前記数が漏れを示すのに十分なほど大きいかどうかを決定することと
をさらに含む、請求項7記載のコンピュータプログラム。
【請求項9】
前記複数の第二の反復のそれぞれは、
漏れとなったボクセルを削除し、後処理を行うために漏れとなったオブジェクトとして前記漏れとなったボクセルを記憶すること
をさらに含む、請求項8記載のコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記複数の第二の反復のそれぞれは、
一つも漏れが示されない場合、次の反復のためのシード点としてセグメント化されたボクセルを識別すること
をさらに含む、請求項9記載のコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、「領域−拡張アルゴリズム」(Region-Growing Algorithm)の名称で2010年2月1日に出願された米国仮出願番号第61/300,423号の優先権を主張し、その全体が参照として本明細書中に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
経管的病変の診断および治療を試みる医師には、肺気道のナビゲートという課題が常に提示されている。そのため、医師に肺の「マップ」を提供するために多数のナビゲート補助器具および画像化ツールが開発および/または利用されてきた。
【0003】
そのようなツールの一つは、CTスキャナである。CTスキャナは、肺のマルチスキャンまたは「スライス」を撮影するためにX線技術を使用する。これらのスキャンはそれぞれ、肺の断面を表示し、個別に見ることが可能であり、または、コンピュータプログラムを介して、三次元CTモデルを形成するよう組み立てることが可能である。しかし、X線技術を使用するほとんどの画像のように、CTスキャンは、本質的にややぼやけて半透明であり見辛い。そのため、CTモデルにより提供される情報を解釈するために、および、気道をナビゲートする気管支鏡により見られるものを模倣する気道の仮想モデルを「拡張させる」ために、コンピュータグラフィックス技術が用いられている。このプロセスの例が、「ボディチャネルまたはキャビティを介してカテーテルをナビゲートするための適応型ナビゲーション技術」(Adaptive Navigation Technique For Navigating A Catheter Through A Body Channel Or Cavity)という名称で、米国特許出願番号第11/939、537号において示され、記載されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
このグラフィカル技術は、「領域拡張法または3Dマップ生成法」と呼ばれることもあり、また独自の課題を提起する。例えば、領域拡張法は、通常、各二次元ピクセルを分析すること、あるいは、より適切には、輝度、または「濃度」について三次元ボクセルを分析し、濃度が一定の閾値を満たしているかどうかに基づき、組織または空気のいずれかを示す値をボクセルに割り当てることにより、CTデータを処理することに関する。CTスキャンは、複数のピクセル(2D)またはボクセル(スキャンが、体積として構成される場合は3D)であって、強度が白(最高強度)から黒(最低強度)へと変化する各ピクセルまたはボクセルから構成される、グレースケールの画像である。白および黒の間の各強度レベルは、グレーの濃淡として表示される。様々なグレーの濃淡を「組織」または「空気」のいずれかのCTスキャンから指定することにより、結果として得られる肺の画像は、はるかに明確になる。しかし、ボクセルが誤って指定されると、肺のモデルが不正確になる。誤ったボクセルの指定は、誤った値に閾値レベルを設定することによるものであり、これは、実際には様々なグレーの濃淡があるが、ボクセルにあいまいな(空気または組織の)値を割り当てようとする場合に内在する問題である。
【0005】
最適な閾値設定のために現在使用されている技術は、控えめな閾値にて開始し、領域拡張法の反復を実行することである。控えめな閾値は、組織が空気として指定され、空気(の色)が気道から流出しているように見える気道の仮想イメージを作る場合に生じる、漏れをもたらす可能性がないものである。しかし、控えめな閾値であっても、CTスキャンにおける不正確さは、セグメンテーションプロセスの後の「穴」をもたらし得る。これらの穴は、偽の枝をもたらす。
【0006】
さらに、控えめな閾値では、気道が途中で途切れる。したがって、控えめな反復が実行された後は、成長が阻まれた枝状構造となり、閾値がインクリメントして増加され、二度目の反復が実行される。これらの工程が、漏れが発生するまで繰り返される。そのため、漏れが発生しない最大の閾値が決定され、使用される。しかし、この手法は、自然と、CT画像の最小濃度部が閾値レベルを規定するという結果となる。同様に、この方法から生じるその他の問題が存在する。
【0007】
