特許第6189499号(P6189499)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6189499
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】新規の結合アッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20170821BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20170821BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   G01N33/53 V
   G01N33/543 545D
   G01N33/574 B
   G01N33/574 E
【請求項の数】18
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-146202(P2016-146202)
(22)【出願日】2016年7月26日
【審査請求日】2016年7月26日
(31)【優先権主張番号】1650619-8
(32)【優先日】2016年5月9日
(33)【優先権主張国】SE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516224156
【氏名又は名称】グリコボンド・アクチボラゲット
【氏名又は名称原語表記】GLYCOBOND AB
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペータル・ポールソン
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2004/036216(WO,A1)
【文献】 特開平02−242681(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/007797(WO,A1)
【文献】 特表2008−541060(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0065148(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト個体が肝細胞癌(HCC)を患うリスクを評価するための方法であって、
−固相に固定化された、配列番号1によるアミノ酸を有するペプチドと90%、95%、99%、または100%同一性などの少なくとも90%同一性を有する1価フコース結合性ペプチドを供給するステップと、
−試料を固定化フコース結合性ペプチドと接触させるステップと、
−前記フコース結合性ペプチドに結合した任意のフコシル化AGPを検出するステップとを含む、試料においてフコシル化α1−酸性糖タンパク質(AGP)を検出するための方法を用いて前記個体から試料におけるフコシル化AGPを検出するステップを含み、
ここにおいて、HCCを患っていないヒト個体に由来した参照濃度と比較しての、フコシル化AGPの濃度の増加が、個体がHCCを患うリスクの増加を示しており、肝硬変および/または肝炎を患っているが、HCCを患っていないヒト個体に由来した参照濃度と比較しての、フコシル化AGPの濃度の増加が、個体がHCCを患うリスクの増加を示している、方法。
【請求項2】
試料においてAGPの量を定量化することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
任意の結合したフコシル化AGPの検出が、前記のフコース結合性ペプチドに結合したフコシル化AGPに特異的に結合する能力がある第1の検出抗体と、任意の結合したフコシル化AGPを接触させることにより実施される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1の検出抗体が、ヒトAGPのアミノ酸残基183〜201(配列番号3)を含むエピトープに特異的である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第1の検出抗体が検出可能な標識にコンジュゲートされている、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記フコース結合性ペプチドに結合した任意のフコシル化AGPの検出が、前記フコース結合性ペプチドに結合したフコシル化AGPに特異的に結合する能力がある第1の検出抗体、および第1の検出抗体に特異的に結合する能力がある第2の検出抗体と接触させることにより実施され、かつ第2の検出抗体が検出可能な標識にコンジュゲートされている、請求項3または4に記載の方法。
【請求項7】
検出可能な標識が、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびグルコースオキシダーゼを含む酵素、ならびにフルオロフォアからなる群から選択される、請求項5または6に記載の方法。
【請求項8】
第1の検出抗体がポリクローナルまたはモノクローナル抗体である、請求項3〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
第2の検出抗体がポリクローナルまたはモノクローナル抗体である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項10】
第1の検出抗体が、ヒトAGPのアミノ酸残基183〜189と少なくとも一部分、重複するエピトープに特異的に結合する能力がある抗体である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
任意の結合したフコシル化AGPの検出が、フコース結合性ペプチドを固相から遊離させて、ペプチド:AGP複合体を固相から分離し、分離された画分においてAGPを検出することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項12】
分離された画分におけるAGPの検出がSDS−PAGEまたはウェスタンブロットを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
総AGP濃度および総α−フェトプロテイン(AFP)濃度の少なくとも1つを測定することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
総AGP濃度および総α−フェトプロテイン(AFP)濃度を測定することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法における、固相に固定化された、配列番号1によるアミノ酸を有するペプチドと90%、95%、99%、または100%同一性などの少なくとも90%同一性を有する1価フコース結合性ペプチド、および前記フコース結合性ペプチドに結合したフコシル化AGPに特異的に結合する能力がある少なくとも第1の検出抗体を含む部品を構成要素とするキットの使用
【請求項16】
第1の検出抗体が検出可能な標識にコンジュゲートされている、請求項15に記載の使用
【請求項17】
第1の検出抗体に特異的に結合する能力がある第2の検出抗体をさらに含み、第2の検出抗体が検出可能な標識にコンジュゲートされている、請求項16に記載の使用
【請求項18】
検出可能な標識が、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびグルコースオキシダーゼを含む酵素、ならびにフルオロフォアからなる群から選択される、請求項16または17に記載の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、バイオマーカー、およびバイオマーカーの検出に用いるアッセイの分野、ならびにそのようなアッセイにおいて有用な抗体に関する。特に、本発明は、原発性肝臓癌(肝細胞癌、HCC)を示すバイオマーカーを検出するためのアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
