【文献】
Bioresource Technology,2011年 6月,Vol. 102,pp. 7917-7924
【文献】
Microbial Cell Factories,2011年 1月,10:2,pp. 1/13-13/13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
「酵母菌株」という表現は、酵母細胞の比較的均質の集団を示す。酵母菌株は、単一酵母細胞から得られる細胞集団である、クローンの単離から得られる。
【0019】
「外来」遺伝子という用語は、検討中の種の酵母菌株中の天然に存在しない遺伝子を意味する。
【0020】
「内在性」遺伝子という用語は、検討中の種の酵母菌株中の天然に存在する遺伝子を意味する。
【0021】
キシロースイソメラーゼまたはXIは、本明細書において、単一工程において、D−キシロースをD−キシルロースに変換でき、クラスEC5.3.1.5に対応する酵素を示す。
【0022】
キシリトールデヒドロゲナーゼまたはXDHは、本明細書において、単一工程において、キシリトールをD−キシルロースに変換でき、クラスEC1.1.1.9に対応する酵素を示す。
【0023】
キシロースレダクターゼまたはXRは、本明細書において、単一工程において、D−キシロースをキシリトールに変換でき、クラスEC1.1.1.307に対応する酵素を示す。
【0024】
D−キシルロキナーゼまたはXKSは、本明細書において、単一工程において、D−キシルロースをD−キシルロース−5−ホスフェートに変換でき、クラスEC2.7.1.17に対応する酵素を示す。
【0025】
GRE3遺伝子は、クラスEC1.1.1.21に対応するアルドースレダクターゼ酵素をコードする。
【0026】
RPE1遺伝子は、クラスEC5.1.3.1に対応するD−リブロース−5−ホスフェート−3−エピメラーゼ酵素をコードする。
【0027】
RKI1遺伝子は、クラスEC5.3.1.6に対応するリボース−5−ホスフェートケトール−イソメラーゼ酵素をコードする。
【0028】
TKL1遺伝子は、クラスEC2.2.1.1に対応するトランスケトラーゼ酵素をコードする。
【0029】
TAL1遺伝子は、クラスEC2.2.1.2に対応するトランスアルドラーゼ酵素をコードする。
【0030】
原栄養酵母菌株は最小培地で成長できる酵母菌株である。特に、本発明に係る原栄養酵母菌株は、その成長に必要な全てのアミノ酸および塩基を合成できる。
【0031】
最小培地は、炭素源(C
xH
yO
z)、無機窒素源、カリウム源、リン源、糖源、マグネシウム源、カルシウム源、鉄源、微量元素源および水を含む培地である。
【0032】
最小培地の例は、炭素源(例えば糖)および無機窒素源(例えば硫酸アンモニウム)が加えられるYNB(酵母窒素ベース)培地である。
【0033】
YNB培地は、1リットル当たり:2μgのビオチン、400μgのパントテン酸カルシウム、2μgの葉酸、2000μgのイノシトール、400μgのナイアシン、200μgのp−アミノ安息香酸、400μgの塩酸ピリドキシン、200μgのリボフラビン、400μgの塩酸チアミン、500μgのホウ酸、40μgの硫酸銅、100μgのヨウ化カリウム、200μgの塩化第二鉄、400μgの硫酸マンガン、200μgのモリブデン酸ナトリウム、400μgの硫酸亜鉛、1gのリン酸二水素カリウム、500mgの硫酸マグネシウム、100mgの塩化ナトリウム、100mgの塩化カルシウム、5g/lの硫酸アンモニウム、最終pH5.4を含む。
【0034】
「誘導された酵母菌株」という表現は、1回以上の交配によっておよび/または変異によっておよび/または形質転換によって誘導された酵母菌株を示す。
【0035】
交配によって誘導された酵母菌株は、本発明に係る酵母菌株を、同じ酵母菌株、本発明に係る別の酵母菌株または任意の他の酵母菌株と交配することによって得られ得る。
【0036】
変異によって誘導された酵母菌株は、そのゲノムにおいて少なくとも1つの自然突然変異または突然変異誘発によって誘導される少なくとも1つの変異を受けている酵母菌株であってもよい。誘導された菌株の変異はサイレントであってもよく、なくてもよい。
【0037】
「突然変異誘発」という表現は、放射線(例えばUV照射)を照射することによって、または変異原化学物質を使用すること、および挿入によって得られるランダム変異導入、あるいは外来性DNA断片の転位または組み込みによる部位特異的突然変異誘発の両方を示す。遺伝子形質転換によって誘導される酵母菌株は、好ましくはプラスミドによって提供されるDNA配列が組み込まれるか、またはゲノム内に直接組み込まれる酵母菌株である。
【0038】
本発明の目的は、酢酸などの少なくとも1つの発酵阻害因子の存在下でさえも、少なくとも1つのペントース、特にキシロースを代謝できる酵母菌株を提供することである。
【0039】
本発明の目的に関して、キシロースを代謝できる酵母菌株は、嫌気性条件下でキシロースを含む培地中でエタノールを産生できる酵母菌株である。
【0040】
特に、キシロースを代謝できる酵母菌株は、キシロースをエタノールに変換できる、すなわちキシロースを発酵できる酵母菌株である。
【0041】
キシロースのエタノールへの変換はキシロースからキシルロースへの直接または間接の異性化により起こり、続いて、ペントースリン酸経路の非酸化部分において、得られたキシルロースが使用される。
【0042】
本発明の目的に関して、キシロースを代謝できる酵母菌株は、嫌気性条件下で55gのグルコースおよび45gのキシロース/発酵培地(kg)を含む発酵培地中で、60時間でキシロースの少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%をエタノールに変換する酵母菌株である。
【0043】
エタノールに変換されるキシロースの割合を測定するために使用される酵母菌株の接種は、好ましくは0.25gの乾燥物質/発酵培地(kg)である。
【0044】
60時間は発酵培地への酵母菌株の接種から開始して計算される。
【0045】
エタノールに変換されたキシロースの割合を測定するために使用される発酵培地は、好ましくは、合成培地である。
【0046】
合成培地は、正確な化学組成が知られている培地である。
【0047】
本発明に係る合成培地は、炭素源、窒素源、リン源ならびにまた酵母菌株の成長に必須のビタミンおよびミネラルを含む。
【0048】
一つの好ましい実施形態において、エタノールに変換されたキシロースの割合を測定するために使用される発酵培地は、55g/kgのグルコース、45g/kgのキシロース、10g/kgの酵母エキス、10g/kgのペトン(petone)および2000ppmの酢酸を含むYFGX合成培地であり、pHはKOHで5に調整している。
【0049】
YFGX培地中で、酢酸は2000ppmの濃度で存在し、pH5は阻害効果を有さない。
【0050】
発酵は、好ましくは32℃で、適度に撹拌しながら(例えば90rpm)実施される。撹拌は酸素が入らないように穏やかである。
【0051】
培地のpHは、好ましくは、例えば、YFGX培地中の酸/塩基対の緩衝能力、例えば酢酸/酢酸塩緩衝能力によって制御される。発酵培地に存在するエタノールの量は当業者に公知の任意の適切な手段によって測定される。
【0052】
それは、産生されたエタノールの直接測定または質量損失などのエタノール産生と相関するパラメータによる間接測定を含んでもよい。例えば、アルコール産生は、クロマトグラフィーによって、特にHPLC(高速液体クロマトグラフィー)、酵素キット(例えばBoehringer製のエタノールアッセイキット)または重クロム酸カリウムを使用したアッセイによって測定されてもよい。発酵培地に存在するキシロースの量は、当業者に公知の任意の適切な手段によって、好ましくはクロマトグラフィー、特にHPLCによって測定される。グルコースおよびキシロースの両方を含む発酵培地の使用により、評価される様々な酵母菌株に同等である量のバイオマスを使用してキシロースからエタノールへの変換を評価することが可能となる。実際に、酵母菌株は最初にグルコースとキシロース混合物のグルコースを発酵し、次いでグルコースおよびキシロースを発酵する。
【0053】
少なくとも1つの発酵阻害因子の存在下でキシロースを代謝する能力は、前記発酵阻害因子に対する耐性として記載される。
【0054】
本発明の文脈において、発酵阻害因子は、好ましくは、酢酸である。それは、毒性濃度(その毒性およびしたがってその阻害効果の原因となる)と呼ばれる特定の濃度から開始する、酢酸の非電離形態である。例えば、pH4.4における4000ppmの酢酸の濃度は、I−4538酵母菌株などの酢酸に耐性がない菌株に対する毒性濃度である。
【0055】
