(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、近年、レンズ交換式の撮像装置においても動画撮像が可能な機種が増えてきている。動画撮像を行う際には、被写体の移動に応じて撮像装置を移動させるため手ぶれ等に起因する光学系の振動時に像ぶれが生じやすくなる。また、被写体の移動に応じて瞬時に被写体に合焦させる必要があるため、オートフォーカスの高速化が求められる。
【0008】
この点に関して、特許文献1に記載のインナーフォーカス式レンズは、第3レンズ群に防振群を備え、像ぶれ補正を可能にすると共に、像ぶれが生じた際の収差補正を良好に行うことができるとしている。しかしながら、特許文献1に記載のインナーフォーカス式レンズでは、フォーカス群よりも物体側により屈折力の大きいレンズ群を配置しているため、フォーカス群より物体側のレンズ群で発生した収差を補正するには、フォーカス群を複数枚のレンズで構成する必要がある。このため、フォーカス群を軽量化することが困難であり、オートフォーカスの高速化を図ることが難しくなる。また、防振群についても複数枚のレンズで構成されているため、防振群が重くなってしまい、防振動作の高速化を図る上で問題がある。
【0009】
特許文献2に記載のインナーフォーカス式レンズは、フォーカス群を1枚のレンズで構成することにより、フォーカス群の小型軽量化を図っている。また、第1レンズ群内に防振群を配置し、手ぶれ補正を可能としている。しかしながら、上述のとおり、望遠レンズでは第1レンズ群を構成するレンズの外径が大きくなることから、第1レンズ群に防振群を配置すると、防振群のレンズ径が大きくなり、防振群を軽量化することが困難である。このため、当該インナーフォーカス式レンズにおいても、防振動作の高速化を図ることが難しくなる。
【0010】
特許文献3に記載のインナーフォーカス式レンズにおいても、フォーカス群を絞りよりも像面側に配置すると共に、フォーカス群を1枚のレンズで構成することにより、フォーカス群の小型軽量化を図っている。しかしながら、特許文献3に記載のインナーフォーカス式レンズは、防振群を有しておらず、像ぶれ補正を行うことができない。
【0011】
そこで、本件発明の目的は、フォーカス群及び防振群の小型軽量化を図り、光学系全体をコンパクトに構成すると共に、良好な結像性能を実現することのできるインナーフォーカス式レンズ及び撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下のレンズ構成を採用することで上記目的を達成するに到った。
【0013】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群とを備え、無限遠物体から近距離物体への合焦時に第2レンズ群を光軸方向に沿って移動させるインナーフォーカス式レンズであって、前記第2レンズ群は、負の単体レンズ要素から構成されており、前記第3レンズ群は、負の単体レンズ要素から構成される防振群を有し、当該防振群を光軸に対して略垂直に移動させることにより、当該光学系の振動時に生じる像ぶれ補正を行うことを特徴とする。
【0014】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下の条件式(1)を満足することが好ましい。
【0015】
45.0≦vd2・・・(1)
但し、
vd2:第2レンズ群を構成する単体レンズ要素のd線に対するアッベ数
【0016】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、当該光学系内において、開口絞りは前記第2レンズ群よりも像面側に配置されることが好ましい。
【0017】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下の条件式(2)を満足することが好ましい。
【0018】
0.30≦f1/f≦1.20・・・(2)
但し、
f :無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離
f1:第1レンズ群の焦点距離
【0019】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下の条件式(3)を満足することが好ましい。
【0020】
0.30≦f3/f≦3.30・・・(3)
但し、
f :無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離
f3:第3レンズ群の焦点距離
【0021】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、第3レンズ群は、物体側から順に、正の屈折力を有するフロントサブレンズ群、前記防振群、及び正の屈折力を有するリアサブレンズ群を備えることが好ましい。
【0022】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、第3レンズ群が上記フロントサブレンズ群及びリアサブレンズ群を備える場合、以下の条件式(4)を満足することが好ましい。
【0023】
0.20≦f3a/f≦1.70・・・(4)
但し、
f :無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離
f3a:フロントサブレンズ群の焦点距離
【0024】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、第3レンズ群が上記フロントサブレンズ群及びリアサブレンズ群を備える場合、以下の条件式(5)を満足することが好ましい。
【0025】
0.50≦f3c/f≦5.00・・・(5)
但し、
f :無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離
f3c:リアサブレンズ群の焦点距離
【0026】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、前記第1レンズ群は少なくとも3枚の正レンズ要素を有し、少なくともいずれかの正レンズ要素は、以下の条件式(6)を満足することが好ましい。
【0027】
60.0≦vd1a・・・(6)
但し、
vd1a:第1レンズ群内のいずれかの正レンズ要素のd線に対するアッベ数
【0028】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、前記第3レンズ群において最も像面側に配置されるレンズ要素は、像面側に凸面を向けた負のメニスカスレンズであることが好ましい。
【0029】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下に示す条件式(7)及び条件式(8)を満足することが好ましい。
【0030】
1.6≦nd3b ・・・(7)
25.0≦vd3b≦70.0・・・(8)
但し、
nd3b:防振群としての単体レンズ要素のd線に対する屈折率
vd3b:防振群としての単体レンズ要素のd線に対するアッベ数
【0031】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下に示す条件式(9)を満足することが好ましい。