原発性肝臓癌(肝細胞癌、HCC)は、最も高頻度で見られるヒト癌の1つであり、3番目に致死性が高い。HCCのたいていの症例は、肝硬変を背景に発症し、硬変およびHCCを発症する主な原因は、慢性B型肝炎ウイルス(HBV)またはC型肝炎ウイルス(HCV)感染である。HBVおよびHCV感染は、世界中の全HCC症例の80%より多くと関連している1−3。HCCの発症の非ウイルス性背景には、アルコール性疾患、糖尿病、ならびに代謝性疾患および自己免疫性疾患によって引き起こされる肝硬変が挙げられる。
【0003】
HCC腫瘍が初期に検出された場合には、外科的切除、移植術、または高周波アブレーションを用いる治癒的処置を施すことができる。しかしながら、治癒の可能性のある処置に適している初期においては、HCC腫瘍の30%が検出されるのみである。
【0004】
HCCの進行を診断および測定するために最もよく用いられる血清バイオマーカーは、α−フェトプロテイン(AFP)である。しかしながら、HCCを検出するAFPの診断能力は限られている。肝硬変と肝炎のどちらもAFPのレベルの上昇をもたらし得、HCCと診断された患者の半数近くは、AFPのレベルの上昇を示さない。別のバイオマーカーである、デス−γ−カルボキシプロトロンビン(DCP)は、いくつかの臨床研究において、診断感度がAFPより若干高いことが示されている。しかしながら、AFPとDCPのどちらも、スクリーニングマーカーとして用いられるには不十分な診断感度および特異性を示し、監視においてそれらを診断マーカーとして用いることは、国際ガイドラインでは推奨されていない。超音波は、より高い診断感度および特異性を示しているが(60〜80%)、高い費用と、初期において腫瘍を検出できないことを欠点にもつ
【0005】
血清糖タンパク質のグルコシル化変化が、肝臓疾患ならびにHCCの発症および進行と関連することが示されている。最もよく研究された例は、AFPのコアフコシル化型である、AFP−L3の増加であり、それは、単独でAFPを用いるより、HCCに対してより高い特異性を示している
【0006】
血漿タンパク質のフコシル化の増加は、HCCに関連づけられた一般的な所見であり、質量分析研究により、肝硬変患者とHCC患者との間でのフコシル化パターンの特定の違いが明らかにされている8−13。しかしながら、フコースに対して幅広い特異性を有するヒイロチャワンタケ(Aleuria aurantia)由来のフコース結合性レクチン(AAL)などのレクチンを用いる研究は、HCCを有する患者と肝硬変を有する患者とを区別するのに問題がある場合が多い14,15
【0007】
フコース結合性レクチンAALは、疾患に関連づけられた血漿タンパク質のフコシル化変化を研究するために広く用いられている。AALは、2つの同一のサブユニットで構成され、各サブユニットは、フコースに対する5つの結合部位を含有する16。AALは、フコシル化オリゴ糖に対する幅広い特異性を示し、SLeおよびSLeなどのシアリル化構造およびフコシル化構造を含む、α1−6、α1−2、α1−3、およびα1−4連結したフコースを有するオリゴ糖に結合する。5つの異なる結合部位は、結合特異性および親和性が異なる。
【0008】
AALに由来した1価フコース結合性ペプチドは国際公開第2009/136859号から知られている。結合部位2のみを含むAALの組換え型、S2が作製されている17。この組換え型は、AALと比較して、フコシル化オリゴ糖に対してより限定された結合性を示し、シアリル化/フコシル化オリゴ糖に対する結合性が低下していた。それはまた、フコシル化構造に対する親和性の全般的な低下を示し、多フコシル化オリゴ糖およびα1−6連結型フコースを含有するオリゴ糖に対して最も高い親和性を示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/136859号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、原発性肝臓癌(肝細胞癌、HCC)に特異的なグリコシル化パターンを有するα1−酸性糖タンパク質(AGP)をアッセイするためのアッセイに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様において、本発明は、以下のステップを含む、試料においてフコシル化α1−酸性糖タンパク質(AGP)を検出するための方法に関する:
−固相に固定化された、配列番号1によるアミノ酸を有するペプチドと85%、90%、95%、99%、または100%同一性などの少なくとも80%同一性を有する1価フコース結合性ペプチドを供給するステップ;
−試料を固定化フコース結合性ペプチドと接触させるステップ;および
−前記フコース結合性ペプチドに結合した任意のフコシル化AGPを検出するステップ。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、ヒト個体が肝細胞癌(HCC)を患うリスクを評価するための方法であって、上記態様による方法を用いて前記個体由来の試料においてフコシル化AGPを検出するステップを含み、HCCを患っていないヒト個体に由来した参照濃度と比較して、フコシル化AGPの濃度の増加が、その個体がHCCを患うリスクの増加を示す、方法に関する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、固相に固定化された、配列番号1によるアミノ酸を有するペプチドと85%、90%、95%、99%、または100%同一性などの少なくとも80%同一性を有する1価フコース結合性ペプチド、および前記フコース結合性ペプチドに結合したフコシル化AGPに特異的に結合する能力がある少なくとも第1の検出抗体を含む部品のキットに関する。
【0014】
本発明はまた、上記態様による方法における、本発明によるキットの使用に関する。
さらなる態様において、本発明は、配列番号3によるアミノ酸配列と88%、94%、または100%などの少なくとも83%同一性を有するアミノ酸配列からなる単離されたペプチド、および抗体の産生におけるそれの使用に関する。そのような抗体は、上記態様による方法において有用である。
【0015】
本発明はまた、ヒトAGPのアミノ酸残基183〜189と少なくとも一部分、重複するエピトープに特異的に結合する能力がある抗体、およびヒトAGPのアミノ酸残基183〜201と少なくとも一部分、重複するエピトープに特異的に結合する能力があるIgG抗体に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】上部パネル:固体支持体上に固定化された抗体#058を用いた標準ELISAの図解。下部パネル:肝細胞癌(HCC)、硬変を有する患者から得られた試料、ならびに陰性および陽性対照についての測定された吸光度値。
図1B】上部パネル:固体支持体上に固定化されたS2を用いた逆ELISAの図解。下部パネル:肝細胞癌(HCC)、硬変を有する患者から得られた試料、ならびに陰性および陽性対照についての測定された吸光度値。
図2】逆S2−ELISAにおけるウサギポリクローナル抗体#058と市販の抗AGP抗体の比較。肝細胞癌(HCC)を有する患者、硬変を有する患者、肝炎を有する患者から得られた試料、および正常対照について分析を実施した。
図3】患者血漿試料由来の、AALで濃縮された、およびS2で濃縮されたα1−酸性糖タンパク質(AGP)のウェスタンブロット分析。レーン1〜4は硬変試料、レーン5〜8はHCC試料、レーン9は肝炎試料、レーン10は正常血漿試料を表す。AGPは、抗ヒトAGP抗体058を用いて検出された。
図4A】逆S2−ELISAアッセイにおける患者試料由来の異なる濃度の精製AGPの結合。HCC試料(黒色三角形)、硬変試料(黒色四角形)、および正常試料(黒色円形)由来のAGPの結合を、逆S2−ELISAにおいて分析した。
図4B】逆S2−ELISAにおけるマトリックス効果の分析。1%BSAを含有するPBS中に希釈された(円形)、および正常血漿中に希釈された(黒色四角形)、HCC患者試料由来の異なる濃度の精製AGPの結合。
図4C】逆S2−ELISAアッセイにおける異なる濃度のdsAGPの結合。
図5A】肝炎、硬変、およびHCCを有する患者におけるS2結合AGPのレベルの散布図。
図5B】肝炎、硬変、およびHCCを有する患者におけるAGPのレベルの散布図。
図5C】肝炎、硬変、およびHCCを有する患者におけるAFPのレベルの散布図。
