(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(B)分散剤を構成する(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体が、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリメタクリル酸ブチル・メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン及びポリメタクリル酸ステアリル・メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの群から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜3いずれかに記載の樹脂組成物。
(C−1)熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜4いずれかに記載の樹脂組成物。
(C−2)熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリル(テレ)フタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、およびUV硬化樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である請求項1〜4いずれに記載の樹脂組成物。
固形換算で、(A)ナノファイバーが0.5〜20重量%、(B)分散剤が0.0005〜10重量%、(C)樹脂が70〜99.4995重量%[ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%]である、請求項1〜6いずれかに記載の樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<(A)ナノファイバー>
ナノファイバーとは、一般に直径が1〜1,000nmで長さが直径の100倍以上ある繊維の総称である。ナノファイバーの素材としては、バイオナノファイバー(セルロースナノファイバー、キチン・キトサンナノファイバー)、カーボンナノファイバー、その他のナノファイバー(炭素以外の無機ナノファイバー、有機高分子ナノファイバー)などが挙げられるが、好ましくはセルロースナノファイバーである。以下、(A)ナノファイバーに関しては、セルロースナノファイバーを例にとって詳述する。
【0008】
<セルロースナノファイバーの原料>
ここで、(A)セルロースナノファイバーの製造に使用するセルロースの原料は、繊維状、粒状などの任意の形態であってもよい。セルロース原料は、リグニンやヘミセルロースを除去した結晶セルロースが好ましい。また、市販の原料を使用してもよい。メディアレス分散機でセルロースを処理すると、セルロースは繊維の長さを保ったまま繊維同士の絡まりがほどけて細くなるが、処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることも可能である。なお、本発明において「ナノファイバー」とは、上記のように、繊維の幅がナノサイズになったものを意味する。例えばセルロースは、本発明の方法の実施により繊維同士が充分にほどけると、その直径は4〜10nm程度となる。セルロース原料ないしナノファイバーの直径(幅)は、電子顕微鏡写真により測定することができる。このような繊維は、長さはナノサイズではないが、直径(幅)がナノサイズであるので、本発明においてナノファイバーと指称する。
【0009】
<(B)分散剤>
(B)分散剤としては、(A)セルロースナノファイバーを分散できるものであれば、いかなるものでもよい。例えば、「P−OH基、−COOH基、−SO
3H基、および/またはそれらの金属塩基が少なくとも1種結合した陰イオン性分散剤」(特開2012−51991号公報)、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造またはグラジエント共重合体構造を有する分散剤」(特開2014−162880号公報)などが挙げられるが、なかでも、マトリックス成分となる樹脂成分との親和性が良好な、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を含む分散剤が好ましい。
【0010】
(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体:
