(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電子求引性置換基および/または電子吸引性の環員ヘテロ原子を有することによる共鳴効果によって芳香族環上に電子不足部位を持つ芳香族化合物からなる、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき用シアン耐性付与剤(但し、パラジウムもしくはパラジウム合金めっきがシアン化セレンカリウムを含む場合、シアン耐性付与剤はピリジン3スルホン酸ナトリウムを含まない)。
前記芳香族化合物が、6員の炭素環式化合物もしくは複素環式化合物、5もしくは6員の炭素環もしくは複素環が縮合して形成された二環式化合物である、請求項1または2に記載のシアン耐性付与剤。
前記複素芳香族化合物が、N、O、およびSからなる群より選択される電子求引性ヘテロ原子を、芳香族環中に1又は2以上有する、請求項2または3に記載のシアン耐性付与剤。
前記芳香族化合物が、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピラン、チアピラン、ピラジン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、ピリミジン、トリアジン、ピリダジン、フタラジン、クマリン、クロモン、ピリリウム、およびピリジニウムからなる群より選択される環状骨格を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載のシアン耐性付与剤。
前記芳香族化合物が、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピラン、ピラジン、チアジン、プリン、クマリン、ピリミジン、トリアジン、ピリリウム、およびピリジニウムからなる群より選択される環状骨格を有する、請求項5に記載のシアン耐性付与剤。
前記芳香族化合物が、ベンゼンスルホンアミド、ベンズアミド、馬尿酸、ニコチン酸、ニコチンアミド、ピリジンスルホン酸、塩酸ピリドキシン、ピラジンカルボン酸、アミノプリン、フェニルアラニン、チロシン、アントラニル酸、イソニコチンアミド、ナフタレントリスルホン酸、クマリン酸、クロロベンゼンスルホンアミド、ジクロロベンゼンスルホンアミド、クロロシアノピリジン、クロロニコチンアミド、ピリジン、ピリジンスルホンアミド、スルホベンズアルデヒドナトリウム、スルホベンズイミド、およびクマリンからなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載のシアン耐性付与剤。
パラジウム合金めっきが、パラジウムと、ニッケル、コバルト、金、銀、銅、鉄、亜鉛、スズ、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、およびインジウムからなる群より選択される1または2以上の金属との合金めっきである、請求項9に記載のパラジウムもしくはパラジウム合金めっき液。
請求項1〜8のいずれか一項に記載の芳香族化合物を、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液に加えることを含んでなる、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液にシアン耐性を付与する方法。
請求項1〜8のいずれか一項に記載のシアン耐性付与剤を、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液に加えためっき浴を用意し、該めっき浴中において、基材を電気めっき処理することを含んでなる、パラジウムめっき方法。
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム又はパラジウム合金めっき用シアン耐性付与剤に関する。本発明はまた、かかるシアン耐性付与剤を含むパラジウムめっき液若しくはパラジウム合金めっき液、さらにめっき液へのシアン耐性付与方法に関する。
【0002】
現在、パラジウムもしくはパラジウム合金めっきは、その優れた耐食性、耐摩耗性、耐熱性、下地金属の拡散防止性等の観点から、電子部品等の表面処理で多用されている金めっきの代替あるいは信頼性向上を目的として用いられている。
【0003】
しかしながら、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液は、一般的に用いられているシアン系の金めっき液と比較して、浴成分変化や不純物の蓄積に敏感なことから、これらの点が実用上の普及を妨げる大きな阻害要因となっている。
【0004】
