(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1充電処理工程において、前記負極の電位(vs. Li/Li+)が0.9V以上2.4V以下に到達するまで定電流充電を行う、請求項1に記載の製造方法。
前記第2充電処理工程において、前記負極の電位(vs. Li/Li+)が放電下限電位に到達するまで定電流充電を行う、請求項1から3のいずれか一項に記載の製造方法。
前記アルキンスルホン酸化合物として、2−ブチン−1,4−ジオールジ(メタンスルホナート)、および/または、2−(メチルスルホニルオキシ)プロパン酸2−プロピニルを用い、且つ、
前記アルキンスルホン酸化合物の添加量は、前記非水電解液全体に対して0.1質量%以上2質量%以下となるよう調製する、請求項1から6のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ビニレンカーボネート化合物とアルキン化合物とを併用することによって初回充電の際に負極上に強固な被膜を形成することができ、電池の耐久性(例えば、サイクル特性)を向上し得る旨が記載されている(特許文献1の段落0028)。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の電池では低温環境下(例えば、0℃〜−50℃の環境下)においてIV抵抗の増大が認められた。このため、特許文献1の技術を広範な温度環境下(特には室温〜−30℃程度)で使用され得る電池に適用する場合には、更なる改善の余地がある。とりわけ、車載用電池のように広範な温度環境下で高い出力特性を要求される用途では、より低抵抗で耐久性に優れた電池が求められている。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、上記化合物添加の効果がより適切に発揮され、広範な温度環境下(例えば低温環境下)において、より高い電池特性を発揮し得る(例えば、高出力密度と耐久性とを高いレベルで両立し得る)非水電解液二次電池を提供することである。関連する他の目的は、該電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが、上記IV抵抗増加の原因について種々検討を行ったところ、負極上に形成された被膜中には主に3種類、すなわち、(A)実質的にビニレンカーボネート化合物に由来する被膜、(B)ビニレンカーボネート化合物およびアルキン化合物に由来する混合被膜、(C)実質的にアルキン化合物に由来する被膜、が混在していることが判明した。そして、上記(A)の被膜は他の2種類に比べて抵抗が高く、電池特性(特には入出力特性)低下の原因となっていることがわかった。そこで、本発明者らは、実質的にビニレンカーボネート化合物に由来する被膜を低減すべく鋭意検討を重ね、これを解決し得る手段を見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明により、非水電解液二次電池の製造方法が提供される。かかる製造方法は、(1)正極と、負極と、アルキンスルホン酸化合物およびビニレンカーボネート化合物を含む非水電解液と、を電池ケース内に収容して電池を構築する電池構築工程;および、(2)上記正極と上記負極との間で充電を行う初回充電工程;を包含する。そして、上記初回充電工程は、以下の工程を包含する。
(2−1)上記負極の電位(vs. Li/Li
+)が、上記アルキンスルホン酸化合物の還元電位以下であって上記ビニレンカーボネート化合物の還元電位より大きくなるよう充電処理を行う、第1充電処理工程。
(2−2)上記負極の電位(vs. Li/Li
+)を所定の時間保持する、保持工程。
(2−3)上記負極の電位(vs. Li/Li
+)が、上記ビニレンカーボネート化合物の還元電位以下であって上記負極の放電下限電位以上となるよう充電処理を行う、第2充電処理工程。
【0009】
従来技術とは異なり、アルキンスルホン酸化合物の還元分解される電位であってビニレンカーボネート化合物が還元分解されない電位に調整した後、所定の時間だけ保持することで、アルキンスルホン酸化合物を選択的に還元分解することができる。これにより、負極の表面に該化合物に由来する被膜を好適に形成することができる。そして、アルキンスルホン酸化合物由来の被膜が十分に形成された後に、ビニレンカーボネート化合物が還元分解される電位に調整することで、負極の表面にビニレンカーボネート化合物およびアルキンスルホン酸化合物に由来する強固な混合被膜を形成することができる。かかる製造方法によれば、実質的にビニレンカーボネート化合物に由来する高抵抗な被膜の形成を抑制することができ、高い電池性能(特には入出力特性)を実現可能な非水電解質二次電池を製造することができる。かかる製造方法は、初回充電工程の充電パターンを変更するという比較的簡便な作業のみで上述のような顕著な効果を得られるものである。このことは作業性や生産性の観点からも好ましい。
【0010】
なお、「還元電位(vs. Li/Li
+)」の測定は、従来公知の3極式セルを用いた手法により行うことができる。例えば、非水溶媒と支持塩とから構成される非水電解液の還元電位を測定する場合には、先ず、作用極(WE;Working Electrode)としての負極材料(典型的には黒鉛系材料、例えば負極板を切り出したもの)と、対極(CE;Counter Electrode)としての金属リチウムと、参照極(RE;Reference Electrode)としての金属リチウムと、測定対象たる非水電解液とを用いて、3極式セルを構築する。次に、リニアスイープボルタンメトリーの測定を行う。そして、得られた電流Iおよび電位Vから微分値dI/dVを算出する。このdI/dVを縦軸、電位Vを横軸としてグラフを作成し、測定開始から最初に現れたdI/dVのピークに対応する電位Vを還元電位(還元分解電位)とする。例えば、後述する実施例で用いた非水電解液(EC:DMC:EMCの体積比30:40:30の混合溶媒中に、LiPF
6を1.1mol/Lの濃度で含む非水電解液)の還元電位は、凡そ0.7V(vs. Li/Li
+)である。
また、この非水電解液にアルキンスルホン酸化合物やビニレンカーボネート化合物を添加して、同様にリニアスイープボルタンメトリーの測定を行い、得られたグラフを上記化合物未添加のものと比較することで、添加した化合物の還元電位(還元分解電位)を得ることができる。例えば、アルキンスルホン酸化合物としての2−ブチン−1,4−ジオールジ(メタンスルホナート)の還元電位は2.25V(vs. Li/Li
+)、2−(メチルスルホニルオキシ)プロパン酸2−プロピニルの還元電位は1.22V(vs. Li/Li
+)である。また、ビニレンカーボネート化合物としてのビニレンカーボネートの還元電位は、0.80V(vs. Li/Li
+)である。
【0011】
また、本明細書において「非水電解液二次電池」とは、常温(例えば25℃)において液状を呈する非水電解液(典型的には、非水溶媒中に支持塩を含む電解液)を備えた電池をいう。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間のリチウムイオンの移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0012】
好適な一態様では、上記第1充電処理工程において、上記負極の電位(vs. Li/Li
+)が0.9V以上2.4V以下に到達するまで定電流充電を行う。好適な他の一態様では、上記保持工程において、保持時間を10分以上2時間以下とする。
第1充電処理工程における負極の電位を上記範囲とすることおよび/または保持工程における保持時間を上記範囲とすることで、非水電解液中に添加したアルキンスルホン酸化合物を好適に還元分解することができ、負極活物質表面に実質的にアルキンスルホン酸化合物に由来する被膜を精度よく形成することができる。したがって、本発明の効果をより一層高いレベルで発揮することができる。