図6】AGPおよびS2結合AGPのレベルの相関プロット。rスクエア値は0.11である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
本明細書に用いられる全ての用語および単語は、一般的に、当業者によりそれらに一般的に与えられた意味を有するものと解釈されるべきである。明瞭にするために、いくつかの用語を下記で明確に定義する。
【0018】
抗体に関して本明細書で用いられる場合、「特異性」は、特定のエピトープに、類似しているが非同一のエピトープと比較して有意により高い親和性で結合する抗体の質を意味する。
【0019】
本明細書で用いられる場合、「親和性」は、物質間または粒子間における、それらを化学的に結合させ、そのまま留まらせる引力を意味する。親和性は、2つの物質が強い、もしくは弱い化学結合を形成して、分子もしくは複合体を形成する傾向、または抗原−抗体複合体の熱力学的結合強度を表す。複合体における2つの物質間の非共有結合性結合の強度は、複合体の解離定数により測定される。免疫学の範囲内では、親和性は、単一の抗原結合部位と単一の抗原決定基との間の相互作用の強度の熱力学的表現、およびしたがって、それらの間での立体化学的適合性の熱力学的表現である。
【0020】
本明細書で用いられる場合、「AGP」は、α1−酸性糖タンパク質(別名オロソムコイド)を意味する。AGPは、2.8〜3.8のpIを有する41〜43kDaの糖タンパク質である。成熟ヒトAGPについて、ペプチド部分は、2つのジスルフィド架橋を有する183個のアミノ酸の単鎖である。糖含有量は、分子量の45%に相当し、5〜6個の、高度にシアリル化された複合型N結合型グリカンの形で付着している。ヒトAGPの配列は、配列番号2として提供され、その配列において、残基1〜18は、成熟タンパク質中には存在しないシグナルペプチドである。本開示のAGPにおける特定のアミノ酸位置は、配列番号2による配列を用いて参照される。
【0021】
本明細書で用いられる場合、「HCC」は、肝細胞癌を意味する。HCCは、肝臓の原発性悪性腫瘍であり、主に、基礎慢性肝臓疾患および/または肝硬変を有する患者に起こる。原発性悪性腫瘍とは、HCCが転移性肝臓癌と区別されるべきであることが意図され、その転移性肝臓癌とは、別の器官から生じ、その後、転移を通して肝臓へ広がっている。HCCは肝臓癌の大部分を占める。
【0022】
本明細書で用いられる場合、「同一性」は、2つのアミノ酸配列が、アラインメントにおいて同じ位置に同じ残基を有する程度を意味する。同一性は、パーセンテージとして表される。アラインメントは、同一性および保存の最大レベルを達成するように、2つまたはそれより多くのアミノ酸配列のアミノ酸残基をうまく整合させる工程または結果である。アミノ酸配列のアラインメントは、European Bioinformatics Instituteのウェブサイト、http://www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/上で利用可能なClustal Omegaなどのいくつかの利用可能なツールによりなされ得る。
【0023】
配列番号1によるアミノ酸を有するペプチドと85%、90%、95%、99%、または100%同一性などの少なくとも80%同一性を有するペプチドは、本開示において、まとめて「S2」または「S2ペプチド」と呼ばれる。
【0024】
配列
配列番号1は、結合部位2のみを含むヒイロチャワンタケ(Aleuria aurantia)レクチン(AAL)の組換え型のアミノ酸配列である。
【0025】
配列番号2は、ヒトα1−酸性糖タンパク質(AGP)の配列を示す。
配列番号3は、ヒトα1−酸性糖タンパク質(AGP)のアミノ酸残基183〜201を示す。
【0026】
発明の詳細な説明
本発明者らは、下記でS2−ペプチドと表示された、配列番号1によるアミノ酸配列を有する1価フコース結合性ペプチドが、肝細胞癌を示すグリコシル化パターンを有するα1−酸性糖タンパク質(AGP)の存在をアッセイすることにおいて有用である結合特性を示すことを同定している。
【0027】
肝炎、硬変、およびHCCを有する患者由来の血漿においてAAL結合AGPの量に差があるかどうかを分析するために、レクチンアガロースビーズ沈降を用いた。正常と比較して、硬変患者試料とHCC患者試料の両方においてAAL結合AGPの増加があり、それは、フコシル化の増加と一致している。しかしながら、S2−ペプチドを用いて免疫沈降を実施した場合、硬変患者と肝炎患者の両方と比較して、HCC患者はそれらの血漿においてレクチン結合AGPのレベルが増加する傾向があった。
【0028】
したがって、第1の態様において、本発明は、以下のステップを含む、試料においてフコシル化α1−酸性糖タンパク質(AGP)を検出するための方法に関する:
−固相に固定化された、配列番号1によるアミノ酸を有するペプチドと85%、90%、95%、99%、または100%同一性などの少なくとも80%同一性を有する1価フコース結合性ペプチド(S2−ペプチド)を供給するステップ;
−試料を固定化フコース結合性ペプチドと接触させるステップ;および
−前記フコース結合性ペプチドに結合した任意のフコシル化AGPを検出するステップ。
【0029】
固相は、生物学的アッセイにおいて有用ないかなる型のものでもよい。現在、好ましい実施形態には、ストレプトアビジンが共有結合的に付着している、ポリスチレンマイクロタイタープレートおよびアガロースビーズが挙げられる。固体支持体の他の型には、ゲルマトリックス、セルロースおよびニトロセルロースマトリックス、ゲルビーズ、磁気ビーズ、プラスチック(例えば、ポリスチレン)ビーズ、ならびに平面基板(スライド)が挙げられる。S2−ペプチドは、標準技術を用いて固相に固定化することができる。
【0030】
ポリスチレンで構成された固相を用いる場合、S2−ペプチドは、当技術分野において知られているような、および実施例に記載されたような受動的吸着によって固定化することができる。S2−ペプチドはまた、例えば、実施例にも記載されているようにS2−ペプチドをビオチン化し、共有結合的に付着したストレプトアビジン部分を有する固相を用いることにより、固相上に可逆的に固定化することができる。
【0031】
1価フコース結合性ペプチドは、配列番号1によるアミノ酸を有するペプチドと100%同一ではない場合、好ましくは、実施例1に開示された条件下で、配列番号1によるアミノ酸配列を有するペプチドと本質的に同じ、またはより高い、肝細胞癌を示すグリコシル化パターンを有するフコシル化AGPに対する親和性を示す。
【0032】
本方法に用いられる試料は、好ましくは、血漿、血清、または血液試料である。試料は、好ましくは、HCCを患っているのではないかと疑われるヒト個体由来である。試料に任意で存在するフコシル化AGPがS2−ペプチドに結合することを可能にするのに適した条件下で、固体支持体上に固定化されたS2−ペプチドと試料を接触させる。例示的な条件は、実施例に提供されている。
【0033】
一実施形態において、任意の結合したフコシル化AGPの検出は、前記フコース結合性ペプチドに結合したフコシル化AGPに特異的に結合する能力がある第1の検出抗体と、任意の結合したフコシル化AGPを接触させることにより実施される。
【0034】
一実施形態において、第1の検出抗体は、第1の検出抗体に対する特異性を示す第2の検出抗体を用いることにより検出される。例えば、第1の検出抗体が、ある特定の種において産生されたポリクローナルIgG抗体である場合には、第2の検出抗体は、当技術分野において一般的に用いられているように、この種由来のIgG抗体に対して産生された抗体であり得る。この実施形態において、第2の検出抗体は、検出可能な標識にコンジュゲートされている。
【0035】
上記実施形態に用いられる検出可能な標識は、選択されたアッセイ形式において適したいかなる検出可能な標識であってもよく、それらには、非限定的に、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、およびグルコースオキシダーゼを含む酵素、ならびにフルオロフォアが挙げられる。
【0036】
