特許第6189570号(P6189570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189570オキシフッ化イットリウム、安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末及び安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189570
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】オキシフッ化イットリウム、安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末及び安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 17/00 20060101AFI20170821BHJP
   C04B 35/553 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   C01F17/00 D
   C04B35/553
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-502743(P2017-502743)
(86)(22)【出願日】2016年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2016060240
(87)【国際公開番号】WO2017043117
(87)【国際公開日】20170316
【審査請求日】2017年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-175576(P2015-175576)
(32)【優先日】2015年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 康博
(72)【発明者】
【氏名】今浦 祥治
(72)【発明者】
【氏名】小出 将大
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−239067(JP,A)
【文献】 野々垣嘉久ほか,CaF2-YF3(YOF)系のイオン導電性と熱的安定性,セラミックス基礎科学討論会講演要旨集,日本,1994年 1月27日,第32回,p.122-123
【文献】 吉田克己ほか,YOFセラミックスの作製と評価,日本セラミックス協会年会講演予稿集,日本,2015年 3月 6日,2015年年会,p.2C33
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F1/00−17/00
C04B35/50−35/505
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaF2で表されるフッ化カルシウムで安定化された、YOFで表されるオキシフッ化イットリウムであって、25℃において、線源をCuKα1線とする2θ=10度〜90度の範囲の粉末X線回折測定に供したときに、以下の(A)又は(B)を満たすオキシフッ化イットリウム。
(A)立方晶及び菱面体晶以外のYOFに起因するXRDピークが観察されないことを前提として2θ=14度付近に観察される菱面体晶YOFの(003)面からの反射ピークが観察されない
(B)2θ=28.81度に立方晶YOFのメインピークが認められ、当該立方晶YOFのメインピークのピーク高さに対して2θ=14度付近に観察される菱面体晶YOFの(003)面からの反射ピーク高さが100分の1未満である。
【請求項2】
25℃から1000℃まで昇温速度5℃/minとするDTA測定に供した場合に、550〜600℃の範囲において、立方晶又は正方晶から菱面体晶への相転移に由来する吸熱ピークが観察されない、請求項1に記載のオキシフッ化イットリウム。
【請求項3】
25℃から1000℃まで昇降温速度5℃/minのTMA測定に供した場合に、測定範囲内に相転移に起因する寸法変化の不連続点が観測されない、請求項1又は2に記載のオキシフッ化イットリウム。
但し、寸法変化の不連続点を有するとは、昇温時又は降温時に2つの屈曲点を有することをいい、この2つの屈曲点のうち低温側をT1、高温側をT2としたときに、T1より低温側に10℃離れた点におけるTMA曲線の接線とT1とT2との中心に位置するTMA曲線の接線とが1点の交点以外に交わらず、かつ同一の傾きを有さないことをいう。
【請求項4】
イットリウムのモル数100に対してCaのモル数が8モル以上40モル以下である請求項1〜3の何れか1項に記載のオキシフッ化イットリウム。
【請求項5】
CaF2で表されるフッ化カルシウム粉末と、YOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末とを含む混合粉末からなる安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末であって、不活性雰囲気下又は真空下に1000℃以上1700℃以下で焼成されて、請求項1〜4の何れか1項に記載のオキシフッ化イットリウムを製造するために用いられる、安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末
【請求項6】
