(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴムと、ジチオリン酸亜鉛と、下記式で表される化合物、硫酸マグネシウム、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種からなり、BET値が5〜120m2/g、亜麻仁油吸油量が30〜80ml/100gである無機フィラーと、BET値が151m2/g以上のカーボンブラックと、硫黄とを含み、
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記ジチオリン酸亜鉛の含有量が0.2〜15質量部、前記無機フィラーの含有量が1〜70質量部、前記カーボンブラックの含有量が5〜130質量部、かつ、酸化亜鉛の含有量が2.5質量部未満であるトレッド用ゴム組成物。
mM・xSiOy・zH2O
(式中、MはAl及びZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属、該金属の酸化物又は水酸化物であり、mは1〜5の整数、xは0〜10の整数、yは2〜5の整数、zは0〜10の整数である。)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のトレッド用ゴム組成物(以下、単に「ゴム組成物」ともいう。)は、スチレンブタジエンゴム(SBR)を含むジエン系ゴムに対して、ジチオリン酸亜鉛を配合するとともに、酸化亜鉛の含有量を一定量未満とすることによりDry走行時のブロー発生を防止することができ、BET値及び亜麻仁油吸油量が特定範囲の無機フィラーを配合することにより高いWETグリップ性能、耐摩耗性を発揮することができる。
【0018】
本発明者は、SBRを含むジエン系ゴムを用いて空気入りタイヤを製造したときに、Dry走行時にブローが発生しやすくなる原因を検討した。その結果、高スチレン量のSBRを含むジエン系ゴムの架橋特性、すなわち、加硫反応の遅延及び架橋の不均一化や自己発熱量が高いこと等に原因があることを見出した。
SBRは、製造時における分子成長工程の制約から、スチレン量が多いほど、スチレン基のランダムなロケーションが確保し難くなる。即ち、スチレン量が15%を超えると、ポリマー鎖中でスチレン基同士が隣接する箇所が多くなる。スチレン基2〜5程度が隣接集中すると、その部位は硬くなり、ポリマーの自由な動きが少なくなり、硫黄や加硫促進剤の複合体との接触頻度が減り、架橋反応が起こりにくくなる。即ち、スチレン量が一定以上のSBRでは、ポリマー鎖のスチレン基の少ないブタジエン部位に硫黄架橋が集中し、均一な架橋が困難となる。とりわけSBRの分子量が100万以上になると、スチレン基が隣接集中した箇所は鞠の様に固まり易くなり、鞠内部はほとんど架橋されることがない。このようなSBRを含むジエン系ゴムに対して、高いグリップ性や耐摩耗性を得る目的でカーボンブラックや軟化剤を配合した場合には、硫黄や加硫促進剤が軟化剤に吸着されたりするため、加硫反応が遅くなる。また、カーボンブラックや軟化剤を大量に配合した組成においては、必然的にフィラー総量も多く、総phrが多くなりがちとなり、加硫剤とゴム成分とが接触する機会が少なくなることから、更に加硫反応が遅くなる。即ち、SBRを含むジエン系ゴムでは、SBR自体の架橋特性に加え、カーボンブラックや軟化剤を配合することにより加硫反応が遅くなることにより、極めて不均一かつ低密度の架橋しか得られない。
このような不均一かつ低密度の架橋状態のゴム中にグリップ性や耐摩耗性向上のために大量のカーボンブラックや軟化剤を含んだ場合、走行時の高温と機械歪による応力とが作用して、ゴム中に含まれる揮発成分や空気溜りの膨張圧力に抗しきれず、架橋網目が緩い個所で蜂の巣状の穴が生じ、ブロー発生の原因となっていたものと考えられる。
【0019】
本発明者は、鋭意検討の結果、SBRを含むジエン系ゴムを用いた場合であっても、ジチオリン酸亜鉛を配合するとともに、酸化亜鉛の含有量を一定量未満とすることによりDry走行時のブロー発生を防止することができることを見出した。
ジチオリン酸亜鉛は、亜鉛を含有し、酸化亜鉛に比べて高い加硫促進効果を発揮する。とりわけ、加硫促進剤と併用した場合には、極めて高い加硫促進効果を発揮する。ジチオリン酸亜鉛を用いることにより、SBRを含むジエン系ゴムに対して一定量以上のカーボンブラックや軟化剤を配合した組成においても、均一かつ適切な密度の架橋を行うことができるものと考えられる。このような均一かつ適切な密度の架橋を行うことにより、高いグリップ性能、耐摩耗性、引張性能を維持しつつ、Dry走行時のブロー発生を効果的に防止することができる。また、走行中にタイヤ温度(ゴム温度)が80〜120℃に上昇したときには、硫黄及び加硫促進剤のみの使用時よりも多くのポリマー間の再架橋が生じているものと考えられる。
【0020】
本発明のゴム組成物は、スチレンブタジエンゴム(SBR)を含むジエン系ゴムに対して、BET値及び亜麻仁油吸油量が特定範囲の無機フィラーを配合することにより高いWETグリップ性能、耐摩耗性を発揮することができる。
特定のBET値及び亜麻仁油吸油量を持つ水酸化アルミニウムなどの無機フィラーを添加することでWETグリップ性能を改善できる理由としては、以下の(1)〜(4)の作用が発揮されることによる効果であると推察される。
【0021】
(1)配合した水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)などの無機フィラーが混練り中に一部がシリカ以上のモース硬度を持つアルミナ(Al
2O
3)に転化したり、水酸化アルミニウムなどの無機フィラーがシリカと(共有又は脱水)結合し、微分散したシリカ鎖を介しゴム配合中に固定化されたりすることにより、金属酸化物塊や無機フィラーが路面の骨材上のミクロ凹凸(数十μmピッチ)にアンカー効果を発現し、それにより、WETグリップ性能が高まると考えられる。
(2)路面上の二酸化ケイ素とタイヤ表面上の水酸化アルミニウムなどの無機フィラーが走行中に接触する(擦れる)ことに伴って、
図1で示されるような瞬間的な共有結合が形成され、WETグリップ性能が向上すると考えられる。
【0022】
(3)WET路面では、タイヤ表面が水膜を介して路面に接触する部位が存在し、通常、この水膜はタイヤと路面が直接接触する部位で発生する摩擦熱により蒸発すると考えられるが、例えば、水酸化アルミニウムが添加されていると、当該摩擦熱は、タイヤ表面の水酸化アルミニウムにおいて「Al(OH)
3→1/2Al
2O
3+3/2H
2O」で示される吸熱反応が進行することにより、水膜(水分)の蒸発が抑制されると考えられる。仮に水膜が蒸発した場合はタイヤ表面と路面間に空間が形成されるため、路面とタイヤ接触面積が減少し、WETグリップ性能が低下する。
【0023】
(4)
図3に、走行時の路面接触付近(トレッド表面付近)のゴム中の無機フィラー粒子の状態を説明する模式図を示した。
図3のように、(1)、(2)の現象を生じた場合、走行時に無機フィラー粒子1が高周波振動し、該高周波振動により隣接するゴム組成物中のグリップレジンや液状成分等の粘着成分2のブルームが促進される。その結果、無機フィラーを含まない他の部位に比べて、無機フィラー粒子1の周囲の粘着成分2の量が多くなり、WETグリップ性能が向上する。
【0024】
本発明のゴム組成物は、特定のBET値及び亜麻仁油吸油量を持つ水酸化アルミニウムなどの無機フィラーを添加することにより、更に、Dryグリップ性も向上する。特に走行テストでは、無機フィラーを配合した場合には、トレッド表面と路面とが密着して、あたかもグリップレジンが表面にブルームしているような挙動が認められるとのプロドライバーのコメントが多い。この理由は以下のようであると推察される。
