特許第6189584号(P6189584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189584
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】ガラス板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 17/06 20060101AFI20170821BHJP
【FI】
   C03B17/06
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-136123(P2012-136123)
(22)【出願日】2012年6月15日
(62)【分割の表示】特願2011-542396(P2011-542396)の分割
【原出願日】2011年9月29日
(65)【公開番号】特開2012-167016(P2012-167016A)
(43)【公開日】2012年9月6日
【審査請求日】2014年9月22日
【審判番号】不服2016-7670(P2016-7670/J1)
【審判請求日】2016年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-223085(P2010-223085)
(32)【優先日】2010年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆之
(72)【発明者】
【氏名】城森 幹夫
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 三崎 仁
【審判官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−269998(JP,A)
【文献】 特開平5−124826(JP,A)
【文献】 特許第5023241(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体において溶融ガラスを分流させて流下させた後、合流ポイントにおいて合流させてガラス板を成形し、鉛直方向下方に流下させる、ガラス板の製造方法であって、
前記ガラス板は、両端部が中央部より板厚が厚く、前記成形体下方近傍に、前記ガラス板に対向するように複数対の断熱部材を配置し、前記複数対の断熱部材において、前記ガラス板の幅方向中央部に対向する前記断熱部材の間の間隔は、前記ガラス板の幅方向両端部に対向する前記断熱部材の間の間隔より小さく、前記断熱部材はその対向面が、前記ガラス板と前記断熱部材との間隔が均一になるように、前記ガラス板の前記幅方向中央部と前記幅方向両端部との板厚変動に対応した形状になっていることを特徴とする、
ガラス板の製造方法。
【請求項2】
前記断熱部材はその対向面が、前記ガラス板と前記断熱部材との間隔が近接するように、前記ガラス板の板厚変動に対応した形状になっていることを特徴とする、
請求項1に記載のガラス板の製造方法。
【請求項3】
前記断熱部材は、前記ガラス板の中央部と両端部に対応し、且つ独立した各部材を有していることを特徴とする、
請求項1または2に記載のガラス板の製造方法。
【請求項4】
前記各部材は、前記ガラス板に対して離間接近することを特徴とする、
請求項3に記載のガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記断熱部材は、前記成形体と、前記ガラス板の端部を冷却して幅方向の収縮を抑制するための冷却ロールとの間に配置されていることを特徴とする、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【請求項6】
前記断熱部材の下方に、前記ガラス板の端部を冷却して幅方向の収縮を抑制するための冷却ロール、または、端部冷却装置が配置されていることを特徴とする、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板の製造方法の一つとして、ダウンドロー法が用いられている。ダウンドロー法では、成形体からオーバーフローした溶融ガラスが、分流して成形体の表面に沿って流下する。次に、溶融ガラスは、成形体の下端部で合流して、ガラス板に成形される。成形されたガラス板は、下方に搬送されながら徐冷される。徐冷工程において、ガラス板は、粘性域から粘弾性域を経て弾性域へと推移する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、ダウンドロー法を用いるガラス板の製造装置では、一般的に、成形体が設置され、ガラス板が成形される空間である成形体収容部と、成形体の直下に位置し、成形されたガラス板が幅方向に所定の温度分布を有する状態で粘性域から粘弾性域まで冷却される空間である成形ゾーンの上流側とが、断熱性の仕切り板によって仕切られている。