【氏名又は名称】ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ・アズ・リプリゼンティド・バイ・ザ・セクレタリー・フォー・ザ・デパートメント・オブ・ヘルス・アンド・ヒューマン・サービシズ
【文献】
Proceedings of the National Academy of Sciences of USA,2006, Vol.103, No.4, pp.933-938
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記体細胞をZscan4またはZscan4依存性遺伝子に接触させることが、Zscan4タンパク質またはZscan4依存性遺伝子タンパク質をコードしている核酸分子をその体細胞に導入することを含む、請求項1または2に記載の方法。
前記体細胞を少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させることが、少なくとも1つの再プログラム化因子タンパク質をコードしている核酸分子をその体細胞に導入することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
前記核酸分子が、前記Zscan4タンパク質または前記Zscan4依存性遺伝子タンパク質をコードしているmRNA、または前記再プログラム化因子タンパク質をコードしているmRNAを含む、請求項3または4に記載の方法。
前記体細胞をZscan4またはZscan4依存性遺伝子に接触させることが、Zscan4タンパク質またはZscan4依存性遺伝子タンパク質をその体細胞に導入することを含む、請求項1または2に記載の方法。
前記分化した細胞が、線維芽細胞、リンパ球、肝細胞、上皮細胞、筋肉細胞、脂肪細胞、心筋細胞、膵臓β細胞、角化細胞、羊水細胞、末梢血細胞、血小板、アストロサイトのいずれかである、請求項7に記載の方法。
前記体細胞を、Zscan4と、Patl2、Pramel6、Piwil2、D5Ertd577eの中から選択した少なくとも1つのZscan4依存性遺伝子と、少なくとも3つの、または少なくとも4つの再プログラム化因子に接触させることを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】Zscan4がMycなしにiPSCの形成を促進することを示している。
図1Aは、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)-ZRT細胞の作製に用いるpCAG-Zscan4cERT2プラスミドの構造の模式図である。
図1Bは、iPSCを作製する実験的手続きの模式図である。
図1Cは、デオキシサイクリン(Dox)で誘導してから約20日後にALP染色した6ウエルのプレートの代表的な写真である。アルカリ・ホスファターゼ(ALP)陽性コロニーをカウントし(平均値±標準誤差)、結果を右側のグラフに示してある。
図1Dは、さまざまなタモキシフェン(Tmx)処理の後に調べたiPSCの形成効率を示している。
図1Eも、さまざまなタモキシフェン(Tmx)処理の後に調べたiPSCの形成効率を示している。誘導の20日後にALP陽性コロニーをカウントした(平均値±標準誤差)。異なる文字は、グループ間に有意差があることを示している(P<0.05)。
【
図2】第二MEFの作製と第二iPSCの誘導を示している。
図2Aは、第二MEFを作製する手続きの模式図である。
図2Bは、DoxTとTmxで処理する最初の6日間の細胞の代表的な形態を示している。17日目にALP染色した後の細胞の図を示してある。
図2Cは、さまざまなTmx処理の後に調べたiPSCの形成効率を示している。Doxで誘導した13日後にALP陽性コロニーをカウントした。異なる文字は、グループ間に有意差があることを示している(P<0.05)。
【
図3A】MEF-KOS-ZERT
第二細胞からiPSCが形成される初期段階のマイクロアレイ分析の結果を示している。
図3Aは散乱図であり、Dox+Tmx-(KOS因子)とDox+Tmx-(因子なし);Dox+Tmx-(ZKOS因子)とDox+Tmx-(因子なし);Dox+Tmx-(因子なし)とDox+Tmx-(因子なし);Dox+Tmx-(ZKOS因子)とDox+Tmx-(KOS因子)の条件でペアにして比較した結果を示している。細胞は、DoxまたはTmxでの処理を開始してから1日目、3日目、6日目に回収した。各散乱図の中の数字は、条件間で統計的な有意差があった遺伝子の数を表わす(FDR≦0.05、倍率変化≧2)。Dox+Tmx+(ZKOS)条件でDox+Tmx-(ZKOS)条件よりも多く発現した遺伝子(12個(1日目)、90個(3日目)、178個(6日目))を組み合わせることにより、重複しない231個の遺伝子のリストが得られた。
【
図3B】
図3Bは、Tmx+条件とTmx-条件での231個の遺伝子の発現レベルの倍率変化を示すヒートマップである。各遺伝子の倍率変化は、発現レベル(Tmx+)を発現レベル(Tmx-)で割ることによって計算した。231個の遺伝子のうちでPramel6が最高の倍率変化を示した:3日目に10.2倍(表1参照)。231個の遺伝子に関するESTデータベースを検索して得られた結果を遺伝子名のあとに記号で示す:赤丸、卵母細胞で優勢に発現する遺伝子;青丸、移植前の胚(1細胞から線維芽細胞へ)で優勢に発現する遺伝子;ピンク色の正方形、精巣または卵巣で優勢に発現する遺伝子。
【
図3C】
図3Cは、NIA遺伝子発現地図(Sharov他、BMC Genomics 12巻:102ページ、2011年)で見いだされた201個の遺伝子(231個の遺伝子の部分集合)(異なる22人の成人の臓器/組織と培養した細胞:左から右に、脳、小脳、目、骨格筋、心臓、骨、肝臓、腎臓、膀胱、皮膚、内臓脂肪、肺、小腸、大腸、胃、胎盤、卵巣、卵母細胞、精巣、MEF細胞、ESC、iPSC)の発現パターンを示すヒートマップである。棒グラフは、これらの組織のうちの代表的な2つの遺伝子(Patl2とD13Ertd608e)の遺伝子発現レベルを示している。
【
図3D】
図3Dは、GNFデータベース(Su他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第99巻:4465〜4470ページ、2002年)(62の異なる臓器/組織)で見いだされた99個の遺伝子(231個の遺伝子の部分集合)の発現パターンを示すヒートマップである。棒グラフは、これら組織の代表的な2つの遺伝子(Patl2とD5Ertd577e)の遺伝子発現レベルを示している。
【
図3E】
図3Eは、Zscan4を媒介としたiPSCの形成中に発生するイベントを示すまとめの図である。
【
図4】MEF-ZERT細胞の特徴づけとまとめの図である。
図4Aは、Tmx+条件とTmx-条件で継代培養したMEF-WTとMEF-ZERTの増殖曲線である。
図4Bは、Tmx+条件とTmx-条件でのTmx処理の48時間後に全体的な遺伝子発現が異なることを示す散乱図である。
図4Cは、Oct4遺伝子のプロモータ領域のDNAメチル化パターンを示している。
図4Dは、MEFに対するZscan4の効果のまとめの図である。
【
図5】MEF-ZERT細胞系の作製と特徴づけの図である。
図5Aは、MEF-ZERTを作製する手続きの模式図である。pCAG-ZscanERT2ベクターをV6.5胚性幹(ES)細胞にトランスフェクトしてZscanERT2 ES細胞(ES-ZERT)を作製した。ES-ZERT細胞をICRマウスからの胚盤胞に微量注入してオスのキメラ・マウスを作製した。その後そのマウスをメスのICRマウスと交配させた。妊娠したメスのICRマウスからE13.5胚を切除して取り出し、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)を作製するのに使用した。MEFの遺伝子型を調べ、定量RT-PCRを実施した。pCAGZscan4cERT2 DNAを持っていて外来性Zscan4cを発現したMEFをMEF-ZERTと名づけ、そうでないMEFをMEF-WT(野生型)と名づけた。
図5Bは、qRT-PCRによって調べた一連のMEF(MEF-ZERTとMEF-WT)におけるZscan4cの発現レベルを示している。
図5Cは、qRT-PCRによって調べた別の一連のMEF(MEF-ZERTとMEF-WT)におけるZscan4cの発現レベルを示している。Zscan4cの発現レベルとGapdhの発現レベルの比を計算した後、3つのデータを平均値±標準誤差として表示した。この明細書に開示した研究では、MEF系として、MEF-ZERT(#A2、#A7、#B5)とMEF-WT(#A3)を用いた。
【
図6】Zscanが、MKOSを媒介としたiPSCコロニーの形成を促進することを示している。
図6Aは、実験的手続きの模式図である。デオキシサイクリン(Dox)で誘導可能なMyc(M)、Klf4(K)、Oct4(O)、Sox2(S)を有するpiggyBacベクター(PB-TET-MKOS)をMEF-ZERTとMEF-WTにそれぞれトランスフェクトした。細胞をDox+Tmx-条件またはDox+Tmx+条件で14日間培養し、固定し、アルカリ・ホスファターゼ(ALP)染色した。
図6Bは、MKOSを媒介としてiPSCコロニーが形成されているときのMEF-ZERT細胞の形態変化を示す位相差顕微鏡写真である。
図6Cは、ALP染色した6ウエルのプレートの代表的な写真である。
図6Dは、本物のES細胞の形態とALP染色に基づいて点数化したiPSCコロニーを示す(平均値±標準誤差)。*、P<0.05。
【
図7】PB-TRT-MKOSベクターを用いてMEF-WT細胞とMEF-ZERT細胞から作製したiPSCの特徴づけを示す。
図7Aは、
図6Cに示した実験と並行して準備したウエルから採取し、支持細胞上でES細胞培養条件にて増殖させたいくつかのiPSCコロニーを示している:MEF-WT(Dox+Tmx-)からのiPSCクローンが1つ; MEF-WT(Dox+Tmx+)からのiPSCクローンが3つ; MEF-ZERT(Dox+Tmx-)からのiPSCクローンが2つ; MEF-ZERT(Dox+Tmx+)からのiPSCクローンが3つである。多能性遺伝子マーカー(内在性Oct4(Pou5f1)、内在性Sox2、Nanog、Zfp42(Rex1)、Dax1(Nr0b1))を使用してこれらのiPSCクローンとMEF-WT細胞とMEF-ZERT細胞とV6.5 ES細胞をRT-PCRで分析した。Gapdhを対照として使用した。
図7Bは、Tmx+条件でMKOSを有する(すなわちMKOS因子+Zscan4(ZMKOS因子)の)MEF-ZERT細胞に由来するiPSCクローン(#5B+1)の代表的な位相差写真である。
図7Cは、ALP染色の後のiPSCクローン(#5B+1)の顕微鏡写真である。
図7Dは、SSEA-1とNANOGに対する抗体で染色した後のiPSCクローン(#5B+1)の蛍光顕微鏡写真である。写真(右)は、DAPI染色と混ざった後の同じ写真である。
図7Eは、iPSCクローン(#5B+1)から生成した胚様体(4日目)を示す顕微鏡写真である;倍率200倍。
図7Fは、
図7Eに示した胚様体からインビトロで分化した後のiPSCを、αSMA(中胚葉)、AFP(内胚葉)、GATA4(内胚葉)、βIII-チューブリン(外胚葉)に対する抗体で染色したものの蛍光写真である。写真(右)は、DAPI染色と混ざった後の同じ写真である。スケールを示す棒は100mmである。
図7Gは、4N補完によるiPSCに由来するE13.5胚を示す。
【
図8】Zscan4が、MEF-WT細胞からMKOSを媒介としたiPSCコロニーの形成を促進することを示している。
図8Aは、実験手続きの模式図である。PB-MKOSベクターを、PB-TET-DsRed(対照)ベクター、PB-TET- Zscan4ベクター、PB-TET-Zscan4ERT2ベクターのいずれかとともにMEF-WT細胞(C57BL/6J×129S6/SvEvTac)にトランスフェクトした。細胞をDox+条件(PB-TET-Zscan4ERT2ベクターに関してはDox+Tmx-条件またはDox+Tmx+条件)のもとで14日間培養し、固定し、ALP染色した。
図8Bは、ALP染色した6ウエルのプレートの代表的な写真である。
図8Cは、点数化したALP陽性コロニーを示す。トランスフェクションとDoxによる誘導を3回実施した。2つの独立した実験からのデータを示す。データは、平均値±標準誤差で表わす(3つのウエル)。*、P<0.01。
【
図9】MKOSとZscan4を有するMEF-WTに由来するiPSCの特徴づけを示す。
図9Aは、
図8Bに示した実験と並行して準備したウエルから採取し、支持細胞上でES細胞培養条件にて増殖させたいくつかのiPSCコロニーを示している: MEF-WTからのiPSCクローンが5つ(MKOS:#A2、#A3、#A4、#A5、#A6); MEF-WTからのiPSCクローンが4つ(ZMKOS:#B1、#B3、#B5、#B6)である。多能性遺伝子マーカー(内在性Oct4(Pou5f1)、内在性Sox2、Nanog、Zfp42(Rex1)、Dax1(Nr0b1))を使用してこれらのiPSCクローンとMEF-WT細胞をRT-PCRで分析した。Gapdhを対照として使用した。
図9Bは、ALP染色後のiPSCクローン(#B5)の代表的な位相差写真である。
図9Cは、iPSCクローン(#B5)から生成した胚様体(4日目)を示す顕微鏡写真である。
図9Dは、
図9Cに示した胚様体からインビトロで分化した後のiPSCクローン(#B5)を、αSMA(中胚葉)、AFP(内胚葉)、GATA4(内胚葉)、βIII-チューブリン(外胚葉)に対する抗体で染色したものの蛍光写真である。写真(右)は、DAPI染色と混ざった後の同じ写真である。スケールを示す棒は100mmである。
【
図10】MKOSとZscan4ERT2(Tmx+)を有するMEF-WTに由来するiPSCの特徴づけを示す。
図10Aは、
図8Bに示した実験と並行して準備したウエルから採取し、支持細胞上でES細胞培養条件にて増殖させたいくつかのiPSCコロニーを示している: MEF-WTからのiPSCクローンが5つ(MKOS+Zscan4ERT2、Tmx-条件:#C1、#C2、#C3、#C5、#C6); MEF-WTからのiPSCクローンが4つ(MKOS+Zscan4ERT2、Tmx+条件:#D2、#D3、#D5、#D6)である。多能性遺伝子マーカー(内在性Oct4(Pou5f1)、内在性Sox2、Nanog、Zfp42(Rex1)、Dax1(Nr0b1))を使用してこれらのiPSCクローンと対照であるMEF-WT細胞をRT-PCRで分析した。Gapdhを対照として使用した。
図10Bは、ALP染色後のiPSCクローン(#D3)の代表的な位相差写真である。
図10Cは、iPSCクローン(#D3)から生成した胚様体(4日目)を示す顕微鏡写真である。
図10Dは、
図10Cに示した胚様体からインビトロで分化した後のiPSCクローン(#D3)を、αSMA(中胚葉)、AFP(内胚葉)、GATA4(内胚葉)、βIII-チューブリン(外胚葉)に対する抗体で染色したものの蛍光写真である。写真(右)は、DAPI染色と混ざった後の同じ写真である。スケールを示す棒は100mmである。
【
図11】ヒトZSCAN4がマウスZscan4と同様に機能することを示している。このヒト・ゲノムは、6個のパラログ遺伝子と3個の擬遺伝子からなるマウスZscan4(Falco他、Dev. Biol.、第307巻:539〜550ページ、2007年)とは異なり、1つのZSCAN4遺伝子のコピーだけを有する。ヒトZSCAN4がマウスZscan4と同様に機能するかどうかを調べるため、iPSCの形成効率をマウスZscan4とヒトZSCAN4で比較した。
図11Aは、Dox誘導性プロモータの制御下にあるヒトZSCAN4のオープン・リーディング・フレーム(ORF)を有するpiggyBacベクター(PB-TET-hZSCAN4)の模式図である。PB-TET-MKOSベクターをPB-TET-hZSCAN4または対照であるPB-DsRedとともにMEF-WT細胞(C57BL/6J×129S6/SvEvTac)に同時にトランスフェクトした。実験の設計は、
図8Aに示したのと本質的に同じであった。細胞を14日間培養し、固定し、ALP染色した。
図11Bは、ALP染色した6ウエルのプレートの代表的な写真である。
図11Cは、ALP染色した6ウエルのプレートの別の代表的な写真である。ALP+コロニーを点数化した。データは、3つの平均値±標準誤差で表わす。*、P<0.01。(B)と(C)は、3つの独立した実験を表わす。
【
図12】Zscan4がMycなしでiPSCコロニーの形成を促進することを示している。示したグラフは、
図1Bに示した実験に関する3つの複製のうちの2つを示している。第3のデータ・セットは、
図1Cに示してある。Klf4(K)、Oct4(O)、Sox2(S)を有するpiggyBacベクター(PB-TET-KOS)をMEF-ZERTにトランスフェクトした。細胞をDox+Tmx-条件またはDox+Tmx+条件のもとで20日間培養し、固定し、ALP染色した。ALP+コロニーを点数化し、棒グラフにした。各実験について、トランスフェクションとDoxによる誘導を3回実施した。データは、平均値±標準誤差で表わす(3つのウエル)。*、P<0.01。
【
図13】KOS因子を有するMEF-ZERTに由来するiPSCの特徴づけを示す。
図13Aは、
図1Cに示した実験と並行して準備したウエルから採取し、支持細胞上でES細胞培養条件にて増殖させたいくつかのiPSCコロニーを示している: MEF-ZERTからのiPSCクローンが4つ(KOS因子とTmx+条件、すなわちZKOS因子:#2、#4、#7、#8)である。多能性遺伝子マーカー(内在性Oct4(Pou5f1)、内在性Sox2、Nanog、Zfp42(Rex1)、Dax1(Nr0b1))を使用してこれらのiPSCクローンと対照であるMEF-ZERT細胞をRT-PCRで分析した。Gapdhを対照として使用した。
図13Bは、ALPで染色した後のiPSCクローン(#7)の代表的な位相差写真である。
図13Cは、4N補完によるiPSC(#7)に由来するE13.5胚を示す。
【
図14】KOS因子とZscan4ERT2を有するMEF-WTに由来するiPSCのTmx+条件下での特徴づけを示す。
図14Aは、
図2Aに示した実験手続きに従い、MEF-WT(C57BL/6J×129S6/SvEvTac)にpiggyBacベクター(PB-TET-KOSとPB-TET-Zscan4ERT2)をトランスフェクトし、その細胞をDox+Tmx+条件下で30日間培養することによって作製したiPSCコロニーを示す。蛍光顕微鏡のもとではZscan4ERT2
+ iPSCコロニーを赤色の蛍光によって特定することができた。2つの赤いiPSCコロニーをウエルから取り出し、支持細胞上でES細胞培養条件にて増殖させると、2つのiPSCクローン(ZKOS因子を有するMEF-WT:#2、#4)が確立した。多能性遺伝子マーカー(内在性Oct4(Pou5f1)、内在性Sox2、Nanog、Zfp42(Rex1)、Dax1(Nr0b1))を使用してこれらのiPSCクローンと対照であるMEF-WT細胞をRT-PCRで分析した。Gapdhを対照として使用した。
図14Bは、iPSCクローン(#2)の代表的な位相差写真である。
図14Cは、ALPで染色した後のiPSCクローン(#2)の代表的な位相差写真である。
図14Dは、SSEA-1とNANOGに対する抗体で染色した後のiPSCクローン(#2)の蛍光顕微鏡写真である。写真(右)は、DAPI染色と混ざった後の同じ写真である。