【0032】
−25.0≦vd2−vd1b≦60.0・・・(9)
但し、
vd1b:第1レンズ群内で最も像面側に配置された正レンズ要素のd線に対するアッベ数
vd2 :第2レンズ群を構成する単体レンズ要素のd線に対するアッベ数
【0033】
本件発明に係る撮像装置は、上記インナーフォーカス式レンズと、その像面側に当該インナーフォーカス式レンズによって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0034】
本件発明は、上記構成を採用することにより、フォーカス群及び防振群の小型軽量化を図り、光学系全体をコンパクトに構成すると共に、良好な結像性能を実現することができ、特に、ミラーレス一眼カメラ等の装置本体が小型の撮像装置の交換レンズとして好適なインナーフォーカス式レンズ及び当該撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本件発明の実施例1のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態におけるレンズ構成例を示す図である。
【
図2】本件発明の実施例1のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図3】本件発明の実施例1のインナーフォーカス式レンズの結像倍率「1/40倍」における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図4】本件発明の実施例1のインナーフォーカス式レンズの最至近合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図5】本件発明の実施例1のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態と、防振時における横収差図である。
【
図6】本件発明の実施例2のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態におけるレンズ構成例を示す図である。
【
図7】本件発明の実施例2のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図8】本件発明の実施例2のインナーフォーカス式レンズの結像倍率「1/40倍」における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図9】本件発明の実施例2のインナーフォーカス式レンズの最至近合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図10】本件発明の実施例2のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態と、防振時における横収差図である。
【
図11】本件発明の実施例3のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態におけるレンズ構成例を示す図である。
【
図12】本件発明の実施例3のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図13】本件発明の実施例3のインナーフォーカス式レンズの結像倍率「1/40倍」における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図14】本件発明の実施例3のインナーフォーカス式レンズの最至近合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図15】本件発明の実施例3のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態と、防振時における横収差図である。
【
図16】本件発明の実施例4のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態におけるレンズ構成例を示す図である。
【
図17】本件発明の実施例4のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図18】本件発明の実施例4のインナーフォーカス式レンズの結像倍率「1/40倍」における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図19】本件発明の実施例4のインナーフォーカス式レンズの最至近合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図20】本件発明の実施例4のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態と、防振時における横収差図である。
【
図21】本件発明の実施例5のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態におけるレンズ構成例を示す図である。
【
図22】本件発明の実施例5のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図23】本件発明の実施例5のインナーフォーカス式レンズの結像倍率「1/40倍」における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図24】本件発明の実施例5のインナーフォーカス式レンズの最至近合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図25】本件発明の実施例5のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態と、防振時における横収差図である。
【
図26】本件発明の実施例6のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態におけるレンズ構成例を示す図である。
【
図27】本件発明の実施例6のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図28】本件発明の実施例6のインナーフォーカス式レンズの結像倍率「1/40倍」における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図29】本件発明の実施例6のインナーフォーカス式レンズの最至近合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図30】本件発明の実施例6のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態と、防振時における横収差図である。
【
図31】本件発明の実施例7のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態におけるレンズ構成例を示す図である。
【
