特許第6189672号(P6189672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189672
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】樹脂トルクロッド
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20170821BHJP
   F16F 1/38 20060101ALI20170821BHJP
   B60K 5/12 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   F16F15/08 T
   F16F1/38 F
   B60K5/12 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-168736(P2013-168736)
(22)【出願日】2013年8月14日
(65)【公開番号】特開2015-36576(P2015-36576A)
(43)【公開日】2015年2月23日
【審査請求日】2016年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177900
【氏名又は名称】山下ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089509
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 清光
(72)【発明者】
【氏名】稲富 崇敏
(72)【発明者】
【氏名】外丸 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小松 専
【審査官】 村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−126413(JP,A)
【文献】 特開2005−083412(JP,A)
【文献】 特開2012−197876(JP,A)
【文献】 特開平01−123736(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/08
B60K 5/12
F16F 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッド部(12)の長さ方向両端部にリング部(14・16)を一体に形成し
一方のリング部をその中心部に設けられた第1内側部材(22)を介してエンジンへ連結される第1リング部(14)とし、他方のリング部をその中心部に設けられた第2内側部材(32)を介して車体へ連結される第2リング部(16)とした樹脂トルクロッドにおいて、
正面視にて、前記第1リング部(14)は、第1リング部(14)及び第2リング部(16)の各中心を結ぶ中心線(C0)上にて、衝突時における前記エンジンの後退に伴って前記第1内側部材(22)が移動する方向である後方の内側端部(P1)と前記第1内側部材(22)の中心(O1)を挟んで反対側となる前方の外側端部(P2)を備え、さらにこれら内側端部(P1)及び外側端部(P2)から上側へ90°ずれた上側端部(Q1)を備え、
前記ロッド部(12)は、前記第1リング部(14)近傍に前記中心線(C0)に対して上方へ片寄って非対称に配置された肉抜き穴(44)を備え、
この肉抜き穴(44)を設けることによって、前記第1リング部の成形時における樹脂の流れを中心線(C0)に対して非対称とすることにより中心線(C0)からずらして形成されるウエルドライン(70)を前記外側端部(P2)と前記上側端部(Q1)との間に設けるとともに、
前記肉抜き穴(44)は、衝突時に前記第1内側部材(22)を所定の破壊予定部(45)へ案内するガイド部をなし、
前記破壊予定部(45)は、前記上側端部(Q1)より後方かつ前記内側端部(P1)より上方に位置し、
この破壊予定部(45)と前記ウエルドライン(70)とが前記中心(O1)を挟んで反対側に位置することを特徴とする樹脂トルクロッド。
【請求項2】
前記ウエルドライン(70)は、前記上側端部(Q1)より前記外側端部(P2)側へ約45°ずれた位置に形成されていることを特徴とする請求項1の樹脂トルクロッド。
【請求項3】
前記肉抜き穴(44)を中心線(C0)に対して非対称に配置し、中心線(C0)を挟んだ肉抜き穴(44)の両側に、非対称の断面積部分を形成したことを特徴とする請求項の樹脂トルクロッド。
【請求項4】