ここで、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとは、メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとを統括した言葉である。これらは、常法に従って製造される。即ち、一例を挙げれば、2−ブロモエチルホスホリルジクロリドと2−ヒドロキシエチルホスホリルジクロリドと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させて2−メタクリロイルオキシエチル−2′−ブロモエチルリン酸を得、更にこれをトリメチルアミンとメタノール溶液中で反応させて得ることができる。
【0011】
かかる(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下「MPC」)を用いて重合体(ホモポリマー)を作成する方法としては、通常の重合方法に従えば良く、例えば、これらのモノマーを溶媒中で重合開始剤の存在下、反応させて得られる。ここで使用される溶媒としては、MPCが溶解するものであれば良く、具体的には水、メタノール、エタノール、プロパノール、t−ブタノール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルムまたはこれらの混合溶媒等が例示される。また、重合開始剤としては、通常のラジカル開始剤ならば何れを用いても良く、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、3−カルボキシプロピオニトリル、アゾビスマレノニトリル等の脂肪酸アゾ化合物や過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム等の有機過酸化物を挙げることができる。
【0012】
共重合体(コポリマー)を作成する場合には、これらのモノマーに加えて、更に、任意のモノマーを加え、同様に重合することができる。該任意のモノマーとしては、アクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタアクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタアクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタアクリル酸ブチル、アクリル酸ラウリル、メタアクリル酸ラウリル、アクリル酸セチル、メタアクリル酸セチル、アクリル酸ステアリル、メタアクリル酸ステアリル、アクリル酸イソステアリル、メタアクリル酸イソステアリル、アクリル酸オレイル、メタアクリル酸オレイルなどの(メタ)アクリル酸アルキル、アクリル酸、メタアクリル酸などの(メタ)アクリル酸或いはそれらの塩、ポリオキシエチレンアクリル酸、ポリオキシエチレンメタアクリル酸、ポリオキシプロピレンアクリル酸、ポリオキシプロピレンメタアクリル酸等のポリオキシアルキレン変性(メタ)アクリル酸等が好ましく例示できる。又、共重合の方法は、通常知られているものであれば、特段の限定はなく、ランダム共重合、ブロック共重合などが好ましく例示できる。
【0013】
このようなポリマー或いはコポリマーには既に市販されているものがあり、かかる市販品を購入して利用することもできる。この様な市販品としては、例えば、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである、「リピジュアHM」(日本油脂株式会社製)、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチルコポリマーである、「リピジュアPMB」(日本油脂株式会社製)、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリルコポリマーである、「リピジュアNR」(日本油脂株式会社製)等が好ましく例示できる。当該(共)重合体からなる分散剤は、セルロースナノファイバーと同様に生体適合性を有し、本発明による樹脂組成物を医療あるいは食品用途に好適に使用できる。
【0014】
なお、(B)分散剤としては、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体のほか、上記のように、リン酸またはポリリン酸、リン酸またはポリリン酸の塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸の塩、ポリアクリル酸共重合体の塩などの陰イオン性分散剤など、常用される他の分散剤を配合してもよい。