図32】本件発明の実施例7のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図33】本件発明の実施例7のインナーフォーカス式レンズの結像倍率「1/40倍」における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図34】本件発明の実施例7のインナーフォーカス式レンズの最至近合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図35】本件発明の実施例7のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態と、防振時における横収差図である。
【
図36】本件発明の実施例8のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態におけるレンズ構成例を示す図である。
【
図37】本件発明の実施例8のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図38】本件発明の実施例8のインナーフォーカス式レンズの結像倍率「1/40倍」における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図39】本件発明の実施例8のインナーフォーカス式レンズの最至近合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図である。
【
図40】本件発明の実施例8のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態と、防振時における横収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本件発明に係るインナーフォーカス式レンズ及び撮像装置の実施の形態を説明する。
【0037】
1.インナーフォーカス式レンズ
1−1.光学系の構成
まず、本件発明に係るインナーフォーカス式レンズの光学系の構成について説明する。本件発明に係るインナーフォーカス式レンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群と、負の屈折力を有する第2レンズ群と、正の屈折力を有する第3レンズ群とを備え、無限遠物体から近距離物体への合焦時に第2レンズ群を光軸方向に沿って移動させるインナーフォーカス式レンズであって、前記第2レンズ群は、負の単体レンズ要素から構成されており、前記第3レンズ群は、負の単体レンズ要素から構成される防振群を有し、当該防振群を光軸に対して略垂直に移動させることにより、当該光学系の振動時に生じる像ぶれ補正を行うことを特徴とする。
【0038】
本件発明では上記レンズ構成を採用しているため、第1レンズ群及び第3レンズ群を構成するレンズの外径・重量に比して、第2レンズ群を構成するレンズの外径・重量はそれぞれ小さくなる。従って、第1レンズ群及び/又は第3レンズ群をフォーカス群とした場合と比較すると、フォーカス群を構成するレンズの小径化、軽量化を図ることが容易になり、フォーカス駆動系への負荷を低減することができる。さらに、本件発明では、第2レンズ群を負の単体レンズ要素から構成しているため、複数枚のレンズ要素から構成する場合と比較すると、当該第2レンズ群の一層の軽量化を図ることができる。このため、オートフォーカスの高速化を実現することができる。
【0039】
また、本件発明では、第3レンズ群に防振群を配置し、当該防振群を負の単体レンズ要素から構成している。望遠系のレンズのように焦点距離が長いレンズでは、第1レンズ群を構成するレンズの外径は、他のレンズ群と比較すると大きくなる。このため、防振群を第1レンズ群に配置した場合は、防振群を構成する単体レンズ要素の外径も大きくなり重くなってしまうため、迅速な防振動作を行わせることが困難になる。一方、第3レンズ群に防振群を配置すれば、防振群を第1レンズ群に配置する場合と比較すると、防振群を構成するレンズの小径化、軽量化を図ることが容易になる。また、本件発明では防振群を単体レンズ要素から構成することにより、防振群を複数のレンズ要素から構成する場合と比較すると、防振群の更なる軽量化が可能になる。さらに、本件発明では、当該単体レンズ要素の屈折力を負としているため、屈折力が正の場合と比較すると同じ外径であっても体積が小さくなる。従って、当該構成を採用することにより、防振動作の高速化を実現することができる。
【0040】
さらに、本件発明に係るインナーフォーカス式レンズでは、上述のように、物体側から順に正負正の3群構成を採用している。光学系内の屈折力の配置をこのようにすることにより、焦点距離に対して光学全長の増加を抑制することができ、鏡筒径及び鏡筒全長をコンパクトに構成できる。このため、本件発明に係るインナーフォーカス式レンズを望遠系のレンズに適用した場合、全体をコンパクトに構成することができる。なお、本件発明において、望遠系のレンズとは、標準レンズよりも焦点距離の長いレンズを指すものとし、中望遠レンズ〜超望遠レンズと称される各レンズを含むものとする。
【0041】
また、本件発明では、無限遠から近距離物体へのフォーカシングに際して、最も物体側に配置される第1レンズ群と、最も像面側に配置される第3レンズ群とを固定とし、これらの内側に配置される第2レンズ群をフォーカス群とすることにより、フォーカシングの際の重心位置の移動を抑制し、撮像画像のブレを抑制することができる。また、第1レンズ群及び第3レンズ群をフォーカシングの際に固定群とすることにより、フォーカシングの際に光学全長が変化しないという利点がある。これにより、レンズ鏡筒を密閉構造にすることができ異物の筐体内への侵入を抑制することができる。また、フォーカシングの際に、鏡筒全長が変化すると、撮像距離と被写体の位置とによっては、レンズ先端が被写体等に当接して、被写体等やレンズの汚れや破損を生じる場合がある。しかしながら、第1レンズ群及び第3レンズ群を固定群とすることにより、このような不具合を防止することができる。
【0042】
以下、本件発明に係るインナーフォーカス式レンズの光学系の構成についてより詳細に説明する。
【0043】
(1)第1レンズ群
第1レンズ群は、正の屈折力を有するものであれば、その具体的なレンズ構成は特に制限されるものではない。しかしながら、当該インナーフォーカス式レンズを望遠系のレンズに適用する場合、テレフォト比を大きくして、焦点距離に対する光学全長を短くするという観点から、当該第1レンズ群は、少なくとも3枚の正レンズ要素を有することが好ましい。第1レンズ群に少なくとも3枚の正レンズ要素、すなわち正の屈折力を有するレンズ要素を少なくとも3枚配置することにより、第1レンズ群を強い正の屈折力を有するレンズ群とすることができ、テレフォト比を大きくすることができる。
【0044】
ここで、本件発明において「レンズ要素」とは最小単位としての光学素子(以下、「最小光学要素」と称する。)を指し、「正レンズ要素」とは、最小光学要素であって、正の屈折力を有するものを意味する。従って、当該「正レンズ要素」は、「正単レンズ」の他、接合レンズ又は複合レンズの構成光学要素としての正レンズを含む。すなわち、本件発明にいう「正レンズ要素」とは、接合レンズや、非球面フィルム等の光学フィルムを片面又は両面に備える複合レンズ等において、他のレンズが接合される前、或いは光学フィルム等が貼設される前の状態の単レンズであって、正の屈折力を有するものを指す。つまり、接合レンズ又は複合レンズとしての屈折力が「負」であったとしても、これらの構成光学要素としての「レンズ要素」自体の屈折力が「正」であれば、この接合レンズの構成光学要素としての「レンズ要素」は「正レンズ要素」に該当する。また、接合レンズ又は複合レンズとしての屈折力が「正」である場合、「正レンズ要素」は接合レンズ全体又は複合レンズ全体を意味するのではなく、これらの構成光学要素において屈折力が「正」の「レンズ要素」を「正レンズ要素」と称する。
