特許第6189550号(P6189550)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6189550
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】太陽電池パネルの検査装置
(51)【国際特許分類】
   H02S 50/10 20140101AFI20170821BHJP
   G01R 31/26 20140101ALI20170821BHJP
【FI】
   H02S50/10
   G01R31/26 F
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-556905(P2016-556905)
(86)(22)【出願日】2016年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2016063322
【審査請求日】2016年9月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593207765
【氏名又は名称】株式会社アイテス
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】池田 輝雄
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/163329(WO,A1)
【文献】 特開2012−256771(JP,A)
【文献】 特開平11−231012(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/087390(WO,A1)
【文献】 特表2013−527613(JP,A)
【文献】 特開2014−165232(JP,A)
【文献】 特開2007−165438(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0101650(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02S 10/00−99/00
G01R 31/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非通電状態にある太陽電池パネルを検査する太陽電池パネルの検査装置であって、
検査対象の太陽電池パネルに対して、周波数を変更可能な交流波を入力する交流波入力部と、
前記太陽電池パネルの表面に電極板を当接又は近接させて、前記太陽電池パネルと前記電極板との間にキャパシタを形成する検査部と、
前記キャパシタに接続するように設けられるインダクタと、
前記インダクタの両端の電圧を出力する電圧出力部と、
を備え、
前記電極板は、5cm四方〜15cm四方の形状を有し、
前記交流波入力部は、前記キャパシタと前記インダクタとが共振する共振周波数を含む周波数帯域の間で周波数が変更されている交流波を、前記太陽電池パネルに入力する太陽電池パネルの検査装置。
【請求項2】
前記交流波入力部は、一定の規則又はリズムに従って周波数が変更されている交流波を、前記太陽電池パネルに入力する請求項1に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【請求項3】
前記周波数帯域は、10〜1000kHzである
請求項1又は2に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【請求項4】
前記電圧出力部に出力された電圧に基づいて、前記太陽電池パネルの状態を判定する判定部をさらに備える請求項1〜3の何れか一項に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記電圧出力部に出力された電圧について、最大電圧が最小電圧の2倍以上である場合に前記太陽電池パネルは正常状態であると判定し、前記最大電圧が前記最小電圧の2倍未満である場合に前記太陽電池パネルは劣化状態又は異常状態であると判定する請求項4に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【請求項6】