ゴム組成物に無機フィラーを配合することにより、特に小円旋回時、横滑り走行時にトレッドゴム表面に大きな張力が発生し、トレッドゴムの高周波振動が起こる。この高周波振動が1000Hz以上となると、(1)無機フィラーとゴム成分との界面にグリップレジンや液状成分がブルームし、路面グリップを促進される、(2)好ましくは、無機フィラーが周辺のシリカ及びカーボンブラックと物理的又は化学的に結合し、走行中も無機フィラー周辺に大きなボイドが生じないこと、(3)特定のBET値の微粒子状の無機フィラーによりゴム組成物のヒステリシスが上昇することが、Dryグリップ性の向上に寄与するものと考えられる。
【0025】
このような従来の水酸化アルミニウムなどの無機フィラーの添加による作用効果でWETグリップ性能が改善されるものの、通常は耐摩耗性や摩耗後のアブレーション外観が悪化するため、これらをバランス良く改善することは難しい。本発明は、所定のBET値及び亜麻仁油吸油量を持つ水酸化アルミニウムなどの無機フィラーを添加しているため、耐摩耗性や摩耗後のアブレーション外観の低下を抑制し、良好な性能を維持しながら、WETグリップ性能を改善され、これらの性能をバランス良く改善できる。
【0026】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分として、SBRを含むジエン系ゴムを含有する。ゴム成分としてジエン系ゴムを用いることにより、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性を得ることができる。
【0027】
SBRとしては、特に限定されず、乳化重合SBR(E−SBR)、溶液重合SBR(S−SBR)などが挙げられ、油展されていても、油展されていなくてもよい。なかでも、耐摩耗性の観点から、油展かつ高分子量のSBRが好ましい。また、フィラーとの相互作用力を高めた末端変性S−SBRや、主鎖変性S−SBRも使用可能である。
【0028】
SBRは、スチレン量が好ましくは19質量%以上、より好ましくは21質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。また、該スチレン量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。スチレン量が19質量%未満であると、グリップ性能が不十分となるおそれがあり、60質量%を超えると、スチレン基が隣接し、ポリマーが硬くなりすぎ、架橋が不均一となりやすく、高温走行時のブロー性が悪化する。
なお、本明細書において、スチレン量は、
1H−NMR測定により算出される。
【0029】
SBRは、重量平均分子量(Mw)が好ましくは70万以上、より好ましくは90万以上、更に好ましくは100万以上である。また、該Mwは、好ましくは200万以下、より好ましくは180万以下である。Mwが70万以上のSBRを用いることにより、より高いグリップ性、耐摩耗性を発揮することができる。Mwが200万を超えると、無機フィラーの分散が困難となり、また、架橋成分がポリマー中に分散しにくくなることから、高温走行時のブロー発生を防止できない傾向がある。
なお、本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製GPC−8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTPORE HZ−M)による測定値を基に標準ポリスチレン換算により求めることができる。
【0030】
ジエン系ゴム100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。また、SBRの含有量の上限は特に限定されず、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、本発明の効果がより良好に得られる。
【0031】
上記ジエン系ゴムは、なかでも、スチレン量が19〜60質量%のSBRを60質量%以上含むことが好ましく、スチレン量が25〜55質量%のSBRを65質量%以上含むことがより好ましい。これにより、より高いグリップ性、耐摩耗性を発揮することができる。
【0032】
SBR以外のジエン系ゴムとしては特に限定されず、天然ゴム(NR)、高純度NR(UPNR)、エポキシ化NR(ENR)やイソプレンゴム(IR)などのイソプレン系ゴムや、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
【0033】
本発明のゴム組成物は、ジチオリン酸亜鉛を含有する。ジチオリン酸亜鉛は、下記一般式(1)で表される化合物である。ジチオリン酸亜鉛は、その構造の中心に亜鉛原子を保持しており、酸化亜鉛に比べて優れた架橋促進作用を発揮する。ジチオリン酸塩を用いることにより、ジエン系ゴムを含むゴム成分に対して一定量以上のカーボンブラックや軟化剤を配合した組成であっても、高温走行時におけるブローの発生を抑制することができる。また、ジチオリン酸亜鉛を用いることにより、酸化亜鉛やジフェニルグアニジン(DPG)を用いることなく、十分な架橋を行うことができる。更に、ジチオリン酸亜鉛を用いることにより、23℃と100℃間のハードネスの温度依存性が大幅に向上する。ハードネスの温度依存性は、レース初期から後期を通じて、安定した路面の凹凸へのミクロ変形追従性、すなわち路面グリップ性や、高速安定性を確保するために、非常に重要である。
【0034】
【化1】
(式中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐鎖アルキル基、又は炭素数5〜12のシクロアルキル基を表す。)
【0035】
ジチオリン酸亜鉛としては、例えば、ラインケミー社製のTP−50、ZBOP−S、ZBOP−50や、これらに類似する化合物(例えば、上記一般式(1)においてR
1〜R
4がn−プロピル基、iso−プロピル基又はn−オクチル基のもの)等を使用することができる。
【0036】
本発明のゴム組成物において、ジチオリン酸亜鉛の含有量(有効成分の含有量)は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上である。0.2質量部未満の場合、高温走行時のブロー発生を防止する効果が得られない。また、該含有量は、15質量部以下、好ましくは6質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。15質量部を超えると、ブロー向上効果が飽和するのに、スコーチタイムが短くなり、加工性が悪化する傾向がある。
【0037】
本発明のゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対する酸化亜鉛の含有量が2.5質量部未満である。本発明においては上述のようにジチオリン酸亜鉛を用いることにより、均一な架橋状態を達成して、高温走行時におけるブローの発生を抑制する。一方、酸化亜鉛をゴム中に配合した場合、酸化亜鉛の粒子の周囲に気泡が溜りやすく、空隙が生じやすい性質がある。このような性質は、代表品種である亜鉛華2種、亜鉛華1種において顕著であり、微粒子グレードの微粒子亜鉛華F2であっても認められる。従って、酸化亜鉛を含有した場合には、該酸化亜鉛の周囲の空隙が起点核となって、かえってブロー発生の原因となることがあり、その配合量が多いほどブローが発生しやすくなる。酸化亜鉛の含有量は2.0質量部以下であることが好ましく、酸化亜鉛を含有しないことがより好ましい。
酸化亜鉛を配合する場合には、ゴム成分中への分散性に優れ、ブロー発生の原因となる空隙、起点核が生じにくいことから、BET値が15m