フッ化カルシウム粉末の平均粒子径D50が10μm以上100μm以下であり、オキシフッ化イットリウム粉末の平均粒子径D50が1μm以上20μm以下である、請求項5に記載の安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末。
【請求項7】
CaF2で表されるフッ化カルシウム粉末と、YF3で表されるフッ化イットリウム粉末、及び、Y23で表される酸化イットリウム粉末とを含む混合粉末からなる安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末であって、焼成して、YF3及びY23からYOFで表されるオキシフッ化イットリウムを生成させ、次いで不活性雰囲気下又は真空下に1000℃以上1700℃以下で焼成されて、請求項1〜4の何れか1項に記載のオキシフッ化イットリウムを製造するために用いられる、安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末
【請求項8】
フッ化カルシウム粉末の平均粒子径D50が10μm以上100μm以下であり、フッ化イットリウム粉末の平均粒子径D50が1μm以上20μm以下であり、酸化イットリウム粉末のD50が1μm以上20μm以下である、請求項7に記載の安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末。
【請求項9】
CaF2で表されるフッ化カルシウム粉末と、YOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末とを含む混合粉末の成形体を、不活性雰囲気下又は真空下に、1000℃以上1700℃以下で焼成する工程を含む、安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法。
【請求項10】
CaF2で表されるフッ化カルシウム粉末と、YF3で表されるフッ化イットリウム粉末、及び、Y23で表される酸化イットリウム粉末とを含む混合粉末の成形体を焼成して、YF3及びY23からYOFで表されるオキシフッ化イットリウムを生成させ、次いで
不活性雰囲気下又は真空下に、1000℃以上1700℃以下で焼成する工程を含む、安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定化合物を用いることにより立方晶の結晶構造が安定化されたオキシフッ化イットリウム、該安定化オキシフッ化イットリウムを製造するための原料粉末、及び該安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキシフッ化イットリウムは、従来、インク製造のための燐光性材料や、高融点の反応性金属を鋳造するための金型等の種々の用途に用いられてきた(特許文献1及び2)。またオキシフッ化イットリウムは、これを溶射材料として用いると、得られる溶射膜のハロゲン系プラズマへの耐性が高いことが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2009/158564A1
【特許文献2】US4057433B
【特許文献3】US2015/096462A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
YOFで表されるオキシフッ化イットリウムは通常、室温下では菱面体晶の結晶構造をとり、600℃超の高温時に立方晶又は正方晶の結晶構造をとり、高温からの冷却時に550〜600℃で立方晶又は正方晶から菱面体晶への相転移を示すことが知られている。この相転移は体積変化を伴うため、オキシフッ化イットリウム中で、冷却時に相転移に伴う応力が発生する。オキシフッ化イットリウムを室温から600℃超の高温に加熱する場合も、同様の相転移による応力が発生する。例えばオキシフッ化イットリウムが膜状又はバルク状のように体積変化による歪みの影響が大きな形状であると、この応力が割れやクラックの原因となってしまう。
【0005】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得るオキシフッ化イットリウムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、オキシフッ化イットリウムの安定化にCaFで表されるフッ化カルシウムを用いることで、驚くべきことに、オキシフッ化イットリウムにおける温度変化に対する結晶相の相転移が効果的に抑制されることを見出した。
【0007】
本発明は上記知見に基づくものであり、CaFで表されるフッ化カルシウムで安定化された、YOFで表されるオキシフッ化イットリウムを提供するものである。
【0008】
また本発明は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末と、YOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末とを含む混合粉末からなる、安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末を提供するものである。
【0009】
また本発明は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末と、YFで表されるフッ化イットリウム粉末、及び、Yで表される酸化イットリウム粉末とを含む混合粉末からなる、安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末を提供するものである。
