特許第6189559号(P6189559)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189559組成物製造用粉末状セルロースナノファイバー、組成物製造用粉末状セルロースナノファイバーの製造方法、ならびに組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6189559
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】組成物製造用粉末状セルロースナノファイバー、組成物製造用粉末状セルロースナノファイバーの製造方法、ならびに組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 1/02 20060101AFI20170821BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20170821BHJP
   C08J 3/05 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C08L1/02
   C08L101/00
   C08J3/05CEP
【請求項の数】14
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-8232(P2017-8232)
(22)【出願日】2017年1月20日
【審査請求日】2017年4月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-100548(P2016-100548)
(32)【優先日】2016年5月19日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085224
【弁理士】
【氏名又は名称】白井 重隆
(72)【発明者】
【氏名】藤橋 政人
(72)【発明者】
【氏名】西沢 真由美
(72)【発明者】
【氏名】堀内 徹
(72)【発明者】
【氏名】河邉 保雅
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−051991(JP,A)
【文献】 特開2015−196790(JP,A)
【文献】 特開2014−118521(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/071156(WO,A1)
【文献】 特開2012−224960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 17/00 − 17/56
C08B 1/00 − 37/18
C08J 3/00 − 3/28
C08J 99/00
C08K 3/00 − 13/08
C08L 1/00 − 101/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)未変性の粉末状のセルロースナノファイバーに対し、(B)分散剤を固形分換算で1〜40重量%配合してなり、かつ嵩密度が90〜200g/Lであることを特徴とする組成物製造用粉末状セルロースナノファイバー
【請求項2】
(A)未変性のセルロースナノファイバーの平均繊維径が10〜100nmである請求項1記載の組成物製造用粉末状セルロースナノファイバー
【請求項3】
(B)分散剤が、P-OH基、−COOH基、−SOH基、及び/または、それらの金属塩基、ならびにイミダゾリン基の群から選ばれた少なくとも1種が結合した分散剤である、請求項1または2に記載の組成物製造用粉末状セルロースナノファイバー
【請求項4】
(B)分散剤が、リン酸またはポリリン酸、リン酸またはポリリン酸の塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸の塩、ポリアクリル酸共重合体の塩、オレフィン(a)および不飽和カルボン酸(塩)(b)を必須構成単量体として含む共重合体、アルキルイミダゾリン系化合物、ならびに酸価とアミン価とを有する分散剤の群から選ばれた少なくとも1種である、請求項3に記載の組成物製造用粉末状セルロースナノファイバー
【請求項5】
(A)未変性のセルロースナノファイバーの分散体であって、分散媒として水を用いた該分散体中に(B)分散剤を含み、ゼータ電位が−20〜−50mVであり、さらにメディアレス分散機で分散されてなるセルロースナノファイバー分散体を乾燥することを特徴とする、請求項1〜4いずれかに記載の組成物製造用粉末状セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
分散体の乾燥が、凍結乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、あるいは噴霧乾燥である、請求項5かに記載の組成物製造用粉末状セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項7】
分散体の乾燥が、凍結乾燥である、請求項6に記載の組成物製造用粉末状セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項8】
乾燥後に、さらに粉砕を行う請求項5〜7のいずれかに記載の組成物製造用粉末状セルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4いずれかに記載の、(A)未変性のセルロースナノファイバーおよび(B)分散剤から構成される組成物製造用粉末状セルロースナノファイバー、ならびに(C)(C−1)熱可塑性樹脂、(C−2)熱硬化性樹脂および(C−3)ゴムから選ばれたマトリックス成分を主成分とする組成物。
【請求項10】
(C−1)熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
(C−2)熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリル(テレ)フタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、および熱硬化性ポリイミド樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である請求項9に記載の組成物。
【請求項12】
(C−3)ゴムが、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン− ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、およびフッ素ゴム(FKM)の群から選ばれた少なくとも1種である、請求項9に記載の組成物。
【請求項13】
固形分換算で、(A)未変性のセルロースナノファイバーが0.5〜20重量%、(B)分散剤が0.0005〜10重量%、(C)マトリックス成分が70〜99.4995重量%[ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%]である、請求項9〜12いずれかに記載の組成物。
【請求項14】
請求項9〜13いずれかに記載の組成物を成形してなる、成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末状のナノファイバー、この製造方法、ならびに粉末状ナノファイバーを樹脂などのマトリックス成分中に分散させた組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノファイバー、例えばセルロースナノファイバーを用いた樹脂組成物が多々提案されている。
しかしながら、従来のセルロースナノファイバーと樹脂とを複合化させた樹脂組成物では、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性が低いことがある。また、疎水性が比較的高い樹脂を用いた場合には、セルロースナノファイバーの樹脂中での分散性が特に低くなりやすい。
