【文献】
Organic Process Research & Development,1998, Vol.2, No.3,p.151-156
【文献】
Bioorganic & Medicinal Chemistry,2012, Vol.20, No.3,p.1213-1221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、抗ウイルス剤を提供することを課題とする。さらには、1種の有効成分により、抗ウイルス作用のみならず、細菌、真菌等の微生物に対する抗微生物作用をも発揮することが可能な、抗ウイルス剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、細菌、真菌等の微生物に対する抗微生物作用を有することが知られているイソチアゾリン系化合物が、抗ウイルス作用をも有することを見出した。本発明者はこのような知見に基づき、さらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する:
項1. 一般式(1):
【0009】
【化1】
【0010】
[式中、R
1は水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。R
2及びR
3は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基を示す。R
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、置換されていてもよい炭素環を形成していてもよい。]
で表される化合物又はその塩を含有する、抗ウイルス剤.
項2. 前記R
1が炭素原子数1〜20のアルキル基であり、且つ前記R
2及び前記R
3が同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子である(ただし、R
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、ベンゼン環を形成していてもよい)、項1に記載の抗ウイルス剤.
項3. 前記R
1が炭素原子数4〜12のアルキル基であり、項2に記載の抗ウイルス剤.
項4. 前記R
1が炭素原子数8のアルキル基であり、且つ前記R
2及び前記R
3が同一又は異なって、水素原子、又は塩素原子である、項1〜3のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【0011】
項5. 前記化合物が2-ブチル-1,2ベンゾチアゾリン-3(2H)-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、及び2-n-ドデシル-4-イソチアゾリン-3-オンからなる群より選択される少なくとも1種の化合物である、項1〜3のいずれかに記載の抗ウイルス剤.
項6. 対象ウイルスがエンベロープウイルスである、項1〜5のいずれかに記載の抗ウイルス剤.
項7. 対象ウイルスがインフルエンザウイルスである、項1〜6のいずれかに記載の抗ウイルス剤.
項8. 抗ウイルス剤の製造のための、一般式(1):
【0012】
【化2】
【0013】
[式中、R
1は水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。R
2及びR
3は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基を示す。R
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、置換されていてもよい炭素環を形成していてもよい。]
で表される化合物又はその塩の使用.
項9. 抗ウイルス剤としての使用のための、一般式(1):
【0014】
【化3】
【0015】
[式中、R
1は水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。R
2及びR
3は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基を示す。R
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、置換されていてもよい炭素環を形成していてもよい。]
で表される化合物又はその塩.
項10. 一般式(1):
【0016】
【化4】
【0017】
[式中、R
1は水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。R
2及びR
3は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基を示す。R
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、置換されていてもよい炭素環を形成していてもよい。]
で表される化合物又はその塩を、物品に配合すること、又は物品表面にコーティングすることを含む、物品を抗ウイルス加工する方法.
項11. 一般式(1):
【0018】
【化5】
【0019】
[式中、R
1は水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。R
2及びR
3は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基を示す。R
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、置換されていてもよい炭素環を形成していてもよい。]
で表される化合物又はその塩を、物品に配合すること、又は物品表面にコーティングすることを含む、抗ウイルス加工された物品を製造する方法.
