特許第6189962号(P6189962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6189962相乗作用する美容成分の組み合わせを特定する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6189962
(24)【登録日】2017年8月10日
(45)【発行日】2017年8月30日
(54)【発明の名称】相乗作用する美容成分の組み合わせを特定する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20170821BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20170821BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170821BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20170821BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20170821BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170821BHJP
【FI】
   G01N33/50 Q
   G01N33/15 Z
   A61Q19/00
   A61K8/67
   A61K8/35
   G01N33/50 T
   G01N33/50 Z
   C12Q1/02
【請求項の数】11
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-533321(P2015-533321)
(86)(22)【出願日】2013年10月9日
(65)【公表番号】特表2015-531881(P2015-531881A)
(43)【公表日】2015年11月5日
(86)【国際出願番号】US2013064118
(87)【国際公開番号】WO2014059009
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2015年3月24日
(31)【優先権主張番号】61/711,521
(32)【優先日】2012年10月9日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590005058
【氏名又は名称】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン エリッヒ オブロング
(72)【発明者】
【氏名】ホリー アン ロヴィート
【審査官】 加々美 一恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−505316(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02397125(EP,A1)
【文献】 国際公開第2011/039242(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/059008(WO,A1)
【文献】 Photochemistry and Photobiology,2010年 5月,Vol.86, No.4,第942-948頁
【文献】 Journal of Dermatological Science,2007年 4月,Vol.46, Issue 1,第21-30頁
【文献】 Journal of the American Academy of Dermatology,2009年 3月,Vol.60, Issue 3, Suppliment 1,第AB29頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧品組成物に使用するための有効成分の相乗作用する組み合わせを特定又は評価する方法であって、
a.それぞれ、培地中に入れた皮膚細胞を含む、第1、第2及び第3の試験容器を提供することと、
b.前記第1の試験容器内で、前記皮膚細胞を、少なくとも酸化的リン酸化を改善する第1の被検物質と接触させることと、
c.解糖及び酸化的リン酸化のそれぞれと関連付けられる代謝指標を非致死的に検出して、前記第1の被検物質に対するそれぞれの代謝経路に関する応答を提供すること、
d.前記第2の試験容器内で、前記皮膚細胞を、少なくとも解糖代謝を改善する第2の被検物質と接触させることと、
e.解糖及び酸化的リン酸化のそれぞれと関連付けられる代謝指標を非致死的に検出して、前記第2の被検物質に対するそれぞれの代謝経路に関する応答を提供することと、
f.前記第3の試験容器内で、前記皮膚細胞を前記第1及び前記第2の被検物質の組み合わせと接触させることと、
g.解糖及び酸化的リン酸化のそれぞれと関連付けられる代謝指標を非致死的に検出して、前記第1及び前記第2の被検物質の組み合わせに対するそれぞれの代謝経路の応答を提供することと、
h.前記(g)における応答のうち少なくとも1つが、前記(c)又は(e)における相当する応答に対し相乗的な改善を示す場合に、前記第1及び前記第2の被検物質の前記組み合わせを有効成分の相乗作用する組み合わせとして特定することと、を含み、
前記酸化的リン酸化経路に関連付けられる前記代謝指標が、酸素消費速度で測定され、 前記解糖経路に関連付けられる前記代謝指標が、細胞外酸性化速度を測定することにより検出される、
方法。
【請求項2】
前記改善が、相加作用を上回る、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記皮膚細胞を前記第1又は前記第2の被検物質と接触させる前に、前記第1、前記第2及び前記第3の試験容器の少なくとも1つ内で前記細胞を酸化的ストレッサー又はROSに曝露させることを更に含む、請求項1又は2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記代謝指標が、前記酸化的ストレッサー又は前記ROSに対する曝露から少なくとも1時間後に検出される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化的ストレッサーが、紫外線照射、煙草の煙、オゾン、エンジン排気、ディーゼル排気、煙霧、界面活性剤、及びコンピューターのモニター又はテレビからの放射線からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記皮膚細胞が、ケラチノサイト及び線維芽細胞からなる群から選択され、前記ストレッサーが、紫外線B波及び紫外線A波照射からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記代謝指標の前記検出が、制御環境下で実施される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記皮膚細胞が、線維芽細胞、角化細胞、メラニン産生細胞、脂腺細胞、幹細胞、脂肪細胞、及び神経細胞からなる群から選択される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記相乗作用する組み合わせにおける少なくとも1つの有効成分が、非代謝性効果を提供する、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
皮膚健康効果を提供し、皮膚への局所塗布に好適である化粧品組成物の作製方法であって、前記方法が、
a.請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法による有効成分の相乗作用する組み合わせを特定することと、
b.安全かつ有効な量の前記有効成分を製薬上許容され得る担体に組み込むことと、を含む、方法。
【請求項11】
皮膚の健康を改善する方法であって、
a.スキンケア効果を必要としている皮膚の対象領域を特定すること、
b.請求項10に記載の方法により作製された美容上安全かつ有効な量の化粧品組成物を前記対象領域に塗布することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体的に、パーソナルケア組成物に使用するための有効成分の有効な組み合わせを特定又は評価する方法に関する。より詳細には、本発明は、皮膚細胞に対する酸化的ストレスの影響に有効である有効成分の相乗作用する組み合わせを特定又は評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生命の基本原則として、生物はエネルギーの生成を必要とし、及びエネルギー生成能を有する。ヒトでは食物が摂取され、アデノシン三リン酸(「ATP」)及びニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(「NAD」)などの化合物へと変換される。これらの化合物は、生体の細胞により、生命を維持する生物学的なプロセスを実施するために使用される、エネルギーを貯蔵する。細胞が食品の有用な成分(例えば、炭水化物、脂肪及びタンパク質)を利用可能エネルギーへと変換する代謝経路は複雑であり、完全には理解されていない様式で様々な要因から影響を受ける。哺乳類の皮膚細胞も例外ではない。皮膚細胞が、動的で複雑な関係下で皮膚の健康を維持するよう協調して機能する異なる種類の多様な細胞を含むことは既知である。例えば、角化細胞は、増殖及び分化して継続的な皮膚代謝をもたらす。メラニン産生細胞は、皮膚色素沈着に関係するメラニン合成を提供することが既知である。並びに、線維芽細胞は、皮膚の厚み及び弾性を維持する助けとなる細胞外マトリックス及びコラーゲンを合成することが既知である。同様にして、皮膚又はその他の身体組織において又はその周辺に見られるその他の細胞、例えば、筋細胞、幹細胞、脂腺細胞、神経細胞、及び脂肪細胞などは、いずれも、異なる多様な要因により望ましくない影響を生じ得る複雑な代謝経路に由来するエネルギーを必要とする。
【0003】
多様なストレッサーが、細胞の生体エネルギー、及び細胞老化、並びにその他の疾患(例えば、がん、神経変性疾患、糖尿病、並びに循環器疾患)に影響を与えるという認識が強まっている。疾患状態において変更された代謝に関係する影響のいくつかには、理論上、加齢にまつわるフリーラジカル理論が根底に存在する。すなわち、哺乳類細胞を活性酸素種(「ROS」)に曝露することで、細胞構造及び細胞小器官(ミトコンドリアなど)に損傷が生じる。ROSは、酸素(例えば、酸素イオン及び過酸化物)を含有する高活性の分子である。ROSは、正常な酸素代謝の天然の副生成物として細胞内で天然に生成され、細胞のシグナル伝達及び恒常性維持に関与する。しかしながら、細胞が熱又は紫外線放射などのストレッサーに曝露された場合に、ROS濃度は増加する場合があり、場合によっては劇的に増加する場合がある。
【0004】
ROSの経時的な蓄積により損傷が生じるにつれて、酸化的ストレスが細胞レベルで高くなり、最終的には、組織の損傷及び/又は臓器障害がもたらされる場合がある。細胞に対する酸化的ストレスの影響のうちの1つには、細胞の生体エネルギー論的容量の減少があり、これによりATP及び/又はNAD濃度が減少し得る。ヒト皮膚細胞に対する酸化的ストレスは、視認され得る加齢サインとして現れる場合があることから、これはヒトの皮膚で特に問題となり得る。更に、紫外線(「UV」)及び汚染物質(例えば、煙草の煙、排ガス、オゾン)などの環境的なストレッサーは、ROSの産生レベルを増大させ得る。これにより、時間の経過とともに、皮膚の構造及び形態(例えば、「光損傷」)には視認され得る変化が生じる場合があり、極端な場合には皮膚癌が生じる場合がある。
【0005】