【0013】
好適な一態様では、上記第1充電処理および上記第2充電処理における充電レートを、0.1C以上0.5C以下に設定する。
充電レートを上記範囲とすることで、より短時間で好適な緻密性の(すなわち、低抵抗で、且つ本発明の効果を発揮するために十分な)被膜を負極活物質表面に形成することができる。したがって、耐久性に優れた非水電解質二次電池を製造することができる。なお、1Cとは理論容量より予測した電池容量(Ah)を1時間で充電できる電流値を意味し、例えば電池容量が24Ahの場合は1C=24Aである。
【0014】
好適な一態様では、上記第2充電処理工程において、上記負極の電位(vs. Li/Li
+)が放電下限電位に到達するまで定電流充電を行う。これにより、実質的にビニレンカーボネート化合物に由来する高抵抗な被膜の形成を一層抑制することができる。したがって、本発明の効果をより一層高いレベルで発揮することができる。
【0015】
好適な一態様では、上記非水電解液を構成する非水溶媒として、高誘電率の溶媒と低粘性の溶媒とを混合して用いる。かかる混合溶媒を用いることで、高い電気伝導率や広範な温度域での使用を実現することができる。高誘電率溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)が例示される。低粘性溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)やエチルメチルカーボネート(EMC)が例示される。また、好適な他の一態様では、エチレンカーボネートが非水溶媒全体の20体積%以上40体積%以下を占める。これによって、非水溶媒の還元電位(vs. Li/Li
+)を十分低く保つことができ、初回充電工程において負極活物質の表面により良質な(低抵抗な)被膜を形成することができる。
【0016】
好適な一態様では、アルキンスルホン酸化合物として、下記式(I)で示される2−ブチン−1,4−ジオールジ(メタンスルホナート)、および/または、下記式(II)で示される2−(メチルスルホニルオキシ)プロパン酸2−プロピニルを用いる。これらの化合物は還元電位(vs. Li/Li
+)が比較的高いため、初回充電工程において負極活物質の表面に実質的に該化合物に由来する被膜を優先的に形成することができる。
【0017】
【化1】
【0018】
【化2】
【0019】
好適な一態様では、ビニレンカーボネート化合物としてビニレンカーボネートを用いる。ビニレンカーボネートを用いることで、初回充電工程において、アルキンスルホン酸化合物と好適に重合反応性を生じさせることができる。このため、負極活物質表面にスムーズに被膜を形成することができ、形成された被膜をより強固で耐久性の高いものにすることができる。したがって、耐久性(例えばサイクル特性)と広範な温度域における入出力特性とを、より高いレベルで両立することができる。
【0020】
好適な一態様では、上記アルキンスルホン酸化合物の添加量が、上記非水電解液全体に対して0.1質量%以上2質量%以下となるよう調製する。また、好適な他の一態様では、上記ビニレンカーボネート化合物の添加量が、上記非水電解液全体に対して0.5質量%以上7質量%以下となるよう調製する。これにより、負極活物質の表面に好適な量の被膜を形成することができる。したがって、本発明の適用効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0021】
上述の通り、ここで開示される非水電解液二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)は、アルキンスルホン酸化合物添加の効果が好適に発揮され、広範な温度域において高い電池特性を発揮し得る(例えば、耐久性と入出力特性とを高いレベルで両立可能な)ことを特徴とする。すなわち、ここで開示される電池は、低温環境下においても高い出力特性を発揮し得、高温環境下で長期間使用した場合であっても電池容量の低下を生じ難いものであり得る。したがって、かかる特徴を活かして、高エネルギー密度や高出力密度、あるいは広範な温度域において使用され得る用途(例えば車両駆動用電源)で、好適に使用することができる。換言すれば、ここで開示される他の側面として上記非水電解液二次電池を備えた車両が提供される。車両に搭載される電池は、該電池が複数個相互に電気的に接続されてなる組電池の形態であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0024】
≪非水電解液二次電池の製造方法≫
ここで開示される製造方法は、(1)電池構築工程;および、(2)初回充電工程;を包含する。以下、各工程について順に説明する。
【0025】
<1.電池構築工程>
電池構築工程では、正極と、負極と、アルキンスルホン酸化合物およびビニレンカーボネート化合物を含む非水電解液と、を電池ケース内に収容して、電池を構築する。まずは各電池構成要素について順に説明する。
【0026】
<正極>
正極は、典型的には、正極集電体と、該正極集電体上に形成された少なくとも正極活物質を含む正極活物質層とを備えている。
このような正極を作製する方法は特に限定されないが、例えば、先ず、正極活物質と導電材とバインダ(結着剤)とを適当な溶媒に分散させ、ペースト状またはスラリー状の組成物(正極活物質層形成用スラリー)を調製する。次に、調製した正極活物質層形成用スラリーを正極集電体に付与し、該スラリーに含まれる溶媒を除去する。その後、典型的には、この正極に適宜プレス処理を施すことによって正極活物質層の性状(例えば、平均厚み、密度、空隙率)を調整する。これによって、正極集電体上に正極活物質層を備えた正極を作製することができる。
【0027】
上記溶媒としては水性溶媒および有機溶媒のいずれも使用可能であり、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることができる。また、上記スラリーを付与する操作は、例えば、グラビアコーター、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、ディップコーター等の塗付装置を使用して行うことができる。また、上記溶媒の除去は、従来の一般的な手段(例えば加熱乾燥や真空乾燥)により行うことができる。また、プレス処理は、ロールプレス法、平板プレス法等の各種プレス方法により行うことができる。
【0028】
正極集電体としては、導電性の良好な金属(例えばアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)からなる導電性部材を好適に使用することができる。集電体の形状は構築される電池の形状等に応じて異なり得るため特に限定されないが、例えば棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。なお、後述する捲回電極体を備えた電池では、主に箔状体が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから5μm〜50μm(より好ましくは8μm〜30μm)程度のものを好ましく用いることができる。
【0029】
正極活物質としては、非水電解液二次電池の正極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種または2種以上を、特に限定なく採用することができる。好適例として、層状系、スピネル系等のリチウム複合金属酸化物(例えば、LiNiO
2、LiCoO
2、LiFeO
2、LiMn
2O
4、LiNi
0.5Mn
1.5O
