(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189595
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】低アディポネクチン血症治療剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/23 20060101AFI20170821BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20170821BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20170821BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20170821BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20170821BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
A61K36/23
A61P3/04
A61P3/10
A61P9/04
A61P35/00
A61P43/00 105
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-557962(P2012-557962)
(86)(22)【出願日】2012年2月14日
(86)【国際出願番号】JP2012053329
(87)【国際公開番号】WO2012111643
(87)【国際公開日】20120823
【審査請求日】2015年2月3日
【審判番号】不服2016-8595(P2016-8595/J1)
【審判請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-28932(P2011-28932)
(32)【優先日】2011年2月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592196156
【氏名又は名称】株式会社アミノアップ化学
(73)【特許権者】
【識別番号】503376909
【氏名又は名称】前田 和久
(73)【特許権者】
【識別番号】511039577
【氏名又は名称】上山 泰男
(73)【特許権者】
【識別番号】511039588
【氏名又は名称】伊藤 壽記
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(74)【代理人】
【識別番号】100111464
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】前田 和久
(72)【発明者】
【氏名】上山 泰男
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 壽記
【合議体】
【審判長】
蔵野 雅昭
【審判官】
村上 騎見高
【審判官】
松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/015950号(WO,A1)
【文献】
国際公開第2006/082743号(WO,A1)
【文献】
特開2005−350432号公報(JP,A)
【文献】
特開2003−26694号公報(JP,A)
【文献】
特開2011−12011号公報(JP,A)
【文献】
日本栄養・食糧学会九州・沖縄支部大会講演要旨集,2008年,Vol.2008,p.13
【文献】
Pharma Medica,2002年,Vol.20 No.12,pp.81−85
【文献】
J. Agric. Food Chem.,2003年,Vol.51,pp.5255−5261
【文献】
J. Agric. Food Chem.,2007年,Vol.55,pp.8404−8410
【文献】
Food Chem. Toxicol.,2010年,Vol.48,pp.937−943
【文献】
Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol.,2000年,Vol.20,pp.1595−1599
【文献】
Biochem. Biophys. Res. Commun.,1999年,Vol.257,pp.79−83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-36/9068
A61K 31/00-33/44
REGISTRY/CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMedPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボタンボウフウを有効成分とする低アディポネクチン血症治療剤。
【請求項2】
低アディポネクチン血症に、肥満、糖尿病、心不全及び癌からなる群より少なくとも1種選択される疾患が合併している、
ことを特徴とする請求項1に記載の低アディポネクチン血症治療剤。
【請求項3】
低アディポネクチン血症に、癌が合併している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の低アディポネクチン血症治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
低アディポネクチン血症治療剤、飲食品、及び飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
アディポネクチンは、脂肪細胞から特異的に分泌されるアディポサイトカインの一種である。肥満に伴って、脂肪細胞からのアディポネクチン分泌が低下することが報告されている。また、アディポネクチン分泌低下により、動脈硬化、糖尿病等が引き起こされること、アディポネクチンがメタボリックシンドロームのバイオマーカーとなることが報告されている。
【0003】
近年、アディポネクチンは、メタボリックシンドロームのみならず、生活習慣病型癌やアンチエイジングにおけるバイオマーカーとしても注目されつつある(非特許文献1)。さらに、低アディポネクチン血症が発癌のリスクとなること(非特許文献2)、アディポネクチンが長寿遺伝子を活性化すること(非特許文献3)が報告されている。
【0004】
これまでに、アディポネクチン分泌を促進させる効果を有する植物の抽出物がいくつか見出され、報告されている。例えば、特許文献1には、オリーブ葉エキスを有効成分とするアディポネクチン産生促進剤が記載されている。また、特許文献2には、ナツメグの実の抽出物を有効成分とするアディポネクチン産生促進剤が記載されている。
【0005】
ボタンボウフウ(Peucedanum japonicum)は、セリ科カワラボウフウ属に属する多年草であり、九州南部から沖縄の海岸沿いに自生する植物である。別名、「長命草(登録商標)」や「サクナ」とも呼ばれる。沖縄では古くから、滋養強壮、肝機能強化等に効果的な食材として使われてきた。
【0006】
ボタンボウフウは、様々な生理活性を有することが報告されている。例えば、非特許文献4には、がん抑制作用、特許文献3には、二糖類分解酵素阻害作用、特許文献4には、抗酸化作用、細胞賦活作用、及びメラニン産生抑制作用が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−273938号公報
【特許文献2】特開2007−261993号公報
【特許文献3】特開2003−26694号公報
【特許文献4】特開2004−26697号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Maeda K.,Journal of Traditional Medicines Vol.28,No.1,39−42(2011)
【非特許文献2】Yamaji T.et al,Cancer Res. 2010 Jul 1;70(13):5430−7.