ヒト皮膚細胞は、グルタチオン及びNAD、並びにROSを中和し得る多様な酵素などの酸化還元調節因子を使用して、ROSに対抗する。しかしながら、これらの防衛が、ストレッサーにより誘導されたROSの急増により圧倒され、エネルギー恒常性及び代謝効率において即時的なものだけでなく慢性的な変化がもたらされることで、最終的に細胞機能障害が生じ得る。厄介なことに、ヒトの皮膚に関連する細胞型の多様性及びこれらの細胞の代謝経路の複雑性が、特定の酸化ストレッサー又は酸化ストレッサーの組み合わせへの曝露に関連する老化防止効果に有効な好適な化合物を特定することを難しくしている。特定の酸化ストレッサーは、異なる種類の細胞及び/又は代謝経路に別個に作用する。これが、特定のストレッサー(1つ又は複数)の望ましくない影響に有効である好適なスキンケア有効成分又は有効成分の組み合わせ(作用は、細胞型又は代謝経路に応じて多岐にわたって変化し得る)を選択することを難しくする。細胞に対する酸化的ストレスの影響を予防、低減及び/又は逆転する有効成分を特定することは望ましいものである一方、協調して作用して、単一の有効成分の使用を上回る利益を提供する有効成分の組み合わせを特定することは更により望ましい。このような作用は、しばしば相乗作用と呼ばれる。酸化的ストレスの影響に単独で有効に作用するスキンケア有効成分を特定することは困難であり得るが、相乗作用するスキンケア有効成分を迅速に及び/又は効率的に特定することも非常に厄介となり得る。したがって、スキンケア有効成分が相乗作用し、各種酸化的ストレッサー、特に、日常的な環境的ストレッサーと関連付けられる望ましくない代謝による影響に有効である組み合わせを特定する方法が、長年にわたって必要とされている。
【0006】
スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを発見する第1の工程として、ストレッサー及び有効成分により細胞内代謝において生じる変化を検出し得る方法が特定される必要がある。細胞のエネルギー生成プロセスを評価するための各種方法が既知である。例えば、酸素消費量の測定にはクラーク型電極プローブが既知である。クラーク電極は、動的情報(すなわち、応答速度)を提供するものの、酸素の連続的な消費により、測定チャンバ内の細胞又は単離されたミトコンドリアに対する酸素圧が低下しているように示すアーティファクト(すなわち、試験結果に影響する何らかの望ましくない及び/又は外来性の要因)がもたらされる。酸素消費量はミトコンドリア機能の指標をもたらし得るものの、細胞の生体エネルギーの一成分のみを測定し、生体エネルギー的な平衡、すなわち解糖に関与する他の代謝経路の評価は提供しない。
【0007】
細胞のエネルギー産生を評価する別の従来法は、細胞中のATP量を測定するものである。全体的なエネルギー代謝を定量するための発光ATPアッセイキットが市販されている。ATPアッセイは比較的高感度であることが知られているものの、細胞は固有の必要ATPを維持し、ひいては代謝を調節するよう働くことから、ミトコンドリア機能の理想的な定量法ではない。したがって、ATP濃度の変化は、通常、病態生理的な変化中にのみ検出され得る。加えて、ATPの定量は破壊的であり(すなわち、細胞はATPの量を測定する目的で破壊される)、それらは動態情報を欠く。更に、瀕死細胞又は死細胞中に存在する残留ATP由来のアーティファクトが報告されている。クラーク電極定量法と同様、ATPでは、全ATP産生量に対する各代謝経路の相対的な貢献度を求めることはできない。
【0008】
細胞エネルギーを評価するための更に別の従来法は、市販のMTT/XTT又はalamarBlue(商標)キットによるものである。これらのキットは、細胞の健康を評価するための比較的簡単な方法を提供するものの、ATPアッセイほど高感度ではない。加えて、細胞毒性により、測定されるべき多様なパラメータに誤差がもたらされることが報告されている。更に、いずれのアッセイも破壊的であり、動態情報を提供しない。
【0009】
したがって、皮膚細胞に対する望ましくない酸化ストレスを軽減、予防及び/又は逆転する有効成分の有効な組み合わせ特定及び/又は評価する方法を提供することは望ましいものであり得る。前述の方法により特定されたスキンケア有効成分を含有するスキンケア組成物を提供することも望ましい。更に、特定のストレッサーに関する酸化的ストレスの影響により損傷を受けた皮膚を処置する方法を提供することも望ましい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題に対する解決策を提供する目的において、本開示は、パーソナルケア組成物に使用するための有効成分の相乗作用する組み合わせを特定又は評価する方法である。方法は、(a)それぞれ、培地中に入れた細胞を含む、第1、第2及び第3の試験容器を提供することと、(b)第1の試験容器内で、細胞を第1の被検物質と接触させることと、(c)第1の試験容器内で、解糖代謝経路及び酸化的リン酸化代謝経路のそれぞれと関連する代謝指標を非致死的に検出して、第1の被検物質に対するそれぞれの代謝経路の応答を提供することと、(d)第2の試験容器内で、細胞を第2の被検物質と接触させることと、(e)第2の試験容器内で、細胞の解糖及び酸化的リン酸化代謝経路のそれぞれと関連する代謝指標を非致死的に検出して、第2の被検物質に対する各代謝経路の応答を提供することと、(f)第3の試験容器内で、細胞を第1及び第2被検物質の組み合わせと接触させることと、(g)第3の試験容器内で、細胞の解糖代謝経路及び酸化的リン酸化代謝経路のそれぞれと関連する代謝指標を非致死的に検出して、第1及び第2の被検物質に対するそれぞれの代謝経路の応答を提供することと、(h)(g)における解糖及び酸化的リン酸化代謝経路応答のうち少なくとも1つに関する応答が、(c)又は(e)における同様の代謝経路に関する相当する応答に対し改善されている場合に、第1及び第2の組成物の組み合わせを、有効成分の効果的に相乗作用する組み合わせとして特定することと、を含む。
【0011】
いくつかの実施態様では、方法は、(a)第1の培地内に配置された第1の種類の細胞を含む第1の試験容器、及び第2の培地内に配置された第2の種類の細胞を含む第2の試験容器を提供することと、(b)第1の種類の細胞及び第2の種類の細胞の解糖代謝経路及び酸化的リン酸化代謝経路のそれぞれに関する基礎値を提供することと、(c)第1及び第2の種類の細胞を、第1の被検物質及び第2の被検物質の組み合わせと接触させることと、(d)第1及び第2の種類の細胞の解糖及び酸化的リン酸化代謝経路のそれぞれと関連する代謝指標を非致死的に検出して、第1及び第2被検物質の組み合わせに対するそれぞれの代謝経路の応答を提供することと、並びに(e)第1及び第2の種類の細胞のそれぞれの解糖及び酸化的リン酸化代謝経路のうち少なくとも1つの応答が、相当する基礎値を上回る改善を示す場合に、第1及び第2の被検物質の組み合わせを、有効成分の効果的な組み合わせとして特定することと、を含む。
【0012】
いくつかの実施態様では、方法は、(a)それぞれ、培地中に入れた細胞を含む、第1、第2及び第3の試験容器を提供することと、(b)第1試験容器内で、前記細胞を第1被験物質と接触させることと、(c)第1の試験容器内で、解糖代謝経路及び酸化的リン酸化代謝経路のそれぞれと関連する代謝指標を非致死的に検出して、第1の被検物質に対するそれぞれの代謝経路の応答を提供することと、(d)第2の試験容器内で、細胞を第2の被検物質と接触させることと、(e)第2の試験容器内で、細胞の解糖及び酸化的リン酸化代謝経路のそれぞれに関連する代謝指標を非致死的に検出して、第2の被検物質に対するそれぞれの代謝経路の応答を提供することと、(f)第3の試験容器内で、細胞を第1及び第2被検物質の組み合わせと接触させることと、(g)第3の試験容器内で、細胞の解糖代謝経路及び酸化的リン酸化代謝経路のそれぞれに関連する代謝指標を非致死的に検出して、第1及び第2の被検物質の組み合わせに対するそれぞれの代謝経路の応答を提供することと、(h)(g)における解糖及び酸化的リン酸化代謝経路のうち少なくとも1つの応答が(c)及び(e)における同様の代謝経路の応答を上回らず、かつ第1及び第2の被検物質のうちの少なくとも1つが、第1及び第2の被検物質の他方を上回る非代謝的効果が提供される場合に、有効成分の効果的な組み合わせとして第1及び第2の被検物質を特定することと、を含む。
【0013】
いくつかの実施態様では、スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを含む、パーソナルケア組成物が記載され、組成物は、(a)皮膚科学的に許容可能な担体と、(b)第1の有効成分として、安全かつ有効な量のナイアシンアミドと、(c)第2の有効成分として、安全かつ有効な量のトコキノンと、を含み、安全かつ有効な量のナイアシンアミド及びトコキノンの組み合わせは、ストレッサーへの曝露の結果として酸化的ストレスを被っている皮膚細胞の解糖及び酸化的リン酸化代謝のうち少なくとも1つを改善し、有効成分単独の使用を上回る相乗的な利益を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】角化細胞の酸素消費速度を示す。
図1B】角化細胞の酸素消費速度を示す。
図1C】角化細胞の酸素消費速度を示す。
図2】角化細胞の酸素消費速度を示す。
図3A】角化細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図3B】角化細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図3C】角化細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図4】角化細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図5A】線維芽細胞の酸素消費速度を示す。
図5B】線維芽細胞の酸素消費速度を示す。
図5C】線維芽細胞の酸素消費速度を示す。
図5D】線維芽細胞の酸素消費速度を示す。
図5E】線維芽細胞の酸素消費速度を示す。
図6】線維芽細胞の酸素消費速度を示す。
図7A】線維芽細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図7B】線維芽細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図7C】線維芽細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図7D】線維芽細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図7E】線維芽細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図8】線維芽細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図9】線維芽細胞の細胞外酸性化速度を示す。
図10】線維芽細胞の酸素消費速度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
全ての百分率は、特に記載のない限り、パーソナルケア組成物の重量による。全ての比率は、特に記述のない限り、重量比である。全ての数範囲は、より狭い範囲を包含し、表現された上方及び下方範囲の限界値は互換可能であって、明示されていない範囲を更に作成する。有効数字の数は、指示されている量を限定するものでもなく、測定の精度を限定するものでもない。全ての測定は、約25℃及び周囲条件で行われると理解され、ここで「周囲条件」とは、約0.1メガパスカル(約1気圧)及び相対湿度約50%という条件を意味する。
