特許第6189940号(P6189940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189940
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】風力発電装置
(51)【国際特許分類】
   F03D 80/00 20160101AFI20170821BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20170821BHJP
   F03D 7/04 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   F03D80/00
   F03D1/06 A
   F03D7/04 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-512411(P2015-512411)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2014055477
(87)【国際公開番号】WO2015132882
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2015年3月4日
【審判番号】不服2016-6086(P2016-6086/J1)
【審判請求日】2016年4月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】和田 泰孝
(72)【発明者】
【氏名】久保田 晴仁
(72)【発明者】
【氏名】山村 幸政
(72)【発明者】
【氏名】内山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】尾山 圭二
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 寿樹
【合議体】
【審判長】 久保 竜一
【審判官】 藤井 昇
【審判官】 矢島 伸一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第99/50141(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/080316(WO,A2)
【文献】 特開2013−213500(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に放射状に取り付けられた揚力型の風車翼が風を受けて回転することにより発電機を駆動して発電する風力発電装置であって、
前記風車翼の翼背面のうち、前記風車翼の前縁側であって、前記風車翼の長手方向における中央部よりも前記回転軸側の部位のみに、前記翼背面に対して出没可能に設けられる突起部と、
前記翼背面での剥離現象、又は、その前兆現象を検知し、前記突起部を前記翼背面から突出させる制御部と、を備え、
前記制御部は、前記風車翼の長手方向に間隔を開けて複数配置され、前記剥離現象を検知するためのセンサーを有し、
前記センサーによって前記剥離現象、又は、その前兆現象を検知した領域を特定し、当該特定した領域の前記突起部のみを前記翼背面から突出した状態とし、その他の前記突起部を前記風車翼の内部に収容し、前記翼背面を常に開口していない状態とし、前記剥離現象が解消してから所定時間の経過後に、前記突起部を前記風車翼の内部に収容することを特徴とする風力発電装置。
【請求項2】
請求項1に記載の風力発電装置であって、
前記翼背面のうち、当該翼背面から翼腹面までの翼厚が最大となる位置よりも前記前縁側の部位に、前記突起部が設けられていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の風力発電装置であって、
前記制御部は、前記突出部の前記翼背面に対する突出量を調整可能であることを特徴とする風力発電装置。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか一項に記載の風力発電装置であって、
前記制御部は、前記風車翼に対する迎え角を算出し、その結果が閾値以上であれば前記剥離現象が発生していると判断して前記突起部を突出させ、閾値未満になれば前記剥離現象が解消されたと判断して前記突起部を前記風車翼の内に収容する制御を行うことを特徴とする風力発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