2/g以上の微粒子状の酸化亜鉛を用いることが好ましい。
【0038】
本発明のゴム組成物は、下記式で表される化合物、硫酸マグネシウム、及び炭化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種からなり、BET値が5〜120m
2/g、亜麻仁油吸油量が30〜80ml/100gである無機フィラーを含有する。これにより、高いWETグリップ性能と耐摩耗性を発揮することができる。
mM・xSiO
y・zH
2O
(式中、MはAl、Mg、Ti、Ca及びZrからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属、該金属の酸化物又は水酸化物であり、mは1〜5の整数、xは0〜10の整数、yは2〜5の整数、zは0〜10の整数である。)
【0039】
上記無機フィラーとしては、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、チタン白、チタン黒、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウムマグネシウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸マグネシウム、ジルコニウム、酸化ジルコニウム、硫酸マグネシウム、炭化ケイ素(SiC)などが挙げられる。これらの無機化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、モース硬度が3以上、かつ耐水性、耐油性があり、ミクロン単位の粒径に加工することで引っ掻き効果が生じてWETグリップ性能が改善されるとともに、良好な耐摩耗性も得られるという点から、MがAl又はZrの無機フィラーが好ましく、資源量が豊富で安価である点から、水酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムがより好ましい。更に良好な練り生産性、押出し加工性も得られるという観点では、水酸化アルミニウムが特に好ましい。
【0040】
上記無機フィラーのBET値(窒素吸着比表面積)は、5〜120m
2/gである。上記範囲外では、WETグリップ性能及び耐摩耗性の向上効果が不十分となることがある。該BET値の下限は、好ましくは10m
2/gである。また、BET値の上限は、好ましくは120m
2/g、より好ましくは115m
2/g、更に好ましくは110m
2/gである。
なお、上記無機フィラーのBET値は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0041】
上記無機フィラーの亜麻仁油吸油量の下限は30ml/100gであり、上限は80ml/100g、好ましい上限は75ml/100gである。亜麻仁油吸油量がこの範囲内であると、得られる空気入りタイヤは、高いWET性能とDry性能を発揮することができる。亜麻仁油吸油量が低いほど、無機フィラーの粒子間の繋がり(=ストラクチャー)が少なく、ゴム中に単独で存在し易い。従って、亜麻仁油吸油量は、非極性のタイヤ用ゴム組成物に、無機フィラーの単粒子が適度に細かく、かつ適度な二次粒子径の凝集塊を形成するかどうかを判断するための有効な指標となるものと考えられる。即ち、亜麻仁油吸油量が30ml/100g未満であると、ゴム成分、軟化剤、レジンとの親和性が低くなり、ゴム組成物中での無機フィラーの位置が熱的に安定しないと考えられる。一方、亜麻仁油吸油量が80ml/100gを超えると、無機フィラーの粒子が大きな二次粒子径の凝集塊を形成して、その内部にオイルを取り込むオクルード部分が生成したり、練り工程を経てもゴム成分と十分に混ざらずに耐摩耗性や伸び性能等の低下の原因となったりする。更に、本技術分野においては、DBP吸油量が一般的に用いられるが、亜麻仁油は天然オイルの一種であることから、DBPに比べて環境負荷の負荷が小さいという利点もある。
参考に、粒子ストラクチャーが発達しやすい代表的湿式シリカであるEvonik社製のULTRASIL VN3(BET値:175m
2/g)の亜麻仁油吸油量は128ml/100gである。
なお、上記亜麻仁油吸油量は、JIS−K5101−13に従って求められる値である。
【0042】
上記無機フィラーの平均粒子径は、好ましくは1.5μm以下、より好ましくは0.69μm以下、更に好ましくは0.6μm以下である。また、該平均粒子径は、好ましくは0.2μm以上、より好ましくは0.25μm以上、更に好ましくは0.4μm以上である。1.5μmを超えると、耐摩耗性及びWETグリップ性能が低下するおそれがあり、0.2μm未満であると、耐摩耗性、加工性が低下するおそれがある。なお、無機フィラーの平均粒子径は、数平均粒子径であり、透過型電子顕微鏡により測定される。
【0043】
上記無機フィラーのモース硬度は、タイヤの耐摩耗性やWETグリップ性能の確保や、バンバリーミキサーや押出機の金属摩耗を抑える観点から、シリカ並の7又はそれ未満であることが好ましく、2〜5であることがより好ましい。モース硬度は、材料の機械的性質の一つで古くから鉱物関係で汎用されている測定法であり、硬さを計りたい物質(水酸化アルミニウム等)を標準物質でこすり、ひっかき傷の有無でモース硬度を測定する。
【0044】
特に、モース硬度が7未満で、かつ該無機フィラーの脱水反応物のモース硬度が8以上の無機フィラーを使用することが好ましい。例えば、水酸化アルミニウムは、モース硬度約3で、バンバリーやロールの摩滅(摩耗)を防止するとともに、走行中の振動・発熱や一部混練りにより表層が脱水反応(転移)して、モース硬度約9のアルミナへ転化し、路面石以上の硬度となるので、優れた耐摩耗性やWETグリップ性能が得られる。ここで、水酸化アルミニウムの内部全てが転化する必要はなく、一部の転化で路面の引っ掻き機能を発現できる。また、水酸化アルミニウムとアルミナは、水、塩基、酸に対して安定であり、加硫の阻害や酸化劣化の促進もない。なお、該無機フィラーの転移後のモース硬度は、より好ましくは7以上であり、上限は特に制限されない。ダイヤモンドは最高値10である。
【0045】
上記無機フィラーは、熱分解開始温度(DSC吸熱開始温度)が160〜500℃のものが好ましく、170〜400℃のものがより好ましい。160℃未満では、混練中に熱分解又は再凝集が進みすぎ、練り機のローター羽又は容器の壁等の金属摩耗が行き過ぎたりするおそれがある。なお、無機フィラーの熱分解開始温度は、示差走査熱量測定(DSC)を実施して求められる。また、熱分解には、脱水反応も含まれる。
【0046】
上記無機フィラーとしては、上記BET値及び亜麻仁油吸油量を有する市販品を使用でき、また、無機フィラーに粉砕などの処理を施して上記特性を有する粒子に調整した処理品なども使用可能である。粉砕処理を施す場合、湿式粉砕、乾式粉砕(ジェットミル、カレントジェットミル、カウンタージェットミル、コントラプレックスなど)等、従来公知の方法を適用できる。
また、必要に応じて、医薬、バイオ関係で頻用されるメンブランフィルター法にて分取し、所定のBET値を有するものを作製し、ゴム配合剤として使用することもできる。
【0047】
上記無機フィラーの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、1質量部以上、好ましくは3質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。1質量部未満であると、十分なWETグリップ性能が得られないおそれがある。また、該含有量は、70質量部以下、好ましくは65質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。70質量部を超えると、耐摩耗性や摩耗後のアブレーション外観が他の配合剤の調整で補えないほど悪化し、また、引張り強度等も悪化するおそれがある。