【0016】
定義
「相加作用」は、有効成分の組み合わせにより提供される効果が、それらの個々の効果の合計と等しい又は実質的に等しいことを意味する。例えば、相加作用は、第1の有効成分が、単独で使用した場合に、酸素消費速度において10%の改善をもたらし、かつ第2の有効成分が、単独で使用した場合に、酸素消費において20%の改善をもたらし、組み合わせて使用した場合にの酸素消費速度に対し30%の改善が提供される場合に、実証される。本例において、「相加作用を超える」は、第1及び第2の有効成分の組み合わせが酸素消費速度を30%超改善する場合に記載される。
【0017】
「美容上」は、人体の領域に所望の外観上の効果をもたらすことを意味する。外観上の美容効果は、一時的、半永久的、又は永久的なものであり得る。「化粧品」のいくつかの非限定例としては、ファンデーション、マスカラ、コンシーラー、アイライナー、アイブロウ、アイシャドウ、頬紅、口紅、リップクリーム、フェイスパウダー、固形エマルションコンパクトなどといった、顔に色を乗せる製品が挙げられる。
【0018】
「皮膚科学的に許容可能な」は、皮膚科学的に許容可能であると記述されている組成物又はそれらの成分が、過度の毒性、不適応性、不安定性、アレルギー反応などを有さず、ヒトの皮膚と接触させて用いるのに適していることを意味する。
【0019】
「異なる細胞型」は、細胞が、意図される生物学的機能において、互いに異なっていることを意味する。互いに異なる細胞型の例としては、線維芽細胞、角化細胞、メラニン産生細胞、筋細胞、脂腺細胞、及び脂肪細胞が挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
「配置される」とは、別の要素に対して特定の場所に位置付けされることを意味する。
【0021】
「非致死的」は、試験又は観察する細胞を殺傷又は破壊することを意図しない試験方法を意味する。例えば、代謝指標の非致死的な検出は、検出後に細胞の少なくとも75%が生存することを意味する(例えば、細胞の80%、85%、90%、95%又は更には99%以上が生存したままである)。理想的には、非致死的試験後には100%の細胞が生存するものの、ある程度の細胞破壊は不可避であり得ること及び/又は試験とは無関係に生じ得ることが認識される。
【0022】
「酸化的ストレッサー」は、細胞において望ましくない活性酸素種の形成をもたらす環境要素を意味する。酸化的ストレッサーのいくつかの非限定例としては、紫外線、煙草の煙、オゾン、エンジン排気、ディーゼル排気、煙霧、界面活性剤、及びコンピューターのモニター又はテレビからの放射線が挙げられる。
【0023】
「パーソナルケア組成物」とは、哺乳類の皮膚に対する局所適用に関して好適な組成物を意味する。本願のパーソナルケア組成物は、スキンケア、化粧及びヘアケア製品に使用され得る。その非限定的用途としては、制汗剤、脱臭剤、ローション(例えば、ハンドローション及びボディローション)、スキンケア製品(例えば、フェイス及びネックローション、美容液、スプレー)、サンレスタナー、化粧品(例えば、ファウンデーション、コンシーラー、ブラシ、リップスティック、リップグロス)、脱毛剤、シャンプー、コンディショニングシャンプー、ヘアコンディショナー、毛髪染料、ボディウォッシュ、加湿ボディウォッシュ、シャワーゲル、皮膚クレンザー、クレンジングミルク、ヘア及びボディウォッシュ、インシャワーボディモイスチャー、ペットシャンプー、剃毛調剤、アフターシェーブ、かみそり加湿/潤滑ストリップ、かみそりシェーブゲルバー、固形石鹸、洗浄製品、女性用ケア製品、口腔ケア製品及び乳児ケア製品が挙げられる。上記組成物の使用方法もまた、パーソナルケア組成物の意味の中に含まれる。
【0024】
「皮膚の状態を制御する」は、外観及び/又は感触における劣化が僅かであるようあるいは全く存在しないよう皮膚の外観及び/又は感触を維持することを意味する。
【0025】
「安全かつ有効な量」は、望ましい効果、好ましくは、本明細書に開示される効果を個別に又は組み合わせて包含する、皮膚又は感触に対する望ましい効果を明白にもたらすために十分な量で、但し深刻な副作用を防ぐ(すなわち、当事者の通常の判断の範囲内で妥当な効果対リスク比を提供する)ためには十分に少ない、化合物又は組成物の量を意味する。
【0026】
「皮膚」は、角化細胞、線維芽細胞及びメラニン産生細胞などの皮膚細胞から構成され、哺乳類の最外保護被覆を意味する。皮膚は、外側の表皮層及びその下の真皮層を含む。皮膚には、毛髪及び爪、並びに一般に皮膚に関連付けられる、例えば、筋細胞、メルケル細胞、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、幹細胞、脂腺細胞、神経細胞及び脂肪細胞などのその他の種類の細胞も含まれる。
【0027】
「スキンケア」は、皮膚の状態の制御及び/又は改善を意味する。いくつかの非限定例としては、滑らかでより均一な外観及び/又は感触を提供することによる皮膚の外観及び/又は感触の改善、1つ以上の皮膚層の厚みの増加、皮膚の弾性又は弾力性の改善、皮膚の硬さの改善、並びに皮膚外観の油っぽさ、てかり、及び/又はくすみの低減、皮膚の水和状態又は保湿の改善、小じわ及び/又はしわの外観の改善、皮膚の剥脱又は剥離の改善、皮膚をふっくらさせる、皮膚バリア特性の改善、皮膚の色調の改善、赤み又は皮膚のしみの外観の低減、並びに/あるいは皮膚の輝き、艶、又は透明感の改善が挙げられる。「スキンケア製品」のいくつかの非限定例としては、肌用クリーム、保湿剤、ローション剤、及びボディウォッシュが挙げられる。
【0028】
「スキンケア組成物」は、皮膚の状態を制御及び/又は改善する組成物を意味する。
【0029】
「スキンケア有効成分」は、皮膚に適用した場合に、即時的及び/又は持続的な効果を、皮膚又は一般に皮膚において見られる細胞型にもたらす化合物又は2つ以上の化合物の組み合わせを意味する。スキンケア有効成分は、皮膚又は皮膚に関連する細胞を制御及び/又は改善し得る(例えば、皮膚の弾性を改善する、皮膚の水和を改善する、皮膚の状態を改善する、並びに細胞の代謝を改善する)。
【0030】
「相乗効果」及びそれらの類語は、2つ以上の有効成分の組み合わせが、細胞の代謝(例えば、解糖又は酸化的リン酸化)を改善し、有効成分の単独の使用を上回る利益(例えば、生物学的及び/又は経済的)を提供することを意味する。いくつかの実施態様では、相乗効果は、有効成分の組み合わせを協調作用させて、組み合わせにより通常提供されるものと予測されるものを越えて細胞の代謝が改善されることにより実証され得る。例えば、相加作用をもたらすことが予想される有効成分の組み合わせが、そうではなくその代わりに相加作用を超える効果をもたらす場合、この組み合わせは相乗的であると考えることができる。同様にして、相加作用未満をもたらすことが予想される有効成分の組み合わせが、そうではなくその代わりに相加作用をもたらす場合、この組み合わせは相乗的であると考えることができる。いくつかの実施態様では、相乗作用は、異なる代謝経路(例えば、解糖及び酸化的リン酸化)に対し作用して、いずれかの有効成分を単独で作用させたものを超過して全体的な細胞代謝を改善する有効成分の組み合わせにより実証され得る。いくつかの実施態様では、相乗作用は、それぞれ異なる種類の細胞(例えば、角化細胞及び線維芽細胞)に作用して、この種類の細胞の代謝を改善することにより、皮膚の全体的な健康を改善する有効成分の組み合わせにより実証され得る。一部の実施態様では、相乗作用は、細胞の代謝及び/又は代謝経路の改善に関し互いに阻害しない有効成分の組み合わせにより実証され得る。いくつかの実施形態では、相乗作用は、有効成分の組み合わせにより実証され、組み合わせ中の全ての有効成分は代謝効果をもたらし、少なくとも1つの有効成分は非代謝効果(例えば、経済的、製剤、制御及び/又は安全効果)をもたらす。
【0031】
「局所塗布」は、本発明の組成物をケラチン組織の表面に塗布する又は広げることを意味する。
【0032】
ヒトの加齢に伴い、身体の細胞に対し、外的及び内的ストレッサー由来の損傷(すなわち、酸化的ストレス)が蓄積され、組織及び器官の効率及び機能の低下がもたらされ得る。細胞がエネルギーを産生する能力の低下として酸化的ストレスが現れるのは一般的ではない。スキンケア有効成分は、皮膚に対する酸化的損傷の影響を減少、停止、又は更には逆転させることが知られている。しかしながら、細胞の代謝経路及び/又は皮膚において見られる異なる細胞型の数の複雑性に起因し、新しい及び/又はより良好なスキンケア有効成分を特定することは困難である。驚くべきことに、ある種の酸化的ストレッサーは、これまでに真価を認められていなかった経路で、ある種の皮膚細胞型の生体エネルギーに影響を与えることが判明している。この新しい知見を使用して、皮膚細胞に対する酸化的ストレスに関する望ましくない代謝効果に有効であるスキンケア有効成分の有効な組み合わせを特定することもでき、これにより改善されたスキンケア組成物、有効成分の組み合わせのより効果的な特定方法、及び/又はスキンケアのより全人的なアプローチを導くことができる。したがって、本願の新規方法は、これまでは真価を認められていなかった方法で、酸化的ストレッサーに関する代謝への望ましくない影響に有効に作用するスキンケア有効成分の有効な組み合わせを特定する、便利でかつ精確な方法を提供する。
【0033】
本明細書におけるいくつかの例は、紫外線と併せて角化細胞及び線維芽細胞などの皮膚細胞を目的とする。方法は、所望される通りの任意のストレッサーと組み合わせて任意の種類の細胞とともに使用するのに非常に有利なものとなるよう調整することができることは評価される。
【0034】
哺乳類細胞がエネルギーを産生するために重要な2つの代謝経路は、酸化的リン酸化(「oxphos」)経路及び解糖経路である。いずれの経路も、ほとんどの哺乳類細胞内で健康的なエネルギー平衡を維持するのに必要とされる。酸化的リン酸化は、電子供与体から電子受容体(酸化還元反応における酸素などの)への電子の移動に関与し、これによりATPの生成に使用されるエネルギーの放出が生じる。哺乳類では、ミトコンドリア膜内の一連のタンパク質複合体より酸化還元反応が実施され、この連結しているタンパク質セットは電子伝達系と呼ばれる。電子がこの電子伝達系を通過することにより放出されたエネルギーを利用して、ミトコンドリア膜を通過して化学浸透と呼ばれるプロセスでプロトンが輸送され、これにより膜を介してpH勾配及び電位の形態で位置エネルギーが生成される。ATP合成酵素として一般に知られる酵素は、位置エネルギーを利用してATPを生成することができる。酸化的リン酸化経路は酸素を利用してATPを生成することから、細胞が酸素を消費する速度を細胞の代謝指標として利用することもできる。すなわち、細胞の酸素消費速度は、細胞による酸化的リン酸化を介するエネルギー産生に直接関連し得る。追加的に又は別の方法として、二酸化炭素は細胞代謝の副生成物であることから、二酸化炭素産生速度を代謝指標として利用することもできる。酸素消費速度又は二酸化炭素産生速度が高くなるほど、酸化的リン酸化経路からのエネルギー産生が増加していること、ひいては細胞の代謝及び/又は健康における改善が意味され得る。反対に、酸素消費速度又は二酸化炭素産生速度が低くなるほど、酸化的リン酸化代謝が低下していることが意味され得る。結果として、酸化的ストレッサー、特に通常の環境ストレッサーにより生じる酸化的リン酸化代謝における低下を減少、予防及び/又は逆転させる化合物を特定及び/又は評価することは望ましい。
【0035】