パラジウムめっき液における不純物蓄積の問題に関しては、特にシアンの混入の問題が挙げられる。パラジウムめっきは、混入されうるシアンに非常に敏感であり、微量のシアンが混入しただけでもめっき外観や皮膜特性に悪影響を及ぼす。これは、パラジウムがシアンと結び付き易く、非常に強固なシアン錯体を形成してしまうためであり、このため混入したシアンは容易に分解除去したり、分析したりすることができないことが一般的に知られている。
【0005】
一方で、通常のめっき工程において、シアンは前処理の脱脂工程や金めっき液、銀めっき液、銅めっき液、亜鉛めっき液等の主成分として使用されることが多い。このため、通常のめっき工程においては、パラジウムめっき液への微量のシアン混入を防止し、その影響を排除することは極めて困難である。このため、実用的にシアンの混入を出来る限り少なくするためには、パラジウムめっき液の排気ダクトを他のめっき液と分けて別系統にするなど特別に配慮した設備的対策が必要であった。
【0006】
本発明者らの知る限り、パラジウムめっき液自体によって、混入しうる微量シアンの問題を解決する手段は、未だ知られていない。一方で、パラジウムめっきを行う現場からは、シアンの混入に強いパラジウムめっき液の実用化が強く望まれていた。
【0007】
パラジウムめっき液の改良技術に関しては、例えば、特許第3601005号(特許文献1)には、パラジウムめっき液に、アルデヒド安息香酸系誘導体と、アニオン界面活性剤とを使用することによって、光沢性に優れためっき面を形成できるパラジウムめっき液が提案されている。しかしながら、ここには、前記したようなシアン対策については何ら言及されていない。
【0008】
特公平6−53960号公報(特許文献2)には、Pd−Ni合金めっき液の再生方法が開示されており、劣化した有機添加剤の除去技術が記載されている。しかしながら、しかしながら、ここには、前記したようなシアン対策については何ら言及されていない。
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは今般、芳香族環の一部に電子不足部位を持つ芳香族化合物を、パラジウムめっき液に添加することで、パラジウムめっきを行う際に混入しうるシアンの影響を著しく低下させることができることを見出した。すなわち、本発明者らは、パラジウムめっき液に、前記芳香族化合物を使用することで、めっき液に混入しうる微量シアンへの耐性を付与もしくは向上させることに成功した。このような芳香族化合物としては、芳香族環の一部に電子不足部位を持つものであれば十分と考えられた。本発明者らの検討では、種々の電子求引性置換基および/または電子吸引性ヘテロ原子による共鳴効果によって芳香族環の一部に電子不足部位を生じさせた芳香族化合物を使用することで、パラジウムめっき液に一定のシアン化合物が含まれていたとしても、形成されるめっき皮膜特性に悪影響が生じるのを防止することが実際にできた。すなわち、種々の前記した様式の芳香族化合物を使用することで、パラジウムめっき液に、良好なシアン耐性を付与することに実際に成功した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0011】
よって本発明は、パラジウムもしくはパラジウム合金めっきを行う際に、めっき液に混入する可能性のあるシアンによる悪影響を最小限に抑えるか、影響を実質的に排除すること、換言すると、すなわち、パラジウムめっき液もしくはパラジウム合金めっき液にシアン耐性を付与する耐性付与剤を提供することをその目的とする。すなわち、本発明の目的は、パラジウム又はパラジウム合金めっき用シアン耐性付与剤、そのようなシアン耐性を保持しためっき液、めっき液へのシアン耐性付与方法を提供することにある。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0013】
<1> 電子求引性置換基および/または電子吸引性の環員ヘテロ原子を有することによる共鳴効果によって芳香族環上に電子不足部位を持つ芳香族化合物からなる、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき用シアン耐性付与剤。
【0014】
<2> 前記<1>のシアン耐性付与剤において、前記芳香族化合物が、
電子求引性置換基を有する芳香族化合物、
電子求引性置換基を有していてもよい、電子求引性ヘテロ原子を有する複素芳香族化合物、または
これらの混合物
であるのがよい。
【0015】
<3> 前記<1>または<2>のシアン耐性付与剤において、前記芳香族化合物が、6員の炭素環式化合物もしくは複素環式化合物、5もしくは6員の炭素環もしくは複素環が縮合して形成された二環式化合物であるのがよい。
【0016】
<4> 前記<2>または<3>のシアン耐性付与剤において、前記複素芳香族化合物が、N、O、およびSからなる群より選択される電子求引性ヘテロ原子を、芳香族環中に1又は2以上有するのがよい。