そこで、例えばセルロースナノファイバーの樹脂中での分散性を高めるために、重合性化合物とセルロースナノファイバーとを溶媒に分散させた分散液中で、この重合性化合物を重合させることにより、セルロースナノファイバーが樹脂中に均一に分散した複合樹脂組成物を得る方法(特許文献1)などが提案されている。
しかしながら、この方法では、セルロースナノファイバーの分散液中で重合性化合物を重合させるために、反応系が複雑で高コストともなる。また、得られる複合樹脂組成物自体は、溶媒中に分散しており、別途、乾燥させなければならない。
また、セルロースナノファイバーの分散性を向上させるために、当該セルロースナノファイバーに、分散剤として、樹脂親和性セグメントAとセルロース親和性セグメントBとを有し、ブロック共重合体構造またはグラジエント共重合体構造を有する分散剤を配合した組成物も提案されている(特許文献2)。しかしながら、この特許文献2の技術では、分散剤は特殊なリビングラジカル重合法で合成することが必要であり、さらに分散剤を用いてセルロースナノファイバーを有機溶媒中で解繊・分散させてから樹脂の有機溶媒溶液中に分散させることが必要で、操作・後処理が煩雑且つ精密なコントロールが必要となり、問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−105217号公報
【特許文献2】特開2014−162880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、セルロースナノファイバーなどのナノファイバーの、樹脂などのマトリックス成分中での分散性を高めることができる粉末状のナノファイバーと、その製造方法、ならびにこのナノファイバーをマトリックス成分中に均一に分散させた組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の(1)〜(19)により構成される。
(1)(A)粉末状のナノファイバーに対し、(B)分散剤を固形分換算で1〜40重量%配合してなり、かつ嵩密度が90〜200g/Lであることを特徴とする粉末状ナノファイバー。
(2)(A)ナノファイバーが、セルロースナノファイバーである(1)に記載の粉末状ナノファイバー。
(3)(A)セルロースナノファイバーの平均繊維径が10〜100nmである(2)に記載の粉末状ナノファイバー。
(4)(B)分散剤が、P−OH基、−COOH基、−SOH基、及び/または、それらの金属塩基、ならびにイミダゾリン基の群から選ばれた少なくとも1種が結合した分散剤である、(1)〜(3)いずれかに記載の粉末状ナノファイバー。
(5)(B)分散剤が、リン酸またはポリリン酸、リン酸またはポリリン酸の塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸の塩、ポリアクリル酸共重合体の塩、オレフィン(a)および不飽和カルボン酸(塩)(b)を必須構成単量体として含む共重合体、アルキルイミダゾリン系化合物、ならびに酸価とアミン価とを有する分散剤の群から選ばれた少なくとも1種である、(4)に記載の粉末状ナノファイバー。
(6)(A)ナノファイバーの分散体であって、該分散体中に(B)分散剤を含み、ゼータ電位が−20〜−50mVであり、さらにメディアレス分散機で分散されてなるナノファイバー分散体を乾燥することを特徴とする、(1)に記載の粉末状ナノファイバーの製造方法。
(7)(A)ナノファイバーが、セルロースナノファイバーである、(6)に記載の粉末状ナノファイバーの製造方法。
(8)(A)セルロースナノファイバーの平均繊維径が10〜100nmである(7)に記載の粉末状ナノファイバーの製造方法。
(9)(B)分散剤が、P−OH基、−COOH基、−SOH基、及び/または、それらの金属塩基、ならびにイミダゾリン基の群から選ばれた少なくとも1種が結合した分散剤である、(6)〜(8)いずれかに記載の粉末状ナノファイバーの製造方法。
(10)(B)分散剤が、リン酸またはポリリン酸、リン酸またはポリリン酸の塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸の塩、ポリアクリル酸共重合体の塩、オレフィン(a)および不飽和カルボン酸(塩)(b)を必須構成単量体として含む共重合体、アルキルイミダゾリン系化合物、ならびに酸価とアミン価とを有する分散剤の群から選ばれた少なくとも1種である、(9)に記載の粉末状ナノファイバーの製造方法。
(11)分散体の乾燥が、凍結乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、あるいは噴霧乾燥である、請求項(6)〜(10)いずれかに記載の粉末状ナノファイバーの製造方法。
(12)分散体の乾燥が、凍結乾燥である、(11)に記載の粉末状ナノファイバーの製造方法。
(13)乾燥後に、さらに粉砕を行う(6)〜(12)いずれかに記載の粉末状ナノファイバーの製造方法。
(14)上記(1)〜(5)いずれかに記載の、(A)ナノファイバーおよび(B)分散剤から構成される粉末状ナノファイバー、ならびに(C)(C−1)熱可塑性樹脂、(C−2)熱硬化性樹脂および(C−3)ゴムから選ばれたマトリックス成分を主成分とする組成物。
(15)(C−1)熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である、(15)に記載の組成物。
(16)(16)(C−2)熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリル(テレ)フタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、および熱硬化性ポリイミド樹脂の群から選ばれた少なくとも1種である(14)に記載の組成物。
(17)(C−3)ゴムが、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン− ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、およびフッ素ゴム(FKM)の群から選ばれた少なくとも1種である、(14)に記載の組成物。
(18)固形分換算で、(A)ナノファイバーが0.5〜20重量%、(B)分散剤が0.0005〜10重量%、(C)マトリックス成分が70〜99.4995重量%[ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%]である、(14)〜(17)いずれかに記載の組成物。
(19)上記(14)〜(18)いずれかに記載の組成物を成形してなる、成形品。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、セルロースナノファイバーなどの(A)ナノファイバーが(B)分散剤の働きにより、ナノオーダーでナノファイバーの絡み合いがほどけて、ナノファイバー本来の姿の粉末状とされているため、(C)マトリックス成分中に均一に分散し、これにより、得られる組成物の均一性、強度、弾性率、透明性、低線熱膨張性、表面外観、形状精度などを高めることが可能な組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<(A)ナノファイバー>
ナノファイバーとは、一般に直径が1〜1,000nmで長さが直径の100倍以上ある繊維の総称である。ナノファイバーの素材としては、バイオナノファイバー(セルロースナノファイバー、キチン・キトサンナノファイバー)、カーボンナノファイバー、その他のナノファイバー(炭素以外の無機ナノファイバー、有機高分子ナノファイバー)などが挙げられるが、好ましくはセルロースナノファイバーである。以下、(A)ナノファイバーに関しては、セルロースナノファイバーを例にとって詳述する。
【0008】
<セルロースナノファイバーの原料>