揚力型の風車翼を有する風力発電装置では、翼背面を流れる気流の速度が翼腹面を流れる気流の速度よりも速くなることにより、翼背面側に向く揚力が発生する。この揚力により風車翼が回転して発電機が駆動されることにより、風力エネルギーが電気エネルギーに変換される。但し、風車翼が受ける風向き等によっては、翼背面から空気流が離れる剥離現象が発生し、風車翼の回転効率が低下してしまう。そこで、風車翼の前縁(最先端部)に乱流形成促進部(凹凸部)を形成して、風車翼の前縁近傍の層流気流を乱流にすることで、翼背面にて発生する剥離現象を抑制する風車が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−227453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1のように、風車翼の前縁に乱流形成促進部を形成してしまうと、翼背面上の剥離開始地点よりも手前過ぎる地点で乱流が形成されるため、翼背面にて発生する剥離現象を抑制できない虞がある。また、翼腹面を流れる空気流が悪影響を受ける虞がある。
【0005】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであって、風車翼の翼腹面を流れる空気流への影響を抑えつつ、翼背面にて発生する剥離現象を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一つは、回転軸に放射状に取り付けられた揚力型の風車翼が風を受けて回転することにより発電機を駆動して発電する風力発電装置であって、
前記風車翼の翼背面のうち、前記風車翼の前縁側であって、前記風車翼の長手方向における中央部よりも前記回転軸側の部位のみに、前記翼背面に対して出没可能に設けられる突起部と、前記翼背面での剥離現象、又は、その前兆現象を検知し、前記突起部を前記翼背面から突出させる制御部と、を備え、前記制御部は、前記風車翼の長手方向に間隔を開けて複数配置され、前記剥離現象を検知するためのセンサーを有し、前記センサーによって前記剥離現象、又は、その前兆現象を検知した領域を特定し、当該特定した領域の前記突起部のみを前記翼背面から突出した状態とし、その他の前記突起部を前記風車翼の内部に収容し、前記翼背面を常に開口していない状態とし、前記剥離現象が解消してから所定時間の経過後に、前記突起部を前記風車翼の内部に収容することを特徴とする風力発電装置である。
【0007】
このような風力発電装置によれば、風車翼の翼腹面を流れる空気流への影響を抑えつつ、翼背面を流れる空気流が突起部に衝突することで発生する渦(乱流)により翼背面にて発生する剥離現象を抑制することができる。また、翼背面のうち翼先端部側の部位よりも翼根部側(回転軸側)の部位にて多発する剥離現象を抑制することができる。さらに、翼背面にて剥離現象が発生しているときには、翼背面から突起部を突出させることで、剥離現象を抑制することができ、また、翼背面にて剥離現象が発生していないときには、突起部の一部又は全体を風車翼の内部に収容することで、翼背面を流れる空気流の抵抗を小さくすることができる。つまり、剥離現象、又は、その前兆現象を検知した範囲の突起部のみを突出させるので、翼背面にて発生する剥離現象を抑制しつつ、翼背面を流れる空気流の抵抗を出来る限り小さくすることができる。
【0008】
かかる風力発電装置であって、前記翼背面のうち、当該翼背面から翼腹面までの翼厚が最大となる位置よりも前記前縁側の部位に、前記突起部が設けられていることを特徴とする風力発電装置である。
【0009】
このような風力発電装置によれば、翼背面における剥離開始地点よりも上流側に突起部が位置する確率が高まり、翼背面にて発生する剥離現象をより確実に抑制することができる。
【0014】
かかる風力発電装置であって、前記制御部は、前記突出部の前記翼背面に対する突出量を調整可能であることを特徴とする。また、前記制御部は、前記風車翼に対する迎え角を算出し、その結果が閾値以上であれば前記剥離現象が発生していると判断して前記突起部を突出させ、閾値未満になれば前記剥離現象が解消されたと判断して前記突起部を前記風車翼の内に収容する制御を行うことを特徴とする。さらに、前記制御部は、前記風車翼の長手方向に間隔を開けて複数配置され、前記剥離現象を検知するためのセンサーを有することを特徴とする風力発電装置である。
【0015】
このような風力発電装置によれば、翼背面から突出する突起部の高さを低くしたり、突起部の全体を風車翼の内部に収容したりすることで、翼背面を流れる空気流の抵抗を小さくすることができ、風車翼の回転効率の低下を抑制することができる。また、翼背面にて発生する剥離現象を抑制しつつ、剥離現象が発生していないときには翼背面を流れる空気流の抵抗を小さくすることができる。さらに、風車翼の長手方向における剥離現象の発生位置を特定し、剥離現象が発生している領域の突起部のみを翼背面から突出させ、剥離現象が発生していない領域の突起部は風車翼の内部に収容しておくことができる。