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、抗ウイルス剤を提供することができる。より好ましい態様においては1種の有効成分により、抗ウイルス作用のみならず、細菌、真菌等の微生物に対する抗微生物作用をも発揮することが可能な、抗ウイルス剤を提供することができる。
【0021】
本発明の抗ウイルス剤を、物品(例えばウイルスが付着し得る物品)に配合すること、又は物品表面にコーティングすることにより、該物品に抗ウイルス性を付与することができる。これにより、物品を介したウイルス伝播を抑制することができ、ひいてはウイルス感染症の拡大を防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0023】
本発明は、その一態様として、イソチアゾリン系化合物又はその塩を含有する、抗ウイルス剤(本明細書において、「本発明の抗ウイルス剤」と示すこともある。)に関する。以下、これについて説明する。
【0024】
イソチアゾリン系化合物としては、具体的には、一般式(1):
【0026】
[式中、R
1は水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。R
2及びR
3は同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、又は炭化水素基を示す。R
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、置換されていてもよい炭素環を形成していてもよい。]
で表される化合物が挙げられる。
【0027】
一般式(1)において、R
1で示される炭化水素基は、特に制限されず、直鎖状、分枝鎖状、環状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状又は分枝鎖状、より好ましくは直鎖状である。該炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば0以上であり、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは4以上であり、よりさらに好ましくは7以上であり、また、例えば20以下であり、好ましくは16以下であり、より好ましくは12以下であり、さらに好ましくは10以下であり、よりさらに好ましくは9以下である。該炭素原子数の範囲は、例えば0〜20、好ましくは1〜16、より好ましくは1〜12、さらに好ましくは3〜10、よりさらに好ましくは4〜12、とりわけ好ましくは7〜9である。該炭化水素基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられ、好ましくはアルキル基、シクロアルキル基が挙げられ、より好ましくはアルキル基が挙げられる。
【0028】
一般式(1)において、R
1で示されるアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状である。該アルキル基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば0以上であり、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、さらに好ましくは4以上であり、よりさらに好ましくは7以上であり、また、例えば20以下であり、好ましくは16以下であり、より好ましくは12以下であり、さらに好ましくは10以下であり、よりさらに好ましくは9以下である。該炭素原子数の範囲は、例えば0〜20、好ましくは1〜16、より好ましくは1〜12、さらに好ましくは3〜10、よりさらに好ましくは4〜12、とりわけ好ましくは7〜9である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、3−メチルペンチル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
【0029】
一般式(1)において、R
1で示されるアルケニル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状である。該アルケニル基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば2以上であり、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上であり、さらに好ましくは7以上であり、また、例えば20以下であり、好ましくは16以下であり、より好ましくは12以下であり、さらに好ましくは10以下であり、よりさらに好ましくは9以下である。該炭素原子数の範囲は、例えば2〜20、好ましくは2〜16、より好ましくは2〜12、さらに好ましくは4〜12、よりさらに好ましくは5〜10、とりわけ好ましくは7〜9である。該アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基等が挙げられる。
【0030】
一般式(1)において、R
1で示されるアルキニル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状である。該アルキニル基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば2以上であり、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上であり、さらに好ましくは7以上であり、また、例えば20以下であり、好ましくは16以下であり、より好ましくは12以下であり、さらに好ましくは10以下であり、よりさらに好ましくは9以下である。該炭素原子数の範囲は、例えば2〜20、好ましくは2〜16、より好ましくは2〜12、さらに好ましくは4〜12、よりさらに好ましくは5〜10、とりわけ好ましくは7〜9である。該アルキニル基の具体例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基等が挙げられる。
