(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明にかかる歯科用接着性組成物の好適な実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0030】
本実施形態の歯科用接着性組成物は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、(B)樹枝状ポリマーとを含有することを特徴とする。本実施形態の歯科用接着性組成物は、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および樹枝状ポリマーを組み合わせて配合することによって、接着対象物への接着力と接着耐久性とを高めることができる。これは、樹枝状ポリマーを用いることにより、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の重合に伴う大きな重合収縮が生じ難しく、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の重合収縮応力が抑えられるためだと考えられる。このため、接着対象物との界面において、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の硬化に際して発生する重合収縮応力によって、接着対象物に対する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の接着力が減殺されるのを抑制できる。その結果、接着対象物に対して酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体が本来有する接着力を発揮することができる。ここで、(B)樹枝状ポリマーとは、多数の枝からなる樹木状の多分岐高分子であり、全体的に、紐状の形状ではなく、球状に近い形状であるものをいう。
【0031】
次に、本実施形態の歯科用接着性組成物に含まれる(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの詳細について説明する。
【0032】
(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体
本実施形態の歯科用接着性組成物に含まれる(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体は、当該酸性基含有重合性単量体のみからなっていてもよいが、接着対象物に対して、より優れた接着強度を得るために、硬化体の強度および歯科用接着性組成物の接着対象物に対する浸透性を調節する観点から酸性基を有しない重合性単量体をさらに含むのが好適である。
【0033】
また、エナメル質および象牙質の両方に対する接着強度の観点から、酸性基含有重合性単量体は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計量100質量部に対して、3質量部〜70質量部の範囲内であることが好ましく、5質量部〜60質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部〜55質量部の範囲内であることが最も好ましい。酸性基含有重合性単量体の配合量を3質量部以上とすることにより、エナメル質に対する十分な接着力の確保が容易になる。また、酸性基含有重合性単量体の配合量を70質量部以下とすることにより、象牙質に対する接着力の低下を防ぐことが容易になる。
【0034】
ここで、酸性基含有重合性単量体としては、1分子中に少なくとも1つの重合性不飽和基と、少なくとも1つの酸性基とを有する重合性単量体であれば特に限定されず、公知の化合物を用いることができる。ここで、重合性不飽和基とは、(メタ)アクリロイル基および(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、(メタ)アクリロイルチオ基などの(メタ)アクリロイル基の誘導体基;ビニル基;アリール基;スチリル基や、(メタ)アクリルアミド基などが例示される。
【0035】
また、本願明細書において酸性基とは、(1)ホスフィニコ基{=P(=O)OH}、ホスホノ基{−P(=O)(OH)
2}、カルボキシル基{−C(=O)OH}、スルホ基(−SO
3H)などの−OHを有する遊離の酸基のみならず、(2)上記(1)に例示した−OHを有する酸性基の2つが脱水縮合した酸無水物構造(たとえば、−C(=O)−O−C(=O)−)、あるいは、(3)上記(1)に例示した−OHを有する酸性基の−OHがハロゲンに置換された酸ハロゲン化物基(たとえば、−C(=O)Cl)などのように当該基を有する重合性単量体の水溶液または水懸濁液が酸性を示す基、を意味する。酸性基は、pKaが5より小さいものが好ましい。
【0036】
酸性基含有重合性単量体を具体的に例示すると、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル) ハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル フェニル ハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシル ジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル ジハイドロジェンフォスフェート、ビス(6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル)ハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル 2−ブロモエチル ハイドロジェンフォスフェートなどの分子内にホスフィニコオキシ基またはホスホノオキシ基を有す酸性基含有重合性単量体(以下、「重合性酸性リン酸エステル」とも称す場合がある)、ならびに、これらの酸無水物および酸ハロゲン化物が挙げられる。また、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル ハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−O−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸などの分子内に1つのカルボキシル基を有す酸性基含有重合性単量体、ならびに、これらの酸無水物および酸ハロゲン化物が挙げられる。
【0037】
また、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、1,4−ビス(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ピロメリテート、N,O−ジ(メタ)アクリロイルチロシン、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物などの分子内に複数のカルボキシル基あるいはその酸無水物基を有す酸性基含有重合性単量体、ならびに、これらの酸無水物および酸ハロゲン化物が挙げられる。
【0038】
また、ビニルホスホン酸、p−ビニルベンゼンホスホン酸などの分子内にホスホノ基を有す酸性基含有重合性単量体が挙げられる。
【0039】
また、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−ビニルベンゼンスルホン酸、ビニルスルホン酸などの分子内にスルホ基を有す酸性基含有重合性単量体が挙げられる。
【0040】
また、上記例示されたもの以外にも、特開昭54−11149号公報、特開昭58−140046号公報、特開昭59−15468号公報、特開昭58−173175号公報、特開昭61−293951号公報、特開平7−179401号公報、特開平8−208760号公報、特開平8−319209号公報、特開平10−236912号公報、特開平10−245525号公報などに開示されている歯科用接着材の成分として記載されている酸性基含有重合性単量体も好適に使用できる。
【0041】
これら酸性基含有重合性単量体は単独で用いても、複数の種類のものを併用しても良い。
【0042】
上記酸性基含有重合性単量体のなかでも、接着対象物に対する接着性が優れている点で、酸性基がリン酸基であることが好ましい。このようなリン酸基を有する酸性基含有重合性単量体としては、特に、リン酸二水素モノエステル基{−O−P(=O)(OH)
2}やリン酸水素ジエステル基{(−O−)
2P(=O)OH}を有する重合性酸性リン酸エステルが好ましい。また、本実施形態の歯科用接着性組成物が光照射によって硬化する光硬化型の接着性組成物である場合、光照射時の重合性が良好な点で、酸性基含有重合性単量体を構成する重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基の誘導体基であることが好ましい。
【0043】
一方、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体において、上記酸性基含有重合性単量体以外の重合性単量体(以下、「他の重合
性単量体」とも略する)を使用する場合、当該他の重合
性単量体としては、酸性基を有さず、重合可能な不飽和基を有するものであれば、公知のラジカル重合性単量体が何ら制限なく使用される。一般的には硬化速度や硬化体の機械的物性の観点から、(メタ)アクリレート系の重合性単量体が好適に用いられる。具体的に、たとえば、下記(I)〜(III)に示されるものが挙げられる。
【0044】
(I)二官能ラジカル重合性単量体
二官能ラジカル重合性単量体としては、以下の(i)〜(ii)に例示される。
【0045】
(i)芳香族化合物系の二官能ラジカル重合性単量体
芳香族化合物系の二官能ラジカル重合性単量体としては、2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン(以下、bis−GMAと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(以下、D−2.6Eと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのメタクリレートあるいはこれらメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクトなどものが挙げられる。
【0046】
(ii)脂肪族化合物系の二官能ラジカル重合性単量体
脂肪族化合物系の二官能ラジカル重合性単量体としては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、3Gと略記する)、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート(以下、HDと略記する)、1,9−ノナンジオールジメタクリレート(以下、NDと略記する)およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト;1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチルなどものが挙げられる。
【0047】
(II)三官能ラジカル重合性単量体
三官能ラジカル重合性単量体としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレートなどのメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレートなどものが挙げられる。
【0048】
(III)四官能ラジカル重合性単量体
四官能ラジカル重合性単量体としては、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートおよびジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクトなどものが挙げられる。
【0049】
これら多官能の(メタ)アクリレート系ラジカル重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0050】
さらに、必要に応じて、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどのメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレートなどの単官能の(メタ)アクリレート系単量体や、上記(メタ)アクリレート系単量体以外のラジカル重合性単量体を用いても良い。
【0051】
(B)樹枝状ポリマー
本実施形態の歯科用接着性組成物に用いられる(B)樹枝状ポリマーは、従来のポリマーが一般的に紐状(または線状)の形状であるのに対し、3次元的に枝分かれ構造を繰り返し、高度に分岐している高分子である。そのため樹枝状ポリマーは、1)球形に近い形状を有すること、2)ナノメートルオーダーのサイズを有すること、3)分子間の絡み合いが少なく微粒子的挙動を示すこと、4)紐状ポリマーに比べて溶媒や液状の重合性単量体と混合した際の分散性が高く、かつ、粘度の増加を低く抑えることができること、5)機能性基を導入可能な分子鎖末端を表面に多数有すること、6)分子内に空隙を有していることなどの特徴を有している。そのため、歯科材料として一般に使用される液状またはペースト状の組成物においても、組成物の著しい粘度上昇を伴うことなく、樹枝状ポリマーを組成物中に微分散させることができる。また、樹枝状ポリマーは重合性単量体との親和性も高い。これらから樹枝状ポリマーを歯科用接着性組成物に一定量配合させた場合、組成物全体に占める重合性単量体の量を実質的に減少させること効果と、該重合性単量体の硬化体と親和する効果とが相俟って、硬化時の重合収縮を低減でき、歯質への高い接着性が発揮される。
【0052】
樹枝状ポリマーとしては、デンドリマー、リニア−デンドリティックポリマー、デンドリグラフトポリマー、ハイパーブランチポリマー、スターハイパーブランチポリマー、ハイパーグラフトポリマー等が挙げられる。この中でも前半の3種は分岐度が1であり、欠陥の無い構造を有しているのに対し、後半の3種は欠陥を含んでいても良いランダムな分岐構造を有している。
【0053】
デンドリマーの分岐構造は、多官能基を有するモノマーを一段階ずつ化学反応させることで形成される。デンドリマーの合成法には、中心から外に向かって合成するDivergent法と外から中心に向かって行うConvergent法とを挙げることが出来る。デンドリマーの例としては、アミドアミン系デンドリマー(米国特許第4,507,466号明細書ほか)、フェニルエーテル系デンドリマー(米国特許第5,041,516号明細書ほか)が挙げられる。アミドアミン系デンドリマーについては、末端アミノ基とカルボン酸メチルエステル基とを持つデンドリマーが、Aldrich社より「StarburstTM(PAMAM)」として市販されている。また、そのアミドアミン系デンドリマーの末端アミノ基を、種々のアクリル酸誘導体およびメタクリル酸誘導体と反応させることで合成された、対応する末端をもったアミドアミン系デンドリマーを使用することもできる。