【0045】
(2)第2レンズ群
第2レンズ群は、上述のとおり、フォーカシングの際に光軸方向に沿って移動するフォーカス群であり、負の単体レンズ要素から構成される。当該構成を採用することにより、オートフォーカスの高速化の他、上記種々の効果が得られる。但し、無限遠物体から至近距離物体への合焦時に、第2レンズ群を物体側から像面側に移動させることが好ましい。
【0046】
ここで、「単体レンズ要素」とは、上記レンズ要素自体としての単レンズ又は、当該レンズ要素の片面又は両面に上記光学フィルム等が設けられた複合レンズを意味する。また、「負の単体レンズ要素」とは、「負」の屈折力を有する「単体レンズ要素」を意味する。すなわち、「第2レンズ群が負の単体レンズ要素から構成される」とは、第2レンズ群には、当該「負の単体レンズ要素」以外に他の「レンズ要素」を含まないことを意味し、例えば、当該第2レンズ群は負レンズの片面又は両面に非球面フィルム等の光学フィルムが貼設されることにより面形状等が調整された複合レンズであってもよいが、複数のレンズ要素からなる他の単体レンズ要素と接合された接合レンズではないことを意味する。この点は、後述する防振群についても同様である。また、後述する条件式(1)において、単体レンズ要素のd線に対する屈折率とは、複合レンズ等の場合は、光学フィルム等が貼設される前の上記レンズ要素自体のd線に対する屈折率をいう。条件式(7)及び条件式(8)についてもこれに準じるものとする。
【0047】
(3)第3レンズ群
第3レンズ群は、上述したとおり、正の屈折力を有するレンズ群であり、負の単体レンズ要素から構成される防振群を有する。これにより上述したとおり、防振動作の高速化を実現することが可能になる。
【0048】
第3レンズ群は、正の屈折力を有し、負の単体レンズ要素から構成される防振群を有するものであれば、その具体的なレンズ構成は特に制限されるものではない。しかしながら、防振群を構成する負の単体レンズ要素の一層の小型軽量化を図ると共に、当該光学系全体のコンパクト化を図るという観点から、当該第3レンズ群は、物体側から順に、正の屈折力を有するフロントサブレンズ群、前記防振群、及び正の屈折力を有するリアサブレンズ群を備える構成とすることが好ましい。このようなレンズ構成を採用することにより、防振群を構成する負の単体レンズ要素の外径を小さなものとすることができ、防振群をより小型軽量化することができ、防振動作の一層の高速化を図ることができる。なお、これらの点に関しては、後述する条件式(4)、(5)、(7)、(8)において更に説明する。
【0049】
また、第3レンズ群において最も像面側には負のメニスカスレンズを配置することが好ましい。第3レンズ群において最も像面側に配置されるレンズを負のメニスカスレンズとすることにより、像面湾曲及び歪曲収差を良好に補正することができ良好な結像性能を有する光学系とすることができる。また、像面側に凸面を向けることにより、像面側に凹面を向ける場合と異なり、撮像素子面における反射光がこの負のメニスカスレンズの像面側において反射して、これらの面間で多重反射を繰り返し、多重反射光が撮像素子面において再結像することを防ぐ事ができるため、ゴースト等を抑制する上で有利になり、良好な結像性能を有する撮像光学系とすることができる。
【0050】
(4)開口絞り
オートフォーカス及び防振動作の高速化を実現する上で、当該光学系内における開口絞りの位置は、第2レンズ群内以外であれば、特に限定されるものではない。しかしながら、本件発明に係るインナーフォーカス式レンズの製品寸法の小型化、開口絞りの開口径制御の応答速度等を考慮すると、開口絞りは、当該光学系内において、第2フォーカスレンズ群よりも像面側に配置されることが好ましい。つまり、開口絞りは、第2レンズ群と第3レンズ群との間、又は、第3レンズ群内に配置することが好ましい。これは次の理由による。
【0051】
一般に、撮像光学系では被写体の明るさに応じて露出量を調整したり、作図意図に応じて被写界深度を変化させるために、F値を調整することができるように構成されている。F値の調整は、一般に、虹彩絞り等の開口径が可変の開口絞りの開口径を調節することにより行われる。例えば、虹彩絞りであれば絞り羽根の重なり具合を調節することにより、開口径が調節される。鏡筒内にはこの開口絞りの開口径を調節するための絞り駆動部が開口絞りの周囲に設けられる。このため、開口絞りの外径が大きいと鏡筒の外径も大きくなり、当該インナーフォーカス式レンズの製品寸法が大きくなってしまう。また、開口絞りの外径が大きくなると、例えば、絞り羽根等の開口径を調節する際に可動する可動部も大きくなり、重くなることから、これらの応答速度も遅くなる。
【0052】
望遠系のレンズのように焦点距離が長く、且つ、明るい光学系では、第1レンズ群を構成するレンズの外径は、他のレンズ群と比較すると大きくなる。このため、開口絞りを第1レンズ群に配置した場合は、他のレンズ群に配置した場合と比較すると、開口絞りの開口径が大きくなるため、製品寸法の小型化を図り、開口絞りの迅速応答性を得ることが困難になる。
【0053】
また、フォーカス群が負の屈折力を有する場合、第1レンズ群に開口絞りを配置すると、フォーカス群が開口絞りよりも像面側に配置されることになるため、近距離合焦時において上光線をカットすることが難しく、コマ収差の補正が不十分になり、良好な結像性能を得ることが困難になる。
【0054】
従って、物体距離が無限遠の時に、第1レンズ群と第2レンズ群との合成屈折力を正とし、 開口絞りを第2レンズ群よりも像面側に配置することにより、開口絞りの外径を小さくすることができ、上述した各課題を解決することができる。
【0055】
1−2.条件式
次に、条件式について説明する。本件発明に係るインナーフォーカス式レンズは、上記光学系の構成を採用すると共に、以下の条件式を満足することが好ましい。
【0056】
1−2−1.条件式(1)
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下の条件式(1)を満足することが好ましい。
【0057】
45.0≦vd2・・・(1)
但し、
vd2:第2レンズ群を構成する単体レンズ要素のd線に対するアッベ数
【0058】
上記条件式(1)は、第2レンズ群を構成する負の単体レンズ要素のd線に対するアッベ数を規定した式である。条件式(1)を満足することにより、フォーカス群である第2レンズ群で発生する色収差を低減することができ、フォーカシングの際に第2レンズ群が移動することにより生じる色収差の変動を小さくすることができるため、無限遠距離時から最至近距離時にわたり、良好な結像性能を得ることができる。条件式(1)の値が下限値を下回ると、第2レンズ群で発生する色収差が大きくなり、また、フォーカス群の移動に伴う色収差の変動を小さくすることが困難になる。このため、全ての物体距離において良好な結像性能を得ることが困難になる。