【0048】
本発明のゴム組成物は、硫黄を含有する。硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。
【0049】
本発明のゴム組成物において、硫黄の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは0.6質量部以上である。また、該硫黄の含有量は、好ましくは2.0質量部以下、より好ましくは1.8質量部以下、更に好ましくは1.6質量部以下である。0.2質量部未満であると、加硫後の硬度(Hs)や隣接ゴム配合との共架橋が充分に得られないおそれがあり、2.0質量部を超えると、耐摩耗性が悪化するおそれがある。なお、硫黄の含有量とは、仕上げ練りで投入する純硫黄成分量であり、例えば、不溶性硫黄(オイル含有)を用いる場合はオイル分を除いた純硫黄量を意味する。
【0050】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを含有することが好ましい。カーボンブラックを含有することにより、耐摩耗性、グリップ性が向上する。
上記カーボンブラックは、BET値(窒素吸着比表面積)が110m
2/g以上であることが好ましく、140m
2/g以上であることがより好ましく、151m
2/g以上であることが更に好ましい。また、該BET値は、300m
2/g以下であることが好ましく、250m
2/g以下であることがより好ましく、200m
2/g以下であることが更に好ましい。とりわけBET値が151m
2/g以上のカーボンブラックを配合することにより、特に高い耐摩耗性とグリップ性能とを得ることができる。
なお、カーボンブラックのBET値は、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0051】
上記カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して好ましくは5質量部以上、より好ましくは20質量部以上である。5質量部未満であると、充分な耐摩耗性及びグリップ性能の向上効果が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは130質量部以下、より好ましくは120質量部以下である。130質量部を超えると、引張特性が低下するおそれがある。
【0052】
本発明のゴム組成物は、シリカを含有してもよい。シリカを含有することにより、WETグリップ性、補強性を高めながら、転がり抵抗特性を改善することができる。
シリカとしては、例えば、湿式法で製造されたシリカ、乾式法で製造されたシリカなどが挙げられる。
【0053】
上記シリカは、BET値(窒素吸着比表面積)が80m
2/g以上であることが好ましく、120m
2/g以上であることがより好ましく、150m
2/g以上であることが更に好ましい。また、該BET値は、280m
2/g以下であることが好ましく、260m
2/g以下であることがより好ましく、250m
2/g以下であることが更に好ましい。
なお、シリカのBET値は、ASTM D3037−93に準じてBET法で測定される値である。
【0054】
上記シリカの含有量は、DRYグリップ性よりもWETグリップ性を重視する場合、ジエン系ゴム100質量部に対して好ましくは30質量部以上、より好ましくは40質量部以上、更に好ましくは50質量部以上である。30質量部未満の場合、十分な補強性が得られないおそれがある。また、該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは130質量部以下、更に好ましくは120質量部以下である。150質量部を超えると、シリカが分散しにくくなり、耐摩耗性、引張性能が悪化する傾向がある。
【0055】
本発明のゴム組成物が上記シリカを含有する場合には、更にシランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができる。
ただし、シランカップリング剤としてポリ硫化アルコキシシランを用いる場合には、ジエン系ゴム100質量部に対するポリ硫化アルコキシシランの含有量を1.0質量部以下とすることが好ましい。
ポリ硫化アルコキシシランは、構造中のS
Xの硫黄−硫黄間の結合力が弱く、練り中に結合が切れてゴム焼けの原因となりやすい。また、シリカと結合したシランの結合も弱く、練り中や練り後の保管中に結合が切れて、破断伸びや燃費性の低下の原因となります。シランカップリング剤としてポリ硫化アルコキシシランを用いる場合にでも、含有量を1.0質量部以下とすることにより、その影響を最小限に抑えることができる。
【0056】
本発明のゴム組成物は、低温可塑剤、プロセスオイル、及び軟化点160℃以下の樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の軟化剤を含有することが好ましい。これらの軟化剤を含有することにより、得られる空気入りタイヤのグリップ性がより向上する。本発明においては、ジチオリン酸亜鉛を配合するとともに、酸化亜鉛の含有量を一定量未満とすることにより、軟化剤を一定以上配合した高軟化剤組成であっても、Dry走行時のブロー発生を効果的に防止することができる。
【0057】
上記低温可塑剤は、凝固温度が−15℃以下であることが好ましい。このような低凝固温度の低温可塑剤は、その化学組成も相まって、ゴム組成物の配合Tgや脆化温度を低下させる役割を果たす。なお、上記凝固温度とは、液体を冷却したときに固体となる温度であって、JIS−K2269で規定される温度を意味する。また、ガラス転移温度(Tg)は、ASTM D3418−03に従い、示唆熱走査熱量計(DSC)で測定した温度を意味する。
【0058】
上記低温可塑剤は、上記ジエン系ゴムとの相溶性を確保するために、SP値が8〜9であることが好ましい。ここでSP値とは、ハンセン(Hansen)の数式を用いて算出される溶解度パラメータを意味する。また、特にSBR、NRとの構造的類似上、相溶性を高める点で、エチルヘキシル基やフェニル基を含有することが好ましい。
なお、上記低温可塑剤には、プロセスオイル及び後述の樹脂は含まれない。
【0059】
上記低温可塑剤は、バンバリー投入時に発火する可能性があることから、引火点が200℃以上であるものが好ましい。例えば、混練時の排出温度を180℃に設定した場合、局部的なゴム組成物の最高温度は195℃にもなる。引火点が200℃以上である低温可塑剤を採用することにより、発火の可能性を低減することができる。
なお、本発明において、上記低温可塑剤の引火点は、JIS K 2265−4:2007に準拠したクリーブランド開放法によって測定した値である。
【0060】
上記低温可塑剤は、元来、塩化ビニル、セルロース、樹脂プラスチック、各種ゴム等に広く用いられる。本発明のゴム組成物においては、隣接部材への移行を防ぎ、引火点を高くする意味で、重量平均分子量(Mw)400以上が好ましい。
【0061】
上記低温可塑剤は、例えば、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート(TOP、凝固温度−70℃以下、引火点204℃、SP値8.1、Mw435)、ビス(2−エチルヘキシル)セバケート(DOS、凝固温度−62℃、引火点222℃、SP値8.4、Mw427)、ビス(2−エチルヘキシル)フタレート(DOP、凝固温度−51℃、引火点218℃、SP値8.9、Mw391)、ビス[2−(2−ブトキシエトキシエチル)エチル]アジペート(BXA−N、凝固温度−19℃、引火点207℃、SP値8.7、Mw435)等が挙げられる。なかでも、ゴム成分との相溶性に優れ、引火点が200℃以上であり、重量平均分子量が400以上と高いことからTOP、BXA−Nが好適である。