【0010】
また本発明は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末と、YOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末とを含む混合粉末の成形体を、不活性雰囲気下又は真空下に、800℃以上1700℃以下で焼成する工程を含む、安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法を提供するものである。
【0011】
また本発明は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末と、YFで表されるフッ化イットリウム粉末、及び、Yで表される酸化イットリウム粉末とを含む混合粉末の成形体を焼成して、YF及びYからYOFで表されるオキシフッ化イットリウムを生成させ、次いで
不活性雰囲気下又は真空下に、800℃以上1700℃以下で焼成する工程を含む、安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のオキシフッ化イットリウムによれば、加熱時又は冷却時における立方晶又は正方晶と菱面体晶との間の相転移が効果的に防止される。これにより、本発明のオキシフッ化イットリウムは焼結体や溶射膜等とした場合の加熱時又は冷却時における割れやクラックが効果的に防止される。また本発明の安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末を用いることで、前記のオキシフッ化イットリウムを好適に製造できる。更に、本発明の安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法によって、前記のオキシフッ化イットリウムを好適に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例3で得られた安定化オキシフッ化イットリウムを室温から1000℃まで昇温したときの示差熱分析(differential thermal analysis : 以下DTAという)のチャートである。
図2】実施例3で得られた安定化オキシフッ化イットリウムを室温から1000℃まで昇温し、続いて1000℃から常温まで冷却したときの熱機械的分析(Thermomechanical Analysis、以下TMAという)のチャートである。
図3】実施例3で得られた安定化オキシフッ化イットリウムの粉末X線回折測定による結果を示すチャートである。
図4】比較例1で得られたオキシフッ化イットリウムを室温から1000℃まで昇温したときのDTAチャートである。
図5】比較例1で得られたオキシフッ化イットリウムを室温から1000℃まで昇温し、続いて1000℃から常温まで冷却したときのTMAチャートである。
図6】比較例1で得られたオキシフッ化イットリウムの粉末X線回折測定による結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
本発明のオキシフッ化イットリウムは、YOFで表される。本発明におけるオキシフッ化イットリウムは、イットリウム(Y)、酸素(O)、フッ素(F)からなる化合物であってイットリウム(Y)、酸素(O)、フッ素(F)のモル比がY:O:F=1:X:Yであって、Xが0.9以上1.1以下、Yが0.9以上1.1以下である化合物である。好ましくは、X又はYが1であり、さらに好ましくはX及びYは1である。
【0015】
本発明のオキシフッ化イットリウムは、安定化剤として、CaFで表されるフッ化物を用いて安定化されていることを特徴の一つとする。
【0016】
本発明のオキシフッ化イットリウムが安定化されているとは、550℃未満の低温相におけるオキシフッ化イットリウムの立方晶の状態が、オキシフッ化イットリウム純品に比べて安定化されていることをいう。例えばCaFによって安定化されている本発明のオキシフッ化イットリウムは、25℃において立方晶の結晶相を有している。本発明において、オキシフッ化イットリウムが安定化していることは、例えば以下の3つの方法のいずれか1つで確認されればよい。
【0017】
1つ目の方法としては、オキシフッ化イットリウムを、常温、例えば25℃において2θ=10度〜90度の範囲の粉末X線回折測定に供する方法が挙げられる。図3下段に示す立方晶のYOFのXRDパターンと、図6中段に示す菱面体晶YOFのXRDパターンとを比較して明らかな通り、2θ=10度〜90度の範囲の立方晶のYOFのピークはいずれも菱面体晶のピークと近接しているため、菱面体晶のピークとの判別がつきにくい場合が多い。このためオキシフッ化イットリウムを前記の粉末X線回折測定に供したときにYOFが安定化しているか否かの判断においては、菱面体晶の特定ピークが存在しているか否かという点を中心に判断する。特定ピークとは2θ=14度付近に観察される菱面体晶YOFの(003)面からの反射ピークである。そしてオキシフッ化イットリウムにおいて、立方晶及び菱面体晶以外のYOFに起因するXRDピークが観察されないことを前提として菱面体晶における上記の特定ピーク強度が観察されないか、又は特定ピークが特定条件を満たすようにごく小さく観察される場合、オキシフッ化イットリウムが安定化しているといえる。
上記の特定条件とは、2θ=28.81度に立方晶YOFのメインピークが認められ、
当該立方晶YOFのメインピークのピーク強度に対して菱面体晶の当該特定ピークの強度が100分の1未満であることをいう。なお、ここでいうピーク強度の比は、ピーク高さの比として測定される。