前記肉抜き穴(44)が中心線(C0)に対して非対称形状をなすことを特徴とする請求項の樹脂トルクロッド。
【請求項5】
前記肉抜き穴(44)の開口縁部は、前記第1リング部(14)に形成されるリング穴(15)に沿う前縁部(44a)と、この前縁部(44a)より後方の後縁部(44b)を備え、この後縁部(44b)は後方斜め上がりのガイド斜面をなすことを特徴とする請求項の樹脂トルクロッド。
【請求項6】
前記リング部(14)の断面積が、中心線(C0)に対して非対称であることを特徴とする請求項1の樹脂トルクロッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンを支持するために用いられる樹脂製のトルクロッドに係り、特にウエルドラインを有利に形成したものに関する。
【背景技術】
【0002】
ロッド部と、その長さ方向両端に設けられた第1及び第2リング部とを備え、各リング部に弾性体のブッシュを設け、それぞれをエンジンと車体へ連結したトルクロッドは公知である。また、ロッド部及びリング部をFRP等の樹脂にて一体に形成した樹脂トルクロッドも公知である。
さらに、樹脂トルクロッドの場合には、リング部等にウエルドラインが形成されることも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−255971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、リング部のウエルドラインは、射出等により注入された樹脂が、リング部に形成されたリング穴を2方向に分かれて回り込んでから合流することにより形成される。リング部のうちロッド部の付け根側部分を内側端部とし、リング部の中心を挟んで反対側を外側端部としたとき、樹脂を内側端部から注入すればウエルドラインは外側端部に形成されることになる。
しかし、ウエルドラインは強度を低下させてしまうことが知られている。ウエルドラインが荷重入力方向(この場合は外側端部)と一致すると、ウエルドラインが応力の高い部分に位置することになり、リング部がウエルドラインから破壊され易くなるので、リング部の耐久性が低下してしまう。したがって、樹脂を内側端部から注入してもウエルドラインの位置を荷重入力方向からずらすようにすることが望まれる。
そこで、本願は係る要望の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため請求項1に記載した発明は、、ロッド部(12)の長さ方向両端部にリング部(14・16)を一体に形成し、一方のリング部をその中心部に設けられた第1内側部材(22)を介してエンジンへ連結される第1リング部(14)とし、他方のリング部をその中心部に設けられた第2内側部材(32)を介して車体へ連結される第2リング部(16)とした樹脂トルクロッドにおいて、
正面視にて、前記第1リング部(14)は、第1リング部(14)及び第2リング部(16)の各中心を結ぶ中心線(C0)上にて、衝突時における前記エンジンの後退に伴って前記第1内側部材(22)が移動する方向である後方の内側端部(P1)と前記第1内側部材(22)の中心(O1)を挟んで反対側となる前方の外側端部(P2)を備え、さらにこれら内側端部(P1)及び外側端部(P2)から上側へ90°ずれた上側端部(Q1)を備え、
前記ロッド部(12)は、前記第1リング部(14)近傍に前記中心線(C0)に対して上方へ片寄って非対称に配置された肉抜き穴(44)を備え、
この肉抜き穴(44)を設けることによって、前記第1リング部の成形時における樹脂の流れを中心線(C0)に対して非対称とすることにより中心線(C0)からずらして形成されるウエルドライン(70)を前記外側端部(P2)と前記上側端部(Q1)との間に設けるとともに、
前記肉抜き穴(44)は、衝突時に前記第1内側部材(22)を所定の破壊予定部(45)へ案内するガイド部をなし、
前記破壊予定部(45)は、前記上側端部(Q1)より後方かつ前記内側端部(P1)より上方に位置し、