4,LiCrMnO
4、LiFePO
4等)が挙げられる。なかでも、構成元素としてLi,Ni,CoおよびMnを含む、層状構造(典型的には、六方晶系に属する層状岩塩型構造)のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えば、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)は、熱安定性に優れ、且つ高いエネルギー密度を実現し得るため好ましい。
【0030】
ここで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とは、Li,Ni,CoおよびMnのみを構成金属元素とする酸化物のほか、Li,Ni,CoおよびMn以外に他の少なくとも1種の金属元素(すなわち、Li,Ni,CoおよびMn以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pb)、白金(Pt)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)のうちの1種または2種以上の元素であり得る。これらの金属元素の添加量(配合量)は特に限定されないが、通常0.01質量%〜5質量%(例えば0.05質量%〜2質量%、典型的には0.1質量%〜0.8質量%)であり得る。上記添加量の範囲とすることで、優れた電池特性(例えば、高エネルギー密度)を実現し得る。
【0031】
導電材としては、例えば、種々のカーボンブラック(典型的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック)、コークス、活性炭、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ等の炭素材料を好適に用いることができる。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂;ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイド;等を好適に用いることができる。また、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記材料に加えて各種添加剤(例えば、過充電時にガスを発生させる無機化合物、分散剤、増粘剤等)を使用することもできる。例えば、過充電時にガスを発生させ得る化合物としては、炭酸塩(例えば、炭酸リチウム)やシュウ酸塩(例えば、シュウ酸リチウム)等を用いることができる。また、分散剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等を用いることができる。
【0032】
正極活物質層全体に占める正極活物質の割合は、凡そ60質量%以上(典型的には60質量%〜99質量%)とすることが適当であり、通常は凡そ70質量%〜95質量%であることが好ましい。導電材を使用する場合、正極活物質層全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2質量%〜20質量%とすることができ、通常は凡そ3質量%〜10質量%とすることが好ましい。バインダを使用する場合、正極活物質層全体に占めるバインダの割合は、例えば凡そ0.5質量%〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1質量%〜5質量%とすることが好ましい。
【0033】
正極活物質層の片面当たりの平均厚みは、例えば20μm以上(典型的には40μm以上、好ましくは50μm以上)であって、100μm以下(典型的には80μm以下)とすることができる。また、正極活物質層の密度は、例えば1g/cm
3〜4g/cm
3(例えば1.5g/cm
3〜3.5g/cm
3)とすることができる。また、正極活物質層の空隙率は、例えば10体積%〜50体積%(典型的には20体積%〜40体積%)とすることができる。上記性状のうち1つまたは2つ以上を満たす場合、正極活物質層内に適度な空隙を保つことができ、非水電解液を十分に浸潤させることができる。このため、電荷担体との反応場を広く確保することができ、高い入出力特性を発揮することができる。また、正極活物質層内の導電性を良好に保つことができ、抵抗の増大を抑制することができる。さらに、正極活物質層の機械的強度(形状保持性)を確保することができ、良好なサイクル特性を発揮することができる。
【0034】
なお、本明細書において「空隙率」とは、上述の水銀ポロシメータの測定によって得られた全細孔容積(cm
3)を活物質層の見かけの体積(cm
3)で除して100を掛けた値をいう。見かけの体積は、平面視での面積(cm
2)と厚み(cm)との積によって算出することができる。
【0035】
<負極>
負極は、負極集電体と、該負極集電体上に形成された少なくとも負極活物質を含む負極活物質層とを備えている。
このような負極を作製する方法は特に限定されないが、例えば上記正極の場合と同様に、先ず、負極活物質とバインダとを適当な溶媒に分散させ、ペースト状またはスラリー状の組成物(負極活物質層形成用スラリー)を調製する。次に、調製した負極活物質層形成用スラリーを負極集電体に付与し、該スラリーに含まれる溶媒を除去する。その後、典型的には、この負極に適宜プレス処理を施すことによって負極活物質層の性状(例えば、平均厚み、密度、空隙率)を調整する。これによって、負極集電体上に負極活物質層を備えた負極を作製することができる。
【0036】
上記溶媒としては、水性溶媒および有機溶媒のいずれも使用可能であり、例えば水を用いることができる。また、上記スラリーの付与や溶媒の除去、プレス処理等は、上記正極の場合と同様に行うことができる。
【0037】
負極集電体としては、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)からなる導電性部材を好ましく用いることができる。また、負極集電体の形状は、例えば、正極集電体の形状と同様とすることができる。
【0038】
負極活物質としては、非水電解液二次電池の負極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種または2種以上を、特に限定なく使用することができる。好適例として、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。なかでも、導電性に優れ、高いエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛や人造黒鉛等の黒鉛系材料(特には天然黒鉛)を好ましく用いることができる。
【0039】
負極活物質の性状は特に限定されないが、典型的には粒子状や粉末状である。かかる粒子状負極活物質の平均粒径は、例えば50μm以下(典型的には20μm以下、例えば1μm〜20μm、好ましくは5μm〜15μm)であり得る。また、比表面積は1m
2/g以上(典型的には2.5m
2/g以上、例えば2.8m
2/g以上)であって、10m
2/g以下(典型的には3.5m
2/g以下、例えば3.4m
2/g以下)であり得る。上記性状のうち1つまたは2つを満たす負極活物質は、後の初回充電工程において表面に被膜が形成された場合であっても電荷担体の反応場を広く確保することができ、より高い電池特性(例えば高い入出力特性)を実現することができる。
【0040】
なお、本明細書において「平均粒径」とは、一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布おいて、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D
50粒径、メジアン径ともいう。)をいう。また、本明細書において「BET比表面積(m