前記太陽電池パネルは、複数の太陽電池セルが接続されてなる太陽電池モジュールである請求項1〜5の何れか一項に記載の太陽電池パネルの検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池パネルの検査装置、及び太陽電池パネルの検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮したクリーンなエネルギーへの関心の高まりから、エネルギー源が無尽蔵に存在する太陽光を利用した太陽光発電が注目されている。太陽光発電によって長期的に安定したエネルギーを供給するためには、発電に使用する太陽電池パネルに不具合が生じていないかを任意に又は定期的に検査する必要がある。
【0003】
太陽電池パネルの検査装置として、これまで本発明者は、通電状態にある太陽電池パネルの表面を磁気センサで走査し、当該太陽電池パネルの回路から発生する磁気を検知することにより太陽電池パネルの断線や劣化を判定する検査装置(特許文献1を参照)や、太陽電池パネルのインピーダンスを当該太陽電池パネルの配線が集約されている接続箱を介して測定し、計測されたインピーダンスの大きさから太陽電池パネルの断線や劣化を判定する検査装置(特許文献2を参照)を開発してきた。
【0004】
特許文献1の太陽電池パネルの検査装置は、磁気センサが太陽電池パネルに内蔵されているバスバーの位置を横切るときにバスバーから発生する磁気の方向が大きく変化する現象を利用し、この磁気の変化量からバスバーの断線や劣化を判定するものである。特許文献1の太陽電池パネルの検査装置を使用すれば、バスバーの前後での磁気のベクトルの変化量の微分値をとることで自然界の地磁気が検査に与える影響を排除できるため、屋外の太陽電池パネルの設置現場において正確に検査を行うことができる。
【0005】
特許文献2の太陽電池パネルの検査装置は、太陽電池パネルの表面を直接検査する前に太陽電池パネルの欠陥の有無を判断するものである。太陽電池パネルの回路は、抵抗(R成分)とインダクタ(L成分)とキャパシタ(C成分)とが直列に接続された等価回路と見なすことができるが、太陽電池セルを複数接続してモジュール化した太陽電池パネルにおいては、回路内でのインダクタ(L成分)の影響が大きくなるため、太陽電池パネル全体のインピーダンスが見かけ上増大し、正確な検査結果を得ることが困難となる場合がある。そこで、特許文献2の太陽電池パネルの検査装置では、インダクタ(L成分)とキャパシタ(C成分)とが共振して互いに打ち消し合うような周波数の交流波を用いて太陽電池パネルのインピーダンスを測定している。これにより、モジュールとしての太陽電池パネルに異常な部位が含まれているか否かを事前に把握できるため、太陽電池パネルの検査効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2014/181388号
【特許文献2】国際公開第2015/087390号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、太陽電池パネルのユーザーの間では、例えば、太陽電池パネルを用いた発電設備の竣工前や、太陽電池パネルが発電できない夜間でも検査を行いたいという要望がある。この点に関し、特許文献1の太陽電池パネルの検査装置は、太陽電池パネルのバスバーから発生する磁気を検知する方式であるため、検査中はバスバーに電流が流れている状態(より正確には、電流が流れることが可能な状態)にしておく必要がある。従って、特許文献1の太陽電池パネルの検査装置は、太陽電池パネルに電力系統が接続されていない状態や、太陽電池パネルに光が照射されていない状態では検査を行うことはできない。
【0008】
特許文献2の太陽電池パネルの検査装置は、太陽電池パネルのインピーダンスを測定する方式であるため、検査中の太陽電池パネルに光が照射されていることは必須ではない。ところが、上述のように特許文献2の太陽電池パネルの検査装置は、モジュールとしての太陽電池パネルの正常/異常判定を行うものであって、モジュールを構成する個々のパネルの故障箇所までを特定することはできない。
【0009】
このように、特許文献1及び特許文献2の太陽電池パネルの検査装置では、発電設備の竣工前や、太陽電池パネルが発電できない夜間等において、太陽電池パネルの故障箇所を正確に特定することはできず、新たな検査装置の登場が望まれている。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、太陽電池パネルが発電を行っていない状態であっても、太陽電池パネルの故障箇所を正確かつ容易に特定することが可能な太陽電池パネルの検査装置、及び太陽電池パネルの検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る太陽電池パネルの検査装置の特徴構成は、
非通電状態にある太陽電池パネルを検査する太陽電池パネルの検査装置であって、