仕切り板は、成形体収容部から成形ゾーンへの熱移動を抑制して、成形体収容部と成形ゾーンとの間に必要な温度差を設けるために配置される。高い断熱性を持つ仕切り板によって、成形体収容部の高温雰囲気が効率的に維持されるので、溶融ガラスを低粘度の状態とし、溶融ガラスが成形体の表面に拡がって「濡れ」状態をつくり、成形体の表面上での溶融ガラス流の幅の縮小を防止することができる。また、ガラスが成形体を離れた後の成形ゾーンでは、低温雰囲気と冷却ロールによって、ガラス板の幅方向両端部が効率的に冷却されるので、まだ粘性域にあるガラス板が表面張力によって幅方向に収縮することが抑えられる。従って、仕切り板は、ガラス板の幅方向の収縮を抑えるために重要である。
【0004】
また、成形体収容部で成形されたガラス板の厚みは、一般的に、幅方向中央部より幅方向両端部の方が大きい。そのため、特許文献1(米国特許出願公開第2003/121287号明細書)に開示されているように、一枚板で成形された一対の仕切り板でガラス板を挟む場合、少なくとも、ガラス板の厚みが最も厚い幅方向両端部が仕切り板に触れないように、一対の仕切り板の間の隙間の大きさを設定する必要がある。しかし、この隙間が大きければ大きいほど、この隙間を介して成形体収容部と成形ゾーンとの間で熱交換が行われるので、成形体収容部と成形ゾーンとの間の温度差を十分に確保するのが難しくなるという問題が発生する。
【0005】
このように、成形体収容部と成形ゾーンとの間に仕切り板を設け、熱管理を行う技術は従来から行われている。
【0006】
一方、近年、液晶表示装置用ガラス基板においては、ガラスの板厚偏差や、反り、歪等の要求されるスペック(品質)が厳しくなっている。
【0007】
ダウンドロー法においてガラス板を製造する場合、ガラスの板厚偏差や、反り、歪を低減するために、予め、流れ方向および幅方向の雰囲気の温度プロファイルが設計されており、設計された温度プロファイルとなるように、雰囲気の熱管理を行う。
【0008】
近年の厳しい要求スペックを満たすためには、設計された温度プロファイルの精度を高める必要があり、そのため、熱管理の精度を高める必要がでてきた。
【0009】
本発明の課題は、ダウンドロー法によってガラス板を製造するにあたり、熱管理の精度を高めることができるように改善されたガラス板の製造装置および熱管理の精度を高めてガラス板を製造する方法を提供することである。
【0010】
より具体的には、熱管理の精度を高めることによりガラス板の幅の収縮を抑え、均一な厚みのガラス板を高歩留まりで得ることができるガラス板の製造方法、そのガラス板の製造方法を用いて製造されるガラス板、ガラス板の幅の収縮を抑え、均一な厚みのガラス板を高歩留まりで得ることができるガラス板の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るガラス板の製造方法は、成形体において溶融ガラスを分流させて流下させた後、合流ポイントにおいて合流させてガラス板を成形し、鉛直方向下方に流下させる、ガラス板の製造方法である。このガラス板の製造方法では、成形体下方近傍に、ガラス板に対向するように断熱部材を配置し、断熱部材は、その対向面が、ガラス板と断熱部材との間隔が実質的に均一になるように、ガラス板の板厚変動に対応した形状になっている。
【0012】
ダウンドロー法によるガラス板の製造方法では、溶融ガラスが成形体の表面を流下し、合流ポイントで合流し、ガラス板を形成する成形体収容部と、成形されたガラス板を冷却して所要の粘度にする空間である成形ゾーンとの間に、温度差を十分に設けることが望ましい。高温雰囲気の成形体収容部から成形ゾーンへの熱移動を抑えるために、一般的に、断熱性の断熱部材が設けられている。これにより、成形体収容部の高温雰囲気が効率的に維持されるので、成形体の表面を流れる溶融ガラスが低粘度の状態となり、溶融ガラスが成形体の表面に拡がって「濡れ」状態をつくる。その結果、成形体の表面上での溶融ガラスの流れが幅方向に収縮することを抑えることができる。また、成形体から離れたガラス板が、表面張力によって幅方向に収縮することを抑えることができる。
【0013】
本発明に係るガラス板の製造方法では、成形体下方近傍に、ガラス板に対向するように断熱部材が配置されている。断熱部材の対向面は、ガラス板と断熱部材との間隔が実質的に均一になるように、ガラス板の板厚変動に対応した形状になっている。この断熱部材により、ガラス板と断熱部材との間の隙間の開口面積が小さくなるので、成形体収容部から成形ゾーンへの熱移動をできるだけ抑えることができる。従って、本発明に係るガラス板の製造方法では、ガラス板の幅の収縮を抑え、均一な厚みのガラス板を高歩留まりで得ることができる。