【非特許文献3】Iwabu M.et al,Nature 2010 Apr 29;464(7293):1313−9
【非特許文献4】Morioka T.et al,Cancer Letters,2004,Vol.205,p133−141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、ボタンボウフウに関して、アディポネクチン産生促進作用についての報告はなされていない。
【0010】
本発明者らは、ボタンボウフウが、優れた
低アディポネクチン血症に対する治療効果を有することを新たに見出し、本発明を完成した。本発明は、優れた効果を有する、新規な
低アディポネクチン血症治療剤、飲食品、及び飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係る
低アディポネクチン血症治療剤は、ボタンボウフウを有効成分とする。
【0012】
例えば、低アディポネクチン血症に、肥満、糖尿病、心不全及び癌からなる群より少なくとも1種選択される疾患が合併している。
【0013】
例えば、低アディポネクチン血症に、癌が合併している。
【0014】
本発明の第
2の観点に係る飲食品は、
本発明の第1の観点に係る低アディポネクチン血症治療剤を含む。
【0015】
本発明の第
3の観点に係る飼料は、
本発明の第1の観点に係る低アディポネクチン血症治療剤を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安全性が高く、かつ優れた効果を有する、新規な
低アディポネクチン血症治療剤、飲食品、及び飼料を提供することができる
。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】50%エタノールを抽出溶媒として用いたボタンボウフウ抽出物による、ヒト脂肪細胞におけるアディポネクチン産生促進作用を示すグラフである。
【
図1B】水を抽出溶媒として用いたボタンボウフウ抽出物による、ヒト脂肪細胞におけるアディポネクチン産生促進作用を示すグラフである。
【
図2】ボタンボウフウ抽出物による、8名の被験者由来のヒト脂肪細胞におけるアディポネクチン産生促進作用を示すグラフである。
【
図3A】肥満の心不全患者(20歳代女性)にボタンボウフウ乾燥粉末を投与した場合の血清中アディポネクチン濃度の推移を示すグラフである。
【
図3B】肥満の糖尿病患者(41歳女性)にボタンボウフウ乾燥粉末を投与した場合の血清中アディポネクチン濃度の推移を示すグラフである。
【
図4A】各種機能性食品素材による、重症肥満の糖尿病患者(41歳女性)由来の脂肪細胞におけるアディポネクチン産生促進作用を示すグラフである。
【
図4B】重症肥満の糖尿病患者(41歳女性)にボタンボウフウ乾燥粉末を投与した場合の血清中アディポネクチン濃度の推移を示すグラフである。
【
図5】8名のウェイトマネジメント外来患者にボタンボウフウ乾燥粉末を投与した場合の血清中アディポネクチン濃度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、ボタンボウフウ(Peucedanum japonicum)を有効成分とする。原料として、任意の栽培日数の、ボタンボウフウの葉、茎、根、根茎、果実、種子、種皮、花等を用いることができる。また、市販のボタンボウフウエキス、ボタンボウフウ粉末等を用いてもよい。
【0020】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤においては、例えば、ボタンボウフウを乾燥させ乳鉢等で粉末化したもの(以下、ボタンボウフウ乾燥粉末という)、ボタンボウフウを必要に応じて乾燥させた後、抽出処理を行うことにより得られたもの(以下、ボタンボウフウ抽出物という)等が用いられる。
【0021】
上記の抽出処理は、抽出溶媒にボタンボウフウを、例えば60℃で30分間、又は常温で12時間浸漬して行われる。ボタンボウフウを乾燥させ、例えば、粉末化した後に、抽出処理を行ってもよい。抽出溶媒としては、通常抽出に用いられる溶媒であれば任意に用いることができる。例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトン、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、酢酸、酢酸エチル、エーテル、ヘキサン等、又はこれらの混合物を用いることができる。好ましくは、人体への影響を考慮して、水、エタノール、又はこれらの混合物が用いられる。このようにして得られたボタンボウフウ抽出物は、安全性が高い。