【0017】
<5> 前記<1>〜<4>のいずれかのシアン耐性付与剤において、前記芳香族化合物が、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピラン、チアピラン、ピラジン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、ピリミジン、トリアジン、ピリダジン、フタラジン、クマリン、クロモン、ピリリウム、およびピリジニウムからなる群より選択される環状骨格を有するのがよい。
【0018】
<6> 前記<5>のシアン耐性付与剤において、前記芳香族化合物が、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピラン、ピラジン、プリン、ピラン、クマリン、ピリミジン、トリアジン、ピリリウム、およびピリジニウムからなる群より選択される環状骨格を有するのがよい。
【0019】
<7> 前記<1>〜<6>のいずれかのシアン耐性付与剤において、電子求引性基が、スルホ基(−SO
3H)、スルホアミド基(−SO
3NH
2)、カルボキシ基(−COOH)、アミド基(カルバモイル基)(−CONH
2)、ニトロ基(−NO
2)、アルデヒド基(−CHO)、シアノ基(ニトリル基)(−CN)、ハロゲノ基(ハロゲン)(−X)、2−アミノプロピオン酸(−CH
2C(NH
2)COOH)、アクリル酸、ビニル基、フェニル基、トシル基、メシル基、およびアシル基(−COR)からなる群より選択されるのがよい。
【0020】
<8> 前記<1>〜<7>のいずれかのシアン耐性付与剤において前記芳香族化合物が、ベンゼンスルホンアミド、ベンズアミド、馬尿酸、ニコチン酸、ニコチンアミド、ピリジンスルホン酸、塩酸ピリドキシン、ピラジンカルボン酸、アミノプリン、フェニルアラニン、チロシン、アントラニル酸、イソニコチンアミド、ナフタレントリスルホン酸、クマリン酸、クロロベンゼンスルホンアミド、ジクロロベンゼンスルホンアミド、クロロシアノピリジン、クロロニコチンアミド、ピリジン、ピリジンスルホンアミド、スルホベンズアルデヒドナトリウム、スルホベンズイミド、およびクマリンからなる群より選択されるのがよい。
【0021】
<9> 前記<1>〜<8>のいずれかのシアン耐性付与剤と、可溶性パラジウム塩とを含んでなる、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液。
【0022】
<10> 前記<9>のパラジウムもしくはパラジウム合金めっき液において、パラジウム合金めっきが、パラジウムと、ニッケル、コバルト、金、銀、銅、鉄、亜鉛、スズ、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、インジウムからなる群より選択される金属との合金めっきであるのがよい。
【0023】
<11> 前記<1>〜<8>のいずれかの芳香族化合物を、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液に加えることを含んでなる、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液にシアン耐性を付与する方法。
【0024】
<12> 前記<1>〜<8>のいずれかのシアン耐性付与剤を、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液に加えためっき浴を用意し、該めっき浴中において、基材を電気めっき処理することを含んでなる、パラジウムめっき方法。
【0025】
<13> 前記<9>または<10>のめっき液を用いて、基材を電気めっき処理することによって形成された、パラジウムめっき製品 。
【0026】
本発明のシアン耐性付与剤によれば、このシアン耐性付与剤を含むパラジウムめっき液もしくはパラジウム合金めっき液を使用することで、このめっき液を使用しためっきの際のシアンによる悪影響を最小限に抑えるか、悪影響を実質的に排除することができる。これにより、めっき液により形成されるめっき皮膜の外観、光沢性、はんだ濡れ性、はんだ接合強度、下地金属との密着性などの機能特性を維持することができる。
【0027】
また本発明のめっき液を使用することで、シアンの蓄積に伴うめっき液の実用上の寿命(交換時期)を延ばすことが出来るため、めっき液の交換頻度を減らすことができる。これにより、めっき液の建浴に伴い発生する薬品コスト、煩雑な交換作業に伴う作業コストや作業時間、労力を削減することができる。
【0028】