ここで、(A)セルロースナノファイバーの製造に使用するセルロースの原料は、繊維状、粒状などの任意の形態であってもよい。セルロース原料は、リグニンやヘミセルロースを除去した結晶セルロースが好ましい。また、市販の原料を使用してもよい。メディアレス分散機でセルロースを処理すると、セルロースは繊維の長さを保ったまま繊維同士の絡まりがほどけて細くなるが、処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることも可能である。なお、本発明において「ナノファイバー」とは、上記のように、繊維の幅がナノサイズになったものを意味する。例えばセルロースは、本発明の方法の実施により繊維同士が充分にほどけると、その直径は4〜10nm程度となる。セルロース原料ないしナノファイバーの直径(幅)は、電子顕微鏡写真により測定することができる。このような繊維は、長さはナノサイズではないが、直径(幅)がナノサイズであるので、本発明においてナノファイバーと指称する。
【0009】
<(B)分散剤>
(B)分散剤としては、P−OH基、−COOH基、−SOH基、及び/または、それらの金属塩基、ならびにイミダゾリン基の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
この(B)分散剤の具体例としては、(A)セルロースナノファイバーを分散できるものであれば、いかなるものでもよい。例えばリン酸またはポリリン酸、リン酸またはポリリン酸の塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸の塩、ポリアクリル酸共重合体の塩、オレフィン(a)および不飽和カルボン酸(塩)(b)を必須構成単量体として含む共重合体(詳細は、特開2015−196790号公報参照)、アルキルイミダゾリン系化合物(詳細は、特開2015−934号公報、特開2014−118521号公報参照)、ならびに酸価とアミン価とを有する分散剤(詳細は、特開2010−186124号公報参照)の群から選ばれた少なくとも1種などが挙げられ、特にリン酸、ポリリン酸、リン酸、もしくはポリリン酸の塩、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸の塩、ポリアクリル酸共重合体の塩などの陰イオン性分散剤が好ましい。
【0010】
このような陰イオン性分散剤としては、具体的にはピロリン酸、ポリリン酸、トリポリリン酸、テトラポリリン酸、メタリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリイタコン酸、オルトケイ酸、メタケイ酸、ホスホン酸、ポリマレイン酸共重合体、フミン酸、タンニン酸、ドデシル硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、リグニンスルホン酸、スルホン酸基結合ポリエステル及び/またはその塩が挙げられる。それらは単独重合体に限定されず、共重合体も好ましい。例えば、該ポリアクリル酸やポリメタクリル酸へ他の単量体を共重合させることも可能である。かかる単量体としては、例えば、α−ヒドロキシアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸およびそれらの塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸などの不飽和スルホン酸およびそれらの塩などが挙げられる。
【0011】
分散剤は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。好ましい分散剤は、ポリリン酸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアニリンスルホン酸 及びそれらの共重合体及び/またはその塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどの第2族元素の塩、アンモニウム塩が好ましく例示され、水に対する溶解性の点からナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩がより好ましく、カリウム塩が最も好ましい。
このような分散剤の具体例としては、東亜合成社製のA−6144(カルボン酸系分散剤)、東亜合成社製のA−6012(スルホン酸系の分散剤)、花王社製のデモールNL(スルホン酸系の分散剤)、東亜合成社製のSD−10(ポリアクリル酸系分散剤)などが挙げられる。
【0012】
なお、本発明に用いられる分散剤には、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を併用してもよい。
ここで、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとは、メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとを統括した言葉である。これらは、常法に従って製造される。即ち、一例を挙げれば、2−ブロモエチルホスホリルジクロリドと2−ヒドロキシエチルホスホリルジクロリドと2−ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させて2−メタクリロイルオキシエチル−2′−ブロモエチルリン酸を得、更にこれをトリメチルアミンとメタノール溶液中で反応させて得ることができる。
【0013】
なお、このようなポリマー或いはコポリマー〔(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体〕には既に市販されているものがあり、かかる市販品を購入して利用することもできる。この様な市販品としては、例えば、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンである、「リピジュアHM」(日本油脂株式会社製)、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチルコポリマーである、「リピジュアPMB」(日本油脂株式会社製)、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリルコポリマーである、「リピジュアNR」(日本油脂株式会社製)等が好ましく例示できる。当該(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体からなる分散剤は、セルロースナノファイバーと同様に生体適合性を有し、本発明による樹脂組成物を、医療あるいは食品用途に好適に使用できる。
【0014】
なお、本発明の(A)〜(B)成分からなるセルロースナノファイバー分散体には、クエン酸、酢酸、リンゴ酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリを少量加えてもよい。
【0015】
<分散媒>
本発明では、(A)セルロースナノファイバーと(B)分散剤とから、まず分散体(エマルジョンまたはスラリー)を調製する。この際には、分散媒が用いられる。
セルロースナノファイバー分散体の分散媒としては、水、低級アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、グリコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール)、グリセリン、アセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトアミドなどが挙げられ、これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。好ましい分散媒は、水、含水溶媒が挙げられ、特別な廃液処理設備が不要で環境汚染をしにくい水が特に好ましい。
【0016】
<分散体の組成>
本発明の分散体において、(A)セルロースナノファイバーは好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜5.0重量%、より好ましくは1.0〜3.0重量%含まれ、(B)分散剤は、セルロースナノファイバー(固形分重量)に対して好ましくは0.1〜50重量%、さらに好ましくは1〜20重量%、より好ましくは5〜20重量%含まれる。セルロースナノファイバーの分散体の分散媒の含有量は、好ましくは50〜99.9重量%、さらに好ましくは60〜99.5重量%、より好ましくは70〜99重量%である。