嫌気性条件下での発酵の間、酢酸の阻害効果は、特に、糖のバイオマスおよびエタノールへの変換の開始の遅延を生じる。酢酸に対する耐性は、本明細書において、糖のエタノールへの変換の開始の遅延時間、すなわちアルコール発酵の開始の遅延時間に関して測定される。時間の関数として産生されたアルコールの量を表すアルコール発酵曲線は一般に3つの段階を含む:
潜伏期、その間、エタノール産生はない、
アルコール産生期、および
定常期、発酵の終了に対応する。
【0056】
アルコール発酵の開始の遅延時間は、本明細書において、アルコール産生率の最大導関数を表す線の起点におけるx軸に対応する。より簡単に言えば、アルコール発酵の開始の遅延時間は、本明細書において、アルコール産生段階の傾きに対応する線の起点におけるx軸に対応する。
【0057】
酢酸に耐性がある酵母菌株は、本明細書において、pH4.4にて4000ppmの酢酸を含む発酵培地中で、30時間未満、好ましくは29時間未満、より好ましくは28時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する酵母菌株と定義される。
【0058】
酢酸に対する耐性を評価するために使用される発酵培地は、好ましくは、合成培地、より好ましくは、YFAc培地である。
【0059】
YFAc培地の組成は以下の通りである:150g/kgのグルコース、5g/kgの酵母エキス、4.7g/kgのDAP(リン酸二アンモニウム)、11.5g/kgのクエン酸、4g/kgの酢酸、13.5g/kgのクエン酸ナトリウム、1ml/kgのTween 80、2ml/kgのZnSO
4(10.6g/lにて)、2.5ml/kgのMgSO
4・7H
2O(400g/lにて)、1ml/kgのチアミン(18.24g/lにて)、1ml/kgのピリドキシン(5.28g/lにて)、1ml/kgのビオチン(1.76g/lにて)、1ml/kgのパントテン酸塩(3.8g/lにて)、2.5ml/kgのニコチン酸(8g/lにて)、1ml/kgのメソイノシトール(50g/lにて)、1ml/kgのリボフラビン(1g/lにて)、1ml/kgのパラ−アミノベンゾエート(1.2g/lにて)、pHはKOHで4.4に調整した。
【0060】
酢酸に対する耐性を評価するために使用される酵母菌株の接種は、好ましくは、0.25gの乾燥物質/発酵培地(kg)である。
【0061】
アルコール発酵曲線の時間t=0は、酵母菌株が発酵培地内に接種される時間に対応する。アルコール発酵は、好ましくは32℃にて嫌気性条件下で、適度に撹拌しながら(例えば90rpm)実施される。撹拌は酸素が入らないように穏やかである。
【0062】
培地のpHは、好ましくは、例えば、YFAc培地中で、酸/塩基対の緩衝能力、例えば酢酸/酢酸塩緩衝能力によって制御される。
【0063】
YFAc発酵培地中で、酢酸に耐性がない酵母菌株は、少なくとも40時間のアルコール発酵の開始の遅延時間を有し得る。
【0064】
本発明者らは、酢酸の存在下でさえ、キシロースのエタノールへの変換に関して効果的である酵母菌株から開始して、キシロースを代謝できる酵母菌株を得ることを目的としている。
【0065】
酢酸に対する耐性の特徴を与える点で改良される開始菌株として選択される、キシロースのエタノールへの変換に関して効果的であるこの酵母菌株は、2011年、10月5日にブダペスト条約の下で、CNCM(National Collection of Microorganism Cultures),25,rue du Docteur Roux,75724 Paris cedex 15,フランスに寄託されたI−4538酵母菌株である。
【0066】
I−4538酵母菌株は、55gのグルコースおよび45gのキシロース/培地(kg)を含むYFGX発酵培地中で60時間で、キシロースの少なくとも90%をエタノールに変換する。しかしながら、I−4538酵母菌株は特に酢酸に感受性があり、それは、pH4.4にて4000ppmの酢酸を含むYFAc発酵培地中で、少なくとも40時間のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する。
【0067】
I−4538酵母菌株は、以下:
− pADH1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの制御下で、クロストリジウム・フィトファーメンタンス(Clostridium phytofermentans)のキシロースイソメラーゼ(XI)をコードする外来性遺伝子の少なくとも1つのコピーの挿入、
− pADH1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの制御下で、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)のキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)をコードする外来性遺伝子の少なくとも1つのコピーの挿入、
− pPGK1プロモーターの制御下に置かれたTAL1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、
− pTDH3プロモーターの制御下に置かれたTKL1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、
− pTDH3プロモーターの制御下に置かれたRPE1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、
− pTDH3プロモーターの制御下に置かれたRKI1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、
− pADH1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの制御下でキシルロキナーゼ(XKS1)をコードする内在性遺伝子の少なくとも1つのコピーの挿入、ならびに
− アルドースレダクターゼをコードするGRE3内在性遺伝子のオープンリーディングフレームの少なくとも1つのコピーの欠失
によって遺伝的に改変された酵母菌株から指向性進化によって得られるサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)株である。
【0068】
I−4538酵母菌株は任意の残存する選択可能マーカーを欠いている。I−4538酵母菌株は、外来性起源のXRをコードする遺伝子も、araA、araBまたはAraD遺伝子も含まない。クロストリジウム・フィトファーメンタンス(Clostridium phytofermentans)のキシロースイソメラーゼ(XI)をコードする外来性遺伝子は、DE102008031350に記載されている最適化された配列の配列番号3の遺伝子である。ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)のキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)をコードする外来性遺伝子は、Genbankにおける参照配列X55392.1の遺伝子である。pADH1、pPGK1およびpTDH3プロモーターはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のプロモーターである。CYC1ターミネーターはサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のプロモーターである。I−4538酵母菌株は異数性である工業的酵母菌株である。I−4538酵母菌株は原栄養である。
【0069】
キシロースを代謝するその能力を実質的に変化させずにI−4538酵母菌株に酸性に対する耐性を与えるために、本発明者らは菌株交配技術を使用することを選択した。
【0070】
本発明者らの知る限りでは、交配技術が遺伝的に改変された異数性酵母菌株を改良するために使用されるのはこれが初めてである。実際に、当業者は、一見したところでは、酵母菌株で開始する場合、交配技術を使用することを想起せず、その酵母菌株は以下のものである:
− プリオリ(priori)が選択された分離個体に形質転換されなければならない、少なくとも8の遺伝子改変を含み、
− 異数体酵母菌株であり、完全な2倍性の非存在下で分離の問題が存在し、
− 指向性進化に関して突然変異誘発のステップを受けており、これにより特に、発芽の問題の原因となる染色体転座の場合、交配に関する困難性の原因となる。
【0071】
したがって、交配は、I−4538酵母菌株と、酸性に耐性があり、遺伝的に改変されていない、すなわちキシロース発酵に必要とされる遺伝機構を有さない酵母菌株との間で実施される。
【0072】