【0022】
抽出処理により得られた液は、そのままボタンボウフウ抽出物として用いることもできるし、その液をろ過した後のろ液又は遠心分離した後の上清を、ボタンボウフウ抽出物として用いることもできる。また、抽出処理により得られた液、又はその液をろ過した後のろ液若しくは遠心分離した後の上清から、抽出溶媒を除去したものを、ボタンボウフウ抽出物として用いることもできる。ろ過方法としては、例えば、フィルターろ過が挙げられる。抽出溶媒の除去は、例えば、加温下で抽出溶媒を蒸発させることにより行われる。この処理は、常圧(大気圧)下で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。
【0023】
抽出処理により得られた液、又はその液をろ過した後のろ液若しくは遠心分離した後の上清から、抽出溶媒を除去する場合は、抽出溶媒を除去したものをそのままボタンボウフウ抽出物として用いることもできるし、抽出溶媒を除去したものを溶媒に再溶解させてボタンボウフウ抽出物として用いることもできる。この溶媒には、好ましくは、人体への影響を考慮して、水、エタノール等が用いられる。このようにして得られたボタンボウフウ抽出物は、安全性が高い。再溶解後に、フィルター滅菌等の処理を行ってもよい。
【0024】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、生体内又は生体外におけるアディポネクチンの産生を促進させることができる。例えば、ボタンボウフウ乾燥粉末を哺乳動物に経口投与し、又はボタンボウフウ抽出物を哺乳動物に静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与等し、ELISA法等によりボタンボウフウ投与前及び投与後の血清中アディポネクチン濃度を測定し、投与前に比べて投与後の血清中アディポネクチン濃度が上昇していることを確認することで、アディポネクチン産生促進作用を評価することができる。また、例えば、ボタンボウフウ抽出物を哺乳動物由来の脂肪細胞を含む培地に添加して培養し、ボタンボウフウ抽出物非添加のコントロール培地に比べて培地中のアディポネクチン濃度が上昇していることを確認することで、又は経時的な培地中アディポネクチン濃度の上昇を確認することで、アディポネクチン産生促進作用を評価することができる。本発明の効果を奏するアディポネクチン産生促進剤の使用方法及びアディポネクチン産生促進作用の評価方法であれば、適宜選択され得る。
【0025】
このアディポネクチン産生促進作用は、ボタンボウフウに含まれる、例えば、クロロジェン酸、イソクエルシトリン、クニジオシドA、プラエロシド、アプテリン、エスクリン、ポイセダノール、トリプトファン、ウラシル、グアノシン、ウリジン、チミジン等、又はこれらの誘導体といった物質に起因するものであってもよい。これらの物質は、例えば、HISAMOTO M at al,J.Agric.Food Chem.2003,51,5255−5261に記載の方法により抽出及び同定され得る。また、これらの物質のアディポネクチン産生促進作用は、例えば、これらの物質を哺乳動物由来の脂肪細胞を含む培地に添加して培養し、ポジティブコントロール(例えば、ピオグリタゾン)添加培地に比べて培地中のアディポネクチン濃度が上昇していることを確認することで、評価され得る。
【0026】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、低アディポネクチン血症の予防又は治療のために用いることができる。ここで低アディポネクチン血症とは、体内におけるアディポネクチン分泌を促進させることにより健康状態の改善が期待される状態をいう。
【0027】