この破壊予定部(45)と前記ウエルドライン(70)とが前記中心(O1)を挟んで反対側に位置することを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載した発明は上記請求項1において、前記ウエルドライン(70)は、前記上側端部(Q1)より前記外側端部(P2)側へ約45°ずれた位置に形成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載した発明は上記請求項において、前記肉抜き穴(44)を中心線(C0)に対して非対称に配置し、中心線(C0)を挟んだ肉抜き穴(44)の両側に、非対称の断面積部分を形成したことを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載した発明は上記請求項において、前記肉抜き穴(44)が中心線(C0)に対して非対称形状をなすことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載した発明は上記請求項1において、前記肉抜き穴(44)の開口縁部は、前記第1リング部(14)に形成されるリング穴(15)に沿う前縁部(44a)と、この前縁部(44a)より後方の後縁部(44b)を備え、この後縁部(44b)は後方斜め上がりのガイド斜面をなすことを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載した発明は上記請求項1において、前記リング部(14)の断面積が、中心線(C0)に対して非対称であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1によれば、リング部(14)における樹脂の流れを中心線(C0)に対して非対称にしたので、ウエルドライン(70)を中心線(C0)からずらして形成できる。このため、ウエルドライン(70)への応力集中を避けて、強度及び耐久性を向上させることができる。
また、肉抜き穴(44)をリング部(14)近傍に設け、この肉抜き穴形成部により非対称の樹脂の流れを形成させたので、肉抜き穴(44)の形成を利用してウエルドライン(70)を中心線(C0)とずらして形成することができる。
さらに、肉抜き穴(44)が、リング部(14)の内側に設けられてエンジンへ取付けられた第1内側部材(22)を衝突時に所定の破壊予定部(45)へ案内するガイド部をなすので、衝突時に第1内側部材(22)を所定の破壊予定部(45)へ案内して確実に破壊させることができるとともに、この破壊予定部にウエルドラインを関連させて設けておくことにより、ウエルドライン形成部においても同時に破壊させることができる。したがって、衝突時におけるリング部の破壊を確実かつ正確におこなうことができる。
【0012】
請求項2によれば、ウエルドライン(70)が中心線(C0)からずれた位置、すなわち上側端部(Q1)より外側端部(P2)側へ約45°ずれた位置に形成されるので、中心線(C0)方向にて第1リング部(14)の外側端部(P2)へ大きな応力がかかっても、この位置にウエルドライン(70)が存在しない。このため、強度の低いウエルドライン(70)が応力が最も高くなる部分から離れた位置になるので、トルクロッド(10)は破壊されにくく、耐久性の高いものになる。
【0013】
請求項3によれば、肉抜き穴(44)を中心線(C0)に対して片寄らせて非対称に配置したので、中心線(C0)を挟んだ肉抜き穴(44)の両側に、非対称の断面積部分を形成できる。このため、リング部を流れる樹脂の速度が中心線(C0)に対して非対称となって、ウエルドライン(70)を中心線(C0)とずらして形成することができる。しかも、肉抜き穴(44)の配置を調整することにより、ウエルドライン(70)の位置を容易に調整ができる。
【0014】
請求項4によれば、肉抜き穴(44)を中心線(C0)に対して非対称形状にすることで、中心線(C0)を挟んだ肉抜き穴(44)の両側に、非対称の断面積部分を形成できる。
【0015】
請求項5によれば、後縁部(44b)は後方斜め上がりガイド斜面をなすので、第1内側部材(22)は後縁部(44b)に案内されて、後方斜め上がりに移動し、破壊予定部(45)を破断することができる。
【0016】
請求項6によれば、前記リング部(14)の断面積を非対称にしたので、中心線(C0)に対して非対称をなす樹脂の流れを実現させ、ウエルドライン(70)を中心線(C0)からずらすことができる。しかも、断面積の非対称程度を調整することにより、ウエルドライン(70)の位置を容易に調整ができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】トルクロッドの正面図
図2】平面図
図3図2における3−3線断面図
図4】第1リング部の成形に関する説明図
図5】第1リング部における衝突破壊時の説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて一実施形態を説明する。図1はトルクロッドの正面図、図2は平面図、図3図2における3−3線断面図である。
このトルクロッド10は、棒状のロッド部12と、その長手方向両端に第1リング部14と第2リング部16とをFRP等の公知の適宜樹脂にて一体に形成した本体部18を備える。