検査対象の太陽電池パネルに対して、周波数を変更可能な交流波を入力する交流波入力部と、
前記太陽電池パネルの表面に電極板を当接又は近接させて、前記太陽電池パネルと前記電極板との間にキャパシタを形成する検査部と、
前記キャパシタに接続するように設けられるインダクタと、
前記インダクタの両端の電圧を出力する電圧出力部と、
を備え、
前記交流波入力部は、前記電圧出力部から出力される前記インダクタの両端の電圧が脈動するように、前記キャパシタと前記インダクタとが共振する共振周波数を含む周波数帯域の間で一定の規則又はリズムに従って周波数が変更されている交流波を、前記太陽電池パネルに入力することにある。
【0011】
本構成の太陽電池パネルの検査装置は、周波数を変更可能な交流波を入力する交流波入力部を備えており、この交流波入力部から、キャパシタとインダクタとが共振する共振周波数を含む周波数帯域の間で周波数が変更されている交流波を、検査対象の太陽電池パネルに入力し、インダクタの両端の電圧を電圧出力部から出力するように構成したものである。ここで、インダクタの両端の電圧は、インダクタの共振エネルギーの大きさに比例し、太陽電池パネルが正常であれば、交流波のエネルギーが増幅されてインダクタに蓄積されることになる。そこで、このインダクタの両端の電圧をモニタリングすれば、太陽電池パネルが正常であるか、或いは異常(劣化を含む)であるかを正確かつ容易に判断することが可能となる。このような検査は、太陽電池パネルが非通電状態にあっても、検査対象の太陽電池パネルに交流波を入力するだけで実施することができるため、発電設備の竣工前や、太陽電池パネルが発電できない夜間等においても、太陽電池パネルの故障箇所を正確かつ容易に特定することが可能となる。
【0013】
本構成の太陽電池パネルの検査装置であれば、交流波入力部から太陽電池パネルに入力される交流波は、一定の規則又はリズムに従って周波数が変更されたものであるため、太陽電池パネルが正常であれば、交流波の周波数が周波数帯域内で変更されて共振周波数を通過する度に、電圧出力部から出力されるインダクタの両端の電圧が一定の規則又はリズムに従って脈動し、太陽電池パネルが正常であることをより明確に認識することが可能となる。
【0014】
本発明に係る太陽電池パネルの検査装置において、
前記周波数帯域は、10〜1000kHzであることが好ましい。
【0015】
本構成の太陽電池パネルの検査装置であれば、交流波の周波数が採り得る周波数帯域を10〜1000kHzとすることで、市場に出回っている略全ての太陽電池パネルの特性をカバーできるため、一般家庭用から産業用まで様々なスケールの太陽電池パネルを検査することが可能となる。
【0016】
本発明に係る太陽電池パネルの検査装置において、
前記電圧出力部に出力された電圧に基づいて、前記太陽電池パネルの状態を判定する判定部をさらに備えることが好ましい。
【0017】
本構成の太陽電池パネルの検査装置であれば、事後に測定データを分析する必要がなく、装置側で太陽電池パネルの状態を判定することができるため、その場で太陽電池パネルの故障診断が可能となる。
【0018】
本発明に係る太陽電池パネルの検査装置において、
前記判定部は、前記電圧出力部に出力された電圧について、最大電圧が最小電圧の2倍以上である場合に前記太陽電池パネルは正常状態であると判定し、前記最大電圧が前記最小電圧の2倍未満である場合に前記太陽電池パネルは劣化状態又は異常状態であると判定することが好ましい。
【0019】
本構成の太陽電池パネルの検査装置であれば、インダクタの両端の電圧は常に変動しているため、最大電圧と最小電圧との関係を見るだけで、太陽電池パネルの故障診断が可能となる。具体的には、最大電圧が最小電圧の2倍以上である場合に太陽電池パネルは正常状態であると判定し、最大電圧が最小電圧の2倍未満である場合に太陽電池パネルは劣化状態又は異常状態であると判定する。このような判定を行えば精度の高い検査が可能となり、太陽電池パネルの長期信頼性を向上させることができる。
【0020】
本発明に係る太陽電池パネルの検査装置において、
前記太陽電池パネルは、複数の太陽電池セルが接続されてなる太陽電池モジュールであることが好ましい。
【0021】
本構成の太陽電池パネルの検査装置は、太陽電池パネルに入力する交流波の周波数帯域として、インダクタとキャパシタとが共振する共振周波数を含む周波数帯域を選択し、インダクタとキャパシタとの共振時にインダクタに蓄積された共振エネルギーを利用して太陽電池パネルが故障しているか否かを判断するため、太陽電池セルのモジュール化(またはストリング化)の影響を受けることなく、正確かつ容易に検査を行うことができる。従って、本発明は、複数の太陽電池セルが接続されてなる太陽電池モジュールの検査において、好適に利用することができる。