また、本発明の(A)〜(B)成分からなるセルロースナノファイバー分散体には、リン酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリを少量加えてもよい。
【0015】
<分散媒>
本発明では、(A)セルロースナノファイバーと(B)分散剤とから、まず分散体(エマルジョンまたはスラリー)を調製する。この際には、分散媒が用いられる。
セルロースナノファイバー分散体の分散媒としては、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール)、グリセリン、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトアミドなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。好ましい分散媒は、水、含水溶媒が挙げられ、特別な廃液処理設備が不要で環境汚染をしにくい水が特に好ましい。
【0016】
<分散体の組成>
本発明の分散体において、(A)セルロースナノファイバーは好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5.0重量%、より好ましくは1.0〜3.0重量%含まれ、(B)分散剤は、セルロースナノファイバー(固形分重量)に対して好ましくは0.1〜50重量%、さらに好ましくは1〜20重量%、より好ましくは5〜20重量%含まれる。セルロースナノファイバーの分散体の分散媒の含有量は、好ましくは50〜99.9重量%、さらに好ましくは60〜99.5重量%、より好ましくは70〜99重量%である。
【0017】
なお、本発明のセルロースナノファイバー分散体は、(A)セルロースナノファイバー1重量部に対し、(B)分散剤を好ましくは0.01〜0.4重量部、さらに好ましくは0.02〜0.3重量部、より好ましくは0.03〜0.25重量部、最も好ましくは0.05〜0.2重量部程度である。分散剤は多すぎても少なすぎてもセルロースナノファイバーの沈降を生じやすくなる。
【0018】
<(A)セルロースナノファイバー>
本発明により得られる(A)セルロースナノファイバーは、繊維径が100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に40nm以下である。本発明のセルロースナノファイバーは、繊維径が非常に小さく、解繊が不十分なセルロースは実質的に存在せず、水に分散させた場合に透明な溶液に近い外観を有し、水の中にナノファイバーが分散していることは肉眼的には認められず、透明な分散液(低濃度の場合)または透明ゲルもしくは不透明ゲル(高濃度の場合)を得ることができる。本発明の「分散体」は、水分散液、水分散ゲル、水分散ペーストなどの種々の形態が含まれる。
【0019】
伸びきり鎖結晶からなるセルロースナノファイバーの弾性率、強度はそれぞれ140GPaおよび3GPaに達し、代表的な高強度繊維、アラミド繊維に等しく、ガラス繊維よりも高弾性であることが知られている。しかも線熱膨張係数は1.0×10
-7/℃と石英ガラスに匹敵する低さである。本発明のセルロースナノファイバーの水分散液は、ナノファイバーの分散性に優れているのでコンポジットの補強繊維としても有用である。
【0020】
<分散体の製造方法>
本発明の分散体は、セルロース、分散剤、および分散媒を機械的解繊手段に供給して、機械的解繊により、セルロースをナノファイバー化するとともに、分散剤により、安定した分散体として得られる。
機械的解繊手段としては、グラインダー、混練機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、水中カウンターコリージョン、高速回転分散機、ビーズレス分散機、高速撹拌型のメディアレス分散機などが挙げられるが、好ましくは高速撹拌型のメディアレス分散機が最も好ましい。
メディアレス分散機は、不純物の混入が少なく、純度の高いセルロースナノファイバー分散体が得られる。
【0021】
高速攪拌型のメディアレス分散機とは、分散メディア(例えば、ビーズ、サンド(砂)、ボール、等)を実質的に用いず、剪断力を利用して分散処理を行う分散機を意味する。
メディアレス分散機としては、特に限定はされないが、例えば、IKA社製 DR−PILOT2000、ULTRA−TURRAXシリーズ、Dispax−Reactorシリーズ;プライミクス株式会社製 T.K.ホモミクサー、T.K.パイプラインホモミクサー;シルバーソン社製 ハイ・シアー・ミキサー;大平洋機工株式会社製 マイルダー、キャビトロン;エムテクニック株式会社製 クレアミックス:みずほ工業株式会社製 ホモミキサー、パイプラインミキサー、寿工業(株)製 K−2等が挙げられる。