2/g)」とは、吸着質として窒素(N
2)ガスを用いたガス吸着法(定容量式吸着法)によって測定されたガス吸着量を、BET法(例えば、BET1点法)で解析することによって算出した値をいう。
【0041】
バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のポリマー材料を好適に用いることができる。また、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上記材料に加えて各種添加剤(例えば、増粘剤、分散剤、導電材等)を使用することもできる。例えば、増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)等を用いることができる。
【0042】
負極活物質層全体に占める負極活物質の割合は、凡そ50質量%以上とすることが適当であり、通常は90質量%〜99質量%(例えば95質量%〜99質量%)とすることが好ましい。バインダを使用する場合には、負極活物質層全体に占めるバインダの割合は例えば凡そ1質量%〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1質量%〜5質量%とすることが好ましい。増粘剤を使用する場合には、負極活物質層全体に占める増粘剤の割合は例えば凡そ1質量%〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1質量%〜5質量%とすることが好ましい。
【0043】
負極活物質層の空隙率は、例えば5体積%〜50体積%(好ましくは35体積%〜50体積%)程度とすることができる。また、負極活物質層の片面当たりの厚みは、例えば40μm以上(好ましくは50μm以上)であって、100μm以下(好ましくは80μm以下)とすることができる。また、負極活物質層の密度は、例えば0.5g/cm
3〜2g/cm
3(好ましくは1g/cm
3〜1.5g/cm
3)程度とすることができる。上記性状のうち1つまたは2つ以上を満たす場合、高いエネルギー密度を実現することができる。また、負極活物質層内に適度な空隙を保つことができ、非水電解液を十分に浸潤させることができる。このため、電荷担体との反応場を広く確保することができ、高い入出力特性を発揮することができる。さらに、非水電解液との界面を好適に保つことができ、高い耐久性(例えばサイクル特性)を発揮することができる。
【0044】
上記正極および負極は、電池ケースに収容される前段階において、該正極と負極とが両者の直接接触を防ぐ絶縁層を介して対向してなる電極体の形態であり得る。上記絶縁層としては、典型的には、セパレータを用いることができる。
セパレータとしては、正極活物質層と負極活物質層とを絶縁するとともに非水電解液の保持機能やシャットダウン機能を有するものであればよい。好適例として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム)が挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。多孔性樹脂シートの平均厚みは、例えば10μm〜40μm程度とすることができる。また、セパレータは上記多孔性樹脂シートの片面または両面(典型的には片面)に多孔質の耐熱層を備える構成であってもよい。かかる多孔質耐熱層は、例えば無機材料(アルミナ粒子等の無機フィラー類を好ましく採用し得る。)とバインダとを含む層であり得る。あるいは、絶縁性を有する樹脂粒子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の粒子)を含む層であり得る。
【0045】
<非水電解液>
非水電解液は、非水溶媒中に、少なくとも支持塩とアルキンスルホン酸化合物とビニレンカーボネート化合物とを含んでいる。非水電解液は常温(例えば25℃)で液状を呈し、好ましい一態様では電池の使用環境下(例えば−30℃〜60℃の温度環境下)で常に液状を呈する。
【0046】
非水溶媒としては、一般的な非水電解液二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を用いることができる。具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。好適な一態様では、高誘電率の溶媒と低粘性の溶媒とを混合して用いる。かかる混合溶媒を用いることで、高い電気伝導率や広範な温度域での使用を実現することができる。高誘電率溶媒の典型例としてはECが、低粘性溶媒の典型例としてはDMCやEMCが、それぞれ例示される。例えば、非水溶媒として1種または2種以上のカーボネート類を含み、それらカーボネート類の合計体積が非水溶媒全体の体積の60体積%以上(より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上であり、実質的に100体積%であってもよい。)を占める非水溶媒を好適に用いることができる。また、好適な他の一態様では、エチレンカーボネートが非水溶媒全体の20体積%以上40体積%以下を占める。
【0047】
支持塩としては、電荷担体(例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン等。リチウムイオン二次電池ではリチウムイオン。)を含むものであれば、一般的な非水電解液二次電池と同様のものを適宜選択して使用することができる。例えば電荷担体がリチウムイオンの場合は、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、Li(CF
3SO
2)
2N、LiCF
3SO
3等のリチウム塩が例示される。このような支持塩は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましい支持塩としてLiPF
6が挙げられる。また、非水電解液は上記支持塩の濃度が0.7mol/L〜1.3mol/Lの範囲内となるように調製することが好ましい。
【0048】
アルキンスルホン酸化合物としては、アルキンスルホン酸およびその誘導体を用いることができ、公知の方法により作製したもの、あるいは市販品の購入等により入手したものを特に限定せず1種または2種以上用いることができる。好適な一態様として、例えば、下記式(III)、(IV)で示される化合物が挙げられる。これらの化合物は、還元電位(vs. Li/Li
+)が比較的高いため、初回充電工程において負極活物質の表面に実質的に該化合物に由来する被膜を優先的に形成することができる。例えば下式(III)に示すように、分子構造の中間位置に三重結合を有するアルキンスルホン酸化合物は、後述するビニレンカーボネート化合物に比べて凡そ0.5V以上(好ましくは1V以上、特には1.5V)高い還元電位(vs. Li/Li
+)を有し得る。このため、かかる化合物を用いることで、負極活物質の表面に良質な被膜をより安定的に形成することができる。
【0051】
式(III)において、R
1は、メチル基、エチル基、プロピル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、またはペンチル基等の炭素原子数1〜12(好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3)の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素原子数3〜6(典型的には6)のシクロアルキル基;フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、ベンジルフェニル基、ビフェニル基等の炭素原子数6〜12のアリール基;または炭素原子数1〜10のパーフルオロアルキル基;である。