【0054】
また、フェニルエーテル系デンドリマーについては、Journal of American
Chemical Society 112巻(1990年、7638〜7647頁
)に種々のものが記載されている。フェニルエーテル系デンドリマーについても、末端ベンジルエーテル結合の代わりに、末端を種々の化学構造を持つもので置換したものを使用することができる。
【0055】
ハイパーブランチポリマーは、多段階合成反応を精密に制御し分岐構造を形成させるデンドリマーとは異なり、一般に一段階重合法により得られる合成高分子である。一段階で大きな分子を合成するため、分子量分布や分岐不十分単位が存在するが、前記デンドリマーと比べると、製造が容易であり製造コストが安価であるという大きなメリットがある。
また、合成条件を適宜選択すれば分岐度も制御でき、用途に応じた分子設計も実施できる。ハイパーブランチポリマーは、1分子内に、分岐部分に相当する2つ以上の第一反応点と、接続部分に相当し、第一反応点とは異なる種類のただ1つの第二反応点とを持つモノマーを用いて、1段階の合成プロセスを経て合成される(Macromolecules、29巻(1996)、3831−3838頁)。
【0056】
このような合成プロセスとしては、例えば、1分子中に2種の官能基を持つABx型モノマーの自己縮合法、A2型モノマーとB3型モノマーとを重縮合する方法などが知られている(デンドリティック高分子−多分岐構造が拡げる高機能化の世界、株式会社エヌ・ティー・エス(2005))。そして、これら方法により一気に分岐構造を形成する。なお、上記に説明した合成方法の説明において、大文字のアルファベットで示す“A”と“B”とは、互に異なる官能基を示し、“A”および“B”に組み合わせて示されるアラビア数字は、1分子内の官能基の数を示す。
【0057】
また、重合開始可能な官能基とビニル基とを1分子内に有する化合物の重合によってハイパーブランチポリマーを得る方法として、自己縮合性ビニル重合法(SCVP法)が知られている(Science、269、1080(1995))。また、多量の開始剤を用いて複数の重合性基を有する分子を重合させることにより、開始剤断片が生成重合体中に取り込まれたハイパーブランチポリマーを合成する方法として開始剤断片組込ラジカル重合法(IFIRP)が知られている(J.Polymer.Sci.:PartA:Polym.Chem.、42,3038(2003))。
【0058】
ハイパーブランチポリマーの構造は、用いるABx型モノマーや得られたポリマーの表面官能基の化学修飾によって様々な構造を有する。ハイパーブランチポリマーとしては、骨格構造の分類上の観点から、ハイパーブランチポリカーボネート、ハイパーブランチポリエーテル、ハイパーブランチポリエステル、ハイパーブランチポリフェニレン、ハイパーブランチポリアミド、ハイパーブランチポリイミド、ハイパーブランチポリアミドイミド、ハイパーブランチポリシロキサン、ハイパーブランチポリカルボシラン等が挙げられる。また、それらハイパーブランチポリマーが有する末端基としては、アルキル基、フェニル基、ヘテロ環状基、(メタ)アクリル基、アリル基、スチリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基、カルボキシル基、ハロゲノ基、エポキシ基、チオール基、シリル基等が挙げられる。またこれら末端基をさらに化学修飾することにより、目的に応じた官能基をハイパーブランチポリマー表面に付与することも可能である。
【0059】
本実施形態の歯科用接着性組成物では、これら樹枝状ポリマーのうち1種のみを単独で用いてもよいし、2種類以上の樹枝状ポリマーを組み合わせて用いてもよい。上記に挙げた樹枝状ポリマーのうち、デンドリマーまたはハイパーブランチポリマーを特に好適に用いることができる。
【0060】
樹枝状ポリマーは、分子間の絡み合いが少なく微粒子的挙動を示すので、樹枝状ポリマーが配合される歯科用接着性組成物の粘度を高めることなく、高い親和性で微分散させることができる。このため、歯科用接着性組成物に樹枝状ポリマーを一定量配合させると、硬化時の重合収縮が大きく低減できる。その結果、本実施形態の歯科用接着性組成物では、接着力および接着耐久性を高めることができる。また、樹枝状ポリマーの分子量は、特に限定されるものではないが、GPC(Gel Permeation Chromatography)法による測定で、重量平均分子量が1500以上であることが好ましく、10000以上であることがより好ましく、15000以上であることが最も好ましい。また、重量平均分子量の上限は特に限定されるものではないが、大きすぎる場合には、樹枝状ポリマーの配合量を大きく変化させた場合に、歯科用接着性組成物の操作性や接着性が大きく変化しやすくなる場合がある。このため、重量平均分子量は、実用上200000以下であることが好ましく、100000以下であることがより好ましく、80000以下であることが最も好ましい。
【0061】
歯科用接着性組成物に含まれる樹枝状ポリマーの配合量は、特に限定されないが、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計量100質量部に対して、5質量部〜40質量部の範囲内であることが好ましく、7質量部〜35質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部〜30質量部の範囲内であることが最も好ましい。樹枝状ポリマーの配合量を5質量部以上とすることにより、歯科用接着性組成物を硬化させる際の重合収縮率をより小さくすることが容易となる。また、樹枝状ポリマーの配合量を40質量部以下とすることにより、操作性の劣化を防ぐと共に、必要がある場合、歯科用接着性組成物の機械的強度を確保することが容易となる。
【0062】
本実施形態の歯科用接着性組成物に用いられる樹枝状ポリマーとしては、上記に説明した各種の樹枝状ポリマーが利用できるが、3分岐した分岐部分および4分岐した分岐部分から選択される少なくとも1種の分岐部分と、分岐部分同士を接続する接続部分とを含む網目状構造(網目状の多分岐構造)を有していることが好ましい。このような網目状構造を有する樹枝状ポリマーとしては、代表的には、ハイパーブランチポリマーが挙げられる。なお、網目状構造中の分岐がより発達して形成されているほど、網目状構造を構成する分子鎖の動きが制限されて、分子鎖同士の絡み合いが少なくなるため、歯科用接着性組成物に対する樹枝状ポリマーの配合割合を増やしても粘度の増加を抑制することがより容易になる。
【0063】
また、網目状構造の末端部分は、反応性の不飽和結合を有する基や、ヒドロシリル基、エポキシ基などの反応性官能基を有していてもよく、反応性官能基を実質的に有していなくてもよい。なお、反応性官能基を実質的に有さない場合には、網目状構造の末端部分は、アルキル基などの非反応性官能基で占められることになる。ここで、「反応性官能基を実質的に有さない」とは、網目状構造の末端部分に反応性官能基を全く有さない場合のみならず、網目状構造を有する樹枝状ポリマーの合成時の副反応あるいは反応系中の不純物等に起因して、網目状構造の末端部分に、僅かながら反応性官能基が導入される場合も意味する。
【0064】
網目状構造の末端部分が反応性官能基を有している場合、特に反応性官能基が反応性の不飽和結合を有する基であるときには、樹枝状ポリマー同士や樹枝状ポリマーと重合性単量体との結合の形成によって、硬化物の機械的強度をより向上させることが容易となる。
一方、歯科用接着性組成物が硬化した後の硬化物中に反応性官能基が残留している場合、硬化物が口腔内環境において飲食物に曝されたり、自然光や室内光に曝されると、硬化物中に残留する反応性官能基が飲食物や、自然光、室内光と反応して、硬化物が着色したり変色したりし易くなる。しかしながら、網目状構造の末端部分が反応性官能基を実質的に有していない場合には、このような硬化物の着色や変色の発生を抑制することが極めて容易である。
【0065】
なお、網目状構造の内部部分も反応性官能基を有していてもよい。しかしながら、網目状構造の内部部分に位置する反応性官能基は、末端部分に位置する反応性官能基と比べて、他の樹枝状ポリマーあるいは重合性単量体と反応し難いため、硬化物の機械的強度の向上には寄与し難い。その一方で網目状構造の内部部分に位置する反応性官能基は、末端部分に位置する反応性官能基と同様に着色や変色を招く可能性が高い。これらの点を考慮すると、網目状構造の内部部分は反応性官能基を実質的に有していないことが好ましい。
【0066】
ハイパーブランチポリマーを構成する網目状構造において、分岐部分の分岐数は、3分岐または4分岐が一般的である。3分岐した分岐部分(3分岐部分)は、窒素原子、3価の環状炭化水素基または3価の複素環基により形成されているのが好ましく、4分岐した分岐部分(4分岐部分)は、炭素原子、ケイ素原子、4価の環状炭化水素基または4価の複素環基により形成されているのが好ましい。なお、(3価または4価)の環状炭化水素基としては、大別すると、(3価または4価の)のベンゼン環などに例示される芳香族炭化水素基、および、(3価または4価の)シクロヘキサン環などに例示される脂環炭化水素基が挙げられる。また、(3価または4価の)複素環基としては、公知の複素環基が利用できる。なお、3価の複素環基としては、たとえば、下記構造式1に示すものを挙げることもできる。
【0068】
また、分岐部分同士を接続する接続部分は、下記構造式群Xから選択されるいずれか1種の2価の基または原子であるのが好ましい。ここで、構造式群X中、R
11は、芳香族炭化水素基または炭素数40以下のアルキレン基であり、nは、1〜9の範囲から選択される整数である。なお、1つの分岐部分に結合する複数の接続部分は、いずれか2つ以上が同一であってもよく、1つの分岐部分に結合する全ての接続部分が互に異なっていてもよい。
【0071】
また、こうした網目状構造の末端部分の一般例としては、水素原子、ハロゲン原子(−F、−Cl、−Br、もしくは、−I)、スチリル基、エポキシ基、グリシジル基、下記構造式群Zから選択されるいずれか1種の1価の基、後述する一般式(IIA)に示す1価の基、後述する一般式(IIB)に示す1価の基、1価の環状炭化水素基、または、1価の複素環基などが挙げられる。ここで、末端部分のうち、水素原子およびハロゲン原子を除いた基については、さらに化学修飾されたものでもよい。また、1価の環状炭化水素基および1価の複素環基は、環に結合する水素原子が、ハロゲン原子、カルボキシル基、アミノ基、水酸基、1価のカルボン酸エステルで置換されていてもよい。また、1価の環状炭化水素基としては、大別すると、1価のベンゼン環などに例示される芳香族炭化水素基、および、1価のシクロヘキサン環などに例示される脂環炭化水素基が挙げられる。
【0073】
なお、構造式群Z中、R
12は、1価の芳香族炭化水素基または炭素数40以下のアルキル基であり、R
13は、2価の芳香族炭化水素基または炭素数40以下のアルキレン基である。また、構造式群Z中に示される基において、R
12およびR
13の双方を含む場合、価数を除いて両者の構造は同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0074】
本実施形態の歯科用接着性組成物において、好適に使用できる樹枝状ポリマーの具体例としては、下記一般式(i)に示される単位構造が互いに結合して形成された網目状構造を有する樹枝状ポリマーが挙げられる。
【0076】
ここで、一般式(i)中、Aは、CとR
1とを結合する単結合(すなわち、CとR
1とが単にσ結合で結合している状態)、>C=O、−O−、−COO−、または、−COO−CH
2−であり、R
1は、2価の飽和脂肪族炭化水素基、または、2価の芳香族炭化水素基であり、R
2は、水素原子、または、メチル基であり、Yは、下記一般式(iia)で示される基、または、下記一般式(iib)で示される基である。末端部分を除いた網目状構造が、一般式(i)に示される単位構造から構成される場合、網目状構造を構成する一般式(i)に示される単位構造は、実質的に1種類のみから構成されていてもよく、2種類以上から構成されていてもよい。
【0079】
なお、
上記一般式(iia)で示される基、および、
上記一般式(iib)で示される基において、aは0または1である。ここで、一般式(i)に示される単位構造は、Yが一般式(iia)で示される基の場合には4個の結合手を有する単位構造になり、Yが一般式(iib)で示される基の場合には3個の結合手を有する単位構造になる。ハイパーブランチポリマーの歯科用接着性組成物に対する配合割合を増やした際に粘度の増加を抑制し易いという観点から、Yは一般式(iia)で示される基であるのが好ましい。
【0080】
また、一般式(i)に示される単位構造により形成された網目状構造の末端部分としては、既述した末端部分の一般例として例示した各種の原子あるいは各種の基が挙げられる。
【0081】
一般式(i)に示される単位構造を構成するR
1は、2価の飽和脂肪族炭化水素基、または、2価の芳香族炭化水素基である。ここで、2価の飽和脂肪族炭化水素基は、鎖状または環状のいずれであってもよい。また、炭素数は特に限定されないが、1〜5の範囲内が好ましく、1〜2の範囲内がより好ましい。炭素数を5以下とすることにより、R
1として示される分子鎖部分が短くなるため、歯科用接着性組成物を構成する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーとの絡みあいをより一層抑制し、液状またはペースト状の歯科用接着性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。2価の鎖状飽和脂肪族炭化水素基としては、たとえば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基などが挙げられる。また、2価の環状飽和脂肪族炭化水素基としては、シクロプロピレン基、シクロブチレン基などが挙げられる。
【0082】
また、2価の芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環を1つ含む単環状、ベンゼン環を2つ以上含みかつ縮環構造を有するもの、あるいは、ベンゼン環を2つ以上含みかつ縮環構造を有さないもの、のいずれであってもよい。2価の芳香族炭化水素基に含まれるベンゼン環の数は、特に限定されないが、1〜2の範囲内が好ましく、ベンゼン環の数