図14Eは、iPSCクローン(#2)から生成した胚様体(4日目)を示す顕微鏡写真である。
図14Fは、
図14Eに示した胚様体からインビトロで分化した後のiPSCを、αSMA(中胚葉)、AFP(内胚葉)、GATA4(内胚葉)、βIII-チューブリン(外胚葉)に対する抗体で染色したものの蛍光写真である。写真(右)は、DAPI染色と混ざった後の同じ写真である。スケールを示す棒は100mmである。
図14Gは、4N補完によるiPSC(#2)に由来するE13.5胚を示す。
図2Aに示したようにして、これらの胚を用いて第二MEF(MEF-KOS-ZERT
第二)を作製した。
【
図15】iPSCとESCとMEFの間の全体的遺伝子発現プロファイルの比較結果を示している。iPSCクローン(ZKOS#2)、V6.5 ESC、MEF-WTの全体的発現プロファイルは、DNAマイクロアレイを用いて作った。
図15Aは、iPSC(ZKOS#2)とMEF-WTをペアにした比較を示す散乱図である。
図15Bは、iPSC(ZKOS#2)とV6.5 ESCをペアにした比較を示す散乱図である。カラーで示したスポットは、サンプル間で発現が統計的に有意に異なる遺伝子を表わしている(FDR=0.05、倍率変化>2)。
【
図16】第二MEFでの誘導の初期段階における多能性遺伝子(Nanog、Zfp42、Dppa5a)の発現レベルを示している。遺伝子の発現レベルはDNAマイクロアレイ分析から得られ、NIA ANOVAツール(Sharov他、Bioinformatics、第21巻:2548〜2549ページ、2005年)を用いてプロットした。
【
図17】この明細書に開示した研究で使用するプライマーのリストである(配列番号15〜37)。
【
図18】核型と四倍体補完アッセイに基づくと、Zscan4を用いて作製したiPSCが高品質であることを示している。
図18Aは、四倍体補完アッセイの結果を示す表である。
図18Bは、核型の写真である。
図18Cは、iPSCに由来する生きた胚の写真である。ランダムに選択したiPSC系の核型分析から、Zscan4を用いて作製したiPSCは、Zscan4なしで作製したiPSCよりも高品質であることが明確になった。それに加え、Zscan4を用いて作製したiPSCは、四倍体補完アッセイにより、完全に生きた胚を形成できた。このアッセイは、iPS細胞の多能性に関する最も厳しい試験である。
【
図19】iPSCが形成される初期段階にはZscan4が発現せず、iPS細胞においてのちに再活性化されることを示している。
図19Aは、iPSCの形成中と、TA1 ES細胞、F1ハイブリッド株(C57BL/6J×129S6/SvEvTac)におけるZscan4の発現を調べる手続きの模式図である。piggyBacのトランスフェクションには、主要なベクターPB-TET-MKOS(図示)と、PB-CAG-rtTA(テトラサイクリン・トランスアクチベータ)と、pCyL43(トランスポザーゼ)が関与する。
図19Bは、本物のES様形態を持つ細胞コロニー(MOR+と表記)が形成されているときの位相差顕微鏡写真である。0日目は、piggyBacをトランスフェクトした24時間後にドキシサイクリン(Dox)を完全なES培地に添加するときに設定した。
図19Cは、MOR+コロニーから確立されて、Doxなしで培養した2つの代表的な細胞クローンの蛍光写真(左)、位相差写真が混ざった蛍光写真(中央)、フロー・サイトメトリーの図(右)を示している。
図19Dは、培養物中のEM+細胞の外観を示す(“+”として表示)。EM+細胞の一部を28日目にフロー・サイトメトリーによって測定した。
【
図20】piggyBacベクター系によって作製した本物のiPSCコロニーのMOR+ALP+表現型の評価を示す。
図20Aは、ESCとMEFに関するNanog免疫組織化学を示している。DAB(3,3’-ジアミノベンジジン)レポータを用いたNanog免疫組織化学は、染色パターンが、Alexa蛍光レポータを用いたNanog免疫組織化学と同等であることを示していた:MEFにはNanogが不在、ESCにはNanogが存在。Nanogを外来性iPSC因子の1つとして用いない場合には、Nanogの発現活性化が、本物のiPSCの再プログラム化の指標として利用されてきた。
図20Bは、MKOS因子によって再プログラム化された細胞を点数化する方法をMOR+ALP+表現型とNANOG+表現型で比較した結果である。どちらの方法でも似た数のコロニーが得られた。これは、piggyBacベクター上のMKOS因子によって再プログラム化されたiPSCコロニーをMOR+ALP+を用いて点数化できることを示している。ゼラチンで覆った6ウエルのプレートにウエル1つにつき細胞を1×10
5個の密度で載せたMEF(B6DBA1F1)を使用した。
図20Cは、Oct4プロモータ(Stemgent社、アメリカ合衆国)によって駆動されるGFPレポータを有するMEFから、piggyBacベクター上のMKOS因子によって再プログラム化された本物のiPSCコロニーが作製されることの別の裏付けを示している。3つの代表的なMOR+コロニーの写真を示してある。
図20Dは、ZMKOS因子によって再プログラム化された細胞を点数化する方法をMOR+ALP+表現型とNANOG+表現型で比較した結果である。どちらの方法でも似た数のコロニーが得られた。これは、piggyBacベクター上のZMKOS因子によって再プログラム化されたiPSCコロニーをMOR+ALP+を用いて点数化できることを示している。ゼラチンで覆った6ウエルのプレートにウエル1つにつき細胞を1×10
5個の密度で載せたMEF(B6DBA1F1)を使用した。
図20Eは、Oct4プロモータ(Stemgent社、アメリカ合衆国)によって駆動されるGFPレポータを有するMEFから、piggyBacベクター上のMKOS因子によって再プログラム化された本物のiPSCコロニーが作製されることの別の裏付けを示している。3つの代表的なMOR+コロニーの写真を示してある。
【
図21】いくつかのZscan4依存性遺伝子がiPSCの形成効率に及ぼす効果を調べるために利用した実験手続きとコンストラクトの模式図である。
【
図22】Zscan4とZscan4依存性遺伝子によるiPSコロニーの形成効率を示している。
図22Aは、Zscan4c、Patl2、Pramel6によってマウス胎仔線維芽細胞(MEF)からのiPSコロニーの形成が増加したことを示す棒グラフである。
図22Bは、Piwil2によってMEFからのiPSコロニーの形成が増加したことを示す棒グラフである。
図22Cは、Zscan4c、Patl2、D5Ertd577eによってMEFからのiPSコロニーの形成が増加したことを示す棒グラフである。iPSコロニーの形成効率は、トランスフェクションの14日後の本物のES細胞の形態とアルカリ・ホスファターゼ(ALP)染色に基づいて点数化した(平均値±標準誤差)。実験は3回実施した。異なる文字(aまたはb)は、グループ間に有意な差があることを示している(P<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
I.略号
ALP アルカリ・ホスファターゼ
D5Ertd577e DNA断片、Chr 5、ERATO Doi 577、発現した
Dox ドキシサイクリン
ES 胚性
hCG ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン
iPS 人工多能性幹
iPSC 人工多能性幹細胞
IRES 内部リボソーム侵入部位
KOS Kif4、Oct4、Sox2
LIF 白血病阻害因子
MEF マウス胎仔線維芽細胞
MKOS Myc、Klf4、Oct4、Sox2
NT 核移植
ORF オープン・リーディング・フレーム
Patl2トポイソメラーゼIIホモログ2に付随するタンパク質
PCR ポリメラーゼ連鎖反応
Piwil2 piwi様ホモログ2
PMSG 妊娠したメスウマの血清性腺刺激ホルモン
PRAMEメラノーマで優先的に発現する抗原
Pramel6 メラノーマ様6で優先的に発現する抗原
qPCR 定量PCR
RT-PCR 逆転写酵素PCR
Tmx タモキシフェン
WT 野生型
ZKOS Zscan4、Klf4、Oct4、Sox2
Zscan4 ジンク・フィンガーとscanドメインを含むタンパク質4
【0012】
II.用語と方法
特に断わらない限り、技術用語は、通常の用法に従って用いる。分子生物学における一般的な用語の定義は、オックスフォード大学出版が1994年に発行したBenjamin Lewin、『遺伝子V』(ISBN 0-19-854287-9);Blackwell Science 社が1994年に発行したKendrew他(編)、『分子生物学の百科事典』(ISBN 0-632-02182-9);VCH Publishers社が1995年に発行したRobert A. Meyers(編)、『分子生物学とバイオテクノロジー:包括的机上参考書』(ISBN 1-56081-569-8)に見いだすことができる。
【0013】
この明細書のさまざまな実施態様の理解を容易にするため、特定の用語について以下の説明を与える。
【0014】
作用物質:あらゆるタンパク質、核酸分子、化合物、小分子、有機化合物、無機化合物、興味ある他の分子。いくつかの実施態様では、“作用物質”は、Zscan4の発現を増大させる任意の作用物質である。特別な実施例では、作用物質は、レチノイドまたは酸化ストレスを誘導する作用物質である。
【0015】
c-Myc:細胞周期の進行、アポトーシス、細胞の形質転換においてある役割を果たし、以前から再プログラム化因子として機能することが報告されている転写因子。多数の異なる種でc-Mycの核酸とタンパク質の配列が知られている。例えばマウスc-Mycの核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_010849とNP_034979に含まれている。ヒトc-Mycの核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_002467とNP_002458に含まれている。c-Mycは、v-myc骨髄球腫症ウイルスがん遺伝子ホモログ、MYC、骨髄球腫症がん遺伝子としても知られている。
【0016】
細胞侵入ペプチド(CPP):受容体とは独立に、膜を通じたタンパク質、核酸、または他の化合物の形質導入を容易にする一種のポリペプチド(WadiaとDowdy、Curr. Protein Pept. Sci.、第4巻(2):97〜104ページ、2003年)。典型的には、CPPは、連結して細胞のエンドソームに取り込まれる化合物を細胞が容易に取り込めるようにすることのできる短いポリカチオン性配列である。CPPの例として、ポリ-アルギニン・タグとタンパク質形質導入ドメイン(例えばHIV-1 Tat)がある。
【0017】
接触させる:物理的に直接関係した状態にすること;固体形態と液体形態の両方が含まれる。この明細書では、“接触させる”は、“曝露した”と同じ意味で用いられる。“接触させる”には、トランスフェクトするが含まれる場合がある(例えば核酸分子を細胞にトランスフェクトする)。
【0018】
縮重変異体:遺伝コードの結果として縮重した配列を含むポリペプチド(例えばZscan4ポリペプチド)をコードしているポリヌクレオチド。20種類の天然アミノ酸が存在していて、その大半は、2つ以上のコドンによって特定される。したがって、ヌクレオチド配列によってコードされているポリペプチドのアミノ酸配列が変化しない限り、すべての縮重ヌクレオチド配列が含まれる。
【0019】
分化:ある細胞が成長して特定のタイプの細胞(例えば筋肉細胞、皮膚細胞など)になるプロセスを意味する。多能性幹細胞の分化は、細胞がある特定の細胞系へと成長することを意味する。ある細胞がより分化すると、その細胞は、多能性、すなわち異なる多くのタイプの細胞になる能力を失う。
【0020】
DNA断片、Chr 5、ERATO Doi 577、発現した(D5Ertd577e):マウスのゲノムの第5染色体上に位置する1つの遺伝子。D5Ertd577eのヌクレオチド配列とアミノ酸配列を入手できる(例えばNCBIデータベースの遺伝子 320549)。mRNA配列とタンパク質配列の例は、この明細書にそれぞれ配列番号44と45として示されている(GenBank登録番号NM_177187)。D5Ertd577eに関してヒトで予想されるオルソログとして、メラノーマ・ファミリーで優先的に発現する抗原のメンバー(PRAMEF)があり、例えば、PRAMEF1、PRAMEF12、PRAMEF2、PRAMEF15、PRAMEF8、PRAMEF10、PRAMEF20、PRAMEF17、PRAMEF19、PRAMEF14、PRAMEF21、PRAMEF16、PRAMEF18、PRAMEF13、PRAMEF9、PRAMEF5、PRAMEF3、PRAMEF22、PRAMEF7、PRAMEF11、WI2-2994D6.2、PRAMEF6、PRAMEF4が挙げられる(各オルソログのヌクレオチド配列は、配列番号50〜72としてこの明細書に示されている)。
【0021】
カプセル化された:この明細書では、ナノ粒子の中に“カプセル化された”分子は、ナノ粒子の中に含まれた分子(例えばZscan4の核酸またはタンパク質)、またはナノ粒子の表面に付着した分子、またはこれらの組み合わせを意味する。
【0022】
ERT2:ヒト・エストロゲン受容体のリガンド結合ドメインが突然変異していて、生理学的濃度で天然のリガンド(17β-エストラジオール)には結合しないが、ナノモル濃度のタモキシフェンまたはその代謝産物である4-ヒドロキシ-タモキシフェン(4OHT)に対する感受性は非常に高いドメインを含むタンパク質(Feil他、Biochem. Biophys. Res. Commun.、第237巻(3):752〜757ページ、1997年)。
【0023】
融合タンパク質:2つの異なる(異種)タンパク質の少なくとも一部を含むタンパク質。いくつかの例では、このようなタンパク質は、2つの異なる(異種)タンパク質の少なくとも一部をコードしている核酸配列を変化させた核酸配列の発現によって生成される。融合タンパク質を作るには、核酸配列は、同じリーディング・フレームの中にあって内部終止コドンを含んでいてはならない。
【0024】
異種:異種ポリペプチドまたは異種ポリヌクレオチドは、異なる供給源または種に由来するポリペプチドまたはポリヌクレオチドを意味する。
【0025】
宿主細胞:内部でベクターを増殖させてそのDNAを発現させることのできる細胞。この用語には、対象とする宿主細胞のあらゆる子孫も含まれる。複製中に突然変異が起こる可能性があるため、すべての子孫が親細胞と同じではなくてもよいことを理解されたい。しかし“宿主細胞”という用語を使用するときには、そのような子孫が含まれる。
【0026】
導入する:この明細書の文脈では、核酸分子またはタンパク質を細胞に“導入する”とは、核酸分子またはタンパク質を細胞に送達するあらゆる手段を包含する。例えば核酸分子を細胞にトランスフェクトすること、または形質導入すること、または電気穿孔することができる。細胞へのタンパク質の送達は、例えばタンパク質を細胞侵入ペプチド(例えばタンパク質形質導入ドメインを有するペプチド(HIV-1 Tatなど))またはポリ-アルギニン・ペプチド・タグと融合させることによって実現できる(FuchsとRaines、Protein Science、第14巻:1538〜1544ページ、2005年)。
【0027】
人工多能性幹(iPS)細胞:いくつかの転写因子遺伝子(一般に“再プログラム化因子”、“核再プログラム化因子”、“体細胞再プログラム化因子”と呼ばれる)の“強制的な”発現を誘導することによって非多能性細胞(例えば成体の体細胞)から人工的に生じる一種の多能性幹細胞。iPS細胞はどの生物に由来するものでもよい(例えば哺乳動物)。いくつかの実施態様では、iPS細胞は、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ヤギ、ブタ、ウシ、非ヒト霊長類、ヒトから作製される。例は、ヒトとマウスに由来するiPS細胞である。
【0028】
iPS細胞は、ES細胞と多くの点が似ている(例えば、ある種の幹細胞遺伝子とタンパク質の発現、クロマチンのメチル化のパターン、倍化時間、胚様体の形成、奇形腫の形成、生きたキメラの形成、多能性と分化能力)。iPS細胞の作製方法は公知である(方法の例は以下のセクションVに記載する)。例えばiPS細胞は、典型的には、いくつかの幹細胞関連遺伝子(例えばOct-3/4(Pouf51)、Sox2)を非多能性細胞(例えば成体の線維芽細胞)の中に送達することによって作製される。送達は、ウイルス・ベクター(例えばレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス)を通じて;プラスミド・ベクターをトランスフェクトすることによって;再プログラム化因子のmRNAまたはタンパク質 を送達することによって実現できる。例えばレトロウイルス系を用いて細胞にOct-3/4、Sox2、Klf4、c-Mycをトランスフェクトすること、またはレンチウイルス系を用いて細胞にOCT4、SOX2、NANOG、LIN28をトランスフェクトすることができる。3〜4週間後、少数のトランスフェクトされた細胞が、形態と生化学に関して多能性幹細胞と似たものになり始めるため、典型的には、形態選択によって、または倍化時間によって、またはレポータ遺伝子と抗生物質を用いた選択によって単離される。ヒト成人の細胞からiPS細胞を作製する方法が以前に報告されている(例えばYu他、Science、第318巻(5854号):1224ページ、2007年;Takahashi他、Cell、第131巻(5):861〜872ページ、2007年;アメリカ合衆国特許出願公開第2008/0280362号、第2009/0068742号、第2009/0227032号、第2009/0047263号、第2010/0279404号を参照のこと)。
【0029】
単離された:単離された核酸は、他の核酸配列からと、自然のままの状態でその核酸を内部で産生する生物の細胞(すなわち他の染色体と染色体外のDNAとRNA)から実質的に分離または精製されている。したがって“単離された”という用語には、標準的な核酸精製法によって精製された核酸が含まれる。この用語には、宿主細胞の中で組み換え発現によって調製された核酸と、化学的に合成した核酸も含まれる。同様に、“単離された”タンパク質は、自然のままの状態でそのタンパク質を内部で産生する生物の細胞の他のタンパク質から実質的に分離または精製されたものであり、その中には、宿主細胞の中で組み換え発現によって調製されたタンパク質と、化学的に合成したタンパク質も含まれる。同様に、“単離された”細胞は、他のタイプの細胞から実質的に分離されたものである。
【0030】
Klf4:再プログラム化因子として機能することが以前に報告されている転写因子。多数の異なる種でKlf4の核酸とタンパク質の配列が知られている。例えばマウスKlf4の核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_010637とNP_034767に含まれている。ヒトKlf4の核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_004235とNP_004226に含まれている。Klf4は、クリュッペル様因子としても知られている。
【0031】