好適な一態様では、上記式(III)におけるR
1が炭素数1のアルキル基(メチル基)である。すなわち、上記式(III)で示される化合物がメタンスルホン酸基(CH
3−S(=O)
2−O−)を有することが好ましい。分子構造内にメタンスルホン酸基(CH
3−S(=O)
2−O−)を有することで、被膜の抵抗をより低く抑えることができる。
【0052】
また、R
2,R
3,R
4,R
5は、それぞれ独立して、水素原子;上記R
1と同様に、炭素原子数1〜4の直鎖状または分岐状のアルキル基;である。好適な一態様では、上記式(III)におけるR
2〜R
5がいずれも水素原子である。かかる場合、被膜形成における反応抵抗を低減することができる。
【0053】
式(III)で示されるようなアルキンスルホン酸化合物の具体例として、2−ブチン−1,4−ジオールジ(メタンスルホナート)、2−ブチン−1,4−ジオールジ(エタンスルホナート)、3−ヘキシン−2,5−ジオールジ(メタンスルホナート)、3−ヘキシン−2,5−ジオールジ(エタンスルホナート)、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールジ(メタンスルホナート)、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオールジ(エタンスルホナート)等が挙げられる。なかでも立体障害が小さく反応性が高いことから、上記式(I)で示される2−ブチン−1,4−ジオールジ(メタンスルホナート)を好適に用いることができる。
【0054】
式(IV)において、mは、0または1である。また、R
6は、上記式(III)におけるR
1と同様であり得る。また、R
7,R
8,R
9,R
10は、それぞれ独立して、上記式(III)におけるR
2〜R
5と同様であり得る。
【0055】
式(IV)で示されるようなアルキンスルホン酸化合物の具体例として、2−(メチルスルホニルオキシ)プロパン酸2−プロピニル、2−(メチルスルホニルオキシ)プロパン酸3−ブチニル、メタンスルホン酸2−プロピニル、エタンスルホン酸2−プロピニル、トリフルオロメタンスルホン酸2−プロピニル、メタンスルホン酸3−ブチニル、トリフルオロメタンスルホン酸3−ブチニル等が挙げられる。なかでも立体障害が小さく反応性が高いことから、上記式(II)で示される2−(メチルスルホニルオキシ)プロパン酸2−プロピニルを好適に用いることができる。
【0056】
また、アルキンスルホン酸誘導体の典型例としては、種々の塩が挙げられる。例えば、脂肪族スルホン酸類あるいは芳香族スルホン酸類のリチウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩、メチルエステル等が挙げられる。
【0057】
好ましい一態様では、非水電解液に含まれる成分の中で上記アルキンスルホン酸化合物が最も高い還元電位(vs. Li/Li
+)となるよう、該非水電解液を調製する。例えば、アルキンスルホン酸化合物として2−ブチン−1,4−ジオールジ(メタンスルホナート)を用いる場合、該化合物の還元電位は凡そ2.25V(vs. Li/Li
+)であるため、非水電解液に含まれる他の成分(典型的には、ビニレンカーボネート化合物および非水溶媒)としては、還元電位が2.25V(vs. Li/Li
+)と概ね同等かそれよりも低い(典型的には0.1V以上低い、例えば0.3V以上低い、特に0.5V以上低い)ものを用いることが好ましい。また、例えば、アルキンスルホン酸化合物として2−(メチルスルホニルオキシ)プロパン酸2−プロピニルを用いる場合は、非水電解液に含まれる他の成分として、該化合物の還元電位(1.22V
vs. Li/Li
+)と概ね同等かそれよりも低い(典型的には0.1V以上低い、例えば0.3V以上低い、特に0.5V以上低い)還元電位を有するものを用いることが好ましい。これにより、負極活物質の表面に実質的にアルキンスルホン酸化合物に由来する被膜を好適に形成することができる。
【0058】
アルキンスルホン酸化合物の好適な添加量は、例えば負極活物質の種類や性状(例えば、平均粒径や比表面積)等によって異なり得る。一般的には、負極活物質の平均粒径が小さくおよび/またはBET比表面積が大きくなるほど、好適なアルキンスルホン酸化合物の添加量は増加する傾向にある。このため、特に限定されないが、添加量があまりに少ない場合は負極活物質表面に形成される被膜が薄くなり電池の耐久性(保存特性や急速充放電特性)が低下する虞がある。一方、添加量があまりに多い場合は負極活物質の表面に形成される被膜が厚くなり、充放電に伴う抵抗が増大する虞がある。好適な一態様では、非水電解液中のアルキンスルホン酸化合物の濃度は、非水電解液100質量%に対して、凡そ0.1質量%以上(典型的には0.2質量%以上、例えば0.5質量%以上)であって、5質量%以下(典型的には2質量%以下、例えば1質量%以下、好ましくは0.75質量%以下)である。添加量が上記範囲にある場合、本願発明の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0059】
電池の構築に用いられたアルキンスルホン酸化合物の量(換言すれば、電池ケース内に供給されたアルキンスルホン酸化合物の量)は、例えば、後述するイオン交換クロマトグラフィーの手法によって正負極活物質層に含まれるSO
32−およびSO
42−の量を定量すること;電池ケース内に溜まった非水電解液を後述するイオン交換クロマトグラフィーにより分析してアルキンスルホン酸化合物およびそれらの分解物に起因する化学種を定量すること;等の方法により、概ね把握することができる。
【0060】
ビニレンカーボネート化合物としては、下記式(V)で示される化合物を用いることができ、公知の方法により作製したもの、あるいは市販品の購入等により入手したものを特に限定せず1種または2種以上用いることができる。
【0061】
【化5】
式(V)において、R
11,R
12は、それぞれ独立して、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素原子数1〜4のアルキル基;である。
式(V)で示されるようなビニレンカーボネート化合物の具体例として、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、エチルメチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、プロピルビニレンカーボネート、ブチルビニレンカーボネート等が挙げられる。なかでも、ビニレンカーボネートを好適に用いることができる。
【0062】
好ましい一態様では、ビニレンカーボネート化合物の還元電位(vs. Li/Li
+)が上述のアルキンスルホン酸化合物よりも低く、且つ非水電解液に含まれる他の成分(典型的には非水溶媒、例えばエチレンカーボネート)よりも高い。すなわち、非水電解液に含まれる成分の中で、還元電位の順が、アルキンスルホン酸化合物>ビニレンカーボネート化合物>非水溶媒、となる態様が好ましい。例えば、ビニレンカーボネートの還元電位は凡そ0.8V(vs. Li/Li
+)であるため、非水電解液に含まれる非水溶媒としては、該電位と概ね同等かそれよりも低い(典型的には0.05V以上低い、例えば0.1V以上低い)還元電位を有するものを用いることが好ましい。
【0063】
ビニレンカーボネート化合物の好適な添加量は、上述のアルキンスルホン酸化合物と同様に、例えば負極活物質の種類や性状(例えば、平均粒径や比表面積)等によって異なり得る。このため、特に限定されないが、好適な一態様では、非水電解液中のビニレンカーボネート化合物の濃度は、非水電解液100質量%に対して、凡そ0.5質量%以上(典型的には0.75質量%以上、例えば1質量%以上)であって、10質量%以下(典型的には7質量%以下、例えば5質量%以下)である。添加量が上記範囲にある場合、アルキンスルホン酸化合物とビニレンカーボネート化合物とが共重合体を形成し易く、かかる共重合体からなる混合被膜を負極活物質の表面に好適に形成することができる。