は1であることが特に好ましい(言い換えれば2価の芳香族炭化水素基が、フェニレン基であることが特に好ましい)。ベンゼン環の数を2以下とすることにより歯科用接着性組成物を構成する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用接着性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。2価の芳香族炭化水素基としては、たとえば、上述したフェニレン基以外にも、ナフチレン基やビフェニレン基などを例示できる。
【0083】
なお、以上に例示したR
1の中でも、特にフェニレン基が好ましい。フェニレン基は、歯科用接着性組成物中に添加されるハイパーブランチポリマーの配合量を大きく変化させても、歯科用接着性組成物を用いて歯科治療を行う際の操作性や、硬化物の機械的物性への悪影響が少ない。このため、操作性や機械的物性に縛られずに、歯科用接着性組成物の組成設計を行い易くなる。また、R
1としてフェニレン基を用いた場合、歯科用接着性組成物を硬化させた硬化物の機械的強度を向上させることができる。
【0084】
上記一般式(i)に示される単位構造により形成された網目状構造を有するハイパーブランチポリマーの中でも、特に、好適なものを示せば、下記一般式(I)に示される単位構造と、下記一般式(IIA)に示される単位構造および下記一般式(IIB)に示される単位構造から選択される少なくとも一方の単位構造と、を含むハイパーブランチポリマーが挙げられる。ここで、一般式(I)に示される単位構造は、網目状構造自体を構成する4個の結合手を有する単位構造であり、一般式(IIA)および一般式(IIB)に示す単位構造は、網目状構造の末端部分(末端基)を構成する単位構造である。以下の説明において、これらの単位構造から構成された網目状構造を有するハイパーブランチポリマーのみを指し示す場合には、「ハイパーブランチポリマーA」と称す。
【0088】
ここで、一般式(I)中、A、R
1およびR
2は、前記した一般式(i)に示すA、R
1およびR
2と同様である。
【0089】
また、一般式(IIA)および一般式(IIB)中、R
3、R
4、R
5は、水素原子、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルキル基、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルコキシカルボニル基、アリール基、または、シアノ基である。また、一般式(IIB)中、R
6は、主鎖を構成する炭素原子の数が4個〜10個のアルキレン基である。
【0090】
上記一般式(IIA)および一般式(IIB)を構成するR
3、R
4、R
5は、特に、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルキル基、主鎖を構成する炭素原子の数が1個〜5個のアルコキシカルボニル基、または、シアノ基であるのがより好ましい。アルキル基としては、たとえば、メチル基、エチル基、プロピル基などが挙げられ、アルコキシカルボニル基としては、たとえば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基などが挙げられ、アリール基としては、たとえば、フェニル基が挙げられる。なお、アルキル基およびアルコキシカルボニル基については、主鎖を構成する炭素原子の数を5個以下、特に、メチル基またはメトキシカルボニル基とすることにより、主鎖が短くなるため、歯科用接着性組成物を構成する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーAとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用接着性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。
【0091】
また、アルキル基、アルコキシカルボニル基およびアリール基の水素原子の一部を置換基で置換してもよい。たとえば、メチル基などの炭素数1個〜3個のアルキル基、メトキシ基などの炭素数1個〜3個のアルコキシル基などを挙げることができる。なお、アルキル基およびアルコキシル基については、炭素数を3個以下、特に、メチル基またはメトキシ基とすることにより、置換基により構成される側鎖が短くなるため、歯科用接着性組成物を構成する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーAとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用接着性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。
【0092】
一般式(IIB)を構成するR
6は、主鎖を構成する炭素原子の数が4個〜10個のアルキレン基である。アルキレン基としては、たとえば、ブチレン基、ペンチレン基、ノニレン基などが挙げられる。また、アルキレン基の水素原子の一部を置換基で置換してもよい。たとえば、メチル基などの炭素数1個〜3個のアルキル基、メトキシ基などの炭素数1個〜3個のアルコキシル基などを挙げることができる。なお、アルキレン基の主鎖を構成する炭素原子の数を4個以上とすることにより、R
6とR
6の両端と結合する炭素原子とから構成される環の歪を抑制できる。このため、接着力および接着耐久性を高めるとともに、着色や変色が生じ難い。また、アルキレン基の主鎖を構成する炭素原子の数を10個以下とすることで主鎖が短くなり、あるいは、置換基として選択されるアルキル基およびアルコキシル基の炭素数を3個以下、特に、メチル基またはメトキシ基としたりすることにより、置換基により構成される側鎖が短くなるため、歯科用接着性組成物を構成する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、ハイパーブランチポリマーAとの絡みあいをより一層抑制し、歯科用接着性組成物の粘度が増大するのをより一層抑制できる。なお、環の歪の抑制と粘度の抑制の両立の観点からは、アルキレン基はペンチレン基が特に好ましい。
【0093】
なお、一般式(I)で示される第一の単位構造の4個の結合手には、一般式(I)で示される第一の単位構造、または、一般式(IIA)および一般式(IIB)で示される2種類の単位構造から選択される第二の単位構造が結合することができる。また、ハイパーブランチポリマーAが一般式(I)、一般式(IIA)および一般式(IIB)以外のその他の単位構造(第三の単位構造)を含む場合は、4個の結合手には、第三の単位構造も結合することができる。ここで、4個の結合手の少なくともいずれか1個の結合手を介して、第一の単位構造同士が結合することにより網目状構造が形成される。また、網目状構造を分断する末端基である第二の単位構造は、第一の単位構造の4個の結合手のうち、最大で3個の結合手に結合することができる。ここで、ハイパーブランチポリマーAに含まれる第一の単位構造と第二の単位構造との含有比(モル比)は、特に限定されないが、3:7〜7:3の範囲内とすることが好ましく、4:6〜6:4の範囲内とすることがより好ましい。モル比を上記範囲内とすることにより、適度な分岐を持つ網目状構造が形成できると共に、ハイパーブランチポリマーAを溶媒に分散させた溶液の粘度の著しい増加も抑制することができる。なお、ハイパーブランチポリマーAに、2個以上の結合手を有する第三の単位構造も含まれる場合、第一の単位構造および第二の単位構造に対する第三の単位構造の含有割合にも依存するものの、第一の単位構造と第二の単位構造との含有比(モル比)は、網目状構造が形成できる範囲で、たとえば、1:9〜7:3の範囲内から選択することが好まく、2:8〜7:3の範囲内から選択することがより好ましい。なお、この場合も、第一の単位構造と第二の単位構造との含有比(モル比)は、3:7〜7:3の範囲内とすることがさらに好ましく、4:6〜6:4の範囲内とすることが特に好ましい。
【0094】
上述のような、一般式(I)に示す単位構造と、一般式(IIA)に示す単位構造および一般式(IIB)に示す単位構造から選択される少なくとも一方の単位構造と、を含むハイパーブランチポリマーAは、分子内に反応性の不飽和結合を有する基(たとえば、アクリレート基やアクリル基、スチリル基など)や、アミノ基などの反応性の官能基を含まない。また、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体は、重合反応により反応性の官能基を消失する。このため、ハイパーブランチポリマーAを用いた本実施形態の歯科用接着性組成物は、優れた接着力および接着耐久性を有するとともに、硬化させた後に口腔内環境において飲食物に曝されたり、自然光や室内光に曝されたりしても、着色や変色が生じ難い。
【0095】
また、一般式(I)に示す単位構造と、一般式(IIA)に示す単位構造および一般式(IIB)に示す単位構造から選択される少なくとも一方の単位構造と、を含むハイパーブランチポリマーAは、一般式(IIA)および(IIB)に示す単位構造を基本とした網目状構造を有する。すなわち、枝分かれした分子鎖の両末端の動きは非常に制約されている。このため、隣接する枝部分同士が絡み合うことは非常に困難であり、歯科用接着性組成物の粘度上昇が生じ難い。したがって、重合する際に伴う大きな重合収縮が生じない。その結果、優れた接着力および接着耐久性を有する歯科用接着性組成物が得られる。
【0096】
なお、本実施形態の歯科用接着性組成物に好適に用いられるハイパーブランチポリマーAには、第三の単位構造として、下記一般式(IIIA)に示される単位構造、下記一般式(IIIB)に示される単位構造、下記一般式(IIIC)に示される単位構造、および、下記一般式(IIID)に示される単位構造から選択される少なくともいずれか1種の単位構造が含まれていてもよい。なお、下記一般式(IIIA)および下記一般式(IIID)に示される第三の単位構造は、ハイパーブランチポリマーAを合成する際の不純成分として、ハイパーブランチポリマーAに含まれることがある。
【0101】
ここで、一般式(IIIA)、一般式(IIIB)、一般式(IIIC)および一般式(IIID)中、A、R
1およびR
2は、一般式(i)に示すA、R
1およびR
2と同様である。また、一般式(IIIB)中、R
7は、1価の飽和脂肪族炭化水素基、または、1価の芳香族炭化水素基であり、一般式(IIIC)中、R
8は、4価の飽和脂肪族炭化水素基、または、4価の芳香族炭化水素基であり、一般式(IIID)中、Bは、−COO−CH=である。
【0102】
また、一般式(IIIA)および一般式(IIIB)に例示されるような結合手を2個有する第三の単位構造と、一般式(I)に示される第一の単位構造との比率は、6:4〜0:10の範囲内が好ましく、4:6〜0:10の範囲内がより好ましく、0:10が最も好ましい。結合手を2つ有する第三の単位構造と、一般式(I)に示される第一の単位構造との比率を上記範囲内とすることにより、適度な分岐を持つ網目状構造が形成できると共に、ハイパーブランチポリマーAを配合させた接着性組成物の粘度の著しい増加も抑制することができる。
【0103】
一般式(IIIB)に示す第三の単位構造を構成するR
7および一般式(IIIC)に示す第三の単位構造を構成するR
8は、価数が異なる以外は、R
1と同様の構造を有するものが利用できる。
【0104】
なお、一般式(IIA)および一般式(IIB)で示される第二の単位構造は、本実施形態の歯科用接着性組成物に用いられるハイパーブランチポリマーAの合成過程において用いられる原料成分(たとえば、モノマー、重合開始剤、末端基の修飾剤など)に由来する構造である。当該原料成分としては特に限定されないが、たとえば、公知の重合開始剤が挙げられ、好ましくは、国際公開第2010/126140号に開示されるアゾ系重合開始剤が挙げられる。ただし、本実施形態の歯科用接着性組成物において、上記に列挙した原料成分、重合開始剤あるいはアゾ系重合開始剤のうち、ハイパーブランチポリマーAを合成し終えた後において、一般式(IIA)および/または一般式(IIB)に示す構造を取りうるものを採用することが好ましい。このため、本実施形態の歯科用接着性組成物は、接着力および接着耐久性を高めるとともに、着色や変色が生じ難い。
【0105】
一般式(IIA)で示される第二の単位構造の具体例としては、たとえば、下記構造式A〜構造式Kが挙げられ、一般式(IIB)で示される第二の単位構造の具体例としては、下記構造式L〜構造式Mが挙げられる。これら構造式A〜構造式Mに示される第二の単位構造は、ハイパーブランチポリマーAの入手容易性という点で特に好適である。
【0109】
以上に説明したような分子構造を有するハイパーブランチポリマーAとしては、たとえば、下記(1)〜(6)に示すものが挙げられる。
【0110】
(1)T.Hirano et al.,J.Appl.Polym.Sci.,2006,100,664−670に開示されたハイパーブランチポリマー(A:CとR
1とを結合する単結合、R
1:フェニレン基、R
2:水素原子、R
3:−CH
3、R
4:−CH
3、R
5:−COOCH
3)。なお、実質同一の分子構造を有する市販のハイパーブランチポリマーとして、HYPERTECH(登録商標)/HA−DVB−500(日産化学工業株式会社製、GPC法による分子量:48000、流体力学的平均直径11.7nm(in THF))が挙げられる。
【0111】
(2)T.Hirano et al.,Macromol.Chem.Phys.,205,206,860−868に開示されたハイパーブランチポリマー(A:−COO−、R
1:−(CH
2)
2−、R
2:−CH
3、R
3:−CH
3、R
4:−CH
3、R
5:−COOCH
3)。なお、実質同一の分子構造を有する市販のハイパーブランチポリマーとして、日産化学工業株式会社製のHYPERTECH(登録商標);HA−DMA−200(GPC法による分子量22000、流体力学的平均直径5.2nm(in THF))、HA−DMA−50(試供サンプル品、GPC法による分子量4000)、および、HA−DMA−700(試供サンプル品、GPC法による分子量67000)が挙げられる。
【0112】
(3)T.Sato et al.,Macromolecules,2005,38,1627−1632に開示されたハイパーブランチポリマー(A:−COO−、R
1:−(CH
2)
4−、R
2:−H、R
3:−CH
3、R
4:−CH
3、R
5:−COOCH
3)。
【0113】
(4)T.Sato et al.,Macromole.Mater.Eng.,2006,291,162−172に開示されたハイパーブランチポリマー。なお、このハイパーブランチポリマーは、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造も含む。ここで、一般式(I)に示す第一の単位構造はA:CとR
1とを結合する単結合、R
1:フェニレン基、R