なお、XRD測定によるYOFのピーク位置及びピーク反射面指数は、ICDDカードの記載に基づく。
【0018】
2つ目の方法としては、オキシフッ化イットリウムを、25℃から1000℃まで昇温速度5℃/minとするDTA測定に供する方法が挙げられる。
この場合に、550〜600℃の範囲において、立方晶又は正方晶から菱面体晶への相転移に由来する吸熱ピークが観察されない場合、オキシフッ化イットリウムが安定化していると確認できる。DTA測定は具体的には後述する実施例に記載の方法にて行うことができる。
【0019】
3つ目の方法としては、オキシフッ化イットリウムを、1000℃から25℃まで降温速度5℃/minのTMA測定に供する方法が挙げられる。この場合に、測定範囲内に相転移に起因する寸法変化の不連続点が観測されないことにより確認することができる。本発明における寸法変化の不連続点を有するとは、TMA測定の昇温時または降温時少なくともいずれかの場合において、2つの屈曲点が認められることをいう。
より明確には以下のように判断する。例えば図5の比較例1のTMA測定において昇温時において、屈曲点が400℃から600℃において2つ認められる。TMA曲線について不連続点を有するとは、この2つの屈曲点のうち低温側をT1,高温側をT2としたときに、例えばT1より低温側に10℃離れた点におけるTMA曲線の接線とT1とT2との中心に位置するTMA曲線の接線とが1点の交点以外に交わらず、かつ同一の傾きを有さないことをいう。
TMA測定は具体的には後述する実施例に記載の方法にて行うことができる。
【0020】
上記で挙げた3つの方法のうち、いずれか1つの方法で本発明のオキシフッ化イットリウムが安定化されていることが確認されれば、オキシフッ化イットリウムが安定化されていると定義する。
【0021】
本発明のオキシフッ化イットリウムは、CaFで表されるフッ化物がYOFで表されるオキシフッ化イットリウムに固溶してなる固溶体であることが好ましい。この固溶体の存在は、例えば、オキシフッ化イットリウムにおいて元素Ca及びフッ素が存在することを条件として、2θ=10度〜90度の範囲を走査範囲とし、線源をCuKα1線とする粉末X線回折測定にオキシフッ化イットリウムを供した場合に、CaFで表されるフッ化物に由来するピークが観察されないことにより確認できる。元素Ca及びフッ素の存在は、蛍光エックス線分析法等により確認できる。また、前記の粉末X線回折測定は後述する実施例に記載の方法にて行う。
【0022】
本発明のオキシフッ化イットリウムは、前記の走査範囲及び前記の線源の粉末X線回折測定においてCaFで表されるフッ化物に由来するピークが観察されないことが好ましい。しかしながら本発明の効果が損なわれない範囲において、前記のフッ化物の一部がオキシフッ化イットリウム中に固溶していない形態で存在していてもよい。例えば本発明のオキシフッ化イットリウムを前記の粉末X線回折測定に供した時に、本発明の効果が損なわれない範囲において、CaFで表されるフッ化物に由来するピークが観察されていてもよい。
【0023】
本発明のオキシフッ化イットリウムは、イットリウム(Y)のモル数100に対してCaのモル数が10モル以上40モル以下であることが好ましい。元素Caを15モル以上含有することにより、立方晶又は正方晶から菱面体晶への相転移がより一層効果的に抑制される。また、イットリウム(Y)のモル数に対するCaのモル数が40モル以下であることにより、オキシフッ化イットリウム中に固溶せずに析出するCaFで表されるフッ化物の量を抑制でき、このフッ化物の存在によるオキシフッ化イットリウムの物性への影響を抑制できる。例えばCaFは熱膨張係数がYOFよりも高いため、その析出量の低減によって加熱時におけるオキシフッ化イットリウムの体積変化を防止しうる。これらの観点から、イットリウム(Y)のモル数100モルに対してCaのモル数の割合は、15モル以上35モル以下であることがより好ましく、15モル以上30モル以下であることが特に好ましく、15モル以上25モル以下であることがとりわけ好ましい。オキシフッ化イットリウムにおけるイットリウム(Y)のモル数及びCaのモル数は以下の方法により測定できる。
すなわち、蛍光エックス線法、ICP−AES法、ICP−MS法、原子吸光法等の分析方法によるCa、Yの定量分析結果からのモル濃度計算により測定することが可能である。
【0024】
本発明のオキシフッ化イットリウムは、粉末状であってもよく、顆粒状であってもよく、バルク状であってもよく、膜状であってもよく、緻密質のものでも、多孔質のものであってもよい。バルク状とは、肉眼視して外形を認識し得る大きさを有する形状のことであり、例えば、長さ、幅、厚みの三つの次元のうち、少なくとも一つの次元の寸法が1mm以上である形状をいう。バルク状のオキシフッ化イットリウムは例えば焼結体であってもよく、結晶体であってもよい。また膜状とは、長さ、幅、厚みの三つの次元のうち、長さ及び幅よりも厚みが小さいものをいい、厚みが1mm以下のものをいう。
【0025】
バルク状であるオキシフッ化イットリウムは、例えば後述する安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法により焼結体として好適に製造することができる。
【0026】