例えば、完全な吸入時には、追加の空気量に対応するため、気道が伸びて薄くなる。気道の薄さは、組織画像濃度の低下につながり、低い閾値にも関わらず、このように漏れが生じる。
【0008】
別の例は、閾値が増加される度に、アルゴリズムが、最初のシード点からずれることである。したがって、漏れが生じる前に閾値が10回増加されている場合、最初の反復で分析された各ボクセルは9回以上分析される。このアルゴリズムは、このように本質的に処理リソースに負担をかける。
【0009】
このように、画像データにおける局在的欠点を認識でき、気管支樹のより遠位の枝が、セグメント化され、「拡張される」ことが可能なように、欠点を「修復」できる領域拡張アルゴリズムの必要性が認められる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、領域拡張法の実行中に高閾値を使用している間の漏れを制御するための技術およびアルゴリズムを提供する。控えめな(低)閾値での開始よりむしろ、高閾値が使用されるが、拡張は分析され、制御される。
【0011】
本発明の一態様は、漏れが検出されるまでの拡張よりむしろ、拡張の単一のボクセル層として反復を定義するアルゴリズムを使用する。各反復は、ボクセル数において予期される増加(例えば、放物線状の増加など)について分析される。ボクセルが、予期される増加率にしたがって拡張していない場合、予期しない増加が漏れとして識別される。
【0012】
漏れが検出された場合に領域拡張プロセスを終了するよりむしろ、漏れの地点が分離または「パッチ」され、現在の経路でのさらなる反復はその地点からは続行されないが、モデルの残りの部分は拡張の継続が許可される。
【0013】
本発明の別の態様は、実際には、漏れが発生している枝の修復やサルベージを行う、反復後の工程を提供する。すべての反復が実行された後、漏れを有していた枝は、記憶されたロケーションから読み出され、低減した閾値を用いて再拡張される。その後、これらの枝は、モデルに追加される。
【0014】
本発明のアルゴリズムの利点は非常に多く存在する。一利点は、可能な限り高い閾値を利用することにより、枝の数が一層有意義に増加することである。
【0015】
本発明の別の利点は、モデルの中心にあるセグメント化領域に出現する「穴」が、大幅に減少するということである。
【0016】
本発明のさらに別の利点は、偽の枝の数が減少することである。各反復が分析されるため、拡張が制御され、偽の枝は拡張が防止される。
【0017】
本発明の別の利点は、拡張した枝が、最適な閾値と、第二の拡張の成果により、長さが増すということである。
【0018】
本発明のさらに別の利点は、最初の閾値選択における重要度が減ることである。実験を通して、このアルゴリズムは、閾値が比較的高い間、使用された最初の閾値に関わらず、自己修正を行い、実質的に同一の結果をもたらすということが見出された。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明のアルゴリズムの好適な実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の方法10は、
図1として示されるフローチャートで図に示される。方法10は、CTデータのセグメンテーションのための出発点を選択することにより、20から開始する。例えば、選択する気管内の点は、それが最も大きく最も近位の気道であり、CTスキャン上で容易に認識可能な、論理的な出発点である。好ましくは、出発点は、中心にあり、高閾値を満たす気管内の単一ボクセルである。言い換えると、明らかに空気であるボクセルが選択される。さらに隣接するボクセルが分析される任意の点を、以下では「シード点」と呼ぶ。出発点は、最初のシード点である。
【0021】
30にて、伸長プロセスは、出発点の周囲の隣接するボクセルを指定することにより開始される。この指定は、セグメンテーションとして公知であり、新たなボクセルは、空気の閾値レベルを満たしたことを示す。出発点は、好ましくは気管内にて選択され、また、患者の口に向かって気道を逆に拡張させることは望ましくないことから、出発点の遠位方向のボクセルだけがセグメント化される。このように、気道の遠位方向に移動する「波」が生成される。肺の枝が全方向に広がることが理解される。本明細書にて使用される「遠位方向」は、気道において残っている通路に沿って出発点からさらに離れるものとして解釈される。言い換えると、地点間の直線を作るために組織を切断して地点間に直線を引いた場合、気道におけるいくつかの「遠位」地点は、比較的出発点に近い場合もある。
【0022】
単一のボクセルである出発点は、隣接する26個のボクセルに囲まれ、26個のボクセルのうち、17個は所望の拡張方向(まだセグメント化されておらず、口に向かう方向といった逆方向ではない方向)に延びることが理解される。
【0023】
40にて、任意の新しいボクセルがセグメント化されたかどうか決定される。言い換えると、その「波」において、空気の閾値レベルを満たすボクセルが無い場合、拡張はされず、樹が完了する。