【0059】
これらの観点から、当該条件式(1)の値は、下記式(1a)の範囲内であることが好ましく、下記式(1b)の範囲内であることが好ましい。
【0060】
55.0≦vd2・・・(1a)
63.0≦vd2・・・(1b)
【0061】
1−2−2.条件式(2)
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下の条件式(2)を満足することが好ましい。
【0062】
0.30≦f1/f≦1.20・・・(2)
但し、
f :無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離
f1:第1レンズ群の焦点距離
【0063】
上記条件式(2)は、第1レンズ群の焦点距離と無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離との比を規定した式である。当該条件式(2)を満足することにより、第1レンズ群の屈折力が適正なものとなり、第1レンズ群で発生する球面収差を抑制し、小型で良好な結像性能を有する光学系を得ることができる。一方、条件式(2)の値が下限値を下回ると、第1レンズ群の屈折力が強くなるため、球面収差、コマ収差、像面湾曲を補正することが困難になり、良好な結像性能を維持することが難しくなる。また、条件式(2)の値が上限値を上回ると、第1レンズ群の屈折力が弱くなるため、テレフォト比を
小さくすることが困難になり、焦点距離に対する光学全長を抑制する効果を十分に得ることができず、当該光学系のコンパクト化を図ることが困難になる。
【0064】
これらの観点から、当該条件式(2)の値は、下記式(2a)の範囲内であることが好ましく、下記式(2b)の範囲内であることが好ましい。
【0065】
0.40≦f1/f≦1.00・・・(2a)
0.45≦f1/f≦0.90・・・(2b)
【0066】
2−1−3.条件式(3)
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下の条件式(3)を満足することが好ましい。
【0067】
0.30≦f3/f≦3.30・・・(3)
但し、
f :無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離
f3:第3レンズ群の焦点距離
【0068】
条件式(3)は、第3レンズ群の焦点距離と無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離との比を規定した式である。当該条件式(3)を満足することにより、第3レンズ群の屈折力が適正なものとなり、当該光学系をコンパクトに構成すると共に、良好な結像性能を有する明るい光学系を得ることができる。一方、条件式(3)の値が下限値を下回ると、第3レンズ群の屈折力が強くなるため、コマ収差、歪曲収差を補正することが困難になり、良好な結像性能を維持することが難しくなる。また、この場合、像面側のレンズ群が強い正の屈折力を有するため、テレフォト比を大きくすることが困難になり、焦点距離に対する光学全長を抑制する効果を十分に得ることができず、当該光学系のコンパクト化を図ることが困難になる。また、条件式(3)の値が上限値を上回ると、第3レンズ群の屈折力が弱くなる。この場合、当該光学系全体におけるF値が大きくなる傾向にあり、明るい光学系を得ることができない。一方、この状態で、明るく、結像性能の良好な光学系を実現するには、収差補正のために要するレンズ枚数が増加する。特に、第1レンズ群を構成するレンズ枚数を増加させる必要がある。従って、光学系を構成するレンズ枚数が多くなることから、当該光学系の小型化、軽量化を図ることが困難になる。
【0069】
これらの観点から、当該条件式(3)の値は、下記式(3a)の範囲内であることが好ましく、下記式(3b)の範囲内であることが好ましい。
【0070】
0.40≦f3/f≦3.00・・・(3a)
0.55≦f3/f≦2.80・・・(3b)
【0072】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、第3レンズ群が上記フロントサブレンズ群及びリアサブレンズ群を備える場合、以下の条件式(4)を満足することが好ましい。
【0073】
0.20≦f3a/f≦1.70・・・(4)
但し、
f :無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離
f3a:フロントサブレンズ群の焦点距離
【0074】
上記条件式(4)は、第3レンズ群が物体側から順に、正のフロントサブレンズ群、負の防振群、正のリアサブレンズ群から構成される場合に満足することが好ましい条件式である。上記条件式(4)を満足することにより、第3レンズ群内において最も物体側に配置されるフロントサブレンズ群の屈折力が適正なものとなり、コマ収差、像面湾曲を補正することができ、良好な防振性能を有する光学系を得ることができる。条件式(4)の値が下限値を下回ると、当該フロントサブレンズ群の屈折力が大きくなり過ぎるため、コマ収差、像面湾曲の補正が困難になり、防振時の結像性能が低下するため好ましくない。条件式(4)の値が上限値を上回ると、当該フロントサブレンズ群の屈折力が小さくなり過ぎて、防振レンズ群に入射する光線束を十分に収束させることができないため、防振レンズ群の有効径を小さくすることができず、防振群の軽量化を図り、防振動作の高速化を実現するという観点から好ましくない。
【0075】
これらの観点から、当該条件式(4)の値は、下記式(4a)の範囲内であることが好ましく、下記式(4b)の範囲内であることが好ましい。
【0076】
0.35≦f3a/f≦1.50・・・(4a)
0.50≦f3a/f≦1.20・・・(4b)
【0077】
1−2−5.条件式(5)
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、第3レンズ群が上記フロントサブレンズ群及びリアサブレンズ群を備える場合、以下の条件式(5)を満足することが好ましい。
【0078】
0.50≦f3c/f≦5.00・・・(5)
但し、
f :無限遠合焦時の当該光学系全体の焦点距離
f3c:リアサブレンズ群の焦点距離
【0079】
上記条件式(5)は、第3レンズ群が物体側から順に、正のフロントサブレンズ群、負の防振群、正のリアサブレンズ群から構成される場合に満足することが好ましい条件式である。上記条件式(5)を満足することにより、第3レンズ群内において最も像面側に配置されるリアサブレンズ群の屈折力が適正なものとなり、コマ収差、歪曲収差を補正することができ、防振時の結像性能の良好な光学系を得ることができる。条件式(5)の値が下限値を下回ると、当該リアサブレンズ群の屈折力が大きくなり過ぎるため、コマ収差、歪曲収差の補正が困難になり、防振時の結像性能が低下するため好ましくない。条件式(5)の値が上限値を上回ると、当該リアサブレンズ群の屈折力が小さくなり過ぎて、F値の小さい明るい光学系を実現することが困難になる。
【0080】
これらの観点から、当該条件式(5)の値は、下記式(5a)の範囲内であることが好ましく、下記式(5b)の範囲内であることが好ましい。