交配のために使用される酢酸に耐性がある酵母菌株はYFAc発酵培地中で14時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する。
【0073】
交配の結果は確実ではなかった:酢酸に対する耐性の特徴は実際にハイブリッドに移されるが、後者はキシロースをエタノールに変換するための開始I−4538酵母菌株よりほとんど効果がなかった。よくても、得られたハイブリッドは、1kgの培地当たり55gのグルコースおよび45gのキシロースを含むYFGX発酵培地中で、60時間でキシロースの40%をエタノールに変換した。本発明者らは、指向性進化によってこれらのハイブリッドのキシロース発酵を改良することを試みたが、さらに失敗に終わった。
【0074】
本発明者らは、したがって、キシロースを効果的に代謝する能力を損失させずに、交配することによって酢酸に対する耐性の特性を移すために、I−4538酵母菌株を、類似の遺伝的背景を有する、すなわちまた、キシロースを代謝することに関して必ずしも効果的ではないが、キシロースを代謝するための遺伝機構を有する、酢酸に耐性がある酵母菌株と交配することが必要であることを実証した。
【0075】
酢酸に耐性があり、また、キシロースを代謝するために遺伝機構を有する、使用される酵母菌株は、2012年5月24日にブダペスト条約の下で番号I−4627として、CNCM(National Collection of Microorganism Cultures),25,rue du Docteur Roux,75724 Paris cedex 15,フランスに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)菌株である。このように、I−4538酵母菌株をI−4627酵母菌株と交配することによって、本発明者らは、キシロースを代謝するのに効果的であり、酢酸に耐性がある酵母菌株を得た。
【0076】
本発明の別の目的は、したがって、番号I−4627としてCNCMに寄託された酵母菌株である。
【0077】
I−4627菌株は、本発明に係る酵母菌株を得るための2つの開始菌株の1つである。
【0078】
I−4627酵母菌株は、酢酸に耐性があり、遺伝的に改変されていない異数性酵母菌株を、遺伝的に改変された異数性酵母菌株と交配するオリジナルの方法によって得られる新規酵母菌株である。
【0079】
I−4627酵母菌株は、したがって、以下のように得られる:
− 酢酸に耐性がある、すなわちYFAc発酵培地中で14時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する酵母菌株の選択、
− 以下:
○ pADH1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの制御下で、クロストリジウム・フィトファーメンタンス(Clostridium phytofermentans)のキシロースイソメラーゼ(XI)をコードする外来性遺伝子の少なくとも1つのコピーの挿入、
○ pADH1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの制御下で、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)のキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)をコードする外来性遺伝子の少なくとも1つのコピーの挿入、
○ pPGK1プロモーターの制御下に置かれたTAL1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、
○ pTDH3プロモーターの制御下に置かれたTKL1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、
○ pTDH3プロモーターの制御下に置かれたRPE1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、
○ pTDH3プロモーターの制御下に置かれたRKI1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、
○ pADH1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの制御下でキシルロキナーゼ(XKS1)をコードする内在性遺伝子の少なくとも1つのコピーの挿入、ならびに
○ アルドースレダクターゼをコードするGRE3内在性遺伝子のオープンリーディングフレームの少なくとも1つのコピーの欠失
によって遺伝的に改変された酵母菌株の選択、
− ハイブリッドを得るために、酢酸に耐性がある前記酵母菌株と、前記遺伝的に改変された酵母菌株との交配、
− I−4627酵母菌株を得るための前記ハイブリッドの指向性進化。
【0080】
I−4627酵母菌株は、pADH1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの制御下で、クロストリジウム・フィトファーメンタンス(Clostridium phytofermentans)のキシロースイソメラーゼ(XI)をコードする外来性遺伝子の少なくとも1つのコピー、pADH1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの制御下で、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)のキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)をコードする外来性遺伝子の少なくとも1つのコピー、pPGK1プロモーターの制御下に置かれたTAL1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、pTDH3プロモーターの制御下に置かれたTKL1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、pTDH3プロモーターの制御下に置かれたRPE1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、pTDH3プロモーターの制御下に置かれたRKI1内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、pADH1プロモーターおよびCYC1ターミネーターの制御下でキシルロキナーゼ(XKS1)をコードする内在性遺伝子の少なくとも1つのコピー、欠失しているアルドースレダクターゼをコードするGRE3内在性遺伝子のオープンリーディングフレームの少なくとも1つのコピーを含む。
【0081】
I−4538酵母菌株に関して、クロストリジウム・フィトファーメンタンス(Clostridium phytofermentans)のキシロースイソメラーゼ(XI)をコードする外来性遺伝子は、DE102008031350に記載されている最適化された配列である配列番号3の遺伝子であり、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)のキシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)をコードする外来性遺伝子は、Genbankにおける参照配列X55392.1の遺伝子である。
【0082】
I−4627酵母菌株は任意の残存する選択可能マーカーを欠いている。I−4627酵母菌株は、外来性起源のXRをコードする遺伝子も、araA、araBまたはAraD遺伝子も含まない。I−4627酵母菌株は工業的酵母菌株であり、異数体ではない。I−4627酵母菌株は原栄養である。
【0083】
I−4627酵母菌株の酢酸に対する耐性は交配するために使用される開始の酢酸耐性酵母菌株のものより低いが、その酢酸に対する耐性は工業用途に広く許容可能である。このように、I−4627酵母菌株は、YFAc発酵培地中で20時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する。キシロースに対する有効性に関して、I−4627酵母菌株は、1kgの培地当たり55gのグルコースおよび45gのキシロースを含むYFGX発酵培地中で60時間、嫌気性条件下で、キシロースの約60%をエタノールに変換する。このように、I−4627酵母菌株は、酢酸に対する耐性を有し、キシロースを代謝するための遺伝機構を有するが、本発明の目的に関してキシロースを代謝できない、すなわちエタノール産生の点で、工業的使用に不適合であるオリジナルの酵母菌株である。
【0084】