一実施形態において、S2−ペプチドは、固相に可逆的に固定化されている。その後、任意の結合したフコシル化AGPの検出は、S2−ペプチドを固相から遊離させ、かつS2−ペプチドに結合した任意のフコシル化AGPと共にS2−ペプチドを溶出し、またはフコシル化AGPをS2−ペプチドから遊離させることにより、実施され得る。その後、フコシル化AGPは、検出することができ、任意で、溶出液において定量化することができる。
【0037】
さらなる態様において、本発明は、ヒト個体が肝細胞癌(HCC)を患うリスクを評価するための方法であって、上記のような方法を用いて前記個体由来の試料においてフコシル化AGPを検出するステップを含み、HCCを患っていないヒト個体に由来した参照濃度と比較して、フコシル化AGPの濃度の増加が、その個体がHCCを患うリスクの増加を示す、方法に関する。
【0038】
前の態様に関して、試料は、好ましくは、血液、血清、または血漿の試料である。
この態様の一実施形態において、本発明は、試料において総AGP濃度および総α−フェトプロテイン(AFP)濃度の1つまたは両方を測定することをさらに含む。総AGPおよび総AFPについてのアッセイは、いくつかの供給業者、例えば、Fujirebio Diagnostics,Inc.,R&D Systems,Inc.、およびLifeSpan BioSciences,Inc.から市販されている。これらの1つまたは2つの追加のバイオマーカーの組み合わせを用いることにより、S2−ペプチドに結合したフコシル化AGPのみの測定と比較して、一方の側のHCCと他方の側の硬変および肝炎との間のさらに確実な区別が可能になる。
【0039】
さらなる態様において、本発明は、本発明による方法を実施するための部品のキットに関する。そのようなキットは、好ましくは、固相に固定化された、配列番号1によるアミノ酸を有するペプチドと85%、90%、95%、99%、または100%同一性などの少なくとも80%同一性を有する1価フコース結合性ペプチド、および前記フコース結合性ペプチドに結合したフコシル化AGPに特異的に結合する能力がある少なくとも第1の検出抗体を含む。
【0040】
第1の検出抗体は、検出可能な標識にコンジュゲートされていてもよく、またはキットは、第1の検出抗体に特異的に結合する能力がある第2の検出抗体を含んでもよく、その場合、第2の検出抗体が検出可能な標識にコンジュゲートされている。検出可能な標識は上記で開示されている通りである。
【0041】
一実施形態において、試料においてフコシル化α1−酸性糖タンパク質(AGP)を検出するために用いられる方法は、逆ELISAにおいて具体化される。
【0042】
ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)は、血清などの分析混合物から成分を検出および定量化するための周知の方法であり、1971年に最初に報告された。それ以後、その方法は、さらに発達し、広く用いられている。直接的ELISAは別として、3つのバリエーション;間接的ELISA、サンドイッチELISA、および競合的ELISAが一般的に用いられている。ELISA分析および標準プロトコールの詳細な開示は、ウェブサイトELISAエンサイクロペディア(http://www.elisa−antibody.com/)で見出すことができる。
【0043】
一般的に、ELISA分析は、以下のステップを含む。ELISA全手順中の全ての洗浄ステップは、緩衝溶液で行われる。緩衝溶液は、好ましくは、Tweenを含むリン酸緩衝食塩水(PBST)である。
【0044】
固体支持体調製:固体支持体は、抗原または捕獲抗体の固体支持体への受動的吸着によってコーティングされる。固体についての材料は、通常、ポリスチレンであり、通常、ポリスチレンのチューブまたはマイクロタイタープレートが用いられる。好ましくは、96ウェルマイクロタイタープレート(マイクロプレート)が用いられる。
【0045】
抗原または抗体は、ポリスチレン表面への受動的吸着により固体支持体に固定化される。これは、通常、一晩などの長時間にわたって、4℃で実施される。pH7でのコーティングがいくつかの適用について許容でき得るが、アルカリ条件が固定化ステップについて好ましい。固定化ステップ後、固体支持体を洗浄し、通常、分析に影響する可能性がある、いかなる他の未知の分子であれ、それらが固体支持体に固定化されることを阻害するために、タンパク質でブロッキングする。ブロッキングは、通常、リン酸緩衝食塩水(PBS)溶液中のウシ血清アルブミン(BSA)を用いることにより実施される。ブロッキング後、固体支持体を洗浄する。
【0046】
アッセイ手順:液体の形での、試験されるべき試料を固体支持体に加え、その後、インキュベートする。固体支持体上に固定化された抗原または捕獲抗体に対する親和性または特異性を有するいかなる抗体または抗原もそれらに結合することになる。液体試料を除去し、結合していない分子を全て除去するために固体支持体を洗浄する。
【0047】
その後、少なくとも1つの検出抗体を加えるが、その抗体は、ポリクローナルでもモノクローナルでもよい。それは、試験試料由来の抗原に結合する第1の検出抗体、続いて、第1の検出抗体に対して方向づけられた第2の酵素コンジュゲート化検出抗体であり得る。試験試料由来の抗体が固体支持体上の抗原に結合している場合には、酵素コンジュゲートされた第2の検出抗体を、検出のためにすぐに加えてもよい。
【0048】
第2の検出抗体として、通常、試料由来の抗体に対する、または第1の検出抗体に対する特異性を有するIgG免疫グロブリンが用いられる。例えば、第1の検出抗体がウサギ由来である場合には、第2の検出抗体は抗ウサギとなる。この第2の検出抗体は、それにコンジュゲートされた酵素を有する。この目的のためにいくつかの酵素が用いられており、それらには、アルカリホスファターゼ(AP)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、グルコースオキシダーゼ、およびp−ニトロフェニルホスファターゼが挙げられる。市販されているコンジュゲートは、ペルオキシダーゼとのグルタルアルデヒド連結方法を用いて調製されている。しかしながら、二次的な試薬は、抗体の代わりに、ELISA分析に用いるのに適している限り、抗原に特異的に結合し、かつ酵素にコンジュゲートされ得る任意の他の分子に関係してもよい。これは、例えば、フルオロフォアであり得る。
【0049】
抗体を加えた後、および第1の検出抗体の添加と第2の検出抗体の添加の間で、固体支持体を再び、洗浄する。
【0050】
その後、基質溶液を加え、固体支持体をしばらくインキュベートしておく。基質は、酵素に有色の反応産物を生じさせることになる。必要とされる時間は、検出のために選択された酵素および基質の組み合わせに依存する。
【0051】
上記の酵素に有色反応産物を生じさせるために用いられ得る基質は、用いられる酵素に依存して異なる。4−ニトロフェニルリン酸はAPについて一般的に用いられる基質である。HRPに関して一般的に用いられる基質は、5−アミノサリチル酸、3,3’−ジアミノベンジジン、2,2’−アジノビス[3−エチルベンゾチアゾリジン−6−スルホン酸]二アンモニウム塩、o−フェニレンジアミン二塩酸塩、3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジンである。p−ニトロフェニルホスファターゼに関して用いられる基質は、通常、p−ニトロフェニルリン酸二ナトリウムである。
【0052】
必要とされる時間の経過後、停止溶液を加えて反応を停止させる。その後すぐに、有色反応産物の測定を、産物からの透過光の強度、すなわち光学密度を分光光度計により測定することにより検出する。読み取りは、好ましくは、マイクロプレートリーダーで行われる。反応産物の検出は、用いられる酵素および基質に依存して、色素生産性、化学蛍光性、または化学発光性であり得る。
【0053】
基質は市販されており、当業者は、検出抗体にコンジュゲートされた酵素に応じて基質溶液を容易に調製し得る。マイクロプレートリーダーもまた容易に商業的に入手できる。
【0054】
結果の計算:分析に含まれる平均ゼロ標準吸光度を用いて、各ウェルまたはチューブについての平均吸光度を計算する。平均吸光度を、標準曲線において濃度に対してプロットする。
【0055】