【0064】
なお、電池の構築に用いられたビニレンカーボネート化合物の量(換言すれば、電池ケース内に供給されたビニレンカーボネート化合物の量)は、例えば、後述するイオン交換クロマトグラフィーの手法によって正負極活物質層に含まれるCO
32−の量を定量すること;電池ケース内に溜まった非水電解液を後述するイオン交換クロマトグラフィーにより分析してビニレンカーボネート化合物およびそれらの分解物に起因する化学種を定量すること;等の方法により、概ね把握することができる。
【0065】
<電池ケース>
電池ケースの材質としては、アルミニウム、スチール等の金属材料;ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂材料;が例示される。なかでも、放熱性向上やエネルギー密度を高める目的から、比較的軽量な金属(例えばアルミニウムやアルミニウム合金)を好ましく用いることができる。また、該ケースの形状(容器の外形)は、例えば円形状(円筒形、コイン形、ボタン形)、六面体形状(直方体形、立方体形)、袋体形状、およびそれらを加工し変形させた形状等であり得る。
【0066】
<2.初回充電工程>
初回充電工程では、上記正極と上記負極の間に電流を付与する充電処理を行う。ここで開示される製造方法において、初回充電工程は、(2−1)第1充電処理工程;(2−2)保持工程;(2−3)第2充電処理工程;を包含する。
【0067】
<2−1.第1充電処理工程>
本工程では、負極の電位(vs. Li/Li
+)が、非水電解液中に含まれるアルキンスルホン酸化合物の少なくとも1種の還元電位以下であってビニレンカーボネート化合物の還元電位より大きくなるよう、正極と負極の間に電流を付与する充電処理を行う。これによって、負極の表面でアルキンスルホン酸化合物が還元分解され、負極活物質の表面に該アルキンスルホン酸化合物に由来する被膜(実質的にスルホン酸化合物の分解物からなる被膜)を形成することができる。好適な一態様では、負極の電位(vs. Li/Li
+)が、非水電解液中に含まれるアルキンスルホン酸化合物の還元電位より0.05V以上(典型的には0.1V以上、例えば0.3V以上、特に0.5V以上)低くなるまで、充電処理を行う。具体的な負極の電位(vs. Li/Li
+)はアルキンスルホン酸化合物の種類等によって異なるため特に限定されないが、典型的には0.85V〜2.5V(例えば0.9V〜2.4V)程度とすることができる。例えば、アルキンスルホン酸化合物として2−ブチン−1,4−ジオールジ(メタンスルホナート)を用いる場合は、負極の電位(vs. Li/Li
+)を、凡そ0.8V〜2.25V(典型的には0.85V〜2.2V、例えば0.9V〜2.1V)程度とすることができる。例えば、アルキンスルホン酸化合物として2−(メチルスルホニルオキシ)プロパン酸2−プロピニルを用いる場合は、負極の電位(vs. Li/Li
+)を、凡そ0.8V〜1.22V(典型的には0.85V〜1.2V、例えば0.9V〜1.1V)程度とすることができる。
【0068】
本工程における充電は、例えば充電開始から負極の電位が所定の値に到達するまで(または負極端子間電圧が所定値に到達するまで)、定電流で充電する方式(CC充電)により行ってもよく、上記所定の電位(または電圧)になるまで定電流で充電した後、定電圧で充電する方式(CCCV充電)により行ってもよい。
CC充電における充電レートは特に限定されないが、あまりに低すぎると処理効率が低下しがちである。一方、あまりに高すぎると、正極活物質が劣化したり、形成される被膜の質(緻密性)が低下したりすることがあり得る。このため、凡そ0.05C〜5C(典型的には0.1C〜1C、例えば0.1C〜0.5C)程度とすることが好ましい。これによって、比較的短時間で、好適な緻密性の(すなわち、低抵抗で、且つ非水電解液との反応を十分抑制し得る)被膜を精度よく形成することができる。このことは、作業効率の観点からも好ましい。
【0069】
<2−2.保持工程>
次に、上記負極の電位(vs. Li/Li
+)が、上記アルキンスルホン酸化合物の還元電位以下であって上記ビニレンカーボネート化合物の還元電位より大きい状態で、所定の時間だけ保持(放置)する。なかでも、上記第1充電処理工程において調整した電位(vs. Li/Li
+)、またはこれとほぼ同等の電位(例えば±0.5V程度)を維持することが好ましい。好適な一態様では、CCCV充電方式によって、上記第1充電処理工程および本工程(保持工程)を行う。
ここでの保持時間は特に限定されないが、あまりに短すぎると、アルキンスルホン酸化合物由来の被膜の形成が不十分または不均質となって本願発明の効果が低下することがあり得る。一方、あまりに長すぎると、条件等によってはアルキンスルホン酸化合物由来の被膜の形成が進行しすぎて電池抵抗が上昇することがあり得る。かかる観点から、保持時間は、例えば10分以上2時間以下とすることが好ましい。
【0070】
<2−3.第2充電処理工程>
本工程では、負極の電位(vs. Li/Li
+)が、ビニレンカーボネート化合物の少なくとも1種の還元電位以下であって負極の放電下限電位以上となるよう、さらに正極と負極の間に電流を付与する充電処理を行う。これによって、アルキンスルホン酸化合物の三重結合部位とビニレンカーボネート化合物の二重結合部位とが相互に結合し、両化合物が共重合する。そして、かかる共重合体が負極の表面で還元分解されることで、負極活物質の表面(典型的には該化合物の表面に形成されたアルキンスルホン酸化合物由来の被膜上)に、該共重合体に由来する被膜を形成することができる。
【0071】
好適な一態様では、負極の電位(vs. Li/Li
+)が、上記電解液中に含まれるビニレンカーボネート化合物の還元電位より0.05V以上(典型的には0.1V以上、例えば0.5V以上、特に0.6V以上)低くなるまで充電処理を行う。具体的な負極の電位(vs. Li/Li
+)はビニレンカーボネート化合物の種類等によって異なるため特に限定されないが、例えば0V〜0.85V(例えば0.01V〜0.8V)程度とすることができる。換言すれば、第2充電処理工程における正負極端子間の電圧(典型的には最高到達電圧)は、使用するビニレンカーボネート化合物や非水溶媒等の種類によっても若干異なるが、3V〜5V(典型的には3V〜4.5V、例えば3.5V〜4.2V)程度とすることができる。
【0072】
本工程における充電時の条件(充電方式、充電レート、充電時間)は、上記第1充電処理工程と同様に、適宜決定することができる。例えばCC充電における充電レートは、0.05C〜5C(典型的には0.1C〜1C、例えば0.1C〜0.5C)とすることができる。好適な他の一態様では、負極の電位(vs. Li/Li
+)が放電下限電位に到達するまで定電流充電を行う。これにより、より一層低抵抗な被膜を形成することができる。
【0073】
なお、初回充電工程は一回でもよく、例えば放電工程を挟んで二回以上繰り返し行うこともできる。また、電池特性に悪影響を与えない範囲で、上記化合物の還元分解を促進し得るようなその他の操作(例えば、圧力の負荷や超音波の照射)を適宜併用することもできる。
【0074】
≪非水電解液二次電池≫