2:−Hであり、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造はA:−COO−、R
7:エチル基、R
2:−Hである。また、一般式(IIA)に示す第二の単位構造はR
3:−CH
3、R
4:−CH
3、R
5:−COOCH
3である。
【0114】
(5)T.Sato et al.,Polym.Int.2004,53,1138−1144に開示されたハイパーブランチポリマー。なお、このハイパーブランチポリマーは、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造も含む。ここで、一般式(I)に示す第一の単位構造はA:−COO−、R
1:−(CH
2)
4−、R
2:−Hであり、一般式(IIIB)で示す第三の単位構造はA:−O−、R
7:2−メチルプロピル基、R
2:−Hである。また、一般式(IIA)に示す第二の単位構造はR
3:−CH
3、R
4:−CH
3、R
5:−CNである。
【0115】
(6)T.Sato et al.,J.Appl.Polym.Sci.2006,102,408に開示されたハイパーブランチポリマー。なお、このハイパーブランチポリマーは、一般式(IIID)で示す第三の単位構造も含む。ここで、一般式(I)に示す第一の単位構造はA:−COO−CH
2−、R
1:フェニレン基(2個の結合手はオルト位)、R
2:−Hであり、一般式(IIID)で示す第三の単位構造はA:−COO−CH
2−、B:−COO−CH=、R
1:フェニレン基(2個の結合手はオルト位)、R
2:−Hである。また、一般式(IIA)に示す第二の単位構造はR
3:−CH
3、R
4:−CH
3、R
5:−COOCH
3である。
【0116】
また、現時点において、ハイパブランチポリマーAを含む各種の市販のハイパーブランチポリマーとしては、上述した日産化学工業株式会社の「HYPERTECH」(登録商標)シリーズの他にも、DSM社の「Hybrane」(登録商標)、Persto
rp社の「Boltorn」(登録商標)などが挙げられる。なお、「HYPERTECH」、「Hybrane」、「Boltorn」は分子量、粘度、末端基の異なるグレードが販売されている。ここで、HYPERTECHシリーズについては、ハイパブランチポリマーA以外の、一般式(i)に示される単位構造により形成された網目状構造を有するハイパーブランチポリマーとして、HPS−200(Yが一般式(iib)で示される基であり、3個の結合手を有する単位構造により網目状構造が形成されている)等も存在する。
【0117】
次に、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と(B)樹枝状ポリマー以外の歯科用接着性組成物の構成材料について説明する。
【0118】
−(C)水−
本実施形態の歯科用接着性組成物には水を配合することが好ましい。本実施形態の歯科用接着性組成物に水を配合することにより、酸性基含有重合性単量体との組み合わせで歯質への親和性が改善される効果や、歯質の脱灰(エッチング)作用が高まり、歯質への接着強さを向上させる効果がある。特に、歯科用接着性プライマーや歯科用接着性ボンディング材に対して含有させるのが効果的である。当該水は、保存安定性、生体適合性および接着性に有害な不純物を実質的に含まないことが好ましく、例としては精製水、脱イオン水、蒸留水などが挙げられる。
【0119】
本実施形態の歯科用接着性組成物における(C)水の配合量は、特に限定されるものではなく、適宜設定すれば良いが、(C)水は、多すぎると硬化体の機械的強度の低下や組成物の保存安定性低下の傾向があるため、その配合効果とのバランスを考えると、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、0.2質量部〜150質量部の範囲内であることが好ましく、0.5質量部〜130質量部の範囲内であることがより好ましい。また、歯科用接着性組成物が水を含む場合、歯科用接着性組成物中に含まれる各種成分のうち、フィラーのような水および油性成分に不溶性の成分を除く残りの成分、すなわち、油性成分および水については、その配合割合は特に限定されず歯科用接着性組成物の用途に応じて適宜選択することができる。しかしながら、たとえば、油性成分100質量部に対して水3質量部〜30質量部の範囲内とすることが好ましく、油性成分100質量部に対して水5質量部〜20質量部の範囲内とすることがより好ましい。なお、本実施形態の歯科用接着性組成物が水を含む場合、歯科用接着性組成物は、たとえば、油性成分が連続相を形成し且つ水性成分が不連続な液滴を形成する油中水型エマルションであってもよく、油性成分が不連続な液滴を形成し且つ水性成分が連続相を形成する水中油型エマルションであってもよく、油性成分および水が均一に混じり合った組成物でもよい。なお、油性成分を構成する主要な成分としては、重合性単量体、樹枝状ポリマーなどが挙げられる。
【0120】
−(D)重合開始剤−
本実施形態の歯科用接着性組成物には重合開始剤を配合することが好ましい。歯科用接着性組成物に重合開始剤を配合することにより、歯科用接着性組成物を単独で重合硬化することができる。重合開始剤としては、(D1)光重合開始剤、(D2)化学重合開始剤あるいは(D3)熱重合開始剤を用いることができ、2種類以上の重合開始剤を組み合わせて利用することもできる。なお、歯科用接着性組成物が、通常、口腔内で使用されることを考慮すると、これら3種類の重合開始剤の中でも、光重合開始剤および化学重合開始剤から選択される少なくとも一種のものを用いることが好ましい。通常、化学重合型重合開始剤は歯科用接着性レジンセメントに使用され、光重合型重合開始剤は歯科用接着性ボンディング材、歯科用接着性コンポジットレジン、および歯科用接着性レジンセメントに使用される。
【0121】
本実施形態の歯科用接着性組成物における(D)重合開始剤の配合量は、特に限定されるものではなく、適宜設定すれば良いが、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、0.001質量部〜10質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部〜7.5質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部〜5質量部の範囲内であることが最も好ましい。このうち(D)重合開始剤が、(D1)光重合開始剤の場合、その配合量は、0.001質量部〜2.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部〜2質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部〜1.75質量部の範囲内であることが最も好ましい。
【0122】
以下に上記の3種類の重合開始剤についてより詳細に説明する。
【0123】
(D1)光重合開始剤としては、歯科用材料として用いられる公知のものが何ら制限なく使用できる。代表的な光重合開始剤としては、α−ジケトン類および第三級アミン類の組み合わせ,アシルホスフィンオキサイド、アシルホスフィンオキサイドおよび第三級アミン類の組み合わせ、チオキサントン類および第三級アミン類の組み合わせ,α−アミノアセトフェノン類および第三級アミン類の組み合わせ,アリールボレート類および光酸発生剤類の組み合わせなどの光重合開始剤が挙げられる。
【0124】
上記各種光重合開始剤に好適に使用される各種化合物を例示すると、α−ジケトン類としては、カンファーキノン、ベンジル、α−ナフチル、アセトナフトン、ナフトキノン、p,p'−ジメトキシベンジル、p,p'−ジクロロベンジルアセチル、1,2−フェナントレンキノン、1,4−フェナントレンキノン、3,4−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノンなどが挙げられる。
【0125】
三級アミンとしては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノールなどが挙げられる。これらは、単独または2種以上を配合して使用することができる。
【0126】
アシルホスフィンオキサイド類としては、ベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0127】
チオキサントン類としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンなどが挙げられる。
【0128】
α−アミノアセトフェノン類としては、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−プロパノン−1、2−ベンジル−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1、2−ベンジル−ジエチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ペンタノン−1などが挙げられる。
【0129】
上記光重合開始剤は単独で用いても、2種類以上のものを混合して用いても良い。
【0130】
(D2)化学重合開始剤は、2成分以上からなり、使用直前に全成分が混合されることにより室温近辺で重合活性種を生じる重合開始剤である。例えば、有機過酸化物/アミン類、有機過酸化物/アミン類/有機スルフィン酸類、有機過酸化物/アミン類/アリールボレート類、アリールボレート類/酸性化合物、及びバルビツール酸誘導体/銅化合物/ハロゲン化合物等の各種組み合わせからなるものが挙げられる。本実施形態の歯科用接着性組成物においては、高い歯質接着強度が得られ、また取扱いが容易な理由から、有機過酸化物/アミン類からなる化学重合開始剤が好適である。特に有機過酸化物/アミン類の化学重合開始剤では、アミンの一部が酸性基含有重合性単量体a1)によって中和されるため、この結果、硬化速度が適度に遅延され、余剰セメントの除去作業が容易となるという利点もある。
【0131】
代表的な有機過酸化物としては、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステル、ジアリールパーオキサイドなどが挙げられる。
【0132】
有機過酸化物を具体的に例示すると、ケトンパーオキサイド類としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルアセトアセテートパーオキサイド、アセチルアセトンパーオキサイドなどが挙げられる。
【0133】
パーオキシケタール類としては、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロデカン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパンなどが挙げられる。
【0134】
ハイドロパーオキサイド類としては、P−メタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t―ヘキシルハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。
【0135】
ジアルキルパーオキサイドとしては、α,α−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3などが挙げられる。
【0136】
ジアシルパーオキサイド類としては、イソブチリルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアリルパーオキサイド、スクシニックアシッドパーオキサイド、m−トルオイルベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド類が挙げられる。
【0137】
パーオキシカーボネート類としては、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エトキシエチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−2−メトキシブチルパーオキシジカーボネート、ジ(3−メチル−3−メトキシブチル)パーオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0138】
パーオキシエステル類としては、α,α−ビス(ネオデカノイルパーオキシ)ジイソロピルベンゼン、クミルパーオキシネオデカノエート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(2−エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、1−シクロヘキシル−1−メチルエチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−m−トルオイルベンゾエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス(t−ブチルパーオキシ)イソフタレートなどが挙げられる。
【0139】
また、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノンなども好適な有機過酸化物として使用できる。
【0140】
使用する有機過酸化物は、適宜選択して使用すればよく、単独または2種以上を組み合わせて用いても構わないが、中でもハイドロパーオキサイド類、ケトンパーオキサイド類、パーオキシエステル類およびジアシルパーオキサイド類が重合活性の点から特に好ましい。さらにこの中でも、歯科用接着性組成物の保存安定性の点から10時間半減期温度が60℃以上の有機過酸化物を用いるのが好ましい。
【0141】
他方、有機過酸化物と組み合わせるアミン類としては特に制限されるものではないが、アミノ基がアリール基又はピリジル基等の芳香族基に結合した第2級または第3級芳香族アミン類が挙げられる。例えば好適に使用できる第二級芳香族アミンとしては、N−メチルアニリン、N−(2−ヒドロキシエチル)アニリン、N−メチル−p−トルイジン等が挙げられる。また、好適に使用できる第三級芳香族アミンとしては、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)アニリン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、p−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、p−トリルジエタノールアミン、N−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン等が挙げられる。これらのアミン化合物の中でも硬化性の観点からが特にp−トリルジエタノールアミン、N,N−ジメチル−p−トルイジンが好適に用いられる。上述した各種化合物を組み合わせて用いる有機過酸化物/アミン類からなる化学重合開始剤においては、有機過酸化物1モル当り、アミン類を0.01モル〜4モル、特に0.05モル〜3モルの範囲で使用するのがよい。