【0017】
なお、本発明のセルロースナノファイバー分散体は、(A)セルロースナノファイバー1重量部に対し、(B)分散剤を好ましくは固形換算で0.01〜0.4重量部、さらに好ましくは0.02〜0.3重量部、より好ましくは0.03〜0.25重量部、最も好ましくは0.05〜0.2重量部程度である。分散剤は多すぎても少なすぎてもセルロースナノファイバーの分散が充分でなく沈降を生じやすくなる。
【0018】
<(A)セルロースナノファイバー>
本発明により得られる(A)セルロースナノファイバーは、繊維径が100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、特に40nm以下である。本発明のセルロースナノファイバーは、繊維径が非常に小さく、水に分散させた場合に透明な溶液に近い外観を有し、水の中にナノファイバーが分散していることは肉眼的には認められず、透明な分散液(低濃度の場合)または透明ゲルもしくは不透明ゲル(高濃度の場合)を得ることができる。本発明の「分散体」は、水分散液、水分散ゲル、水分散ペーストなどの種々の形態が含まれる。
【0019】
なお付言すると、セルロースナノファイバーの繊維長、アスペクト比の関係は、平均繊維長が10〜1,000μm、好ましくは100〜500μm、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)(アスペクト比))は1,000〜15,000、好ましくは2,000〜10,000程度である。
ここで、本発明において、前記平均繊維径、繊維長は、電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径(n=20程度)から算出した値である。
【0020】
なお、伸びきり鎖結晶からなるセルロースナノファイバーの弾性率、強度はそれぞれ140GPaおよび3GPaに達し、代表的な高強度繊維、アラミド繊維に等しく、ガラス繊維よりも高弾性であることが知られている。しかも線熱膨張係数は1.0×10-7/℃と石英ガラスに匹敵する低さである。本発明のセルロースナノファイバーの水分散液は、ナノファイバーの分散性に優れているのでコンポジットの補強繊維としても有用である。
【0021】
<分散体の製造方法>
本発明における分散体は、セルロース、分散剤、および分散媒を機械的解繊手段に供給して、機械的解繊により、セルロースをナノファイバー化するとともに、分散剤により、安定した分散体として得られる。
機械的解繊手段としては、グラインダー、混練機、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、水中カウンターコリージョン、高速回転分散機、ビーズレス分散機、高速撹拌型のメディアレス分散機などが挙げられるが、好ましくは高速撹拌型のメディアレス分散機が最も好ましい。
メディアレス分散機は、不純物の混入が少なく、純度の高いセルロースナノファイバー分散体が得られる。
【0022】
高速攪拌型のメディアレス分散機とは、分散メディア(例えば、ビーズ、サンド(砂)、ボール等)を実質的に用いず、剪断力を利用して分散処理を行う分散機を意味する。
メディアレス分散機としては、特に限定はされないが、例えば、IKA社製 DR−PILOT2000、ULTRA−TURRAXシリーズ、Dispax−Reactorシリーズ;プライミクス株式会社製 T.K.ホモミクサー、T.K.パイプラインホモミクサー;シルバーソン社製 ハイ・シアー・ミキサー;大平洋機工株式会社製 マイルダー、キャビトロン;エムテクニック株式会社製 クレアミックス:みずほ工業株式会社製 ホモミキサー、パイプラインミキサー、日本スピンドル製造株式会社製 ジェットペースタ、寿工業(株)製 K−2等が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、メディアレス分散機としては、ロータとステータとを備える分散機が好ましく、そのような高速攪拌型のメディアレス分散機の例として、寿工業(株)製の分散機が挙げられる。この分散機は、ステータと、前記ステータの内部で回転するロータとを備える。これらのステータとロータの間には、隙間が形成されている。ロータを回転させて、ステータとロータの間に混合液を通過させることで、剪断力を与えることができる。ステータとロータの距離を、剪断部クリアランスとする。
また、分散機は、上記のものに限定されず、例えばステータ及びロータが多段階に設置されている分散機を用いてもよい。
本発明のメディアレス分散機としては、処理を均一に行う観点から、該分散機の中を混合液が循環するインライン循環式のものを用いることが好ましい。
【0024】
メディアレス分散機における剪断速度は、900,000[1/sec]を超える。剪断速度が900,000[1/sec]以下である場合には、セルロースが解繊されない。
剪断速度は、2,000,000[1/sec]以下が好ましく、1,500,000[1/sec]以下が好ましく、1,200,000[1/sec]以下がより好ましい。
また、メディアレス分散機の剪断部クリアランスは、上記の剪断速度に応じて適宜設定されるが、できるだけ小さなセルロースナノファイバー径を得る観点から、10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましく、20μm以上が更に好ましい。また、分散機の回転速度を適切な数値に保つ観点から、当該クリアランスは、100μmが以下好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下がより更に好ましい。
さらに、メディアレス分散機の回転周速は、上記剪断速度に応じて適宜設定されるが、できるだけ小さなセルロースナノファイバー径を得る観点から、18m/s以上が好ましく、20m/s以上がより好ましく、23m/s以上がより好ましい。また、最適なセルロースナノファイバー径を得る観点から、当該回転周速は、50m/sが以下好ましく、40m/s以下がより好ましく、35m/s以下がより更に好ましい。回転周速は、ロータの最先端部分の周速である。
【0025】
このように、本発明のセルロースナノファイバーの分散体は、セルロースと分散剤を含む分散体を1回〜複数回、上記のような高速撹拌型のメディアレス分散機を用いて処理することにより製造することができる。
本発明の方法により処理されて得られたセルロースナノファイバーの平均繊維径は10〜100nm程度、好ましくは10〜40nm程度、最も好ましくは15〜25nm程度である。本発明のナノファイバーは、繊維長/繊維幅(アスペクト比)が大きくて分散状態が良好であるため、強度を保ちつつ不織布のようにナノファイバーが絡み合ったフィルム・シート状に成型することが容易であり、各種の材料として好適に使用できる。本発明のセルロースナノファイバーの水分散体をフィルム・シート状にした不織布は、透明性が高い特徴がある。
【0026】
以上のようにして得られる分散体のゼータ電位(測定方法は後記)は、好ましくは−20〜−50mV、好ましくは−30〜40mVである。−20mV未満では、不均一分散となりセルロースナノファイバーが沈降する。一方−50mVを超えた場合は、セルロールナノファイバーが切断して十分なネットワーク構造が形成されずに沈降する。
【0027】
<粉末状ナノファイバーの製造方法>
本発明の粉末状ナノファイバーは、例えば(A)ナノファイバーと(B)分散剤を主成分とする分散体(エマルジョンまたはスラリー)を、凍結乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、あるいは噴霧乾燥することによって得られる。
【0028】
この製造方法では、まず、(A)セルロースナノファイバーと(B)分散剤を含む分散体を乾燥する。この乾燥工程は、分散体中の分散媒を除去するための工程である。したがって、分散体中の分散媒の種類に応じて公知の方法を採用することができる。