【0024】
40にて答えが「はい」の場合、アルゴリズムは50に続き、そこでは、セグメント化されたボクセルがカウントされ、漏れがあるかどうかを決定するための分析がなされる。新しいボクセルは、前の反復よりも数を多くすることが可能であるが、拡張を制御すべきである。言い換えると、ボクセル数の増加が予期される(より具体的には、放物状的増加が、漏れ無しに正常な拡張パターンで観察されている)場合、漏れがないと決定され、プロセスは、新しい反復を開始するために工程30に戻る。例えば、上記に示すように、出発点は1ボクセルから構成される。出発点が空気に囲まれたと仮定すると、次のボクセルの「波」は、新しい17個のシード点となる。しかし、これらの多くは互いに隣接しているため、次に続く波は、先の17個のシード点のそれぞれについて、新しい17個のシード点を生じさせない。さらに、すでに分析されている各シード点の背後にあるボクセルは、再びセグメント化されることはない。シード点が気道の壁に達するとすぐに、セグメント化されている気道が完全に円筒形である場合は、「波面」は凸シートになり、単一のボクセルの厚みを持ち、一定のままであろう。したがって、拡張法のための数学モデルは、新しい枝が導入される場合を除き、やや放物線状であり、気道が遠位方向に狭くなっているということが考えられる。しかしながら、漏れがあると、セグメント化されたボクセル数が急激に増加する。
【0025】
50にて、分析が、セグメント化されたボクセルにおける、予期しないまたは異常に高い増加という結果の場合、漏れが存在し、工程60にプロセスが移行すると決定され、工程60では、前の反復からセグメント化されたボクセルを識別および記録し、正確なものとしてボクセルをラベル付けする。
【0026】
漏れの判定は、2つの重要な結論に起因する:(1)フロントサイズが、反復数に依存して逆数(必ずしも線形ではない)を有するということが予期され、例えば、[フロントサイズ]〜f(1/反復数)である。(2)気道形状の分岐および変化により、フロントサイズがやや直線的に拡張し得る。
【0027】
70にて、漏れを検出すると、漏れを含まない最新の「良い」反復を選択するために分析が行われる。この決定は、気管支樹の自然な構造に準拠した数学モデルを満たすために使用されるのと同一の原則に基づく。
【0028】
最後の良好な反復までにセグメント化されたボクセルは、セグメント化されたボクセルリストに収容すべきであるとみなされ、一方、上記の「良い」ものの各反復に属するボクセルが、漏れにつながったボクセルを分離するために分析される。この分析を行うために、最近セグメント化されたボクセルは、接続されるオブジェクト(枝の部分)にラベル付けされる。次に、各オブジェクトは、漏れの原因となったオブジェクトを検出するために分析される。
【0029】
不正確なオブジェクトに属するボクセルの座標が別々に記憶され、その後別々に処理される。それらは、セグメンテーションプロセスに参入しないよう、バイナリーマップにてロックされる。正確な枝に属するボクセルは、セグメンテーションに戻され、プロセスは30に戻る。
【0030】
80にて、漏れとして識別されたオブジェクトが、さらなるセグメンテーションから削除され、後処理のためキューに格納される。80の後、プロセスは次の反復のため、30に戻る。
【0031】
50にて、答えが漏れに対し「いいえ」であった場合、プロセスは次の反復のために30に戻る。フローチャート10は、明確にするために直列で示されるが、実際には並列の動作であることに留意すべきである。言い換えると、各新しいボクセルがシード点(フロント)であり、フローチャートは同時にそれぞれ次の反復にて実行される。したがって、もちろんアルゴリズムを実行する処理装置の能力に依存するが、気管支樹の拡張をリアルタイムで見せ、ほぼ瞬時に樹の表示が見られるであろう。
【0032】
40にて、新しいボクセルが一つも検出されない場合、アルゴリズムは、漏れのオブジェクトが識別されたかどうかを確認する決定工程90に進む。答えが「はい」の場合、記憶域キュー(工程80)から最後のオブジェクトを読み出す工程100が実行される。
【0033】
次に110にて、閾値が低減され、アルゴリズムは、選択された漏れのオブジェクトにてのみ実行される。低減された閾値が使用されているため、漏れの可能性が低減される。
【0034】
90にて、漏れが一つも存在しない、または、それらがすべて再プロセス化されているため、漏れのオブジェクトが存在しない場合、プロセスは120にて完了する。
【0035】
本発明は、特定の実施形態および適用という観点から説明されてきたが、当業者は、この教えに照らし、請求項に係る発明の精神からの逸脱、または、請求項に係る発明の範囲を超えることなく、さらなる実施形態の作成および変更が可能である。したがって、本明細書中の図面および説明が、本発明の理解を容易にするため、例示により提供されており、その範囲を限定すると解釈されるべきでないことが、理解されるべきである。