ここで開示される製造方法によって製造された非水電解液二次電池では、負極活物質の表面には、主に2種類の被膜、すなわち、アルキンスルホン酸化合物由来の被膜と、アルキンスルホン酸化合物およびビニレンカーボネート化合物の共重合体由来の被膜、が形成されている。したがって、負極活物質表面の被膜は、典型的には、アルキンスルホン酸化合物由来のS元素含有基(例えばスルホニル基やスルホニルオキシ基)および/またはビニレンカーボネート化合物由来のC元素含有基(例えばカルボニル基やカルボキシレート基)と、電荷担体とを含んでいる。具体的には、SO
32−、SO
42−、CO
32−等を含み得る。
【0075】
アルキンスルホン酸化合物およびビニレンカーボネート化合物を用いて構築された電池であることは、例えば、負極活物質表面に形成された被膜を分析することによって把握することができる。
例えば、アルキンスルホン酸化合物を用いて構築した電池であることは、被膜中の硫化物イオンを分析することによって判別することができる。具体的には、先ず電池を解体して取り出した負極活物質層を適当な溶媒(例えばEMC)に浸漬、洗浄した後、適当な大きさに切り出して測定試料とする。次に、かかる測定試料を50%アセトニトリル(CH
3CN)水溶液中に所定の時間(例えば1分〜30分程度)浸漬することで、測定対象となる被膜成分(硫化物イオン)を溶媒中に抽出する。この溶液をICの測定に供し、得られた結果からSO
32−およびSO
42−の量(μM)をそれぞれ定量する。そして、かかる値を合計して、測定に供した負極活物質層の面積(cm
2)で除すことにより、測定試料中のアルキンスルホン酸化合物由来の被膜量(μM/cm
2)を求めることができる。かかる分析によると、例えば支持塩としてS原子を含む非水電解液を用いた電池であっても、該支持塩に由来するS原子とは区別して、アルキンスルホン酸化合物に由来する被膜の存在を認識することができる。
【0076】
また、ビニレンカーボネート化合物を用いて構築した電池であることは、被膜中の炭酸イオンを分析することによって判別することができる。具体的には、上記アルキンスルホン酸化合物の場合と同様に採取した測定試料を、イオン交換水中に所定の時間(例えば1分〜30分程度)浸漬することで測定対象となる被膜成分(炭酸イオン)を溶媒中に抽出する。この溶液をICの測定に供し、得られた結果からCO
32−の含有量(μM)を定量する。そして、かかる値を、測定に供した負極活物質層の面積(cm
2)で除すことにより、測定試料中のビニレンカーボネート化合物由来の被膜量(μM/cm
2)を求めることができる。
【0077】
被膜の量を測定する手法として、上記にはイオン交換クロマトグラフィーを用いる場合を具体的に示したが、これに限定されず、例えば従来公知の誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP‐AES:Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)、X線吸収微細構造解析法(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)等によっても被膜量を把握することができる。
【0078】
なお、上記非水電解液には、少なくとも電池構築工程終了後(組立体の状態)において、アルキンスルホン酸化合物とビニレンカーボネート化合物とが含まれている。しかしながら、上述のように、両化合物は初回充電工程において負極で還元分解され、これによって良質な皮膜となって負極活物質の表面に結合(付着)する。したがって、初回充電工程後においては、必ずしも非水電解液中にこれらの化合物が残存していることを要しない。
【0079】
本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の概略構成を
図1、
図2に示す。
図1は、非水電解液二次電池100の外形を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示した非水電解液二次電池100のII−II線に沿う断面構造を模式的に示す縦断面図である。
図1および
図2に示すように、非水電解液二次電池100は、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20とが長尺状のセパレータシート40を介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解液とともに扁平な箱型形状の電池ケース50内に収容された構成を有する。
【0080】
電池ケース50は、上端が開放された扁平な直方体形状(箱型)の電池ケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備えている。電池ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極と電気的に接続する外部接続用の正極端子70、および捲回電極体80の負極と電気的に接続する負極端子72が設けられている。蓋体54にはまた、従来の非水電解液二次電池の電池ケースと同様に、電池ケース50の内部で発生したガスをケース50の外部に排出するための安全弁55が備えられている。
【0081】
図3は、
図2に示す捲回電極体80の構成を示す模式図である。
図3に示すように、本実施形態に係る捲回電極体80は、組み立てる前段階において長尺シート状の正極(正極シート)10と、長尺シート状の負極(負極シート)20とを備えている。正極シート10は、長尺状の正極集電体12と、その少なくとも一方の表面(典型的には両面)に長手方向に沿って形成された正極活物質層14とを備えている。負極シート20は、長尺状の負極集電体22と、その少なくとも一方の表面(典型的には両面)に長手方向に沿って形成された負極活物質層24とを備えている。また、正極活物質層14と負極活物質層24との間には、両者の直接接触を防ぐ絶縁層が配置されている。ここでは、上記絶縁層として2枚の長尺シート状のセパレータ40を使用している。
このような捲回電極体80は、例えば、正極シート10、セパレータシート40、負極シート20、セパレータシート40の順に重ね合わせた積層体を長手方向に捲回し、得られた捲回体を側面方向から押圧して拉げさせることによって扁平形状に成形することにより作製することができる。
【0082】
捲回電極体80の捲回軸方向の一の端部から他の一の端部に向かう方向として規定される幅方向において、その中央部分には、正極集電体12の表面に形成された正極活物質層14と負極集電体22の表面に形成された負極活物質層24とが重なり合って密に積層された捲回コア部分が形成されている。また、捲回電極体80の捲回軸方向の両端部では、正極シート10の正極活物質層非形成部および負極シート20の負極活物質層非形成部が、それぞれ捲回コア部分から外方にはみ出ている。そして、正極側はみ出し部分には正極集電板が、負極側はみ出し部分には負極集電板が、それぞれ付設され、正極端子70(
図2)および上記負極端子72(
図2)とそれぞれ電気的に接続されている。
【0083】
ここで開示される非水電解液二次電池は各種用途に利用可能であるが、アルキンスルホン酸化合物およびビニレンカーボネート化合物添加の効果が好適に発揮され、従来に比べて広範な温度域において高い電池特性を実現し得る(例えば、耐久性と入出力特性とを高いレベルで両立可能な)ことを特徴とする。したがって、このような性質を活かして、例えば、車両に搭載される駆動用電源として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、電気トラック、原動機付自転車、電動アシスト自転車、電動車いす、電気鉄道等が挙げられる。このように、本発明によれば、ここで開示されるいずれかの非水電解液二次電池を、好ましくは動力源として備えた車両が提供される。車両に備えられる非水電解液二次電池は、該電池が複数個接続された組電池の形態であり得る。
【0084】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0085】