解糖はグルコースをピルビン酸に変換する代謝経路である。この手法で放出される自由エネルギーを利用して、ATP及びNADH(還元NAD)が形成される。解糖は、10種の中間体化合物を包含する確実な一連の10の反応(工程のうちの1つには2つの中間体が関与する)であり、典型的には細胞の細胞質基質で生じる。中間体は、解糖の開始点を提供する。単糖(例えば、フルクトース、グルコース、及びガラクトースなど)のほとんどは、これらの中間体のいずれかに変換され得る。中間体が直接的に有用である場合もある。例えば、中間体ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)は、脂肪酸と結合して脂肪を形成するグリセロール源である。解糖の副生成物は、溶液中で乳酸アニオンに加えてプロトンを形成し得る乳酸である。したがって、乳酸、乳酸塩又はプロトン濃度を解糖の代謝指標として使用できる。すなわち、細胞外pH又は細胞外酸性化速度における変化は、細胞による、解糖経路を介したエネルギー産生と直接関連付けられ得る。細胞外酸性化速度が高くなるほど、解糖経路を介したエネルギー産生が増加し、ひいては細胞の代謝及び/又は健康が向上することが意味され得る。反対に、細胞外酸性化速度が低くなるほど、解糖代謝が低下していることが意味され得る。結果として、酸化的ストレッサー、特に通常の環境ストレッサーにより生じる解糖系の代謝における低下を減少、予防及び/又は逆転させる化合物を特定及び/又は評価することは望ましい。
【0036】
角化細胞
角化細胞は、一般に表皮において顕著な細胞型として認識されており、典型的には表皮で見られる細胞の約95%を構成する。角化細胞は、表皮の基底層の下部に存在する表皮幹細胞から分化により形成される。角化細胞は分裂し、表皮層(例えば、有棘細胞層及び顆粒層)内を上方に移動するにつれて分化し、最終的には角質層中で角質細胞となる。分化プロセス中、角化細胞はますますケラチンを産生するようになり(「角質化」)、最終的には、細胞周期から永久に離脱して、角質層の硬性の外層を構成する角質細胞を形成するようになる。角質細胞は、新しい細胞が加わるにつれ、落屑を介し最終的には脱離する。酸化的ストレスが角化細胞の代謝を低下させる場合に、角化細胞の倍加及び分化速度は低下し、又は更には停止する場合がある。これは同様に、損失分の角質細胞を角質層に補充する速度も低下させ、最終的には皮膚のバリア特性の望ましくない低下を招き得る。したがって、角化細胞に対するある種のストレッサー(例えば、紫外線A波、紫外線B波、巻き煙草/煙草の煙、煙霧、オゾン、エンジン排気、揮発性有機化合物)からの酸化的ストレスに関する代謝への望ましくない影響を軽減、予防及び/又は逆転する、スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを特定することは望ましいものであり得る。
【0037】
皮膚を紫外線に曝露することで皮膚細胞に酸化的ストレスがもたらされ得ることは周知である。しかしながら、これまで、特定の皮膚細胞型が、どのようにして異なる波長の紫外線照射に代謝応答するのか、又は紫外線照射への曝露後、時間の経過とともに紫外線照射に対する特定の皮膚細胞型の代謝応答がどのように変化し得るのかは完全には認識されていなかった。今では、角化細胞の酸化的リン酸化及び解糖代謝経路は、紫外線B波照射(すなわち、315〜280nmの波長の電磁放射線)に対し異なる応答を示すことが判明している。詳細には、角化細胞の紫外線B波照射への曝露により、酸化的リン酸化経路における代謝活性は低下するものの、解糖経路に対しても同様の影響を有するようには見えないことが判明している。これらを踏まえ、角化細胞に対する紫外線B照射に関する代謝への望ましくない影響に有効を低減、予防及び/又は逆転するスキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを特定することは望ましいものであり得る。角化細胞、及び皮膚において通常見られる少なくとも1種の他の種類の細胞(例えば、線維芽細胞、メラニン産生細胞、脂肪細胞、幹細胞、脂腺細胞及び神経細胞)に対する同一又は異なる酸化的ストレッサー及び/又はROSの代謝への望ましくない影響を低減、予防及び/又は逆転して、皮膚の全体的な健康を改善する有効成分の有効な組み合わせを特定することも望ましいものであり得る。
【0038】
角化細胞は、特定の照射量及び/又は曝露後経過時間にて、紫外線B波照射に対し、以前は評価されていなかった代謝応答を示すことも判明している。この発見は、紫外線B波照射による角化細胞に対する酸化的ストレスの影響に有効である、スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせの選別に特有の見識を提供する。特に、現在では、1平方センチメートル当たり5ミリジュール(「mJ/cm2」)〜50mJ/cm2(例えば、7.5〜40mJ/cm2、10〜30mJ/cm2、又は更には15〜30mJ/cm2)の紫外線B波照射は、角化細胞を殺傷しないものの、角化細胞の酸化的リン酸化及び/又は解糖経路において、測定され得る代謝応答を誘導するのに十分なエネルギーを提供することが既知である。更に、場合によっては、ストレッサーに対する角化細胞の曝露から少なくとも1時間後、但し典型的には、曝露から72時間以下(例えば、2〜24時間、3〜23時間、4〜22時間、5〜21時間、6〜20時間、7〜19時間、8〜8時間、9〜17時間、10〜16時間、11〜15時間、又は更には12〜14時間)に望ましい代謝指標を検出することは重要であり得る。あまりに早く代謝指標が検出された場合、細胞はストレッサーに完全に応答するのに十分な時間を得ていない恐れがある。その一方で、曝露後、時間が経過し過ぎている場合、応答は失われる恐れがある(例えば、細胞の代謝が基礎値に戻る場合)。更に、場合によっては、特定の時間で観察される動態データは、一般的な静的検出方法(例えば、ATP定量法)を利用した場合には明白にならない、角化細胞の酸化的ストレッサー及び/又はROSに対する応答に関する重要な見識を提供し得ることが既知である。
【0039】
いくつかの実施態様では、本願に記載の方法は、複数個の角化細胞を、紫外線B波照射などのストレッサー及び/又は過酸化水素などのROSに曝露することと、次に角化細胞を、単独及び組み合わせた2種以上の被検物質と接触させることとを包含する。角化細胞のストレッサー及び被検物質に対する代謝応答は、酸化的リン酸化及び解糖代謝経路のそれぞれに対応する代謝指標を検出することにより得られる。代謝応答は、制御環境下で即時的に検出され、酸化的リン酸化及び解糖指標が、同一の細胞から同時に得られる。いくつかの実施態様では、角化細胞の酸化的リン酸化及び解糖代謝経路のそれぞれについて基礎値を提供し、代謝応答を基礎値と、及び/又は互いに比較して、ストレッサー及び/又は被検物質に対する代謝経路の応答を判定することは望ましいものであり得る。「基礎値」は、細胞をストレッサー又は被検物質に曝露する前の、通常の安静時の代謝指標の値を意味する。細胞の基礎値は、代謝指標を測定することにより、及び/又は科学文献及び/又は他の好適な情報源を閲覧することにより提供され得る。しかしながら、細胞の基礎代謝値は、各種環境及び内部要因に起因して多様に変化し得ることが周知であることから、基礎値を測定することは好ましい場合があり得る。
【0040】
図1A、1B及び1Cは、紫外線B波照射(312nm)に対する曝露後の角化細胞の酸素消費速度(「OCR」)の検出により得られた動態データを示す。図に示す角化細胞は、Gibco Life Technologies(Grand Island,NY,USA)から得られた初代角化細胞である。以降の試験方法において記載の方法により細胞を調製し、試験した。図1A、1B及び1Cにおいてそれぞれ上側にプロットされている30A、30B及び30Cは、角化細胞の基礎OCR値(すなわち、紫外線B波に曝露しなかった場合のOCR)を示す。図1A、1B及び1Cのそれぞれにおいて下側にプロットされている35A、35B及び35Cは、それぞれ、照射量7.5、15及び30mJ/cm2の紫外線B波照射への曝露後の角化細胞の応答OCR値を示す。提供する適切な照射量(すなわち、7.5、15又は30mJ/cm2)は、多様な周知の因子に応じ変化し得る(例えば、望ましい照射量、電球の寿命、電球の型、装置が熱を帯びているか否か)ことは認識されるであろうし、望ましい紫外線照射量の提供は十分当業者の能力の範囲内である。対照プロット37A、37B及び37Cは、角化細胞は全く含有していないものの他のウェルと同一の培地を含有しているウェルで測定された対照OCR値を示す。対照値は、存在し得る任意のバックグラウンド効果について、基礎値及び/又は応答値を補正することができる。各プロットの最初のデータ点は、紫外線B波照射への曝露から約1時間後にとった。図1A、1B及び1Cに示されるように、角化細胞の応答OCR値は、一般的に、対応する基礎OCR値よりも低い。理論に制限されるものではないが、図1A、1B及び1Cに示されるデータは、紫外線B波照射が角化細胞の酸化的リン酸化代謝を低下させることを示すと考えられている。これらを踏まえ、例えば、角化細胞、及び場合により別の種類の細胞の酸化的リン酸化及び/又は解糖代謝経路に対し直接作用させることにより(すなわち、ストレッサー又はROSが存在しない場合でさえ改善させる)及び/又は間接的に作用させることにより(例えば、細胞をストレッサー又はROSに曝露したときにのみ改善される)、角化細胞の酸化的リン酸化代謝経路に対する、紫外線B波照射などのストレッサーに関する望ましくない影響に有効なスキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを特定することは望ましい。
【0041】
図2は、紫外線B波照射(312nm)への曝露から24時間後の角化細胞OCRの応答を示す。図2に示される、24時間の値は、角化細胞を紫外線B波照射に曝露し、次にプレートを37℃かつ5% CO2で24時間インキュベートすることにより得られた。紫外線照射から24時間後、以降に記載の方法により細胞を分析した。24時間の基礎値40は、チャート49の左端に示す。基礎値40のすぐ右隣にあるのは、照射量7.5mJ/cm2の紫外線B波照射についての24時間での応答OCR値41であり、その隣は照射量15mJ/cm2についての24時間での応答OCR値42である。チャート49の右端は、照射量30mJ/cm2についての24時間応答OCR値43である。図2に示されるように、角化細胞は、引き続き、照射量7.5、15及び30mJ/cm2の紫外線B波への曝露後24時間のOCRが低下していることを示した。したがって、特に、角化細胞の酸化的リン酸化代謝に対する紫外線B波の負の影響を軽減、予防及び/又は逆転する、スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを選別する場合に、紫外線B波への曝露後最大24時間又はそれ以上(例えば、48又は72時間)の角化細胞の酸化的リン酸化応答を測定することは重要であり得る。
【0042】
図3A、3B及び3Cは、紫外線B波照射(312nm)に対する曝露後の角化細胞の細胞外酸性化速度(「ECAR」)の検出により得られた動態データを示す。角化細胞は、図1A、1B及び1Cに関し上記のものと同一の方法で得た初代角化細胞であり、試験は以降の試験方法に記載の方法により実施した。図3A、3B及び3Cにおいてそれぞれ上側にプロットされている65A、65B及び65Cは、それぞれ、照射量7.5、15及び30mJ/cm2の紫外線B波照射への曝露後の角化細胞の応答ECAR値を示す。下側プロット60A、60B及び60Cは、角化細胞の基礎ECAR値(すなわち、紫外線B波曝露はなし)を示す。対照プロット67A、67B及び67Cは、角化細胞は全く含有していないものの他のウェルと同一の培地を含有しているウェルで測定された対照ECAR値を示す。図3A、3B及び3Cに示されるように、対照値67A、67B及び67Cは、時間経過後も、測定され得る変化を全く示さなかったのに対し、角化細胞の応答ECAR値は、一般的に、対応する基礎ECAR値よりも高い。ECAR応答データの統計分析は、ダネット補正を用い、1方向分散分析(「ANOVA」)を使用して実施した。統計分析は、対応する基礎値60A、60B及び60Cと比較して、ECAR応答値65A、65B及び65Cにおいて統計的に有意な変化はなかったことを示した。