したがって、本発明者らは、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るために、I−4538酵母菌株をI−4627菌株と交配した。したがって、本発明の目的は、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るための方法であって、以下の工程:
− 少なくとも1つのハイブリッドを得るために、番号I−4538としてCNCM[National Collection of Microorganism Cultures]に寄託された酵母菌株を、番号I−4627としてCNCMに寄託された酵母菌株と交配する工程と、
− キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るために、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある少なくとも1つのハイブリッドを選択する工程と、
を含む、方法である。
【0085】
上記のように、本発明に係る、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株は以下の特性を有する:
− それは、嫌気性条件下で発酵培地1kg当たり、55gのグルコースおよび45gのキシロースを含むYFGX発酵培地中で60時間で、キシロースの少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%をエタノールに変換し、
− それは、pH4.4にて4000ppmの酢酸を含むYFAc発酵培地中で、30時間未満、好ましくは29時間未満、より好ましくは28時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する。
【0086】
交配する工程は、A.H.RoseおよびJ.S.Harrison,1969−Academic Pressによって編集された、参考文献「The Yeasts」,第1巻のR.R.Fowellによる、第7章「Sporulation and Hybridization of Yeast」に教示されているものなどの従来の技術に従って実施される。
【0087】
本発明に係る酵母菌株を得るための方法の効率を改良するために、I−4538酵母菌株から誘導された分離個体および/またはI−4627酵母菌株から誘導された分離個体で選択を実施することが特に有益である。交配するために使用されるI−4538酵母菌株の分離個体は、好ましくは、キシロースを代謝するそれらの能力に基づいて選択される。交配するために使用されるI−4627酵母菌株の分離個体は、それらの酢酸に対する耐性に基づいて選択される。
【0088】
したがって、本発明の目的は上記のような方法であり、前記交配する工程は以下を含む:
− 少なくとも1つの分離個体Xを得るために、番号I−4538としてCNCM[National Collection of Microorganism Cultures]に寄託された酵母菌株の胞子を形成させる工程、
− 少なくとも1つの分離個体Xによるキシロースからエタノールへの変換を評価する任意の工程、
− 少なくとも1つの分離個体Yを得るために、番号I−4627としてCNCMに寄託された酵母菌株の胞子を形成させる工程、
− 少なくとも1つの分離個体Yの酢酸に対する耐性を評価する任意の工程、
− 少なくとも1つのハイブリッドを得るために、少なくとも1つの分離個体Xを少なくとも1つの分離個体Yとハイブリダイズする工程であって、前記分離個体Xはキシロースからエタノールに変換でき、および/または前記分離個体Yは酢酸に対する耐性を有する、工程。
【0089】
胞子を形成させる工程、キシロースからエタノールの変換を評価する工程および酢酸に対する耐性を評価する工程は、所与の酵母菌株の胞子形成が、その分離個体を評価する前に実施される限り、任意の所望の順序で実施され得る。
【0090】
例えば、本発明の目的は、上記の方法であって、前記交配する工程が、
− 少なくとも1つの分離個体Xを得るために、番号I−4538としてCNCM[National Collection of Microorganism Cultures]に寄託された酵母菌株の胞子を形成させる工程、
− 発酵培地1kg当たり55gのグルコースおよび45gのキシロースを含む前記発酵培地中で60時間、嫌気性条件下で、少なくとも1つの分離個体Xによりエタノールに変換されたキシロースの割合を測定する任意の工程
− 少なくとも1つの分離個体Yを得るために、番号I−4627としてCNCMに寄託された酵母菌株の胞子を形成させる工程、
− pH4.4にて4000ppmの酢酸を含む発酵培地中の少なくとも1つの分離個体Yのアルコール発酵の開始の遅延時間を測定する任意の工程、
− 少なくとも1つのハイブリッドを得るために、少なくとも1つの分離個体Xを少なくとも1つの分離個体Yとハイブリダイズする工程であって、分離個体Xは60時間で、キシロースの少なくとも60%をエタノールに変換し、および/または分離個体Yは、30時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する、工程
を含む。
【0091】
胞子を形成させる工程、エタノールに変換されたキシロースの割合を測定する工程およびアルコール発酵の開始の遅延時間を測定する工程は、この菌株の分離個体に適用される選択パラメータを測定する前に、所与の酵母菌株の胞子形成が実施される限り、任意の所望の順序で実施され得る。
【0092】
I−4538酵母菌株の少なくとも1つの分離個体によってエタノールに変換されたキシロースの割合を測定するために使用される接種は、好ましくは、0.25gの乾燥物質/発酵培地(kg)である。
【0093】
I−4538酵母菌株の少なくとも1つの分離個体によってエタノールに変換されたキシロースの割合を測定するために使用される発酵培地は、好ましくは、YFGX発酵培地である。
【0094】
I−4538酵母菌株の分離個体は、キシロースを代謝することに関して、開始異数性菌株より天然に効果が低い。したがって、キシロースからエタノールへの変換に関して適用される選択基準は、開始I−4538酵母菌株の能力より低い要求である。
【0095】
このように、一つの有益な実施形態において、I−4538酵母菌株の分離個体は、嫌気性条件下で、発酵培地1kg当たり55gのグルコースおよび45gのキシロースを含む前記発酵培地中で60時間で、キシロースの少なくとも60%、好ましくはキシロースの少なくとも65%、さらにより好ましくはキシロースの少なくとも70%をエタノールに変換する場合に選択される。分離個体を選択する工程の時間を最適化するために、短時間にわたって、例えば48時間にわたってI−4538酵母菌株の分離個体によるキシロースからエタノールへの変換を測定してもよい。したがって、別の有益な実施形態において、I−4538酵母菌株の分離個体は、嫌気性条件下で、発酵培地1kg当たり55gのグルコースおよび45gのキシロースを含む前記発酵培地中で48時間で、キシロースの少なくとも60%、好ましくはキシロースの少なくとも65%、さらにより好ましくはキシロースの少なくとも70%をエタノールに変換する場合に選択される。
【0096】
一つの有益な実施形態において、I−4627酵母菌株の分離個体は、pH4.4にて4000ppmの酢酸を含む発酵培地中で、30時間未満、好ましくは29時間未満、より好ましくは28時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する場合に選択される。しかしながら、驚くべきことに、I−4627酵母菌株のほとんどの分離個体は、開始I−4627酵母菌株より酢酸に対して耐性がある。すなわち、それらのアルコール発酵の開始の遅延時間は開始I−4627酵母菌株のものより短い。酢酸に対する耐性に関して適用される選択基準は、したがって、好ましくは、要求が高い。このように、1つの特定の有益な実施形態において、I−4627酵母菌株の分離個体は、25時間未満、好ましくは20時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する場合に選択される。
【0097】
I−4627酵母菌株の少なくとも1つの分離個体のアルコール発酵の開始の遅延時間を測定するために使用される発酵培地は、好ましくは、YFAc発酵培地である。I−4627酵母菌株の少なくとも1つの分離個体のアルコール発酵の開始の遅延時間を測定するために使用される接種は、好ましくは、0.25gの乾燥物質/発酵培地(kg)である。
【0098】
I−4627酵母菌株の分離個体はまた、キシロースをエタノールに変換するそれらの能力で選択されてもよい。しかしながら、驚くべきことに、酢酸に対するそれらの耐性に基づいてのみ選択されるI−4627菌株の分離個体を使用して最適なハイブリッドが得られる。
【0099】
好ましくは、ハイブリダイズする工程は、