また膜状のオキシフッ化イットリウムは、例えば後述する安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法により得られた焼結体ないし焼成物を粉砕することにより粉末材料を得、この粉末材料を、溶射法、エアロゾルデポジション法、PVD(物理的蒸着法)法、イオンプレーティング法等の成膜方法に供することより成膜することができる。ここでいう焼結体とはバルク状であるものを指す。一方焼成物は、焼結体のみならず、粉末状であるものも含む。溶射方法としては、フレーム溶射、高速フレーム溶射、爆発溶射、レーザー溶射、プラズマ溶射、レーザー・プラズマ複合溶射等が挙げられる。
【0027】
また粉末状のオキシフッ化イットリウム、及び、これを造粒してなる顆粒状のオキシフッ化イットリウムは、これらを原料として用いることで、上述のように膜状のオキシフッ化イットリウムを形成でき、この膜状のオキシフッ化イットリウムについて相転移の抑制による耐久性向上効果を得ることが可能である。
【0028】
特に本発明のオキシフッ化イットリウムがバルク状及び/又は膜状のように体積変化に基づく歪みの影響が大きな形状であると、本発明のオキシフッ化イットリウムにおいて相転移が抑制されていることによる割れやクラックの防止すなわち耐久性の向上効果を直接的に享受できるため好ましい。とりわけ本発明のオキシフッ化イットリウムを焼結体等のバルク状とすると、耐ハロゲン系プラズマ性が高く且つ耐久性が確保されたバルク体として、半導体製造装置の構成部材として好適に用いることができるため好ましい。
【0029】
次に、本発明の安定化オキシフッ化イットリウムの好適な製造用原料粉末について説明する。本発明では、安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末として、後述する第1の原料粉末及び第2の原料粉末のいずれも好適に用いることができる。第1の原料粉末及び第2の原料粉末におけるYOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末の結晶構造としては、菱面体晶または、正方晶が挙げられ、入手しやすさの点から菱面体晶が好ましい。
【0030】
第1の原料粉末は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末と、YOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末とを含む混合粉末からなる。本発明の効果の高い安定化オキシフッ化イットリウムを製造する観点から、第1の原料粉末中、フッ化カルシウム粉末の量は、CaFのモル数がオキシフッ化イットリウム粉末におけるYOFのモル数100モルに対して、8モル以上40モル以下となる量であることが好ましく、10モル以上35モル以下となる量であることがより好ましく、15モル以上30モル以下となる量であることが更に好ましく、15モル以上25モル以下となる量であることが更に一層好ましい。
【0031】
第1の原料粉末は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末及びYOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末以外の他の成分を含有していてもよいが、この原料粉末を用いた安定化オキシフッ化イットリウムの耐久性や耐プラズマ性を高める観点から、第1の原料粉末中の前記フッ化物粉末及び前記オキシフッ化イットリウム粉末の合計含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。第1の原料粉末中の前記の合計含有量の割合は高ければ高いほど好ましい。
【0032】
本発明の効果をより確実に得る観点や、混合均一性確保の観点から、YOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末の平均粒子径D50は、1μm以上20μm以下であることが好ましく、2μm以上10μm以下であることがより好ましい。また本発明の効果をより確実に得る観点や、混合均一性確保の観点から、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末の平均粒子径D50は、10μm以上100μm以下であることが好ましく、20μm以上50μm以下であることがより好ましい。これらの平均粒子径D50の測定は超音波処理による前処理を行ってから測定する。測定はレーザー回折・散乱式粒度分布測定法により行うことができ、具体的には後述の方法により測定することができる。
【0033】
第2の原料粉末は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末と、YFで表されるフッ化イットリウム粉末、及び、Yで表される酸化イットリウム粉末とを含む混合粉末からなる。YFとYとの反応により、YOFで表される粉末を効率良く生成する観点から、第2の原料粉末中、Yで表される酸化イットリウム粉末の含有量は、該粉末中のYのモル数が、フッ化イットリウム粉末におけるYFのモル数100に対し、95モル以上105モル以下であることが好ましく、99モル以上101モル以下であることがより好ましく、99.9モル以上100.1モル以下であることが更に好ましい。また、本発明の効果の高い安定化オキシフッ化イットリウムを製造する観点から、第2の原料粉末中、フッ化カルシウム粉末の量は、該粉末中のCaFのモル数が、YFで表されるフッ化イットリウム粉末及びYで表される酸化イットリウム粉末中に含まれるイットリウム原子の合計モル数100に対して、8モル以上40モル以下であることが好ましく、10モル以上35モル以下であることがより好ましく、15モル以上30モル以下であることが更に好ましく、15モル以上25モル以下であることが更に一層好ましい。