パラジウムめっき液に混入したシアンは分析で検出が出来ないため、めっき液に蓄積されたシアンの濃度を定量的に調べる方法は未だ無く、定期的にハルセル試験などを行い、外観を比較することで大まかにシアン濃度を推測するしかない。このため、混入した微量シアンの濃度を一定レベル以下に維持管理することは非常に困難である。また、一旦混入したシアンの濃度を低下させる唯一の方法は、空電解を行うこととされているが、この方法においてはパラジウム自体も電着してしまうため、高価な貴金属であるパラジウムのロスも避けられない。
【0029】
しかしながら、本発明のシアン耐性付与剤を含むパラジウムめっき液もしくはパラジウム合金めっき液を使用することで、実用上混入しうる微量のシアンの影響を実質的に無視あるいは抑制できるため、めっき液の維持管理のためのハルセル作業や空電解に伴う作業コスト、作業時間、労力を無くすか、あるいは大幅に減らすことができる。これにより、パラジウムめっき液もしくはパラジウム合金めっき液の使用に伴うランニングコストを削減することができる。
【0030】
本発明によるシアン耐性付与剤によれば、比較的安価かつ簡便な方法で、パラジウムめっきもしくはパラジウム合金めっきにおけるシアン混入の問題を解決することができ、パラジウムめっきの作業効率を高めて、作業コストを大幅に削減することができる。
【0031】
本発明は、電解めっきの場合を後述する実施例でとり挙げているが、本発明は、電解めっきに限らず、無電解めっきにおいても適用可能であり、パラジウムめっきもしくはパラジウム合金めっきについての全般的なめっきにおいて適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
シアン耐性付与剤
前記したように、本発明によるパラジウムもしくはパラジウム合金めっき用シアン耐性付与剤は、電子求引性置換基および/または電子吸引性の環員ヘテロ原子を有することによる共鳴効果によって芳香族環上に電子不足部位を持つ芳香族化合物からなる。本発明において、シアン耐性付与剤として使用する化合物は、1種もしくは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
ここで、シアン耐性があるとは、めっき液に、シアン化カリウムなどのシアン化合物(単に「シアン」と言うことがある)が一定量、含まれていたとしても、めっき液により形成されるめっき皮膜の特性の低下(例えば、ハルセル外観の悪化)などの悪影響が起こらない状態をいう。ここで、シアン耐性を発揮できるために許容されるめっき液中のシアン濃度とは、例えば、0mg/Lより大きく、かつ1000mg/L以下の範囲であり、好ましくは100mg/L以下の範囲である。
【0034】
本発明において、シアンとは、めっき液を使用したり、調製したりする際に、混入することがあるシアン化合物をいい、例えば、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、シアン化金、シアン化金カリウム、シアン化銀、シアン化銀カリウム、シアン化亜鉛、シアン化銅、シアン化ニッケルカリウム、シアン化コバルトカリウム、シアン化セレン酸カリウムなどが考えられる。
【0035】
またここで、シアン耐性の付与とは、シアンが混入されためっき液において、シアンが混入されていない場合と同等かそれに近いレベルまで、めっき液により形成される皮膜特性を維持、向上させることをいう。なお、ここではシアン耐性付与は、シアン耐性の付与、維持、向上を含む概念として使用される。
【0036】
本発明のシアン耐性付与は、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき用である。すなわち、本発明のシアン耐性付与は、パラジウムめっき液もしくはパラジウム合金めっき液において混入する場合があるシアンに対する耐性を付与するものである。パラジウムめっきにおいて、シアン耐性が付与できたか否かについては、例えば、本願実施例に記載のハルセル試験により評価することができる。
【0037】
本発明のシアン耐性付与剤は、前記したように、電子求引性置換基および/または電子吸引性の環員ヘテロ原子を有することによる共鳴効果によって芳香族環上に電子不足部位を持つ芳香族化合物からなる。すなわち、電子求引性置換基や電子吸引性ヘテロ原子のような電子吸引性の部位を有することで、芳香族化合物中の芳香族環における共鳴効果により、芳香族環の一部に電子不足部位(δ+又は+)が生ずる。本発明によるシアン耐性付与剤における芳香族化合物は、芳香族環の上の一部に電子不足部位を少なくとも有するものである。
【0038】