【0022】
これらの中でも、メディアレス分散機としては、ロータとステータとを備える分散機が好ましく、そのような高速攪拌型のメディアレス分散機の例として、寿工業(株)製の分散機が挙げられる。この分散機は、ステータと、前記ステータの内部で回転するロータとを備える。これらのステータとロータの間には、隙間が形成されている。ロータを回転させて、ステータとロータの間に混合液を通過させることで、剪断力を与えることができる。ステータとロータの距離を、剪断部クリアランスとする。
また、分散機は、上記のものに限定されず、例えばステータ及びロータが多段階に設置されている分散機を用いてもよい。
本発明のメディアレス分散機としては、処理を均一に行う観点から、該分散機の中を混合液が循環するインライン循環式のものを用いることが好ましい。
【0023】
メディアレス分散機における剪断速度は、900,000[1/sec]を超える。剪断速度が900,000[1/sec]以下である場合には、セルロースが解繊されない。
剪断速度は、2,000,000[1/sec]以下が好ましく、1,500,000[1/sec]以下が好ましく、1,200,000[1/sec]以下がより好ましい。
また、メディアレス分散機の剪断部クリアランスは、上記の剪断速度に応じて適宜設定されるが、できるだけ小さなセルロースナノファイバー径を得る観点から、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましい。また、分散機の回転速度を適切な数値に保つ観点から、当該クリアランスは、100μmが以下好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下がより更に好ましい。
さらに、メディアレス分散機の回転周速は、上記剪断速度に応じて適宜設定されるが、できるだけ小さなセルロースナノファイバー径を得る観点から、18m/s以上が好ましく、20m/s以上がより好ましく、23m/s以上がより好ましい。また、最適なセルロースナノファイバー径を得る観点から、当該回転周速は、50m/sが以下好ましく、40m/s以下がより好ましく、35m/s以下がより更に好ましい。回転周速は、ロータの最先端部分の周速である。
【0024】
このように、本発明のセルロースナノファイバーの分散体は、セルロースと分散剤を含む分散体を1回〜複数回、上記のような高速撹拌型のメディアレス分散機を用いて処理することにより製造することができる。
本発明の方法により処理されて得られたセルロースナノファイバーの平均繊維径は10〜100nm程度、好ましくは10〜40nm程度、最も好ましくは15〜25nm程度である。本発明のナノファイバーは、繊維長/繊維幅(アスペクト比)が大きくて分散状態が良好であるため、強度を保ちつつ不織布のようにナノファイバーが絡み合ったフィルム・シート状に成型することが容易であり、各種の材料として好適に使用できる。本発明のセルロースナノファイバーの水分散体をフィルム・シート状にした不織布は、透明性が高い特徴がある。
【0025】
<(C)樹脂成分>
本発明の樹脂組成物に用いられるマトリックス成分となる(C)樹脂成分としては、(C−1)熱可塑性樹脂、あるいは(C−2)熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0026】
(C−1)熱可塑性樹脂:
ここで、熱可塑性樹脂とは、加熱により溶融成形を行う樹脂を言う。その具体例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
なお、本発明の樹脂組成物においては、(A)ナノファイバーとしてセルロースナノファイバーを用いる場合、耐熱性が充分ではない場合があるので、(C−1)熱可塑性樹脂としては、融点の比較的低い、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂のうち、ナイロン6などが特に好適に用いられる。
【0027】
(C−2)熱硬化性樹脂
本発明の樹脂組成物において、(C)樹脂成分として、(C−2)熱硬化性樹脂を用いる場合には、熱硬化性樹脂は、本発明の樹脂組成物において、セルロースナノファイバーと均一に分散した状態で存在している。熱硬化性樹脂の種類に特に制限はない。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらの熱硬化性樹脂のうち、特にエポキシ樹脂を用いることが、セルロースナノファイバーとの均一な分散性が一層高くなる点から好ましい。