本発明者らは、抗原検出剤として第1の検出抗体がマイクロプレート上に固定化されている標準ELISAを構築した(図1A参照)。用いられる第1の検出抗体は、ヒト血漿由来α1−酸性糖タンパク質(AGP)に対して方向づけられた抗体であった。その後、固体支持体を患者血漿試料とインキュベートした。その時、患者血漿試料中に存在する任意のα1−酸性糖タンパク質が第1の検出抗体に結合している。その後、ビオチンとコンジュゲートされた1価フコース結合性ペプチドを加える。ビオチンコンジュゲート化フコース結合性ペプチドは、検出のためのTris緩衝液中の、酵素としてのアルカリホスファターゼに連結されたストレプトアビジンおよびpNPP基質を用いて、フコシル化されている任意のAGPに結合し、これを検出する(図1A参照)。
【0056】
しかしながら、この標準ELISAは、満足なシグナル対バックグラウンド比を示さなかった。
【0057】
したがって、本発明者らは、本発明による方法を開発し、それらのうち、1つの好ましい実施形態が図1Bの上部パネルに模式的に開示されており、その場合、シグナル対ノイズ比が大幅に改善された。これは、図1Aおよび図1B、それぞれの下部パネルに提供された結果を比較することによりわかる。ヒト血漿由来AGPに対して方向づけられた抗体を固体支持体に固定化する代わりに、S2−ペプチドを固体支持体上に固定化する。そのようにすることにより、前記支持体を患者血漿試料とインキュベートした場合、フコシル化タンパク質のみが、固体支持体に結合することになる。その後、ヒト血漿由来AGPに対して方向づけられた第1の検出抗体を加え、その結果、第1の検出抗体は、固体支持体上に吸着されているS2−ペプチドに結合した任意のAGPに結合することになる。最後に、S2−ペプチドに結合したAGPを検出することができるように、第1の検出抗体に対して方向づけられたHRPコンジュゲートされた第2の検出抗体を加える。その後、ELISA分析についての標準手順であるように、検出を実施する。このモデルをS2−逆ELISAと呼ぶ。
【0058】
一態様において、本発明は、配列番号3によるアミノ酸配列と88%、94%、または100%などの少なくとも83%同一性を有するアミノ酸配列からなるペプチドが免疫原として用いられることを特徴とする、抗体を産生するための方法に関する。そのような抗体は、ヒトAGPのC末端部分に位置するエピトープに対する特異性を示し、本発明による方法およびキットにおいて第1の検出抗体として有用である。
【0059】
一態様において、本発明はまた、配列番号3によるアミノ酸配列と88%、94%、または100%などの少なくとも83%同一性を有するアミノ酸配列からなるペプチド、および抗体の産生における免疫抗原としてのそれの使用に関する。
【0060】
本出願での方法において産生され、かつ用いられる抗体は、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。
【0061】
モノクローナル抗体は、抗原内の単一のエピトープを認識する抗体の集団を表す。それらは、典型的には、免疫化哺乳動物の単一のB細胞から産生され、それにより、お互いに同一で、かつ全てが特定の抗原の同じエピトープを認識する、抗体のクローン集団を生じる。モノクローナル抗体の産生は、Kohlerおよび共同研究者らにより最初に報告された18。原則として、この方法は以下のステップを含む。
【0062】
哺乳動物を、関心対象となる抗原で免疫化し、その結果、哺乳動物は、前記抗原に対して抗体を発生する。これに続いて、免疫応答をブーストし、かつ特定の免疫抗原に対する抗体のより高い力価を生じさせるために、2次および3次の注射を行う。哺乳動物は、例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、またはウマであり得る。注射後、血液を脾臓から収集し、抗体産生B細胞を単離する。抗体を採取するためにB細胞を用いることができるが、その欠点は、これらの細胞が有限の寿命をもち、最終的には、抗体の産生を停止することになることである。
【0063】
特定の抗体産生B細胞を骨髄腫細胞と融合させることにより、ハイブリドーマ細胞が形成され、したがって、B細胞の限られた寿命を克服することができる。B細胞と骨髄腫細胞の融合は、ポリエチレングリコール、ウイルスを用いることにより、または両方の細胞型を含む細胞培養物のエレクトロポレーションにより行われ得る。融合後、ハイブリドーマの選択を行わなければならない。これは、ヒポキサンチンからのヌクレオチドの合成に関与する酵素である、HGPRT、すなわち、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼを用いることにより行われる。骨髄腫細胞はHGPRT−であり、B細胞はHGPRT+である。HGPRT+細胞のみを維持することができるHAT(ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン)培地中で培養物を成長させる。別の骨髄腫細胞と融合し、または全く融合していない骨髄腫細胞は、それらがHGPRT−であるため、HAT培地において死ぬ。別のB細胞と融合し、または全く融合していないB細胞は、それらが無制限に分裂する能力をもたないため、死ぬ。B細胞と骨髄腫細胞との間でのハイブリドーマのみが、HGPRT+と癌性の両方であるので、生存する。
【0064】
用いられる哺乳動物由来のB細胞の最初の収集物は、不均一であり、すなわち、それらが全て、同じ抗体を産生するわけではない。したがって、ハイブリドーマ集団は、単一の抗体を産生するわけではない。したがって、各ハイブリドーマを培養し、当技術分野内において周知で、かつ当業者によく知られた方法を用いてスクリーニングする。いったん、正しい抗体を産生する、ある特定のハイブリドーマが検出されたならば、その不死化B細胞−骨髄腫ハイブリドーマは、非常に特異的なモノクローナル抗体の一定した供給を提供することができる。モノクローナル抗体は1つのエピトープを認識するだけなので、それらは一般的に、非特異性抗原との交差反応性は低い。
【0065】
ポリクローナル抗体は、1つの単一免疫化動物の免疫応答により活性化されている複数個のB細胞クローンから収集された抗体の集団を表す。伝統的には、ヤギ、ヒツジ、マウス、またはウサギなどの哺乳動物に、一次免疫応答を誘発する、関心対象となる特定の抗原を注射する。これに続いて、その特定の免疫抗原に対する抗体のより高い力価を生じる、二次および三次の注射を行う。抗体を含有する血清を哺乳動物から収集し、典型的には、問題の抗原に対して産生された抗体を濃縮するためにアフィニティ精製する。この工程により、関心対象となる抗原の全てのエピトープに対する高い力価、高い親和性のポリクローナル抗体の産生がもたらされる。ポリクローナル抗体の産生は、例えば、Marlies Leenaarsおよび共同研究者らにより報告されている19
【0066】
実施例
以下の実施例は、本発明をさらに例証するために含まれ、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではなく、本発明の範囲とは、添付された特許請求の範囲の範囲である。
【実施例1】
【0067】
実施例1 標準ELISAと逆ELISAの比較
患者試料
HCCを有する1人の患者および硬変を有する2人の患者由来の血漿試料を、Huddinge、SwedenのKarolinska University Hospitalから入手した。正常対照は、健康な供血者由来の血漿プールであった。陽性対照は、2μg/mlの濃度でのdsAGPであった。
【0068】
抗体の産生
ポリクローナル抗ヒトα1−酸性糖タンパク質抗体058の産生は、Agrisera antibodies(Vannas、Sweden)により行われた。手短に述べれば、ヒトα1−酸性糖タンパク質のC末端アミノ酸183〜201に対応する合成ペプチドがAgriseraによって合成された。そのペプチドを、それの末端システインを介して、マレイミド架橋剤を用いてKLHにコンジュゲートし、ウサギをKLHコンジュゲート化ペプチドで4回、免疫化した。2mLのUltraLinkヨードアセチル樹脂(Pierce、Rockford、IL、USA)に連結された合成ペプチドを用いて、血清から抗AGP抗体を精製した。