【0014】
また、断熱部材は、その対向面が、ガラス板と断熱部材との間隔が近接するように、ガラス板の板厚変動に対応した形状になっていることが好ましい。この断熱部材により、ガラス板と断熱部材との間の隙間の開口面積がより効率的に小さくなるので、成形体収容部から成形ゾーンへの熱移動をより効果的に抑えることができる。
【0015】
また、ガラス板は、両端部が中央部より板厚が厚いことが好ましい。
【0016】
また、断熱部材は、ガラス板の中央部と両端部に対応し、且つ独立した各部材を有していることが好ましい。
【0017】
また、各部材は、ガラス板に対して離間接近することが好ましい。
【0018】
また、断熱部材は、成形体と、ガラス板の端部を冷却して幅方向の収縮を抑制するための冷却ロールとの間に配置されていることが好ましい。
【0019】
また、断熱部材の下方に、ガラス板の端部を冷却して幅方向の収縮を抑制するための冷却ロール、または、端部冷却装置が配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、ダウンドロー法によってガラス板を製造するにあたり、熱管理の精度を高めることができるように改善されたガラス板の製造装置および熱管理の精度を高めてガラス板を製造する方法を提供することができる。
【0021】
より具体的には、ガラス板の幅の収縮を抑え、均一な厚みのガラス板を高歩留まりで得ることができるガラス板の製造方法、そのガラス板の製造方法を用いて製造されるガラス板、ガラス板の幅の収縮を抑え、均一な厚みのガラス板を高歩留まりで得ることができるガラス板の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ガラス板製造装置の概略構成図である。
図2】成形装置の断面概略構成図である。
図3】成形装置の側面概略構成図である。
図4】仕切り部材の上面概略図である。
図5】仕切り部材の側面概略図である。
図6】ガラス板を挟む一対の仕切り部材を平面視した場合の概略図である。
図7】変形例Bにおける、仕切り部材の側面概略図である。
図8】変形例Gにおける、仕切り部材の第2仕切り板の上面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)全体構成
最初に、本発明の実施形態に係るガラス板製造装置100の概略構成について説明する。図1に示されるように、ガラス板製造装置100は、溶解槽200と、清澄槽300と、成形装置400とから構成される。溶解槽200では、ガラスの原料が溶解され溶融ガラスが生成される。溶解槽200で生成された溶融ガラスは、清澄槽300へ送られる。清澄槽300では、溶融ガラス中に存在する気泡の除去が行われる。清澄槽300で気泡が除去された溶融ガラスは、成形装置400へ送られる。成形装置400では、オーバーフローダウンドロー法によって、溶融ガラスからガラス板Gが連続的に成形される。その後、成形されたガラス板Gは、徐冷され、所定の大きさのガラス板に切断される。ガラス板は、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのフラットパネルディスプレイのガラス基板として用いられる。
【0024】
次に、成形装置400の詳細な構成について説明する。
【0025】
(2)成形装置の詳細構成
成形装置400は、成形体10と、仕切り部材20と、冷却ローラ30と、断熱板40a,40b,・・・と、送りローラ50a,50b,・・・と、温度制御ユニット60a,60b,・・・とから構成される。また、成形装置400は、図2および図3に示されるように、仕切り部材20より上方の空間である成形体収容部410と、仕切り部材20直下の空間である成形ゾーン42aと、成形ゾーン42aの下方の空間である徐冷ゾーン420とを有する。徐冷ゾーン420は、複数の徐冷空間42b,42c,・・・を有する。成形ゾーン42a、徐冷空間42b、徐冷空間42c、徐冷空間42d、・・・は、この順番で鉛直方向上方から下方に向かって積層している。
【0026】
(2−1)成形体
成形体10は、図2に示されるように、略楔状の断面形状を有する部材である。成形体10は、略楔状の尖端が下端に位置するように、成形体収容部410に配置される。図3に示されるように、成形体10の上端面には、溝12が形成されている。溝12は、成形体10の長手方向に形成されている。溝12の一方の端部には、ガラス供給管14が設けられている。溝12は、ガラス供給管14が設けられる一方の端部から他方の端部に近づくに従って、徐々に浅くなるように形成されている。