また、本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、低アディポネクチン血症により引き起こされる状態、疾病の予防又は治療に用いることができる。例えば、メタボリックシンドローム、生活習慣病型癌、インスリン抵抗性症候群、糖尿病(I型糖尿病、II型糖尿病を含む)、糖尿病合併症(網膜症、腎機能障害、神経症、白内障、冠動脈疾患等を含む)、動脈硬化症、冠動脈疾患、腎機能障害、心筋梗塞、高血圧症、脳血管障害、高脂血症、高コレステロール血症、肥満、骨密度低下、肝疾患等の予防又は治療に用いることができる。さらに、本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、アンチエイジングのために用いることもできる。
【0028】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤は、医薬組成物、飲食品、及び飼料に用いることができる。
【0029】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤を医薬組成物に用いる場合、この医薬組成物の投与方法は、経口投与、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、舌下投与等、適宜選択され得る。この医薬組成物の剤型も任意であってよく、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、注射剤などの非経口用液体製剤等に適宜調製することができる。
【0030】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤を医薬組成物に用いる場合、他の活性成分を適宜含有させることができる。例えば、低アディポネクチン血症、メタボリックシンドローム、生活習慣病型癌、インスリン抵抗性症候群、糖尿病(I型糖尿病、II型糖尿病を含む)、糖尿病合併症(網膜症、腎機能障害、神経症、白内障、冠動脈疾患等を含む)、動脈硬化症、冠動脈疾患、腎機能障害、心筋梗塞、高血圧症、脳血管障害、高脂血症、高コレステロール血症、肥満、骨密度低下、肝疾患等の予防剤又は治療剤、アンチエイジング剤等を含有させることができる。
【0031】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤を医薬組成物に用いる場合、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、pH調製剤等を適宜含有させることができる。
【0032】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤を医薬組成物に用いる場合、有効成分であるボタンボウフウの投与量は、その剤型、患者の年齢、体重、適応症状等によって異なるが、例えば、成人に経口投与する場合、1日あたりの投与量は、ボタンボウフウ乾燥粉末で5g〜20g、ボタンボウフウ抽出物で0.5〜5.0gが好ましい。また、食事中投与、食後投与、食前投与、食間投与、就寝前投与等のいずれも可能であるが、例えば、食事中投与、食後投与が好ましい。
【0033】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤を飲食品又は飼料に用いる場合、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状、固形状、液体状等の状態で用いることができる。
【0034】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤を飲食品又は飼料に用いる場合、飲食品中又は飼料中に含有させることが認められている賦形剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤、分散剤、再吸収促進剤、矯味剤、緩衝剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤、pH調製剤等を適宜含有させることができる。
【0035】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤を飲食品に用いる場合、ボタンボウフウの摂取量は、それらの目的、形態、利用方法等に応じて、適宜決めることができ、例えば、1日あたりボタンボウフウ乾燥粉末で5〜20g、ボタンボウフウ抽出物で0.5〜5.0gとすることができる。また、低アディポネクチン血症、メタボリックシンドローム、生活習慣病型癌、インスリン抵抗性症候群、糖尿病(I型糖尿病、II型糖尿病を含む)、糖尿病合併症(網膜症、腎機能障害、神経症、白内障、冠動脈疾患等を含む)、動脈硬化症、冠動脈疾患、腎機能障害、心筋梗塞、高血圧症、脳血管障害、高脂血症、高コレステロール血症、肥満、骨密度低下、肝疾患等の予防又は改善、アンチエイジング等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した飲食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品等に応用することができる。