【0081】
0.60≦f3c≦4.75・・・(5a)
0.70≦f3c≦4.50・・・(5b)
【0082】
1−2−6.条件式(6)
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、第1レンズ群を少なくとも3枚の正レンズ要素を有する構成とする場合、少なくともいずれかの正レンズ要素は、以下の条件式(6)を満足することが好ましい。
【0083】
60.0≦vd1a・・・(6)
但し、
vd1a:第1レンズ群内のいずれかの正レンズ要素のd線に対するアッベ数
【0084】
上記条件式(6)は、第1レンズ群が少なくとも3枚の正レンズ要素を有する場合に、第1レンズ群に配置される少なくとも3枚の正レンズ要素のうち、少なくともいずれか1枚の正レンズ要素が満足することが好ましい条件式である。上記条件式(6)を満足することにより、当該光学系全体における色収差を補正し、良好な結像性能を有する光学系を得ることができる。条件式(6)の値が下限値を下回ると、第1レンズ群で発生する色収差が大きくなり、無限遠、有限距離合焦時のいずれにおいてもその結像性能が低下するため好ましくない。
【0085】
これらの観点から、当該条件式(6)の値は、下記式(6a)の範囲内であることが好ましく、下記式(6b)の範囲内であることが好ましい。
【0086】
65≦vd1a・・・(6a)
70≦vd1a・・・(6b)
【0087】
ここで、第1レンズ群内において、上記条件式(6)を満足する正レンズ要素は少なくとも1枚あればよく、複数枚であってもよい。上記条件式(6)を満足する正レンズ要素の数が多いほど、色収差の補正が良好になる。しかしながら、現存の硝材からなる正レンズ要素において、当該条件式(6)を満足する正レンズ要素は屈折率の低いものが多い。このため、第1レンズ群に強い正の屈折力を持たせるという観点から、上記条件式(6)を満足する正レンズ要素は1枚あれば足りる。
【0088】
1−2−7.条件式(7)及び条件式(8)
【0089】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下に示す条件式(7)及び条件式(8)を満足することが好ましい。
【0090】
1.6≦nd3b ・・・(7)
25.0≦vd3b≦70.0・・・(8)
但し、
nd3b:防振群としての単体レンズ要素のd線に対する屈折率
vd3b:防振群としての単体レンズ要素のd線に対するアッベ数
【0091】
上記条件式(7)は、第3レンズ群内に設けられる防振群を構成する負の単体レンズ要素のd線に対する屈折率を規定した式である。条件式(7)を満足することにより、防振時の結像性能の良好な光学系を得ることができる。また、当該条件式(7)を満足することにより、防振時の防振群の移動量を小さくすることができるため防振機構の構成をコンパクトにすることができ、当該光学系の小型化を図る上でも有利である。一方、条件式(7)の値が下限値を下回ると、当該防振群を構成する負の単体レンズ要素の屈折力が小さくなり、防振時において良好な結像性能を維持することが困難になる他、防振時の防振群の移動量が大きくなるため、防振機構が大きくなり、当該光学系の小型化を図ることが困難になる。
【0092】
これらの観点から、当該条件式(7)の値は、下記式(7a)の範囲内であることが好ましく、下記式(7b)の範囲内であることが好ましい。
【0093】
1.65≦nd3b・・・(7a)
1.70≦nd3b・・・(7b)
【0094】
上記条件式(8)は、第3レンズ群内に設けられる防振群を構成する負の単体レンズ要素のd線に対するアッベ数を規定した式である。条件式(8)を満足することにより、防振時の色収差の変動を小さくすることができ、防振時においても良好な結像性能を有する光学系を得ることができる。一方、条件式(8)の値が下限値を下回ると、当該負の単体レンズ要素のアッベ数が小さくなり、防振時の色収差の変動が大きくなり、防振時において良好な結像性能を維持することが難しくなる。また、条件式(8)の値が上限値を上回ると、当該負の単体レンズ要素のアッベ数が大きくなり、色収差の補正という観点からは好ましい。しかしながら、現存の硝材では、当該上限値を上回る値のアッベ数を有するものは屈折率が低いものが多いため、当該上限値を上回る場合、アッベ数が大きく、且つ、屈折率の高い硝材を選択することは困難になる。また、アッベ数の増加に伴い、当該負の単体レンズ要素の屈折率が低くなった場合、防振時に発生するコマ収差、像面湾曲を補正することが困難になり、防振時において良好な結像性能を維持することが難しくなる。
【0095】
これらの観点から、当該条件式(8)の値は、下記式(8a)の範囲内であることが好ましく、下記式(8b)の範囲内であることが好ましい。
【0096】
30.0≦vd3b≦65.0・・・(8a)
35.0≦vd3b≦60.0・・・(8b)
【0098】
本件発明に係るインナーフォーカス式レンズにおいて、以下に示す条件式(9)を満足することが好ましい。
【0099】
−25.0≦vd2−vd1b≦60.0・・・(9)
但し、
vd1b:第1レンズ群内で最も像面側に配置された正レンズ要素のd線に対するアッベ数
vd2 :第2レンズ群を構成する単体レンズ要素のd線に対するアッベ数
【0100】
上記条件式(9)は、第1レンズ群内で最も像面側に配置された正レンズ要素のd線に対するアッベ数と、第2レンズ群を構成する単体レンズ要素のd線に対するアッベ数との差を規定した式である。条件式(9)を満足することにより、第1レンズ群と第2レンズ群で発生する色収差を適切に補正することができる。一方、条件式(9)の値が下限値を下回る場合、あるいは上限値を上回る場合、いずれの場合であっても、第1レンズ群で発生する色収差を第2レンズ群で補正することが困難になり、良好な結像性能を有する光学系を得ることが難しくなる。
【0101】
これらの観点から、当該条件式(9)の値は、下記式(9a)の範囲内であることが好ましく、下記式(9b)の範囲内であることが好ましい。
【0102】
−20≦vd2−vd1b≦50.0・・・(9a)
−15≦vd2−vd1b≦40.0・・・(9b)
【0103】
2.撮像装置
次に、本件発明に係る撮像装置の実施の形態を説明する。本件発明に係る撮像装置は、上記インナーフォーカス式レンズと、その像面側に当該インナーフォーカス式レンズによって形成された光学像を電気的信号に変換する撮像素子とを備えたことを特徴とする。ここで、撮像素子の種類等に特に限定はなく、撮像素子の大きさについても特に限定されるものではない。上述のように、本件発明に係るインナーフォーカス式レンズは、フォーカス群及び防振群の小型化、軽量化を図り、フォーカス駆動系への負荷を低減すると共に、光学系全体をコンパクトに構成することができ、且つ、簡素な構成で良好な結像性能を実現することができる望遠系のレンズとすることができ、携帯性に優れる交換レンズとすることができるため、一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラ等のレンズ交換式の撮像装置に好適である。さらに、当該インナーフォーカス式レンズはコンパクトに構成することができるため、装置本体の小さいミラーレス一眼カメラ等の小型のレンズ交換式の撮像装置であることがより好ましい。また、本件発明に係るインナーフォーカス式レンズは、被写体の移動に応じて高速にフォーカスすることが可能であり、防振動作も高速に行うことができるため、これらの小型の撮像装置であって、動画撮像可能な撮像装置に特に好適である。但し、本件発明に係る撮像装置は、これらのレンズ交換式カメラに限定されるものではなく、撮像用レンズが筐体に交換不能に固定されたコンパクトデジタルカメラ等であってもよく、撮像機能の他に通信機能等を備えた携帯電話、携帯用電子機器等の各種電子機器に適用してもよいのは勿論である。