【0022】
上記課題を解決するための本発明に係る太陽電池パネルの検査方法の特徴構成は、
非通電状態にある太陽電池パネルを検査する太陽電池パネルの検査方法であって、
検査対象の太陽電池パネルに対して、周波数を変更可能な交流波を入力する交流波入力工程と、
前記太陽電池パネルの表面にインダクタが設けられた電極板を当接又は近接させる検査工程と、
を包含し、
前記検査工程により、前記太陽電池パネルと前記電極板との間にキャパシタが形成されるとともに、当該キャパシタに前記インダクタが接続され、
前記インダクタの両端の電圧が脈動するように、前記キャパシタと前記インダクタとが共振する共振周波数を含む周波数帯域の間で一定の規則又はリズムに従って前記交流波の周波数を変更する周波数変更工程と、
前記インダクタの両端の電圧を出力する電圧出力工程と、
を包含することにある。
【0023】
本構成の太陽電池パネルの検査方法であれば、上述した太陽電池パネルの検査装置と同様の優れた作用効果を奏する。すなわち、太陽電池パネルが非通電状態にあっても、当該太陽電池パネルに交流波を入力するだけで、太陽電池パネルが正常であれば、交流波のエネルギーが増幅されてインダクタに蓄積されるため、インダクタの両端の電圧をモニタリングすることで、太陽電池パネルが正常であるか、或いは異常(劣化を含む)であるかの判断が可能となる。従って、発電設備の竣工前や、太陽電池パネルが発電できない夜間等においても、太陽電池パネルの故障箇所を正確かつ容易に特定することが可能となる。
【0025】
本構成の太陽電池パネルの検査方法であれば、上述した太陽電池パネルの検査装置と同様の優れた作用効果を奏する。すなわち、太陽電池パネルが正常であれば、交流波の周波数が周波数帯域内で変更されて共振周波数を通過する度に、電圧出力部から出力されるインダクタの両端の電圧が一定の規則又はリズムに従って脈動し、太陽電池パネルが正常であることをより明確に認識することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、太陽電池パネルに関する説明図である。
図2図2は、本発明の太陽電池パネルの検査装置に関する説明図である。
図3図3は、本発明の太陽電池パネルの検査装置の等価回路図である。
図4図4は、本発明の太陽電池パネルの検査装置による検査結果に関するグラフである。
図5図5は、本発明の太陽電池パネルの検査方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の太陽電池パネルの検査装置、及び太陽電池パネルの検査方法に関する実施形態を、図面に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0028】
<太陽電池パネル>
本発明の太陽電池パネルの検査装置を説明する前に、検査対象の太陽電池パネルの原理について説明する。図1は、太陽電池パネルMに関する説明図である。図1(a)は、太陽電池パネルMの概略構成図である。太陽電池パネルMは複数の太陽電池セルSが直列に接続された太陽電池モジュールとして構成され、太陽電池パネルMどうしも所望の枚数が直列に接続される。図1(a)では4枚の太陽電池パネルMを例示している。夫々の太陽電池パネルMを構成する太陽電池セルSは、負の電荷を有する電子を多く含むn型半導体と、正の電荷を有するホールを多く含むp型半導体とが接合されたものである。ホールがn型半導体に入ると電子と結合する。これと同様に、電子がp型半導体に入るとホールと結合する。このように、n型半導体とp型半導体とが接合した際、接合面では電子もホールもない空乏層と呼ばれる領域が形成される。この空乏層には電界が生じており、空乏層に太陽光が入射すると光が半導体に吸収されて電子とホールが生じ、これらが電界で押し出されることにより外部回路へ電流として流れる。この一連の仕組みが発電である。太陽電池パネルMで生成された電流は直流であり、電気として利用するためには交流に変換する必要がある。図1(a)に示すように、太陽電池パネルMの各配線は接続箱1に集約されており、接続箱1はさらにパワーコンディショナー2に接続されている。太陽電池パネルMで発電された直流は、パワーコンディショナー2によって交流に変換され、工場、オフィス、住居等で電力として利用される。
【0029】