【0029】
分散媒の除去手段としては、分散媒の種類に応じて適切なものが選択される。例えば、分散体を室温下で放置するだけの自然乾燥でも良く、あるいは加熱乾燥、真空乾燥(減圧乾燥)、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の乾燥方法でも良い。噴霧乾燥は、前記分散体をノズルから噴出させて微細な液滴となし、次いで対流空気中で該液滴を加熱乾燥することによりなされる。特に、自然乾燥や加熱乾燥を用いる場合には、前記混合物をキャスト(流延)する等して膜状あるいはシート状に成形してからその成形体を乾燥させることが、乾燥効率の点から好ましい。
乾燥手段としては、特に得られる乾燥品の品質の劣化が少なく、また乾燥体が、微細なカットファイバー状の形態となり、その後の加工工程等での取扱いが簡便・容易である点から、凍結乾燥が好ましい
【0030】
ここで、凍結乾燥とは、上記分散体を凍結し、凍結状態のまま減圧して分散媒を昇華させることによって乾燥する手法である。凍結乾燥における分散体の凍結方法は特に限定されないが、例えば、分散体を冷媒の中に入れて凍結させる方法、分散体を低温雰囲気下に置いて凍結させる方法、分散体を減圧下に置いて凍結させる方法などがある。好ましくは、分散体を冷媒に入れて凍結させる方法である。分散体の凍結温度は、分散体中の分散媒の凝固点以下としなければならず、−50℃以下であることが好ましく、−80℃以下であることがより好ましい。
凍結乾燥において、凍結した分散体中の分散媒を減圧下で昇華させなければならない。減圧時の圧力は、100Pa以下であることが好ましく、10Pa以下であることがより好ましい。圧力が100Paを超えると凍結した分散体中の分散媒が融解してしまう可能性がある。
【0031】
本発明において、「粉末状」ナノファイバーとは、固体状の形態を有するナノファイバーが細かく砕かれた状態をいうが、本発明の「嵩密度」を満たす限り、乾燥後の固形物が膜状、シート状、立体状などいかなる形状のものも、この「粉末状」に広く包含されるものと解釈すべきであるが、後述する溶融混練過程における樹脂への分散性を考慮すると、細かく砕かれたものが好ましい。
【0032】
以上のようにして得られる分散体の固形物(乾燥品)の形態は特に制限されず、例えば、立体状、膜状、シート状、粉末状又は粒状等とすることができる。この固形物の形態は、前述した製造方法において、前記混合物からの分散媒の除去方法を適宜選択することによって調整することができる。例えば、前記分散体をキャスト(流延)して乾燥させることで膜状やシート状のゲル状体を得ることができ、また、前記分散体を噴霧乾燥することで粉末状や粒状のゲル状体を得ることができる。また、前記分散体を任意の形状の型に流し込んで乾燥することで、立体形状の乾燥物を製造することもできる。
【0033】
粉砕;
なお、本発明の粉末状ナノファイバーは、上記のようにして得られる乾燥品がシート状、粒状、膜状、立体状などの形態である場合には、粉砕機を用いて粉砕して、粉末状としてもよい。
この粉砕機としては、例えば高速回転が可能なブレードを持つ回転混合機から選択される。この高速回転式混合機は、高速回転するブレードにより生ずる衝撃やせん断力で粉砕・混合が行われるものであれば特に限定されるものではなく、公知のものでよい。例えば、ヘンシェルミキサ、スピードミキサ、カッターミキサなどが好ましいが、特に回転ブレードが鋭いカッター状になっているカッターミキサが好ましい。また、ブレードによる高速回転式混合機での混合条件は、ブレードが回転数2000rpm以上或いは周速度50m/秒以上、特に回転数3,000〜20,000rpm或いは周速度70〜115m/秒の範囲が好ましい。
【0034】
上記粉砕物は、20℃以下に冷却されながらサイクロンやバグフィルター等で回収されることが好ましい。かくして、本発明の粉末ナノファイバーを得ることができる。
なお、下記のように、(A)〜(C)成分を主成分とする本発明の熱可塑性樹脂組成物の場合は、通常の溶融押出機を通してペレット化してから押出成形、射出成形、トランスファー成形、溶融紡糸などの溶融成形をすることができる。勿論、ペレット化せずに高速回転混合機で粉砕・混合された樹脂組成物を直接成形原料とするかあるいは成形機ホッパーで粉末組成物の食い込みをよくするためコンパクターで粉末組成物を固めて溶融成形することもできる。あるいは本発明の組成物をさらに造粒して粉末成形やコーティング用材料としても用いることができる。
【0035】
本発明の粉末状セルロースナノファイバーの「嵩密度」は、通常、90〜200g/L、好ましくは95〜170g/L、さらに好ましくは100〜150g/Lである。なお、乾燥した本発明の粉末状セルロースナノファイバーは、高度にミクロフィブリル化した形態を有しており、繊維同士の絡み合いが少なく、塊状に凝集又は絡み合った繊維集合体(塊状の乾燥物)を含まない場合が多い。すなわち、本発明の粉末状セルロースナノファイバーは、通常、粉末状の形態を有している。
【0036】
<(C)マトリックス成分>
本発明の組成物に用いられる(C)マトリックス成分としては、(C−1)熱可塑性樹脂、(C−2)熱硬化性樹脂、あるいは(C−3)ゴムが挙げられる。
【0037】
(C−1)熱可塑性樹脂:
ここで、熱可塑性樹脂とは、加熱により溶融成形を行う樹脂を言う。その具体例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、および環状ポリオレフィン樹脂の群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
なお、本発明の樹脂組成物においては、(A)ナノファイバーとしてセルロースナノファイバーを用いる場合、耐熱性が充分ではない場合があるので、(C−1)熱可塑性樹脂としては、融点の比較的低い、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂のうち、ナイロン6などが特に好適に用いられる。
また、バイオマス由来のモノマーから合成される樹脂として、ポリ乳酸樹脂のほか、ポリブチレンサクシネート、ポリトリメチレンテレフタレート、バイオマス由来ポリオール、バイオマス由来ポリアミド、バイオマス由来ポリグリコール酸樹脂、バイオマス由来ポリエチレン、バイオマス由来ポリエチレンテレフタレート、バイオマス由来ポリカーボネート、およびそれらの誘導体が好適に用いられる。
さらに、上記バイオマス由来ポリアミドとしては、ポリアミド11、ポリアミド610、ポリアミド1010、ポリアミド1012およびそれらの誘導体が好ましく用いられる。
【0038】
(C−2)熱硬化性樹脂
本発明の樹脂組成物において、(C)マトリックス成分として、(C−2)熱硬化性樹脂を用いる場合には、熱硬化性樹脂は、本発明の樹脂組成物において、セルロースナノファイバーと均一に分散した状態で存在している。熱硬化性樹脂の種類に特に制限はない。熱硬化性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらの熱硬化性樹脂のうち、特にエポキシ樹脂を用いることが、セルロースナノファイバーとの均一な分散性が一層高くなる点から好ましい。
【0039】
(C−3)ゴム
使用するゴムとしては、例えば天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン− ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)など挙げられる。
なお、本発明におけるゴム組成物は、通常、セルロースナノファイバー含有マスターバッチから製造することが好ましい。具体的にはセルロースナノファイバー含有ゴムマスターバッチを加硫あるいは必要に応じてセルロースナノファイバー含有ゴムマスターバッチにゴム成分を加えた後に加硫することにより製造される。また、従来ゴム工業で使用される他の配合剤を加硫前にゴム用混練機等の公知の方法を用いて混合した後、成形し、公知の方法で加硫反応させることにより得られる。配合剤としてはシリカ粒子やカーボンブラック、繊維などの、無機、有機のフィラー、シランカップリング剤、加硫剤、ステアリン酸、加硫促進剤、加硫促進助剤、オイル、硬化レジン、ワックス、老化防止剤などを上げる事ができる。