Lin28:再プログラム化因子として機能することが以前に報告されている転写因子。多数の異なる種でLin28の核酸とタンパク質の配列が知られている。例えばマウスLin28の核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_145833とNP_665832に含まれている。ヒトLin28の核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_024674とNP_078950に含まれている。Lin28は、lin-28ホモログA(LIN28A)およびLin-28としても知られている。
【0032】
リンカー:(例えば融合タンパク質の中で)2つの分子の間(例えば2つの核酸分子または2つのペプチドの間)のスペーサとして機能する1個以上のヌクレオチドまたはアミノ酸。いくつかの例では、リンカーは1〜100個のアミノ酸(例えば1〜50個、または5〜10個のアミノ酸)である。
【0033】
Nanog:再プログラム化因子として機能することが以前に報告されている転写因子。多数の異なる種でNanogの核酸とタンパク質の配列が知られている。例えばマウスNanogの核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_028016とNP_082292に含まれている。ヒトNanogの核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_024865とNP_079141に含まれている。Nanogは、Nanogホメオボックスとしても知られている。
【0034】
ナノ粒子:直径が約1000ナノメートル(nm)未満の粒子。この明細書に提示した方法で使用するナノ粒子の例は、生体適合性かつ生分解性のポリマー材料から製造される。いくつかの実施態様では、ナノ粒子はPLGAナノ粒子である。この明細書では、“ポリマー・ナノ粒子”は、特定の1つまたは複数の物質のサブユニットの繰り返しで構成されたナノ粒子である。“ポリ(乳酸) ナノ粒子”は、乳酸サブユニットの繰り返しを有するナノ粒子である。同様に、“ポリ(グリコール酸) ナノ粒子”は、グリコール酸サブユニットの繰り返しを有するナノ粒子である。
【0035】
非ヒト動物:ヒト以外のあらゆる動物が含まれる。非ヒト動物として、霊長類、農場の動物(例えばブタ、家畜、家禽)、スポーツ用動物やペット(例えばイヌ、ネコ、ウマ、ハムスター)、齧歯類(例えばマウス)、動物園の動物(例えばライオン、トラ、クマ)などが挙げられるが、これらに限定されない。一例では、非ヒト動物はマウスである。
【0036】
Oct4:胚発生、特に初期胚発生においてある役割を果たす転写因子である。Oct4は胚性幹細胞の多能性にとって必要であり、再プログラム化因子として機能することが以前に報告されている。多数の異なる種でOct4の核酸とタンパク質の配列が知られている。例えばマウスOct4の核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_013633とNP_038661に含まれている。ヒトOct4の核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_002701とNP_002692に含まれている。Oct4は、POUドメインのクラス5の転写因子1(Pou5f1)、Oct3、Oct3/4としても知られている。
【0037】
機能可能に連結した:第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係に配置されているとき、第1の核酸配列は、第2の核酸配列と機能可能に連結している。例えばプロモータがコード配列の転写または発現に影響を与える場合には、そのプロモータは、コード配列に機能可能に連結している。一般に、機能可能に連結した核酸配列は連続であり、必要な場合には同じリーディング・フレームの中で2つのコード領域を接合している。
【0038】
Piwi様ホモログ2(Piwil2):タンパク質のアルゴノート・ファミリーに属する遺伝子であり、生殖系幹細胞の発生と維持において機能する。Piwil2の核酸とタンパク質の配列は、例えばNCBIデータベースから遺伝子 57746(マウス)と遺伝子 55124(ヒト)を入手できる。マウスのmRNA配列とタンパク質配列の例は、この明細書にそれぞれ配列番号42、43として示されている(GenBank登録番号NM_021308)。ヒトのmRNA配列とタンパク質配列の例は、この明細書にそれぞれ配列番号48、49として示されている(GenBank登録番号NM_001135721)。
【0039】
多能/多能性:“多能性”細胞は、生殖細胞も含め、ある生物のあらゆる細胞系(内胚葉、中胚葉、外胚葉)を形成することのできる細胞である。多能性細胞は、胎児または成体のあらゆるタイプの細胞を発生させることができるが、胚外組織(例えば胎盤)を形成することはできないため、自律的に1つの生物全体を形成することはできない。
【0040】
ポリ-アルギニン・ペプチド・タグ:複数のアルギニン残基からなる短いペプチド(一般に7〜11残基)であり、細胞により大きな分子(例えばタンパク質や核酸分子)を送達しやすくする(例えばFuchsとRaines、Protein Science、第14巻:1538〜1544ページ、2005参照)。
【0041】
ポリペプチド:アミド結合を通じて互いに結合したアミノ酸残基がモノマーであるポリマー。アミノ酸がαアミノ酸である場合には、L-光学異性体またはD-光学異性体を使用できるが、L-異性体が好ましい。この明細書では、“ポリペプチド”または“タンパク質”という用語は、あらゆるアミノ酸配列をカバーし、糖タンパク質などの修飾された配列を含んでいる。“ポリペプチド”という用語は、特に、天然のタンパク質と、組み換えまたは合成によるタンパク質をカバーするものとする。
【0042】
“ポリペプチド断片”という用語は、ポリペプチドのうちで少なくとも1つの有用なエピトープを有する部分を意味する。“ポリペプチドの機能性断片”という表現は、ポリペプチド断片のうちでポリペプチド活性を保持しているあらゆる断片(例えばZscan4)を意味する。例えば生物学的機能性断片はさまざまなサイズが可能であり、抗体分子を結合させることのできるエピトープという小さなものから、細胞内で表現型を変化させる特徴的な誘導またはプログラム化(その中には、細胞の増殖または分化に影響を与えることが含まれる)に関与することのできる大きなポリペプチドまでが可能である。“エピトープ”は、ポリペプチドのうちで、抗原との接触に応答して生成した免疫グロブリンを結合させることのできる領域を意味する。したがって生物活性なZscan4を含むより小さなペプチド、またはZscan4の保存的変異体が、有用なものとして挙げられる。
【0043】
この明細書では、“実質的に精製されたポリペプチド”という表現は、他のタンパク質、脂質、炭水化物や、自然に付随する他の材料を実質的に含まないポリペプチドを意味する。一実施態様では、ポリペプチドの少なくとも50%(例えば少なくとも80%)が、他のタンパク質、脂質、炭水化物や、自然に付随する他の材料ではない。別の一実施態様では、ポリペプチドの少なくとも90%が、他のタンパク質、脂質、炭水化物や、自然に付随する他の材料ではない。さらに別の一実施態様では、ポリペプチドの少なくとも95%が、他のタンパク質、脂質、炭水化物や、自然に付随する他の材料ではない。
【0044】
保存的置換により、1個のアミノ酸が、サイズ、疎水性などが似た別のアミノ酸で置換される。保存的置換の例を以下に示す。
【0046】
アミノ酸が変化するcDNA配列内の変異は、保存的であろうなかろうと、コードされているタンパク質の機能と免疫性が維持されるためにはできるだけ少なくなければならない。したがっていくつかの非限定的な例では、Zscan4ポリペプチドに含まれる保存的置換は、最大で2箇所、または最大で5箇所、または最大で10箇所、または最大で20箇所、または最大で50箇所である。タンパク質の免疫上の同一性は、抗体によって認識されるかどうかを調べることによって評価できる。そのような抗体によって認識される変異体は、免疫上保存されている。どのcDNA配列変異体も、コードされたポリペプチドに導入されているアミノ酸置換は、20箇所以下が好ましく、10箇所未満がより好ましい。
【0047】
メラノーマ様6で優先的に発現する抗原(Pramel6):マウスのゲノムの第2染色体上に位置する遺伝子。Pramel6の核酸とタンパク質の配列は、例えばNCBIデータベースから遺伝子 347711で入手できる。mRNA配列とタンパク質配列の例は、この明細書にそれぞれ配列番号40、41として示されている(GenBank登録番号NM_178249)。Pramel6に関してヒトで予想されているオルソログとして、メラノーマ・ファミリー(PRAMEF)で優先的に発現する抗原のメンバーがあり、例えばPRAMEF1、PRAMEF12、PRAMEF2、PRAMEF15、PRAMEF8、PRAMEF10、PRAMEF20、PRAMEF17、PRAMEF19、PRAMEF14、PRAMEF21、PRAMEF16、PRAMEF18、PRAMEF13、PRAMEF9、PRAMEF5、PRAMEF3、PRAMEF22、PRAMEF7、PRAMEF11、WI2-2994D6.2、PRAMEF6、PRAMEF4が挙げられる(これらオルソログそれぞれのヌクレオチド配列は、この明細書に番号50〜72として示されている)。
【0048】
前駆細胞:特定のタイプの細胞または細胞系へと分化する少数分化能を持つ細胞または単一分化能を持つ細胞。前駆細胞は幹細胞と似ているが、より分化していて自己の更新は限られている。
【0049】
プロモータ:核酸の転写を指示する核酸制御配列。プロモータは、転写開始部位の近くに必要な核酸配列を含んでいる。プロモータは、場合によっては、遠位にエンハンサ要素またはリプレッサ要素も含んでいる。“構成的プロモータ”は、常に活性であって外部からのシグナルまたは分子による調節を受けないプロモータである。逆に、“誘導性プロモータ”の活性は、外部からのシグナルまたは分子によって調節される(例えば転写因子)。
【0050】
トポイソメラーゼIIホモログ2に付随するタンパク質(Patl2):ヒト、マウス、チンパンジー、イヌ、ウシ、ニワトリ、ゼブラフィッシュで保存されている遺伝子。Patl2の核酸とタンパク質の配列は、例えばNCBIデータベースから遺伝子 67578(マウス)、遺伝子 197135(ヒト)で入手できる。マウスのmRNA配列とタンパク質配列の例は、この明細書にそれぞれ配列番号38、39として示されている(GenBank登録番号NM_026251)。ヒトのmRNA配列とタンパク質配列の例は、この明細書にそれぞれ配列番号46、47として示されている(GenBank登録番号NM_001145112)。
【0051】
タンパク質形質導入ドメイン:古典的なエンドサイトーシスとは独立な機構によってより大きな分子(タンパク質、核酸分子など)が細胞の中に侵入するのを助ける小さなカチオン性ペプチド。
【0052】
組み換え体:組み換え核酸または組み換えポリペプチドは、天然には存在しない配列、または配列中で本来は分離している2つの区画を人工的に組み合わせることによって得た配列を有するものである。この人工的な組み合わせは、化学合成によって、または核酸の単離された複数区画の人工的な操作(例えば遺伝子操作技術)によって実現されることがしばしばある。
【0053】
再プログラム化:この明細書の文脈では、体細胞の“再プログラム化”とは、分化した体細胞の一部または全体を多能性細胞(すなわちiPS細胞)へと変換するプロセスを意味する。再プログラム化された体細胞はESに似た特性を有するため、多くの再生医療の用途でiPS細胞をES細胞で置き換えることができる。
【0054】
再プログラム化因子:外部で発現しているとき、または体細胞に導入されたとき、多能性状態を促進することのできる遺伝子または遺伝子産物。多数の再プログラム化因子がこれまでに報告されていて、例えば、c-Myc、Klf4、Oct4、Sox2、Lin28、Nanogなどが挙げられるが、これらに限定されない。現在のところ、c-Myc、Klf4、Oct4、Sox2、Lin28、Nanogが最もよく用いられている再プログラム化因子だが、この用語には、多能性状態を促進する同じ機能的効果を持つ他の遺伝子と遺伝子産物も含まれる。例えばいくつかのケースでは、Sox1、Sox3、L-myc、N-myc、Klf2を再プログラム化因子として使用できる。再プログラム化因子は、“核再プログラム化因子”、“体細胞再プログラム化因子”、“多能性遺伝子”とも呼ばれている。
【0055】
レチノイド:化学的にビタミンAと関係する化合物の1つのクラス。レチノイドは、上皮細胞の増殖を調節するやり方が主な理由となって医学で用いられている。レチノイドは、視覚における役割、細胞増殖と分化の調節、骨組織の成長、免疫機能、腫瘍抑制遺伝子の活性化など、身体全体で多くの重要かつ多彩な機能を有する。レチノイドの例として、全トランス-レチノイン酸(atRA)、9-シス・レチノイン酸(9-cis RA)、13-cis RA、ビタミンA(レチノール)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
iPS細胞の品質:この明細書では、高品質のiPS細胞とは、正常な核型および/または(例えば四倍体補完アッセイにおいて)生きた胚を形成する能力を有するiPS細胞を意味する。高品質のiPS細胞は、多能性が大きい。
【0057】
配列一致度/類似度:2つ以上の核酸配列、または2つ以上のアミノ酸配列の一致度/類似度は、それら配列間の一致または類似として表現される。配列一致度は、%一致度で測定することができる。%の値が大きいほど、配列同士はより類似している。配列類似度は、%類似度で測定することができる(保存されたアミノ酸置換が考慮される)。%の値が大きいほど、配列同士はより類似している。核酸配列またはアミノ酸配列のホモログまたはオルソログは、標準的な方法を用いたアラインメントにおいて比較的大きな配列一致度/類似度を有する。この相同性は、オルソログ・タンパク質またはcDNAが、互いの関連性がより薄い種(例えばヒトと線虫の配列)よりも互いの関連性がより濃い種(例えばヒトとマウスの配列)に由来するときにより顕著になる。
【0058】
比較のための配列のアラインメント法は周知である。さまざまなプログラムとアラインメント・アルゴリズムが報告されている:SmithとWaterman、Adv. Appl. Math.、第2巻:482ページ、1981年;NeedlemanとWunsch、J. Mol. Biol.、第48巻:443ページ、1970年;PearsonとLipman、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第85巻:2444ページ、1988年;HigginsとSharp、Gene、第73巻:237〜244ページ、1988年;HigginsとSharp、CABIOS、第5巻: 151〜153ページ、1989年;Corpet他、Nuc. Acids Res.、第16巻:10881〜10890ページ、1988年;Huang他、Computer Appls. in the Biosciences、第8巻:155〜165ページ、1992年;Pearson他、Meth. Mol. Bio.、第24巻:307〜331ページ、1994年。Altschul他、J. Mol. Biol.、第215巻:403〜410ページ、1990年には、配列アラインメント法と相同性の計算についての詳細な考察が示されている。
【0059】
NCBI基本的局所アラインメント検索ツール(BLAST)(Altschul他、J. Mol. Biol.、第215巻:403〜410ページ、1990年)は、いくつかの提供源(例えば、国立生物学情報センター(NCBI、国立医学図書館、ビルディング38A、ルーム8N805、ベセスダ、メリーランド州 20894))や、インターネットから入手でき、配列分析プログラムであるblastp、blastn、blastx、tblastn、tblastxと関連させて使用される。追加の情報は、NCBIのウェブ・サイトに見いだすことができる。
【0060】
体細胞:身体の任意の細胞。標準的な用語法では、一般に生殖細胞が“体細胞”から除外される。しかしこの明細書の文脈では、iPS細胞を作製するためのこの明細書に開示した方法で使用できる“体細胞”は、任意の細胞であり、発生時に存在する生殖細胞と初期胚性細胞も含まれる。いくつかの実施態様では、体細胞は、組織幹細胞、前駆細胞、分化した細胞である。iPS細胞の作製には線維芽細胞(胎仔線維芽細胞、成体線維芽細胞、心臓線維芽細胞が含まれる)が一般に使用されてきた。しかし他の多くのタイプの細胞が報告されていて、口腔粘膜、臍帯血細胞、リンパ球(例えばT細胞とB細胞)、ストローマ細胞、神経前駆細胞、脂肪細胞、角化細胞、神経幹細胞、髄膜細胞、脂肪幹細胞、肝細胞、胃細胞、膵臓β細胞、末梢血細胞、胎児肝細胞、脂肪細胞、角膜縁細胞などが挙げられる(Parameswaran他、Stem Cells、第29(7)巻:1013〜1020ページ、2011年;アメリカ合衆国特許出願公開第2010/0279404号)。いくつかの実施態様では、体細胞は、神経幹細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、脂肪幹細胞、線維芽細胞、リンパ球(例えばT細胞とB細胞)、肝細胞、上皮細胞、筋肉細胞、脂肪細胞、心筋細胞、膵臓β細胞、角化細胞、羊水細胞、末梢血細胞、血小板、アストロサイトである。
【0061】
Sox2:胚発生の調節と細胞の運命決定に関与する転写因子。Sox2(性決定領域Y-ボックス2)は、再プログラム化因子としての機能が以前に報告されている。多数の異なる種でSox2の核酸とタンパク質の配列が知られている。例えばマウスSox2の核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_011443とNP_035573に含まれている。ヒトSox2の核酸とタンパク質の配列は、それぞれGenBank登録番号NM_003106とNP_003097に含まれている。
【0062】
対象:生きている多細胞脊椎動物であり、ヒトと非ヒト哺乳動物が含まれるカテゴリー。
【0063】
組織幹細胞:胚発生の後に身体全体で見いだされる未分化の細胞であり、細胞分裂によって増殖して死にかかっている細胞を補充し、損傷を受けた組織を再生させる。組織幹細胞は、体細胞幹細胞または成体幹細胞としても知られる。
【0064】
トランスフェクトまたはトランスフェクション:核酸を細胞または組織に導入するプロセスを意味する。トランスフェクションは、多数ある任意の方法で実現することができる。方法として、例えばリポソームを媒介としたトランスフェクション、電気穿孔、注入などがあるが、これらに限定されない。
【0065】
ベクター:宿主細胞に導入されることによって宿主細胞を形質転換する核酸分子。ベクターは、宿主細胞の中で複製することのできる核酸配列(例えば複製起点:DNAの合成開始に関与するDNA配列)を含むことができる。例えば発現ベクターは、挿入された1個または複数の遺伝子の転写と翻訳を可能にするのに必要な調節配列を含んでいる。ベクターは、この分野で知られている1つ以上の選択マーカー遺伝子と他の遺伝要素も含んでいてよい。ベクターの例として、ウイルス・ベクター、プラスミド・ベクターが挙げられる。
【0066】