− キシロースの少なくとも60%、好ましくはキシロースの少なくとも65%、さらにより好ましくはキシロースの少なくとも70%を60時間、好ましくは48時間でエタノールに変換する少なくとも1つの分離個体Xと、
− 30時間未満、好ましくは29時間未満、より好ましくは28時間未満、より好ましくは25時間未満、さらにより好ましくは20時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する少なくとも1つの分離個体Yと、
で実施される。
【0100】
このように得られたハイブリッドは、次いで、2つの基準:キシロースを代謝するそれらの能力および酢酸に対するそれらの耐性に基づいて選択される。本発明の目的は、より特には、上記の方法であって、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある少なくとも1つのハイブリッドを選択する前記工程が、
− 発酵培地1kg当たり55gのグルコースおよび45gのキシロースを含む発酵培地中で60時間、嫌気性条件下で少なくとも1つのハイブリッドによりエタノールに変換されたキシロースの割合を測定する工程、
− pH4.4にて4000ppmの酢酸を含む発酵培地中で少なくとも1つのハイブリッドのアルコール発酵の開始の遅延時間を測定する工程、
− キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るために、60時間でキシロースの少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%をエタノールに変換し、アルコール発酵の開始の遅延時間が、30時間未満、好ましくは29時間未満、より好ましくは28時間未満である少なくとも1つのハイブリッドを選択する工程を含む、方法である。
【0101】
エタノールに変換されたキシロースの割合を測定する工程およびアルコール発酵の開始の遅延時間を測定する工程の順序は重要ではなく;それらは一方の後で他方が実施されてもよく、一つの方向またはその他で実施されてもよく、あるいは同時に実施されてもよい。キシロースからエタノールへの変換の割合およびアルコール発酵の開始の遅延時間を測定するための条件は上記に定義されている通りである。
【0102】
本発明の目的は、したがって、特に、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るための方法であって、
− 番号I−4538としてCNCM[National Collection of Microorganism Cultures]に寄託された酵母菌株を、番号I−4627としてCNCMに寄託された酵母菌株とを交配する工程であり、前記交配する工程は、
○ 少なくとも1つの分離個体Xを得るために、番号I−4538としてCNCMに寄託された酵母菌株の胞子を形成させる工程と、
○ 発酵培地1kg当たり55gのグルコースおよび45gのキシロースを含む前記発酵培地中で60時間、好ましくは48時間で、少なくとも1つの分離個体Xによりエタノールに変換されたキシロースの割合を測定する工程と、
○ キシロースの少なくとも60%を60時間、好ましくは48時間で、エタノールに変換する少なくとも1つの分離個体Xを選択する工程と、
○ 少なくとも1つの分離個体Yを得るために、番号I−4627としてCNCMに寄託された酵母菌株の胞子を形成させる工程と、
○ pH4.4にて4000ppmの酢酸を含む発酵培地中で少なくとも1つの分離個体Yによるアルコール発酵の開始の遅延時間を測定する工程と、
○ 30時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する少なくとも1つの分離個体Yを選択する工程と
を含む、交配する工程、
− 少なくとも1つのハイブリッドを得るために、キシロースの少なくとも60%を60時間、好ましくは48時間で、エタノールに変換する少なくとも1つの分離個体を、30時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する少なくとも1つの分離個体Yとハイブリダイズする工程、
− キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るために、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある少なくとも1つのハイブリッドを選択する工程であり、前記選択する工程は、
○ 発酵培地1kg当たり55gのグルコースおよび45gのキシロースを含む発酵培地中で60時間、嫌気性条件下で、少なくとも1つのハイブリッドによりエタノールに変換されたキシロースの割合を測定する工程と、
○ pH4.4にて4000ppmの酢酸を含む発酵培地中の前記少なくとも1つのハイブリッドのアルコール発酵の開始の遅延時間を測定する工程と、
○ 60時間でキシロースの少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%をエタノールに変換し、アルコール発酵の開始の遅延時間が30時間未満、好ましくは29時間未満、より好ましくは28時間未満である、少なくとも1つのハイブリッドを選択する工程と、
を含む、選択する工程
を含む、方法である。
【0103】
上記に示すように、交配する工程の順序は重要ではなく、同様に、少なくとも1つのハイブリッドを選択する工程の順序は重要ではない。
【0104】
好ましくは、ハイブリダイズする工程は、
− 60時間、好ましくは48時間で、キシロースの少なくとも60%、好ましくはキシロースの少なくとも65%、さらにより好ましくはキシロースの少なくとも70%をエタノールに変換する少なくとも1つの分離個体Xと、
− アルコール発酵の開始の遅延時間が30時間未満、好ましくは29時間未満、より好ましくは28時間未満、さらにより好ましくは25時間未満、さらにより好ましくは20時間未満である、少なくとも1つの分離個体Yと、
の間で実施される。
【0105】
本発明に係る方法は指向性進化させる工程を任意に含んでもよい。本発明の一つの有益な実施形態において、指向性進化させる工程は、キシロースからエタノールに代謝でき、および/または酢酸に耐性を与える前記ハイブリッドを与えることに関して、上記のようにキシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るための方法の選択する工程の間に選択されていないハイブリッドで実施される。
【0106】
したがってまた、本発明の目的は、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るための上記の方法であり、
− 少なくとも1つのハイブリッドを得るために、番号I−4538としてCNCM[National Collection of Microorganism Cultures]に寄託された酵母菌株を、番号I−4627としてCNCMに寄託された酵母菌株と交配する工程と、
− 少なくとも1つのハイブリッドを指向性進化させる工程と、
− キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るために、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある少なくとも1つのハイブリッドを選択する工程と、
を含む、方法である。
【0107】
指向性進化させる工程は以下のサブ工程を含む:
− 変異体を得るために突然変異を誘発する工程と、
− キシロースおよび/または発酵阻害因子を含む培地中で、低酸素状態下で、循環培養物中で変異体を増殖させる工程。
【0108】
簡略化するために、指向性進化させる工程の終わりに得られる変異体はハイブリッドとして依然として記載している。
【0109】
「低酸素状態下」という表現は、酸素欠乏の状態下を示す。酸素欠乏は空気の20%未満の酸素の割合として本明細書に定義される。突然変異を誘発させる工程は、好ましくは、「適度な」突然変異誘発である。すなわち、254nmにて、100から500J/cm
2、例えば300J/cm
2のUV照射への酵母細胞の曝露によって得られる。これらの条件により、UV照射に供された細胞集団の7%〜16%のみの致死率が生じる。
【0110】
致死率は、炭素源がグルコースである培地のディッシュ上に、突然変異誘発前後の同体積の細胞懸濁液を播種し、増殖の48時間後のコロニーの数を比較することによって測定される。
【0111】
キシロースおよび/または阻害因子を含む培地中の低酸素状態下での循環培養物中の変異体の増幅は、例えば、
a)低酸素状態下、好ましくは32℃にて撹拌しながらの培地中での、突然変異誘発に供された細胞集団の培養、
b)工程a)で得た培養物のある体積、例えば1mlのサンプリングおよびその、工程a)と同じ組成を有する培地中への再接種