【0036】
本発明によるアディポネクチン産生促進剤を飼料に用いる場合、例えば、哺乳類等の飼料、ペットフード、ペット用サプリメント等に使用することができる。
【実施例1】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、特にことわらない限り「%」は質量%を示す。
【0038】
50%エタノールを抽出溶媒として用いたボタンボウフウ抽出物(サンプルB)によるアディポネクチン産生促進作用について評価した。
【0039】
(50%エタノールを抽出溶媒として用いたボタンボウフウ抽出物(サンプルB)の調製)
ボタンボウフウの葉(0.5g)を乾燥させ、粉末化したものを、50%エタノール20mLに、60℃で0.5時間浸漬した。その後室温で4時間振盪し、抽出処理を行った。抽出処理後、フィルターろ過(CHROMAFIL O−20/25、フィルターサイズ0.20μm、Macherey−Nagel社製)を行い、抽出液を得た。この抽出液3mLをドライアップし、114.3mgの抽出物を得た。この抽出物を、2mLのジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。このDMSO溶解液をフィルター滅菌(MN Sterilizer PES、フィルターサイズ0.22μm、Macherey−Nagel社製)し、サンプルBを得た。
【0040】
(アディポネクチン産生促進作用の評価)
インフォームドコンセントが得られた被験者(メタボリックシンドロームを合併した大腸癌患者、65歳男性)の、手術時に摘出した残余組織から、脂肪組織を採取した。この脂肪組織をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で数回洗浄して血管を取り除いた後、細断した。これに、0.1%タイプ2コラゲナーゼ溶液(シグマ−アルドリッチ社製)10mLを加え、37℃でよく攪拌しながら1時間インキュベートした。その後、メッシュフィルター(BDファルコン社製)でろ過し、10分間、780×gで遠心分離した。遠心分離により得られたペレットを脂肪前駆細胞培養用培地(PM−1,Zen−Bio社製)に懸濁し、37℃、5%CO
2下でコンフルエントまで増殖させた。この細胞を脂肪細胞に分化させるために、37℃、5%CO
2下、脂肪細胞分化培地(DM−2、Zen−bio社製)で処理した。DM−2処理8日後、DMSO添加AM−1培地、又はサンプルB添加AM−1培地(培地中ボタンボウフウ抽出物濃度:6.2mg/mL)(AM−1:脂肪細胞培養用培地、Zen−Bio社製)に交換し、48時間後の上清アディポネクチン濃度を測定した。上清アディポネクチン濃度は、ヒトアディポネクチンELISAキット(大塚製薬株式会社製)を用いて、該キットに添付のプロトコールに従い測定した。
【0041】
(結果)
結果を
図1Aに示す。サンプルBを添加した場合では、DMSOのみを添加した場合に比して、脂肪細胞によるアディポネクチン産生作用が3倍以上高いことが認められた。このことから、抽出溶媒として50%エタノールを用いたボタンボウフウ抽出物は、優れたアディポネクチン産生促進作用を有することが明らかとなった。
【実施例2】
【0042】
水を抽出溶媒として用いたボタンボウフウ抽出物(サンプルA)によるアディポネクチン産生促進作用について評価した。
【0043】
(水を抽出溶媒として用いたボタンボウフウ抽出物(サンプルA)の調製)
ボタンボウフウの葉(0.5g)を乾燥させ、粉末化したものを、水20mLに、60℃で0.5時間浸漬した。その後室温で4時間振盪し、抽出処理を行った。抽出処理後、フィルターろ過(ADVANTEC Filter Paper Qualitative No.2,90mm、ADVANTEC社製)を行い、抽出液を3mL得た。この抽出液をドライアップし、59mgの抽出物を得た。この抽出物を、1mLのDMSOに溶解した。このDMSO溶解液をフィルター滅菌(MN Sterilizer PES、フィルターサイズ0.22μm、Macherey−Nagel社製)し、サンプルAを得た。