本発明におけるシアン耐性は、シアン耐性付与剤における芳香族化合物の化学構造に含まれる電子求引性置換基または電子求引性ヘテロ原子の電子吸引性(もしくは電子供与性)の強弱、および、電子求引性置換基やヘテロ原子が複数存在する場合には、その数を含む強弱により、シアン耐性の有無や強弱が影響されると考えられる。したがって、例えば、電子吸引性が強い置換基やヘテロ原子がより多く芳香族化合物の分子内に存在すれば、シアン耐性は強くなる可能性が高い一方、電子供与性の強い置換基やヘテロ原子がより多く分子内に存在すれば、シアン耐性は弱まる可能性が高くなると考えられる。このため、本発明のシアン耐性付与剤に使用される芳香族化合物を選択する際には、電子求引性置換基および/または電子吸引性の環員ヘテロ原子を有することによる共鳴効果によって芳香族環上に電子不足部位を持つ限りにおいて、該芳香族化合物は、一部に電子供与性の置換基やヘテロ原子を含んでいてもよい。一例を挙げると、塩酸ピリドキノンは、電子供与性の置換基である−OHを分子内に3つ持つものの、それよりもヘテロ原子のNの電子吸引性が強いため、塩酸ピリドキノンは全体としてはシアン耐性を発現しうるものであり、本発明のシアン耐性付与剤における芳香族化合物として使用可能であるといえる。なお、以上は、理論であって本発明を拘束するものではない。
【0039】
よって本発明の好ましい態様によれば、前記芳香族化合物は、
電子求引性置換基を有する芳香族化合物、
電子求引性置換基を有していてもよい、電子求引性ヘテロ原子を有する複素芳香族化合物、または
これらの混合物
のいずれかである。したがって、前記した複素芳香族化合物は、電子求引性ヘテロ原子を有するものであるが、さらに、電子求引性置換基を有していてもよいし、電子求引性置換基を有さないものであってもよい。
【0040】
本発明において、芳香族化合物は、その芳香族環の一部に電子不足部位を少なくとも有するものであれば、例えば、3〜8員の炭素環式もしくは複素環式の化合物であってもよい。本発明の好ましい態様によれば、5若しくは6員の炭素環式化合物、5若しくは6員の複素環式化合物であることができる。ただし、5員環はいわゆるπ過剰系であることから、芳香族化合物が5員環である場合には、電子求引性置換基によって、芳香族環の一部に電子不足部位が有するものとなっていることが望ましい。本発明のより好ましい態様によれば、芳香族化合物は、6員の炭素環式化合物もしくは複素環式化合物である。
【0041】
また本発明において、芳香族化合物は、その芳香族環の一部に電子不足部位を少なくとも有するものであれば、3〜8員の炭素環もしくは複素環が互いに縮合して、例えば二環以上の多環式化合物となっていてもよい。本発明の好ましい態様によれば、5員環もしくは6員環が縮合した、二環式〜六環式の化合物であり、より好ましくは、5員環もしくは6員環が縮合した、二環式もしくは三環式(好ましくは二環式)の化合物であり、さらに好ましくは、6員環が縮合した、二環式もしくは三環式(好ましくは二環式)の化合物である。
【0042】
よって本発明の好ましい態様によれば、本発明のシアン耐性付与剤において、前記芳香族化合物は、6員の炭素環式化合物もしくは複素環式化合物、5もしくは6員の炭素環もしくは複素環が縮合して形成された二環式化合物である。より好ましくは、前記芳香族化合物は、6員の炭素環式化合物もしくは複素環式化合物、2つの6員の炭素環もしくは複素環が縮合して形成された二環式化合物、5員と6員の炭素環もしくは複素環が縮合して形成された二環式化合物である
【0043】
本発明において、芳香族化合物は、例えば、ベンゼン、ナフタレン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、イミダゾリン、ピリジン、ピラン、チアピラン、ピラジン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、ピリミジン、トリアジン、ピリダジン、フタラジン、クマリン、クロモン、ピリリウム、およびピリジニウムからなる群より選択される環状骨格を有する。
【0044】
本発明の好ましい態様によれば、芳香族化合物は、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピラン、チアピラン、ピラジン、チアジン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、プリン、キノリン、イソキノリン、キナゾリン、キノキサリン、シンノリン、プテリジン、クロメン、イソクロメン、ピリミジン、トリアジン、ピリダジン、フタラジン、クマリン、クロモン、ピリリウム、およびピリジニウムからなる群より選択される環状骨格を有する。
【0045】
本発明のより好ましい態様によれば、芳香族化合物は、ベンゼン、ナフタレン、ピリジン、ピラン、ピラジン、チアジン、プリン、クマリン、ピリミジン、トリアジン、ピリリウム、およびピリジニウムからなる群より選択される環状骨格を有する。
【0046】
本発明のさらに好ましい態様によれば、芳香族化合物は、ピリジン、ピラン、ピラジン、プリン、クマリンからなる群より選択される環状骨格を有する。