なお、本発明において、(B)分散剤として、「(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」を用いる場合には、(A)セルロースナノファイバーと(C)樹脂成分(熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂)との親和性が一段と向上するので、(A)成分と(C)成分の両者が均一に分散した状態の樹脂組成物を得ることができる。
【0028】
<樹脂組成物中の各成分の割合>
本発明の樹脂組成物は、固形換算で、通常、セルロースナノファイバーなどの(A)ナノファイバーが0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、(B)分散剤が0.0005〜10重量%、好ましくは0.001〜5重量%、(C)樹脂成分が70〜99.4995重量%、好ましくは85〜98.999重量%[ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%]である。
(A)成分が0.5重量%未満では、得られる樹脂組成物の強度、寸法安定性が低下して、樹脂単体との差別化が困難となり、一方20重量%を超えると溶融粘度が高くなり得られる樹脂組成物の成形性が劣り、またセルロースナノファイバーの分散性が劣り凝集物が多く均一分散しにくくなる。
また、(B)分散剤の使用量が0.0005重量%未満では、セルロースナノファイバーなどの(A)ナノファイバー分散体の分散が悪くなり、樹脂との相溶性が低下することになり、一方10重量%を超えると、樹脂中に分散剤のみが溶解し、機械的特性などの物性が低下する。
さらに、(C)樹脂成分が70重量%未満では成形性が劣り、また樹脂混練工程にて複合材が得られなくなり、一方99.4995重量%を超えると樹脂単体との差別化が困難になる。
【0029】
<樹脂組成物の製造方法>
本発明の樹脂組成物は、上記のようにして得られる分散体と熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いて樹脂組成物を製造することができる。
この場合、本発明の樹脂組成物の製造方法は、(A)ナノファイバーと(B)分散剤を主成分とする分散体を乾燥して、(C)樹脂成分と混練する。
この場合の具体例としては、(A)ナノファイバーと(B)分散剤を主成分とする分散体(エマルジョンまたはスラリー)を、凍結乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、あるいは噴霧乾燥したのち、(C)樹脂成分と混練することが挙げられる。
【0030】
この製造方法では、まず、(A)セルロースナノファイバーと(B)分散剤を含む分散体を乾燥する。この乾燥工程は、分散体中の分散媒を除去するための工程である。したがって、分散体中の分散媒の種類に応じて公知の方法を採用することができる。
【0031】
分散媒の除去手段としては、分散媒の種類に応じて適切なものが選択される。例えば、分散体を室温下で放置するだけの自然乾燥でも良く、あるいは加熱乾燥、真空乾燥(減圧乾燥)、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の乾燥方法でも良い。噴霧乾燥は、前記分散体をノズルから噴出させて微細な液滴となし、次いで対流空気中で該液滴を加熱乾燥することによりなされる。特に、自然乾燥や加熱乾燥を用いる場合には、前記混合物をキャスト(流延)する等して膜状あるいはシート状に成形してからその成形体を乾燥させることが、乾燥効率の点から好ましい。
乾燥手段としては、特に得られる乾燥品の品質の劣化が少なく、また乾燥体が、微細なカットファイバー状の形態となり、その後の加工工程等での取扱いが簡便・容易である点から、凍結乾燥が好ましい
【0032】
ここで、凍結乾燥とは、上記分散体を凍結し、凍結状態のまま減圧して分散媒を昇華させることによって乾燥する手法である。凍結乾燥における分散体の凍結方法は特に限定されないが、例えば、分散体を冷媒の中に入れて凍結させる方法、分散体を低温雰囲気下に置いて凍結させる方法、分散体を減圧下に置いて凍結させる方法などがある。好ましくは、分散体を冷媒に入れて凍結させる方法である。分散体の凍結温度は、分散体中の分散媒の凝固点以下としなければならず、−50℃以下であることが好ましく、−80℃以下であることがより好ましい。
凍結乾燥において、凍結した分散体中の分散媒を減圧下で昇華させなければならない。減圧時の圧力は、100Pa以下であることが好ましく、10Pa以下であることがより好ましい。圧力が100Paを超えると凍結した分散体中の分散媒が融解してしまう可能性がある。