【0069】
標準レクチンELISA
マイクロタイタープレート(Maxisorp、Nunc)を、0.05M炭酸−重炭酸塩緩衝液、pH9.6(Medicago)中10μg/mLの抗体058で、4℃で一晩、コーティングした。ウェルを、PBS(Medicago)中3%BSAで1時間、ブロッキングした。プレートを、1%BSAを含有するPBS中1:50に希釈した患者血漿試料を加え、かつ200rpmで振盪しながら1時間、インキュベートする前に、PBS+0.05%Tween 20(PBST)で3回、洗浄した。上記のようにウェルを洗浄した後、1%BSAを含有するPBS中0.25μg/mLでビオチン化S2−ペプチドを加え、室温(RT)で穏やかに振盪しながら1時間、インキュベートした。結合したS2−ペプチドを、アルカリホスファターゼコンジュゲート化ExtravidineおよびpNPP基質(Sigma−Aldrich)を用いて検出した。30分後、結合したS2−ペプチドの量を、VERSAmaxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices Corporation)を用いて490nmで測定した。
【0070】
逆S2−ELISA
マイクロタイタープレート(Maxisorp、Nunc)を、0.05M炭酸−重炭酸塩緩衝液、pH9.6(Medicago)中5μg/mLのS2で、4℃で一晩、コーティングした。ウェルを、PBS(Medicago)中3%BSAで1時間、ブロッキングした。プレートを、1%BSAを含有するPBS中1:50に希釈した患者血漿試料を加え、かつ200rpmで振盪しながら1時間、インキュベートする前に、PBS+0.05%Tween 20(PBST)で3回、洗浄した。上記のようにウェルを洗浄した後、1%BSAを含有するPBS中1μg/mLのウサギ抗ヒトα1−酸性糖タンパク質058を加え、室温(RT)で穏やかに振盪しながら1時間、インキュベートした。結合した抗ヒトα1−酸性糖タンパク質を、西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートされたヤギ抗ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories、West Grove、PA)およびO−フェニレンジアミン二塩酸塩基質(Sigma−Aldrich)を用いて検出した。30分後、25μL/ウェルの1M HSOを添加して、反応を停止させ、結合した抗AGPの量を、VERSAmaxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices Corporation)を用いて490nmで測定した。
【0071】
結果
標準ELISAについての結果は、図1Aに示されており、逆ELISAについては図1Bに示されている。逆ELISAは、標準ELISAと比較してより高いシグナル強度を示した。HCC試料および陽性対照試料に関する標準ELISAにおけるシグナル対バックグラウンド比は、それぞれ、1.05および1.38であり、一方、同じHCC試料および同じ陽性対照に関するシグナル対ノイズ比は、それぞれ、5.1および5.2に改善された(図1)。
【実施例2】
【0072】
実施例2 検出抗体の比較
患者試料
HCCを有する1人の患者、硬変を有する1人の患者、肝炎を有する1人の患者由来の血漿試料、および健康な供血者由来の血漿プール(正常)について分析を実施した。
【0073】
アッセイ
(上記で例示されているような)逆S2−ELISAを用いて、市販の抗AGP抗体をAb−058と比較した。058抗体(図2における試料12)を、以下のリストによるいくつかの市販のポリクローナルまたはモノクローナル抗AGP抗体と比較した。
【0074】
検出抗体
検出用に以下の抗体を用いた。
1.ヒトα1−酸性糖タンパク質抗体(R&D Systems、カタログ番号AF3694)
・供給源:ポリクローナルヤギIgG
・免疫原:ヒト血漿由来α1−酸性糖タンパク質
2.ヒトα1−酸性糖タンパク質抗体(AGP−1/2、Santa Cruz Biotechnology、カタログ番号sc−51018)
・供給源:ポリクローナルヤギIgG
・免疫原:ヒト起源のAGP−1の内部領域内に位置するペプチド
3.ORM 1ポリクローナル抗体、ヒト種およびマウス種(ProteinTech、カタログ番号16439−1−AP)
・供給源:ポリクローナルウサギIgG
・免疫原:Ag9758、オロソムコイド1
4.ORM 2ポリクローナル抗体、ヒト種(ProteinTech、カタログ番号11199−1−AP)
・供給源:ポリクローナルウサギIgG
・免疫原:Ag1667、オロソムコイド2
5.抗−ORM 1/オロソムコイド抗体(LSBio、カタログ番号LS−C292722)
・供給源:ポリクローナルウサギIgG
・免疫原:大腸菌(E.coli)において産生された組換えヒトα1−AGP(アミノ酸19〜201)
6.ヒトα1−酸性糖タンパク質抗体(AGP−1(29A1)、カタログ番号sc−69753)
・供給源:モノクローナルマウスIgG
・免疫原:ヒト起源の精製α1−AGP
7.モノクローナル抗ORM 1抗体、クローン2F9−1F10(Sigma、カタログ番号WH0005004M1−100μg)
・供給源:モノクローナルマウスIgG
・免疫原:ORM 1(AAH26238、アミノ酸18〜アミノ酸202)GST−タグを有する完全長組換えタンパク質
8.ORM 1モノクローナル抗体、ヒト種(ProteinTech、カタログ番号66097−1−Ig)
・供給源:モノクローナルマウスIgG
・免疫原:Ag19248、オロソムコイド1α
9.ヒトα1−酸性糖タンパク質抗体(Thermo Scientific、カタログ番号PA1−9530)
・供給源:ポリクローナルニワトリIgY
・免疫原:ヒトα1−酸性糖タンパク質の残基149〜160および190〜201に対応する合成ペプチドの混合物
10.ヒトα1−酸性糖タンパク質抗体(Sigma、カタログ番号A−0534)
・供給源:ポリクローナルウサギIgG
・免疫原:精製ヒトα1−酸性糖タンパク質
11.ヒトα1−酸性糖タンパク質抗体(Dako、カタログ番号Q0326)
・供給源:ポリクローナルウサギIgG
・免疫原:精製ヒトα1−酸性糖タンパク質
12.ヒトα1−酸性糖タンパク質抗体、アフィニティ精製#058(Agrisera)
・供給源:ポリクローナルウサギIgG
・免疫原:アミノ酸183〜201に対応する合成ペプチドCEP 19
結果
結果は、図2に示されている。これらの結果は、種々の検出抗体が、シグナル対バックグラウンド比、および非HCC試料からHCC試料を区別することにおける性能の点で異なることを示している。058抗体(番号12)およびR&D Systems製のポリクローナルIgG抗体(番号1)のみ、ならびに、より少ない程度ではあるが、Thermo Scientific製のポリクローナルIgY抗体(番号9)もまた、非HCC試料からHCC試料を区別することについての選択性を示すが、他の抗体はそのような選択性を示していない。しかしながら、058抗体は、R&D Systems製のポリクローナルIgG抗体と比較して、若干より良いシグナル対バックグラウンド比を示した。
【0075】
アッセイ番号1、9、および12における一次検出抗体は、AGPの非グリコシル化C末端部分に位置するエピトープに対する親和性を有すると仮定されている。このエピトープは、肝細胞癌を示すグリコシル化パターンを有するAGPがS2−ペプチドに結合している時、結合に利用可能であり得るが、AGPが硬変、肝炎から生じるグリコシル化パターン、またはHCC、硬変、もしくは肝炎に罹っていない個体から生じる正常なグリコシル化パターンを有する場合、同じ程度では利用できない。さらに、試験された抗体のいくつかは、058とは対照的に、高いバックグラウンド染色を示し、それは、抗体が、コーティングされたS2に直接、非特異的に結合することを示しており、それにより、逆S2−ELISAにおけるそれらの使用が制限される。
【実施例3】
【0076】
実施例3 精製AGP試料を用いた逆S2−ELISAの確証
AGPの精製