図1(b)は、太陽電池パネルMを構成する1枚の太陽電池セルSにおける等価回路図である。太陽電池パネルM全体の構成は上記のとおりであるが、電気回路図で考えた場合、太陽電池パネルMを構成する1枚の太陽電池セルSは、図1(b)に示すように定電流源(I成分)、並列ダイオード(D成分)、直列抵抗(Rs成分)、及び並列抵抗(Rsh成分)の組み合わせで表すことができる。太陽電池パネルMは太陽電池セルSを直列に接続したモジュール構造をしているが、図1(b)に示す等価回路が太陽電池セルSの枚数だけ直列に接続したものと考えることができる。従って、太陽電池モジュールの等価回路図は、直列抵抗等の各成分の値は変わるものの、太陽電池セルSが1枚のときと同様に図1(b)の等価回路として表すことができる。
【0030】
<太陽電池パネルの検査装置>
図2は、本発明の太陽電池パネルの検査装置100に関する説明図である。図3は、本発明の太陽電池パネルの検査装置の等価回路図である。太陽電池パネルの検査装置100は、図2に示すように、本体70と、当該本体70とは別体の交流波入力部10とのセットとして構成される。検査対象の太陽電池パネルM(太陽電池セルS)は、図3の吹き出し中の断面図に示すように、セル3と、当該セル3を保護するガラス板4とを含む。
【0031】
交流波入力部10は、図2に示すように、検査対象の太陽電池パネルMの接続箱1に接続され、当該接続箱1から太陽電池パネルMに交流波(交流電圧)Aを入力する。このとき、太陽電池パネルMは、非通電状態となっている。交流波入力部10は、波長調整部11を備えており、当該波長調整部11によって太陽電池パネルMに入力する交流波Aの周波数を変更することができる。交流波Aの周波数は、太陽電池パネルMと後述する本体70とによって形成されるキャパシタ30と、本体70に設けられるインダクタ40とが共振する共振周波数を含む周波数帯域の間で変更される。その周波数帯域は、10〜1000kHzであることが好ましい。このような周波数帯域であれば、市場に出回っている略全ての太陽電池パネルの特性をカバーできるため、一般家庭用から産業用まで様々なスケールの太陽電池パネルを検査することが可能となる。
【0032】
本体70は、検査部20と、インダクタ40と、電圧出力部50とを備えている。検査部20は、図3に示すように、電極板21と、センサ制御基板22とを備えている。太陽電池パネルMの表面のガラス板4に検査部20の電極板21を当接又は近接させると、太陽電池パネルMと電極板21との間にキャパシタ(C)30が形成される。キャパシタ(C)30の容量は、以下の式(1)で表される、
C = ε×ε×S/d ・・・ (1)
:容量
ε:真空誘電率(8.85×10−12 F/m)
ε :ガラスの比誘電率
:電極板の面積
:離間距離(=ガラス板の厚み)
一般的な太陽電池パネルMを想定し、例えば、ガラス板4を構成するガラスの比誘電率を4、ガラス板4の厚みを3.5mm、ガラス板4に当接又は近接させる電極板21の面積を121cm(11cm四方)とすると、キャパシタ(C)30の容量は、約122pFとなる。このように、キャパシタ(C)30の容量は、非常に小さいものとなる。なお、電極板21の面積は、検査対象の太陽電池パネルMを構成する太陽電池セルSのサイズに合わせて変更可能であり、例えば、25〜225cm(5cm四方〜15cm四方)とすることができる。
【0033】
一方、太陽電池パネルMは、図3に示すように、内部抵抗(R)を有している。また、検査部20には、センサ制御基板22を介してインダクタ(L)40が接続されている。従って、太陽電池パネルMの表面に検査部20の電極板21を当接又は近接させている状態では、太陽電池パネルM側の抵抗(R)と、太陽電池パネルMと電極板21との間のキャパシタ(C)30と、本体70に内蔵されているインダクタ(L)40とが直列に接続された等価回路と見なすことができる。この等価回路に交流波入力部10から交流波Aを入力すると、インダクタ(L)40及びキャパシタ(C)30は交流波Aの周波数に応じて変動し、その結果、太陽電池パネルM全体の見かけ上のインピーダンスが変動することになる。ここで、交流波Aの周波数として、インダクタ(L)40とキャパシタ(C)30とが共振する周波数を選択すると、インダクタ(L)40とキャパシタ(C)30とが互いに打ち消し合うとともに、インダクタ(L)40には共振エネルギーが蓄積される。本発明は、この共振エネルギーを利用することで、従来とは異なるアプローチから太陽電池パネルMの故障診断ができることを新たに知見し、太陽電池パネルの検査装置100として完成させたものである。
【0034】