【0027】
(2−2)仕切り部材
仕切り部材20は、成形体10の下端の近傍に配置される板状の断熱材である。仕切り部材20は、その下端の高さ位置が、成形体10の下端の高さ位置から、成形体10の下端から50mm下方の高さ位置までの範囲にくるように、配置されている。仕切り部材20は、図2に示されるように、ガラス板Gの厚み方向両側に配置される。仕切り部材20は、成形体収容部410と成形ゾーン42aとを仕切ることにより、成形体収容部410から成形ゾーン42aへの熱移動を抑制する。
【0028】
仕切り部材20は、1枚の第1仕切り板20aと、2枚の第2仕切り板20b,20cとから構成される。第1仕切り板20aおよび第2仕切り板20b,20cは、セラミックファイバーで形成される。第2仕切り板20b,20cは、それぞれ、第1仕切り板20aのガラス板Gの幅方向の両端に、近接配置される。例えば、図4および図5に示されるように、第2仕切り板20b,20cは、それぞれ、第1仕切り板20aのガラス板Gの幅方向の両端に隣接して配置される。第1仕切り板20aは、図示されない成形装置400のケーシングに、梁などで固定されている。第2仕切り板20b,20cは、ガラス板Gの厚み方向に沿って移動可能に配置されている。第2仕切り板20b,20cを移動させることで、第2仕切り板20b,20cとガラス板Gとの間の距離を調節することができる。本実施形態では、ガラス板Gと仕切り部材20との間の間隔が10mm〜50mmとなるように、第1仕切り板20aの位置があらかじめ固定され、かつ、第2仕切り板20b,20cの位置が調節される。
【0029】
断熱材である仕切り部材20により、成形体収容部410と成形ゾーン42aとを仕切るのは、成形体収容部410と成形ゾーン42aとの各々において、空間内の温度について両空間が互いに影響しあわないように温度制御を行うためである。例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造においては、成形体収容部410を1200〜1300℃あるいはそれ以上の温度雰囲気保持、下部空間を400〜700℃(例えば、600〜700℃)の温度雰囲気に保持するためである。
【0030】
例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造において、上部空間において1200℃〜1300℃あるいはそれ以上の温度雰囲気に保持するのは、溶融ガラスを低粘度の状態とし、溶融ガラスが成形体の表面に拡がって「濡れ」状態をつくり、成形体10の表面上での溶融ガラス流の幅の縮小を防止するためである。
【0031】
一方、例えば、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造において下部空間を400〜700℃(例えば、600℃〜700℃)の温度雰囲気に保持するのは、成形体10によって溶融ガラス流が合流した直後に、速やかに温度を下げて粘度を高めることにより、溶融ガラスに作用する表面直力による溶融ガラスの幅方向の収縮を抑制するためである。
【0032】
(2−3)冷却ローラ
冷却ローラ30は、成形ゾーン42aにおいて、仕切り部材20の近傍に配置される。冷却ローラ30は、ガラス板Gの厚み方向両側に配置される。
【0033】
(2−4)断熱板
断熱板40a,40b,・・・は、冷却ローラ30の下方、かつ、ガラス板Gの厚み方向両側に配置される板状の断熱材である。断熱板40a,40b,・・・は、ガラス板Gと断熱板40a,40b,・・・との間の間隔が10mm〜50mmとなるように、位置があらかじめ調節されて配置されている。断熱板40aは、成形ゾーン42aと徐冷空間42bとの間に配置される。断熱板40aは、成形ゾーン42aと徐冷空間42bとの間の熱移動を抑制する。また、断熱板40b,40c・・・は、隣接する2つの徐冷空間42b,42c,・・・の間に配置される。例えば、図2に示されるように、断熱板40bは、徐冷空間42bと徐冷空間42cとの間に配置される。断熱板40bは、徐冷空間42bと徐冷空間42cとの間の熱移動を抑制する。
【0034】
(2−5)送りローラ
送りローラ50a,50b,・・・は、それぞれ、徐冷空間42b,42c,・・・に配置され、ガラス板Gの厚み方向両側に設置される。例えば、送りローラ50aは徐冷空間42bに配置され、送りローラ50bは徐冷空間42cに配置される。
【0035】
(2−6)温度制御ユニット