【0016】
本発明の他の特徴については、添付図面及び本明細書の記載により明らかとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、風車翼の翼腹面を流れる空気流への影響を抑えつつ、翼背面にて発生する剥離現象を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】風力発電装置の概略斜視図である。
図2】風車翼の平面図である。
図3A図2の線AAにおける風車翼の断面周りの空気流を説明する図である。
図3B図2の線BBにおける風車翼の断面周りの空気流を説明する図である。
図4図2の線BBにおける風車翼の断面図である。
図5】突起部により翼背面に発生する渦を示す図である。
図6A】翼背面に対して突起部を出没させる機構の説明図である。
図6B】翼背面に対して突起部を出没させる機構の説明図である。
図6C】翼背面に対して突起部を出没させる機構の説明図である。
図6D】翼背面に対して突起部を出没させる機構の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、風力発電装置1の概略斜視図である。図2は、風車翼10の平面図である。図3Aは、図2の線AAにおける風車翼10の断面周りの空気流を説明する図であり、図3Bは、図2の線BBにおける風車翼10の断面周りの空気流を説明する図である。図4は、図2の線BBにおける風車翼10の断面図である。図5は、突起部20により翼背面10aに発生する渦を示す図である。
<<風力発電装置1>>
風力発電装置1は、地面等の基礎上に設置されるタワー2と、タワー2の頂部に設置され、発電機3やその回転軸4等を収容するナセル5と、揚力型の3本の風車翼10を有し、水平方向に延びる回転軸4周りに回転するロータ6と、ナセル5に取り付けられた風向風速計7と、を有する。風車翼10は、その長手方向が回転軸4の径方向に沿うように、放射状に取り付けられている。つまり、本実施形態の風力発電装置1は、水平軸揚力型風車を利用した発電装置である。なお、回転軸4の延びる方向は水平方向に限らず、水平方向から傾いた方向であってもよい。また、風車翼10の数は3本に限定されるものではない。
【0020】
以下の説明のため、風車翼10の前縁LE(最先端部)と後縁TE(最後端部)とを結ぶ直線方向を「翼弦方向」と呼び、前縁LEと後縁TEとを結ぶ直線の長さを「翼弦長」と呼び、風車翼10の長手方向及び翼弦方向で形成される面に直交する方向(つまり図2の紙面に垂直な方向)を「翼厚方向」と呼び、翼背面10aから翼腹面10bまでの翼厚方向の長さを「翼厚」と呼び、風車翼10の長手方向における回転軸4側の部位を「翼根部」と呼び、その反対側の部位を「翼先端部」と呼ぶ。
【0021】
風車翼10は、長手方向の全長に亘って翼背面10a及び翼腹面10bが流線形状を成すように形成されている。詳しくは、図4に示すように、前縁LEから後縁TEに向かって徐々に翼厚が厚くなり、位置Pにて最大翼厚となった後、後縁TEに向かって徐々に翼厚が薄くなっている。なお、本実施形態の風車翼10では、翼背面10aを形成する背側部材101の周縁と翼腹面10bを形成する腹側部材102の周縁とが溶接等により接合され、背側部材101と腹側部材102によって風車翼10内に閉空間が形成されている。また、風車翼10では、図2に示すように、翼根部から翼先端部に向かって徐々に翼弦長が減少し、且つ、翼厚が薄くなっている。
【0022】
そして、風車翼10が風を受け、風車翼10の前縁LEから後縁TEへと空気流が流れると、翼背面10a側と翼腹面10b側との空気流の速度差により、翼背面10aの外側に向く揚力が発生する。その結果、風車翼10(ロータ6)が回転軸4と共に回転し、回転軸4の回転力が発電機3に伝達され、発電機3が駆動して発電する。
<<翼背面10aにおける剥離現象>>
風車翼10は、図3に示すように、自然の風による空気流Vwと、風車翼10の回転による空気流Vrと、の合成空気流Vcを受ける。この合成空気流Vcの方向と翼弦方向とで成す角度である迎え角αを大きくする程に、風車翼10の揚力が高まり、風車翼10の回転力が増す。但し、迎え角αが所定角以上になると、翼背面10aに沿って空気流が流れず、翼背面10aから空気流が離れる剥離現象が発生し、風車翼10の揚力が減少してしまう。
【0023】