【0104】
次に、実施例および比較例を示して本件発明を具体的に説明する。但し、本件発明は以下の実施例に限定されるものではなく、下記実施例に記載するレンズ構成は本件発明の一例に過ぎず、本件発明に係るインナーフォーカス式レンズの具体的なレンズ構成は、本件発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能であるのは勿論である。
【実施例1】
【0105】
本発明によるインナーフォーカス式レンズの実施例を図面を参照して説明する。
図1は、本実施例1の光学系の無限遠合焦状態におけるレンズ構成図である。
【0106】
図1に示すように、本実施例1の撮影レンズは、物体側から順に、正の屈折力を有する第1レンズ群G1と、負の屈折力を有する第2レンズ群G2と、正の屈折力を有する第3レンズ群G3とを備えている。また、第1レンズ群G1は3枚の正レンズ要素を有し、第2レンズ群G2は負の単体レンズ要素から構成されている。第3レンズ群G3は、物体側から順に正の屈折力を有するフロントサブレンズ群、負の単体レンズ要素から構成される防振群VC、及び正の屈折力を有するリアサブレンズ群から構成されており、第3レンズ群内において最も像面側には、凸面を像面側に向けた負のメニスカスレンズが配置されている。また、第2レンズ群G2と第3レンズ群G3との間には開口絞りが配置されている。さらに、撮像素子の物体側には光学フィルターCGが設けられている。
【0107】
当該インナーフォーカス式レンズにおいて、フォーカシングの際に、第1レンズ群G1及び第3レンズ群3は固定されており、無限遠物体から近距離物体へのフォーカシングの際に、第2レンズ群G2は、図中Fの矢印で示すように、光軸に沿って像面側に移動する。なお、各レンズ群の具体的なレンズ構成は
図1に示すとおりである。
【0108】
次に、当該本実施例1において、具体的数値を適用した数値実施例1の数値データ及びレンズデータを表1〜表3に示す。表1において、「f」は当該光学系全体の焦点距離、「Fno」はF値、「2ω」は画角(°)、「FB」はバックフォーカス(mm)である。また、「INF」は無限遠合焦状態、「1/40」は結像倍率、「MOD」は最至近合焦状態を示している。また、表2には、各レンズの面番号(NS)毎に、「R」(レンズ面の曲率半径)、「D」(レンズ厚又は、互いに隣接するレンズ面の光軸上の間隔)(mm)、「nd」(d線(波長λ=587.6nm)に対する屈折率)、「vd」(d線に対するアッベ数)を示している。また、表3は、可変間隔表であり、「|β|」は結像倍率を示し、「d1」及び「d2」はそれぞれ各合焦時における面間隔d1、d2(mm)を示している。 なお、これらは後述する表4〜表24においても同様である。また、数値実施例1における条件式(1)〜条件式(9)の各数値を表25に示す。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
また、
図2〜
図4に、本実施例1の光学系の無限遠合焦状態、結像倍率「1/40倍」、最至近合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図をそれぞれ示す。各縦収差図は、図面に向かって左側から順にそれぞれ球面収差(SA(mm))、非点収差(AST(mm))、歪曲収差(DIS(%))を示す。球面収差図において、縦軸はF値(図中、FNOで示す)を表し、実線はd線(波長λ=587.6nm)、短破線はg線(波長λ=435.8nm)、長波線はC線(波長λ=656.3nm)の特性である。非点収差図において、縦軸は像高(図中、Yで示す)を表し、実線はサジタル平面、破線はメリディオナル平面の特性である。歪曲収差図において、縦軸は像高(図中、Yで示す)を表す。なお、これらは他の縦収差図においても同様である。
【0113】
さらに、
図5に、本実施例1の光学系の無限遠合焦状態における横収差図を示す。図面に向かって左側に位置する3つの収差図は、無限遠合焦状態における防振補正を行っていない基本状態に対応する。また、図面に向かって右側に位置する3つの収差図は、防振群を光軸と垂直な方向に所定量移動させた防振補正状態に対応する。図面に向かって左側の基本状態の各横収差図のうち、上段は最大像高の70%の像点における横収差、中段は軸上像点における横収差、下段は最大像高の−70%の像点における横収差に対応する。また、各横収差図において、横軸は瞳面上での主光線からの距離を表し、実線はd線、短破線はg線、長波線はC線の特性である。なお、これらは他の横収差図においても同様である。
【0114】
図5から明らかなように、防振補正時における軸上像点における横収差の対称性は良好であることが分かる。また、防振補正時における+70%像点における横収差と−70%像点における横収差を基本状態における各横収差と比較すると、いずれも湾曲度が小さく、収差曲線の傾斜がほぼ等しいことから、偏心コマ収差、偏心非点収差が小さいことがわかる。このことは、防振補正状態であっても十分な結像性能が得られていることを意味している。これらの点は他の実施例についても同様である。なお、本実施例1において、無限遠合焦状態における防振群VCの光軸に対して垂直方向への移動量は、0.750mmである。
【実施例2】
【0115】
次に、実施例2のインナーフォーカス式レンズの光学系を図面を参照して説明する。
図6は、本実施例2の光学系の無限遠合焦状態におけるレンズ構成図である。実施例2のインナーフォーカス式レンズは、各レンズ群の具体的なレンズ構成は異なるが、実施例1のインナーフォーカス式レンズと略同様の構成を有している。なお、本実施例2において、無限遠合焦状態における防振群VCの光軸に対して垂直方向への移動量は、0.750mmである。
図7〜
図9に、本実施例2のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態、結像倍率「1/40倍」、最至近距離合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図をそれぞれ示す。また、
図10に無限遠合焦状態における基本状態と、防振補正状態における各横収差図を示す。
【0116】
また、表4〜表6に具体的数値を適用した数値実施例2の各データを示す。さらに、数値実施例2における条件式(1)〜条件式(9)の各数値を表25に示す。
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
【表6】
【実施例3】
【0120】
次に、実施例3のインナーフォーカス式レンズの光学系を図面を参照して説明する。