【0040】
このうち、加硫剤としては、有機過酸化物または硫黄系加硫剤を使用することが可能である。有機過酸化物としては従来ゴム工業で使用される各種のものが使用可能であるが、中でも、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゼン及びジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼンが好ましい。また、硫黄系加硫剤としては、例えば硫黄、モルホリンジスルフィドなどを使用することができ、中でも硫黄が好ましい。これらの加硫剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ゴム組成物中の配合量としては、ゴム成分100重量部に対して硫黄の場合、通常7.0重量部以下、好ましくは6.0重量部以下である。また、有機過酸化物の場合、通常、1.0重量部以上、好ましくは3.0重量部以上、中でも4.0重量部以上である。
【0041】
加硫工程の条件は特に限定されず、ゴム成分を加硫ゴムとできる温度以上であればよい。なかでも、加熱温度は、60℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましい。なお、微細セルロース繊維の分解を抑制する点から、加熱温度は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。加熱時間は、生産性などの点から、通常、5分以上、好ましくは10分以上、更に好ましくは15分以上で、180分以下が好ましい。加熱処理は複数回にわたって、温度・加熱時間を変更して実施してもよい。
【0042】
なお、本発明の組成物において、(B)分散剤として、「(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体」を用いる場合には、(A)セルロースナノファイバーと(C)マトリックス成分(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、あるいはゴム)との親和性が一段と向上するので、(A)成分と(C)成分の両者が均一に分散した状態の樹脂組成物を得ることができる。
さらに、本発明の組成物に界面活性剤を数10〜100ppm添加することにより、コーティング膜の濡れ性、浸透性、レベリング性が向上し、塗膜表面を滑らかにすることができる。好ましい界面活性剤として、フッ素系界面活性剤(旭硝子セイミケミカル(株)製、サーフロンS−231)が挙げられる。
【0043】
<樹脂組成物中の各成分の割合>
本発明の組成物は、固形換算で、通常、セルロースナノファイバーなどの(A)ナノファイバーが0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、(B)分散剤が0.0005〜10重量%、好ましくは0.001〜5重量%、(C)マトリックス成分が70〜99.4995重量%、好ましくは85〜98.999重量%[ただし、(A)+(B)+(C)=100重量%]である。
(A)成分が0.5重量%未満では、得られる組成物の強度、寸法安定性が低下して、樹脂単体との差別化が困難となり、一方20重量%を超えると溶融粘度が高くなり得られる樹脂組成物の成形性が劣り、またセルロースナノファイバーの分散性が劣り凝集物が多く均一分散しにくくなる。
また、(B)分散剤の使用量が0.0005重量%未満では、セルロースナノファイバーなどの(A)ナノファイバーの分散体の分散が悪くなり、(C)マトリックス成分との相溶性が低下することになり、一方10重量%を超えると、マトリックス成分中に分散剤のみが溶解し、機械的特性などの物性が低下する。
さらに、(C)マトリックス成分が70重量%未満では成形性が劣り、また組成物の混練工程にて複合材が得られなくなり、一方99.4995重量%を超えるとマトリックス成分単体との差別化が困難になる。
この場合の具体例としては、(A)ナノファイバーと(B)分散剤を主成分とする粉末状のセルロースナノファイバーを、(C)マトリックス成分と混練することが挙げられる。
【0044】
<組成物の製造方法>
本発明の組成物は、上記のようにして得られる粉末状ナノファイバーと熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、あるいはゴムを用いて組成物を製造することができる。
この場合、本発明の組成物の製造方法は、(A)ナノファイバーと(B)分散剤を主成分とする粉末状ナノファイバーを、(C)マトリックス成分と混練する。
すなわち、この場合の具体例としては、(A)ナノファイバーと(B)分散剤を主成分とする分散体(エマルジョンまたはスラリー)を、凍結乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥、あるいは噴霧乾燥したのち、必要に応じて、さらに粉砕機で粉砕して粉末状セルロースナノファイバーとなし、これを(C)マトリックス成分と混練することが挙げられる。
【0045】
すなわち、上記のようにして得られる粉末状ナノファイバーと(C)マトリックス成分とを溶融混練する。
この溶融混練は、以上のようにして得られる粉末状ナノファイバーと(C)マトリックス成分とを溶融混練しながら複合化する工程である。
溶融混練装置としては、単軸押出機、二軸押出機、二軸混練機、ニーダー、バンバリーミキサー、往復式混練機(BUSS KNEADER)、ロール混練機等、公知の混練装置を使用する事ができる。これらのうち、生産性や作業の簡便性を考慮すると、単軸押出機、二軸押出機、二軸混練機、バンバリーミキサー、往復式混練機が好ましい。溶融混練装置の選定にあたって、混練機内部の密閉性が高い装置を選んだ方が、より効果的に高い分散性を有し、かつ、粗大凝集物が実質的に存在しないセルロースナノファイバー含有組成物を製造することができる。
具体的な溶融混練方法としては、例えば以下のような方法を挙げることができる。すなわち、あらかじめ、粉末状セルロースナノファイバーと(C)マトリックス成分とを、ターブラーミキサーやスーパーミキサー、スーパーフローター、ヘンシェルミキサー等で均一に混合させ、それらを単軸押出機または二軸押出機に投入し、溶融混練を行う方法、あるいは、上記粉末状セルロースナノファイバーと(C)マトリックス成分とを単軸押出機または二軸押出機で溶融混練する方法などを例示できる。なお、溶融混練工程において発生する水分その他の揮発分を除去するため、ベントの開放や、脱気設備を用いてもよい。
【0046】
本発明の組成物の製造における、溶融混練時の温度は、(C)マトリックス成分の溶融温度に応じて適宜設定されるが、例えば、70〜220℃の範囲内とされる。特に、(C)マトリックス成分としてとしてオレフィン系樹脂を用いる場合、混練温度としては、70℃〜220℃の範囲、好ましくは80℃〜220℃の範囲、さらに好ましくは85℃〜220℃、より好適には90℃〜200℃の範囲がよい。この範囲を下回る場合、混練すべき樹脂が溶融せず、実質的に製造する事が不可能である。この範囲を上回る場合、製造に供した(A)セルロースナノファイバーが熱によるダメージを受けて分子鎖の断裂、酸化劣化、変性等が発生し、機械物性を低下させるばかりでなく、不快な臭気の発生や変色につながる。
【0047】
この場合の溶融混練時間は、(A)セルロースナノファイバー、(B)分散剤および(C)マトリックス成分との分散性を確保する面から、長い方が好ましいが、生産性との兼ね合いを考えて適宜設定される。例えば、バンバリーミキサーの様なバッチ式の混練機を用いた場合、1〜100分の範囲内であれば、植物繊維の修飾と生産性を両立する事ができるが、生産性を考慮に入れなければ、これ以上の時間であっても製造は可能である。また、例えば、単軸押出機、二軸押出機、往復式混練機(BUSS KNEADER)の様な連続式の混練機を用いた場合、その滞留時間は1〜20分の範囲内であれば、分散性と生産性を両立することができるが、生産性を考慮に入れなければ、これ以上の時間であっても、あるいは混練機のパス回数を増やしても、製造は可能である。