【0062】
上記プロセスオイルとしては、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイルなどが挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound: PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルも挙げられる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、オイル芳香族系プロセスオイルを再抽出したTreated Distillate Aromatic Extract(TDAE)、アスファルトとナフテン油の混合油であるアロマ代替オイル、軽度抽出溶媒和物(mild extraction solvates)(MES)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。
【0063】
本発明のゴム組成物がプロセスオイルを含有する場合、プロセスオイルの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。上記範囲内であると、本発明の効果がより良好に得られる。
なお、ジエン系ゴムとして油展ジエン系ゴムを用いたりする場合には、上記軟化剤の合計含有量には、該油展ジエン系ゴムに含まれるプロセスオイルの含有量も含まれる。
【0064】
上記軟化点160℃以下の樹脂としては、例えば、クマロンインデン樹脂、αメチルスチレン系樹脂、テルペン系樹脂、アルキルフェノール系樹脂等が挙げられる。
【0065】
上記樹脂の軟化点は、−20℃以上が好ましく、0℃以上がより好ましく、40℃以上が更に好ましく、70℃以上が特に好ましい。また、該軟化点は、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。
なお、本明細書において、軟化点は、JIS K 6220−1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0066】
クマロンインデン樹脂は、樹脂の骨格(主鎖)を構成するモノマー成分として、クマロン及びインデンを含む樹脂であり、クマロン、インデン以外に骨格に含まれるモノマー成分としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルインデン、ビニルトルエンなどが挙げられる。
【0067】
上記クマロンインデン樹脂の軟化点は−20〜160℃が好ましい。上限は、より好ましくは145℃以下、更に好ましくは130℃以下である。下限は、より好ましくは−10℃以上、更に好ましくは−5℃以上である。軟化点が160℃を超えると、練り中の分散性が悪化し、低燃費性が悪化する傾向がある。軟化点が−20℃未満であると、製造が困難な上に、他の部材への移行性、揮発性が高く、使用中に性能が変化するおそれがある。
上記クマロンインデン樹脂のなかでも、軟化点が90〜140℃のものを用いた場合には、Dryグリップ性能が向上する。なかでも軟化点が100〜120℃のものは、0〜80℃におけるtanδを全般に高めることができ、破断伸びも良い。
軟化点が10〜30℃のクマロンインデン樹脂は、10〜40℃の比較的低温におけるグリップ性は良く、tanδを全般に下げる。このような軟化点が10〜30℃のクマロンインデン樹脂は、主に破断伸びの向上を目的に用いることができる。
なお、クマロンインデン樹脂を用いることにより破断伸びが改善する理由は、架橋ポリマー鎖に適度な滑りを付与し、均一な伸びを生じさせるためと考えられる。
【0068】
αメチルスチレン系樹脂としては、例えば、α−メチルスチレン単独重合体や、α−メチルスチレンとスチレンとの共重合体等が挙げられる。
【0069】
αメチルスチレン系樹脂の軟化点は−20〜160℃が好ましい。上限は、より好ましくは145℃以下、更に好ましくは130℃以下である。下限は、より好ましくは−10℃以上、更に好ましくは−5℃以上である。軟化点が160℃を超えると、練り中の分散性が悪化し、低燃費性が悪化する傾向がある。軟化点が−20℃未満であると、製造が困難な上に、他の部材への移行性、揮発性が高く、製造中或いは使用中に性能が変化するおそれがある。
【0070】
上記テルペン系樹脂としては、ポリテルペン、テルペンフェノール、芳香族変性テルペン樹脂、及びこれらに水素添加処理をした樹脂などが挙げられる。
ポリテルペンは、テルペン化合物を重合して得られる樹脂である。テルペン化合物は、(C
5H
8)
nの組成で表される炭化水素及びその含酸素誘導体で、モノテルペン(C
10H
16)、セスキテルペン(C
15H
24)、ジテルペン(C
20H
32)などに分類されるテルペンを基本骨格とする化合物であり、例えば、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテン、リモネン、ミルセン、アロオシメン、オシメン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン、1,8−シネオール、1,4−シネオール、α−テルピネオール、β−テルピネオール、γ−テルピネオールなどが挙げられる。
【0071】
ポリテルペンとしては、上述したテルペン化合物を原料とするα−ピネン樹脂、β−ピネン樹脂、リモネン樹脂、ジペンテン樹脂、β−ピネン/リモネン樹脂などのテルペン樹脂が挙げられる。
テルペンフェノールとしては、上記テルペン化合物とフェノール系化合物とを共重合した樹脂が挙げられ、具体的には、上記テルペン化合物、フェノール系化合物及びホルマリンを縮合させた樹脂が挙げられる。なお、フェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノールなどが挙げられる。
芳香族変性テルペン樹脂としては、上記テルペン化合物と、芳香族化合物(上記フェノール系化合物を除く)とを重合して得られる樹脂が挙げられる。なお、上記芳香族化合物としては、例えば、石油由来で変性基を付与した芳香族化合物が挙げられ、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、イソプロペニルトルエン、ジビニルトルエン、2−フェニル−2−ブテンなどが挙げられる。
【0072】
テルペン系樹脂の軟化点は70〜150℃が好ましい。下限はより好ましくは80℃以上である。70℃未満であると、充分な高温グリップ性能、剛性感が得られないおそれがある。また、該軟化点の上限は、より好ましくは145℃以下である。150℃を超えると、初期グリップ性能が悪化する傾向がある。
【0073】
アルキルフェノール系樹脂としては、特に限定されず、アルキルフェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類とを酸又はアルカリ触媒で反応させることにより得られるアルキルフェノールアルデヒド縮合樹脂;アルキルフェノールと、アセチレンなどのアルキンとを反応させて得られるアルキルフェノールアルキン縮合樹脂;これらの樹脂を、カシューオイル、トールオイル、アマニ油、各種動植物油、不飽和脂肪酸、ロジン、アルキルベンゼン樹脂、アニリン、メラミンなどの化合物を用いて変性した変性アルキルフェノール樹脂;等が挙げられる。なかでも、本発明の効果の観点から、アルキルフェノールアルキン縮合樹脂が好ましく、アルキルフェノールアセチレン縮合樹脂が特に好ましい。