を含み、工程a)およびb)は少なくとも3回、好ましくは少なくとも4回、例えば6回、7回または8回繰り返される。
【0112】
発酵阻害因子が、変異体の増殖の間、培地中に存在する場合、その阻害因子は好ましくは酢酸である。本発明の1つの好ましい実施形態において、低酸素状態下での循環培養物中の変異体の増殖は、キシロースを含み、酢酸の非存在下の培地中で実施される。
【0113】
変異体を増殖するための培地は、例えば、7%のキシロースを含む。変異体を増殖するための培地の例は、KOHでpHを4.4に調整した、以下の組成:70g/kgのキシロース、5g/kgの酵母エキス、4.7g/kgのDAP(リン酸二アンモニウム)、11.5g/kgのクエン酸、13.5g/kgのクエン酸ナトリウム、1ml/kgのTween80、2ml/kgのZnSO
4(10.6g/lにて)、2.5ml/kgのMgSO
4.7H
2O(400g/lにて)、1ml/kgのチアミン(18.24g/lにて)、1ml/kgのピリドキシン(5.28g/lにて)、1ml/kgのビオチン(1.76g/lにて)、1ml/kgのパントテン酸塩(3.8g/lにて)、2.5ml/kgのニコチン酸(8g/lにて)、1ml/kgのメソイノシトール(50g/lにて)、1ml/kgのリボフラビン(1g/lにて)、1ml/kgのパラ−アミノベンゾエート(1.2g/lにて)を有するYFX培地である。
【0114】
低酸素状態は、例えば、発酵の間のCO
2産生後の過圧およびエアレーションの非存在に起因して使用される装備(例えば、フラスコまたは発酵槽)における部分的過圧によって得られる。
【0115】
好ましくは、培養a)の期間は、培地のキシロースの全てが消費されるような期間である。培養の期間は、例えば、1週間〜48時間である。培養の数は、例えば、5〜20に変更可能である。
【0116】
1つの好ましい実施形態において、指向性進化させる工程は非呼吸欠損変異体の選択のサブ工程を含む。非呼吸欠損変異体は酸化的代謝の条件下で増殖できる変異体である。特に、非呼吸欠損変異体は、唯一の炭素源としてグリセロールを含有する培地、例えば、20g/kgのグリセロール、5g/kgの硫酸アンモニウムおよび1.7g/kgのYNB(酵母窒素ベース)培地、例えば、Difco製のYNB培地を含む培地中で、30℃にて嫌気性条件下で増殖できる。
【0117】
培地が発酵阻害因子を含まない場合、酢酸を含む培地中の増殖のサブ工程が、培地が依然として酢酸に耐性がある少なくとも1つの変異体を含んでいることを検証するために、循環培養において増殖の特定または各々のサブ工程の後に実施されてもよい。酢酸を含む培地中の増殖の期間は、好ましくは、20時間超であり、75時間未満である。例えば、酢酸を含む培地中の増殖のサブ工程の期間には70時間〜75時間が含まれる。
【0118】
グルコースを含む培地、例えば20g/lのグルコースを含む培地中で培養することによって、適切な増殖率を有する変異体を選択する工程、および適切な増殖率を有する変異体の選択を実施することも可能である。
【0119】
指向性進化させる工程はまた、例えば、キシロースを代謝するその能力、および/または酢酸に対するその耐性をさらに改良するために、上記のようにキシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株を得るプロセスを選択する工程の終わりに選択されたハイブリッドを使用して実施されてもよい。
【0120】
本発明の目的はまた、上記の方法によって得られ得る、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株である。このように、H1酵母菌株は、上記(例えば実施例1)の酵母菌株を得るための方法によって得られた。H1酵母菌株は、YFGX培地中で60時間、嫌気性条件下でキシロースの少なくとも90%をエタノールに変換し、YFAc発酵培地中で22時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する。
【0121】
本発明の目的はまた、特に、上記の方法によって得られる、キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株であり、その酵母菌株は、番号I−4624としてCNCM[National Collection of Microorganism Cultures]に寄託された酵母菌株、番号I−4625としてCNCMに寄託された酵母菌株および番号I−4626としてCNCMに寄託された酵母菌株から選択される。I−4624、I−4625およびI−4626菌株は、ブダペスト条約の下、2012年5月24日にCNCM[National Collection of Microorganism Cultures],25,rue,du Docteur Roux,75724 Paris cedex 15,フランスに寄託されたサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)菌株である。
【0122】
酵母菌株の番号I−4624は、YFGX培地中で60時間、嫌気性条件下でキシロースの少なくとも90%をエタノールに変換し、YFAc発酵培地中で23時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する。酵母菌株の番号I−4625は、YFGX培地中で60時間、嫌気性条件下でキシロースの少なくとも90%をエタノールに変換し、YFAc発酵培地中で23時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する。酵母菌株の番号I−4626は、YFGX培地中で60時間、嫌気性条件下でキシロースの少なくとも90%をエタノールに変換し、YFAc発酵培地中で27時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有する。
【0123】
本発明の目的はまた、同じ特性を共有する本発明に係る酵母菌株から誘導された酵母菌株である。したがって、本発明の目的はまた、本発明に係る酵母菌株から誘導された酵母菌株であり、前記誘導された酵母菌株はキシロースを代謝でき、酢酸に耐性があることを特徴とする。誘導された酵母菌株は上記の定義において定義されている通りである。
【0124】
本発明の目的はまた、上記の酵母菌株を培養することによって、または上記の誘導された酵母菌株を培養することによって得られる酵母である。酵母は、特に、Van Nostrand Reinhold,ISBN 0−442−31892−8によって公開された参考文献「Yeast Technology」,第2版,1991,G.ReedおよびT.W.Nagodawithanaに記載されている、本発明に係る酵母菌株または本発明に係る誘導された酵母菌株を培養することによって得られる。
【0125】
酵母の工業的スケールの増殖は、一般に、以下の工程のセットの少なくとも最初の2つの工程を含む:
− 第1の半嫌気性条件下および第2の嫌気性条件下でのいくつかの段階における酵母菌株の増殖、
− クリーム状酵母が浸透圧調節物質と混合される場合、約12%〜25%の乾燥物質またはさらに多くの量の乾燥物質を含有する液体クリーム状酵母を得るために、その培地から得られた酵母の遠心分離による分離、
− 26%〜35%の乾燥物質を含有する脱水された新鮮な酵母を得るために、一般に、真空下での回転フィルタ上での得られた液体クリーム状酵母の濾過、
− 均質な塊を得るために、前記脱水した新鮮な酵母の混合、
− 以下を得るために、得られた酵母の抽出:
○ 約30%の乾燥物質を含有する新鮮なイーストケーキもしくは砕かれた新鮮な酵母の形状の圧縮された酵母、または
○ 酵母が乾燥されることを意図する場合、粒子、一般に顆粒の形状の酵母
− 任意に、例えば、乾燥酵母を得るために、押し出しによって得られた酵母粒子の流体化によって高温の空気のストリーム中で、保持性様式で乾燥させる工程。乾燥させる工程は、好ましくは、乳化剤の存在下で急速に乾燥させる工程である。乾燥させる工程の間に使用され得る乳化剤は、例えば、約1.0%(乾燥酵母菌株の重量に対する重量)の濃度で使用されるモノステアリン酸ソルビタンが選択されてもよい。本発明に係る酵母は任意の可能な形態で使用されてもよい。
【0126】
例えば、本発明の目的は、上記で定義される酵母であり、その酵母は、クリーム状の酵母、圧縮された酵母、乾燥酵母、急速凍結(deep−frozen)酵母の形態であることを特徴とする。本発明に係る酵母は、培養することによって得られた酵母菌株と同じ特性、すなわち以下を有する:
− 本発明に係る酵母はキシロースを代謝でき、
− 本発明に係る酵母は酢酸に耐性がある。
