(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、樹脂を含ませた繊維をタンクへ巻きつける際、樹脂が染み出すという課題があった。樹脂が染み出す原因としては、(i)繊維をタンクへ巻きつける際にタンクを回転させるために生じる遠心力や、(ii)繊維をタンクへ巻きつける際に繊維に係る張力が考えられる。
【0005】
図5は、タンク5に繊維を巻きつけた際に、繊維から樹脂が染み出した様子を示す模式図である。なお、タンク5の略円柱状の部分を胴体部1とし、胴体部1の両端から連続して形成された略半球状の部分をドーム部2とする。
【0006】
ヘリカル巻きにより、ドーム部2において樹脂が多く分布する樹脂集中部分3が発生する。ドーム部2は厳密には半球状ではないため、ドーム部2には凹凸が存在する。この凹凸により、繊維をタンクへ巻きつける際の張力が強くかかる部分が樹脂集中部分3である。
【0007】
フープ巻きにより、胴体部1とドーム部2の境界付近において樹脂が多く分布する樹脂集中部分4が発生する。フープ巻きにおいて、樹脂は繊維の巻きつけが進行する側へと移動する。その結果、フープ巻きが終了した際、胴体部1とドーム部2の境界付近において樹脂が多く分布する樹脂集中部分4が発生する。
【0008】
また、樹脂が染み出した結果、樹脂の分布が不均一となる。このため、樹脂を熱硬化させた後に、樹脂のない部分では繊維同士が接着せず、所望の強度が確保されない部分がタンクに生じ得るという課題があった。
【0009】
そのほか、タンクの製造方法においては、その低コスト化、省資源化、容易化、などが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本発明の一形態によれば、円筒部とその両端側にドーム部とを備えるタンクであり、熱硬化樹脂を含む層を外周に備えるタンクの製造方法が提供される。このタンクの製造方法は、前記熱硬化樹脂を含ませた繊維をヘリカル状に前記タンクへ巻きつけるヘリカル巻き工程と、前記熱硬化樹脂を熱硬化させるための熱処理工程と、を備え、前記ヘリカル巻き工程において、前記ドーム部に巻かれた繊維を室温以上であり前記熱硬化樹脂の融点以下に加熱しつつ、前記熱硬化樹脂を、前記層の表層から内層へ、または、前記タンクの軸線方向における前記タンクの両端側から中心側へ、移動させる。この形態によれば、繊維をタンクへ巻きつける際に染み出した樹脂を、粘度を下げた状態で移動させることができる。つまり、この形態によれば、熱硬化樹脂を、層の表層から内層へ、または、タンクの軸線方向におけるタンクの両端側から中心側へ、移動させるため、樹脂の分布の不均一を抑制できる。
【0012】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、タンクの製造方法を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
A.実施形態:
A1.タンク50の構成:
図1は、本発明の一実施形態に用いるタンク50について、中心軸CXを通る切断面で切断したときの概略断面図である。本実施形態において、タンク50は、燃料電池用のガスタンクである。
【0015】
タンク50は、口金部13を備えるライナー10と、繊維層21とを備えている。ライナー10は、燃料電池に供給するガスを収容する密閉容器である。ライナー10は、中央部分に形成された略円筒状の胴体部11(以下、円筒部ともよぶ)と、胴体部11の両端から連続して形成された略半球状のドーム部12とを備える。ライナー10の材料としては、高強度のアルミニウム材やステンレス材や、樹脂材を用いることができる。
【0016】
口金部13は、ドーム部12の先端に設けられており、金属で形成されている。口金部13は、ライナー10へガスを収容する際の配管としての役割を担っている。繊維層21は、タンクの強度を上げるために設けられている。本実施形態において、繊維層21を構成する繊維22は、繊維径が3〜8μm程度の繊維である。また、本実施形態において、繊維22はカーボン繊維であり、熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂を予め含浸した繊維である。繊維22の素材としては、例えば、レーヨン系カーボン繊維や、ポリアクリロニトリル(PAN)系カーボン繊維や、ピッチ系カーボン繊維を用いることができる。
【0017】
A2.フィラメントワインディングシステム100の構成:
図2は、本発明の一実施形態としてのフィラメントワインディングシステム100の構成を示す概略図である。
図2には、説明を容易にするために、相互に直行するXYZ軸が図示されている。
【0018】