【0034】
第2の原料粉末は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末、YFで表されるフッ化イットリウム粉末、及び、Yで表される酸化イットリウム粉末以外の他の成分を含有していてもよいが、この原料粉末を用いて製造された安定化オキシフッ化イットリウムの耐久性や耐プラズマ性を高める観点から、第2の原料粉末中の前記のフッ化物粉末及び前記のフッ化イットリウム粉末及び前記の酸化イットリウム粉末の合計含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。第2の原料粉末中の前記の合計含有量の割合は高ければ高いほど好ましい。
【0035】
本発明の効果をより確実に得る観点や、混合均一性確保の観点から、前記のフッ化イットリウム粉末の平均粒子径D50は、1μm以上20μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。また酸化イットリウム粉末のD50は、1μm以上20μm以下であることが好ましく、3μm以上10μm以下であることがより好ましい。またフッ化カルシウム粉末の平均粒子径D50の好ましい範囲としては、第1の原料粉末におけるフッ化カルシウム粉末の平均粒子径D50の好ましい範囲と同様の範囲が挙げられる。測定はレーザー回折・散乱式粒度分布測定法により行うことができ、具体的には後述の方法により測定することができる。
【0036】
本発明では、これらの本発明の安定化オキシフッ化イットリウム製造用原料粉末を後述の焼成工程に付すことにより、CaFで表されるフッ化カルシウムで安定化されたYOFで表されるオキシフッ化イットリウムを好適に得ることができる。
【0037】
続いて、本発明の安定化オキシフッ化イットリウムの好適な製造方法について説明する。本発明の安定化オキシフッ化イットリウムの製造方法は、以下に述べる第1の方法及び第2の方法のいずれも用いることができる。
【0038】
第1の方法は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末と、YOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末とを含む混合粉末の成形体を、不活性雰囲気下又は真空下に焼成する工程を含む。
【0039】
前記の混合粉末としては、上述した第1の原料粉末を好適に用いることができる。第1の原料粉末についても上記で説明した事項は全て当該混合粉末に当てはまる。
【0040】
混合粉末の成形体を得る方法としては、例えば、金型プレス法、ラバープレス(静水圧プレス)法、シート成型法、押し出し成型法、鋳込み成形法等を用いることができる。
【0041】
得られた成形体を不活性雰囲気下又は真空下に焼成する。不活性雰囲気としては、窒素やアルゴンを用いることができる。
焼成温度は、1000℃以上1700℃以下とする。焼成温度を1000℃以上とすることにより、前記フッ化物のオキシフッ化イットリウムへの固溶を確実に行わせることができる。また焼成温度を1700℃以下とすることにより、オキシフッ化物の分解又は変性を抑制したり、焼結体のクラック発生を抑制することができる。この観点から、焼成温度は、1000℃以上1700℃以下が好ましく、1000℃以上1600℃以下がより好ましい。焼成時間は2時間以上24時間以下が好ましく、4時間以上12時間以下がより好ましい。
【0042】
焼成は、加圧下における焼成であってもよく、無加圧下における焼成であってもよい。加圧する場合、具体的な焼成時の加圧法としては、ホットプレス、パルス通電加圧(SPS)、熱間等方圧加圧(HIP)等が挙げられる。また、加圧下で焼成する際の加圧力を10MPa以上40MPa以下とすると、プレス型の破損を抑えつつ、緻密で耐プラズマ性の高い焼結体が得やすいため好ましい。
【0043】
第2の方法は、CaFで表されるフッ化カルシウム粉末と、YFで表されるフッ化イットリウム粉末、及び、Yで表される酸化イットリウム粉末とを含む混合粉末の成形体を焼成して、YF及びYからYOFで表されるオキシフッ化イットリウムを生成させ、次いで不活性雰囲気下又は真空下に焼成する工程を含む。
当該混合粉末としては、上述した第2の原料粉末を好適に用いることができる。第2の原料粉末についても上記で説明した事項は全て当該混合粉末に当てはまる。
【0044】
混合粉末の成形体を得る方法としては、第1の製造方法と同様の方法が挙げられる。
【0045】
第2の方法では、得られた成形体を焼成して、YF及びYからYOFで表されるオキシフッ化イットリウムを生成させる。この時の焼成雰囲気としては、大気等の含酸素雰囲気下、真空及び不活性雰囲気下のいずれであってもよい。不活性雰囲気の例としては、第1の方法にて述べた不活性雰囲気の例と同様のものを用いることができる。特に真空及び不活性雰囲気下であると、次の段階の高温焼成と連続で実施可能との観点から好ましい。
また焼成温度としては800℃以上であることが、オキシフッ化イットリウムを効率良く生成する観点から好ましい。また1000℃以下であることが、生成したYOFが、酸素が存在する雰囲気化で酸化されることを防止する観点から好ましい。これらの観点から、焼成温度は、820℃以上980℃以下であることが、より好ましく、850℃以上950℃以下であることが、特に好ましい。焼成時間は0.5時間以上4時間以下が好ましく、1時間以上2時間以下がより好ましい。