本発明に係る酵母は、例えば、バイオ燃料または化学工業に意図される、工業的アルコールを産生するのに特に有益である。
【0127】
本発明の目的はまた、発酵培地中で上記に定義される酵母によって嫌気性条件下で発酵する工程を含む、少なくとも1つの発酵産物を産生する方法である。発酵産物は、特に、エタノール、エタノールから得られる代謝産物または二次代謝産物から選択される。本発明に係る好ましい発酵産物はエタノールである。エタノール産物はアルコール発酵によって得られる。当業者はアルコール発酵のための適切な条件を決定する方法を知っている。例として、参照が、Van Nostrand Reinhold,ISBN 0−442−31892−8によって公開された参考文献「Yeast Technology」,第2版,1991,G.ReedおよびT.W.Nagodawithanaに記載されるアルコール発酵条件に対してなされ得る。
【0128】
発酵培地は以下の元素を含む:少なくとも1つの発酵性炭素源、少なくとも1つの窒素源、少なくとも1つの硫黄源、少なくとも1つのリン源、少なくとも1つのビタミン源および/または少なくとも1つの鉱物源。炭素源は、例えば、酵母によって即座に吸収され得る糖、キシロース、グリセロール、エタノールなどのペントースおよび/またはそれらの混合物の形態で提供される。炭素源は、好ましくは、酵母によって即座に吸収され得る糖、およびキシロースによって提供される。酵母によって即座に吸収され得る糖は、例えば、グルコース、フルクトースまたはガラクトース型の単糖、スクロース型の二糖および/またはそれらの糖の混合物である。
【0129】
炭素源は、グルコースシロップ、フルクトースシロップ、糖液、低級流出(low−grade run−off)2(2回目の糖の結晶化から生じる低級流出)、植物物質の全てもしくは一部の加水分解物および/またはそれらの混合物の形態で提供されてもよい。窒素源は、例えば、硫酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、リン酸二アンモニウム、アンモニア、尿素および/またはそれらの組み合わせの形態で提供される。硫黄源は、例えば、硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、硫酸および/またはそれらの組み合わせの形態で提供される。リン源は、例えば、リン酸、リン酸カリウム、リン酸二アンモニウム、リン酸一アンモニウムおよび/またはそれらの組み合わせの形態で提供される。ビタミン源は、例えば、糖液、酵母加水分解物、純粋なビタミン溶液もしくは純水なビタミンの混合物および/またはそれらの組み合わせの形態で提供される。ビタミン源は、参考文献のハンドブックに推奨されているものと少なくとも等価の量でビタミンの全てを酵母に提供する。いくつかのビタミン源が組み合わされてもよい。鉱物源は、例えば、糖液、無機塩の混合物および/またはそれらの組み合わせの形態で提供される。鉱物源は、参考文献のハンドブックに推奨されているものと少なくとも等価の量で多量元素および微量元素の全てを酵母に提供する。いくつかの鉱物源が組み合わされてもよい。同じ物質がいくつかの異なる元素を提供してもよい。
【0130】
本発明の目的は、特に、少なくとも1つの発酵産物、好ましくはエタノールを産生するための上記に定義される方法であって、キシロースおよび/または少なくとも1つの発酵阻害因子を含む発酵培地中で上記に定義される酵母によって嫌気性条件下で発酵する工程を含む、方法である。発酵阻害因子は、例えば、有機酸、フルフラール、HMF(ヒドロキシメチルフルフラール)、1種以上のフェノール化合物および浸透圧から選択される。有機酸は、例えば、酢酸、乳酸、ギ酸およびレブリン酸から選択される。
【0131】
1つの好ましい実施形態において、前記少なくとも1つの発酵阻害因子は酢酸である。浸透圧は、例えば、植物物質の全てまたは一部の加水分解物中に存在する。次いで浸透圧は、特に、前記加水分解物を得るための方法の間に提供される生理食塩水負荷から生じる。発酵培地は上記に定義されている。発酵培地は、好ましくは、少なくとも0.2%のキシロースを含み、パーセントは重量/発酵培地の重量として表す。好ましい発酵培地は2%〜7%のキシロースを含む。
【0132】
本発明の1つの好ましい実施形態において、発酵培地はまた、酵母によって即座に吸収され得る糖、例えばグルコースを含む。発酵培地は、例えば、2%〜7%のキシロースおよび0.5%〜15%のグルコースを含む。1つの好ましい実施形態において、発酵培地はキシロース、グルコースおよび酢酸を含む。
【0133】
本発明の目的は、特に、少なくとも1つの発酵産物、好ましくはエタノールを産生するための上記の方法であり、前記発酵培地は植物物質の全てまたは一部の少なくとも1つの加水分解物を含むことを特徴とする。植物物質の全てまたは一部の加水分解物は、例えば、高温にて、有機酸または溶媒の存在下で植物物質を前処理する工程、任意にその後、糖ポリマーの部分的または全ての酵素および/または化学および/または熱による加水分解によって得られ得る。したがって、植物物質の全てまたは一部の加水分解物は、セルロース、ヘミセルロースおよびデンプンなどの糖ポリマーの加水分解から生じる糖の混合物を含む。発酵培地はまた、植物物質および源の全てまたは一部の加水分解物を含んでもよい。
【0134】
本発明の目的はまた、好ましくは、キシロースおよび/または少なくとも1つの発酵阻害因子を含む発酵培地中で少なくとも1つの発酵産物を産生するための上記に定義される酵母の使用である。発酵産物は上記に定義されている通りである。発酵産物は好ましくはエタノールである。発酵培地は上記に定義されている通りである。発酵阻害因子は上記に定義されている通りである。
【0135】
本発明の他の特徴および利点は、限定されないが、本発明を示し、添付の図面を参照して理解するための以下の例示的な実施形態を読むことでさらにより明確になるであろう。
【実施例】
【0136】
実施例1:キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株の取得
材料および方法
(i)発酵培地
酵母菌株を増殖させるための使用される増殖培地は、10g/kgの酵母エキス、10g/kgのペントースおよび20g/kgのグルコースを含む。以下に記載されるYFGX培地はキシロースからエタノールへの変換を測定するために使用される。以下に記載されるYFAc培地は酢酸に対する耐性を測定するために使用される。以下に記載されるYFGX−Ac培地は、同時にキシロース、グルコースおよび発酵阻害因子である酢酸を含有する培地中で酵母菌株を評価するために使用される。
【0137】
【表1】
【0138】
YFGX培地中で、pH5で2000ppmの酢酸濃度は阻害効果を有さない。他方で、YFGX−Ac培地中で、pH5で8000ppmの酢酸濃度は阻害効果を有する。
【0139】
【表2】
【0140】
(ii)酵母菌株増殖
酵母菌株増殖は2つの工程で実施される:前培養工程後の培養工程。前培養は、上記に定義される5mlの増殖培地中に酵母菌株のループを接種することによって実施される。撹拌することによって通気した培地中での30℃における培養の24時間後、この前培養の2mlを取り除き、50mlの増殖培地中に接種する。この培養は、撹拌によって通気した培地中で30℃にて24時間実施される。キシロースからエタノールへの変換および酢酸に対する耐性はこの培養から生じる酵母細胞で測定される。
【0141】
(iii)キシロースからエタノールへの変換の測定
キシロースからエタノールへの変換を測定するために、上記のように増殖した酵母菌株の0.25gの乾燥物質をYFGX培地1kg当たりに接種した。発酵は穏やかに撹拌しながら嫌気性条件下で32℃にて実施する。エタノールおよびまたキシロースおよびグルコース濃度をHPLCによって測定する。次いで以下の式を使用して、キシロースからエタノールへの変換の程度を得る:
【数1】
式中、[キシロース]
開始は、酵母菌株を接種した時間における培地中のキシロース濃度に対応し、[キシロース]
最終は、60時間(接種から開始)における培地中のキシロース濃度に対応する。
【0142】
(iv)酢酸に対する耐性の測定
酵母菌株の酢酸に対する耐性はアルコール発酵の開始の遅延時間によって測定される。上記に示したように増殖した酵母菌株の0.25gの乾燥物質をYFAc培地1kg当たりに接種した。発酵は穏やかに撹拌しながら32℃にて嫌気性条件下で実施される。エタノール産生は、発酵フラスコの質量の損失を測定することによって間接的に測定され、この質量の損失はアルコール産生と直接相関する。時間の関数として質量の損失を示すアルコール発酵曲線が作成される。x軸と質量の損失の最大導関数との交差点が測定される:これは発酵の開始の遅延時間に相当する。アルコール発酵曲線が、時間の関数として質量の損失の代わりに時間の関数としてアルコール産生を示す場合、質量の損失の最大導関数は、アルコール産生率の最大導関数と同じ結果を与えることに留意すべきである。得られる期間が制限されるほど、発酵の開始の遅延時間はより短くなり、酵母菌株は酢酸に対して、より耐性になる。