【0142】
当該有機過酸化物と該アミン化合物からなる開始剤系にさらに、ベンゼンスルフィン酸やp−トルエンスルフィン酸およびその塩などのスルフィン酸を加えた系、5−ブチルバルビツール酸などのバルビツール酸系開始剤を配合しても何ら問題なく使用できる。
【0143】
また、アリールボレート化合物が酸により分解してラジカルを生じることを利用した、アリールボレート化合物/酸性化合物系の重合開始剤を用いることもできる。
【0144】
アリールボレート化合物は、分子中に少なくとも1個のホウ素−アリール結合を有する化合物であれば特に限定されず公知の化合物が使用できるが、その中でも、保存安定性を考慮すると、1分子中に3個または4個のホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物を用いることが好ましく、さらには取り扱いや合成・入手の容易さから4個のホウ素−アリール結合を有するアリールボレート化合物がより好ましい。
【0145】
1分子中に3個のホウ素−アリール結合を有するボレート化合物として、モノアルキルトリフェニルホウ素、モノアルキルトリス(p−クロロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−フルオロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、モノアルキルトリス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、モノアルキルトリス(p−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ニトロフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ブチルフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、モノアルキルトリス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素(ただし、いずれの化合物においてもアルキルはn−ブチル、n−オクチルまたはn−ドデシルのいずれかを示す)の、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩またはブチルキノリニウム塩などを挙げることができる。
【0146】
1分子中に4個のホウ素−アリール結合を有するボレート化合物として、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p−クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メトキシ−2−プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p−オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m−オクチルオキシフェニル)ホウ素〔ただし、いずれの化合物においてもアルキルはn−ブチル、n−オクチルまたはn−ドデシルのいずれかを示す〕の、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、トリブチルアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルピリジニウム塩、エチルピリジニウム塩、ブチルピリジニウム塩、メチルキノリニウム塩、エチルキノリニウム塩またはブチルキノリニウム塩などを挙げることができる。
【0147】
上記で例示した各種のアリールボレート化合物は2種以上を併用しても良い。
【0148】
上述したアリールボレート化合物/酸性化合物系の重合開始剤に、さらに有機過酸化物および/または遷移金属化合物を組み合わせて用いることも好適である。有機過酸化物としては前記した通りである。遷移金属化合物としては+IV価および/または+V価のバナジウム化合物が好適である。該+IV価および/または+V価のバナジウム化合物を具体的に例示すると、四酸化二バナジウム(IV)、酸化バナジウムアセチルアセトナート(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1−フェニル−1,3−ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)、などのバナジウム化合物が挙げられる。
【0149】
また、(D3)熱重合開始剤としては、たとえば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p−フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩などのホウ素化合物、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸などのバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウムなどのスルフィン酸塩類などが挙げられる。
【0150】
(E)−充填材−
本実施形態の歯科用接着性組成物には充填材を配合することが好ましい。本実施形態の歯科用接着性組成物に充填材を配合することにより、重合時の重合収縮の抑制効果をより大きくすることができる。また、充填材を用いることにより、歯科用接着性組成物の操作性を改良したり、あるいは硬化物の機械的物性の向上を図ったりすることができる。
【0151】
充填材としては、歯科用材料の充填材として用いられる公知の無機充填材や、有機−無機複合充填剤が何ら制限なく用いられる。無機充填材としては、たとえば、石英、シリカ、アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラスなどの金属酸化物類が挙げられる。また、カチオン溶出性の無機充填材として、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラスなどを必要に応じて用いることもできる。これら無機充填材は、一種または二種以上を混合して用いてもよい。
【0152】
また、有機−無機複合充填材としては、上記に例示した無機充填材に重合性単量体を添加してペースト状にした後に重合させ、得られた重合物を粉砕した粒状のものを利用することができる。
【0153】
これら充填材の粒径は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている0.01μm〜100μm(特に好ましくは0.01μm〜5μm)の平均粒径の充填材が目的に応じて適宜使用できる。また、該充填材の屈折率も特に制限されず、一般的な歯科用の無機充填材が有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用でき、目的に合わせて適宜設定すればよい。粒径範囲や、屈折率の異なる複数の無機充填材を併用しても良い。
【0154】
また、歯科用接着性組成物を硬化させた硬化物の表面滑沢性を向上させる観点からは、球状の無機充填剤を用いることが好ましい。
【0155】
上記無機充填材は、シランカップリング剤に代表される表面処理剤で処理することがこのましい。この場合、無機充填剤とラジカル重合性単量体との親和性が良くなり、硬化物の機械的強度や耐水性を向上させることができる。表面処理は公知の方法で行うことができる。また、シランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが好適に用いられる。
【0156】
これらの充填材の配合量は、使用目的に応じて、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーと混合したときの粘度や硬化物の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、500重量部越えない範囲で使用するのが好ましい。また、充填材の量は用途に応じて適量が異なり、歯科用接着性プライマーおよび歯科用接着性ボンディング材の用途であれば、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、2質量部〜30質量部の範囲内であることが好ましく、5質量部〜20質量部の範囲内であることがより好ましい。歯科用接着性コンポジットレジンおよび歯科用接着性レジンセメントの用途であれば、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、100質量部〜500質量部の範囲内であることが好ましく、150質量部〜450質量部の範囲内がより好ましい。
【0157】
−その他の添加成分−
本実施形態の歯科用接着性組成物には、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマー、水、重合開始剤および充填材以外にも必要に応じてその他の成分をさらに添加することができる。
【0158】
たとえば、水溶性有機溶媒が配合されていてもよい。水溶性有機溶媒としては、水溶性を示すものであれば公知の有機溶媒が何等制限なく使用できる。ここで言う水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であることを言う。このような水溶性有機溶媒として具体的に例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する為害性を考慮すると、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール又はアセトンが好ましい。
【0159】
また、硬化物の色調を、歯牙の色調に合わせるために、顔料、蛍光顔料、染料などの色材を添加することができる。また、硬化体の紫外線に対する変色防止のために紫外線吸収剤を添加することができる。また、重合禁止剤、酸化防止剤、有機溶媒、増粘剤、金属の補綴物を接着するための含硫黄化合物、歯科用接着性レジンセメントの硬化時間を調節するための連鎖移動剤などの公知の添加剤を必要に応じて用いることができる。
【0160】
−歯科用接着性組成物の製造方法−
本実施形態の歯科用接着性組成物を製造する方法は特に限定されず、公知の重合型組成物の製造方法を利用できる。一般的には、配合する各成分を所定量秤とり、均一になるまで混合または混練することで、本実施形態の歯科用接着性組成物を得ることができる。
【0161】
以下、本実施形態の歯科用接着性組成物の好適な利用形態である歯科用接着性プライマー、歯科用接着性ボンディング材、歯科用接着性コンポジットレジンおよび歯科用接着性レジンセメントについて説明する。ただし、本実施形態の歯科用接着性組成物の利用形態は以下に説明する実施形態のみに限定されるものでは無い。
【0162】
−歯科用接着性プライマー−
本実施形態の歯科用接着性プライマー(セルフエッチングプライマー)は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、(B)樹枝状ポリマーと、(C)水とを含有することを特徴とする。本実施形態の歯科用接着性プライマーは、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、(B)樹枝状ポリマーおよび(C)水を組み合わせて配合することによって、接着強さおよび接着強さの耐久性を高めることができる。
【0163】
歯科用接着性プライマーに含まれる酸性基含有重合性単量体は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、10質量部〜70質量部の範囲内であることが好ましく、20質量部〜65質量部の範囲内であることがより好ましく、30質量部〜60質量部の範囲内であることが最も好ましい。酸性基含有重合性単量体の配合量を10質量部以上とすることにより、エナメル質に対する接着力を確保が容易となる。また、酸性基含有重合性単量体の配合量を70質量部以下とすることにより、象牙質に対する接着力の低下を抑制することが容易となる。
【0164】
また、歯科用接着性プライマーに含まれる(B)樹枝状ポリマーは、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、5質量部〜40質量部の範囲内であることが好ましく、7質量部〜35質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部〜30質量部の範囲内であることが最も好ましい。(B)樹枝状ポリマーの配合量を5質量部以上とすることにより、接着強さと耐久性を確保が容易となる。また、(B)樹枝状ポリマーの配合量を40質量部以下とすることにより、歯科用接着性プライマー液保存中の樹枝状ポリマーの分散安定性の維持が容易となる。
【0165】
また、歯科用接着性プライマーに含まれる(C)水は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、5質量部〜150質量部の範囲内であることが好ましく、10質量部〜130質量部の範囲内であることがより好ましく、15質量部〜110質量部の範囲内であることが最も好ましい。
水の配合量を5質量部以上とすることにより、接着対象物に対する脱灰力を発揮でき、接着対象物への浸透性を高めることが容易となる。また、水の配合量を150質量部以下とすることにより、操作性を確保するとともに、接着対象物に対する接着力の低下を抑制することが容易となる。
【0166】
なお、本実施形態の歯科用接着性プライマーに含まれる(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、(B)樹枝状ポリマーおよび(C)水については、既述した材料を好適に用いることができ、ここでの説明は省略する。また、本実施形態の歯科用接着性プライマーには、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマーおよび水以外にも必要に応じてその他の成分をさらに添加することができる。たとえば、前述した水溶性有機溶媒、重合禁止剤または充填材などを必要に応じて配合されていてもよい。
【0167】
−歯科用接着性ボンディング材−