【0019】
第1リング部14はリング穴15(図3参照)を備え、この内側に配置された、第1弾性体20を介して第1内側部材22と連結されている。第1弾性体20はゴム等の適宜弾性材料からなり、第1リング部14と第1内側部材22を加硫接着等の適宜手段で弾性的に結合している。第1内側部材22は図示しないエンジンへ取付けられる。
【0020】
第2リング部16はリング穴17(図3参照)を備え、この内側に配置された第2弾性体30を介して第2内側部材32と結合されている。第2弾性体30は、ゴム等の適宜弾性材料よりなり、加硫接着等の適宜手段で第2リング部16と第2内側部材32を弾性的に結合している。
第2内側部材32は金属製等のパイプ部材であり、ここに通した図示しないボルト等により図示しない車体へ取付けられている。
【0021】
ここで、第1リング部14の中心をO1、第2リング部16の中心をO2とし、これらを結んだ直線を中心線C0とする。また、第1リング部14の中心軸線をC1、幅をW1、第2リング部16の中心軸線をC2、幅をW2とする。中心軸線C1は第1内側部材22の軸線でもあり、中心O1は中心軸線C1上でW1の中間となる。中心軸線C2は第2内側部材32の軸線でもあり、中心O2は中心軸線C2上でW2の中間となる。
各中心軸線C1とC2は直交して互いに90°ねじれている。但し、本願発明の対象となるトルクロッドはこのようなねじれタイプだけでなく、各中心軸線C1及びC2が平行するものでもよい。
【0022】
中心線C0はこれら中心軸線C1及びC2と直交している。また、この例では、ロッド部12が中心線C0に対して対称に設けられ、中心線C0がロッド部12の中心線にもなっている。ここで、第1リング部14について、中心線C0上となる部分のうち、ロッド部12の付け根となる部分を内側端部P1とし、中心O1を挟んで反対側となる部分を外側端部P2とする。また、これらから90°ずれた部分を上側端部Q1及び下側端部Q2とする(図1参照)。
【0023】
さらに、中心線C0の方向を前後方向、中心軸線をC2の方向を上下方向とし、図1における左側を前方、上側を上方とする。また、中心軸線C1の方向を左右方向とし、図2における上側を右方とする。この例では、外側端部P2と上側端部Q1間の位置P3にウエルドライン70が形成されている。
【0024】
第1内側部材22は金属製パイプ等からなり、内側へ嵌合される円筒部の長さ方向両側を第1リング部14から突出させて偏平につぶした平面部23を備え、この平面部23に透し穴24を形成し、この透し穴24により図示しないボルト等によりエンジンへ取付けられる。平面部23の面は前方斜め下がりに傾斜している。
【0025】
第1リング部14の外周面には、周方向へ複数の平行する肉抜き溝26が形成され、この肉抜き溝26の間がリブ28をなしている。リブ28は複数が平行して形成されている。
【0026】
ロッド部12は、上下に左右方向へ張り出す上下リブ40と、これら上下リブ40をつないで中心線C0に沿って前後方向へ延びる柱状部42を一体に有する略H字状断面をなし、柱状部42の前端部で第1リング部14の付け根近傍には、肉抜き穴44が左右方向へ貫通して形成されている。肉抜き穴44の位置は上下方向が非対称で上方へ片寄って形成されている。肉抜き穴44は、後述するように衝突時における第1内側部材のガイド部をなす。
【0027】
上下リブ40の平面視は前後方向中間部が中央側へくびれた湾曲部46をなしている。また、柱状部42の側面には、左右方向へ突出するとともに、中心線C0と平行に第2リング部16側へ延びる横リブ48が複数本平行して一体に形成されている。
【0028】
第2弾性体30は、第2内側部材32から左右へ拡がる腕部34を有し、防振主体部をなしている。
腕部34は平面視で前方へ凸の略V字状をなし、後方へ向かって拡開し、第2内側部材32は上下方向へ貫通するすぐり穴36を介してストッパ38と対向している。
腕部34の前方側にも上下方向に貫通するすぐり穴39が形成されている。
【0029】
エンジンの上下及び前後方向の振動は、第1内側部材22を介して第1リング部14へ入力され、第1弾性体20を弾性変形させる。このとき第1弾性体20は捩られ、トルクロッド10が第1内側部材22を中心に揺動されるため、第2リング部16が前後方向へ移動して腕部34を弾性変形させる。これにより、トルクロッド10により振動を吸収して、車体への振動伝達を低減する。
【0030】