【0031】
一般式(1)において、R
1で示されるシクロアルキル基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば3以上であり、また、例えば10以下であり、好ましくは8以下である。該炭素原子数の範囲は、例えば3〜10、好ましくは3〜8である。該シクロアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基等が挙げられる。
【0032】
一般式(1)において、R
1で示されるアリール基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば6以上であり、また、例えば10以下であり、好ましくは8以下である。該炭素原子数の範囲は、例えば6〜10、好ましくは6〜8である。該アリール基の具体例としては、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0033】
一般式(1)において、R
1で示される炭化水素基は置換されていてもよい。該炭化水素基の置換基としては、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、シアノ基、アミノ基、カルボキシ基、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素原子数1〜4のアルコキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基等の炭素原子数1〜4のアルキルチオ基等)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)等が挙げられ、好ましくはハロゲン原子、アルコキシ基が挙げられる。該炭化水素基の置換基の数は、例えば0〜5個、好ましくは0〜3個、より好ましくは0〜1個、さらに好ましくは0個である。
【0034】
一般式(1)において、R
1としては、好ましくは水素原子、置換されていてもよい炭化水素基が挙げられ、より好ましくは置換されていてもよい炭化水素基が挙げられ、さらに好ましくは非置換炭化水素基が挙げられる。
【0035】
一般式(1)において、R
2又はR
3で示されるハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等挙げられ、好ましくは塩素原子が挙げられる。
【0036】
一般式(1)において、R
2又はR
3で示される炭化水素基は、特に制限されず、直鎖状、分枝鎖状、環状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状又は分枝鎖状、より好ましくは直鎖状である。該炭化水素基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば1〜6、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2、さらに好ましくは1である。該炭化水素基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられ、好ましくはアルキル基が挙げられる。
【0037】
一般式(1)において、R
2又はR
3示されるアルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状である。該アルキル基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば1〜6、好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2、さらに好ましくは1である。該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、3−メチルペンチル基等が挙げられる。
【0038】
一般式(1)において、R
2又はR
3で示されるアルケニル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状である。該アルケニル基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば2〜6、好ましくは2〜4、より好ましくは2である。該アルケニル基の具体例としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等が挙げられる。
【0039】
一般式(1)において、R
2又はR
3で示されるアルキニル基は、直鎖状又は分枝鎖状のいずれでもよいが、好ましくは直鎖状である。該アルキニル基の炭素原子数は、特に制限されないが、例えば2〜6、好ましくは2〜4、より好ましくは2である。該アルキニル基の具体例としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等が挙げられる。
【0040】
一般式(1)において、R
2及び/又はR
3としては、好ましくは水素原子、ハロゲン原子が挙げられる。R
2及びR
3の好ましい組み合わせとしては、例えばR
2及びR
3が共に水素原子である組み合わせ、R
2及びR
3の内、いずれか一方が水素原子であり他方がハロゲン原子である組み合わせ、R
2及びR
3が共にハロゲン原子である組み合わせ等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくは、R
2及びR
3が共に水素原子である組み合わせが挙げられる。
【0041】