Zscan4:2細胞期特異的発現とES細胞特異的発現を示すことが以前に明らかにされていて(PCT公開WO 2008/118957)、テロメアの伸長とゲノムの安定化を促進することがわかっている(Zalzman他、Nature、第464巻(7290号):858〜863ページ、2010年;PCT公開WO 2011/028880)一群の遺伝子。この明細書の文脈では、“Zscan4”にヒトZSCAN4とマウスZscan4の両方が含まれる。マウスでは、“Zscan4”という用語は、3つの擬遺伝子(Zscan4-ps1、Zscan4-ps2、Zscan4-ps3)と6つの発現する遺伝子(Zscan4a、Zscan4b、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4e、Zscan4f)を含む一群の遺伝子を意味する。6つのパラログのうちで、Zscan4c、Zscan4d、Zscan4fのオープン・リーディング・フレームが、SCANドメインと合計4つのジンク・フィンガー・ドメインをコードしている。これは、これらが転写因子としての潜在的な役割を有することを示唆する。Zscan4は、Zscan4ポリペプチドと、Zscan4ポリペプチドをコードするZscan4ポリヌクレオチドを意味する。Zscan4配列の例は、この明細書に配列番号1〜14として示されており、PCT公開WO 2008/118957とWO 2011/028880に開示されている(参考としてその内容がこの明細書に組み込まれている)。
【0067】
Zscan4依存性遺伝子:Zscan4によって発現が調節される遺伝子。この明細書のいくつかの実施態様では、Zscan4依存性遺伝子は、iPSC形成の初期段階(1日目〜6日目)でZscan4に依存して上方調節されることが明らかにされた231個の遺伝子(表1に掲載)のうちの任意のものを意味する(下記の実施例1参照)。特別な実施例では、Zscan4依存性遺伝子は、Patl2、Pramel6、Piwil2、D5Ertd577eである。非限定的な例では、Zscan4依存性遺伝子は、マウスPatl2、マウスPramel6、マウスPiwil2、マウスD5Ertd577e;ヒトPATL2、ヒトPIWIL2;マウスPramel6またはマウスD5Ertd577eのヒトのオルソログ(例えばPRAMEファミリーのメンバー)である。
【0068】
特に断わらない限り、この明細書で用いるあらゆる科学技術用語は、この開示内容が属する分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味である。単数を表わす“1つの”、“その”には、文脈で明確にそうでないことが示されていない限り、複数形が含まれる。同様に、“または”という語は、文脈で明確にそうでないことが示されていない限り、“および”を含んでいる。したがって“AまたはBを含む”は、AまたはBを含むことを意味するか、AとBを含むことを意味する。さらに、核酸またはポリペプチドに関して与えられているすべての塩基またはアミノ酸のサイズと、すべての分子量は大まかな値であり、説明のために与えられていることを理解されたい。本明細書の開示内容を実施したり試験したりするのにこの明細書に記載した方法および材料と似ているか同等な方法および材料を利用できるが、適切な方法と材料は以下に記載する。この明細書で言及するあらゆる刊行物、特許出願、特許、他の参考文献は、その全体が参考としてこの明細書に組み込まれている。矛盾する場合には、この明細書が、用語の説明を含めて優先する。それに加え、材料、方法、実施例は、単なる説明のためであり、本発明がそれに限定されることは想定していない。
【0069】
III.はじめに
核移植(NT)による体細胞の再プログラム化は、数回以内の細胞分裂で起こる(Egli他、Curr. Biol.、第19巻:1403-1409ページ、2009年)のに対し、4個の因子Myc、Klf4、Oct4、Sox2(MKOS)を強制的に発現させることによって体細胞から人工多能性幹(iPS)細胞への再プログラム化を行なうには約3週間が必要とされ(TakahashiとYamanaka、Cell、第126巻:663〜676ページ、2006年;Hanna他、Cell、第143巻:508〜525ページ、2010年;StadtfeldとHochedlinger、Genes Dev.、第24巻:2239〜2263ページ、2010年;Gonzalez他、Nat. Rev. Genet.、第12巻:231〜242ページ、2011年)、少なくとも最初の8〜10日間はそれらの因子を連続的に添加せねばならない(Wernig他、Nat. Biotechnol.、第26巻:916〜924ページ、2008年;PlathとLowry、Nat. Rev. Genet.、第12巻:253〜265ページ、2011年)。iPS細胞の効率的な形成にはNT環境に存在する追加の胚性因子が必要であることが示唆されている(Hanna他、Nature、第462巻:595〜601ページ、2009年)が、そのようなどの因子もまだ報告されていない。2細胞胚と所定の時期のわずか約5%のES細胞で特異的に発現したZscan4(Falco他、Dev. Biol.、第307巻:539〜550ページ、2007年)が、適切な胚盤胞の形成(Falco他、Dev. Biol.、第307巻:539〜550ページ、2007年)と、ES細胞におけるゲノムの安定性とテロメアの維持(Zalzman他、Nature、第464巻:858〜863ページ、2010年)に極めて重要な役割を果たすことが以前に示された。この明細書では、Zscan4ががん遺伝子Mycの代わりとなることができ、Klf4、Oct4、Sox2とともに発現させるとき、マウス胎仔線維芽細胞(MEF)から同等な数のiPSコロニーを生成させることを開示する。
【0070】
さらに、Zscan4は、他の因子とは異なり、iPS形成中の初日にだけ必要であった。iPSC由来の均一に誘導できる第二MEFの全体的発現プロファイリングから、Zscan4の過剰発現によって起こるトランスクリプトームのわずかな違いが、MEFがiPS細胞になるかどうかを決めていることが明らかになった。ほんの少数とはいえ、上方調節されたこれら遺伝子の多くは、移植前胚特異的発現を示す。Klf4、Oct4、Sox2がないと、Zscan4の過剰発現は、それ自体がMEFをiPSCに変換することはなく、MEFの増殖を減らし、Oct4のプロモータ上で部分的だが急速なDNAメチル化を引き起こした。この明細書にはさらに、Zscan4依存性遺伝子のうちの少なくとも4個も、MKOS因子と同時に発現させるとiPSCの形成を促進できることを開示する。
【0071】
この明細書に開示した研究を総合することにより、Zscan4が、以前に明らかにされていなかった、一過的に作用して再プログラム化プロセスを容易にする天然因子であることが確立された。Zscan4を媒介とする再プログラム化プロセスでは、初期胚プログラムの再活性化を通じ、NTを媒介とする再プログラム化プロセスの少なくとも一部を繰り返す。
【0072】
IV.いくつかの実施態様の概説
この明細書には、Zscan4が、初期胚遺伝子の再活性化により体細胞の直接的な再プログラム化を開始させるという知見が開示されている。特に、体細胞でZscan4を以前に報告されている他の再プログラム化因子とともに強制的に発現させることで、高品質のiPS細胞が効率的に作製されることが開示されている。この明細書にはさらに、Zscan4依存性遺伝子Patl2、Pramel6、Piwil2、D5Ertd577eのうちの任意のものを以前に報告されている再プログラム化因子と組み合わせて強制的に発現させると、iPSコロニーの形成が促進されることが開示されている。
【0073】
この明細書では、体細胞の再プログラム化によってiPS細胞を作製する生体外の方法が提供される。この方法は、体細胞を、Zscan4またはZscan4依存性遺伝子と、少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させることによってiPS細胞を作製する操作を含んでいる。いくつかの実施態様では、Zscan4依存性遺伝子は、Patl2、Pramel6、Piwil2、D5Ertd577eの中から選択される。いくつかの実施態様では、この方法は、体細胞を、少なくとも2個、または少なくとも3個、または少なくとも4個の再プログラム化因子と接触させる操作を含んでいる。再プログラム化因子(体細胞再プログラム化因子、核再プログラム化因子、多能性遺伝子、幹細胞関連遺伝子としても知られる)はすでに報告されており、当業者であれば適切な再プログラム化因子を選択することができる。特別な実施例では、少なくとも1個、または少なくとも2個、または少なくとも3個、または少なくとも4個の再プログラム化因子は、c-Myc、Klf4、Oct4、Sox2、Lin28、Nanogの中から選択される。いくつかのケースでは、再プログラム化因子として、Sox1、Sox3、L-myc、N-myc、Klf2のうちの1つ以上が挙げられる。例えばSox1とSox3をSox2の代わりに使用してもよく;L-mycまたはN-mycをc-Mycの代わりに使用してもよく;Klf2をKlf4の代わりに使用してもよい。
【0074】
いくつかの非限定的な実施例では、体細胞を、2つ、または3つ、または4つの再プログラム化因子と接触させる。そのとき、(i)4つの再プログラム化因子は、c-Myc、Klf4、Oct4、Sox2である;または(ii)4つの再プログラム化因子は、Lin28、Nanog、Oct4、Sox2である;または(iii)3つの再プログラム化因子は、Klf4、Oct4、Sox2である;または(iv)2つの再プログラム化因子は、Oct4、Sox2である。
【0075】
Zscan4、Zscan4依存性遺伝子、再プログラム化因子は、公知の適切な任意の方法を利用して体細胞に導入することができ、その結果としてZscan4、Zscan4依存性遺伝子、再プログラム化因子が細胞の中に送達される。Zscan4および/またはZscan4依存性遺伝子を送達する方法は、再プログラム化因子の送達に利用する方法と同じである必要はない。いくつかの実施態様では、体細胞をZscan4に接触させる操作に、Zscan4タンパク質をコードしている核酸分子を体細胞に導入する操作が含まれる。いくつかの実施態様では、体細胞をZscan4依存性遺伝子に接触させる操作に、Zscan4依存性遺伝子タンパク質をコードしている核酸分子を体細胞に導入する操作が含まれる。いくつかの実施態様では、体細胞を少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させる操作に、少なくとも1つの再プログラム化因子のタンパク質をコードしている核酸分子を体細胞に導入する操作が含まれる。
【0076】
少なくとも2つの再プログラム化因子をコードしている核酸分子を導入することによってそれら再プログラム化因子を体細胞に接触させる実施態様では、再プログラム化因子は、単一の核酸分子(例えば単一のウイルス・ベクター、またはその核酸分子を含むプラスミド)、または別々の核酸分子(例えばそれぞれの再プログラム化因子で別のベクターまたはプラスミド)を用いて送達することができる。同様に、Zscan4核酸分子、またはZscan4依存性遺伝子核酸分子は、別の核酸分子として体細胞に送達すること、または再プログラム化因子をコードしている核酸分子に含めることができる。
【0077】
いくつかの実施態様では、Zscan4またはZscan4依存性遺伝子をコードしている核酸分子、および/または少なくとも1つの再プログラム化因子をコードしている核酸分子は、ウイルス・ベクターを含んでいる。ウイルス・ベクターの例として、レトロウイルス・ベクター、レンチウイルス・ベクター、アデノウイルス・ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。しかしウイルス・ベクターの選択は、例えば使用する体細胞のタイプ、iPS細胞を使用する具体的な用途に応じて異なる可能性がある。当業者であれば、Zscan4またはZscan4依存性遺伝子と再プログラム化因子を導入するための適切なウイルス・ベクターを選択することができよう。
【0078】
別の実施態様では、核酸分子は、プラスミド・ベクターを含んでいる。特別な例では、プラスミド・ベクターは、自律的な複製が可能なエピソーム・プラスミド・ベクターである。
【0079】
いくつかの実施態様では、体細胞に導入される核酸分子は、ナノ粒子の中にカプセル化される。
【0080】
別の実施態様では、Zscan4、またはZscan4依存性遺伝子、または少なくとも1つの再プログラム化因子をコードする核酸分子は、Zscan4タンパク質、またはZscan4依存性遺伝子タンパク質、または再プログラム化因子タンパク質をコードするmRNAを含んでいる。
【0081】
いくつかの実施態様では、体細胞をZscan4に接触させる操作に、Zscan4タンパク質を体細胞に導入する操作が含まれる。いくつかの実施態様では、体細胞をZscan4依存性遺伝子に接触させる操作に、Zscan4依存性遺伝子タンパク質を体細胞に導入する操作が含まれる。いくつかの実施態様では、体細胞を少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させる操作に、再プログラム化因子タンパク質を体細胞に導入する操作が含まれる。いくつかの例では、Zscan4タンパク質、またはZscan4依存性遺伝子タンパク質、または再プログラム化因子タンパク質は、ナノ粒子の中にカプセル化される。別の例では、Zscan4タンパク質、またはZscan4依存性遺伝子タンパク質、または再プログラム化因子タンパク質は、細胞侵入ペプチド(CPP)に融合される。多数の異なるCPPが知られており、それについてはあとで詳細に検討する。特別な例では、細胞侵入ペプチドは、タンパク質形質導入ドメイン(例えばヒト免疫不全ウイルス(HIV)Tatタンパク質)を含んでいる。別の例では、細胞侵入ペプチドは、ポリ-アルギニン・ペプチド・タグを含んでいる。ポリ-アルギニン・タグはサイズがさまざまだが、いくつかのケースでは、約7〜約11個のアルギニン残基である。
【0082】
Zscan4、Zscan4依存性遺伝子、再プログラム化因子の送達は、(送達に核酸分子、ベクター、mRNA、タンパク質の送達が含まれるかどうかには関係なく)同時に、または順番に実施することができる。いくつかの実施態様では、Zscan4またはZscan4依存性遺伝子は、少なくとも1つの再プログラム化因子を送達する前に送達される。それに加え、いくつかのケースでは、多能性状態の誘導が可能となるよう十分な期間にわたって発現させるため、Zscan4またはZscan4依存性遺伝子、および/または再プログラム化因子は、送達方法に応じて少なくとも2回、または少なくとも3回、または少なくとも4回送達される。いくつかの実施態様では、この明細書に開示した方法は、少なくとも3日間、または少なくとも4日間、または少なくとも5日間、または少なくとも6日間、または少なくとも7日間、または少なくとも8日間、または少なくとも9日間、または少なくとも10日間にわたって再プログラム化因子を連続的に発現させる(または再プログラム化因子タンパク質を存在させる)操作を含んでいる。いくつかの実施態様では、この方法は、少なくとも1日間、または少なくとも2日間、または少なくとも3日間にわたってZscan4を連続的に発現させる(またはZscan4タンパク質を存在させる)操作を含んでいる。いくつかの実施態様では、この方法は、少なくとも1日間、または少なくとも2日間、または少なくとも3日間にわたってZscan4依存性遺伝子を連続的に発現させる(またはZscan4依存性遺伝子タンパク質を存在させる)操作を含んでいる。
【0083】
ここに開示した方法のいくつかの実施態様では、体細胞はマウスの細胞である。別の実施態様では、体細胞はヒト細胞である。
【0084】
ここに開示した方法で用いる体細胞として任意のタイプの細胞が可能であり、例えば、組織幹細胞、前駆細胞、分化した細胞が挙げられる。いくつかの実施態様では、組織幹細胞は、神経幹細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、脂肪幹細胞である。いくつかの実施態様では、分化した細胞は、線維芽細胞(例えばT細胞またはB細胞)、肝細胞、上皮細胞、筋肉細胞、脂肪細胞、心筋細胞、膵臓β細胞、角化細胞、羊水細胞、末梢血細胞、血小板、アストロサイトである。
【0085】
いくつかの実施態様では、この方法は、体細胞をZscan4と少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させる操作を含んでいる。特別な実施態様では、Zscan4はマウスZscan4(例えばZscan4c、Zscan4d、Zscan4f)である。いくつかの例では、マウスZscan4はZscan4cである。特別な非限定的な例では、Zscan4cのアミノ酸配列は配列番号8と少なくとも95%一致しているか、Zscan4cのアミノ酸配列は配列番号8を含んでいるか、Zscan4cのアミノ酸配列は配列番号8からなる。いくつかの例では、Zscan4cは、配列番号7と少なくとも95%一致するヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号7を含むヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号7からなるヌクレオチド配列によってコードされている。
【0086】
別の実施態様では、Zscan4はヒトZSCAN4である。いくつかの例では、ZSCAN4のアミノ酸配列は、配列番号2と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致しているか、ZSCAN4のアミノ酸配列は配列番号2を含むか、ZSCAN4のアミノ酸配列は配列番号2からなる。いくつかの例では、ZSCAN4は、配列番号1と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致するヌクレオチド配列によってコードされているか、ZSCAN4は、配列番号1を含むヌクレオチド配列によってコードされているか、ZSCAN4は、配列番号1からなるヌクレオチド配列によってコードされている。
【0087】
いくつかの実施態様では、この方法は、体細胞をPatl2と少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させる操作を含んでいる。特別な実施態様では、Patl2はマウスPatl2である。いくつかの例では、マウスPatl2のアミノ酸配列は、配列番号39と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致しているか、Patl2のアミノ酸配列は配列番号39を含んでいるか、Patl2のアミノ酸配列は配列番号39からなる。いくつかの例では、マウスPatl2は、配列番号38と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致するヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号38を含むヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号38からなるヌクレオチド配列によってコードされている。
【0088】
特別な実施態様では、Patl2はヒトPatl2である。いくつかの例では、ヒトPatl2のアミノ酸配列は、配列番号47と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致しているか、Patl2のアミノ酸配列は配列番号47を含んでいるか、Patl2のアミノ酸配列は配列番号47からなる。いくつかの例では、ヒトPatl2は、配列番号46と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致するヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号46を含むヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号46からなるヌクレオチド配列によってコードされている。