インダクタ(L)40に蓄積される共振エネルギーは、インダクタ(L)40の両端の電圧と相関関係を有する。そこで、本発明の太陽電池パネルの検査装置100では、インダクタ(L)40の両端の電圧を電圧出力部50から出力するように構成した。インダクタ(L)40の両端の電圧は、インダクタ(L)40の共振エネルギーの大きさに比例し、太陽電池パネルMが正常であれば、交流波Aのエネルギー(交流電圧)が増幅されてインダクタ(L)40に蓄積されることになる。エネルギーの増幅倍率は、キャパシタ(C)30の容量とインダクタ(L)40のリアクタンスとの関係によって定まり、2倍以上、好ましくは5倍以上、より好ましくは10倍以上に設定される。従って、ユーザーは、インダクタ(L)40の両端の電圧をモニタリングすれば、太陽電池パネルMが正常であるか、或いは異常(劣化を含む)であるかを判断することが可能となる。このような検査は、太陽電池パネルMが非通電状態にあっても、検査対象の太陽電池パネルMに交流波Aを入力するだけで実施することができるため、発電設備の竣工前や、太陽電池パネルMが発電できない夜間等においても、太陽電池パネルMの故障箇所を正確かつ容易に特定することが可能となる。
【0035】
ところで、太陽電池パネルMが正常であるか、或いは異常(劣化を含む)であるかの判定は、インダクタ(L)40の両端の電圧に基づいて、ユーザー自身が判断することができるが、太陽電池パネルの検査装置100の本体70に、太陽電池パネルMの状態を判定する判定部60をさらに設けても構わない。判定部60を設ければ、事後に測定データを分析する必要がなく、装置側で太陽電池パネルMの状態を判定することができるため、その場で太陽電池パネルMの故障診断が可能となる。
【0036】
判定部60は、電圧出力部50と兼用することができる。インダクタ(L)40の両端の電圧は常に変動しているため、最大電圧と最小電圧との関係を見るだけで、太陽電池パネルMの故障診断が可能となる。判定部60の判定基準としては、例えば、最大電圧が最小電圧の2倍以上である場合に太陽電池パネルMは正常状態であると判定し、最大電圧が最小電圧の2倍未満である場合に太陽電池パネルMは劣化状態又は異常状態であると判定する。このような判定を行えば精度の高い検査が可能となり、太陽電池パネルMの長期信頼性を向上させることができる。
【0037】
判定部60は、電圧出力部50に出力される電圧の大きさに応じて段階的に点灯する複数のLEDランプで構成することも可能である。この場合、一定個数以上のLEDランプが点灯したときは、インダクタ(L)40に十分な共振エネルギーが蓄積されているため太陽電池パネルMは正常であると判定し、一定個数未満のLEDランプが点灯したときは、インダクタ(L)40に共振エネルギーが十分に蓄積されていないため太陽電池パネルMは劣化していると判定し、LEDランプが全く点灯しなかったときは、インダクタ(L)40に共振エネルギーが全く蓄積されていないため太陽電池パネルMは故障(異常)であると判定することができる。このように、判定部60を複数のLEDランプで構成すれば、太陽電池パネルの故障診断を簡易的に行うことができる。なお、判定部60とともにブザー(図示せず)を設け、判定結果を音で報知するようにしても構わない。
【0038】
以上のように、本発明の太陽電池パネルの検査装置100は、太陽電池パネルMに入力する交流波Aの周波数帯域として、インダクタ(L)40とキャパシタ(C)30とが共振する共振周波数を含む帯域を選択し、インダクタ(L)40とキャパシタ(C)30との共振時にインダクタ(L)40に蓄積された共振エネルギーを利用して太陽電池パネルMが故障しているか否かを判断するため、太陽電池セルSのモジュール化(またはストリング化)の影響を受けることなく、正確かつ容易に検査を行うことができる。従って、本発明は、複数の太陽電池セルSが接続されてなる太陽電池パネルM(太陽電池モジュール)の検査において、好適に利用することができる。
【0039】
<太陽電池パネルの検査例>
本発明の太陽電池パネルの検査装置100においては、検査対象の太陽電池パネルMに入力する交流波Aの周波数は、キャパシタ(C)30とインダクタ(L)40とが共振する共振周波数を含む周波数帯域の間で変更される。キャパシタ(C)30とインダクタ(L)40とが共振する共振周波数は、インダクタ(L)40を変更することにより調整可能である。そこで、交流波入力部10と本体70とをセットとして備える図2の太陽電池パネルの検査装置100において、本体70側に備えられるインダクタ(L)40を種々変更したものを準備し、同一の太陽電池パネルの検査を実施した。図4は、本発明の太陽電池パネルの検査装置による検査結果(検査例1〜3)に関するグラフである。