次に、ウエルドラインの形成について説明する。図4は、金型60のうち、前半側の第1リング部14部分のみを示す図であり、省略してあるが後半側の第2リング部16もこの金型60により連続して形成される。この例では、金型60は射出成型用として形成されている。
金型60は成形空間であるキャビティを有し、このキャビティは、第1リング部14を形成するリング成形部62とロッド部12を形成するロッド成形部64を備える。
リング成形部62中央には、リング穴形成部材65が配置される。
リング穴形成部材65は第1弾性体20と一体に成形する場合は、予め一体化された第1弾性体20及び第1内側部材22であり、成形後に第1弾性体20及び第1内側部材22を嵌合一体化する場合は、第1弾性体20及び第1内側部材22に相当する中子である。
【0031】
また、リング成形部62について、第1リング部14における各端部P1・P2及びQ1・Q2並びに中心線C0を対応させて示すと、図示状態で略ドーナツ状のリング成形部62は、中心線C0を挟んで上側端部Q1側の上部62Aと、下側端部Q2側の下部62Bとになり、これらはリング穴形成部材65を囲んで連続している。
【0032】
また、ロッド成形部64において、リング成形部62の内側端部P1近傍に、肉抜き穴44を形成するための中子66が配置される。中子66は中心線C0に対して非対称に上側へ偏在するように配置される。しかも、中子66は略三角形状をなし、一つの頂点をロッド成形部64側に向け、他の二つの頂点を略三角形状をリング穴形成部材65と略等間隔となるように上下に配置するが、中子66自体も下方側が長い非対称形状をなしている。このため、中子66を挟んで、上側に通路断面積が狭い上側通路67、下方側に通路断面積が広い下側通路68が形成されている。
【0033】
この金型60に対して、例えば、第2リング部16側から樹脂を射出成形により注入すると、樹脂はロッド成形部64をリング成形部62へ流れるが、中子66で2方向へ分かれ、矢示Aのように上側通路67へ入るものと、矢示Bのように下側通路68へ入るものとに分流する。
【0034】
矢示Aのように上側通路67へ入った樹脂は、上側通路67の通路断面積が狭いので、ここで絞られて低速化し、リング成形部62の上部62Aへ入る。
一方、矢示Bのように下側通路68へ入った樹脂は、下側通路68の通路断面積が広いので、相対的に流速が速くなり、比較的高速でリング成形部62の下部62Bへ入る。
【0035】
リング成形部62の上部62Aへ入った樹脂は、リング穴形成部材65を回り込むように矢示A方向へ流れる。一方、リング成形部62の下部62Bへ入った樹脂は、リング穴形成部材65を回り込むように矢示B方向へ流れる。
このとき、上部62Aと下部62Bを流れる樹脂の速度が異なるので、同じ時間で、より低速の上部62Aを流れる樹脂が上側端部Q1を越えて外側端部P2へ向かう間に、より高速の下部62Bを流れる樹脂は、下側端部Q2及び外側端部P2を越えて上側端部Q1へ向かう。
【0036】
このため、矢示A方向へ流れた低速の樹脂と、矢示B方向へ流れた高速の樹脂とが、中心線C0より上方かつ前方側へ略45°ずれた第1リング部14の前側上部14a(図1)において、外側端部P2と上側端部Q1の間で合流し、ここでウエルドライン70を形成する。なお、ウエルドライン70の形成位置は、矢示A方向における樹脂の流速と、矢示B方向における樹脂の流速との速度差により自由に調整され、この速度差は中子66の配置や形状を変化させることによる絞り調節で自由に調整される。
【0037】
次に、このように形成されたウエルドライン70と肉抜き穴44との関係を図5により説明する。図5において、肉抜き穴44は、後述するように衝突時における第1内側部材のガイド部をなす。正面視における開口縁部は、リング穴15に沿って前方斜め上がりに形成される前縁部44aと、その後方で後方斜め上がりに形成される後縁部44bと、前縁部44a及び後縁部44bの各上端部を連結して前方斜め上がりに傾斜する上縁部44cからなる略三角形状をなしている。肉抜き穴44の下部は中心線C0を越えて下方へ延びているがその延び出し量は若干である。前縁部44aとリング穴15の間には、比較的破壊されやすくなっている薄いリング部隔壁43が形成されている。
【0038】
肉抜き穴44の上部は、上方へ向かって次第に拡開するように広がり、中心線C0を越えて上方へ大きく延び、上縁部44cは第1リング部14の付け根部で、ロッド部12の湾曲部46に連続する後側上部壁45に沿っている。後側上部壁45はリング部隔壁43よりも肉厚でより高剛性になっており、第1リング部14の中心O1に対して、後方かつ上方側略45°で、前側上部14aに設けられたウエルドライン70と、中心O1を挟んで略反対側に位置する。後縁部44bは衝突時における第1内側部材22のガイド斜面になっている。