AGPを、Asaoらによる2段階イオン交換クロマトグラフィー法を用いて、血漿試料から単離した20。1mLの血漿試料を、20mMクエン酸リン酸緩衝液、pH4で平衡化されたHiTrap脱塩カラム(GE Healthcare、Uppsala、Sweden)に適用した。脱塩されたピークを、20mMクエン酸リン酸緩衝液、pH4で平衡化されたHiTrap DEAEカラム(GE Healthcare)に適用した。AGPを含有する画分を、200mM NaClを含有する20mMクエン酸リン酸緩衝液、pH7で溶出し、プールし、20mMクエン酸リン酸緩衝液、pH4で平衡化された、2つの連結されたHiTrap脱塩カラムに適用した。脱塩されたピークを、20mMクエン酸リン酸緩衝液、pH4で平衡化されたHiTrap SPカラム(GE Healthcare)に適用し、AGPを20mMクエン酸リン酸緩衝液、pH4.8で溶出した。溶出された画分を、水に対して透析し、凍結乾燥した。
【0077】
ポリクローナル抗ヒトα1−酸性糖タンパク質058の産生
ポリクローナル抗ヒトα1−酸性糖タンパク質抗体058の産生は、実施例1に記載されているようにAgrisera antibodies(Vannas、Sweden)によって行われた。
【0078】
脱シアリル化AGP(dsAGP)の作製
AGP(1.7mg、Sigma)を、0.3mlの50mM酢酸ナトリウム緩衝液、pH5.5中に溶解した。ノイラミニダーゼ(60mU、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、V型、Sigma)を加え、試料を37℃で4時間、インキュベートした。脱シアリル化AGPを、5mgの固定化抗AGP抗体(DAKO、A0011)を有する5mlカラム(NHS活性化HighTrap、Amersham Biosciences)におけるアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した。クロマトグラフィーを、AKTA Prime装置(GE Healthcare)上で実施した。試料を、PBS、pH7.4(Medicago、Uppsala、Sweden)で1.3mlに希釈し、カラムに注入した。PBSでの20分間の洗浄(流速5ml/分)後、dsAGPを、0.1Mグリシン−HCl緩衝液pH2.5で溶出した。溶出を、260nmでのUV吸光度によりモニターした。陽性画分をプールし、2LのミリQ水の3回の交換に対して透析した。その後、透析されたdsAGPを凍結乾燥した。
【0079】
血漿試料からのS2結合性糖タンパク質およびAAL結合性糖タンパク質の濃縮
S2−ペプチドおよび組換えAALを、EZ−Link Sulfo NH−LCビオチン化キット(Pierce、Rockford、IL、USA)を用いて、製造会社のプロトコールに従ってビオチン化した。1タンパク質試料あたり5モル倍過剰のビオチン試薬をビオチン化に用いた。ビオチン/タンパク質比を、HABA/アビジンアッセイを用いて決定し、1S2分子あたり1ビオチン部分および1AAL分子あたり2ビオチン部分と算出した。EZview Red Streptavidin Affinity Gel(Sigma−Aldrich、Saint Louis、Mo、USA)を用いて、製造会社のプロトコールに従い、血漿試料からS2結合性糖タンパク質およびAAL結合性糖タンパク質を濃縮した。簡単に述べれば、リン酸緩衝食塩水(PBS)、pH7.4(Medicago、Uppsala、Sweden)で平衡化された20μLのEZview Red Streptavidin Affinity Gelを、10μgのS2またはAALと混合し、室温で1時間、インキュベートした。そのレクチンゲルを、1μLの血漿試料を加える前に、PBSで1回、PBS中3%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma−Aldrich)で1回、およびPBSで3回、洗浄した。1時間のインキュベーション後、レクチンゲルを洗浄し、Laemmli試料緩衝液(Bio−Rad、Hercules、CA、USA)と混合した。濃縮された糖タンパク質を、勾配(4〜20%)Mini−protean TGXゲル(Bio−Rad)上、変性条件下で分離し、ウェスタンブロット分析のためにPVDF膜に転写した。膜を、PBS中3%BSAで1時間、ブロッキングし、PBS中3%BSAにおける1μg/mLのウサギ抗ヒトα1−酸性糖タンパク質058とインキュベートし、続いて、PBS中1%BSAにおいて1:20000希釈されたヤギ抗ウサギIgG HRPコンジュゲート化抗体とインキュベートした。ECL基質(GE Healthcare、Buckinghamshire、UK)を、濃縮されたAGPの検出に用いた。
【0080】
逆S2−ELISA
マイクロタイタープレート(Maxisorp、Nunc)を、0.05M炭酸−重炭酸塩緩衝液、pH9.6(Medicago)中5μg/mLのS2−ペプチドで、4℃で一晩、コーティングした。ウェルを、PBS(Medicago)中3%BSAで1時間、ブロッキングした。プレートを、1%BSAを含有するPBS中に希釈した精製AGP試料を加え、かつ200rpmで振盪しながら1時間、インキュベートする前に、PBS+0.05%Tween 20(PBST)で3回、洗浄した。上記のようにウェルを洗浄した後、PBS中1%BSAにおける1μg/mLのウサギ抗ヒトα1−酸性糖タンパク質058を加え、室温(RT)で穏やかに振盪しながら1時間、インキュベートした。結合した抗ヒトα1−酸性糖タンパク質を、西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲートされたヤギ抗ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories、West Grove、PA)およびO−フェニレンジアミン二塩酸塩基質(Sigma−Aldrich)を用いて検出した。30分後、25μL/ウェルの1M HSOを添加して、反応を停止させ、結合した抗AGPの量を、VERSAmaxマイクロプレートリーダー(Molecular Devices Corporation)を用いて490nmで測定した。
【0081】
結果
上記のように、組換え完全長ヒイロチャワンタケ(Aleuria aurantia)レクチン(AAL)をアガロースビーズに結合させ、それを用いて、HCCを有する4人の患者、硬変を有する4人の患者、慢性肝炎を有する2人の患者由来の血漿試料、および正常血漿のプール由来の血漿試料においてフコシル化グリコフォームを捕獲した。捕獲された糖タンパク質を、抗体058を用いるウェスタンブロットにより分析した。
【0082】
全ての患者試料および正常対照においてAGPが検出された。しかしながら、肝炎試料および正常対照と比較して、HCC患者由来の試料および硬変試料においてより多くのAAL結合AGPが検出された。硬変試料とHCC試料との間において、AAL結合AGPの量の間で目に見える差はなかった(図3、上部パネル)。
【0083】
同じ試料から血漿糖タンパク質を濃縮するためにS2−ペプチドを用いた場合、正常試料および肝炎試料において目に見えるAGP染色はほとんどなく、または全くなかった。さらに、天然AALとは対照的に、S2は、硬変試料と比較してHCC試料においてより多くのAGPを結合した。硬変試料は、S2結合AGPの染色を全く示さず、またはわずかに示したが、HCC患者由来の全ての試料は、S2結合AGPの染色を示し、それは、S2がHCCグリコシル化に対してより特異的であり得ることを示している(図3、下部パネル)。
【0084】
HCCを有する1人の患者、硬変を有する1人の患者から、および正常プールから、上記のようにAGPを精製し、逆S2−ELISAを用いて、AGPの結合を測定した。上記のように、マイクロタイターウェルをS2−ペプチドでコーティングし、058抗体を用いて、増加濃度の精製AGP試料を測定した。
【0085】
全ての3つの試料からのシグナルにおいて用量依存的増加があった。しかしながら、正常プールから単離されたAGPは、レクチン沈降データと一致して、逆S2−ELISAにおいて非常に低い吸光度値を示した。硬変患者由来の試料は、中間の吸光度値を示し、一方、HCC患者から精製されたAGP(HCC−AGP)は、高い吸光度値を示した。したがって、その分析は、逆S2−ELISAが、異なる試料間でグリコシル化の違いを特異的に検出し得ることを示した(図4A)。