そのため、風力発電装置では、例えば、風車翼10を回転軸4に対して回動可能に連結し、風向風速に応じて最適な迎え角αとなるように、風車翼10の取り付け角度(ピッチ角)を調整するピッチ制御や、ロータ6が正面から風を受けられるように、風向に応じてロータ6(ナセル35)の向きを変えるヨー制御等が実施されている。しかし、例えば日本の山岳地帯のように、風向風速が激しく変動する地域では、ピッチ制御やヨー制御では対応しきれずに、翼背面10aにおける剥離現象が頻繁に発生してしまうという問題が起こっていた。
【0024】
そして、翼背面10aにおいて剥離現象が発生すると、図3Bに示すように、翼背面10a上の圧力が低下し、負圧領域が形成されてしまう。このため、翼内空間と翼背面10a上とで圧力差が生じ、翼背面10aを外側に引っ張る力が翼背面10a(背側部材101)に掛かってしまう。そうすると、風車の回転が減速されたり、翼背面10aの外形が変形したり、また、本実施形態のように背側部材101と腹側部材102とが接合された風車翼10では前縁LE部分に亀裂が生じたりして、風車翼10が損傷する虞がある。
【0025】
特に、風車翼10の翼根部(図3B)は翼先端部(図3A)に比べ、回転速度が遅く、風車翼10の回転による空気流Vrの速度が遅い。そのため、翼根部は翼先端部に比べ、迎え角αが大きく、ピッチ制御では対応しきれず、また、自然の風の減速(Vw’→Vw)による合成空気流の減速割合(Vc’→Vc)が大きく、風速が減少し易く、剥離現象が発生し易い。また、回転速度が遅い翼根部は翼先端部に比べてレイノルズ数が低い値となり、翼根部の周囲には層流境界層が形成されるため、翼根部では剥離現象が発生し易い状態にあることや、翼厚の薄い翼先端部に比べて翼根部は曲率の大きい断面となっていることなどからも、翼根部は翼先端部に比べ、翼背面10aにおける剥離現象が発生し易いと言える。
<<風車翼10の突起部20>>
本実施形態の風力発電装置1では、翼背面10aにて発生する剥離現象を抑制するために、図2図4に示すように、風車翼10の翼背面10aのうち、風車翼10の前縁側であって、風車翼10の長手方向における翼根部側(回転軸側4)の部位に、突起部20が固定して設けられている。突起部20は、翼背面10aと交差する方向の外部側に向かって、翼背面10aから突出している。
【0026】
なお、翼背面10aとは風車翼10の前縁LEと後縁TEを除く部位である。また、翼背面10aのうちの前縁側の部位とは、風車翼10の翼弦方向における中央部よりも前縁側の部位であり、好ましくは、風車翼10の前縁LEから翼弦長の1/3の長さだけ翼弦方向に沿って後縁TE側に延びた範囲内の部位である。本実施形態では、図4に示すように、翼背面10aのうち、翼背面10aから翼腹面10bまでの翼厚が最大となる最大翼厚位置Pよりも前縁側の部位に、突起部20が設けられている。
【0027】
また、翼背面10aのうちの翼根部側の部位とは、風車翼10の長手方向における中央部よりも翼根部側の部位である。本実施形態では、図2に示すように、風車翼10の翼根部側の端から風車翼10の全長(L)の1/3の長さ(L/3)だけ長手方向に沿って翼先端側に延びた範囲に亘り、複数の突起部20が長手方向に間隔を空けて並んで設けられている。
【0028】
ところで、翼背面10a上を流れる空気流が層流である方が乱流であるよりも剥離現象が発生し易い。乱流境界層では、乱流空気流の渦運動により、高速の乱流空気流と壁面近くのほぼ停止した運動量の小さい空気流が混合され、運動量交換が激しく行われる。このため、壁面近傍の空気へ運動量が供給されて流動が確保されるため、層流境界層よりも剥離しにくい。そのため、本実施形態の風車翼10のように、翼背面10aに突起部20を設けることで、翼背面10a上を流れる空気流が突起部20に衝突し、図5に示すように、翼背面10a上に渦(乱流)を発生させることができ、その渦により、翼背面10a上に乱流空気流を発生させて翼背面10aにて発生する剥離現象を抑制することができる。よって、風車翼10の回転効率の低下を抑えることができる。また、図3Bに示すような翼背面10a上の圧力低下を抑えることができ、翼背面10aを外側に引っ張る力を低減できるため、風車翼10の損傷を抑制することができる。
【0029】
なお、図2図4では突起部20を円柱形状としているが、これに限らない。突起部20により渦(乱流)を発生させることができれば何れの形状でもよく、例えば、三角錐形状や、角柱形状や、長手方向に見た断面が三角形である板形状であってもよい。また、長手方向に並ぶ突起部20の間隔を、各突起部20により形成される渦が互いに干渉しない程度に離すことで、渦の減衰を抑制することができる。また、突起部20の高さは、翼背面10a上の境界層流と翼背面10aから離れた空気流とを混合させることのできる渦が発生する高さに設定するとよい。