一般式(1)において、「R
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、置換されていてもよい炭素環を形成」するとは、例えば炭素環がベンゼン環である場合であれば、一般式(1)で表される化合物が、一般式(1’):
【0043】
[式中、R
1は前記に同じである。R
4は置換基を示す。]
で表される化合物であることを意味する。
【0044】
炭素環としては、ベンゼン環以外にも、R
2及びR
3が互いに結合して、二価の炭化水素基となることにより形成される環も挙げられる。二価の炭化水素基としては、例えばメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基等の炭素原子数1〜4の炭化水素基が挙げられ、好ましくはトリメチレン基が挙げられる。
【0045】
R
4(炭素環が有していてもよい置換基)としては、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、シアノ基、アミノ基、カルボキシ基、アルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素原子数1〜4のアルコキシ基等)、アリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、アルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基等の炭素原子数1〜4のアルキルチオ基等)、アリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)等が挙げられ、好ましくはハロゲン原子、アルキル基が挙げられる。
【0046】
nは整数であり、例えば0〜4個、好ましくは0〜2個、より好ましくは0〜1個、さらに好ましくは0個である。
【0047】
一般式(1)の好ましい態様としては、R
1が置換されていてもよいアルキル基であり、且つR
2及びR
3が同一又は異なって、水素原子、ハロゲン原子、又はアルキル基であるか、又はR
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、炭素環を形成していてもよい態様が挙げられる。
【0048】
一般式(1)のより好ましい態様としては、R
1が置換されていてもよいアルキル基であり、且つR
2及びR
3が同一又は異なって、水素原子、又はハロゲン原子であるか、又はR
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、ベンゼン環を形成していてもよい態様が挙げられる。
【0049】
一般式(1)のさらに好ましい態様としては、R
1が炭素原子数1〜20のアルキル基であり、且つR
2及びR
3が同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子であるか、又はR
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、ベンゼン環を形成していてもよい態様が挙げられる。
【0050】
一般式(1)のよりさらに好ましい態様としては、R
1が炭素原子数1〜12のアルキル基であり、且つR
2及びR
3が同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子であるか、又はR
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、ベンゼン環を形成していてもよい態様が挙げられる。
【0051】
一般式(1)の特に好ましい態様としては、R
1が炭素原子数4〜12のアルキル基であり、且つR
2及びR
3が同一又は異なって、水素原子又はハロゲン原子であるか、又はR
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、ベンゼン環を形成していてもよい態様が挙げられる。
【0052】
一般式(1)のより特に好ましい態様としては、R
1が炭素原子数4〜10のアルキル基であり、且つR
2及びR
3が同一又は異なって、水素原子であるか、又はR
2及びR
3は互いに結合して、それぞれに隣接する炭素原子と共に、ベンゼン環を形成していてもよい態様が挙げられる。
【0053】
一般式(1)のより格別特に好ましい態様としては、R
1が炭素原子数7〜9のアルキル基であり、且つR
2及びR
3が共に水素原子である態様が挙げられる。
【0054】
一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブチル-1,2ベンゾチアゾリン-3(2H)-オン、2-n-ドデシル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-シクロヘキシル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3(2H)-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-エチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4,5-トリメチレン-4-イソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。これらの内、好ましくは2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブチル-1,2ベンゾチアゾリン-3(2H)-オン、2-n-ドデシル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、4,5-ジクロロ-2-シクロヘキシル-4-イソチアゾリン-3-オンが挙げられ、より好ましくは2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブチル-1,2ベンゾチアゾリン-3(2H)-オン、2-n-ドデシル-4-イソチアゾリン-3-オンが挙げられ、さらに好ましくは2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブチル-1,2ベンゾチアゾリン-3(2H)-オンが挙げられ、よりさらに好ましくは2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンが挙げられる。