温度制御ユニット60a,60b,・・・は、それぞれ、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・に配置され、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・の雰囲気温度を測定して制御する。温度制御ユニット60a,60b,・・・は、ガラス板G近傍の雰囲気温度がガラス板Gの幅方向に所定の温度分布(以下、「温度プロファイル」という)を形成するように、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・の雰囲気温度を制御する。温度制御ユニット60a,60b,・・・は、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・の温度プロファイルを適切に制御することによって、徐冷ゾーン420でガラス板Gを均一に徐冷する。
【0036】
(3)動作
(3−1)
成形装置400でガラス板Gが成形される過程について説明する。
【0037】
溶解槽200で生成され、清澄槽300で気泡が除去された溶融ガラスは、成形装置400の成形体収容部410に送られる。成形体収容部410では、ガラス供給管14を介して、成形体10の溝12に溶融ガラスが供給される。溝12に貯留されオーバーフローした溶融ガラスは、成形体10の短手方向に分流して、成形体10の両側面に沿いながら流下する。流下した溶融ガラスは、成形体10の下端部で合流する。合流した溶融ガラスは、ガラス板Gに連続的に成形されて下方に流下する。
【0038】
成形体収容部410で成形されたガラス板Gは、成形ゾーン42aおよび徐冷ゾーン420に送られる。
【0039】
ガラス板Gは、徐冷ゾーン420の送りローラ50a,50b,・・・によって引き下げられる。送りローラ50a,50b,・・・によって引き下げられるガラス板Gは、その上流側の成形ゾーン42aにある、周速が送りローラ50a,50b,・・・よりも遅く設定され、かつ、冷却された金属製の冷却ローラ30でその両端近くのみを挟持されることによって、ガラス自体の表面張力と、送りローラ50a,50b,・・・による下方への張力によって、その板幅が縮まろうとするのをある程度抑制される。
【0040】
成形ゾーン42aおよび徐冷ゾーン420では、温度制御ユニット60a,60b,・・・によって、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・の温度プロファイルが制御される。具体的には、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・の雰囲気温度が測定されて、所定の温度プロファイルが実現されるように、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・の雰囲気温度が制御される。
【0041】
具体的には、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・において、ガラス板Gの幅方向において、所定の温度プロファイルとすることにより、ガラス板Gの板厚を均一化し、反り、歪みを低減することができる。
【0042】
また、成形ゾーン42aおよび徐冷空間42b,42c,・・・において、ガラス板Gの流れ方向において、所定の温度プロファイルとすることにより、ガラス板Gの熱収縮率を低減することができる。
【0043】
(3−2)
第2仕切り板20b,20cを、ガラス板Gの厚み方向に沿って移動させることで、第1仕切り板20aと第2仕切り板20b,20cの相対位置を変更する過程について説明する。図6は、成形体収容部410で成形されたガラス板Gを挟む一対の仕切り部材20を平面視した図である。
【0044】
一般的に、成形体収容部410から成形ゾーン42aへの熱移動を抑えるために、仕切り部材20とガラス板Gとの間の隙間をできるだけ小さくすることが望ましい。しかし、成形体収容部410で成形されたガラス板Gは、幅方向の両端部が膨らんだ断面形状を有している。本実施形態では、図6に示されるように、第1仕切り板20aを、ガラス板Gの厚みに応じてガラス板Gにできるだけ接近するように固定すると共に、第2仕切り板20b,20cを、ガラス板Gの幅方向両端部の形状に応じてガラス板Gにできるだけ接近するように移動させる。すなわち、ガラス板Gの断面形状に応じて、第2仕切り板20b,20cの位置を調節することで、仕切り部材20とガラス板Gとの間の隙間をできるだけ小さくする。このとき、厚みが大きいガラス板Gの幅方向両端部に対向する一対の第2仕切り板20b,20cの間の隙間より、厚みが小さいガラス板Gの幅方向中央部に対向する一対の第1仕切り板20aの間の隙間の方が小さくなるように、第2仕切り板20b,20cの位置を調節する。これにより、一対の仕切り部材20の間の隙間の開口面積を小さくする。