【0143】
(v)交配
交配するために使用される開始菌株はI−4538酵母菌株およびI−4627酵母菌株である。
工程1:酵母菌株増殖
開始菌株のループ(−80℃で保存した)を培地Aのペトリ皿の寒天の表面に接種する。培地Aの組成は以下の通りである:10gの酵母エキス、10gのペプトン、20gのグルコース、20gの寒天、pH6.2+/−0.2、水qs1l。次いでペトリ皿を30℃にて24時間接種する。
【0144】
工程2:培地2における胞子形成
以前の培養物のループを培地Bのペトリ皿の寒天の表面に接種する。培地Bの組成は以下の通りである:6.5gの酢酸ナトリウム、15gの寒天、pH6.5〜7、水qs1l。ペトリ皿を25℃にて96時間接種する。次いでディッシュの表面で得たバイオマスを500μlの滅菌水中で収集する。25μlのザイモリアーゼを100μlのこの懸濁液に加える。上清を30℃にて30分間インキュベートし、その後、培地1の寒天ディッシュ上に播種する。4つの切断を好ましくは20分後に実施する。
【0145】
工程3:4つの切断
Singerマイクロマニピュレータを用いて4つに切断し、次いでペトリ皿を30℃にて48時間インキュベートする。
【0146】
工程4:分離個体保存
次いで分離個体を、20%のグリセロールを含む培地1中に−80℃にて保存する。
【0147】
工程5:I−4538酵母菌株分離個体の選択
I−4538酵母菌株分離個体を、キシロースをエタノールに変換するそれらの能力について選択する。キシロース変換は、測定を60時間の代わりに48時間で実施することを除いて、酵母菌株について(ii)で増殖した分離個体を使用して(iii)において測定される。選択した分離個体はキシロースの少なくとも70%を48時間で変換した。選択した分離個体のMatまたはMatアルファ性別型をPCRによって測定する。
【0148】
工程6:I−4627菌株の分離個体の選択
I−4627酵母菌株の分離個体を、酢酸に対するそれらの耐性に基づいて選択する。酢酸に対する耐性は、酵母菌株について(ii)で増殖した分離個体を使用して、(iv)のように評価する。選択した分離個体は、25時間未満の発酵の開始の遅延時間を有する。選択した分離個体のMat aまたはMatアルファ性別型をPCRによって測定する。
【0149】
工程7:ハイブリッドの交配および選択
Matアルファハプロイド分離個体のループを、培地Aのペトリ皿の寒天の表面に接種する。Mat aハプロイド分離個体のループを、Matアルファ菌株の寄託と混合する。培地Aの組成は以下の通りである:10gの酵母エキス、10gのペプトン、20gのグルコース、20gの寒天、pH6.2+/−、水qs1l。次いでペトリ皿を30℃にて24時間接種する。混合物のループを培地Aのペトリ皿の寒天の表面に接種する。この工程を5回繰り返す。最後の接種の間、単離したコロニーを得るために細胞をストリークする。酵母細胞を各々の単離したコロニーから除去し、培養し、それらのゲノムDNAを抽出し、Mat aおよびMatアルファ対立遺伝子が1つおよび同じ酵母細胞中に実際に存在することを検証するためにPCRをこのゲノムDNAで実施する。Mat aおよびMatアルファ対立遺伝子を有する酵母細胞はハイブリッドと呼ばれる。
【0150】
次いで、ハイブリッドを2つの基準に基づいて選択する:キシロースを代謝するそれらの能力および酢酸に対するそれらの耐性。それらを(iii)および(iv)に示すように評価する。選択したハイブリッドは以下の通りである:
− 30時間未満のアルコール発酵の開始の遅延時間を有するハイブリッド、
− 60時間でキシロースの少なくとも60%を変換するハイブリッド。
【0151】
(vi)指向性進化
指向性進化は、UV突然変異誘発、その後の、キシロースが炭素源のみを構成する発酵培地上での濃縮の工程の組み合わせである。
工程1:UV突然変異誘発の間、5%(100gの懸濁液について乾燥物質(g))にて酵母細胞の15mlの懸濁液を9cmのペトリ皿に入れる。次いでペトリ皿を254nmにて300J/cm
2のUV放射線下に置く。
【0152】
工程2:次いで、照射した酵母細胞を、1gの乾燥物質/YFX培地(kg)の量で接種する。32℃での低酸素状態下での96時間の増殖後、100μlの培地を使用して、20g/kgのグリセロール、5g/kgの硫酸アンモニウムおよびDifco製の1.7g/kgのYNB(酵母窒素ベース)培地を含有する50mlのグリセロール培地を接種する。この第2の培養は、嫌気性条件下で、30℃にて48時間、実施する。次いで1mlのこの培養物を取り除いて、170mlのYFX培地に接種する。このサイクルを8回繰り返す。
【0153】
結果
I−4538菌株を、I−4627菌株と交配することによっていくつかのハイブリッドが得られ、それらの中にH1およびH2ハイブリッドがある。本発明の目的に関してキシロースを代謝できないが、酢酸に対する耐性を示すH2ハイブリッドを指向性進化の工程に供する:次いで、I−4624、I−4626およびI−4625酵母菌株のそれぞれに対応するED1、ED2およびED3ハイブリッドを得る。
【0154】
表1は、種々の酵母菌株のYFGX培地中で60時間でエタノールに変換されたキシロースの割合およびYFAc培地中のアルコール発酵の開始の遅延時間(時間)を示す:
− 酢酸に耐性があり、したがってキシロースを代謝できない、非遺伝的に改変された酵母菌株であるAc対照、
− アルコールの産生に非常に効果的であるが、酢酸に耐性がないI−4538開始酵母菌株、
− 本発明の目的に関して、酢酸に耐性があるが、キシロースを代謝できないI−4627開始酵母菌株、
− キシロースを代謝でき、酢酸に耐性がある酵母菌株であるH1ハイブリッド、
− 本発明の目的に関して、キシロースを代謝できないが、酢酸に耐性を示すH2ハイブリッド、
− キシロースを代謝でき、酢酸に耐性があるED1、ED2およびED3ハイブリッド。
【0155】
【表3】
【0156】
さらに、酵母菌株のエタノール産生は、グルコース、キシロースおよび発酵阻害因子として酢酸を同時に含むYFGX−Ac発酵培地中で評価される。本発明に係るH1、ED1、ED2およびED3酵母菌株は、このYFGX−Ac培地中でI−4538親酵母菌株と比較して明確に改良されたアルコール産生を生じる(
図1を参照のこと)。
【0157】
実施例2:本発明に係る酵母菌株を使用した、実際の適用培地中でのアルコール産生
材料および方法
ED1、ED2およびED3酵母菌株のアルコール産生を実際の適用培地中で評価する。I−4538親酵母菌株のアルコール産生もまた、比較により評価する。酵母菌株のアルコール産生の評価は2つの異なる適用培地中で実施する:
− 培地Aは以下を含む:
○ 麦わらを前処理および熱化学的加水分解したバイオマスの固体/液体分離後に得た液相に対応し、主にキシロース(48g/kg)、少量の他の糖およびまた、リグノセルロースバイオマスの生理化学的前処理から生じる発酵阻害因子を含むヘミセルロース物質、ならびに
○ 栄養素(窒素およびリン源)、
− 培地Bは、リグノセルロースバイオマスの加水分解物を模倣するために、グルコースを補足した上記の培地Aに対応し、そのヘミセルロース画分は加水分解され、そのセルロース画分は部分的に加水分解される。
【0158】
培地AおよびBの初期pHはpH5.5に調整される。評価される酵母菌株の1.5g/kgの乾燥物質を発酵槽に接種する。アルコール発酵を35℃にて実施する。発酵はまた、培地Aで32℃にて実施する。
【0159】
結果
32℃および35℃にて培地Aで得た結果をそれぞれ
図2および3に与え、35℃にて培地Bで得た結果を
図4に与える。
図3において、I−4538酵母菌株について、分裂停止期に既に到達しているので、60時間で停止していることに留意すべきである。
【0160】
ED1およびED2ハイブリッドは、I−4538親酵母菌株と比較して32℃にて適用培地Aにおいて実際の利点を示す。ED1、ED2およびED3ハイブリッドは、I−4538親酵母菌株と比較して35℃にて適用培地Aにおいて実際の利点を示す。実際に、エタノール産生は、I−4538酵母菌株について最初の60時間で良好であるが、産生される最大量のエタノールは6.3kg/培地(kg)であるのに対して、ED1、ED2およびED3ハイブリッドでは、10g/kg超の量のエタノールが得られる。ED1およびED2ハイブリッドは、再び、I−4538酵母菌株と比較して35℃にて適用培地B中で実際の利点を示す。ED3ハイブリッドはこの適用培地において少し遅れをとっている。