【0033】
以上のようにして得られる分散体の固形物(乾燥品)の形態は特に制限されず、例えば、立体状、膜状、シート状、粉末状又は粒状等とすることができる。この固形物の形態は、前述した製造方法において、前記混合物からの分散媒の除去方法を適宜選択することによって調整することができる。例えば、前記分散体をキャスト(流延)して乾燥させることで膜状やシート状のゲル状体を得ることができ、また、前記分散体を噴霧乾燥することで粉末状や粒状のゲル状体を得ることができる。また、前記分散体を任意の形状の型に流し込んで乾燥することで、立体形状の乾燥物を製造することもできる。
【0034】
次いで、分散体の乾燥品と(C)樹脂成分とを溶融混練する。
この溶融混練は、以上のようにして得られる分散体の乾燥物と(C)樹脂成分とを溶融混練しながら複合化する工程である。
溶融混練装置としては、単軸押出機、二軸押出機、二軸混練機、ニーダー、バンバリーミキサー、往復式混練機(BUSS KNEADER)、ロール混練機等、公知の混練装置を使用する事ができる。これらのうち、生産性や作業の簡便性を考慮すると、単軸押出機、二軸押出機、二軸混練機、バンバリーミキサー、往復式混練機が好ましい。溶融混練装置の選定にあたって、混練機内部の密閉性が高い装置を選んだ方が、より効果的に高い分散性を有し、かつ、粗大凝集物が実質的に存在しない植物繊維含有樹脂組成物を製造することができる。
具体的な溶融混練方法としては、例えば以下のような方法を挙げることができる。すなわち、あらかじめ、分散体の乾燥品と(C)樹脂成分とを、ターブラーミキサーやスーパーミキサー、スーパーフローター、ヘンシェルミキサー等で均一に混合させ、それらを単軸押出機または二軸押出機に投入し、溶融混練を行う方法、あるいは、上記乾燥品と(C)樹脂成分とを単軸押出機または二軸押出機で溶融混練する方法などを例示できる。なお、溶融混練工程において発生する水分その他の揮発分を除去するため、ベントの開放や、脱気設備を用いてもよい。
【0035】
本発明の樹脂組成物の製造における、溶融混練時の温度は、(C)樹脂成分の溶融温度に応じて適宜設定されるが、例えば、70〜220℃の範囲内とされる。特に、(C)樹脂成分としてとしてオレフィン系樹脂を用いる場合、混練温度としては、70℃〜220℃の範囲、好ましくは80℃〜220℃の範囲、さらに好ましくは85℃〜220℃、より好適には90℃〜200℃の範囲がよい。この範囲を下回る場合、混練すべき樹脂が溶融せず、実質的に製造する事が不可能である。この範囲を上回る場合、製造に供した(A)セルロースナノファイバーが熱によるダメージを受けて分子鎖の断裂、酸化劣化、変性等が発生し、機械物性を低下させるばかりでなく、不快な臭気の発生や変色につながる。
【0036】
この場合の溶融混練時間は、(A)セルロースナノファイバー、(B)分散剤および(C)樹脂成分との分散性を確保する面から、長い方が好ましいが、生産性との兼ね合いを考えて適宜設定される。例えば、バンバリーミキサーの様なバッチ式の混練機を用いた場合、1〜100分の範囲内であれば、植物繊維の修飾と生産性を両立する事ができるが、生産性を考慮に入れなければ、これ以上の時間であっても製造は可能である。また、例えば、単軸押出機、二軸押出機、往復式混練機(BUSS KNEADER)の様な連続式の混練機を用いた場合、その滞留時間は1〜20分の範囲内であれば、分散性と生産性を両立することができるが、生産性を考慮に入れなければ、これ以上の時間であっても、あるいは混練機のパス回数を増やしても、製造は可能である。
なお、(C)樹脂成分として、(C−2)熱硬化性樹脂を用いる場合には、この溶融混練時には、硬化触媒あるいは硬化剤を加えずに、この溶融混練時に熱硬化が生じないようにする手立てを講じる必要がある。
また、溶融混練後の粉砕機としては、ハンマーミル、カッターミル、ピンミルなどの、回転刃と固定刃を備え、回転刃が高速で回転して粉砕する方式の一般のプラスチック用粉砕機が用いられる。特に、回転式粉砕機の材料出口に一定メッシュのスクリーンを備え、粉砕物の最大粒度を所望レベル以下にそろえることができるものが好ましい。なお、この粉砕手段は、上記乾燥品にも適用される。
このようにして得られた粉砕材料は、一般に用いられる成形プロセス、すなわち圧縮成形、トランスファ成形、射出成形などに好適に使用可能である。
【0037】
<他の添加剤>
なお、本発明の樹脂組成物には、その用途に応じて従来公知の各種添加剤を含有しても良く、例えば、加水分解防止剤、着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン等)、酸化防止剤、無機フィラー、有機フィラー等をあげることができる。