【0055】
イソチアゾリン系化合物の塩は、特に制限されるものではない。該塩としては、酸性塩、塩基性塩のいずれも採用することができる。酸性塩の例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩; 酢酸塩、プロピオン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩等の有機酸塩が挙げられ、塩基性塩の例としては、ナトリウム塩、及びカリウム塩等のアルカリ金属塩; 並びにカルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩; アンモニアとの塩; モルホリン、ピペリジン、ピロリジン、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノ(ヒドロキシアルキル)アミン、ジ(ヒドロキシアルキル)アミン、トリ(ヒドロキシアルキル)アミン等の有機アミンとの塩等が挙げられる。
【0056】
イソチアゾリン系化合物又はその塩は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒としては、例えば、水や、各種有機溶媒(例えばエタノール、グリセロール、酢酸等)等が挙げられる。
【0057】
イソチアゾリン系化合物又はその塩は、1種単独で用いることもできるし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0058】
一般式(1)で表される化合物に代表されるイソチアゾリン系化合物は、公知の方法に従って又は準じて製造することもできるし、各種市販されているものから得ることもできるし、それを出発材料として公知の方法に従って又は準じて誘導体化して得ることもできる。
【0059】
イソチアゾリン系化合物は、抗ウイルス作用を有するので、イソチアゾリン系化合物又はその塩は、抗ウイルス剤の有効成分として、好適に使用することができる。なお、本明細書において、「抗ウイルス」には、ウイルスの増殖を抑制すること、ウイルスを殺すこと、ウイルスの感染性を低減すること等が包含される。
【0060】
本発明の抗ウイルス剤の対象ウイルスとしては、特に制限されないが、例えばインフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、風疹ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、SARSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルス等のエンベロープウイルス(エンベロープを有するウイルス); アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルス等の非エンベロープウイルス(エンベロープを有さないウイルス)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはエンベロープウイルスが挙げられ、より好ましくはインフルエンザウイルスが挙げられる。
【0061】
本発明の抗ウイルス剤の剤形は特に制限されず、その用途に応じて適宜選択することができる。剤形としては、例えば液剤、乳剤、懸濁剤、分散剤、エアゾール剤等の液剤; 水和剤、粉剤、粒剤、微粒剤、フロアブル剤等の固形又は半固形剤等が挙げられる。
【0062】
本発明の抗ウイルス剤は、イソチアゾリン系化合物又はその塩のみからなる物であってもよいが、その目的、用途等に応じて、抗ウイルス活性及び安定性に影響を与えない範囲で、公知の添加剤、例えば、イソチアゾリン系化合物及びその塩以外の微生物防除剤(抗菌剤、殺菌剤、防腐剤、防藻剤、防カビ剤等)、他の抗ウイルス剤の他、溶媒、バインダー、担体、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増粘剤、保湿剤、着色料、香料、キレート剤、酸化防止剤、光安定剤、消泡剤等の、広く一般に製剤化に用いられる添加剤を添加することができる。なお、本発明の抗ウイルス剤は、その有効成分が、抗ウイルス作用のみならず、微生物防除作用をも有する点で優れている。この観点から、本発明の抗ウイルス剤は、イソチアゾリン系化合物及びその塩以外の微生物防除剤を含まなくとも、微生物防除作用を発揮することが可能であるが、用途等に応じて、他の微生物防除剤を添加してもよい。
【0063】
他の微生物防除剤として、より具体的には、例えば、ベンゾイミダゾール系化合物、トリアゾール系化合物、ニトロアルコール系化合物、ジチオール系化合物、チオフェン系化合物、ハロアセチレン系化合物、フタルイミド系化合物、ハロアルキルチオ系化合物、フェニルウレア系化合物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、四級アンモニウム塩系化合物等が挙げられる。
【0064】
本発明の抗ウイルス剤における、有効成分であるイソチアゾリン系化合物又はその塩の含有量は、特に制限されないが、例えば0.0001〜100重量%、好ましくは0.001〜50重量%とすることができる。
【0065】