【0047】
本発明のシアン耐性付与剤において、使用される芳香族化合物が複素芳香族化合物である場合、その複素環は、好ましくは、N、O、およびSからなる群より選択される電子求引性ヘテロ原子を1又は2以上有する。電子求引性ヘテロ原子は、より好ましくは、NおよびOからなる群より選択される
【0048】
本発明の好ましい態様によれば、電子求引性基は、スルホ基(−SO
3H)、スルホアミド基(−SO
3NH
2)、カルボキシ基(−COOH)、アミド基(カルバモイル基)(−CONH
2)、ニトロ基(−NO
2)、アルデヒド基(−CHO)、シアノ基(ニトリル基)(−CN)、ハロゲノ基(ハロゲン)(−X)、2−アミノプロピオン酸(−CH
2C(NH
2)COOH)、アクリル酸、ビニル基、フェニル基、トシル基、メシル基、およびアシル基(−COR)からなる群より選択されるのがよい。
【0049】
ここで、ハロゲノ基(ハロゲン)は、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、またはヨード基であり、好ましくは、クロロ基である。
【0050】
本発明のより好ましい態様によれば、電子求引性基は、スルホアミド基(−SO
3NH
2)、アミド基(カルバモイル基)(−CONH
2)、ニトロ基(−NO
2)、シアノ基(−CN)、ハロゲノ基(ハロゲン)(−X)、および2−アミノプロピオン酸(−CH
2C(NH
2)COOH)、アクリル酸、ビニル基、からなる群より選択されるのがよい。
【0051】
本発明のさらに好ましい態様によれば、電子求引性基は、スルホアミド基(−SO
3NH
2)、アミド基(カルバモイル基)(−CONH
2)、ニトロ基(−NO
2)、シアノ基(−CN)、およびハロゲノ基(ハロゲン)(−X)からなる群より選択されるのがよい。
【0052】
本発明の好ましい態様によれば、芳香族化合物は、ベンゼンスルホンアミド、ベンズアミド、馬尿酸、ニコチン酸、ニコチンアミド、ピリジンスルホン酸、塩酸ピリドキシン、ピラジンカルボン酸、アミノプリン、フェニルアラニン、チロシン、アントラニル酸、イソニコチンアミド、ナフタレントリスルホン酸、クマリン酸、クロロベンゼンスルホンアミド、ジクロロベンゼンスルホンアミド、クロロシアノピリジン、クロロニコチンアミド、ピリジン、ピリジンスルホンアミド、スルホベンズアルデヒドナトリウム、スルホベンズイミド、クマリンからなる群より選択される。
【0053】
本発明のより好ましい態様によれば、芳香族化合物は、ベンゼンスルホンアミド、ベンズアミド、馬尿酸、ニコチン酸、ニコチンアミド、ピリジンスルホン酸、ピラジンカルボン酸、アミノプリン、フェニルアラニン、アントラニル酸、イソニコチンアミド、ナフタレントリスルホン酸、クマリン酸、クロロベンゼンスルホンアミド、ジクロロベンゼンスルホンアミド、クロロシアノピリジン、クロロニコチンアミド、ピリジンスルホンアミド、クマリンからなる群より選択される。
【0054】
本発明のさらに好ましい態様によれば、芳香族化合物は、ベンゼンスルホンアミド、ニコチン酸、ニコチンアミド、ピリジンスルホン酸、ピラジンカルボン酸、フェニルアラニン、アントラニル酸、イソニコチンアミド、ナフタレントリスルホン酸、クマリン酸、クロロベンゼンスルホンアミド、ジクロロベンゼンスルホンアミド、クロロシアノピリジン、クロロニコチンアミド、ピリジンスルホンアミドからなる群より選択される。
【0055】
本発明の別のより好ましい態様によれば、芳香族化合物は、ベンズアミド、馬尿酸、ピラジンカルボン酸、アミノプリン、フェニルアラニン、アントラニル酸、クマリン酸、クロロベンゼンスルホンアミド、ジクロロベンゼンスルホンアミド、クロロシアノピリジン、クロロニコチンアミド、ピリジンスルホンアミドからなる群より選択される。
【0056】
本発明の別のさらに好ましい態様によれば、芳香族化合物は、ピラジンカルボン酸、フェニルアラニン、アントラニル酸、クマリン酸、クロロベンゼンスルホンアミド、ジクロロベンゼンスルホンアミド、クロロシアノピリジン、クロロニコチンアミド、ピリジンスルホンアミドからなる群より選択される。
【0057】
本発明によるシアン耐性付与剤を使用する場合、その使用量(添加量)は、めっき液に混入する可能性のあるシアン濃度に応じて適宜設定することができ、さらにその際には、めっき液に含まれる他の成分、パラジウム濃度、合金めっきである場合には第二金属の種類や濃度、めっき液のpHや陰極電流密度、攪拌強度などのめっき条件も、必要により考慮することが望ましい。例えば、めっき液に混入する可能性のあるシアン濃度が100mg/L以下と予想される場合、シアン耐性付与剤の添加量の範囲は、めっき液に対して、0.005〜0.5mol/L程度とすることができる。
【0058】