【0038】
<成形>
以上のようにして得られる本発明の樹脂組成物は、各種の成形方法で樹脂成形品とされるが、成形方法は、熱可塑性樹脂組成物や熱硬化性樹脂組成物により異なる面があり、以下の成形方法から適宜使い分けて成形すればよい。
すなわち、本発明の樹脂組成物から板状の製品を製造するのであれば、押し出し成形法が一般的であるが、平面プレスによっても可能である。この他、異形押し出し成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法等を用いることが可能である。また、フィルム状の製品を製造するのであれば、溶融押出法の他、溶液キャスト法を用いることができ、溶融成形方法を用いる場合、インフレーションフィルム成形、キャスト成形、押出ラミネーション成形、カレンダー成形、シート成形、繊維成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、被覆成形等が挙げられる。また、活性エネルギー線で硬化する樹脂の場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて成形体を製造することができる。特に、液状の熱可塑性樹脂にセルロースナノファイバーを添加する場合には、成形材料をプリプレグ化してプレスやオートクレーブにより加圧加熱する成形法が挙げられ、この他にもRTM(Resin Transfer Molding)成形、VaRTM(Vaccum assist Resin Transfer Molding)成形、FW(Filament Winding)成形、積層成形、ハンドレイアップ成形等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
<セルロースナノファイバー添加量の影響および分散剤の有無の影響>
実施例1〜3(マトリックス成分が熱可塑性樹脂の場合)
メディアレス分散機として、寿工業社製のK―2を用い、分散媒としての精製水、セルロースナノファイバーの原料であるセルロースおよび分散剤を分散したスラリー状物を当該メディアレス分散機に投入して回転周速30m/sで循環させ、せん断によりセルロースの分散を促進させて、分散が安定したセルロースナノファイバーを得た。
すなわち、上記の装置を用いて、セルロースナノファイバー原料(BiNFi―s、スギノマシン製)を0.1重量%、分散剤としてポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(日本油脂(株)製、リピジュアHM)0.04重量%を含む水分散液について5回メディアレス分散処理を繰り返し、セルロースナノファイバー分散体を調製し、その後、凍結乾燥用の容器に移して―80℃にて凍結した後、凍結乾燥機(東京理化機械(株)製、FD−1)用いて凍結乾燥した。凍結乾燥後に粉砕機を用いて粉末状にした。
上記にて得られた粉末をポリ乳酸樹脂(Nature Works製、Ingeo Biopolymer 3001D)に対して1,5,10wt%になるように配合し、2軸の混練押出装置((株)プラスチック工学研究所社製「BT―30」、L/D=30 )にてセルロースナノファイバーと樹脂を複合化した後、射出成形にてテストピースを成形し、力学特性を評価した。
なお、当該複合材の流動性は、JIS K7210に基づいて(株)島津製作所社製の島津フローテスター CFT−5000を用いて、バレル温度;200℃、測定荷重;700Nの条件で測定した。
また、力学特性は、JIS K7161に基づいて、(株)島津製作所社製のオートグラフAG−X plus (20kN)を用いて、試験速度:1mm/minで引張試験を行い、引張強度、引張弾性率、引張破断伸びを求めた。
結果を表1に示す。
【0040】
(比較例1〜2)
セルロースナノファイバーを含まないポリ乳酸樹脂、ならびに分散剤なしでセルロースナノファイバーを5%含むポリ乳酸樹脂などを上記同様に射出成形にてテストピースを成形し、上記と同様に操作し、流動性および力学特性を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
比較例3
実施例1において、セルロースナノファイバー量を15重量%とし、分散剤量をそれに応じて増量した以外は、同様に操作して、射出成形にてテストピースを作成し、同様に力学特性を測定した。結果を表2に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