本実施形態の歯科用接着性ボンディング材(セルフエッチングボンディング材)は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、(B)樹枝状ポリマーと、(C)水と、(D)重合開始剤とを含有することを特徴とする。本実施形態の歯科用接着性ボンディング材は、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマー、水および重合開始剤を組み合わせて配合することによって、接着力と接着耐久性を高めることができる。これは、樹枝状ポリマーを用いることにより、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体を重合する際に伴う大きな重合収縮が生じ難く、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の収縮応力が抑えられるためだと考えられる。このため、接着対象物との界面に、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体硬化に際して発生する重合収縮応力に対抗する、接着対象物に対する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の接着力を減殺することを抑制できる。その結果、接着対象物に対する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の本来の接着力を発揮することができる。
【0168】
歯科用接着性ボンディング材に含まれる酸性基含有重合性単量体は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、7質量部〜60質量部の範囲内であることが好ましく、12質量部〜50質量部の範囲内であることがより好ましく、15質量部〜35質量部の範囲内であることが最も好ましい。酸性基含有重合性単量体の配合量を7質量部以上とすることにより、エナメル質に対する接着力を確保することが容易となる。また、酸性基含有重合性単量体の配合量を60質量部以下とすることにより、象牙質に対する接着力の低下を抑制することが容易となる。
【0169】
また、歯科用接着性ボンディング材に含まれる(B)樹枝状ポリマーは、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、5質量部〜40質量部の範囲内であることが好ましく、7質量部〜35質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部〜30質量部の範囲内であることが最も好ましい。樹枝状ポリマーの配合量を5質量部以上とすることにより、歯科用接着性組成物を硬化させる際の重合収縮率をより小さくすることが容易となる。また、樹枝状ポリマーの配合量を40質量部以下とすることにより、操作性の劣化を防ぐと共に、必要がある場合、歯科用接着性組成物の機械的強度を確保することが容易となる。
【0170】
また、歯科用接着性ボンディング材に含まれる(C)水は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、2質量部〜40質量部の範囲内であることが好ましく、5質量部〜35質量部の範囲内であることがより好ましく、7質量部〜25質量部の範囲内であることが最も好ましい。水の配合量を2質量部以上とすることにより、接着対象物に対する脱灰力を発揮でき、接着対象物への浸透性を高めることができる。接着対象物への接着浸透性を高めることが容易となる。また、水の配合量を40質量部以下とすることにより、操作性を確保するとともに、接着対象物に対する接着力の低下を抑制することが容易となる。
【0171】
また、歯科用接着性ボンディング材に含まれる(D)重合開始剤は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、0.001質量部〜10質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部〜7.5質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部〜5質量部の範囲内であることが最も好ましい。重合開始剤の配合量を0.001質量部以上とすることにより、重合する際の重合硬化を確保することが容易となる。また、重合開始剤の配合量を10質量部以下とすることにより、操作性を確保することが容易になる上に、コストの面に優れる。
【0172】
なお、本実施形態の歯科用接着性ボンディング材に含まれる酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマー、水および重合開始剤については、既述した材料を好適に用いることができ、ここでの説明は省略する。本実施形態の歯科用接着性ボンディング材には、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマーおよび水以外にも必要に応じてその他の成分をさらに添加することができる。たとえば、前述した水溶性有機溶媒、重合禁止剤または充填材などを必要に応じて配合されていてもよい。
【0173】
−歯科用接着性コンポジットレジン−
本実施形態の歯科用接着性コンポジットレジン(自己接着性コンポジットレジン)は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、(B)樹枝状ポリマーと、(D1)光重合開始剤と、(E)充填材とを含有することを特徴とする。本実施形態の歯科用接着性コンポジットレジンは、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマー、光重合開始剤および充填材を組み合わせて配合することによって、歯質への接着力と接着耐久性を高めることができる。これは、樹枝状ポリマーを用いることにより、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体を重合する際に伴う大きな重合収縮が生じ難く、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の収縮応力が抑えられるためだと考えられる。
このため、接着対象物との界面に、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体硬化に際して発生する重合収縮応力に対抗する、歯質に対する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の接着力を減殺することを抑制できる。その結果、接着対象物に対する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の本来の接着力を発揮することができる。このため、歯の窩洞を修復する際に、高い窩洞適合性が得られる。さらに、深い窩洞への一括充填修復も可能となる。
【0174】
歯科用接着性コンポジットレジンに含まれる酸性基含有重合性単量体は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、3質量部〜38質量部の範囲内であることが好ましく、5質量部〜35質量部の範囲内であることがより好ましく、10量部〜30質量部の範囲内であることが最も好ましい。酸性基含有重合性単量体の配合量を3質量部以上とすることにより、酸性基含有重合性単量体の働きで接着力を確保することが容易となる。また、酸性基含有重合性単量体の配合量を38量部以下とすることにより、歯科用接着性コンポジットレジンの接着力の低下を抑制することが容易となる。
【0175】
また、歯科用接着性コンポジットレジンに含まれる(B)樹枝状ポリマーは、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、5質量部〜40質量部の範囲内であることが好ましく、7質量部〜35質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部〜30質量部の範囲内であることが最も好ましい。樹枝状ポリマーの配合量を5質量部以上とすることにより、歯科用接着性組成物を硬化させる際の重合収縮率をより小さくすることが容易となる。また、樹枝状ポリマーの配合量を40質量部以下とすることにより、操作性の劣化を防ぐと共に、必要がある場合、歯科用接着性組成物の機械的強度を確保することが容易となる。
【0176】
また、歯科用接着性コンポジットレジンに含まれる(D1)光重合開始剤は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、0.001質量部〜2.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部〜2質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部〜1.75質量部の範囲内であることが最も好ましい。光重合開始剤の配合量を0.001質量部以上とすることにより、重合する際の重合硬化を確保することが容易となる。また、光重合開始剤の配合量を2.5質量部以下とすることにより、操作性を確保することが容易になる上に、コストの面に優れる。
【0177】
また、歯科用接着性コンポジットレジンに含まれる(E)充填材は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、100質量部〜500質量部の範囲内であることが好ましく、150質量部〜450質量部の範囲内であることがより好ましく、170質量部〜300質量部の範囲内であることが最も好ましい。充填材の配合量を100質量部以上とすることにより、歯科用接着性コンポジットレジンの硬化物の機械的強度を確保することが容易となる。また、充填材の配合量を500質量部以下とすることにより、歯科用接着性コンポジットレジンの粘度を望ましい数値範囲内に確保できるので、操作性を高くすることが容易になる上に、対象物への接着強度の低下を抑制することも容易となる。
【0178】
なお、本実施形態の歯科用接着性コンポジットレジンに含まれる酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマー、光重合開始剤および充填材については、既述した材料を好適に用いることができ、ここでの説明は省略する。本実施形態の歯科用接着性コンポジットレジンには、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマー、光重合開始剤および充填材以外にも必要に応じてその他の成分をさらに添加することができる。
【0179】
たとえば、前述した水、重合禁止剤または紫外線吸収剤などを必要に応じて配合されていてもよい。特に、水を配合することによって、歯質の脱灰能力を高める効果や、歯質接への浸透性を高める効果が期待できるので、歯質に対する接着強度を高めることができる。水の配合量は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、0.2質量部〜15質量部の範囲内であることが好ましく、0.5質量部〜10質量部の範囲内であることがより好ましく、1質量部〜7質量部の範囲内であることが最も好ましい。
【0180】
−歯科用接着性レジンセメント−
本実施形態の歯科用接着性レジンセメント(自己接着性レジンセメント)は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体と、(B)樹枝状ポリマーと、(D2)化学重合開始剤と、(E)充填材とを含有することを特徴とする。本実施形態の歯科用接着性レジンセメントは、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマー、化学重合開始剤および充填材を組み合わせて配合することによって、接着対象物、すなわち、歯質および/または補綴物への接着力と接着耐久性を高めることができる。これは、樹枝状ポリマーを用いることにより、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体を重合する際に伴う大きな重合収縮が生じ難しく、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の収縮応力が抑えられるためだと考えられる。このため、接着対象物との界面に、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体硬化に際して発生する重合収縮応力に対抗する、接着対象物に対する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の接着力を減殺することを抑制できる。その結果、接着対象物に対する酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体の本来の接着力を発揮することができる。このため、比較的大きな窩洞の修復する際に、歯科用接着性レジンセメントを介して金属やセラミックス、あるいは歯科用レジンで作られた補綴物を高い接着性および高耐久性にて接着対象物へ一括固定することができる。
【0181】
歯科用接着性レジンセメントに含まれる酸性基含有重合性単量体は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、3質量部〜38質量部の範囲内であることが好ましく、5質量部〜35質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部〜30質量部の範囲内であることが最も好ましい。酸性基含有重合性単量体の配合量を3質量部以上とすることにより、酸性基含有重合性単量体の働きで接着力を確保することが容易となる。また、酸性基含有重合性単量体の配合量を38質量部以下とすることにより、歯科用接着性レジンセメントの接着力の低下を抑制することが容易となる。
【0182】
また、歯科用接着性レジンセメントに含まれる(B)樹枝状ポリマーは、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、5質量部〜40質量部の範囲内であることが好ましく、7質量部〜35質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部〜30質量部の範囲内であることがより好ましく、10質量部〜20質量部の範囲内であることが最も好ましい。樹枝状ポリマーの配合量を5質量部以上とすることにより、歯科用接着性レジンセメントを硬化させる際の重合収縮率をより小さくすることが容易となる。また、樹枝状ポリマーの配合量を40質量部以下とすることにより、操作性の劣化を防ぐと共に、必要がある場合、歯科用接着性レジンセメントの機械的強度を確保することが容易となる。
【0183】
また、本実施形態の歯科用接着性レジンセメントにおいて(D2)化学重合開始剤は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、0.001質量部〜10質量部の範囲内であることが好ましく、0.005質量部〜7.5質量部の範囲内であることがより好ましく、0.01質量部〜5質量部の範囲内であることが最も好ましい。化学重合開始剤の配合量を0.001質量部以上とすることにより、重合する際の重合硬化を確保することが容易になる。また、化学重合開始剤の配合量を5質量部以下とすることにより、操作性を確保することが容易になる上に、コストの面に優れる。なお、歯科用接着性レジンセメントには(D2)化学重合開始剤の他に(D1)光重合開始剤を併用してもよい。