【0043】
図4は、紫外線B波照射(312nm)への曝露から24時間後の角化細胞ECARの応答を示す。図4に示される、24時間の値は、角化細胞を紫外線B波照射に曝露し、次にプレートを37℃かつ5% CO2で24時間インキュベートすることにより得られた。紫外線照射から24時間後、以降に記載の方法により細胞を分析した。24時間の基礎ECAR値70は、チャート79の左端に示す。基礎値70のすぐ右隣にあるのは、照射量7.5mJ/cm2の紫外線B波照射についての24時間での応答ECAR値71であり、その隣は照射量15mJ/cm2についての24時間での応答ECAR値72である。チャート79の右端は、照射量30mJ/cm2についての24時間応答ECAR値73である。24時間ECAR応答データの統計分析は、ダネット補正を用い、1方向分散分析(「ANOVA」)を使用して実施した。分析は、基礎値と比較して、ECAR応答値において統計的に有意な変化があったことを示す。したがって、紫外線B波照射などのストレッサーに対する角化細胞の曝露後に経過する時間量は、角化細胞の解糖代謝に対する紫外線B波の負の影響を軽減、予防及び/又は逆転する、スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを選別する場合に考慮するための重要な因子となり得る。特に、紫外線B波照射などのストレッサーへの曝露後、2時間以上待機して(例えば、4、6、8、10、12、14、16、18、20、24、48、又は72時間)、角化細胞における解糖の代謝指標を検出することは望ましいものであり得る。
【0044】
線維芽細胞
場合によっては、線維芽細胞、並びに場合により、皮膚において通常見られる他の種類の細胞に対する、特定のストレッサー由来の酸化的ストレスに関する望ましくない影響を、軽減、予防及び/又は逆転させるスキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを特定することが望ましいものであり得る。線維芽細胞皮膚及び皮下(すなわち、皮膚下)層の真皮層に見られ、一般に、細胞外マトリックス(「ECM」)及びコラーゲンを合成して哺乳類組織の構造骨格を提供する細胞として認識されている。ECM及びコラーゲンは、皮膚に引張り強さ及び弾性を提供することにより、身体に対する応力及びひずみを和らげるよう機能する。線維芽細胞は、創傷治癒において重要な役割も果たす。酸化的ストレスが線維芽細胞の代謝を低下させると、身体がコラーゲン及びECMを合成する能力が低下して、結果として皮膚の外見は垂れ下がり、薄くなる場合がある。及び、身体が創傷を治癒する能力が妨害され得る。
【0045】
上述した通り、特定の皮膚細胞型が、どのようにして異なる波長の紫外線照射に代謝応答するのか、又は紫外線への曝露後、時間の経過とともに紫外線に対する特定の皮膚細胞型の代謝応答がどのように変化し得るのかは完全には認識されていなかった。これにより、好適なスキンケア有効成分を特定するプロセスには不確実性及び困難さが加わる。驚くべきことに、線維芽細胞の酸化的リン酸化及び解糖代謝経路は、紫外線A波照射に対し異なる応答を示すことが判明している。皮膚に接触する紫外線B波照射のほとんどは角化細胞により吸収又は反射されるのに対し、より長波長の紫外線A波照射は、表皮を透過して、その下の線維芽細胞に、並びに真皮及び皮下組織に一般に見られるその他の細胞に損傷を与え得る。特に、線維芽細胞を閾値エネルギー強度を超える紫外線A波照射に曝露することで、酸化的リン酸化経路において代謝活性の低下が生じることが判明している。同様に、紫外線A波照射への線維芽細胞の曝露は、解糖経路における代謝活性の低下も引き起こし得る。加えていずれの代謝経路も、異なるエネルギー強度及び曝露後経過時間下での応答の変化を示し得る。この発見は、線維芽細胞に対する、紫外線A波照射などの酸化的ストレッサーによる影響に有効なスキンケア有効成分の、相乗作用する組み合わせの特定に重要な固有の見識を提供する。例えば、現在では、1平方センチメートル当たり1〜50ジュール(「J/cm2」)の紫外線A波照射は、一般的には線維芽細胞を殺傷しないものの、酸化的リン酸化及び/又は解糖経路において測定可能な代謝応答を誘導するのに十分なエネルギーをもたらすことが既知である。好適な紫外線A波照射範囲には、5〜40、10〜30、又は更は約20J/cm2を含む。更に、現在では、場合によっては、ストレッサーに対する線維芽細胞の曝露から少なくとも1時間後、但し典型的には、曝露から24時間以下(例えば、2〜24時間、3〜23時間、4〜22時間、5〜21時間、6〜20時間、7〜19時間、8〜18時間、9〜17時間、10〜16時間、11〜15時間、又は12〜14時間)に代謝指標を検出することは重要であり得ることも既知である。あまりに早く代謝指標が検出された場合、細胞はストレッサーに完全に応答するのに十分な時間を得ていない恐れがある。一方で、あまりにも時間が経過した場合、ストレッサーに対する重要な一過性の応答が検出されなくなってしまう恐れがある。更に、場合によっては、特定の時間で観察される動態データは、一般的な静的検出方法(例えば、ATPの定量)を利用した場合には明白にならない、線維芽細胞の酸化的ストレッサー及び/又はROSに対する応答に関する重要な見識を提供し得ることが既知である。
【0046】
いくつかの実施態様では、本願に記載の方法は、複数個の線維芽細胞を、紫外線A波照射などのストレッサー及び/又は過酸化水素などのROSに曝露することと、次に線維芽細胞を、単独及び組み合わせた2種以上の被検物質と接触させることとを包含する。線維芽細胞のストレッサー及び/又は被検物質に対する代謝応答は、酸化的リン酸化及び解糖代謝経路のそれぞれに対応する代謝指標を検出することにより得ることができる。代謝応答は、制御環境下で即時的に検出され、酸化的リン酸化及び解糖指標が、同一の細胞から同時に得られる。いくつかの実施態様では、線維芽細胞の酸化的リン酸化及び解糖代謝経路の少なくとも1つについて基礎値を提供し、代謝応答を基礎値と、及び/又は互いに比較して、ストレッサー及び/又は被検物質に対する代謝経路の応答を決定することは望ましいものであり得る。
【0047】
図5A、5B、5C、5D及び5Eは、紫外線A波照射(365nm)への曝露後の線維芽細胞の酸素消費速度を検出することにより得られる動態データを示す。線維芽細胞は、ATCC,Bethesda,MD(BJ cell line)から得られる真皮線維芽細胞である。以降のより詳細に記載される方法により細胞を調製し、試験した。図5A、5B、5C、5D及び5Eにおいてそれぞれ上側にプロットされている90A、90B、90C、90D、及び90Eは、それぞれ線維芽細胞の基礎OCR値を示す(すなわち、紫外線A波に未曝露のOCR)。図5A、5B、5C、5D及び5Eのそれぞれにおいて下側にプロットされている95A、95B、95C、95D及び95Eは、それぞれ、照射量1、5、10、20及び30J/cm2の紫外線A波照射への曝露後の角化細胞の応答OCR値を示す。対照プロット97A、97B、97C、97D及び97Eは、線維芽細胞は全く含有していないものの他のウェルと同一の培地を含有しているウェルで測定された対照OCR値を示す。対照値は、存在し得る任意のバックグラウンド効果について、基礎値及び応答値を補正することができる。図7A5A、5B、5C、5D、及び5Eに示されるように、線維芽細胞の応答OCR値は、一般的に、対応する基礎OCR値よりも低い。したがって、理論に束縛されるものではないが、図5A、5B、5C、5D及び5Eに示されるデータは、照射量1J/cm2超の紫外線A波照射は、線維芽細胞の酸化的リン酸化代謝を低下させ得ることを意味すると考えられている。これらを踏まえ、例えば、線維芽細胞、及び場合により別の種類の細胞の酸化的リン酸化及び/又は解糖代謝経路に対し直接作用させることにより(すなわち、ストレッサー又はROSが存在しない場合でさえ改善させる)及び/又は間接的に作用させることにより(例えば、細胞をストレッサー又はROSに曝露したときにのみ改善される)、線維芽細胞の酸化的リン酸化代謝経路に対する、紫外線A波照射などのストレッサーに関する望ましくない影響に有効なスキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを特定することは望ましい。
【0048】
図6は、紫外線A波照射(365nm)への曝露後24時間での線維芽細胞OCRを示す。図6に示される、時間の値は、線維芽細胞を紫外線A波照射に曝露し、次にプレートを37℃かつ5% CO2で24時間インキュベートすることにより得られた。紫外線A波に対する曝露から24時間後、以降に記載の方法により細胞を分析した。24時間の基礎OCR値80は、チャート89の左端に示す。基礎値80のすぐ右隣にあるのは、照射量1J/cm2の紫外線A波照射についての24時間での応答OCR値81であり、その隣は照射量5J/cm2についての24時間での応答OCR値82である。チャート89の右端は、照射量10mJ/cm2についての24時間応答OCR値83である。図6に示されるように、線維芽細胞は、照射量僅か10J/cm2で24時間後のOCRで低下を示すことが明らかである。したがって、例えば、照射量5J/cm2超又は10J/cm2の紫外線A波照射に関する望ましくない影響に有効である、スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを選別する場合に、紫外線A波照射への曝露後24時間又はそれ以上の時間(例えば、48又は72時間)で線維芽細胞の酸化的リン酸化応答を測定することは重要であり得る。しかしながら、線維芽細胞に対する照射量10J/cm2未満又は5J/cm2の紫外線A波照射の代謝への望ましくない影響に有効である、スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを選別する場合に、低照射量での試験は行わないことで、選別プロセスにおいて時間及び資源を消費する工程を回避することができる。
【0049】