【0045】
(4)特徴
(4−1)
本実施形態に係るガラス板製造装置100では、仕切り部材20は、1枚の第1仕切り板20aと、2枚の第2仕切り板20b,20cとから構成される。第1仕切り板20aは固定して配置され、第2仕切り板20b,20cは移動可能に配置される。
【0046】
成形体収容部410で成形されたガラス板Gの厚みは、ガラス板Gの幅方向で異なる。一般的に、ガラス板Gの幅方向両端部の厚みは、幅方向中央部の厚みよりも大きい。第1仕切り板20aは、ガラス板Gの幅方向中央部の表面と対向するように配置される。第2仕切り板20b,20cは、それぞれ、ガラス板Gの幅方向両端部の表面と対向するように配置される。第1仕切り板20aは、ガラス板Gの厚さに応じて所定の位置に予め固定され、第2仕切り板20b,20cは、ガラス板Gの幅方向両端部の形状に応じて移動される。具体的には、第2仕切り板20b,20cは、第2仕切り板20b,20cとガラス板Gとの間の隙間ができるだけ小さくなるように、水平方向に位置が調節される。これにより、成形体収容部410と成形ゾーン42aとを仕切る一対の仕切り部材20の間の隙間の開口面積が小さくなるので、成形体収容部410から成形ゾーン42aへの熱移動を効率的に抑えることができるので、成形体収容部410と成形ゾーン42aとの間に温度差を十分に設けることができる。すなわち、成形体収容部410の雰囲気温度を高温に維持することができると共に、徐冷ゾーン420の雰囲気温度が成形体収容部410によって上昇することを抑えることができる。
【0047】
従って、本実施形態に係るガラス板製造装置100では、成形体収容部410の高温雰囲気が効率的に維持されるので、成形体10の表面を流れる溶融ガラスが低粘度の状態となり、溶融ガラスが成形体10の表面に拡がって「濡れ」状態をつくる。その結果、成形体10の表面上での溶融ガラスの流れが幅方向に収縮することを抑えることができる。また、成形体10から離れて何物にも触れることなく冷却されるガラス板Gが、表面張力によって幅方向に収縮することを抑えることができる。すなわち、本実施形態に係るガラス板製造装置100では、ガラス板Gの幅の収縮を抑え、均一な厚みのガラス板Gを高歩留まりで得ることができる。
【0048】
(4−2)
本実施形態に係るガラス板製造装置100では、第1仕切り板20aおよび第2仕切り板20b,20cは、セラミックファイバーで形成される。セラミックファイバーは、高い耐熱性と高い断熱性を有するので、成形体収容部410と成形ゾーン42aとの間に温度差を十分に設けるための仕切り部材20の材質として適している。
【0049】
(5)変形例
(5−1)変形例A
本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法を用いてガラス板Gを成形する成形装置400を備えるガラス板製造装置100について説明したが、ガラス板製造装置100は、スロットダウンドロー法を用いてガラス板を成形する成形装置を備えてもよい。
【0050】
(5−2)変形例B
本実施形態では、図5に示されるように、第2仕切り板20b,20cは、それぞれ、第1仕切り板20aのガラス板Gの幅方向の両端に隣接して配置されているが、図7に示されるように、第2仕切り板20b,20cは、それぞれ、第1仕切り板20aのガラス板G幅の方向の両端部と、一部が重なり合うように配置されてもよい。
【0051】
(5−3)変形例C
本実施形態では、第1仕切り板20aは固定して配置され、第2仕切り板20b,20cはガラス板Gの厚み方向に沿って移動可能に配置されるが、第1仕切り板20a、第2仕切り板20b,20cの少なくとも1つが、ガラス板Gの厚み方向に沿って移動可能に配置されていればよく、例えば、第2仕切り板20b,20cが固定して配置され、第1仕切り板20aが移動可能に配置されてもよい。
【0052】
(5−4)変形例D
本実施形態では、仕切り部材20は、1枚の第1仕切り板20aと2枚の第2仕切り板20b,20cの3枚の仕切り板から構成されているが、仕切り部材20は、5枚または7枚など、より多くの仕切り板から構成されていてもよい。
【0053】
本変形例では、ガラス板Gの断面形状に応じて、仕切り部材20の形状をより詳細に変更することができる。これにより、仕切り部材20とガラス板Gとの間の隙間をより小さくすることができ、成形体収容部410から成形ゾーン42aへの熱移動をより効率的に抑えることができる。従って、本変形例では、ガラス板Gの幅方向の収縮をより効率的に抑えることができる。
【0054】
(5−5)変形例E