【0184】
また、歯科用接着性レジンセメントに含まれる(E)充填材は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、100質量部〜500質量部の範囲内であることが好ましく、150質量部〜450質量部の範囲内であることがより好ましく、170質量部〜300質量部の範囲内であることが最も好ましい。充填材の配合量を100質量部以上とすることにより、歯科用接着性レジンセメントの硬化物の機械的強度を確保することが容易となる。また、充填材の配合量を500質量部以下とすることにより、歯科用接着性レジンセメントの粘度を望ましい数値範囲内に確保できるので、操作性を高くすることが容易になると共に、対象物への接着強度の低下を抑制することも容易になる。
【0185】
なお、本実施形態の歯科用接着性レジンセメントに含まれる酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマー、化学重合開始剤および充填材については、既述した材料を好適に用いることができ、ここでの説明は省略する。本実施形態の歯科用接着性レジンセメントには、酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体、樹枝状ポリマー、化学重合開始剤および充填材以外にも必要に応じてその他の成分をさらに添加することができる。
【0186】
たとえば、前述した水、重合禁止剤、紫外線吸収剤または含硫黄化合物などを必要に応じて配合されていてもよい。特に、水を配合することによって、歯質の脱灰能力を高める効果や、歯質への浸透性を高める効果が期待できるので、歯質に対する接着強度を高めることができる。水の配合量は、(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体および(B)樹枝状ポリマーの合計100質量部に対して、0.1質量部〜15質量部の範囲内であることが好ましく、0.5質量部〜10質量部の範囲内であることがより好ましく、1質量部〜7質量部の範囲内であることが最も好ましい。
【0187】
また、本実施形態の歯科用接着性レジンセメントは、通常、保管時には第一成分と第二成分とから構成され、使用時には第一成分と第二成分とを混合して使用する。ここで、第一成分および第二成分の形態は、液体状あるいはペースト状のいずれであってもよいが、通常は双方共にペースト状であることが特に好ましい。
【0188】
上述した本実施形態の歯科用接着性レジンセメントを構成する各構成材料は、全種類の構成材料が、第一成分と第二成分とを混合した混合物の状態において含まれていればよい。すなわち、第一成分中には、歯科用接着性レジンセメントを構成する全種類の構成材料のうち、一部の種類の構成材料が含まれていてもよく、全種類の構成材料が含まれていてもよい。なお、この点は第二成分についても同様である。さらに、上述した本実施形態の歯科用接着性レジンセメントを構成する各構成材料の配合量についても、第一成分と第二成分とを混合した混合物の状態において満たされていればよい。なお、この場合の各構成成分の配合量とは、本実施形態の歯科用接着性レジンセメントを使用する場合において、予め定められている第一成分と第二成分との混合比(使用上の混合比)に従って混合した場合の配合量を意味する。ここで、「使用上の混合比」とは、本実施形態の歯科用接着性レジンセメントが市販されている市販製品である場合において、当該製品の使用説明書や製品説明書等に示される混合比(製造元や販売元が推奨する混合比)を意味する。なお、使用上の混合比に関する情報は、製品に添付された使用説明書や製品説明書等に記載されたもの以外にも、郵送されるものや、電子メールで配信されるもの、製造元や販売元のwebページ上で提供されるものなどでもよい。
【実施例】
【0189】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0190】
(1)実施例および比較例で使用した化合物の略称
実施例および比較例で使用した化合物の略称は以下の通りである。
【0191】
[(A)酸性基含有重合性単量体を含む重合性単量体]
・PM:
2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートおよびビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンフォスフェートを、質量比2:1の割合で混合した混合物
・MHP:
6−メタクリルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェートおよびビス(2−メタクリロイルオキシヘキシル)ハイドロジェンフォスフェートを、質量比2:1の割合で混合した混合物
・MDP:
10−メタクリルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェート
・HEMA:
2−ヒドロキシエチルメタクリレート
・Bis−GMA:
2,2’−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
・3G:
トリエチレングリコールジメタクリレート
・D2.6E:
ビスメタクリロキシポリエトキシフェニルプロパン-ビスフェノールA誘導体
【0192】
[(B)樹枝状ポリマー]
・HA−DVB−500:
日産化学工業株式会社、GPC法による重量平均分子量48000のハイパーブランチポリマー。流体力学的平均直径は11.7nm(in THF)。樹枝状ポリマーの末端部分に位置する官能基(末端官能基)はメチルエステル基である。
・HA−DMA−200:
日産化学工業株式会社、GPC法による重量平均分子量22000のハイパーブランチポリマー。流体力学的平均直径は5.2nm(in THF)。末端官能基はメチルエステル基である。
・HA−DMA−50:
日産化学工業株式会社、GPC法による重量平均分子量4000のハイパーブランチポリマー。末端官能基はメチルエステル基である。
・HA−DMA−7000:
日産化学工業株式会社、GPC法による重量平均分子量67000のハイパーブランチポリマー。末端官能基はメチルエステル基である。
・HPS−200:
日産化学工業株式会社、GPC法による重量平均分子量23000のハイパーブランチポリマー。流体力学的平均直径は7.5nm(in THF)。末端官能基はスチリル基である。
・PB:
末端基に水酸基を有するハイパーブランチポリマーであるPersto
rp社のBoltornH20(トリメチロールプロパンを核とするジメチロールプロパンの重縮合物、GPC法による重量平均分子量2100)
・PBP:
末端官能基として水酸基を有するハイパーブランチポリマーであるPersto
rp社のBoltornH20(トリメチロールプロパンを核とするジメチロールプロパンの重縮合物、GPC法による重量平均分子量2100)に対し5酸化2リンを0℃で接触させ、末端官能基である水酸基の一部をリン酸基に変えたハイパーブランチポリマー。末端官能基の割合は水酸基/リン酸基=1/1である。
【0193】
[紐状ポリマー]
・PMMA:
GPC法による重量平均分子量250000の非架橋ポリメチルメタクリレート。末端官能基はメチルエステル基である。
【0194】
[(D)重合開始剤]
・CQ:
カンファーキノン
・BTPO:
ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド
・BPO:
ベンゾイルパーオキシド
【0195】
[アミン類]
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
DEPT:p−トリルジエタノールアミン
【0196】
[(E)充填材(フィラー、表面に酸性基を有しない粒子)]
・F1:
ヒュームドシリカ(平均粒径0.01μm)をメチルトリクロロシランにより表面処理したもの。
・F2:
球状シリカ−ジルコニア(平均粒径0.4μm)をγ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより表面処理したものと、球状シリカ−チタニア(平均粒径0.08μm)をγ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランにより表面処理したものとを質量比7:3にて混合した混合物
【0197】
[揮発性の水溶性有機溶媒]
・アセトン
【0198】
[重合禁止剤]
・BHT:
2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
【0199】
(2)評価方法
[接着強度試験]
(プライマーの初期接着強度の評価)
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯を、注水下、耐水研磨紙P600で研磨し、唇面に平行かつ平坦になるように、エナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、削り出した平面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させた。次に、この平面に直径3mmの穴を有する両面テープを貼り付け、さらに、厚さ0.5mmおよび直径8mmの穴を有するパラフィンワックスを、先に貼り付けられた両面テープの穴の中心に、パラフィンワックスの穴の中心をあわせて固定することで、模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞に、プライマーを塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。更にその上にボンディング材(3MESPE製スコッチボンド)を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させ、さらに可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)により可視光を10秒間照射した。さらにコンポジットレジン(トクヤマデンタル製エステライトシグマクイック)を充填し、ポリエステルシートで圧接し、充填後同じく可視光を10秒間照射して硬化させて、接着試験片を作製した。なお、使用したボンディング材(3MESPE製スコッチボンド)およびコンポジットレジン(トクヤマデンタル製エステライトシグマクイック)は、いずれも酸性基含有重合性単量体を含まない歯科材料である。
【0200】
上述の接着試験片のコンポジットレジン硬化体上面にレジンセメント(トクヤマデンタル製ビスタイトII)を塗布し、さらに直径8mm、長さ25mmの円筒状のSUS製アタッチメントを接着させた。37℃で15分レジンセメントを硬化させた後、試験片を37℃の水中に24時間浸漬した。その後試験片を万能試験機(オートグラフ、株式会社島津製作所製)を用いて、クロスヘッドスピード1mm/minにて引っ張り、歯牙とコンポジットレジン硬化体との引張り接着強度を測定した。引張接着強度の測定は、各実施例あるいは各比較例につき、各種試験片4本についてそれぞれ測定した。その4回の引張接着強度の平均値を、該当する実施例もしくは比較例の初期接着強度とした。
【0201】
(ボンディング材の初期接着強度の評価)
上述したプライマーの初期接着強度を評価する場合と同様に、研磨された牛の抜去前歯を用意し、両面テープとパラフィンワックスとを用いて、上述したものと同様の直径3mmの接着面を有する模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に、ボンディング材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)により可視光照射を10秒間行いボンディング材を硬化させた。更にその上にコンポジットレジン(トクヤマデンタル製エステライトシグマクイック)を充填し、ポリエステルシートで圧接し、充填後同じく可視光を10秒間照射して硬化させて、接着試験片を作製した。この接着試験片を用いて、上述したプライマーの初期接着強度を評価する場合と同様にして、歯牙とコンポジットレジン硬化体との初期接着強度を求めた。
【0202】
(コンポジットレジンの初期接着強度の評価)
上述したプライマーの初期接着強度を評価する場合と同様にして、研磨された牛の抜去前歯を用意し、両面テープとパラフィンワックスとを用いて、上述したものと同様の直径3mmの接着面を有する模擬窩洞を作製した。この模擬窩洞に接着性コンポジットレジンを充填し、ポリエステルシートで圧接し、充填後30秒経過後に可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)により可視光照射を30秒間行いコンポジットレジンを硬化させて、接着試験片を作製した。この接着試験片を用いて、上述したプライマーの初期接着強度を評価する場合と同様にして、歯牙とコンポジットレジン硬化体との初期接着強度(窩洞の深さ0.5mmにおける初期接着強度)を求めた。
【0203】
(レジンセメントの初期接着強度の評価)
上述のプライマーの初期接着強度を評価する場合と同様に、研磨された牛の抜去前歯を用意し、該研磨した平面上に直径3mmの穴を有する両面テープを張り付けた。次に、レジンセメントを構成するAペースト(第一成分)とBペースト(第二成分)とを質量比で等量ずつ採取し、30秒練和した混合ペーストを、両面テープで作製した直径3mmの穴に填入し、その上面に直径8mmのSUS製アタッチメントを接着させた。試験片を37℃湿度100%で1時間保持後、37℃の水中に24時間浸漬し、歯科用接着性レジンセメントを硬化させて、接着試験片を作製した。この接着試験片を用いて、上述したプライマーの初期接着強度を評価する場合と同様にして、歯牙とレジンセメント硬化体との初期接着強度を求めた。なお、本試験においては、Aペースト(第一成分)とBペースト(第二成分)との使用上の混合比は、質量比で1:1とした。
【0204】
(耐久性試験後の接着強度の評価)
耐久性試験後の接着強度は、上述したプライマー、ボンディング材、コンポジットレジンおよびレジンセメントの各々についての接着強度試験において準備した各試験片を熱衝撃試験装置に入れて、熱衝撃試験を行うことで求めた。ここで、熱衝撃試験においては、4℃および60℃の水中に、試験片を各1分ずつ浸漬する操作を1回とし、3000回繰り返し操作した試験片について接着強度を測定した。そして、この接着強度の測定結果を耐久性試験の接着強度とした。
【0205】
(窩洞深さを2.5mmとした場合の初期接着強度および耐久性試験後の接着強度の評価)