図7A、7B、7C、7D及び7Eは、線維芽細胞の細胞外酸性化速度を検出することにより得られる動態データを示す。線維芽細胞は、図7A、7B、7C、7D及び7Eに関し上記のものと同一の方法で得られ、試験は以降の試験方法に記載の方法により実施した。図7A、7B、7C、7D及び7Eでは、基礎ECAR値は、プロット120A、120B、120C、120D及び120Eにより表され、応答ECAR値は、プロット125A、125B、125C、125D及び125Eにより表され、対照ECAR値は、プロット127A、127B、127C、127D及び127Eにより表される。基礎値120A、120B、120C、120D及び120E並びに対照値127A、127B、127C、127D及び127Eは、上記のものと同一の方法で得た。応答ECAR値125A、125B、125C、125D及び125Eは、それぞれ1、5、10、20又は30J/cm2(365nm)の紫外線A波照射への曝露後の線維芽細胞の応答に相当する。図7Aに見ることができる通り、1J/cm2の紫外線A波照射への曝露後の線維芽細胞の応答ECAR値125Aは、一般に、基礎値120Aのものとおおよそ同値であり、線維芽細胞の解糖代謝経路は相対的にこの照射では影響を受けないことが示され得る。但し、図7B及び7Cに示される通り、5及び10J/cm2のそれぞれの紫外線Aへの曝露後の線維芽細胞の応答ECAR値125B及び125Cは、相当する基礎値120B及び120Cよりも高かった。驚くべきことに、線維芽細胞を20J/cm2の紫外線A波に曝露した場合に、図7Dに示される通り、応答ECAR値125Dは最初は基礎値120Dよりも高かったものの、結局(すなわち、約85〜102分)基礎値120Dのプロットを越え、最終的には基礎値120Dよりも低下することが見て取れる。30J/cm2への曝露後の線維芽細胞の応答ECAR値125Eは、基礎値よりも大幅に低いことから、線維芽細胞の解糖代謝経路が完全に停止されていることが示され得る。したがって、理論に束縛されるものではないが、図7A、7B、7C、7D及び7Eに示されるデータは、線維芽細胞の解糖に対する紫外線A波照射の影響に有効であるスキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを特定する好適な方法を提供する場合に、曝露後の時間及び照射量の両方が、検討に値する重要な因子であることを示すと考えられる。特に、照射量20J/cm2超及び未満は、線維芽細胞の解糖代謝に対し非常に異なる影響を有する可能性があり、これらの差異を認識することが、望ましい効果を阻害せずに紫外線A波の望ましくない影響に対し有効であるスキンケア有効成分の効果的な組み合わせを特定する助けとなり得る。
【0050】
図8は、紫外線A波照射(365nm)への曝露後24時間での線維芽細胞ECARを示す。図8に示される、時間の値は、線維芽細胞を紫外線A波照射に曝露し、次にプレートを37℃かつ5% CO2で24時間インキュベートすることにより得られた。紫外線A波に対する曝露から24時間後、以降の試験方法により細胞を分析した。24時間の基礎ECAR値90は、チャート99の左端に示す。基礎値90のすぐ右隣にあるのは、照射量1J/cm2の紫外線A波照射についての24時間での応答ECAR値91であり、その隣は照射量5J/cm2についての24時間での応答ECAR値92である。チャート99の右端は、照射量10mJ/cm2についての24時間応答ECAR値93である。図8に示されるように、線維芽細胞は、照射量僅か10J/cm2で24時間後のECARで低下を示すことが明らかである。したがって、紫外線A波の照射量に応じ、線維芽細胞の解糖に対する紫外線A波照射の影響に有効であるスキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを選別する場合に、曝露後時間、特に最大24時間後を、重要な因子として検討することができる。
【0051】
パーソナルケア組成物及びこれを使用する方法
皮膚の健康及び/又は外観上の効果は健康な皮膚細胞により提供されることから、本願における方法により特定された、2つ以上のスキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを化粧品組成物に組み込むことは望ましいものであり得る。すなわち、化粧品組成物中にスキンケア有効成分を原料として含ませることは望ましいものであり得る。このような化粧品組成物には、皮膚科学的に許容可能な担体、並びに角化細胞、線維芽細胞及び/又は皮膚において通常見られるその他の種類の細胞(例えば、メラニン産生細胞、筋細胞、幹細胞、脂腺細胞、神経細胞、及び脂肪細胞)に対する酸化的ストレスに関する望ましくない代謝効果を軽減、予防及び/又は逆転するスキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを含有させることができる。特に好適な例では、組成物は、安全かつ有効な量のナイアシンアミド及びトコキノンを含有し得る。この実施例では、ナイアシンアミドは、0.001%〜20%(例えば、0.1〜10%又は0.5〜5%)で加えることができ、トコキノンは、0.0001%〜20%(例えば、0.01〜10%、又は0.1%〜5%、又は0.5%〜3%)で加えることができる。ナイアシンアミド及びトコキノン単独の使用と比較して、過酸化水素に曝露された線維芽細胞の酸化的リン酸化及び解糖代謝経路を改善させるのに十分なナイアシンアミド及びトコキノンの組み合わせを添加することが望ましい場合がある。
【0052】
いくつかの実施態様では、スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせは、協調して作用して、予想されるものを上回る効果を提供する、2つ以上のスキンケア有効成分を含み得る。例えば、第1及び第2の有効成分は、それぞれ、酸化的リン酸化及び解糖経路のいずれか又は両方に対し作用して、全体的な細胞代謝において、有効成分に予想される相加作用を超過する向上をもたらす。この例では、第1の有効成分は、単独で使用した場合に角化細胞の酸化的リン酸化経路の改善をもたらすことができ、一方、第2の有効成分は、単独で使用した場合に、酸化的リン酸化経路に対し有効性をもたらさないようである。しかしながら、組み合わせて使用した場合に、第1及び第2有効成分は、いずれかを単独で使用したときよりも酸化的リン酸化代謝を改善する。別の例では、第1の有効成分は、線維芽細胞の酸化的リン酸化代謝を改善し得る一方、第2の有効成分は、線維芽細胞の解糖代謝を改善する。この例に続き、組み合わせて使用した場合に、第1及び第2の有効成分は、酸化的リン酸化及び解糖代謝を改善することにより、線維芽細胞の全体的な代謝を改善する。更に別の例では、第1の有効成分は、解糖に対する特定のストレッサーに関する代謝への望ましくない影響に有効に作用し得るのに対し、第2の有効成分は、酸化的リン酸化に対する同一のストレッサーに関する代謝への望ましくない影響に有効に作用することにより、全体的な細胞代謝に対するストレッサーに関する望ましくない影響を、いずれかの有効成分を単独で使用する場合にを上回って軽減、予防及び/又は逆転させる。
【0053】
いくつかの実施態様では、スキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせは、異なる種類の皮膚細胞に対し作用して、皮膚の全体的な健康の改善をもたらす2種以上のスキンケア有効成分を含み得る。例えば、異なる種類の細胞(例えば、角化細胞及び線維芽細胞)の酸化的リン酸化及び/又は解糖経路に対し作用する第1及び第2有効成分をスキンケア組成物に組み込み、全人的なスキンケア効果をもたらすこともできる。この例では、第1の有効成分は、角化細胞の酸化的リン酸化経路を改善して皮膚のバリア特性における改善を導く一方、第2の有効成分は、線維芽細胞の解糖代謝を改良して皮膚の厚み及び/又は弾性における改善を導き得る。
【0054】
いくつかの実施態様では、相乗作用する組み合わせは、細胞の代謝及び/又は代謝経路の改善を互いに阻害することのない2種以上のスキンケア有効成分であり得る。例えば、第1の有効成分を添加して酸化的リン酸化代謝を改善し、第2の有効成分を添加して解糖代謝を改善することもできる。この実施例では、有効成分のいずれもが、他の有効成分によりもたらされる各代謝効果を阻害しない。この種類の相乗作用する組み合わせは、単独で使用した場合に良好に作用し得るいくつかのスキンケア有効成分は、一緒に使用した場合に、望ましくないことに同種又は同程度の改善をもたらさない場合があることから重要である。別の例では、第1及び第2の有効成分は、いずれも、酸化的リン酸化代謝において、他の有効成分を上回って同程度又は異なる程度の改善をもたらし(すなわち、有効成分を単独で使用した場合に、1つの有効成分は、他よりも良好に代謝を改善する)、有効成分のうちの1つは、非代謝的な効果(例えば、経済又は安全上の効果)の改善をもたらすことができる。例えば、有効成分のうちの1つは、より容易に資源とすることができ、安価に購入でき、特定の国又は地域において規制認可されているものであり得るのに対し、他のものは高濃度でも望ましく副作用がなく及び/又は副作用が少なく及び/又は全く副作用を示さない。したがって、第1及び第2有効成分は、相乗作用する組み合わせで使用して、所望の程度の代謝効果並びに所望の程度の非代謝効果を提供することができる。
【0055】
本願における化粧品組成物は、提供される具体的な化粧品組成物中に一般的に含有される種類の1つ以上の追加成分を含み得る。例えば、化粧品組成物には、哺乳類の皮膚の状態を制御及び/又は改善することが既知である追加のスキンケア有効成分を含有させてよい。このような追加の成分の非限定的な例としては、皮膚軟化剤、保湿剤、ビタミン類、ペプチド、及び糖アミン類が挙げられる。他の任意の成分は日焼け止め有効成分(又は日焼け止め薬剤)及び/又は紫外光吸収体を含む。ある実施形態では、化粧品組成物は着色剤、界面活性剤、フィルム形成組成物、及び/又はレオロジー変性剤を含み得る。本明細書中の好適な化粧品組成物は例えば、乳濁液、ローション、乳、液体、固体、クリーム、ジェル、マウス、軟膏、ペースト、血清、スティック、スプレー、トニック、エアロゾル、フォーム、鉛筆形のもの等を含む、本分野において既知の様々な形態のうちの任意の1つであってよい。化粧品組成物は、例えば、ジェル、フォーム、ローション及びクリーム等のひげ剃り準備製品にも組み込まれてもよく、エアゾールタイプと非エアゾールタイプとの両方が含まれ得る。その他化粧品組成物として、制汗剤、脱臭剤、並びに石鹸及びシャンプー等のパーソナル洗浄組成物が挙げられる。これらへの使用に好適な化粧品組成物及び追加成分の非限定的な例は、米国特許出願第2010/0239510号(Ha,et al.,2010年1月21日出願)に記載される。
【0056】
本願に記載の新規方法により特定されたスキンケア有効成分を組み込む組成物は、一般的に、組成物及び局所用組成物の作製に関係する技術分野で既知の従来法により調製される。かかる方法は、典型的には、加熱、冷却、真空の適用等を用いて、又はそれらを用いずに、1つ又はそれ以上の工程で、成分を比較的均一な状態になるまで混合する工程を伴う。例えば、エマルションは、最初に水相物質を脂肪相物質とは別個に混合し、その後2つの相を適宜組み合わせて、所望の連続層を得ることにより調製してよい。特定の実施形態では、組成物を調製し、好適な安定性(物理的安定性、化学的安定性、光安定性等)及び/又は活性物質の送達を提供してよい。本組成物は、治療期間の間十分な量の組成物を保存するように寸法設定されたパッケージ中で提供されてもよい。パッケージの寸法、形状、及びデザインは幅広く様々であり得る。一部のパッケージ例は、米国デザイン特許第D570,707号、同第D391,162号、同第D516,436号、同第D535,191号、同第D542,660号、同第D547,193号、同第D547,661号、同第D558,591号、同第D563,221、並びに米国特許出願公開第2009/0017080号、同第2007/0205226号、及び同第2007/0040306号に記載されている。
【0057】
本明細書で開示されるパーソナルケア組成物は、皮膚の弾性を改善する、水和を改善する、皮膚の状態を制御又は改善する、皮膚の老化のサインを維持又は改善する、侵襲の影響のあるケラチン性組織を維持又は改善するための量及び頻度で、皮膚に適用することができる。例えば、スキンケア効果を必要としている皮膚の対象領域を特定して、美容上安全かつ有効な量のパーソナルケア組成物を対象領域に適用することは、望ましいものであり得る。場合によっては、スキンケア組成物は、顔全体の、表情線、しわ、望ましくない色調又はしみを有する領域に高濃度で用いる、専門化した処置として使用することもできる。更に、本願におけるパーソナルケア組成物を使用して、このような処置を必要としている哺乳類の皮膚に安全かつ有効な量のスキンケア組成物を局所塗布することにより、持続的及び/又は即時的皮膚又は化粧品効果をもたらすこともできる。