本発明の抗ウイルス剤は、抗ウイルス性を要する各種分野において広く使用することができる。本発明の抗ウイルス剤は、例えば工業、洗浄、医療、食品等の各種分野において使用することができる。
【0066】
本発明の抗ウイルス剤のより具体的な使用態様としては、例えば物品に配合する態様、物品表面にコーティングする態様等が挙げられる。これにより、物品を抗ウイルス加工することができる。すなわち、物品に既に付着しているウイルスに対して抗ウイルス効果を発揮し、これから物品に付着するウイルスに対して抗ウイルス効果を発揮し、さらには該物品にこれから接触する他の物品に既に付着しているウイルスやこれから付着するウイルスに対して抗ウイルス効果を発揮することができる。
【0067】
物品としては、各種分野において用いられている工業製品やその原材料が挙げられる。工業製品の具体例としては、塗料、接着剤、合成ゴムラテックス、インキ、ポリビニルアルコールフィルム、塩化ビニルフィルム、樹脂製品、石膏ボード、屋根材、壁材、床材、建具、塗工紙、壁紙、フロア外張り、OA機器、家電、空調機器、掃除機、机、椅子、ソファー、ベンチ、窓、つり革、ハンドル、シート、自動改札機、自動券売機、自動販売機、扉、柵、手摺、食器、調理用具、包装フィルム、包装袋、瓶、ボトル、包装パック、シンク、便器、文房具、書籍、棚、歯ブラシ、鏡、フィルター、マスク、コート、ジャケット、ズボン、スカート、ワイシャツ、ニットシャツ、ブラウス、セーター、カーディガン、ナイトウエア、肌着、下着、オムツ、サポーター、靴下、タイツ、ストッキング、帽子、スカーフ、マフラー、襟巻き、ストール、手袋、服の裏地、服の芯地、服の中綿、作業着、ユニフォーム、学童用制服等の衣料、カーテン、アミ戸、布団地、布団綿、布団カバー、枕カバー、シーツ、マット、カーペット、タオル、ハンカチ、壁布、バンドエイド、包帯等、さらにはこれらの複合材料等が挙げられる。
【0068】
「物品に配合する」とは、物品中にイソチアゾリン系化合物又はその塩が含まれるような態様(好ましくは、物品の表面にイソチアゾリン系化合物又はその塩が存在するような態様)である限り特に限定されず、物品の種類に応じて適宜選択することができる。配合の態様は、例えば物品に混合する、物品の製造工程において練り込む、物品(例えば繊維の集積体からなる物品等)に含浸させる等の態様が挙げられる。
【0069】
「物品表面にコーティングする」とは、物品の表面にイソチアゾリン系化合物又はその塩が存在するような態様である限り特に限定されず、物品の種類に応じて適宜選択することができる。コーティングの態様は、例えば物品表面に塗布する、物品表面に噴霧する、物品表面を浸漬する等の態様が挙げられる。なお、コーティングの態様には、物品の表面にイソチアゾリン系化合物又はその塩が固定される態様、固定されない態様のいずれも包含される。
【0070】
本発明の抗ウイルス剤の適用量は、その使用態様、適用対象物品の種類、抗ウイルス効果を期待する期間等に応じて、適宜選択することができる。例えば、工業製品に配合する場合、工業製品1 kgあたりに対し、有効成分(イソチアゾリン系化合物又はその塩)の量として10〜50000 mgとなるように配合することができる。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0072】
実施例1
2-n-オクチル-4 -イソチアゾリン-3-オン(OIT)を、1.1%メチルカルビトール水溶液を用いて0.1 w/v%に希釈した。得られた希釈液を試験サンプル液とした。
【0073】
実施例2
2-ブチル-1,2ベンゾチアゾリン-3(2H)-オン(B-BIT)を、1.1%メチルカルビトール水溶液を用いて0.1 w/v%に希釈した。得られた希釈液を試験サンプル液とした。
【0074】
比較例1
1.1%メチルカルビトール水溶液を調製し、試験サンプル液とした。
【0075】
比較例2
2-(メトキシカルボニルアミノ)ベンズイミダゾール(MBC)を、1.1%メチルカルビトール水溶液を用いて0.1 w/v%に希釈した。得られた希釈液を試験サンプル液とした。
【0076】
試験例(抗ウイルス性の評価)
ウイルスとしてインフルエンザウイルス(H3N2)を用いて、試験ウイルス懸濁液(4〜6×10
4 PFU/mL)を調製した。この試験ウイルス懸濁液1 mLを試験サンプル液9 mLと混合し、得られた混合液を25℃で1時間放置した。放置後の混合液0.5 mLを薬剤不活化剤(SCDLP液体培地)に加え混合した。不活化後の混合液0.1mLをEMEM 0.9 mLと混合して試験液を調製し、該試験液を用いて、プラーク測定法によってウイルス感染価を測定した。一方で、コントロールとして、試験サンプル液との混合前の試験ウイルス懸濁液を用いて、同様にウイルス感染価を測定した。ウイルス感染価に基づいて、以下の式により、抗ウイルス活性値(Mv)を算出した。
【0077】
【数1】
【0078】
結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示されるように、イソチアゾリン系化合物であるOIT又はB-BITを含む試験サンプル液(実施例1及び2)は抗ウイルス活性を示した。中でも、OITを含む試験サンプル液(実施例1)の抗ウイルス活性値は、4.0を超える非常に高い値であった。このことは、実施例1の試験サンプル液で処理することにより、ウイルス感染価が1/10000以下になったことを意味する。以上より、イソチアゾリン系化合物が抗ウイルス活性を有することが示された。
【0081】
一方、OITと同じく防カビ効果を有することが知られているMBC(比較例2)は抗ウイルス活性値が0であった。このことは、ウイルス感染価において10000倍以上の差があることを意味する。以上より、イソチアゾリン系化合物が示す抗ウイルス効果は、防カビ作用を有する他の化合物に比べて、際立って優れたものであることが示された。