本実施形態では、仕切り部材20は、1枚の第1仕切り板20aと2枚の第2仕切り板20b,20cから構成されているが、同様に、断熱板40a,40b,・・・も、複数の板状の部品から構成され、かつ、一部の部品がガラス板Gの厚み方向に移動可能に配置されてもよい。
【0055】
本変形例では、徐冷空間42b,42c,・・・を下方に送られるガラス板Gの断面形状に応じて、断熱板40a,40b,・・・の形状を変更することができる。例えば、断熱板40bとガラス板Gとの間の隙間をできるだけ小さくするために、断熱板40bを構成する一部の部品をガラス板Gの厚み方向に移動させる。これにより、断熱板40bに隣接する徐冷空間42bと徐冷空間42cとの間の熱移動を抑制することができる。従って、本変形例では、徐冷空間42b,42c,・・・の雰囲気温度が上方から下方に向かって徐々に低下するように制御することで、徐冷ゾーン420でガラス板Gを効果的に徐冷することができる。
【0056】
(5−6)変形例F
本実施形態では、仕切り部材20は、1枚の第1仕切り板20aと2枚の第2仕切り板20b,20cから構成されているが、ガラス板Gの板厚変動に対応した1枚の仕切り板から構成されていてもよい。
【0057】
(5−7)変形例G
本実施形態では、仕切り部材20は、1枚の第1仕切り板20aと2枚の第2仕切り板20b,20cから構成され、第2仕切り板20b,20cは、ガラス板Gの幅方向両端部の表面と対向するように配置されているが、図6に示すように、第2仕切り板20b,20cは、ガラス板Gの幅を超えて配置されているので、ガラス板Gが流下しない部分は、一対の第2仕切り板20b,20cの端面に挟まれた空間となっている。そこで、第2仕切り板は、この空間を低減するように、さらに、2枚の仕切り小板から構成されていてもよい。
【0058】
本変形例では、図8に示されるように、仕切り部材120は、1枚の第1仕切り板120aと2枚の第2仕切り板120b,120cとから構成され、かつ、第2仕切り板120bは、さらに、第1仕切り小板120b1と第2仕切り小板120b2とから構成され、かつ、第2仕切り板120cは、さらに、第1仕切り小板120c1と第2仕切り小板120c2とから構成される。第2仕切り板120bにおいて、第1仕切り小板120b1は、第2仕切り小板120b2と、ガラス板Gの幅方向に連結されている。また、第1仕切り小板120b1は、第1仕切り板120aと、ガラス板Gの幅方向に連結されている。すなわち、第1仕切り小板120b1は、第1仕切り板120aと、第2仕切り小板120b2との間に配置される。第2仕切り板120cに関しても、第2仕切り板120bと同様に、第1仕切り小板120c1は、第1仕切り板120aと、第2仕切り小板120c2との間に配置される。
【0059】
本変形例では、図8に示されるように、第2仕切り板120b,120cの第1仕切り小板120b1,120c1は、ガラス板Gの幅方向両端部の表面と対向するように配置される。また、第2仕切り板120b,120cの第2仕切り小板120b2,120c2の一方は、他方の第2仕切り小板120b2,120c2と対向するように配置される。一対の第2仕切り小板120b2,120c2は、互いの端面が接している状態、又は、互いの端面が非常に近接している状態で配置される。これにより、一対の仕切り部材120とガラス板Gとの間の隙間の開口面積をより効果的に小さくすることができるので、成形体収容部410から成形ゾーン42aへの熱移動をより効率的に抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係るガラス板の製造方法は、ガラス板の幅の収縮を抑え、均一な厚みのガラス板を高歩留まりで得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
10 成形体
12 溝
14 ガラス供給管
20 仕切り部材(断熱部材)
20a 第1仕切り板
20b 第2仕切り板
20c 第2仕切り板
30 冷却ローラ
40a,40b,・・・ 断熱板
42a 成形ゾーン
42b,42c,・・・ 徐冷空間
50a,50b,・・・ 送りローラ
60a,60b,・・・ 温度制御ユニット
100 ガラス板製造装置
200 溶解槽
300 清澄槽
400 成形装置
410 成形体収容部
420 徐冷ゾーン
G ガラス板
【先行技術文献】
【特許文献】
【0062】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/121287号明細書
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8