【0039】
すなわち、衝突時に第1内側部材22が、d矢示のように中心線C0に沿って後方へ移動し、仮想線Dで示すようにリング部隔壁43へ衝突して、リング部隔壁43を破断する。図中の符号72はこのときの破断部である。
リング部隔壁43を破断して肉抜き穴44内へ入った第1内側部材22はさらに後方へ移動して後縁部44bに当接する。後縁部44bは後方斜め上がりガイド斜面をなすので、第1内側部材22は後縁部44bに案内されて、e矢示のように後方斜め上がりに移動し、仮想線Eで示すように後側上部壁45へ衝突してこれを破断する。符号74はこのときの破断部である。また、後側上部壁45は第1内側部材22で直接破壊される破壊予定部である。
【0040】
後側上部壁45が破断されると、この衝撃で前側上部14aにおけるウエルドライン70に沿って破断部76が形成され、ほぼ同時に破断される。その結果、破壊されたトルクロッド10ではエンジンを支持できなくなり、エンジンは自重により速やかに車体下方側へ移動する。ウエルドライン70は破壊予定部である後側上部壁45の破壊による衝撃で連動して破壊されるように形成場所が設定される。
【0041】
次に、本実施形態における作用を説明する。図4のように、肉抜き穴を形成する中子66を配置して成形すると、第1リング部14において、ウエルドライン70が中心線C0からずれた位置、この例では、上側端部Q1より外側端部P2側へ約45°ずれた位置P3に形成されるので、中心線C0方向にて第1リング部14の外側端部P2へ大きな応力がかかっても、この位置にウエルドライン70が存在しない。このため、強度の低いウエルドライン70が応力が最も高くなる部分から離れた位置になるので、トルクロッド10は破壊されにくく、耐久性の高いものになる。
【0042】
しかも、このように中心線C0からずれて偏在するウエルドライン70を、肉抜き穴44を形成するための中子66を利用することにより容易に形成でき、中子66により偏在するウエルドライン70と肉抜き穴44を同時に形成できる。
そのうえ、ウエルドライン70の位置は、中子66の調整により容易に調整できる。
【0043】
なお、ウエルドライン70の位置は、中子66の配置や寸法及び形状等を変化させることで自由に調整でき、例えば、上方や斜め45°等にすることもできる。したがって、ウエルドライン70の位置調整が容易になり、仕様に応じてウエルドライン70の形成位置を自由に変更できる。
【0044】
さらに、このような中子66によるばかりでなく、第1リング部14の断面積を変化させることによっても可能である。例えば、リング成形部62の上部62Aと下部62Bの断面積を相違させてもよい。断面積が変化すると樹脂の流動に対する抵抗が変化し、断面積の小さい方が抵抗は大きくなり、流速が低下する。したがって、例えば、上部62Aの断面積を下部62Bよりも小さくすれば、断面積の小さな上部62Aにおける流速が下部62Bよりも遅くなるので、ウエルドライン70を中心線C0よりも上方側へずらすことができる。
【0045】
そのうえ、図5に示すように、第1リング部14の、第1内側部材22の後方かつ後側上部壁45近傍に肉抜き穴44を上方へ偏らせて配置したので、破壊予定部である後側上部壁45の破壊による衝撃で連動して破壊される位置となる前側上部14aへ必ずウエルドライン70を形成することができる。したがって、肉抜き穴44を利用してウエルドライン70を、非衝突時には剛性低下にあまり影響せず、衝突時には確実に破壊される有利な位置へ設けることができる。
【0046】
しかも、衝突時には、肉抜き穴44が第1内側部材22を破壊予定部へ向かってガイドすることにより、後側上部壁45とウエルドライン70が設けられている前側上部14aを同時に破壊するので、衝突時における第1リング部14の破壊を正確かつ確実におこなうことができる。そのうえ、肉抜き孔44の調整は中子66を調整することにより自由にできるので、ウエルドライン70の位置も肉抜き穴44の調整により自由に調整できる。
【符号の説明】
【0047】
10:トルクロッド、12:ロッド部、14:第1リング部、15:リング穴、16:第2リング部、17:リング穴、18:本体部、20:第1弾性体、22:第1内側部材、30:第2弾性体、32:第2内側部材、44:肉抜き穴、60:金型、62:リング成形部、64:ロッド成形部、66:中子、70:ウエルドライン、72・74・76:破断部、C0:中心線
図1
図2
図3
図4
図5