【0040】
〔検査例1〕
図4(a)は、太陽電池パネルの検査において、インダクタ(L)としてリアクタンスが1mHのものを使用したときにインダクタ(L)の両端に発生した電圧の周波数依存性を示すチャートである。インダクタ(L)の両端に発生する電圧は、電圧出力部に出力された電圧である。検査例1では、太陽電池パネルに入力する交流波の周波数を150〜550kHzの周波数帯域の間で変更した。検査例1によれば、交流波の周波数が150kHzのときに約3Vの最小電圧が計測され、交流波の周波数が470kHzのときに約52Vの最大電圧が計測された。このように、検査例1では、インダクタ(L)の両端に発生する最大電圧が最小電圧の約17倍となった。最大電圧が最小電圧の2倍以上であれば、太陽電池パネルは正常状態であると判定できることから、この太陽電池パネルは正常状態であると確認された。なお、図4(a)の電圧の周波数依存性を示すチャートによれば、検査後の低周波数帯では計測された電圧の値に大きな変化は見られないが、共振周波数に近づくと電圧は急激に増大し、共振周波数で電圧がピーク(最大値)となった後、急激に電圧が低減する現象を確認することができる。そこで、交流波の周波数を周波数帯域の間で変更するにあたって、例えば、低周波数から高周波数に向けて一定の規則又はリズムに従って変更することが好ましい。このような周波数の変更の仕方をすれば、太陽電池パネルが正常であれば、交流波の周波数が共振周波数を通過する度に、電圧出力部から出力されるインダクタ(L)の両端の電圧が一定の規則又はリズムに従って脈動し、その結果、太陽電池パネルが正常であることをより明確に認識することが可能となる。
【0041】
〔検査例2〕
図4(b)は、太陽電池パネルの検査において、インダクタ(L)としてリアクタンスが2mHのものを使用したときにインダクタ(L)の両端に発生した電圧の周波数依存性を示すチャートである。検査例2において使用した交流波の周波数帯域及び検査手順は、検査例1と同様である。検査例2によれば、交流波の周波数が150kHzのときに約4Vの最小電圧が計測され、交流波の周波数が330kHzのときに約53Vの最大電圧が計測された。このように、検査例2では、インダクタ(L)の両端に発生する最大電圧が最小電圧の約13倍となった。従って、太陽電池パネルは正常状態であると確認された。なお、検査例2においても、交流波の周波数を周波数帯域の間で変更するにあたって、例えば、低周波数から高周波数に向けて一定の規則又はリズムに従って変更すれば、インダクタ(L)の両端の電圧の脈動により、太陽電池パネルが正常であることをより明確に認識することが可能となる。
【0042】
〔検査例3〕
図4(c)は、太陽電池パネルの検査において、インダクタ(L)としてリアクタンスが4.7mHのものを使用したときにインダクタ(L)の両端に発生した電圧の周波数依存性を示すチャートである。検査例3において使用した交流波の周波数帯域及び検査手順は、検査例1と同様である。検査例3によれば、交流波の周波数が150kHzのときに約5Vの最小電圧が計測され、交流波の周波数が211kHzのときに約54Vの最大電圧が計測された。このように、検査例3では、インダクタ(L)の両端に発生する最大電圧が最小電圧の約11倍となった。従って、太陽電池パネルは正常状態であると確認された。なお、検査例3においても、交流波の周波数を周波数帯域の間で変更するにあたって、例えば、低周波数から高周波数に向けて一定の規則又はリズムに従って変更すれば、インダクタ(L)の両端の電圧の脈動により、太陽電池パネルが正常であることをより明確に認識することが可能となる。
【0043】
<太陽電池パネルの検査方法>
次に、太陽電池パネルの検査装置100を用いた本発明の太陽電池パネルMの検査方法について説明する。図5は、太陽電池パネルMの検査方法のフローチャートである。太陽電池パネルMの検査方法は、主に、交流波入力工程、検査工程、周波数変更工程、及び電圧出力工程の各工程を経て実施される。なお、以下の説明及び図5において、太陽電池パネルMの検査方法の各工程を記号「S」で示してある。
【0044】
[検査開始(S0)]
太陽電池パネルの検査装置100を用いて太陽電池パネルMの検査方法を実施するにあたり、交流波入力部10を太陽電池パネルMの接続箱1に接続する。これにより、本発明の太陽電池パネルの検査方法が開始される。
【0045】
[交流波入力工程(S1)]