【0089】
いくつかの実施態様では、この方法は、体細胞をPramel6と少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させる操作を含んでいる。いくつかの例では、Pramel6のアミノ酸配列は、配列番号41と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致しているか、Pramel6のアミノ酸配列は配列番号41を含んでいるか、Pramel6のアミノ酸配列は配列番号41からなる。いくつかの例では、Patl2は、配列番号40と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致するヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号40を含むヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号40からなるヌクレオチド配列によってコードされている。別の例では、Zscan4依存性遺伝子は、Pramel6のヒト・オルソログである。特別な例では、Pramel6のヒト・オルソログは、配列番号50〜72のうちの任意の1つと少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致するヌクレオチド配列によってコードされている。
【0090】
いくつかの実施態様では、この方法は、体細胞をPiwil2と少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させる操作を含んでいる。特別な実施態様では、Piwil2はマウスPiwil2である。いくつかの例では、マウスPiwil2のアミノ酸配列は、配列番号43と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致しているか、Piwil2のアミノ酸配列は配列番号43を含んでいるか、Piwil2のアミノ酸配列は配列番号43からなる。いくつかの例では、マウスPiwil2は、配列番号42と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致するヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号42を含むヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号42からなるヌクレオチド配列によってコードされている。
【0091】
特別な実施態様では、Piwil2はヒトPiwil2である。いくつかの例では、ヒトPiwil2のアミノ酸配列は、配列番号49と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致しているか、Piwil2のアミノ酸配列は配列番号49を含んでいるか、Piwil2のアミノ酸配列は配列番号49からなる。いくつかの例では、ヒトPiwil2は、配列番号48と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致するヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号48を含むヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号48からなるヌクレオチド配列によってコードされている。
【0092】
いくつかの実施態様では、この方法は、体細胞をD5Ertd577eと少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させる操作を含んでいる。いくつかの例では、D5Ertd577eのアミノ酸配列は、配列番号45と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致しているか、D5Ertd577eのアミノ酸配列は配列番号45を含んでいるか、D5Ertd577eのアミノ酸配列は配列番号45からなる。いくつかの例では、D5Ertd577eは、配列番号44と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致するヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号44を含むヌクレオチド配列によってコードされているか、配列番号44からなるヌクレオチド配列によってコードされている。別の例では、Zscan4依存性遺伝子は、D5Ertd577eのヒト・オルソログである。特別な例では、D5Ertd577eのヒト・オルソログは、配列番号50〜72のうちの任意の1つと少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致するヌクレオチド配列によってコードされている。
【0093】
別の実施態様では、内在性Zscan4の発現を増やす作用物質に体細胞を接触させ、その細胞を少なくとも1つの再プログラム化因子に接触させることにより、iPS細胞を作製する操作を含んでいる。レチノイドと酸化ストレスがZscan4の一過的発現を増大させることが以前に明らかにされている(PCT公開WO 2011/028880参照)。したがって特別な例では、作用物質はレチノイド(例えば全トランス・レチノイン酸、9シス・レチノイン酸、13-シス・レチノイン酸、ビタミンAだが、これらに限定されない)である。別の例では、作用物質は酸化ストレスを誘導する。
【0094】
この明細書にはさらに、この明細書に開示した方法に従って作製されて単離されたiPS細胞が提示されている。また、この明細書に開示した方法に従って作製されたiPS細胞から作られた非ヒト動物(例えばマウス)も提供される。
【0095】
この明細書に開示した方法に従って作製されて単離されたiPS細胞は、さまざまな研究や治療の目的で使用することができる。iPS細胞は、例えば再生医療の用途でES細胞または他の幹細胞の代わりに使用することができる。使用するiPS細胞の数と投与形態は、治療する具体的な疾患または異常によって異なることになろう。特別な例では、約1×10
6個、または約2×10
6個の細胞が注入される。iPS細胞を多能性の状態で使用すること、またはiPS細胞を分化させて望むタイプの細胞(例えば神経、筋肉細胞、特定の臓器の細胞)を作製することができる。未分化のES細胞をインビトロで分化させる方法は公知であり、iPS細胞の分化に応用することができる。アメリカ合衆国特許出願公開第2006/0194321号には、ES細胞を分化させて内皮細胞(例えば膵臓)にすることが記載されている。アメリカ合衆国特許出願公開第2004/0014209号には、ES細胞を分化させて心臓細胞にすることが記載されている。アメリカ合衆国特許出願公開第2008/0194023号には、ES細胞を分化させて血管平滑筋細胞にすることが記載されている。アメリカ合衆国特許出願公開第2011/0117062号には、ES細胞を分化させて網膜色素上皮細胞にすることが記載されている。
【0096】
iPS細胞(または特定のタイプの細胞に分化したiPS細胞)を投与することの恩恵を受ける可能性のある異常または疾患の例として、自己免疫疾患と、細胞の再生が恩恵をもたらす疾患(例えば神経の損傷(脳や脊髄の損傷、脳卒中からのダメージ)、神経変性疾患のほか、失明、難聴、歯の喪失、関節炎、心筋梗塞、骨髄移植、脱毛、クローン病、糖尿病、筋ジストロフィ)が挙げられる。神経変性疾患の例として、例えば、副腎脳白質ジストロフィ症(ALD)、アルコール中毒症、アレキサンダー病、アルパース病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、毛細管拡張性失調症、バッテン病(スピールマイヤー-フォークト-シェーグレン-バッテン病としても知られる)、ウシ海綿状脳症(BSE)、カナヴァン病、脳麻痺、コケイン症候群、皮質基底核変性症、クロイツフェルト-ヤコブ病、致死性家族性不眠症、前頭側頭葉変性、ハンチントン病、HIV関連認知症、ケネディ病、クラッベ病、レヴィ小体認知症、神経ボレリア症、マシャド-ジョセフ病(脊髄小脳失調症3型)、多系統萎縮症、多発性硬化症、ナルコレプシー、ニーマン・ピック病、パーキンソン病、ペリツェーウス-メルツバッハー病、ピック病、原発性側索硬化症、プリオン病、進行性核上麻痺、レフサム病、サンドホフ病、シルダー病、悪性貧血から派生する脊椎の亜急性連合性変性、スピールマイヤー-フォークト-シェーグレン-バッテン病(バッテン病としても知られる)、脊髄小脳失調症、脊髄筋萎縮症、スティール-リチャードソン-オルゼウスキー症候群、脊髄癆、中毒性脳症が挙げられる。この明細書で提供するiPSからの恩恵を得られる自己免疫疾患の例として、関節リウマチ、若年性少関節炎、コラーゲン誘発性関節炎、アジュバント誘発性関節炎、シェーグレン症候群、多発性硬化症、経験性自己免疫性脳脊髄炎、炎症性腸疾患(例えばクローン病、潰瘍性大腸炎)、自己免疫性胃萎縮、尋常性天疱瘡、乾癬、白斑、1型糖尿病、非肥満糖尿病、重症筋無力症、グレーヴス病、橋本甲状腺炎、硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎、全身性エリテマトーデス、自己免疫性血小板減少性紫斑病、グッドパスチャー症候群、アディソン病、全身硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血が挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
この明細書には、レポータ遺伝子と機能可能に連結したZscan4プロモータを含む発現ベクターを細胞集団にトランスフェクトすることにより、細胞集団の中で成熟したiPSCおよび/または高品質のiPSCを特定する方法も提示されている。この方法では、細胞集団の中の1個の細胞内でのレポータ遺伝子の発現により、その細胞が成熟したiPSCおよび/または高品質のiPSCであることが特定される。さらに、細胞集団から成熟したiPSCを単離する方法が提供される。この方法は、レポータ遺伝子と機能可能に連結したZscan4プロモータを含む発現ベクターを細胞集団にトランスフェクトし、そのレポータ遺伝子を発現している細胞を細胞集団から分離することにより、成熟したiPSCを単離する。
【0098】
いくつかの実施態様では、細胞集団は、iPSC、胎仔線維芽細胞、成体線維芽細胞、またはこれらの組み合わせを含んでいる。
【0099】
いくつかの実施態様では、Zscan4プロモータはZscan4cプロモータを含んでいる。いくつかの例では、Zscan4プロモータは、配列番号73のヌクレオチド906〜4468として示したヌクレオチド配列と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致している。いくつかの実施態様では、レポータ遺伝子は、蛍光タンパク質(例えばGFPまたはその誘導体(例えばエメラルド))をコードしている。あるいはレポータ遺伝子は、薬(例えば抗生剤)選択マーカーをコードしており、Zscan4を発現しない細胞は、適切な薬(例えばハイグロマイシン、ネオマイシンなど)を添加することによって殺される。特別な非限定的な例では、発現ベクターのヌクレオチド配列は、配列番号73として示したヌクレオチド配列と少なくとも80%、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、または少なくとも99%一致している。特別な例では、発現ベクターは、配列番号73のヌクレオチド配列を含んでいる。
【0100】
V.Zscan4、Zscan4依存性遺伝子、再プログラム化因子を体細胞に導入する方法
再プログラム化因子を体細胞に送達してiPSCを作製する多数の方法が報告されている(概説としては、Lai他、J. Assist. Reprod. Genet.、第28巻(4):291〜301ページ、2011年;Parameswaran他、Stem Cells、第29巻(7):1013〜1020ページ、2011年;Miiller他、Mol. Ther.、第17巻(6):947〜953ページ、2009年を参照のこと)。これらの方法にはいくつかの広いカテゴリーがあり、例えばウイルス・ベクター(例えば統合用または非統合用のウイルス・ベクター)またはプラスミド・ベクターを用いて再プログラム化因子をコードしている核酸分子を導入する方法、再プログラム化因子をコードしているmRNAを送達する方法、再プログラム化因子タンパク質を直接送達する方法がある。これらの方法のそれぞれは先行技術に記載されているため、当業者の能力範囲内である。Zscan4、および/またはZscan4依存性遺伝子、および/または少なくとも1つの再プログラム化因子を体細胞に送達するのに利用できる各方法の簡単な要約を以下に提示する。Zscan4またはZscan4依存性遺伝子とそれぞれの再プログラム化因子を同じ方法で送達する必要はない。例えばZscan4(またはZscan4依存性遺伝子)のmRNAの送達と、ベクターを媒介とした再プログラム化因子の送達を組み合わせることができる。
【0101】
A.ウイルス・ベクター
iPSCを作製するために実施した最初の実験では、レトロウイルス・ベクター(例えばモロニー・マウス白血病ウイルス(MMLV)をベースとしたベクター)を使用して再プログラム化因子がマウスとヒトの体細胞に送達された(Takahashi他、Cell、第126巻:663〜666ページ、2006年;Takahashi他、Cell、第31巻:861〜872ページ、2007年;Okita他、Nature、313〜317ページ、2007年;Park他、Nature、第451巻:141〜146ページ;アメリカ合衆国特許出願公開第2009/0047263号)。その後の研究では、レンチウイルス・ベクター(Brambrink他、Cell Stem Cell、第2巻:151〜159ページ、2008年;Wernig他、Nat. Biotechnol.、第26巻:916〜924ページ、2008年;Stadtfeld他、Science、第322巻:945〜949ページ、2008年)が使用された。このベクターには、分裂する細胞と分裂しない細胞の両方に感染させることができるという利点があるため、細胞への形質導入率が向上する。それに加え、レンチウイルスをシュードタイピングしてウイルスの親和性を大きくすることができる。例えば水疱性口内炎ウイルスの糖タンパク質(VSVg)を用いたシュードタイピングにより、広い範囲のタイプの細胞に感染させることができる(Lai他、J. Assist. Reprod. Genet.、第28(4)巻:291〜301ページ、2011年)。レンチウイルスにより、再プログラム化因子の構成的発現と誘導的発現の両方を可能にすることもできる。薬誘導性レンチウイルス発現系の例は、Hockmeyer他(Cell Stem Cell、第3巻:346〜353ページ、2008年)とWernig他(Nat. Biotechnol.、第26巻:916〜924ページ、2008年)が記載している。
【0102】
レンチウイルスとして、ヒト免疫不全ウイルス(例えばHIV-1、HIV-2)、ネコ免疫不全ウイルス、ウマ感染性貧血ウイルス、サル免疫不全ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。他のレトロウイルスとして、ヒトTリンパ栄養性ウイルス、サルTリンパ栄養性ウイルス、マウス白血病ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。レトロウイルス・ベクターとレンチウイルス・ベクターの作製方法とその利用法は、先行技術に十分に記載されている(例えばアメリカ合衆国特許第7,211,247号;第6,979,568号;第7,198,784号;第6,783,977号;第4,980,289号参照)。
【0103】
再プログラム化因子の核酸分子を細胞に送達するのに非統合性ウイルス・ベクター(例えばアデノウイルス・ベクター)も使用されてきた。例えば細胞内でエピソームの形態に留まるアデノウイルス・ベクターを用いてOct4、Sox2、Klf4、c-Mycを送達し、マウスの線維芽細胞と肝臓細胞からiPS細胞を作製することに成功している(Stadtfeld他、Science、第322巻:945〜949ページ、2008年)。
【0104】
B.プラスミド・ベクター
いくつかの場合には、例えば宿主細胞のゲノムへの統合を避けるため、非ウイルス・ベクターを用いることが望ましい。例えば1種類以上のプラスミド・ベクターを用いてZscan4、および/またはZscan4依存性遺伝子、および/または1つ以上の再プログラム化因子を体細胞に送達することができる。プラスミド・ベクターはエピソームが維持されているため、一般に遺伝子発現は短期間である(Lai他、J. Assist. Reprod. Genet.、第28巻(4):291〜301ページ、2011年)。一例として、Okitaら(Science、第322巻:949〜953ページ、2008年)は、CAGプロモータを含むpCXプラスミドを使用して体細胞の中で再プログラム化因子を発現させることを記載している。この研究では、2つのプラスミドを用いて線維芽細胞が順番にトランスフェクトされた。一方のプラスミドはc-Mycを発現させ、他方のプラスミドはOct4、Klf4、Sox2を発現させる。Gonzalez らによるのちの研究(Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第106巻:8918〜8922ページ、2009年)では、4つの再プログラム化因子(c-Myc、Oct4、Klf4、Sox2)をすべてコードする単一のポリシストロン性プラスミドを用いてiPS細胞を作製することに成功している。
【0105】
エピソーム・プラスミド・ベクターは、Zscan4またはZscan4依存性遺伝子と再プログラム化因子を体細胞に導入するための別の選択肢である。エピソーム・プラスミド・ベクターは、自らを外来性染色体要素として自律的に複製することができるため、標的細胞の中で長期の遺伝子発現を示す。エプスタイン-バー・ウイルスに由来するエピソーム・プラスミド・ベクター(oriP/EBNA1)を用いてOCT4、SOX2、NANOG、LIN28、c-MYC、KLF4を発現させることにより、ヒト体細胞が再プログラム化されている(Yu他、Science、第324巻:797〜801ページ、2009年)。
【0106】
適切なベクターの選択は、当業者の能力範囲内である。発現ベクターは、一般に、複製起点と、プロモータを含むほか、場合によっては、形質転換される細胞の表現型の選択を可能にする特定の遺伝子(例えば抗生物質耐性カセット)を含んでいる。一般に、発現ベクターはプロモータを含むことになる。プロモータは、誘導的でも構成的でもよい。プロモータは、組織特異的なものにすることができる。プロモータの例として、CAGプロモータ、チミジンキナーゼ・プロモータ(TK)、メタロチオネインI、多面体、神経特異的エノラーゼ、チロシンヒロキシラーゼ、β-アクチン、CMVプロモータや、他のプロモータが挙げられる。場合によってはエンハンサ要素も含まれていて、一般にベクター上の任意の場所に位置させることができるが、それでも遺伝子発現に対する増大効果を有する。