フィラメントワインディングシステム100は、フィラメントワインディング法により、ライナー10の外周に、繊維22を巻きつけるためのシステムである。フィラメントワインディングシステム100は、ヘリカル巻装置200と、フープ巻装置500と、制御部600と、基台300とを備えている。フィラメントワインディング法は、(i)ライナー10の外周に、予め熱硬化樹脂を含浸させた繊維22を巻き付ける工程と、(ii)熱硬化樹脂を熱硬化させる工程と、を備える。(i)ライナー10の外周に繊維22を巻き付ける工程としては、ヘリカル巻工程、フープ巻工程の少なくとも一方を備える。
【0019】
制御部600は、フィラメントワインディングシステム100の各装置を制御するための制御ユニットである。制御部600は、各装置の制御に使用されるCPU、RAM,ROMを備える。制御部600は、フィラメントワインディングシステム100の各装置を制御することにより、所望の位置に、所望の張力で繊維22をライナー10に巻き付けることができる。
【0020】
ヘリカル巻装置200とフープ巻装置500とは、基台300に取り付けられている。基台300は、第1のレール302と、第2のレール304と、支持台310とを備えている。第1のレール302は、基台300の長手方向(X軸方向)に延伸する一対の溝である。支持台310は、図示しない駆動機構を制御部600が制御することによって、基台300の長手方向(X軸方向)に沿って第1のレール302上を移動できる。支持台310が第1のレール302上を移動することにより、ヘリカル巻装置200に対して支持台310に支持されたライナー10が相対的に移動できる。
【0021】
また、第2のレール304は、基台300の長手方向(X軸方向)に延伸する一対の溝である。フープ巻装置500は、図示しない駆動機構を制御部600が制御することによって、基台300の長手方向(X軸方向)に沿って第2のレール304上を移動できる。
【0022】
支持台310は、ライナー10を支持する装置である。支持台310は、移動台312と、支持柱314と、チャック316と、シャフト318と、を備える。チャック316は、ライナー10の口金部13を保持する。シャフト318は、チャック316と支持柱314とを固定する。シャフト318は、ライナー10の中心軸CXを中心として回転させる駆動機構(図示せず)に接続されている。本実施形態において、シャフト318の中心軸AXと、ライナー10の中心軸CXとは一致する。
【0023】
また、シャフト318は、ノズル710とノズル730とを備える。ノズル710は、シャフト318の紙面右側(+X方向側)に備えられ、紙面右側(+X方向側)から紙面左側(−X方向側)に風を噴出できる。ノズル710は、温風ノズル712と冷風ノズル714とを備え(
図4についても参照)、温風ノズル712は温風を噴出でき、冷風ノズル714は冷風を噴出できる。一方、ノズル730は、シャフト318の紙面左側(−X方向側)に備えられ、紙面左側(−X方向側)から紙面右側(+X方向側)に風を噴出できる。ノズル730は、温風ノズル732と冷風ノズル734とを備え(
図4についても参照)、温風ノズル732は温風を噴出でき、冷風ノズル734は冷風を噴出できる。
【0024】
ヘリカル巻装置200は、ライナー10に繊維22をヘリカル状に巻き付ける装置である。ヘリカル巻とは、ライナー10の軸線方向に対して所定の角度でライナー10に繊維22を巻き付ける巻き方をいう。ライナー10に繊維22をヘリカル状に巻つけることにより、ライナー10の軸線方向(X軸方向)におけるライナー10の強度を増加させることができる。
【0025】
ヘリカル巻装置200は、複数のホルダー206と、複数のボビン208と、テンション部210と、棚214と、ヘリカル巻ヘッド216を備える。
図3に示すように、ホルダー206は、棚214に設けられており、ホルダー206には、繊維22が巻かれたボビン208が備えられている。
【0026】
棚214とヘリカル巻ヘッド216との間には、テンション部210が設けられており、テンション部210は、繊維22に所定の張力を付与する。テンション部210により所定の張力が付与された繊維22は、ヘリカル巻ヘッド216を介してライナー10に巻かれる。なお、本実施形態において、繊維22は、ボビン208からテンション部210を経由してヘリカル巻ヘッド216に設置されているが、図の理解を容易とするため、その部分の繊維22は図示していない。
【0027】
フープ巻装置500は、ライナー10に繊維22をフープ状に巻き付ける装置である。フープ巻とは、ライナー10の軸線方向に対して略直角の角度でライナー10に繊維を巻き付ける巻き方をいう。ライナー10に繊維22をフープ状に巻きつけることにより、ライナー10の径方向(Y軸方向)におけるライナー10の強度を増加させることができる。
【0028】
フープ巻装置500は、複数のホルダー106と、複数のボビン108と、ノズル720とを備える。ホルダー106は、ボビン108を固定する装置であり、ボビン108には、繊維22が巻かれている。支持台310に備えられた駆動機構によってライナー10を回転させることにより、ボビン108に巻かれた繊維22をライナー10に巻きつけることができる。
【0029】