したがって、シアン耐性付与剤の使用量は、通常は、0.001〜1mol/Lであり、好ましくは0.005〜0.5mol/Lであり、さらに好ましくは0.01〜0.5mol/Lであり、さらにより好ましくは0.02〜0.5mol/Lである。
【0059】
パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液
前記したように、本発明よるパラジウムもしくはパラジウム合金めっき液は、本発明によるシアン耐性付与剤と、可溶性パラジウム塩とを含んでなる。したがって本発明によるめっき液は、シアン耐性が付与されためっき液であるということができる。
【0060】
ここで、可溶性パラジウム塩とは、水性であるめっき液に対して可溶性であって、かつ、めっき液中にパラジウムイオンを供給することができるものであれば特に制限はないが、例えば、パラジウムのアンミン錯塩の塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫化物、硝酸塩、亜硝酸塩、および亜硫酸塩を好適例として挙げることができる。
【0061】
可溶性パラジウム塩の具体例としては、ジクロロテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4]Cl
2)、ジブロモテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4]Br
2)、ジイオドテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4]I
2)、ジニトライトテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4](NO
2)
2)、ジニトロテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4](NO
3)
2)、サルファイトテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
4](SO
3))、サルフェイトテトラアンミンパラジウム([Pd(NH
3]
4)(SO
4))、のようなテトラアンミンパラジウム化合物;ジクロロジアミンパラジウム([Pd(NH
3)
2Cl
2])、ジブロモジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2Br
2])、ジイオドジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2I
2])、ジニトロジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2(NO
3)
2])、サルファイトジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2(SO
3)])、サルフェイトジアンミンパラジウム([Pd(NH
3)
2(SO
4)])のようなジアンミンパラジウム化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
パラジウムめっき液において、可溶性パラジウム塩の濃度は、例えば、パラジウム量換算で1〜50g/Lに設定することができる。
【0063】
パラジウムめっき液は、電導性電解質など通常のパラジウムめっき液が含むことがある他の成分、界面活性剤、pH調整剤、緩衝剤、分散剤等の任意成分をさらに含んでいても良い。例えば、電導性電解質としては、硝酸塩、塩化物、硫酸塩、しゅう酸塩、酒石酸塩、水酸化物、ホウ酸、ホウ酸塩、および炭酸塩からなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
【0064】
本発明のめっき液が、パラジウム合金めっき液である場合、パラジウム合金めっきは、パラジウムと、ニッケル、コバルト、金、銀、銅、鉄、亜鉛、スズ、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、およびインジウムからなる群より選択される金属との合金めっきであるのがよい。好ましくはこのような金属は、ニッケル、コバルト、金、銀、鉄、亜鉛、およびスズである。
【0065】
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明のシアン耐性付与剤に使用する芳香族化合物を、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液に加えることを含んでなる、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液にシアン耐性を付与する方法が提供される。
【0066】