【0107】
プラスミド・ベクターは、適切な任意の方法を利用して体細胞に導入することができる。いくつかの実施態様では、ベクターは、カチオン性ポリマーからなる脂質を用いたトランスフェクションによって細胞に送達される。特別な例では、トランスフェクション試薬は、LIPOFECTAMINE(登録商標)またはそれと類似した試薬である。別の例では、送達は、ニュクレオフェクション・トランスフェクション技術(Amaxa社、ケルン、ドイツ国)を用いて実現される。この技術は、NUCLEOFECTOR(登録商標)送達装置を用いてDNAを宿主細胞の核に直接導入する電気穿孔技術に基づいている(Lakshmipathy他、Stem Cells、第22巻:531〜543ページ、2004年)。さらに別の一例では、トランスフェクション試薬は、ポリ-β-アミノエステルを含んでいる。Montserratら(J. Biol. Chem.、第286巻(14):12417〜12428ページ、2011年)は、トランスフェクション試薬としてポリ-β-アミノエステルを用い、Oct4、Sox2、Klf4、c-Mycを発現するプラスミドによって駆動されるポリシストロン性CAGプロモータを送達することによってヒト線維芽細胞からiPS細胞を作製することを記載している。
【0108】
C.切除戦略
ゲノム統合部位から外来性再プログラム化因子を切除できることが望ましい。切除に基づく2つの方法が以前に報告されている。それは、CreloxP組み換えとpiggyBac転位である。Soldnerら(Cell、第136巻:964〜977ページ、2009年)は、Cre-lox系を用いてウイルスの再プログラム化因子のないiPS細胞を作製することを記載している。この戦略は、Dox誘導性最小CMVプロモータを有するレンチウイルス・ベクターの3’LTRの中にloxP部位を配置して再プログラム化因子の発現を駆動する操作を含んでいた。プロウイルスが複製されている間にloxPが2倍になって5’LTRに入り、その結果として、2つのloxP部位が隣接した再プログラム化因子がゲノムに統合された。Creリコンビナーゼの一過的発現により、Flox化された再プログラム化因子が切除された。
【0109】
piggyBacトランスポゾンは、細胞ゲノムの中に外来性DNAの痕跡をまったく残すことなく自らを切除することができる(Elick他、Genetica、第98巻:33〜41ページ、1996年;Fraser他、Insect Mol. Biol.、第5巻:141〜151ページ、1996年)。この方法を利用して、piggyBacトランスポゾンの5’と3’の末端繰り返しの間に位置する2Aペプチド・リンカーに連結させた再プログラム化因子を有するポリシストロン性コンストラクトを送達することにより、線維芽細胞からiPS細胞を作製した。統合された再プログラム化遺伝子の正確な切除は、トランスポザーゼの発現時に観察される(Kaji他、Nature、第458巻:771〜775ページ、2009;Wang他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第105巻:9290〜9295ページ、2008年;Yusa他、Nat. Methods、第6巻:363〜369ページ、2009年)。
【0110】
D.mRNA
Zscan4、および/またはZscan4依存性遺伝子、および/または1つ以上の再プログラム化因子を体細胞に導入するための別の戦略は、Zscan4、またはZscan4依存性遺伝子、または再プログラム化因子をコードしているmRNAを送達することによる。再プログラム化因子をコードしている合成mRNAを投与することにより、多数の異なるタイプのヒト細胞からiPSCが作製されている(Warren他、Cell Stem Cell、第7巻(5):618〜630ページ、2010年)。Warrenらの研究では、mRNAを改変して本来の抗ウイルス応答を克服し、その改変mRNAを繰り返して送達することにより多能性を実現した。
【0111】
E.タンパク質
Zscan4、および/またはZscan4依存性遺伝子、および/または再プログラム化因子の導入は、それぞれのタンパク質を体細胞に直接送達することによっても可能である。タンパク質の送達は、標準的な方法により、例えば電気穿孔、微量注入、カチオン性脂質、ナノ粒子を利用して実現できる。あるいは細胞侵入ペプチド(CPP)と融合させることによってタンパク質を改変し、そのタンパク質を細胞の中に入れやすくすることができる。CPPとナノ粒子の使用については、以下により詳しく説明する。
【0112】
1.細胞侵入ペプチド(CPP)
CPPは、受容体とは独立に、膜を通じてタンパク質、核酸、または他の化合物を形質導入しやすくするためのポリペプチドのファミリーである(WadiaとDowdy、Curr. Protein Pept. Sci.、第4巻(2):91〜104ページ、2003年)。典型的には、CPPは、細胞への化合物の取り込みを容易にし、その化合物を細胞のエンドソームと連結させる短いポリカチオン性配列である。
【0113】
いくつかのペプチドがタンパク質または核酸を細胞内に送達する能力を持つことは、元々はHIVがコードしているTatタンパク質で報告された。そのTatタンパク質は、膜を横断して転写を開始させることがわかった。その後、Tatタンパク質のうちで形質導入に必要な部分は、わずか11個のアミノ酸からなるポリペプチドであることが見いだされた。それをTatペプチドと呼ぶ。Tatペプチドは、他のタンパク質と融合すると、そのタンパク質(サイズは15〜120kDa)を組織培養物の中の細胞に送達することが明らかにされた(FrankelとPabo、Cell、第55巻(6):1189〜1193ページ、1988年;GreenとLoewenstein、J. Gen. Microbiol.、第134巻(3):849〜855ページ、1988年;Vives他、J. Biol. Chem.、第272巻(25):16010〜16017ページ、1997年;Yoon他、J. Microbiol.、第42(4)巻:328〜335ページ、2004年;Cai他、Eur. J. Pharm. Sci.、第27巻(4):311〜319ページ、2006年)。
【0114】
知られている他のCPPとして、ショウジョウバエ(Drosophila Antennapedia)のホメオボックス遺伝子の第3の螺旋に由来する16個のアミノ酸からなるペプチドであるPENETRATIN(登録商標)(アメリカ合衆国特許第5,888,762号;Derossi他、J. Biol. Chem.、第269巻:10444〜10450ページ、1994年;Schwarze他、Trends Pharmacol. Sci.、第27巻:45〜48ページ、2000年);神経ペプチドであるガラニンのN末端からの12個のアミノ酸と、14個のアミノ酸からなるタンパク質であるマストパランとからなるアミノ酸27個のキメラ・ペプチドであるトランスポータン(アメリカ合衆国特許第6,821,948号;Pooga、FASEB J.、第12巻:67〜77ページ、1998年;Hawiger、Curr. Opin. Chem. Biol.、第3巻:89〜94ページ、1999年);単純ヘルペス・ウイルス(HSV)1型のVP22タンパク質からのペプチド(Elliott他、Cell、第88巻:223〜233ページ、1997年);HSV-2のUL-56タンパク質(アメリカ合衆国公告第2006/0099677号);HIV-1のVprタンパク質(アメリカ合衆国公告第2005/0287648号)が挙げられる。それに加え、多数の人工ペプチド(例えばポリ-アルギニン、ポリ-リシンなど)もCPPとして機能することが知られている(例えばアメリカ合衆国公告第2006/0106197号;第2006/0024331号;第2005/0287648号;第 2003/0125242号;Zhibao他、Mol. Ther.、第2巻:339〜347ページ、2000年;Laus他、Nature Biotechnol.、第18巻:1269〜1272ページ、2000年参照)。
【0115】
Zhouら(Cell Stem Cell、第4巻:381〜384ページ、2009年)は、精製した組み換え再プログラム化因子OCT4、SOX2、KLF4、c-MYCをポリ-アルギニン・ペプチド・タグに融合させることによってiPS細胞の作製がうまくいくことを報告している。マウス胎仔線維芽細胞を組み換え体とともに4回形質導入し、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤であるバルプロ酸(VPA)の存在下で30〜35日間培養した。それに加え、Kimら(Cell Stem Cell、第4巻:472〜476ページ、2009年)は、HIV-TATタンパク質形質導入ドメインに融合したOCT4、SOX2、KLF4、c-MYCタンパク質を形質導入することにより、ヒト胎仔線維芽細胞を再プログラム化することを記載している。
【0116】
2.ナノ粒子
ナノ粒子は、カプセル化された薬(例えば、迅速な放出または制御放出のための、合成小分子、タンパク質、ペプチド、細胞、核酸をベースとした生物治療薬)を運ぶことのできるサイズがミクロン未満(約1000nm未満)の薬送達ビヒクルである。周知の方法を利用して多彩な分子(例えばタンパク質、ペプチド、核酸分子)をナノ粒子の中に効果的にカプセル化することができる。
【0117】
いくつかの例では、Zscan4タンパク質、および/またはZscan4依存性遺伝子タンパク質、および/または再プログラム化因子タンパク質をナノ粒子によってカプセル化して細胞に送達しやすくする。この明細書に開示した方法で用いるのに適したナノ粒子は公知であり、以下に簡単に記載する。
【0118】
この明細書に記載した方法で用いるナノ粒子として、任意のタイプの生体適合性ナノ粒子(例えば生分解性ナノ粒子)が可能であり、ポリマー・ナノ粒子であるポリアミド・ナノ粒子、ポリカーボネート・ナノ粒子、ポリアルケン・ナノ粒子、ポリビニルエーテル・ナノ粒子、セルロースエーテル・ナノ粒子が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施態様では、ナノ粒子は、生体適合性かつ生分解性の材料で製造される。いくつかの実施態様では、ナノ粒子として、ポリ(乳酸)とポリ(グリコール酸)の一方または両方を含むナノ粒子が挙げられるが、それに限定されない。特別な実施態様では、ナノ粒子は、ポリ(D,L-乳-コ-グリコール酸)(PLGA)ナノ粒子である。
【0119】
別の生分解性ポリマー材料(例えばポリ(乳酸)(PLA)やポリグリコリド(PGA))をこの明細書に記載した方法で用いることが考えられる。別の有用なナノ粒子として、生分解性ポリ(アルキルシアノアクリレート)ナノ粒子がある(Vauthier他、Adv. Drug Del. Rev.、第55巻:519〜548ページ、2003年)。
【0120】
さまざまなタイプの生分解性かつ生体適合性のナノ粒子、そのようなナノ粒子(PLGAナノ粒子を含む)の製造方法、多彩な合成化合物、タンパク質、核酸をカプセル化する方法は、従来から多く報告されている(例えばアメリカ合衆国特許出願公開第2007/0148074号;アメリカ合衆国特許出願公開第2007/0092575号;アメリカ合衆国特許出願公開第2006/0246139号;アメリカ合衆国特許第5,753,234号;アメリカ合衆国特許第7,081,489号;PCT公開WO/2006/052285参照)。
【0121】
いくつかの具体的な特徴および/または実施態様を説明するため、以下の実施例を提示する。これらの実施例が、ここに記載した具体的な特徴または実施態様の開示内容を限定すると見なしてはならない。
【実施例】
【0122】
実施例1:Zscan4は、体細胞の直接的な再プログラム化に必要な初期胚性因子である
この実施例では、Zscan4が、初期胚性遺伝子の再活性化によって体細胞の直接的な再プログラム化を開始させることを説明する。
【0123】
方法
プラスミド・ベクターの構成
pCAG-Zscan-ERT2プラスミドを構成するため、マウスZscan4c遺伝子(Falco他、Dev. Biol.、第307巻:539〜550ページ、2007年)のオープン・リーディング・フレーム全体(ORF:アミノ酸506個)をERT2(ヒト・エストロゲン受容体の変異したリガンド結合ドメイン(Feil他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻:10887〜10890ページ、1996年);アミノ酸314個)に融合させ、クローニングしてプラスミド(pPyCAGBstXI-IP;Niwa他、Gene、第108巻:193〜199ページ、1991年)のXhoI/NotI部位に入れた。得られたプラスミド・ベクター(pCAG-Zscan4-ERT2)は、強力なCAgプロモータによって駆動されてZscan4c-ERT2融合タンパク質とピューロマイシン耐性タンパク質を発現する(
図1A)。piggyBacベクター(PB-TET-IRES-βgeo、PB-TET-MKOS、PB-CAG-rtTA;Kaji他、Nature、第458巻:771〜775ページ、2009年;Woltjen他、Nature、第458巻:766〜770ページ、2009年)をAddgene社から購入した。非常に忠実なDNAポリメラーゼ(Invitrogen社のPfx50またはプラチナPfx)と、PB-TET-MKOSまたはpCAG-Zscan4-ERT2(Invitrogen社)からのattB1/2プライマー(
図17)を用いて、Klf4-Oct4-Sox2(KOS)、Zscan4c、Zscan4cERT2、DsRedいずれかのORFをPCRで増幅し、クローニングしてpDONR221ベクター(Invitrogen社)にそれぞれ入れた。その後、Gateway System(Invitrogen社)を通じてこれらDNA断片をPB-TET-IRES-βgeo目的ベクターに挿入した。PB-TETZscan4c-ERT2-IRES-ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(His)-DsRedベクターを構成するため、IRES-His-DsRed融合タンパク質をApalとBamHl(平滑末端)によってpBR-CAG-cHA-IRES-HisDsRedベクター(Niwa他、Gene、第108巻:193〜199ページ、1991年)から切除し、それぞれPB-TET-Zscan4cベクターまたはPB-TET-Zscan4cERT2ベクターのApallEcoRl(平滑末端)部位に挿入した。PB-TET-IRES-HisDsRed目的ベクターを構成するため、ApalとSacII を用いてattRlR2ccdBカセットをPB-TET目的ベクターから切除し、PB-TET-Zscan4cERT2-HisDsRedベクターのApaVSacII部位に挿入した。pReceiver-M50-ZSCAN4(Genecopoeia社)からのattBl/2プライマー(
図17)を用いてヒトZSCAN4のORFをPCRによって増幅し、クローニングしてpDONR221ベクター(Invitrogen社)に入れた。Gateway System(Invitrogen社)を通じてこの断片をPB-TET-IRES-HisDsRed目的ベクターに挿入した。
【0124】
ES-ZERT細胞の作製
F1ハイブリッド株(C57BL/6×129/Sv)に由来するV6.5 ES(Eggan他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第98巻:6209〜6214ページ、2001年)細胞をThermo Scientific Open Biosystem社から購入した。完全ES培地(DMEM、15%FBS、1000U/mlの白血病阻害因子(LIF)(ESGRO、Chemicon社)、1mMのピルビン酸ナトリウム、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのGlutaMAX(登録商標)、0.1mMのβ-メルカプトエタノール、ペニシリン、ストレプトマイシン)の中でES細胞を5%CO
2、37℃にて培養した。Effectene(登録商標)(Qiagen社)を製造者のプロトコルに従って使用し、V6.5 ES細胞(5×10
5個の細胞)の懸濁液を2μgのpCAGZscan4-ERT2ベクターおよび0.4μgのPL452ベクター(PGKプロモータによって駆動されるネオマイシン耐性遺伝子;Liu他、Genome Res.、第13巻:476〜484ページ、2003年)とともにトランスフェクトし、100mmの細胞培養皿に入れた。G418を用いて8日間にわたって選択した後、得られたES細胞のコロニーを採取し、増殖させ、凍結させた。その後、遺伝子型、qPCR、ピューロマイシン耐性の結果に基づいてES-ZERT細胞クローンを選択した。
【0125】
ZERTキメラ・マウスの作製
メスのICR(Charles River社、8〜12週齢)を用い、妊娠したメスウマの血清性腺刺激ホルモン(PMSG)(Sigma社)によって過剰排卵させてから48時間後、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG;Sigma社)を投与した。hCGの投与後、メスをオスのICRと交配させ、卵管をパージすることによって2細胞胚を回収した。回収した胚をKSOM(Millipore社)培地の中で5%CO
2、37℃にて3日間にわたって培養し、胚盤胞の段階にした。ES-ZERT細胞(10〜15個の細胞)を2N胚盤胞に注入した後、メスE2.5レシピエントに移した。子どもの遺伝子型を調べた後、pCAG-Zscan4- ERT2 DNAを有するZERTキメラ・マウスが確立された。
【0126】
MEFの単離
オスのZERTマウスをメスのICRマウスと交配させることによって得られたE13.5胚からMEF-ZERT細胞とMEF-WT細胞を単離した(
図5A)。オスの129SvEvTac マウスをメスのC57BL/6J マウスと交配させることによって得られたE13.5胚からMEF-WT(C57BL/6J×129S6/SvEvTac)細胞を単離した。10%FBS、1mMのピルビン酸ナトリウム、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのGlutaMAX(登録商標)、0.1mMのβ-メルカプトエタノール、ペニシリン、ストレプトマイシンを補足したDMEMの中にある10cmのプレートにこれらの細胞を載せた。
【0127】
細胞増殖の分析
タモキシフェン(Tmx)なし、またはTmxありの条件下での増殖速度を調べるため、MEFを10cmのプレートで細胞を3×10
5個の密度にしたものを3通り用意し、3日ごとに継代培養した。トリパン・ブルーを用いて生きた細胞を点数化した。
【0128】
PiggyBacのトランスフェクションとiPSCの作製
iPSCを、以前の報告(Kaji他、Nature、第458巻:771〜775ページ、2009年;Woltjen他、Nature、第458巻:766〜770ページ、2009年)をいくらか改変して作製した。簡単に述べると、ゼラチンで覆った6ウエルのプレートに、完全ES培地中のウエル1つにつき細胞1×10