【0058】
試験方法
この方法は、調節された環境下での酸化的リン酸化及び解糖代謝経路に関連する代謝指標を、非致死的に同時に検出することを可能にする。この方法は、動態データの取得も可能にする。ストレッサー、被検物質、又は被検物質の組み合わせに対する代謝応答を評価する場合に、2つの代謝経路がどのようにしてストレッサー又は被検物質と相互作用するのか及び/又は互いに相互作用するのかを理解するためには、代謝経路の両方を同時に評価することが重要である。加えて、代謝経路をリアルタイムで(すなわち、周期的な測定を繰り返して)モニターして、静的なデータのみを提供する方法を使用したときには損なわれ得る傾向及び/又は一過性の応答を観察することが重要である。したがって、破壊試験は、典型的にはそれらの試験は単回測定のみを可能にすることから、本願における使用に好適ではない。
【0059】
アーティファクトが混入する可能性を低減させるため、制御環境下で代謝指標を検出することも重要である。好適な制御環境は、外的な環境条件による、何らかの望ましくない影響(例えば、温度、圧力、湿度、光、並びに望ましくない気体、液体及び/又は固体夾雑物による接触)を最低限に抑え、又は予防する。例えば、検出される代謝指標が酸素消費速度であり、試験サンプルが環境に対し露出されている場合に、消費酸素の少なくとも一部は環境中の酸素により置き換えられ得ることから、測定される酸素濃度は細胞により消費される酸素量を精確には反映しない場合がある。加えて、試験方法自体がアーティファクトを測定値に混入させてはならない。例えば、クラーク電極が、検出すべき酸素そのものを消費することは既知である。したがって、クラーク電極装置により測定される酸素濃度は、試験中に細胞により消費される酸素量を精確に反映しない場合がある。
【0060】
培地の温度変化などの環境変化が望ましくない環境誤差をもたらし得ることは明らかである。具体的には、培地が溶存気体を保持する容量は温度により変化し、したがって、培地が周囲環境と平衡に近づくにつれて、溶存気体濃度において明白な変化が生じ得る。更に、少なくとも一部の種類のセンサーの測定特性は温度により変化し得る。したがって、試験容器内及び/又は周囲環境下の培地温度などの環境条件を調節すること、あるいは測定値に補正因子を適用することは特に望ましいものであり得る。同様にして、湿度などの他の未調節の環境条件、あるいは気流への曝露に由来する、培地からの任意の蒸発は、溶存気体、イオン、及び温度などを含む、各種センサーにより得られる測定値に人工的な影響を与える恐れがある。したがって、これらの因子を最小限に抑える又は排除するためには制御環境を提供することが重要であり得る。
【0061】
場合によっては、代謝パラメータの検出に使用される装置は、細胞を保持する試験容器(例えば、マルチウェルマイクロプレート)を受容及び保持させるのに適したステージを含有し得る。装置には、試験容器内の環境を外部環境から単離するためのバリアを受容するよう構成されたプランジャを含有させてもよい。バリアは、例えば、シートと噛み合わせることにより、あるいは試験容器の壁における段差と噛み合わせることにより試験容器の一部分と機械的に協働させて、試験容器の開口部を密閉するよう構成することもできる。追加的に又は別の方法として、プランジャ及びバリアは、試験容器の容量、及び少なくとも一部(例えば、5〜50%)細胞を含む試験容器内の培地容積を減少及び/又は増加するよう構成することもできる。例えば、バリアは、ステージ及びプランジャを相対的に移動させることにより試験容器に挿入してもよく、及び/又は取り出してもよい。いくつかの実施態様では、方法は、容器中に追加の培地を灌流すること、及び/又は培地を補充することを含み得る。培地量を減少させることにより、大量の細胞培地内の細胞を一時的に高濃度に濃縮させて、センサーの、細胞の生物活性により生じる培地中の代謝指標における高感受性の変化を検出する性能を、改善することができる。永久的にではなく、一時的に培地量を減少させることで(及びしたがって、細胞/培地混合物を濃縮することで)、細胞は非常に僅かな時間だけ異常環境に曝露されることになり、したがって測定プロセスによる悪影響(例えば、死滅)を及ぼさずに済む。
【0062】
器具は、所望の代謝指標(1種以上)を分析し得るセンサーも含み得る。いくつかの実施態様では、センサーは、バリア及び/又はプランジャ上に配置され得る。センサーは、培地との連絡を検知するものであるべきであり、所望の代謝指標を検出するよう構成される。センサーは、代謝指標の存在及び/又は濃度を検出するよう構成することができ、並びに/あるいは代謝指標の濃度変化速度を検出するよう構成することができ、並びに/あるいは第1代謝指標濃度を検出し、第2代謝指標濃度を検出し、第1濃度と第2濃度の間の関係を決定するよう構成することもできる。細胞の妨害をせずに代謝パラメータを検出するためのセンサーを構成することは望ましいことであり得る。この装置には、データ収集及び記録、1つ以上の試験工程の繰り返し、並びに細胞外環境への被検物質又はストレッサーの移行を含む、1つ以上の試験態様を自動化するようプログラムされたコンピューターを包含させることもできる。いくつかの実施態様では、センサーはコンピューターと接続させることもできる。
【0063】
調節された環境、代謝指標の非致死的かつ同時検出、並びに動態データを提供する装置の好適な非限定的な例は、米国特許第7,276,351号、米国特許第7,638,321号、及び米国特許第7,851,201号(Teich et al.)、及び米国特許第8,202,702号(Neilson,et al.)に開示されている。特に好適な装置は、Seahorse Bioscience(Massachusetts)から入手可能なXF Extracellular Flux Analyzerである。
【0064】
細胞培養及びサンプル調製
本明細書に記載の方法により試験される細胞は、当該技術分野において既知の任意の好適な手法により得ることができる。例えば、細胞は、天然環境から単離することができ(例えば、ヒトの皮膚)、又は好適な市販元から購入することもできる。細胞は、初代細胞株であっても(すなわち、生体組織源から単離し、通常の組織培養条件下で増殖させた細胞株)、不死化細胞株であってもよい(すなわち、増殖及び倍加指数が、初代細胞株より得られるものよりも大幅に増加するよう、化学的又は遺伝的改変により改変を受けている細胞株)。いくつかの実施態様では、好適な市販元から凍結初代又は不死化細胞株を得て、組織培養フラスコ(例えば、BD Biosciencesから入手可能なコラーゲンコートT−75フラスコ)内で適切な増殖培地に希釈しインキュベートする(例えば、37℃)ことができる。試験用の細胞が用意できたならば、好適な試験容器(例えば、マルチウェル容器、1ウェル容器、1本以上のチューブ、及び12ウェルプレート、24ウェルプレート又は96ウェルプレートなどの従来の試験プレート)内に入れることができる。試験培地は、試験容器内で調製して、細胞外環境を提供することができる。試験培地は、試験中(例えば、少なくとも4時間、8時間、12時間、24時間、48時間、72時間)、細胞を生存させかつ健康に維持する必要がある。各ウェル中の細胞数は、好適な測定値を取得するのに十分なものとすべきである(例えば、角化細胞については4×104個、及び線維芽細胞については1×105個)。試験中、細胞は、試験培地に懸濁してよく、試験容器内に配置された好適な基質に接着させてよく、及び/又は試験容器に接着させてもよいことは理解される。
【0065】
例えば、図1A、1B、1C、2、3A、3B、3C及び4に関し上記で議論されている角化細胞は、Gibco Life Sciencesから得た凍結ヒト初代角化細胞である。角化細胞は、ヒト角化細胞増殖用添加成分及びゲンタマイシン/アンホテリシンB x500溶液(いずれもInvitrogenから入手可能)を添加した、EpiLife(登録商標)製角化細胞用培地(Invitrogen(Grand Island,NY)から入手可能)で70〜80%コンフルエンスまで増殖させた。各試験に関し、2種の別個の角化細胞提供源を培養し、それぞれの提供源の同数の細胞を試験容器内で組み合わせた。この実施例では、各ウェル中の角化細胞の合計が約4×104個となるよう、提供源それぞれから2×104個の角化細胞をゼラチンコート24ウェルプレートに入れた。存在する細胞数は、当該技術分野において既知の任意の好適な手法により測定することができる(例えば、コールターカウンターを使用する)。試験の24時間前に角化細胞をゼラチンコートプレートに入れ、上記の角化細胞用培地100μLを各ウェルに入れた。緩衝剤、カルシウム、グルコース、ピルビン酸及びグルタミンを不含のものとして市販のEpiLife(登録商標)培地を改変し、試験培地を作製した。EpiLife(登録商標)培地には、10ng/mLインスリン、10ng/mLハイドロコルチゾン、60μM塩化カルシウム、10mMグルコース、1mMピルビン酸、及び2mMグルタミンを加え改変した。試験培地を37℃に加温し、水酸化ナトリウムによりpHを7.4に調整した。測定の1時間前に、ウェル中の角化細胞用培地を試験培地と置き換えた。
【0066】
上記図5A、5B、5C、5D、5E、6、7A、7B、7C、7D、7E及び8において議論された線維芽細胞に関し、ATCC(Bethesda、MD)から市販のBJ細胞株から、凍結ヒト真皮線維芽細胞を得た。線維芽細胞は、10%ウシ胎児血清(「FBS」)及びゲンタマイシン/アンホテリシンB x500溶液(EMEM及びFBSはATCCから入手可能であり、ゲンタマイシン/アンホテリシンB x500溶液はInvitrogenから入手可能である)を添加したイーグル最小必須培地(「EMEM」)の線維芽細胞用培養培地で70〜80%コンフルエンスにまで増殖させた。線維芽細胞は、試験の24時間前にゼラチンコートプレートに、ウェル当たり1×105個で播種した。各ウェルには、上記の線維芽細胞培地100μLを含有させた。試験培地は、ダルベッコ改変イーグル培地(Seahorse Bioscienceから入手可能)、25mMグルコース及び1mMピルビン酸から構成した。試験培地を37℃に加温し、pHを7.4に調整した。細胞を増殖させ、37℃かつ5% CO2下で播種した。測定の1時間前に、ウェル中の線維芽細胞用培地を試験培地と置き換えた。
【0067】
ゼラチンコートプレートは、マルチウェルプレート(例えば、24ウェル又は96ウェルプレート(Seahorse Biosciences,Massachusetts)から入手可能)の各ウェルを、リン酸緩衝生理食塩水(「PBS」)で希釈した0.2%ゼラチン区分タンパク質溶液(Sigmaから入手可能)でコートすることにより用意することができる。ゼラチンを、37℃の滅菌PBSで1:10〜0.2%希釈し、次に50uLの希釈ゼラチン溶液を各ウェルに加え、室温で30分間インキュベートする。ウェルに触れないよう過剰な液体を吸引除去し、表面を少なくとも2時間乾燥させる。
【0068】
ストレッサー又は被検物質への細胞の曝露