【0030】
ここで仮に、風車翼10の前縁LEに突起部を設けたとする。そうすると、翼背面10a上の剥離開始地点から離れた地点で渦(乱流)が発生するため、剥離開始地点では渦が減衰し、翼背面10a上にて発生する剥離現象を抑制できない虞がある。また、風車翼10の前縁LEに突起部を設けると、翼腹面10b側にも渦が流入して悪影響が生じる虞がある。一方、翼背面10aのうち後縁側の部位に突起部を設けたとすると、剥離開始地点よりも下流側の部位、即ち、翼背面10aから空気流が離れた部位に、突起部が位置する確率が高くなる。そうすると、空気流が突起部に当たらないので、突起部により渦を発生させることができず、翼背面10aにて発生する剥離現象を抑制できない。これに対して、本実施形態の風車翼10では、翼背面10aのうち風車翼10の前縁側の部位に突起部20を設けることで、翼腹面10bを流れる空気流への影響を抑えつつ、突起部20による渦発生地点が剥離開始地点の手前過ぎて渦が減衰したり、突起部20が剥離開始地点の下流側に位置して渦を発生させることができなかったりすることを防ぎ、翼背面10aにて発生する剥離現象を抑制することができる。
【0031】
また、一般的に風車翼10の翼根部は翼先端部に比べて断面の曲率が大きく、最大翼厚位置Pを境に翼背面10aの傾斜方向が大きく変わるため、最大翼厚位置Pの近傍にて剥離現象が発生し易い。そのため、本実施形態の風車翼10のように、翼背面10aのうち最大翼厚位置Pよりも前縁側の部位に突起部20を設けることで、翼背面10aにおける剥離開始地点よりも上流側の位置に突起部20が位置する確率が高まる。よって、翼背面10aにて発生する剥離現象をより確実に抑制することができる。
【0032】
また、翼背面10aに設けられた突起部20は、剥離現象を抑制する作用を有する一方で、翼背面10aを流れる空気流の抵抗にもなる。そのため、本実施形態の風車翼10のように、翼背面10aのうち、翼根部側の部位にのみ突起部20を設け、翼先端部側の部位には突起部20を設けないようにするとよい。そうすることで、翼根部にて多発する剥離現象を抑制しつつ、翼先端部を流れる空気流の抵抗を小さくすることができる。また、翼先端部は翼根部に比べて剥離現象が発生し難いため、突起部20を設けなくとも風車翼10の損傷等の虞が少なく、問題ないと言える。
<<突起部20の変形例>>
上記実施例では、翼背面10aに突起部20が固定して設けられている。但し、翼背面10aに設けられた突起部20は翼背面10aを流れる空気流の抵抗にもなる。そのため、翼背面10aに対して突起部20を出没可能にしてもよい。そうすると、翼背面10aにて剥離現象が発生しているときには、翼背面10aと交差する方向における外部側(突起部20が突出する側)に突起部20を移動させ、突起部20を翼背面10aから突出させることで、翼背面10aにて発生する剥離現象を抑制することができる。一方、翼背面10aにて剥離現象が発生していないときには、翼背面10aと交差する方向における風車翼10の内部側に突起部20を移動させ、翼背面10aから突出する突起部20の高さを低くしたり、突起部20の全体を風車翼10の内部に収容したりすることで、翼背面10aを流れる空気流の抵抗を小さくすることができ、風車翼10の回転効率の低下を抑制することができる。
【0033】
図6Aから図6Dは、翼背面10aに対して突起部20を出没させる機構を説明する図である。なお、実際の翼背面10aは曲面となっているが、図6では説明の簡略のために翼背面10aを平面で示す。また、図6に示す機構は一例であり、翼背面10aに対して突起部20を出没可能な機構であれば何れの機構でもよい。また、図6Aから図6Cの突起部20は円柱形状を成し、突起部20の上面が翼背面10aの一部を成している。また、背側部材101には突起部20が挿通可能な孔が形成されている。
【0034】