【0086】
マトリックス効果を評価するために精製HCC−AGPを添加した正常血漿試料を用いて、逆S2−ELISAをさらに確証した。正常血漿試料の1:50の血漿希釈溶液を用いると、バックグラウンドシグナルは、血漿がアッセイから取り除かれた対照試料と同じであった(OD=0.2)。これは、正常血漿試料由来のAGPがS2−ペプチドに本質的に結合しなかったことを示す。HCC−AGPの正常血漿試料への増加濃度での添加は、加えられた血漿がない試料に関して見られた吸光度の増加に相関する、吸光度の用量依存的増加を示した。これは、S2結合AGPの増加が血漿試料において正確に測定できたことを示している(図4B)。
【0087】
逆レクチンアッセイにおいてS2のコーティング濃度、ならびに第1および第2の検出抗体の希釈度を最適化するために、異なるコーティング濃度および抗体濃度を用いて、HCC血漿試料および正常試料(バックグラウンド)について吸光度値を測定した。5μg/mlのS2のコーティング濃度、1:200の第1検出抗体濃度、および1:40000の第2検出抗体濃度が、10を超える最適なシグナル対バックグラウンド比を示すことが見出された(データ未呈示)。
【0088】
脱シアリル化型のAGP(dsAGP)を用いて標準曲線を構築した。正常なシアリル化型のAGPとは対照的に、S2は、dsAGP上の露出した末端Le構造に対する親和性を有することになる。dsAGPは、患者試料におけるS2結合型のAGPを反映していないが、それは、逆レクチンアッセイにおいて得られる吸光度値を関連づけるために用いることができる(図4C)。
【0089】
アッセイのアッセイ内精度を、同じプレート(96ウェル)上のdsAGP試料の反復分析により決定した。アッセイ内変動の変動係数(CV)は1.2%であった(未呈示)。
【0090】
アッセイ間変動性を、3つの異なるプレート上で中間の吸光度値および高い吸光度値をもつ2つのHCC試料を分析することにより決定した。HCCについてのCV(中間)およびHCCについてのCV(高い)は、それぞれ、2.8%および5.0%であった(未呈示)。
【実施例4】
【0091】
実施例4 患者試料を用いた逆S2−ELISAの確証
患者試料
肝硬変を有する32人の患者由来の血漿試料、HCCを有する28人の患者由来の血漿試料、および慢性肝炎を有する32人の患者由来の血漿試料が本研究に含まれた。全ての含まれたHCC試料は、処置前(1ヶ月間未満のソラフェニブ処置)に収集された。HCC試料のうちの5つは再発性HCCを有する患者由来であった。肝硬変を有する患者のいずれも、試料採取から6ヶ月後、HCCのいかなる徴候も示さなかった。肝炎を有する患者は非硬変性と決定された。肝臓疾患の徴候がない供血者由来の血清のプールからなる正常試料は、対照として用いられた。
【0092】
全ての患者から書面による同意が得られ、本研究はLinkoping UniversityおよびKarolinska Institutetにおける倫理委員会によって認可された。
【0093】
逆S2−ELISA
1%BSAを含有するPBS中1:50に希釈された血漿試料を用いて、上記のように逆S2−ELISAを実施した。
【0094】
総AFPおよび総AGPの分析
総AFP濃度は、Linkoping University Hospitalの臨床ルーチン検査室においてCOBAS e602アナライザー(Roche Diagnostics、Rotkreuz、Switzerland)で決定され、総AGP濃度は、Kalmar County Hospitalの臨床ルーチン検査室においてBN ProSpecシステム(Siemens、Erlangen、Germany)で決定された。
【0095】
統計解析
全統計解析を、IBM SPSS 23を用いて実施した。群間の統計的有意差を、ANOVAにおいてチューキーの多重比較検定を用いて決定した。2項ロジスティック回帰分析を用いて、複数のマーカーの組み合わせを評価した。0.05未満のp値を、統計学的に有意であると定義した。受診者動作特性(ROC)曲線および列散布図を、GraphPad Prism 5(La Jolla、CA)で作成した。
【0096】
結果
逆S2−ELISAを用いて、肝炎患者、硬変患者、およびHCC患者由来の患者血清においてS2結合AGPを決定した。肝炎患者(p=0.001)および硬変患者(p=0.005)の両方の由来の血漿と比較して、HCC患者由来の血漿においてS2結合AGPの有意な増加があった。硬変患者を肝炎患者と比較した場合、S2結合AGPのレベルにおいて有意な増加はなかった(図5A)。
【0097】
逆S2−ELISA設定において、患者試料におけるAGPの濃度の変化が、検出されるグリコシル化変化に影響を及ぼす可能性があった。したがって、AGPの濃度を全試料において測定した。AGP濃度は0.3mg/mlから3.9mg/mlまでの変動を示した。HCC試料と肝炎試料との間(p=0.008)およびHCC試料と硬変試料との間(p=0.02)でAGP濃度の有意な増加があったが、硬変患者と肝炎患者との間でAGP濃度の有意な差はなかった(図5B)。しかしながら、S2結合AGPシグナルとAGP濃度の間に相関はなく(図6)、AGPの濃度差が逆S2−ELISAの診断性能に影響しなかったことを示している。
【0098】
比較のために、AFPのレベルもまた試料において測定した。AFPの平均値は、硬変を有する患者および肝炎を有する患者、それぞれにおける4ng/mlおよび6ng/mlと比較して、HCCを有する患者において5581ng/mlであった。しかしながら、これらの差は有意であるとは認められなかった(p=0.1、図5C)。
【0099】
各マーカーの異なる患者集団間を区別する全体的性能を決定するために、受診者動作特性(ROC)分析を実施した。HCCを肝炎から区別する場合、S2結合AGPについての曲線下面積(AUC)は0.94であった。HCCの硬変からの区別は、0.77のAUCを示した(表1)。AFPはS2結合AGPと類似した性能をもち、HCCと硬変の区別については0.77のAUC、およびHCCと肝炎の区別については0.82のAUCであった(表1)。AGP濃度のROC分析により、AGP濃度単独では、HCCを肝炎から区別すること(AUC 0.66)、およびHCCを硬変から区別すること(AUC 0.65)の性能が弱かった。
【0100】
HCC患者を硬変患者と比較した場合、S2結合AGP、総AFP、および総AGPのいずれの平均値も増加があったので、これらのマーカーの性能を、ロジスティック回帰分析を用いる任意の2つまたは3つ全てのマーカーの組み合わせを用いてさらに分析した。全ての3つのマーカーの組み合わせが最も優れた区別を示し、HCCと硬変との間での区別について0.86のAUC、およびHCCと肝炎との間の区別について0.95のAUCであった(表1)。S2結合AGPとAFPの組み合わせおよびS2結合AGPとAGPの組み合わせもまた、単独で用いられるマーカーのどれよりも良い性能を示した(表1)。
【0101】
【表1】
参考文献
【要約】
【課題】試料においてフコシル化α1−酸性糖タンパク質(AGP)を検出するための方法を提供する。
【解決手段】本発明は、固相に固定化された、配列番号1によるアミノ酸を有するペプチドと85%、90%、95%、99%、または100%同一性などの少なくとも80%同一性を有する1価フコース結合性ペプチドを供給するステップ;試料を固定化フコース結合性ペプチドと接触させるステップ;および前記フコース結合性ペプチドに結合した任意のフコシル化AGPを検出するステップを含む、試料においてフコシル化α1−酸性糖タンパク質(AGP)を検出するための方法に関する。本発明はさらに、ヒト個体が肝細胞癌を患うリスクを評価するための方法、ならびに本発明による方法において有用な部品および抗体のキット、ならびにそのような抗体の産生において免疫抗原として有用なペプチドに関する。
【選択図】図1B
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]