【0074】
アルキルフェノール系樹脂を構成するアルキルフェノールとしては、クレゾール、キシレノール、t−ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール等が挙げられる。なかでも、t−ブチルフェノール等の分枝状アルキル基を有するフェノールが好ましく、t−ブチルフェノールが特に好ましい。
【0075】
アルキルフェノール系樹脂の軟化点は100〜160℃が好ましい。上限は150℃以下、下限は120℃以上がより好ましい。
軟化点120〜160℃のアルキルフェノール系樹脂(例えば、軟化点が145℃のコレシン)は、特に高温(80〜120℃付近)でのグリップ性が向上する。該アルキルフェノール系樹脂を、軟化点が85℃付近のαメチルスチレン系樹脂(低温(10〜40℃)でのグリップ性に優れる)と併用することにより、20〜120℃のタイヤの走行温度におけるグリップ性能を向上させることができる。
【0076】
上記樹脂としては、本発明の効果がより良好に得られる点から、クマロンインデン樹脂、αメチルスチレン系樹脂、テルペン系樹脂、アルキルフェノール系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0077】
本発明のゴム組成物が上記樹脂を含有する場合、上記樹脂の含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、本発明の効果がより良好に得られる。
【0078】
本発明のゴム組成物は、本発明の効果がより良好に得られる点から、プロセスオイル及び/又は軟化点160℃以下の樹脂を含有することが好ましく、プロセスオイル及び軟化点160℃以下の樹脂を含有することがより好ましい。
【0079】
上記低温可塑剤、プロセスオイル、及び軟化点160℃以下の樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の軟化剤の合計含有量は、上記ジエン系ゴム100質量部に対して40質量部以上、好ましくは45質量部以上、より好ましくは50質量部以上である。また、該合計含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは145質量部以下、更に好ましくは140質量部以下である。軟化剤の含有量を40質量部以上とすることにより、極めてグリップ性に優れる空気入りタイヤを得ることができる。軟化剤の含有量が150質量部を超えると、モジュラスM300が低くなり、高温走行時にブローが発生しやすい傾向がある。
なお、ジエン系ゴムとして油展ジエン系ゴムを用いたりする場合には、上記軟化剤の合計含有量には、該油展ジエン系ゴムに含まれるプロセスオイルの含有量も含まれる。
【0080】
本発明のゴム組成物は、加硫促進剤及びステアリン酸を含有することが好ましい。ジチオリン酸亜鉛、ステアリン酸及び加硫促進剤を併用することより、より加硫反応が促進されて、より均一かつ適切な密度の架橋状態を得ることができる。ステアリン酸は、酸化亜鉛のゴム中に分散させる効果が知られているが、ジチオリン酸亜鉛においても同様な効果が得られることが判った。
【0081】
加硫促進剤としては、チアゾール系、チウラム系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などが挙げられる。
なかでも、ジチオリン酸亜鉛にステアリン酸とチアゾール系加硫促進剤(特にTBBS)を併用することにより高い加硫反応促進効果が得られ、更にジチオリン酸亜鉛にステアリン酸とチアゾール系加硫促進剤(特にTBBS)とチウラム系加硫促進剤(特にTBZTD)及び/又はジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤(特にZTC、PX)とを併用することにより、特に高い加硫反応促進効果が得られる。
【0082】
チアゾール系加硫促進剤(ベンゾチアゾール基を有する加硫促進剤)としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等のスルフェンアミド系加硫促進剤;2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド等のベンゾチアゾール系加硫促進剤等が挙げられ、なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤が好ましく、TBBSがより好ましい。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2−エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT−N)などが挙げられ、なかでも、TBzTDが好ましい。グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤としては、例えば、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZTC)、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛(PX)などが挙げられ、なかでも、ZTC、PXが好ましい。
【0083】
ただし、加硫促進剤のなかでもDPGは、動物実験での発癌性が研究機関により指摘されており、使用量の削減が求められている。また、DPGは、シリカやシランを吸着しやすく、シリカとシランの結合を阻害するため、ゴムの物性を低下させるという問題もある。本発明においては、ジチオリン酸亜鉛を用いることにより、DPGを用いることなく良好な加硫速度を確保することができる。従って、本発明のゴム組成物においては、DPGの含有量は、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.2質量部以下、更に好ましくは0.1質量部以下、特に好ましくは0質量部(含有しない)である。
【0084】
本発明ゴム組成物において、加硫促進剤(DPGを除く)の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは3質量部以上、更に好ましくは4質量部以上である。また、該加硫促進剤の含有量は、好ましくは15質量部以下、より好ましくは12質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。加硫促進剤を2質量部以上含有することにより、ジチオリン酸亜鉛及びステアリン酸との相乗効果により、より均一かつ適切な密度の架橋を行うことができ、高速走行時のブローの発生を抑制できる。加硫促進剤の含有量が15質量部を超えると、加硫促進剤の分散不良が生じて、ブロー性や破断伸びが低下することがある。
【0085】
本発明ゴム組成物において、ステアリン酸の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上である。また、ステアリン酸の含有量は、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下である。この範囲内であれば、均一かつ適切な密度の架橋状態を得ることができる。ただし、ステアリン酸の含有量の好ましい範囲は、ジエン系ゴム、加工助剤、離型剤等に含まれる脂肪酸量によっても変動する。
【0086】
本発明のゴム組成物には、上記成分以外にも、タイヤ工業において一般的に用いられている配合剤、例えば、ワックス、老化防止剤、離型剤等の材料を適宜配合してもよい。
【0087】