例えば、図6Aに示す機構は、風車翼10の内部に収容された固定部30と、固定部30に対して上下方向に移動可能な作動軸31と、作動軸31の先端に連結され且つ突起部20が載置された基台32とを有する。翼背面10aにて剥離現象が発生すると、前述の図3Bに示すように翼背面10a上の圧力が低下するため、図6Aに示す機構では、風車翼10の内部の圧力と翼背面10a上の圧力との差を利用して、上下方向(翼背面10aと交差する方向)に突起部20を移動させる。具体的に説明すると、翼背面10aにて剥離現象が発生して翼背面10a上の圧力が低下すると、突起部20は上方に引っ張られて基台32や作動軸31と共に上方に移動して翼背面10aから突出する。なお、この時、基台32と背側部材101との当接により突起部20の移動が規制される。そして、剥離現象が解消して翼背面10a上の圧力が高まると、突起部20は自重により基台32や作動軸31と共に下方に移動して風車翼20の内部に収容される。なお、この時、基台32と固定部30との当接により突起部20の移動が規制され、突起部20の上面と背側部材101の上面とが平坦な面となる。このように、風車翼10の内部の圧力と翼背面10a上の圧力との差を利用して突起部20を出没させることで、突起部20の出没機構を簡素化することができる。また、モーター等を利用しないため省電力化を図ることができる。但し、これに限らず、例えば油圧シリンダ等を利用して、突起部20や作動軸31を上下方向に移動してもよい。
【0035】
また、剥離現象の発生時には、翼背面10aに対する空気流の剥離や再接触が繰り返され、翼背面10a上の圧力変動が激しくなる場合がある。そうすると、短時間の間に突起部20の上下方向の移動が繰り返され、安定的に渦を発生させることができなかったり、出没機構の故障に繋がったりする。そこで、翼背面10a上の圧力低下により突起部20が一度突出されたら、突起部20の突出状態が所定時間保持されるようにしてもよい。又は、剥離現象が解消してからも突起部20の突出状態が所定時間保持されるようにしてもよい。そのために、例えば、図6Aに示すように、基台32を磁性部材とし、基台32と当接する背側部材101の部位に電磁石33を設けるとよい。そうすることで、基台32と背側部材101とが当接してから所定時間が経過するまでの期間は電磁石33をオン状態にして背側部材101に基台32を吸着させ、所定時間の経過後は電磁石33をオフ状態にして背側部材101と基台32との吸着状態を解消することができる。
【0036】
また、図6Aに示す機構に限らず、例えば、図6Bに示すように、偏心カム34と、モーター35と、制御部36とを有する機構でもよい。この場合、制御部36が、例えば翼背面10aでの剥離現象を検知し、モーター35を駆動して偏心カム34を回転させることで、偏心カム34の周縁に当接している突起部20を上方に移動させて翼背面10aから突起部20を突出さることができる。また、制御部36が、例えば翼背面10aでの剥離現象が解消されたことを検知し、モーター35を再び駆動して偏心カム34を回転させることで、突起部20を下方に移動させて突起部20を風車翼10の内部に収容することができる。
【0037】
また、例えば、図6Cに示すように、制御部36と、風車翼10の内部に収容された筐体37と、筐体37内に設けられた電磁ソレノイド38と、バネ39と、作動軸40とを有する機構でもよい。なお、作動軸40は、先端に突起部20が連結された軸部40aと、軸部40aの途中から突出した係止部40bとを有し、バネ39は、係止部40bよりも下方の軸部40aに通されている。この場合、制御部36が電磁ソレノイド38のコイルを消磁することで、バネ39の復元力により作動軸40が上方へ移動し、それに伴って突起部20を翼背面10aから突出させることができる。また、制御部36が電磁ソレノイド38のコイルを励磁することで、バネ39の復元力に打ち勝って作動軸40が下方へ移動し、それに伴って突起部20を風車翼10の内部に収容することができる。
【0038】
また、図6Aから図6Cでは円柱形状である突起部20を例に挙げているが、これに限らず、例えば、図6Dに示すように三角錐形状である突起部20でもよい。但し、その場合、突起部20を風車翼10の内部に収容したときに、突起部20を挿通するために背側部材101に設けられた孔を塞ぐ事ができない。そこで、背側部材101の一部を開閉可能な蓋部材101aとし、突起部20を突出させる際には、蓋部材101aに回転軸35aが接続されたモーター35を回転して蓋部材101aを開き、突起部20を風車翼10の内部に収容している期間は蓋部材101aを閉じておくようにするとよい。
【0039】
また、制御部36が突起部20の移動を制御する場合、制御部36は剥離現象を検知する必要がある。前述のように、迎え角αが大きくなり過ぎると剥離現象が発生するため、例えば、風向風速計7から得られる計測値に基づき迎え角αを算出することによって、剥離現象を検知する方法が挙げられる。具体的には、制御部36が、算出した迎え角αが閾値以上であれば剥離現象が発生していると判断して突起部20を翼背面10aから突出させ、算出した迎え角αが閾値未満になれば剥離現象が解消されたと判断して突起部20を風車翼10の内部に収容する制御を行うようにするとよい。また、より正確に剥離現象を検知するために、ピッチ制御やヨー制御を実施する風力発電装置1の場合には、風向と風速の計測値に加えて、風車翼10の取り付け角度やロータ6の向きも加味して、迎え角αを算出するとよい。