なお、(C)マトリックス成分として、(C−2)熱硬化性樹脂を用いる場合には、この溶融混練時には、硬化触媒あるいは硬化剤を加えずに、この溶融混練時に熱硬化が生じないようにする手立てを講じる必要がある。
また、溶融混練後の粉砕機としては、ハンマーミル、カッターミル、ピンミルなどの、回転刃と固定刃を備え、回転刃が高速で回転して粉砕する方式の一般のプラスチック用粉砕機が用いられる。特に、回転式粉砕機の材料出口に一定メッシュのスクリーンを備え、粉砕物の最大粒度を所望レベル以下にそろえることができるものが好ましい。なお、この粉砕手段は、上記乾燥品にも適用される。
このようにして得られた粉砕材料は、一般に用いられる成形プロセス、すなわち圧縮成形、トランスファ成形、射出成形などに好適に使用可能である。
【0048】
<他の添加剤>
なお、本発明の組成物には、その用途に応じて従来公知の各種添加剤を含有しても良く、例えば、加水分解防止剤、着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、消泡剤、レベリング剤、光安定剤(例えば、ヒンダードアミン等)、酸化防止剤、無機フィラー、有機フィラー等をあげることができる。
【0049】
<成形>
以上のようにして得られる本発明の組成物は、各種の成形方法で成形品とされるが、成形方法は、熱可塑性樹脂組成物や熱硬化性樹脂組成物、さらにはゴム組成物により異なる面があり、以下の成形方法から適宜使い分けて成形すればよい。
すなわち、本発明の組成物から板状の製品を製造するのであれば、押し出し成形法が一般的であるが、平面プレスによっても可能である。この他、異形押し出し成形法、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法等を用いることが可能である。また、フィルム状の製品を製造するのであれば、溶融押出法の他、溶液キャスト法を用いることができ、溶融成形方法を用いる場合、インフレーションフィルム成形、キャスト成形、押出ラミネーション成形、カレンダー成形、シート成形、繊維成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、被覆成形等が挙げられる。また、活性エネルギー線で硬化する樹脂の場合、活性エネルギー線を用いた各種硬化方法を用いて成形体を製造することができる。特に、液状の熱可塑性樹脂にセルロースナノファイバーを添加する場合には、成形材料をプリプレグ化してプレスやオートクレーブにより加圧加熱する成形法が挙げられ、この他にもRTM(Resin Transfer Molding)成形、VaRTM(Vaccum assist Resin Transfer Molding)成形、FW(Filament Winding)成形、積層成形、ハンドレイアップ成形等が挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
なお、実施例中における測定項目は下記のとおりである。
[繊維径]
実施例及び比較例で得られた微小繊維について50,000倍の電界放出型電子顕微鏡(FE−SEM)写真を撮影し、撮影した写真上において、写真を横切る任意の位置に2本の線を引き、線と交差する全ての繊維径をカウントして平均繊維径(n=20以上)を算出した。線の引き方は、線と交差する繊維の数が20以上となれば、特に限定されない。さらに、繊維径の測定値から、繊維径分布の標準偏差及び最大繊維径を求めた。なお、最大繊維径が1μmを超える微小繊維の場合には、5,000倍のSEM写真を用いて算出した。
[嵩密度]
JIS K7365に記載のシリンダーならびに漏斗を用いて2回測定し、算術平均値を嵩密度とした。
【0051】
ゼータ電位の測定および分散性は下記のようにして測定した。
(ゼータ電位測定法)
以下の順序でサンプル調製及びゼータ電位の測定を行った。
サンプルを充分攪拌したのち、ディスポーザブルガラス試験管を用いて、蒸留水で希釈しセルロースナノファイバー濃度(wt%濃度)を0.01%に調整する。次いで、30分超音波処理後、下記のゼータ電位測定に供した。用いた機器及び測定条件は以下のごとくである。
測定機器:ゼータ電位・粒径測定システム (大塚電子製)
測定条件:ゼータ電位用 標準セルSOP
測定温度:25.0℃
ゼータ電位換算式:Smolchowskiの式
溶媒名:water (溶媒の屈折率・粘度・誘電率のパラメータは、大塚電子製ELSZソフトの値をそのまま適用)
システム適合性:Latex262nm標準溶液(0.001%)で規格値の範囲を超えない。
【0052】
(分散性および沈降安定性の評価方法)
得られた分散体組成物の分散性を目視で評価したのち、24時間静置して、セルロースナノファイバーの沈降の有無(CNF沈降安定性)を目視にて観察した。
分散性:
〇:分散体の色調が均一でムラがなく、かつ凝集物がない。
×:分散体が不均一で、凝集物が存在する。
沈降安定性:
〇:24時間静置後の分散体に層分離がなく、沈降を生じない。
×:24時間静置後に層分離が生じ、セルロースナノファイバーが沈降している。
【0053】
実施例1〜6、比較例1〜2
メディアレス分散機として、寿工業社製のK―2を用い、分散媒としての精製水、セルロースナノファイバーおよびスルホン酸系分散剤(東亜合成社製、アロンA−6012)を分散したスラリー状物を当該メディアレス分散機に投入して回転周速30m/sで循環させ、せん断によりセルロースの分散を促進させて、分散が安定したセルロースナノファイバーを得た。
すなわち、上記の装置を用いて、セルロースナノファイバー原料(BiNFi-s、スギノマシン製)を0.1重量%、分散剤として表1記載の分散剤を表1の配合比で含む水分散液について5回メディアレス分散処理を繰り返し、セルロースナノファイバー分散体を調製した。
その後、凍結乾燥用の容器に移して−80℃にて凍結した後、凍結乾燥機(東京理化機械(株)製、FD−1)用いて凍結乾燥した。凍結乾燥後に粉砕機を用いて粉末状のセルロースナノファイバーを得た。得られたセルロースナノファイバー分散体及びその凍結粉砕による粉体物の性状は表1のとおりであった。粉体物の嵩密度はJIS K7365に準拠して測定した。
上記にて得られた分散体のゼータ電位、分散性、沈降安定性、および粉末の嵩密度を表1に示す。


【0054】
【表1】

【0055】
実施例7〜9、比較例3
(セルロースナノファイバー粉体を熱可塑性樹脂マトリックス成分に添加する場合)
表1のうち、実施例2による粉末状のセルロースナノファイバーを、ポリ乳酸樹脂(Nature Works製、Ingeo Biopolymer 3001D)に対して1,5,10wt%になるように配合し、2軸の混練押出装置((株)プラスチック工学研究所社製「BT―30」、L/D=30)にてセルロースナノファイバーと樹脂を複合化した後、射出成形にてテストピースを成形し、JIS K7161に基づいて、力学特性を評価した。さらに複合材の流動性を、JIS K7210に基づき、島津フローテスター CFT−5000((株)島津製作所製)を用いて、バレル温度;200℃、測定荷重;700Nにて測定した。結果を表2に示す。
なお、比較例3は、セルロースナノファイバー無添加の例である。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例7〜9および比較例3の対比から、セルロースナノファイバーを添加すると、添加量に応じて流動性が低下し、引張強度、引張弾性率が向上しているが、反面、引張伸びが低下している。
このように、本発明によれば、市販の部材を用いて汎用的な操作で、セルロースナノファイバーが均一に微細分散した組成物を得ることができる。
【0058】
なお、実施例1において、セルロースナノファイバー分散体の乾燥法手段を凍結乾燥から、減圧乾燥(<20kPa×24hr)あるいは加熱乾燥(130℃×24hr)に代えた以外は、実施例7〜9と同様の操作で、樹脂組成物を調製し、射出成形にてテストピースを作製し、同様に樹脂複合体(樹脂組成物)の流動性ならびに力学的特性を評価した。