5個の密度でMEFを載せた。24時間インキュベートした後、Xfect(Clontech社)を使用してMEFを1.6μgの各プラスミドとともにトランスフェクトした。プラスミドは、pCyL43 (Sanger institute;Wang他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第105巻:9290〜9295ページ、2008年)と、CAG-rtTAと、PB-TET-Zscan4cまたはPB-TET-Zscan4cERT2あり、またはなしのPB-TET-MKOSまたはPB-TET-KOSであった。24時間後、ドキシサイクリン(Dox:1.5μg/ml)を含み、かつ200nMの4-ヒドロキシタモキシフェン(Tmx)を含む、または含まない完全ES培地を細胞に供給した。Doxによる誘導の12時間後にコロニーを採取し、Dox(1.5μg/ml)を含む完全ES培地の中で、複製のウエルにおいてDoxと独立であることが観察されるまで、iPSCとして増殖させた。細胞培地は毎日交換した。
【0129】
アルカリ・ホスファターゼ染色
白血球アルカリ・ホスファターゼ・キット(Sigma社)を製造者のプロトコルに従って用いて細胞を染色した。
【0130】
インビトロでの分化
Accutase(Chemicon社)によって細胞を解離させ、LIFなしのES培地の中でハンギング・ドロップ法(25μlにつき200個の独立した細胞)を用いて4日間増殖させた。ハンギング・ドロップの中に形成された胚様体をゼラチンで覆った24ウエルのプレートに移し、7日間培養した後、4%パラホルムアルデヒドを用いて固定した。
【0131】
免疫細胞化学
4%パラホルムアルデヒドを20分間用いて細胞を固定し、0.2%トリトン-X100を15分間用いて透過状態にした。FX Signal Enhancer(Invitrogen社)を用いて細胞をブロックした。第一抗体(SSEA-1(500:1、Invitrogen社)、Nanog (500:1、BETHYL laboratories社)、α-平滑筋アクチン(αSMA 1:1000、R&D社)、α-フェトプロテイン(AFP 1:500、R&D社)、GATA-4 (1:200、Santa Cruz社)、βIII-チューブリン(1:500、Millipore社)のいずれか)を添加し、4℃にて一晩インキュベートした。Alexa-488抗マウスIgGまたはIgM(Invitrogen社)またはAlexa-594抗ウサギIgG(Invitrogen社)を第二抗体として使用した。DAPI(Roche社)を用いて核を可視化した。
【0132】
Nanog免疫組織化学
Envisionシステム-HRPキット(Dako社、アメリカ合衆国)を製造者の指示に従って使用し、ESCコロニーまたはiPSCコロニーのNanog発現を検出した。簡単に述べると、細胞をPBSで洗浄し、4℃のアセトン/メタノール(1:1)の中で20分間固定した。PBSで洗浄した後、ペルオキシダーゼ・ブロッキングを5分間適用して細胞内の外来性ペルオキシダーゼを除去した。室温にて1%BSAによって細胞を10分間ブロックした後、室温にて、ブロッキング溶液の中で1:500に希釈した第一抗Nanog抗体(Bethyl社、アメリカ合衆国)とともに1時間インキュベートした。Axiovert顕微鏡下にて、ペルオキシダーゼで標識したポリマーを30分間用い、基質クロモゲンを5分間用い、結合した抗体を可視化した。
【0133】
RT-PCR、定量PCR、遺伝子型判定PCR
Superscript III 逆転写酵素(Invitrogen社)を用いて1μgの全RNAを逆転写した。ウエル1つにつき10ngのcDNAを3つ用意し、SYBR(登録商標)グリーン・マスター・ミックス(Applied Biosystems社)を製造者のプロトコルに従って使用してqPCR分析を実施した。7900HTシステムまたは7500システム(Applied Biosystems社)で反応させた。TITANIUM Taq PCRキット(Clontech社)を用いて遺伝子型判定PCRを実施した。プライマーを
図17に示す。
【0134】
核型分析
0.1μg/mlのコルセミド(Invitrogen社)を用いてiPS細胞を3時間にわたって処理し、中期休止を誘導した後、0.56%のKClで処理し、メタノール:氷酢酸(3:1)を用いて固定した。スライドを空気で乾燥させた後、ギムザ染色した。
【0135】
四倍体補完
メスのICR(Charles River社、8〜12週齢)を用い、妊娠したメスウマの血清性腺刺激ホルモン(PMSG)(Sigma社)によって過剰排卵させてから48時間後、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG;Sigma社)を投与した。hCGの投与後、メスをオスのICRと交配させ、卵管をパージすることによって2細胞胚を回収した。回収した胚をKSOM(Millipore社)培地の中で5%CO
2、37℃にて3日間にわたって培養した。回収した2細胞胚を0.3Mのマンニトール溶液に直接移し、電気融合室の中で交流(AC)パルスによって自動的に揃えた。その後、LF101 Electro Cell Fusion Generator を用いて140V/mの2つの直流(DC)パルスを40マイクロ秒加えた。割球を1つ有する融合胚(4N)を60分間培養した時点で回収し、胚盤胞の段階に到達するまでKSOM培地の中で培養を続けた。iPS細胞(10〜15個の細胞)を4N胚盤胞に注入し、その発生能力を評価した後、メスのE2.5レシピエントに移した。E13.5の時点で胎仔を帝王切開によって取り出した。
【0136】
第二MEFの単離と第二iPSCの誘導
四倍体補完によって回収したE13.5胚から第二MEFを単離した。ゼラチンで覆った6ウエルのプレートに、完全ES培地中のウエル1つにつき細胞1×10
5個の密度で第二MEFを載せた。24時間インキュベートした後、ドキシサイクリン(Dox:1.5μg/ml)を含む、または含まない、かつ200nMのTmxを含む、または含まない完全ES培地を第二MEFに供給した。細胞培地は毎日交換した。薬(DoxまたはTmx)を中止した後は常にPBSで1回洗浄してから細胞培地を交換した。
【0137】
マイクロアレイのデータ分析
全ゲノム60量体オリゴヌクレオチド・マイクロアレイ(Agilent;Carter他、Genome Biol.、第6巻:R61ページ、2005年)を使用し、報告されているようにして発現プロファイリングを実施した(Nishiyama他、Cell Stem Cell、第5巻:420〜433ページ、2009年)。データ分析と可視化は、NIAアレイ分析ソフトウエア(Sharov他、Bioinformatics、第21巻:2548〜2549ページ、2005年)によって実行した。MultiExperiment Viewer(Mev)バージョン4.2(Saeed他、Methods Enzymol.、第411巻:134〜193ページ、2006年)を用いてヒートマップを作成した。プログラムの遺伝子/行調節の各行(遺伝子)でデータを規格化した。規格化したデータに基づき、色スケールを-3〜+3に設定した。表示されるマップは、MeV4.2のHCL(階層式クラスター化)からのものである。マイクロアレイの全データが公共データベースGEOに提出されている(登録番号GSE28436)。
【0138】
亜硫酸水素塩シークエンシング
DNeasy(Qiagen社)を用いてゲノムDNAを抽出した。EpiTect plus(Qiagen社)を製造者のプロトコルに従って用い、亜硫酸水素塩を用いてゲノムDNAを変換した。増幅した産物をゲル抽出によって精製した後、クローニングしてpCR2.1ベクター(Invitrogen社)に入れた。PCRプライマーは
図17に示してある。M13順プライマーまたは逆プライマーを用い、ランダムに採取したクローンのシークエンシングを行なった。シークエンシングのデータは、QUMA
36(オンラインではhttp://quma.cdb.riken.jp/top/index.html;Kumaki他、Nucleic Acids Res.、第36巻:W170〜W175ページ、2008年)を用いて分析した。変換されないCpHが5つよりも多い場合や、アラインメントの不一致が10箇所を超える場合には、低品質であるとしてデータを除外した。
【0139】
統計的分析
ANOVAを利用してデータを評価した。多数の比較についてはシェッフェの事後分析を、2つの群についてはt検定を実施した。P<0.05を、統計的に有意であるとして許容した。
【0140】
結果
iPSCの形成中にZscan4が再活性化されるかどうかを調べるため、3.5kbのZscan4プロモータによって駆動されるエメラルド(EM:GFP変異体)レポータ(Zscan4-Emerald;配列番号73)を有するマウスES細胞を作製した。このEMレポータは、マウスES細胞の中で内在性Zscan4の発現パターンを再現することができる(Zalzman他、Nature、第464巻:858〜863ページ、2010年;PCT公開WO 2011/028880)。そのES細胞(ES-pZ-EMと名づける)を胚盤胞に注入することによって作製したキメラ・マウスを用いてE13.5胚を作製した。その後、E13.5胚を用いてマウス胎仔線維芽細胞(MEF)を導出した。遺伝子型を調べることによってエメラルド・レポータの存在が確認されたMEFをMEF-pZ-EM細胞と名づけた(
図19A)。MEF-pZ-EM細胞ではエメラルドの蛍光を検出できなかった。これは、Zscan4がMEFでは発現しないことを示している。
【0141】
次に、ドキシサイクリン(Dox)誘導性Myc(M)、Klf4(K)、Oct4(O)、Sox2(S)を有するpiggyBacベクター(PB-TET-MKOS)(Kaji他、Nature、第458巻:771〜775ページ、2009年;Woltjen他、Nature、第458巻:766〜770ページ、2009年)をMEF-pZ-EM細胞にトランスフェクトした後、その細胞を、Doxを補足したES細胞培地の中で培養した。報告されているように、本物のES様形態(この明細書ではMOR+と表記)を持つコロニーが13日目に明らかに見られる(
図19B)。細胞を蛍光顕微鏡で毎日観察したが、EM+細胞は培養物の中に見られなかった。28個のMOR+コロニーを採取して継代培養し、piggyBacをトランスフェクトしてから11〜14日目にDoxなしのES細胞培地に入れた。2つのコロニーは生き延びなかったが、残りの26個のコロニーは増殖してMOR+コロニーを形成した。15日目からEM+細胞を有するコロニーが出現し始め、28日目までには、すべてのコロニーが、典型的なF1ハイブリッドES細胞系と同じパターンでEM+細胞の存在を示した:少数(1.0±0.5%、標準誤差)のEM+細胞(
図19Cと
図19D)。データから、iPSCは、一旦形成されると、ESCと似たZscan4の発現パターンを獲得したことがわかる。これは、iPSCとESCが非常に似ていることを示唆する。重要なことだが、MKOS因子によるiPSC形成の初期段階にはZscan4は活性化されなかった。この知見と整合するように、公開されているマイクロアレイのデータ(Samavarchi-Tehrani他、Cell Stem Cell、第7巻:64〜77ページ、2010年;Sridharan他、Cell、第136巻:364〜377ページ、2009年)を再分析したところ、iPSC形成の初期段階にZscan4の活性化は明らかにならなかった。
【0142】
データからは、以前に報告されている(Kaji他、Nature、第458巻:771〜775ページ、2009年;Woltjen他、Nature、第458巻:766〜770ページ、2009年)のと同様、MKOS因子を有するpiggyBacベクターによるiPSCの作製がロバストであり、MOR+コロニーの大半が実際に本物のiPSCになったこともわかる。それは、Zscan4が、典型的なES細胞と同じ独自の発現パターンになることによって確認される。この考え方は、外来性iPSC因子として使用しなかった多能性マーカーNANOGが存在すること(
図20Aと
図20B)と、PB-TET-MKOS によって生成したMOR+コロニーの大半においてOct4プロモータの制御下でGFPマーカーが発現したこと(Brambrink他、Cell Stem Cell、第2巻:151〜159ページ、2008年)(
図20C)によってさらに裏付けられる。したがってその後の実験では、MOR+表現型とアルカリ・ホスファターゼ染色(ALP+)の組み合わせを主に使用して本物のiPSCの数を点数化した。
【0143】
2細胞胚(Falco他、Dev. Biol.、第307巻:539〜550ページ、2007年)とES細胞(Zalzman他、Nature、第464巻:858〜863ページ、2010年)の中でのZscan4の極めて重要な役割を考慮し、Zscan4は、iPS細胞の効率と品質を向上させうるという仮説を立てた。この考え方を確かめるため、ERT2(ヒト・エストロゲン受容体の変異したリガンド結合ドメイン。タモキシフェン(Tmx)の存在下で活性化させることができる(Feil他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第93巻:10887〜10890ページ、1996年))に融合させたマウスZscan4cが強力かつ遍在するCAGプロモータ(Niwa他、Gene、第108巻:193〜199ページ、1991年)のもとで常に発現するMEF(MEF-ZERTと名づける)を作製した(
図1A、
図5)。次に、ドキシサイクリン(Dox)誘導性Myc(M)、Klf4(K)、Oct4(O)、Sox2(S)を有するpiggyBacベクター(PB-TET-MKOS;Kaji他、Nature、第458巻:771〜775ページ、2009年;Woltjen他、Nature、第458巻:766〜770ページ、2009年を対照MEF-WT細胞とMEF-ZERT細胞にトランスフェクトし、標準的なiPSC作製条件(Dox+)でTmxありの場合となしの場合について培養することにより、iPSCの形成に対するZscan4の効果を調べた(
図6A)。13日目までに、ES様形態を有するコロニーがはっきりと見られた(
図6B)。iPSCコロニーを、本物のES細胞の形態とALP染色に基づいて点数化した。対照MEF-WTでは、iPSCの形成効率は、Tmx+条件ではTmx-条件よりもわずかに低かった(
図6Cと
図6D)。逆に、MEF-ZERT細胞では、Tmx+条件でiPSCコロニーの数が1.5〜2倍に増加した。これは、Zscan4が継続的に存在することで、MKOS因子によるiPSC形成の効率を大きくできることを示唆している(
図6Cと
図6D)。本物のiPSC形成は、多能性遺伝子のRT-PCR分析、コロニーのアルカリ・ホスファターゼ(ALP)染色、多能性マーカーの免疫組織化学、胚様体の形成、3つの生殖層への分化能力によって確認した(
図7)。Zscan4によるiPSC形成の同様の増大が、野生型MEF細胞(MEF-WT)で観察された。そのためiPSC形成の増大がMEF-ZERT細胞に独自の特徴であるという可能性が排除される(
図8、
図9、
図10)。ヒトZSCAN4遺伝子は、iPSCの形成においてマウスZscan4と同様に機能することも確認された(
図11)。
【0144】
以前の研究により、効率的なiPSCの形成には、細胞の増殖を増やしてゲノムの安定性を抑制するがん遺伝子Myc(Feng他、Cell Stem Cell、第4巻:301〜312ページ、2009年;Hu他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第107巻:4335〜4340ページ、2010年)が必要とされることがわかっている(TakahashiとYamanaka、Cell、第126巻:663〜676ページ、2006年;Hanna他、Cell、第143巻:508〜525ページ、2010年)。Zscan4(Z)がMycなしでiPSCの形成を増大させることが可能かどうかを調べるため、MEF-WT細胞とMEF-ZERT細胞に、Dox誘導性KOS因子を有するPB-TET-KOSベクターをトランスフェクトし、これらの細胞をDox+Tmx+条件またはDox+Tmx-条件で2週間にわたって培養した(
図1B)。予想通り、MEF-WT細胞はほんの少数のALP+iPSCコロニーを生成させた(
図1C)。しかしMEF-ZERT細胞は、Dox+Tmx+(すなわちZKOS)条件において対照のDox+Tmx-(すなわちKOS)条件の40〜70倍のiPSCコロニーを生成させた(
図1C)。この結果は独立な実験で確認され(
図12)、ZKOS因子によって生成したiPSCの品質も証明された(
図13)。ZKOS因子によって生成したiPSCコロニーの数(
図1C)は、MKOS因子によって生成したもの(
図6)と同等であった。したがってZscan4は、KOS因子と組み合わせると、iPSCの形成においてMycと置き換えることができる。
【0145】
再プログラム化におけるZscan4の役割をさらに明確にするため、Zscan4がいつ、どれくらいの期間必要であるかを明らかにする研究を実施した。効率的なiPSCの形成には、少なくとも9日間にわたるMKOS因子の異所性過剰発現が必要とされることがわかっている(Wernig他、Nat. Biotechnol.、第26巻:916〜924ページ、2008年;Sridharan他、Cell、第136巻:364〜377ページ、2009年)。Zscan4の発現をTmx-で誘導する系は、KOS因子のDox誘導性発現とは独立であり、その系をMEF-ZERT細胞で使用すると、Zscan4への曝露時間を変化させることが可能であった(
図1B)。Zscan4が最初の4日間または7日間存在していない(すなわちTmxを4日目または7日目から添加する)と、iPSCコロニーの数が顕著に減少したのに対し、Zscan4が最初の4日間または7日間存在しているだけで、Zscan4が20日間存在する場合に得られたのと同等の数のiPSCコロニーを生成させるのに十分であった(
図1D)。曝露時間を徐々に短くするさらなる実験から、iPSCが形成される初期にだけZscan4が必要とされることが明確になった(
図1E)。これらのデータから、Zscan4は、他の因子とは異なり、再プログラム化の初期段階に関与することがわかる。
【0146】
すべての細胞が誘導性iPSC因子を有するため、第二MEF系により、iPSCの形成につながる初期イベントの分析が容易になることがわかっている(Wernig他、Nat. Biotechnol.、第26巻:916〜924ページ、2008年;Hanna他、Nature、第462巻:595〜601ページ、2009年)。そこで第二MEF細胞を、ZKOS因子を用いて作製したiPSC(クローン#2、
図14)を四倍体(4N)胚盤胞に注入することによって生成させた。その結果は、2つの生きたE13.5胚の生成である(
図14G)。その後、そのE13.5胚を用いて第二MEFを導出した(MEF-KOS-ZERT
第二と名づけた)(
図2A)。胚は、四倍体補完系の中のiPSCに全面的に由来する(Nagy他、Development、第110巻:815〜821ページ、1990年)ため、この結果から、ZKOS因子を用いて作製したiPSCは十分に多能性であることが証明された。このiPSCクローンは、80%超の正常な核型と、ES細胞と区別できない全体的遺伝子発現プロファイルを示した(
図15)。ZKOSの誘導がないと(すなわちDox-Tmx-条件とDox-Tmx+条件だと)、17日目までにはMEF-KOS-ZERT
第二細胞からALP+iPSCコロニーは形成されなかった(
図2B)。
【0147】
それとは対照的に、ZKOS因子の強制発現(Dox+Tmx+条件)によって多数(約400個)のALP+iPSCコロニーが生成した一方で、KOS因子だけ(Dox+Tmx-条件)だと、生成したALP+iPSCコロニーははるかに少数(約20個)だった(