交流波入力部10から非通電状態の太陽電池パネルMに対して、周波数を変更可能な交流波Aを入力する(S1)。
【0046】
[検査工程(S2)]
太陽電池パネルMを構成する太陽電池セルSの表面に、本体10の検査部20を当接又は近接させて検査を行う(S2)。検査部20には、インダクタ(L)40が設けられている。当該太陽電池セルSが正常であれば、検査部20の電極板21と太陽電池セルSとの間にキャパシタ(C)30が形成される。これにより、キャパシタ(C)30とインダクタ(L)40とが直列に接続される。
【0047】
[周波数変更工程(S3)]
キャパシタ(C)30とインダクタ(L)40とが共振する共振周波数を含む周波数帯域の間で交流波Aの周波数を変更する(S3)。周波数帯域は、10〜1000kHzとすることができる。交流波Aの周波数を変更するにあたっては、低周波数から高周波数に向けて一定の規則又はリズムに従って変更することが好ましい。交流波Aの周波数が共振周波数に近づくと、インダクタ(L)40に増幅された共振エネルギーが蓄積される。
【0048】
[電圧出力工程(S4)]
インダクタ(L)40の両端の電圧を電圧出力部50に出力する。出力された電圧の値に基づいて、ユーザーは太陽電池パネルMが正常状態であるか否かを判定することができる。具体的には、最大電圧と最小電圧との関係から太陽電池パネルMの故障診断を行う。例えば、最大電圧が最小電圧の2倍以上である場合に太陽電池パネルMは正常状態であると判定し、最大電圧が最小電圧の2倍未満である場合に太陽電池パネルMは劣化状態又は異常状態であると判定する。
【0049】
[検査継続確認(S5〜S7)]
以上の各工程(S1〜S4)が完了したら、次の太陽電池セルSの検査を実施するか否かを判断する(S5)。次の太陽電池セルSの検査を実施する場合は(S5:YES)、本体70の検査部20を次の太陽電池セルSの位置まで移動させ(S6)、ステップ1〜5を繰り返す。次の太陽電池セルSの検査を実施しない場合は(S5:NO)、交流波入力部10から太陽電池パネルMへの交流波Aの入力を停止し、検査を終了する(S7)。
【0050】
以上のように、本発明の太陽電池パネルの検査装置100を用いて太陽電池パネルMの検査を実施すれば、当該太陽電池パネルMが非通電状態にあっても、当該太陽電池パネルMに交流波Aを入力するだけで、太陽電池パネルMが正常であれば、交流波Aのエネルギーが増幅されてインダクタ(L)40に蓄積されるため、インダクタ(L)40の両端の電圧を電圧出力部50によってモニタリングすることで、太陽電池パネルMが正常であるか、或いは異常(劣化を含む)であるかを正確かつ容易に判断することが可能となる。従って、本発明の太陽電池パネルの検査装置100、及び太陽電池パネルの検査方法は、太陽電池パネルを用いた発電設備の竣工前や、太陽電池パネルが発電できない夜間等において、太陽電池パネルの故障箇所を正確に特定することに大変有用な技術である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の太陽電池パネルの検査装置、及び太陽電池パネルの検査方法は、現在主流となっているシリコン系太陽電池だけでなく、化合物系太陽電池、有機系太陽電池など種々のタイプの太陽電池パネルの検査において利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
1 接続箱
10 交流波入力部
11 波長調整部
20 検査部
21 電極板
22 センサ制御基板
30 キャパシタ(C)
40 インダクタ(L)
50 電圧出力部
60 判定部
70 本体
100 太陽電池パネルの検査装置
M 太陽電池パネル
S 太陽電池セル
【要約】
太陽電池パネルが発電を行っていない状態であっても、太陽電池パネルの故障箇所を正確かつ容易に特定することが可能な太陽電池パネルの検査装置を提供する。
非通電状態にある太陽電池パネルMを検査する太陽電池パネルの検査装置100であって、検査対象の太陽電池パネルMに対して、周波数を変更可能な交流波Aを入力する交流波入力部10と、太陽電池パネルMの表面に電極板21を当接又は近接させて、太陽電池パネルMと電極板21との間にキャパシタ30を形成する検査部20と、キャパシタ30に接続するように設けられるインダクタ40と、インダクタ40の両端の電圧を出力する電圧出力部50と、を備え、交流波入力部10は、キャパシタ30とインダクタ40とが共振する共振周波数を含む周波数帯域の間で周波数が変更されている交流波Aを、太陽電池パネルMに入力する太陽電池パネルの検査装置。
図1
図2
図3
図4
図5