細胞は、当該技術分野において既知の任意の好適な手法によりストレッサー又は被検物質に曝露することができる。いくつかの実施態様では、細胞は、代謝パラメータを検出するのに使用される機器に配置する前にストレッサーに曝露することができる。例えば、細胞は、XF Extracellular Flux Analyzerに細胞を配置する前に、BIO−SUN製太陽シミュレーター(Vilber Lourmat(France)から入手可能)を使用して紫外線に曝露することもできる。この実施例では、試験培地をプレートウェルから除去し、100uL PBSにより置き換えて、試験培地が紫外線により受ける望ましくない影響(例えば、吸光度又は反射率)を低減させることもできる。代謝指標が曝露後の好適な時間内に検出されない実施形態では(例えば、24時間で測定値を取得した場合に)、ストレッサーへの曝露後すぐに(但しインキュベータ内に細胞を移動させる前に)、PBSを適切な培地(例えば、上記の角化細胞又は線維芽細胞用培地)で置き換えてもよい。非照射細胞からデータを取得するため、非照射細胞を入れるプレートの一部分は、アルミホイルなどのUV不透過性材料により覆うこともできる。場合によっては、ストレッサー及び/又は被検物質は、細胞を試験装置に配置する前及び/又は後に試験容器内に導入され得る。例えば、試験装置は、試験前、中及び/又は後に、剤を直接試験容器に導入することのできる、1つ以上の注入口を含み得る。
【0069】
酸化的リン酸化及び解糖代謝指標の測定
酸素消費速度及び細胞外酸性化速度は、XF Extracellular Flux Analyzer又は等価物を使用して検出することができる。装置は、制御環境下で、酸化的リン酸化及び解糖経路の代謝指標を非致死的かつ同時に検出でき、並びに動態データを提供できるものであるべきである。細胞は、機器に使用するのに好適なマルチウェルプレート(例えば、24ウェル又は96ウェルプレート)中に提供し、試験前に洗浄してもよい。細胞は、当該技術分野において既知の任意の好適な手法により(例えば、Seahorse Biosciences XF prep stationを使用して)洗浄することもできる。Seahorse Biosciencesから入手可能なXF prep stationなどの好適な調製ステーションを使用することは望ましいものであり得る。細胞を洗浄する場合に、ウェルからは培地を除去し、その後、細胞は好適な量の試験培地で3回洗浄することが望ましいものであり得る(例えば、96ウェルプレートでは180μL、又は24ウェルプレートでは600μL)。細胞の洗浄後、好適な量(例えば、180μL)の適切な試験培地を各ウェル中に入れ、細胞は、試験のためプレートを機器内に配置する前に、CO2−インキュベータ内、37℃下で、1〜1.5時間平衡化する。平衡期間後、細胞を含有しているプレートを機器に装填し、製造元の指示に従い平衡化する。試験全体は37℃で実施する。いくつかの実施態様では、機器は、角質細胞については、3分の混合サイクル、2分の待機サイクル、及び3分の測定サイクルを、並びに線維芽細胞については、2分の混合サイクル、2分の待機サイクル、及び3分の測定サイクルを提供するものであり得る。このサイクルは少なくとも88分間反復すべきである。サイクル及び時間は、所望される細胞型及び実験デザインに従い変更することができることは認識されるであろう。
【実施例】
【0070】
次の例は、本願に記載の方法をいかに使用すればスキンケア有効成分の相乗作用する組み合わせを特定することができるかを例示する。過酸化水素は周知のROSであり、本例には、細胞の酸化ストレッサーへの曝露に関連する代謝への望ましくない影響を例示するために使用する。過酸化水素は、上記の線維芽細胞試験培地における使用濃度の10倍で調製した。被検物質はナイアシンアミド(ビタミンB3としても既知)及びトコキノンであり、いずれもSigmaから市販されている。被検物質は、それぞれ上記の線維芽細胞試験培地における最終的な使用濃度の10倍で調製し、被検物質溶液を用意した。ストレッサー溶液及び被検物質溶液は、いずれも37℃に加温し、pHは7.4に調整した。細胞は、ATCC(BJ cell line)から得た凍結ヒト皮膚線維芽細胞とする。上記の試験方法に従い、細胞を培養し、用意した。線維芽細胞は、ゼラチンコート、96ウェルプレートに播種した。各ウェルには、約4×104個の細胞と、37℃かつpH 7.4の180μL線維芽細胞試験培地(すなわち、Seahorse Biosciences DMEM、25mMグルコース及び1mMピルビン酸)を入れた。
【0071】
XF Extracellular Flux Analyzerを使用して、解糖及び酸化的リン酸化代謝経路(すなわち、細胞外酸性化速度及び酸素消費速度)に対応する代謝指標を検出した。製造元の指示に従い96ウェルプレートを分析器に装填し、平衡化した。被検物質及びストレッサーを、XFカートリッジプレートの自動制御された注入口にそれぞれ装填した。分析器は、少なくとも108分間にわたって継続的に、2分間の混合サイクル、2分間の待機サイクル、及び4分間の測定サイクルを連続的に実施するようプログラムした。データポイントは分析器により収集及び記録した。ストレッサー溶液又は被検物質溶液を添加する前に、分析器により3回のサイクルを完了し、各代謝指標についての基礎値を得た。3回目のサイクルの完了後(すなわち、検出開始から約18分後)、ストレッサー及び被検物質を適切な注入口からウェルに加えた。各ウェルに1.5mM過酸化水素を提供するのに十分な量のストレッサー溶液をウェルに加えた。ウェルに0.25mMナイアシンアミド及び0.025mMトコキノンを提供するのに十分な量で被検物質を添加した。96ウェルプレートにおいて8ウェルは対照として使用した。対照の線維芽細胞及び線維芽細胞用培地は過酸化水素又はいずれかの被検物質とは接触させなかった。線維芽細胞を4つの試験条件にかけた。各試験条件には96ウェルプレートの8ウェルを使用した。第1の試験条件では、線維芽細胞は、1.5mM過酸化水素のみと接触させた。第2の試験条件では、線維芽細胞は、0.25mMナイアシンアミド及び1.5mM過酸化水素の組み合わせと接触させた。第3の試験条件では、線維芽細胞は、0.025mMトコキノン及び1.5mM過酸化水素の組み合わせと接触させた。第4の試験条件では、線維芽細胞は、0.25ナイアシンアミド、0.025mMトコキノン及び1.5mM過酸化水素の組み合わせと接触させた。結果を以下の表1及び表2、並びに図9、及び10に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1は、線維芽細胞の細胞外環境の酸性化速度に対する、単独での及び組み合わせての過酸化水素、ナイアシンアミド及びトコキノンの効果を示す。表1から得たデータは、XFソフトウェア(バージョン1.8)により分析して、各時点で各処置群の平均値を計算し、図9に視覚的に表される通り割合(%)として、基準からの変化率を比較した。上述の通り、ストレッサー又は被検物質を加える前に最初に3回の測定を行い基礎値を得た。図9は、対照110、1.5mM H22単独111、0.25mMナイアシンアミド及び1.5mM H22の組み合わせ113、0.025mMトコキノン及び1.5mM過酸化水素の組み合わせ112、並びに0.25mMナイアシンアミド、0.025mMトコキノン及び1.5mM過酸化水素の組み合わせ114のそれぞれのプロットを提供する。表1及び図9に示されるように、1.5mM過酸化水素単独が、細胞外酸性化速度の大幅な低下をひき起こすようである。急激な低下後、最終的に過酸化水素の添加から約40分後に基礎値を下回るまで、酸性化速度は継続して低下する。したがって、過酸化水素はヒト線維芽細胞における解糖代謝において低下をもたらすという合理的な結論が導かれ得る。0.25mMでナイアシンアミドを単独で加えた場合に、ウェルへの追加後約20分以内に、基礎濃度又は僅かに高い濃度に戻る前に、酸性化速度には初期低下が生じるようである。これにより、0.25mMナイアシンアミドでは解糖代謝に著しい影響は生じないという合理的結論が導かれ得る。しかしながら、過酸化水素と組み合わせて加えた場合、ナイアシンアミドは、解糖代謝に対する過酸化水素の悪影響を軽減させるようである。すなわち、0.1mM及び0.25mMナイアシンアミド濃度のいずれもが、酸性化速度の低下を緩徐にさせ、過酸化水素を単独で加えた場合の基礎値から酸性化速度がはるかに下回ることを予防するようである。
【0074】
【表2】
【0075】
表2は、単独及び組み合わせての過酸化水素、ナイアシンアミド及びトコキノンの、線維芽細胞の酸素消費速度に対する影響を示す。表2から得たデータは、XFソフトウェア(バージョン1.8)により分析して、各時点で各処置群の平均値を計算し、図10に視覚的に表される通り割合(%)として、基準からの変化率を比較した。上述の通り、ストレッサー又は被検物質を加える前に最初に3回の測定を行い基礎値を得た。図10は、対照210、1.5mM H22単独211、0.25mMナイアシンアミド及び1.5mM H22の組み合わせ213、0.025mMトコキノン及び1.5mM H22の組み合わせ212、並びに0.25mMナイアシンアミド、0.025mMトコキノン、及び1.5mM過酸化水素の組み合わせ214のそれぞれのプロットを提供する。表2及び図10に示されるように、1.5mM H22単独により、OCRにおいて相対的に著しい低下と、その後にそれほど迅速ではない増加がもたらされる。過酸化水素の添加から20分後又はそれ以上経過後、OCRは、基礎速度よりもはるかに低い比較的一定の速度に近づく。したがって、過酸化水素はヒト線維芽細胞における酸化的リン酸化代謝において低下をもたらすという合理的な結論が導かれ得る。図10に示されるように、H22と組み合わせて0.25mMで添加した場合に、ナイアシンアミドは、全体的に、過酸化水素プロット211の形状を示すものの、過酸化水素により生じるOCRにおける減少は軽減するようである。トコキノンによる応答は、H22と組み合わせて0.025mMで添加した場合に、過酸化水素により生じるOCRにおける減少は、ナイアシンアミドとほぼ同等又は僅かに劣る程度軽減するようである。この実施例では、ナイアシンアミド又はトコキノンのいずれもが、H22と個別に組み合わせた場合には、線維芽細胞のOCRを基礎値に戻さなかったことを注記することは重要である。驚くべきことに、図10に示されるように、ナイアシンアミド及びトコキノンの両方をH22と組み合わせて使用する場合に、線維芽細胞のOCRはおおよそ基礎値に戻った。したがって、この実施例では、ナイアシンアミド及びトコキノンの組み合わせは、過酸化水素により生じる、線維芽細胞の酸化的リン酸化における低減に対し、相乗的な応答を提供する。
【0076】
本明細書に開示した寸法及び値は、記載された正確な数値に厳密に限定されるものと理解されるべきではない。むしろ、特に断らない限り、そのような寸法のそれぞれは、記載された値及びその値の周辺の機能的に同等の範囲の両方を意味するものとする。例えば、「40mm」として開示した寸法は、「約40mm」を意味することを意図したものである。更に、本明細書に記載される特性は、1つ又は2つ以上の範囲の値を含み得る。当然のことながら、これらの値は、範囲内の個々の値が特に開示されていない場合でも範囲内の全ての値を包含するということが理解されるべきである。
【0077】
「発明を実施するための形態」で引用する全ての文献は、関連部分において本明細書に参照により組み込まれるが、いずれの文献の引用も、それが本発明に関する先行技術であることを容認するものとして解釈されるべきではない。特に、米国仮出願特許第61/711,500号及び米国仮出願特許第61/711,521号は、参照によりその全体が本明細書に援用される。本明細書中の用語の任意の意味又は定義が、参照により組み込まれた文献中の同一用語の任意の意味又は定義と相反する限りにおいては、本明細書においてその用語に与えられた意味又は定義を適用する。
【0078】
本発明の特定の実施形態が例示され記載されてきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正を実施できることが、当業者には自明であろう。したがって、本発明の範囲内にあるそのような全ての変更及び修正を添付の特許請求の範囲で扱うものとする。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図8
図9
図10