図2B)。興味深いことに、KOS因子だけでも、1日目までにMEFの形態の劇的な変化を引き起こした。細胞はより平坦になり、典型的な紡錘形のMEFが失われた(
図2B)。しかしDox+Tmx+条件(すなわちZKOS因子の強制発現)でだけ、6日目までにESコロニー様構造が形成され始めた(
図2B)。さらに、第二MEF系からも、iPSCが形成される初日にだけZscan4が必要であることが確認された(
図2C)。
【0148】
形態の劇的な変化と整合するように、KOS単独の強制発現(Dox+Tmx-)により、MEF-KOS-ZERT
第二の転写が1日目までに顕著に変化した。すなわち1730個の遺伝子が上方調節され、947個の遺伝子が下方調節された(
図3A、第1行)。発現が変化した遺伝子の数は3日目と6日目までにさらに増加した。しかしこれらの条件(Dox+Tmx-)で17日間培養した後に少数のiPSCしか生成しなかったことを考慮すると、トランスクリプトームの変化は、MEFをiPSCに変換するのに十分ではなかった。逆に、iPSCを生成させるZKOS条件(Dox+Tmx+)とKOS条件(Dox+Tmx-)の比較から、トランスクリプトームにはほんのわずかな違いしかないことが明らかになった(
図3A、第4行)。すなわち、1日目までに28個の遺伝子、3日目までに162個の遺伝子、6日目までに237個の遺伝子である。トランスクリプトームのこのようなわずかな違いによってiPSCの数にこのように大きな違いが生まれたというのは驚くべきことであり、iPSCが形成される初期段階にこれらの遺伝子が極めて重要な寄与をすることを示している。これら遺伝子のリストをまとめると、ZKOS条件においてKOS条件よりも発現が多かった231個の異なる遺伝子が得られた(統計的有意差がFDR≦0.05、倍率変化≧2)(
図3A)。これら231個の遺伝子について、Tmx+(すなわちZscan4+)とTmx-(すなわちZscan4-)の倍率変化を計算し、階層的クラスター化を実施し、ヒートマップとして提示した(
図3B、表1)。
【0149】
【表2】
【0150】
【表3】
【0151】
【表4】
【0152】
【表5】
【0153】
【表6】
【0154】
これら遺伝子のいくつかは、元々は、大規模cDNAシークエンシング計画(Ko他、Development、第127巻:1737〜1749ページ、2000年)を通じて移植前の胚だけから特定された。それは例えば、Pramel6、D5Ertd577e、D13Ertd608e、Tcstv1(StruweとSolter、1998年、GenBank登録番号AF067057.1)、Trim43a(Stanghellini他、2009年)、Trim43b(Stanghellini他、Gene Expr. Patterns、第9巻:595〜602ページ、2009年)である。そこで公開発現配列タグ(EST)データベース(NCBI/NIH)を検索し、各遺伝子についてヒットしたESTの数dを点数化した。231個の遺伝子のかなりの部分が実際に初期胚で優勢に発現し、生殖腺(精巣と卵巣)と密に関係していた。すなわち、27個の遺伝子は移植前段階(1細胞 - 胚盤胞)に;14個の遺伝子は卵母細胞で;37個の遺伝子は精巣/卵巣で発現した(
図3B)。これら遺伝子が移植前と生殖腺で特異的に発現することは、NIA遺伝子発現地図(Sharov他、BMC Genomics、第12巻:102ページ、2011年)(
図3C)とGNFデータベース(Su他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第99巻:4465〜4470ページ、2002年)(
図3D)における発現パターンによっても確認された。興味深いことに、これら遺伝子の大半は、MEF、ESC、iPSCではほとんど発現しないか、まったく発現しなかった(
図3C)。これは、これら遺伝子がiPSC形成の初期段階で一過的に活性化されるが、その後iPSCが十分に形成されると下方調節されることを示している。したがってこれら遺伝子は、MEFからiPSCを最終的に形成するための最初期のマーカーとなる可能性がある。なぜならこれら遺伝子は、典型的な多能性マーカー(例えばNanog、Zfp42(Rex1としても知られる)、Dppa5a(Esg1としても知られる))がまだ沈黙している1日目、3日目、6日目という初期に十分に活性化されたからである(
図16)。
【0155】
移植前特異的遺伝子の初期活性化は、Zscan4を媒介としたiPSCの形成に独自であるように見える。実際、piggyBac MKOS因子を用いた第二MEF系でのマイクロアレイの以前の研究では、移植前特異的遺伝子の活性化が、iPSC形成トランスクリプトームの変化にとって極めて重要な特徴であることは明らかにされていない(Samavarchi-Tehrani他、Cell Stem Cell、第7巻:64〜77ページ、2010年)。例えば特定された上記の極めて重要な231個の遺伝子の大半は、MKOSに基づくiPSC形成の初期段階に一過的に活性化されることはなかった。これらのデータは、Zscan4を媒介としたiPSC形成が、標準的なMKOSを媒介としたiPSC形成とは異なる経路を取ることを示している。すなわち、前者の経路は、後者の経路よりも、移植前の胚で起こる遺伝的プログラムとより強く関係している。
【0156】
Zscan4の作用をさらに調べるため、MEF-ZERT 細胞を用いてMEFに対するZscan4単独の効果を調べた。細胞増殖曲線から、TmxはMEF-ZERTの増殖を顕著に低下させるが、野生型MEF(MEF-WT)に対してはわずかな効果しかないことがわかった(
図4A)。明らかに、Zscan4は通常はそこでは発現しないが、MEFの中では機能することができ、その増殖にマイナスの効果を及ぼす。しかしZscan4単独では、MEFをiPSCに変換しなかった。実際、マイクロアレイ分析から、Tmxによる短期の処理は、MEF-ZERTとMEF-WTの両方のトランスクリプトームに対してほとんど効果を及ぼさないことがわかった(
図4B)。次に、Oct4プロモータのDNAメチル化パターンを亜硫酸水素塩シークエンシング法で調べた。以前の報告と整合するように、確立されたiPSCには、ES細胞と同様、DNAメチル化がほとんどなかった(
図4C)。興味深いことに、Tmxを用いた処理によってDNAメチル化のレベルが2日目までに約60%から約44%へと低下した。これは、MEFにおいてDNAの部分的だが急速な脱メチル化がZscan4によって起こったことを示している。これらのデータは、Zscan4の発現によってゲノムのエピジェネティックな状態(例えば開いたクロマチンのコンホメーション)が、まだ明らかにされていない機構によって急速に変化し、MEFがKOS因子の強制発現の効果を受けやすくなることを示唆している(
図4D)。
【0157】
いくつかの証拠は、Zscan4が、細胞の再プログラム化を開始させる見つかっていない初期因子であることを示している(
図3E)。第1に、Zscan4は、後期2細胞胚において特異的に発現する遺伝子であり、その割球は、NTクローニング実験において強力な再プログラム化活性を有することがわかっている(Egli他、Curr. Biol.、第19巻:1403〜1409ページ、2009年)。第2に、Zscan4を媒介とした再プログラム化によってMEFの中で他の移植前特異的遺伝子が活性化される。これは、移植前胚発生とNT胚発生の間に一過的に起こる遺伝的プログラムを再現しているように見える。第3に、Zscan4は単独でMEFにおいて急速なDNAメチル化を誘導することができる。これは、iPSC(Mikkelsen他、Nature、第454巻:49〜55ページ、2008年)、NT(SimonssonとGurdon、Nat. Cell. Biol.、第6巻:984〜990ページ、2004年)、異核共存体(Bhutani他、Nature、第463巻:1042〜1047ページ、2010年)における再プログラム化にDNAの脱メチル化が必要であることと整合している。第4に、Zscan4は、KOS因子を用いたiPSCの形成効率を増大させる際にMycの代わりになる。Zscan4は、iPSC形成の少なくとも最初の5日間にわたって必要とされるMyc(Sridharan他、Cell、第136巻:364〜377ページ、2009年)とは異なり、Nanogなどのコアとなる多能性転写因子が発現するよりもはるかに前のiPSC形成の初日にだけ必要とされる。それに加え、Mycおよび他のiPSC促進条件(例えばP53の抑制;TapiaとScholer、J. Exp. Med.、第207巻:2045〜2048ページ、2010年)は、MFEの増殖を促進し、ゲノムの完全性を不安定化させ(Hanna他、Cell、第143巻:508〜525ページ、2010年;StadtfeldとHochedlinger、Genes Dev.、第24巻:2239〜2263ページ、2010年;Nakagawa他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第107巻:14152〜14157ページ、2010年)、培養物の中のiPSCの長期安定性に関する懸念を提起する(Hu他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第107巻:4335〜4340ページ、2010年;Feng他、Stem Cells、第28巻:704〜712ページ、2010年)が、Zscan4はそれとは異なり、MFEの増殖を抑制し、ES細胞におけるゲノム安定性と正常な核型の維持を促進する(Zalzman他、Nature、第464巻:858〜863ページ、2010年)。したがってこれらの結果は、Zscan4が、ゲノム安定性を維持する一方で細胞の再プログラム化を助けることのできる明確な特性を有する“開始”因子であることを示している。
【0158】
実施例2:Zscan4を用いて作製したiPSCは高品質である
Zscan4の発現によって作製されたiPSCの品質を評価するため、いくつかの研究を実施した。その中には、iPS細胞の多能性に関する最も厳格な試験である四倍体補完アッセイが含まれる。Zscan4の強制発現あり、またはなしで作成したiPSCの核型分析も実施した。結果を
図18に示す。ランダムに選択したiPSC系の核型分析から、Zscan4を用いて作製したiPSCは、Zscan4なしで作製したiPSCよりも高品質であることが明確になった。それに加え、Zscan4を用いて作製したiPSCは、四倍体補完アッセイによって完全に生きた胚を形成することができた。四倍体補完アッセイにおけるiPSCの成功率は、通常は、これまでにZscan4の発現によって実現された値よりもはるかに小さくなる。さらに、ここでの大きな成功率は、標準的なウシ胎仔血清に基づく培養条件で実現できたのに対し、報告されている成功は、ES/iPS細胞の多能性を劇的に増大させることが知られている特殊な細胞培養条件(KSR培地)を用いて実現されている(例えばLi他、Cell Res.、第21巻(3):550〜553ページ、2011年参照)。
【0159】
実施例3:Zscan4依存性遺伝子はiPSC形成の効率を増大させる
実施例1に記載したように、iPSC形成の初期段階(1日目〜6日目)にZscan4に依存して上方調節される231個の遺伝子を特定した。これら遺伝子の多くは移植前に発現する(すなわち生殖系に特異的に発現する)ため、iPSCの形成効率も増大させると考えられる。
【0160】
この考え方を検証するため、MKOS因子(Myc、Klf4、Oct4、Sox2)を含むpiggyBacベクターと、DsRed(対照)、Zscan4c(正の対照)、Patl2、Pramel6、Piwil2、D5Ertd577e、D13Ertd608eのいずれかを含むpiggyBacベクターを、野生型マウス胎仔線維芽細胞(MEF-WT)細胞にトランスフェクトした(
図21)。iPSCの形成効率を、トランスフェクションの14日後に、本物のES細胞の形態とアルカリ・ホスファターゼ(ALP)染色に基づいて点数化した(平均値±標準誤差)(
図22A〜
図22C)。
【0161】
その結果から、Patl2、Pramel6、Piwil2、D5Ertd577eが、iPSC形成の効率を増大させることがわかった。その効果は、Zscan4で観察された効果と非常によく似ていた。
【0162】
この明細書に開示した本発明の原理を適用できる多くの可能な実施態様があることを考えると、ここに説明した実施態様は単なる開示例であり、本発明の範囲を制限するものと見なしてはならない。逆に、本発明の範囲は、以下の請求項によって規定される。したがってわれわれは、本発明として、これら請求項の範囲と精神に含まれるすべての権利を請求する。
【配列表フリーテキスト】
【0163】
配列リスト
添付の配列リストに記載した核酸配列とアミノ酸配列は、37 C.F.R.の1.822に規定されているように、ヌクレオチド塩基については標準的な文字の略号を用い、アミノ酸については3文字コードを用いて示してある。各核酸配列の1本の鎖だけを示してあるが、相補鎖は、表示した鎖に含まれるものと理解する。配列リストは、2011年8月26日に作成した212KBのASCIIテキスト・ファイルとして提出されており、この明細書に参考として組み込まれている。添付の配列リストは以下のものである。
【0164】
配列番号1と2は、ヒトZSCAN4のヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0165】
配列番号3と4は、マウスZscan4aのヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0166】
配列番号5と6は、マウスZscan4bのヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0167】
配列番号7と8は、マウスZscan4cのヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0168】
配列番号9と10は、マウスZscan4dのヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0169】
配列番号11と12は、マウスZscan4eのヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0170】
配列番号13と14は、マウスZscan4fのヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0171】
配列番号15〜37は、プライマー配列である。
【0172】
配列番号38と39は、マウスPatl2(GenBank登録番号NM_026251)のヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0173】
配列番号40と41は、マウスPramel6(GenBank登録番号NM_178249)のヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0174】
配列番号42と43は、マウスPiwil2(GenBank登録番号NM_021308)のヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0175】
配列番号44と45は、マウスD5Ertd577e(GenBank登録番号NM_177187)のヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0176】
配列番号46と47は、ヒトPatl2(GenBank登録番号NM_001145112)のヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0177】
配列番号48と49は、ヒトPiwil2(GenBank登録番号NM_001135721)のヌクレオチド配列とアミノ酸配列である。
【0178】
配列番号50は、ヒトPRAMEF1(GenBank登録番号NM_023013)のヌクレオチド配列である。
【0179】
配列番号51は、ヒトPRAMEF12(GenBank登録番号NM_001080830)のヌクレオチド配列である。
【0180】
配列番号52は、ヒトPRAMEF2(GenBank登録番号NM_023014)のヌクレオチド配列である。
【0181】
配列番号53は、ヒトPRAMEF15(GenBank登録番号NM_001098376)のヌクレオチド配列である。
【0182】
配列番号54は、ヒトPRAMEF8(GenBank登録番号NM_001012276)のヌクレオチド配列である。
【0183】
配列番号55は、ヒトPRAMEF10(GenBank登録番号NM_001039361)のヌクレオチド配列である。
【0184】
配列番号56は、ヒトPRAMEF20(GenBank登録番号NM_001099852)のヌクレオチド配列である。
【0185】
配列番号57は、ヒトPRAMEF17(GenBank登録番号NM_001099851)のヌクレオチド配列である。
【0186】
配列番号58は、ヒトPRAMEF19(GenBank登録番号NM_001099790)のヌクレオチド配列である。
【0187】
配列番号59は、ヒトPRAMEF14(GenBank登録番号NM_001099854)のヌクレオチド配列である。
【0188】
配列番号60は、ヒトPRAMEF21(GenBank登録番号NM_001100114)のヌクレオチド配列である。
【0189】
配列番号61は、ヒトPRAMEF16(GenBank登録番号NM_001045480)のヌクレオチド配列である。
【0190】
配列番号62は、ヒトPRAMEF18(GenBank登録番号NM_001099850)のヌクレオチド配列である。
【0191】
配列番号63は、ヒトPRAMEF13(GenBank登録番号NM_001024661)のヌクレオチド配列である。
【0192】
配列番号64は、ヒトPRAMEF9(GenBank登録番号NM_001010890)のヌクレオチド配列である。
【0193】
配列番号65は、ヒトPRAMEF5(GenBank登録番号NM_001013407)のヌクレオチド配列である。
【0194】
配列番号66は、ヒトPRAMEF3(GenBank登録番号NM_001013692)のヌクレオチド配列である。
【0195】
配列番号67は、ヒトPRAMEF22(GenBank登録番号NM_001100631)のヌクレオチド配列である。
【0196】
配列番号68は、ヒトPRAMEF7(GenBank登録番号NM_001012277)のヌクレオチド配列である。
【0197】
配列番号69は、ヒトPRAMEF11(GenBank登録番号NM_001146344)のヌクレオチド配列である。
【0198】
配列番号70は、ヒトPRAME(Ensembl:WI2-2994D6.2;ENSG00000229571)のヌクレオチド配列である。
【0199】
配列番号71は、ヒトPRAMEF6(GenBank登録番号NM_001010889)のヌクレオチド配列である。
【0200】
配列番号72は、ヒトPRAMEF4(GenBank登録番号NM_001009611)のヌクレオチド配列である。
【0201】
配列番号73は、Zscan4-Emerald発現ベクター(9396bp)のヌクレオチド配列である。Zscan4cプロモータ配列の開始ヌクレオチドは906であり、終止ヌクレオチドは4468である。