実施例1〜3および比較例1〜2から、セルロースナノファイバーを添加すると、添加量に応じて流動性が低下し、引張強度、引張弾性率が向上しているが、反面引張伸びが低下した。
【0045】
また、表2の比較例3から、ナノファイバー添加量が15wt%となると、流動性が大きく向上するが、力学特性の低下が見られる。これは、セルロースナノファイバーが多いと混練装置内のスクリュ部で過大の剪断力が作用し、結果としてポリ乳酸樹脂の加水分解を引き起こしたと考えられる。このことから、本発明の組成物に対するセルロースナノファイバーの好ましい添加量としては、10重量%以下と考える。
【0046】
また、セルロールナノファイバーを分散剤なしで添加したもの(比較例2)は、引張強度がポリ乳酸樹脂単体(比較例1)より低くなっている。これは、セルロールナノファイバーが均一に分散せず、大きな凝集物が成形品内部に残存したためと考えられる。
このように、本発明によれば。市販の部材を用いて比較的簡単な操作で、セルロースナノファイバーが均一に微細分散した樹脂組成物を得ることができる。
【0047】
ここで、実施例1において、セルロースナノファイバー分散体の乾燥法手段を凍結乾燥から、減圧乾燥(<20kPa×24hr)あるいは加熱乾燥(130℃×24hr)に代えた以外は、同様の操作で樹脂分散体を調製し、射出成形にてテストピースを作製し、同様に樹脂複合体の流動性ならびに力学的特性を評価した。
いずれも樹脂混合物の流動性、力学特性においても表1と同様の結果が得られ、セルロースナノファイバーの添加効果、ならびに分散剤の添加効果が確認できた。
なお、この場合の添加量、試料作成条件ならびに評価条件はすべて実施例1と同一とした。
【0048】
実施例4〜6(マトリックス成分が熱硬化性樹脂の場合)
上記にて得られたセルロースナノファイバー(分散剤を添加している)粉末をエポキシ樹脂(828、三菱化学(株)製)に対してそれぞれ1、5、10重量%になるように配合し、さらにエポキシ樹脂の硬化剤(ジアミノジフェニルメタン(DDM)、和光純薬工業(株)製)をエポキシ樹脂に対して20重量%添加したのち、自動乳鉢にてセルロースナノファイバーと樹脂を複合化した。得られた樹脂混合体を80℃に加熱して粘度を下げたうえで、キャビティ寸法:50×100mmのシリコーン型に注入し、加熱成形(150℃×4時間)にて厚さ3mmのシートを作製し、複合材の力学特性を評価した。その結果を表2に示す。
圧縮成形は減圧加熱炉に上記シリコーン型を設置し、200kPa以下で150℃、20分間の条件で行った。
得られたシートから、機械加工にて平行部が5×10mmのマイクロダンベル状引張試験片を得た。
また、力学特性は、JIS K7171に基づいて、(株)島津製作所社製のオートグラフAG−X plus (20kN)を用いて、試験速度:1mm/minで曲げ試験を行い、
曲げ強度ならびに曲げ弾性率を求めた。
【0049】
比較例4〜5
比較例4は、セルロースナノファイバーを含まないエポキシ樹脂に硬化剤を添加し、実施例4と同様に厚さ3mmのシート状成形品を成形し、機械加工にてマイクロダンベル状引張試験片を作成して、曲げ強度、曲げ弾性率を測定した。また、比較例5では、比較例2の分散剤なしのセルロースナノファイバーを用いて、実施例4と同様にしてエポキシ樹脂を用いて試験片を作製して評価した。さらに、比較例5では、比較例3に対応して、分散剤ありのセルロースナノファイバーの添加量を15重量%とした以外は、実施例4と同様にしてエポキシ樹脂を用いて試験片を作製し、上記と同様にして評価した。併せて、表3に示す。
【0050】
比較例6
実施例1において、セルロースナノファイバー量を15重量%とし、分散剤量をそれに応じて増量した以外は、同様に操作して、射出成形にてテストピースを作成し、同様に力学特性を測定した。結果を表4に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
表3の実施例4〜6および比較例4〜5から、セルロースナノファイバーを添加すると、添加量に応じて曲げ強度、曲げ弾性率が向上している。
【0054】
また、表4の比較例6から、ナノファイバー添加量が15wt%となると、曲げ強度が返って低下し、弾性率の値も頭打ちとなっている。これは、セルロースナノファイバーの添加量が多いと、樹脂組成物に対するセルロースナノファイバーの分散が十分ではなく、セルロースナノファイボー表面がマトリックス樹脂と十分に濡れずにセルロースナノファイバーの凝集体が生成して、成形体中で欠陥点となっていることが考えられる。このことから、本発明の組成物のうち、熱硬化樹脂をマトリックスとする場合であっても、セルロースナノファイバーの好ましい添加量としては、10重量%以下と考える。