上述したコンポジットレジンの初期接着強度の評価において、厚さ0.5mmのパラフィンワックスの代わりに厚さ2.5mmのパラフィンワックスを使用することで、窩洞の深さがより大きい模擬窩洞を作製した。そして、この模擬窩洞を用いた点を除いては、コンポジットレジンの初期接着強度および耐久性試験後の接着強度を評価した場合と同様にして、窩洞深さ2.5mmにおける初期接着強度および耐久性試験後の接着強度を測定した。
【0206】
[窩洞適合性試験]
屠殺後24時間以内に抜去した牛前歯に、直径約4mm、深さ約2.5mmの窩洞を形成した。窩洞形成後、水洗し、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させた。窩洞にコンポジットレジンを充填後30秒経過後に可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)により可視光照射を30秒間行いコンポジットレジンを硬化させた。得られた試験片を37℃の水中に24時間浸漬した後、ダイヤモンドカッターをもちいて、上記窩洞の中央部分を窩底面にたいして垂直に切断し、切断面を#1500のエメリーペーパーおよび#3000のエメリーペーパーで次いで研磨した。レーザー顕微鏡で研磨面を観察し、形成した窩洞の窩底部における歯とコンポジットレジンとの接着界面において、ギャップが形成されている領域が占める割合を観察した。評価基準は以下の通りである。
A:接着界面においてギャップが形成されている領域が占める割合が10%未満
B:接着界面においてギャップが形成されている領域が占める割合が10%以上30%未満
C:接着界面においてギャップが形成されている領域が占める割合が30%以上50%未満
D:接着界面においてギャップが形成されている領域が占める割合が50%以上
【0207】
[耐光性試験]
(プライマーの耐光性の評価)
上述のプライマーの初期接着強度を評価する場合と同様に、研磨された牛の抜去前歯を用意した。次に、この研磨された牛の前歯の象牙質部分の平面上に直径4mmの穴を有する厚さ0.08mmの両面テープを張り付け、さらに、厚さ0.5mmおよび直径8mmの穴を有するパラフィンワックスを、先に貼り付けられた両面テープの穴の中心と、パラフィンワックスの穴の中心とが一致するように固定することで、模擬窩洞を形成した。
【0208】
この模擬窩洞に、プライマーを塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。更にその上にボンディング材(3MESPE製、スコッチボンド)を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥させ、さらに可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)により可視光を10秒間照射した。さらにコンポジットレジン(トクヤマデンタル製、エステライトシグマクイックA3シェード)を充填し、ポリエステルシートで圧接し、充填後同じく可視光を10秒間照射して硬化させて、接着試験片を作製した。なお、使用したボンディング材(3MESPE製、スコッチボンド)およびコンポジットレジン(トクヤマデンタル製、エステライトシグマクイック)は、いずれも酸性基含有重合性単量体を含まない歯科材料である。
【0209】
この接着試験片を直径25mm、厚さ30mmの円筒型に入れ、常温硬化型埋込樹脂(ナノファクター製、デモテック#20)を流し込み、樹脂を硬化させることで接着試験片を硬化させた樹脂中に包埋させた。接着試験片が樹脂で包埋された包埋物を、ダイ
ヤモンドカッターを用いて接着界面に対して垂直に切断し、接着断面を露出させた。次に、露出させた接着断面の半分をアルミ箔で覆い、キセノンウェザーメーター(スガ試験機社製、光強度40W/m
2)にて擬似太陽光に延べ1時間曝露した。その後、アルミ箔で覆った部分(未露光部)におけるプライマー層部分と、擬似太陽光に曝露した部分(露光部)におけるプライマー層部分との色調を目視にて観察した。評価基準は以下の通りである。
A:未露光部のプライマー層部分の色調と露光部のプライマー層部分の色調とはほぼ同等である。
B:未露光部のプライマー層部分の色調と露光部のプライマー層部分の色調とに僅かな違いがある。
C:未露光部のプライマー層部分の色調と露光部のプライマー層部分の色調とに著しい違いがあり、露光部のプライマー層部分が目立って見える。
【0210】
(ボンディング材の耐光性の評価)
上述したプライマーの初期接着強度を評価する場合と同様に、研磨された牛の抜去前歯を用意した。次に、この研磨された牛の前歯の象牙質部分の平面上に直径4mmの穴を有する厚さ0.08mmの両面テープを張り付け、さらに、厚さ0.5mmおよび直径8mmの穴を有するパラフィンワックスを、先に貼り付けられた両面テープの穴の中心と、パラフィンワックスの穴の中心とが一致するように固定することで、模擬窩洞を形成した。
【0211】
この模擬窩洞に、ボンディング材を塗布し、20秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。さらに可視光線照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマ製)により可視光を10秒間照射した。さらにコンポジットレジン(トクヤマデンタル製、エステライトシグマクイックA3シェード)を充填し、ポリエステルシートで圧接し、充填後同じく可視光を10秒間照射して硬化させて、接着試験片を作製した。なお、使用したコンポジットレジン(トクヤマデンタル製、エステライトシグマクイック)は、酸性基含有重合性単量体を含まない歯科材料である。
【0212】
この接着試験片を直径25mm、厚さ30mmの円筒型に入れ、常温硬化型埋込樹脂(ナノファクター製デモテック#20)を流し込み、樹脂を硬化させることで接着試験片を硬化させた樹脂中に包埋させた。接着試験片が樹脂で包埋された包埋物を、ダイ
ヤモンドカッターを用いて接着界面に対して垂直に切断し、接着断面を露出させた。次に、露出させた接着断面の半分をアルミ箔で覆い、キセノンウェザーメーター(スガ試験機社製、光強度40W/m
2)にて擬似太陽光に延べ1時間曝露した。その後、アルミ箔で覆った部分(未露光部)におけるボンディング材層部分と、擬似太陽光に曝露した部分(露光部)におけるボンディング材層部分との色調を目視にて観察した。評価基準は以下の通りである。
A:未露光部のボンディング材層部分の色調と露光部のボンディング材層部分の色調とはほぼ同等である。
B:未露光部のボンディング材層部分の色調と露光部のボンディング材層部分の色調とに僅かな違いがある。
C:未露光部のボンディング材層部分の色調と露光部のボンディング材層部分の色調とに著しい違いがあり、露光部のボンディング材層部分が目立って見える。
【0213】
(コンポジットレジンの耐光性の評価)
直径15mmの貫通孔を有する厚さ1mmのポリアセタール製型にコンポジットレジンを填入した後、貫通孔の両端をポリプロピレンフィルムで圧接した。次に、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、株式会社トクヤマデンタル製;光出力密度700mW/cm
2)にて、貫通孔内に充填された円形状のコンポジットレジン全体に光が照射されるように、円内5箇所(円の中央部および円周近傍を円周方向に90度毎の位置)を各10秒ずつ光照射した。これにより、円板状の硬化体(試験片)を得た。次に、得られた試験片の半分をアルミ箔で覆い、キセノンウェザーメーター(スガ試験機社製、光強度40W/m
2)にて擬似太陽光に延べ1時間曝露した。その後、アルミ箔で覆つた部分(未露光部)および擬似太陽光に曝露した部分(露光部)の色調を目視にて観察した。評価基準は以下の通りである。
A:未露光部の色調と露光部の色調とはほぼ同等である。
B:未露光部の色調と露光部の色調とに僅かな違いがある。
C:未露光部の色調と露光部の色調とに著しい違いがある。
【0214】
(レジンセメントの耐光性の評価)
上述のプライマーの初期接着強度を評価する場合と同様に、研磨された牛の抜去前歯を用意した。次に、この研磨された牛の前歯の象牙質部分の平面上に直径4mmの穴を有する厚さ0.08mmの両面テープを張り付けた。次に、レジンセメントを構成するAペースト(第一成分)とBペースト(第二成分)とを質量比で等量ずつ採取し、30秒練和した混合ペーストを、両面テープで作製した直径3mmの穴に填入し、その上面に予め作製しておいたコンポジットレジンの硬化体(トクヤマデンタル製エステライトシグマクイック、A3シェード;直径5mm、厚さ6mmの円筒形;トクヤマデンタル製トクソーセラミックスプライマーで表面処理した)を接着させた。次に試験片を37℃湿度100%で1時間保持後、37℃の水中に24時間浸漬し、レジンセメントを硬化させて、接着試験片を作製した。
【0215】
この接着試験片を直径25mm、厚さ30mmの円筒型に入れ、常温硬化型埋込樹脂(ナノファクター製デモテック#20)を流し込み、樹脂を硬化させることで接着試験片を硬化させた樹脂中に包埋させた。接着試験片が樹脂で包埋された包埋物を、ダイ
ヤモンドカッターを用いて接着界面に対して垂直に切断し、接着断面を露出させた。次に、露出させた接着断面の半分をアルミ箔で覆い、キセノンウェザーメーター(スガ試験機社製、光強度40W/m
2)にて擬似太陽光に延べ1時間曝露した。その後、アルミ箔で覆った部分(未露光部)におけるレジンセメント層部分と擬似太陽光に曝露した部分(露光部)におけるレジンセメント層部分の色調を目視にて観察した。評価基準は以下の通りである。
なお、本試験においては、Aペースト(第一成分)とBペースト(第二成分)との使用上の混合比は、質量比で1:1とした。
A:未露光部のレジンセメント層部分の色調と露光部のレジンセメント層部分の色調とはほぼ同等である。
B:未露光部のレジンセメント層部分の色調と露光部のレジンセメント層部分の色調とに僅かな違いがある。
C:未露光部のレジンセメント層部分の色調と露光部のレジンセメント層部分の色調とに著しい違いがあり、露光部はレジンセメント層が目立って見える。
【0216】
(3)評価結果
<プライマーの評価:実施例A1〜A10および比較例A1〜A3>
表1に評価に用いたプライマーの組成を示し、表2に表1に示すプライマーの評価結果を示す。
【0217】
<ボンディング材の評価:実施例B1〜B10および比較例B1〜B3>
表3に評価に用いたボンディング材の組成を示し、表4に表3に示すボンディング材の評価結果を示す。
【0218】
<コンポジットレジンの評価:実施例C1〜C13および比較例C1〜C5>
表5に評価に用いたコンポジットレジンの組成を示し、表6に表5に示すコンポジットレジンの評価結果を示す。
【0219】
<レジンセメント:実施例D1〜D13および比較例D1〜D5>
表7および表8に評価に用いたレジンセメント(AペーストおよびBペースト)の組成を示し、表9に表7および表8に示すレジンセメントの評価結果を示す。なお、評価に用いたレジンセメントは、2成分を混合することにより硬化するものであり、Aペースト(第一成分)の組成を表7に、Bペースト(第二成分)の組成を表8に示した。また、使用時のAペースト(第一成分)とBペースト(第二成分)との混合比は、質量比で1:1である。
【0220】
【表1】
【0221】
【表2】
【0222】
【表3】
【0223】
【表4】
【0224】
【表5】
【0225】
【表6】
【0226】
【表7】
【0227】
【表8】
【0228】
【表9】
【0229】
(評価結果の検討)
各実施例および各比較例について、上述の接着強度試験方法によって評価した。評価の結果について、いずれも樹枝状ポリマーを含有する実施例の方が接着強度に優れたことが判った。また、コンポジットレジンについては、窩洞適合性の評価においても、樹枝状ポリマーを含有する実施例は優れた結果であった。一方、樹枝状ポリマーを含有しない比較例の方は、接着強度が低く、コンポジットレジンにおいては、窩洞適合性も低い。また、酸性基含有重合性単量体を含まない比較例A1、B1、C1およびD1は、初期接着強度も耐久性試験後の接着強度も低いものだった。これは、それら組成に脱灰作用がないためである。さらに、PMMAを含有する比較例A3、B3、C5およびD5は、樹枝状ポリマーを含有する実施例よりも接着強度が低いことが判った。これは、紐状のPMMAポリマーが重合性単量体との親和性が低く、かつ重合収縮の低減効果も小さいためであると考えられる。
【0230】
以上の結果から、樹枝状ポリマーの含有により重合性単量体の重合収縮が低減されたと考えられる。これは、親水性の樹枝状ポリマーを使用することで、組成物と歯質との親和性が向上し、接着強度の向上につながったためであると考えられる。
【0231】
また、コンポジットレジンについては、水を含有する実施例C3、C6、C8の方がより接着強度に優れていた。これは、水の含有で接着対象物へ浸透性の向上より接着強度を高めることにつながったためと考えられる。
【0232】
また、各実施例および各比較例について、上述の耐光性試験方法によって評価した。評価の結果について、樹枝状ポリマー「HPS−200」を含有する実施例を除き、樹枝状ポリマーを含有する実施例と、樹枝状ポリマーを含有しない比較例とで大きな違いは見られなかった。一方、末端にスチリル基を有する樹枝状ポリマー「HPS−200」を用いた実施例A8、B8、C11およびD11では、耐光性が劣る結果となった。以上の結果から末端にスチリル基のような反応性の高い二重結合を有する樹枝状ポリマーを用いた場合、耐光性を劣化させると推定される。
【0233】
(電気伝導度の評価)
表3に示す実施例B4、B6のボンディング材の電気伝導度を、浸漬形導電率電極を接続したpHメーター(堀場製作所製、F−55)を用いて測定した。その結果、電気伝導度は、実施例B4のボンディング材で205μm/cm、実施例B6のボンディング材で296μm/cmであった。一方、リファレンスとして測定した水道水の電気伝導度が67〜250μm/cmであり、実施例B4、B6のボンディング材において水分含有量を0質量部としたボンディング材の電気伝導度は、各々、144μm/cm、95μm/cmであった。よって、実施例B4、B6のボンディング材は、水分を全く含まない場合と比べて高い電気伝導度を示す上に、水道水と比べても同程度またはそれ以上の電気伝導度を示すことが判った。
【0234】
また、上記の結果からは、実施例B4、B6のボンディング材と同じ割合で水を含む実施例B1〜B3、B5、B7〜B10のボンディング材も、実施例B4、B6のボンディング材と同程度の電気伝導度を示すものと予想され、実施例B4、B6のボンディング材よりも高い割合で水を含む実施例A1〜A10のプライマーでは、実施例B4、B6のボンディング材と同程度あるいはそれ以上の電気伝導度を示すものと予想される。