【0046】
焼成は、加圧下における焼成であってもよく、無加圧下における焼成であってもよい。
【0047】
次いで上記の焼成で得られた焼成物を、不活性雰囲気下又は真空下に焼成する。不活性雰囲気下とするために用いる不活性ガスとしては、第1の方法で述べたものと同様のものを用いることができる。
焼成温度は、1000℃以上1700℃以下とすることが好ましい。焼成温度を1000℃以上とすることにより、前記フッ化物のオキシフッ化イットリウムへの固溶を確実に行わせることができる。また焼成温度を1700℃以下とすることにより、オキシフッ化物の分解又は変性を抑制したりクラックの発生を抑制することができる。この観点から、焼成温度は、1000℃以上1700℃以下が好ましく、1000℃以上1600℃以下がより好ましい。また焼成時間は2時間以上24時間以下が好ましく、4時間以上12時間以下がより好ましい。
【0048】
焼成は、加圧下における焼成であってもよく、無加圧下における焼成であってもよい。加圧する場合、具体的な焼成時の加圧法としては、第1の方法で述べた加圧法と同様の方法が挙げられる。また、加圧下で焼成する際の加圧力を10MPa以上40MPa以下とすると、プレス型の破損を抑えつつ、緻密で耐プラズマ性の高い焼結体が得やすいため好ましい。
【0049】
以上の第1及び第2の何れの方法によっても、焼結体である本発明の安定化オキシフッ化イットリウムを好適に得ることができる。このようにして得られたバルク状の安定化オキシフッ化イットリウムは、エッチング装置における真空チャンバー及び該チャンバー内における試料台やチャック、フォーカスリング、エッチングガス供給口といった半導体製造装置の構成部材の内壁材に好適に用いることができる。また安定化オキシフッ化イットリウムは半導体製造装置の構成部材以外にも各種プラズマ処理装置、化学プラントの構成部材の用途に用いることができる。また、上述したようにバルク状の安定化オキシフッ化イットリウムを粉砕した粉末状のものは、膜状の安定化オキシフッ化イットリウムの原料として好適に用いられ、得られる膜状の安定化オキシフッ化イットリウムは、半導体製造装置のコーティング用途、特にエッチング装置等の半導体製造装置におけるチャンバー内壁をコーティングする用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0051】
〔実施例1〕
YOF粉末(菱面体晶、平均粒子径D502.8μm)と、このYOF粉末のモル数100に対し10モルの量のCaF粉末(平均粒子径D5033.5μm)とを混合して混合粉末を得た。この混合粉末を、金型に入れた。金型は平面視円形であり、寸法はφ25mmであった。成形法として油圧プレスを用い、65MPaの圧力で0.5分間一軸加圧することにより成形体を得た。得られた成形体を、Ar雰囲気下、1400℃で4時間、焼成した。これにより安定化オキシフッ化イットリウムである焼結体を得た。
なお、平均粒子径は以下の方法にて測定したものである(以下同様)。
<平均粒子径D50の測定方法>
日機装株式会社製マイクロトラックHRAにて測定した。測定の際には、分散媒として2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、マイクロトラックHRAの試料循環器のチャンバーに、スラリー状の試料を適正濃度であると装置が判定するまで添加した。このスラリー状の試料は、粉末1gをビーカーに入った0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液100mlに添加し、これを日機装社製の超音波ホモジナイザー(出力25W)にセットして2分間超音波分散処理を行うことにより調製した。
【0052】
相転移の確認を行うため、得られた焼結体を下記のDTA測定及びTMA測定に供した。DTA測定は25℃から1000℃までの昇温により実施した。得られたDTAチャートにおいて、550〜600℃の範囲に、吸熱ピークが観察されるか否かを確認した。その結果を表1に示す。
TMA測定は、25℃から1000℃までの昇温、および1000℃から25℃まで降温の往復で測定を実施した。このTMA測定により得られたTMAチャートにおいて、寸法変化の不連続点が確認されたものを、相転移「有」とし、確認されなかったものを相転移「無」とした。その結果を表1に示す。
【0053】
また得られた焼結体について下記の方法にて、25℃下での粉末XRDを測定した。得られたXRDチャートから、2θ=14度付近の菱面体晶YOFのピークの有無等を確認し、これによりYOFの結晶が立方晶であるか、菱面体晶であるかを特定した。また得られたXRDチャートから、CaFに由来するピークが観察されるか否かを確認した。それらの結果を表1に示す。なお実施例1で得られた焼結体のXRDチャートによれば2θ=14度付近の菱面体晶YOFのピークは観察されなかった。
【0054】
<DTAの測定条件>
測定装置:DTG−60H(メーカー:島津製作所)、雰囲気:Air、温度プログラム:測定範囲;25℃〜1000℃、昇温速度;5℃/min、リファレンス:成分アルミナで行った。サンプル量は60mgとした。
【0055】
<TMAの測定方法>