めっき方法
本発明の別の態様によれば、本発明によるシアン耐性付与剤を、パラジウムもしくはパラジウム合金めっき液に加えためっき浴を用意し、該めっき浴中において、基材を電気めっき処理すること含んでなる、パラジウムめっき方法が提供される。
【0067】
ここで、本発明のパラジウムめっき液を用いてめっき処理を行う場合には、特に制限はなく慣用のめっき処理方法を必要に応じて適用することによって、めっき処理を実施ことができる。
【0068】
例えば、めっき液のpHを5〜9の範囲内に調整する。まためっき液の温度は例えば30〜70℃の範囲内に調整し、めっき処理を行うことができる。
また、めっき処理における陰極電流密度は、例えば、0.2〜50A/dm
2に設定することができる。形成されるパラジウムめっき層の厚みは、必要であれば、適用される電流密度およびめっき時間等により適宜変更することができる。
【0069】
さらに、本発明の別の態様においては、本発明によるめっき液を用いて、基材を電気めっき処理することによって形成された、パラジウムめっき製品が提供される。好ましくはこのめっき製品は前記した本発明によるめっき方法により形成されたものである。
【実施例】
【0070】
以下において、本発明を下記の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
[1] パラジウムめっき液におけるシアン耐性試験
(めっき液)
以下のような組成からなるめっき液を建浴した。
テトラアンミンパラジウム(II)塩化物 5 g/L(Pd量換算として)
硫酸アンモニウム 125 g/L
塩化アンモニウム 75 g/L
【0072】
このめっき液に、シアン化カリウムをシアン濃度換算として、1mg/Lもしくは5mg/Lを加え、ここに、表1に示した各シアン耐性付与剤A1〜A25をそれぞれ加えて、各試験用のめっき浴を調製した。シアン耐性付与剤の添加量は、0.01mol/Lの場合を用意した。また、シアン耐性付与剤を加えないものを、コントロールとして用意した。
【0073】
各めっき浴を用いて、下記のようにしてハルセル試験を実施した。
テストピースとして、株式会社山本鍍金試験器製のハルセル陰極銅板を用いた。
前処理として、50℃にて定電圧でアルカリ陰極電解脱脂を5V×90sを行った後、5vol%硫酸(30℃)で30秒の酸洗を行った。その後、B−53ハルセル(加温型水槽)(株式会社山本鍍金試験器製)を用いて、下記のハルセル試験条件に記載の条件にしたがって、ハルセル試験を行った。
【0074】
(ハルセル試験条件)
電流×時間 1A×150s
温度 50℃
pH 6.5
撹拌速度 600rpm (マグネチックスターラー攪拌)
液量 250ml
【0075】
(シアン耐性の判定)
ハルセル試験後のテストピースは、純水にて洗浄後、乾燥させてから皮膜外観を目視で観察した。なお、本手順において、特に記載が無い場合にも、各工程の間で純水でのテストピースの洗浄を行っている。
【0076】
観察した結果について、下記の基準で評価した。
○: シアンの添加による皮膜外観の悪化(茶褐色の変色)が確認されなかった
×: 茶褐色の変色が確認された
【0077】
(結果)
結果は表1に示される通りであった。
【0078】
【表1】
【0079】
[2] パラジウム合金(パラジウム−ニッケル)めっき液におけるシアン耐性試験
(めっき液)
以下のような組成からなるめっき液を建浴した。
テトラアンミンパラジウム(II)塩化物 16 g/L(Pd量換算として)
塩化ニッケル(II)六水和物 10 g/L(Ni量換算として)
硝酸アンモニウム 140 g/L
塩化アンモニウム 60 g/L
サッカリンナトリウム二水和物 4 g/L
【0080】
このめっき液に、シアン化カリウムをシアン濃度換算として50mg/L加え、ここに、表2に示した各シアン耐性付与剤B1〜B3をそれぞれ加えて、各試験用のめっき浴を調製した。シアン耐性付与剤の添加量は、0.1mol/Lの場合を用意した。また、シアン耐性付与剤を加えないものを、コントロールとして用意した。
【0081】
各めっき浴を用いて、実験条件を下記のようにした以外は、前記[1]のパラジウムめっき液の試験と同様にして、試験を実施した。
【0082】
(ハルセル試験条件)
電流×時間 2A×120s
温度 50℃
pH 8
撹拌速度 300rpm (マグネチックスターラー攪拌)
液量 250ml
【0083】
(シアン耐性の判定)
ハルセル試験後、得られためっき皮膜外観を目視で観察し、その結果を下記の基準で評価した。
○: シアンの添加による皮膜外観の悪化(低電流密度側の黒い変色)が確認されなかった
×: 低電流密度側に黒い変色が確認された
【0084】
(結果)
結果は表2に示される通りであった。
【0085】
【表2】