図11は、本実施例3の光学系の無限遠合焦状態におけるレンズ構成図である。実施例3のインナーフォーカス式レンズは、各レンズ群の具体的なレンズ構成は異なるが、実施例1のインナーフォーカス式レンズと略同様の構成を有している。なお、本実施例3において、無限遠合焦状態における防振群VCの光軸に対して垂直方向への移動量は、0.602mmである。
図12〜
図14に、本実施例3のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態、結像倍率「1/40倍」、最至近距離合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図をそれぞれ示す。また、
図15に無限遠合焦状態における基本状態と、防振補正状態における各横収差図を示す。
【0121】
また、表7〜表9に具体的数値を適用した数値実施例3の各データを示す。さらに、数値実施例3における条件式(1)〜条件式(9)の各数値を表25に示す。
【0122】
【表7】
【0123】
【表8】
【0124】
【表9】
【実施例4】
【0125】
次に、実施例4のインナーフォーカス式レンズの光学系を図面を参照して説明する。
図16は、本実施例4の光学系の無限遠合焦状態におけるレンズ構成図である。実施例4のインナーフォーカス式レンズは、各レンズ群の具体的なレンズ構成は異なるが、実施例1のインナーフォーカス式レンズと略同様の構成を有している。なお、本実施例4において、無限遠合焦状態における防振群VCの光軸に対して垂直方向への移動量は、0.750mmである。
図17〜
図19に、本実施例4のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態、結像倍率「1/40倍」、最至近距離合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図をそれぞれ示す。また、
図20に無限遠合焦状態における基本状態と、防振補正状態における各横収差図を示す。
【0126】
また、表10〜表12に具体的数値を適用した数値実施例4の各データを示す。さらに、数値実施例4における条件式(1)〜条件式(9)の各数値を表25に示す。
【0127】
【表10】
【0128】
【表11】
【0129】
【表12】
【実施例5】
【0130】
次に、実施例5のインナーフォーカス式レンズの光学系を図面を参照して説明する。
図21は、本実施例5の光学系の無限遠合焦状態におけるレンズ構成図である。実施例5のインナーフォーカス式レンズは、開口絞りを第3レンズ群のフロントサブレンズ群内に配置した点を除いて、実施例1のインナーフォーカス式レンズと略同様の構成を有している。但し、各レンズ群の具体的なレンズ構成は
図21に示すとおりである。また、本実施例5において、無限遠合焦状態における防振群VCの光軸に対して垂直方向への移動量は、0.750mmである。
図22〜
図24に、本実施例4のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態、結像倍率「1/40倍」、最至近距離合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図をそれぞれ示す。また、
図25に無限遠合焦状態における基本状態と、防振補正状態における各横収差図を示す。
【0131】
また、表13〜表15に具体的数値を適用した数値実施例5の各データを示す。さらに、数値実施例5における条件式(1)〜条件式(9)の各数値を表25に示す。
【0132】
【表13】
【0133】
【表14】
【0134】
【表15】
【実施例6】
【0135】
次に、実施例6のインナーフォーカス式レンズの光学系を図面を参照して説明する。
図26は、本実施例6の光学系の無限遠合焦状態におけるレンズ構成図である。実施例6のインナーフォーカス式レンズは、各レンズ群の具体的なレンズ構成は異なるが、実施例1のインナーフォーカス式レンズと略同様の構成を有している。なお、本実施例6において、無限遠合焦状態における防振群VCの光軸に対して垂直方向への移動量は、0.750mmである。
図27〜
図29に、本実施例6のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態、結像倍率「1/40倍」、最至近距離合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図をそれぞれ示す。また、
図30に無限遠合焦状態における基本状態と、防振補正状態における各横収差図を示す。
【0136】
また、表16〜表18に具体的数値を適用した数値実施例6の各データを示す。さらに、数値実施例6における条件式(1)〜条件式(9)の各数値を表25に示す。
【0137】
【表16】
【0138】
【表17】
【0139】
【表18】
【実施例7】
【0140】
次に、実施例7のインナーフォーカス式レンズの光学系を図面を参照して説明する。
図31は、本実施例7の光学系の無限遠合焦状態におけるレンズ構成図である。実施例7のインナーフォーカス式レンズは、各レンズ群の具体的なレンズ構成は異なるが、実施例1のインナーフォーカス式レンズと略同様の構成を有している。なお、本実施例7において、無限遠合焦状態における防振群VCの光軸に対して垂直方向への移動量は、0.750mmである。
図32〜
図34に、本実施例7のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態、結像倍率「1/40倍」、最至近距離合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図をそれぞれ示す。また、
図35に無限遠合焦状態における基本状態と、防振補正状態における各横収差図を示す。
【0141】
また、表19〜表21に具体的数値を適用した数値実施例7の各データを示す。さらに、数値実施例7における条件式(1)〜条件式(9)の各数値を表25に示す。
【0142】
【表19】
【0143】
【表20】
【0144】
【表21】
【実施例8】
【0145】
次に、実施例8のインナーフォーカス式レンズの光学系を図面を参照して説明する。
図36は、本実施例8の光学系の無限遠合焦状態におけるレンズ構成図である。実施例8のインナーフォーカス式レンズは、各レンズ群の具体的なレンズ構成は異なるが、実施例1のインナーフォーカス式レンズと略同様の構成を有している。なお、本実施例8において、無限遠合焦状態における防振群VCの光軸に対して垂直方向への移動量は、0.613mmである。
図37〜
図39に、本実施例8のインナーフォーカス式レンズの無限遠合焦状態、結像倍率「1/40倍」、最至近距離合焦状態における球面収差、非点収差及び歪曲収差の縦収差図をそれぞれ示す。また、
図40に無限遠合焦状態における基本状態と、防振補正状態における各横収差図を示す。
【0146】
また、表22〜表24に具体的数値を適用した数値実施例8の各データを示す。さらに、数値実施例8における条件式(1)〜条件式(9)の各数値を表25に示す。
【0147】
【表22】
【0148】
【表23】
【0149】
【表24】
【0150】
【表25】