また、フープ巻装置500は、図示しない駆動機構を制御部600が制御することによって、基台300の長手方向(X軸方向)に沿って第2のレール304上を移動できる。このため、繊維22をライナー10に巻き付ける位置を調節することができる。
【0030】
ノズル720は、温風ノズル722と冷風ノズル724とを備える(
図4についても参照)。温風ノズル722は、温風を噴出することができ、冷風ノズル724は冷風を噴出することができる。ノズル720は、フープ巻装置500の鉛直上側(+Y方向側)に設けられており、鉛直上側(+Y方向側)から鉛直下側(−Y方向側)に風を噴出することができる。
【0031】
図3は、熱硬化樹脂を含む層21を外周に備えるタンクの製造方法を示す工程図である。本実施形態において、繊維22をタンク50へ巻きつける工程は、(i)繊維22をヘリカル状にタンク50へ巻きつけるヘリカル巻き工程と、(ii)繊維22をフープ状にタンク50へ巻きつけるフープ巻き工程とを備える。本実施形態において、ヘリカル巻き工程とフープ巻き工程とは相互に行なわれる。
【0032】
まず、ステップS100において、制御部600は、ヘリカル巻き工程を行なう。この工程において、制御部600は、ノズルにより風を吹き付けさせる。
【0033】
図4は、タンク50に風を当てる様子を示す模式図である。制御部600は、ノズル710とノズル730とを制御し、ノズル710の温風ノズル712とノズル730の温風ノズル732から温風を吹き付けさせる。温風の吹き付け方向は、タンク50の中心軸CXにおいて、タンク50の両端側から中心側である。温風の温度は、温風ノズルの噴出口において、室温以上であり樹脂の融点以下である。本実施形態において、樹脂の融点は100℃であり、温風の温度は60℃から80℃である。空気を加熱して温風とする手段として、本実施形態では、赤外線ヒータを用いる。なお、本明細書において、室温とは、27℃とする。
【0034】
温風を用いることにより、樹脂の粘度が下がるため、樹脂の粘度が高い場合と比較して、樹脂の移動を容易に行なうことができる。このようにすることにより、染み出した樹脂を繊維層21の表層から内層へと移動させることができ、かつ、タンク50の両端側から中心側へと移動させることができる。
【0035】
なお、ヘリカル工程において、制御部600は、ノズル720を制御し、ノズル720の冷風ノズル724から冷風を吹き付けさせる。このようにすることにより、温風によってタンク50の中心付近に移動した樹脂の粘度を下げ、樹脂が垂れることを防止できる。本実施形態において、冷風の温度は、冷風ノズルの噴出口において、10℃から30℃である。
【0036】
次に、ステップS110において、制御部600は、フープ巻き工程を行なう。この工程において、制御部600は、ノズル720を制御し、ノズル720の温風ノズル722から温風を吹き付けさせる。温風は、繊維22のタンク50への巻きつけ部分に吹き付けられる。ここで、「繊維のタンクへの巻きつけ部分」とは、既に巻きつけられている繊維に続く繊維を、新たにタンクへ巻きつける部分をいう。温風の吹き付け方向は、中心軸CXの垂直方向に沿って中心軸CXに向かう方向である。このようにすることにより、染み出した樹脂を繊維層21の表層から内層へと移動させることができる。
【0037】
なお、フープ工程において、制御部600は、ノズル710とノズル730とを制御し、ノズル710の冷風ノズル714とノズル730の冷風ノズル734とから冷風を吹き付けさせる。このようにすることにより、ドーム部12の樹脂の粘度を下げ、樹脂が垂れることを防止できる。
【0038】
ヘリカル巻き工程(ステップS100)とフープ巻き工程(ステップS110)とは、制御部600により巻き工程の終了指示がなされるまで繰り替えされる(ステップS120:NO)。
【0039】
制御部600により巻き工程の終了指示がなされた場合(ステップS120:YES)、ステップS130において、制御部600は熱処理工程を行なう。本実施形態において、熱処理工程は、タンク50を200℃とする。この工程により、熱硬化樹脂を熱硬化させることができる。以上の工程により、熱硬化樹脂を含む層21を外周に備えるタンク50が完成する。
【0040】
B.変形例:
B1.変形例1:
本実施形態において、ヘリカル巻き工程とフープ巻き工程を交互に行なっている。しかし、本発明はこれに限定されない。少なくともヘリカル巻き工程を行なっていればよい。
【0041】
B2.変形例2:
本実施形態において、ヘリカル巻き工程をフープ巻き工程より先に行なっているが、フープ巻き工程をヘリカル巻き工程より先に行なってもよい。
【0042】
B3.変形例3:
本実施形態において、冷風ノズルにより冷風を吹き付けているが、冷風を吹き付けなくても良い。
【0043】
B4.変形例4:
本実施形態において、温風により加熱と樹脂の移動を行なっているが、これに限られず、ヒータを用いて加熱し、ヘラなどを用いて樹脂を移動させても良い。
【0044】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。