【0044】
(アディポネクチン産生促進作用の評価)
インフォームドコンセントが得られた被験者(糖尿病及び低アディポネクチン血症を合併した重症肥満患者、20歳代女性)の、手術時に摘出した残余組織から、脂肪組織を採取した。この脂肪組織を実施例1と同様に処理した。DM−2処理8日後、DMSO添加AM−1培地、又はサンプルA添加AM−1培地(培地中ボタンボウフウ抽出物濃度:5.6mg/mL)に交換し、48時間後の上清アディポネクチン濃度を、実施例1と同様に測定した。
【0045】
(結果)
結果を
図1Bに示す。サンプルAを添加した場合では、DMSOのみを添加した場合に比して、脂肪細胞によるアディポネクチン産生作用が2倍程度高いことが認められた。このことから、抽出溶媒として水を用いたボタンボウフウ抽出物は、抽出溶媒として50%エタノールを用いた場合と同様、優れたアディポネクチン産生促進作用を有することが明らかとなった。
【実施例3】
【0046】
ボタンボウフウ抽出物によるアディポネクチン産生促進作用についてさらに詳細に検討するために、被験者8名から得られた各々の脂肪細胞を用いてアディポネクチン産生促進作用を評価した。ボタンボウフウ抽出物として、実施例2で使用したサンプルA、実施例1で使用したサンプルB、及び下述の方法で得られたサンプルCを用いた。
【0047】
(100%エタノールを抽出溶媒として用いたボタンボウフウ抽出物(サンプルC)の調製)
ボタンボウフウの葉(0.5g)を乾燥させ、粉末化したものを、100%エタノール20mLに、60℃で0.5時間浸漬した。その後室温で4時間振盪し、抽出処理を行った。抽出処理後、フィルターろ過(CHROMAFIL O−20/25、フィルターサイズ0.20μm、Macherey−Nagel社製)を行い、抽出液を得た。この抽出液3mLをドライアップし、24.7mgの抽出物を得た。この抽出物を、1mLのDMSOに溶解した。このDMSO溶解液をフィルター滅菌(MN Sterilizer PES、フィルターサイズ0.22μm、Macherey−Nagel社製)し、サンプルCを得た。
【0048】
(アディポネクチン産生促進作用の評価)
インフォームドコンセントが得られた被験者8名(重症肥満3名、脂肪肉腫1名、膵臓癌1名、前立腺癌1名、大腸癌2名)の、手術時に摘出した残余組織から、それぞれ脂肪組織を採取した。この脂肪組織を実施例1と同様に処理した。DM−2処理8日後、DMSO添加AM−1培地、又はサンプルA添加AM−1培地(培地中ボタンボウフウ抽出物濃度:5.6mg/mL)、サンプルB添加AM−1培地(培地中ボタンボウフウ抽出物濃度:6.2mg/mL)、サンプルC添加AM−1培地(培地中ボタンボウフウ抽出物濃度:1.8mg/mL)に交換し、48時間後の上清アディポネクチン濃度(以下、48時間値という)、及び96時間後の上清アディポネクチン濃度(以下、96時間値という)を、実施例1と同様に、被験者8名由来の細胞各々について測定した。細胞間のばらつきを是正するため、96時間値で48時間値を除して、APR(Adiponectin Production Ratio;アディポネクチン分泌促進指標)を算出した。
【0049】
被験者8名由来の細胞について各々算出したAPRの平均値を
図2に示す。サンプルA,B,Cを添加したいずれの場合でも、DMSOのみを添加した場合に比して、APRが有意に高いことが認められた。このことから、ボタンボウフウ抽出物は、優れたアディポネクチン産生促進作用を有することが明らかとなった。
【実施例4】
【0050】
ボタンボウフウを実際にヒトに経口投与した場合のアディポネクチン産生促進作用について評価した。
【0051】
(肥満、心不全患者、20歳代女性)
インフォームドコンセントが得られた被験者(肥満、心不全患者、20歳代女性)に、約5カ月間、ボタンボウフウの葉を乾燥させ粉末化したものを1日あたり10g経口投与した。投与方法は、1日2回(朝晩)、食後投与とした。摂取開始時及び摂取開始約5カ月後の血清中アディポネクチン濃度を、ヒトアディポネクチンELISAキット(大塚製薬株式会社製)を用いて、該キットに添付のプロトコールに従い測定した。結果を