測定装置:TMA8310(メーカー:リガク)に焼結体であるテストピース(長さ20mm、幅5mm、厚さ5mm)をセットした。Air雰囲気下、25℃から1000℃まで昇降温速度5℃/分の速度で昇降温し、この間のテストピースの長さ方向における寸法を測定し、試験前の寸法との寸法差(μm)を求めた。荷重は5.0mNとした。
【0056】
<XRDの測定方法>
焼結体の一部を、乳鉢と乳棒を用いて粉砕して粉末を得、この粉末について、XRDの測定を行った。測定機器として装置名:MiniFlex600、メーカー:リガクを用いた。測定条件は、ターゲットCu、線源CuKα1線、管電圧40kV、管電流15mA、走査速度20°/min、走査範囲2θ=3°〜90°とした。
【0057】
〔実施例2〜7、比較例4〕
CaF粉末の量を、YOF粉末のモル数100に対して下記表1の量に変更した以外は、実施例1と同様にして焼結体を製造し、これを評価した。その結果を表1に示す。実施例3の焼結体について、DTA測定により得られたDTAチャートを図1に、TMA測定により得られたTMAチャートを図2に太い線として、XRD測定により得られたXRDチャートを図3に示す。なお実施例2〜7で得られた焼結体のXRDチャートによれば2θ=14度付近の菱面体晶YOFのピークは観察されなかった。また、図2において細い実線で記載したTEMP曲線は、TMA測定でのそれぞれの時間における試料温度を、右側のスケールにより示している。
【0058】
〔比較例1及び2〕
CaF粉末に代えて、LiF粉末を、YOF粉末のモル数100に対して下記表1の量で用いた以外は、実施例1と同様にして焼結体を製造し、これを評価した。その結果を表1に示す。また、比較例1で得られた焼結体について、実施例1と同様のDTA測定、TMA測定及びXRD測定をそれぞれ行って得られたチャートを図4図6としてそれぞれ示す。なお図2と同様、図5における太い線は、TMA測定により得られたTMAチャートであり、細い実線で記載したTEMP曲線は、TMA測定でのそれぞれの時間における試料温度を、右側のスケールにより示している。
【0059】
〔比較例3〕
CaF粉末に代えて、YF粉末を、YOF粉末のモル数100に対して下記表1の量で用いた以外は、実施例1と同様にして焼結体を製造し、これを評価した。その結果を表1に示す。なお、下記表1において「-」は未実施を表す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1から明らかな通り、各実施例で得られたオキシフッ化イットリウムの焼結体においては、DTA測定において、降温時に菱面体晶から立方晶へ相転移する場合に観察される吸熱ピークが観察されなかった。またTMA測定において、昇温時での立方晶から菱面体晶へ相転移する場合に観察される寸法変化の不連続点が観察されなかった。また表1から明らかな通り、各実施例で得られたオキシフッ化イットリウムの焼結体においては、25℃において立方晶となっており、オキシフッ化イットリウムの菱面体晶に由来するX線回折ピークや、CaFに由来するX線回折ピークは観察されなかった。
以上の結果から明らかな通り、カルシウムのフッ化物を用いて安定化された各実施例のオキシフッ化イットリウムは、高温から常温へ冷却する際に、立方晶から菱面体晶への相転移が効果的に抑制されていることが判る。このようなオキシフッ化イットリウムの焼結体は、この相転移に起因する割れやクラックが効果的に防止される。
これに対し、CaFの代わりに一価元素であるリチウムのフッ化物を用いて得られた比較例1のオキシフッ化イットリウムでは、DTA測定、TMA測定及びXRD測定において相転移が確認された。比較例2のオキシフッ化イットリウムでもTMA測定及びXRD測定において相転移が確認された。また、CaFの代わりに三価元素であるイットリウムのフッ化物を用いて得られた比較例3では、YOFではない別の組成からなるオキシフッ化イットリウムが生成してしまい、YOFの安定化はできなかった。
【0062】
〔実施例8〜10〕
YF粉末(平均粒子径D505.7μm)と、このYF粉末のモル数100に対し表2に示すモル数のY粉末(平均粒子径D503.1μm)と、このYF粉末及びY粉末の合計モル数(YFで表されるフッ化イットリウム粉末のモル数及びYで表される酸化イットリウム粉末中に含まれるイットリウム原子のモル数の合計)100に対し表2に示すモル数のCaF粉末(平均粒子径D5033.5μm)とを混合して混合粉末を得た。この混合粉末から、実施例1と同様にして成形体を得た。得られた成形体を、Ar雰囲気下、900℃で2時間焼成した。続いて、この焼成体をAr雰囲気下1400℃で4時間焼成した。なお、この2段階の焼成は1回の焼成バッチにおいて連続的に行った。以上のようにして焼結体を得た。得られた焼結体について、実施例1と同様の評価に供した。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
表2から明らかな通り、CaF粉末と、YFで表されるフッ化イットリウム粉末、及び、Yで表される酸化イットリウム粉末とを含む混合粉末を原料とした場合も、CaF粉末と、YOFで表されるオキシフッ化イットリウム粉末とを含む混合粉末を原料とした場合と同様に、立方晶から菱面体晶への相転移がCaFにより効果的に抑制されたオキシフッ化イットリウムが得られることが判る。このようなオキシフッ化イットリウムの焼結体は、この相転移に起因する割れやクラックが効果的に防止される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6