本発明のゴム組成物は、ベース練り工程、仕上げ練り工程等の混練工程を経る公知の方法で調製できる。混練工程は、例えば、混練機を用いて、これらの成分を混練することにより実施できる。混練機としては従来公知のものを使用でき、例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどが挙げられる。
【0088】
上記ベース練り工程等、少なくともゴム成分、カーボンブラック、シリカ、シランカップリング剤及び無機フィラーを混練する工程(例えば、ベース練り工程を1工程で実施する場合は当該工程、ベース練り工程を後述する分割したベース練り工程として実施する場合は上記無機フィラーを投入してゴム成分と混練する工程)における排出温度は、150℃以上、好ましくは155℃以上、より好ましくは160℃以上、更に好ましくは165℃以上、特に好ましくは170℃以上である。一方、排出温度の上限は特に限定されないが、所望の性能が得られるように、ゴム焼けが発生しない範囲で、適宜調整すればよいが、好ましくは190℃以下、より好ましくは185℃以下である。
【0089】
上記ベース練り工程は、軟化剤の含有量の比較的少ない高フィラー配合系では、複数としてよい。例えば、上記ゴム成分、無機フィラー等を1工程でベース練り工程を行う方法の他、ゴム成分、カーボンブラック、シリカ2/3量、シランカップリング剤2/3量を混練するX練り、X練りで混練した混練物、残りのシリカ、残りのシランカップリング剤、硫黄及び加硫促進剤を除くその他の成分を混練するY練り、Y練りで混練した混練物を再混練するZ練り等に分割したベース練り工程でもよい。なお、この場合、上記無機フィラーの投入時期は、より高い練りトルクを発生させられるX練りがよい。
【0090】
なお、通常の製造方法では加硫剤は仕上げ練りで投入するが、ジチオリン酸亜鉛は、ゴム成分中での分散性を高め、より均一な架橋を行う目的で、ベース練り投入することが好ましい。
ただし、ラインケミー社製のTP−50のようなマスターバッチ化したジチオリン酸亜鉛を用い、分散助剤を併用する場合には、ジチオリン酸亜鉛をファイナル練りで投入しても、ベース練り投入時と略同等の物性を得ることができる。
【0091】
上記ベース練り工程の後、例えば、得られた混練物1に、上記と同様の混練機を用いて、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤等の成分を混練する仕上げ練り工程(排出温度は80〜110℃等)を行い、更に得られた混練物2(未加硫ゴム組成物)を150〜170℃で、10〜30分間プレス加熱させる加硫工程を行うことにより、本発明のゴム組成物を製造できる。
【0092】
本発明のゴム組成物は、空気入りタイヤのトレッド用途に用いられるものである。特に、多層構造を有するトレッドの表面層であるキャップトレッドに好適に使用できる。例えば、2層構造〔表面層(キャップトレッド)及び内面層(ベーストレッド)〕からなるトレッドの表面層に好適である。
【0093】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造できる。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤのトレッドの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて成形し、更に他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製した後、その未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することで、空気入りタイヤを製造できる。
【0094】
本発明の空気入りタイヤは、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、トラック、バスなどの重荷重用タイヤ、ライトトラック用タイヤに好適であり、それぞれのサマータイヤ、スタッドレスタイヤとして使用可能である。
高温走行時にもブローの発生が抑制されることから、競技用タイヤとしても好適である。
【実施例】
【0095】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0096】
以下に、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
<ゴム成分(SBR)>
変性SBR1:以下で説明する方法により調製したもの(油展37.5部、スチレン量41%、ビニル量40%、Tg−29℃、重量平均分子量119万)
シリカ変性SBR2:以下で説明する方法により調製したもの(スチレン量:27質量%、ビニル量:58質量%、Tg:−27℃、重量平均分子量72万)
NS612:日本ゼオン社製、非油展、スチレン量15%、ビニル量30%、Tg−65℃、重量平均分子量78万
【0097】
<変性SBR1の調整方法>
(1)末端変性剤の作製
窒素雰囲気下、250mlメスフラスコに3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(アヅマックス(株)製)を20.8g入れ、さらに無水ヘキサン(関東化学(株)製)を加え、全量を250mlにして作製した。
(2)変性SBR1の調製
十分に窒素置換した30L耐圧容器にn−ヘキサンを18L、スチレン(関東化学(株)製)を800g、ブタジエンを1200g、テトラメチルエチレンジアミンを1.1mmol加え、40℃に昇温した。次に、1.6Mブチルリチウム(関東化学(株)製)を1.8mL加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に上記末端変性剤を4.1mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液にメタノール15mL及び2,6−tert−ブチル−p−クレゾール(大内新興化学工業(株)製)0.1gを添加後、TDAE1200g添加し10分間撹拌を行った。その後、スチームストリッピング処理によって重合体溶液から凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、変性SBR1を得た。
【0098】
<シリカ変性SBR2の調整方法>
充分に窒素置換した30L耐圧容器にn−ヘキサンを18L、スチレン(関東化学(株)製)を740g、ブタジエンを1260g、テトラメチルエチレンジアミンを10mmol加え、40℃に昇温した。次に、ブチルリチウムを10mL加えた後、50℃に昇温させ3時間撹拌した。次に、上記末端変性剤を11mL追加し30分間撹拌を行った。反応溶液にメタノール15mL及び2,6−tert−ブチル−p−クレゾール0.1gを添加後、反応溶液を18Lのメタノールが入ったステンレス容器に入れて凝集体を回収した。得られた凝集体を24時間減圧乾燥させ、シリカ変性SBR2を得た。
【0099】
<ゴム成分(BR)>
CB24:ランクセス社製、Nd系触媒を用いて合成したハイシスBR
【0100】
<カーボンブラック>
EB201:オリオンエンジニアリング(旧Evonik)製のパイロット品(BET値:推定240m
2/g)
HP180:オリオンエンジニアドカーボンズ製(BET値:175m
2/g)
HP160:オリオンエンジニアドカーボンズ製(BET値:153m
2/g)
N110:キャボットジャパン製ショウブラックN110(BET値:142m
2/g)
<シリカ>
VN3:Evonik社製のULTRASIL VN3(BET値:175m
2/g、亜麻仁油吸油量:128ml/100g)
【0101】
<水酸化アルミニウム(無機フィラー)>
湿式合成(1):戸田工業社製の湿式合成品(BET値:82m