いずれの乾燥手段においても樹脂組成物の流動性、力学特性においても表1と同様の結果が得られ、セルロースナノファイバーの添加効果、ならびに分散剤の添加効果が確認できた。
【0059】
実施例10〜12、比較例4〜6
(セルロースナノファイバー粉体を熱硬化性樹脂マトリックス成分に添加する場合)
上記にて得られた実施例2のセルロースナノファイバー(分散剤を添加し、分散処理後に凍結乾燥したもの)粉末を、エポキシ樹脂(828、三菱化学(株)製)に対して1、5あるいは10重量%になるように配合し、さらに硬化剤(ジアミノジフェニルメタン(DDM)、和光純薬工業(株)製)をエポキシ樹脂に対して20重量%添加し、自動乳鉢にてセルロースナノファイバーと樹脂を複合化した。得られた樹脂混合体を80℃に加熱して粘度を下げ、キャビティ寸法:50×100mmのシリコーン型に注入し、加熱成形(150℃×4時間)にて3mmのシートを作製し、機械加工にて50×100×3mmのテストピースを作成し、複合材硬化物の曲げ強度ならびに曲げ弾性率を、JIS K7171に基づいて評価した。その結果を表3に示す(実施例10〜12)。
一方、セルロースナノファイバーを含まないエポキシ樹脂を実施例10と同様にシリコーン型にて50×100×3mmのシートを作製し、50×100×3mmのテストピースを機械加工にて作製し、曲げ特性を評価した(比較例4)。
また、分散剤を配合していない以外、実施例10に準じて調製されたセルロースナノファイバー5
【0060】
さらに、分散剤を配合した実施例10のセルロースナノファイバーの添加量を15重量%とし、実施例10と同様にしてテストピースを作製し評価した(比較例6)。
以上の結果を表4に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
表3の実施例10〜12と比較例4〜5の対比から、次のようなことが分かる。
すなわち、セルロースナノファイバーを添加していない比較例4の組成物に比べて、セルロースナノファイバーを1%添加した実施例10の組成物は、曲げ強度、曲げ弾性率が向上している。分散剤を添加していない比較例5のセルロースナノファイバーの組成物に対し、分散剤を添加した実施例11の組成物は、特に曲げ強度が比較例5に比べて大幅に向上している。これは、マトリックス成分中で、実施例11で用いたセルロースナノファイバーの分散性が分散剤により向上しているためと考えられる。実施例11に比べてセルロースナノファイバーの添加量を増やした実施例12では、曲げ強度、曲げ弾性率ともに向上している。
【0064】
一方、表4の比較例6から、ナノファイバー添加量が15wt%となると、曲げ強度が返って低下し、弾性率の値も頭打ちとなっている。これは、セルロースナノファイバーの添加量が多いと、樹脂組成物に対するセルロースナノファイバーの分散が十分ではなく、セルロースナノファイボー表面がマトリックス樹脂と十分に濡れずにセルロースナノファイバーの凝集体が生成して、成形体中で欠陥点となっていることが考えられる。このことから、本発明の組成物のうち、熱硬化樹脂をマトリックスとする場合であっても、セルロースナノファイバーの好ましい添加量としては、10重量%以下と考える。
【0065】
実施例13〜15、比較例7〜9
(セルロースナノファイバー粉体をゴムマトリックス成分に添加する場合)
上記の実施例2にて得られた粉末を天然ゴム(NR)に対して1、5あるいは10重量%になるように配合し、2本オープンロールにてセルロースナノファイバーとゴムを複合化して厚さ1mmのシートを得た。その後打抜きにて力学的特性を評価する平行部寸法が5×12mmのマイクロダンベル状引張テストピースを作製し、JIS K6251に基づいて、ゴム複合材の力学特性を評価した。その結果を表4に示す(実施例13〜15)
一方、セルロースナノファイバーを含まない天然ゴム(NR)を同様に機械加工にてテストピースを成形し、力学特性を評価した(比較例7)。
また、分散剤を配合していない以外、実施例1に準じて調製されたセルロースナノファイバー5重量%を用いて、実施例13と同様にしてテストピースを作製し、評価した(比較例8)。
以上の結果を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
表5から、次のことが分かる。
すなわち、セルロースナノファイバーを添加していない比較例7の組成物に比べて、セルロースナノファイバーを1%添加した実施例13の組成物は、引張強度が向上している。
また、分散剤を添加していない比較例8のセルロースナノファイバーの組成物に対し、分散剤を添加した実施例14の組成物は、引張強度が大幅に向上している。これは、マトリックス成分中で、実施例14で用いたセルロースナノファイバーの分散性が分散剤により向上しているためと考えられる。さらに、実施例14に比べてセルロースナノファイバーの添加量を増やした実施例15では、引張強度が大幅に向上している。
【0068】
なお、実施例2において、分散剤(アロン A−6012)をメタクロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体(リピジュアBL、日油(株)製)、あるいはアクリルカルボン酸共重合体(アロン A−6114、東亞合成(株)製)に代えた以外は、実施例7〜9、あるいは実施例13〜15と同様の操作で樹脂組成物を調製し、その後に同様の評価を行った。
セルロースナノファイバー分散体のゼータ電位、沈降安定性、粉末状のセルロースナノファイバーのかさ密度、ならびに曲げ強度、曲げ弾性率、引張強度について、実施例2と同等の結果を得たことから、いずれの分散剤においても架橋ならびにセルロースナノファイバーの添加効果が確認できた。なお、この場合の添加量、試料作成条件ならびに評価条件はすべて実施例2と同一とした。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の粉末状ナノファイバーは、樹脂への均一分散性、樹脂とのなじみ性、界面接着性に優れているので、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、あるいはゴム成分に容易に均一にブレンドすることができる。例えば、この組成物を3Dプリンタ用フィラメントとすると、各種機械部品などの試作を高精度で効率よく行える。また射出成形などの一般の樹脂成形法によりさまざまな用途の部品を得ることも出来る。例えば、産業用機械部品(例えば電磁機器筐体、医療機器部材など)、一般機械部品、自動車・鉄道・車両等部品(例えば外板、シャシー、空力部材、座席など)、船舶部材(例えば船体、座席など)、航空関連部品(例えば、座席、内装材など)、宇宙航空機・人工衛星部材(モーターケース、アンテナなど)、電子・電気部品(例えばパーソナルコンピュータ筐体、携帯電話筐体、OA機器、AV機器、その他家電製品、玩具用品など)、建築・土木材料(例えば内外装部材など)、生活用品、スポーツ・レジャー用品(例えばキャンプ用品、テニスやバトミントンのガット、各種プロテクターなど)、タイヤ、各種減衰用ゴム、保護パッドにも好適に使用することができる。
また、フィルムとして包装用途、さらにはコーティング用材料として使用することができる。

【要約】
【課題】セルロースナノファイバーなどのナノファイバーの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂あるいはゴムからなるマトリックス成分中での分散性を高めることができる粉末状ナノファイバー、この粉末状ナノファイバーをマトリックス成分(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはゴム)に配合した組成物。
【解決手段】(A)粉末状のナノファイバーに対し、(B)分散剤を固形分換算で1〜40重量%配合してなり、かつ嵩密度が90〜200g/Lである粉末状ナノファイバー、ならびにこの粉末状ナノファイバーを樹脂やゴム成分に配合した組成物。
【選択図】なし