【0040】
また、剥離現象が発生すると、翼背面10a上の圧力が低下する。そのため、翼背面10a上の圧力を計測する圧力センサー(不図示)を翼背面10a上に設け、圧力センサーの計測値に基づき剥離現象の発生や解消を検知するようにしてもよい。また、剥離現象が発生すると、翼背面10aに対する空気流の剥離や再接触が繰り返され、翼背面10a上に振動が生じる。そのため、翼背面10a上の振動を計測する振動センサー(不図示)を翼背面10aに設け、振動センサーの計測値に基づき剥離現象の発生や解消を検知するようにしてもよい。
【0041】
また、風向風速、圧力、振動等の計測値は短時間で変化する場合があり、短時間の間に突起部20の移動が繰り返され、安定的に渦を発生させることができなかったり、出没機構の故障に繋がったりする。そこで、制御部36が、翼背面10aから突起部20を突出させてから所定時間の経過後に、突起部20を風車翼10の内部に収容するようにしてもよい。そうすることで、短時間の間に突起部20の移動が繰り返されてしまうことを防止でき、また、剥離現象の解消を検知する必要がなくなるため制御部36の制御を容易にすることができる。なお、突起部20を翼背面10aから突出させてから風車翼10の内部に収容するまでの所定時間は、突起部20により剥離現象が解消されるまでに要する時間以上とし、計算や経験値等に基づき決定するとよい。又は、制御部36が、剥離現象が解消したことを検知し後も、突起部20を直ぐに風車翼10の内部に収容せずに、剥離現象が解消してから所定時間遅らせたタイミングで突起部20を風車翼20の内部に収容するようにしてもよい。そうすることで、剥離現象が確実に解消された後に突起部20を収容することができる。
【0042】
また、迎え角αや翼背面10a上の圧力や振動のうちの何れか1つのパラメーターに基づき剥離現象を検知するに限らず、複数のパラメーターに基づき剥離現象を検知するようにしてもよい。また、迎え角αや翼背面10a上の圧力や振動等に基づき剥離現象の前兆現象を検知したタイミングで突起部20を翼背面10aから突出させるようにしてもよい。
【0043】
以上のように、翼背面10aにおける剥離現象、又は、その前兆現象が発生すると、突起部20が翼背面10aから突出するようにし、翼背面10aにおける剥離現象が解消された後、突起部20が翼背面10aから突出してから所定時間の経過後、又は、剥離現象が解消してから所定時間の経過後に、突起部20が風車翼10の内部に収容されるようにするとよい。そうすることで、翼背面10aにて発生する剥離現象を抑制しつつ、剥離現象が発生していないときには翼背面10aを流れる空気流の抵抗を小さくすることができる。
【0044】
また、翼背面10aにおける翼根部側の部位において長手方向に並ぶ複数の突起部20を、それぞれ個別に移動可能とし、且つ、剥離現象を検知するための圧力センサーや振動センサーを長手方向に間隔を開けて複数配置してもよい。そうすることで、風車翼10の長手方向における剥離現象の発生位置を特定し、剥離現象が発生している領域の突起部20のみを翼背面10aから突出させ、剥離現象が発生していない領域の突起部20は風車翼10の内部に収容しておくことができる。その結果、翼背面10aにて発生する剥離現象を抑制しつつ、翼背面10aを流れる空気流の抵抗を出来る限り小さくすることができる。
【0045】
また、上記実施例では、長手方向に沿う突起部20の列が1列だけ翼背面10aに形成されているが(図2)、これに限らず、前縁LEから後縁TEにかけて翼背面10aに沿う方向に間隔を空けて突起部20の列を複数並べてもよい。また、最大翼厚位置Pよりも後縁側の部位に突起部20を設けてもよいし、翼背面10aに設ける突起部20を1つにしてもよい。また、翼背面10aの長手方向の全域に亘って突起部20を設けてもよい。
【0046】
以上、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0047】
1 風力発電装置、2 タワー、3 発電機、4 回転軸、5 ナセル、6 ロータ、
7 風向風速計、10 風車翼、10a 翼背面、10b 翼腹面、
101 背側部材、102 腹側部材、20 突起部、30 固定部、31 作動軸、
32 基台、33 電磁石、34 偏心カム、35 モーター、36 制御部、
37 筐体、38 電磁ソレノイド、39 バネ、40 作動軸、
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D