2/g、亜麻仁油吸油量:82ml/100g)
湿式合成(2):戸田工業社製の湿式合成品(BET値:102m
2/g、亜麻仁油吸油量:88ml/100g)
湿式合成(3):戸田工業社製の湿式合成品(BET値:274m
2/g、亜麻仁油吸油量:104ml/100g)
粉砕(1):住友化学社製のATH#Bの乾式粉砕品(BET値:35m
2/g、亜麻仁油吸油量:37ml/100g)
粉砕(2):住友化学社製のATH#Bの乾式粉砕品(BET値:75m
2/g、亜麻仁油吸油量:42ml/100g)
粉砕(3):住友化学社製のATH#Bの乾式粉砕品(BET値:95m
2/g、亜麻仁油吸油量:38ml/100g)
粉砕(4):住友化学社製のATH#Bの乾式粉砕品(BET値:125m
2/g、亜麻仁油吸油量:55ml/100g)
ATH#B:住友化学社製(BET値:14m
2/g、亜麻仁油吸油量:40ml/100g)
ハイジH43:昭和電工社製(BET値:7m
2/g、亜麻仁油吸油量:33ml/100g)
C−301N:住友化学社製(BET値:4m
2/g、亜麻仁油吸油量:27ml/100g)
【0102】
<プロセスオイル>
TDAEオイル:H&R社製のVivatec500
【0103】
<レジン>
C120:Rutgers Chemicals社製の液状クマロンインデン樹脂(軟化点:120℃、Tg:65℃)
SA85:アリゾナケミカル社製のαメチルスチレン Sylvares SA85(軟化点:85℃、Tg:43℃)
Koresin:BASF社製コレシン(p−t−ブチルフェノールアセチレン樹脂、軟化点:145℃、Tg:98℃)
TO125:ヤスハラケミカル社製のYSレジンTO125 芳香族変性テルペン(軟化点:125℃、)
【0104】
<酸化亜鉛(亜鉛華)>
F2:ハクスイテック社製のジンコックスーパーF2(BET値:20m
2/g、BET値から算出した1次粒子径が65μm)
銀嶺R:東邦亜鉛社製の銀嶺R(BET値:5m
2/g)
【0105】
<カップリング剤>
Si75:シランカップリング剤、Evonik社製
NXT:シランカップリング剤、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製((C
2H
5O)
3Si−C
3H
6−S−CO−C
7H
15)
【0106】
<老化防止剤>
6PPD:住友化学社製のアンチゲン6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
TMQ:大内新興化学社製のノクラック224(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体)
【0107】
<加硫剤>
TP−50:ジチオリン酸亜鉛、ラインケミー社製のTP−50(式(1)においてR
1〜R
4がn−ブチル基、有効成分50質量%)
ZBOP−50:ジチオリン酸亜鉛、ラインケミー社製のZBOP−50(式(1)においてR
1〜R
4がアルキル基、有効成分50質量%)
ステアリン酸:日油社製のステアリン酸「椿」
5%オイル含有粉末硫黄:細井化学工業社製のHK−200−5
【0108】
<加硫促進剤>
TBBS:大内新興化学工業社製のノクセラーNS−G(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
DPG:大内新興化学工業社製のノクセラーD(N,N−ジフェニルグアニジン)
TBZTD:フレキシス社製、Perkacit TBZTD(テトラベンジルチウラムジスルフィド)
【0109】
(実施例及び比較例)
表1〜3に示す配合内容及び混練条件に従い、4Lバンバリーミキサーを用いて練りを行った。
表1、2に示した組成では、X練り、Y練り及びファイナル練りの3回練りを行った。X練りでは、ゴム成分、カーボンブラック全量、無機フィラー(水酸化アルミニウム)全量、シリカの2/3、カップリング剤の2/3を投入して、5分間、排出温度155℃にて混練りした。Y練りでは、硫黄及び加硫促進剤以外の残りの薬品を投入して、4分間、排出温度155℃にて混練りした。ファイナル練りでは、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。この際のゴム最高温度は100℃とした。
表3に示した組成では、X練り及びファイナル練りの2回練りを行った。X練りでは、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を投入して、5分間、排出温度155℃にて混練りした。ファイナル練りでは、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。この際のゴム最高温度は100℃とした。
なお、ジチオリン酸亜鉛はベース練りで投入した。
【0110】
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加熱し、加硫ゴム組成物を得た。
また、得られた未加硫ゴム組成物をトレッドの形状に成形し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、170℃の条件下で12分間プレス加硫し、試験用タイヤ(タイヤサイズ:245/40R18)を得た。
【0111】
得られた未加硫ゴム組成物及び試験用タイヤを使用して、下記の評価を行った。評価結果を表1〜3に示す。
【0112】
(ブロー性能)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、岡山国際サーキット、ロングラン500km走行を行った。走行は、乾燥路面、路面温度20〜30℃の条件で行った。
走行後にカット断面セクションの外観を観察し、トレッド内部のJLBコードの約1mm上の位置で蜂の巣状のポーラス発生状態を観察してブロー性能を評価した。
比較例1の蜂の巣状のポーラス発生状態を100として指数表示した。指数が大きいほど、ブロー性能に優れることを示す。ブロー性能の目標は120以上である。
【0113】
(WETグリップ性能)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ウェットアスファルト路面のテストコースにて10周の実車走行を行った。その際における、操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが評価し、比較例1を100として指数表示をした。指数が大きいほどウェットグリップ性能に優れることを示す。WETグリップ性能の目標は105以上である。
【0114】
(耐摩耗性)
上記試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車に装着し、ドライアスファルト路面のテストコースにて実車走行を行った。その際におけるタイヤトレッドゴムの残溝量を計測し(新品時8.0mm)、耐摩耗性として評価した。主溝の平均残溝量が多いほど、耐摩耗性に優れる。比較例1の残溝量を100として指数表示した。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。耐摩耗性の目標は105以上である。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
表1〜3の評価結果から、ジエン系ゴムを含むゴム成分に対して、ジチオリン酸亜鉛と硫黄とを含み、酸化亜鉛の含有量を一定量未満とし、かつ、BET値及び亜麻仁油吸油量が特定範囲の無機フィラーを含む実施例は、ブロー性能の目標値の120、WETグリップ性能の目標値の105、及び耐摩耗性の目標値の105を達成できることが明らかとなった。