[非水電解液二次電池の構築]
まず、正極活物質としてのLiNi
0.38Co
0.32Mn
0.30O
2(LNCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これら材料の質量比率がLNCM:AB:PVdF=90:8:2となるよう混練機に投入し、N−メチルピロリドン(NMP)で粘度を調整しながら混練して、正極活物質スラリーを調製した。このスラリーを、厚み15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布して、乾燥後にプレスすることによって、正極集電体上に正極活物質層を有する正極シート(総厚み:170μm、電極密度:3g/cm
3)を12セル分作製した。
【0086】
次に、負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これら材料の質量比がC:SBR:CMC=98:1:1となるよう混練機に投入し、イオン交換水で粘度を調整しながら混練して、負極活物質スラリーを調製した。このスラリーを、厚み10μmの長尺状銅箔(負極集電体)の両面に塗布して、乾燥後にプレスすることによって、負極集電体上に負極活物質層を有する負極シート(総厚み:150μm、電極密度:1.18g/cm
3)を12セル分作製した。
【0087】
上記で作製した正極シートと負極シートとを、2枚のセパレータシート(ここでは、ポリエチレン(PE)の両面にポリプロピレン(PP)が積層された三層構造であって、厚み:20μmのものを用いた。)とともに捲回し、扁平形状に成形して捲回電極体を作製した。次に、電池ケースの蓋体に正極端子および負極端子を取り付け、これらの端子を、捲回電極体端部に露出した正極集電体および負極集電体にそれぞれ溶接した。このようにして蓋体と連結された捲回電極体を電池ケースの開口部からその内部に収容し、開口部と蓋体を溶接した。そして、蓋体に設けられた電解液注入孔から非水電解液を注入した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをEC:DMC:EMC=30:40:30の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF
6を1.1mol/Lの濃度で溶解させ、さらにアルキンスルホン酸化合物とビニレンカーボネート化合物とをそれぞれ非水電解液全量に対して0.25重量%で含ませたものを用いた。なお、アルキンスルホン酸化合物としては、例1〜6では、2−ブチン−1,4−ジオールジ(メタンスルホナート)(以下、「BDMS」と略称する場合がある。)を、例7〜12では、2−(メチルスルホニルオキシ)プロパン酸2−プロピニル(以下、「PMSP」と略称する場合がある。)を、それぞれ使用した。また、ビニレンカーボネート化合物としては、全ての例でビニレンカーボネート(以下、「VC」と略称する場合がある。)を使用した。このようにして、リチウムイオン二次電池(例1〜12)を構築した。
【0088】
[初回充電]
上記構築した例1〜12の電池について、25℃の環境下において初回充電を行った。例1〜6に係る初回充電パターンを
図4に、例7〜12に係る初回充電パターンを
図5に、それぞれ示す。なお、
図4,5における負極電位(V)はリチウム対極基準の値(すなわち、V vs. Li/Li
+)を表している。また、
図4では、BDMSおよびVCの還元(分解)電位に破線を付している。
図5では、PMSPおよびVCの還元(分解)電位に破線を付している。
図4(a)および
図5(a)に示すように、例1および例7では、負極の電位(vs. Li/Li
+)がアルキンスルホン酸化合物の還元電位以下であってビニレンカーボネート化合物の還元電位より大きくなるよう充電処理を行い、そこで所定の時間だけ保持した後、上記負極の電位(vs. Li/Li
+)が放電下限電位に到達するまで充電処理を行う。また、
図4(b)および
図5(b)に示すように、例2および例8では、負極の電位(vs. Li/Li
+)がビニレンカーボネート化合物の還元電位以下であって負極の放電下限電位より大きくなるよう充電処理を行い、そこで所定の時間だけ保持した後、負極の放電下限電位まで充電処理を行う。また、
図4(c)〜(e)および
図5(c)〜(e)に示すように、例3〜5および例9〜11では、負極の電位(vs. Li/Li
+)が放電下限電位に到達するまで一気に充電処理を行う。また、
図4(f)および
図5(f)に示すように、例6および例12では、先ず、負極の電位(vs. Li/Li
+)がアルキンスルホン酸化合物の還元電位以下であってビニレンカーボネート化合物の還元電位より大きくなるよう充電処理を行い、そこで所定の時間だけ保持する。その後、上記負極の電位(vs. Li/Li
+)がビニレンカーボネート化合物の還元電位以下であって負極の放電下限電位より大きくなるよう充電処理を行い、そこで所定の時間だけ保持した後、上記負極の電位(vs. Li/Li
+)が放電下限電位に到達するまで充電処理を行う。
【0089】
[IV抵抗の測定(−15℃)]
次に、温度25℃で、1Cの充電レートでSOCが60%の状態まで定電流充電し、その後1.5時間の定電圧充電を行うことによって電位を調整した。この電池に対して、−15℃の温度環境下において、0.4C、0.8C、1.2C、1.6Cの放電レートでそれぞれ10秒間のCC放電を行い、10秒後の電圧を測定した。そして、このときの電流(I)−電圧(V)のプロットの一次近似直線の傾きをIV抵抗(Ω)として求めた。結果を、表1の「IV抵抗」の欄に示す。
【0091】
まず、アルキンスルホン酸化合物としてBDMSを用いた例1〜6について比較する。表1に示すように、−15℃においては例2で最もIV抵抗が高く、100mΩ以上となった。これは、負極の電位(vs. Li/Li
+)をアルキンスルホン酸化合物のみが還元分解される電位で維持せず、且つ、ビニレンカーボネート化合物の還元電位以下で長時間維持したことにより、該ビニレンカーボネート化合物由来の高抵抗な被膜が多く形成されたためと考えられる。また、従来技術に係る例3、および、例3の電流値(充電レート)を変化させた例4,5でも、96mΩ以上の高抵抗となった。一方、アルキンスルホン酸化合物の還元電位以下であってビニレンカーボネート化合物の還元電位より大きな電位を所定の時間だけ保持した例1,6では抵抗低減効果が大きく、−15℃におけるIV抵抗を93mΩ以下に抑えることができた。かかる結果は本発明の技術的意義を示している。特に、アルキンスルホン酸化合物の還元電位以下であってビニレンカーボネート化合物の還元電位より大きくなるよう充電処理を行い、そこで所定の時間だけ保持した後、上記負極の電位(vs. Li/Li
+)が放電下限電位に到達するまで充電処理を行った例1では、90mΩ以下と最も低抵抗に抑えることができた。なお、この傾向は、アルキンスルホン酸化合物としてPMSPを用いた例7〜12においても同様だった。
【0092】
また、定電流値(充電レート)の異なる例3〜5を比較すると、充電レートが小さいほどIV抵抗は低くなる傾向にあった。これは、負極の電位が、アルキンスルホン酸の還元電位より低くビニレンカーボネート化合物の還元電位より大きく保たれる時間が長くなったため、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜が低減したと考えらえる。このことから、充電レートによって負極活物質表面に形成される被膜の状態(例えば厚みや緻密性の度合い)が大きく影響を受けることがわかった。
【0093】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。