図3Aに示す。血清中アディポネクチン濃度は、摂取開始時5.3μg/mLだったのに対し、摂取開始約5カ月後には10.1μg/mLに上昇した。
【0052】
(肥満、糖尿病患者、41歳女性)
インフォームドコンセントが得られた被験者(肥満、糖尿病患者、41歳女性)に、約5カ月間、ボタンボウフウの葉を乾燥させ粉末化したものを、前述と同様に経口投与した。摂取開始時及び摂取開始約5カ月後の血清中アディポネクチン濃度を、前述と同様に測定した。結果を
図3Bに示す。血清中アディポネクチン濃度は、摂取開始時1.45μg/mLだったのに対し、摂取開始約5カ月後には4.05μg/mLに上昇した。
【0053】
(脂肪幹細胞情報に基づきテーラーメードでボタンボウフウ乾燥粉末を投与した一例)
インフォームドコンセントが得られた被験者(重症肥満の糖尿病患者、41歳女性)の、手術時に摘出した残余組織から脂肪組織を採取した。この脂肪組織を実施例1と同様に処理し、機能性食品素材(サンプル1〜71)のアディポネクチン産生促進作用に関するスクリーニングに用いた。
【0054】
サンプル1〜71(表1及び表2)を、水、熱水(80℃)又はDMSOにて懸濁又は溶解し、30分間振盪後、フィルターろ過(φ0.45μm)して調製した。ただし、サンプル25については、希釈を行わずにフィルターろ過(φ0.45μm)して調製した。また、サンプル1〜18については、各サンプルを水で1%懸濁液又は水溶液とし、フィルターろ過(φ0.45μm)して調製した。サンプル58及び59のボタンボウフウ抽出物については、実施例2と同様に調製した。サンプル1〜71の素材、溶媒及び培地中濃度を表1及び表2に示す(サンプル6〜8「三種混合ペプチド」(片野物産社製)は、昆布、イワシ及びあこやがい由来のペプチドを混合したものである)。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
DM−2処理8日後、サンプル1〜71を添加したAM−1培地に各々交換し、実施例3と同様に、48時間値及び96時間値を測定した。96時間値で48時間値を除して、APR(Adiponectin Production Ratio;アディポネクチン分泌促進指標)を算出した。結果を表1及び表2並びに
図4Aに示す。この患者の脂肪幹細胞では、他の機能性食品素材に比べてボタンボウフウ抽出物添加において(
図4A中、矢印で示す)、比較的高いAPRの値が認められた。
【0058】
以上より、この患者においては、ボタンボウフウを投与することにより顕著にアディポネクチン産生が促進されると予想されたので、以下のように臨床評価を行った。結果を
図4Bに示す。この患者は、肥満外科手術前にインスリンを投与されていた(54U/日)。この患者の体重は、術前インスリン投与により減少し、術後さらに減少した。一方、血清中アディポネクチン濃度は、術後3カ月目でも上昇しなかった。術後4.5カ月目より約9.5カ月間、ボタンボウフウの葉を乾燥させ粉末化したものを1日あたり10g経口投与(1日2回(朝晩)、食後投与)した。血清中アディポネクチン濃度(濃度測定方法は前述と同様)は、ボタンボウフウ乾燥粉末投与開始後から顕著に上昇した。
【0059】
(ウェイトマネジメント外来にてボタンボウフウ乾燥粉末投与を行った症例)
ウェイトマネジメント外来患者でインフォームドコンセントが得られた被験者8名(肥満外科手術後4症例を含む、平均BMI:32、男性2名、女性6名)を対象に、ボタンボウフウの葉を乾燥させ粉末化したものを1日あたり10g経口投与(1日2回(朝晩)、食後投与)した。平均投与期間は1.4カ月であった。結果を
図5に示す。ほとんどの症例でボタンボウフウ乾燥粉末投与後に血清中アディポネクチン濃度(濃度測定方法は前述と同様)の上昇が認められた。
【0060】
以上より、ボタンボウフウ乾燥粉末をヒトに投与することにより、血清中アディポネクチン濃度が上昇することが認められた。このことから、ボタンボウフウは、実際にヒトに投与された場合でも、優れたアディポネクチン産生促進作用を有することが明らかとなった。
【0061】
以上説明したように、本発明に係るボタンボウフウは、優れたアディポネクチン産生促進作用を有する。従って、本発明に係るボタンボウフウは、低アディポネクチン血症により引き起こされる状態又は疾病の予防又は治療に有効であり、例えば、メタボリックシンドローム、生活習慣病型癌、アンチエイジング等への効果が期待される。